JP2010516256A - Adrb2癌マーカー - Google Patents

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Abstract

本発明は癌の診断、研究、療法のための組成物および方法に関し、癌マーカーを含むが、それらに限定されない。特に、本発明は癌のADRB2マーカーに関する。

Description

本出願は2007年1月19日に提出された仮特許出願第60/881,416号に対する優先権主張出願であり、同仮出願の全文をここに参考として引用する。
本発明は政府の助成を受けて行われ、国立衛生研究所から助成金CA97063号、CA111275号、CA69568号、米国陸軍医療研究物資司令部(ARMY/MRMC)から助成金W81XWH-05-1-0173号、 W81XWH-06-1-0224号、W81XWH-07-1-0107号の付与を受けている。
発明の属する分野
本発明は癌の診断、研究、療法を目的とする組成物および方法に関連し、組成物および方法として癌マーカーを含むが、但し、それらに限定されない。特に、本発明は癌のADRB2マーカーに関連する発明である。
65才を超える男性9人に1人が罹患する前立腺癌(PCA)は、男性における癌による死亡原因として肺癌に次ぐ位置を占める(Abate-Shen and Shen,Genes Dev 14:2410 [2000]; Ruijter et al., Endocr Rev, 20:22 [1999](非特許文献1))。米国癌協会は、2001年に約184,500人の米国人男性が前立腺癌と診断され、39,200人が死亡すると推定している。
前立腺癌は一般に、デジタル直腸検査と前立腺特異抗体(PSA)スクリーニング検査の両方またはそのいずれかで診断される。血清PSA濃度の上昇はPCAの存在を示唆する可能性がある。PSAは前立腺細胞によってのみ分泌されるため、PSAは前立腺癌のマーカーとして使われる。健康な前立腺は一定量のPSAを分泌し、通常、1ミリリットルあたり4ナノグラム未満、すなわち4未満のPSA値を示す。これに対し、癌細胞では、癌の重篤度に対応し、分泌量の上昇が観察される。数値が4と10の間である場合、医師は患者の前立腺癌を疑い、数値が50を超えた場合は、腫瘍が身体の他の部分に転移したことを示す可能性がある。
PSAまたはデジタル検査により、癌の存在が疑われた場合は、経直腸超音波法(TRUS)で前立腺の画像診断を行い、疑いのある部分を示す。前立腺のさまざまな箇所の生検を行い、前立腺癌の存在の有無を判定する。治療の選択肢は癌の段階により異なる。平均余命10年以下で、グリーソン値が低く、腫瘍が前立腺以外に転移していない男性に対しては、しばしば慎重な経過観察(つまり治療を行わない)という対応を取る。それよりも病勢が進行した癌に対する治療法としては、前立腺を完全に除去する(神経温存術または非温存術)前立腺全切除術(RP)などの外科的治療や放射線治療があり、放射線治療には、外部ビームを使い、体外から前立腺に向けて放射線量を照射する方法と、前立腺内に低線量のシード線源を埋め込み、局所的に癌細胞を殺す方法がある。抗アンドロゲンホルモン療法は、単独で使用するか、または手術か放射線治療と併用する。ホルモン療法では、テストステロン産生を刺激するホルモンの下垂体による産生をブロックする黄体形成ホルモン放出ホルモン(LH-RH)類似体を使う。患者はその後一生、LH-RH類似体の注射を受けなければならない。
手術とホルモンによる治療は局在性PCAにはしばしば奏効するが、進行した疾患は基本的にはいまだに不治である。アンドロゲン除去は進行したPCAに対して最もよく使われる療法であり、その結果、アンドロゲン依存性の悪性細胞が大量にアポトーシスを起こし、一時的に腫瘍が退縮する。しかし、ほとんどの症例で、腫瘍は猛烈な勢いで再発し、アンドロゲンというホルモンシグナルに依存せずに増殖する。
前立腺特異抗体(PSA)スクリーニングの登場により、PCAをそれまでよりも早期に発見することが可能になり、PCAによる死亡率は大幅に低下した。しかし、前向き無作為化スクリーニング試験の結果が出るまで、癌に特異的な死亡率に対するPSAスクリーニングの効果は未知である(Etzioni et al., J. Natl. Cancer Inst., 91:1033 [1999](非特許文献2); Maattanen et al., Br. J. Cancer 79:1210 [1999](非特許文献3); Schroder et al., J. Natl. Cancer Inst., 90:1817 [1998](非特許文献4))。血清PSA検査の主な限界は、前立腺癌に対する感受性と特異性が低いという点にあり、特に、PSA検出における中程度の範囲(4〜10 ng/ml)で、それが顕著である。良性前立腺過形成(BPH)や前立腺炎などの非悪性条件を持つ患者でも、しばしば血清PSA濃度の上昇が検出され、また、この方法は、検出された癌の悪性度に関し、ほとんど情報を提供しない。血清PSA検査の増加と時期を同じくして、前立腺針生検の実施例が激増した(Jacobsen et al., JAMA 274:1445 [1995](非特許文献5))。その結果、複数の解釈が可能な曖昧な前立腺針生検が急増した(Epstein and Potter J. Urol., 166:402 [2001](非特許文献6))。このため、PSAスクリーニングを補う意味で、さらなる血清および組織バイオマーカーの開発が必要とされている。
Abate-Shen and Shen,Genes Dev 14:2410 [2000]; Ruijter et al., Endocr Rev, 20:22 [1999] Etzioni et al., J. Natl. Cancer Inst., 91:1033 [1999] Maattanen et al., Br. J. Cancer 79:1210 [1999] Schroder et al., J. Natl. Cancer Inst., 90:1817 [1998] Jacobsen et al., JAMA 274:1445 [1995] Epstein and Potter J. Urol., 166:402 [2001]
本発明は癌の診断、研究、療法を目的とする組成物および方法に関連し、組成物および方法として癌マーカーを含むが、それに限定しない。特に、本発明は癌のADRB2マーカーに関連する。
ある態様において、本発明は癌におけるADRB2の低発現を標的にする診断法、研究法、療法を提供する。
例えば、ある態様において、本発明は患者において癌(例えば前立腺癌)を同定する方法として、被験者の試料(例えば生検試料)中の正常なβ2アドレナリン受容体(ADRB2)発現と比較した場合のADRB2の低発現を検出し、そこで試料中にADRB2の正常発現と比較した場合のADRB2の低発現を検出することにより、患者における癌を同定するという方法を提供する。特定の実施例では、試料中のADRB2低発現の存在が、試料中の転移性前立腺癌または転移性前立腺癌の危険性を示す。ある態様において、試料におけるADRB2低発現の有無の検出は、試料中のADRB2核酸(例えばmRNA)濃度の検出を含む。ある態様において、試料におけるADRB2のmRNA濃度の検出は、マイクロアレイ解析、逆転写PCR、定量的逆転写PCR、ハイブリダイゼーション解析を含む。他の態様においては、試料におけるADRB2低発現の有無の検出は、試料中のADRB2ポリペプチド濃度の検出を含む。
さらに、本発明は患者における臨床的失敗の危険性を同定する方法として、患者の試料中の正常なβ2アドレナリン受容体(ADRB2)発現と比較した場合のADRB2の低発現を検出し、そこで試料中にADRB2の正常発現と比較した場合のADRB2の低発現を検出することにより、臨床的失敗の危険性がある患者を同定するという方法を提供する。ある態様において、臨床的失敗は、前立腺切除術後のPSA濃度の上昇(例えば、最低0.2 ng ml-1のPSA濃度上昇)または疾患の再発である。ある態様において、前立腺切除術後の疾患の再発は、転移性癌の発生を含む。ある態様において、試料におけるADRB2低発現の有無の検出は、試料中のADRB2核酸(例えばmRNA)濃度の検出を含む。ある態様において、試料におけるADRB2のmRNA濃度の検出は、マイクロアレイ解析、逆転写PCR、定量的逆転写PCR、ハイブリダイゼーション解析を含む。他の態様においては、試料におけるADRB2低発現の有無の検出は、試料中のADRB2ポリペプチド濃度の検出を含む。
病理学的関連性を持つ直接のEZH2転写標的を指定するために用いた組み込み型のゲノム解析の概要である。 EZH2の調節異常により、ADRB2の転写物とタンパク質が負の制御を受けることを示している。初代ヒト乳腺上皮細胞(HME)および良性の不死化乳房細胞(H16N2)並びに前立腺細胞(RWPEとPrEC)に、アデノウイルスベクター(ベクター)もしくはEZH2またはEZH2ΔSET変異体をコードしているアデノウイルスを48時間感染させた後の (A) ADRB2転写物の発現に関する定量的RT-PCR解析および (B) EZH2、ADRB2、βチューブリンタンパク質免疫ブロット解析。(C) H16N2にコントロールのベクターまたはEZH2で48時間、アデノウイルスを感染させた後のADRB2およびEZH2の蛍光免疫二重染色。(D) EZH2またはコントロールにおけるRNA干渉後の複数の培養細胞株におけるEZH2およびADRB2発現の免疫ブロット解析。(E) 4種の安定したDU145-shEZH2コロニーのADRB2およびEZH2の免疫ブロット解析。(F) EZH2またはコントロールのRNA干渉後、MDA-MB-231およびDU145癌細胞株のEZH2およびADRB2転写物のQRT-PCR解析。n=3、平均値+標準誤差。* t検定によるp<0.01。(G) 前立腺腫瘍標本におけるADRB2およびEZH2発現のQRT-PCR測定。 ADRB2プロモーターがPRC2複合タンパク質およびH3K27トリメチル化(3mH3k27)のマークで占有されることを示している。(A) 従来のChIP-PCR解析によるADRB2プロモーターのEZH2およびSUZ12占有率とH3K27トリメチル化(3mH3k27)レベル。(B) PC3転移性前立腺癌細胞株、(C) 293胚腎細胞株、(D) 3種の転移性前立腺癌組織(MET1〜3)におけるADRB2プロモーターのEZH2、SUZ12、3mH3k27占有率。(E) EZH2のRNA干渉が、EZH2および3mH3k27のADRB2プロモーターへの結合をブロックする。(F) 異所的に発現したEZH2は、ヒストンの脱アセチル化に依存してADRB2遺伝子のプロモーターに結合する。(G) EZH2の異所的な過剰発現により、ADRB2プロモーターにおけるPRC2複合体による占有とH3K27のトリメチル化が上昇し、H3のアセチル化が低下する。(H) 内在性のPRC2複合体は、ADRB2プロモーターを占有し、HDACインヒビターであるSAHAに対する感受性を持つ。(I) SAHA治療経過後のADRB2プロモーターへのPRC2のリクルート。(J) SAHA治療後、ADRB2遺伝子の転写が上方制御された。(K) PRC2阻害化合物DZNepによるADRB2遺伝子転写の顕著な上方制御。 ADRB2の阻害が癌細胞浸潤を引き起こし、良性の前立腺上皮細胞が癌化することを示している。(A-B) 改良基底膜チャンバーアッセイにより、RWPE-shADRB2細胞における浸潤のアッセイを行った。(C) 非浸潤性の良性RWPE上皮細胞において、拮抗剤によるADRB2の不活性化が浸潤の増加を引き起こす。非浸潤性RWPE細胞を、0、1、10 μMいずれかのADRB2特異性拮抗剤ICI 118,551で処理し、浸潤アッセイにより測定した。(D) ADRB2の活性化は、EZH2が媒介する癌細胞浸潤に干渉する。(E-F) ADRB2(RWPEshADRB2)を標的とするshRNAまたはADRB2拮抗剤ICI 118,551のいずれかを通じ、RWPE良性前立腺上皮細胞においてADRB2を阻害することにより、EMTバイオマーカーの発現と細胞接着分子が制御を受ける。 ADRB2の発現が前立腺癌の進行と相関関係を持つことを示している。(A) 安定したDU145-shEZH2(EZH2-/ADRB2+)細胞は、異種移植マウスモデルで腫瘍の成長を阻害した。(B) ADRB2の活性化は、異種移植マウスモデルで腫瘍の成長を阻害する。(C) 6片の良性組織、癌が臨床的に局在する(PCA)7片の組織、6片の転移性前立腺癌(MET)組織を含め、肉眼で解剖した組織のアフィメトリックス・マイクロアレイ解析。(D) レーザーキャプチャー法(LCM)によるADRB2発現に関するcDNAマイクロアレイ解析。(E) 良性前立腺、局在性(PCA)、転移性(MET)前立腺癌におけるADRB2の代表的な免疫染色例。(F) 前立腺癌組織マイクロアレイ解析(TMA)を使い測定したADRB2免疫染色のヒストグラム。(G) カプラン・マイヤー分析により、臨床的に局在するPCAに罹患し、ADRB2の発現が低い(染色が薄く、染色率が低い)患者は、前立腺切除術後の再発の危険性が高いことがわかる(p=0.002)。 遺伝子発現解析により、インビトロとインビボでEZH2転写抑制の推定標的が特定されることを示している。(A) (1) EZH2アデノウイルス(aEZH2)により抑制される遺伝子と (2) EZH2 RNA干渉(siEZH2)により誘導される遺伝子が重複する確率は、偶然よりも高い。(B-F) インビトロでのEZH2の推定標的は、インビボでのヒトの腫瘍および正常組織におけるEZH2の発現と逆の相関関係を持つ。(G) 126遺伝子のインビトロERSの発現データマトリクス。 PC3およびLNCaP前立腺癌細胞におけるSUZ12の部位のゲノムワイド解析を示している。(A) PC3およびLNCaP細胞間でのSUZ12に占有される遺伝子の有意な(フィッシャーの直接確率検定によりp<0.0001)重複を示すベン図。(B) 従来のChIP法を使い、PC3細胞においてチップオンチップで同定される3個のSUZ12標的遺伝子(NAT1、TUBB、ZIC1)の集積が確認された。 EZH2過剰発現後のEZH2およびADRB2のQRT-PCRおよび免疫ブロット解析を示している。(A) 初代ヒト乳腺上皮細胞(HME)および良性の不死化乳房細胞(H16N2)並びに前立腺細胞(RWPEとPrEC)に、アデノウイルスベクター(ベクター)もしくはEZH2またはEZH2ΔSET変異体をコードしているアデノウイルスを48時間感染させた後のADRB2転写物のqRT-PCR解析。(B) ADRB2タンパク質の免疫ブロット解析。(C) 良性の不死化乳房細胞(H16N2)並びに前立腺細胞(RWPEとPrEC)に、デノウイルスベクター(ベクター)もしくはEZH2またはEZH2ΔSET変異体をコードしているアデノウイルスを48時間感染させた後のEZH2、ADRB2、βチューブリンタンパク質濃度の免疫ブロット解析。 ADRB2のノックダウンが、良性RWPE前立腺上皮細胞の増殖に影響を与えないことを示している。 ADRB2のノックダウンが、良性RWPE前立腺上皮細胞における細胞運動性を顕著に上昇させることを示している。 ADRB2の活性化が、DU145およびRWPE-shADRB2細胞における癌細胞の浸潤を阻害することを示している。(A) DU145および (B) RWPE-shADRB2の細胞を、ADRB2アゴニストであるイソプロテレノール0、10、100 μMのいずれかで処理し、細胞浸潤を測定した。(C) DU145前立腺癌細胞をベクターのコントロールまたはEZH2に対するshRNAで処理し、安定したクローンを生育し、細胞浸潤を測定した。 安定したRWPE-shADRB2細胞において、ベクターのコントロールよりも形態の癌化が進んでいることを示している。
定義
本発明を理解しやすくするために、以下のように用語と語句を定義する。
本発明においては、「ADRB2の低発現」という用語は、ADRB2の核酸(例えばmRNAまたはゲノムDNA)またはタンパク質の発現レベルが、正常に観察されるレベルと比較して低いことを意味する。ある態様において、発現が正常な発現レベル(例えば癌以外の組織において)と比較し、最低10%、好ましくは最低20%、一層好ましくは最低50%、それよりも一層好ましくは最低75%、さらに一層好ましくは最低90%、最も好ましくは最低100%、低下している。発現レベルは何らかの適切な方法を使い決定することができ、それは本発明に開示するものを含み、ただし、それらに限定されない。
本発明においては、「手術後の組織」という用語は、外科手技中に被験者から除去された組織を意味する。その例としては、生検試料、切除された器官、切除された器官の部分を含み、ただし、それらに限定されない。
本発明においては、「生検」という用語は、被験者から切除された組織試料を意味する。組織試料は針生検、吸引、擦過、外科器具を用いた切除、等々を含み、ただし、それらに限定されない。
本発明においては、「検出する」、「検出すること」、「検出」という用語はいずれも、検出可能な程度に標識された組成物を発見または識別する全般的な行為か、または特定の観察のいずれかを表す。
本発明においては、「臨床的失敗」という用語は、前立腺切除術後の負の転帰を意味する。臨床的失敗に伴う転帰の例としては、前立腺切除術後のPSA濃度の上昇(例えば、最低0.2 ng ml-1の上昇)または疾患の再発(例えば、転移性前立腺癌)を含み、ただし、それらに限定されない。
「RNA干渉」または「RNAi」という用語は、siNA(「低分子干渉RNA」、「siRNA」、「低分子干渉核酸分子」、「低分子干渉オリゴヌクレオチド分子」、「化学修飾低分子干渉核酸分子」など)による遺伝子発現のサイレンシングまたは低下を意味する。それは動植物における配列特異性の転写後遺伝子サイレンシング過程であり、サイレンシングされる遺伝子の配列と相同の配列を二本鎖領域に持つsiNAにより開始される。遺伝子はその生物にとり内在性と外来性の場合があり、染色体に組み込まれて存在するか、またはゲノムに組み込まれていない形質移入ベクター中に存在する。遺伝子の発現は、完全に阻害されるか、または部分的に阻害される。RNAiも標的RNAの機能を阻害すると考えられる場合がある。標的RNAの機能は完全か、または部分的になる。
「低分子干渉核酸」、「siNA」、「低分子干渉RNA」、「siRNA」、「低分子干渉核酸分子」、「低分子干渉オリゴヌクレオチド分子」、「化学修飾低分子干渉核酸分子」という用語はいずれも、本発明においては、遺伝子発現またはウイルス複製を阻害するか、または下方制御する能力を持つ核酸分子を意味し、例えば、RNA干渉「RNAi」の媒介や、配列特異的な遺伝子サイレンシングなどの方法がある(例えば、以下の文献を参照のこと。Bass, 2001, 5 Nature, 411, 428-429; Elbashir et al., 2001, Nature, 411, 494-498; and Kreutzer et al., International PCT Publication No. WO 00/44895; Zernicka-Goetz et al., International PCT Publication No. WO 01/36646; Fire, International PCT Publication No. WO 99/32619; Plaetinck et al., International PCT Publication No. WO 00/01846; Mello and Fire, International PCT Publication No. WO 01/29058; Deschamps-Depaillette, 10 International PCT Publication No. WO 99/07409; and Li et al., International PCT Publication No. WO 00/44914; Allshire, 2002, Science, 297, 1818-1819; Volpe et al., 2002, Science, 297, 1833-1837; Jenuwein, 2002, Science, 297, 2215-2218; and Hall et al., 2002, Science, 297, 2232-2237; Hutvagner and Zamore, 2002, Science, 297, 2056-60; McManus et al., 2002, RNA, 8, 842-850; Reinhart et al., 2002, Gene & 15 Dev., 16, 1616-1626; and Reinhart & Bartel, 2002, Science, 297, 1831)。ある態様において、siNAは自己相補的なセンス領域とアンチセンス領域を含む二本鎖ポリヌクレオチド分子であり、ここでアンチセンス領域は標的核酸分子またはその一部のヌクレオチド配列に対して相補的なヌクレオチド配列を含み、センス領域は標的核酸配列またはその一部に対応するヌクレオチド配列を持つ。siNAは、1本がセンス鎖、もう1本がアンチセンス鎖であるような2本の別々のオリゴヌクレオチドから構築することができ、ここでアンチセンス鎖とセンス鎖は自己相補的である(つまり、各鎖が他方の鎖のヌクレオチド配列に対して相補的なヌクレオチド配列を含む。例えば、アンチセンス鎖とセンス鎖が約19塩基対の二重鎖つまり二本鎖を形成する二重鎖領域など)。アンチセンス鎖は、標的核酸分子またはその一部のヌクレオチド配列と相補するヌクレオチド配列を含み、センス鎖は標的核酸配列またはその一部と相補するヌクレオチド配列を含む。別の方法として、siNAは単一のオリゴヌクレオチドから構築することができ、ここでsiNAの自己相補的なセンスおよびアンチセンス領域は、核酸または非核酸のリンカーを使い結合される。siNAは二本鎖、非対称二本鎖、ヘアピン様または非対称ヘアピン様二次構造と、自己相補的なセンスおよびアンチセンス領域を持つポリヌクレオチドの形を取ることがあり、ここでアンチセンス領域は別の標的核酸分子またはその一部のヌクレオチド配列に対して相補的なヌクレオチド配列を含み、センス領域は標的核酸配列またはその一部に対応するヌクレオチド配列を持つ。自己相補的なセンスおよびアンチセンス領域を含む2個以上のループ構造とステムを持つ環状一本鎖ポリヌクレオチドであるsiNAもあり、ここでアンチセンス領域は標的核酸分子またはその一部のヌクレオチド配列に対して相補的なヌクレオチド配列を含み、センス領域は標的核酸配列またはその一部に対応するヌクレオチド配列を持ち、環状ポリヌクレオチドは、インビボまたはインビトロで処理され、RNAiを媒介する能力を持つsiNA活性分子が生成される。siNAは標的核酸分子またはその一部のヌクレオチド配列と相補的なヌクレオチド配列を持つ一本鎖ポリヌクレオチドを含む場合があり(例えば、そうしたsiNA分子において、標的核酸配列またはその一部に対して相補的な核酸配列のsiNA内における存在が必要とされない場合)、ここで一本鎖ポリヌクレオチドはさらに、5’-リン酸や(例えば、以下の文献を参照。Martinez et al., 2002, Cell., 110, 563-574 and Schwarz et al., 2002, Molecular Cell, 10, 537-568)5’,3’-二リン酸などの末端リン酸基を含むことがある。特定の実施例では、本発明のsiNA分子は、別々のセンスおよびアンチセンス配列または領域を含み、センスおよびアンチセンス領域は、当該技術分野で知られているように、ヌクレオチドまたは非ヌクレオチドのリンカー分子により共有結合するか、またはそれに代わり、イオン性相互作用、水素結合、ファンデルワールス相互作用、疎水性相互作用、および/またはスタッキング相互作用という非共有結合的な形で結合される。特定の実施例では、本発明のsiNA分子は、標的遺伝子のヌクレオチド配列に対して相補的なヌクレオチド配列を含む。別の実施例では、本発明のsiNA分子は、標的遺伝子の発現の阻害を引き起こす形で、標的遺伝子のヌクレオチド配列と相互作用する。本発明においては、siNA分子はRNAのみを含む分子に限定する必要はなく、さらに、化学修飾ヌクレオチドおよび非ヌクレオチドも包含する。特定の実施例では、本発明の低分子干渉核酸分子は、2’-水酸基(2’-OH)を持つヌクレオチドを欠いている。ある態様において、siNA分子はRNAi媒介のために2’-水酸基を持つ核酸の存在を必要とせず、そのため、本発明の低分子干渉核酸分子は、任意にリボヌクレオチド(例えば、2’-OHを持つ核酸)を含まないことがある。ただし、RNAiを支援するためにsiNA分子内にリボヌクレオチドの存在を必要としないsiNA分子に付着したリンカーや、他の付着または会合した基、部分、鎖が、2’-OH基を持つ1個以上のヌクレオチドを含むことがある。任意に、siNA分子はヌクレオチド位置の約5、10、20、30、40、50%のいずれかの割合で、リボヌクレオチドを含むことがある。本発明の修飾低分子干渉核酸分子は、低分子干渉修飾オリゴヌクレオチド「siMON」と呼ばれることがある。本発明においては、siNAという用語は、配列特異性のRNAiを媒介する能力を持つ核酸分子を記載するために使われる他の用語と同等の意味を持ち、それは例えば低分子干渉RNA(siRNA)、二本鎖RNA(dsRNA)、マイクロRNA(miRNA)、短鎖ヘアピンRNA(shRNA)、低分子干渉オリゴヌクレオチド、低分子干渉核酸、低分子干渉修飾オリゴヌクレオチド、化学修飾siRNA、転写後遺伝子サイレンシングRNA(ptgsRNA)、その他である。それに加え、本発明で使われるRNAiという用語は、転写後遺伝子サイレンシング、翻訳阻害、エピジェネティックスなど、配列特異的なRNA干渉を記載するために使われる他の用語と同等の意味を持つ。例えば、本発明のsiNA分子は、転写後レベルと転写前レベルの両方で、エピジェネティックなサイレンシングのために使うことができる。限定しない一例として、本発明のsiNA分子による遺伝子発現のエピジェネティックな制御は、siNAで媒介されたクロマチン構造の修飾により、遺伝子発現を変えるという形で行われることもある(例えば、以下を参照。Allshire, 2002, Science, 297, 1818-1819; Volpe et aL, 2002, Science, 297, 1833-1837; Jenuwein, 2002, Science, 297, 2215-2218; and Hall et al., 2002, Science, 297, 2232-2237)。
本発明における「非対称ヘアピン」とは、アンチセンス領域、ヌクレオチドまたは非ヌクレオチドを含むループ部分、センス領域を含む直鎖siNA分子を意味し、ここでセンス領域は、アンチセンス領域との塩基対およびループとの二本鎖を形成するために十分な数の相補的ヌクレオチドを持つ範囲内で、アンチセンス領域よりも少ないヌクレオチドを含む。例えば、本発明の非対称ヘアピンsiNA分子は、細胞内またはインビトロ系においてRNAiを媒介するために十分な長さを持つ(例えば約19個から約22個のヌクレオチド)アンチセンス領域と、約4個から約8個のヌクレオチドを含むループ領域、アンチセンス領域と相補的な約3個から約18個のヌクレオチドを持つセンス領域を含むことができる。非対称ヘアピンsiNA分子は、化学修飾が可能な5’-末端リン酸基を含むこともある。非対称ヘアピンsiNA分子のループ部分は、ここに記載するように、ヌクレオチド、非ヌクレオチド、リンカー分子、共役分子を含むことがある。
本発明における「非対称二本鎖」とは、センス領域およびアンチセンス領域を含む2本の別個の鎖を持つsiNA分子を意味し、ここでセンス領域は、アンチセンス領域との塩基対および二本鎖を形成するために十分な数の相補的ヌクレオチドを持つ範囲内で、アンチセンス領域よりも少ないヌクレオチドを含む。例えば、本発明の非対称二本鎖siNA分子は、細胞内またはインビトロ系においてRNAiを媒介するために十分な長さを持つ(例えば約19個から約22個のヌクレオチド)アンチセンス領域と、アンチセンス領域と相補的な約3個から約18個のヌクレオチドを持つセンス領域を含むことができる。
「調節する」とは、遺伝子の発現、1個以上のタンパク質またはタンパク質のサブユニットをコードしているRNA分子または等価のRNA分子のレベル、1個以上のタンパク質またはタンパク質のサブユニットの活性のいずれかに関し、調節する因子が存在しない状況で観察される値よりも、その発現、レベル、活性が高くなるように、または低くなるように、上方制御または下方制御されることを意味する。例えば、「調節する」という用語は、「阻害する」を意味することがあるが、「調節する」という言葉の用途はこの定義に限定されない。
「阻害する」、「下方制御する」、「減少させる」は、遺伝子の発現、1個以上のタンパク質またはタンパク質のサブユニットをコードしているRNA分子または等価のRNA分子のレベル、1個以上のタンパク質またはタンパク質のサブユニットの活性のいずれかが、本発明の核酸分子(例えばsiNA)が存在しない場合に観察される値よりも低くなることを意味する。ある実施例では、siNAが存在する場合の阻害、下方制御、減少が、不活性または減弱した分子の存在下で観察されるレベルよりも低い。別の実施例では、siNAが存在する場合の阻害、下方制御、減少が、例えばスクランブルされた配列またはミスマッチの塩基対があるsiNA分子の存在下で観察されるレベルよりも低い。別の実施例では、本発明のある核酸分子に関し、その核酸分子が存在しない場合よりも存在する場合の方が、遺伝子発現の阻害、下方制御、減少が大きい。
「標的遺伝子」は、RNAをコードする核酸を意味し、例えばポリペプチドをコードする構造遺伝子などの核酸配列を含むが、ただし、それらに限定されない。標的遺伝子は、細胞由来の遺伝子、内在性遺伝子、導入遺伝子、または例えばウイルスのように、感染後に細胞内に存在する病原体の遺伝子のような外来性の遺伝子である。標的遺伝子を含む細胞は、例えば植物、動物、原生生物、ウイルス、細菌、真菌などのいかなる生物にも由来し、または含まれることがある。限定されない例として、植物では、単子葉植物、双子葉植物、裸子植物が含まれる。限定されない例として、動物では、脊椎動物または無脊椎動物が含まれる。限定されない例として、真菌では、カビと酵母が含まれる。
「センス領域」とは、siNA分子のアンチセンス領域に対して相補的なsiNA分子のヌクレオチド配列を意味する。それに加え、siNA分子のセンス領域は、標的核酸配列と相同性を持つ核酸配列を含むことがある。
「アンチセンス領域」とは、標的核酸配列と相補性を持つsiNA分子のヌクレオチド配列を意味する。それに加え、siNA分子のアンチセンス領域は、任意に、siNA分子のセンス領域に対する相補性を持つ核酸配列を含むことがある。
「標的核酸」とは、その発現または活性が調節の対象である核酸配列を意味する。標的核酸は、遺伝子、ウイルス、細菌、真菌、ほ乳類、植物によりコードされる内在性のDNAまたはRNA、ウイルス性のDNAまたはウイルス性のRNA、または他のRNAなどのDNAまたはRNAである。
本発明においては、「遺伝子導入系」とは、核酸配列を含む組成物を細胞または組織に送達する手段を意味する。例えば、遺伝子導入系には、ベクター(例えば、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、その他、核酸を用いる送達方法)、裸の核酸の微量注入、ポリマーを使う送達方法(例えば、リポソームや金属粒子を用いる方法)、微粒子銃、等々があるが、ただし、それらに限定されない。本発明においては、「ウイルス遺伝子導入系」という用語は、目的とする細胞または組織への試料の送達を促進するために、ウイルス要素(例えば、無処置のウイルス、修飾したウイルス、核酸やタンパク質などのウイルスの構成要素)を含む遺伝子導入系を意味する。本発明においては、「アデノウイルス遺伝子導入系」という用語は、アデノウイルス科に分類される無処置または変質させたウイルスを含む遺伝子導入系を意味する。
本発明においては、「部位特異的組換え標的配列」とは、組換え因子の認識配列と組換えが起きる位置を提供する核酸配列を意味する。
本発明においては、「核酸分子」とは、分子を含むあらゆる核酸を意味し、DNAまたはRNAを含むが、ただし、それらに限定されない。この用語はDNAおよびRNAの既知のあらゆる塩基類似体を含む配列を包含し、4-アセチルシトシン、8-ヒドロキシ-N6-メチルアデノシン、アジリジニルシトシン、シュードイソシトシン、5-(カルボキシヒドロキシルメチル)ウラシル、5-フルオロウラシル、5-ブロモウラシル、5-カルボキシメチルアミノメチル-2-チオウラシル、5-カルボキシメチルアミノメチルウラシル、ジヒドロウラシル、イノシン、N6-イソペンテニルアデニン、1-メチルアデニン、1-メチルシュードウラシル、1-メチルグアニン、1-メチルイノシン、2,2-ジメチルグアニン、2-メチルアデニン、2-メチルグアニン、3-メチルシトシン、5-メチルシトシン、N6-メチルアデニン、7-メチルグアニン、5-メチルアミノメチルウラシル、5-メトキシアミノメチル-2-チオウラシル、β-D-マンノシルケオシン、5’-メトキシカルボニルメチルウラシル、5-メトキシウラシル、2-メチルチオ-N6-イソペンテニルアデニン、ウラシル-5-オキシ酢酸メチルエステル、ウラシル-5-オキシ酢酸、オキシブトキソシン、シュードウラシル、ケオシン、2-チオシトシン、5-メチル-2-チオウラシル、2-チオウラシル、4-チオウラシル、5-メチルウラシル、N-ウラシル-5-オキシ酢酸メチルエステル、ウラシル-5-オキシ酢酸、シュードウラシル、ケオシン、2-チオシトシン、2,6-ジアミノプリンを含み、ただし、それらに限定されない。
「遺伝子」という用語は、ポリペプチド、前駆体、またはRNA(例えばrRNA、tRNA)の生成に必要なコード配列を含む核酸(例えばDNA)配列を意味する。ポリペプチドは、コード配列の全長またはコード配列の一部によりコードすることができ、後者の場合、全長または断片の好ましい活性または機能特性(例えば、酵素活性、リガンド結合、シグナル伝達、免疫原性、等々)を維持することを条件とする。この用語は構造遺伝子のコード領域およびコード領域の5’末端と3’末端の両方の隣接する配列も包含し、隣接する配列の長さは各末端で約1 kb以上で、遺伝子はmRNAの全長に相当する。コード領域の5’に位置し、mRNA上に存在する配列は、5’末端非翻訳配列と呼ばれる。3’末端つまりコード領域の下流に位置し、mRNA上に存在する配列は、3’末端非翻訳配列と呼ばれる。「遺伝子」という用語は、cDNAとゲノムの両形態の遺伝子を包含する。ゲノム状の遺伝子またはクローンでは、コード領域の間に断続的に「イントロン」または「介在領域」または「介在配列」と呼ばれる非コード領域が存在する。イントロンは核内RNA(hnRNA)に転写される遺伝子セグメントである。イントロンはエンハンサーなどの制御要素を含む場合がある。イントロンは核内または一次転写物から除去つまり「スプライシングにより切り出される」。このため、イントロンはメッセンジャーRNA(mRNA)転写物中には存在しない。mRNAは翻訳の最中に、新生ポリペプチドのアミノ酸の配列つまり順序を指定するという機能を持つ。
本発明においては、「異種遺伝子」とは、自然な環境内に置かれていない遺伝子を意味する。例えば、異種遺伝子には、ある生物種から別の生物種に移入された遺伝子が含まれる。異種遺伝子には、何らかの方法で変質した生物に由来する遺伝子も含まれる(例えば、突然変異、複数コピーの追加、外来の制御配列との結合など)。異種遺伝子は、自然状態の染色体の遺伝子配列と結びついていないか、または自然には存在しない染色体部分と結びつくDNA配列に(例えば、普通は遺伝子が発現されない座位における遺伝子の発現)、異種遺伝子配列が加えられるという点により、内在性の遺伝子と区別される。
本発明においては、「オリゴヌクレオチド」という用語は、短い一本鎖のポリヌクレオチドを意味する。オリゴヌクレオチドは通常、200残基未満の長さであるが(例えば、15から100)、本発明においては、この用語はそれよりも長いポリヌクレオチド鎖も包含して使われる。オリゴヌクレオチドはしばしば、長さで呼ばれる。例えば、24残基のオリゴヌクレオチドは「24-mer」と呼ばれる。オリゴヌクレオチドは自己または他のポリヌクレオチドとのハイブリダイゼーションにより、二次および三次構造を形成することができる。そうした構造には、二本鎖、ヘアピン、十字型、屈曲、三本鎖などが含まれるが、ただし、それらに限定されない。
本発明においては、「相補的」または「相補性」という用語は、塩基対を作る規則により関連づけられるポリヌクレオチド(つまりヌクレオチドの配列)を指すために使われる。例えば、「5’-A-G-T-3’」という配列は「3’-T-C-A-5’」という配列と相補的である。相補性は部分的な場合があり、その場合、核酸の塩基の一部のみが塩基対を作る規則に従い組み合わされる。または、核酸の間に「完全」または「全面的」な相補性が存在する場合もある。核酸の鎖の間に存在する相補性の度合いは、核酸の鎖の間で起きるハイブリダイゼーションの効率と強度に重大な影響を与える。これは増幅反応において特に重要であり、また、核酸間の結合に依存する検出法にとっても重要である。
「相同性」という用語は、相補性の度合いを意味する。部分相同性または完全相同性(つまり、同一性)がある。部分的に相同な配列は、完全に相補的な核酸分子と標的核酸とのハイブリダイゼーションを、少なくとも部分的に阻害する核酸分子であり、「実質的に相同」である。完全に相補的な配列と標的配列とのハイブリダイゼーションの阻害は、ハイブリダイゼーションアッセイ(サザンブロット法またはノーザンブロット法、溶液ハイブリダイゼーション、等々)を使い、ストリンジェンシーが低い条件で、調べることができる。実質的に相同な配列またはプローブは、ストリンジェンシーが低い条件で、完全に相同な核酸分子と標的との結合(つまりハイブリダイゼーション)と競合し、それを阻害する。このことは、ストリンジェンシー条件が低いため、非特異的な結合が可能になるという意味ではない。低ストリンジェンシー条件では、2つの配列間の結合が、特異的な(つまり選択的な)相互作用であることを必要とする。非特異的結合が存在しないことは、実質的に非相補的である(例えば、同一性が約30%未満)第2の標的を用いて試験することができる。非特異的結合がない状態で、プローブは第2の非相補的標的とハイブリッドを形成しない。
cDNAまたはゲノムクローンなどの二本鎖核酸配列に関連して使われる場合、「実質的に相同」という用語は、前述の低ストリンジェンシー条件において、二本鎖核酸配列の片方または両方の鎖とハイブリッド形成が可能なプローブを意味する。
遺伝子は、一次RNA転写物が異なるスプライシングを受けることにより生成される複数のRNA種を生産することがある。同一遺伝子のスプライスバリアントであるcDNAは、配列同一性または完全相同性(両方のcDNAに同じエクソンまたは同じエクソン部分が存在することを表す)を示す領域、および完全非同一性を示す領域(例えば、cDNA 1にエクソンAが存在し、cDNA 2にはその代わりにエクソンBが含まれることを表す)を含む。2つのcDNAは配列同一性を示す領域を含むため、両方のcDNA上にある配列を含む遺伝子全体または遺伝子部分に由来するプローブとの間で、どちらのcDNAもハイブリッドを形成する。従って、2つのスプライスバリアントは、そのようなプローブに対しても、相互にも、実質的に相同である。
一本鎖核酸配列に関連して使われる場合、「実質的に相同」という用語は、前述の低ストリンジェンシー条件において、一本鎖核酸配列とハイブリッドを形成できる(つまり、それに対して相補的)プローブを意味する。
本発明においては、「ハイブリダイゼーション」という用語は、相補的な核酸で対を作ることに関連して使われる。ハイブリダイゼーションおよびハイブリダイゼーションの強度(つまり、核酸間の会合の強度)は、核酸間の相補性の度合い、用いられる条件のストリンジェンシー、形成されるハイブリッドのTm、核酸内のG:C比などの因子による影響を受ける。単一の分子で、その構造内に相補的核酸の対ができている場合は、「自己ハイブリダイゼーション」と呼ぶ。
本発明においては、「ストリンジェンシー」という用語は、温度、イオン強度、および有機溶媒を含む他の化合物の存在という、核酸のハイブリダイゼーションが行われる条件に関連して使われる。「低ストリンジェンシー条件」において、注目される核酸配列は、それと厳密に相補的な配列、一塩基ミスマッチがある配列、緊密に関連する配列(例えば、90%以上の相同性を持つ配列)、部分的な相同性しか持たない配列(例えば、50〜90%の相同性の配列)との間でハイブリッドを形成する。「中ストリンジェンシー条件」において、注目される核酸配列は、それと厳密に相補的な配列、一塩基ミスマッチがある配列、緊密に関連する配列(例えば、90%以上の相同性)との間でのみハイブリッドを形成する。「高ストリンジェンシー条件」において、注目される核酸配列は、それと厳密に相補的な配列、一塩基ミスマッチがある配列(温度などの条件に依存する)との間でのみハイブリッドを形成する。言い換えると、高ストリンジェンシー条件においては、温度を上げ、一塩基ミスマッチのある配列とのハイブリダイゼーションを排除することができる。
核酸のハイブリダイゼーションに関連して使われる場合、「高ストリンジェンシー条件」は、約500ヌクレオチドの長さのプローブを使う時、5X SSPE(43.8 g/l NaCl、6.9 g/l NaH2PO4 H2O、1.85 g/l EDTA、NaOHでpHを7.4に調整)、0.5% SDS、5Xデンハート試薬、100 μg/ml変性サケ精子DNAで構成した溶液中で、42℃で結合またはハイブリダイゼーションを行った後、0.1X SSPE、1.0% SDSを含む溶液中で、42℃で洗浄することと同等の条件を含む。
核酸のハイブリダイゼーションに関連して使われる場合、「中ストリンジェンシー条件」は、約500ヌクレオチドの長さのプローブを使う時、5X SSPE(43.8 g/l NaCl、6.9 g/l NaH2PO4 H2O、1.85 g/l EDTA、NaOHでpHを7.4に調整)、0.5% SDS、5Xデンハート試薬、100 μg/ml変性サケ精子DNAで構成した溶液中で、42℃で結合またはハイブリダイゼーションを行った後、1.0X SSPE、1.0% SDSを含む溶液中で、42℃で洗浄することと同等の条件を含む。
核酸のハイブリダイゼーションに関連して使われる場合、「低ストリンジェンシー条件」は、約500ヌクレオチドの長さのプローブを使う時、5X SSPE(43.8 g/l NaCl、6.9 g/l NaH2PO4 H2O、1.85 g/l EDTA、NaOHでpHを7.4に調整)、0.1% SDS、5Xデンハート試薬[50Xデンハート試薬は500 mlあたり5gフィコール(タイプ400、Pharmacia)、5g BSA(フラクションV、Sigma)を含む]、100 μg/ml変性サケ精子DNAで構成した溶液中で、42℃で結合またはハイブリダイゼーションを行った後、5X SSPE、0.1% SDSを含む溶液中で、42℃で洗浄することと同等の条件を含む。
当該技術分野でよく知られているように、低ストリンジェンシー条件を作るために採用できる多数の同等の条件がある。プローブの長さと性質(DNA、RNA、塩基組成)および標的の性質(DNA、RNA、塩基組成、溶液中に存在するか、あるいは固定するか、等々)、塩類その他の成分(例えば、ホルムアミド、デキストラン硫酸、ポリエチレングリコール)の濃度などの要因が考慮され、上に掲げた条件とは異なるが、同等であるような低ストリンジェンシーのハイブリダイゼーション条件を生むために、ハイブリダイゼーション溶液を変えることがある。それに加え、高ストリンジェンシー条件においてハイブリダイゼーションを促進する条件が、当該技術分野で知られている(例えば、ハイブリダイゼーションと洗浄段階の両方または片方の温度を上げること、ハイブリダイゼーション溶液でのホルムアミドの使用、等々)(前述の「ストリンジェンシー」の定義を参照)。
本発明においては、「増幅オリゴヌクレオチド」とは、標的核酸またはそれと相補的な核酸との間でハイブリッドを形成し、核酸増幅反応に加わるオリゴヌクレオチドを意味する。増幅オリゴヌクレオチドの一例である「プライマー」は、増幅プロセスで鋳型の核酸とハイブリッドを形成し、ポリメラーゼにより、3’OH末端の伸長が起きる。増幅オリゴヌクレオチドの別の例として、ポリメラーゼによる伸長は起きないが(例えば、3’がブロックされた末端を持つ、など)、増幅に加わるか、または増幅を促進するオリゴヌクレオチドがある。増幅オリゴヌクレオチドは、増幅反応に参加するが、標的核酸と相補的ではないか、標的核酸に含まれない修飾ヌクレオチドまたは類似体、または追加のヌクレオチドを任意に含む場合がある。増幅オリゴヌクレオチドは、標的または鋳型の配列と相補的ではない配列を含む場合がある。例えば、プライマーの5’領域は、標的核酸に対して非相補的なプロモーター配列を含むことがある(以下、「プロモータープライマー」と呼ぶ)。当業者の間で知られているように、プライマーとして機能する増幅オリゴヌクレオチドを、5’プロモーター配列を持つように修飾し、プロモータープライマーとして機能させることができる。同様に、プロモータープライマーは、プロモーター配列の除去またはプロモーター配列を伴わない合成により修飾した場合も、プライマーとして機能する。3’末端をブロックされた増幅オリゴヌクレオチドは、プロモーター配列を提供し、重合の鋳型の役割を果たす場合がある(以下、「プロモータープロバイダー」と呼ぶ)。
本発明においては、「プライマー」という用語は、精製制限酵素ダイジェストとして自然に存在するか、合成により作製されたかを問わず、核酸鎖に対して相補的なプライマー伸長産物の合成が誘導される条件に置かれた時(つまり、ヌクレオチドおよびDNAポリメラーゼなどの誘導因子が存在し、適切な温度とpHであるような条件)、合成の開始部位として働く能力を持つオリゴヌクレオチドを意味する。増幅で最大の効率を上げるには、プライマーは一本鎖であることが好ましいが、一本鎖ではなく二本鎖の場合もある。二本鎖の場合、プライマーは伸長産物の合成に使用するために、最初に二本の鎖を切り離す処理を受ける。プライマーはオリゴデオキシリボヌクレオチドであることが好ましい。プライマーは、誘導因子の存在下で伸長産物の合成を引き起こすために十分な長さを必要とする。プライマーの正確な長さは、温度、プライマーの供給源、手法の使用など、多数の要因に依存する。
本発明においては、「プローブ」という用語は、精製制限酵素ダイジェストとして自然に存在するか、合成的に、または組換えにより、またはPCR増幅により、作製されたかを問わず、注目される別のオリゴヌクレオチドの少なくとも一部とハイブリッドを形成する能力を持つオリゴヌクレオチドを意味する。プローブは一本鎖または二本鎖の形を取る。プローブは特定の遺伝子配列の検出、同定、単離に有用である。本発明で使われるプローブに対しては、酵素(例えばELISAおよび酵素を用いる組織化学的アッセイなど)、蛍光、放射性物質、発光剤を使うシステムを含め、但し、それらに限定されず、いかなる検出システムにおいても検出可能であるよう、「レポーター分子」によるラベリングを計画している。本発明を特定の検出システムまたはラベルに限定することは意図していない。
「単離オリゴヌクレオチド」や「単離ポリヌクレオチド」など、核酸に関して使用する場合、「単離」という用語は、核酸配列に関し、その自然な供給源で普通に結びついている最低1個の構成成分または夾雑物から同定され、分離された状態を意味する。単離核酸は、自然に見られるものとは異なる形態または状況で存在する。それと対照的なのは非単離核酸であり、それらは自然に存在する状態で見られるDNAやRNAである。例えば、一定のDNA配列(例えば遺伝子)が、ホスト細胞の染色体上で、隣接する遺伝子の近くに見つかる。細胞中には、特定のタンパク質をコードしている特定のmRNA配列などのRNA配列が、複数のタンパク質をコードする他の多数のmRNAと混合している。しかし、一定のタンパク質をコードする単離核酸の場合、例を挙げて説明すると、細胞中で普通にそのタンパク質を発現する核酸が、自然な細胞においてとは異なる染色体上の座位に存在するか、または自然とは異なる核酸配列に囲まれて存在する。単離された核酸、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチドは、一本鎖または二本鎖の形を取る。単離された核酸、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチドを使い、タンパク質を発現しようとする場合、そのオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドは、最低限、センス鎖つまりコードしている鎖(つまり、そのオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドは一本鎖)を含むが、センス鎖とアンチセンス鎖の両方を含むこともできる(つまり、そのオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドは二本鎖)。
本発明においては、「精製された」または「精製する」という用語は、試料から構成成分(夾雑物)を除去することを意味する。例えば、抗体は混入している免疫グロブリン以外のタンパク質を除去することにより精製される。また、標的分子と結合しない免疫グロブリンを除去することによっても精製される。免疫グロブリン以外のタンパク質の除去、標的分子と結合しない免疫グロブリンの除去の両方または片方により、試料中の標的と反応する免疫グロブリンの比率が上昇する。別の例では、組換えポリペプチドが細菌ホスト細胞中で発現され、ポリペプチドはホスト細胞のタンパク質を除去することにより精製される。その結果、試料中の組換えポリペプチドの比率が上昇する。
発明の詳細な説明
本発明は癌の診断、研究、療法を目的とする組成物および方法に関連し、組成物および方法として癌マーカーを含むが、ただし、それらに限定されない。特に、本発明は癌のADRB2マーカーに関連する発明である。
ポリコームグループ(PcG)タンパク質は、細胞の同一性を維持するために重要な転写抑制因子であり、その最も有名な標的は分節化ボディープランの各部の同一性を制御するホメオティック遺伝子である(Ringrose and Paro, Annu Rev Genet 38, 413-443 [2004])。PcGの標的遺伝子は、まず特異的転写制御因子により抑制を受ける。その後、クロマチン構造のエピジェネティックな修飾を通じ、PcGタンパク質により、この抑制が維持され、細胞の各新世代に受け継がれる(Mulholland et al., Genes Dev 17, 2741-2746 [2003])。ヒトとマウスの胚性幹細胞において、PcGタンパク質は、通常は分化を促進する発生に関わる転写因子を抑制することにより、多能性と可塑性に寄与する(Boyer et al., Nature 441, 349-353 [2006]; Lee et al., Cell 125, 301-313 [2006])。分化の最中に、PcG標的遺伝子が選択的に活性化され、細胞は特殊化した細胞型に移行する(Rank et al., Mol Cell Biol 22, 8026-8034 [2002])。こうした細胞中のPcGタンパク質の調節不全により、転写の記憶が妨害を受け、分化が抑制されるという、癌に特徴的な現象が起きる(Francis and Kingston, Nat Rev Mol Cell Biol 2, 409-421 [2001])。
PcGタンパク質は多タンパク質ポリコーム抑制複合体(PRC)という形態で機能する。PRCにはPRC1とPRC2という最低2種のタイプがある(Levine et al., Mol Cell Biol 22, 6070-6078 [2002])。これら2種の複合体はエピジェネティックなサイレンシングを維持するために、協調して機能する。PRC1は標的プロモーターへの最初の結合に不可欠なPRC2に依存している(Rastelli et al., Embo J 12, 1513-1522 [1993])。PRC2の主な構成要素はSUZ12(Zest 12の抑制因子)、EED(胚の外胚葉の発生)、EZH2(Zest 2の転写促進因子)などである((Kirmizis et al., Genes Dev 18, 1592-1605 [2004])。EZH2はヒストンメチルトランスフェラーゼ(HMTase)で(Cao et al., Science 298, 1039-1043 [2002]; Kirmizis et al., 2004, 上記参照; Kuzmichev et al., Genes Dev 16, 2893-2905 [2002])、ヒストンH3リジン27(H3K27)を特異的にメチル化し、標的遺伝子の発現を抑制する(Czermin et al., Cell 111, 185-196 [2002]; Kirmizis et al., 2004, 上記参照)。前立腺癌(PCA)におけるPcGサイレンシングの研究により、このメチル化がEZH2のSETドメインにより媒介され、ヒストン脱アセチル化酵素活性を必要とすることが示された(Varambally et al., Nature 419, 624-629 [2002])。
EZH2の調節不全は、リンパ腫、乳癌、前立腺癌など、数種類の癌と関連づけられている((Bracken et al., Genes Dev 20, 1123-1136 [2003]; Varambally et al., [2002], 上記参照; Visser et al., Br J Haematol 112, 950-958 [2001])。さらに、EZH2は侵襲性の上皮腫のマーカーとして同定され、その上方制御と悪い予後との間には相関関係がある(Bachmann et al., J Clin Oncol 24, 268-273 [2006]; Collett et al., Clin Cancer Res 12, 1168-1174 [2006]; Matsukawa et al., Cancer Sci 97, 484-491 [2006]; Raaphorst et al., Neoplasia 5, 481-488 [2003])。例えば、転移性前立腺癌におけるEZH2の発現は、臓器限局性の前立腺腫瘍と比べ、有意に高い(Kleer et al., Proc Natl Acad Sci U S A 100, 11606-11611 [2003]; Varambally et al., [2002], 上記参照)。さらに、高水準のEZH2を発現する臨床的限局性前立腺癌は、悪い臨床的転帰につながる傾向がある(Varambally et al., [2002], 上記参照)。機能面の研究により、EZH2が真の癌遺伝子であることが実証されている。RNA干渉によるEZH2タンパク質の阻害は、複数の骨髄腫細胞(Croonquist and Van Ness, Oncogene 24, 6269-6280 [2005])並びにTIG3二倍体ヒト繊維芽細胞(Bracken et al., Embo J 22, 5323-5335 [2003])の成長を抑制する。それに対し、EZH2の異所性過剰発現は、インビトロで細胞の増殖と浸潤を促進し(Bracken et al., [2003], 上記参照; Kleer et al., [2003],上記参照; Varambally et al., [2002], 上記参照)、インビボで異種移植による腫瘍の成長を誘導する(Croonquist and Van Ness, [2005], 上記参照)。EZH2のこうした発癌機能の一部は、EZH2のSETドメインを必要とすることが判明しており、ヒストンの修飾とエピジェネティックなサイレンシングが関与するメカニズムが示唆される。本発明は特定のメカニズムに限定されない。それどころか、メカニズムを理解することは、本発明の実施には必要ではない。ただし、以上の事実により、EZH2が腫瘍の抑制における役割を持ち、重要な標的遺伝子の抑制を通じて腫瘍形成を誘導するものと推論される。
本発明の開発中に実施した実験において、ゲノムの統合的解析により、ゲノムワイドの発現と位置データから、癌に関係する直接のEZH2標的遺伝子を同定した。同定された標的遺伝子の1つがADRB2(アドレナリン受容体ベータ2)である。
ADRB2はβアドレナリン受容体シグナル経路のGタンパク質共役受容体(GPCR)である。ADRB2のリガンド結合でGタンパク質のサブユニットが解離し、幅広い細胞プロセスに不可欠な第2のメッセンジャーである環状アデノシン一リン酸(cAMP)の細胞内でのレベルが上昇する(Bos, Curr Opin Cell Biol 17, 123-128 [2005])。特に、cAMP依存性のタンパク質キナーゼA(PKA)は、複数のメカニズムにより細胞の成長を制御し、そのメカニズムの1つとして、マイトジェン活性化タンパク質キナーゼ(MAPK)(細胞外シグナル制御キナーゼ(ERK)とも呼ばれる)カスケードがある(Bos et al., Nat Rev Mol Cell Biol 2, 369-377 [2001]; Stork and Schmitt, Trends Cell Biol 12, 258-266 [2002])。それに加え、最近同定されたcAMPエフェクターRap 1は、RasスーパーファミリーのGTPaseであり、ERKリン酸化に対し、従って細胞増殖に対し、PKA非依存性の影響を与える。さらに、Rap 1の活性化は、細胞の接着と細胞の形質転換を制御することが判明している(Price et al., J Biol Chem 279, 35127-35132 [2004])。しかし、前立腺癌の進行におけるβアドレナリン受容体シグナル経路の役割に関しては、研究が行われていない。本発明の開発中に実施した実験において、前立腺癌細胞中のADRB2の活性化は、インビトロでEZH2により誘導された細胞浸潤および上皮間葉転換を抑制し、インビボの齧歯類モデルで腫瘍成長を減少させることが判明した。
EZH2の発現を実験的に変えたインビトロの研究と、腫瘍マイクロアレイ解析によるインビボの研究で、統合的計算解析の結果、EZH2とADRB2の転写レベルの間に逆の相関関係が示された。EZH2アデノウイルス過剰発現、siRNA、shRNAを使い、複数の前立腺および乳房の細胞系において、EZH2がmRNAレベルとタンパク質レベルの両方でADRB2を抑制することが確認された。
また、EZH2がH3K27のメチル化を介して標的遺伝子の発現を抑制することを実証する証拠もある(Cao et al., Science 298, 1039-1043 [2002])。ゲノムワイド位置解析では、PRC2複合体が占有する遺伝子プロモーターの過半数が、やはりH3K27の部分でトリメチル化されたヌクレオソームを含むことが明らかになった(Boyer et al., Nature 441, 349-353 [2006]; Bracken et al., Genes Dev 20, 1123-1136 [2006]; Lee et al., Cell 125, 301-313 [2006])。これらと一致する結果として、本発明の開発中に実施した実験において、ADRB2プロモーターにおけるPRC2の結合とH3K27のトリメチル化が起きることが確認された。さらなる実験により、PRC2複合体タンパク質が転写開始部位の約0.5kbと2kb上流でADRB2プロモーターを占有し、近くのヌクレオソームのH3K27がトリメチル化されていることが実証された。ADRB2のPRC2による占有は、複数の株化細胞系で確実に検出された。調べた3点の転移性組織中3点で、ADRB2プロモーター上でのH3K27のトリメチル化が観察され、転移性PCAにおけるADRB2のエピジェネティックなサイレンシングが示された。
それに加え、この研究は、EZH2がPRC2のリクルートと、ADRB2遺伝子プロモーターにおけるH3K27のトリメチル化に必要であることを示している。結果からは、HDAC阻害剤がこのプロセスをブロックする可能性があることも判明した。この観察は、EZH2が媒介する転写抑制にHDAC活性が必要であることを示した以前の知見(Varambally et al., [2002], 上記参照)に対するメカニズムを提示している。これらの結果は、HDAC阻害剤がEZH2過剰発現による腫瘍の患者に対する治療薬として使用できるという結論を裏付けるものである。
ADRB2は、よくGPCRと呼ばれる7回膜貫通型受容体の一種である。ADRB2へのリガンド結合は、Gタンパク質との親和性を大幅に上昇させ、複数のメカニズムを介して細胞の成長と形態形成を調節する細胞内cAMPのレベルを引き上げる(Daaka, Sci STKE 2004, re2 [2004]; deRooij et al., Nature 396, 474-477 [1998])。βアドレナリン受容体シグナル伝達の特徴は、一部の細胞型では細胞増殖を阻害し、別の細胞型では細胞成長を刺激する能力である(Stork and Schmitt, Trends Cell Biol 12, 258-266 [2002])。細胞型に依存して、ADRB2とcAMPは、細胞の増殖と分化を活性化するか、あるいは阻害するシグナルを伝達する(Schmitt and Stork, [2002], 上記参照)。細胞増殖と関連するcAMPの標的として最も確実に定義されているのがERKである。ERKは細胞型に依存する形で、cAMPシグナリングにより、活性化か阻害のいずれかを受ける(Crespo et al., J Biol Chem 270, 25259-25265 [1995])。例えば、構成的に活性化されたGαは、Raf-1の活性化をブロックすることにより、ERKの成長因子活性化を阻害し、NIH3T3とRat 1繊維芽細胞のRas依存性の増殖を阻害する(Cook and McCormick, Science 262, 1069-1072 [1993])。他の多様な細胞型で、cAMPはGβγサブユニットとB-rafにより、ERKを活性化する(Crespo et al., [1995], 上記参照; Daaka, Sci STKE 2004, re2 [2004])。
前立腺癌におけるADRB2のEZH2抑制が機能的にどのような意味を持つかを理解するために、βアドレナリン受容体シグナル伝達の役割をPCAモデル系で研究した。イソプロテレノール処理により、細胞の浸潤が減少するのに対し、ADRB2の不活性化またはノックダウンは細胞の浸潤を誘導することが観察され、前立腺癌の進行においてβアドレナリン受容体シグナル伝達が持つ阻害的役割を裏付けた。このことは、cAMP活性化状態のRap 1が、形態形成、遊走、腫瘍浸潤などのインテグリン依存性プロセスを制御することを示した最近の研究結果とも一致する(Bos et al., Nat Rev Mol Cell Biol 2, 369-377 [2001])。Rap 1の活性化を通じ、増加したcAMPがインテグリンとEカドヘリンを調節することにより、細胞の接着を誘導する(Bos, Curr Opin Cell Biol 17, 123-128 [2005])。EZH2に対するβアドレナリン受容体シグナル伝達の役割は、ADRB2の活性化がEZH2に媒介される細胞浸潤をレスキューすることを示すことにより、関連づけられた。
Rap 1は当初、Ras依存性のRaf-1へのシグナル伝達を阻害することによるNIH3T3における形質転換抑制因子として同定された(Kitayama et al., Cell 56, 77-84 [1989])。連続的に活性を示すRap 1により、間葉系のRas形質転換メイディン・ダービー・イヌ腎臓細胞が上皮系の表現型に逆転する(Price et al., J Biol Chem 279, 35127-35132 [2004])。それと一致する結果として、EZH2の発現、従ってADRB2/Rap 1機能の潜在的抑制が、活性化Ras増殖表現型に必要とされる(Croonquist and Van Ness, Oncogene 24, 6269-6280 [2005])。さらに最近、EZH2の低分子RNA干渉が、U2OS繊維芽細胞で、DNA合成を阻害し、形態的変化を誘導することが判明した(Bracken et al., Embo J 22, 5323-5335 [2003])。ADRB2の上流と下流両方の制御因子が細胞の形質転換と関連することが、このプロセスにおけるADRB2の役割を示唆している。本発明の開発中に実施した実験では、ADRB2の発現を構成的に阻害すると、前立腺細胞がEMTに特徴的な細胞的および分子的変化を示すことが実証された。それに加え、ADRB2の拮抗薬による不活性化が同等のEMT効果を起こし、これも、前立腺細胞の形質転換を防ぐためにβアドレナリン受容体シグナル伝達が必要であることを示すさらなる証拠である。さらに、ADRB2の活性化は、EZH2過剰発現細胞におけるEMTに特徴的な分子的変化を完全に逆転させることができる。本発明は特定のメカニズムに限定されない。それどころか、メカニズムを理解することは、本発明の実施には必要ではない。ただし、これらの結果は、βアドレナリン受容体シグナル伝達のサイレンシングが、EZH2に媒介される腫瘍形成のためのメカニズムを提供することを実証していると考えられる。
最近、EZH2がインビボで癌遺伝子として作用し、EZH2の過剰発現が、ヌードマウスにおいて異種移植腫瘍形成を引き起こすことが示された(Croonquist and Van Ness, [2005], 上記参照)。さらに、EZH2の触媒活性は、インビトロの細胞形質転換に、インビボの腫瘍形成に必要であり、このプロセスにおけるEZH2に媒介されるメチル化と転写抑制の役割が示唆された。本発明の開発中に実施した実験は、EZH2の発現を阻害したDU145細胞で腫瘍が発生せず、コントロールの細胞では発生することを実証した。EZH2の標的遺伝子ADRB2が、インビボで同様の機能を持つかどうかを調べた。これらと一致する結果として、DU145細胞中のADRB2受容体を刺激することにより、異種移植腫瘍増殖が阻害されることが判明した。
卵巣癌などの他の細胞型では、慢性的なストレスによる腫瘍増殖が報告されており、Gα/PKAとGβ/MMP経路が同時に関与する可能性が考えられる(Thaker et al., Nat Med 12, 939-944 [2006])。この違いの原因としては、βアドレナリン受容体シグナル伝達の細胞型特異性の刺激または阻害効果が考えられる。DU145並びにRWPE細胞で、インビトロとインビボの両方のアッセイ法を使い、ADRB2の活性化が細胞増殖と浸潤において阻害的役割を果たすことが示されている。また、ADRB2の不活性化と共に、CREBのリン酸化も低下することが観察された。CREBのリン酸化は、PKA活性化に関するコントロールとして普通に使われているため、この結果はGαs-PKAが関与する阻害経路を示している。古典的なモデルで、cAMPのERKを刺激する役割には、しばしばGβγサブユニットが介在するのに対し、ERKを阻害する役割には、Gα経路が介在する(Crespo et al., [1995], 上記参照; Daaka, [2004], 上記参照; Stork and Schmitt, [2002], 上記参照)。GPCRの刺激により放出されるGβγ二量体は、マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)の活性化を誘導し、それがERKのRas依存性活性化を促進する。本発明の開発中に得たデータは、ADRB2の不活性化がERKのリン酸化を阻害することを示し、これはβアドレナリン受容体シグナル伝達の阻害的役割をさらに裏付けている。それに加え、cAMPの抗増殖性効果には、細胞周期の調節など、他のメカニズムも介在することがあり(Bos et al., Biochem Soc Trans 31, 83-86 [2003]; Kuiperij et al., Oncogene 24, 2087-2095 [2005])、この場合、ERKの阻害なしに、あるいはERKを活性化しても起きる。最近の研究では、腫瘍細胞が病変形成の過程の早期に、広範囲な部位に播種することが示されている。転移性の病変部を形成するには、第2の部位に落ち着いた播種細胞が、そこで遭遇する異質なマイクロ環境に適応することにより、生き残り、増殖しなければならない(Vander Griend and Rinker-Schaeffer, Sci STKE 2004, pe3 [2004])。この増殖の1つの要素が、ストレスにより誘導されるアポトーシスの抑制である。S49リンパ腫細胞で、βアドレナリン/cAMPに媒介されるシグナル伝達が、GαとPKAを介してアポトーシスを誘導する(Yan et al., Am J Physiol Cell Physiol 279, C1665-1674 [2000])。本発明の開発中に実施した実験では、イソプロテレノールで前処理したDU145細胞をマウスに注入し、その後1日1回、イソプロテレノールを腹腔内に注射した。
転写産物プロファイリングおよび組織マイクロアレイの免疫染色を使い、転移性前立腺癌において、ADRB2の発現が大幅に下方制御されていることが示された。前立腺癌の進行に関する予後のバイオマーカーとして、ADRB2タンパク質レベルが臨床的に有用であるかどうかを試験するために、前立腺切除術後のADRB2と生化学的再発の関連性を評価した。ADRB2の発現レベルが低いことと、PSA再発との有意な関連性が判明した。これらの知見は、臨床的転帰を予測し、侵襲的な前立腺癌の危険性が高い患者を選択するために、ADRB2が役立つことを裏付けている。これらの結果は、前立腺癌の進行におけるADRB2に媒介されたcAMPシグナル伝達の阻害的役割と一致する。82点の原発性並びに転移性前立腺腫瘍標本の解析により、ERKの活性化(βアドレナリン受容体シグナル伝達の低下による影響である可能性がある)が前立腺癌の進行と関連づけられている(Gioeli et al., Cancer Res 59, 279-284 [1999])。
要約すると、統合的ゲノム解析により、ADRB2をEZH2転写抑制の直接の標的として同定し、腫瘍形成におけるEZH2の機能に関連する最初のPcG標的を提示した。また、ポリコームグループのサイレンシングとβアドレナリン受容体シグナル経路の機能的関連性を初めて実証した。本研究は、細胞湿潤の調整、形質転換、腫瘍増殖においてADRB2が果たす直接的な役割を定義し、それがRasに媒介されるPKAとRap 1を通じたERK活性化の阻害によるものである可能性を示した(図8)。また、ADRB2がインビボで前立腺癌の進行と関連することも実証した。臨床的には、ヒト前立腺癌標本におけるADRB2染色により、予後のバイオマーカーとして、また、侵襲性の癌患者(ADRB2のレベルが低い患者)を特定するために、ADRB2レベルを使用できることが示された。
I. 癌マーカー
本発明の実施例の開発中に実施した実験で、上皮(例えば前立腺や乳房)癌においてADRB2が低発現していることが同定された。このため、本発明では、直接または間接にADRB2の低発現を検出するDNA、RNA、タンパク質に基づく診断法を提供する。本発明の実施例では、診断を目的とする組成物およびキットも提供する。
本発明の診断法は定性的または定量的である。定量的診断法は、例えばカットオフまたは閾値のレベルを使い、低悪性度の癌と侵襲性の癌を区別するために使うことができる。適用可能な場合、定性的または定量的な診断法には、標的、シグナル、中間体増幅を含む場合がある(例えばユニバーサルプライマー)。
A. 試料
ADRB2の低発現を含むと疑われる患者の試料は、本発明の方法に従い検査される。これらに限定しないが、例として、試料としては組織(例えば乳房生検試料や術後の組織)、血液、尿、またはその一部(例えば血漿、血清、尿の上澄み、尿の細胞ペレット、乳腺細胞)などがある。好ましい態様では、試料は生検(例えば針生検、吸引生検、外科的生検)により、または術後(例えば前立腺生検、乳腺腫瘍摘出術、乳房切除術)に得られる組織試料である。
ある態様において、患者の試料は、ADRB2またはADRB2を含む細胞の試料を単離するか、または濃縮することを意図した予備処理を受ける。当業者の間で知られる多様な技法を、この目的のために使用することができ、それには遠心分離、免疫捕捉、細胞溶解、核酸標的捕捉が含まれ、ただし、それらに限定されない(例えば、EP特許第1 409 727号を参照のこと。この特許は全文がこの参照により組み入れられる)。
B. DNAとRNAの検出
ある態様において、ADRB2の低発現はmRNAまたはゲノムDNAとして検出され(例えばコピー数の減少)、そのために当業者の間で知られる多様な核酸関係の技法を使用することができ、それには核酸配列決定、核酸ハイブリダイゼーション、核酸増幅などが含まれ、ただし、それらに限定されない。
1. 配列決定
これらに限定しないが、核酸配列決定法の代表的な例として、チェーンターミネーター(Sanger)配列決定法とダイターミネーター配列決定法がある。当業者の間で知られるように、RNAは細胞中での安定性が低く、ヌクレアーゼの攻撃を受けやすいため、実験において通常、RNAは配列決定前に、DNAに逆転写される。
チェーンターミネーター配列決定法では、修飾ヌクレオチドを基質として使い、DNA合成反応を配列特異的に終わらせる。伸長は鋳型DNAの特異的部位で開始され、その領域の鋳型に対して相補的な短いオリゴヌクレオチドプライマーを、放射性物質またはその他の方法で標識して使う。オリゴヌクレオチドプライマーの伸長は、DNAポリメラーゼ、標準の4種のデオキシヌクレオチド塩基、低濃度のチェーンターミネーターのヌクレオチド(最もよく使われるのはジデオキシヌクレオチド)を使って行う。この反応を4本の試験管で、各塩基を順番にジデオキシヌクレオチドとして使って繰り返す。チェーンターミネーターのヌクレオチドが、DNAポリメラーゼにより限定的に取り込まれることにより、特定のジデオキシヌクレオチドが使われた位置でのみ停止された一連の関連性のあるDNA断片が得られる。反応用試験ごとに、板状のポリアクリルアミドゲルまたは高粘性のポリマー溶液を充填した毛細管を使い、電気泳動で断片を分離する。ゲルの上から下の方向へ、標識したプライマーにより視覚化されたマークが見える列を読み取り、配列を決定する。
一方、ダイターミネーター配列決定法では、ターミネーターを標識する。ジデオキシヌクレオチドのチェーンターミネーター各々を、異なる波長で蛍光を出す別々の蛍光色素で標識することにより、1回の反応で完全な配列決定を行うことができる。
2. ハイブリダイゼーション
これらに限定しないが、核酸ハイブリダイゼーション方法の例として、インサイチュハイブリダイゼーション(ISH)、マイクロアレイ、サザンブロット、ノーザンブロットなどがあるが、ただし、それらに限定されない。
インサイチュハイブリダイゼーション(ISH)は、組織の一部または切片(インサイチュ)または組織が十分小さい場合は組織全体(ホールマウントISH)中で、特定のDNAまたはRNA配列の分布を検出するプローブとして、標識した相補的なDNAまたはRNAを使うタイプのハイブリダイゼーションである。DNA ISHは染色体の構造を決定するために使うことができる。RNA ISHは組織切片またはホールマウント中のmRNAまたは他の転写産物を測定し、分布を検出するために使う。通常、標的転写産物を一箇所にとどめ、プローブによるアクセスを容易にするために、試料の細胞と組織は処理を受ける。高温下でプローブと標的配列とのハイブリダイゼーションを行った後、残ったプローブを洗い流す。放射性物質、蛍光、抗体で標識した塩基により標識されたプローブの組織内での分布と量を、それぞれ順に、オートラジオグラフィー、蛍光顕微鏡法、免疫組織化学的検査を使い、決定する。ISHでは、放射性または非放射性標識で標識した複数のプローブを使い、複数の転写産物を同時に検出することもできる。
2.1 FISH
ある態様において、蛍光インサイチュハイブリダイゼーション(FISH)を使い、ADRB1の配列を検出している。本発明に関して好ましいFISHアッセイは、バクテリア人工染色体(BAC)を使用する。これはヒトゲノム配列決定プロジェクト(Nature 409: 953-958 (2001) を参照)で幅広く使われており、特定のBACを含むクローンが、NCBIなどの多数の情報源を通じて見つけることができる販売会社から入手可能である。ヒトゲノム由来の各BACクローンには、曖昧さのないように特定できる基準名が与えられている。これらの名称を使い、対応するGenBankの配列を見つけ、販売会社からクローンのコピーを注文することができる。
FISHを実行するための特定の手順は、当該技術に関してよく知られており、本発明に容易に応用できる。方法に関するガイダンスは、以下の文献をはじめ、多数の参考文献で読むことができる。In situ Hybridization: Medical Applications (eds. G. R. Coulton and J. de Belleroche), Kluwer Academic Publishers, Boston (1992); In situ Hybridization: In Neurobiology; Advances in Methodology (eds. J. H. Eberwine, K. L. Valentino, and J. D. Barchas), Oxford University Press Inc., England (1994); In situ Hybridization: A Practical Approach (ed. D. G. Wilkinson), Oxford University Press Inc., England (1992)); Kuo, et al., Am. J. Hum. Genet. 49:112-119 (1991); Klinger, et al., Am. J. Hum. Genet. 51:55-65 (1992); and Ward, et al., Am. J. Hum. Genet. 52:854-865 (1993))。FISHアッセイ法を実行するための手順が示された市販のキットもある(例えばOncor, Inc., Gaithersburg, MDなどが市販している)。方法に関するガイダンスを提供する特許は米国特許第5,225,326号、6,121,489号、6,573,043号などである。これらの参考文献すべての全文が、この参照により開示に含まれ、特定の研究室にとり簡便な手順を確定するために、当該技術分野における同様の参考文献および「実施例」の部分で提供する情報と共に使用することができる。
2.2 マイクロアレイ
さまざまな種類の生物学的アッセイ法がマイクロアレイと呼ばれており、それには以下が含まれ、ただし、それらに限定されない。DNAマイクロアレイ(例えばcDNAマイクロアレイとオリゴヌクレオチドマイクロアレイ)、タンパク質マイクロアレイ、組織マイクロアレイ、形質移入または細胞マイクロアレイ、化合物マイクロアレイ、抗体マイクロアレイ。遺伝子チップ、DNAチップ、バイオチップなどの名称で呼ばれるDNAマイクロアレイは、数千の遺伝子について同時に発現プロファイリングを行うか、または発現レベルをモニターすることを目的として、固体面(例えばガラス、プラスチック、シリコンチップ)に微視的なDNAスポットをアレイ状に配置したものである。配置されたDNA断片はプローブとして知られており、1つのDNAマイクロアレイで数千のプローブを使用できる。マイクロアレイは疾患細胞と正常細胞における遺伝子発現を比較することにより、疾患遺伝子を同定するために使うことができる。マイクロアレイは多様な技術を用いて作製でき、それには次の技術が含まれ、ただし、それらに限定されない:ガラスのスライドに先端の尖ったピンでプリント;既製のマスクを使うフォトリソグラフィ;可動式マイクロミラーデバイスを使うフォトリソグラフィ;インクジェットプリント;微小電極アレイ上での電気化学反応。
サザンブロット法とノーザンブロット法は、それぞれ順に、特定のDNAまたはRNA配列を検出するために使用する。試料から抽出したDNAまたはRNAは断片に切り、マトリックスゲル上で電気泳動により分離し、メンブレンフィルターに転写する。フィルターに結合したDNAまたはRNAを、目的の配列と相補的な標識プローブとハイブリッドさせる。ハイブリッドを形成したフィルター上のプローブを検出する。この手法のバリエーションがリバースノーザンブロット法で、この方法では、メンブレンに配置される基質の核酸は分離されたDNA断片の集合で、プローブは組織から抽出され、標識されたRNAである。
3. 増幅
ゲノムDNAとmRNAは、検出に先立ち、あるいは検出と同時に、増幅することができる。これらに限定しないが、核酸増幅技法の代表的な例として、ポリメラーゼ連鎖反応法(PCR)、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応法(RT-PCR)、転写媒介性増幅法(TMA)、リガーゼ連鎖反応法(LCR)、鎖置換型増幅法(SDA)、核酸配列に基づく増幅法(NASBA)がある。当業者の間で知られるように、ある種の増幅技法(例えばPCR)では、増幅を行う前に、RNAをDNAに逆転写する必要がある(例えばRT-PCR)のに対し、他の増幅技法では、RNAを直接増幅する(例えばTMAとNASBA)。
ポリメラーゼ連鎖反応(米国特許第4,683,195号、4,683,202号、4,800,159号、4,965,188号。各文献の全文がこの参照により組み入れられる)は、PCRと通称され、標的核酸配列のコピー数を指数的に増やすために、変性、プライマー対と逆ストランドのアニーリング、プライマーの伸長というサイクルを繰り返す。逆転写ポリメラーゼ連鎖反応法(RT-PCR)と呼ばれるバリエーションでは、逆転写酵素(RT)を使い、mRNAから相補的DNA(cDNA)を作り、その後、cDNAをPCRで増幅し、多数のDNAコピーを作る。他のさまざまなPCRの置き換えについては、例えば、米国特許第4,683,195号、4,683,202号、4,800,159号、Mullis et al., Meth. Enzymol. 155: 335 (1987)、Murakawa et al.,DNA 7: 287 (1988) を参照のこと。これら各文献の全文がこの参照により組み入れられる。
通常TMAと呼ばれる転写媒介性増幅法(米国特許第5,480,784号および5,399,491号を参照のこと。これら各文献の全文がこの参照により組み入れられる)は、ほぼ一定の温度、イオン強度、pHという条件下で、自己触媒的に標的核酸配列の複数コピーを合成し、標的配列の複数のRNAコピーが、自己触媒的にさらなるコピーを生成する。例えば、米国特許第5,399,491号および5,480,784号を参照のこと。各文献の全文がこの参照により組み入れられる。米国公開番号第20060046265号(全文がこの参照により組み入れられる)に記載されたバリエーションでは、TMAプロセスの感度と精度を改善するために、任意に、転写をブロックする部分、終わらせる部分、その他の変更する部分をTMAに取り入れている。
通常LCRと呼ばれるリガーゼ連鎖反応法(Weiss, R., Science 254: 1292 (1991) 。全文がこの参照により組み入れられる)は、標的核酸の隣接領域とハイブリッドを形成する2組の相補的DNAオリゴヌクレオチドを使う。DNAオリゴヌクレオチドは、熱変性、ハイブリダイゼーション、連結のサイクルを繰り返し、DNAリガーゼによる共有結合を受け、検出可能な二本鎖の連結されたオリゴヌクレオチド産物を作る。
通常SDAと呼ばれる鎖置換型増幅法(Walker, G. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89: 392-396 (1992); U.S. Pat. Nos. 5,270,184 and 5,455,166。全文がこの参照により組み入れられる)は、プライマー配列対と標的配列の逆ストランドをアニールし、dNTPαSの存在下でのプライマーの伸長により、二本鎖ヘミフォスフォロチオエート型プライマー伸長産物を生成し、エンドヌクレアーゼで半修飾エンドヌクレアーゼ認識部位にニックを入れ、ポリメラーゼでニックの3’末端からプライマーを伸長させるという方法で、既存の鎖を置換して次回のプライマーのアニーリング、ニッキング、鎖置換のための鎖を生成し、このサイクルを繰り返し、産物を幾何級数的に増幅させる。好熱性SDA(tSDA)では、ほぼ同じ方法で、ただし高温で、好熱性のエンドヌクレアーゼとポリメラーゼを使用する(EP特許第0 684 315号)。
他の増幅方法としては、例えば、通常NASBAと呼ばれる核酸配列に基づく増幅法(米国特許第5,130,238号。全文がこの参照により組み入れられる)、通常QBレプリカーゼと呼ばれ、RNAレプリカーゼを使い、プローブ分子自体を増幅させる方法(Lizardi et al., BioTechnol. 6: 1197 (1988)。全文がこの参照により組み入れられる)、転写に基づく増幅法((Kwoh et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86:1173 (1989))および自家持続配列複製法(Guatelli et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87: 1874 (1990)。各文献の全文がこの参照により組み入れられる)などがある。既知の増幅方法に関するさらに詳しい考察については、以下の文献を参照のこと。Persing, David H., “In Vitro Nucleic Acid Amplification Techniques” in Diagnostic Medical Microbiology: Principles and Applications (Persing et al., Eds.), pp. 51-87 (American Society for Microbiology, Washington, DC (1993))。
4. 検出方法
増幅を受けないADRB2核酸または増幅されたADRB2核酸は、何らかの通常の手段を使い検出できる。例えばある態様において、検出可能なように標識されたプローブとのハイブリダイゼーションと、その結果生成されるハイブリッドの測定により、ADRB2核酸を検出する。これらに限定しないが、検出方法の例を以下に記載する。
代表的な検出方法であるハイブリダイゼーション保護アッセイ(HPA)では、化学発光性のオリゴヌクレオチドプローブ(例えばアクリジニウムエステル(AE)で標識したプローブ)と標的配列のハイブリダイゼーションを行い、ハイブリッドを形成しなかったプローブ上の化学発光標識を選択的に加水分解し、残ったプローブから放出される化学発光をルミノメーターで測定する。例えば米国特許第5,283,174号およびNorman C. Nelson et al., Nonisotopic Probing, Blotting, and Sequencing, ch. 17, Larry J. Kricka ed., 2d ed. 1995(各文献の全文がこの参照により組み入れられる)を参照のこと。
別の代表的な検出方法では、リアルタイムで増幅プロセスの定量的評価を行うことができる。「リアルタイム」の増幅プロセス評価では、増幅反応中に連続的または定期的に、反応混合物中の単位複製配列の量を測定し、その測定値を使い、最初に試料中に存在した標的配列の量を算出する。当該技術分野では、リアルタイム増幅に基づき最初に試料中に存在した標的配列の量を決定する多様な方法が、よく知られている。それには、米国特許第6,303,305号および6,541,205号で開示された方法が含まれ、各文献の全文がこの参照により組み入れられる。試料中に最初に存在した標的配列の量を決定するための別の方法として、リアルタイム増幅に基づかない方法が米国特許第5,710,029号で開示され、その全文がこの参照により組み入れられる。
増幅産物は、さまざまなセルフハイブリダイゼーションプローブを使用し、リアルタイムで検出することができ、それらのプローブのほとんどがステムループ構造を持つ。そうしたセルフハイブリダイゼーションプローブは、プローブがセルフハイブリダイゼーション状態であるか、または標的配列とのハイブリダイゼーションにより変化した状態であるかに従い、異なる検出シグナルを発するよう標識されている。これに限定しない例として、「分子トーチ(molecular torches)」は自己相補性のある特別な領域(「標的結合ドメイン」および「標的閉じドメイン(the target closing domain)」と呼ばれる)を含むタイプのセルフハイブリダイゼーションプローブであり、連結領域(例えば、非ヌクレオチドリンカー領域)により連結され、事前に定められたハイブリダイゼーションアッセイ条件下で、お互い同士でハイブリッドを形成する。好ましい態様では、分子トーチは標的結合ドメインに1塩基から約20塩基の長さの一本鎖塩基領域を含み、鎖置換条件下での増幅反応に存在する標的配列とのハイブリダイゼーションに使われる。鎖置換条件下では、標的配列が存在する場合を除き、分子トーチ中の全部または一部が相補的な2つの相補領域のハイブリダイゼーションが好ましく、標的配列が存在する場合は、それが標的結合ドメインに存在する一本鎖領域に結合し、標的閉じドメインの全部または一部を置換する。分子トーチの標的結合ドメインと標的閉じドメインには、検出可能なレベルまたは相互作用する1対の標識(例えば蛍光/消光剤)が含まれ、分子トーチがセルフハイブリダイゼーションを起こした時と、分子トーチが標的配列との間でハイブリッドを形成した時の間で、異なるシグナルが出るように配置されているため、まだハイブリッドを形成していない分子トーチの存在下で、検査試料中のプローブと標的の二本鎖を検出することができる。分子トーチおよび多様なタイプの相互作用標識ペアは、米国特許第6,534,274号で開示されており、その全文がこの参照により組み入れられる。
自己相補性を持つ検出プローブのもう1つの例は「分子ビーコン」である。分子ビーコンには、標的に対して相補的な配列を含む核酸分子、増幅反応では存在する標的配列がない状態で、閉じた立体構造中にプローブを保持するアフィニティペア(または核酸のアーム)、プローブが閉じた立体構造中にある時に相互作用する標識ペアが含まれる。標的配列と標的相補配列とのハイブリダイゼーションにより、アフィニティペアのメンバーが分離し、プローブを開いた立体構造に移行させる。例えばフルオロフォアと消光剤(例えばDABCYLやEDANS)などの標識ペアの相互作用が低下するため、開いた立体構造への移行を検出できる。分子ビーコンは米国特許第5,925,517号および6,150,097号で開示されており、その全文がこの参照により組み入れられる。
他のセルフハイブリダイゼーションプローブは、当業者の間でよく知られている。これに限定しないが、例として、米国特許第5,928,862号(全文がこの参照により組み入れられる)で開示されたような相互作用する標識を持つプローブと結合するペアを調整し、本発明で使用できる可能性がある。一塩基多型(SNP)を検出するために使用するプローブ方式も、本発明で使用できる可能性がある。その他の検出方式としては、「分子スイッチ」があり、これは米国公開番号第20050042638号で開示され、全文がこの参照により組み入れられる。インターカレートのための色素および蛍光色素、またはそのいずれかを使用する方法など、他のプローブも、本発明における増幅産物の検出に使用できる。例えば、米国特許第5,814,447号(全文がこの参照により組み入れられる)などを参照のこと。
C. タンパク質の検出
ある態様において、本発明はADRB2タンパク質およびADRB2タンパク質のレベルを検出する方法を提供する。タンパク質は当業者の間で知られる多様なタンパク質関係の技法を使い検出され、質量分析法、タンパク質配列決定法、イムノアッセイ法などを含むが、ただし、それらに限定されない。
1. 配列決定法
これらに限定しないが、代表的なタンパク質配列決定法の例として、質量分析法とエドマン分解法がある。
質量分析では、原則として、いかなるサイズのタンパク質の配列決定も可能であるが、サイズが増すにつれ、計算は難しくなる。タンパク質をエンドプロテアーゼで分断し、その結果として得られた溶液を高圧液体クロマトグラフィーにかける。カラムの末端で、高い正電位をかけた細いノズルから、溶液が質量分析計に噴射される。小滴にかかった電荷により、単一のイオンのみが残るまで細分化される。次に、ペプチドを断片化し、断片の質量電荷比を測定する。質量スペクトルはコンピュータで解析し、しばしば以前に配列を決定したタンパク質のデータベースと比較し、断片の配列を決定する。次の、このプロセスを別の分解酵素で繰り返し、配列の重複部分から推測し、タンパク質の配列を構成する。
エドマン分解反応では、配列決定を行うペプチドが固体面に吸収される(例えば、ポリブレンを塗布したガラス繊維)。エドマン試薬であるフェニルイソチオシアネート(PTC)を、12%トリメチルアミンの微アルカリ性緩衝液と共に、吸収されたペプチドに加え、N末端アミノ酸のアミン基と反応させる。次に、無水酸を追加し、末端アミノ酸誘導体を選択的に分離できる。誘導体が異性化し、置換フェニルチオヒダントインが生成されるので、それを洗い流してクロマトグラフィーで同定し、このサイクルを繰り返す。各段階の効率は約98%であり、約50のアミノ酸を高い信頼性で決定できる。
2. 質量分析法
ある態様において、質量分析法を使い、タンパク質の同定を行う。本発明は、そうした解析に用いる質量分析技法の性質による制限を受けない。例えば、本発明で使用できる技法としては、イオントラップ型質量分析法、イオントラップ/飛行時間型質量分析法、飛行時間型/飛行時間型質量分析法、四重極型および三重の四重極型質量分析法、フーリエ変換(ICR)質量分析法、磁気セクタ型質量分析法などが含まれ、ただし、それらに限定されない。以下の質量分析解析の記載では、ESI oa TOF質量分析法を使って説明する。当業者の間では、そうした方法に他の質量分析技法を応用できることが認められている。
ある態様において、タンパク質の解析で、分子量の決定と同定を同時に行う。流出液の一部を使い、MALDI-TOF-MSまたはESI oa TOF(LCT、Micromass)のいずれかにより、分子量を決定する(例えば、米国特許第6,002,127号を参照)。溶離液の残りを使い、タンパク質を分解し、MALDI-TOF-MSまたはESI oa TOFのいずれかにより、ペプチドマスマップフィンガープリントを解析し、タンパク質を同定する。分子量のトータルイオンクロマトグラム(TIC)をUVクロマトグラムと相関づけ、関連するさまざまな遅延時間を計算することにより、分子量をそれに対応する分解産物フィンガープリントとマッチさせる。その結果として得られた分子量および分解産物のマスフィンガープリントデータを使い、MSFit(UCSF)などのWeb上のプログラムで検索し、タンパク質を同定できる。
3. イムノアッセイ法
これらに限定しないが、代表的なイムノアッセイ法の例として、免疫沈降法、ウェスタンブロット法、ELISA、免疫組織化学法、免疫細胞化学法、フローサイトメトリー、免疫PCRがある。当業者の間で知られるさまざまな技法を使い、検出可能なように標識された(例えば、比色分析、蛍光、化学発光、放射性物質)ポリクローナルまたはモノクローナル抗体は、イムノアッセイでの使用に適している。
免疫沈降は、抗原に対して特異的な抗体を使い、溶液中の抗原を沈降させる方法である。このプロセスは、細胞抽出物中に存在するタンパク質複合体に含まれると考えられるタンパク質を標的にすることにより、タンパク質複合体を同定するために使用できる。プロテインAやプロテインGなどの最初に細菌から単離された不溶性の抗原結合性タンパク質により、溶液から複合体を単離する。または、抗体をセファロースビーズに固定化すると、溶液から容易に単離することができる。洗浄後、質量分析法、ウェスタンブロット法、その他の方法を使い、沈殿物を解析し、複合体の構成要素を同定できる。
ウェスタンブロット法またはイムノブロット法は、組織ホモジネートまたは抽出物の試料中のタンパク質を検出するための方法である。この方法では、ゲル電気泳動を使い、変性したタンパク質を質量に基づき分離する。次に、タンパク質をゲルからメンブレン(通常はポリビニルジフルオリドまたはニトロセルロース)に移し、目的のタンパク質に対して特異的な抗体を使い、プローブでタンパク質を検出する。その結果、任意の試料中のタンパク質量を調べ、複数のグループ間でレベルを比較することができる。
ELISAは酵素免疫測定法の略語であり、試料中の抗体または抗原の存在を検出するための生化学的技法である。この方法では、最低2種類の抗体を使い、その片方が抗原に対して特異性を持ち、他方が酵素と結びついている。2番目の抗体は、発色基質または蛍光の発生基質を通じてシグナルを出す。ELISAのバリエーションとして、サンドイッチELISA法、競合ELISA法、ELISPOT法がある。ELISAは試料中の抗原の存在と抗体の存在のどちらを評価するためにも使えるため、血清中の抗体濃度の決定と抗原の存在の検出の両方に利用できる簡便な手法である。
免疫組織化学法と免疫細胞化学法は、それぞれ順に、組織切片または細胞中でのタンパク質の位置を決定するプロセスであり、組織または細胞中の抗原がそれぞれの抗体と結合するという原理に基づく。抗体に発色または蛍光のタグをつけることにより、可視化を可能にする。発色タグの典型的な例としては、これらに限定しないが、ホースラディッシュペルオキシダーゼやアルカリフォスファターゼがある。蛍光タグの典型的な例としては、これらに限定しないが、蛍光イソチオシアネート(FITC)やフィコエリスリン(PE)がある。
フローサイトメトリーは、流体の流れに懸濁した微小粒子を計数し、調べ、ソートするための技法である。この方法では、光学/電子検出装置内を流れる単一細胞の物理的および化学的特徴の同時多パラメータ解析が可能である。1つの周波数または色のライトビーム(例えばレーザー)を、水力学的に方向を定めた流体の流れに向ける。流れがライトビームを通過する点に、数台の検出器で狙いを定め、1台はライトビームと方向を揃え(フォワードスキャッター(FSC))、数台を垂直の方向に向ける(スライドスキャッター(SSC)および1台以上の蛍光用検出器)。ビームの中を通過する各懸濁粒子は、どちらかの方向に光を散乱させ、粒子中の蛍光化学物質が励起され、光源よりも低い周波数で光を放出する。散乱光と蛍光の組み合わせを検出器で測定し、また、蛍光放出ピークごとに1台の検出器で、明るさの変動を解析することにより、個別の各粒子の物理的および化学的構造に関し、さまざまな事実を推論することができる。FSCは細胞の体積と相関し、SSCは粒子の密度または内部の複雑度(例えば、核の形状、細胞質顆粒の量とタイプ、膜の表面の粗さなど)と相関する。
免疫ポリメラーゼ連鎖反応法(IPCR)では、核酸増幅技法を使い、抗体に基づくイムノアッセイにおけるシグナル生成を増加させる。PCRに関してタンパク質での同等物が存在しないため、つまり、PCR中の核酸の増幅と同じようにタンパク質を複製することはできないため、検出感度を上げる唯一の方法はシグナルの増幅である。標的タンパク質は、オリゴヌクレオチドと直接または間接に共役する抗体に結合する。結合していない抗体を洗い流すと、残った結合した抗体では、オリゴヌクレオチドが増幅されている。リアルタイム方法を含む標準的な核酸検出方法を使い、増幅されたオリゴヌクレオチドを検出することを介して、タンパク質の検出が行われる。
D. データ解析
ある態様において、コンピュータの解析プログラムを使い、検出アッセイで得た生データ(例えば、ADRB2の発現の存在、欠如、量など)を、臨床医にとり予測という意味で価値のあるデータに変える。臨床医は適切な手段を用い、予測データにアクセスできる。従って、一部の好ましい態様において、本発明は、遺伝学や分子生物学の教育を受けていない可能性のある臨床医が、生データを理解する必要がないという、さらなる利点を提供する。データは最も役立つ形で臨床医に直接提示される。その後、臨床医は患者の治療を最適化するために、直ちにその情報を活用することができる。
本発明では、アッセイを実施する研究室、情報提供者、医療従事者、患者の間で、情報を受け取り、処理し、伝達することが可能なあらゆる方法を考慮に入れる。例えば、本発明のある態様において、患者から試料(例えば生検または血液または血清試料)を取得し、世界のどこか(例えば、患者が居住する国や情報が最終的に使われる国とは異なる国)に位置するプロファイリングサービス(例えば医療機関の臨床検査室やゲノムプロファイリング業者など)に提出し、生データを生成する。試料が組織または他の生物学的試料を含む場合は、患者が医療拠点を訪れ、そこで試料が取得され、そこからプロファイリング拠点に送られるか、または、患者が自身で試料を集め(例えば尿の試料)、それを直接プロファイリング拠点に送る。試料が事前に決められた生物学的情報を含む場合は、情報は患者により直接、プロファイリングサービスに送ることができる(例えば、情報を記入した情報カードをコンピュータでスキャンし、データを電気通信システムを使い、プロファイリング拠点のコンピュータに送信することができる)。プロファイリングサービスで受領されると、試料は処理され、その患者に要求される診断または予後情報に特定したプロファイルが作成される(つまり発現データ)。
プロファイルデータは、治療を行う臨床医による解釈に適した書式で作成する。例えば、生の発現データを提供するのではなく、作成した書式では、患者に関する診断またはリスク評価(例えば、癌が存在する見込み)と共に、特定の治療の選択肢に関する推奨を示すことができる。データは任意の適切な方法で、臨床医に提示することができる。例えば、ある態様において、プロファイリングサービスが臨床医のためにプリントするか(例えば、処置の現場で)、またはコンピュータのモニター上で臨床医に表示できる報告書を作成する。
ある態様において、最初に処置の現場で、または地域の施設で、情報が解析される。次に、生データを中央処理施設に送り、さらなる解析と、生データの臨床医または患者にとり役立つ情報への変換、またはそのいずれかを行う。中央処理施設には、プライバシー(均一なセキュリティ規約を定めた中央施設に全データを保管)、スピード、データ解析の均一性という優位点がある。次に、中央処理施設は、患者の治療後のデータの取扱いを管理できる。例えば、電気通信システムを使い、中央施設から臨床医、患者、研究者にデータを提供できる。
ある態様において、患者が電気通信システムを使い、データに直接アクセスできる。患者は結果に基づき、さらなる介入またはカウンセリングを選択できる。ある態様において、研究で使用するためにデータが使われる。例えば、疾患の特定の状態または段階を示す有用な指標として、マーカーを取り入れるか除外するか、という最適化をさらに進めるために、データを使うことができる。
E. インビボイメージング
あるさらなる態様では、ADRB2の発現がインビボイメージング技法を使い検出され、それには放射性核種イメージング、陽電子放出断層撮影(PET)、コンピュータ断層撮影、X線または磁気共鳴画像法、蛍光検出、化学発光検出が含まれ、ただし、それらに限定されない。ある態様において、動物(例えばヒトまたはヒト以外のほ乳類)におけるADRB2の存在または発現レベルを可視化するために、インビボイメージング技法を使用する。例えば、ある態様において、癌マーカーに対して特異的な標識抗体を使い、ADRB2のmRNAまたはタンパク質を標識する。特異的に結合され、標識された抗体は、個体内においてインビボイメージング法を使い検出される。その方法には、放射性核種イメージング、陽電子放出断層撮影、コンピュータ断層撮影、X線または磁気共鳴画像法、蛍光検出、化学発光検出が含まれ、ただし、それらに限定されない。本発明の癌マーカーに対する抗体の作製方法は後述する。
本発明のインビボイメージング法は、癌(例えば前立腺癌)以外の組織中のレベルと比べて低レベルのADRB2を発現する癌の診断に役立つ。インビボイメージング法は、癌を示すマーカーの存在を可視化するために使われる。そのような技法により、不快な生検を行わずに診断を下すことができる。本発明のインビボイメージング法は、癌患者の予後を提供するためにも役立つ。例えば、転移する見込みの高い癌を示すマーカーの存在を検出できる。本発明のインビボイメージング法はさらに、体内の他の部分の転移性癌を検出するためにも使用できる。
ある態様において、ADRB2に対して特異的な試薬(例えば抗体)が蛍光で標識される。標識された抗体は対象に導入される(例えば経口または非経口)。蛍光標識抗体は、任意の適切な方法を使い検出される(例えば、米国特許台6,198,107号に記載された器具を使う。この特許は全文がこの参照により組み入れられる)。
他の態様では、抗体は放射性物質で標識される。インビボでの診断に対する抗体の使用は、当該技術分野でよく知られている。Sumerdon et al. (Nucl. Med. Biol 17:247-254 [1990]) は、インジウム111を標識として使い、腫瘍のラジオイムノシンチグラフィーイメージング用に最適化した抗体キレート結合剤を記載した。Griffinet al., (J Clin Onc 9:631-640 [1991]) は、再発性結腸直腸癌が疑われる患者での腫瘍検出におけるこの診断剤の使用を記載した。当該技術分野では、磁気共鳴イメージング用の標識として常磁性イオンを含む類似診断薬が知られている(Lauffer, Magnetic Resonance in Medicine 22:339-342 [1991])。使用する標識は選択するイメージング様式に依存する。インジウム111、テクネチウム99m、ヨウ素131などの放射性標識は、平面スキャンまたは単一光子放射型コンピュータ断層撮影(SPECT)に使用できる。フッ素19などの陽電子放出標識も、陽電子放出断層撮影(PET)に使用できる。MRIには、ガドリニウム(III)またはマンガン(II)などの常磁性イオンを使用できる。
半減期が1時間から3.5日の放射性金属が、抗体との共役に使用でき、それにはスカンジウム47(3.5日)、ガリウム67(2.8日)、ガリウム68(68分)、テクネチウム99m(6時間)、インジウム111(3.2日)などがあり、中でもガンマカメライメージングにはガリウム67、テクネチウム99m、インジウム111が好ましく、陽電子放出断層撮影にはガリウム68が好ましい。
そうした放射性金属で抗体を標識するための簡便な方法が、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)などの二機能性キレート剤を使う方法で、それは例えば、インジウム111およびテクネチウム99mについてKhaw et al. (Science 209:295 [1980]) により、また、Scheinberg et al. (Science 215:1511 [1982]) により記載されている。他のキレート剤を使うこともできるが、1-(p-カルボキシメトキシベンジル)EDTAとDTPAのカルボキシ炭酸無水物には、抗体の免疫反応性に大きな影響を与えずに共役が可能であるという利点がある。
DTPAとタンパク質の共役の方法として、DTPAの環状無水物を使う方法もあり、これはアルブミンのインジウム111による標識についてHnatowich et al. (Int. J. Appl. Radiat. Isot. 33:327 [1982]) により記載されている。DTPAとのキレートを使わずに抗体をテクネチウム99mで標識するために適した方法が、Crockford et al.(米国特許第4,323,546号。全文がこの参照により組み入れられる)が記載した塩化スズで予備処理する方法である。
テクネチウム99mによる免疫グロブリン標識の好ましい方法が、血漿タンパク質についてWong et al. (Int. J. Appl. Radiat. Isot., 29:251 [1978]) により掲載され、最近、Wong et al. (J. Nucl. Med., 23:229 [1981]) は抗体標識への応用に成功した。
特定抗体と放射性金属との共役の場合、その上に、可能な限り高い比率の放射性標識を、免疫特異性を損なわずに、抗体分子に導入することが望ましい。抗体の抗原結合部位を確実に保護するために、本発明の特異的癌マーカーの存在下で放射性標識を行うことにより、さらなる改善を達成する可能性がある。抗原は標識後に分離される。
さらなる実施例では、インビボイメージングにインビボのバイオフォトニックイメージング(Xenogen, Almeda, CA)が使われる。このリアルタイムのインビボイメージングでは、ルシフェラーゼを使用する。ルシフェラーゼ遺伝子は細胞、微生物、動物に導入される(例えば、本発明の癌マーカーとの融合タンパク質として)。活性がある時、それは光を放射する反応を起こす。CCDカメラとソフトウェアを使い、イメージを捕捉し、解析する。
F. 組成物およびキット
本発明の診断法で使用する組成物は、プローブ、増幅オリゴヌクレオチド、抗体を含み、ただし、それらに限定されない。特に好ましい組成物は、試料中のADRB2の発現レベルを検出する。
これらの組成物のいずれも、単独で、あるいは本発明の他の組成物と組み合わせ、キットの形で提供することができる。例えば、ADRB2の増幅と検出のために、単一の標識プローブと1対の増幅オリゴヌクレオチドをキットとして提供できる。キットには、アッセイに必要または十分な、いずれかまたは全ての構成要素を含むことができ、それには試薬自体、緩衝液、対照試薬(例えば組織試料、陽性および陰性対照試料など)、支持台、ラベル、文章および図またはそのいずれかの取扱説明書および製品情報、阻害剤、標識および検出またはそのいずれかの試薬、パッケージの環境管理材料(例えば氷、乾燥剤など)等が含まれ、ただし、それらに限定されない。ある態様において、必要な構成要素の一部をキットで提供しており、残りの構成要素は使用者が供給するものと想定している。ある態様において、キットは複数の分かれた容器を含み、納入すべき構成要素の一部が各容器に収納されている。
本発明のプローブおよび抗体の構成要素は、アレイの形で提供することもできる。
II. 治療法
ある態様において、本発明は癌(例えば前立腺癌)の治療法を特化するための方法を提供する。例えば、ある態様において、患者の試料中にADRB2の低発現が存在するか否かをアッセイによって決定する。次に、ADRB2の低発現が見られた患者は、ADRB2レベルを引き上げる治療法を用いた治療を受ける(例えば抗EZH2療法またはADRB2置換療法)。本発明の特化された処置方法では、分子レベルで特定の標的に向けられた治療法による利点を提供する。効果のない不必要な処置の使用(例えば、ADRB2の低発現が見られない患者にADRB2置換治療を施すなど)を回避できる。
本発明は特定のADRB2治療に限定されない。代表的な治療法の例を以下に記載する。ある態様において、既知のEZH2拮抗薬を使用する。他の態様では、それらに付加される治療用組成物を特定するために、ここに記載する方法を使用する。
A. 低分子療法
一部の好ましい態様において、低分子療法が使用される。特定の態様では、例えば本発明の薬剤スクリーニング方法を使い、ADRB2調節因子(例えばEZH2)を標的とする低分子治療法を特定する。
B. アンチセンス
一部の態様において、例えば癌細胞(例えば前立腺の)内のADRB2またはADRB2経路構成要素の発現および活性またはそのいずれかを標的とする核酸分子の送達が、本方法に関与する。例えば、一部の態様において、本発明はADRB2の上流修飾因子をコードする核酸分子の機能を調節し、最終的には発現されるADRB2の量を調節するために、アンチセンスオリゴマー化合物、特にオリゴヌクレオチドを含む組成物を利用する。オリゴマー化合物と標的核酸との特異的ハイブリダイゼーションが、核酸の正常な機能を妨害する。標的核酸と特異的にハイブリッドを形成する化合物により起きるこのような標的核酸の機能の調節は、一般に「アンチセンス」と呼ばれる。妨害を受けるDNAの機能には、複製と転写が含まれる。妨害を受けるRNAの機能には、全ての重要な機能、例えば、タンパク質翻訳部位へのRNAのトランスロケーション、RNAからのタンパク質の翻訳、RNAのスプライシングによる一種以上のmRNA種の産生、RNAに関与する、またはRNAによって促進される触媒活性などが含まれる。標的核酸の機能に対するそうした妨害の全体的な影響として、ADRB2上流の修飾因子の発現が調節を受ける。本発明の背景においては、「調節」は、遺伝子の発現における増加(刺激)または減少(阻害)を意味する。例えば、発現を阻害することにより、ADRB2の低発現(例えば前立腺癌において)と関連する腫瘍の成長、補体が介在する溶解の阻害、血管新生および増殖を防ぐことができる潜在的な可能性がある。
C. shRNA
ある態様において、本発明はADRB2上流修飾因子の発現を阻害する(例えば前立腺癌細胞において)shRNAを提供する。短鎖ヘアピンRNA(shRNA)は、ヘアピンのように急角度で曲がったRNA配列で、RNA干渉を介した遺伝子発現のサイレンシングに使用できる。通常、shRNAは細胞に導入されたベクターを使い、プロモーターを利用して(例えばU6プロモーター)、shRNAが常に発現されるようにする。このベクターは通常、娘細胞に受け継がれ、遺伝子のサイレンシングは遺伝する。shRNAヘアピン構造は、細胞機構によりsiRNAに切断され、それがRNA誘導サイレンシング複合体(RISC)に結合する。この複合体は、それが結合したsiRNAと適合するmRNAと結合し、それを切断する。
D. siRNA
ある態様において、本発明はADRB2上流修飾因子の発現を阻害する(例えば前立腺癌細胞において)siRNAを提供する。siRNAは標的となるRNA(例えばADRB2のRNA)、そして、その延長としてのタンパク質の量を低下するために非常に効果的であり、頻繁に検出不能なレベルにまで低下する。このサイレンシング効果は数カ月持続し、標的RNAとsiRNAの中央領域の間にヌクレオチドのミスマッチが1箇所存在するだけで、サイレンシングを防ぐには十分であることが多いため、非常に特異性が高い(例えば、Brummelkamp et al, Science 2002; 296:550-3; and Holen et al, Nucleic Acids Res. 2002; 30:1757-66を参照)。siRNAの設計における重要な因子が、siRNA結合に利用できる部位の存在である。Bahoia et al. (J. Biol. Chem., 2003; 278: 15991-15997) は、効果的なsiRNAの設計に関し、mRNA中のアクセス可能部位を見つけるためのスキャニングアレイと呼ばれるタイプのDNAアレイの使用を記載している。これらのアレイはモノマーから一定の最大限(普通は100 mer)までのサイズを範囲とするオリゴヌクレオチドを含み、物理障壁(マスク)を使い、配列中の各塩基を順々に追加することにより合成する。従って、アレイは標的遺伝子の領域と相補的なオリゴヌクレオチド全体を表現する。標的mRNAとこれらのアレイとのハイブリダイゼーションにより、標的mRNAのこの領域を網羅し、アクセス可能性を調べることができる。アンチセンスオリゴヌクレオチド(7 merから25 merの範囲)の設計においては、有効性と標的特異性を維持するために、オリゴヌクレオチドの長さと結合親和性との間で妥協点を見つけることが重要であるため、そうしたデータは有用である(Sohail et al, Nucleic Acids Res., 2001; 29(10): 2041- 2045)。siRNAを選択するにあたり、さらなる方法と注意点が、例えば、WO05054270, WO05038054A1, WO03070966A2, J Mol Biol. 2005 May 13;348(4):883-93, J Mol Biol. 2005 May 13;348(4):871-81, and Nucleic Acids Res. 2003 Aug 1;31(15):4417-24 に記載され、各文献の全文がこの参照により組み入れられる。それに加え、siRNAの選択に利用できるソフトウェア(例えばMWGオンラインsiMAX siRNA設計ツール)として、市販と公開の両方のソフトウェアが入手可能である。
E. マイクロRNA
ある態様において、本発明はADRB2上流の修飾因子の発現(例えば前立腺癌細胞において)を阻害するマイクロRNAを提供する。マイクロRNAは、タンパク質をコードしない、調節のための内在性RNAであり、最近、科学界で相当の注目を集めている。マイクロRNAは長さが18〜24塩基で、標的mRNAとの結合による翻訳の抑制を通じ、遺伝子発現を調節すると考えられている(例えば、Lim et al., Science 2003;299(5612):1540; Chen et al., Semin Immunol 2005;17(2):155-65; Sevignani et al., Mamm Genome 25 2006;17(3):189-202 を参照)。また、mRNAの切断、miRNAに導かれる急速な脱アデニル化により開始されるmRNAの崩壊を通じた遺伝子発現調節も提唱されている(Wu et al., Proc Natl Acad Sci U S A 2006;103(11):4034-9)。miRNAは豊富に存在し、進化過程での保存度が高い分子であり、多数の転写産物を調節しているものと予測される。これまでに国際miRNA登録データベースには、ヒトで同定された600種類以上のマイクロRNAが収められており(Griffiths-Jones et al., Nucleic Acids Res 2006;34 (Database issue):D140-4)、ヒトにおけるその総数は、1,000種類にも達するものと予想されてきた(Berezikov et al., Cell 2005;120(1):21-4)。これらのマイクロRNAの多くは組織特異的な発現を示し(Sood et al., Proc Natl Acad Sci U S A 2006;103(8):2746-51)、多くが腫瘍抑制因子または癌遺伝子のいずれかであり(Lee et al., Curr Opin Investig Drugs 2006;7(6):560-4; Zhang et al., Dev Biol 2006; Calin et al., Nat Rev Cancer 2006;6(11):857-66)、細胞周期の制御、アポトーシス、造血発生などの多様な細胞プロセスにおいて不可欠な役割を果たすと定義されている。いくつかのmiRNAの調節不全は、腫瘍形成をはじめ、ヒトの疾患におけるプロセスで重要な役割を果たすと考えられている(Hwang et al., Br J Cancer 2006;94(6):776-80; Thomson et al., Genes Dev 2006;20(16):2202-7)。
F. 核酸の送達
遺伝情報を担う分子の細胞への導入は、さまざまな方法により達成され、それには裸のDNAコンストラクトの部位特異的注入、コンストラクトを固定化した金ナノ粒子による照射、例えばリポソーム、生体高分子などの巨大分子により媒介される遺伝子導入、生体外の形質移入と遺伝子治療またはそのいずれかの後に移植を行う方法などが含まれ、ただし、それらに限定されない。本発明は遺伝情報を担う分子を対象(例えばヒトの対象、ヒト以外の対象)に導入するための特定のアプローチに限定されない。ある態様において、対象に遺伝子治療法を送達するために、ナノベクター送達システム(例えばカチオン性リポソームに媒介される遺伝子導入システム、リポプレックス)を方法として採用する。癌患者に遺伝子治療法を送達するために現在使われているアプローチでは、ウイルス性または非ウイルス性のベクター系をしばしば採用する。ウイルスベクターを使う方法は、高い遺伝子導入効率を示すが、いくつかの部分で欠陥がある。ウイルスを使うアプローチの限界は、腫瘍を標的にする方法の欠如と、残ったウイルスの要素が免疫原性、細胞変性、組換え誘導を示す可能性があることに関連する。これらの問題を迂回するために、インビボのヒトの治療を目的とする遺伝子治療法の非ウイルス性製剤、特にナノベクター送達システム(例えば、カチオン性リポソーム媒介遺伝子導入システム)の開発が進んできた。実際、遺伝子導入のためのナノベクター送達システムを使う複数の臨床試験が進行中であり、ドキソルビシンなどの化学療法送達のためのリポソームが、すでに乳癌の化学療法用に市販されている。ナノベクター送達システム(例えばカチオン性リポソーム)を多目的で魅力的にしている特徴としては、調製の容易さ、大きなDNA/RNA断片と複合体を作る能力、非分裂細胞を含め、さまざまなタイプの細胞に形質移入を行う能力、免疫原性またはバイオハザード活性を持たないことなどがある。
ある態様において、ナノベクター送達システム(例えばカチオン性リポソーム)は、細胞表面の受容体により認識されるリガンドを持つよう構成される(例えば腫瘍に対する望ましいターゲティングを改善するために)。ナノベクター送達システムは、細胞表面受容体により認識される特定のリガンドに限定されない。ある態様において、リガンドが腫瘍に対して特異的な細胞表面受容体により認識される。ある態様において、リガンドはトランスフェリン(Tf)である。ある態様において、リガンドは単鎖抗体断片(scFv)である(例えば、Tfに特異的)。受容体が介在するエンドサイトーシスは、真核細胞における高効率の内部移行経路を表す。ナノベクター送達システム(カチオン性リポソーム、リポプレックス)におけるリガンドの存在は、細胞へのDNAの導入を促進する。最近、癌の全身性遺伝子治療用に設計された、腫瘍特異的でリガンドを標的とし、自己組織化ナノ粒子DNAリポプレックスシステムが開発された(例えば、U.S. Patent No. 6,749,863; Tibbetts RS, Genes Dev 2000; 14:2989-3002; Zou L, Science 2003; 300: 1542-1548を参照。各文献の全文がこの参照により組み入れられる)。これらのナノベクターシステムでは、トランスフェリン(Tf)またはトランスフェリン受容体に対する単鎖抗体断片(scFv)が使われ、それは膵臓癌を含め、ヒト癌の過半数で過剰発現される(例えば、Busino L, et al., Nature 2003; 426: 87-91を参照)。最近、TfR-scFv標的ナノベクターの臨床試験がFDAにより承認され、非ウイルス性の全身性p53遺伝子治療に関する第I相臨床試験が進行中である。
一部の方法で、ウイルス由来の遺伝子送達担体を使い、それにはアデノウイルス、レトロウイルス、ワクシニアウイルス、アデノ随伴ウイルスが含まれ、ただし、それらに限定されない。レトロウイルスと比較して効率が高いため、アデノウイルスベクターが、インビボで宿主細胞に核酸分子を導入するための好ましい遺伝子送達担体である。アデノウイルスベクターは、動物モデル中の多様な固形腫瘍および免疫不全マウス中のヒト固形腫瘍異種移植片に、非常に効率良くインビボ遺伝子導入を行うことが示されている。アデノウイルスベクターおよび遺伝子導入の方法の例は、PCT特許公報WO 00/12738およびWO 00/09675、および米国特許出願第6,033,908号、6,019,978号、6,001,557号、5,994,132号、5,994,128号、5,994,106号、5,981,225号、5,885,808号、5,872,154号、5,830,730号、5,824,544号に記載され、各文献の全文がこの参照により組み入れられる。
G. 抗体治療
ある態様において、本発明はADRB2を低発現する腫瘍を標的にする抗体を提供する。ここで開示する治療法では、任意の適切な抗体(例えばモノクローナル、ポリクローナル、合成)を利用できる。好ましい態様では、癌治療に使用する抗体はヒト化抗体である。抗体をヒト化する方法は、当該技術分野でよく知られている(例えば、米国特許第6,180,370号、5,585,089号、6,054,297号、5,565,332号を参照。各文献の全文がこの参照により組み入れられる)。
ある態様において、治療用抗体はADRB2またはADRB2調節因子を抗原として作製された抗体を含み、抗体は細胞傷害性薬物とコンジュゲートする。そのような態様では、正常な細胞を標的としない腫瘍特異的な治療薬剤が作製されるため、従来の化学療法が持つ有害な副作用の多くを低減することができる。特定の適用に関しては、治療薬剤は抗体への付着に有用な薬剤として機能する薬理学的薬剤とし、特に細胞傷害性が強いか、またはそれ以外に抗細胞性の薬剤が、内皮細胞の増殖または細胞分裂を停止または抑制する能力を持つよう構想されている。本発明では、抗体とコンジュゲートし、活性のある形態で送達できる任意の薬理学的薬剤の使用を想定している。抗細胞性薬剤の例としては、化学療法薬、放射性同位元素、細胞傷害性薬物がある。本発明の治療用抗体には、多様な細胞傷害性成分が含まれ、放射性同位元素(例えばヨウ素131、ヨウ素123、テクネチウム99m、インジウム111、レニウム188、レニウム186、ガリウム67、銅67、イットリウム90、ヨウ素125、アスタチン211)、ステロイドなどのホルモン、シトシンなどの代謝拮抗薬(例えばアラビノシド、フルオロウラシル、メトトレキサート、アミノプテリンのいずれか、アントラサイクリン類、マイトマイシンC)、ビンカアルカロイド(例えばデメコルシン、エトポシド、ミトラマイシン)、クロラムブシルやメルファランなどの抗腫瘍アルキル化剤が含まれ、ただし、それらに限定されない。他の態様においては、血液凝固薬、サイトカイン、増殖因子、菌体内毒素、または菌体内毒素のリピドA成分を使用することがある。例えば、ある態様において、治療薬剤として、いくつかの例を挙げると、A鎖毒素などの植物、真菌類、細菌のいずれかに由来する毒素、リボソーム不活性化タンパク質、αサルシン、アスペルギリン、レストリクトシン、リボヌクレアーゼ類、ジフテリア毒素、シュードモナス菌体外毒素などがある。一部の好ましい態様では、脱グリコシル化したリシンA鎖を使用する。
いずれの場合も、これらのような薬剤は、必要に応じ、既知のコンジュゲーション形成技術を使い、必要とされる標識腫瘍細胞の部位におけるそれら薬剤のターゲティング、内部移行、放出、血液成分への提示が可能であるような形で、抗体とコンジュゲートさせることができる(例えば、Ghose et al., Methods Enzymol., 93:280 [1983] を参照)。
例えば、本発明は、ある態様において、本発明の癌マーカー(例えばADRB2調節因子)を標的とする免疫毒素を提供する。免疫毒素は腫瘍特異的抗体または断片をはじめとする特異的標的薬剤と毒素成分などの細胞傷害性薬剤とのコンジュゲートである。標的薬剤は標的とされる抗原を担う細胞に特異的に毒素を与え、それにより、選択的にその細胞を殺す。ある態様において、インビボでの安定性を高めるクロスリンカーを治療用抗体で使用する(Thorpe et al., Cancer Res., 48:6396 [1988])。
他の態様において、特に、固形腫瘍の治療が関係するものでは、血管性内皮細胞の増殖または細胞分裂を抑制することにより、腫瘍の脈管構造に対して細胞傷害性またはそれ以外の抗細胞効果を持つよう、抗体を設計する。この攻撃は腫瘍での局所的な血管虚脱を引き起こし、腫瘍細胞、特に脈管構造の遠位にある腫瘍細胞から酸素と栄養を奪い、最終的に細胞死と腫瘍壊死を引き起こすよう意図している。
好ましい態様では、抗体に基づく治療法を、以下に記載するような薬剤組成物として製剤する。好ましい態様では、本発明の抗体組成物の投与により、癌において測定可能な減少(例えば、腫瘍の減少または消失)が起きる。
H. 薬剤組成物
本発明の治療用核酸分子は、単独または他の治療法と組み合わせて、遺伝子発現と関連する任意の疾患、感染症、状態、および細胞または組織中の遺伝子産物のレベルに反応する他の適応症の治療での使用に適応させることができる。例えば、治療用核酸分子は、患者に投与するためのリポソームなどの送達媒体、担体、希釈液とそれらの塩化物を含み、かつ、薬学的に許容可能な製剤として存在するか、または、そのいずれかが可能である。核酸分子を送達する方法は、Akhtar et al., 1992, Trends Cell Bio., 2, 139、Delivery Strategies for Antisense Oligonucleotide Therapeutics, ed. Akhtar, 1995、Maurer et al., 1999, Mol. Membr. Biol., 16, 129-140、Hofland and Huang, 1999, Handb. Exp. Pharmacol., 137, 165-192、Lee et al., 2000, ACS Symp. Ser., 752, 184-192に記載され、全文献がこの参照により組み入れられる。Beigelman et al.米国特許第6,395,713号およびSullivan et al. PCT WO 94/02595号は、核酸分子を送達するための一般的な方法についてさらに記載している。これらの手順は、ほぼあらゆる核酸分子の送達に利用できる。核酸分子は当業者に知られている多様な方法により細胞に投与することができ、それはリポソームへのカプセル化、イオン泳動、または生分解性のポリマー、ハイドロゲル、シクロデキストリン(例えばGonzalez et al., 1999, Bioconjugate Chem., 10, 1068-1074を参照)、乳酸・グリコール酸共重合体(PLGA)およびPLGA 微粒子(例えば米国特許第6,447,796号および米国特許出願公開第2002130430号を参照)、生分解性ナノカプセル、生体接着性微粒子などの他の媒体への取り込み、タンパク質性ベクター(O'Hare and Normand, 国際PCT公開特許第WO 00/53722号)を含むが、ただし、それらに限定されない。別の方法として、核酸と媒体の組み合わせは、直接の注射により、または輸液ポンプを使い、局所的に送達される。本発明の核酸分子の直接注射は、皮下、筋肉内、皮内のいずれであるかを問わず、標準の針と注射器を使う方法か、またはConry et al., 1999, Clin. Cancer Res., 5, 2330-2337およびBarry et al.国際PCT公開特許第WO 99/31262号に記載された方法などの針を使わない技法により行うことができる。当該技術分野の多くの例に、浸透圧ポンプ(Chun et al., 1998, Neuroscience Letters, 257, 135-138, D'Aldin et al., 1998, Mol. Brain Research, 55, 151-164, Dryden et al., 1998, J. Endocrinol., 157, 169-175, Ghimikar et al., 1998, Neuroscience Letters, 247, 21-24を参照)または直接輸液(Broaddus et al., 1997, Neurosurg. Focus, 3, article 4)によるオリゴヌクレオチドのCNS送達方法が記載されている。他の送達経路としては、経口(錠剤または丸剤の剤形で)およびくも膜下腔内への送達、またはそのいずれか(Gold, 1997, Neuroscience, 76, 1153-1158)があり、ただし、それらに限定されない。核酸の送達および投与に関するさらに詳細な記載は、Sullivan et al.上記参照、Draper et al., PCT W093/23569、Beigelman et al., PCT WO99/05094、Klimuk et al., PCT WO99/04819で提供され、全文献がこの参照により組み入れられる。本発明のsiNAは薬剤として使用できる。薬剤は患者における疾患状態を防止するか、発症を制御するか、治療する(ある症状をある程度まで軽減する。好ましくは、全症状を軽減する)。
従って、本発明の実施例では、安定剤、緩衝液などの適切な担体中に、本発明の一種以上の核酸を含む薬剤組成物が含まれる。本発明のポリヌクレオチドは(例えばRNA、DNA、タンパク質)、安定剤、緩衝液などの有無を問わず、薬剤組成物を形成するための標準的手段により、投与し、患者に導入することができる。リポソーム送達メカニズムを使用する場合は、リポソームを形成するための標準的な手順に従う。本発明の組成物は、経口投与のための錠剤、カプセル、エリキシル剤、直腸内投与のための坐薬、滅菌溶液、注射投与のための懸濁液、その他、当該技術分野で知られている組成物として製剤し、使用することができる。
薬剤組成物または製剤は、細胞または例えばヒトを含む対象に、全身投与などの方法で投与するために適した形態の組成物または製剤を意味する。適切な形態は、部分的に、例えば経口、経皮、注射などの投入口の使用または経路に依存する。そのような形態は、組成物または製剤が標的細胞(つまり、そこへの到達のために負電荷を持つ核酸を必要とする細胞)に到達することを妨げてはならない。例えば、血流に注射される薬剤組成物は溶液とする。当該技術分野では他の要因が知られており、組成物または製剤が効果を発揮することを妨げる毒性や形態などの考慮事項が含まれる。
「全身投与」とは、血中へ、その後、全身に分配される、インビボでの全身性の吸収または蓄積を意味する。全身吸収につながる投与経路には、静脈、皮下、腹腔、吸引、経口、肺内、筋肉内があり、それらに限定されない。これらの投与経路の各々が、siRNA分子を到達可能な疾患組織に曝露する。薬剤が血行路に入る速度は、分子量またはサイズの関数であることが判明している。本発明の化合物を含むリポソームまたは他の薬剤担体の使用には、例えば網状内皮系(RES)組織のような特定の組織タイプなどに、薬剤を局在化させる潜在的可能性がある。リンパ球やマクロファージなどの細胞の表面と薬剤の会合を促進できるリポソーム製剤も有用である。このアプローチは、癌細胞などの異常な細胞のマクロファージとリンパ球による免疫学的認識の特異性を利用することにより、薬剤の標的細胞への送達を促進する。
「薬学的に許容可能な製剤」とは、望ましい活性に最適な身体内の部位に、核酸分子を効果的に分配できるような組成物または製剤を意味する。本発明の態様の核酸分子を含む製剤として適切な薬剤の例としては、CNSへの薬剤の到達を促進するP糖タンパク質阻害剤(プルロニックP85など)(Jolliet-Riant and Tillement, 1999, Fundam. Clin. Pharmacol., 13, 16-26)、脳内移植後の徐放送達に用いるDL乳酸・グリコール酸共重合体微粒子(Emerich, D F et al, 1999, Cell Transplant, 8, 47-58)、(Alkermes, Inc. Cambridge, Mass.)、血液脳関門を越えて薬剤を送達することができ、神経細胞による取り込みのメカニズムを変えるポリブチルシアノアクリレート製などの核酸担持ナノ粒子(loaded nanoparticles)(Prog Neuropsychopharmacol Biol Psychiatry, 23, 941-949, 1999)があり、これらに限定されない。他の送達戦略例としては、Boado et al., 1998, J. Pharm. Sci., 87, 1308-1315、Tyler et al., 1999, FEBS Lett., 421, 280-284、Pardridge et al., 1995, PNAS USA., 92, 5592-5596、Boado, 1995, Adv. Drug Delivery Rev., 15, 73-107、Aldrian-Herrada et al., 1998, Nucleic Acids Res., 26, 4910-4916、Tyler et al., 1999, PNAS USA., 96, 7053-7058により記載された材料があるが、それらに限定されない。
本発明では、ポリエチレングリコール脂質を含む表面修飾リポソーム(PEG修飾または長期血中滞留型リポソームまたはステルス・リポソーム)を含む組成物も使用する。これらの製剤は、標的組織への薬剤の蓄積を増大するための方法を提供する。この種類の薬剤担体は、単核食細胞系(MPSまたはRES)によるオプソニン作用と排出に対する抵抗力を持つため、カプセル化した薬剤に関し、血中滞留時間が延長され、薬剤に対する組織の曝露を促進する((Lasic et al. Chem. Rev. 1995, 95, 2601-2627; Ishiwata et al., Chem. Pharm. Bull. 1995, 43, 1005-1011)。そのようなリポソームが腫瘍に選択的に蓄積することが示されており、これはおそらく血管新生標的組織中での血管外遊走と捕捉によるものと考えられる(Lasic et al., Science 1995, 267, 1275-1276; Oku et al., 1995, Biochim. Biophys. Acta, 1238, 86-90)。長期血中滞留型リポソームはDNAおよびRNAの薬物動態および薬力学を促進し、これは特に、MPSの組織中に蓄積することが知られている従来のカチオン性リポソームと比較すると顕著である(Liu et al., J. Biol. Chem. 1995, 42, 24864-24870; Choi et al., International PCT Publication No. WO 96/10391; Ansell et al., International PCT Publication No. WO 96/10390; Holland et al., International PCT Publication No. WO 96/10392)。また、長期血中滞留型リポソームは、肝臓や脾臓などの代謝が活発なMPS組織での蓄積を避ける能力により、薬剤をヌクレアーゼによる分解から保護するとも考えられる。
本発明の態様は、薬学的に許容可能な担体または希釈液中に、薬学的有効量の目的とする化合物を含む保存または投与用に調剤された組成物も含む。治療用の許容可能な担体または希釈液は、薬学分野でよく知られており、例えばRemington's Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Co. (A. R. Gennaro edit. 1985) に記載され、それはこの参照により組み入れられる。例えば、保存料、安定剤、色素、矯味剤を提供できる。それには安息香酸ナトリウム、ソルビン酸、p-ヒドロキシ安息香酸のエステルが含まれる。それに加え、抗酸化剤および懸濁剤を使用できる。
薬学的有効量とは、疾患状態を防止するか、発症を制御するか、治療する(ある症状をある程度まで軽減する。好ましくは、全症状を軽減する)ために必要な用量である。薬学的有効量は、疾患のタイプ、使用する組成物、投与経路、処置するほ乳類のタイプ、研究対象である特定ほ乳類の身体的特徴、併用薬、その他、医学分野の当業者により認識される他の要因に依存する。一般に、負電荷ポリマーの効力に従い、体重1 kgあたり1日0.1 mgから100 mgの量の活性成分を投与する。
本発明の核酸分子およびそれによる製剤は、経口的、局所的、非経口的に、吸引またはスプレーにより、直腸を通じ、従来の無毒性で薬学的に許容可能な担体、補助剤、媒体(これらの組み合わせも可)を含む投与単位剤形で投与することができる。ここで用いる非経口的という用語は、経皮、皮下、血管内(例えば静脈内)、筋肉内、くも膜下腔内の注射または輸液技法などを含む。それに加え、核酸分子および薬学的に許容可能な担体を含む製剤を提供する。本発明の一種以上の核酸分子は、一種以上の非毒性で薬学的に許容可能な担体、希釈液、補助剤(これらの組み合わせも可)、および必要に応じて他の活性成分と共に存在することができる。本発明の核酸分子を含む薬剤組成物については、例えば錠剤、トローチ、ロゼンジ、水または油への懸濁液、散性の粉末または顆粒、エマルジョン、硬軟のカプセル、シロップまたはエリキシル剤など、経口投与に適した剤形が可能である。
経口投与を意図した組成物は、薬剤組成物の製造に関して当該技術分野で知られる任意の方法に従い調剤することができ、そのような組成物は、薬剤として外見が洗練され、味の良い製剤にするために、一種以上の甘味料、矯味剤、着色料、保存料を含むことができる。錠剤は、錠剤の製造に適した非毒性で薬学的に許容可能な賦形剤と混合した活性成分を含む。これらの賦形剤は、例えば炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、ラクトース、リン酸カルシウム、リン酸ナトリウムなどの不活性の希釈剤、例えばコーンスターチやアルギン酸などの粒状化および崩壊剤、例えばデンプン、ゼラチン、アラビアゴムなどの結合剤、例えばステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、タルクなどの潤滑剤である。錠剤はコーティングしない場合と、既知の技法でコーティングする場合がある。場合によっては、既知の技法によりコーティングし、消化管での崩壊と吸収を遅らせ、長期間にわたる持続的な作用を可能にすることがある。例えば、モノステアリン酸グリセリルまたはジステアリン酸グリセリルなどの時間遅延材料が使われる。
経口投与する製剤は、硬ゼラチンカプセルで、活性成分を炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、カオリンなどの不活性の固体希釈剤と混合するか、または軟ゼラチンカプセルで、水またはピーナッツオイル、液状パラフィン、オリーブオイルなどの油の溶媒と活性成分を混合することができる。
水性懸濁液は、水性懸濁液の製造に適した賦形剤と混合した活性材料を含む。賦形剤は懸濁剤であり、例えばカルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロプロピルメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、トラガカントゴム、アラビアゴムなどがある。分散剤または湿潤剤は、例えばレシチンなどの天然のホスファチド、または例えばステアリン酸ポリオキシエチレンなどのアルキレン酸化物と脂肪酸の縮合物、または例えばヘプタデカエチレンオキシセタノールなどのエチレン酸化物と長鎖脂肪族アルコールの縮合物、またはポリオキシエチレンソルビトールモノオリエートなどの脂肪酸とヘキシトールから誘導される部分エステルとエチレン酸化物の縮合物、またはポリエチレンソルビタンモノオリエートなどの脂肪酸と無水ヘキシトールから誘導される部分エステルとエチレン酸化物の縮合物である。水性懸濁液は、例えばエチルまたはn-プロピルp-ヒドロキシ安息香酸などの一種以上の保存料、一種以上の着色料、一種以上の矯味剤、スクロースやサッカリンなどの一種以上の甘味料を含んでもよい。
油性懸濁液は、例えばピーナッツオイル、オリーブオイル、ココナッツオイルなどの植物油、または流動パラフィンなどの鉱油に活性成分を懸濁することにより調製できる。油性懸濁液は、例えば蜜蝋、固形パラフィン、セチルアルコールなどの増粘剤を含んでもよい。味の良い経口製剤にするために、甘味料および矯味剤を追加できる。これらの組成物は、アスコルビン酸などの抗酸化剤を追加して保存できる。
水を加えて水性懸濁液を調製するために適した散性粉末および顆粒では、活性成分が分散剤または湿潤剤、懸濁剤、一種以上の保存料と混合される。適切な分散剤または湿潤剤または懸濁剤は、前述の例の通りである。例えば甘味料、矯味剤、着色料などの追加の賦形剤も使用できる。
本発明の薬剤組成物は、水に油を加えたエマルジョンの形を取ることもある。油相は植物油または鉱油、あるいはそれらの混合である。適切な乳化剤は、例えばアラビアゴムまたはトラガカントゴムなどの天然ゴム、例えばダイズ、レシチンなどの天然のホスファチド、例えばソルビタンモノオリエートなどの脂肪酸と無水ヘキシトールから誘導されるエステルまたは部分エステル、例えばポリオキシエチレンソルビタンモノオリエートなどの上記部分エステルとエチレン酸化物の縮合物である。エマルジョンは甘味料および矯味剤を含むこともある。
シロップとエリキシル剤は、例えばグリセロール、プロピレングリセロール、ソルビトール、グルコース、スクロースなどの甘味料を加えて調製してもよい。そのような製剤は、粘滑薬、保存料、矯味剤、着色料を含むことがある。薬剤組成物は、滅菌した注射用の水性または油性の懸濁液の形を取ることがある。この懸濁液は、前述の適切な分散剤または湿潤剤、および懸濁剤を使い、既知の方法に従い調製できる。滅菌注射用製剤は、例えば1,3-ブタンジオール溶液など、非経口用に許容可能な非毒性の希釈液または溶媒を用いた滅菌注射用溶液または懸濁液の形を取ることもある。使用できる許容可能な媒質および溶媒としては、水、リンゲル液、生理食塩水がある。それに加え、通常、滅菌した固定油が溶媒または懸濁媒質として使われる。この目的のためには、合成モノグリセリドまたはジグリセリドを含め、任意の普通の固定油を使用できる。それに加え、オレイン酸などの脂肪酸に、注射用製剤における用途がある。
本発明の核酸分子は、例えば薬剤の直腸内投与のためなどに、坐薬の形で投与することもできる。これらの組成物は、常温では固体であるが、直腸温では液体であり、従って、直腸内で溶けて薬剤を放出するような、適切な非刺激性の賦形剤と薬剤を混合して調製できる。そのような材料としては、ココアバターとポリエチレングリコールがある。
核酸分子は滅菌媒質を使い、非経口的に投与できる。使用する媒体と濃度に依存し、薬剤は媒体中に懸濁するか、または溶解する。利点として、局所麻酔薬、保存料、緩衝剤などの補助剤を媒体中に溶解することができる。
体重1キロあたり1日約0.1 mgから約140 mg程度の投与量は、前述の条件(被験者1人あたり1日約0.5 mgから約 7g)の治療において有用である。投与量1回分の剤形として担体材料と組み合わせることが可能な活性成分の量は、治療の対象と特定の投与様式により変動する。投与量単位の剤形は、通常、活性成分を約1 mgから約500 mgを含む。
特定の被験者に関する特定投与量は、使用する特定化合物の活性、年齢、体重、健康状態、性別、食生活、投与時点、投与経路、排出速度、薬剤の組み合わせ、治療を受ける特定疾患の重篤度など、多様な要因に依存する。
ヒト以外の動物への投与に関しては、組成物を動物の飼料または飲料水に加えることができる。動物の飼料と飲料水の組成を調整し、飼料と共に薬学的に適切な量の組成物を動物に摂取させると簡便である。また、前もって混合し、飼料または飲料水に加えるようにした組成物を提示することも簡便である。
本発明の核酸分子は、全体的な治療効果を上げるために、他の治療用化合物と組み合わせて被験者に投与することもできる。適応症の治療に複数の化合物を使用することにより、副作用の存在を減らしつつ、有益な効果を増やすことができる。
ある態様において、ADRB2の発現および活性またはそのいずれかの促進を目的とする本発明の方法では、さらに抗癌剤(例えば化学療法)との併用が行われる。本発明は併用される抗癌剤のタイプにより限定されない。実際、多様な抗癌剤が本発明で有用であると想定され、それには以下を含み、ただし、それらに限定されない:
アシビシン、アクラルビシン、塩酸アコダゾール、アクロニン、アドゼレシン、アドリアマイシン、アルデスロイキン、アリトレチノイン、アロプリノールナトリウム、アルトレタミン、アンボマイシン、酢酸アメタントロン、アミノグルテチミド、アムサクリン、アナストロゾール、アノナセオス・アセトゲニン(Annonaceous Acetogenins)、アントラマイシン、アシミシン、アスパラギナーゼ、アスペルリン、アザシチジン、アゼテパ、アゾトマイシン、バチマスタット(Batimastat)、ベンゾデパ、ベキサロテン、ビカルタミド、塩酸ビサントレン、ジメシル酸ビスナフィド (Bisnafide Dimesylate)、ビゼレシン(Bizelesin);、硫酸ブレオマイシン、ブレキナルナトリウム、ブロピリミン、ブラタシン、ブスルファン、カベルゴリン、カクチノマイシン、カルステロン、カラセミド(Caracemide)、カルベチマー(Carbetimer)、カルボプラチン、カルムスチン、塩酸カルビシン、カルゼレシン(Carzelesin)、セデフィンゴル(Cedefingol)、セレコキシブ、クロラムブシル、シロレマイシン(Cirolemycin)、シスプラチン、クラドリビン、メシル酸クリスナトール(Crisnatol Mesylate)、シクロフォスファミド、シタラビン、ダカルバジン、DACA(N-[2-(ジメチルアミノ)エチル]アクリジン-4-カルボキサミド、ダクチノマイシン、塩酸ダウノルビシン、ダウノマイシン、デシタビン、デニロイキンディフィトックス(Denileukin Diffitox) 、デキソルマプラチン、デザグアニン、メシル酸デザグアニン(Dezaguanine Mesylate)、ジアジコン、ドセタキセル、ドキソルビシン、塩酸ドキソルビシン、ドロロキシフェン、クエン酸ドロロキシフェン、プロピオン酸ドロモスタノロン、デュアゾマイシン(Duazomycin)、エダトレキセート、塩酸エフロルニチン、エルサミトルシン、エンロプラチン、エンプロマート、エピプロピジン(Epipropidine)、塩酸エピルビシン、エルブロゾール(Erbulozole)、塩酸エソルビシン(Epirubicin Hydrochloride)、エストラムスチン、リン酸エストラムスチンナトリウム、エタニダゾール、エチヨード化油I 131、エトポシド、リン酸エトポシド、エトプリン(Etoprine)、塩酸ファドロゾール、ファザラビン、フェンレチニド、フロクスウリジン、リン酸フルダラビン、フルオロウラシル、5-FdUMP、フルロシタビン(Flurocitabine)、フォスキドン(Fosquidone)、フォストリエシンナトリウム、FK-317、FK-973、FR-66979、FR-900482、ゲムシタビン、塩酸ゲムシタビン、ゲムツズマブオゾガマイシン、金Au 198、酢酸ゴセレリン、グアナコン(Guanacone)、ヒドロキシウレア、塩酸イダルビシン、イフォスファミド、イルモフォシン(Ilmofosine)、インターフェロンアルファ2a、インターフェロンアルファ2b、インターフェロンアルファn1、インターフェロンアルファn3、インターフェロンベータ1a、インターフェロンガンマ1b、イプロプラチン、塩酸イリノテカン、酢酸ランレオチド、レトロゾール、酢酸ロイプロリド、塩酸リアロゾール、ロメトレキソールナトリウム、ロムスチン、塩酸ロソキサントロン(Losoxantrone)、マソプロコール、マイタンシン、塩酸メクロレタミン、酢酸メゲストロール、酢酸メレンゲストール、メルファラン、メノガリル、メルカプトプリン、メトトレキサート、メトトレキサートナトリウム、メトキサレン、メトプリン、メツレデパ(Meturedepa)、ミチンドミド(Mitindomide)、マイトカルシン(Mitocarcin)、マイトクロミン(Mitocromin)、マイトギリン(Mitogillin)、マイトマルシン、マイトマイシン、マイトマイシンC、マイトスパー(Mitosper)、ミトタン、塩酸ミトキサントロン、ミコフェノール酸、ノコダゾール、ノガラマイシン、オプレルベキン、オルマプラチン、オキシスラン、パクリタキセル、パミドロナート2ナトリウム、ペガスパルガーゼ、ペリオマイシン、ペンタムスチン(Pentamustine)、硫酸ペプロマイシン、ペルフォスファミド、ピポブロマン、ピポスルファン、塩酸ピロキサントロン、プリカマイシン、プロメスタン(Plomestane)、ポルフィマーナトリウム、ポルフィロマイシン、プレドニムスチン、塩酸プロカルバジン、プロマイシン、塩酸プロマイシン、ピラゾフリン、リボプリン、リツキシマブ、ログレチミド、ロリニアスタチン、サフィンゴール、塩酸サフィンゴール、サマリウム/レキシドロナム、セムスチン、シムトラゼン(Simtrazene)、スパルフォセートナトリウム、スパルソマイシン、塩酸スピロゲルマニウム、スピロムスチン、スピロプラチン、スクアモシン、スクアモタシン、ストレプトニグリン、ストレプトゾシン、塩化ストロンチウムSr 89、スロフェヌル、タリソマイシン、タキサン、タキソイド、テコガランナトリウム、テガフール、塩酸テロキサントロン、テモポルフィン、テニポシド、テロキシロン、テストラクトン、チアミプリン、チオグアニン、チオテパ、チミタク、チアゾフリン、チラパザミン、トムデックス、TOP-53、塩酸トポテカン、クエン酸トレミフェン、トラスツズマブ、酢酸トレストロン、リン酸トリシリビン、トリメトレキセート、グルクロン酸トリメトレキセート、トリプトレリン、塩酸ツブロゾール、ウラシルマスタード、ウレデパ、バルルビシン、バプレオチド、ベルテポルフィン、ビンブラスチン、硫酸ビンブラスチン、ビンクリスチン、硫酸ビンクリスチン、ビンデシン、硫酸ビンデシン、硫酸ビネピジン、硫酸ビングリシネート(Vinglycinate sulfate)、硫酸ビンロイロシン、酒石酸ビノレルビン、硫酸ビンロシジン、硫酸ビンゾリジン、ボロゾール、ゼニプラチン、ジノスタチン、塩酸ゾルビシン、2-クロロデオキシアデノシン、2’-デオキシフォルマイシン、9-アミノカンプトテシン、ラルチトレキセド、N-プロパルギル-5,8-ジデアザ葉酸、2-クロロ-2’-アラビノフルオロ-2’-デオキシアデノシン、2-クロロ-2’-デオキシアデノシン、アニソマイシン、トリコスタチンA、hPRL-G129R、CEP-751、リノミド、硫化マスタード、窒化マスタード(メクロレタミン)、シクロフォスファミド、メルファラン、クロランブシル、イホスファミド、ブスルファン、N-メチル-N-ニトロソウレア(MNU)、N,N’-ビス(2-クロロエチル)-N-ニトロソウレア(BCNU)、N-(2-クロロエチル)-N’-シクロヘキシル-N-ニトロソウレア(CCNU)、N-(2-クロロエチル)-N’-(トランス-4-メチルシクロヘキシル)-N-ニトロソウレア(MeCCNU)、N-(2-クロロエチル)-N’-(ジエチル)エチルホスホネート-N-ニトロソウレア(フォテムスチン)、ストレプトゾトシン、ダカルバジン(DTIC)、ミトゾロミド、テモゾロミド、チオテパ、マイトマイシンC、AZQ、アドゼレシン、シスプラチン、カルボプラチン、オルマプラチン、オキサリプラチン、C1-973、DWA 2114R、JM216、JM335、ビスプラチン(Bis(platinum))、トムデックス、アザシチジン、シタラビン、ゲムシタビン、6-メルカプトプリン、6-チオグアニン、ヒポキサンチン、テニポシド、9-アミノカンプトテシン、トポテカン、CPT-11、ドキソルビシン、ダウノマイシン、エピルビシン、ダルビシン(darubicin)、ミトキサントロン、ロソキサントロン、ダクチノマイシン(アクチノマイシンD)、アムサクリン、ピラゾロアクリジン、オールトランスレチノール、14-ヒドロキシレトロレチノール、オールトランスレチノイン酸、N-(4-ヒドロキシフェニル)レチナミド、13-cisレチノイン酸、3-メチルTTNEB、9-cisレチノイン酸、フルダラビン(2-F-ara-AMP)、2-クロロデオキシアデノシン(2-Cda)。
他の抗癌剤としては、以下のものが挙げられる。抗増殖性剤(例えばピリトレキシムイソチオネート)、抗前立腺肥大剤(例えばシトグルシド)、良性前立腺肥大治療薬(例えば塩酸タムスロシン)、前立腺成長阻害剤(例えばペントモン)、および以下の放射性医薬品。フィブリノゲンI 125、フルデオキシグルコースF 18、フルオロドーパF 18、インスリンI 125、インスリンI 131、イオベングアンI 123、イオジパミドナトリウムI 131、ヨードアンチピリンI 131、ヨードコレステロールI 131、ヨードヒップラートナトリウムI 123、ヨードヒップラートナトリウムI 125、ヨードヒップラートナトリウムI 131、ヨードピラセットI 125、ヨードピラセットI 131、塩酸イオフェタミンI 123、イオメチンI 125、イオメチンI 131、イオタラメートナトリウムI 125、イオタラメートナトリウムI 131、イオチロシンI 131、リオチロニンI 125、リオチロニンI 131、酢酸メリソプロルHg 197、酢酸メリソプロルHg 203、メリソプロルHG 197、セレノメチオニンSe 75、テクネチウムTc 99m三硫化アンチモンコロイド、テクネチウムTc 99mビシセート、テクネチウムTc 99mジソフェニン、テクネチウムTc 99mエチドロネート、テクネチウムTc 99mエキサメタジム、テクネチウムTc 99mフリホスミン、テクネチウムTc 99mグルセプテート、テクネチウムTc 99mリドフェニン、テクネチウムTc 99mメブロフェニン、テクネチウムTc 99mメドロネート、テクネチウムTc 99mメドロネート2ナトリウム、テクネチウムTc 99mメルチアチド、テクネチウムTc 99mオキシドロネート、テクネチウムTc 99mペンテタート、テクネチウムTc 99mペンテタートカルシウム3ナトリウム、テクネチウムTc 99mセスタミビ、テクネチウムTc 99mシボロキシム、テクネチウムTc 99mサクシマー、テクネチウムTc 99mイオウコロイド、テクネチウムTc 99mテボロキシム、テクネチウムTc 99mテトロホスミン、テクネチウムTc 99mチアチド、チロキシンI 125、チロキシンI 131、トルポビドンI 131、トリオレインI 125、トリオレインI 131。
別種の抗癌剤として、次のような抗癌剤の効果増強剤がある。三環系抗うつ剤(例えばイミプラミン、デシプラミン、アミトリプチリン、クロミプラミン、トリミプラミン、ドキセピン、ノルトリプチリン、プロトリプチリン、アモキサピン、マプロチリン)、非三環系抗うつ剤(例えばセルトラリン、トラゾドン、シタロプラム)、Ca++拮抗薬(例えばベラパミル、ニフェジピン、ニトレンジピン、カロベリン)、カルモジュリン阻害剤(例えばプレニラミン、トリフロペラジン、クロミプラミン)、アムホテリシンB、トリパラノール類似体(例えばタモキシフェン)、抗不整脈剤(例えばキニジン)、降血圧剤(例えばレセルピン)、チオール除去剤(例えばブチオニンとスルホキシミン)、およびクレマフォルELなどの多剤耐性低減薬。
さらに別の抗癌剤は、以下からなる群から選択される:アノナセオス・アセトゲニン、アシミシン、ロリニアスタチン、グアナコン、スクアモシン、ブラタシン、スクアモタシン、タキサン、パクリタキセル、ゲムシタビン、メトトレキサートFR-900482、FK-973、FR-66979、FK-317、5-FU、FUDR、FdUMP、ヒドロキシウレア、ドセタキセル、ジスコデルモリド、エポチロン、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビノレルビン、メタ・パクリタキセル、イリノテカン、SN-38、10-OHカンプト、トポテカン、エトポシド、アドリアマイシン、フラボピリドル、シスプラチン、カルボプラチン、ブレオマイシン、マイトマイシンC、ミトラマイシン、カペシタビン、シタラビン、2-C1-2’デオキシアデノシン、フルダラビン-PO4、ミトキサントロン、ミトゾロミド、ペントスタチン、トムデックス。
特に好ましい抗癌剤類がタキサン(例えばパクリタキセルとドセタキセル)である。別の重要な抗癌剤類はアノナセオス・アセトゲニンである。
他の癌治療法としては、ホルモン療法がある。ある態様では、抗癌剤としてタモキシフェンまたはアロマターゼ阻害剤であるアリミデックス(つまりアナストロゾール)を使用する。
III. 抗体
ADRB2または調節タンパク質は、その断片、誘導体、類似体を含め、以下に記載する診断、研究、治療方法で用途がある抗体を作製するための抗原として使うことができる。抗体はポリクローナルまたはモノクローナル、キメラ、ヒト化、単鎖、抗原結合性フラグメントのいずれかである。そのような抗体および断片の作製および標識には、当業者に知られている種々の手順を使うことができる。例えば、Burns, ed., Immunochemical Protocols, 3rd ed., Humana Press (2005); Harlow and Lane, Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory (1988); Kozbor et al., Immunology Today 4: 72 (1983); Kohler and Milstein, Nature 256: 495 (1975) を参照。
V. 薬剤スクリーニング用途
ある態様において、本発明は薬剤スクリーニング(例えば抗癌剤に関するスクリーニング)のためのアッセイ法を提供する。本発明のスクリーニング方法では、本発明の方法を用いて同定される癌マーカーを利用する(例えばADRB2)。例えば、ある態様では、本発明は癌マーカー遺伝子または癌マーカー遺伝子調節因子の発現を改変する(例えば増減させる)化合物に関するスクリーニング方法を提供する。化合物または薬剤は、例えばプロモーター領域との相互作用により、転写を妨害することがある。化合物または薬剤は、ADRB2の調節因子が作るmRNAを妨害することがある(例えば、RNA干渉、アンチセンス技術、等々により)。化合物または薬剤は、ADRB2が生物活性を示す位置の上流または下流の経路を妨害することがある。ある態様において、候補化合物は癌マーカーに対するアンチセンスまたは干渉RNA薬剤(オリゴヌクレオチド)である。他の態様においては、候補化合物は本発明の癌マーカー調節因子または発現産物と特異的に結合し、その生物学的機能を阻害する抗体または低分子である。
1つのスクリーニング方法では、癌マーカーを発現している細胞に化合物を接触させ、その後、候補化合物が発現に与える影響を測定することにより、候補化合物の癌マーカー発現を改変する能力を評価する。ある態様では、細胞により発現される癌マーカーmRNAのレベルを検出することにより、候補化合物が癌マーカー遺伝子の発現に与える影響を測定する。mRNAの発現は任意の適切な方法で検出できる。他の態様においては、癌マーカーによりコードされるポリペプチドのレベルを計測することにより、候補化合物が癌マーカー遺伝子の発現に与える影響を測定する。発現されるポリペプチドのレベルは、ここに開示するものを含め、ただし、それらに限定されず、任意の適切な方法を使って計測できる。
特に、本発明は調節因子つまり候補または試験化合物または薬剤(例えば、タンパク質、ペプチド、ペプチド模倣薬、ペプトイド(peptoid)、低分子、他の薬物)を同定するためのスクリーニング方法を提供し、それらの化合物または薬剤は、本発明の癌マーカーと結合するか、または例えば癌マーカーの発現または癌マーカーの活性に対して阻害性(または刺激性)の影響を与えるか、または癌マーカーの基質の発現または活性に対して刺激性または阻害性の影響を与える。このようにして同定された化合物は、標的遺伝子産物の生物学的機能をさらに詳しく説明するために、または正常な標的遺伝子の相互作用を混乱させる化合物を同定するために、治療プロトコール中で直接的あるいは間接的に、標的遺伝子産物の活性(例えば癌マーカー遺伝子)を調節するために使用できる。癌マーカーの活性または発現を阻害する化合物は、例えば癌、特に前立腺癌などの増殖性疾患の治療に有用である。
本発明の試験化合物は、当該技術分野で知られているコンビナトリアルライブラリー法として、生物学的ライブラリー、ペプトイドライブラリー(ペプチドの機能を持つが、新しいペプチド以外の骨格を持ち、酵素分解耐性があり、それにも関わらず、生物活性を維持するような分子のライブラリー。例えばZuckennann et al., J. Med. Chem. 37: 2678-85 [1994]を参照)、空間的な規定が可能な平行した固相または液相のライブラリー、逆重畳積分を必要とする合成ライブラリー法、「1ビーズ1化合物」ライブラリー法、アフィニティークロマトグラフィーによる選択を使う合成ライブラリー法など、多数のアプローチの中から任意の方法を使い見いだすことができる。ペプチドライブラリーについては、生物学的ライブラリー法およびペプトイドライブラリー法が好ましく、他の4種類の方法は、ペプチド、非ペプチドのオリゴマー、低分子の化合物ライブラリーに応用できる(Lam (1997) Anticancer Drug Des. 12:145)。
分子ライブラリーの合成方法の例は、当該技術分野で見つけることができ、例えば次のような例がある。DeWitt et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 90:6909 [1993]; Erb et al., Proc. Nad. Acad. Sci. USA 91:11422 [1994]; Zuckermann et al., J. Med. Chem. 37:2678 [1994]; Cho et al., Science 261:1303 [1993]; Carrell et al., Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 33.2059 [1994]; Carell et al., Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 33:2061 [1994]; Gallop et al., J. Med. Chem. 37:1233 [1994]。
化合物のライブラリーは、溶液中(例えばHoughten, Biotechniques 13:412-421 [1992])、またはビーズ上(Lam, Nature 354:82-84 [1991]), chips (Fodor, Nature 364:555-556 [1993])、細菌または胞子上(米国特許第5,223,409号。この参照により組み入れられる)、プラスミド上(Cull et al., Proc. Nad. Acad. Sci. USA 89:18651869 [1992])、ファージ上(Scott and Smith, Science 249:386-390 [1990]; Devlin Science 249:404-406 [1990]; Cwirla et al., Proc. NatI. Acad. Sci. 87:6378-6382 [1990]; Felici, J. Mol. Biol. 222:301 [1991])のいずれかにより提示される。
本発明はさらに、前述のスクリーニングアッセイにより同定される新規薬剤(例えば後述する癌治療法を参照)に関係する。従って、ここに記載されるように同定された薬剤(例えば癌マーカー調節因子、アンチセンス癌マーカー核酸分子、siRNA分子、癌マーカー特異抗体、癌マーカー結合物質など)を、適切な動物モデル(ここに記載されるようなもの)においてさらに使用し、その薬剤による治療の有効性、毒性、副作用、作用機序のいずれかを決定することは、本発明の範囲内である。さらに、前述のスクリーニングアッセイにより同定される新規薬剤は、例えばここに記載される治療に使用することができる。
VII. 遺伝子導入動物
本発明では、本発明の外来癌マーカー遺伝子(例えばADRB2)またはその突然変異体もしくは変異体(例えば切り詰め型または単一ヌクレオチド多型)を含む遺伝子導入動物の作製を意図する。他の態様においては、動物はADRB2ノックアウト動物である。好ましい態様では、遺伝子導入動物は野生型の動物と比較し、改変された表現型を示す(例えばマーカーの存在の増減)。そうした表現型の存在の有無を解析する方法は、ここに開示されるものを含み、ただし、それらに限定されない。一部の好ましい態様では、遺伝子導入動物はさらに、腫瘍の成長の増減または癌の証拠を示す。
本発明の遺伝子導入動物には、薬剤(例えば癌治療法)スクリーンにおいて用途がある。ある態様では、試験化合物(例えば癌の治療に有用であると考えられる薬剤)および対照化合物(例えばプラセボ)を、遺伝子導入動物および対照動物に投与し、効果を評価する。
遺伝子導入動物は多様な方法を使い作製できる。ある態様では、種々の発生段階の胚性細胞を使い、遺伝子導入動物作製のために導入遺伝子を取り込ませる。胚性細胞の発生段階に従い、異なる方法を用いる。接合体は微量注入に最適な標的である。マウスでは、オスの前核が直径約20μmのサイズに達し、1〜2ピコリットル(pl)のDNA溶液の再現できる注入が可能である。遺伝子導入の標的として接合体を使用することには、ほとんどの場合、注入したDNAが最初の卵割よりも前に宿主細胞ゲノムに取り込まれという大きな利点がある((Brinster et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82:4438-4442 [1985])。その結果、非ヒト遺伝子導入動物の全細胞が、取り込まれた導入遺伝子を持つことになる。また、生殖細胞の50%が導入遺伝子を持つため、これは一般に、樹立系統から子孫への導入遺伝子の効率的な伝達にも反映される。米国特許第4,873,191号は、接合体の微量注入の方法を記載している。この特許の開示の全文がここに含まれる。
他の態様では、非ヒト動物への導入遺伝子の取り込みにレトロウイルスの感染を利用する。ある態様ではレトロウイルスベクターを使い、卵母細胞の囲卵腔にレトロウイルスベクターを注入し、卵母細胞への遺伝子導入を行う(米国特許第6,080,912号。この参照により開示する)。他の態様では、発生中の非ヒト胚を胚盤胞段階までインビトロで培養する。この間、卵割球をレトロウイルス感染の標的にすることができる(Janenich, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 73:1260 [1976])。透明帯を除去する酵素処理により、卵割球の効率的な感染が可能になる(Hogan et al., in Manipulating the Mouse Embryo, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y. [1986])。導入遺伝子を取り込むために用いるウイルスベクター系は通常、導入遺伝子を輸送する複製欠損レトロウイルスである(Jahner et al., Proc. Natl. Acad Sci. USA 82:6927 [1985])。遺伝子導入は単層のウイルス産生細胞上で卵割球を培養することにより、容易に、かつ効率良く、行うことができる(Stewart, et al., EMBO J., 6:383 [1987])。別の方法として、それよりも後の段階で感染させても良い。ウイルスまたはウイルス産生細胞を胞胚腔に注入できる(Jahner et al., Nature 298:623 [1982])。取り込みは遺伝子導入動物中の細胞の一部のみで起きるため、樹立系統の大部分は、導入遺伝子に関してモザイク状になる。さらに、樹立系統はゲノム中の異なる位置に、導入遺伝子の種々のレトロウイルス挿入部分を含み、それは通常、子孫で分離する。さらに、効率は低いが、妊娠中期の胚の子宮内レトロウイルス感染により、生殖系列に導入遺伝子を取り込むこともできる(Jahner et al., supra [1982])。レトロウイルスまたはレトロウイルスベクターを使い遺伝子導入動物を作製するために、当該技術分野において知られる他の手段としては、受精卵または初期胚の囲卵腔に、レトロウイルス粒子またはレトロウイルスを産生するマイトマイシンC処理細胞を微量注入する方法がある(PCT International Application WO 90/08832 [1990], and Haskell and Bowen, Mol. Reprod. Dev., 40:386 [1995])。
他の態様において、導入遺伝子は胚性幹細胞に導入され、遺伝子を導入された幹細胞を使い、胚が形成される。ES細胞は適切な条件下で着床前の胚をインビトロで培養することにより得られる((Evans et al., Nature 292:154 [1981]; Bradley et al., Nature 309:255 [1984]; Gossler et al., Proc. Acad. Sci. USA 83:9065 [1986]; and Robertson et al., Nature 322:445 [1986])。導入遺伝子は、当該技術分野で知られる多様な方法によるDNA形質移入により、ES細胞に効率良く取り込むことができ、その方法にはリン酸カルシウム共沈、プロトプラストまたはスフェロプラストの融合、リポフェクション、DEAEデキストラン形質移入などがある。導入遺伝子はレトロウイルス媒介形質導入または微量注入により、ES細胞に取り込んでも良い。そのように形質移入を受けたES細胞は、次に、胚盤胞段階の胚の胞胚腔に導入後、胚でコロニーを形成し、その結果、生じるキメラ動物の生殖系列を作製することができる(これに関する総論として、Jaenisch, Science 240:1468 [1988]を参照)。形質移入を受けたES細胞の取り込みに先立ち、導入遺伝子が選択の手段を提供するものと仮定して、形質移入ES細胞は、導入遺伝子を組み込んだES細胞の集積培養のための種々の選択プロトコールを受けることができる。別の方法として、ポリメラーゼ連鎖反応を使い、導入遺伝子を組み込んだES細胞をスクリーニングしても良い。この技法では、胞胚腔への導入に先立ち、適切な選択条件下で、形質移入ES細胞を増殖させる必要性がなくなる。
さらに他の態様においては、相同組換えを使い、遺伝子機能をノックアウトするか、または欠失変異体(例えばトランケーション変異体)を作る。相同組換えの方法は、米国特許第5,614,396号に記載され、この参照により組み入れられる。
実施例
以下の例は本発明の特定の好ましい態様および側面を実証し、さらに説明するために提供するものであり、本発明の範囲を限定すると解釈すべきではない。
実施例1
前立腺癌におけるADRB2の発現
A. 実験手順
細胞培養
LNCaPおよびDU145前立腺癌細胞は、10%ウシ胎児血清を添加したRPMI(Invitrogen, Carlsband, CA)中で培養した。RWPE細胞は5 ng/mlヒト組換えEGFと0.05 mg/mlウシ下垂体抽出液を添加したケラチノサイト無血清培地(Invitrogen)中で培養した。H16N2不死化ヒト乳腺上皮細胞は、ハムF12に添加物を加えた培地で培養した。
遺伝子発現解析
両方の細胞株において、EZH2感染後の種々の時点で(RWPEは3、6、12、24、48、72時間後、H16N2は6、12、24、48、72時間後)、またはEZH2 RNA干渉から48時間後に、全RNAを単離した。遺伝子発現解析は、15,495 のUniGeneクラスターを含む20KエレメントのcDNAマイクロアレイを使い、記載通りに実施した(Dhanasekaran et al., 2005)。ハイブリダイゼーション後にスライドをAxonスキャナ(Axon Instruments Inc., Union City, CA)で走査し、Genepixで画像を解析し、下記の方法でデータを解析した。
クロマチン免疫沈降(ChIP)およびゲノムワイド位置解析
ChIPは公表済みのプロトコールをやや修正した方法に従い実施した(Boyd et al., Proc Natl Acad Sci USA 95, 13887-13892 1998)。簡単に説明すると、ホルムアルデヒドを最終濃度1%になるまで、培養細胞に直接加えた。転移性組織の場合は、試料を最初に剃刀で小片に刻み、5〜10 mlのPBSに移した後、ホルムアルデヒドを加えた。細胞を室温で10分間回転させた。1/20Vの2.5 Mグリシンで架橋を停止し、1xPBSで細胞を洗浄し、プロテイナーゼ阻害剤を含む1xPBSで回収した。転移性組織試料はさらに組織ホモジナイザーで脱凝集させた。次に、細胞をペレット状にし、プロテイナーゼ阻害剤を含む細胞溶解用緩衝液に再懸濁した。細胞溶解用緩衝液中で10分間インキュベートした後、試料をペレット状にし、核溶解用緩衝液に再懸濁し、超音波処理により、平均サイズ500bpのクロマチンに切断した。クロマチンはサケ精子DNA/プロテインAアガロース50%ビーズで前処理し、特異抗体と共に一晩インキュベートした。この研究で用いた抗体は、EZH2(BD Bioscience)EED(Upstate)SUZ12(Abcam)、トリメチル化H3K27(Upstate)、アセチルH3K27(Upstate)、Myc(Abcam)、IgG対照抗体(Santa Cruz)である。翌日、抗体と結合したクロマチンをプロテインA/アガロースを使い回収し、よく洗浄し、リバースクロスリンクを行った。免疫沈降させたDNAおよび全細胞抽出DNAを、RNase AおよびプロテイナーゼKで処理して精製し、Qiaquick PCR精製キットを使い精製した(Qiagen, Valencia, CA)。精製DNAは遺伝子濃縮を調べるPCR解析に使用した。
精製DNAは2段階のライゲーション媒介PCR(LM-PCR)プロトコールに従い、末端を平滑化させ、リンカーと連結し、増幅させることにより(Lee et al., Cell 125, 301-313 2006)、複数の標的遺伝子のPCR解析またはプロモーター配列とのハイブリダイゼーションに十分なクロマチンを作製した。増幅させたインプットおよびChIP濃縮クロマチンを等量、PCR解析にかけ、標的遺伝子プロモーターの濃縮を調べた。
全細胞抽出DNAまたは免疫濃縮DNA各200 ngを、BioPrimeアレイCGHゲノム標識キット(Invitrogen, Carlsbad, CA)を使い標識し、精製を行った。全細胞抽出DNAはCy3色素で標識し、免疫濃縮DNAはCy5色素で標識した(Perkin Elmer, Wellesley, MA)。Cy3またはCy5で標識したDNA各2.5μgを混合し、十分にアノテーションが行われ、明確に定義された機能を持つ4,839個のヒト遺伝子プロモーター(Li et al., Proc Natl Acad Sci U S A 100, 8164-8169 2003)を含むhu6kヒト近位プロモーター(Aviva Systems Biology, San Diego, CA)と、65℃で40時間、ハイブリダイゼーションを行った。
ハイブリッドを形成したプロモーターチップをGenepix 4000Bスキャナ(Axon, Foster City, CA)でスキャンし、Genepix Pro3.0で解析し、蛍光強度および他の品質管理パラメータを抽出した。スポットの強度からバックグラウンド信号を差し引いて補正を加えた。低強度(<1000)および質の悪いスポットのデータにフラグを立て、それ以上の解析から除外した。両方のチャネルで強度がバックグラウンドよりも1標準偏差分高いデータを正規化の対象とした。Cy5およびCy3チャネルを正規化するために、正規化対象データにおける発現比のメジアンの平均値を1とした。フラグが立っていない全データに関し、正規化した発現比のメジアンを、さらなる解析に用いた。
PC3細胞株では、インプットDNAに加え、SUZ12抗体またはIgG対照いずれかの濃縮クロマチンのハイブリダイゼーションを行った。SUZ12/インプットの強度比が1.5を超え、IgG/インプットの比を0.6上回った場合にのみ、遺伝子プロモーターがPRC2に占有されていると見なした。LNCaP細胞では、IgG対照チップがなく、SUZ12/インプットの強度比が1.5を超えた場合に、遺伝子プロモーターがPRC2に占有されていると見なした。ADRB2と名づけた配列をプロモーターアレイで確認し、ADRB2プロモーターの1kb上流の領域内にあることが判明した。
マウス前立腺腫瘍異種移植モデル
マウスを使う全ての手順は、ミシガン大学の「実験動物の使用と飼育に関する大学委員会」による承認を受けた。腫瘍形成能を調べるために、生後5週のオスのヌード胸腺欠損BALB/c nu/nuマウス(Charles River Laboratory, Wilmington, MA)を使用した。EZH2-/ADRB2+ DU145- shEZH2細胞が腫瘍形成に果たす役割を評価するために、EZH2-/ADRB2+ DU145細胞またはベクター対照細胞を増殖させ、それぞれ2群のマウス(各群に5匹)の背面皮下に注射して接種した。βアドレナリン信号が腫瘍形成に果たす役割を評価するために、DU145細胞を増殖させ、収集の24時間前にPBSまたは10 μMイソプロテレノールを投与した。
次に、細胞を収集し、10μMイソプロテレノールを含むかまたは含まない0.1 ml PBSに懸濁した。合計15匹のマウス(1群あたりn=5)各々の背面皮下に5 x 106個のDU145細胞を移植した。移植から24時間後に投与を開始した。各群に毎日、PBSまたはイソプロテレノール(400μg/日または800μg/日)を腹腔内注射した。腫瘍のサイズを毎週計測し、(π/6)(L x W2) という式を使い、腫瘍の体積を推定した。この式で、Lは腫瘍の長さ、Wは腫瘍の幅である。
遺伝子発現解析
EZH2過剰発現マイクロアレイのために、EZH2アデノウイルス感染後の種々の時点で全RNAを単離した(RWPEは3、6、12、24、48、72時間後、H16N2は6、12、24、48、72時間後)。EZH2 RNA干渉マイクロアレイのために、12ウェルのプレートに、1ウェルあたり2.0E05個のRWPEおよびH16N2細胞株を蒔いた。蒔いてから12時間後に、オリゴフェクタミン(Invitrogen)を使い、細胞に対し、60 pmolの二本鎖、センス、アンチセンスのいずれかのsiRNAオリゴヌクレオチドで形質移入を行った。24時間後に、2回目の同じ形質移入を行った。RWPEまたはH16N2の3種類の培養細胞各々から全RNAを単離し、EZH2または対照としてのルシフェラーゼに対するsiRNA複合体で、48時間、形質移入を行った。
遺伝子発現解析は15,495 のUniGeneクラスターを含む20KエレメントのcDNAマイクロアレイを使い、記載通りに実施した(Dhanasekaran et al., 2005)。ハイブリダイゼーション後にスライドをAxonスキャナ(Axon Instruments Inc., Union City, CA)で走査し、Genepixで画像を解析し、下記に詳細に記載する方法でデータを解析した。遺伝子発現値は対数で表現した。2標本t検定により、平均遺伝子mRNA発現量におけるサンプル群間の有意な差を求めた。両細胞株の発現データを、EZH2アデノウイルスまたはEZH2 siRNAデータセットの2群にプールした。EZH2アデノウイルスおよびEZH2 RNAiのプロファイルのデータセットに関し、各細胞株内で平均値からの標準偏差を使い、発現値を正規化した。EZH2 RNAiまたはアデノウイルスのデータセットにおいて、いずれの細胞株についても、フラグの立っていない4未満の値の転写産物は、それぞれのデータセットからフィルターして除外した。両データセットで最低強度と品質管理のフィルターを通ったプローブのセットのみを(10,444プローブ)その後の解析のために選択した。EZH2アデノウイルスのデータセットに関しては、ピアソンの相関係数を使い、各遺伝子の発現のEZH2との類似性または相違性の有意水準を求めた。EZH2 RNAiデータセットに関しては、2標本t検定により、EZH2 RNAi形質移入細胞のプロファイルをRNAi対照形質移入細胞のプロファイルと比較した。偽発見率(False Discovery Rates: FDR)はStorey and Tibshirani, 2003による方法を使い推定した。遺伝子発現パターンをカラーマップとして可視化するために、ClusterおよびTreeViewソフトウェア(Eisen et al., Proc Natl Acad Sci U S A 95, 14863-14868 1998)を使用した。
統合的ゲノム解析
EZH2の過剰発現により抑制され、EZH2の阻害により抑制解除される共通遺伝子セットを、インビトロEZH2抑制シグネチャー(ERS)に指定した。インビトロで制御を受けたEZH2遺伝子セットの同調的発現のインビボ組織内における有意水準は、次のような方法で決定した。あるインビボ組織のプロファイルデータセット中、およびEZH2アデノウイルスおよびRNAiプロファイルデータセット中に表れる一般遺伝子群に関し、インビボのデータセット中の発現値に適用される特定の測定基準(乳癌および前立腺癌のデータセットは、EZH2発現との逆相関による。Novartis GeneAtlasは、成人のプロファイルと胎児のプロファイルを比較したt統計量による。グローバル癌マップでは、固形腫瘍と血液腫瘍を比較したt統計量による)に従い、発現値の相対順位を求めた。cDNAとAffymetrixまたはAgilentのマイクロアレイプラットフォーム間のマッピングは、一般遺伝子名を使い行った。ある遺伝子があるプラットフォーム上で複数回表れる場合は、その遺伝子について最高の順位を用いた。順位リスト内でのインビトロERS遺伝子の位置の有意性は、Lamb et al., Cell 114, 323-334に記載されたコルモゴロフ・スミルノフ検定(KS)統計量を使い評価し、有意性のキャリブレーションは、サンプルラベルまたはインビボのデータセット中のEZH2転写産物に関する値の無作為な順列に基づき、1000の遺伝子発現値順位を使用して行った。
癌においてEZH2により最も強く抑制される遺伝子の焦点を絞ったサブセットを選択するために、複数のデータセットにおけるEZH2との相関関係から、個々の遺伝子の発現パターンを評価した。検討した前立腺および乳房腫瘍データセット各々から、そのデータセット内の全サンプルにおける平均的発現値と比較し、EZH2の発現値が非常に高いか、または非常に低い(>1 SDまたは<-1 SD)サンプルを選択した。次に、EZH2と逆相関を示す発現パターンを持つインビトロERS遺伝子のサブセットを選択し、それをインビボERSと定義した。
次に、これらインビボERS遺伝子をChIPオンチップアッセイ法で同定されたPRC2標的遺伝子と比較した。最後に、PRC2により物理的な占有も受けているインビボERS遺伝子を、「癌における直接のEZH2標的」に指定した。
化学反応試薬
ADRB2の拮抗薬ICI 118,551および刺激薬であるイソプロテレノールはSigma-Aldrichから購入し、作用濃度1μM、10μM、100μMのいずれかで使用した。SAHAはBiovision Incから入手し、DMSOに溶解し、作用濃度1μMで使用した。DZNepは5μMで使用し、細胞を48時間処理した後、RNA単離のために収集した。
細胞培養
LNCaPおよびDU145前立腺癌細胞は、10%ウシ胎児血清を添加したRPMI(Invitrogen, Carlsband, CA)中で培養した。RWPE細胞は5 ng/mlヒト組換えEGFと0.05 mg/mlウシ下垂体抽出液を添加したケラチノサイト無血清培地(Invitrogen)中で培養した。H16N2不死化ヒト乳腺上皮細胞は、ハムF12に0.5μg/mlファンギゾン、5μg/mlゲンタマイシン、5 mMエタノールアミン、10 mM HEPES、5μg/mlトランスフェリン、10μM T3、50μMセレニウム、5μg/mlインスリン、1μg/mlヒドロコルチゾン、10 ng/ml EGFを加えた培地で培養した。
EZH2アデノウイルス感染およびRNA干渉は、記載通りに実施した(Kleer et al., Proc Natl Acad Sci U S A 100, 11606-11611 2003; Varambally et al., Cancer Cell 8, 393-406 2002)。安定したADRB2ノックダウンを含むRWPE細胞は、ADRB2 shRNAコンストラクト(Open Biosystems, Huntsville, AL)を使用して形質移入を行い、ピューロマイシンで選択して作製した。安定したEZH2ノックダウンを含むDU145細胞株は、EZH2 shRNA発現コンストラクト(Open Biosystems)を使用して作製した。
ChIPおよびqRT-PCR解析のために、DU145細胞を0.5μM SAHAで30分、2、6、12、24時間処理した後、収集した。
改良基底膜アッセイ
基底膜マトリックス浸潤アッセイは、ほぼ以前に記載された通りに実施した(Kleer et al., 2003 上記参照)。簡単に説明すると、加温した無血清培地とマトリゲル(Fisher Scientific)を1:3の比率で混合し、このマトリゲル混合液300μlをChemicon 24ウェルプレート(Chemicon)の各ウェルインサートの中央に入れ、室温で1〜2時間固形化させた。細胞はトリプシン処理し、無血清培地に再懸濁した。無血清培地300μlに懸濁した約1 x 105個の細胞を上部チャンバーの各インサートに加え、下部チャンバーには500μlの完全培地を加えた。細胞をそれぞれの試験薬で10分間処理した後、浸潤チャンバーに入れた。次に、細胞を上部チャンバー内で48時間、増殖させた。インサート内の浸潤を起こさない細胞を除去し、メンブレン底面の浸潤した細胞を示すために、インサートを染色した。次に、顕微鏡を使い、染色された細胞を計数し、画像を撮影した。
スクラッチ法による細胞遊走アッセイ
RWPEベクターおよびADRB2ノックダウン細胞をコンフルエンス状態になるまで増殖させた。密集した細胞の単層に、10μlピペットの先端で人工的な傷をつけた。遊走した細胞と傷の修復を可視化するために、細胞の画像を0、24、48時間後に撮影した。
定量リアルタイムPCR(qRT-PCR)
SYBRグリーンqRT-PCRは、標準プロトコールに従い3通り実施した(Kleer et al., 2003 上記参照)。サンプルはハウスキーピング遺伝子GAPDHまたはRPL13AのmRNAレベルに正規化した。使用したプライマー配列は表6に掲げる。
免疫ブロット解析
細胞抽出液をSDS-PAGEで分離し、ニトロセルロース膜上にブロットし、抗体との間で免疫ブロットを形成させ、ECL-plus(Amercham Bioscience)を使用して可視化した。次の抗体を使用した。ADRB2(Abcam)、βチューブリン(Santa Cruz)、EZH2(BD Bioscience)。抗ADRB2抗体は通常、予測したサイズ(46.5kDa)の主要なバンドを示した。しかし、この抗体の一部のロットでは、予測したバンドの上方に約5kDaの余分な弱いバンドを示すことがある。
免疫蛍光共染色
以前に記載された抗ADRB2および抗EZH2を使い、共焦点免疫蛍光共染色を行った(Rhodes et al., Nat Biotechnol 23, 951-959 2005)。
組織マイクロアレイ解析(TMA)
前立腺癌におけるADRB2発現のTMAは、既定のプロトコールに従い実施した(Varambally et al., Cancer Cell 8, 393-406 2005)。カプラン・マイヤー解析のために、臨床的失敗は、0.2 ng/ml PSAの上昇か、または転移性癌の発生を含む前立腺切除術後の疾患の再発と定義した。ADRB2染色強度測定値を1、2、3、4のレベルで表し、それを0から100パーセントまでの陽性染色測定率と掛け、その点数に基づき、各試料のADRB2タンパク質レベルを測定した。
B. 結果
前立腺癌におけるEZH2の直接の標的遺伝子としてのADRB2の同定
この研究の目的は、EZH2の発癌特性をもたらす主な直接の標的遺伝子の特性を調べることである。EZH2は多数の下流の分子を調節する可能性があるため、標的遺伝子の選択には複数の多様なゲノムデータを利用し、幾つかの組み入れ基準を適用し、偽陽性率を最低限に抑えた(図1)。EZH2の調節不全により調節される遺伝子発現を調べるために、20kエレメントのcDNAマイクロアレイを使い、良性不死化RWPE前立腺およびH16N2乳房細胞株のプロファイルを決定した。以下に記載するように、139点の特徴が(126個のユニーク遺伝子に関し)が同定され、「インビトロEZH2抑制シグネチャー(ERS)」として定義された。これらは、対照としたアデノウイルス処理細胞と比較すると、EZH2アデノウイルス過剰発現により抑制され、また、対照としたsiRNA処理細胞と比較すると、EZH2 RNA干渉により上方制御(抑制解除)されていた(表3)。
EZH2がヒトの癌の進行において重要な役割を果たすため、臨床的に関連性を持ち、EZH2により調節される遺伝子を研究した。インビボでEZH2による同調的な抑制が見られるインビトロERS遺伝子のサブセットを探すために、前立腺癌データセット2点(Glinsky et al., J Clin Invest 113, 913-923 2004; Yu et al., J Clin Oncol 22, 2790-2799 2004)および乳癌データセット2点(Huang et al., Lancet 361, 1590-1596 2003; van 't Veer et al., Nature 415, 530-536 2002)、190のヒト原発腫瘍で構成されるグローバル癌マップ(Ramaswamy et al., Proc Natl Acad Sci U S A 98, 15149-15154 2001)を含め、複数のOncomine(Rhodes et al., Neoplasia 6, 1-6 2004)の公開ヒト腫瘍遺伝子発現データセットを検索して調べた。これらの癌プロファイリングデータセットを選択したのは、EZH2の特徴を前立腺癌と乳癌で最も良く特定できるためである。インビトロERS遺伝子の群としての発現パターンは、全データセットでEZH2転写産物レベルとの顕著な逆相関を示した(図6)。この内、23個の個別遺伝子が、高いEZH2レベルにおいて有意な腫瘍の下方制御(t検定でp<0.05)を受け、従って、その後の研究のための「インビボERS」として選択された。これらの遺伝子の多くが、以前、細胞増殖および細胞接着に関係すると見なされたことがある。
EZH2は直接的な転写調節によるか、またはその後の影響により、下流の遺伝子発現を調節する転写抑制因子である。EZH2の主な標的を決定するために、大規模なプロモーター占有に関して詳しく研究されてきた(Boyer et al., Nature 441, 349-353 2006; Bracken et al., Genes Dev 20, 1123-1136 2006; Kirmizis et al., Genes Dev 18, 1592-1605 2004; Lee et al., Cell 125, 301-313 2006)SUZ12の抗体を使い、PRC2複合体のゲノムワイド位置マッピングを行った。標的遺伝子のロバスト性を確実にするために、2種の前立腺癌細胞株、PC3とLNCaPを調べた。PRC2で占有された遺伝子は、PC3細胞では85個、LNCaP細胞では78個、同定された。63個の遺伝子が重複しており、このアッセイの精度が実証された(表4)。無作為に選択された3種の推定標的(NAT1、TUBB、ZICI)で構成されるセットを、通常のChIPで検証した後、PCR(ChIP-PCR)アッセイを行った(図7)。
前立腺癌における直接のEZH2標的を同定するために、遺伝子発現とプロモーター結合のデータをまとめた。トランスクリプトーム解析で同定された23個のインビボERS遺伝子の中で、ARB2とIGFBP2という2種の遺伝子が、PRC2により直接占有されている。
癌におけるEZH2の直接の標的を高い信頼性で同定するために、図1に示した概要のように、インビトロ細胞株、インビボ組織発現プロファイリング、ゲノムワイド位置データなどの多様なゲノミクスデータを調べた。インビトロ発現プロファイリングは、RWPE前立腺およびH16N2乳房細胞株の両方におけるEZH2アデノウイルス過剰発現またはEZH2 siRNA(低分子干渉RNA)阻害により行った。各データセット中でトップの改変遺伝子(1から1000)を比較したところ、偶然には起きない重複が確認された(図6A)。特に、577個の遺伝子がEZH2アデノウイルスによる有意な抑制を示し(p<0.005、偽発見率(FDR)=0.45)、2004個がEZH2 siRNAにより有意な誘導を示した(p<0.005、FDR=0.13)。これらの内、139の転写産物(126個のユニーク遺伝子に対し)の有意な重複(フィッシャー直接確率法によりp<0.002、FDR=0.005)を示し(図6G、表3)、従って、それらは「インビトロEZH2抑制シグネチャー」を表す。
インビトロERS遺伝子がインビボでEZH2による同調的発現を示すかどうかを調べ、それにより、臨床的な関連性を実証するために、ヒト腫瘍の公開遺伝子発現データセットを検討した(Rhodes et al., Neoplasia 6, 1-6 2004)。コルモゴロフ・スミルノフ(KS)検定によるノンパラメトリックな順序統計量により(Lamb et al., Cell 114, 323-334 2003)、群としてのインビトロERSの発現は、乳房腫瘍(図6Bではvan’t Veerのデータセットt(van't Veer et al., Nature 415, 530-536 2002)によりp=0.019、図6EではHuangのデータセット(Huang et al., 2003)によりp=0.021))、前立腺腫瘍(図6CではGlinskyのデータセット(Glinsky et al., J Clin Invest 113, 913-923 2004)によりp=0.016、図6FではYuのデータセット(Yu et al., J Clin Oncol 22, 2790-2799 2004)によりp=0.033))、190のヒト原発腫瘍群(図6Dではグローバル癌マップデータセット(Ramaswamy et al., Proc Natl Acad Sci U S A 98, 15149-15154 2001)によりp<0.001)でのEZH2転写産物レベルとの有意な逆相関を示した。癌においてEZH2により最も強く抑制される焦点を絞ったサブセットを選択するために、複数のデータセットで個別の遺伝子の発現パターンを調べた(図6G)。126個のインビトロERS遺伝子中、23個が高レベルのEZH2により、腫瘍中で有意に下方制御を受け(t検定でp<0.05)、従って、インビボでEZH2との間に負の相関関係を持つ「インビボERS」であった。
PRC2で占有される遺伝子プロモーターを同定するために、胚幹細胞においてよく研究されたPRC2複合体タンパク質であるSUZ12のゲノムワイド位置を決定した(Boyer et al., Nature 441, 349-353 2006; Bracken et al., Genes Dev 20, 1123-1136 2006; Kirmizis et al., Genes Dev 18, 1592-1605 2004; Lee et al., Cell 125, 301-313 2006)。標的遺伝子のロバスト性を確実にするために、2種の前立腺癌細胞株、PC3とLNCaPを調べた。さらに、非特異的な結合を除外するために、IgG対照による標的の濃縮を評価した。PRC2に占有される遺伝子は、PC3細胞で85個、LNCaP細胞で78個、同定された。これらの中で、63個の遺伝子の高度に有意な(フィッシャー直接確率法によりp<0.0001)重複が観察され、これらは前立腺癌におけるロバストなPRC2標的を表す(表4、図7)。無作為に選択された3種の推定標的(NAT1、TUBB、ZICI)(図6)で構成されるセットを、通常のChIPで検証した後、PCR(ChIP-PCR)アッセイを行った。さらに、胚幹細胞で同定されたSUZ12占有遺伝子(Lee et al., 2006。上記参照)との比較により、有意な(フィッシャー直接確率法によりp<0.001)共通標的遺伝子セットが明らかになった。
次に、癌における直接のEZH2標的を同定するために、遺伝子発現とプロモーター結合のデータを解析した。トランスクリプトーム解析で同定された23個のインビボERS遺伝子の中で、ADRB2とIGFBP2という2種の遺伝子もPRC2により占有されていた。ADRB2は細胞の増殖と浸潤に関連することが指摘されているため(Bos, Curr Opin Cell Biol 17, 123-128 2005)、それを選択し、さらに特徴を調べた。
EZH2はADRB2の転写産物とタンパク質のレベルを抑制する
EZH2がARDB2を抑制することを確認するために、複数の良性の前立腺および乳房細胞株のアデノウイルス感染により、EZH2を過剰発現させた。定量RT-PCRにより、EZH2過剰発現への反応として、アデノウイルスベクター対照細胞と比較し、ADRB2転写産物のレベルが有意に低下することが実証された(図2A、8)。このADRB2の下方制御は、EZH2にHMTase活性を与えているSETドメインが欠損したEZH2突然変異体(EZH2ΔSET)では観察されなかった。ADRB2タンパク質の同調的な調節について調べるために、ADRB2の免疫ブロット解析を行ったところ、予想したサイズの(47kDa)主なバンドが観察され、抗体の特異性が裏付けられた(図8)。転写レベルでの変化と同じく、ベクターおよびEZH2ΔSET 対照と比較し、EZH2の過剰発現はADRB2タンパク質の発現を著しく低下させた(図2B)。それに加え、細胞内でのADRB2およびEZH2タンパク質が存在する場所を調べるために、H16N2初代培養乳房細胞で、ベクターまたはEZH2アデノウイルス感染後に、共焦点免疫蛍光染色を行った。ADRB2の染色部分は主に細胞膜/細胞質に、EZH2タンパク質は細胞核に存在した(図2C)。EZH2アデノウイルスで感染させ、従って、核に強いEZH2染色を示した細胞では、ADRB2染色が著しく低下していた。それに対し、ベクターで感染させた細胞では、EZH2の発現量がほとんど無いか、または低く、ADRB2発現量が高かった。
ADRB2は一般に、良性の前立腺上皮細胞と比較し、前立腺癌細胞での発現量が低く、これはEZH2と反対つまり逆である。前立腺癌細胞におけるこの低レベルのADRB2は、高レベルのEZH2による抑制が原因であるという仮説を立てた。この仮説を検証するために、EZH RNA干渉が、細胞株モデルでADRB2発現の抑制解除を引き起こすか否かを調べた。免疫ブロット解析により、一過性のEZH2ノックダウンに反応し、ARDB2タンパク質レベルの上方制御が起きることが実証された(図2D)。この上方制御は、初代培養細胞(2倍未満)よりもLNCaPおよびPC3前立腺癌細胞(2倍以上)の方が顕著であった。EZH2の一過性RNA干渉によるADRB2の誘導レベルは低いため、短鎖ヘアピンRNA(shRNA)と安定したコロニーの選択により、EZH2が長期的に阻害されるDU145-shEZH2細胞株を確立した。EZH2の安定した阻害により、ADRB2タンパク質レベルは顕著に上昇した(図2E)。DU145-shEZH2の安定したコロニーで、異なる程度のEZH2阻害により、EZH2とADRB2タンパク質レベルの間に強い負の相関(r=-0.98、p=0.004)が観察され、これはADRB2のEZH2に媒介された抑制を示す証拠と考えられる。ADRB2のEZH2による調節が転写レベルで起きることを確認するために、ADRB2とEZH2の転写産物をqRT-PCRで調べた。EZH2の一過性RNA干渉により、MDA-MB-231乳癌およびDU145前立腺癌細胞株の両方で、ADRB2のmRNAの上方制御が起きた(図2F)。
次に、この調節がヒトの腫瘍において、インビボの機能的な関連性を持つか否かを調べた。これを確認するために、3点の良性前立腺組織試料、5点の臨床的限局性前立腺癌、7点の転移性前立腺癌におけるそれらの発現をqRT-PCRで解析した。その結果、臓器限局性の疾患と比較し、転移性前立腺癌では、EZH2の有意な過剰発現(ウィルコクソン順位和検定によりp<0.001)、およびADRB2の顕著な下方制御(ウィルコクソン順位和検定によりp<0.001)が実証された(図2G)。EZH2およびADRB2の発現量は、全試料で強い負の相関を示し(r=-0.67、p<0.001)、EZH2によるADRB2の抑制を裏付けた。
EZH2を含むPRC2複合体がADRB2プロモーター領域を占有する
転写調節因子または共因子による標的遺伝子の発現調節は、直接の相互作用または二次的効果を通じて媒介される。ゲノムワイド位置解析により、LNCaPおよびPC3前立腺癌細胞において、ADRB2プロモーターはPRC2複合体タンパク質SUZ12により、直接占有される可能性が示唆された。このタンパク質とプロモーターの結合は、複数の癌細胞株と転移性前立腺腫瘍で確認された。LNCaP細胞はEZH2、SUZ12、EZH2が媒介するH3K27トリメチル化(3mH3K27)の抗体、および対照としてIgG抗体を使い、ChIPで解析した。ADRB2プロモーターに対して特異的なプライマーを用いた通常のChIP-PCRアッセイにより、IgG対照と比較し、EZH2、SUZ12、3mH3K27の抗体による強力な濃縮(30倍以上、p<0.001)が観察された(図3A)。
ADRB2プロモーターへのPRC2の結合が、インビトロでは複数の細胞株で、インビボでは前立腺癌組織で見られるロバストな現象であるかどうかを調べた。PC3前立腺癌細胞株、293ヒト胚腎細胞株、および3点の独立した転移性前立腺癌組織を含む追加の試料で、ChIP解析を実施した。追加の独立した証拠を提供するために、以前に報告されたPRC2標的遺伝子CNR1(Kirmizis et al., Genes Dev 18, 1592-1605 2004)を正の対照として解析し、ACTINを負の対照として解析した。複数の標的遺伝子を試験するために十分な材料を得るために、全細胞抽出物(WCE)DNAに加え、ChIP濃縮クロマチンを増幅させた。等量の増幅させたWCEおよびChIP濃縮DNAを使い、WCEと比較したChIP濃縮の標的遺伝子のPCR解析を行った。その結果、PRC2複合体と3mH3K27マークが、PC3細胞(図3B)と293細胞(図3C)の両方で、ADRB2とCNR1のプロモーターを共に占有し、ACTINのプロモーターは占有していないことが示された。3mH3K27マークは、3種の転移性前立腺癌組織全部で、ADRB2プロモーターを占有することが判明し、これはインビボでのADRB2の抑制を裏付けている(図3D)。
次に、EZH2の発現がADRB2プロモーターへのPRC2結合およびH3K27トリメチル化に不可欠か否かを調べた。EZH2レベルの高いLNCaP前立腺癌細胞で、ChIP-PCRアッセイとRNA干渉を組み合わせた実験を行ったところ、EZH2のsiRNA阻害により、占有率が大幅に低下し、また、重要な点として、ADRB2プロモーターおよび正の対照のH3K27トリメチル化も低下した(図3E)。同様に、ADRB2プロモーターへのPRC2のリクルートに対するEZH2過剰発現の影響を、内在性EZH2の発現量が低いH16N2初代培養乳房細胞株で調べた。異所性EZH2の結合による影響を正確にモニターするために、EZH2アデノウイルスコンストラクトのMycタグに対する抗体を使い、ChIPを行った。その結果、ADRB2プロモーターへのMyc-EZH2のリクルートが実証され、ベクターとEZH2ΔSET突然変異体のリクルートは起きず、この結合は、HDAC活性を阻害し、ヒストンの脱アセチル化を妨害するSAHAに対する感受性を示した(図3F)。ChIPでは、ベクター対照と比較したEZH2過剰発現において、ADRB2プロモーター上の3mH3K27に加え、他のPRC2複合体タンパク質EEDおよびSUZ12の占有率の顕著な上昇も示され、一方、アセチル化したH3の結合は大幅に減少し、ヒストンの脱アセチル化の上昇が示唆された(図3G)。さらにSAHAの評価を行ったところ、PRC2の結合とその結果としてのH3K27のトリメチル化が著しく低下し、ADRB2プロモーターにアセチル化したH3が蓄積した(図3H-I)。qRT-PCR解析により、一定期間のSAHA投与後に、それに対応するADRB2転写産物の上方制御が起きることが示された(図3J)。
最近、Tan et al.はHDAC阻害剤類似の低分子化合物であるDZNepを同定し、これはPRC2複合体タンパク質の発現を有効に阻害する(Tan et al., Genes Dev 21, 1050-1063 2007)。ADRB2がPRC2の転写調節標的であることをさらに確認するために、1バッチの乳癌および前立腺癌細胞株に関し、DZNepの影響を調べた。その結果は、検証した全細胞株におけるADRB2の強力な誘導(抑制解除)を実証した(図3K)。
ADRB2の阻害は細胞浸潤を起こし、良性前立腺上皮細胞を癌化する
上記のように、ADRB2はEZH2転写抑制の直接の標的であり、転移性前立腺癌において下方制御される。このため、前立腺癌における異常なADRB2阻害の役割を確認するために、良性前立腺上皮細胞でも、この事象を繰り返した。不死化良性前立腺上皮細胞株RWPEを、ADRB2を標的とするshRNAコンストラクトで形質転換させ、ADRB2ノックダウン(RWPE-shADRB2)細胞で安定したRWPE細胞を選択した。安定RWPE-shADRB2細胞は、ベクターで形質転換させた対照の細胞と比較し、ADRB2発現の顕著な低下を示した(図4A)。次に、ADRB2阻害が細胞の増殖、浸潤、遊走などの種々の発癌特性に対する影響を調べた。その結果は、ADRB2の阻害が細胞増殖に有意な影響を与えないことを実証している(図9)。RWPE-shADRB2細胞において、ベクター対照と比較し、5倍以上の浸潤が観察された(図4A-B)。同様に、ADRB2特異抗体ICI 118,551によるADRB2の不活性化は、RWPE細胞における浸潤の有意な増加を引き起こした(図4C)。それと一致する結果として、スクラッチ法による細胞遊走アッセイでは、RWPE-shADRB2細胞において、ベクター対照細胞と比較し、運動性が著しく上昇することが示された(図5)。これらの結果を総合すると、良性前立腺細胞におけるADRB2の阻害が、重要な発癌性の表現型である浸潤の増加を引き起こすことが実証された。
さらに別のモデルで細胞浸潤に対するADRB2の影響を確認するために、DU145前立腺癌細胞および浸潤性のRWPE-shADRB2安定細胞において、拮抗薬イソプロテレノールを使い、ADRB2を活性化した。両方の細胞株で、拮抗薬で活性化した細胞の浸潤が有意に低下した(図10)。それと一致する結果として、浸潤アッセイでは、安定EZH2ノックダウンとADRB2誘導により、RWPE-shADRB2細胞の浸潤が有意に低下した。
ADRB2の発現とEZH2の発癌性機能を直接関連づけるために、ADRB2がEZH2に媒介される細胞浸潤を妨害するか否かを調べた。EZH2の過剰発現により、不死化乳腺上皮細胞株H16N2の浸潤が増加することが、以前に報告された(Kleer et al., 2003。上記参照)。EZH2とADRB2の同時導入により、ADRB2の過剰発現が、この影響をレスキューすることが可能か否かを調べた。EZH2過剰発現はH16N2細胞における浸潤を激増させた(12.9倍、p<0.001)。それに対し、ADRB2の過剰発現は、EZH2により誘導される細胞浸潤を有意に低下させた(3.6倍、p<0.001)(図4D)。
細胞の浸潤および遊走以外の悪性の表現型に関し、RWPE-shADRB2安定細胞を調べた。ベクター対照細胞が丸い形状であるのに対し、RWPE-shADRB2細胞は繊維芽細胞類似の形状を持つ間葉系の表現型を示した(図12)。この形態上の転換は、Rap1A(βアドレナリン受容体シグナリングの主な下流エフェクターとして恒常的に活性を持つ)による間葉上皮移行の逆の移行に酷似している(Price et al., J Biol Chem 279, 35127-35132 2004)。ADRB2阻害が実際にRWPE良性前立腺上皮細胞を癌化させたことを確認するために、典型的な間葉系細胞のバイオマーカーと接着分子の発現を調べた。免疫ブロット解析の結果は、間葉系細胞のバイオマーカー、ビメンチン、Nカドヘリンの発現が顕著に上昇し、接着分子、βカテニン、インテグリンβ4(ITGB4)の発現が有意に低下したことを示している(図4E)。Eカドヘリンの発現には有意な変化が観察されなかった。拮抗薬(ICI 118,551)に媒介されたADRB2の不活性化でも、RWPE-shADRB2細胞における発現の変化が繰り返された(図4F)。ADRB2のこの特性がEZH2の機能と関連性を持つか否かを調べるために、未変性のRWPE細胞でEZH2を過剰発現させた。EZH2の過剰発現は、ADRB2の阻害と類似する発現の変化を引き起こした。EZH2を過剰発現させたRWPE細胞においてADRB2を再活性化することにより、EZH2過剰発現により誘導された効果を逆転させることができた。
ADRB2はインビボでの前立腺腫瘍増殖を阻害する
細胞の遊走、浸潤、癌化におけるβアドレナリン受容体シグナリングの役割を、インビトロの細胞株モデルを使い実証した。そこで、研究をさらにインビボのマウスモデルに拡大した。安定したEZH2ノックダウンでADRB2の誘導が起きることによる(図2E)前立腺腫瘍の形成への影響を、ヌードマウスにEZH2-/ADRB2+のDU145-shEZH2細胞を接種してアッセイした。すべての対照EZH2+/ADRB2-マウスにおいて、注入後3週で腫瘍が発達したのに対し、EZH2-/ADRB2+マウスでは、注入後7週まで腫瘍が現れなかった(図5A)。
インビボでの前立腺腫瘍増殖におけるADRB2の影響を直接調べるために、未変性のDU145前立腺癌細胞をヌードマウスに皮下注射した。次に、これらのマウスを無作為に3群に分け(1群5匹)、腹腔注射により、PBSまたはADRB2拮抗薬イソプロテレノールを400μg/日または800μg/日投与した。移植後2週で、異種移植腫瘍が発達し始めた。PBS投与対照群と比較し、イソプロテレノールを投与したマウスでは、有意に(2標本t検定、p=0.006)小さい腫瘍が発達した(図5B)。
ADRB2タンパク質レベルが前立腺癌の臨床的転帰を予測する
インビトロとインビボ両方のモデルにおける発癌性EZH2によるADRB2の抑制と、それが細胞の浸潤および腫瘍形成に与える影響は、ADRB2の発現がヒト前立腺癌の進行と関連性を持つことを示唆している。ヒト前立腺癌進行中のADRB2の発現を評価するために、6点の良性前立腺組織試料、7点の臨床的に限局する前立腺癌および6点の転移性前立腺癌のプロファイリングを行った前立腺癌マイクロアレイ研究(Varambally et al., Cancer Cell 8, 393-406 2005)を検討した。ADRB2転写産物は転移性試料で強く抑制され(t検定でp=0.003)、EZH2の発現と逆の相関を示した(r=-0.85、p<0.0001)(図5C)。ADRB2が間質細胞中に存在し、転移性前立腺癌におけるその下方制御は、単に間質の比率の低下を反映する可能性がある。この可能性を排除するために、レーザーキャプチャー法(LCM)で切り出した上皮細胞を使い、前立腺癌マイクロアレイプロファイリングのデータセット(Tomlins et al., Nat Genet 39, 41-51 2007)におけるADRB2の発現を調べた。30点のLCM PCA試料および16点のMET試料のcDNAマイクロアレイ解析は、転移性前立腺癌におけるADRB2の下方制御を裏付けた(t検定でp<0.001)(図5D)。
前立腺腫瘍におけるADRB2タンパク質発現を評価するために、36点の良性組織、6点の前立腺上皮内腫瘍(PIN)組織、82点の臨床的に限局するPCA組織、16点のMET組織においてADRB2免疫組織化学的検査を実施した。ADRB2の染色は主に上皮細胞で観察された(図5E)。全体的に、4群間でADRB2染色強度のメジアンの分布に有意な差があった(クラスカル・ワリス検定でp<0.0001)。ADRB2の発現は、転移性腫瘍で最も弱かった。ADRB2の染色が低いかまたは無かった大部分の例は、METで見られた(図5E-F)。本発明は、特定のメカニズムには限定されない。それどころか、メカニズムを理解することは、本発明の実施には必要ではない。ただし、これらの結果から、低いADRB2タンパク質レベルは、臨床的に限局する前立腺癌の攻撃性の前兆であるという仮説が得られる。これと対照的に、高いEZH2レベルは、臨床的に限局する疾患を持つ患者における不良な臨床的転帰を示唆する(Varambally et al., Nature 419, 624-629 2002)。
次に、臨床的および病理的パラメータを考慮に入れ、臓器限局性前立腺癌の患者82人の臨床的転帰を検討した。カプラン・マイヤー法による解析では、低いADRB2染色を示す低い積(<240)が、強いADRB2染色を示す高い積(>=240)と比較し、臨床的失敗との間に有意な(p=0.002)を示した(図5G)。多変量コックス比例ハザードモデル回帰分析では、ADRB2がグリーソンスコア、最大腫瘍サイズ、サージカルマージンの状態、術前PSAとは独立して、臨床的失敗を予測できることが明らかになった(表1)。全体的な再発比は3.4で(95%CI:1.5-7.8、p=0.004)、このモデルにおける臨床的失敗の最も強力な予測因子であった。標準的な臨床パラメータを上回るADRB2の転帰予測能力を示すために、5年間の治療失敗に関する予測を、ADRB2を術前ノモグラムと比較した(Kattan et al., J Natl Cancer Inst 90, 766-771 1998)。表2に示すように、ADRB2は患者の予後の予測について有意な有効性を示し(p=0.015、再発比=2.7、95%CI:1.2-6.0)、それは術前ノモグラムと独立し、有意性も高かった。これらを総合すると、ADRB2は転移性前立腺癌において下方制御を受け、低いADRB2発現は臨床的に限局性の前立腺癌の不良な予後と相関関係を持ち、ADRB2発現は典型的な臨床ノモグラムを超える追加の予後情報を提供する。
(表1)ADRB2および臨床パラメータの癌再発との相関関係に関する多変量コックス回帰分析
Figure 2010516256
注:サンプルサイズは82点で、再発は29点。積はADRB2強度測定値(範囲:1、2、3、4)と染色率(範囲:0〜100)を掛けた値。
(表2)ADRB2および術前ノモグラムの癌再発との相関関係に関する多変量コックス回帰分析
Figure 2010516256
(表3)
Figure 2010516256
Figure 2010516256
Figure 2010516256
(表4)
Figure 2010516256
(表5)
Figure 2010516256
上記明細書で言及したすべての公報、特許、特許出願、アクセッション番号は、その全体がこの参照により組み入れられる。本発明は特定の実施例と関連して記載されているが、請求される発明は、そのような特定の実施例に不当に限定すべきではないことを理解すべきである。実際、本発明の記載された組成物および方法の種々の変型例および変形は、当業者にとり明白であり、以下の請求の範囲内に入るものと意図されている。

Claims (16)

  1. 患者において癌を同定するための方法であって、アドレナリン受容体ベータ2(ADRB2)の正常な発現と比較したADRB2の低発現を、患者からの試料中で検出する段階を含み、ここでADRB2の正常な発現と比較したADRB2の低発現を該試料中で検出することで該患者において癌を同定する、方法。
  2. 前記癌が前立腺癌である、請求項1記載の方法。
  3. ADRB2の正常な発現と比較した前記試料中のADRB2の低発現が、前記患者における転移性前立腺癌を示す、請求項1記載の方法。
  4. 前記試料が生検試料である、請求項1記載の方法。
  5. ADRB2の正常な発現と比較したADRB2の低発現を前記試料中で検出する段階が、前記試料中のADRB2核酸レベルの検出する段階を含む、請求項1記載の方法。
  6. 前記試料中でADRB2核酸レベルを検出する段階が、前記試料中でADRB2 mRNAのレベルを検出する段階を含む、請求項5記載の方法。
  7. ADRB2の正常な発現と比較したADRB2の低発現を試料中で検出する段階が、マイクロアレイ解析、逆転写酵素PCR、定量逆転写酵素PCR、およびハイブリダイゼーション解析からなる群より選択される検出技法を含む、請求項6記載の方法。
  8. ADRB2の正常な発現と比較したADRB2の低発現を試料中で検出する段階が、前記試料中のADRB2ポリペプチドのレベルを検出する段階を含む、請求項1記載の方法。
  9. 患者における臨床的失敗の危険性を同定するための方法であって、アドレナリン受容体ベータ2(ADRB2)の正常な発現と比較したADRB2の低発現を、患者からの試料中で検出する段階を含み、ここでADRB2の正常な発現と比較したADRB2の低発現を試料中で検出することにより、該患者において臨床的失敗の危険性があることを同定する、方法。
  10. 前記臨床的失敗がPSAの0.2 ng ml-1の上昇および前立腺切除術後の疾患の再発からなる群より選択される転帰を含む、請求項9記載の方法。
  11. 前記前立腺切除術後の疾患の再発が転移性癌の発生を含む、請求項10記載の方法。
  12. 前記試料が生検試料である、請求項9記載の方法。
  13. ADRB2の正常な発現と比較したADRB2の低発現を前記試料中で検出する段階が、前記試料中のADRB2核酸レベルを検出する段階を含む、請求項9記載の方法。
  14. 前記試料中でADRB2核酸レベルを検出する段階が、前記試料中でADRB2 mRNAのレベルを検出する段階を含む、請求項13記載の方法。
  15. ADRB2の正常な発現と比較したADRB2の低発現を試料中で検出する段階が、マイクロアレイ解析、逆転写酵素PCR、定量逆転写酵素PCR、およびハイブリダイゼーション解析からなる群より選択される検出技法を含む、請求項14記載の方法。
  16. ADRB2の正常な発現と比較したADRB2の低発現を試料中で検出する段階が、前記試料中のADRB2ポリペプチドのレベルを検出する段階を含む、請求項9記載の方法。
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