JP2011046698A - 変異タンパク質の製造方法 - Google Patents

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将典 森田
Miyuki Yamamoto
幸 山本
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映子 白澤
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Abstract

【課題】プリオン病の診断又は検査に有効なシステムを提供し、試料中の異常型プリオン蛋白を特異的に除去するツールを提供すること。
【解決手段】H-T-V-T-T-T-T-K-G-E-N-F-T-E-T-D-Xaa(Xaaは、V、I又はMである)で表されるアミノ酸配列からなる保存領域を含むタンパク質の該保存領域において、少なくとも3個のアミノ酸残基に、置換、付加、欠失又はそれらの組み合わせによる変異を導入する工程を含む、変異タンパク質の製造方法。
【選択図】なし

Description

本発明は、変異タンパク質の製造方法に関し、詳しくは、特定のアミノ酸配列からなる保存された領域を含むタンパク質の変異体の製造方法に関する。
生体内のタンパク質は、主に単量体である正常な三次構造を有しているが、時に何らかの作用によりその三次構造の変化(コンフォメーション変化)が引き起こされて、構造変換をすることがある。このコンフォメーション変化により当該タンパク質は難溶性となり、種々の組織に沈着して疾患を引き起こすことがある。このような疾患は、総じてコンフォメーション病と呼ばれている。
コンフォメーション病の代表的なものとしてはプリオン病がある。具体的には、クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)、バリアント型CJD(vCJD)、ウシ海綿状脳症(BSE)、ヒツジのスクレイピー病(Scrapie)等の神経変性疾患が挙げられる。プリオン病は、ヒト、ウシ、ヒツジ以外にも、シカやネコ科動物等にも見られている。その感染源はプリオンタンパク質(「プリオン蛋白」又は「PrP」と称する場合がある)であり、詳細には、正常型プリオン蛋白(PrPC)から異常型(感染型)プリオン蛋白(PrPSc)への変換にあると考えられている(非特許文献1〜6)。
PrPCは正常な組織に存在しており、感染性は示さない。また、αヘリックス構造を多く含み、プロテイナーゼKで容易に分解されるという特徴を有している。これに対してPrPScは、PrPCと同一のアミノ酸配列を有するにも関わらず、βシート構造が多く、凝集してアミロイド繊維を作る傾向がある。プロテイナーゼK処理によりN末端側の一部のアミノ酸が消化されるが、その他の部分はコアタンパク質として残存する。そのためプロテアーゼに部分的に抵抗性となり、これによりPrPCと区別することができる。なお、残存したコアタンパク質にも感染性は存在すると考えられている。
PrPScが体内に感染すると、生体内に存在しているPrPCとの接触が起こり、PrPCは次々と連鎖反応的にPrPScに変換される。この変換はタンパク質のコンフォメーション変化とも考えられているが、その詳細な機構は明らかとはなっていない。このPrPCが異常化することによって、動物から動物へ感染し得るタンパク質ができることになる。
そのため、PrPCの異常化が進行する前に、プリオン病については早期に診断又は検査がなされることが求められる。この診断又は検査を精度良く行うには、PrPScの効率的な検出方法を確立することが重要となる。これについては、従来より、ヒト型PrP遺伝子又はウシ型PrP遺伝子を導入したトランスジェニックマウスを用いてPrPScの感染性を調べるin vivoアッセイ系が利用されている。しかしながら、PrPScの潜伏期間はヒト型で約150日、ウシ型で約300日であり、感染性の診断には長期間が必要とされている。また、in vitroアッセイ系としてELISA法やウェスタンブロット法が用いられているが、感染の初期段階ではPrPScの量が少ないということもあり、十分な検出感度での良好な結果は得られていない。また、従来、PrPを検出するにはPrPを認識する抗体が必要であったのに対し、免疫学的アッセイ系の検出感度は使用する抗PrP抗体の種類に左右されて、全ての動物種のPrPについて高い検出感度を示す抗体は得られなかった。
ヒトのCJDの診断においても、実際にはPrPScの感染性は調べられておらず、進行性の痴呆、ミオクローヌス、脳波検査における周期性同期性放電、CTスキャンやMRI検査における脳萎縮等の所見を組み合わせて判断されている。それでも、vCJDや一部の孤発性CJD(sCJD)では周期性同期性放電が認められない等、診断精度上の問題点が見られる。また、アミロイドに結合する薬剤を投与して脳内のPrPScの分布を測定する方法が開発されているが、アルツハイマー病等との鑑別が困難であり、未だCJDに特異的な方法とはいえない。
また、診断又は検査の分野以外においても、プリオン病の感染を拡大させないために、血液、尿若しくは脳乳剤等の生体由来の試料、又は食品若しくはその原材料等から、完全にPrPScを不活性化又は除去することが求められる。しかしながら、当該試料等はPrPSc以外のタンパク質が主成分であるために、PrPScを完全に不活性化するような条件下では当該試料そのものを不活性化することになる。PrPScを特異的に認識する抗体、ポリマー等も開発されているが、未だ顕著な効果は見られていない。
本発明者らは、プリオン病の診断及び治療を目的として、PrPに点変異を導入して異常型になりやすい変異PrPを設計することを既に報告している(特許文献1)。しかしながら、当該報告はPrP分子中のアミノ酸残基を一つずつ置換していった結果を示したものであり、置換導入部位を対象にPrPScの検出感度を高めることは示されていない。また、PrPScを効果的に除去する方法も具体的には示されていない。
国際公開第2008/099451号パンフレット
Prusiner SB., 1982, Science, 216:136-144 Prusiner SB., 1991, Science, 252:1515-22 Prusiner SB., 1998, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 95:13363-83 Chazot G. et al., 1996, Lancet, 347:1181 Will RG. et al., 1996, Lancet, 347:921-25 Kuwata K. et al., 2002, Biochemistry, 41:12277-12283
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、その解決しようとする課題は、プリオン病の診断又は検査に有効なシステム及び試料中の異常型プリオン蛋白を特異的に除去するツール、並びに野生型タンパク質をその活性を一定以上維持した条件下で効率的に変異させる手段を提供することにある。
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、H-T-V-T-T-T-T-K-G-E-N-F-T-E-T-D-Xaa(Xaaは、V、I又はMである)(配列番号:1)で表されるアミノ酸配列からなるペプチド部分のアミノ酸残基に変異を導入しても、意外にも正常型プリオン蛋白から異常型プリオン蛋白への変換能(異常化能)が低下しないことを見出した。本発明者らは、上記アミノ酸配列からなる領域は、プリオン蛋白間で種を超えて高度に保存されていることに想到し、さらに検討を重ね、当該保存された領域内において、少なくとも3個のアミノ酸残基に変異を導入することによって、異常プリオン蛋白の検出感度の高い変異プリオン蛋白を製造することに成功し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下のとおりである。
(1)H-T-V-T-T-T-T-K-G-E-N-F-T-E-T-D-Xaa(Xaaは、V、I又はMである)(配列番号:1)で表されるアミノ酸配列からなる保存領域を含むタンパク質の該保存領域において、少なくとも3個のアミノ酸残基に、置換、付加、欠失又はそれらの組み合わせによる変異を導入する工程を含む、変異タンパク質の製造方法。
(2)前記タンパク質がプリオン蛋白である、(1)の製造方法。
(3)少なくとも3個の連続するアミノ酸残基に変異を導入する、(1)又は(2)の製造方法。
(4)化学物質による修飾可能部位を有するようにアミノ酸残基に変異を導入する、(1)〜(3)のいずれかの製造方法。
(5)化学物質による修飾可能部位がエピトープ及び/又は化学標識部位である、(4)の製造方法。
(6)エピトープが、ヒトパルボウイルスB19のVP1タンパク質由来エピトープ、FLAGエピトープ、c-mycエピトープ、3F4エピトープ、D3F4タグ及びインフルエンザウイルスのHAタンパク質由来エピトープからなる群より選択される一以上のエピトープである、(5)の製造方法。
(7)化学標識部位が、システイン、リジン及びチロシンからなる群より選択される一以上のアミノ酸を有する、(5)の製造方法。
(8)変異が、2個以上の中性アミノ酸残基における塩基性アミノ酸及び/又は酸性アミノ酸による置換を含む、(1)〜(7)のいずれかの製造方法。
(9)変異が、2個以上の中性アミノ酸残基における塩基性アミノ酸による置換を含む、(8)の製造方法。
(10)変異が、さらに1個以上の非分岐鎖アミノ酸残基における分岐鎖アミノ酸による置換を含む、(8)又は(9)の製造方法。
(11)塩基性アミノ酸がリジンである、(8)〜(10)のいずれかの製造方法。
(12)分岐鎖アミノ酸がロイシンである、(10)又は(11)の製造方法。
(13)さらに、変異が導入された変異タンパク質と、変異が導入される前又は野生型のタンパク質の活性とをそれぞれ測定し、該活性を比較する工程、並びに変異導入前又は野生型のタンパク質の活性と比較して有意に活性が変化した変異タンパク質を選択する工程を含む、(1)〜(12)のいずれかの製造方法。
(14)前記活性が構造変換活性であり、該変換活性が変異導入前又は野生型のタンパク質の構造変換活性と比較して50%以上の構造変換活性を有する変異タンパク質を選択する、(13)の製造方法。
(15)測定工程がウェスタンブロット法及び/又はProtein Misfolding Cyclic Amplification(PMCA)法により行われる、(13)又は(14)の製造方法。
(16)(1)〜(15)のいずれかの方法により製造された変異タンパク質と、試料中の異常型タンパク質とを接触させる工程を含む、該異常型タンパク質の検出方法。
(17)(1)〜(15)のいずれかの方法により製造された変異タンパク質と、試料中の異常型タンパク質とを接触させる工程、及び接触工程で得られた変異タンパク質と異常型タンパク質との複合体を該試料から除去する工程を含む、該異常型タンパク質の除去方法。
本発明によれば、種間で高度に保存されたアミノ酸配列の領域にも関わらず、上記アミノ酸配列を含むタンパク質に対して当該配列のアミノ酸残基に網羅的かつダイナミックに変異を導入しても、変異が導入される前のタンパク質が有する活性と同等又はそれ以上の活性を有する変異タンパク質を製造することができ、さらに、当該変異を導入することにより、他の化学物質による認識効率を向上させた変異タンパク質を製造することができる。例えば、プリオン蛋白であれば、変異導入前のプリオン蛋白が有する異常化能と同等又はそれ以上の活性を有する変異プリオン蛋白を製造でき、さらに、当該変異導入によって、検出感度又は除去効率を高めた変異プリオン蛋白を製造することができる。
本発明により製造した変異プリオン蛋白を使用すれば、プリオン感染性を有する検体中の異常型プリオン蛋白を高感度で検出することができる。例えば、適切な抗体を選択し、当該抗体のエピトープを導入した変異プリオン蛋白を製造すれば、異常型プリオン蛋白の検出感度を向上させることができる。当該検出システムを用いてプリオン感染が疑われる試料を検査することで、試料の安全性を評価し、二次感染を防止することができる。当該試料が臨床検体の場合であれば、より早期に診断をすることが可能となる。
本発明により製造した変異プリオン蛋白を生体に投与すれば、生体内の異常型プリオン蛋白を特異的に高感度で検出することもできる。例えば、画像解析に利用できる化学物質が結合し得るように変異を導入すれば、CJD等のプリオン病に対して画像診断を行うことが可能となる。
本発明により製造した変異プリオン蛋白を利用して、ヒト又はウシのプリオン蛋白遺伝子を導入したトランスジェニック動物を用いれば、患者や家畜等から採取した検体を当該動物に接種するバイオアッセイ系において、そのアッセイ期間を短縮することができる。
本発明により製造した変異プリオン蛋白を用いれば、血液、尿又は脳乳剤等の生体由来の試料中の異常型プリオン蛋白を特異的に除去することができる。例えば、捕捉可能な抗体を選択し、当該抗体のエピトープを導入した変異プリオン蛋白を製造すれば、当該変異プリオン蛋白に結合した異常型プリオン蛋白を同時に捕捉することができる。これによりプリオン感染が疑われる試料を処理することで、当該試料の安全性を向上させ、二次感染を防止することができる。
マウスPrPの、N末端より186番目のアミノ酸残基から204番目のアミノ酸残基(「コドン186〜204」と表し、他も同様とする場合がある)において、複数のアミノ酸を一括置換した変異を示す図である。A.コドン188〜200の領域を走査するように、糖鎖付加シグナルである3アミノ酸残基(NXT)で置換した変異を示す図である。B.コドン188〜200の領域において、複数のアミノ酸をリジンに一括置換した変異を示す図である。C.コドン186〜204の領域を走査するように、ヒトパルボウイルスB19のVP1タンパク質由来エピトープ(SQPYHHW、「BE11」と称する場合がある)で置換した変異を示す図である。D.コドン186〜204の領域を走査するように、FLAGエピトープ(DYKDDDDK)で置換した変異を示す図である。E.コドン186〜204の領域を走査するように、c-mycエピトープ(EQKLISEEDL)で置換した変異を示す図である。下線は変異部分を示す。Wild Type(3F4)は、コドン108をロイシンからメチオニンに、コドン111をバリンからメチオニンに変異させて3F4エピトープを導入した以外は野生型のアミノ酸配列をもつマウスPrPである。 図1Aで示した糖鎖付加シグナル配列の3アミノ酸残基(NXT)で置換した変異体、又は図1Bで示したリジンへの一括置換を行った変異体をScN2a細胞で発現させたときの、各変異体の異常化能を示す図である。A.プロテイナーゼK処理したサンプルのウェスタンブロットの結果を示す図である。B.プロテイナーゼK未処理で、且つペプチドN-グリコシダーゼF(「PNGase F」と称する場合がある)処理したサンプルのウェスタンブロットの結果を示す図である。C.3F4エピトープを導入したマウスPrPの異常化能と比較したときの各変異体の異常化能を示すグラフである。レーンに付した番号は、1:188-NXT-190(コドン188〜190をNXTで置換したものであり、以下、同様に表す)、2:189-NXT-191、3:190-NXT-192、4:191-NXT-193、5:192-NXT-194、6:193-NXT-195、7:194-NXT-196、8:195-NXT-197、9:196-NXT-198、10:197-NXT-199、11:198-NXT-200、12:コドン188〜200をリジンに置換、13:コドン188、190、192、194、196、198及び200をリジンに置換、14:コドン188、191、194、197、200をリジンに置換、15:コドン188、192、196、200をリジンに置換、WT:3F4エピトープを導入したマウスPrP(「MoPrP(3F4)」と称する場合がある)、V:発現ベクターである。A図及びB図における右端の数値は分子量(kDa)を示す。 図1Cで示したBE11の7アミノ酸で置換した変異体をScN2a細胞で発現させたときの、各変異体の異常化能を示す図である。A.プロテイナーゼK処理したサンプルのウェスタンブロットの結果を示す図である。B.プロテイナーゼK未処理で、且つPNGase F処理したサンプルのウェスタンブロットの結果を示す図である。C.3F4エピトープを導入したマウスPrPの異常化能と比較したときの各変異体の異常化能を示すグラフである。レーンに付した番号は、1:186-BE11-192(コドン186〜192をBE11で置換したものであり、以下、同様に表す)、2:187-BE11-193、3:188-BE11-194、4:189-BE11-195、5:190-BE11-196、6:191-BE11-197、7:192-BE11-198、8:193-BE11-199、9:194-BE11-200、10:195-BE11-201、11:196-BE11-202、12:197-BE11-203、13:198-BE11-204、WT:MoPrP(3F4)、V:発現ベクターである。A図及びB図における右端の数値は分子量(kDa)を示す。 図1Dで示したFLAGエピトープの8アミノ酸で置換した変異体をScN2a細胞で発現させたときの、各変異体の異常化能を示す図である。A.プロテイナーゼK処理したサンプルのウェスタンブロットの結果を示す図である。B.プロテイナーゼK未処理で、且つPNGase F処理したサンプルのウェスタンブロットの結果を示す図である。C.3F4エピトープを導入したマウスPrPの異常化能と比較したときの各変異体の異常化能を示すグラフである。レーンに付した番号は、1:186-FLAG-193(コドン186〜193をFLAGエピトープで置換したものであり、以下、同様に表す)、2:187-FLAG-194、3:188-FLAG-195、4:189-FLAG-196、5:190-FLAG-197、6:191-FLAG-198、7:192-FLAG-199、8:193-FLAG-200、9:194-FLAG-201、10:195-FLAG-202、11:196-FLAG-203、12:197-FLAG-204、WT:MoPrP(3F4)、V:発現ベクターである。A図及びB図における右端の数値は分子量(kDa)を示す。 図1Eで示したc-mycエピトープの10アミノ酸で置換した変異体をScN2a細胞で発現させたときの、各変異体の異常化能を示す図である。A.プロテイナーゼK処理したサンプルのウェスタンブロットの結果を示す図である。B.プロテイナーゼK未処理で、且つPNGase F処理したサンプルの結果を示す図である。C.3F4エピトープを導入したマウスPrPの異常化能と比較したときの各変異体の異常化能を示すグラフである。レーンに付した番号は、1:186-cmyc-195(コドン186〜195をc-mycエピトープで置換したものであり、以下、同様に表す)、2:187-cmyc-196、3:188-cmyc-197、4:189-cmyc-198、5:190-cmyc-199、6:191-cmyc-200、7:192-cmyc-201、8:193-cmyc-202、9:194-cmyc-203、10:195-cmyc-204、WT:MoPrP(3F4)、V:発現ベクターである。A図及びB図における右端の数値は分子量(kDa)を示す。 マウスPrPのコドン186〜204の領域において、連続する複数のアミノ酸残基を付加した変異を示す図である。A.7アミノ酸残基からなるBE11を付加した変異を示す図である。B.4個の連続するアミノ酸残基からなるGKLGを付加した変異を示す図である。下線は変異部分を示す。 図6Aで示したBE11を付加した変異体をScN2a細胞で発現させたときの、各変異体の異常化能を示す図である。A.プロテイナーゼK処理したサンプルのウェスタンブロットの結果を示す図である。B.プロテイナーゼK未処理で、且つPNGase F処理したサンプルのウェスタンブロットの結果を示す図である。C.3F4エピトープを導入したマウスPrPの異常化能と比較したときの各変異体の異常化能を示すグラフである。レーンに付した番号は、1:186+BE11+187(コドン186とコドン187の間にBE11を付加したものであり、以下、同様に表す)、2:187+BE11+188、3:188+BE11+189、4:189+BE11+190、5:190+BE11+191、6:191+BE11+192、7:192+BE11+193、8:193+BE11+194、9:194+BE11+195、10:195+BE11+196、11:196+BE11+197、12:197+BE11+198、13:198+BE11+199、14:199+BE11+200、15:200+BE11+201、16:201+BE11+202、17:202+BE11+203、WT:MoPrP(3F4)、V:発現ベクターである。A図及びB図における右端の数値は分子量(kDa)を示す。 図6Bで示したGKLGの連続する4個のアミノ酸残基を付加した変異体をScN2a細胞で発現させたときの、各変異体の異常化能を示す図である。A.プロテイナーゼK処理したサンプルのウェスタンブロットの結果を示す図である。B.プロテイナーゼK未処理で、且つPNGase F処理したサンプルのウェスタンブロットの結果を示す図である。C.3F4エピトープを導入したマウスPrPの異常化能と比較したときの各変異体の異常化能を示すグラフである。レーンに付した番号は、1:188+GKLG+189(コドン188とコドン189の間にGKLGを付加したものであり、以下、同様に表す)、2:189+GKLG+190、3:190+GKLG+191、4:191+GKLG+192、5:192+GKLG+193、6:193+GKLG+194、7:194+GKLG+195、8:195+GKLG+196、9:196+GKLG+197、10:197+GKLG+198、11:198+GKLG+199、12:199+GKLG+200、WT:MoPrP(3F4)、V:発現ベクターである。A図及びB図における右端の数値は分子量(kDa)を示す。 マウスPrPのコドン187〜200の領域において、1個、又は連続する2個以上のアミノ酸を欠失させた変異を示す図である。A.コドン187を起点にしてC末端方向に1〜14個のアミノ酸残基を欠失させた変異を示す図である。B.コドン200を起点にしてN末端方向に1〜13個のアミノ酸残基を欠失させた変異を示す図である。 図9Aで示したアミノ酸残基欠失変異体をScN2a細胞で発現させたときの、各変異体の異常化能を示す図である。A.プロテイナーゼK処理したサンプルのウェスタンブロットの結果を示す図である。B.プロテイナーゼK未処理で、且つPNGase F処理したサンプルのウェスタンブロットの結果を示す図である。C.3F4エピトープを導入したマウスPrPの異常化能と比較したときの各変異体の異常化能を示すグラフである。レーンに付した番号は、1:Δ187-200(コドン187〜200を欠失させたものであり、以下、同様に表す)、2:Δ187-199、3:Δ187-198、4:Δ187-197、5:Δ187-196、6:Δ187-195、7:Δ187-194、8:Δ187-193、9:Δ187-192、10:Δ187-191、11:Δ187-190、12:Δ187-189、13:Δ187-188、14:Δ187、WT:MoPrP(3F4)、V:発現ベクターである。A図及びB図における右端の数値は分子量(kDa)を示す。 図9Bで示したアミノ酸残基欠失変異体をScN2a細胞で発現させたときの、各変異体の異常化能を示す図である。A.プロテイナーゼK処理したサンプルのウェスタンブロットの結果を示す図である。B.プロテイナーゼK未処理で、且つPNGase F処理したサンプルのウェスタンブロットの結果を示す図である。C.3F4エピトープを導入したマウスPrPの異常化能と比較したときの各変異体の異常化能を示すグラフである。レーンに付した番号は、1:Δ188-200、2:Δ189-200、3:Δ190-200、4:Δ191-200、5:Δ192-200、6:Δ193-200、7:Δ194-200、8:Δ195-200、9:Δ196-200、10:Δ197-200、11:Δ198-200、12:Δ199-200、13:Δ200、WT:MoPrP(3F4)、V:発現ベクターである。A図及びB図における右端の数値は分子量(kDa)を示す。 ScN2a細胞を用いて異常化能を調べた試験において、当該異常化能が野生型PrP(MoPrP(3F4))の50%以上であったマウス変異PrPを示す図である。A.アミノ酸残基を置換した変異PrPを示す図である。下線はアミノ酸残基の置換部位を示す。B.アミノ酸残基を付加した変異PrPを示す図である。C.アミノ酸残基を欠失した変異PrPを示す図である。「-」はアミノ酸残基の欠失を示す。 ハムスターPrP(「HaPrP」と称する場合がある)のコドン187〜205の領域において、アミノ酸残基を置換した変異を示す図である。A.コドン187〜201の領域を走査するように、BE11で置換した変異を示す図である。B.コドン187〜204の領域を走査するように、システインで置換した変異を示す図である。C.コドン189、193、197及び201をリジンに置換した変異を示す図である。 PMCA法の原理を示した図である。容器に異常型プリオン蛋白(PrPSc)と正常型プリオン蛋白(PrPC)(基質)を投入し、超音波処理とインキュベーション(振盪)を繰り返すと、容器内に基質が異常化した異常型プリオン蛋白(PrPres)が蓄積されることを示す。なお、インキュベーション時には必ずしも振盪させなくてもよい。 図13Aで示したBE11で置換した変異PrPを293F細胞で発現させ、その溶解液を基質としたときの、PMCA法による各変異体の異常化能を示す図であり、プロテイナーゼK処理したサンプルのウェスタンブロットの結果を示す図である。レーンに付した番号は、1:188-BE11-194、2:189-BE11-195、3:190-BE11-196、4:191-BE11-197、5:192-BE11-198、6:193-BE11-199、7:194-BE11-200、8:195-BE11-201、WT:HaPrPである。なお、右端の数値は分子量(kDa)を示す。 図13Bで示したシステイン置換変異PrPを293F細胞で発現させ、その溶解液を基質としたときの、PMCA法による各変異体の異常化能を示す図であり、プロテイナーゼK処理したサンプルのウェスタンブロットの結果を示す図である。レーンに付した番号は、1:H187C(コドン187をシステインで置換したものであり、以下、同様に表す)、2:T188C、3:V189C、4:T190C、5:T191C、6:T192C、7:T193C、8:K194C、9:G195C、10:E196C、11:N197C、12:F198C、13:T199C、14:E200C、15:T201C、16:D202C、17:I203C、18:K204C、V:発現ベクターのみ、WT:HaPrPである。なお、右端の数値は分子量(kDa)を示す。 図13Cで示したリジン置換変異PrP(K3K)を293F細胞で発現させ、その溶解液を基質としたときの、PMCA法による変異体の異常化能を示す図であり、プロテイナーゼK処理したサンプルのウェスタンブロットの結果を示す図である。なお、右端の数値は分子量(kDa)を示す。 マウスPrPのコドン190から193のアミノ酸を置換し、さらに3アミノ酸を当該位置に付加することによってIQタグ(IQSPHFF)を導入した変異を示す図である。 図18で示した変異を導入した変異PrPをScN2a細胞で発現させたときの変異体の異常化能を示す図である。A.プロテイナーゼK未処理(且つPNGase F未処理)のときのウェスタンブロットの結果を示す図である。B.プロテイナーゼKで処理したときのウェスタンブロットの結果を示す図である。レーンに付した番号はそれぞれ、1:MoPrP(3F4)、2:190+IQ+193(コドン190とコドン193の間にIQタグを導入したもの)である。 マウスPrPのコドン190と191の間にアルギニンを付加し、コドン193のリジンをセリンに置換し、かつその後にアルギニンを付加することによって、核酸制限分解酵素MluIの認識部位、スレオニン、スレオニン、核酸制限分解酵素XbaIの認識部位(TRTTSR)を導入した変異を示す図である。 図20で示した変異を導入した変異PrPをScN2a細胞で発現させたときの変異体の異常化能を示す図である。A.プロテイナーゼK未処理(且つPNGase F未処理)のときのウェスタンブロットの結果を示す図である。B.プロテイナーゼKで処理したときのウェスタンブロットの結果を示す図である。レーンに付した番号はそれぞれ、1:MoPrP(3F4)、2:190+MluI+XbaI+193(コドン190とコドン193の間に2個の異なる核酸制限分解部位(MluI及びXbaI)を導入したもの)である。 ヒトPrPのコドン187〜205において、アミノ酸残基を置換した変異を示す図である。A.コドン188〜201の領域を走査するように、3F4抗体のエピトープに係る9アミノ酸配列であるD3F4タグ(KPKTNMKHM)で置換した変異を示す図である。B.コドン188〜198の領域において、ロイシン又は複数個のリジンで置換した変異を示す図である。下線部は変異導入部位を示す。 図22Aで示した変異PrPを基質とし、sCJD(H3)を種としたときのPMCA法による各変異体の異常化能を示す図である。A.プロテイナーゼKで処理した後のウェスタンブロットの結果を示す図である。なお、右端の数値は分子量(kDa)を示す。B.各変異PrPのPMCA前後におけるシグナル強度の変化率(シグナル増強率)を示す。縦軸はシグナル増強率(単位:倍)、横軸は野生型及び各変異PrPの種類を示し、シグナル増強率はn=2の平均値とした。 図22Bで示した変異PrPを基質とし、sCJD(H3)を種としたときのPMCA法による各変異体の異常化能を示す図である。A.プロテイナーゼKで処理した後のウェスタンブロットの結果を示す図である。なお、右端の数値は分子量(kDa)を示す。B.各変異PrPのPMCA前後におけるシグナル強度の変化率(シグナル増強率)を示す。縦軸はシグナル増強率(単位:倍)、横軸は野生型及び各変異PrPの種類を示し、シグナル増強率はn=2の平均値とした。 図22Aで示した変異PrPを基質とし、vCJDを種としたときのPMCA法による各変異体の異常化能を示す図である。A.プロテイナーゼKで処理した後のウェスタンブロットの結果を示す図である。なお、右端の数値は分子量(kDa)を示す。B.PMCA後の野生型を1.0としたときの各変異PrPのシグナル強度の変化率(シグナル増強率)を示す。縦軸はシグナル増強率(単位:倍)、横軸は野生型及び各変異PrPの種類を示す。シグナル増強率はn=3の平均値とし、標準偏差を算出した。 図22Bで示した変異PrPを基質とし、vCJDを種としたときのPMCA法による各変異体の異常化能を示す図である。A.プロテイナーゼKで処理した後のウェスタンブロットの結果を示す図である。なお、左端の数値は分子量(kDa)を示す。B.PMCA後の野生型を1.0としたときの各変異PrPのシグナル強度の変化率(シグナル増強率)を示す。縦軸はシグナル増強率(単位:倍)、横軸は野生型及び各変異PrPの種類を示し、シグナル増強率はn=2の平均値とした。 図13Cで示した変異PrP(K3K)の精製後のSDS-ポリアクリルアミドアクリルアミドゲル電気泳動像(SYPRO Ruby染色)を示す図である。S:精製したタンパク質、M:分子量マーカーを示し、右端の数値は分子量(kDa)を示す。 Alexa488で標識された変異PrP(K3K)をゲルろ過カラムで分離したときの各画分の蛍光強度を示す図である。縦軸は蛍光強度、横軸は溶出液量(ml)をそれぞれ示す。
本発明は、H-T-V-T-T-T-T-K-G-E-N-F-T-E-T-D-Xaa(Xaaは、V、I又はMである)(配列番号:1)で表されるアミノ酸配列からなる保存領域を含むタンパク質の該保存領域において、少なくとも3個のアミノ酸残基に変異を導入する工程を含む、変異タンパク質の製造方法を提供するものである。
本発明におけるアミノ酸配列H-T-V-T-T-T-T-K-G-E-N-F-T-E-T-D-Xaa(配列番号:1)は、一般的な一文字表記によって表される17個のアミノ酸残基がペプチド結合したアミノ酸配列を示し、Xaaのアミノ酸残基は、V、I又はMのいずれかから選択されることを表すものである。当該アミノ酸配列からなるペプチドは、動物種を超えて共通に見られる高度にアミノ酸が保存された領域である。本発明の製造方法は、該保存領域を含むタンパク質に対して該保存領域に網羅的かつダイナミックに変異を導入し、所望の活性を有する変異タンパク質を製造することができる。変異を導入するタンパク質は、前記保存領域を含むタンパク質であれば特に限定されるものではないが、特にプリオン蛋白(PrP)であることが好ましい。
また、上記アミノ酸配列からなる保存領域は、本発明者らの予備的な研究により、当該保存領域内のアミノ酸残基に変異を導入してもPrPの異常化能が維持されたことから、本明細書では当該アミノ酸配列からなる保存領域を「PrPアミノ酸可変領域」と呼ぶこととする。PrPアミノ酸可変領域は種間で高度に保存されたアミノ酸配列の領域であるにも関わらず、本発明のような大胆なアミノ酸残基の変異を導入することが可能である。
本発明において、PrPは、いかなる動物由来のタンパク質であってもよい。当該動物としては、例えば、ヒト、ウシ、ヒツジ、シカ、マウス、ラット、ウマ、ヤギ、サル、イヌ、ネコ、ハムスター、ヨーロッパヤチネズミ又は有袋類等の哺乳類を挙げることができ、プリオン病の態様に応じて種々の動物由来のPrPを利用することができる。これらのうち、ヒト、ウシ、ヒツジ、マウス及びハムスターのプリオン蛋白のアミノ酸及びヌクレオチド配列は、それぞれGenbank Accession No.がNM_183079、D10612、D38179、NM_011170及びEF139168で公表されており、自体公知の方法によりそれぞれ単離することができる。なお、ヒト、ウシ、ヒツジ、マウス及びハムスターのPrPのアミノ酸配列をそれぞれ配列番号:2〜6に示し、それらのヌクレオチド配列をそれぞれ配列番号:7〜11に示す。
ヒトPrPは、253個のアミノ酸から構成されているが、N末端の連続する22個のアミノ酸残基はシグナルペプチドとして除去され、C末端の連続する23個のアミノ酸残基はグリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)アンカーシグナルとして働き、タンパク質翻訳後に切断され、そのC末端(ペプチド除去及び切断前のヒトPrPにおけるN末端から230番目のアミノ酸残基)にGPIアンカーが結合することを特徴とする。これについて、本発明におけるタンパク質、例えばPrPでは、GPIアンカーのような糖鎖を有するもの若しくは有さないもののいずれをも含むものとする。なお、本明細書においては、タンパク質翻訳直後(修飾等が行われる前)のアミノ酸配列を基準としてアミノ酸残基の位置(座位)を示すこととする。
また、本発明で対象とするPrPは、複数の動物種のPrPのキメラタンパク質とすることもできる。キメラタンパク質を用いれば、一方の動物種には存在するが他方の動物種には存在しないエピトープ等を利用することができ、野生型PrPとキメラPrPとを識別することができるようになる。例えば、マウスPrPにおいて、N末端より108番目から111番目までのアミノ酸配列(コドン108〜111)がハムスターPrPのアミノ酸配列相当部分と置換されたマウス−ハムスターキメラPrPとすることができる。当該マウス−ハムスターキメラPrPであれば、野生型マウスPrPには結合しない抗PrPモノクローナル抗体3F4(「3F4抗体」と称する場合がある。)が結合できるようになる。また、マウスPrPにおいては、コドン180よりC末端側のアミノ酸配列が、ヒトPrPのアミノ酸配列相当部分と置換されたマウス−ヒトキメラPrPとすることができる。当該マウス−ヒトキメラPrPであれば、野生型マウスPrPには結合しない抗PrPモノクローナル抗体T41/71が結合できるようになる。
ここで、異なる動物種のPrPにおけるアミノ酸配列相当部分とは、各動物種のPrPのアミノ酸配列を相同性に基づいてアラインメントさせたときに対応する位置にあるアミノ酸配列部分をいう。例えば、マウスPrPのコドン187に相当するヒトPrPのアミノ酸残基は、コドン188となる。当該アラインメントは、公知のアラインメント方法により行うことができ、DNASIS(日立製作所)、CLUSTALW又はBLAST等の遺伝子配列解析ソフトを用いて行うことができる。
PrPアミノ酸可変領域は、ヒトPrPではコドン187〜203に相当し、マウスPrPではコドン186〜202に相当する。いずれの場合も、アミノ酸残基XaaはVを示している。また、ウシPrPではコドン198〜214、ヒツジPrPではコドン190〜206、ハムスターPrPではコドン178〜194に相当し、アミノ酸残基Xaaは全てIを示している。これにより、本発明においてアミノ酸残基の変異を導入するに際しては、例えば、マウスPrPのコドン186〜188を所定のアミノ酸配列に置換する場合は、PrPアミノ酸可変領域のN末端より1番目から3番目までのアミノ酸残基を所定のアミノ酸配列に置換する、と表現することができ、また、マウスPrPのコドン186と187との間に所定のアミノ酸配列を付加する場合は、PrPアミノ酸可変領域のN末端より1番目と2番目のアミノ酸残基の間に所定のアミノ酸配列を付加する、と表現することができる。なお、コドンの次に示される数字に基づいて適宜当該領域のアミノ酸残基の位置を示すことができ、欠失による変異の場合も同様に表現することができる。また、当該領域は種を超えて高度に保存されていることから、当該表現方法により示されたPrPアミノ酸可変領域の変異はヒト等のその他の種においても適用されることができる。
本発明におけるPrPアミノ酸可変領域は、高度に保存されたアミノ酸配列からなるが、例えば、当該領域のアミノ酸配列のうち1又は2個以上(好ましくは、1〜3個程度、より好ましくは1〜2個程度、最も好ましくは1個程度)のアミノ酸残基が置換、欠失若しくは付加又はそれらが組み合わされた(好ましくは置換された)アミノ酸配列を含むものであって、且つPrPアミノ酸可変領域を有するタンパク質と実質的に同質の活性を有するものが含まれる。ここで、実質的に同質の活性とは、タンパク質の構造変換活性が同等であることを意味し、PrPの場合であれば、正常型PrPの異常化能が同等であることを意味する。例えば、ネコPrPアミノ酸可変領域は、当該領域のN末端から1番目のヒスチジンがアルギニンに置換されており、有袋類PrPアミノ酸可変領域は、当該領域のN末端から3番目のバリンがスレオニンに置換されている。
本発明において、アミノ酸残基に変異を導入するとは、野生型タンパク質のアミノ酸配列とは異なるアミノ酸配列となるよう、変異を導入する前のタンパク質(好ましくは、野生型タンパク質)のアミノ酸残基の置換、付加、欠失又はこれらの組み合わせを行うことを意味する。本発明では、PrPアミノ酸可変領域における1又は少なくとも2個、好ましくは少なくとも3個、より好ましくは少なくとも6個、さらに好ましくは7〜11個のアミノ酸残基に、変異を導入することができる。また、キメラタンパク質を利用する場合は、キメラを構成する各部分について、当該部分が由来する動物種の野生型タンパク質のアミノ酸配列とは異なることをいう。
本発明におけるアミノ酸残基の置換とは、野生型タンパク質のアミノ酸配列と変異タンパク質のアミノ酸配列とを比較したときに、対応する座位でのアミノ酸残基が異なっていることをいう。アミノ酸残基の置換を行うには、PrPアミノ酸可変領域における各アミノ酸残基のうち、野生型のアミノ酸残基以外の19種類のアミノ酸残基への置換を行えばよい。20種類のアミノ酸(一文字表記)は、アラニン(A)、システイン(C)、アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E)、フェニルアラニン(F)、グリシン(G)、ヒスチジン(H)、イソロイシン(I)、リジン(K)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、アスパラギン(N)、プロリン(P)、グルタミン(Q)、アルギニン(R)、セリン(S)、スレオニン(T)、バリン(V)、トリプトファン(W)及びチロシン(Y)がある。また、20種類のアミノ酸以外にも、セレノシステイン(U)、ピロリジン(O)又はオルニチン(Orn)等も利用することができる。本発明では、中性アミノ酸残基を塩基性又は酸性アミノ酸残基に置換することが好ましい。塩基性アミノ酸としてはリジン(K)、アルギニン(R)、ヒスチジン(H)及びオルニチン(Orn)が挙げられ、酸性アミノ酸としてはアスパラギン酸(D)及びグルタミン酸(E)が挙げられ、中性アミノ酸は塩基性アミノ酸及び酸性アミノ酸以外のアミノ酸である。その中でも、塩基性アミノ酸残基に置換することが好ましく、リジン残基に置換することがより好ましい。さらに、塩基性及び/又は酸性アミノ酸残基への置換に加えて、非分岐鎖アミノ酸残基を分岐鎖アミノ酸残基に置換することもできる。分岐鎖アミノ酸としてはロイシン(L)、イソロイシン(I)及びバリン(V)が挙げられ、その中でもロイシンが好ましい。
本発明におけるアミノ酸残基の付加とは、変異を導入する前のタンパク質(好ましくは、野生型タンパク質のアミノ酸配列)の中に別途アミノ酸残基が割り込み、野生型タンパク質のアミノ酸配列とは異なるアミノ酸配列を構成することをいう。そのため、「付加」という変異の態様は、「挿入」と言い換えることもできる。また、本発明でのアミノ酸残基の欠失とは、野生型タンパク質のアミノ酸配列の一部の特定のアミノ酸残基が欠けて失われ、野生型タンパク質のアミノ酸配列とは異なるアミノ酸配列を構成することをいう。
本発明において、アミノ酸残基の変異導入を行う方法は特に限定されず、種々の公知技術を用いることができる。例えば、部位特異的変異導入の方法、制限酵素による切断とリガーゼによる連結を行う方法、トランスポゾンを利用して特定の塩基をランダムに挿入する方法、エンドヌクレアーゼを用いて塩基のリピート配列を導入する方法、ジンクフィンガーヌクレアーゼを用いる方法等が挙げられる。これらのうち部位特異的変異導入法を用いる場合は、一塩基変異のみならず、短鎖又は長鎖の塩基配列を変異の対象とすることができ、その他PCR法等を適宜組み合わせることができる。
本発明においては、PrPアミノ酸可変領域における少なくとも3個のアミノ酸残基に、置換、付加、欠失又はそれらの組み合わせによる変異を導入することができる。当該少なくとも3個のアミノ酸残基は、当該領域内であればいかなる位置であってもよく、連続するアミノ酸残基とすることもできれば、不連続のアミノ酸残基とすることもできる。不連続のアミノ酸残基とする場合は、当該領域のアミノ酸残基にランダムに、又は規則的に変異を導入することができる。規則的に変異を導入する場合としては、例えば、N末端から奇数番目又は偶数番目のアミノ酸残基に変異を導入し、又はN末端から3以上の倍数の位置のアミノ酸残基に変異を導入することが挙げられる。
少なくとも3個の連続するアミノ酸残基の変異を導入する場合には、種々のアミノ酸配列のうち、特定の抗体が認識できるエピトープ(エピトープ・タグ又はエピトープ配列ともいう)であることが好ましい。エピトープとしては、例えば、ヒトパルボウイルスB19のVP1タンパク質由来エピトープ、FLAGエピトープ、c-mycエピトープ、3F4エピトープ、D3F4タグ、T41/71エピトープ、インフルエンザウイルスのHAタンパク質由来エピトープ又はヒスチジンタグ等を挙げることができ、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのうち、本発明では、ヒトパルボウイルスB19のVP1タンパク質由来エピトープ、FLAGエピトープ、c-mycエピトープ、3F4エピトープ、D3F4タグ、インフルエンザウイルスのHAタンパク質由来エピトープを用いることが好ましい。
本発明において、ヒトパルボウイルスB19のVP1タンパク質由来エピトープとは、パルボウイルス科のうちパルボウイルス亜科のエリスロウイルス属に分類されるヒトパルボウイルスB19において、B19が有する2つの構造蛋白のうちの1つであるVP1タンパク質をコードするアミノ酸配列の一部から構成されるエピトープである。当該エピトープのアミノ酸配列は、ヒトパルボウイルスB19のVP1タンパク質を認識する抗体が結合するものであれば特に限定されないが、好ましくはSQPYHHW(配列番号:12)で表される7個の連続するアミノ酸残基からなるアミノ酸配列である。
本発明において、FLAGエピトープとは、親水性を示すアミノ酸残基を有し、Anti-FLAGモノクローナル抗体(M1、M2、M5)及びポリクローナル抗体の結合部位を有するエピトープである。親水性を示すがゆえに、当該エピトープを融合タンパク質の表面付近に存在しやすくすることができ、そのため、抗体を接近させやすくすることができる。当該エピトープのアミノ酸配列は、Anti-FLAGモノクローナル抗体(M1、M2、M5)及びポリクローナル抗体が結合するものであれば特に限定されないが、好ましくはDYKDDDDK(配列番号:13)で表される8個の連続するアミノ酸残基からなるアミノ酸配列である。
本発明において、c-mycエピトープとは、細胞の増殖、分化、アポトーシスを制御する転写因子であるc-Mycタンパク質をコードする遺伝子に由来するエピトープである。c-mycエピトープとしては、好ましくはヒトc-myc癌原遺伝子に由来するエピトープであり、さらに好ましくはヒトc-mycタンパク質由来の9E10エピトープである。当該エピトープのアミノ酸配列は、抗c-Myc抗体が結合するものであれば特に限定されないが、好ましくはEQKLISEEDL(配列番号:14)で表される10個の連続するアミノ酸残基からなるアミノ酸配列である。
3F4エピトープとは、PrPに由来するエピトープであって、マウスPrPは認識せずに、ヒト、ハムスター及びネコのPrPを認識する3F4抗体が結合するエピトープである。3F4エピトープのアミノ酸配列は、3F4抗体が結合するものであれば特に限定されないが、好ましくはSKPKTNMKHM(配列番号:15)で表される10個の連続するアミノ酸残基からなるアミノ酸配列である。
また、D3F4タグは、3F4エピトープと同様に3F4抗体が結合するエピトープ(タグ)であり、そのアミノ酸配列は3F4抗体が結合するものであれば特に限定されないが、好ましくはKPKTNMKHM(配列番号:158)で表される9個の連続するアミノ酸残基からなるアミノ酸配列である。
インフルエンザウイルスのHAタンパク質由来エピトープとは、オルトミクソウイルス科に分類されるインフルエンザウイルスが有するヘマグルチニン(HA)タンパク質の一部から構成されるエピトープである。当該エピトープのアミノ酸配列は、ラットモノクローナル抗体3F10が結合するものであれば特に限定されないが、好ましくはYPYDVPDYA(配列番号:16)で表される9個の連続するアミノ酸残基からなるアミノ酸配列である。
また、本発明において少なくとも3個のアミノ酸残基に変異を導入するに際しては、化学標識可能なアミノ酸残基を有するように置換及び/又は付加を行うことができる。化学標識としては、例えば、糖鎖付加による標識、放射性同位元素による標識、陽子放出同位元素による標識、造影剤による標識、蛍光物質、りん光物質、若しくは発光物質による標識、ランタノイド系金属を含む化合物による標識、ビオチン標識、ジゴキシゲニン標識、又は市販の化学試薬を用いた標識等が挙げられ、これらのうち1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。化学標識可能なアミノ酸残基としては、種々のアミノ酸残基を利用することができ、特に限定されないが、好ましくは、リジン、システイン又はチロシンを利用することができる。
放射性同位元素による標識を用いた場合は、次の通りPrPScを検出できる。標識PrPを生体内に投与すれば、異常化した標識PrPは生体内で蓄積し、異常化しなかった標識PrPは代謝されて生体外へ排出される。生体内に蓄積した、異常化した標識PrPが発する放射線を検出し、コンピュータで画像化すれば、プリオン病の診断をすることができる。頭部等身体の一部を測定してもよいし、全身を測定してもよい。脳内にPrPScが蓄積する以前に、体内のいずれかの部位に蓄積するPrPScを検出することで、早期診断、又は発症前の診断ができる。また、試験管内で異常化させた後、プロテアーゼ処理すれば異常化した標識PrPは部分分解されるに止まるが、異常化しなかった標識PrPは完全に分解される。そこで、部分分解された標識PrPと完全分解された標識PrPとを分離後、部分分解された標識PrPScの発する放射線を測定すれば、PrPScを検出できる。放射線の測定には、例えば、オートラジオグラフィー、シンチレーション計測等が利用できるが、これらには限定されない。
陽子放出同位元素による標識を用いた場合は、次の通りPrPScを検出できる。標識PrPを生体内に投与すれば、異常化した標識PrPは生体内で蓄積し、異常化しなかった標識PrPは代謝されて生体外へ排出されることを利用する。異常化した標識PrPをポジトロン断層法(PET)で検出し、コンピュータで画像化すれば、プリオン病の診断が可能となる。
造影剤による標識を用いた場合は、次の通りPrPScを検出できる。標識PrPを生体内に投与すれば、異常化した標識PrPは生体内で蓄積し、異常化しなかった標識PrPは代謝されて生体外へ排出される。異常化した標識PrPが存在する部位では、生体外から投射した放射線の透過が減少することを利用する。放射線の透過を測定してコンピュータで画像化すれば、プリオン病の診断ができる。放射線の検出には、コンピュータトモグラフィー(CT)等が利用できるが、これに限定されない。
蛍光物質、りん光物質又は発光物質による標識を用いた場合は、次の通りPrPScを検出できる。標識PrPを生体内に投与すれば、異常化した標識PrPは生体内で蓄積し、異常化しなかった標識PrPは代謝されて生体外へ排出されることを利用する。異常化した標識PrPが発する蛍光、りん光又は発光を測定すれば、PrPScを検出できる。生前に測定する場合には、多光子レーザー顕微鏡等が利用できる。死後、病理切片を作製して測定する場合は、蛍光顕微鏡、光学顕微鏡等が利用できる。
試験管内で異常化させる系においては、プロテアーゼ処理することで異常化した標識PrPは部分分解されるに止まるが、異常化しなかった標識PrPは完全に分解される。そこで、部分分解された標識PrPと完全分解された標識PrPとを分離後、異常化した標識PrPの発する蛍光、りん光又は発光を測定すれば、PrPScを検出できる。測定には、顕微鏡、分光測定装置等が利用できるが、これらに限定されない。
さらに、試験管内で異常化させる系においては、プロテアーゼ処理せずにPrPScを測定することもできる。例えば、PrPCを2種類の異なる蛍光波長を持つ蛍光物質で別々に標識しておき、これらを基質として試験管内で異常型への変換反応を行うと、生成したPrPScの凝集体は2種類の蛍光で標識される。例えば、蛍光分光相関法を用いれば、1種類の蛍光で標識されたモノマーであるPrPCと区別できる。また、2種類の蛍光物質間で蛍光相関エネルギー転移(FRET)が生じるように蛍光物質を選択して標識すると、生成したPrPScの凝集体はFRETによりモノマーであるPrPCとは異なる波長の蛍光を発する。この波長を測定することでPrPScを検出することができる。
ランタノイド系金属を含む化合物による標識を用いた場合は、次の通りPrPScを検出できる。ランタノイド系金属は、通常の蛍光色素より長時間蛍光を発する。前述の蛍光標識に準じた方法でランタノイド金属の発する蛍光を測定すれば、PrPScを検出することができる。測定には、時間分解蛍光分光装置等が利用できる。
ビオチン標識を用いた場合は、次の通りPrPScを検出できる。試験管内で異常化させた後、プロテアーゼ処理すれば異常化した標識PrPは部分分解されるに止まるが、異常化しなかった標識PrPは完全に分解される。部分分解された標識PrPと完全分解された標識PrPとを分離後、ストレプトアビジン等のビオチンに高い特異性と親和性を有する物質を結合させる。ストレプトアビジンを予め酵素や蛍光物質で標識しておけば、酵素活性や蛍光を指標にしてPrPScを検出できる。
ジゴキシゲニン標識を用いた場合は、次の通りPrPScを検出できる。試験管内で異常化させた後、プロテアーゼ処理すれば異常化した標識PrPは部分分解されるに止まるが、異常化しなかった標識PrPは完全に分解される。部分分解された標識PrPと完全分解された標識PrPとを分離後、ジゴキシゲニンに高い特異性と親和性を有する抗体を結合させる。抗体を予め酵素や蛍光物質で標識しておけば、酵素活性や蛍光を指標にしてPrPScを検出できる。
また、本発明においては、種々のタンパク質の活性ドメインに相当するアミノ酸残基を有するように変異を導入することができる。当該活性ドメインとしては、酵素活性を有するドメイン、蛍光若しくは発光活性を有するドメイン、又は生体分子との結合活性を有するドメイン等が挙げられ、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。また、当該生体分子としては、例えば、リガンドとなるタンパク質、核酸、ビオチン等が挙げられる。
変異を導入したアミノ酸配列を有するタンパク質は、特に限定されないが、例えば、公知技術(Sambrook J. and Russel DW. Molecular Cloning: A laboratory manual 3rd ed. 2001 Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York)を用いて、変異タンパク質のcDNAを調製し、当該cDNAを任意の宿主で発現させて当該変異タンパク質を作製することができる。当該宿主としては、例えば、大腸菌、酵母、カビ、昆虫細胞、動物細胞、動物等を挙げることができる。これらのうち、動物細胞としては、マウス神経芽腫細胞株(Nuero2a)、ヒト腎細胞株(293又は293F細胞株)、チャイニーズ・ハムスター卵巣細胞株(CHO)等が挙げられる。変異タンパク質を発現する宿主は、そのままで利用してもよく、又は抽出液、ホモジネート、破砕液若しくは溶解液等として利用してもよい。当該変異タンパク質は、部分的に精製してもよく、又は高度に精製して利用してもよい。また、上記の他、当該変異タンパク質は、通常の化学合成を利用して作製してもよい。
本発明により製造された変異タンパク質は、変異導入前のタンパク質又は野生型タンパク質と比較して、活性が変化していることが予想されるが、変異導入前のタンパク質又は野生型タンパク質が有していた活性を維持、又はそれ以上であるものが高確率に含まれる。即ち、本発明の製造方法において、PrPを用いた場合、構造変換活性を有し、当該構造変換活性が変異導入前のタンパク質又は野生型タンパク質が有していた活性を維持、又はそれ以上である変異タンパク質を効率的に得ることができる。PrPの場合であれば、本発明により製造された変異PrPの中から、異常化能を有し、その異常化能が変異導入前又は野生型のPrPの異常化能を少なくとも維持するものを容易に選択することができる。ここで、上記でも触れているが、PrPの異常化能とは、PrPCがPrPScと接触することにより、PrPScに変換される活性の大きさをいう。
したがって、本発明の製造方法は、さらに、変異が導入された変異タンパク質と、変異が導入される前又は野生型のタンパク質の活性とをそれぞれ測定し、該活性を比較する工程、並びに変異導入前又は野生型のタンパク質の活性と比較して有意に活性が変化した変異タンパク質を選択する工程を含むことが好ましい。
タンパク質の活性の測定は、変異を導入するタンパク質が有する活性に基づいて、当業者であれば適宜設定することができる。例えば、タンパク質が酵素活性を有する場合、所定の条件下で酵素の基質と当該タンパク質とを接触させ、酵素反応物の量(濃度)を決定することにより行うことができる。
PrPを用いた場合、本発明の製造方法は、さらに、変異が導入された変異タンパク質と、変異が導入される前又は野生型のタンパク質との構造変換活性をそれぞれ測定し、該活性を比較する工程、並びに変異導入前又は野生型のタンパク質の構造変換活性と比較して50%以上の構造変換活性を有する変異タンパク質を選択する工程を含むことが好ましい。
PrPを用いた場合、野生型のタンパク質の構造変換活性と比較して50%以上、好ましくは100%以上、より好ましくは150%以上、さらにより好ましくは200%以上の構造変換活性を有する変異タンパク質を選択することが望ましい。このような変異タンパク質を選択することにより、後述するPrPScの検出方法及び除去方法において、有用なツールとして利用可能である。
PrPの構造変換活性を測定し、比較する工程については、効率よくPrPCからPrPScに変換される方法を利用するのが好ましい。例えば、以下の異常化反応を用いた方法が挙げられる。
まず、PrPScが持続的に感染している細胞株を用いる方法が挙げられる。当該細胞株としては、例えば、スクレイピー病(Scrapie)の感染因子であるRML株を感染させたNeuro2a(ScN2a)細胞がある。当該細胞に、本発明により製造される変異PrPCを発現させれば、当該変異PrPCは、細胞内にて持続的に感染(存在)しているPrPScと接触して、効率よく変異PrPScに変換されることができる(Ikeda S. et al., 2008, Biochem Biophys Res Commun. 369:1195-1198)。
次に、ノックイン動物又はトランスジェニック動物を用いる方法が挙げられる。本発明により製造された変異PrPCをコードする遺伝子を導入したノックイン動物又はトランスジェニック動物を作出し、PrPScを投与すれば、当該動物が発現する変異PrPCは、投与されたPrPScと体内で接触し、変異PrPScへと変換されることができる。
また、in vitro構造転換アッセイとして、本発明により製造された変異PrPCを発現する細胞の細胞破砕液、当該変異PrPCを発現する動物の臓器破砕液、又はそれらの破砕液から抽出若しくは精製した変異PrPCを、試験管内でPrPScを含む試料と混合後、インキュベートする方法が挙げられる。これにより、試験管内でPrPScと接触した変異PrPCは、適切な条件の下、次々と変異PrPScに変換されることができる。
そして、Protein Misfolding Cyclic Amplification(PMCA)法を用いる方法が挙げられる(Gabriela P. et al., 2001, Nature 411:810-813)。PMCA法では、本発明により製造された変異PrPCを含む試料とPrPScを含む試料とを混合し、超音波処理とインキュベーションとを繰り返す。反応液中で変異PrPCが変異PrPScに変換され、変異PrPScが増幅されることができる。
次に、異常化反応において新たに生成したPrPScと異常化せずに残存するPrPCとを識別する方法の例を以下に示す。ただし、当該識別方法はこれらに限定されるものではない。
まず、PrPScのタンパク質分解酵素抵抗性を利用する方法が挙げられる。これは、プロテイナーゼK等のタンパク質分解酵素処理によりPrPCは分解されるが、PrPScは分解されにくいことを利用したものである。これにより、タンパク質分解酵素処理を実施しなかった場合には、PrPC及びPrPScの両方を測定することができ、タンパク質分解酵素処理を実施した場合には、PrPScのみを測定することができる。
次に、PrPScの凝集性を利用する方法が挙げられる。PrPCは単量体(モノマー)で存在するが、PrPScは凝集体(マルチマー)で存在する。そこで、捕捉抗体又は検出抗体として同一エピトープを認識する抗体を用いれば、モノマーは検出できないが、マルチマー、即ち、PrPScの凝集体は検出することができる。また、凝集体に特異的な染料(例えば、コンゴレッド、チオフラビンS又はT等)で染色することにより、凝集体のみを検出することもできる。
そして、PrPScの構造的特徴を利用する方法が挙げられる。これは、PrPScがPrPCよりもβシート構造を多く含んでいることを利用したものであり、CDスペクトル又はフーリエ変換赤外分光法(FTIR)を用いて、βシート構造の含量変化を測定することで異常化の程度を測定することができるものである。
最後に、PrPScの感染性を利用する方法が挙げられる。これは、動物への感染実験を実施するものであり、接種した検体中に感染性のPrPScがあれば、プリオン病に特徴的な臨床症状や病理組織像を観察することができる。また、潜伏期間により、投与した検体中に存在した感染性のPrPScの量を推定することができる。
また、本発明は、PrPアミノ酸可変領域における少なくとも3個のアミノ酸残基に変異を導入することにより製造された変異タンパク質と、試料中の異常型タンパク質とを接触させる工程を含む、当該異常型タンパク質の検出方法及びその除去方法を提供するものである。即ち、本発明により製造された変異PrPを用いて、当該変異プリオン蛋白と異常型プリオン蛋白(PrPSc)とを接触させることにより、PrPScを検出すること、及びこれを除去することができる。
本発明における検出方法としては、例えば、上記エピトープを導入したものについて、検出感度を高めた態様でウェスタンブロッティング、イムノブロッティング、EIA又はELISA等の抗原抗体反応を利用することができる。また、化学標識可能なアミノ酸残基を導入したものについては、種々の測定機器及び画像装置等を利用することができ、例えば、シンチレーションカウンター、オートラジオグラフィー、コンピュータトモグラフィー(CT)、ポジトロン断層撮影装置(PET)、多光子レーザー顕微鏡、蛍光顕微鏡、光学顕微鏡、分光測定装置又は蛍光分光相関測定装置等を用いることができる。
本発明における除去方法としては、例えば、上記エピトープを認識し得る抗体、又は化学標識したアミノ酸残基に結合し得る化学物質を固定した支持体を利用して、PrPScを含んだ試料を当該支持体に接触することによってPrPScを除去することができる。当該支持体としては、例えば、ビーズ、レジン、膜、ホローファイバー、又はポリマー等を挙げることができる。当該検出及び除去を行う試料としては、血液、尿若しくは脳乳剤等の生体由来の試料、又は食品若しくはその原材料等が挙げられる。
以下に実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
[実施例1]エピトープ又はリジンの置換導入がされたマウス変異プリオン蛋白のScN2a細胞における異常化能
マウスPrPにおいて、コドン186〜204のアミノ酸領域をN末端から走査するように、ヒトパルボウイルスB19のVP1タンパク質由来エピトープ(BE11)の7アミノ酸残基(SQPYHHW(配列番号:12))、FLAGエピトープの8アミノ酸残基(DYKDDDDK(配列番号:13))又はc-mycエピトープの10アミノ酸残基(EQKLISEEDL(配列番号:14))により一括置換した変異PrPのcDNAを設計した(図1C、D、E)。また、該領域内の4、5、7又は13個のアミノ酸をリジンに置換した変異PrPのcDNAを設計した(図1B)。
既報(Ikeda S. et al., 2008, Biochem Biophys Res Commun. 369:1195-1198)に従い、部位特異的突然変異導入法により変異PrPのcDNAを作製し、pSPOXベクター(Scott MR. et al., 1992, Protein Sci. 1:986-997)のBam HI制限酵素切断部位及びXho I制限酵素切断部位の間に各変異PrPのcDNAを挿入して、発現ベクターを構築した。また同時に、変異PrPの発現を確認するため、各変異PrPのコドン108及びコドン111をメチオニンに置換して3F4エピトープを導入するよう発現ベクターを構築した。当該発現ベクターは、Lipofectamine 2000(インビトロジェン社)を用いてNeuro2a(ScN2a)細胞(Butler DA et al., J Virol. 1988, 62:1558-64)に形質導入した。なお、pSPOXベクター及びScN2a細胞は、Prusiner博士(米国カリフォルニア大学サンフランシスコ校医学部)より供与された。
ScN2a細胞におけるPrPの正常型(PrPC)から異常型(PrPSc)への変換(異常化能)の測定は、以下の方法により行った。
最初にPrPのPrPCとPrPScとの総量を測定した。PrPのPrPCとPrPScとの総量を測定するために、培養したScN2a細胞の細胞破砕液をウェスタンブロッティングに供し、3F4抗体(SENETEK社)を用いてPrPのバンドを検出した。検出されたバンドから、VersaDocイメージアナライザー(バイオラッド社)を用いてPrPの定量を行った(総PrP量)。
次いで、PrPのPrPScの量を測定した。当該量を測定するために、ScN2a細胞の細胞破砕液をプロテイナーゼK(20mg/ml、和光純薬工業社)で処理した後、100,000×gの遠心を行って不溶性の分画を得て、PrPScを精製した。PrPScの精製は具体的には以下の方法で行った。
ScN2a細胞破砕液にSarkosyl(2%、Fluka社)及びプロテイナーゼK(20mg/ml、和光純薬工業社)を加え、37℃で30分間インキュベートした。Pefa bloc SC(Roche Diagnostics社)を加えて反応を停止させ、超遠心機(日立工機社)を用いて、100,000×g、20℃、60分間の条件で超遠心を行った。上清を除去した後、サンプルバッファー(60mM Tris-HCl、pH6.8、2% SDS、5% 2-メルカプトエタノール、5%グリセロール、0.005%ブロモフェノールブルー)を加えて、超音波ホモジナイザー(Branson社)により再懸濁した。次いで、100℃で8分間煮沸し、ウェスタンブロッティングに供して、上記と同様に3F4抗体を用いてバンドを検出してPrPを定量した(PrPSc量)。定量には、上記と同様にVersaDocイメージアナライザー(バイオラッド社)を用いた。
各変異PrPでPrPCの発現量が異なることから、総PrP量で補正した相対的異常化能を求めた。具体的には、測定後、野生型PrPを用いた場合の総PrP量(TWT)に対するPrPSc量(ScWT)の割合を1.0として、各変異PrPの相対的異常化効率を算出した。即ち、変異体M1の相対的異常化効率F(M1)は、以下の式(1)で計算される。
F(M1) = (ScM1/ TM1) / (ScWT / TWT) (1)
ただし、ScM1は変異体M1のPrPSc量を、TM1は変異体M1の総PrP量をそれぞれ示す。
式(1)はまた、以下の式(2)と同値、すなわち変換可能である。
F(M1) = (ScM1/ ScWT) / (TM1 / TWT) (2)
この場合、変異体M1の相対的異常化効率F(M1)とは、野生型PrPのPrPSc量に対する変異体M1のPrPSc量であり、それをPrPC発現量で補正するため、野生型PrPの総PrP量に対する変異体M1の総PrP量の割合を1.0として算出したと表現できる。なお、当該異常化能の測定方法は、Ikeda S. et al., 2008, Biochem Biophys Res Commun. 369:1195-1198にも詳細に示されている。
その結果を図2〜図5に示す。各図Aは、プロテイナーゼK(PK)処理したサンプルの3F4抗体によるウェスタンブロットの結果で、異常化したPrP(PrPSc)の量を示す。各図Bは、PK処理せずにPNGase F処理したサンプルの3F4抗体によるウェスタンブロットの結果で、発現したPrPの量(総PrP量)を示す。各図Cは、3F4エピトープを導入したマウスPrP(MoPrP(3F4))の異常化能を1.0とした場合の、各変異PrPの異常化能の割合(相対的異常化効率)を示す。縦軸の値が大きいほど、PrPの異常化効率が高いことを示す。
複数のアミノ酸をリジンに置換した場合、コドン188、192、196及び200の4箇所のアミノ酸残基をリジンに一括置換した変異PrPと、コドン188、190、192、194、196、198及び200の7箇所のアミノ酸残基をリジンに一括置換した変異PrPの異常化能が、MoPrP(3F4)の異常化能の50%以上を示した。いずれも、MoPrP(3F4)の異常化能の3倍を超えており、非常に高い異常化効率であることがわかった(図2C)。なお、コドン188〜200のアミノ酸残基をリジンに置換した変異PrPは、タンパク質の発現量自体が非常に少なかった。
BE11に置換した場合、3種の変異PrP、即ち、187-BE11-193、188-BE11-194及び191-BE11-197の異常化能が、MoPrP(3F4)の異常化能の50%以上を示した。これらのうち、187-BE11-193のみが、MoPrP(3F4)を超える異常化能を示した(図3C)。なお、その他の3種の変異PrP、即ち、189-BE11-195、190-BE11-196及び194-BE11-200も異常化能を有していた。
FLAGエピトープに置換した場合、1種の変異PrP、即ち、187-FLAG-194の異常化能が、MoPrP(3F4)の異常化能の50%以上を示した。なお、当該変異PrP(187-FLAG-194)の異常化能は、MoPrP(3F4)の100%を超えていた(図4C)。その他の2種の変異PrP、即ち、188-BE11-195及び189-BE11-196も異常化能を有していた。
c-mycエピトープに置換した場合、4種の変異PrP、即ち、186-cmyc-195、188-cmyc-197、191-cmyc-200及び193-cmyc-202の異常化能が、MoPrP(3F4)の異常化能の50%以上を示した。これらのうち、188-cmyc-197及び193-cmyc-202については、MoPrP(3F4)の異常化能を超えていた(図5C)。
[参考例1]糖鎖付加シグナル配列の置換導入がされたマウス変異プリオン蛋白のScN2a細胞における異常化能
マウスPrPにおいて、コドン186〜204のアミノ酸領域をN末端から走査するように、糖鎖付加シグナル配列の3アミノ酸残基(NXT、Xは任意のアミノ酸)により一括置換した変異PrPのcDNAを設計した(図1A)。実施例1と同様にして、糖鎖付加シグナルの3アミノ酸残基に置換した変異PrPにおける異常化効率を調べた。結果を図2に示す。図2Aのレーン1-11は、プロテイナーゼK(PK)処理したサンプルの3F4抗体によるウェスタンブロットの結果で、異常化した変異PrPの量を示す。図2Bのレーン1-11は、PK処理せずにPNGase F処理したサンプルの3F4抗体によるウェスタンブロットの結果で、発現した変異PrPの量を示す。図2Cは、3F4エピトープを導入したマウスPrP(MoPrP(3F4))の異常化能を1.0とした場合の、各変異PrPの相対的異常化効率を示す。縦軸の値が大きいほど、変異PrPの異常化効率が高いことを示す。
糖鎖付加シグナルの3アミノ酸残基に置換した場合、189-NXT-191、190-NXT-192、191-NXT-193、192-NXT-194、193-NXT-195及び198-NXT-200の各変異PrPにおける異常化能が、MoPrP(3F4)の異常化能の50%以上を示した。そのうち、189-NXT-191、190-NXT-192及び198-NXT-200の異常化能は、MoPrP(3F4)の異常化能を超えており、異常化効率が極めて高いことが示された(図2C)。
[実施例2]エピトープの付加導入がされたマウス変異プリオン蛋白のScN2a細胞における異常化能
マウスPrPにおいて、コドン186〜204のアミノ酸領域をN末端から走査するように、ヒトパルボウイルスB19のVP1タンパク質由来エピトープ(BE11)(SQPYHHW(配列番号:12))、又は4個の連続するアミノ酸残基(GKLG(配列番号:17))を付加した変異PrPのcDNAを設計した(図6A、B)。そして、実施例1と同様の方法で、各PrPの異常化能を測定した。
BE11を付加した場合、1種類、即ち、197+BE11+198の異常化能が、MoPrP(3F4)の異常化能の50%以上(100%を超える)を示した(図7C)。他には、2種類、即ち、194+BE11+195及び195+BE11+196が若干の異常化能を有していた(図7A)。
4アミノ酸(GKLG)を付加した場合、12種類中8種類、即ち、186+GKLG+187、187+GKLG+188、188+GKLG+189、189+GKLG+190、190+GKLG+191、193+GKLG+194、194+GKLG+195及び196+GKLG+197の変異PrPが異常化能を有しており、そのうち、186+GKLG+187、187+GKLG+188、189+GKLG+190、190+GKLG+191、193+GKLG+194、194+GKLG+195及び196+GKLG+197の異常化能が、MoPrP(3F4)の異常化能の50%以上を示した(図8C)。残りの4種も異常化能を有していた。
[実施例3]アミノ酸残基の欠失変異が行われたマウス変異プリオン蛋白のScN2a細胞における異常化能
マウスPrPのコドン187〜200の領域において、コドン187を起点としてC末端方向に1〜14個のアミノ酸残基を欠失させた変異プリオン蛋白、又はコドン200を起点としてN末端方向に1〜13個のアミノ酸残基を欠失させた変異PrPのcDNAを設計した(図9)。そして、実施例1と同様の方法で、各PrPの異常化能を測定した。
コドン187を起点とした欠失変異体では、8種、即ち、Δ187、Δ187-188、Δ187-189、Δ187-190、Δ187-191、Δ187-192、Δ187-193及びΔ187-195の異常化能が、MoPrP(3F4)の異常化能の50%以上を示した。またこれらの変異PrPの異常化能は全て、MoPrP(3F4)の異常化能を超えていた。特に、Δ187-188はMoPrP(3F4)の異常化能の7倍を超え、Δ187-190は3倍を超えており、非常に高い異常化能を有することが示された(図10C)。これらについては、欠失範囲が増大するにつれて、異常化能が低下する傾向が見られた。
コドン200を起点とした欠失変異体では、3種、即ち、Δ197-200、Δ196-200及びΔ193-200の異常化能が、MoPrP(3F4)の異常化能の50%以上を示した(図11C)。また、7種の変異PrP、即ち、Δ198-200、Δ195-200、Δ194-200、Δ192-200、Δ191-200、Δ190-200及びΔ189-200は異常化能を有していた(図11A)。しかし、Δ200及びΔ199-200は全く異常化能が見られず、欠失範囲の大きさと異常化能との間に相関関係は示されなかった。
以上の結果を図12にまとめた。マウスPrPの場合、コドン186〜202の領域は、複数個のアミノ酸残基を一括置換しても異常化能にはほとんど影響がないこと、言い換えれば、アミノ酸残基の可変性が高い領域であることが明らかとなった。
PrPCにおいて当該アミノ酸保存領域は、第2αヘリックス構造の後半部分、及び第2と第3αヘリックス間のループに相当する。PrPScの構造は明らかではないが、当該領域が異常化後に特定の三次構造に変換される可能性が低いことが示唆された。
[実施例4]エピトープの置換導入がされたハムスター変異プリオン蛋白のPMCA法による異常化能
ハムスターPrPにおいて、コドン187〜201のアミノ酸領域をN末端から走査するように、ヒトパルボウイルスB19のVP1タンパク質由来エピトープの7アミノ酸配列(SQPYHHW(配列番号:12))に一括置換した変異PrPのcDNAを設計した(図13A)。野生型ハムスターPrPのcDNAは、ゴールデンハムスター脳のcDNAライブラリーからクローニングした。得られたcDNAを鋳型とし、実施例1に準じて、変異型ハムスターPrPのcDNAを作製した。作製したcDNAをpIRESneo3ベクター(インビトロジェン社)に挿入し、発現ベクターとした。
293F細胞はインビトロジェン社から購入し、動物細胞用CO2振盪培養機CO-BR-40LF(タイテック社)を用い、250mlフラスコ(コーニング社)に入れたFreeStyle293培地中で、37℃、8%CO2存在下、125rpmで廻旋培養した。293Fectin(インビトロジェン社)を用い、同製品の推奨方法に従って、当該発現ベクターを293F細胞に形質導入した。1日間培養した後、培養物を100gで10分間遠心分離し、細胞を回収した。カルシウムとマグネシウムを含有するダルベッコー変法のリン酸緩衝液(シグマアルドリッチ社)10mlで1回洗浄し、107個の細胞あたり375μlのPMCA緩衝液(4mM EDTA、1% NP-40、及び1×プロテアーゼインヒビターカクテルを含有するリン酸緩衝液)で溶解した。細胞溶解液を超音波破砕装置(Branson社)で氷冷しながら10秒間ずつ数回超音波処理した後、1,500×gで30秒間遠心分離した。上清を採取し、分注後、使用直前まで-80℃で保存した。これを、ハムスターPrP発現細胞溶解液(基質)とした。
東北大学堂浦克美教授よりハムスター263k株の脳ホモジネートの分与を受け、これをハムスターに接種し、スクレイピー発症後末期に達した段階で屠殺し、感染脳を採取した。得られた263k感染ハムスター脳(半脳)をテフロン(登録商標)ガラスホモジナイザーに移し、9倍量(W/V)のPMCA緩衝液中でホモジナイズした。ホモジナイズしたサンプルを4℃、1,500×gで30秒間遠心分離をした後、上清を採取し、分注して使用直前まで-80℃で保存した。これを263k感染脳10%ホモジネートとした。
263k感染脳10%ホモジネートと、ハムスターPrP発現細胞溶解液(基質)とを1:5000の割合で混合した。この混合液100μlを0.1mlチューブに移し、交差式超音波自動反応装置(エレコン社)の水槽に浮かべ、5秒間発振と1秒間休止を5回繰り返す超音波処理と、37℃での60分間攪拌処理とからなる操作を、72サイクル(回)繰り返した。PMCA反応の概念図を図14に示した。
反応終了後、30μlの反応液と30μlの2×プロテイナーゼK溶液(200μg/mlプロテイナーゼK、0.2M HEPES(pH8.0)、150mM NaCl、1% NP-40)とを混合し、37℃で60分間インキュベートした。15μlの5×サンプル緩衝液(25%グリセロール、0.3M Tris-HCl(pH6.8)、15%ドデシル硫酸ナトリウム、0.025%ブロモフェノールブルー)を添加し、100℃で10分間加熱し、ウェスタンブロッティングに供した。
その結果、2種の変異PrP、即ち、189-BE11-195及び190-BE11-196において、PrPScが効率よく増幅した(図15)。これは、実施例1のマウスPrPの結果(図3C)と一致していた。他の2種、即ち、188-BE11-194及び192-BE11-198についてはやや増幅が見られた。189-BE11-195は、抗BE11抗体でPrPScを検出できた。このことは、異常化能の高い新規のタグ付PrPを創出できたことを意味している。
[参考例2]システインの置換導入がされたハムスター変異プリオン蛋白のPMCA法による異常化能
ハムスターPrPにおいて、コドン187〜204のアミノ酸領域をN末端から走査するように、アミノ酸残基をシステインで置換した変異PrPのcDNAを設計した(図13B)。そして、実施例4に準じてPMCA法により異常化能を測定した。
その結果、3種の変異PrP、即ち、V189C、T191C及びT193CにおけるPrPScが効率よく増幅していた(図16)。また、T192Cについてはやや増幅していた。システイン残基のチオール基は標識試薬の標的となるため、これらは部位特異的な標識が可能な変異PrPを創出したことを意味する。
[実施例5]リジンの置換導入がされたハムスター変異プリオン蛋白のPMCA法による異常化能
ハムスターPrPにおいて、コドン189、193、197及び201の4箇所のアミノ酸残基をリジンに置換した変異PrP(K3K)のcDNAを設計した(図13C)。そして、実施例4に準じてPMCA法により異常化能を測定した。
変異PrP(K3K)におけるPrPScは効率よく増幅し(図17)、実施例1のマウスPrPの結果(図2C)と同様であることが示された。
[実施例6]蛍光色素に対する結合配列が導入されたマウス変異プリオン蛋白のScN2a細胞における異常化能
蛍光色素に対して結合活性を有するペプチド配列として、IQSPHFF(配列番号:18)で表される7個の連続するアミノ酸残基からなるIQタグが報告されている(Kimberly AK. et al., 2007. Issue 7, e665)。マウスPrPにおいて、コドン190〜193の4アミノ酸残基の位置にIQタグの7アミノ酸残基を導入した変異PrPのcDNAを設計した(図18)。なお、当該変異導入は、アミノ酸残基の置換と付加とを組み合せたものに相当する。そして、実施例1と同様の方法で、各変異PrPの異常化能を測定した。
IQタグを導入した190+IQ+193は異常化能を有していた(図19)。これは、蛍光色素結合活性を付与されたPrPが異常化したことを意味している。
[実施例7]長鎖核酸を導入するにあたり有用な制限分解部位を導入されたマウス変異プリオン蛋白のScN2a細胞における異常化能
マウスPrPにおいて、2個の異なる核酸制限分解部位を導入した。コドン190〜193の4アミノ酸残基の位置に、N末端側から、核酸制限分解酵素MluIの認識部位、スレオニン、スレオニン、及び核酸制限分解酵素XbaIの認識部位の置換、挿入を行った(図20)。なお、MluI、XbaIの認識部位のヌクレオチド配列は、それぞれ、ACGCGT、TCTAGAである。結果として、マウスPrPにおいて、コドン190〜193のアミノ酸配列は、TRTTSRの6アミノ酸残基に置換された。そして、実施例1と同様の方法で、変異PrPの異常化能を測定した。
2個の異なる核酸制限分解部位を導入した190+MluI+XbaI+193は異常化能を有していた(図21)。これは、制限分解部位を核酸レベルで付与されたPrPが異常化したことを意味している。
[実施例8]エピトープの置換導入がされたヒト変異プリオン蛋白のPMCA法による異常化能(1)
ヒトPrPにおいて、コドン188〜201のアミノ酸領域をN末端から走査するように、3F4抗体のエピトープに係る9アミノ酸配列(KPKTNMKHM(配列番号:158))に一括置換した変異PrPのcDNAを設計した(図22A)。野生型ヒトPrPのcDNAは、ヒト脳のcDNAライブラリーからクローニングした。得られたcDNAを鋳型とし、実施例1に準じて、変異型ヒトPrPのcDNAを作製した。作製したcDNAをpIRESneo3ベクター(インビトロジェン社)に挿入し、発現ベクターとした。
293F細胞の培養期間を2日間として、実施例4に準じてヒトPrP発現細胞溶解液(基質)を調製した。
sCJD(H3)脳をテフロン(登録商標)ガラスホモジナイザーに移し、9倍量(W/V)のプロテアーゼインヒビターカクテルを含有するリン酸緩衝液中でホモジナイズした。ホモジナイズしたサンプルを分注して使用直前まで-80℃で保存した。これをsCJD(H3)脳10%ホモジネート(10-1希釈)とした。なお、上記sCJD(H3)脳は、研究目的での使用に関するインフォームドコンセントを得た上で解剖し、入手した。
sCJD(H3)脳10%ホモジネートと、ヒトPrP発現細胞溶解液とを1:9の割合で混合した。この混合液100μlを0.1mlチューブに移し、交差式超音波自動反応装置(エレコン社)の水槽に浮かべ、2rpmで回転させながら、5秒間発振と1秒間休止を5回繰り返す超音波処理と、37℃での60分間放置とからなる操作を、48サイクル(回)繰り返した。
反応終了後、実施例4に準じてプロテイナーゼKで処理し、ウェスタンブロッティングに供した。得られたバンドについてVersaDocイメージアナライザー(バイオラッド社)を用いて定量を行い、PMCAを行う前後でシグナル強度を比較した。
その結果、野生型を用いた場合、PMCAの前後でシグナル強度が約2倍になった。それに対して、作製した6種の変異体のうち189-D3F4-197ではPMCA前後でシグナル強度が3倍以上となった(図23)。この結果は、同一分子内に2か所の3F4エピトープを有する、異常化効率の高い新規の変異PrPを創出できたことを意味している。
[実施例9]リジン又はロイシンの置換導入がされたヒト変異プリオン蛋白のPMCA法による異常化能(1)
ヒトPrPにおいて、コドン187〜203のアミノ酸領域において、ロイシン又は複数のリジンによる置換導入をした変異PrPのcDNAを設計した(図22B)。実施例8に準じて、発現ベクターの作製、ヒトPrP発現細胞溶解液の調製、PMCA、及びプロテイナーゼK処理に引き続くウェスタンブロッティングを実施した。また、同様に発現量を定量し、PMCAを行う前後でのシグナル強度を比較した。
その結果、野生型を用いた場合は、PrPScの増幅はほとんど見られなかった。それに対して作製した8種の変異体のうち、189K3K201と189K3KL201が3倍以上の増幅を示した(図24)。この結果は、PrPアミノ酸可変領域において複数のアミノ酸をリジンに一括置換することにより、sCJD(H3)を種とするPMCAでPrPScを増幅させ得る変異PrPを創出できたことを意味している。なお、本実施例の変異PrPについて、コドン198のフェニルアラニンをロイシンに置換しても、PMCAでのPrPScの増幅には影響を及ぼさなかった。
[実施例10]エピトープの置換導入がされたヒト変異プリオン蛋白のPMCA法による異常化能(2)
実施例8で作製した変異PrPに関して、実施例8に準じてPMCAを実施して異常化効率を野生型と比較した。但し、材料としてはvCJD感染脳を用い、vCJD感染脳10%ホモジネートとヒトPrP発現細胞溶解液との混合割合は1:99としてPMCAに供した。ウェスタンブロッティングにより得られたバンドから同様にシグナル強度を定量し、PMCA後の野生型の定量値を1.0として各種変異PrPのシグナル強度比率を求めた。なお、上記vCJD感染脳は、英国エジンバラ大学CJDサーベイランスユニットのアイアンサイド教授を通じ、同組織のブレインバンクより入手した。ブレインバンクの脳は、研究目的での使用に関するインフォームドコンセントを得た上で、解剖することにより得られたものである。
その結果、作製した6種の変異PrPのうち、189-D3F4-197、190-D3F4-198、192-D3F4-200、及び193-D3F4-201の4種類の変異PrPのシグナル強度が野生型のそれと同等かそれ以上であった。特に、189-D3F4-197は野生型に比べて約8倍であった(図25)。この結果は、同一分子内に2か所の3F4エピトープを有する、異常化効率の高い新規の変異PrPを創出できたことを意味している。
[実施例11]リジン又はロイシンの置換導入がされたヒト変異プリオン蛋白のPMCA法による異常化能(2)
実施例9で作製した変異PrPに関して、vCJD感染脳を用い、実施例10に準じてPMCAを実施して異常化効率を野生型と比較した。
その結果、作製した8種の変異PrPのうち、189K3KL201、190K(3B)197、および190K(3B)197Lのシグナル強度が野生型に比べて3倍以上であった。特に、190K(3B)197のシグナル強度は約18倍であった(図26)。この結果は、複数のリジンへの置換により、異常化効率の高い新規の変異PrPを創出できたことを意味している。なお、コドン198をロイシンに置換した変異PrPについては、189K3K201の変異に追加した場合(189K3KL201)はシグナル強度比率が増大したが、190K(3B)197の変異に追加した場合(190K(3B)197L)は追加しなかった場合に比べて約1/6に低下した。
[実施例12]蛍光標識したPrPCの作製
実施例5で用いたハムスター変異PrP(K3K)を、実施例4に準じて293F細胞で発現させた。細胞を遠心後、上清を除去し、4倍量(W/V)のホモジナイズ緩衝液(リン酸緩衝液、1mM EDTA、プロテアーゼインヒビターカクテル)で懸濁し、ホモジナイズした。ホモジナイズを10,000×g、4℃で30分間遠心した。沈殿物を4倍量(W/V)の抽出緩衝液(8% CHAPS、1%デオキシコール酸ナトリウムを含有するホモジナイズ緩衝液)に懸濁し、Sonifier 250(Branson社)を用いて超音波処理した。懸濁液を100,000×g、4℃で30分間超遠心し、上清を採取した。3F4抗体を固定化した抗体カラムを平衡化緩衝液(4% CHAPSを含有するホモジナイズ緩衝液)で平衡化し、超遠心後の上清をアプライした。カラムを30mlの洗浄液1(20mM Tris-HCl(pH 8.0)、0.5M NaCl、4% CHAPS、プロテアーゼインヒビターカクテル、1mM EDTA)、さらに20mlの洗浄液2(洗浄液1からEDTAを除いたもの)で洗浄後、溶出緩衝液(0.1M グリシン(pH 2.7)、4% CHAPS)で溶出し、直ちに1M Tris-HCl(pH 9.0)で中和した。溶出液を脱塩カラムを用いてIMAC平衡化緩衝液(リン酸緩衝液、150mM NaCl、4% CHAPS、プロテアーゼインヒビターカクテル(EDTA不含))に交換した。
緩衝液交換した抗体カラム溶出液を銅キレートカラムにアプライした。IMAC洗浄液1(10mMイミダゾールを含有するIMAC平衡化緩衝液)、さらにIMAC洗浄液2(CHAPS濃度を1%に変更したIMAC緩衝液1)で洗浄後、IMAC溶出液(リン酸緩衝液、150mM NaCl、1% CHAPS、プロテアーゼインヒビターカクテル(EDTA不含)、30mM イミダゾール)で溶出した。目的タンパク質を含む画分を限外ろ過膜(10kDa)で遠心濃縮し、精製PrPを得た。精製したタンパク質をSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動後、SYPRO Ruby染色で調べたところ夾雑タンパクは認められなかった(図27)。また、精製品のN末端分析を実施したところ、プロセシング後のハムスターPrPのアミノ酸配列と一致した。
精製した変異型ハムスターPrP(K3K)を製造元(インビトロジェン社)推奨のプロトコールに従って、蛍光試薬Alexa Fluoro488でカップリング反応させた。ヒドロキシアミンを添加し、ゲルろ過カラムで標識されたタンパク質と未反応の蛍光試薬とを分離した(図28)。標識タンパク質の画分を限外ろ過膜で遠心濃縮し、使用直前まで-80℃で保管した。
標識タンパク質は、ヒトPrP発現293F細胞溶解液に添加し、263K感染脳ホモジネートと混合し、PMCAに供した。このような標識タンパク質(標識PrPC)を基質として用いることにより、PMCA産物(PrPSc)のより高感度な検出、及びFRET等を利用したより特異的なPrPSc検出が可能となると考えられる。
本発明の方法は変異プリオン蛋白の製造に有用であり、これによって、プリオン病の診断又は検査に有効なシステム、及び試料中の異常型プリオン蛋白を特異的に除去するツールを提供することが可能となる。

Claims (17)

  1. H-T-V-T-T-T-T-K-G-E-N-F-T-E-T-D-Xaa(Xaaは、V、I又はMである)(配列番号:1)で表されるアミノ酸配列からなる保存領域を含むタンパク質の該保存領域において、少なくとも3個のアミノ酸残基に、置換、付加、欠失又はそれらの組み合わせによる変異を導入する工程を含む、変異タンパク質の製造方法。
  2. 前記タンパク質がプリオン蛋白である、請求項1に記載の製造方法。
  3. 少なくとも3個の連続するアミノ酸残基に変異を導入する、請求項1又は2に記載の製造方法。
  4. 化学物質による修飾可能部位を有するようにアミノ酸残基に変異を導入する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
  5. 化学物質による修飾可能部位がエピトープ及び/又は化学標識部位である、請求項4に記載の製造方法。
  6. エピトープが、ヒトパルボウイルスB19のVP1タンパク質由来エピトープ、FLAGエピトープ、c-mycエピトープ、3F4エピトープ、D3F4タグ及びインフルエンザウイルスのHAタンパク質由来エピトープからなる群より選択される一以上のエピトープである、請求項5に記載の製造方法。
  7. 化学標識部位が、システイン、リジン及びチロシンからなる群より選択される一以上のアミノ酸を有する、請求項5に記載の製造方法。
  8. 変異が、2個以上の中性アミノ酸残基における塩基性アミノ酸及び/又は酸性アミノ酸による置換を含む、請求項1〜7のいずれか1項に記載の製造方法。
  9. 変異が、2個以上の中性アミノ酸残基における塩基性アミノ酸による置換を含む、請求項8に記載の製造方法。
  10. 変異が、さらに1個以上の非分岐鎖アミノ酸残基における分岐鎖アミノ酸による置換を含む、請求項8又は9に記載の製造方法。
  11. 塩基性アミノ酸がリジンである、請求項8〜10のいずれか1項に記載の製造方法。
  12. 分岐鎖アミノ酸がロイシンである、請求項10又は11に記載の製造方法。
  13. さらに、変異が導入された変異タンパク質と、変異が導入される前又は野生型のタンパク質の活性とをそれぞれ測定し、該活性を比較する工程、並びに変異導入前又は野生型のタンパク質の活性と比較して有意に活性が変化した変異タンパク質を選択する工程を含む、請求項1〜12のいずれか1項に記載の製造方法。
  14. 前記活性が構造変換活性であり、該変換活性が変異導入前又は野生型のタンパク質の構造変換活性と比較して50%以上の構造変換活性を有する変異タンパク質を選択する、請求項13に記載の製造方法。
  15. 測定工程がウェスタンブロット法及び/又はProtein Misfolding Cyclic Amplification(PMCA)法により行われる、請求項13又は14に記載の製造方法。
  16. 請求項1〜15のいずれか1項に記載の方法により製造された変異タンパク質と、試料中の異常型タンパク質とを接触させる工程を含む、該異常型タンパク質の検出方法。
  17. 請求項1〜15のいずれか1項に記載の方法により製造された変異タンパク質と、試料中の異常型タンパク質とを接触させる工程、及び
    接触工程で得られた変異タンパク質と異常型タンパク質との複合体を該試料から除去する工程を含む、該異常型タンパク質の除去方法。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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CN106928109A (zh) * 2015-12-31 2017-07-07 罗门哈斯电子材料有限责任公司 光酸产生剂

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