図1は本発明の実施形態におけるクラッチユニットXの全体構成を示す縦断面図、図2は図1に示すクラッチユニットXの右側面図、図3は図1に示すクラッチユニットXの左側面図、図4は図1のA−Aに沿う横断面図、図5は図1のB−B線に沿う横断面図である。また、図6〜図26はクラッチユニットXの主要な各構成部品を示す図である。図27〜図34はクラッチユニットXの主要な構成部品の組み付け状態を示す図である。
クラッチユニットXは、例えばレバー操作により座席シートの高さ調整を行う自動車用シートリフタ部〔図35および図36(a)(b)参照〕に組み込まれる。このクラッチユニットXは、図1〜図5に示すように、入力側に設けられたレバー側クラッチ部11と、出力側に設けられた逆入力遮断機能のブレーキ側クラッチ部12とをユニット化した構成となっている。
レバー側クラッチ部11は、図1、図2および図4に示すように、例えば操作レバー(図示せず)が連結された入力側部材としてのレバー側側板13およびレバー側外輪14と、そのレバー側外輪14からのトルクをブレーキ側クラッチ部12に伝達する連結部材としての内輪15と、その内輪15の外周面15aとレバー側外輪14の内周面14aとの間に形成された楔すきま20に配設された係合子としての例えば複数の円筒ころ16と、円筒ころ16を円周方向等間隔に保持する保持器17と、その保持器17を中立状態に復帰させるための第一の弾性部材である内側センタリングばね18と、レバー側外輪14を中立状態に復帰させるための第二の弾性部材である外側センタリングばね19とを有する。なお、後述の出力軸22の端部にウェーブワッシャ30を介してワッシャ31を圧入することにより、構成部品の抜け止めとしている(図1参照)。
ロック型と称されるタイプで逆入力遮断機能を有するブレーキ側クラッチ部12は、図1、図3および図5に示すようにレバー側クラッチ部11からのトルクが入力される連結部材としての内輪15と、出力側部材としての出力軸22と、回転が拘束された静止側部材としてのブレーキ側外輪23、カバー24およびブレーキ側側板25と、そのブレーキ側外輪23と出力軸22間の楔すきま26に配設され、両部材間での係合・離脱により内輪15からの入力トルクの伝達と出力軸22からの逆入力トルクの遮断を制御する複数対の係合子としての円筒ころ27と、各対の円筒ころ27間に介挿され、それら円筒ころ27同士に離反力を付勢する弾性部材としての例えば断面N字形の板ばね28とで主要部が構成されている。なお、出力軸22には突起22fが設けられ、この突起22fがクリアランスをもって挿入された孔15dが内輪15に設けられている(図1参照)。
次に、このクラッチユニットXにおけるレバー側クラッチ部11およびブレーキ側クラッチ部12の主要な構成部品について詳述する。
図6(a)(b)はレバー側クラッチ部11のレバー側側板13を示す。このレバー側側板13は、その中央部位に出力軸22および内輪15が挿通される孔13aが形成され、外周縁部に複数(例えば5つ)の爪部13bが突設されている。これらの爪部13bは、軸方向に屈曲成形されてその先端部を二股状とし、後述するレバー側外輪14の切欠き凹部14e〔図7(c)参照〕に挿入して二股状先端部を外側へ拡開させることにより、レバー側側板13をレバー側外輪14に加締め固定している。なお、図中の符号13cは、座席シートの高さ調整を操作するための操作レバー(図示せず)をレバー側側板13に取り付けるための複数(例えば4つ)の孔である。
図7(a)〜(c)はレバー側外輪14を示す。このレバー側外輪14は、一枚の板状素材をプレス加工によりカップ状に成形したもので、中央部14cに出力軸22および内輪15が挿通される孔14bが形成され、その中央部14cから軸方向に延びる筒状部14dの内周には、複数のカム面14aが円周方向等間隔に形成されている(図4参照)。
このレバー側外輪14の外周縁部には複数(例えば3つ)の爪部14f,14gが突設されて軸方向に屈曲成形されている。これら爪部14f,14gのうち、一つの爪部14fは、後述する外側センタリングばね19の二つの係止部19a〔図17(a)参照〕間に挿入配置されて係止され、残り二つの爪部14gは、後述するブレーキ側外輪23の端面23d〔図23(a)(b)参照〕に接触した状態でレバー側外輪14の回転によりそのブレーキ側外輪23の端面上を摺動し、カバー24の外周に設けられた回転ストッパとしての一対の係止部24e,24f〔図24(b)参照〕間で移動してその回転方向の移動端で係止部24e,24fのそれぞれに当接可能とすることで、操作レバーの操作角度を規制するようにしている。
ここで、このクラッチユニットXが搭載される自動車の仕様によっては、レバー操作によるレバー側外輪14の回転角度を時計方向と反時計方向で異ならせることがある。この仕様に対応するため、レバー側外輪14の回転角度を時計方向と反時計方向とで異ならせる手段をレバー側外輪14の爪部14gに設ける。これにより、レバー操作によるレバー側外輪14の回転時、時計方向と反時計方向で要求されるレバー側外輪14の回転角度が異なる仕様に対して迅速かつ容易に対応することができる。
従来のようにレバー側外輪14の回転角度を時計方向T1と反時計方向T2とで同一とする場合には、図8(b)および図9(b)の破線で示すようにレバー側外輪14の爪部14gをその中心軸Lに対して時計方向T1と反時計方向T2とで形状が同じ対称形状とすればよい。これに対して、この実施形態では、図8(a)(b)および図9(a)(b)に示すようにレバー側外輪14の回転角度を時計方向T1と反時計方向T2とで異ならせる場合に対応し、レバー側外輪14の爪部14gをその中心軸Lに対して時計方向T1と反時計方向T2とで形状が異なる非対称形状としている。
例えば、レバー側外輪14の回転角度について、時計方向T1の回転角度を反時計方向T2の回転角度よりも小さくする場合には、図8(a)(b)に示すようにレバー側外輪14の爪部14gの時計方向端部に凸部14g1を設ける。つまり、爪部14gの中心軸Lに対して時計方向側幅寸法W1を反時計方向側幅寸法W2よりも大きくする(W1>W2)。逆に、反時計方向T2の回転角度を時計方向T1の回転角度よりも小さくする場合には、図9(a)(b)に示すようにレバー側外輪14の爪部14gの反時計方向端部に凸部14g2を設ける。つまり、爪部14gの中心軸Lに対して反時計方向側幅寸法W3を時計方向側幅寸法W4よりも大きくする(W3>W4)。
なお、凸部14g1,14g2は、カバー24の外周に回転ストッパとして設けられた係止部24e,24f〔図24(b)参照〕に当接する部位、つまり、爪部14gの先端部位に形成すればよい。従って、爪部14gの凸部形状は図示のものに限定されることはなく、例えば、図10(a)(b)に示すように爪部14gの先端部位に向けてその幅寸法が大きくなるテーパ状をなす凸部14g1’,14g2’とすることも可能である。また、図示しないが、爪部14gの時計方向端部あるいは反時計方向端部に凹部を設けることにより、爪部14gをその中心軸Lに対して時計方向T1と反時計方向T2とで形状が異なる非対称形状とすることも可能である。
前述では凸部14g1,14g2を爪部14gに一体的に形成した場合について説明したが、その凸部14g1,14g2を爪部14gと別体で形成することも可能である。つまり、レバー側外輪14の爪部14gをその中心軸Lに対して時計方向T1と反時計方向T2とで形状が異なる非対称形状とするアタッチメント14h,14iを爪部14gに装着することも可能である。
例えば、図11(a)(b)に示すように爪部14gの反時計方向端部に断面コ字状のアタッチメント14hを圧着あるいは接着などにより嵌合させる。なお、図示では、反時計方向T2の回転角度を時計方向T1の回転角度よりも小さくする場合を例示しているが、時計方向T1の回転角度を反時計方向T2の回転角度よりも小さくする場合には、爪部14gの時計方向端部に断面コ字状のアタッチメント14hを嵌合させればよい。
また、図12(a)(b)に示すように爪部14gの時計方向端部と反時計方向端部の両端部にその爪部14gを抱え込むように嵌合されたアタッチメント14iを使用することも可能である。このアタッチメント14iは、爪部14gの反時計方向端部の先端部位に嵌合された部分14i1と、爪部14gの時計方向端部の中間部位に嵌合された部分14i2とからなり、爪部14gの時計方向端部の先端部位を開放した形状を有する。なお、この場合も、図示では、反時計方向T2の回転角度を時計方向T1の回転角度よりも小さくする場合を例示しているが、時計方向T1の回転角度を反時計方向T2の回転角度よりも小さくする場合には、爪部14gの時計方向端部の先端部位に嵌合された部分と、爪部14gの反時計方向端部の中間部位に嵌合された部分とからなり、爪部14gの反時計方向端部の先端部位を開放した形状を有するアタッチメント(図示せず)を使用すればよい。
レバー側外輪14の外周には、レバー側側板13の爪部13b〔図6(a)(b)参照〕が挿入される複数(図では5つ)の切欠き凹部14eが形成されている。この切欠き凹部14eに挿入されたレバー側側板13の爪部13bを加締めることによりレバー側側板13とレバー側外輪14が連結されている。レバー側外輪14とそのレバー側外輪14に加締め固定されたレバー側側板13とでレバー側クラッチ部11の入力側部材を構成している。
図13(a)(b)は内輪15を示す。この内輪15は、出力軸22が挿通される筒状部15bの外径にレバー側外輪14のカム面14aとの間に楔すきま20(図4参照)を形成する外周面15aを備えている。また、筒状部15bの端部から径方向外側に延在して軸方向に屈曲した拡径部15cが一体的に形成され、その拡径部15cの屈曲先端部に、ブレーキ側クラッチ部12の保持器として機能させるため、円筒ころ27および板ばね28を収容するポケット15eが円周方向等間隔に形成されている。さらに、拡径部15cの屈曲部15fに、後述するブレーキ側クラッチ部12のカバー24の彎曲部24gとの干渉を防止するための逃げ15gが設けられている〔図31(a)参照〕。この逃げ15gは、屈曲部15fを面押しすることにより形成されたテーパ状の平坦面としている。なお、図中の符号15dは、出力軸22の突起22f(図1参照)がクリアランスをもって挿入される孔である。
図14および図15(a)〜(c)は樹脂製の保持器17を示す。この保持器17は、円筒ころ16を収容する複数のポケット17aが円周方向等間隔に形成された円筒状部材である。この保持器17の一方の端部には、二つの切欠き凹部17bが形成され、それぞれの切欠き凹部17bの隣接する二つの端面17cに前述の内側センタリングばね18の係止部18aが係止される〔図15(b)参照〕。
図16(a)(b)は内側センタリングばね18を示す。この内側センタリングばね18は、径方向内側に屈曲させた一対の係止部18aを有する断面円形のC字状ばね部材からなり、外側センタリングばね19の内径側に位置する(図33参照)。この内側センタリングばね18は、保持器17とブレーキ側クラッチ部12の静止側部材であるカバー24との間に配設され、両係止部18aが保持器17の二つの端面17c〔図14および図15(b)参照〕に係止されると共にカバー24に設けられた爪部24b〔図24(a)(b)参照〕に係止されている〔図34(a)(b)参照〕。
この内側センタリングばね18では、レバー側外輪14からの入力トルクの作用時、一方の係止部18aが保持器17の一方の端面17cに、他方の係止部18aがカバー24の爪部24bにそれぞれ係合するので、レバー側外輪14の回転に伴って内側センタリングばね18が押し拡げられて弾性力が蓄積され、レバー側外輪14からの入力トルクの開放時、その弾性復元力により保持器17を中立状態に復帰させる。
図17(a)(b)は外側センタリングばね19を示す。この外側センタリングばね19はC字状をなし、その両端を径方向外側に屈曲させた一対の係止部19aを有する帯板状ばね部材であり、内側センタリングばね18の外径側に位置する(図33参照)。外側センタリングばね19は、レバー側クラッチ部11のレバー側外輪14とブレーキ側クラッチ部12のカバー24との間に配設され、両係止部19aがレバー側外輪14に設けられた爪部14f〔図7(a)〜(c)参照〕に係止されると共にカバー24に設けられた爪部24d〔図24(a)(b)参照〕に係止されている〔図34(a)(b)参照〕。この係止部19aは、内側センタリングばね18の係止部18aに対して円周方向の位相(180°)をずらせて配置されている(図33参照)。
この外側センタリングばね19では、レバー操作によりレバー側側板13から入力トルクが作用してレバー側外輪14が回転した場合、一方の係止部19aがレバー側外輪14の爪部14fに、他方の係止部19aがカバー24の爪部24dにそれぞれ係合するので、レバー側外輪14の回転に伴って外側センタリングばね19が押し拡げられて弾性力が蓄積され、レバー側外輪14からの入力トルクを開放すると、その弾性復元力によりレバー側外輪14を中立状態に復帰させる。
図18(a)(b)および図19(a)〜(c)は出力軸22を示す。この出力軸22は、軸部22cから径方向外側に延びて拡径した大径部22dが軸方向ほぼ中央部位に一体的に形成されている。この軸部22cの先端には、シートリフタ部41と連結するためのピニオンギヤ41gが同軸的に形成されている。
大径部22dの外周面には複数(例えば6つ)の平坦なカム面22aが円周方向等間隔に形成され、ブレーキ側外輪23の内周面23bとの間で設けられた楔すきま26(図5参照)に二つの円筒ころ27および板ばね28がそれぞれ配されている。この大径部22dの一方の端面には、摩擦リング29が収容配置される環状凹部22bが形成されている。また、図中の符号22fは、大径部22dの他方の端面に形成された突起で、内輪15の孔15dにクリアランスをもって挿入される〔図1および図13(a)(b)参照〕。
出力軸22の軸部22cの先端に設けられたピニオンギヤ41gは、図19(a)に示すように軸部22cの先端側に形成された完全ギヤ部41g1と、軸部22cの根元側に形成された不完全ギヤ部41g2とからなり、不完全ギヤ部41g2の歯部間に位置する軸部根元側端面を、軸方向に沿う断面形状が径方向に沿って不連続な形状、つまり、軸部22cの先端側に向けて縮径する不完全ギヤ部41g2の傾斜面22g2と、径方向に沿って平行な完全ギヤ部41g1の平行面22g1とで構成している。
従来のクラッチユニットでは、図20(a)の破線で示すように、ピニオンギヤが形成された軸部根元側端面を、その軸方向に沿う断面形状が径方向に沿って連続な形状、つまり、軸部の先端側に向けて縮径する傾斜面としていた。これに対して、この実施形態では、従来における傾斜面(図中破線)を軸部の先端側(図示左方向)へずらした傾斜面22g2(図中実線)と不連続な平行面22g1を形成している。この平行面22g1は、従来における傾斜面(図中破線下部)を軸部の根元側(図示右方向)へ面押しすることにより形成され、その面押しにより生じる余肉が不完全ギヤ部41g2側へ移動することにより軸部の先端側へずれた傾斜面22g2が形成される。
これにより、完全ギヤ部41g1の有効ギヤ長さG、つまり、平行面22g1からギヤ先端面までの軸方向長さが従来の場合よりも長くなり、完全ギヤ部41g1の有効ギヤ長さGを確保することが容易となる。このようにして、完全ギヤ部41g1の有効ギヤ長さGを確保することが容易になると共に、クラッチユニット全体の軸方向長さを短縮することができてコンパクト化が図れる。
また、ピニオンギヤ41gの不完全ギヤ部41g2と大径部22dとの間に位置する軸部22cの外周面は、ブレーキ側側板25(図1参照)やシートフレーム(図示せず)を取り付ける場合の案内面22hとなる。ここで、不完全ギヤ部41g2の傾斜面22g2は、図20(a)の破線で示す従来の傾斜面を軸部の先端側へずらしたことにより形成されていることから、前述の案内面22hの軸方向長さIも従来の場合よりも長くなり、その案内面22hの軸方向長さIも確保することが容易となる。
この完全ギヤ部41g1の平行面22g1は、軸部根元側端面での輪郭が歯底部の形状に沿って形成されている。これは、有効ギヤ長さGを確保する点で有効である。また、完全ギヤ部41g1の平行面22g1は、軸部根元側端面に歯部と同数で円周方向に等配されている。さらに、完全ギヤ部41g1の平行面22g1は、図20(b)の破線で示すように軸部根元側端面を軸部22cの先端側に向けて縮径する傾斜面のみとした時の不完全ギヤ部全長Jの軸部先端側から25〜50%の位置(軸部先端側からの離間距離K)に形成されている。これにより、完全ギヤ部41g1の有効ギヤ長さGを十分に確保することが容易となる。なお、不完全ギヤ部全長Jの25%よりも小さいと、完全ギヤ部41g1の有効ギヤ長さGを確保することが困難となり、50%よりも大きいと、平行面22g1が図中破線部分の面押しにより形成されることから、その面押しにより生じる余肉が不完全ギヤ部41g2側へ移動する量が多くなり、ピニオンギヤ41gの外径側に食み出すおそれがあり、ブレーキ側側板25を組み付けることが困難となる。
図21はブレーキ側クラッチ部12の二つの円筒ころ27間に介挿される断面N字形の板ばね28を示す。ブレーキ側クラッチ部12の作動時、大荷重や衝撃的な荷重がブレーキ側クラッチ部12に入力されると、ブレーキ側外輪23と出力軸22との間に形成された楔すきま26から円筒ころ27が急激的に飛び出すポッピング現象が発生する場合がある。このポッピング現象の発生時、楔すきま26から急激的に飛び出した円筒ころ27に押圧された板ばね28が急激的に縮められて円筒ころ27間で転倒する可能性もあるため、前述の板ばね28に転倒防止手段を設けている。
その転倒防止手段の一例として、板ばね28は、その両端部を外側へ屈曲させた折曲部28aを有する。このように板ばね28の両端部に折曲部28aを設けたことにより、ブレーキ側クラッチ部12に大荷重や衝撃的な荷重が入力されてポッピング現象が発生しても、図27に示すように板ばね28の折曲部28aが円筒ころ27あるいはブレーキ側外輪23、出力軸22と干渉するためにその板ばね28が転倒し難くなり、ブレーキ側クラッチ部12の作動時における信頼性が向上する。
ここで、板ばね28の折曲部28aの突出長さtは、円筒ころ27の半径をrとした場合、0.1rよりも大きく、かつ、0.5rよりも小さい範囲(0.1r<t<0.5r)が好ましい。この範囲を満足することにより、折曲部28aにより転倒を防止する上で十分な突出長さを確保しつつ、円筒ころ27とブレーキ側外輪23および出力軸22との接触部(噛み合い部)に対して折曲部28aが干渉することはない。なお、突出長さtが0.1r以下(t≦0.1r)であると、折曲部28aにより転倒を防止する上で十分な突出長さを確保することが困難となり、また、突出長さtが0.5r以上(t≧0.5r)であると、円筒ころ27とブレーキ側外輪23および出力軸22との接触部に対して折曲部28aが干渉する可能性がある。
前述の場合、板ばね28の両端部に設けた折曲部28aを転倒防止手段としたが、他の転倒防止手段として、図22(a)(b)に示すように板ばね28の円筒ころ当接部位に溝状の凹部28b,28cを軸方向に沿って形成するようにしてもよい。図22(a)に示す凹部28bはR形状をなし、図22(b)に示す凹部28cはV字形状をなす。このように板ばね28に凹部28b,28cを形成したことにより、ブレーキ側クラッチ部12に大荷重や衝撃的な荷重が入力されてポッピング現象が発生しても、板ばね28の凹部28b,28cに円筒ころ27が嵌まり込むためにその板ばね28が転倒し難くなり、ブレーキ側クラッチ部12の作動時における信頼性が向上する。
ここで、板ばね28の凹部28bがR形状の場合、その曲率半径Rは、円筒ころ27の半径をrとした場合、1.1rよりも大きく、かつ、1.5rよりも小さい範囲(1.1r<R<1.5r)が好ましい。この範囲を満足することにより、円筒ころ27が凹部28bに確実に嵌まり込み、板ばね28の転倒を確実に防止できる。なお、凹部28bの曲率半径Rが1.1r以下(R≦1.1r)あるいは1.5r以上(R≧1.5r)であると、円筒ころ27が凹部28bに確実に嵌まり込むことが困難となり、板ばね28が転倒し易くなる。
図23(a)(b)および図24(a)(b)はブレーキ側外輪23およびそのカバー24を示す。図25(a)(b)はブレーキ側側板25を示す。前述のブレーキ側外輪23とカバー24は、このブレーキ側側板25により一体的に加締め固定される。このカバー24は、図24(a)(b)に示すように前述した内輪15の拡径部15cに当接した状態で径方向外側に延在する彎曲部24gを有する〔図1および図31(a)参照〕。なお、図中の符号25bは出力軸22が挿通された孔、符号25cは後述の摩擦リング29の突起29aが嵌合する孔である。
ここで、ブレーキ側外輪23は、内周面23bおよび外周面23cを板状素材の同時打ち抜き加工により成形すると共に、その同時打ち抜き加工により成形された内周面23bを切削加工したものである。内周面23bおよび外周面23cを成形するための板状素材の同時打ち抜き加工としては、例えばファインブランキング(FB)加工が好適である。このファインブランキング加工は、剪断圧力の他に静水圧を発生させるために板状素材をV型の突起で固定する板押さえ圧力と剪断圧力に向かい合う逆圧力をそれぞれ単独に調整可能な油圧制御装置と毎秒5〜35mm程度の加工速度を発生させる機能、高い剛性および精度を備えたプレス加工である。
このようなファインブランキング加工を利用し、ブレーキ側外輪23の内周面23bおよび外周面23cを同時打ち抜き加工により成形することで、そのブレーキ側外輪23の内周面23bと外周面23cの同心度が型の精度のみに依存することから精度確保が容易となる。同時抜き打ち加工により成形された内周面23bと外周面23cの同心度はφ0.05以下とする。これにより、ブレーキ側外輪23の寸法精度の向上が図れる。なお、同心度がφ0.05よりも大きいと、ブレーキ側外輪23の寸法精度を向上させることが困難となる。
また、ブレーキ側外輪23の内周面23bおよび外周面23cにおける打ち抜き面の剪断面長さを略板厚程度まで確保することができるため、図23(b)で拡大して示すように、特に外周面23cの剪断面長さNを板厚の80%以上まで確保できることで切削加工時のチャック精度を向上させることができ、切削時の取り代を少なくすることができる。なお、外周面23cの剪断面長さNが80%よりも小さいと、切削加工時のチャック精度を確保することが困難となり、切削時の取り代を多くしなければならない。図23(b)で拡大して示す外周面23cは、剪断面23c1と破断面23c2からなる。
さらに、同時打ち抜き加工により成形された内周面23bを切削加工することにより、ブレーキ側外輪23の内周面23bが軸芯に対してテーパ状となることを抑制することができて円筒度の向上が図れ、円筒ころ27との接触面積を確保できるのでブレーキ側クラッチ部12でのブレーキ力低下を抑制し、ブレーキ側外輪23と出力軸22との間での円筒ころ27の噛み合い面圧も小さくなって円筒ころ27の解除力を小さくできるので、レバー側クラッチ部11でのレバー操作時、円筒ころ27がブレーキ側外輪23と出力軸22との間で解除されるに際して異音が発生することもない。
また、ブレーキ側外輪23の内周面23bに、プレス加工具に凝着した微小な抜きカスによる打ち抜き方向の引掻き傷が生じたとしても、切削加工によりその引掻き傷を除去することができるので、ブレーキ側外輪23の内周面23bにおける周方向面粗度の悪化を防止できる。ブレーキ側外輪23では、その内周面の周方向面粗度をRa0.05〜0.3の範囲とする。これにより、ブレーキ側クラッチ部12でのブレーキ力の低下、また、レバー側クラッチ部11でのレバー操作時に発生する微振動を未然に防止できる。なお、面粗度がRa0.05よりも小さいと、円筒ころ27が接触する内周面23bにおける油膜が切れ難くなってブレーキ側クラッチ部12が滑り易くなるおそれがあり、面粗度がRa0.3よりも大きいと、ブレーキ側クラッチ部12でのブレーキ力の低下、レバー側クラッチ部11でのレバー操作時に発生する微振動を未然に防止することが困難となる。
また、切削加工により、ブレーキ側外輪23の打ち抜き側端面に打ち抜き後の端面研磨で発生する径方向のバリを除去することができるので、ブレーキ側クラッチ部12の組立時、ブレーキ側外輪23の内周面23bに円筒ころ27を挿入配置する際にブレーキ側外輪23の端面について表裏判別を行う必要がなくなり、その表裏判別のための専用設備も不要となってコスト低減が図れる。また、ブレーキ側外輪23の内周面エッジ部に面取り23eを設けておけば、ブレーキ側クラッチ部12の組立時、ブレーキ側外輪23の内周面23bに円筒ころ27を挿入配置することが容易となり、作業性の向上が図れる。さらに、寸法精度の向上により、ブレーキ側外輪23の内径寸法に応じて円筒ころ27のころ径を変更する選択嵌合が不要となり、ブレーキ側クラッチ部12の組立作業性の向上、コスト低減が図れる。
このブレーキ側外輪23は、切削加工により成形した内周面23bがバニシング加工されている。このバニシング加工によりブレーキ側外輪23の内径の寸法精度を向上させることが容易となる。なお、前述のバニシング加工とは、一般的に、ローラあるいはボールを使用することにより金属表面層を押し潰して塑性変形させることで面精度を向上させる加工を意味する。
ブレーキ側外輪23の外周には複数(3個)の切欠き凹部23aが形成されると共に、これら切欠き凹部23aに対応させて、カバー24の外周にも複数(3個)の切欠き凹部24aが形成されている。図28(a)(b)に示すようにブレーキ側外輪23の切欠き凹部23aにブレーキ側側板25の爪部25aが挿入されると共に、図29に示すようにカバー24の切欠き凹部24aにブレーキ側側板25の爪部25aが挿入される。
これら切欠き凹部23a,24aに挿入されたブレーキ側側板25の爪部25aを加締めることによりブレーキ側外輪23とカバー24を連結してブレーキ側側板25と共に一体化する。このブレーキ側側板25の爪部25aの加締めは、加締め治具(図示せず)を利用することにより、その爪部25aの二股状先端部25a1を外側へ拡開させることにより行われる(図30参照)。
このブレーキ側外輪23と共にブレーキ側側板25と一体化されたカバー24は、内輪15の拡径部15cに後述のシール部材32を介して当接した状態となっている。そのため、図31(a)に示すように内輪15の拡径部15cの屈曲部15fに、面押しによるテーパ状の平坦面(例えば、軸方向に対する角度が30°)とした逃げ15gを設けたことにより、ブレーキ側クラッチ部12のカバー24の彎曲部24gとの干渉を防止するようにしている。この内輪15の拡径部15cの屈曲部15fとカバー24の彎曲部24gとの干渉を回避することにより、レバー側クラッチ部11でのレバー操作により回転する際にそのレバー操作によるトルクが上昇することはないので、レバー操作のフィーリングを向上させることができる。
このようにすれば、カバー24の彎曲部24gと内輪15の拡径部15cの屈曲部15fとの干渉を回避するためにカバー24の彎曲部24gを大径にする必要がないので、そのカバー24の彎曲部24gの外周に配置された外側センタリングばね19と干渉することもない(図33参照)。この外側センタリングばね19がその外周に位置するブレーキ側側板25の爪部25aと接触するおそれもなくなるので、ブレーキ側側板25およびブレーキ側外輪23の外径を大きくする必要がなく、その結果、クラッチユニット全体のコンパクト化が容易となる。
ここで、前述の場合、カバー24の彎曲部24gと内輪15の拡径部15cの屈曲部15fとの干渉を回避するために、内輪15の拡径部15cの屈曲部15fに逃げ15gを設けたが、図31(b)に示すようにカバー24の彎曲部24gに逃げ24hを設けるようにしてもよい。この場合の逃げ24hも、彎曲部24gを面押しすることにより形成されたテーパ状の平坦面(例えば、軸方向に対する角度が45°)としている。
このようにカバー24の彎曲部24gに逃げ24hを設けたことにより、内輪15の拡径部15cの屈曲部15fとの干渉を回避することができる。なお、内輪15の拡径部15cの屈曲部15fに逃げ15gを設けた場合の平坦面の角度(軸方向に対して30°)と、カバー24の彎曲部24gに逃げ24hを設けた場合の平坦面の角度(軸方向に対して45°)とが異なるのは、内輪15の屈曲部15fとカバー24の彎曲部24gとで曲がり具合が違うことによる。
また、図32に示すように内輪15の拡径部15cとカバー24との間に、カバー24および拡径部15cに形成された開口部を閉塞する手段として、環状のシール部材32を介在させている。カバー24および拡径部15cに形成された前述の開口部とは、内側センタリングばね18を係止するための爪部24bを面起こしにより形成するためにカバー24に貫通して形成された孔24i〔図24(b)および図29参照〕と、レバー側クラッチ部11からの回転トルクをブレーキ側クラッチ部12の出力軸22に伝達するために内輪15の拡径部15cに形成されてその出力軸22の突起22fが挿入配置される孔15dとの連通部分を意味する。
このようにレバー側クラッチ部11の内輪15の拡径部15cに形成された孔15dや、ブレーキ側クラッチ部12のカバー24に形成された孔24iが、内輪15の回転によりその回転方向で一致する場合がある。このカバー24の孔24iと拡径部15cの孔15dとが回転方向で一致してブレーキ側クラッチ部12の内部がその外部と連通することになっても、カバー24と内輪15の拡径部15cとの間にシール部材32が介在しているため、拡径部15cの孔15dとカバー24の孔24iを介してブレーキ側クラッチ部12に封入されたグリースが外部へ漏洩することを未然に防止することができる。このようにブレーキ側クラッチ部12からのグリース漏洩を防止できることから、ブレーキ側クラッチ部12での潤滑不足による早期摩耗や異音発生を抑制できる。
また、カバー24と内輪15の拡径部15cとの間にシール部材32が介在することから、カバー24と拡径部15cとが直接的に接触することがないので、カバー24または内輪15の拡径部15cが摩耗して金属粉が発生することも抑制でき、ブレーキ側クラッチ部12の円筒ころ27の噛み合い不良やフィーリング悪化を防止できる。
さらに、このカバー24とシール部材32およびそのシール部材32と内輪15の拡径部15cとの接触力を小さくすることができるので、カバー24に対する内輪15の拡径部15cの摺動抵抗を小さくすることができ、レバー側クラッチ部11でのレバー操作力を低減することができる。
なお、シール部材32としては、鉄製あるいは樹脂製のものが使用可能である。このシール部材32として樹脂製のものを使用すれば、鉄製のものと比較して軽量化が図れる。また、シール部材32として鉄製のものを使用する場合には、少なくとも拡径部15cとの当接面が表面処理されていることが望ましい。その表面処理としては、低摩擦係数や耐摩耗性を有する素材のコーティング処理が挙げられる。低摩擦係数を有する素材をコーティング処理すれば、摺動抵抗の低減が図れ、耐摩耗性を有する素材をコーティング処理すれば、耐久性の向上が図れる。さらに、シール部材32として樹脂製のものを使用する場合には、低摩擦係数や耐摩耗性を有する素材で成形すれば、シール部材自体で摺動抵抗の低減および耐久性の向上が図れる。
ブレーキ側外輪23の内周面23bと出力軸22のカム面22aとの間に楔すきま26が形成されている(図5参照)。カバー24には軸方向に突出する爪部24bが形成され、その爪部24bをレバー側クラッチ部11の内側センタリングばね18の二つの係止部18a間に配置している〔図16(b)および図34(a)(b)参照〕。このカバー24の爪部24bは、その爪部形成位置の外径側を面起こしすることにより形成されている。カバー24の外周には軸方向に突出する爪部24dが形成されている。この爪部24dは、レバー側クラッチ部11の外側センタリングばね19の二つの係止部19a間に配置される〔図17(a)および図34(a)(b)参照〕。
カバー24の外周には二組の係止部24e,24fが段付き加工により形成されている〔図34(a)(b)参照〕。これら係止部24e,24fは、カバー24がブレーキ側外輪23の端面23dに接触した状態でレバー側外輪14の回転によりそのブレーキ側外輪23の端面上を摺動する爪部14gと回転方向で当接可能とすることで、操作レバーの操作角度を規制する回転ストッパとして機能する。つまり、操作レバーの操作によりレバー側外輪14が回転すれば、その爪部14gがカバー24の係止部24eと24fとの間でカバー24の外周に沿って移動することになる。
ここで、前述したようにこのクラッチユニットXが搭載される自動車の仕様によっては、レバー操作によるレバー側外輪14の回転角度を時計方向T1と反時計方向T2で異ならせることがある〔図8(a)(b)および図9(a)(b)参照〕。この仕様に対応するため、レバー側外輪14の回転角度を時計方向T1と反時計方向T2とで異ならせる手段をカバー24の係止部24e,24fに形成することも可能である。これにより、レバー操作によるレバー側外輪14の回転時、時計方向T1と反時計方向T2で要求されるレバー側外輪14の回転角度が異なる仕様に対して迅速かつ容易に対応することができる。なお、この場合には、レバー側外輪14の爪部14gは、図8(b)および図9(b)の破線で示すように従来のようにその中心軸Lに対して時計方向T1と反時計方向T2とで形状が同じ対称形状でよい。
このレバー側外輪14の回転角度を時計方向T1と反時計方向T2とで異ならせる手段として、一対の係止部24e,24fをレバー側外輪14の回転方向で非対称位置に配置した構造が可能である。
例えば、レバー側外輪14の回転角度について、時計方向T1の回転角度を反時計方向T2の回転角度よりも小さくする場合には、図24(b)の破線で示すように一対の係止部24e,24f間の回転方向中央位置Mに対して、一方の係止部24f’までの時計方向側離間寸法S1が他方の係止部24eまでの反時計方向側離間寸法S2よりも小さくなるように係止部24f’を配置する(図29および図33参照)。つまり、係止部24fから係止部24f’へ時計方向の移動端位置を変更すればよい。
逆に、反時計方向T2の回転角度を時計方向T1の回転角度よりも小さくする場合には、図24(b)の破線で示すように一対の係止部24e,24f間の回転方向中央位置Mに対して、一方の係止部24e’までの時計方向側離間寸法S3が他方の係止部24fまでの反時計方向側離間寸法S4よりも小さくなるように係止部24e’を配置する(図29および図33参照)。つまり、係止部24eから係止部24e’へ反時計方向の移動端位置を変更すればよい。
ブレーキ側側板25の外周には、シートリフタ部へのクラッチ取付部として、一つのフランジ部25eと二つのフランジ部25fが設けられている(図2〜図4参照)。これら三つのフランジ部25e,25fの先端部には、シートリフタ部への取付用孔25g,25hが穿設されてその取付孔25g,25hを囲撓するように円筒部25i,25jが軸方向に突設されている。
図26(a)〜(c)は樹脂製の摩擦リング29を示す。摩擦リング29の端面には、その円周方向に沿って等間隔に円形の突起29aが複数個設けられ、この突起29aをブレーキ側側板25の孔25cに圧入して嵌合させることによりブレーキ側側板25に固着される(図1および図3参照)。
この突起29aの圧入時、樹脂材による突起29aの弾性変形でもって孔25cとの嵌合状態が得られる。このように突起29aと孔25cの圧入嵌合構造を採用することにより、搬送時などの取り扱いで摩擦リング29がブレーキ側側板25から脱落することを未然に防止でき、組立時のハンドリング性を向上させることができる。
この摩擦リング29は出力軸22の大径部22dに形成された環状凹部22bの内周面22eに締め代をもって圧入される〔図18(a)および図19(a)(b)参照〕。摩擦リング29の外周面29cと出力軸22の環状凹部22bの内周面22eとの間に生じる摩擦力によって、出力軸22に回転抵抗が付与される。
この摩擦リング29の外周面29cには、複数の凹溝状のスリット29bが円周方向等間隔に形成されている(図5参照)。このようにスリット29bを設けることにより、摩擦リング29に弾性を持たせることができることから、出力軸22の内径公差および摩擦リング29の外径公差に対する摺動トルクの変化率が大きくなることはない。
つまり、摩擦リング29の外周面29cと出力軸22の環状凹部22bの内周面22eとの間に生じる摩擦力によって付与される回転抵抗の設定範囲を小さくすることができて回転抵抗の大きさを適正に設定することが容易となる。また、そのスリット29bがグリース溜まりとなるので摩擦リング29の外周面29cが出力軸22の環状凹部22bの内周面22eとの摺動で摩耗することを抑制できる。
以上の構成からなるクラッチユニットXにおけるレバー側クラッチ部11およびブレーキ側クラッチ12の動作を説明する。
レバー側クラッチ部11では、レバー側外輪14に入力トルクが作用すると、円筒ころ16がそのレバー側外輪14と内輪15間の楔すきま20に係合し、その円筒ころ16を介して内輪15にトルクが伝達されて内輪15が回転する。この時、レバー側外輪14および保持器17の回転に伴って両センタリングばね18,19に弾性力が蓄積される。その入力トルクがなくなると、両センタリングばね18,19の弾性力によりレバー側外輪14および保持器17が中立状態に復帰する一方で、内輪15は、与えられた回転位置をそのまま維持する。従って、このレバー側外輪14の回転繰り返し、つまり、操作レバーのポンピング操作により、内輪15は寸動回転する。
ブレーキ側クラッチ部12では、出力軸22に逆入力トルクが入力されると、円筒ころ27がその出力軸22とブレーキ側外輪23間の楔すきま26と係合して出力軸22がブレーキ側外輪23に対してロックされる。従って、出力軸22からの逆入力トルクは、ブレーキ側クラッチ部12によってロックされてレバー側クラッチ部11への逆入力トルクの還流が遮断される。
一方、レバー側外輪14からの入力トルクがレバー側クラッチ部11を介して内輪15に入力され、内輪15が円筒ころ27と当接して板ばね28の弾性力に抗して押圧することにより、その円筒ころ27が楔すきま26から離脱して出力軸22のロック状態が解除され、出力軸22は回転可能となる。内輪15がさらに回転すると、内輪15の孔15dと出力軸22の突起22fとのクリアランスが詰まって内輪15が出力軸22の突起22fと回転方向で当接することにより、内輪15からの入力トルクが突起22fを介して出力軸22に伝達され、出力軸22が回転する。
以上で詳述した構造を具備するクラッチユニットXは、例えば自動車用シートリフタ部に組み込まれて使用される。図35は自動車の乗員室に装備される座席シート40を示す。座席シート40は着座シート40aと背もたれシート40bとで構成され、着座シート40aの高さHを調整するシートリフタ部41などを備えている。着座シート40aの高さHの調整はシートリフタ部41の操作レバー41aによって行う。
図36(a)はシートリフタ部41の一構造例を概念的に示す。シートスライドアジャスタ41bのスライド可動部材41b1にリンク部材41c,41dの一端がそれぞれ回動自在に枢着される。リンク部材41c,41dの他端はそれぞれ着座シート40aに回動自在に枢着される。リンク部材41cの他端はリンク部材41eを介してセクターギヤ41fに回動自在に枢着される。セクターギヤ41fは着座シート40aに回動自在に枢着され、支点41f1回りに揺動可能である。リンク部材41dの他端は着座シート40aに回動自在に枢着される。
前述した実施形態のクラッチユニットXは、着座シート40aの適宜の部位に固定される。このクラッチユニットXの着座シート40aへの固定は、ブレーキ側側板25の三つのフランジ部25e,25fを、その円筒部25i,25jの先端部分を外側へ拡径させるように塑性変形させることで着座シート40aのシートフレーム(図示せず)に加締め固定する。
一方、レバー側クラッチ部11のレバー側側板13に例えば樹脂製の操作レバー41aが結合され、ブレーキ側クラッチ部12の出力軸22に回転部材であるセクターギヤ41fと噛合するピニオンギヤ41gが設けられている。このピニオンギヤ41gは、図1、図18(a)(b)および図19(a)(b)に示すように出力軸22の軸部22cの先端に一体的に形成されている。
図36(b)において、操作レバー41aを反時計方向(上側)に揺動操作すると、その方向の入力トルクがクラッチユニットXを介してピニオンギヤ41gに伝達され、ピニオンギヤ41gが反時計方向に回動する。そして、ピニオンギヤ41gと噛合するセクターギヤ41fが時計方向に揺動して、リンク部材41cの他端をリンク部材41eを介して引っ張る。その結果、リンク部材41cとリンク部材41dが共に起立して、着座シート40aの座面が高くなる。
このようにして、着座シート40aの高さHを調整した後、操作レバー41aを開放すると、操作レバー41aが二つのセンタリングばね18,19の弾性力によって時計方向に回動して元の位置(中立状態)に戻る。なお、操作レバー41aを時計方向(下側)に揺動操作した場合は、上記とは逆の動作によって、着座シート40aの座面が低くなる。また、高さ調整後に操作レバー41aを開放すると、操作レバー41aが反時計方向に回動して元の位置(中立状態)に戻る。
本発明は前述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々なる形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。