JP2011030504A - 固定化担体を用いるエタノールの生産方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】廃糖蜜のような処理が困難とされている発酵基質を用いた場合であっても効率よくエタノールを生産し得るエタノール生産技術を提供する。また、エタノール発酵に蒸留廃液の排出量を極力抑制するバイオエタノール生産システムである固体発酵法を取り入れ、固定化担体に廃糖蜜を高濃度に吸着固定した固体状基質におけるエタノール固体発酵技術を提供する。
【解決手段】固定化担体としてデンプンを主要構成糖とする食品を用い、該固定化担体に第1の発酵基質を吸着させて固体状基質を調製する固体状基質調製工程と、固体状基質に酵母を吸着させてエタノール発酵を行うエタノール発酵工程と、発酵終了後の固体状基質からエタノールを抽出するエタノール抽出工程と、エタノール抽出工程の後に得られた担体に第2の発酵基質及び酵母を吸着させてエタノール発酵を行う再発酵工程と、を有することを特徴とする、エタノールの生産方法。
【選択図】図1

Description

本発明は、固定化担体を用いるエタノールの生産方法に関し、具体的には、吸収性を有する食品を固定化担体として用い、これに廃糖蜜など液体状の発酵基質を吸着させた状態で発酵させる、エタノールの生産方法に関する。
近年、化石燃料に代わる新たなエネルギーとしてバイオエタノールが注目を浴びている。バイオエタノールは一般にサトウキビやコーンといった植物性のバイオマスを発酵・蒸留し得られるエタノールを指す。バイオエタノールは原料であるサトウキビやコーンが生産されている限り、半永久的に生産可能であり、化石燃料のように枯渇の心配がない、再生可能エネルギーである。現在、バイオエタノールは主に自動車用の燃料として、世界中の国で広く利用されている。
2007年の世界のバイオエタノール総生産量は約5,000万KLに達し、そのうちアメリカ、ブラジルの2 ヶ国の生産量が合計約4,300万KLを占め両国が世界生産の7割を占めている。我が国での生産量はわずか約30KLであり、他国に大きく遅れを取っているのが現状である。世界ではバイオエタノールの大半はガソリンとの直接混合で利用されており、我が国でもバイオエタノールとガソリンの混合は3%(E3)まで許容され、各地で実証事業が行われている。
以上のような背景を受け、我が国では国家プロジェクトを軸としてバイオエタノールの研究開発が各地で行われており、国産バイオ燃料の生産拡大が目標として挙げられている。具体的な取り組みとして、農林水産省は、2011年度までにさとうきび糖みつ(廃糖蜜)や規格外小麦等の安価な原料を用いたバイオ燃料の利用モデルの整備と技術実証を行い、単年度5万KL(原油換算3万KL)、2030年度までに稲わらや木材等のセルロース系原料や資源作物全体からバイオエタノールを高効率に製造できる技術等を開発し600万KLの国産バイオ燃料の生産を目指すことにしている。
2011年度までに5万KLのバイオエタノールを製造することが直近の目標であり、その際の原料の一つとして廃糖蜜が候補に挙げられているが、廃糖蜜を用いたバイオエタノール生産に関しての解決しなければならない課題は山積みである。
廃糖蜜とはサトウキビやてん菜から蔗糖を生産する際に副成する、粘調質で黒褐色の液体である。蔗糖製造の際の副産物ではあるが、液体中にはスクロースを主とする40%〜60%の糖分をはじめ、アミノ酸やビタミン類、ミネラルなどの栄養素を多く含むことから、工業用アルコールやパン酵母の生産、また発酵法によるアミノ酸製造用の原料の他、飼料の製造などの安価な原料として利用されてきた。
廃糖蜜をアルコールの発酵原料として使用する場合は、一般に廃糖蜜を希釈し、水分含量を70%以上で行う液体発酵法が行われている。
例えば、特開2009−95282号公報には、糖蜜又は廃糖蜜を水に希釈して糖蜜希釈液を調製する工程と、糖蜜希釈液に酸を加えてpH1〜4に調整する工程と、pH調整した糖蜜希釈液をカラムに充填された疎水性クロマト樹脂と接触させ、希釈液中の着色物質を樹脂に吸着させた後のカラムを素通りして出てきた糖を含む画分をエタノール発酵用原料とする工程とを含む、エタノール発酵用原料の生成方法が開示されている(特許文献1)。
特開2009−95282号公報
各製糖工場から発生する廃糖蜜は、以下に示すような利用上の問題点があるため、我が国の廃糖蜜の生産量は平成2年を境に減少した。1)保管場所等の問題から各製糖工場とも製糖期間中は2週間に一度の割合で、廃糖蜜を小出しに排出せざるを得ない状況にある。2)廃糖蜜が公害発生の危険がある物質であるため、順調な操業のためには、必然的にその順調な搬出が必要。3)法規制やコスト的に容易に廃棄できない。
廃棄が容易ではない原因として、糖蜜色素の存在が挙げられる。廃糖蜜が発酵工業に利用された後には廃糖蜜由来の色素物質であるメラノイジン、カラメル、ポリフェノール酸化着色物質が濃縮した糖蜜廃液が排出される。これらの色素は蔗糖の製造工程の特性である濃縮や加熱処理により生成する。発酵原料として廃糖蜜を用いた場合、糖蜜色素は発酵時にほとんど分解されないため、生産物を分離した後の廃液は黒褐色を呈したままである。また、この糖蜜色素は既存の生物学的処理方法では脱色が困難である。廃糖蜜からのエタノール生産においても蒸留廃液が排出されるが、上記の理由により処分が困難である。
以上の理由により、従来は廃糖蜜の利用後に排出される廃液は海洋投棄による処分に依存してきたが、地球自然環境保護の観点に基づき1975年に発効され、1993年に改正された「廃棄物その他の物の投棄による海洋汚染の防止に関する条約(ロンドン条約)」により、廃糖蜜廃液の海洋投棄処分が禁止された。日本でも2003年にこの条約に批准したため、その処理・処分は困難を極めている。
現在蒸留廃液は廃液処理施設において処理されているが、ブラジルで行われているケーンジュースからのエタノール生産においては、黒褐色で高濃度である蒸留廃液が大量に排出されるため処理・処分が大きな問題となっている。
我が国においては現時点では廃糖蜜からのエタノール生産量が少ないため大きな問題になっていないが、2011年度までに国産バイオ燃料50万 KLを達成するためには、廃糖蜜からの大量なバイオエタノール生産が必要不可欠であるため、廃液の排出を最小限に抑えることが可能な新たなバイオエタノール生産システムの開発が望まれていた。
そこで本発明は、廃糖蜜のような処理が困難とされている発酵基質を用いた場合であっても効率よくエタノールを生産し得るエタノール生産技術を提供することを目的とする。また、本発明は、エタノール発酵に蒸留廃液の排出量を極力抑制するバイオエタノール生産システムである固体発酵法を取り入れ、固定化担体に廃糖蜜を高濃度に吸着固定した固体状基質におけるエタノール固体発酵技術を提供することを目的とする。
本発明者らは、固定化担体を用いて廃糖蜜を吸着させ、これに酵母を添加してエタノール発酵を実施したところ、廃液をほとんど生じることなく、良好にエタノール生産を行うことが可能であるとの知見を得た。
本発明はかかる知見に基づくものであり、(1)固定化担体としてデンプンを主要構成糖とする食品を用い、該固定化担体に第1の発酵基質を吸着させて固体状基質を調製する固体状基質調製工程と、固体状基質に酵母を吸着させてエタノール発酵を行うエタノール発酵工程と、発酵終了後の固体状基質からエタノールを抽出するエタノール抽出工程と、エタノール抽出工程の後に得られた担体に第2の発酵基質及び酵母を吸着させてエタノール発酵を行う再発酵工程と、を有することを特徴とする、エタノールの生産方法を提供するものである。
上記発明の好ましい形態は以下の通りである。(2)さらに、前記エタノール抽出工程の後に得られた担体に酵素剤を添加して前記担体を糖化する糖化工程と、糖化された固定化担体に酵母を添加して、水分含量が30〜60重量%の条件下で固体発酵を行う固体発酵工程と、を有する前記(1)に記載のエタノールの生産方法;(3)前記食品が、パン、スポンジケーキ、生パン生地からなる群の中から選択された少なくとも1種以上である、前記(1)又は前記(2)に記載のエタノールの生産方法;(4)前記第1及び/又は第2の発酵基質が、廃糖蜜、シロップ、ジュースからなる群の中から選択された少なくとも1種以上である、前記(1)〜(3)のいずれか1に記載のエタノールの生産方法;(5)前記第1及び/又は第2の発酵基質の糖濃度が24重量%以下に調製されたものである、前記(1)〜(4)のいずれか1に記載のエタノールの生産方法;(6)さらに、前記固体発酵工程の後、固体発酵もろみからエタノールを抽出するエタノール抽出工程を有する、前記(2)に記載のエタノールの生産方法;(7)さらに、前記エタノール抽出工程の後に得られた蒸留残渣から家畜の飼料又は植物の肥料を得る工程を有する、前記(6)に記載のエタノールの生産方法。
本発明のエタノールの生産方法によれば、処理が困難とされている高糖濃度の発酵基質を用いた場合であっても、固定化担体に吸着させて発酵することにより、高収率でエタノールを生産することができる。また、エタノールを抽出した後の固定化担体に、再度発酵基質と酵母を吸着固定させエタノール発酵に供することができるため、廃棄物の発生を抑制することが可能になる。さらに、固定化担体は糖化処理を行えばそれ自身発酵原料の基質にもなるため、廃棄物の発生をより効果的に抑制することができるとともに、より効率的にエタノールを生産することができる。
また、本発明のエタノールの生産方法によれば、エタノール発酵に固体発酵法を取り入れることができ、液体発酵法を採用した場合と比較して、廃液の排出量を大幅に抑制することができる。なお、固体発酵を行った後の蒸留残渣は、そのまま家畜の飼料や植物の肥料としての利用が可能であるため、廃棄物の量を抑制することができる。
本発明の実施形態にかかるエタノールの生産方法を説明するための図である。 本実施形態にかかる固体発酵工程(S5)を説明するための図である。 エタノール生成量の経日的変化を示す図である。 カステラに異なる糖濃度の廃糖蜜を吸着固定した系におけるエタノール生成量の経日変化を示す図である。 異なる初発糖濃度におけるエタノール生成量の経日変化を示す図である。 廃棄パンを廃糖蜜の固定化担体として用いたエタノール発酵におけるエタノール生成量の経日変化を示す図である。 蒸留終了担体(パン)のエタノール発酵のエタノール生成量の経日変化を示す図である。
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。図1は、本発明の実施形態にかかるエタノールの生産方法を説明するための図である。図1に示すように、本実施形態のエタノールの生産方法は、固体状基質調製工程(S1)と、エタノール発酵工程(S2)と、エタノール抽出工程(S3)と、再発酵工程(S4)とを有している。
固体状基質調製工程(S1)は、固定化担体10に発酵基質12を吸着させて固体状基質20を調製する工程である。
固定化担体10としては、多孔質状のものでありデンプンを主要構成糖とする食品を用いる。固定化担体10としてデンプンを主要構成糖とする食品を用いる理由は、食品廃棄物として多量に排出されるため入手が容易であること、気泡を抱き込んだ網目構造を有しているものが多く、液体状の発酵基質をより多く吸着することが可能であること、デンプンは高分子であり、酵母の浸透圧に影響を与えない一方で、酵素で糖化すれば、それ自体発酵原料としての役割も果たすこと等の利点があるからである。
デンプンを主要構成糖とする食品としては、液体状の発酵基質の吸水量が高いものが好ましい。具体的には、下記の式により算出される吸水量が0.2ml/cm以上であることが好ましく、0.6ml/cm以上であることがより好ましく、2ml/cm以上であることがさらに好ましい。
本実施形態に好適な食品としては、例えば、パン、スポンジケーキ、生パン生地からなる群の中から選択された少なくとも1種以上が挙げられるが、これらには限定されない。
ここで、「パン」とは、小麦粉、ライ麦粉、ライ小麦粉などパン用の穀物の粉を、イースト、水、食塩を中心とした材料を使ってよく混ぜ、練って発酵させた生地(きじ)を焼いた食品をいい、本実施形態においてはいずれの種類のパンも使用し得るが、液体状の発酵基質をより多く吸収できるという観点からは食パンであることが好ましい。
また、「スポンジケーキ」とは、小麦粉・鶏卵・砂糖を主材料としてスポンジ状に焼き上げた洋菓子をいい、本実施形態においては、デンプンを主要構成糖としていればいずれの種類のスポンジケーキも使用し得る。なお、スクロースを主要構成糖としているカステラなどの多孔質食品は、発酵基質を吸着した時に浸透圧が高くなり、酵母の生育や発酵に悪影響を及ぼすことがあるため、本実施形態に好適な食品には含まれない。
また、「生パン生地」とは、パンを焼く前の状態、すなわち、小麦粉、ライ麦粉、ライ小麦粉などパン用の穀物の粉を、イースト、水、食塩を中心とした材料を使ってよく混ぜ、練って発酵させたものをいう。
なお、パン、スポンジケーキ、生パン生地はいずれも、工場等で廃棄されたものを使用することができる。
本実施形態においてデンプンを主要構成糖とする食品の添加量は後述する発酵基質12の添加量に応じて適宜設定することができるが、発酵基質12の全量を固定化担体10が吸収できる程度の量であることが一つの目安となる。
発酵基質12としては、発酵性糖を含む液体であればその種類に特に限定はないが、例えば、工場から排出される廃糖蜜、シロップ、ジュースからなる群の中から選択された少なくとも1種以上を使用することができる。
ここで、「廃糖蜜」とは、サトウキビやてん菜から蔗糖を生産する際に副成する、粘調質で黒褐色の液体をいう。蔗糖製造の際の副産物ではあるが、液体中にはスクロースを主とする40%〜60%の糖分をはじめ、アミノ酸やビタミン類、ミネラルなどの栄養素を多く含む。
また、「シロップ」とは、高濃度の甘味液を言い、砂糖を溶かし、アラビアガムなどを添加して作ったものをいう。香料などの添加物が含まれていてもよい。その他、果実の絞り汁に砂糖を加えたフルーツシロップ、ザクロの風味と鮮紅色が特色のグレナデンシロップ、砂糖液にアラビアガムを加えた無色・無香のシロップであるガムシロップ、サトウカエデの樹液を濃縮してつくったメープルシロップ、コーヒーを用いたコーヒーシロップなども使用することができる。
また、「ジュース」とは、果物や野菜の絞り汁、果汁、またはそれを薄めて砂糖などを加えた清涼飲料水をいう。
なお、発酵基質12は、糖濃度が24重量%を超えるもの(発酵基質12’)を使用する場合は、高濃度基質による発酵阻害を回避するため水14で希釈し、糖濃度を0.1重量%以上24重量%以下に調整する。糖濃度が24重量%以下であれば本実施形態の発酵基質として使用することができるが、エタノール発酵の効率を考慮した場合は、糖濃度は22重量%以下であることが好ましく、20重量%以下であることがより好ましく、19重量%以下であることがさらに好ましい。
水14は、イオン交換水、限外ろ過水、逆浸透水、蒸留水等の純水又は超純水を用いることが好ましい。特に、これらの水を、紫外線照射又は過酸化水素添加等により滅菌処理した水は、カビやバクテリアの発生が防止されるので好ましい。
酵母16としては、エタノール発酵性能を有する酵母であれば特に制限はなく、いずれの酵母も使用することができる。好ましい酵母としては、例えば、サッカロマイセス・セルビシエ(Saccharomyces cerevisiae)属の酵母が挙げられる。
固体状基質20は、固定化担体10に発酵基質12と酵母を吸収・吸着させて調製する。固体状基質20を調製するに際しては、特に添加する順序は問わないが、例えば、まず発酵基質12に供試酵母を添加し、スターラー等で撹拌した後、次に得られた混合液を固定化担体10に吸収させることで調製することができる。
エタノール発酵工程(S2)は、上述のようにして得られた固体状基質20をエタノール発酵させる工程である。発酵条件は、嫌気条件又は通性嫌気条件下、温度10〜45℃、水分含量30〜70重量%で行う。発酵は2〜15日で終了し、4〜12重量%のエタノールを生産する。これを全糖濃度あたりのエタノール収率で換算すると、30〜100%である。エタノール収率は、初発の糖濃度による影響を受け、初発の糖濃度が低いほど、エタノール収率が向上するという関係を有している。
エタノール抽出工程(S3)は、発酵終了後の発酵もろみ(固体状基質20)からエタノール22を抽出する工程である。
エタノール22の抽出は、発酵もろみ(固体状基質20)を蒸留装置等によって実施することができ、この工程により、エタノール濃度を約60重量%以上に濃縮することができる。更に、必要に応じて、得られたエタノール22をさらに蒸留する工程、すなわち精留工程を実施することもできる。精留工程は一般的な精留装置等を用いることができる。これにより、最終的にエタノール濃度が約90重量%以上に濃縮されたエタノールを得ることができる。
得られたエタノール(粗留エタノール又は精留エタノール)は工業用アルコールや醸造用アルコール等、種々の分野で利用することができる。
再発酵工程(S4)は、エタノール抽出工程(S3)の後に得られた担体(以下、「蒸留終了担体30」という)に第2の発酵基質32及び酵母16を吸着させて、固体状基質34を調製し、その後再びエタノール発酵(S2)及びエタノール抽出(S3)を行う工程である。
蒸留終了担体30にはエタノール発酵で担体に蓄積した残糖や、担体自身の持つ糖が多量に含まれている。また、発酵基質を吸収する能力も有している。そのため、これを固定化担体として再利用することができる。
発酵基質32は先述の固体状基質調製工程(S1)で使用した発酵基質12と同様の糖濃度及び組成の発酵基質を用いてもよいが、異なる糖濃度及び組成の発酵基質を用いてもよい。但し、この場合も糖濃度は24重量%以下であることが好ましい。酵母16は先述の固体状基質調製工程(S1)で使用した酵母16を使用することができる。発酵基質32及び酵母16を発酵終了担体30に吸収・吸着させて固体状基質34を調製する方法は、先述の固体状基質調製工程(S1)で固体状基質20を調製した方法と同様である。
得られた固体状基質34は、その後エタノール発酵工程(S2)及びエタノール抽出工程(S3)に付され、エタノール22が生産される。
なお、この再発酵工程(S4)は数回繰り返し行うことができるが、エタノール発酵及びエタノール抽出を繰り返すごとに、蒸留終了担体30における発酵基質32の吸収量が徐々に低下する。そこで、発酵基質32の吸水量が0.2g/cm未満になった時点を目安として、再発酵工程(S4)を終了することが好ましい。
本実施形態においては、さらに、固体発酵工程(S5)を有することができる。図2は、本実施形態にかかる固体発酵工程(S5)を説明するための図である。
固体発酵工程(S5)は、蒸留終了担体30に酵素40と水14を添加して蒸留終了担体30を糖化し(S5−1)、糖化された蒸留終了担体30に酵母16を添加して、水分含量が30〜60重量%、嫌気的又は通性嫌気的な条件下でエタノール発酵を行う(S5−2)工程である。
従来の液体発酵法では、還元糖を5〜10重量%程度含む水溶液に酵母を添加してエタノール発酵を行い、エタノール発酵の終了後、蒸留によりエタノールを回収する際、廃液と発酵残渣が生成される。これに対し、固体発酵法では、蒸留によりエタノールを回収した後は発酵残渣のみ生成されるため、廃液の発生がなく、廃液処理のための作業やコストが不要となる。また、液体発酵法と比較して水分含量が低いため、悪臭の発生が少なく、エタノールの回収も容易である。
蒸留終了担体30を糖化することにより、担体中に存在しているデンプンが酵素40により加水分解され、酵母16が資化可能なグルコースが0.1〜20重量%生成される(S5−1)。酵素40は、アミラーゼ系の酵素であれば特に制限なく用いることができるが、α−アミラーゼ及びグルコアミラーゼを含む酵素剤は糖化効率に優れているため好ましい。酵素40は市販の酵素剤を使用することができ、例えば、大和化成社製コクゲンG20(α−アミラーゼ1%、グルコアミラーゼ80%及びデキストリン19%)などを挙げることができる。
酵素40の添加量は酵素力値により任意に決定することができるが、糖化効率の観点からは、蒸留終了担体30の重量に対して0.1〜0.3重量%程度である。
水14は、イオン交換水、限外ろ過水、逆浸透水、蒸留水等の純水又は超純水を用いることが好ましい。特に、これらの水を、紫外線照射又は過酸化水素添加等により滅菌処理した水は、カビやバクテリアの発生が防止されるので好ましい。
水14の添加量は、蒸留終了担体30の重量に対して40〜60重量%であることが好ましい。水14の添加量を40〜60重量%とすることにより、低水分での発酵が可能であるため蒸留廃液の処理が不要となる。
なお、酵素40は、酵素剤の代わりに麹菌を添加してもよい。麹菌としては、例えば、Aspergillus sojae KBN606(醤油用)、Aspergillus sojae KBN615(醤油用)、Aspergillus oryzae KBN650(醤油用)、Aspergillus oryzae KBN930(味噌用)、Aspergillus oryzae KBN943(麦味噌用)、Aspergillus oryzae KBN1015(清酒用)、Aspergillus kawachii KBN2001(焼酎用)、Aspergillus kawachii P10-1(焼酎用)、Aspergillus awamori KBN2012(焼酎用)、Aspergillus saitoi KBN2024(泡盛用)等を挙げることができ、特にAspergillus kawachii KBN2001(焼酎用)、Aspergillus kawachii P10-1、A. oryzae KBN1015、A. oryzae KBN943を用いることが好ましい。なお、麹菌を用いて糖化を行う場合は、糖化工程(S5−1)において水14の添加は不要である。
固体発酵の温度は酵母16の至適温度により適宜設定することができるが、コスト面からみた場合、温度20〜25℃が経済的であるためかかる温度に設定することが好ましい。固体発酵は1〜5日で終了し、2〜15重量%のエタノールを生産する(S5−2)。
糖化(S5−1)と固体発酵(S5−2)は別々に行うこともできるが、いわゆる並行複発酵形式により、同時に行うことができる。かかる場合、蒸留終了担体30と、酵素40と、水14と、酵母16の添加は同時でよい。
なお、本実施形態のように蒸留終了担体30を発酵原料とする場合は、発酵開始時の水分含量が30重量%未満ではほとんどアルコールは生成されない。一方、水分含量が60重量%を超えると、アルコール回収後に廃液が発生するため好ましくない。
固体発酵工程(S5)の終了後、得られたエタノールを固体発酵もろみから抽出するエタノール抽出工程を実施する(S6)。エタノール抽出工程では、固体発酵もろみを蒸留装置等によって蒸留し、エタノール濃度を約60重量%以上に濃縮する。必要に応じて、得られたエタノール22をさらに精留することもできる。精留は一般的な精留装置等を用いることができる。これにより、最終的にエタノール濃度が約90重量%以上に濃縮されたエタノールを得ることができる。
得られたエタノール(粗留エタノール又は精留エタノール)は工業用アルコールや醸造用アルコール等、種々の分野で利用することができる。
エタノール抽出工程(S6)で副生された残渣50は、固定化担体10(デンプンを主要構成糖とする食品)や酵母16に由来する栄養素を豊富に含み、栄養学的に優れていることから、飼料化や肥料化を実施することにより、家畜の飼料や農作物の肥料として有効利用することができる。
残渣50を家畜の飼料として飼料化する場合は、例えば、残渣50をそのまま又は乾燥処理を実施した上で、家畜に供給することができる。また、残渣50を植物の肥料として肥料化する場合は、例えば、必要に応じて炭素源又は窒素源を添加し、C/N比を適宜調整することにより、植物の育成に適した有用な肥料が得られる。
1.固体状基質の調製
固定化担体として、食パン(敷島製パン株式会社製の超熟サンドイッチ用)、カステラ(株式会社文明堂製)生パン生地(山崎製パン株式会社より排出された廃棄生パン生地)、スポンジケーキ(山崎製パン株式会社製のケーキ用)をそれぞれ1kg使用した。これらの固定化担体の糖量及び吸水量は表1の通りである。
全糖量の測定は、グルコースを標準物質としたフェノール硫酸法により測定した。還元糖量の測定は、グルコースを標準物質としたSomogyi-Nelson比色定量法により測定した。吸水量の測定は、担体を超純水に5分間浸漬後、担体の重量を測定し、下記の式により算出した。
食パンとカステラはそれぞれ48.2%、55.1%と両者とも多量の全糖が確認された。生パン生地、スポンジケーキは、42.3%および38.1%と多量の全糖が確認された。
主要構成糖は、食パン、生パン生地及びスポンジケーキはデンプンであり、カステラはスクロースであった。また、還元糖量はいずれの固定化担体も低い値であった。パンの吸水量は0.65 ml/cm3、カステラの吸水量は0.56 ml/cm3、生パン生地は0.62ml/cm3、スポンジケーキの吸水量は、0.66ml/cm3であった。
発酵基質として、三井製糖株式会社より恵与されたサトウキビ由来の廃糖蜜を使用した。この廃糖蜜の性状を表2に示す。
本実施例で用いた廃糖蜜の全糖量は46%であり、そのうち還元糖量は13%であった。また、高速液体クロマトグラフにより供試した廃糖蜜を構成する主要糖類を定性、定量した結果、スクロース、グルコース、フルクトースが検出され、含有量はそれぞれ33%、6.5%、6.5%であった。また、廃糖蜜の塩類濃度は2.7%、pHは4.8、全固形分は79%であり、通常の廃糖蜜の平均組成と同等であった。
廃糖蜜の全糖濃度を20%に調製し、供試酵母であるサッカロマイセス・セルビシエ(Saccharomyces cerevisiae)A30株を添加しスターラーで撹拌後、この混合溶液10mlを約6cmの体積を有する各固定化担体に完全吸収させ、固体状基質を調製した。
2.エタノール発酵
(1)固定化担体の検討
固体状基質を発酵容器に投入し、30℃、4日間でエタノール発酵を実施した。なお、対照として、固定化担体を使用せず、廃糖蜜のみでエタノール発酵を行った場合についても検討した。結果を図3に示す。
食パンを用いた系では発酵4日目に約10%のエタノールが生成され、効率よくエタノール発酵が進行した。カステラにおいてはエタノール生成量1%と発酵が緩慢であった。両者の発酵0日目の酵母数は8.3×107 CFU/gであった。発酵2日目の酵母数はパンを用いた系では2.2×109 CFU/gと高い値が得られた。
一方、カステラを用いた系では6.7×107CFU/gと酵母の生育が緩慢であった。このとき、酵母サイズの測定を行った結果、カステラを用いた系では酵母細胞の収縮が確認された。
この原因を解明するべく、カステラに15%、20%、22%の廃糖蜜を吸着固定した系と水を吸着固定した系を作成し、同様の実験を行った。カステラに異なる糖濃度の廃糖蜜を吸着固定した系におけるエタノール生成量の経日変化を図4に示す。
カステラに水を吸着固定した系が9.2%と最も多くのエタノールを生成し、廃糖蜜を吸着固定した系はいずれも低い値を示した。また、カステラに吸着固定した廃糖蜜の全糖濃度が高まるにつれ、最大エタノール生成量、酵母数共に低下する傾向を示した。これは、カステラ中にはスクロースが多く含まれており、廃糖蜜を吸着固定することで浸透圧が高まり、発酵が阻害されたものと推察した。これに対し、食パン、生パン生地、スポンジケーキの主要構成糖であるデンプンは高分子であり、浸透圧に影響を与えないため良好に発酵が進行したものと考えられた。
以上の結果より、エタノール発酵に用いる担体は低分子の糖を多量に含まないことが望ましいと考えられた。食パン、生パン生地、スポンジケーキは発酵性の糖を含まないため、エタノール発酵に適した担体であると考えられた。
3.蒸留
エタノールの生成が停止した時点で発酵終了とし、ロータリーエバポレーターを用いて50℃もしくは沸騰湯浴中で蒸留を行った。その結果、30%濃度のエタノールが20ml得られた。
(2)初発糖濃度の検討
糖濃度の異なる廃糖蜜を食パンに吸着させて、30℃、13日間でエタノール発酵を実施した。異なる初発糖濃度におけるエタノール生成量の経日変化を図5に、各初発糖濃度におけるエタノール生成速度およびエタノール収率を表3に示す。
初発糖濃度19%においては、発酵10日目に約10%のエタノールが生成された。一方、初発糖濃度20%においては、発酵11日目に9.2%のエタノールが生成され、初発糖濃度19%と比較し、最大エタノール生成量およびエタノール生成速度の低下が見られた。初発糖濃度21%以降においてはより顕著であり、初発糖濃度が高まるにつれ、最大エタノール生成量およびエタノール生成速度は低下する傾向が示された。また、初発糖濃度25%以降ではエタノールの生成が確認されなかった。
全糖量あたりのエタノール収率は初発糖濃度19%においては100%であり、ほぼ全ての糖が理論値通りエタノールに変換された。初発糖濃度20%では全糖量あたりのエタノール収率は92%であり、若干の低下が見られたものの、十分量エタノールを生成しているものと考えられた。一方、初発糖濃度21%以降においてはエタノール収率が比較的低く、多量の残糖が確認された。
初発糖濃度19%、26%における発酵2日目の酵母の大きさを顕微鏡写真で確認したところ、初発糖濃度19%では酵母の大きさが8.5μm×5.3μmであったのに対して、初発糖濃度26%は6.0μm×3.6μmと、初発糖濃度が高まるにつれ酵母が収縮することが明らかになった。
すなわち、初発糖濃度が高まるにつれ、酵母の細胞体積が減少し、エタノール生成量、生成速度の低下が見られた。
以上の結果より、初発糖濃度20%以上の濃度において浸透圧により酵母が収縮し、発酵阻害が起きている可能性が考えられた。
4.再発酵
蒸留後に得られた蒸留終了担体に、前記廃糖蜜と酵母を再度吸着固定し、30℃で2サイクル目のエタノール発酵を行った。さらにもう1サイクルエタノール発酵を行い、合計で3サイクルのエタノール発酵を行った。
廃棄パンを廃糖蜜の固定化担体として用いたエタノール発酵におけるエタノール生成量の経日変化を図6に示す。食パンを用いたエタノール発酵では、蒸留過程において担体が損傷し、廃糖蜜の吸着量が著しく低下したため、3サイクルでエタノール発酵を終了した。
各サイクルでそれぞれ、10%、9.4%、7.9%のエタノールが生成された。各サイクルの最大酵母数はそれぞれ1.6×109 CFU/g、6.3×108 CFU/g、3.7×108 CFU/gと、高い値が維持された。また、エタノール生成速度はそれぞれ0.17 g/h、0.17 g/h、0.13
g/hと緩やかに低下した。各サイクルの初発糖濃度に対するエタノール収率はそれぞれ100%、98.9%、87.7%と高い値が維持され、高効率にエタノール発酵が進行した。
各サイクルの発酵2日目の酵母の大きさを顕微鏡写真で確認したところ、1サイクル目の9.1μm×5.7 μmから3サイクル目の8.4 μm×5.0 μmまで酵母細胞が収縮したが、収縮はわずかであった。食パンは廃糖蜜の吸着量が少なくサイクル毎に担体内に蓄積する残留物が少なかったため、エタノール発酵への影響が少なかったものと推察した。
以上の結果より、廃糖蜜吸着量の低下により3サイクルでエタノール発酵を終了したものの、良好に酵母が生育し、高効率にエタノール生産が可能であったため、食パンは連続的にエタノール発酵を実施することが可能であると考えられた。
5.固体発酵
3サイクル目の蒸留を実施した後に得られた蒸留終了担体を使用した。蒸留終了担体に加水を行い、水分含有量を60%に調製後、前培養したサッカロマイセス・セルビシエ(Saccharomyces cerevisiae)A30株と蒸留終了担体の重量に対して0.25%の酵素剤(大和化成株式会社製コクゲンG20(Bacillus subtilis由来))を添加し、並行複発酵形式で30℃の条件下で蒸留終了担体の固体発酵を行った。また、対照区として酵素剤を添加しない系、エタノール発酵に供していない担体(食パン)に酵素剤を添加した系を作成し、同様に固体発酵を行った。
蒸留終了担体(パン)のエタノール発酵のエタノール生成量の経日変化を図7に示す。エタノール発酵に供していない食パンに水と酵素を吸着固定した系では発酵2日目に6.2%のエタノールが生成された。よって、食パンは酵素剤を添加することでエタノール化が可能であると明らかになった。
一方、パンを担体として用いた系の蒸留終了担体は酵素剤を添加することにより、発酵2日目で4.4%のエタノールが生成された。酵素剤無添加の系のエタノール生成量は微量であったため、酵素剤により糖化されたパンからエタノールの大半が生成されているものと考えられた。パンはエタノール発酵で担体内に糖がほとんど蓄積していないため、酵素剤により糖化されたパン自身からエタノールの大半は生成されたものと考えられた。
以上より、食パンは酵素剤を用いて担体自身のエタノール化が可能であり、蒸留終了担体の減容が可能であることが明らかになった。
なお、固体発酵の終了後、蒸留を行った。発酵物の蒸留は、減圧蒸留装置(内径600mm×高さ210mm、ドーム形で有効容積約40L)に発酵終了後の発酵物を投入して真空ポンプで内圧を−0.09Mpaに設定し、槽内の冷却水の温度を30℃以下として約2時間減圧蒸留を行った。蒸留により、エタノール濃度が92重量%のエタノールを得た。なお、蒸留により生じた残渣は、一部は家畜の飼料として、一部は肥料として利用された。
10…固定化担体
12…発酵基質
14…水
16…酵母
20…固体状基質
22…エタノール
30…蒸留終了担体
32…発酵基質
34…固体状基質
40…酵素
50…残渣

Claims (7)

  1. 固定化担体としてデンプンを主要構成糖とする食品を用い、該固定化担体に第1の発酵基質を吸着させて固体状基質を調製する固体状基質調製工程と、
    固体状基質に酵母を吸着させてエタノール発酵を行うエタノール発酵工程と、
    発酵終了後の固体状基質からエタノールを抽出するエタノール抽出工程と、
    エタノール抽出工程の後に得られた担体に第2の発酵基質及び酵母を吸着させてエタノール発酵を行う再発酵工程と、
    を有することを特徴とする、エタノールの生産方法。
  2. さらに、前記エタノール抽出工程の後に得られた担体に酵素剤を添加して前記担体を糖化する糖化工程と、
    糖化された担体に酵母を添加して、水分含量が30〜60重量%の条件下で固体発酵を行う固体発酵工程と、
    を有する請求項1に記載のエタノールの生産方法。
  3. 前記食品が、パン、スポンジケーキ、生パン生地からなる群の中から選択された少なくとも1種以上である、請求項1又は2に記載のエタノールの生産方法。
  4. 前記第1及び/又は第2の発酵基質が、廃糖蜜、シロップ、ジュースからなる群の中から選択された少なくとも1種以上である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のエタノールの生産方法。
  5. 前記第1及び/又は第2の発酵基質の糖濃度が24重量%以下に調製されたものである、請求項1〜4のいずれか1項に記載のエタノールの生産方法。
  6. さらに、前記固体発酵工程の後、固体発酵もろみからエタノールを抽出するエタノール抽出工程を有する、請求項2に記載のエタノールの生産方法。
  7. さらに、前記エタノール抽出工程の後に得られた蒸留残渣から家畜の飼料又は植物の肥料を得る工程を有する、請求項6に記載のエタノールの生産方法。
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