無線チャネルの測定技術については研究方面で広く調査が行われている。この研究の目的は定型的な都市エリアモデルおよび郊外エリアモデルなどのチャネルモデルを開発することである。これらのモデルは様々なチャネル環境における無線特性(これらはお互いにかなり異なっている)を記述することである。実際の測定値によるこれらのモデルは、無線セル構造の計画において入力されるパラメータとして利用可能である。
これらの無線環境における違いは、無線チャネルが有している物理的な特性に起因している。無線の電磁波は伝搬する際に様々な障害物に出会い、その障害物のディメンションや表面の特性に依存して反射したり、回折したり、散乱したりするため、この様々な環境によって送信信号は異なるものへと変化してゆく。この反射や散乱の効果によって送信信号のマルチパス伝搬が発生する。すなわち、送信された信号は複数のレイへと分岐され、各レイはそれぞれの伝播路を伝搬して受信機へ到達する。これの伝搬路間ではそれぞれの伝播路長が異なっているため、これらの受信信号は時間軸上で分散することになる。これは一般に時間分散と呼ばれている。無線環境が異なれば、この時間分散の量も異なることになる。ゆえに、建物が密集している都市エリアの時間分散よりも、建物の少ない郊外エリアでの時間分散は小さくなる。
ある時刻に送信機から送信された信号はある時刻t0に受信機へ到着するように出発する。これによれば、受信信号のエネルギーは経過時間τ内で入射してきたすべてのレイについての和であり、超過時間τの関数として表現できる。無線チャネルがもたらす時間分散の量は、受信信号のエネルギーが徐々に小さくなって無くなってしまう前にかかる時間に影響を及ぼす。チャネルの電力遅延プロファイルは、超過時間の関数である受信信号のエネルギーを示している。電力遅延プロファイルを使用して、超過遅延の平均値の算出と、遅延分散の2乗平均平方根(rms)の算出とを実行できる。超過遅延の平均値は、時刻t0に信号の第一部が到着した後に、チャネルによってもたらされる余分な遅延を測定することによって得られる。遅延分散は、遅延してきた反射波について、それぞれの受信エネルギーによって重み付けを行って取得された標準偏差である。超過遅延の平均値と遅延分散とは、重要なチャネル特性を特徴付けるチャネルタイプに応じて大きく異なる値となる。
受信電力の瞬時値は、それぞれ振幅と位相とが異なって到着した多くのレイの和である。ゆえに、移動体のアンテナは、複数のレイの重なり合いが建設的であれば非常に強い信号を受信することができるが、一方で、不幸にも重なり合いが非建設的であれば非常に弱い信号を受信することになる。これらの時間軸上での変動は、一般にフェージングと呼ばれている。
レーリーモデルでは、受信したマルチパス信号が、多数(おそらく無限に多く)の電磁波によって構成されていることが明らかになっており、これらはそれぞれ独立かつほぼ同じように分散した(i.i.d:independent and identically distributed)、同相成分と直交成分とを含んでいる。十分に多くの到達波が存在する場合、IQ成分はガウシアン分布となることが、中心極限定理によってわかっている。
xとyが平均値がゼロで分散がσ2のi.i.dガウシアン分布を表すものとする。受信信号z=x+iyについて、受信信号の振幅|z|の確率密度関数(PDF)は、次式のように表現でき、これはレーリー分散となっている。
レーリーモデルは、多くの散乱波が発生するエリア、すなわち建物が密集したエリアにおいて受信信号がどのようにしてフェージングを起こすかを適切に表現しているといえる。
建物がまばらに建っている郊外エリアを伝搬する電磁波も、都市部を伝搬する電磁波と同様に反射したり、散乱したりする。建物が密集したエリアを伝搬する電磁波と比較した場合の大きな違いは、通常、見通し(LOS:line-of-sight)波が受信機に到達することであろう。見通し波は、散乱波と比較し、非常に強力であるため、振幅の確率密度関数(PDF)も変わってしまう。散乱波はもはやゼロ平均とはならない。
この平均値のシフトによって、振幅の確率密度関数(PDF)もその形状を変化させる。この新しい形状はライス分布とよばれ、次式のように表現できる。
ここで、非中心度sは、s>0であり、スケールパラメータσは、σ>0である。I0は、ゼロ平均のモデルについての0次のベッセル関数の修正バージョンである。ライス係数Kは、以下のように定義される。
これは直接波成分と散乱波成分との比を示している。相対的により強力な見通し波成分は、散乱波と比較して平均値のシフト量もより大きなものとなる。このようなシフトはライス分布をガウシアン分布へと近づけることになる。直接波の部分が弱くなるにつれて、平均値のシフトはゼロに近づいて行き、ライスの確率密度関数(PDF)はレーリーの確率密度関数(PDF)と等しくなってゆく。
無線チャネルの特性を決定するための既存の測定装置は、非常に複雑でしかも高価であった。この測定機器は、典型的に、ある種の無線信号を必要とし、また、無線チャネルモデルを生成する目的で開発されたものであった。例えば、既存の測定装置は、通常、特別の送信機と受信機とを備えていた。
さらに、あるエリアの無線システムを経過するときに、無線システムの性能を最適化するためには、そのエリアにおける様々な地点での無線チャネル特性についての情報を取得することが重要となる。ゆえに、各セルについて、典型的な都市部エリア、郊外エリアなどの無線チャネルモデルのうちどのモデルをセル計画ツールに入力すべきかを把握することは、重要である。
視覚的な観察によって無線環境のタイプのヒントが得られる。すなわち、測定が都市部エリアで実行されたのか、郊外エリアで実行されたかがわかるのである。しかし、2つのエリアが非常に類似しているように見えるときでさえ、電磁波の伝搬特性が顕著に異なっている場合もある。したがって、間違った無線チャネルモデルを用いて無線セルが設計されてしまうと、本来の無線チャネル特性を用いて設計したときと比較して、性能が低下してしまうのである。
よって、セル計画において間違った無線チャネルモデルを用いてしまうことで発生する問題を回避するためには、無線チャネル特性について正しい情報を得ることが望ましい。また、無線環境に関する情報がなくては、取得した複数の結果間の違いを説明することは困難となるであろうし、特定のエリアにおいて正しい無線チャネルモデルを選択することも困難となるであろう。さらに、無線チャネルの情報は即座に提供されることが望ましいし、比較的に安価に生成されることが望ましい。
本発明の目的は、無線チャネル環境を決定するための既存の手法におけるいくつかの問題を解決するかまたは少なくとも低減することを目的とする。
本発明の他の目的は、無線セル計画や既存の無線システムにおける問題に対処する際の調査ツールにおいて、無線チャネルモデルを選択することに関連した入力データとして使用するためのデータ収集ツールとして利用可能なツールを提供することである。
本発明のさらに他の目的は、比較的に安価に製造できかつメンテナンスコストも低廉な無線チャネル分類ツールを提供することである。
本発明のさらに他の目的は、高速な出力を実現しつつ、ユーザが高速に移動しているときであってもリアルタイムでチャネルの分類を実行可能なツールを提供することである。
これの課題または他の課題の少なくとも1つを達成するために、添付の特許請求の範囲に記載されたクレームにおいて定義された方法および装置が提供される。すなわち、シンプルなハードウエアを使用することによって、好ましくは移動体電話機など、標準的なユーザ装置(UE)を備えることによって、無線チャネルのインパルス応答を取得し、このインパルス応答の推定値から無線チャネルの分類が実行される。これは、例えば、分布(PDF)のパラメータを推定することによって実行される。
これによって、異なる種類のフェージングを区別することが可能となり、その結果、収集した分布(PDF)パラメータを既知の無線チャネルモデルとマッチングさせる(対比調査する)ことによって無線環境の違いを区別することが可能となる。時間分散をさらに用いることで、測定された無線チャネル環境について結論が得られ、すなわち、収集したデータに最も整合する無線チャネルモデルが得られる。例えば、無線チャネルは、例えば、ITUのチャネルモデル(本発明はこれにのみ限定されるわけではない)にしたがって分類されてもよい。
また、各受信したレイの分布の種類と遅延分散とを用いても無線環境の全体が分類できないときでさえ、分布係数Kはそれ自身でキーパラメータとなる。
本発明を限定するものではない例を用い、添付の図面を参照しつつ、本発明についてさらに詳細に説明する。
図1によれば、無線チャネルの分類処理と無線チャネルの測定処理とを実行するために使用される装置100が示されている。装置100は、セルラー無線ネットワークを介して無線信号を送信したり受信したりするユニット103を備えている。ユニット103は、典型的でかつ有利な従来からの移動体電話機または他のユーザ装置(UE)であり、パーソナルコンピュータ(PC)101と通信することができるように構成されている。ユニット103はPC101に一体化されていてもよい。
ユニット103は、セルラー無線ネットワークにおいて信号を受信したり送信したりするように構成されており、さらに、PC101によって処理されることになるデータをPC101へと転送するように構成されている。ユニット103は、さらに、PC101から制御信号を受信したり、受信した制御信号に応じて無線ネットワークにおいて信号を生成したりするように構成されている。PC101は、ユニット103を制御するとともに、制御信号103に応じて生成されたいずれかのデータを処理するように構成されている。PC101からの出力は典型的には調査および誤り検出、誤り訂正に使用可能なデータであり、無線セル計画や、特定のエリアおける無線チャネル特性の視覚化に利用できるデータである。この点については図2を参照してさらに詳細に説明する。
図2によれば、無線チャネルを分類する際に図1の装置100において実行されるステップが示されている。無線チャネルの分類処理はユニット103やたの適切なハードウエアからのデータに基づいて実行され、複数のステップにわたって実行される。まず、ステップ201で、UEを用いてデータの記録が実行される。パラメータに関連したチャネルの推定値は、UEの内部または外部に設置可能なロギングツール(記録装置)を使用することで、記録可能である。記録されたデータは、典型的には、物理チャネルにおけるインパルス応答のスケール(拡大縮小)処理前の測定値であるか、または、そのようなデータを導出するために使用可能なデータである。例えば、これにのみ制限されるわけではないが、巡回CPICHシンボルのような既知のシンボルシーケンス、自動利得制御(AGC)、すなわちハードウエアが受信信号に適用する増幅度、または、フィンガ遅延、すなわち推定されたインパルス応答に適用される各タップ間の遅延量を使用可能である。CPICHは、共通パイロットチャネルのことであり、このチャネルの内の1つが、UMTSや他のCDMA無線システムにおいて使用されるパイロットシンボルを送信するために使用されるチャネルである。
次に、ステップS201で、取得されたデータが処理される。既知のシンボルシーケンスを使用することによって算出されたチャネル推定値は、スケール処理されたものであってもよいし、スケール処理がされていないものであってもよい。どのような種類のチャネル推定値が使用されるかにはかかわらず、分布の推定は、取得したデータに対して異なる事前処理を施すことで実行可能である。このような事前処理には、例えば、自動利得制御、フィンガ干渉またはシンボル分散を用いたスケール処理が含まれる。
事前処理されたサンプルについてのパラメータ推定は、種々の技術を用いて実行可能である。このような技術の例としては、最尤推定およびモーメント法がある。モーメント法では、確率密度関数(PDF)のモーメントを使用することになり、これによりパラメータについての簡易表現が得られることになる。最尤推定によれば、観測した所定のデータのセットについての尤度関数が最大となる。これらの推定技術についての詳細な情報は、Abdi,A.;Tepedelenlioglu,C.;Kaveh,M.;Giannakis,G.(2001)、ライスフェージング分布についてのKパラメータの推定方法、IEEE Communications Letter、Volume:5. Issue 3.92〜94頁、Kay, Steven M. 統計的信号処理の基礎:推定定理、Prentice Hall PTR. Upper Saddle river, NJ07458. ISBN 0−13−345711−7、第7章、第9章、および、Talukdar, Kushal K.;Lawing, William D.(1991). ライス分布におけるパラメータの推定, The Jounaral of the Acousitcal Societey of America. Volume:89. Issue 3. 1193−1197頁。
各チャネルが引き起こすフェージングなどの現象に電磁波の裏にある理論が反映されているように、推定された分布(PDF)パラメータによって受信信号の成分についての重要な情報がもたらされる。推定されたパラメータを使用してライス係数Kを演算することによって、算出された係数Kと、例えば、ITUのチャネルモデルにおいて特定されている係数Kの理論値(3GPP(2002)、Technical Specification Group Radio Access Networks;Depoyment aspects Release:5. TR 25.943 v5.1.0.13)とを比較することができる。
これらのモデルは、インパルス応答の特定のタップについてのタイムインデックス(時間指標)を有している。これによって、超過遅延の平均値と、理論モデルと記録されたデータとの間の遅延分散との比較を行うことが可能となる。
超過遅延の平均値と遅延分散とについての1つの定義は以下のように表現できる。
ここで、akは振幅であり、P(τk)は電力であり、τkはインパルス応答のタップの時間指標である。いずれかの適切なモデルと適切な基準モデルとを使用することで、処理されたデータは、現在の状況を最もよく表現しているモデルと整合することになる。
最後に、ステップS207で、マッチング(整合)処理の結果が、使用目的に沿ったフォーマットでもって出力される。例えば、使用目的がセル計画であれば、出力は、PC101のメモリへと書き込まれたり、特定の位置やエリアにおけるチャネルの特性を反映するために画面に当該出力が表示されたりしてもよい。
無線チャネル環境における急速な変化はよく発生し、これによって、推定処理と時間分散の計算とから得られた結果も時間軸上で変動することになる。ローパルフィルタを用いれば、結果を提示することが容易となり、これは、図4に示した2次元的な図表を用いることで実行可能である。
例えば、ポインターを配置することによって、見通し波の量とフィルタリング処理後の遅延分散とを示すことが可能となる。時間軸上で変化するため、過去のサンプルを表示するためにバッファメモリが使用される。これらは、ポインターの位置が更新されて無線チャネルが変化するにつれて、小さくなってゆく。遅延スプレッドと係数Kとの組み合わせが既知のチャネルモデルに対応した領域は、単純な楕円や色の階調を利用した背景のいずれかによって示すことができる。これは、様々なチャネルモデル間でのスムーズな遷移を直感的に示すことになろう。例を提供するために、ある種のチャネルモデルを期待されるエリアについてテストドライブを実行している間に、グラフィカルな視覚化によって、取得されたチャネルが予想したチャネルと対応しているかどうかがすぐに示される。
図3によれば、ここで説明した無線チャネルの分類化プロシージャにしたがって例示的な処理の各ステップについて、より詳細に示されている。ステップ301で、1つのスロットあたりの複数のチャネル推定値が収集される。ステップ303で、収集された複数のチャネル推定値が平均処理される。さらに次のステップS305で、平均処理されたチャネル推定値がスケール処理および重み付け処理され、より正確なデータが算出される。この処理は様々な方法で実行可能であり、例えば、AGCやチャネル推定値の分散の少なくとも一方を使用して実行できる。次のステップS309で、ステップS305において得られた出力が、振幅を表す絶対値へと表現される。ステップS311で、ライスPDFパラメータの推定処理が実行される。ステップS311における推定処理は、最尤推定法やモーメント法など、種々の技術を使用して実行可能である。最後に、ステップS307で、ライス係数Kが、推定処理の結果を用いて算出される。
ステップS301ないしS311と並行して、RAKE受信機における複数のフィンガ間の時間、すなわちチップを単位としたフィンガ遅延が、ステップS313およびS315で時間へと変換される。ステップS317で、チャネル推定値の振幅と一緒に、超過遅延の平均値と遅延分散とが算出される。
ステップS311からの出力結果とS317からの出力結果とが適切なフォーマットでもって上述したように表示される。例えば、無線チャネル特性の視覚化された画像として、および/または、絶対値として表示可能である。このようなデータは、位置の測定値(GPS)などとともに、セル計画ツールへの入力データとして使用されてもよい。
上述した方法および装置を使用することで、製造コストの安価なテストツールを提供することができる。なぜなら、標準的なテスト移動局を使用可能だからである。フィールドテスト中に通常使用される装置に対して機器を追加する必要もない。上述した方法および装置はさらに無線チャネルを分類するために十分な性能の出力結果を提供できる。算出された測定データは容易に使用でき、かつ、ITUの標準的なチャネルタイプに基づいて取得可能であるが、本発明はこれを必須とするわけではない。