JP2010138471A - 形状記憶合金の表面処理方法 - Google Patents

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遥 廣田
Yukiko Matsumura
有希子 松村
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将一 菊池
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Abstract

【課題】 形状記憶効果や生体適合性を損なうことなく確実に耐食性を向上することができ、金属アレルギーの原因となるNiイオンの溶出を抑制することが可能な形状記憶合金の表面処理方法を提供する。
【解決手段】 Niを含む形状記憶合金に対し、平均粒径30μm〜80μmの微粒子を投射していわゆる微粒子ピーニングを行い、表面改質を行う。形状記憶合金は、例えばNi−Ti系形状記憶合金である。投射する微粒子は、ビッカース硬さ(HV)が300以上であることが好ましい。
【選択図】 図1

Description

本発明は、Niを含む形状記憶合金の表面処理方法に関するものであり、特に、Niの溶出を効果的に抑制し得る新規な表面処理方法に関する。
Ni−Ti系の形状記憶合金は、形状記憶合金の中でも優れた機械的特性を有することに加え、Ti系生体材料に匹敵する耐食性を有することから、医療分野における利用が期待されている。例えば、Ni−Ti系の形状記憶合金の形状記憶特性、超弾性等の特性を利用して、歯列矯正用ワイヤや骨折治療用金属内副子、人工関節等の髄腔内固定等、生体適合性材料への応用が検討されている。
ただし、Niを含有する合金を生体適合性材料として使用する場合、合金の主成分であるNiの溶出が問題となり、前記Ni−Ti系の形状記憶合金においても、Niの溶出が問題視されている。Niイオンの高いアレルギー感作率によって、アレルギー反応を誘起するおそれがあるからである。さらに、Ni−Ti系の形状記憶合金は、比較的軟質の材料であることから、耐摩耗性を必要とする医療用インプラント(前述の歯列矯正ワイヤ等)への適用が難しいという問題もある。
このような状況から、表面改質によるNi−Ti系形状記憶合金の耐食性向上について様々な研究が行われている。前述の問題を解決するためには、材料の表面に特定の機能を付与する表面改質処理が有効であると考えられる。
例えば、非特許文献1には、Ni−Ti系形状記憶合金を高温酸化処理することにより高耐食性を付与し得ることが開示されている。非特許文献1記載の発明では、Ni−Ti合金に対して、窒素80%、酸素20%の雰囲気下で高温酸化(Thermal Oxidation:TO)処理を施し、合金表面に酸化チタン(TiO)からなるNiフリー層を形成することで、材料表面の耐食性の向上を図り、Niイオンの溶出を抑制するようにしている。
また、特許文献1には、ショットピーニングによる形状記憶合金の表面処理方法が開示されている。いわゆるショットピーニング処理を行うことにより、材料表面において転位密度及びひずみ増加、結晶構造の変化等が生ずることが知られている。特許文献1記載の発明では、形状記憶合金の試料をショットピーニング処理することにより、その表面層の構造をアモルファス化している。これにより、試料の重要な特性(形状記憶ビヘービア及び生体適合性)に実質的な影響を与えることなく、試料表面を高硬度化し、さらには摩擦係数の低減を図っている。
材料,Vol.55,No.10,(2006),pp.965-970「高温酸化処理を施したNi−Ti形状記憶合金の表面特性と耐食性の評価」 特表平9−509698号公報
しかしながら、非特許文献1に記載される高温酸化処理では、Ni−Ti合金の表面に酸化皮膜を形成することで耐食性は向上するが、高温下での加熱により合金の有する形状記憶効果及び超弾性の消失が懸念される。また、非特許文献1に記載される高温酸化処理では、処理に長時間を要するとともに、改質層である酸化皮膜の厚さが薄いことから、破損の危険性も大きく、酸化皮膜が破損した場合、不用意にNiが溶出する可能性もある。したがって、熱を加えない物理的処理により短時間で確実にNiの溶出を抑制する手法の開発が求められる。
一方、特許文献1に記載されるショットピーニングによる表面処理では、形状記憶効果や生体適合性を損なうことなく表面を高硬度化することが可能であるが、高硬度化や耐摩耗性の向上に主眼が置かれており、Niの溶出については全く考慮されていない。実際、本発明者らは、特許文献1記載の表面処理ではNiの溶出抑制が不十分であることを確認している。さらに、特許文献1記載の発明では、ショットピーニング処理を直径100μm〜300μmのガラスピーニング媒体を用いて行っているが、表面に比較的大きな凹凸が形成されるため、ステントや歯列矯正用ワイヤ等の小型インプラントへの適用が困難であるという問題もある。
本発明は、このような従来技術の有する欠点を解消することを目的に提案されたものである。すなわち、本発明は、形状記憶効果や生体適合性を損なうことなく確実に耐食性を向上することができ、生体環境下で金属アレルギーの原因となるNiイオンの溶出を抑制することが可能な形状記憶合金の表面処理方法を提供することを目的とする。また、本発明は、被処理材表面に形成される凹凸を小さくすることができ、材料の形状精度の劣化を抑制しながら効果的な表面改質を施すことが可能で、小型インプラント等へも適用可能な形状記憶合金の表面処理方法を提供することを目的とする。
前述の目的を達成するために、本発明に係る形状記憶合金の表面処理方法は、Niを含む形状記憶合金に対して、平均粒径30μm〜80μmの微粒子を投射し、表面改質を行うことを特徴とする。
本発明の表面処理方法では、特許文献1記載の発明に比べて平均粒径の小さな微粒子をピーニング媒体として用いていることが大きな特徴事項である。本発明の表面処理方法は、基本的には、特許文献1記載の発明と同様、物理的処理(ピーニング)によって表面改質を行うものであり、非特許文献1記載の発明のように熱を加えていないので、表面処理後に形状記憶効果や生体適合性等が損なわれることはない。
ここで、本発明者らがさらに検討を加えたところ、使用するピーニング媒体の平均粒径が表面改質状態に大きな影響を与えており、平均粒径の小さな微粒子をピーニング媒体として用いることで、高硬度化により耐摩耗性が向上するのみならず、耐食性も向上し、Niの溶出が効果的に抑えられることを見出すに至った。その理由について、詳細なメカニズムは不明であるが、平均粒径の大きなピーニング媒体を用いた場合には達成し得なかった高度で均一な表面改質状態が得られ、例えば特許文献1記載の発明に比べて著しく高い耐食性を示す非晶質組織が形成されたものと推測している。実際、本発明の表面処理方法を行うことで形成される非晶質組織は、高温酸化により形成される酸化皮膜に匹敵する高い耐食性を有し、粒径100μm〜300μm程度のピーニング媒体を用いてショットピーニングを行った場合に比べて、Niイオンの溶出が大きく抑制されることが実験により確かめられている。
また、本発明では、平均粒径の小さな微粒子を投射するようにしているので、表面に形成される凹凸が小さく抑えられ、材料の形状精度の劣化が抑制される。小型インプラント等への適用も可能である。
本発明の表面処理方法によれば、形状記憶効果や生体適合性等を損なうことなく短時間で確実に形状記憶合金の耐食性を向上することができ、生体環境下で金属アレルギーの原因となるNiイオンの溶出を抑制することが可能である。また、本発明によれば、形状記憶合金表面に形成される凹凸を小さくすることができ、形状精度の劣化を抑制しながら効果的な表面改質を施すことが可能で、小型インプラント等へも適用可能な表面処理方法を提供することが可能である。
以下、本発明を適用した形状記憶合金の表面処理方法について、詳細に説明する。
先ず、本発明の表面処理方法が対象とする被処理材は、形状記憶合金である。形状記憶合金において、形状記憶効果や超弾性等の特性を損なわずに表面処理を行うというのが大きな目的だからである。
また、形状記憶合金には、Ni−Ti系合金、Ag−Cd系合金、Cu−Sn系合金、Cu−Zn系合金、Co−Ni−Al系合金、Fe−Pt系合金、Mn−Cu系合金、Fe−Mn−Si系合金等が知られているが、もう一つの目的(Niの溶出の抑制)を考えると、Niを含む形状記憶合金が処理対象ということになる。これらの中で生体材料として利用可能な合金は、Ni−Ti系合金に限られることから、Ni−Ti系形状記憶合金が処理対象として最も適切である。なお、Ni−Ti系形状記憶合金には、Ni−Ti合金の他、Ni−Ti−X合金(X=Cu,Zr,Hf,Pd,Au,Pt)等も含まれるものとする。
本発明では、前記Niを含む形状記憶合金を被処理材として、その表面に平均粒径30μm〜80μmの微粒子を投射し、表面改質を行う(以下、これを微粒子ピーニングと称する)。微粒子ピーニング(Fine Particle Peening:FPP)は、例えば図1に示すように、ノズル1から微粒子2を被処理材3の表面に照射する処理方法であり、これにより形状記憶合金(被処理材3)の表面形状や結晶構造等が変化し、表面改質が行われる。
前記微粒子ピーニングにおいて、ピーニング媒体として使用する微粒子は、その粒径が重要であり、平均粒径が30μm〜80μmの微粒子を用いる必要がある。微粒子の平均粒径が80μmを越えると、表面改質が不十分になるおそれがあり、Niの溶出を十分に抑制することができなくなるおそれがある。また、表面に形成される凹凸が大きくなって形状精度が劣化したり、小型インプラントへの適用が困難になる等の問題が生ずるおそれもある。逆に、微粒子の平均粒径が30μm未満であると、十分な物理的作用を加えることが難しくなり、表面改質が不十分になるおそれがある。
用いる微粒子の種類は任意であり、改質効果に影響を及ぼすパラメータ(粒径、硬さ、形状等)や寿命等を考慮して選択すればよい。ただし、十分な表面改質効果を得るためには、ある程度の硬さが必要であり、処理対象とする形状記憶合金よりも高い硬度を有する微粒子を用いることが好ましい。具体的には、ビッカース硬さ(HV)が300以上微粒子を用いることが好ましい。
ピーニング媒体としては、セラミクス系粒子やガラス系粒子、金属系粒子等が知られており、例えばセラミクス系粒子は、酸化ジルコニウム(ジルコニア)や酸化アルミニウム(アルミナ)等の酸化物で構成されており、高硬度であるが靭性が低く、粒子の寿命が短いという特徴を有する。ただし、形状に難があり、角を持つため加工面を傷つけ、疲労強度を低下させる傾向にある。ガラス系粒子は、ビッカース硬さ600程度の硬さを有し、球状であり、加工面に化学的な影響を及ぼさないこと、低圧力のピーニングで使用可能であること等の利点を有するが、寿命が短く、粒子が破砕し残留するおそれがある等の短所も有する。金属系粒子は、亜鉛、銅、チタン、アルミニウム等、様々な種類のものがあるが、主に鋳鋼が汎用されており、熱処理により適切な組織、硬さに調整可能であること、安価で破砕し難く経済的であること等の利点を有している。
前述の粒子(ピーニング媒体)は、いずれも本発明の微粒子ピーニングにおいて使用可能であるが、これらの中では、球状で高靭性を有し、高寿命な金属系粒子を用いることが好ましい。金属系粒子としては、ビッカース硬さが400HV〜900HVである鉄鋼系の粒子が適切である。なお、鉄鋼系粒子のビッカース硬さは、熱処理による調整が可能である。鉄鋼系材料としては、ステンレス鋼、高炭素鋼(C<5%)、高炭素Fe−Cr(C<6%、Cr<6%)、低炭素Fe−Si(Si<10%)、高速度工具鋼等を挙げることができる。
さらに、前述の微粒子として、アモルファス粒子や超硬粒子等を使用することも可能である。アモルファス粒子は、アモルファス合金製の投射材であり、鉄鋼系の8倍以上の長寿命を有する。ビッカース硬さは900HV〜950HV程度である。超硬粒子は、炭化タングステンとコバルトの焼結体により形成され、ビッカース硬さは1400HV〜1800HV程度である。
前述の微粒子は、例えば圧縮空気の引圧を利用して被処理材(形状記憶合金)に投射され、粒子衝突により形状記憶合金の表面に塑性変形を起こし、表面改質が行われる。使用する微粒子の種類、投射時間、投射圧力等の調整により、表面改質状態を調整することが可能であり、最適な表面改質状態が得られるようにこれらを設定すればよい。例えば、前記投射圧力(圧縮空気の圧力)は0.1MPa以上に設定すればよく、投射時間は、前記投射圧力にもよるが、1秒以下〜数十秒程度とすればよい。
Niを含む形状記憶合金に対して、前述の微粒子ピーニングを行うことにより、形状記憶合金表面に非晶質組織が形成され、その結果、形状記憶合金の耐食性を向上することができ、Niイオンの溶出を抑制することが可能である。また、前記微粒子ピーニングでは、形状記憶合金に熱を加える必要がないので、形状記憶合金が有する主要な特性(形状記憶効果、超弾性、生体適合性等)を損なうこともない。したがって、前述の微粒子ピーニングを施した形状記憶合金は、生体適合性材料として好適であり、歯列矯正用ワイヤ等の医療用インプラント、骨折治療用金属内副子、人工関節等、医療分野において様々な用途に使用することが可能である。
以下、本発明について、具体的な実験結果に基づいて説明する。
微粒子ピーニング
被処理材としてNi−Ti形状記憶合金(直径13mm、厚さ4mm)を用い、その表面に対して微粒子ピーニングを行った。前記Ni−Ti形状記憶合金の化学組成は表1に示す通りであり、大気加熱(900℃、30分間)により超弾性効果を付与した。
Figure 2010138471
前記Ni−Ti形状記憶合金を所定の形状に機械加工した後、一方の端面を耐水研磨紙(#320−#1200)とアルミナ粉末(平均粒径0.3μm)を用いて鏡面状に仕上げて試験片とし、この試験片に対して高速度工具鋼(SKH59)の微粒子を投射し、微粒子ピーニングを行った。微粒子ピーニングは、吸引式投射装置を用い、表2に示す条件で行った。
Figure 2010138471
走査電子顕微鏡による表面観察及び表面粗さ、質量変化の測定
微粒子ピーニング後のNi−Ti形状記憶合金の被処理面について、走査電子顕微鏡(SEM)により処理面の観察を行い、さらには、表面粗さRa及び質量変化の測定を行った。図2(a)に投射圧力0.2MPaとした場合の処理面の電子顕微鏡写真を、図2(b)に投射圧力0.6MPaとした場合の処理面の電子顕微鏡写真をそれぞれ示す。また、図3に、投射圧力0.2MPa及び0.6MPaとした場合における投射時間と表面粗さRaの関係を示す。図4は、投射圧力0.2MPa及び0.6MPaとした場合における投射時間と質量変化の関係を示すものである。
図2より、微粒子ピーニングを施すことによって、Ni−Ti形状記憶合金の表面に凹凸が形成されることがわかる。また、図3を見ると、投射圧力や投射時間によらず、Ni−Ti形状記憶合金の処理面の表面粗さRaは同程度の値となっているが、図4を見ると、投射圧力によって質量変化の様子が異なり、微粒子ピーニングによる変形形態が変化していることがわかる。例えば、投射圧力0.2MPaの場合には、Ni−Ti形状記憶合金の表面は弾塑性変形をしているものと考えられるが、投射圧力0.6MPaの場合には、削食を伴う塑性変形をしているものと考えられる。ただし、投射圧力0.6MPaの場合にも、質量変化はごく僅かである。
X線回折による結晶構造分析
次に、投射圧力0.2MPaで微粒子ピーニングした際のNi−Ti形状記憶合金表面の結晶構造の変化について、X線回折(XRD)により分析を行った。X線回折(XRD)は、X線の反射(回折)強度を測定し、そのプロファイルから対象物の物性を評価する方法であり、例えばピーク位置から格子定数や化合物の同定を行うことができ、ピーク幅から結晶化度の定量分析や格子ひずみの測定を行うことができる。結果を図5に示す。
図5において、○印で示すピークはオーステナイトに由来するピークであり、▽印はマルテンサイトに由来するピークである。未処理のNi−Ti形状記憶合金には、2θ=42°付近にオーステナイトのピークが見られるが、微粒子ピーニングによりオーステナイトのピーク高さが急激に減少する傾向が認められる。また、この傾向は、処理時間の増加に伴い顕著に認められ、10秒でほとんどピークが消失している。これは、処理時間の増加に伴い、被処理面の転位量が増加し、非晶質組織が形成されたことに起因するものと考えられる。
以上のことから、Ni−Ti形状記憶合金に対して微粒子ピーニングを施した場合、比較的短時間の施工で非晶質組織が形成されることが明らかとなった。なお、投射圧力を0.6MPaとした場合には、1秒で非晶質化された。
耐食性の評価(電気化学試験)
図6に示す分極試験装置を用いてアノード分極試験を行い、分極曲線を求めた。分極試験装置は、電気分解セル11、参照電極セル12、ポテンショスタット13、ポテンシャルスイーパー14、及びレコーダ15から構成されており、電気分解セル11と参照電極セル12の間には塩橋16が設置されている。電気分解セル11には、作用極(測定対象:ここではNi−Ti形状記憶合金の試験片)17及び対極18が挿入され、参照電極セル12には参照電極19が挿入されている。なお、ポテンショスタット13は作用極17−参照電極19間の電位を制御するものであり、ポテンシャルスイーパー14は時間とともに設定電位を変える装置である。また、本実験では、前記対極18にはPt、参照電極19には飽和カロメル電極を用いた。
試験に際しては、生体環境を模擬して体温程度に保持したリンガー液(37±1℃)を用いた。リンガー液の組成は表3に示す通りである。
Figure 2010138471
アノード分極試験は、自然電位保持時間を10分間とし、電位走査を20mV/分として、自然電位から測定を開始し、電流密度10mA/cmで終了とした。なお、この電気化学試験は、投射圧力0.6MPaで微粒子ピーニングを施したNi−Ti形状記憶合金の試験片(FPP)の他、微粒子ピーニング後に真空加熱処理(500℃、1時間)を施し非晶質組織を除去した試験片(F+VA)(比較例に相当)、及び微粒子ピーニング後に高温酸化(TO)を施し非晶質組織を除去しつつ酸化被膜を形成した試験片(F+TO)(比較例に相当)についても行った。高温酸化は、O4ml/分、N16ml/分の雰囲気下、500℃に加熱することにより行った。結果を図7に示す。
図7において、曲線が高電位・低電流密度側にあるほど高い耐食性を有することを示している。図7を見ると、非晶質組織を除去した試験片(F+VA)に比べて微粒子ピーニングを施した試験片(FPP)の方が高電位・低電流密度側にあり、不動態保持電流密度が低い。したがって、微粒子ピーニングにより耐食性が大きく改善されたことがわかる。また、このことから、微粒子ピーニングにより形成される非晶質組織は、Ni−Ti形状記憶合金の耐食性の向上に寄与することが明らかである。
一方、微粒子ピーニングを施した試験片(FPP)は、酸化被膜を形成した試験片(F+TO)と同程度の不動態保持電流密度を有している。このことから、微粒子ピーニングにより、高温酸化と同程度の耐食性をNi−Ti形状記憶合金に付与することが可能であることがわかる。
細胞培養試験
さらに、微粒子ピーニングを施したNi−Ti形状記憶合金について細胞培養試験を行い、生体適合性の評価を行った。使用した装置を図8に、細胞培養試験の手順を図9に示す。細胞培養試験に用いた装置は、図8に示すようなものであり、逆円錐形状の凹部を有し、底面に開口部21aを有する試験器具21を基板22上に設置された試験片23上にOリング24を介して載置し、固定することにより構成されている。前記構成の装置を用いれば、試験器具21の凹部内に培地25を注入した際に、試験片23の上面(表面)のみが培地25と接することになり、試験片23の表面のみを評価の対象にすることができる。
細胞培養試験に際しては、図9に示すように、試験片23や試験器具21等を洗浄した後、オートクレーブにて滅菌(132℃、20分間)し、図8に示すように試験器具21等を設置し、試験器具21の凹部内に播種細胞を含む培地を注入して細胞播種を行った。播種細胞は、マウス由来線維芽細胞L929(in vitro試験で一般に使用される細胞)である。また、初期細胞数は、10×10cells/lとした。細胞播種後、インキュベータにて安置し、3日間細胞培養を行った。
前記細胞培養後、試験片23の表面に付着した細胞数を測定し、さらに培地中のNiイオン量を測定してNiイオンの溶出状態を調べた。なお、試験片23の表面に付着した細胞数は、付着細胞をトリプシンで剥離させ、血球計算板で測定した。Niイオン量は、原子吸光光度計を用いて培地の吸光度を測定し、培地中の対象元素(Ni)の濃度を定量評価した。
同様の細胞培養試験を、投射圧力0.6MPaで微粒子ピーニングを施したNi−Ti形状記憶合金の試験片(FPP)の他、表面を鏡面加工しただけのNi−Ti形状記憶合金の試験片(P)、及び鏡面加工後に高温酸化(TO)を施した試験片(TO)についても行った。高温酸化は、O4ml/分、N16ml/分の雰囲気下、500℃に加熱することにより行った。結果を図10及び図11に示す。
図10は、各試験片への細胞付着数の相違を示すものである。この図10から明らかなように、微粒子ピーニングを行った試験片は、他の試験片と同程度の付着細胞数を示していることがわかる。一方、図11は、Niイオンの溶出量の測定結果を示すものである。微粒子ピーニングした試験片は、鏡面研磨しただけの試験片等と同程度の細胞増殖性を示したにもかかわらず、Niイオン溶出量は低い値を示している。これは、微粒子ピーニングを施すことにより、Ni−Ti形状記憶合金の耐食性が向上し、細胞と合金の間で生じるすきま腐食が抑制されたためと考えられる。
以上の結果から、Ni−Ti形状記憶合金に対して微粒子ピーニングを施すことにより、Niイオンの溶出量を抑制し、高温酸化処理材と同等の生体適合性を付与できることが明らかとなった。
微粒子の粒径に関する検討
ピーニングに使用する微粒子の粒径の及ぼす影響を調べるため、ピーニング媒体として使用する微粒子の粒径を変えて試験片を作製し、前述の細胞培養試験を行った。測定対象とした試験片は、平均粒径63μmの微粒子(高速度工具鋼SKH59、ビッカース硬さ876HV)を用いて微粒子ピーニングを施したNi−Ti形状記憶合金の試験片(FPP)、及び平均粒径100μm、ビッカース硬さ750HVのラウンドカットワイヤを用いてショットピーニングを施したNi−Ti形状記憶合金の試験片(SP)(比較例に相当)である。ピーニングの処理条件は、いずれも投射圧力0.6MPa、投射時間30秒、粒子供給量2g/秒とした。細胞付着数の測定結果を図12に、Niイオン溶出量の測定結果を図13にそれぞれ示す。
これら図面から明らかなように、平均粒径の大きな粒子を使用してショットピーニングを行った試験片(SP)に比べて、平均粒径の小さな粒子を使用して微粒子ピーニングを行った試験片(FPP)ではNiイオンの溶出量が大きく抑えられている。すなわち、ピーニングを利用したNi−Ti形状記憶合金の表面改質においては、使用する粒子の粒径が大きく影響しており、平均粒径が小さな微粒子を用いた微粒子ピーニングにおいて高い表面改質効果(特に、Ni溶出抑制効果)の付与が可能であると言える。同様の実験を重ねた結果、微粒子の平均粒径が30μm〜80μmにおいて十分なNi溶出抑制効果が得られることがわかった。
微粒子ピーニングを模式的に示す図面である。 微粒子ピーニング後のNi−Ti形状記憶合金の被処理面についての走査電子顕微鏡写真であり、(a)は投射圧力0.2MPaとした場合の処理面の電子顕微鏡写真、(b)は投射圧力0.6MPaとした場合の処理面の電子顕微鏡写真である。 投射圧力0.2MPa及び0.6MPaとした場合における投射時間と表面粗さRaの関係を示す特性図である。 投射圧力0.2MPa及び0.6MPaとした場合における投射時間と質量変化の関係を示す特性図である。 微粒子ピーニングした際のNi−Ti形状記憶合金表面のX線回折(XRD)による分析結果を示す図である。 分極試験装置の概略構成を示す図である。 投射圧力0.6MPaで微粒子ピーニングを施した試験片(FPP)、微粒子ピーニング後に真空加熱処理(500℃、1時間)を施した試験片(F+VA)、及び微粒子ピーニング後に高温酸化(TO)を施した試験片(F+TO)についての分極曲線を示す特性図である。 細胞培養試験に使用した装置の構成を示す概略断面図である。 細胞培養試験の手順を示す図である。 投射圧力0.6MPaで微粒子ピーニングを施した試験片(FPP)、表面を鏡面加工しただけの試験片(P)、及び鏡面加工後に高温酸化(TO)を施した試験片(TO)について、各試験片への細胞付着数を示す特性図である。 投射圧力0.6MPaで微粒子ピーニングを施した試験片(FPP)、表面を鏡面加工しただけの試験片(P)、及び鏡面加工後に高温酸化(TO)を施した試験片(TO)について、Niイオン溶出量の測定結果を示す特性図である。 平均粒径63μmの微粒子を用いて微粒子ピーニングを施した試験片(FPP)、及び平均粒径100μmのラウンドカットワイヤを用いてショットピーニングを施した試験片(SP)について、各試験片への細胞付着数を示す特性図である。 平均粒径63μmの微粒子を用いて微粒子ピーニングを施した試験片(FPP)、及び平均粒径100μmのラウンドカットワイヤを用いてショットピーニングを施した試験片(SP)について、Niイオン溶出量の測定結果を示す特性図である。
符号の説明
1 ノズル、2 微粒子、3 被処理材、11 電気分解セル、12 参照電極セル、13 ポテンショスタット、14 ポテンシャルスイーパー、15 レコーダ、16 塩橋、17 作用極、18 対極、19 参照電極、21 試験器具、21a 開口部、22 基板、23 試験片、24 Oリング、25 培地

Claims (5)

  1. Niを含む形状記憶合金に対して、平均粒径30μm〜80μmの微粒子を投射し、表面改質を行うことを特徴とする形状記憶合金の表面処理方法。
  2. 前記形状記憶合金がNi−Ti系合金であることを特徴とする請求項1記載の形状記憶合金の表面処理方法。
  3. 前記微粒子は、ビッカース硬さ(HV)が300以上であることを特徴とする請求項1または2記載の形状記憶合金の表面処理方法。
  4. 前記微粒子の投射圧力を0.1MPa以上とすることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載の形状記憶合金の表面処理方法。
  5. 前記形状記憶合金は、生体適合性材料として用いられることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項記載の形状記憶合金の表面処理方法。
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