JP2010124741A - 痒み評価のための病態モデル動物 - Google Patents

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【課題】本発明は、従来存在しなかった腎疾患等による腎機能低下を伴う痒みのモデル動物、すなわちICGN系マウスを用いた痒み評価のための病態モデル動物、およびその動物を用いた治療法、治療薬、予防法若しくは予防薬の評価方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明者等は、腎機能が低下し、かつ痒み関連行動を呈することを特徴とする腎機能低下を伴う痒みを評価するためのICGN系マウスを見出し、さらに、その動物が腎疾患等による腎機能低下を伴う痒みの治療法、治療薬、予防法若しくは予防薬の評価方法として有用であること見出した。
【選択図】なし

Description

本発明は、ICGN系マウスを用いた痒み評価のための病態モデル動物およびその動物を用いた治療法、治療薬、予防法若しくは予防薬の評価方法に関する。
痒みは、「引っ掻きたい気持ちを起こす不快な感覚」と定義される。痒みを伴う疾患は、蕁麻疹、アトピー性皮膚炎や接触性皮膚炎などの皮膚疾患、および腎疾患(腎不全など)や肝疾患(原発性胆汁性肝硬変など)、内分泌疾患などの全身性疾患に大別される(非特許文献1)。その中で全身性疾患に伴う痒みについては、既存の治療薬が奏効しないことが多いといわれている(非特許文献2)。
痒みを伴う全身性疾患の一つである腎不全は、原疾患の治療が腎移植のみであり、腎移植を受けられる患者が少ないことから、ほとんどの腎不全患者は、血液透析あるいは腹膜透析による治療を受けている。腎不全患者の痒みは、透析導入前においても発生するが、透析導入後にも新たに痒みが発現したり、痒みが悪化することが多いことが知られている(非特許文献3)。また、慢性腎不全による血液透析患者の痒みは特に難治性とされており、抗ヒスタミン薬や抗アレルギー薬の服用、ステロイドの外用、光線療法、スキンケア、民間療法などの治療が試みられているが、全く奏効しない患者も存在する(非特許文献3〜9)。また、オピオイド受容体拮抗薬(例えば、ナルトレキソン)(非特許文献10)やオピオイドカッパ受容体作動薬(非特許文献11)あるいはガバペンチン(非特許文献12)が有効であると報告されているものの、本疾患を適用症として承認された治療薬がないのが現状である。日米欧12カ国共同で行われた血液透析分野の国際的調査研究DOPPS(Dialysis Outcomes and Practice Patterns Study)において、42%の血液透析患者が中等度から重度の痒みを有していることが明らかとなっており(非特許文献13)、患者の生活の質(QOL)の向上のために、新規治療薬の開発が望まれている。
腎不全は急性腎不全と慢性腎不全に大別される。急性腎不全を来たす原因は大きく3つに分類される。1つ目は腎灌流量の減少による糸球体濾過量の低下であり、例えば脱水症や浮腫による循環血漿量の減少、あるいは例えば大量出血、外傷、心筋梗塞、敗血症に起因したショックによって生じる。2つ目は尿路閉塞であり、例えば子宮癌、後腹膜転移性腫瘍、両側尿管結石、前立腺肥大、膀胱癌、神経因性膀胱によって生じる。3つ目は腎臓の形態学的変化であり、例えば膜増殖性糸球体腎炎、管内増殖性糸球体腎炎、半月体形成性糸球体腎炎等による腎臓自体が第一病変となって生じる糸球体障害、例えば紫斑病性腎炎、ループス腎炎、溶血性尿毒症性症候群、Goodpasture症候群、全身性エリテマトーデス等の腎臓以外の疾患に付随して二次的に生じる糸球体障害、例えばショック、出血、脱水、血栓、塞栓による虚血性尿細管障害、例えば造影剤、ミオグロビン、重金属、アミノ配糖体、シスプラチン、シクロスポリン、アムホリシンB、有機溶媒による腎毒性尿細管障害によって生じる。
一方、慢性腎不全を来たす原因は腎臓の形態学的変化である。腎臓自体が第一病変となる形態学的変化としては、例えばIgA腎症、メサンギウム増殖性糸球体腎炎、巣状糸球体硬化症、膜性腎症、膜性増殖性糸球体腎炎、管内増殖性糸球体腎炎、半月体形成性糸球体腎炎等の糸球体疾患、例えば尿細管性アシドーシス、Fanconi症候群等の尿細管疾患、例えば間質性腎炎等の間質性疾患、例えば多発性嚢胞腎、腎形成不全等の先天性疾患、例えば良性腎硬化症、悪性腎硬化症等の血管性疾患、例えば腎盂腎炎、腎結核等の感染症疾患がある。また腎臓に二次的に形態学的変化をもたらす疾患としては、例えば糖尿病、痛風、アミロイドーシス等の代謝性疾患、例えば全身性エリテマトーデス、結節性動脈周囲炎、関節リウマチ、強皮症等の膠原病疾患、例えば多発性骨髄腫、溶血性尿毒症性症候群、播種性血管内血液凝固等の血液疾患、例えば、抗癌剤、抗生物質、鎮痛薬、パラコート等の薬剤中毒、例えば結石、膀胱癌、前立腺癌、前立腺肥大、神経因性膀胱等の尿路系疾患がある。
治療法、治療薬、予防法若しくは予防薬の開発において病態モデル動物およびそれを用いた評価系は重要である。痒みの発症機序や原因となる物質が解明されている疾患や、特定の物質の起痒作用を評価する場合には、マウスに起痒物質を皮内注射することによって惹起される痒み関連行動である引っ掻き(掻破ともいう)行動回数を指標とする方法が知られており(非特許文献14)、起痒剤としては例えば肥満細胞の脱顆粒を来たすコンパウンド48/80等の肥満細胞脱顆粒促進物質や、セロトニン(非特許文献15)、サブスタンスP(非特許文献16)、ロイコトリエンB4(非特許文献17)等が利用されている。一方、痒みの原因が不明である、あるいは複数存在する疾患においては、その原因疾患に伴って痒み関連行動を呈する動物が利用されている。例えば、皮膚に有機溶剤を処置した後に水を処置することにより乾燥肌を引き起こした動物において、引っ掻き行動が観察されることから、皮膚の乾燥を伴った痒みモデル動物として利用されている(非特許文献18)。NC/Nga系マウスはコンベンショナル環境下において飼育した場合に、1型ヘルパーT細胞(Th1)と2型ヘルパーT細胞(Th2)のバランスがTh2優位に偏向、血中総IgEの上昇、皮膚炎形成が認められるため、アトピー性皮膚炎を自然発症するモデル動物として知られているが、このマウスにおいて引っ掻き行動回数の増加が観察されることからアトピー性皮膚炎の痒みモデル動物として使用されている(非特許文献19)。また、MRL/lpr系マウスはTh1とTh2のバランスがTh1有意に偏向しており、原発性胆汁性肝硬変や多発性硬化症等の自己免疫疾患を自然発症するモデル動物として知られているが、このマウスの特に雌性において引っ掻き行動回数が増加しており、原発性胆汁性肝硬変や多発性硬化症等の自己免疫疾患に伴った痒みモデル動物として知られている(非特許文献20)。なお、MRL/lpr系マウスは、自己免疫疾患の発症により、糸球体腎炎を自然発症することが知られている(非特許文献20)が、上述のように、原発性胆汁性肝硬変や多発性硬化症等の痒みを誘発する自己免疫疾患も発症することから、MRL/lpr系マウスで認められる痒み関連行動が糸球体腎炎による腎機能低下によるものかどうかは明らかではない。したがって、自然発症性の腎機能障害に基づく痒みの適切なモデル動物はなく、本分野における治療薬が未だにない要因の1つと考えられる。
人為的な処置により腎機能低下を発症させるモデル動物としては、例えば、馬杉腎炎第1相モデル動物、馬杉腎炎第2相モデル動物、馬杉腎炎加速型モデル動物、馬杉腎炎同種抗体移入型モデル動物、Steblay腎炎モデル動物、可溶化基底膜腎炎モデル動物、組換えNC1腎炎モデル動物、Fcレセプターノックアウト腎炎モデル動物、尿中抗体腎炎モデル動物、モノクローナル抗体腎炎モデル動物、Heymann腎炎モデル動物、腎実質の部分切除モデル動物、アミノヌクレオシドあるいはアドリアマイシンによる薬物性腎症モデル動物、抗メサンギウムモノクローナル抗体静注モデル動物、抗Thy−1.1抗体腎炎モモデル動物等がある。腎機能障害を自然発症する動物としては、例えばHIGAマウス、MRL/lprマウス、MRL/gldマウス、ddYマウス、NODマウス、db/dbマウス、KKマウス、Akitaマウス、NSYマウス、CPKマウス、PCYマウス、BPKマウス、JCKマウス、NM1633マウス、CBA/Ca−KDマウス、CFWwdマウス、MWF/ztmラット、BUF/Mnaラット、Hyperlipidemic Imaiラット、FGS/Ngaラット、BBラット、Wistar fattyラット、GKラット、OLETFラット、WBN/Kobラット、cyラット等がある。また、遺伝子改変による腎機能障害を発症したマウスには、例えばSV40トランスジェニックマウス、成長ホルモントランスジェニックマウス、HIV−1トランスジェニックマウス、IL−6トランスジェニックマウス、TGF−β1トランスジェニックマウス、Uteroglobin遺伝子欠損マウス等がある(たとえば非特許文献21)。しかしながら、以上のモデル動物においては、痒み関連行動を呈することは知られておらず、腎疾患等による腎機能低下を伴う痒みのモデル動物になり得ることは明らかになっていない。さらに、ICGN系マウスは、腎糸球体基底膜の肥厚、糸球体足突起消失やメサンギウム細胞の増殖をともなわないメサンギウム領域の拡張等の糸球体病変を呈し、病態末期においては尿細管拡張、尿細管間質部病変等の腎病変を発現し、タンパク尿、低タンパク血症、高脂血症、全身性浮腫および腎性貧血の症状も認められ、それらの特徴からヒトにおける、例えば特発性腎炎症候群、慢性腎不全等の腎疾患のモデルとして広く研究に用いられている(非特許文献22)。ICGN系マウスでは、尿中アルブミン排泄の増加は早ければ1週齢で観察され、5週齢で対照群と比較して有意差が認められる。また、20週齢では生存率は、おおよそ100%であるが、その後週齢と共に低下し、40週齢では生存率はおおよそ30%となることも知られている(非特許文献23)。しかしながら、ICGN系マウスが痒み関連行動を呈することは知られておらず、ICGN系マウスが腎疾患等による腎機能低下を伴う痒みのモデル動物になり得ることは明らかになっていなかった。
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本発明は、従来存在しなかった腎疾患等による腎機能低下を伴う痒みのモデル動物、すなわちICGN系マウスを用いた痒み評価のための病態モデル動物、およびその動物を用いた治療法、治療薬、予防法若しくは予防薬の評価方法を提供することを目的とする。
本発明者等は、上述課題を解決すべく、鋭意研究を重ねた結果、腎疾患モデル動物として知られているICGN系マウスが痒み関連行動を呈することを見出し、さらに、その動物が腎疾患等による腎機能低下を伴う痒みの治療法、治療薬、予防法若しくは予防薬の評価方法として有用であること見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下の[1]ないし[7]に関する。
[1]ICGN系マウスを用いた痒み評価のための病態モデル動物。
[2]痒み関連行動が引っ掻き行動である病態モデル動。
[3]4〜30週齢である病態モデル動。
[4]19〜29週齢である病態モデル動ス。
[5]請求項1記載のICGN系マウスに対して処置あるいは試験薬剤を適用または適用なしで引っ掻き行動を測定し、引っ掻き行動の回数を比較する腎機能低下を伴う痒みの治療法、治療薬、予防法若しくは予防薬の評価方法。
[6]ICGN系マウスが4〜30週齢である評価方法。
[7]ICGN系マウスが19〜29週齢である評価方法。
従来評価法が存在しなかった、腎疾患等による腎機能低下を伴う痒みのモデル動物を提供し、その動物を用いることにより腎疾患等による腎機能低下を伴う痒みに対する治療法、治療薬、予防法若しくは予防薬の評価が可能となる。
本発明による腎機能低下を伴う痒みのモデル動物には、腎機能が低下し、かつ痒み関連行動を呈することを特徴とするICGN系マウスを用いる。
腎機能低下の原因は特に制限されないが、腎疾患によるものであることが好ましい。痒み関連行動としては、引っ掻き行動を測定する。ICGN系マウスは、病態の発症時期ならびに生存率から、4〜30週齢が好ましく、19〜29週齢がより好ましいが、本発明はこれに限定されない。
評価方法は、ICGN系マウスに対して処置あるいは試験薬剤を適用または適用なしで引っ掻き行動を測定することで行うことができる。引っ掻き行動の指標としては引っ掻き行動回数、引っ掻き行動時間、引っ掻きによる皮膚状態の変化等を使用することができるが、好ましくは引っ掻き行動回数を使用する。引っ掻き行動の測定は、直接目視により行っても良いが、無人環境下にて記録・測定することが好ましい。例えば、行動の記録には、上方からの観察が可能な上方向が開放、透明などのケージを使用し、ビデオカメラ等を使用した記録、観察を行うことが望ましい。マウスの行動観察においては、あらかじめ観察環境への馴化を行った後、引っ掻き行動を測定することが好ましい。引っ掻き行動回数は、マウスが後肢を上げて、顔面あるいは体表部を引っ掻き、床に足を下ろすまでの一連の動作を1回として計測する。計測時間は1匹あたり、30分間以上、好ましくは30〜120分間とする。引っ掻き行動の回数を比較する方法が好ましいが、本発明はこれに限定されない。
以下、本発明を実施例に基づき具体的に説明する。
実施例1 ICGN系マウスの引っ掻き行動に対するナルトレキソンの効果
実験には16週齢(9例)および29週齢(6例)のICGN系マウスを用いた。1日目にマウスに生理食塩水を体重10.0gあたり0.1mLの容量で皮下投与し、観察用ケージ(1ケージ:4区分、1区分:10×14×30(cm))に1個体ずつ入れ、直後から上方よりビデオカメラで撮影した。3日目にナルトレキソンの3mg/kgを皮下投与し、同様の方法で撮影を行った。引っ掻き行動の観察は撮影したビデオを再生することにより行い、生理食塩水あるいはナルトレキソン投与30分後から90分間について回数を測定した。なお、引っ掻き行動はマウスが後肢を上げて、顔面あるいは体表部を引っ掻き、床に足を下ろすまでの一連の動作を1回として計数した。
結果を図1に示す。16週齢および29週齢のICGNマウスで観察された引っ掻き行動はナルトレキソンの3mg/kgの皮下投与により統計学上有意に抑制された(生理食塩水投与に対して*p<0.05、対応のある2群のt検定)。ナルトレキソンは血液透析患者の痒みに有効であることが報告されていることから、本評価方法が腎疾患等による腎機能低下を伴う痒みの、治療法、治療薬、予防法若しくは予防薬の評価方法として有用であることを表している。
本発明は、従来評価法が存在しなかった、腎疾患等による腎機能低下を伴う痒みの評価に有用なICGN系マウス、ならびにICGN系マウスを用いた腎疾患等による腎機能低下を伴う痒みの治療法、治療薬、予防法若しくは予防薬の評価方法を提供するものである。
図1は16週齢(9例)および29週齢(6例)のICGN系マウスで観察された引っ掻き行動に対するナルトレキソンの抑制効果を示した図である。
符号の説明
図1中、横軸は投与した試験物質の種類(生理食塩水あるいはナルトレキソン)を示す。縦軸は90分間(試験物質投与30分後から90分間)における引っ掻き行動回数(平均値と標準誤差を表している)を示している。

Claims (7)

  1. ICGN系マウスを用いた痒み評価のための病態モデル動物。
  2. 痒み関連行動が引っ掻き行動である請求項1記載の病態モデル動物。
  3. 4〜30週齢である請求項1記載の病態モデル動物。
  4. 19〜29週齢である請求項1記載の病態モデル動物。
  5. ICGN系マウスに対して処置あるいは試験薬剤を適用または適用なしで引っ掻き行動を測定し、引っ掻き行動の回数を比較する腎機能低下を伴う痒みの治療法、治療薬、予防法若しくは予防薬の評価方法。
  6. ICGN系マウスが4〜30週齢である請求項5記載の方法。
  7. ICGN系マウスが19〜29週齢である請求項6記載の方法。
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