JP2010154788A - スフィンゴ脂質富化麹とその製造方法 - Google Patents

スフィンゴ脂質富化麹とその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】製麹により、簡便かつ効率的にスフィンゴ脂質が富化された麹を製造する方法、及び該方法により製造されたスフィンゴ脂質富化麹を提供する。
【解決手段】蒸きょうした製麹原料に麹菌を植菌して培養を行う製麹において、精米歩合又は精麦歩合が40%以上である米又は麦類を製麹原料として使用することを特徴とする、スフィンゴ脂質富化麹の製造方法を提供する。
【選択図】なし

Description

スフィンゴ脂質とは、スフィンゴイド塩基(長鎖塩基)を構造骨格としてもつ複合脂質の総称である。動物細胞のスフィンゴ脂質の骨格はスフィンゴシンであるが、植物や真菌では主にフィトスフィンゴシンである(非特許文献1)。
スフィンゴ脂質には、スフィンゴイド塩基のアミノ基にアシル基がアミド結合したセラミドや、セラミドに糖、リン、硫黄、アミノ酸など様々な極性基が付加した複合スフィンゴ脂質などがある。なかでも糖が結合したスフィンゴ糖脂質は、真核生物やバクテリアの一部などに普遍的に存在しており、糖鎖部分の構造は様々であることが知られている。グルコースが結合したグルコシルセラミドは、セレブロシドとも呼ばれ植物、真菌、動物に共通してみられる代表的なスフィンゴ糖脂質である(非特許文献2)。
セラミドはヒトの皮膚の角質層の細胞間脂質の主成分として約50%を占め、皮膚の保湿性や柔軟性にかかわっていると言われている。加齢により減少し、しわ、ドライスキン、肌荒れの原因となるほか、アトピー性皮膚炎にも関与していると考えられている。従来はセラミドを補充する方法として、安価な供給源である牛脳由来のスフィンゴ脂質が用いられていたが、BSE(牛海綿状脳症)発症の原因であるプリオンが脳幹部位に蓄積していることが明らかとなって以来、食品・化粧品用途での利用は不可能となっている。また、合成セラミドは安全性の観点から食品素材としては利用の制限がある。
牛脳の代替供給源として、現在では主に農産加工副産物である大豆油さいやビール粕、米や小麦などの穀類の胚芽、コンニャク芋などが利用されているが、含有量が微量であり、食品としてそのまま利用しにくいことから、有機溶媒などによる抽出・濃縮が行なわれている。このため製造に多大なコストがかり、製品が非常に高価であるという問題があった(特許文献1、2)。
また、酵母、キノコなどの真菌類からもセレブロシドの抽出が行われている。酵母においてはセレブロシドが存在する種は限られているため(非特許文献3)、サッカロミセス・クルイベリ(Saccharomyces kluyveri)やクルイベロマイセス・ラクティス(Kluyveromyces lactis)といったセレブロシド生産菌を用い、液体培養下で様々な環境ストレス付与や培地への塩類添加を行い、生産量、蓄積量を高める製造方法も検討されている(特許文献3、4)。
例えば環境ストレスの付与として、培地への食塩添加についての報告があり、これにより菌体重量あたりのセレブロシド含量が増加している(特許文献3)。また、窒素源として培地中へ硫酸アンモニウムを添加する方法や、あるいはナトリウム源として各種ナトリウム化合物を添加する方法も検討されており、いずれも菌体あたりのセレブロシド量が増加するという報告がある(特許文献4)。したがって、酵母においては培地中への塩類添加により、環境ストレスの付与、あるいは栄養源の補給がなされ、これによりセレブロシドが菌体内に蓄積すると考えられる。
このように、酵母においては、培養条件の違いによって菌体量あたりのスフィンゴ脂質量は変動することから、様々な高生産法についての検討がなされてきた。しかしながら、こうしたスフィンゴ脂質を富化した酵母においても、菌体からのセレブロシドの回収のため、有機溶媒抽出や冷凍処理などが用いられており、工程が煩雑であり、多大なコストがかかるほか、環境への負荷も懸念されるなどの問題があった。
また、国内で伝統的な発酵食品の製造に利用されてきた麹菌についても、液体培養時にセラミドやセレブロシドといったスフィンゴ脂質を生産するという報告がある(非特許文献4、5)。しかし、仮に麹菌の液体培養において培養条件の検討を行い、麹菌のスフィンゴ脂質含量を増加させたとしても、菌体だけをろ過回収して食するような食経験が無いため、有機溶媒抽出等の処理が必要となり、前述のような問題点が生じる。
一方で、麹菌の固体培養物については、伝統的に「麹」として丸ごと食する食習慣がある。このため食品として麹菌スフィンゴ脂質を利用するには非常に適している。
現在、麹菌の固体培養(すなわち製麹)は、主に酵素生産や種麹としての胞子着生等を目的として行われている。その際、培地となる穀類の種類やその前処理法は、菌の増殖や酵素生産性を左右するものであり、特に重要であると考えられる。このため、穀類の精米(麦)歩合はいずれも、麹の利用目的によって異なっている。
例えば清酒醸造においては、全国の酒造用米の平均精米歩合が平成4年度68.1%、5年度68.5%、6年度67.7%である(非特許文献6)。玄米の外表部にはタンパク質・脂肪・無機質・ビタミン類が多く、清酒の香味、色沢を劣化させるため、米の外表部を除いてこれらの成分を減少させるのが目的である。
一方、味噌麹製造においては、精米歩合は味噌の種類によって異なるが、一般に90%前後のものが使用されている。精麦歩合については、裸麦で70〜85%、大麦で60〜70%である(非特許文献7)。
しかしながら固体培養時、すなわち麹にした際のスフィンゴ脂質の生産能力や分子種についての報告は無く、高生産のための培養条件の検討はもちろん、麹をスフィンゴ脂質供給源として利用するための検討さえ行なわれてきていない。
特開平4−282317号公報 特開平11−279586号公報 特開2005−185126公報 特開2006−55070公報 Chem.Phys.Lipids,5,6−43(1970) CMLS,Cell.Mol.LifeSci.,60,919−941(2003) FEMS Yeast Research,2,533−538(2002) 日本農芸化学誌,第49巻,第4号,205−212(1975) Biochimica et Biophysica Acta,486,161−171(1977) 最新酒造講本、財団法人 日本醸造協会(平成16年) 麹学、日本醸造協会発酵,村上英也 編著(1986)
上記の通り、スフィンゴ脂質を効率的に取得するためには、真菌類などの微生物を供給源とすることが適しているが、酵母やキノコ類を供給源とした場合、その形態や香味ゆえにいずれも食品としてはそのまま使用しづらく、有機溶媒等による濃縮が必須となるために、食品としては極めて高価なものになることから利用の制限があった。また麹菌は液体培養においてスフィンゴ脂質を生産することが知られるが、食用産業利用上有利な固体培養でスフィンゴ脂質を高生産するための最適な方法がなかった。
そこで本発明は、麹菌の固体培養を利用する製麹により、簡便かつ効率的にスフィンゴ脂質が富化された麹を製造する方法、及び該方法により製造されたスフィンゴ脂質富化麹を提供することを目的とする。
本発明者らによるこれまでの知見から、無機塩類の存在下で製麹を行うことで麹中のスフィンゴ脂質が富化できることがわかっている(特願2008−209021)。一方、製麹に使用されている米又は麦類中(例えば米の糠部分、麦の麦粒表面近くなど)に無機成分が多く存在することが知られている。
そこで本発明者らは、これらの無機成分をスフィンゴ脂質の富化に利用できるのではないかと考え、製麹に供する米又は麦類の精米歩合又は精麦歩合と製造される麹中のスフィンゴ脂質の収量との関連を調べたところ、特定の精米歩合又は精麦歩合の米又は麦類を製麹原料として製麹に用いた際に、製造される麹中のスフィンゴ脂質の収量が増加していることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は以下の特徴を包含する。
(1) 蒸きょうした製麹原料に麹菌を植菌して培養を行う製麹において、精米歩合又は精麦歩合が40%以上である米又は麦類を製麹原料として使用することを特徴とする、スフィンゴ脂質富化麹の製造方法。
(2) 米は丸米である上記(1)記載の方法。
(3) 麦類は大麦である上記(1)記載の方法。
(4) 精米歩合は40〜95%の範囲であることを特徴とする上記(1)記載の方法。
(5) 精米歩合は70〜95%の範囲であることを特徴とする上記(4)記載の方法。
(6) 精麦歩合は50〜90%の範囲であることを特徴とする上記(1)記載の方法。
(7) 精麦歩合は60〜80%の範囲であることを特徴とする上記(6)記載の方法。
(8) 麹菌はアスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)又はアスペルギルス・ソーエ(Aspergillus sojae)であることを特徴とする上記(1)記載の方法。
(9) 蒸きょうした製麹原料の水分量が30〜36重量%であることを特徴とする上記(1)記載の方法。
(10) 製麹時間は48時間以上であることを特徴とする上記(1)記載の方法。
(11) 盛り以降の工程を75%以上の湿度条件にて行うことを特徴とする上記(10)記載の方法。
(12) スフィンゴ脂質はセレブロシドであることを特徴とする上記(1)記載の方法。
(13) 上記(1)〜(12)のいずれか記載の方法で製造されたスフィンゴ脂質富化麹。
(14) 上記(13)記載のスフィンゴ脂質富化麹を含有する飲食品。
(15) 蒸きょうした製麹原料に麹菌を植菌して培養を行う製麹において、精米歩合又は精麦歩合が40%以上である米又は麦類を製麹原料として使用することを特徴とする、麹中のスフィンゴ脂質を富化する方法。
本明細書で使用する「製麹」とは、蒸きょうした製麹原料に麹菌を植菌して培養する、当業者に公知の製麹方法(例えば、蓋麹法、箱麹法、床麹法、機械麹法など)を指す。これらの製麹方法は、蒸きょうした製麹原料に麹菌を植菌した後に培養する工程を含み、その間、一般的に「引き込み」、「盛り」、「仲仕事」、「仕舞仕事」といった処理を含んでいる。
「盛り」とは、「床もみ」(すなわち種麹植菌)後、麹菌の生育が旺盛になりかけたものを小区分に分けて品温管理をしやすくする作業を指す。一般的に製麹において、盛りまでを「床時代」、盛り以降を「棚時代」と呼ぶ。床時代とは床もみを行った後、蒸した製麹原料を堆積し、布などで包むなどして湿度を維持し、乾燥を防ぐ工程であり、乾燥が進む原因となる手入れをほとんど行わず、切り返しを行うのみで培養を行う。
床時代における製麹温度は、使用する麹菌の菌体生育の至適温度に応じて、一般的には28〜42℃、例えば30〜37℃とされる。ただし、床時代の製麹温度をおよそ38℃以上の比較的高温とする場合、麹菌が生育阻害を受ける虞がある。なお、製麹温度とは、麹の品温を意味する。製麹温度は、麹菌の生育に伴う発酵熱を制御することによって、又は製麹における周囲温度を制御することによって調節することができる。
床時代の所要時間は、一般的には18時間〜20時間である。生育が旺盛になった状態のまま長時間放置すると発酵熱を除くことができず、品温が制御できなくなるうえに、原料が密集しているため製麹の生育が抑制されてしまうため、この時点で盛りを行い、棚時代に移行する。
一方、棚時代は、麹を薄く盛り、麹の水分蒸発を進める工程であり、この培養工程の中で、「仲仕事」、「仕舞仕事」と呼ばれる手入れ作業が行われる。上記非特許文献7によれば、出麹までに蒸発する総水分量の75%が仲仕事までの間に蒸発することが記載されている。棚時代は、一般的には、仲仕事の時点で34〜36℃、仕舞仕事の時点で38〜39℃、仕舞仕事以降を40℃〜42℃の製麹温度とし、43〜48時間(醤油麹の場合は2〜3日間)の製麹時間で行われる。
製麹の詳細については、例えば上記非特許文献7及び発酵ハンドブック((財)バイオインダストリー協会 発酵と代謝研究会編,2001年)などを参照されたい。
本発明のスフィンゴ脂質富化麹の製造方法又は麹中のスフィンゴ脂質を富化する方法(以下、これらを「本発明の方法」という)において、下記で特に規定されない限り、製麹を上記のような当業者に公知の製麹と同様にして行うことができること、当業者は適宜上記条件を変更できることに留意すべきである。
具体的に、本発明の方法は、製麹において、精米歩合又は精麦歩合が40%以上である米又は麦類を製麹原料として使用することを特徴とする。
本明細書で使用する用語「精米又は精麦」とは、米又は麦類の種子から果皮、種皮、胚芽などを除去する処理をいい、原料穀類に応じて米の場合は精米、麦類の場合は精麦と称する。精米又は精麦は、一般的な穀類搗精機、例えば、精米機や、石臼のように表面を削り取る原理を有している機器によって行うことができる。
本明細書で使用する用語「精米歩合又は精麦歩合」とは、「精米又は精麦」の程度を表す用語である。ここで、例えば「精米歩合又は精麦歩合が60%である」とは、精米又は精麦によって原料穀類から除去される部分が40%であり、その他製麹原料として使用される部分が60%であることをいう。例えば、精米歩合は、玄米量と精米後の白米量から式:精米歩合%=白米kg/玄米kg×100によって計算することができる(上記非特許文献6参照)。
本発明の方法で使用される麦類は、麹菌を生やして麹にできるものであれば特に制限されず、例えば大麦、小麦などを使用することができる。特に大麦を使用することが好ましい。
本発明の方法において、好ましい精米歩合又は精麦歩合は、使用する穀類原料の種類に応じて変化し得る。例えば、穀類原料として米を使用する場合には、精米歩合は40%以上100%未満の範囲、例えば40%〜95%、45%〜95%、50%〜95%、55%〜95%、60%〜95%、65%〜95%、70%〜95%、75%〜95%、80%〜95%、85%〜95%、90〜95%である。精米歩合が90%程度であることが最も好ましい。但し、玄米は澱粉が露出していないため、麹菌が中に入り込みにくく、一般的には使用に好ましくない。また穀類原料として麦類を使用する場合には、精麦歩合は50%以上90%未満の範囲、例えば55%〜85%、60%〜80%、65%〜75%である。精麦歩合が70%程度であることが最も好ましい。
本発明の方法において、穀類原料として米を使用する場合には、丸米を使用することが好ましい。これは製麹原料として破米よりも丸米を使用した方が製造される麹中のスフィンゴ脂質含量が顕著に高いという本発明者らの今回の知見に基づいている(例えば実施例6参照)。
本発明の方法に用いることができる麹菌は、スフィンゴ脂質を生産できるものであれば特に限定されないが、例えばアスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)や、その近縁のアスペルギルス・ソーエ(Aspergillus sojae)などを挙げることができる。A.オリゼとして具体的には市販の種麹や、登録番号RIB40、NBRC4214、JCM2228又はATCC36261で指定される特定の菌株などを用いることができる。また、A.ソーエとしては、市販の種麹や、登録番号JCM2226、NBRC4239又はNBRC5241で指定される特定の菌株などを用いることができる。A.オリゼとしてNBRC4214、JCM2228が、そしてA.ソーエとしてJCM2226が米、大麦の両方の麹においてセレブロシド生産量が高いことから、本発明で使用するのに特に適している。また、上記麹菌以外の麹菌として、大麦麹の場合にA.オリゼ登録番号NBRC4255、ATCC11494、ATCC16868、NBRC5786、JCM2245、NBRC5240などを、米麹の場合にA.オリゼ登録番号JCM2227、JCM2173、JCM2229、NBRC4261などを使用することができる。
本発明の方法において、蒸きょうした製麹原料の水分量が30〜36重量%であることが好ましい。蒸きょう後の製麹原料の水分量が30%以下であるか又は36%以上であると、麹菌の立ち上がりが抑制されてしまう虞があるからである。
本発明の方法において、製麹時間は48時間以上であることが好ましい。これは一般的な製麹時間である43〜48時間(上記非特許文献7参照)経過後のさらなる継続的な培養により、スフィンゴ脂質量がさらに増加するという本発明者らの知見に基づいている(例えば実施例6参照)。本発明の方法における製麹時間の上限は特に制限されず、スフィンゴ脂質の量が経時的に増加する限り培養を継続することができ、例えば72時間、160時間まで培養を継続することができる。なお、製麹時間とは、種麹の植菌後から製麹終了までの時間をいう。
また製麹を48時間以上継続する場合には、製麹における盛り以降の工程を高湿度にて実施することが好ましい。一般的な製麹においては、酵素生産量の増加及び保存性を高めるために盛り以降の工程で湿度を低下させて麹の水分含量を低下させるが、本発明においては、盛り以降の工程を高湿度を維持したまま継続して麹水分の蒸散を抑制することによってスフィンゴ脂質の生産を増加できる(下記実施例6参照)。また本願出願人による先の出願(特願2008-187747号)には、そのような高湿度条件下での長期培養により、製造される麹中のスフィンゴ脂質を、一般的な製麹条件にて製造された麹に比較して、約1.7倍〜約6.7倍まで高めることができる旨が開示されている。なおここでいう「高湿度」とは、75%以上、好ましくは85%以上の湿度をいう。
上記のようにして製造される麹は、スフィンゴ脂質(特にセレブロシド)を豊富に含むものである。具体的には、本発明の方法により製造されるスフィンゴ脂質富化麹は、乾燥重量1g当たり少なくとも80μg以上、好ましくは136μg以上のスフィンゴ脂質を含むことができる。なお、麹中のスフィンゴ脂質の量は、薄層クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィーなどを使用することによって測定することができる(実施例2参照)。
製麹において、精米(麦)歩合は直ちに麹菌の繁殖に仕方に影響し、精米(麦)歩合が高いと灰分やタンパク質、ビタミンが多く、菌の繁殖が盛んになることが知られているが(非特許文献7)、本発明者らが各種液体培地における麹菌のスフィンゴ脂質含量を測定したところ、酵母での報告と同様に、培地成分の違いによって菌体量あたりの含量が異なるという結果が得られており(比較例1)、これはスフィンゴ脂質の増加が単に菌体量の増加によるものではないことを示唆している。本発明の方法による麹中のスフィンゴ脂質の増加は、菌体量の増加と菌体量当たりのスフィンゴ脂質の増加により相乗的に高められた結果であると考えられる。
このように、本発明の方法は、煩雑な条件でストレスをかける工程などを必要とせず、製造されるスフィンゴ脂質富化麹も、有機溶媒を用いた抽出や、濃縮をすることなく、そのまま飲食品として提供することができるため、労力とコストを低減でき、なおかつ安全性が高いといった利点を有する。
したがって、本発明は、本発明に係るスフィンゴ脂質富化麹を含有する飲食品を包含する。
本発明に係る飲食品は、飲食品原料の一部として用いたり、或いは飲食品の製造工程又は製造後に添加又は配合することにより得ることができる。本発明に係る飲食品は、健康食品、機能性食品、特定保健用食品、栄養補助食品などとして提供することもできる。
本発明に係る飲食品の形態は特に制限されず、例えばこれに制限されるものではないが、ヨーグルト、ドリンクヨーグルト、ジュース、牛乳、豆乳、酒類(アルコール性飲料)、コーヒー、紅茶、煎茶、ウーロン茶、スポーツ飲料等の各種飲料や、クッキー、パン、ケーキ、煎餅などの焼き菓子、羊羹などの和菓子、プリン、ゼリー、アイスクリーム類などの冷菓、チューインガム、キャンディ等の菓子類や、クラッカー、チップス等のスナック類や、うどん、そば等の麺類や、かまぼこ、ハム、魚肉ソーセージ等の魚肉練り製品や、みそ、しょう油、ドレッシング、マヨネーズ、甘味料等の調味類や、豆腐、こんにゃく、その他佃煮、サラダ、スープ等の各種総菜などを例示することができる。
また、飲食品中の有効成分としてのスフィンゴ脂質富化麹の摂取量は、通常、4.4〜8.8g/日、好ましくは7.5〜15.0g/日程度とすることができる。
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
[実施例1] 米麹セレブロシド標準品の精製と構造解析
米麹セレブロシド標準品の調製法を以下に示した。A.オリゼ(A.oryzae)を使用して製麹した米麹5.4kgを粉砕し、5倍量のクロロホルム−メタノール(2:1)で2回抽出、濾過して得られた抽出液を濃縮、乾固後、0.2M KOH−メタノール溶液にて37℃で2時間振盪し、グリセロ脂質を分解しアルカリ安定脂質を得た。中和後、濃縮、乾固し、クロロホルム−メタノール−0.8%NaCl(8:4:3)に再溶解した。振盪混合し、遠心分離後、下層を濃縮した。
これをケイ酸カラムクロマトグラフィーに供し、クロロホルム−メタノールを用いて遊離脂肪酸等を除いた。再度ケイ酸カラムクロマトグラフィーに供した後、セレブロシド画分として白色の固形油脂状物407.9mgを得た。その後、わずかに混在する遊離脂肪酸を除去するため、さらにHPLC−示差屈折検出器((株)島津製作所製)を用いて精製を行なった。カラムはYMC Pack ODS−A;20×250mm、カラムオーブンは40℃、移動相にはメタノールを用いて、アイソクラティック溶出を行い、流速6ml/minとした。得られた精製品は、薄層クロマトに供したところ単一スポットとなり、また以下に示すように主要分子がグルコシルセラミドと同定されたため、これを標準
品としてセレブロシドの定量を行った。
主要分子種の構造解析を行った。すなわち、HPLC−示差屈折検出器((株)島津製作所製)を用いて、前述の条件で、精製セレブロシドに含まれる主要分子を分取した。得られた主要3分子(保持時間28.7分、32.1分、37.4分)について、構造解析を実施した。
保持時間28.7分の分子をメタノールに溶解し、HRESI−MS(+)を測定した。この結果、m/z 776.57456に(M+Na)イオンが観測され、分子式はC4379NO(C4379NONa cald 776.56525(Δ+4.57mmu))と決定した。
次にこの分子を重ピリジン(CN)に溶解し、核磁気共鳴(NMR)解析を行った。H及び13C NMRスペクトルの特徴からこの分子がセレブロシドであると同定された。まず糖部分のH、13C化学シフト値及びJHH値から、構成糖はグルコースであり、これがβ−結合(J1”,2”=7.8Hz)で長鎖塩基と結合していること(=β−グルコシルセラミド)が判明した。次にH−H COSY、HMQC、HMBCスペクトルを測定し、脂肪酸及び長鎖塩基部分の構造について解析を行った。
脂肪酸についてはH−H COSYスペクトルにおいてH−2’(δ5.10)−H−3’(δ6.10、J3’,4’=15.7Hz)−H−4’(δ6.16)というvicinal spin結合が観測されること、またH NMRで末端メチルはδ0.85にtripletとして観測されることから、直鎖の2−ヒドロキシ、3−トランス脂肪酸であることが明らかとなった。次に脂肪酸の炭素数を明らかにするために、この分子をメタノール性0.9N HClを用いて100℃、18時間還流することで分解(メタノリシス)し、脂肪酸メチルエステルとした。ヘキサン抽出で脂肪酸メチルエステルを精製後、これをトリメチルシリル(TMS)誘導体化し、GC/MS解析を実施した。この結果、m/z 369に(M−15)のピークが観測され、この分子を構成する脂肪酸炭素数はC18と決定した。
長鎖塩基についてはH−H COSYスペクトルにおいてH−1(δ 4.23、δ4.69)−H−2(δ4.79)−H−3(δ 4.74)−H−4(δ5.99、J4,5=15.8Hz)−H−5(δ5.92)−H−6(δ2.14)−H−7(δ 2.14)−H−8(δ5.24)というvicinal spin networkが観測されること及びHMBCスペクトルで9−CH(δ1.60)からC−8(δ123.3)、C−9(δ13.5)にH−13C遠隔スピン結合が観測されることから、9−メチル−4トランス、8−トランス−スフィンガジエニン構造を有していることが明らかとなった。またH NMRで末端メチルはδ0.85にtripletとして観測されるため、アルキル鎖部分は直鎖であることも明らかであった。この時点で既に脂肪酸の炭素数は明らかとなっているため、長鎖塩基を構成する炭素数は分子式から糖(C6)及び脂肪酸(C18)の炭素数を引いたC18であると決定された。その結果、この分子の構造は図1に示すように18h:1−9Me d18:24t,8t−Glcであることが一義的に決定された。また、この構造は真菌類に特徴的な構造であった(上記非特許文献2)。
保持時間32.1分の分子をメタノールに溶解し、HRESI−MS(+)を測定した。この結果、m/z 778.58403に(M+Na)イオンが観測され、分子式はC4381NO(C4381NONa cald 778.58090(Δ+3.13mmu))と決定した。
次にこの分子を重ピリジン(CN)に溶解し、核磁気共鳴(NMR)解析を行った。H及び13C NMRスペクトルは18h:1−9Me d18:24t,8t−Glc(保持時間28.7分)によく類似していた。糖部分のH、13C化学シフト値及びJHH値はほぼ同一であることから、構成糖はグルコースであり、これがβ−結合(J1”,2”=7.8Hz)で長鎖塩基と結合していること(=β−グルコシルセラミド)が判明した。次にH−H COSY、HMQC、HMBCスペクトルを測定し、脂肪酸及び長鎖塩基部分の構造について解析を行った。
脂肪酸についてはH−H COSYスペクトルにおいてH−2’(δ4.56)−H−3’(δ2.12)というvicinal spin結合が観測されたこと、またH NMRで末端メチルがδ0.85にtripletとして観測されることから、直鎖の2−ヒドロキシ脂肪酸であることが明らかとなった。次に脂肪酸の炭素数を明らかにするためにメタノリシスを行い、脂肪酸メチルエステルとした。ヘキサン抽出で脂肪酸メチルエステルを精製後、これをトリメチルシリル(TMS)誘導体化し、GC/MS解析を
実施した。この結果、m/z 371に(M−15)のピークが観測され、この分子を構成する脂肪酸炭素数はC18と決定した(=2−ヒドロキシステアリン酸)。
長鎖塩基についてはH−H COSYスペクトル及びHMBCスペクトルにおいて18h:1−9Me d18:24t,8t−Glcとまったく同じ相関が認められることから、この分子の長鎖塩基も9−メチル−4トランス、8−トランス−スフィンガジエニン構造を有していることが明らかとなった。またH NMRで末端メチルはδ0.85にtripletとして観測されるため、アルキル鎖部分も直鎖であることも明らかであった。既に脂肪酸の炭素数は明らかとなっているため、長鎖塩基を構成する炭素数は分子式から糖(C6)及び脂肪酸(C18)の炭素数を引いたC18あると決定された。その結果、この分子の構造は図1に示すように18h:0−9Me d18:24t,8t−Glcであることが一義的に決定された。また、この構造は真菌類に特徴的な構造であった(上記非特許文献2)。
保持時間37.4分の分子をメタノールに溶解し、HRESI−MS(+)を測定した。この結果、m/z792.60158に(M+Na)イオンが観測され、F5の分子式はC4483NO(C4483NONa cald 792.59655(Δ+0.94mmu))と決定した。
次にこの分子を重ピリジン(CN)に溶解し、核磁気共鳴(NMR解析)を行った。H及び13C NMRスペクトルは18h:0−9Me d18:24t,8t−Glc(保持時間32.1分)によく類似していた。糖部分のH、13C化学シフト値及びJHH値についても18h:0−9Me d18:24t,8t−Glcと同一であることから、構成糖もグルコースであり、これがβ−結合(J1”,2”=7.8Hz)で長鎖塩基と結合していること(=β−グルコシルセラミド)が判明した。次にH−H COSY、HMQC、HMBCスペクトルを測定し、脂肪酸及び長鎖塩基部分の構造について解析を行った。
脂肪酸についてはH−H COSYスペクトルにおいて18h:0−9Me d18:24t,8t−Glcと同様にH−2’(δ4.56)−H−3’(δ2.12)というvicinal spin結合が観測されること、またH NMRで末端メチルがδ0.85にtripletとして観測されることから、直鎖の2−ヒドロキシ脂肪酸であることが明らかとなった。次に脂肪酸の炭素数を明らかにするために、メタノリシスを行い、脂肪酸メチルエステルとした。精製後トリメチルシリル(TMS)誘導体化し、GC/MS解析を実施した。この結果、m/z 399に(M−15)のピークが観測され、F5を構成する脂肪酸炭素数はC20と決定した(=2−ヒドロキシアラキジン酸)。
長鎖塩基についてはH−H COSYスペクトルでH−1(δ4.23、δ4.69)−H−2(δ4.79)−H−3(δ4.74)−H−4(δ5.99、J4,5=15.8Hz)−H−5(δ5.92)−H−6(δ2.16)−H−7(δ2.16)−H−8(δ5.46)−H−9(δ5.46)というvicinal spin networkが観測されること及び18h:0−9Me d18:24t,8t−Glcで観測された9−CHの信号が観測されないことから、4トランス、8−トランス−スフィンガジエニン構造を有していることが明らかとなった。またH NMRで末端メチルはδ0.85にtripletとして観測されるため、アルキル鎖部分は直鎖であることも明らかであった。既に脂肪酸炭素数は明らかとなっているため、長鎖塩基を構成する炭素数は分子式から糖(C6)及び脂肪酸(C20)の炭素数を引いたC18であると決定され、この結果、この分子の構造は図1に示すように20h:0 d18:24t,8t−Glcであることが一義的に決定された。また、この構造は真菌類及び植物に特徴的な構造であり(上記非特許文献2)、米由来のセレブロシドも含まれていると考えられる。
続いて、セレブロシドの精製品をLC/MS(LCMS−2010EV島津製作所)によって分析し、主要3分子の量比を調べた。イオン化モードはESI(−)、カラムはCadenza CD−C18 150×2mm、移動相はTHF/メタノール(1/9 v/v)を用いてアイソクラティック溶出を行い、流速は0.2ml/mlとした。その結果、それぞれの分子種の量比は、以下のとおりであることが示唆された。このことから、真菌に特徴的な分子である18h:0−9Me d18:24t,8t−Glcが、米麹中のセレブロシドの大半を占めることが示された。
Figure 2010154788
[実施例2] 米麹、大麦麹中のセレブロシド含量の測定法
下記実施例3〜6におけるセレブロシドの定量は、各検体から有機溶剤を用いて抽出後、実施例1で得られたセレブロシドを標準品として用い、薄層クロマトグラフィー(TLC)又は高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって行った。TLCとHPLCのどちらの測定法においても、定量値がほぼ一致していることを確認した(図2)。
また、麹からのセレブロシドの抽出は以下に示すように単回、又は繰り返し抽出により行った。単回抽出は、より簡便な方法によって、各実験区におけるセレブロシド含量の比較を行うために実施し、繰り返し抽出は実際に麹に含まれるセレブロシド含量を定量する目的で実施した。各抽出法で得られる定量値について、比較データの一例を図2に示した。検討の結果、麹中のセレブロシド含量によって、単回抽出の抽出効率は変動し、繰り返し抽出で得られる米麹中のセレブロシド含量は、単回抽出で得られる定量値の約1.5〜2倍程度に相当する事が示された。
単回抽出によるセレブロシド量の測定法を以下に示す。麹を凍結乾燥後、粉砕物1gに対してクロロホルム−メタノール溶液(2:1)3mlを添加し、40℃で30分間超音波処理を行った。これを遠心分離して得られた上清1mlに対し、0.8%NaCl溶液を250μl添加後、振盪混合した。これを遠心分離して得られた下層を回収し、一定量を測定に用いた。
繰り返し抽出による総セレブロシド含量の測定法を以下に示す。米麹を凍結乾燥後、粉砕物1gに対し、クロロホルム−メタノール溶液(2:1)3mlを添加し、40℃で30分間超音波処理を行い、遠心分離後に上清を得た。計3回の抽出を行った後、上清全量に1/4量の0.8%NaCl溶液を添加し、振盪混合した。これを遠心分離して得られた下層を回収した。上清にクロロホルムを添加して、さらに2回の抽出を行った。下層全量を一定量に合わせ測定を行い、乾燥麹1gあたりに含まれる総セレブロシド量を算出した。
TLC−デンシトメトリー法によるセレブロシド定量法を以下に示す。抽出した試料をケイ酸薄層クロマトグラフィー(メルク社製、商品名:HPTLC silica−60 F254)にかけた。クロロホルム−メタノール(95:15)で展開後、オルシノール硫酸試薬(オルシノール:0.2%w/v、硫酸:11.4%v/v)を噴霧し、加熱後に出現する赤紫色のセレブロシドのスポットについて、デンシトメトリーを用いて定量を行った。
HPLC−コロナCAD検出器によるセレブロシド定量法を以下に示す。定量法は、HPLC−蒸発光散乱検出器法(J.Oleo Sci.,Vol.53,No.3,p.127−133,2004)を基に、より検出感度を上げるために検出部分を改良して行った。すなわち移動相は、A液:クロロホルム、B液:95%メタノール、を用いて、グラジエント溶出を行った(表2)。カラムは、シリカカラム:Inertsil SIL−100A(4.6×150mm、5μm)を用い、カラムオーブン:40℃、流速:1ml/minとした。また、検出器については蒸発光散乱検出器よりも感度、定量範囲、再現性が優れているとされるコロナCAD検出器を用いた。コロナCAD検出器は、ガス:窒素ガス、操作時ガス圧:35psiとした。
Figure 2010154788
[実施例3] 各種麹菌のセレブロシド生産量
蒸米および蒸大麦に対し、各種市販種麹10株及び菌株保存機関より入手した各種麹菌55株(A.oryzae、A.sojae)を0.1%の割合で接種し、品温35℃、相対湿度80%以上とし、46時間製麹した。得られた麹を凍結乾燥し、粉砕後に乾燥麹中のセレブロシド量を実施例2の単回抽出及びTLC分析によって測定した。
図3に、大麦麹及び米麹に含まれる各種麹菌(A.oryzae、A.sojae)のセレブロシド生産量を示した。原料が米の場合においても、大麦の場合においても、セレブロシド含量が高い株について、菌株名と入手元の菌株保存機関における識別番号を記した。A.oryzaeにおいてはNBRC4214、JCM2228、ATCC36261を、A.sojaeとしてはJCM2226が、米、大麦、いずれの培地においてもセレブロシド生産量が特に高いことが示された。また、全ての菌株において原料を大麦にした場合の方が、米の場合より生産量が高く(1.1倍〜4倍程度)なった。
[実施例4] 米麹のラボスケールにおける精米歩合の検討
米麹について、ラボスケール製麹時の精米歩合とスフィンゴ脂質生産量の関係を調べた。すなわち、精米歩合が40、50、70、90%の丸米を用いて水分量33%の蒸米を調製後、市販の粉末型麹菌(A.oryzae:秋田今野社「強力酒母仕込用」種麹)を0.1%の割合で接種し、品温35℃、相対湿度85%以上として、32時間後に品温を40℃として46時間製麹した。調製した米麹及び原料米を用い、実施例2の単回抽出及びTLC分析によって総セレブロシド含量を測定した。結果を図4に示したが、精米歩合が高いほど麹重量あたりのセレブロシド量は高くなる傾向がみられ、精米歩合90%の時に最も高くなった。
さらに精米歩合が80、90%の丸米を用いて48時間、72時間の製麹も行い、それぞれ実施例2の繰り返し抽出及びHPLC分析によってセレブロシド含量を測定した。結果を図5に示したが、精米歩合90%で72時間培養したものでは、セレブロシド含量が最も高くなり、336.5μg/gにも達した。
[実施例5] 大麦麹のラボスケールにおける精麦歩合の検討
大麦麹について、ラボスケール製麹時の精麦歩合とスフィンゴ脂質生産量の関係を調べた。すなわち、精麦歩合が50、60、70、80、90%の大麦を用いて水分量33%の蒸麦を調製後、市販の粉末型麹菌(A.oryzae:秋田今野社「強力酒母仕込用」種麹)を0.1%の割合で接種し、品温35℃、相対湿度85%以上として、32時間後に品温を40℃として48時間製麹した。調製した大麦麹を用い、実施例2の単回抽出及びTLCによって総セレブロシド含量を測定した。結果を図6に示したが、精麦歩合70%までは精麦歩合が高い方がセレブロシド含量も高くなり、逆に80%、90%では含量が低下した。このように大麦麹においては、精麦歩合が高すぎると逆にセレブロシド含量が低下する事が示された。大麦麹においては、精麦歩合が高すぎると、菌糸が穀粒内への入り込めず、菌糸が生育しにくくなると考えられる。
[実施例6] 米麹の実製造スケールにおける精米歩合の検討
米麹について、実製造スケール製麹時の精米歩合とスフィンゴ脂質生産量の関係を調べた。すなわち、精米歩合が60、70、80、90%の丸米および90%の破米を用いて水分量33〜35%の蒸米を調製後、市販の粉末型麹菌(ハイ・G 樋口松の助商店)を0.1%の割合で接種し、3〜4tスケールの無通風型多段式製麹機を用いて常法に従って製麹を行った。すなわち、初発品温35℃、相対湿度85%以上として床培養を行った。およそ1日後に棚に盛り、相対湿度75%前後、品温を35〜42℃として48時間製麹した。また、別の実製造試験として、精米歩合が80%、90%の丸米を用いて同様に蒸米を調製後、粉末型麹菌(A. oryzae:NBRC4214)を0.1%の割合で接種し、相対湿度を床、棚培養ともに95%以上とした以外は同様の条件にて、無通風型多段式製麹機を用いて72時間製麹した。調製した米麹から、総セレブロシド含量を、実施例2の繰り返し抽出及びHPLCによって測定した。結果を図7に示したが、48時間製麹において、丸米では精米歩合が高くなるほど麹重量あたりのセレブロシド量が高くなる傾向がみられ、精米歩合90%の時に最も高く、約80μg/gとなった。また、破米については、精米歩合90%であってもセレブロシド含量が最も低かった。
さらに、NBRC4214株による72時間製麹においても、セレブロシド含量は精米歩合80%より90%の方が高く、約160μg/gとなった。この事から、実製造スケールにおいても、丸米を使用した場合はラボスケールと同様に、精米歩合が高いほどセレブロシド含量が高くなる事が示された。また、盛り以降の湿度を高く維持すると、セレブロシド含量はより高まる上に、精米歩合の最適化による効果がより顕著に現れることが確認された。
[比較例1]
各種液体培地における菌体あたりのセレブロシド量培地条件の違いが菌体あたりのセレブロシド量に及ぼす影響を評価するために、CZAPEK DOX培地(2%Glucose、0.3%NaNO、0.2%KCl、0.1%KHPO、0.05%MgSO・7HO)、デキストリン・ペプトン培地(2%デキストリン、1%ペプトン、0.5%KHPO、0.1%NaNO、0.05%MgSO・7HO)、麦芽エキス培地(2%モルトエキス)及びポテトデキストロース培地(2.4%ポテトデキストロース)に対し、胞子数が105/mlとなるように粉末型麹菌(A.oryzae:NBRC4214)を接種し、30℃、120rpmで72hr培養した。培養後、菌体を回収・洗浄後、凍結乾燥し、実施例2の単回抽出及びTLCによって乾燥菌体あたりのセレブロシド量を求めた。
各培地における乾燥菌体当たりのセレブロシド量を図8に示す。図8から分かるとおり、酵母における報告と同様に、麹菌においても培養条件の違いによって菌体量あたりのスフィンゴ脂質量は変動することがわかった。これは、単純に菌体量が増えればスフィンゴ脂質も増大するというものではないことを示唆している。
図1は、米麹由来のグルコシルセラミド主要分子種の構造を示す。 図2は、セレブロシドの測定における薄層クロマトグラフィー(TLC)と高速液体クロマトグラフィー(HPLC)との比較を示す。 図3は、各種麹菌のセレブロシド生産量を示す。 図4は、製麹に使用した精米歩合と製造された米麹中のセレブロシド量との関係を示す。 図5は、製麹時間48時間及び72時間における米麹中のセレブロシド量の比較を示す。 図6は、製麹に使用した精麦歩合と製造された大麦麹中のセレブロシド量との関係を示す。 図7は、製麹時間48時間及び72時間における米麹中のセレブロシド量の比較と、製麹原料として丸米及び破米を使用した際の麹中のセレブロシド量の比較を示す。 図8は、各種液体培地における乾燥菌体当たりのセレブロシド量を示す。

Claims (15)

  1. 蒸きょうした製麹原料に麹菌を植菌して培養を行う製麹において、精米歩合又は精麦歩合が40%以上である米又は麦類を製麹原料として使用することを特徴とする、スフィンゴ脂質富化麹の製造方法。
  2. 米は丸米である請求項1記載の方法。
  3. 麦類は大麦である請求項1記載の方法。
  4. 精米歩合は40〜95%の範囲であることを特徴とする請求項1記載の方法。
  5. 精米歩合は70〜95%の範囲であることを特徴とする請求項4記載の方法。
  6. 精麦歩合は50〜90%の範囲であることを特徴とする請求項1記載の方法。
  7. 精麦歩合は60〜80%の範囲であることを特徴とする請求項6記載の方法。
  8. 麹菌はアスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)又はアスペルギルス・ソーエ(Aspergillus sojae)であることを特徴とする請求項1記載の方法。
  9. 蒸きょうした製麹原料の水分量が30〜36重量%であることを特徴とする請求項1記載の方法。
  10. 製麹時間は48時間以上であることを特徴とする請求項1記載の方法。
  11. 盛り以降の工程を75%以上の湿度条件にて行うことを特徴とする請求項10記載の方法。
  12. スフィンゴ脂質はセレブロシドであることを特徴とする請求項1記載の方法。
  13. 請求項1〜12のいずれか1項記載の方法で製造されたスフィンゴ脂質富化麹。
  14. 請求項13記載のスフィンゴ脂質富化麹を含有する飲食品。
  15. 蒸きょうした製麹原料に麹菌を植菌して培養を行う製麹において、精米歩合又は精麦歩合が40%以上である米又は麦類を製麹原料として使用することを特徴とする、麹中のスフィンゴ脂質を富化する方法。
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