JP2010091451A - 残留応力の予測方法、溶射成膜方法および装置ならびに残留応力予測プログラム - Google Patents
残留応力の予測方法、溶射成膜方法および装置ならびに残留応力予測プログラム Download PDFInfo
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Abstract
【課題】溶射成膜の際に生じる残留応力を予測できるようにする。
【解決手段】温度および速度を含む第1の解析条件の単一の溶射粒子を基材に衝突させたときの第1の残留応力を、基材を固体のラグランジェ要素、溶射粒子を流体のオイラー要素としてモデル化した数値解析によって求める単一粒子解析工程(S3,S4)と、単位面積あたりの溶射粒子の個数を含む第2の解析条件で複数の溶射粒子を基材に衝突させたときの第2の残留応力を第1の残留応力の重ね合わせによって予測する予測工程(S5)とを行って、基材に溶射粒子を溶射して成膜する溶射成膜の際に生じる残留応力を予測する。
【選択図】図1
【解決手段】温度および速度を含む第1の解析条件の単一の溶射粒子を基材に衝突させたときの第1の残留応力を、基材を固体のラグランジェ要素、溶射粒子を流体のオイラー要素としてモデル化した数値解析によって求める単一粒子解析工程(S3,S4)と、単位面積あたりの溶射粒子の個数を含む第2の解析条件で複数の溶射粒子を基材に衝突させたときの第2の残留応力を第1の残留応力の重ね合わせによって予測する予測工程(S5)とを行って、基材に溶射粒子を溶射して成膜する溶射成膜の際に生じる残留応力を予測する。
【選択図】図1
Description
本発明は、基材に溶射粒子を溶射して成膜する溶射成膜の際に生じる残留応力の大きさを予測する残留応力の予測方法、溶射成膜方法および装置ならびに残留応力予測プログラムに関する。
溶射法は、エネルギー機器などへの耐摩耗性や耐食性、耐熱性の付与などの様々な用途で用いられている。溶射法とは、材料粒子を加熱・吹き付けにより基材上に堆積させて被膜を形成する方法である。溶射法によって形成される被膜の気孔率、残留応力、耐食性、耐熱性、電気伝導率などの特性は、個々の粒子の扁平挙動と粒子同士の積み重なりの状態によって大きく変化する。
このため、溶射法による被膜の形成現象を解析する技術は、実用上も重要である。そこで、溶融粒子の扁平挙動に関する実験的、数値的に解析する試みがなされている。たとえば特許文献1には、溶射によって形成される膜厚をシミュレーションする方法が開示されている。
特開平6−93403号公報
基材の残留応力を所定の条件に適合するように、溶射プロセスを制御することは、被膜の耐摩耗性確保などに対して非常に重要である。しかし、従来、溶射プロセスの制御は、実験の繰り返しによりなされてきた。このため、その習得には多大な時間と費用が費やされるとともに、溶射法の条件が変更されると、別途データを採取する必要が生じる。しかし、溶射プロセスでの基材を含めた残留応力をシミュレーションによって、現実的な時間内に現実的な精度で評価する方法は知られていない。
そこで、本発明は、溶射成膜の際に生じる残留応力を予測できるようにすることを目的とする。
上述の目的を達成するため、本発明は、基材に溶射粒子を溶射して成膜する溶射成膜の際に生じる残留応力の予測方法において、温度および速度を含む第1の解析条件の単一の溶射粒子を基材に衝突させたときの第1の残留応力を、前記基材を固体、前記溶射粒子を流体としてモデル化した数値解析によって求める単一粒子解析工程と、単位面積あたりの前記溶射粒子の個数を含む第2の解析条件で複数の前記溶射粒子を前記基材に衝突させたときの第2の残留応力を前記第1の残留応力に基づいて予測する予測工程と、を有することを特徴とする。
また、本発明は、基材に溶射粒子を溶射して成膜する溶射成膜方法において、温度および速度を含む第1の解析条件の単一の溶射粒子を基材に衝突させたときの第1の残留応力を、前記基材を固体、前記溶射粒子を流体としてモデル化した数値解析によって求める単一粒子解析工程と、単位面積あたりの前記溶射粒子の個数を含む第2の解析条件で複数の前記溶射粒子を前記基材に衝突させたときの第2の残留応力を前記第1の残留応力に基づいて予測する予測工程と、前記第2の残留応力が目標範囲内となる前記第1の解析条件および前記第2の解析条件に基づいて溶射成膜の目標施工条件を算出する目標施工条件算出工程と、前記目標施工条件で前記溶射物質を前記基材に溶射する成膜工程と、を有することを特徴とする。
また、本発明は、基材に溶射粒子を溶射して成膜する溶射成膜装置において、温度および速度を含む第1の解析条件の単一の溶射粒子を基材に衝突させたときの第1の残留応力を、前記基材を固体、前記溶射粒子を流体としてモデル化した数値解析によって求める単一粒子解析部と、単位面積あたりの前記溶射粒子の個数を含む第2の解析条件で複数の前記溶射粒子を前記基材に衝突させたときの第2の残留応力を前記第1の残留応力に基づいて予測する予測部と、前記第2の残留応力が目標範囲内となる前記第1の解析条件および前記第2の解析条件に基づいて溶射成膜の目標施工条件を算出する目標施工条件算出部と、前記目標施工条件で前記溶射物質を前記基材に溶射する溶射部と、を有することを特徴とする。
また、本発明は、基材に溶射粒子を溶射して成膜する溶射成膜の際に生じる残留応力の大きさを予測する残留応力予測プログラムにおいて、コンピューターに、温度および速度を含む第1の解析条件の単一の溶射粒子を基材に衝突させたときの第1の残留応力を、前記基材を固体、前記溶射粒子を流体としてモデル化した数値解析によって求める単一粒子解析機能と、単位面積あたりの前記溶射粒子の個数を含む第2の解析条件で複数の前記溶射粒子を前記基材に衝突させたときの第2の残留応力を前記第1の残留応力に基づいて予測する予測機能と、を実現させることを特徴とする。
本発明によれば、溶射成膜の際に生じる残留応力を予測できる。
本発明に係る溶射成膜方法の一実施の形態を、図面を参照して説明する。なお、この実施の形態は単なる例示であり、本発明はこれらに限定されない。
図2は、本発明に係る溶射成膜方法の一実施の形態を用いた溶射成膜装置のブロック図である。
この溶射成膜装置は、ステンレス鋼などの基材10に溶射粒子12を溶射して被膜14を生成する装置である。溶射成膜装置は、溶射ガン26、灯油供給器31、酸素供給器32、溶射粉末供給器33、カメラ34、制御器35および目標施工条件決定器36を有している。
溶射ガン26の内部には、燃焼室20が形成されている。燃焼室20には、燃料導入口21および酸素導入口22が設けられている。燃料導入口21には、灯油供給器31が接続されている。酸素導入口22には、酸素供給器32が接続されている。また、溶射ガン26には、燃焼室20から溶射口25に延びる筒状のバレル部24が設けられている。バレル部24と燃焼室との間には、溶射粉末導入口23が設けられている。溶射粉末導入口23には、溶射粉末供給器33が接続されている。灯油供給器31、酸素供給器32および溶射粉末供給器33は制御器35に接続されている。
目標施工条件決定器36は、溶射によって生成される被膜14および基材10に生じる残留応力が所定の目標範囲内となるように、目標施工条件を設定する。溶射目的によって、被膜14および基材10に生じる残留応力の目標範囲は異なる。たとえば、溶射成膜後の被膜14および基材10は、所定の大きさの圧縮応力状態となることを目標とする場合がある。この場合、被膜14および基材10に生じる残留応力の目標範囲を所定の値の範囲の圧縮応力とする。さらに、応力の分布、応力の最大値・最小値などを目標応力としてもよい。目標施工条件とは、残留応力などの目標値を達成するために満足すべき溶射の際の条件であり、たとえば溶射ガン26の出力やガス流量、溶射距離、ガンのトラバース速度などの溶射の際に制御可能が含まれる。
カメラ34は、溶射ガン26から溶射される溶射粒子の温度、速度などのプロセス値を測定し、測定結果を制御器35に伝達する。制御器35は、伝達されたプロセス値が目標施工条件と適合するように、酸素・灯油の供給量や、溶射粉末11の供給量を制御する。
このような溶射成膜装置で行ういわゆる高速フレーム溶射において、燃焼室20の温度は、3000℃程度である。また、溶射粉末導入口23から導入される溶射粉末の供給速度は、9kg/h程度である。溶射口25から噴出されるガスの速度は2000m/s程度、溶射粒子12の速度は1000m/s程度である。溶射粒子の粒子径は、60μm程度である。生成される被膜14の厚さは100μm程度である。
図3は、本実施の形態における目標溶射条件決定器のブロック図である。
目標施工条件決定器36は、入力部41、モデル作成部42、衝突解析部43、熱伝導・熱応力解析部44、予測部45、目標施工条件算出部46、記憶部47および解析制御部48を有している。入力部41は、ユーザからの入力を受け取る。記憶部47は、伝達される各種データを記憶し、必要に応じて他の部分に伝達する。解析制御部48は、目標施工条件決定器36の各部分で行う解析などの動作を制御する。モデル作成部42と衝突解析部43と熱伝導・熱応力解析部44とをまとめて単一粒子解析部49と呼ぶこととする。
目標施工条件決定器36は、各部の機能を実現させるコンピュータプログラムを用いて1台以上の計算機上に設けることができる。単一粒子解析部49は、たとえば汎用衝撃解析ソフトのls−dyna(登録商標)などの衝突解析が実行可能な汎用ソフトである。なお、衝突解析と熱伝導・応力解析とに、異なるパッケージのソフトウェアを用いてもよい。このような汎用解析ソフトには、専用のプリ・ポストプログラムを備えているものがある。このようなプリ・ポストプログラムを、モデル作成部42として用いることができる。
図1は、本実施の形態における溶射成膜方法のフローチャートである。
本実施の形態の溶射成膜方法は、残留応力が所定の目標範囲内となるように成膜する方法である。この方法の各工程は、目標施工条件を算出する工程(S1〜S6)と、算出された目標施工条件で実際に溶射成膜する工程(S7〜S10)に分けることができる。
目標施工条件の設定では、まず、残留応力の目標範囲が設定入力される(S1)。残留応力の目標範囲は、たとえばユーザによって入力部41からその応力値が入力される。あるいは、他の装置、システムなどから残留応力の目標範囲が伝達されてもよい。入力された残留応力の目標範囲は、記憶部47に記憶される。
次に、解析条件が設定される(S2)。ここで、解析条件には、溶射粒子12や基材10の形状、溶射粒子12の速度および温度、基材10の温度などの成膜プロセス条件と、溶射粒子12および基材10の密度、粘性係数、比熱、熱伝導率、ヤング率、ポアソン比、降伏応力、硬化係数などの材料物性値とが含まれる。これらの材料物性値には、温度依存性も考慮される。成膜プロセス条件には、溶射粒子12の温度および速度を含む第1の解析条件と、単位面積当たりの溶射粒子12の個数を含む第2の解析条件とがある。
解析条件は、残留応力の目標範囲に応じて解析制御部48が設定する。あるいは、ユーザが入力部41から解析条件を入力してもよい。解析条件のうち材料物性値については、使用頻度が高い材料についての値を予め記憶部47に収めておき、ユーザが材料を選択することによって自動的に物性値を記憶部47から読み出すようにしてもよい。また、汎用解析ソフトのプリ・ポストプログラムに、マクロ機能が組み込まれている場合には、解析に必要なデータには標準データを準備して、ユーザが入力部41から入力したデータのみを変更するマクロを作成してもよい。これにより、ユーザによるデータの入力が容易になる。
解析条件が設定されたら、その解析条件で溶射成膜した場合の残留応力を計算機シミュレーションによって求める(S3〜S5)。計算機シミュレーションで求められた残留応力が所定の目標範囲内に入っているかどうかを判定し(S6)、目標範囲内でなければ工程S2〜工程S5を繰り返す。残留応力が所定の目標範囲内となったら、設定された解析条件を実際の溶射条件として決定し、実際に溶射成膜する工程(S7〜S10)に進む。
実際の溶射プロセスでは、複数の溶射粒子12が飛散して基材10の表面に堆積することによって被膜14を形成する。しかし、複数の粒子の衝突・凝固といった複雑現象を模擬した連成解析は、非常に困難である。そこで、このような現象を単一粒子の挙動から予測する。
高温の溶融状態の溶射粒子12は、基材10に衝突すると変形して扁平になる。また、基材10に衝突した溶射粒子12が保持している熱は基材10に伝達され、溶射粒子12の温度が低下する。温度の低下に伴って、溶射粒子12は凝固収縮する。このように衝突の際、溶射粒子12と基材10とは熱伝達のやり取りを行なっているとともに、基材10は溶射粒子12の熱収縮による機械的な影響を受ける。つまり、溶射粒子12および基材10には、機械的な衝突によって生じる応力と、その後の熱伝達に伴う熱応力とを組み合わせた残留応力が発生する。
このような溶射粒子12および基材10の挙動のすべてを1回のシミュレーションで解析しようとすると、衝突による変形、溶射粒子12と基材10との熱伝達、および、溶射粒子12の凝固という複雑な現象の連成解析が必要となる。このため、このような挙動を、1回のシミュレーションで解析しようとすると、計算時間が非常に長くなる場合がある。
そこで、衝突解析と、その後の熱伝導・熱応力による凝固解析を分けて行う方法が効率的である。本実施の形態では、工程S2で設定された解析条件に基づいて、衝突解析(S3)および熱伝導・熱応力解析(S4)を順次行って、溶射粒子の単一粒子が基材に衝突して生じる残留応力を求める。
衝突解析(S3)では、単一の溶射粒子12を基材10に衝突させた際の溶射粒子および基材の変形をコンピュータシミュレーションによって解析する。まず、モデル作成部42が、解析に用いる解析モデルを作成する。
図4は、本実施の形態における溶射粒子と基材とが離れている状態の解析モデルの断面図である。図5は、本実施の形態における溶射粒子と基材とが接触した状態の解析モデルの断面図である。
この衝突解析では、単一の溶射粒子12を流体のオイラー要素で、基材10を固体のラグランジェ要素でモデル化する。オイラー要素とは、空間に固定された要素であり、物体のもつ形状、密度、応力、ひずみなどの属性は要素内で計算される。ラグランジェ要素とは、物体そのものを表わす要素であり、要素の変形は物体の変形となる。基材10は、ステンレス鋼などであるから、溶融状態にある溶射粒子12に比べて剛性が非常に大きい。このため、溶射粒子12が基材10に衝突して温度が低下して溶融状態といえなくなるまでは、溶射粒子12を流体として取り扱っても問題がない。
溶射粒子12は、図4で下に向かって解析条件の速度で飛翔し、図5に示すように基材10の表面に衝突して扁平になる。図4および図5では、基材10および溶射粒子12は、いずれも全体を示しているが、実際には、対称性を考慮して少ない要素で解析を行ってもよい。たとえば、溶射粒子12の軌跡を中心として90度の範囲を取り出した1/4モデルを用いることができる。また、図4および図5では溶射粒子12および基材10のみを示しているが、図中の基材10の表面よりも上側はボイド(空隙)がオイラー要素としてモデル化されている。
溶射粒子12および基材10の形状データは、たとえばユーザが入力部41から入力する。あるいは、解析制御部48が解析条件に基づいて形状データを生成してもよい。モデル作成部42は、形状データに基づいて、解析用メッシュを作成する。メッシュ形状は、基材10、溶射粒子12ともに6面体の立方体要素の集合体とする。このような立方体要素を用いると、溶射粒子12および基材10の寸法が確定していれば、容易に解析用メッシュを作成できる。
たとえば、基材10のモデルは立方体、溶射粒子12のモデルは球状とする。そこで、基材10については、ユーザが入力部41から縦、横、幅などの値を入力し、これらの値に基づいてモデル作成部42が6面体メッシュを作成する。また、溶射粒子12は球体であることから、ユーザが入力部41から球の直径の値を入力し、この値に基づいてモデル作成部42が球体の6面体メッシュを作成する。溶射粒子12と接触する基材10の表面のメッシュは、溶射粒子12のモデルの最小メッシュよりも小さくなるように、溶射粒子12のメッシュサイズと比較しながら作成される。
基材10と溶射粒子12との接触熱伝達も考慮される。基材10と溶射粒子12との間の距離が所定の大きさ以下となった場合には、基材10と溶射粒子12が接触したものとして、所定の接触熱伝達係数で熱伝達を行うものとする。
また、モデル作成部42は、解析用メッシュを作成した後、対称性などの境界条件や拘束条件などを設定する。さらに、モデル作成部42は、作成された解析用メッシュ、拘束条件および境界条件を、解析実行用データに変換する。
このようにして作成された実行用データを用いて、衝突解析部43が衝突解析を行う。球形状態の溶射粒子12が衝突時の衝撃によって所定の扁平度となったところで衝突解析を終了する。溶射粒子12の扁平度は、たとえば基材10の表面に平行な方向の大きさDと、基材10の表面の法線方向の大きさHとの比として表す。衝突解析の終了の際には、衝突解析における各種データをリスタートファイルに書き出しておく。
溶射粒子は高温の溶融状態で基材に衝突することから、剛性が非常に低い。このような溶射粒子12を構造体としてモデル化すると、衝突の際の大変形に有限要素法のメッシュが追従できない。しかし、本実施の形態では、溶融した溶射粒子12を流体としてモデル化し、流体−構造の連成問題として解析する。これにより、実際の溶射プロセスにおける溶融粒子の挙動を模擬することができる。
次に、熱伝導・熱応力解析(S4)では、衝突解析の終了の時点での粒子形状および各部の応力状態を引き継ぎ、その後の溶射粒子12の凝固過程を熱伝導・熱応力解析部44が熱伝導・熱応力解析を行う。この熱伝導・応力解析によって、基材10および溶射粒子12に生じる残留応力を求める。このように、衝突解析と熱伝導・熱応力解析とを分けて行うことにより、変形、熱伝達および凝固という複雑な現象の連成解析を行う必要がなくなるため、単一の溶射粒子の挙動の解析時間を短縮することができる。
応力状態の引き継ぎは、衝突解析終了の際に書き出しておいたリスタートファイルを読み込むことによって行う。なお、解析に用いるソフトによっては、衝突解析データをメインとして、その中に熱伝導および応力解析の実行カードを挿入しておくことによって、衝突解析および熱伝導・熱応力解析をまとめて実行させることができる場合がある。
工程S3および工程S4での解析は、単一の溶射粒子12の衝突および熱伝導・熱応力解析である。一方、実際の溶射プロセスでは複数の溶射粒子12が衝突・凝固する。そこで、次に、単一の溶射粒子12による解析結果に基づいて、予測部45で複数粒子の挙動を予測する(S5)。
図6は、溶射粒子の速度と、溶射粒子の中心から所定の距離だけ離れた位置における基材の最大残留応力分布との関係を示すグラフの例である。なお、図6には、溶射粒子の径がd1、d2、d3と異なる3つの場合についての関係を示した。
図6に示す例のように、衝突・凝固解析時の残留応力は、単一の溶射粒子12の速度や粒子径、位置などのパラメータでモデル化できる。そこで、本実施の形態では、単一の溶射粒子12が衝突した場合の応力を、溶射粒子12の温度および速度を含む第1の解析条件に関連づけて定式化し、モンテカルロ法などによる統計的手法によって、複数の粒子の衝突・凝固における残留応力を予測する。
この工程S5では、まず、第2の解析条件に含まれる単位面積当たりの溶射粒子12の個数に基づいて、モンテカルロ法などにより乱数を発生させて溶射粒子12の基材10への衝突位置の確率分布を求める。ここで得られた確率分布に応じて、工程S4で求めた単一粒子が基材に衝突した際の応力分布を足し合わせて、複数の溶射粒子12が基材10に衝突した際の応力分布を求める。このようにして、単一の溶射粒子12が衝突した場合の残留応力の解析結果から複数の溶射粒子12が衝突した場合の残留応力を予測することができる。つまり、複数の粒子の衝突・凝固といった複雑現象を、衝突過程とその後の凝固過程とに分けた単一粒子の解析と、その重ね合わせとによって、現実的な計算時間で解析し、溶射成膜の際に生じる残留応力を予測できる。
次に、残留応力が目標範囲かどうかを判定する(S6)。残留応力が目標範囲でなければ、解析条件を変えて工程S2〜工程S5を繰り返す。
残留応力が目標範囲の場合には、その解析条件を目標溶射条件とする。溶射粒子12の温度や速度などの目標溶射条件に基づいて、制御器35が目標施工条件を設定する(S7)。
次に、制御器35は、目標施工条件を達成するように、灯油供給器31、酸素供給器32、溶射粉末供給器33などを制御して溶射する(S8)。この際、カメラ34などの検出器を用いて、溶射粒子12の温度や速度などのプロセス値を測定する(S9)。溶射(S8)は、溶射によって生成された被膜14の厚さが目標厚に達したか否かを判定しながら(S10)、目標厚に達するまで続けられる。
溶射粒子12の温度計測には、たとえば放射温度計を用いることができる。また、溶射粒子12の速度は、個々の粒子から発せられる放射光の軌跡を画像解析することによって、測定することができる。あるいは、溶射粒子12の速度を、測定領域から発せられる放射光のスペクトルの時間変化から測定することもできる。また、溶射粒子12の速度を、溶射粒子にレーザー光を照射し、粒子から出てくる反射光の軌跡を捉えて測定することもできる。
このように、カメラ34などの検出器を用いてプロセス値を制御器35にフィードバックすることにより、制御器35は、目標施工条件を達成するように灯油供給器31、酸素供給器32、溶射粉末供給器33などを制御する。また、さらに、測定されたプロセス値が目標溶射条件に適合しない場合には、制御器35は目標施工条件を修正して溶射を継続してもよい。
このようにして、本実施の形態の溶射成膜装置は、目標溶射条件を高い精度で達成することができる。このため、溶射成膜の際に生じる残留応力を所定の目標範囲内に収めることが容易になる。
10…基材、11…溶射粉末、12…溶射粒子、14…被膜、20…燃焼室、21…燃料導入口、22…酸素導入口、23…溶射粉末導入口、24…バレル部、25…溶射口、26…溶射ガン、31…灯油供給器、32…酸素供給器、33…溶射粉末供給器、34…カメラ、35…制御器、36…目標施工条件決定器、41…入力部、42…モデル作成部、43…衝突解析部、44…熱伝導・熱応力解析部、45…予測部、46…目標施工条件算出部、47…記憶部、48…解析制御部、49…単一粒子解析部
Claims (8)
- 基材に溶射粒子を溶射して成膜する溶射成膜の際に生じる残留応力の予測方法において、
温度および速度を含む第1の解析条件の単一の溶射粒子を基材に衝突させたときの第1の残留応力を、前記基材を固体、前記溶射粒子を流体としてモデル化した数値解析によって求める単一粒子解析工程と、
単位面積あたりの前記溶射粒子の個数を含む第2の解析条件で複数の前記溶射粒子を前記基材に衝突させたときの第2の残留応力を前記第1の残留応力に基づいて予測する予測工程と、
を有することを特徴とする残留応力の予測方法。 - 前記単一粒子解析工程は、
前記基材に前記溶射粒子が衝突して所定の扁平度に変形するまでの挙動を解析する衝突解析工程と、
前記溶射粒子が所定の扁平度に変形した後の挙動を解析する熱伝導・熱応力解析工程と、
を有することを特徴とする請求項1に記載の残留応力の予測方法。 - 前記予測工程は、
前記溶射粒子と前記基材との衝突位置を前記第2の解析条件に基づいて乱数によって決定する工程と、
前記衝突位置のそれぞれに前記溶射粒子が衝突したときの前記第1の残留応力を足し合わせて前記第2の残留応力を求める工程と、
を有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の残留応力の予測方法。 - 前記第2の残留応力が前記目標範囲内となるまで前記第1の解析条件および前記第2の解析条件を変えて前記単一粒子解析工程および前記予測工程を繰り返すことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の残留応力の予測方法。
- 基材に溶射粒子を溶射して成膜する溶射成膜方法において、
温度および速度を含む第1の解析条件の単一の溶射粒子を基材に衝突させたときの第1の残留応力を、前記基材を固体、前記溶射粒子を流体としてモデル化した数値解析によって求める単一粒子解析工程と、
単位面積あたりの前記溶射粒子の個数を含む第2の解析条件で複数の前記溶射粒子を前記基材に衝突させたときの第2の残留応力を前記第1の残留応力に基づいて予測する予測工程と、
前記第2の残留応力が目標範囲内となる前記第1の解析条件および前記第2の解析条件に基づいて溶射成膜の目標施工条件を算出する目標施工条件算出工程と、
前記目標施工条件で前記溶射物質を前記基材に溶射する成膜工程と、
を有することを特徴とする溶射成膜方法。 - 前記成膜工程は、
溶射の際のプロセス値を測定する工程と、
測定された前記プロセス値が前記目標施工条件に適合するように制御する工程と、
を有することを特徴とする請求項5に記載の溶射成膜方法。 - 基材に溶射粒子を溶射して成膜する溶射成膜装置において、
温度および速度を含む第1の解析条件の単一の溶射粒子を基材に衝突させたときの第1の残留応力を、前記基材を固体、前記溶射粒子を流体としてモデル化した数値解析によって求める単一粒子解析部と、
単位面積あたりの前記溶射粒子の個数を含む第2の解析条件で複数の前記溶射粒子を前記基材に衝突させたときの第2の残留応力を前記第1の残留応力に基づいて予測する予測部と、
前記第2の残留応力が目標範囲内となる前記第1の解析条件および前記第2の解析条件に基づいて溶射成膜の目標施工条件を算出する目標施工条件算出部と、
前記目標施工条件で前記溶射物質を前記基材に溶射する溶射部と、
を有することを特徴とする溶射成膜装置。 - 基材に溶射粒子を溶射して成膜する溶射成膜の際に生じる残留応力の大きさを予測する残留応力予測プログラムにおいて、コンピューターに、
温度および速度を含む第1の解析条件の単一の溶射粒子を基材に衝突させたときの第1の残留応力を、前記基材を固体、前記溶射粒子を流体としてモデル化した数値解析によって求める単一粒子解析機能と、
単位面積あたりの前記溶射粒子の個数を含む第2の解析条件で複数の前記溶射粒子を前記基材に衝突させたときの第2の残留応力を前記第1の残留応力に基づいて予測する予測機能と、
を実現させることを特徴とする残留応力予測プログラム。
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CN109840389A (zh) * | 2019-03-13 | 2019-06-04 | 台州职业技术学院 | 一种基于贝叶斯和garch的预应力预测方法 |
CN111893418A (zh) * | 2020-08-08 | 2020-11-06 | 桂林电子科技大学 | 一种用于提高镍基合金表面抗高温氧化性能的方法 |
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CN109840389A (zh) * | 2019-03-13 | 2019-06-04 | 台州职业技术学院 | 一种基于贝叶斯和garch的预应力预测方法 |
CN109840389B (zh) * | 2019-03-13 | 2023-04-07 | 台州职业技术学院 | 一种基于贝叶斯和garch的预应力预测方法 |
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