JP2010535602A - コンドロレギュレイティブ基質を用いた軟骨および骨における欠損または損傷の修復 - Google Patents

コンドロレギュレイティブ基質を用いた軟骨および骨における欠損または損傷の修復 Download PDF

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Abstract

動物、特にヒトの関節の部分欠損あるいは全層欠損における軟骨の欠損を治療あるいは修復するための方法と組成を提供する。軟骨の形成を誘導するために、軟骨の欠損を滑膜あるいは腱周囲膜の薄い組織片のレイヤーで埋める。組織片は軟骨前駆細胞と骨前駆細胞を含み、組織片レイヤーの間には基質を挿入する。基質は、適切なデリバリーシステムに取り込ませた、組織片中の軟骨前駆細胞の軟骨形成を誘導するための軟骨形成因子と、軟骨細胞の分化を初期の段階にとどめておくための抗肥大化剤を含む。全層欠損の骨部分を埋める基質は、骨前駆細胞の骨形成を誘導する骨形成因子を含む。軟骨と骨部分の間の組織片は、血管やそれに関係した細胞が骨エリアから軟骨エリアに進出するのを防ぐバリアーとして働く。滑膜または腱周囲膜の組織片中の前駆細胞の軟骨形成と骨形成を効果的に誘導するために、組織片は欠損を埋める前に、酵素(例えばマトリックスプロテアーゼ)で処理するか、針で孔を開けておく。

Description

本発明は、軟骨および骨における欠損または損傷を、治療および修復するための方法および組成物に関する。
関節は骨格において骨をつなぐ一般的な方法の一つである。正常な、関節でつながった骨の端は関節軟骨組織で覆われている。関節軟骨組織により、関節を形成する二つの骨の間で実質上無摩擦の運動が可能となる。
関節軟骨は独特な組織構造を有する。それは特殊化した細胞、すなわち軟骨細胞と、それらを埋め込んだ細胞間物質(しばしば文献で『軟骨基質』と称され、プロテオグリカンを多く含む)、コラーゲン原線維(主に2型)、その他のタンパク質と水からなる(非特許文献1)。軟骨組織は神経をもたず血管系やリンパ系の浸潤もみられない。しかしながら、成体の成熟した関節では、軟骨の下層にある軟骨下骨組織(骨組織と軟骨の間の、薄い連続的な板状の組織)に神経、血管が認められる。未熟な関節では、関節軟骨の下層には一次骨である骨梁のみが認められる。関節の半月板の一部もまた軟骨から成り、その構造は関節軟骨と類似している。
関節表面の欠損は、全層欠損と表層欠損の2つのタイプに分けられる。これらの欠損は、単に軟骨への物理的ダメージの範囲が異なるだけでなく、それぞれの損傷タイプにみられる修復反応の特質も異なっている。
関節表面の全層欠損は、硝子軟骨、石灰化軟骨層、および血管と骨髄をともなう軟骨下骨組織へのダメージを含む。骨組織へのダメージは、ひび、亀裂から骨組織の大きなかい離まで及ぶ。骨プレートは感覚神経の末端を含んでいるため、全層欠損はひどい痛みを引き起こすことがある。そのような欠損は、一般的に、重篤な外傷によるか、または変形性関節炎といった変性性関節疾患の疾患後期に引き起こされる。全層欠損は、しばしば軟骨下骨からの出血と修復反応誘発をもたらす(非特許文献2)。そのような修復反応により修復された組織は、血管をともなう繊維軟骨タイプで、十分な生体力学特性を持たず、長期間持ちこたえることができない。
関節軟骨組織の表層欠損は、軟骨組織内に限局される。そのような欠損は、治癒せず、修復反応を示さないことが知られている。表層欠損は軟骨表面において、亀裂、くぼみ、あるいは裂け目として認められたり、あるいは病気に冒された組織では「カニの身」状になっていたりする。それらは、全層欠損で見られたような出血血管(出血斑)を伴わない。表層欠損の原因はわからないが、しばしば、軟骨性組織をすり減らすような力学的障害によって認められる。力学的障害は関節の外傷(すなわち損傷した半月板の関節内への転移、半月板切除、損傷靭帯による関節のゆるみ、関節の異常、あるいは骨折)、あるいは遺伝性の疾患により起こるとされている。表層欠損はまた、変形性関節炎といった変性性関節疾患の初期の病態でもある。軟骨組織は神経系や血管系を持たないので、表層欠損は痛みを伴わない。しかしながら、表損欠損は痛みを伴わなくとも、治癒せず、しばしば全層欠損へと悪化する。
何百万人もの患者が変形性関節炎すなわち関節軟骨に変性性の欠損あるいは損傷が認められると診断されている。それにもかかわらず、損傷した軟骨に修復反応を生じさせるための様々な外科治療の特許が請求されているものの、いずれも実質的な適用となっていな
い。一般的にそのような治療法は、短期的な症状の軽減をもたらしただけであった(非特許文献3)。また軟骨保護剤の全身投与は、変形性関節炎の進行を阻止し、痛みの軽減をもたらすとされている。しかし、そのような薬剤が、軟骨組織における損傷あるいは欠損の修復を促進するという報告はない(非特許文献4および5)。
これまで、変形性関節炎に苦しむ患者の治療は、概して鎮痛剤や抗炎症剤を使用して症状軽減をはかるというものであった。関節軟骨の表層欠損を修復するような治療法なしでは、軟骨はしばしば軟骨下骨プレートにまですり減ってしまう。重篤な変形性関節炎のこの病期では、絶え間のない痛みや重篤な機能の侵害のために、関節全体を切除し、金属やプラスチックでできた人工関節への置き換えを余儀なくされる。現在、毎年約50万件の関節切除と人工関節への置き換えから成る手術が膝や股関節に行われている。従って、表層軟骨欠損における軟骨や、重篤な変形性関節炎にみられるような全層欠損における軟骨および骨組織のための信頼できる治療が必要である。
一般的に、関節軟骨は血管系を欠くために、損傷を受けた軟骨組織は、修復反応を引き起こすのに十分あるいは適切な刺激をうけることができないと考えられている。軟骨性組織の軟骨細胞は普通、十分な量の修復刺激剤(損傷された血管に富んだ組織には通常存在する成長因子やフィブリン塊といったもの)に曝されることがないためだと説明されている。
損傷された軟骨組織を修復刺激に暴露する一つの方法として、出血を起こすように軟骨から軟骨下骨までドリルで穴をあけたり削ったりする方法がとられた。残念ながら、そのような手術的外傷に対する組織の修復反応は、普通、出血を引き起こす全層欠損でみられるものに類似している。つまり、十分な力学的特性を示さない繊維軟骨が形成され、長期間存続できない(上記の非特許文献2)。
現在、世界中でますます多くの研究チームが、生物学上さらに論理的な方法を関節軟骨損傷の修復に用いようとしている。これらの活動は主に、欠損部位に新しい軟骨を作り出すという、入念に考えられた新しいティッシュエンジニアリングに基づいた戦略に向けられている。テストされているモデルは、一般的に、基質の中に軟骨前駆細胞を包埋したものである。そのような目的のため使用される軟骨前駆細胞は、起源が様々に異なっている。それらは、関節軟骨自身や、骨髄、骨膜、軟骨膜、筋肉、脂肪、滑膜といった間葉系幹細胞を含む様々な組織から得る事ができる(非特許文献6)。様々な成長因子がすでに分離されており、現在では研究や生物医学的応用に利用することができる(非特許文献7)。これらの成長因子のうちのいくつか(BMP−2、BMP−4、BMP−6、BMP−7、またはTGF−βとデキサメタゾンとの併用)は、様々な組織由来の間葉系幹細胞に2型コラーゲンや軟骨特異的なプロテオグリカンといった、軟骨特異的な分子の形成をインビトロで促進することがすでに報告されている。しかしながら、これらの成長因子は軟骨細胞の最終分化(肥大化)のマーカーである10型コラーゲンの発現をも誘導する。肥大化軟骨細胞は骨へと分化する。実際、ほとんどの成長因子は、軟骨形成能と骨形成能の両方を有する。近年、軟骨細胞の最終分化が、様々な要因によって調節されることが報告された(TGF−β/Smad3:非特許文献8;PTHrP:非特許文献9;Wnt5aおよびWnt5b:非特許文献10;Smad6およびSmad7:非特許文献11;Smad6/Smurf1:非特許文献12;Wnt:非特許文献13;E2F1、TGF−β、PTHrP、インディアン・ヘッジホッグ、Wnt5b、ILK、β1インテグリン:非特許文献14;Mrf1:非特許文献15)。
軟骨修復の最も大事な問題の一つは、成長因子によって誘導される、軟骨細胞の最終分化をいかに阻止するかである。しかしながら、これまでにこの視点に基づいて確立された、軟骨の欠損および損傷のための治療法はない。実験レベルでは、TGF−β1が、BM
P−2で刺激された骨膜細胞の最終分化を調節することが報告されている(非特許文献16)。
滑膜は間葉系幹細胞を含んでいることが知られており、これらの細胞は、適当な刺激条件下で軟骨細胞に分化する(非特許文献17)。近年、滑膜由来の間葉系幹細胞が、骨髄、脂肪組織、骨膜および筋肉由来の間葉系幹細胞よりも高い軟骨形成能を有することが示された(非特許文献18)。これらの報告では、その著者たちは、BMP−2単独、TGF−β1単独、TGF−β1とデキサメタゾンとの併用、TGF−β3とBMP−2とデキサメタゾンとの併用を使用した。しかし、滑膜細胞から変成した軟骨細胞の最終分化をどのようにコントロールするかについては考慮されていない。
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従って、表層軟骨欠損における軟骨の治療と、変形性関節炎に見られるような全層軟骨欠損における軟骨および骨の治療とのための、確かでより改善された方法が必要である。
本発明は、動物とりわけヒトの軟骨および骨の損傷を修復誘導するための組成物と方法とを提供する。本発明の組成物および方法は、そのままでは関節機能を損ないやがておそらく関節の切除および人工関節への置換が必要となってくるような、外傷性損傷および変形性関節炎の治癒を促進する。
本発明の表層軟骨欠損または全層欠損の軟骨部分を治療するための方法は、滑膜または腱周囲膜の組織片のレイヤーと、その間に挿入された軟骨形成を誘導するための軟骨形成因子と軟骨の肥大化を防ぐための抗肥大化剤とを含んだ軟骨修復基質のレイヤーとによって、軟骨欠損部分を埋めることを含む。全層欠損では、骨と軟骨との間の組織片レイヤーが、骨および血管が軟骨部分へ過成長するのを防ぐ、防御膜としての役目を果たす。軟骨修復基質は、動物またはヒトの組織に取り込まれ、徐々に生物分解される。さらに本発明は、腱周囲膜組織または滑膜組織と、一つ以上の軟骨形成因子と、一つ以上の抗肥大化剤とを含む、この方法に有用な組成物を含む。特に、そのような組成物は、滑膜または腱周囲膜の組織片のレイヤーと、その間に挿入された、軟骨形成因子および抗肥大化剤を含んだ軟骨修復基質のレイヤーとを含む。
滑膜が軟骨前駆細胞を含むことは知られているが、腱周囲膜も同様に軟骨前駆細胞を含んでいることが明らかになった。腱周囲膜は、滑膜を刺激するのに用いられる条件に類似した刺激条件下で、軟骨性組織に分化する。従って、腱周囲膜と滑膜は、軟骨と骨の欠損または損傷を治療および修復するのに、同等に有用である。
特定の実施例として、本発明の方法は、全層欠損において、出血した部分を一過性の組織バリアーをつくりだすために熱処理し、その後欠損部分を軟骨修復基質と滑膜または腱周囲膜の組織片のレイヤーとで埋めることを含む。骨部分では、抗肥大化剤を基質から除外できる。
関節の全層欠損を修復する本発明の方法はまた、広大な骨の損傷のために必要であるかまたは望ましい場合、全層欠損の骨部分を、動物またはヒトの組織に取り込まれて徐々に生物分解される基質で骨と軟骨との境界まで埋めることを含む。もし骨欠損が大きければ、滑膜または腱周囲膜の組織片のレイヤーを骨欠損部分に埋め込むこともできる。骨修復基質は、骨形成因子を含むが、抗肥大化剤は含まない。骨修復のための発明の(軟骨修復組成物に類似した)組成物は、滑膜または腱周囲膜の組織片のレイヤーと、その間に挿入された軟骨形成因子および骨形成因子を含んだ骨修復基質のレイヤーとを含む。全層欠損の軟骨の部分は、軟骨形成因子および抗肥大化剤を含む軟骨修復基質と滑膜または腱周囲膜の組織片のレイヤーとで、軟骨表面まで埋める。
別の実施例として、この発明の方法は、滑膜または腱周囲膜の組織片の軟骨形成能およ
び骨形成能を増大させるために、組織片を酵素処理したり組織片に針で孔をあけたりすることを含む。
表層欠損および全層欠損の治療は、関節内視鏡下手術、観血的手術、あるいは経皮的処置中に、本発明の方法を用いて行うことが可能である。本発明の特定の方法に従えば、全層欠損の同定後、その欠損部分は次に示すステップにより治療される。まず(1)関節から滑膜または腱周囲膜を採取し、(2)これらの組織から組織片を作成し、その組織片に酵素処理または針による穿孔処理を行い、次に(3)欠損の骨の部分をリポソームなどの適切なデリバリーシステムに取り込ませた骨形成因子を含む基質で埋め、そして(4)欠損の軟骨部分を、適切なデリバリーシステムに取り込ませた軟骨形成因子と抗肥大化剤とを含む基質(望ましくは生物分解可能なもの)を間に挿入した、滑膜または腱周囲膜の組織片のレイヤーで埋める。この第4のステップにおいて、組織片および基質は、例えば、トランスグルタミナーゼのような接着促進因子を用いることにより、軟骨表面へ結合させてもよい。
本発明に係る滑膜は、二つのレイヤー(内膜と内膜下層)を有する結合組織である。滑膜は内膜層により、関節腔から区切られている。内膜は2つのシート細胞(A型とB型)から成る。内膜下層は線維芽細胞様(間葉系幹細胞)細胞、マクロファージ、脂肪細胞および血管を含む。
本発明に係る腱周囲膜は、腱繊維の隔膜として広がった、大きい腱を覆う結合組織の一種である。
本発明に係る間葉系幹細胞は、骨髄、血液、真皮、骨膜、脂肪、筋肉、軟骨膜および滑膜といった様々な組織に存在する、形成多能性芽または胚様細胞である。それらは、脂肪、骨性組織、軟骨性組織、弾性組織、筋組織、および繊維性結合組織を含む、特別なタイプの間葉系組織または結合組織に分化する能力を有する。これらの細胞が向かう特異的分化経路は、様々な影響に左右される。たとえばそれは、力学的影響、および/または、内因性生物活性因子(すなわち成長因子、サイトカイン、および/または、ホスト組織により作り上げられた局所微小環境条件など)である。
本発明に係る軟骨前駆細胞は、適切な刺激に曝されると、軟骨細胞に分化、変換する細胞である。軟骨前駆細胞は、間葉系細胞、線維芽細胞、線維芽様細胞、マクロファージ、および脱分化した軟骨細胞を含む。
本発明に係る骨前駆細胞は、適切な刺激に曝されると骨芽細胞や骨細胞といった骨を形成する細胞に分化、変換する細胞である。骨前駆細胞は、血管周囲細胞、間葉系細胞、線維芽細胞、線維芽様細胞、マクロファージ、および脱分化した軟骨細胞を含む。
本発明に係る骨は、ハイドロキシアパタイトの形をとる沈着したリン酸カルシウムのネットワーク、コラーゲン(主に1型コラーゲン)、および骨芽細胞や破骨細胞といった骨細胞を主として含む、石灰化した結合組織である。
本発明に係る軟骨は、コラーゲン原線維(主に2型コラーゲンで、9型および11型といったマイナーなコラーゲンをともなう)、様々なプロテオグリカン(コンドロイチン硫酸、ケタラン硫酸、デルマタン硫酸など)、他のタンパク質および水を含む、細胞間物質(しばしば軟骨基質と呼ばれる)に包埋された軟骨細胞を含む結合組織の一種である。本発明に係る軟骨は、関節軟骨および半月板軟骨を含む。関節軟骨は、関節における骨の表面を覆い、直接的な骨と骨との接触なしで、関節における動きを可能にしている。その結果、骨をすり減らしたり傷つけたりするのを防いでいる。ほとんどの正常な関節軟骨は硝
子軟骨と呼ばれ、独特のすり硝子のような外観をしている。本発明に係る半月板軟骨は、通常、動きだけでなく振動に曝されるような関節において見られる。半月板軟骨のそのような場所には、顎関節、胸鎖関節、肩鎖関節、手首、膝関節を含む。
本発明に係る軟骨細胞は、軟骨組織の組成物(すなわち、2型コラーゲン原線維や繊維とプロテオグリカン)を産生することができる細胞である。
本発明に係る関節鏡法は、関節鏡を用いて関節の検査あるいは手術を行うことである。
本発明に係る抗肥大化剤は、軟骨細胞が肥大化軟骨細胞に分化するのを、抑制あるいは阻止する生物活性を有する、すべてのペプチド、ポリペプチド、タンパク質、その他の物質あるいは組成物である。肥大化軟骨細胞の指標である10型コラーゲンの産生を抑制する物質あるいは組成物の能力は、インビトロ試験(たとえばRT−PCR)によって評価可能である。抗肥大化薬剤の例として、TGF−β、PTHrP、Wntファミリータンパク質(Wnt5aまたはWnt5b遺伝子にコードされるタンパク質)、Smadタンパク質(Smad3、Smad6、およびSmad7)、MRF1(Mrf1遺伝子にコードされるタンパク質)、プロスタグランジンE−2(PGE−2)、およびAP−2、デルタEF−1、P300、E2F1といった転写因子などがある。本発明に係る組成物は、これらの抗肥大化剤の一つ以上(すなわち、単剤か、または、たとえばこれらの抗肥大化剤のうち2つから4つの混合物)を含む。
本発明に係る軟骨形成因子は、間葉系幹細胞、線維芽細胞、線維芽様細胞の軟骨細胞への分化を誘導する、全てのペプチド、ポリペプチド、タンパク質、その他の物質あるいは組成物である。分化した細胞による、軟骨特有のプロテオグリカンと2型コラーゲンの産生を誘導または刺激する物質あるいは組成物の能力は、インビトロ試験(たとえばRT−PCR)によって評価可能である。軟骨形成因子の例として、FGF(酸性または塩基性)、BMP−2、BMP−7を含む骨形態形成タンパク質(BMP)とGDFなどがある。本発明に係る組成物は、これらの軟骨形成因子の一つ以上(すなわち、単剤か、または、たとえばこれらの軟骨形成因子のうち2つから4つの混合物)を含む。
本発明に係る骨形成因子は、骨の形成を誘導あるいは刺激する、全てのペプチド、ポリペプチド、タンパク質、その他の物質あるいは組成物である。骨形成因子は、間葉系幹細胞、線維芽細胞そして線維芽様細胞が、骨芽細胞あるいは骨細胞といった、骨を形成する細胞に分化するのを誘導する。この過程は、途中、軟骨組織への分化を介した後に到達する。骨細胞から形成された骨組織は、1型コラーゲン原線維、ハイドロキシアパタイト、様々な糖タンパク質および少量の骨プロテオグリカンを含む。骨形成因子の例として、TGF−β、オステオジェニン、骨形態形成タンパク質(BMP)、FGF、さらにTGF−βと上皮細胞増殖因子(EGF)との併用がある。これらの物質のいくつかは、軟骨形成因子かつ骨形成因子である。本発明に係る組成物は、これらの骨形成因子の一つ以上(すなわち、単剤か、または、たとえばこれらの骨形成因子のうち2つから4つの混合物)を含む。
本発明に係る基質は、細胞が生息するのに十分な大きさの孔隙あるいは空間を有する、多孔質性混合物、固体物質または半固体物質である。基質という用語は、基質形成材料、すなわち、軟骨あるいは骨の欠損部分に、基質を形成することができる材料を含む。基質形成材料は、フィブリノゲンを含んだ溶液に、フィブリン基質を形成するためにトロンビンを加えるように、基質を形成する為に重合剤の添加を必要とする。他の基質材料として、コラーゲン、コラーゲンとフィブリンの組み合わせ、アガロース(例えば、セファロース)、そしてゼラチンが含まれる。固体基質を形成するリン酸三カルシウム、ハイドロキシアパタイトといったリン酸カルシウム、あるいはその他のカルシウム塩は、骨にある欠損を治療するのに単独あるいは他の基質材料との組み合わせで使用される。
本発明は軟骨および骨における欠損または損傷の治療のための組成物および方法に係る。本発明の組成物は、滑膜または腱周囲膜の組織片のレイヤーと、その間に挿入された軟骨形成因子および抗肥大化剤を含んだ基質とを含む。
滑膜または腱周囲膜の組織片は、欠損があるのと同じ関節から分離される。軟骨形成を効率的に誘導するために、移植の前に、それらの組織片は酵素処理されるか、または針で穴を開けられる。
本発明の方法における、滑膜または腱周囲膜の組織片の軟骨形成を増大するのに有用な酵素は、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP;例えばコラゲナーゼ、ストロメライシン、マトリライシン、あるいはゼラチナーゼ)、あるいはマトリックスメタロプロテアーゼ発現のためのメディエーター(IL−1、IL−6、TNF−α、IL−17、IL−18、ESE−1といった転写因子、GADD45、DDR2、コンドロイチナーゼABC、コンドロイチナーゼAC、あるいはヒアルロニダーゼ)を含む。特定の酵素あるいは数種を組み合わせた酵素に適切な濃度は、酵素液の活性により決まる。
本発明の好適実施例では、滑膜または腱周囲膜の組織片は、適切な濃度のコラゲナーゼを含む生理食塩液中に入れられ、5分から30分間消化させる。酵素で組織片を処理した後は、組織片から酵素液を洗い流す。
滑膜または腱周囲膜の組織片の中心では栄養や軟骨形成因子の浸透が不十分であるため、しばしば軟骨形成を誘導するのが困難である。この問題を解決するために、移植前に組織片に針で孔を開ける。本発明の好適実施例では、組織片に18ゲージの注射針で数回穴をあける。
滑膜または腱周囲膜の組織片は、軟骨や骨の欠損スペースに層状に重ねられる。組織片のレイヤーの間には、軟骨形成因子と抗肥大化剤、あるいは骨形成因子を含んだ基質が挿入されている。間葉系幹細胞といった軟骨前駆細胞または骨前駆細胞を含む組織片は、軟骨形成因子あるいは骨形成因子の刺激を通して、その場で(in situ)修復軟骨あるいは修復骨へと変成する。これらの細胞はまた、挿入された基質に侵入し、そこで変成する。従って、細胞が生息できるよう、十分な大きさの孔隙を有する基質が望ましい。
表層欠損あるいは全層欠損の軟骨層における軟骨修復に使用するために、基質は滑膜または腱周囲膜の組織片における軟骨前駆細胞の軟骨細胞への分化を誘導する軟骨形成因子を含む。基質はまた、軟骨細胞が肥大化軟骨細胞へと分化するのを抑制あるいは阻害する(その結果、石灰化組織の形成や軟骨組織の不適切な修復を防ぐ)生物活性を有する、抗肥大化剤を含む。軟骨形成因子と抗肥大化剤は、組織片中の軟骨前駆細胞が軟骨細胞に変成したり、変成した軟骨細胞の肥大化を阻止したりするのに適切な時間に薬剤をリリースさせる、デリバリーシステムの中に含まれるか結合している。
下層の骨にまで著しく広がった全層欠損の場合、欠損の骨部分は、好ましくは、骨形成因子を含むが抗肥大化剤は含まない骨修復基質で埋める。もし骨欠損が大きければ、滑膜または腱周囲膜の組織片のレイヤーも骨欠損に導入する。骨部分と軟骨部分の間に置いた組織片は、骨や血管が欠損の軟骨部分にまで過成長するのを防ぐバリアー膜としての機能を果たす。
軟骨あるいは骨欠損を埋めたり手当てしたりするための本発明の方法および組成物に有用な基質材料は、あらかじめ成形されているか、または、たとえば重合化合物や組成物により、その場で成形される。あらかじめ成形されているマトリックスは、フィブリノゲン
(トロンビンにより活性化され、欠損や損傷部分でフィブリンを形成する)、コラーゲン(例えば、コラーゲンジェル、コラーゲンスポンジ、そしてコラーゲンフリース)、化学的に修飾されたコラーゲン、ゼラチンビーズ、ゼラチンスポンジ、そしてアガロースのようなゲルを形成する物質、ゼラチンや他のゲルを形成する生物分解可能な物質(そのような物質は、滑膜または腱周囲膜の組織片から浸潤した軟骨前駆細や骨前駆細胞が生息し、その基質中でこれらの前駆細胞が軟骨細胞または骨細胞に分化するのに十分な大きさの孔を有する基質を形成する。またそれは、修復過程で分解され、軟骨または骨に置き換わる。)を含む。場合よっては、リン酸三カルシウムやハイドロキシアパタイトだけでなく固形の基質を形成する他のリン酸塩といった化合物をも含むリン酸カルシウムが、単独あるいは他の生物分解される基質材料との組み合わせにより骨の欠損の治療に用いられる。
本発明の一実施例では、基質はフィブリノゲン溶液を使用して形成される。重合を開始するために、フィブリノゲンには使用の直前にトロンビンを加える。0.5〜5mg/mL(緩衝水溶液中)の濃度のフィブリノゲン溶液を使用する。好ましくは、1mg/mL(緩衝水溶液中)の濃度のフィブリノゲン溶液を使用する。欠損エリアにおいてこのフィブリノゲン溶液の重合により、十分な大きさの孔隙を有する基質が得られる。その結果、軟骨前駆細胞あるいは骨前駆細胞はその基質中で自由に生息し、その基質が占める欠損部の容積を埋めるように増殖する。好ましくは、重合が完了する前に外科医が欠損エリアに材料を定着させるのに十分な時間が持てるよう、使用の直前に十分な量のトロンビンをフィブリノゲン溶液に加える。軟骨の空気への長時間の露出は軟骨へのダメージをもたらすため、通常、重合が数秒(2〜4秒)以内に終了するようにトロンビン濃度を決めなければならない[ミッチェル(Mitchell)ら、J. Bone Joint Surg.,71A,p.89−95(1989年)]。トロンビンは成長因子分子を破壊し、不活性化する能力があるため、過度の量のトロンビンは使用すべきでない。10〜500ユニット/mL(緩衝水溶液中)の濃度のトロンビン溶液(好ましくは、100ユニット/mLの濃度)をフィブリノゲン溶液に加えるために調整する。本発明の好適実施例においては、欠損を埋める約200秒前に、フィブリノゲン溶液(1mg/mL)1mLあたり約20μLのトロンビン(100ユニット/mL)を混合する。より低濃度のトロンビンを加えた場合、重合はよりゆっくりと起こる。2〜4分以内にフィブリン重合が終了するのに必要なトロンビン溶液の量は、おおよその量であることを理解しなければならない。なぜならそれは周囲環境の温度、トロンビン溶液の温度、フィブリノゲン溶液の温度などに左右されるからである。あるいは、欠損部分に基質溶液を入れた後、トロンビンをその基質溶液の上にのせることにより加え、基質溶液中にトロンビンを拡散させるという方法がやりやすい。トロンビンにより活性化された基質溶液の重合は、フィブリノゲン溶液の外観(トロンビンにより誘導された重合)を観察することにより、簡単にモニターできる。好ましくは、本発明の組成物および方法において、フィブリン基質は自己の(同種の)フィブリノゲン分子、すなわち治療される種と同じほ乳類動物種の血液から分離したフィブリノゲンから形成される。他の種由来の抗原性のないフィブリノゲンも使用可能である。
本発明の組成物および方法において、フィブリンとコラーゲン、あるいはさらに好ましくは、フィブリンとゼラチンを含む基質も使用できる。コラーゲン基質も、全層欠損を含めた軟骨欠損の修復に使用できる。本発明の好適実施例として、ハイドロキシアパタイトやリン酸三カルシウムを含むようなより固体化した基質は、深い全層欠損の骨部分を修復するのに使用できる。
コラーゲンを基質材料として用いる場合、たとえば、Collagen−Vliess(登録商標)(「フリース」)、Spongostan(登録商標)、あるいはゼラチンと血液の混合物を用いることにより十分に粘性のある溶液を作ることが可能であり、重合化剤を必要としない。コラーゲン基質を重合化剤により活性化されたフィブリノゲン溶液
と共に用いて、複合基質を形成することもできる。
基質を形成するのに他の生物分解性の化合物を用いる場合、重合剤は必要ない。例えば、39〜42℃で液体の基質溶液であるが、35〜38℃でゲル様の固体となるSepharose(登録商標)溶液を選ぶ事ができる。Sepharose(登録商標)の濃度は、欠損を埋めるゲルが骨前駆細胞または軟骨前駆細胞が自由に基質や欠損エリアに生息させることができるメッシュサイズを有するように決めるべきである。
軟骨の修復に用いられる本発明の組成物において、一つ以上の抗肥大化剤が軟骨の肥大化を抑制するために適切な濃度の範囲で基質溶液に加えられる。使用される抗肥大化剤は、例えば、TGF−β、PTHrP、Wntファミリータンパク質(Wnt5aまたはWnt5b遺伝子にコードされるタンパク質)、Smadタンパク質(Smad3、Smad6、およびSmad7)、およびMRF1(Mrf1遺伝子にコードされるタンパク質)を含む。しかしながら、これら特定の例に限らない。軟骨の肥大化を抑制することができる全ての化合物あるいは組成物を本発明の抗肥大化剤として使用できる。
一つ以上の軟骨形成因子も軟骨修復基質に含まれる。本発明の組成物および方法に用いられる軟骨修復を促進する軟骨形成因子は、滑膜あるいは腱周囲膜の軟骨前駆細胞の軟骨細胞への分化を誘導する、あらゆるペプチド、ポリペプチド、タンパク質、またはその他の化合物あるいは組成物を含む。分化した軟骨細胞は、軟骨特異的なプロテオグリカンや2型コラーゲンを産生する。化合物あるいは組成物の軟骨細胞における軟骨特異的なプロテオグリカンや2型コラーゲンの産生を刺激する能力は、当技術分野で周知の測定方法を用いて評価することができる[例えば、Seyedin SM.ら、Proc Natl
Acad Sci USA,82,p.2267−71(1985)]。本発明の組成物や方法に有益な軟骨形成因子は、たとえば、TGF−β、FGF(酸性または塩基性)、BMP−2やBMP−7を含むBMP、およびGDFを含む。これらの軟骨形成因子は、単独あるいは組み合わせて使用できる。これらの因子の二量体あるいは多量体も使用できる。
必要ならば、軟骨形成因子や抗肥大化剤を適切なデリバリーシステムに組み込んだり、結合させたりすることにより、これらの薬剤を適切に徐放させることができる。本発明の組成物や方法に有益なデリバリーシステムは、リポソーム、生体内分解性のポリマー、カーボハイドレートを基にした微粒子、水と油の乳濁液、ヘパリン硫酸プロテオグリカンを化学的に結合したコラーゲンのような繊維、または抗肥大化剤や軟骨形成因子が自然と結合するような他の分子、そして浸透圧ポンプを含む。リポソーム、生体内分解性のポリマー、抗肥大化剤や軟骨形成因子に結合する繊維、そして抗肥大化剤や軟骨形成因子を含むカーボハイドレートを基にした微粒子といったデリバリーシステムは、欠損を埋めるのに用いられる基質溶液に混合することができる。これらのシステムは当技術分野で周知である。[ピー.ジョンソン(P.Johnson)およびジェイ.ジー.ロイド−ジョーンズ(J.G.Lloyd−Jones)編、Drug Delivery Systems (Chichester, England: Ellis Horwood Ltd.,1987)参照]。リポソームはキム(Kim)の方法[キムら、Biochem. Biophys. Acta,728,p.339−348(1983)]に従い調整できる。その他のリポソームの調整方法も使用できる。抗肥大化剤の供給のタイミングは、軟骨形成因子のリリースと合わせる必要がある。
本発明の好適実施例として、軟骨修復に用いられる基質は、デリバリーシステムに包まれた抗肥大化剤としてTGF−βを含む。特に、TGF−β1は抗肥大化剤として使用できる。望まれるTGF−β1の濃度は、基質液中、約1〜100ng/mLである。他の成長因子と同じく、他のTGF−βフォームあるいはTGF−β活性を有するポリペプチ
ドもまた、この目的に有用である。
本発明の好適実施例として、軟骨修復に用いられる基質は、デリバリーシステムに包まれた軟骨形成剤としてBMPも含む。特に、BMP−2は軟骨形成因子として使用できる。望まれるBMP−2の濃度は、基質液に約50〜2000ng/mLである。
全層欠損の骨の修復に用いられる本発明の方法では、基質は骨形成因子を含むが、抗肥大化剤を含まない。場合によっては、軟骨修復のための基質に含まれる軟骨形成因子が抗肥大化剤の非存在下では骨形成因子として働く。骨形成因子は基質に含まれる適切なデリバリーシステムに包まれ、基質が分解されると同時にリリースされる。軟骨修復組成物に用いられるデリバリーシステムはまた、本発明の骨修復組成物においても有用である。たとえば、リポソームあるいはカーボハイドレートを基にした微粒子がそうである(上記参照)。本発明の一つの例として、骨修復に用いられる基質は、骨形成因子としてデリバリーシステムに包まれたBMP−2を、望まれる濃度として、基質液あたり100〜2000ng/mLで含む。
本発明の骨修復組成物に有用な骨形成因子は、組織片の骨前駆細胞が骨芽細胞やオステオサイトといった骨細胞へ分化するのを誘導する、すべてのペプチド、ポリペプチド、タンパク質、あるいは他の化合物あるいは組成物を含む。本発明に有用な骨形成因子は、TGF−β、オステオジェニン、骨形態形成タンパク質(BMP)、FGF、およびTGF−βと上皮細胞増殖因子(EGF)との組み合わせを含む。
上述した組成物は、動物とくにヒトの軟骨または骨組織における欠損の選ばれた場所に、軟骨または骨組織形成を誘導するための方法に有用である。
本発明の組成物は、ヒトを含めた動物における軟骨欠損および骨欠損の治療の方法を、簡単で罹患関節エリア局所に限定したものにすることができる。治療全体は、関節鏡手術、観血手術、経皮処置下で行われる。本発明に従って軟骨および骨の欠損または損傷を治療する方法を実施した場合、まず、欠損または損傷を確認し、滑膜または腱周囲膜の組織片を作成して、本発明に従った基質とともに欠損部分を埋める。欠損部分を組織片と基質で治療した後、関節包と皮膚切開部を閉じ、関節鏡手術あるいは観血手術を終える。
軟骨の修復のため、滑膜または腱周囲膜の組織片の間に挿入された基質は、組織片中の軟骨前駆細胞が軟骨細胞に変成するのに適切な濃度で軟骨形成因子を含む。基質組成物は変成した軟骨細胞が肥大化するのを防ぐために、抗肥大化剤も含む。軟骨前駆細胞は、軟骨細胞への変成に十分な濃度の軟骨形成因子と、変成した軟骨細胞の肥大化を抑制するのに十分な濃度の抗肥大化剤とに、適切な時間暴露される。変成した軟骨細胞は、安定した軟骨組織を産生する。この過程は、上記したように、軟骨形成因子および抗肥大化剤を含んだ適切なデリバリーシステムを基質組成物の中に含有させることにより遂行される。
ヒトを含む動物における軟骨あるいは骨の欠損は、関節の関節鏡検査下で、あるいは観血手術中の損傷あるいは欠損の観察により、視覚的に容易に特定可能である。軟骨あるいは骨欠損はまた、コンピューター断層撮影(CATスキャン)、X線検査、磁気共鳴イメージング(MRI)、滑液や血清マーカーの分析、あるいはその他の当技術分野で周知の方法で、推定できる。一旦欠損が確認されると、外科医は、欠損部分がここで述べた治療方法に含まれる溶液や基質を物理的により保てるようにしようとする。好ましくは、欠損は、平らまたは浅いくぼみの形状を有する代わりに垂直なエッジを有するか、もしくは有するように成形されているか、または、ここで述べた治療方法に含まれる溶液や基質を保ちやすいように削り下げられている。本発明の方法に従い、全層欠損の骨欠損部分は、骨と軟骨との境界面の石灰化層まで、骨修復基質組成物で埋められ、平らな面が形成される。骨修復基質組成物は、適切なデリバリーシステムに骨形成因子を含むが、抗肥大化剤は
含まない。もし欠損部分が大きければ、滑膜または腱周囲膜の組織片のレイヤーも欠損に導入する。欠損の残りの軟骨部分は、滑膜または腱周囲膜の組織片のレイヤーと軟骨修復を促進するのに用いられる基質組成物とで完全に埋める。軟骨修復の組成物は、軟骨形成因子と抗肥大化剤を含む。本発明の組成物および方法に有用な抗肥大化剤は、軟骨細胞の肥大化を抑制することができる生物活性をもつ、すべての薬剤を含む。本発明は、抗肥大化剤が、軟骨細胞の肥大化を抑制することができる一つ以上の分子を含むことも考慮している。
米国特許明細書第5,270,300号に記載のように、全層欠損の軟骨部分を埋める前に、全層欠損の骨と軟骨との境界を物理的な膜、好ましくは細胞が浸透できない(ポアサイズが5μm以下)生物分解可能な膜で分離する。膜は骨欠損を埋めた基質の上に置き、血管が軟骨欠損エリア内まで成長するのを防ぐために、膜の端は軟骨と骨の接合面の高さで欠損部分の周囲を塞がなければならない。この方法において、骨エリアからの細胞は、容易には軟骨欠損で生息できない。
全層欠損を治療するための本発明の好適実施例として、滑膜または腱周囲膜の組織片は、骨と軟骨の間において、骨や血管が軟骨欠損部分にまで発達するのを防ぐ膜バリアーとして働く。
他の全層欠損を治療する方法の例として、骨と軟骨境界は加熱された器具で作り出された一時的な生物的な膜によって分離できる。加熱された器具を出血部分に当てて血液を凝固させ、凝結したタンパク質のレイヤーを形成する。その結果、軟骨欠損部分に血管や骨組織が発達してしまうのを防ぐ生物物理的な膜を供給する。加熱された器具の例として、加熱されたメスの刃、はさみ、ピンセットが含まれるが、それだけに限らない。器具は約200℃に加熱されるべきである。加熱された器具は、全層欠損の基底に使用すべきである。ほかの例として、熱は二酸化炭素、窒素あるいはネオジムYAGレーザーにより加えられる。骨と軟骨との境界において、この熱によって作り出された一時的な生物的膜は、膜バリアーとして働く生物分解可能な膜、および/または、滑膜または腱周囲膜の組織片に加えて使用することができる。
化学的手段は基質の接着を促進する。そのような手段は、欠損表面における軟骨プロテオグリカンの表面のレイヤーを分解して軟骨のコラーゲン繊維を露出させ、基質のコラーゲン原線維(コラーゲン性の基質を使用した場合)またはフィブリン原線維(フィブリン基質を使用した場合)と相互に作用させることを含む。軟骨の表面のプロテオグリカンは、フィブリンや他の生物分解性の基質が軟骨に接着するのを妨害するだけでなく、トロンビンの活性も部分的に阻害する。
本発明の一例に従い、欠損の表面は滅菌された吸収性の素材で吸い取ることにより乾燥させ、そして欠損の表面から約1〜2μmの深さまでの軟骨の表面に存在するプロテオグリカンを分解するために、滅菌された酵素液で欠損容積を2〜10分間満たす。プロテオグリカンを分解するために、様々な酵素は、単独あるいは組あわせて滅菌された緩衝水溶液中に溶解して使用する。溶液のpHは酵素活性に最適なように調整する。本発明の方法において、プロテオグリカンを分解するのに有用な酵素は、コンドロイチナーゼABC、コンドロイチナーゼAC、ヒアルロニダーゼ、ペプシン、トリプシン、キモトリプシン、パパイン、プロナーゼ、ストロメライシン、および黄色ブドウ球菌V8プロテアーゼを含む。特定の酵素あるいは酵素の組み合わせにおける適切な濃度は、酵素液の活性により変わる。
本発明の好適実施例として、欠損は1U/mLの濃度の滅菌されたコンドロイチナーゼAC溶液で満たし、4分間消化させる。コンドロイチナーゼACの望まれる濃度は、実施
例6に記載の方法に従って決める。使用される他の酵素すべての濃度および処理時間は、約1〜2μmの深さまでの表層のプロテオグリカンだけが分解されるように設定されなければならない。作用させる酵素溶液の処理時間は、修復エリアにおいて表層のプロテオグリカンのほとんどを消化できる最小の時間にするべきである。濃度1U/mLのコンドロイチイチナーゼABCまたはACにとっては、10分以上の消化時間は不要であり、欠損エリア外のプロテオグリカンを消化してしまう可能性がある。さらに、10分以上の消化時間は、手術全体の時間を超過させてしまう。手術、特に関節切開術では軟骨が空気に曝されるとダメージを受けるので、手術全体の時間は最小限にとどめるべきである。これらの理由のために、酵素処理によるプロテオグリカンの分解ステップを含めた本発明の方法の例として、10分以下の消化時間が望ましく、5分以下が最も望ましい。酵素で欠損の表面のプロテオグリカンを分解した後、酵素液は欠損エリアから除かれなければならない。酵素液は、細い吸引チップがついたアスピレーターで吸引した後、コットン状のもので吸収して除く。あるいは、コットン状のもので吸収することのみによって除く。酵素液の除去に続いて、欠損は、例えば、滅菌された生理的食塩液(0.15M NaCl)で3回というふうに十分に洗い流さなければならない。滅菌されたガーゼやコットン状のものは、欠損部位を乾燥させるのに使用する。
欠損部位の軟骨への基質の接着は、欠損表面のコラーゲン原線維への基質の原線維の化学的結合(クロスリンキング)を促進するために、フィブリン糊(すなわち血液凝固第XIII因子またはフィブリン固定化因子)を用いる事によっても増大される[ギブル(Gibble)ら、Transfusion,30(8),p.741−47(1990)参照]。酵素トランスグルタミナーゼも同じ効果があり、使用できる。細胞外基質の接着を促進する他の化合物も使用できる。
ここに述べた発明をさらによく理解するために、次に実施例を説明する。これらの実施例は例証目的のためであり、本発明をそのように限定するものではない。
実施例1:インビトロにおける滑膜組織片の軟骨への変成
インビトロにおいて、滑膜の組織片に軟骨形成を誘導するのに有用な様々な成長因子をテストした。滑膜は、地元のと殺場からと殺後すぐに入手した子牛の中手関節から得た。滑膜は小さな組織片[約5mm(長さ)×1〜2mm(幅)]にカットし、血清を含まない条件下で、アガロース中で培養した。2日ごとに培地を交換するときにBMP−2(200ng/mL)、BMP−7(200ng/mL)、またはTGF−β1(10ng/mL)を新たに加えた。6週間培養し、成長因子の効果を測定した。軟骨への変成は組織学的かつ生化学的に評価した。軟骨に関連した遺伝子の発現は、定量的リアルタイムPCRで測定した。
BMP−2およびBMP−7は、軟骨性組織を誘導し、かつ2型コラーゲン、9型コラーゲン、11型コラーゲン、アグリカン、Sox9といった軟骨組織の形成に重要な遺伝子の発現を誘導した。しかしながら、BMP−2およびBMP−7は軟骨の終末(肥大化)分化のマーカーである10型コラーゲン遺伝子の発現も誘導した。TGF−β1は細胞外基質のメタクロマジー染色を誘導したが、2型コラーゲンおよび10型コラーゲン遺伝子の発現を、コントロールレベル(成長因子を加えなかった場合)と比較して、ほとんど上昇させなかった。
実施例2:インビトロにおける腱周囲膜組織片の軟骨への変成
腱周囲膜の軟骨形成潜在能力をテストした。腱周囲膜は地元のと殺場からと殺後すぐに入手した子牛の中手関節の腱から得た。腱周囲膜は小さな組織片[約5mm(長さ)×5mm(幅)]にカットし、血清を含まない条件下で、アガロース中で培養した。2日ごとに培地を交換するときにBMP−2(2000ng/mL)を新たに加えた。6週間培養し、成長因子の効果を測定した。軟骨への変成は組織学的に評価した。
BMP−2は、腱周囲膜の組織片に軟骨性組織の形成を誘導した。
実施例3:インビトロでの滑膜組織片の軟骨形成におけるTGF−β1の抗肥大化効果
滑膜組織片の軟骨形成におけるTGF−β1の抗肥大化効果をテストした。滑膜は、地元のと殺場からと殺後すぐに入手した子牛の中手関節から得た。滑膜は小さな組織片[約5mm(長さ)×1〜2mm(幅)]にカットし、血清を含まない条件下で、アガロース中で培養した。軟骨形成を誘導するのにBMP−2(200ng/mL)を添加した。BMP−2に加え、TGF−β1(10ng/mL)も培地中に添加した。これらの成長因子は、2日ごとに培地を交換するとき、再び培地に加えた。4週間培養し、これらの成長因子の効果を測定した。軟骨への変成は組織学的かつ生化学的に評価した。軟骨に関連した遺伝子の発現は、定量的リアルタイムPCRで測定した。
BMP−2は滑膜組織片において軟骨性組織を誘導したが、軟骨の終末(肥大化)分化のマーカーである10型コラーゲン遺伝子の発現レベルも上昇させた。BMP−2とTGF−β1の併用は、BMP−2の単独使用と比較して、軟骨性組織の形成を促進した。さらに、この併用はBMP−2による10型コラーゲン遺伝子の発現上昇を抑制した。
実施例4:コラゲナーゼによる滑膜組織片における軟骨形成の増大
滑膜組織片における軟骨形成を増大させるために、コラゲナーゼの効果をテストした。滑膜は、地元のと殺場からと殺後すぐに入手した子牛の中手関節から得た。滑膜は小さな組織片[約5mm(長さ)×1〜2mm(幅)]にカットし、血清を含まない条件下で、アガロース中で培養した。コラゲナーゼは培養の初めの2日間、0.3、3、または30U/mLの濃度で添加した。軟骨形成を誘導するのに、培地中にBMP−2(200ng/mL)を添加し、2日ごとに培地を交換するときに再び加えた。4週間培養し、その効果を測定した。軟骨への変成は組織学的に評価した。
コラゲナーゼは30U/mLの濃度で、滑膜組織片におけるメタクロマジーの体積画分を有意に増大した。
実施例5:針穿孔による滑膜組織片における軟骨形成の増大
滑膜組織片における軟骨形成を増大するために、培養前に針で滑膜組織片に孔を開けた。滑膜は、地元のと殺場からと殺後すぐに入手した子牛の中手関節から得た。滑膜は小さな組織片[約5mm(長さ)×1〜2mm(幅)]にカットした。18ゲージの注射針で滑膜組織片に均一に孔を開けた。孔を開けた組織片は、血清を含まない条件下で、アガロース中で培養した。軟骨形成を誘導するのに、培地中にBMP−2(200ng/mL)を添加し、2日ごとに培地を交換するときに再び加えた。4週間培養し、その効果を測定した。軟骨への変成は組織学的に評価した。
メタクロマジーの体積画分は、無処理の組織片と比較して、針で孔を開けた組織片で有意に高かった。
実施例6:プロテオグリカン除去のための酵素のテスト
基質の関節軟骨組織の欠損表面への接着を促進および改善するために、コラーゲン原線維のネットワークを外部から加えた基質に暴露し修復細胞を移行させる目的で、表層軟骨基質中のプロテオグリカン分子を酵素を用いて除去した。この目的には、様々なプロテアーゼとグリコサミノグリカン分解酵素の使用が適している。しかし、それぞれの酵素を最大限の活性で使用するためには、pHのコントロールが必要である。
この実施例において、コンドロイチナーゼABC(0.5〜5U/mL)とトリプシン(0.5〜4%)のプロテオグリカンの除去能力をテストした。地方のと殺場から入手したと殺直後のウサギから膝関節を得た。機械的に作成した表層軟骨欠損を4分間酵素液に暴露した。酵素液を吸収剤で除き、欠損部分を生理食塩液で十分に洗い流した。その後、
組織的評価のために、軟骨組織は0.7%(w/v)ルテニウムヘキサミントリクロライド(RHT)を含む2%(v/v)グルタルアルデヒド(0.05Mカコジル酸ナトリウム、pH7.4で緩衝化)液でただちに固定した。後固定は1%RHT−四酸化オスミウム液(0.1Mカコジル酸ナトリウム、pH7.4で緩衝化)で行った。組織は段階的エタノールシリーズで脱水し、エポン812樹脂に包埋した。薄切片をカットし、酢酸ウラニルとクエン酸鉛で染色、電子顕微鏡下で評価した。これらの切片において、RHTを固定した(すなわち凝結した)プロテオグリカンは黒っぽく染まった粒子として見える。表面から1〜2μm以下の厚さのプロテオグリカンの層を除く酵素の濃度を最適濃度とした(酵素のより深い層への浸透は下層の軟骨細胞に影響を及ぼす可能性がある)。コンドロイチナーゼABCは約1U/mLの濃度で最適な活性を示した。トリプシンは約2.5%の濃度で最適であった。
その他のグリコサミノグリカナーゼあるいはプロテアーゼの最適活性の範囲は、同様にして決定できる。毒性がなく、かつ、最大酵素活性を提供するのに必要なpH値に近いpHに合わせるのに最大緩衝能力を有するすべての緩衝液を酵素とともに使用することができる。
実施例7:表層欠損への基質の接着
表層軟骨プロテオグリカンの制御された酵素消化による、欠損表面への基質の接着の増大能力を調査した。3羽の成熟したウサギの膝関節にプランニングナイフで欠損を作った。これらの欠損は酵素で処理しなかった。使用する約200秒前にトロンビン溶液(緩衝液に100U/mLの濃度に調整したもの)20μLを混ぜて作成したフィブリン基質で欠損を埋めた。ウサギは約1ヶ月後にと殺し、フィブリン基質の欠損部分への接着の範囲を評価するため膝関節を分析した。結果は、フィブリン基質で欠損を埋める前に欠損部分をコンドロイチナーゼABC(1U/mLの濃度で4分間)で処理したウサギの結果と比較した(実施例3、4、および5を参照)。
酵素処理されていない欠損エリアに沈着したフィブリン基質は、低い親和性で欠損表面に接着していた。酵素処理の後、フィブリン基質の粘着能(接着の機械的強度を測定すること、すなわち、基質をピンセットの先で押しのけやすいかどうかを手動でテストすることにより、また実験期間を通じて基質がうまく接着したままである欠損の数を書き留めることにより間接的に得た)は有意に上昇した。酵素処理をしなかった欠損表面への基質の低親和性は、おそらくプロテオグリカンにより基質の接着が局所的に阻害されたり、フィブリンの重合が阻害されたりしたためであると考えられる。これら両方のプロテオグリカンによる影響は、欠損表面エリアの表層のプロテオグリカンを酵素で除去することにより防ぐことができる。
実施例8:関節軟骨の全層欠損における熱処理法の適用
全層関節軟骨欠損(深さ1mm、幅10mm)は、成体のミニブタの大腿骨内側顆と膝蓋溝に作成した。2頭のミニブタのそれぞれの膝関節に5つの欠損を作成した。それぞれの出血部位では、一時的な組織バリアーを作り出すために、欠損の底の部分に220度に熱したメスの刃を当てて凝血させた。
一頭のミニブタにおいて、一方の関節の関節軟骨欠損は、約40ng/mLの濃度のIGF−1と約500ng/mLの濃度のTGF−β3を含む軟骨修復基質で埋めた。もう一方の関節の欠損では、フリーのスラミン(抗血管形成剤)とリポソームに封入したスラミンを10mMの濃度で含んだ基質を用いた。二頭目のミニブタでは、一方の関節の欠損を約40ng/mLの濃度のIGF−1とリポソームに封入した1000ng/mLのBMP−2を含む軟骨修復基質で埋めた。二頭目のミニブタのもう一方の関節の欠損では、スラミンを上記したとおりに含んだ基質を用いた。
動物は手術および治療から8週間後にと殺し、評価を行った。どちらの動物にも骨組織の形成は認められず、欠損スペースは関節軟骨組織で埋められていた。
実施例9:リポソームに封入したBMP−2と滑膜組織片を用いた関節軟骨の部分欠損の修復
BMP−2はキムの方法に従って、リポゾーム内に封入した[キムら、Biochem. Biophys. Acta,728,p.339−348(1983)]。大きなサイズの関節軟骨の部分欠損(長さ10mm、幅5mm)を成体のヤギに作成した。膝に作成した欠損は、コンドロイチナーゼACで処理して洗い流した後、滑膜の薄い一片(組織片)を水平の層状に敷いて埋めた。これらの滑膜片の間にはリポソームに封入したBMP−2を含むフィブリノゲン溶液を挿入した。4〜5週間後、滑膜片は軟骨様組織へと変成した。

Claims (18)

  1. 腱周囲膜組織または滑膜組織と、一つ以上の軟骨形成因子と、一つ以上の抗肥大化剤とを含む、軟骨の欠損または損傷を治療および修復するための組成物。
  2. 軟骨形成因子は腱周囲膜組織または滑膜組織に軟骨を形成するのに適切な濃度でデリバリーシステムに取り込まれており、該デリバリーシステムは基質または基質形成材料に含まれている請求項1に記載の組成物。
  3. 抗肥大化剤は軟骨形成因子により変成した軟骨細胞の肥大化を抑制するのに適切な濃度でデリバリーシステムに取り込まれており、該デリバリーシステムは基質または基質形成材料に含まれている請求項1に記載の組成物。
  4. 腱周囲膜組織はあらかじめ酵素処理または針による穿孔処理をされている請求項1に記載の組成物。
  5. 滑膜組織はあらかじめ酵素処理または針による穿孔処理をされている請求項1に記載の組成物。
  6. 軟骨形成因子は、BMP−2、BMP−7、GDF−5、およびTGF−βスーパーファミリーから選択される請求項1に記載の組成物。
  7. 抗肥大化剤は、TGF−β、副甲状腺ホルモン関連ペプチド(PTHrP)、Wntファミリータンパク質、Smadタンパク質、MRF1、プロスタグランジンE−2(PGE−2)、ならびに転写因子AP−2、デルタEF−1、P300、およびE2F1から選択される請求項1に記載の組成物。
  8. 滑膜または腱周囲膜の組織片のレイヤーと、軟骨形成因子および抗肥大化剤を含む軟骨修復基質のレイヤーとを含み、軟骨修復基質のレイヤーは組織片のレイヤーの間に挿入されている、請求項1に記載の組成物。
  9. 基質はフィブリンである請求項2,3,または8のいずれか一項に記載の組成物。
  10. デリバリーシステムは、リポソーム、生体内分解性のポリマー、化学的にヘパリン硫酸プロテオグリカンを結合したコラーゲン繊維、およびカーボハイドレートを基にした微粒子からなる群から選択される請求項2または3に記載の組成物。
  11. 酵素は、コラゲナーゼ、ストロメライシン、マトリリシン、ゼラチナーゼ、IL−1、IL−6、TNF−α、IL−17、IL−18、ESE−1、GADD45、DDR2、コンドロイチナーゼABC、コンドロイチナーゼAC、およびヒアルロニダーゼから選択される請求項4または5に記載の組成物。
  12. 滑膜組織、BMP−2またはBMP−7、およびTGF−βを含む請求項1に記載の組成物。
  13. 腱周囲膜組織を含む、軟骨および骨の欠損または損傷を治療および修復するのに用いる組成物。
  14. 一つ以上の軟骨形成因子を含む、請求項13に記載の組成物。
  15. 請求項1乃至12のいずれか一項に記載の第一の組成物と、骨の修復のための第二の組成物とを含んだキットであって、第二の組成物は、腱周囲膜組織または滑膜組織と、一つ以上の軟骨形成因子と、一つ以上の骨形成因子とのうちの一つ以上を含む、キット。
  16. 軟骨の欠損または損傷の治療および修復のための方法であって、欠損を、腱周囲膜組織または滑膜組織と、一つ以上の軟骨形成因子と、一つ以上の抗肥大化剤とで埋めることを含む、方法。
  17. 軟骨および骨における欠損または損傷の治療および修復のための方法であって、一つ以上の軟骨形成因子と、一つ以上の骨形成因子とのうちの一方または両方を含む基質と、任意で、腱周囲膜組織または滑膜組織とを用いて、骨部分の欠損を骨と軟骨との境界面まで埋めることと、腱周囲膜組織または滑膜組織と、一つ以上の軟骨形成因子と、一つ以上の抗肥大化剤とで軟骨の最表面まで埋めることとを含む方法。
  18. (1)関節から滑膜または腱周囲膜を採取するステップと、(2)これらの組織から組織片を作成し、該組織片に酵素処理または針による穿孔処理を行うステップと、(3)欠損の骨部分を、適切なデリバリーシステムに取り込まれた骨形成因子を含んだ基質で埋めるステップと、(4)欠損の軟骨部分を、適切なデリバリーシステムに取り込まれた軟骨形成因子および抗肥大化剤を含む基質を間に挟んだ、滑膜組織片または腱周囲膜組織片のレイヤーで埋めるステップとを含む、請求項17に記載の方法。
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