JP2010051307A - Th17細胞およびTreg細胞の分化誘導を調節する物質のスクリーニング方法 - Google Patents

Th17細胞およびTreg細胞の分化誘導を調節する物質のスクリーニング方法 Download PDF

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Abstract

【課題】Th17細胞およびTreg細胞の分化誘導を調節する物質のスクリーニング方法の提供。
【解決手段】GPR43の機能を調節する物質をTh17細胞および/またはTreg細胞の分化誘導を調節する物質であると決定することを特徴とする、Th17細胞および/またはTreg細胞の分化誘導を調節する物質のスクリーニング方法。
【選択図】なし

Description

発明の分野
本発明は、Th17細胞およびTreg細胞の分化誘導を調節する物質のスクリーニング方法に関する。
多くのホルモンや神経伝達物質などの生理活性物質は、細胞膜に存在する特異的なレセプタータンパク質を介して、生体の機能を調節している。これらのレセプターの多くは、細胞膜を7回貫通する構造を有しており、細胞内で三量体のGタンパク質 (guanine nucleotide-binding protein) と共役していることから、Gタンパク質共役型受容体 (GPCR: G-protein coupled receptor) と呼ばれている。
GPCRは、各種の細胞、臓器、および器官の機能細胞表面に存在し、それらの機能を調節する分子との結合を介してシグナルを細胞内に伝達して、細胞の賦活化や抑制化をする。このため、GPCRは各種臓器および器官において重要な役割を担っている。このような生理活性物質とGPCRとの関係を明らかにすることは、生体の機能を解明し、それと密接に関連した医薬品開発をする上で重要である。医薬品を開発するためには、GPCRのアゴニストやアンタゴニストを効率良くスクリーニングして、生体内で発現しているレセプタータンパク質の遺伝子の機能を解析し、それらを適当な発現系で発現させる必要がある。
GPR43は、GPCRの一つであり、そのリガンドとして短鎖脂肪酸が報告されている(特許文献1、非特許文献1)。また、GPR43は代謝関連障害と関連していることが報告されている(非特許文献2)。しかし、GPR43の生理学的な機能は依然として不明であった。
ところで、免疫応答細胞であるT細胞は、細胞表面に発現されるマーカー分子によりCD4陽性T細胞(ヘルパーT細胞)とCD8陽性T細胞(キラーT細胞)に大別され、CD4陽性T細胞は産生するサイトカインにより更に、Th1細胞、Th2細胞、Th17細胞、およびTreg細胞に分類される。このうちTh17細胞は自己免疫による細胞傷害を誘導することが知られている(非特許文献3)。また、Treg細胞はレギュラトリーT細胞とも呼ばれ、T細胞の活性を抑制することが知られている(非特許文献4)。しかし、GPR43とこれら免疫応答細胞の分化誘導との関係はこれまでに何ら報告されていない。
特開2004−83564号公報
A. J. Brown et al., J.Biol.Chem., 278:11312-1319, 2003 Y. H. Hong et al., Endocrinology 146:5092-5099, 2005 Bettelli E et al., Nature 453:1051-1057, 2008 Allan SE et al., Immunological Reviews 223:391-421, 2008
本発明者らは、今般、GPR43のリガンドである短鎖脂肪酸によりマウスTh17細胞の分化誘導が極めて効率よく誘導されるとともに、マウスTreg細胞の分化誘導が抑制され、マウスにおいてTh17/Treg経路が強制的にTh17に変更されることを見出した。本発明者らは、また、短鎖脂肪酸による刺激がGPR43を経由したものであることを確認した。更に本発明者らは、驚くべきことに、ヒトTh17細胞およびヒトTreg細胞ではマウスの場合と逆の結果が得られること、すなわち、短鎖脂肪酸によりヒトTh17細胞の分化誘導が抑制されるとともに、ヒトTreg細胞の分化誘導が促進され、Th17/Treg経路が強制的にTregに変更されることを見出した。すなわち、本発明者らは、Th17細胞の分化誘導およびTreg細胞の分化誘導を調節する物質を、GPR43の機能を指標にしてスクリーニングできることを見出し、本発明を完成させた。本発明はこれらの知見に基づくものである。
すなわち、本発明は、以下の通りである。
(1)GPR43の機能を調節する物質をTh17細胞および/またはTreg細胞の分化誘導を調節する物質であると決定することを特徴とする、Th17細胞および/またはTreg細胞の分化誘導を調節する物質のスクリーニング方法。
(2)GPR43またはそれを含む細胞もしくはその細胞膜画分を被験物質と接触させ、被験物質がGPR43の機能を調節する物質であるかどうかを決定し、被験物質がGPR43の機能を調節する物質である場合に、その物質をTh17細胞および/またはTreg細胞の分化誘導を調節する物質であると決定することを含んでなる、(1)に記載の方法。
(3)GPR43またはそれを含有する細胞もしくはその細胞膜画分への被験物質の結合の程度を測定することにより、被験物質がGPR43の機能を調節する物質であるかどうかを決定する、(2)に記載の方法。
(4)被験物質の存在下および被験物質の非存在下において、GPR43またはそれを含有する細胞もしくはその細胞膜画分を短鎖脂肪酸またはその塩と接触させ、次いで、GPR43またはそれを含有する細胞もしくはその細胞膜画分への短鎖脂肪酸またはその塩の結合の程度を測定することにより、被験物質がGPR43の機能を調節する物質であるかどうかを決定する、(2)に記載の方法。
(5)被験物質の非存在下における、GPR43またはそれを含有する細胞もしくはその細胞膜画分への短鎖脂肪酸またはその塩の結合量に対して、被験物質存在下における前記結合量が低下する場合に、その被験物質をGPR43の機能を調節する物質であると決定する、(4)に記載の方法。
(6)被験物質の存在下および被検物質の非存在下において、GPR43またはそれを含有する細胞もしくはその細胞膜画分の細胞刺激活性を測定することにより、被験物質がGPR43の機能を調節する物質であるかどうかを決定する、(2)に記載の方法。
(7)被験物質の非存在下における細胞刺激活性に対して、被験物質存在下における細胞刺激活性が変化する場合に、その被験物質をGPR43の機能を調節する物質であると決定する、(6)に記載の方法。
(8)GPR43またはそれを含有する細胞もしくはその細胞膜画分を、更に短鎖脂肪酸またはその塩と接触させ、被験物質の非存在下における細胞刺激活性に対して、被験物質存在下における細胞刺激活性が変化する場合に、その被験物質をGPR43の機能を調節する物質であると決定する、(6)に記載の方法。
(9)(A)GPR43またはそれを含有する細胞もしくはその細胞膜画分への被験物質の結合の程度を測定することにより、被験物質がGPR43またはそれを含有する細胞もしくはその細胞膜画分へ結合性を有する物質であるかどうかを決定し、
(B)前記(A)によりGPR43またはそれを含有する細胞もしくはその細胞膜画分へ結合性を有すると決定された被験物質の存在下および非存在下において、GPR43またはそれを含有する細胞もしくはその細胞膜画分の細胞刺激活性を測定することにより、被験物質がGPR43の機能を調節する物質であるかどうかを決定する、
(2)に記載の方法。
(10)(A)において、被験物質の存在下および被験物質の非存在下において、GPR43またはそれを含有する細胞もしくはその細胞膜画分を短鎖脂肪酸またはその塩と接触させ、次いで、GPR43またはそれを含有する細胞もしくはその細胞膜画分への短鎖脂肪酸またはその塩の結合の程度を測定することにより、被験物質がGPR43またはそれを含有する細胞もしくはその細胞膜画分へ結合性を有する物質であるかどうかを決定する、(9)に記載の方法。
(11)(B)において、被験物質の非存在下における細胞刺激活性に対して、被験物質存在下における細胞刺激活性が変化する場合に、その被験物質をGPR43の機能を調節する物質であると決定する、(9)に記載の方法。
(12)(B)において、GPR43またはそれを含有する細胞もしくはその細胞膜画分を、更に短鎖脂肪酸またはその塩と接触させ、被験物質の非存在下における細胞刺激活性に対して、被験物質存在下における細胞刺激活性が変化する場合に、その被験物質をGPR43の機能を調節する物質であると決定する、(9)に記載の方法。
(13)細胞刺激活性が、細胞内アデニル酸シクラーゼ活性および/または細胞内のカルシウム遊離活性である、(6)〜(12)のいずれか一項に記載の方法。
(14)細胞刺激活性が、Th17細胞分化誘導活性および/またはTreg細胞分化誘導活性である、(6)〜(12)のいずれか一項に記載の方法。
(15)短鎖脂肪酸が、ブチル酸、プロピオン酸、または酢酸である、(4)、(5)、(8)、(10)、または(12)に記載の方法。
(16)自己免疫疾患および/またはガンの発症・進展を調節する物質のスクリーニング方法である、(1)〜(15)のいずれか一項に記載の方法。
(17)GPR43またはそれを含む細胞もしくはその細胞膜画分が齧歯類由来である、(1)〜(16)のいずれか一項に記載の方法。
(18)被験物質が、短鎖脂肪酸存在下における細胞刺激活性を低下させる場合に、その物質を齧歯類におけるTh17細胞分化誘導阻害剤またはその候補あるいはTreg細胞分化誘導促進剤またはその候補であると決定する、(17)に記載の方法。
(19)GPR43またはそれを含む細胞もしくはその細胞膜画分が霊長類由来である、(1)〜(16)のいずれか一項に記載の方法。
(20)被験物質が、短鎖脂肪酸存在下における細胞刺激活性を低下させる場合に、その物質を霊長類におけるTh17細胞分化誘導促進剤またはその候補あるいはTreg細胞分化誘導阻害剤またはその候補であると決定する、(19)に記載の方法。
Th17細胞の分化誘導は自己免疫疾患の発症や進展に関連しており、Treg細胞の分化誘導はガンの発症や進展に関連している。従って、化合物をスクリーニングにかけ、Th17細胞の分化誘導を調節する物質やTreg細胞の分化誘導を調節する物質を同定することができる本発明による方法は、自己免疫疾患やガンの発症・進展を調節する物質、特に、これらの疾患の治療剤等の探索や開発に多大な貢献をなすものといえる。
短鎖脂肪酸存在下で分化誘導培養を行ったTh17細胞およびTreg細胞のフローサイトメーター解析像を示した図である。 短鎖脂肪酸存在下で分化誘導培養を行ったTh17細胞およびTreg細胞の絶対数(ウェル中の細胞数)を示した図である。黒丸はTreg細胞数を、白丸はTh17細胞数を、それぞれ示す。 ブチル酸存在下で分化誘導培養を行ったTh17細胞およびTreg細胞のフローサイトメーター解析像(左列)と、Th17細胞(白丸)およびTreg細胞(黒丸)の頻度(中列)および絶対数(右列)を示した図である。 GPR43ノックアウトマウス(GPR43−/−)、GPR43ヘテロマウス(GPR43+/−)、およびGPR43野生型マウス(GPR43+/+)について、ブチル酸ナトリウム塩(NaB)によるTh17細胞/Treg細胞刺激試験を行った結果を示した図である。左列および中列はフローサイトメーター解析像(左列)を示し、右列は培養終了時のTh17細胞およびTreg細胞の細胞数を示す。黒丸はTreg細胞数を、白丸はTh17細胞数を、それぞれ示す。 分化を終えたTh17細胞について、短鎖脂肪酸によるTh17細胞刺激試験を行った結果を示した図である。培養開始1日後、2日後、3日後のフローサイトメトリー解析像を中列に示し、その結果算定されたTh17細胞数を最右上段に示した。刺激培養の上清を用いてTh17細胞から産生されたIL−17をELISA法で定量した結果を最右下段に示した。黒丸は300μMブチル酸添加培養を、白丸はブチル酸無添加のコントロール培養を示す。 短鎖脂肪酸をマウスにインビボ投与した場合の生体内のTh17細胞頻度を示した図である。左上段および右上段はTh17細胞の頻度を示し、左下段および右下段はTreg細胞の頻度を示す。また、左列は腸間膜リンパ節における結果を示し、右列は脾臓における結果を示す。 ブチル酸ナトリウム塩存在下で分化誘導培養を行ったヒトTh17細胞およびTreg細胞のフローサイトメーター解析像(左列)と、Th17細胞(白丸)およびTreg細胞(黒丸)の頻度(中列)および絶対数(右列)を示した図である。最下段右にTh17コンディションにおける培養上清中のIL−17濃度を示した。 酢酸存在下で分化誘導培養を行ったヒトTh17細胞およびTreg細胞のフローサイトメーター解析像(左列)と、Th17細胞(白丸)およびTreg細胞(黒丸)の頻度(中列)および絶対数(右列)を示した図である。最下段右にTh17コンディションにおける培養上清中のIL−17濃度を示した。
発明の具体的説明
[短鎖脂肪酸]
本発明では、GPR43のリガンドとして短鎖脂肪酸を使用できる(特許文献1、非特許文献1)。「短鎖脂肪酸」とは炭素数1〜6の飽和または不飽和の脂肪酸を意味する。短鎖脂肪酸のうち飽和短鎖脂肪酸は、H−(CH−COOH(nは、1〜6の整数を表す)で表すことができる。本発明によるスクリーニング方法に用いられる短鎖脂肪酸としては、好ましくは、ブチル酸、プロピオン酸、酢酸などの飽和短鎖脂肪酸が挙げられるが、これらに限定されるものではない。短鎖脂肪酸は市販されており、当業者であれば容易に入手することができる。短鎖脂肪酸は、また、短鎖脂肪酸を含む動植物から、常法に従って、抽出または精製の工程を経て調製してもよい。本発明では、短鎖脂肪酸は塩の形態で用いてもよく、そのような塩としては周知の塩が挙げられるが、典型的にはアルカリ金属塩(例えばナトリウム塩、カリウム塩)が挙げられる。なお、本明細書において単に「短鎖脂肪酸」と言及した場合にはその塩も含む意味で用いられるものとする。
[GPR43]
本発明のスクリーニング方法に使用するGPR43は、短鎖脂肪酸による活性化作用、あるいは短鎖脂肪酸と結合活性を有し、GPR43発現細胞の細胞刺激活性(例えば細胞内のCa2+の遊離、アデニル酸シクラーゼの活性化、細胞内cAMP生成、細胞内cGMP生成、イノシトールリン脂質生成、細胞膜電位変化、細胞膜近傍pH変化、細胞内タンパク質のリン酸化、c−fosおよびc−junの誘導活性など)を有するものであれば、その起源は特に限定されず、例えばGPR43を発現する臓器、組織、細胞などの天然由来のもの、公知の遺伝子工学的手法、合成法などにより人為的に調製したものも包含される。また、GPR43の部分ポリペプチドとして後述のスクリーニング方法に使用可能であれば特に限定されず、例えば短鎖脂肪酸による活性化作用、あるいは短鎖脂肪酸に対する結合能を有する部分ポリペプチド、細胞膜外領域に相当するアミノ酸配列を含む部分ポリペプチドなども使用することもできる。
具体的には、本発明のスクリーニング方法に使用するGPR43は、GPR43(GenBankアクセッション番号NP_005297.1(ヒト型)、NP_666299.1(マウス型)、NP_001005877(ラット型))と称されているポリペプチドである。具体的には、GPR43は、(i)配列番号2で表されるアミノ酸配列を含むポリペプチド、(ii)配列番号2で表されるアミノ酸配列を含むポリペプチドと機能的に等価な改変ポリペプチド、(iii)配列番号2で表されるアミノ酸配列を含むポリペプチドのアミノ酸配列に関して70%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる相同ポリペプチド、(iv)配列番号1で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、しかも、前記のGPR43と実質的に同じ活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチド;および(v)配列番号1で表される塩基配列と少なくとも70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、さらにより好ましくは95%以上、特に好ましくは98%以上、そして最も好ましくは99%以上の同一性を有し、しかも、前記のGPR43と実質的に同じ活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチドが含まれる。本発明に使用するGPR43としては、「配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド」が好ましい。なお、前記ポリペプチドには、ポリペプチドの塩が含まれ、さらには糖鎖を有しないものと糖鎖を有するものとの両方が含まれる。
ここで、「機能的に等価な改変ポリペプチド」(以下、「改変ポリペプチド」と称する)とは、そのアミノ酸配列が、配列番号2で表されるアミノ酸配列を含むポリペプチドにおいて1または複数個(好ましくは1または数個)のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列であって、しかもGPR43と実質的に同じ活性[例えば、短鎖脂肪酸による活性化作用、あるいは短鎖脂肪酸との結合能、およびそれにより生じる種々の細胞刺激活性(例えば細胞内のCa2+の遊離、アデニル酸シクラーゼの活性化、細胞内cAMP生成、細胞内cGMP生成、イノシトールリン脂質生成、細胞膜電位変化、細胞膜近傍pH変化、細胞内タンパク質のリン酸化、c−fosおよびc−junの誘導活性など)]を有するポリペプチドを意味する。改変ポリペプチドは、好ましくは、そのアミノ酸配列が、配列番号2で表されるアミノ酸配列を含むポリペプチドにおいて1または複数個(好ましくは1または数個)の保存的置換を有するアミノ酸配列であって、しかもGPR43と実質的に同じ活性を有するポリペプチドであることができる。
本願明細書において「保存的置換」とは、ペプチドの活性を実質的に改変しないように、1または複数個のアミノ酸残基を、別の化学的に類似したアミノ酸残基で置換えることを意味する。例えば、ある疎水性残基を別の疎水性残基によって置換する場合、ある極性残基を同じ電荷を有する別の極性残基によって置換する場合などが挙げられる。このような置換を行うことができる機能的に類似のアミノ酸は、アミノ酸毎に当該技術分野において公知である。具体例を挙げると、非極性(疎水性)アミノ酸としては、アラニン、バリン、イソロイシン、ロイシン、プロリン、トリプトファン、フェニルアラニン、メチオニンなどが挙げられる。極性(中性)アミノ酸としては、グリシン、セリン、スレオニン、チロシン、グルタミン、アスパラギン、システインなどが挙げられる。陽電荷をもつ(塩基性)アミノ酸としては、アルギニン、ヒスチジン、リジンなどが挙げられる。また、負電荷をもつ(酸性)アミノ酸としては、アスパラギン酸、グルタミン酸などが挙げられる。
ここで、欠失、置換、挿入および/または付加されてもよいアミノ酸の数は、例えば1〜30個、好ましくは1〜20個、より好ましくは1〜10個、さらに好ましくは1〜5個、特に好ましくは1〜2個である。なお、前記改変ポリペプチドには、改変ポリペプチドの塩が含まれ、さらには糖鎖を有しないものと糖鎖を有するものとの両方が含まれる。従って、これらの条件を満たす限り、前記改変ポリペプチドの起源は、ヒトに限定されない。
改変ポリペプチドの例としては、ヒト以外の生物[例えば非ヒト哺乳動物(例えばマウス、ラット、ハムスター、ブタ、イヌなど)、鳥類、爬虫類、両生類、魚類、昆虫類など]由来のGPR43もしくはその変異体が挙げられる。具体的には配列番号4で表されるアミノ酸配列(マウス(C57BL/6)由来)からなるポリペプチド、配列番号6で表されるアミノ酸配列(ラット由来)、または配列番号8で表されるアミノ酸配列(マウス(BALB/c)由来)からなるポリペプチドが挙げられる。
上述の相同ポリペプチドとは、GPR43のアミノ酸配列に関して70%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる限り、特に限定されるものではないが、GPR43に関して、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、さらにより好ましくは95%以上、特に好ましくは98%以上、そして最も好ましくは99%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなるアミノ酸配列であって、しかもGPR43と実質的に同じ活性(例えば短鎖脂肪酸による活性化作用、あるいは短鎖脂肪酸との結合能、およびそれにより生じる種々の細胞刺激活性)を有するポリペプチドを意味する。
本願明細書において、「同一性」の数値はいずれも、当業者に公知の相同性検索プログラムを用いて算出される数値であればよく、例えば全米バイオテクノロジー情報センター(NCBI)の相同性アルゴリズムBLAST(Basic local alignment search tool)http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/においてデフォルト(初期設定)のパラメーターを用いることにより、算出することができる。なお、前記相同ポリペプチドには、相同ポリペプチドの塩が含まれ、さらには糖鎖を有しないものと糖鎖を有するものとの両方が含まれる。従って、これらの条件を満たす限り、前記相同ポリペプチドの起源は、ヒトに限定されない。例えばヒト以外の生物[例えば非ヒト哺乳動物(例えばマウス、ラット、ハムスター、ブタ、イヌなど)、鳥類、爬虫類、両生類、魚類、昆虫類など]由来のGPR43もしくはその変異体が含まれる。具体的には配列番号4、配列番号6、または配列番号8で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドが挙げられる。
なお、変異体とは、「variation」、すなわち、同一種内の同一ポリペプチドにみられる個体差、あるいは、数種間の相同ポリペプチドにみられる差異を意味する。
さらに、本発明に使用するGPR43(すなわち、GPR43、改変ポリペプチド、相同ポリペプチド)の部分ポリペプチドも、GPR43と実質的に同じ活性(例えば短鎖脂肪酸による活性化作用、あるいは短鎖脂肪酸との結合能、およびそれにより生じる種々の細胞刺激活性、細胞膜外領域に相当するアミノ酸配列を含む部分ポリペプチド)を有する限り使用することができる。この場合、部分ポリヌクレオチドを構成するアミノ酸数は、GPR43のアミノ酸数の90%、80%、70%、60%、50%、40%、30%、20%、10%または5%である。
本発明に使用するGPR43をコードするポリペプチドとしては、「配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド」が好ましい。また、配列番号4、配列番号6、または配列番号8で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドが挙げられる。
[GPR43の調製方法]
これら本発明に使用するGPR43(すなわち、GPR43、改変ポリペプチド、相同ポリペプチド)およびその部分ポリペプチドは、種々の公知の方法、例えば遺伝子工学的手法、合成法などによって得ることができる。具体的には、遺伝子工学的手法の場合、GPR43またはその部分ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを適当な宿主細胞に導入し、得られた形質転換体から発現可能な条件下で培養し、発現タンパク質の分離および精製に一般的に用いられる方法により、その培養物から所望のポリペプチドを分離および精製することによって調製することができる。前記の分離および精製方法としては、例えば硫安塩析、イオン交換セルロースを用いるイオン交換カラムクロマトグラフィー、分子篩ゲルを用いる分子篩カラムクロマトグラフィー、プロテインA結合多糖類を用いる親和性カラムクロマトグラフィー、透析、または凍結乾燥などを挙げることができる。また、合成法の場合は、液相法、固相法など常法に従い合成することが可能であり、通常、自動合成機を利用することができる。化学修飾物の合成は常法により行なうことができる。また、適当なタンパク質分解酵素で切断することによって所望の部分ポリペプチドを調製することができる。
以下、本発明に使用するGPR43の調製方法のうち、遺伝子工学的手法について詳述するが、その部分ポリペプチドについても、後述のスクリーニング方法に使用可能であれば特に限定されない。
[GPR43をコードするポリヌクレオチド]
本発明に使用するGPR43(すなわち、GPR43、改変ポリペプチド、相同ポリペプチド)をコードするポリヌクレオチドは、GPR43、その改変ポリペプチド、その相同ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドである限り、特に限定されるものではない。
なお、本願明細書における用語「ポリヌクレオチド」には、DNAおよびRNAの両方が含まれる。本発明に使用するGPR43をコードするポリヌクレオチドには、具体的には下記の(a)〜(f)からなる群より選択されるものが挙げられる。
(a)配列番号1で表される塩基配列からなる、ポリヌクレオチド;
(b)「配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド」をコードする、ポリヌクレオチド;
(c)「配列番号2で表されるアミノ酸配列を含み、しかも、前記のGPR43と実質的に同じ活性を有するポリペプチド」をコードする、ポリヌクレオチド;
(d)「配列番号2で表されるアミノ酸配列の1または複数個(好ましくは1または数個)の箇所において、1または複数個(好ましくは1または数個)のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列を含み、しかも、前記のGPR43と実質的に同じ活性を有するポリペプチド」をコードする、ポリヌクレオチド;
(e)配列番号1で表される塩基配列の相補配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、しかも、前記のGPR43と実質的に同じ活性を有するポリペプチドをコードする、ポリヌクレオチド;および
(f)配列番号1で表される塩基配列と少なくとも70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、さらにより好ましくは95%以上、特に好ましくは98%以上、そして最も好ましくは99%以上の同一性を有し、しかも、前記のGPR43と実質的に同じ活性を有するポリペプチドをコードする、ポリヌクレオチドに関する。
本発明の一つの態様によれば、本発明に使用するGPR43をコードするポリヌクレオチドは、「配列番号2で表されるアミノ酸配列の1または複数個(好ましくは1または数個)の箇所において、1または複数個(好ましくは1または数個)のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列を含み、しかも、前記のGPR43と実質的に同じ活性を有するポリペプチド」をコードしてなるものである。ここで、欠失、置換、挿入および/または付加されてもよいアミノ酸の数は、例えば1〜30個、好ましくは1〜20個、より好ましくは1〜10個、さらに好ましくは1〜5個、特に好ましくは1〜2個である。
本発明の別の一つの態様によれば、本発明に使用するGPR43をコードするポリヌクレオチドは、「配列番号1で表される塩基配列の相補配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、しかも、前記のGPR43と実質的に同じ活性を有するポリペプチド」をコードしてなるものである。具体的には配列番号3、配列番号5、または配列番号7で表されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドが挙げられる。
本願明細書において、ストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドとは、具体的には、FASTA、BLAST、Smith−Waterman〔Meth. Enzym., 164, 765 (1988)〕などの相同性検索ソフトウェアにより、デフォルト(初期設定)のパラメーターを用いて計算したときに、配列番号1で表される塩基配列と少なくとも70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、さらにより好ましくは95%以上、特に好ましくは98%以上、そして最も好ましくは99%以上の同一性を有するポリヌクレオチドが挙げられる。また、「ストリンジェントな条件下」とは、当業者が通常使用し得るハイブリダイゼーション緩衝液中で、温度が40℃〜70℃、好ましくは60℃〜65℃などで反応を行い、塩濃度が15〜300mmol/L、好ましくは15〜60mmol/Lなどの洗浄液中で洗浄する方法に従って行なうことができる。温度、塩濃度は使用するプローブの長さに応じて適宜調整することが可能である。
本発明に使用するGPR43をコードするポリヌクレオチドは、例えば天然由来のものであることもできるし、または全合成したものであることもできる。さらには、天然由来のものの一部を利用して合成を行なったものであることもできる。本発明に使用するGPR43をコードするポリヌクレオチドの典型的な取得方法としては、例えば市販のライブラリーまたはcDNAライブラリーから、遺伝子工学の分野で慣用されている方法、例えば部分アミノ酸配列(例えば配列番号2で表されるアミノ酸配列)の情報を基にして作成した適当なDNAプローブを用いてスクリーニングを行なう方法などを挙げることができる。
本発明に使用するGPR43をコードするポリヌクレオチドとしては、「配列番号1で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド」が好ましい。本発明では、ヒト以外の生物[例えば非ヒト哺乳動物(例えばマウス、ラット、ハムスター、ブタ、イヌなど)、鳥類、爬虫類、両生類、魚類、昆虫類など]由来のGPR43またはその変異体をコードする塩基配列を用いることができ、例えば、配列番号3、配列番号5、または配列番号7で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドが挙げられる。
[プラスミドおよび形質転換体]
前記形質転換に使用されるプラスミドは、上記のようなGPR43をコードするポリヌクレオチドを含む限り、特に限定されるものではなく、用いる宿主細胞に応じて適宜選択した公知の発現ベクターに、当該ポリヌクレオチドを挿入することにより得られるプラスミドを挙げることができる。
また、前記形質転換体も、上記のようなGPR43をコードするポリヌクレオチドを含む限り、特に限定されるものではなく、例えば当該ポリヌクレオチドが宿主細胞の染色体に組み込まれた形質転換体であることもできるし、あるいは、当該ポリヌクレオチドを含むプラスミドの形で含有する形質転換体であることもできるし、あるいは、GPR43を発現していない形質転換体であることもできる。当該形質転換体は、例えば前記プラスミドにより、あるいは、前記ポリヌクレオチドそれ自体により、所望の宿主細胞を形質転換することにより得ることができる。
前記宿主細胞としては、例えば通常使用される公知の微生物、例えば大腸菌(例えばEscherichia coli JM109株)または酵母(例えばSaccharomyces cerevisiae W303株)、あるいは、公知の培養細胞、例えば動物細胞(例えばCHO細胞、HEK−293細胞、またはCOS細胞)または昆虫細胞(例えばBmN4細胞)を挙げることができる。
また、公知の前記発現ベクターとしては、例えば大腸菌に対しては、pUC、pTV、pGEX、pKK、またはpTrcHisを;酵母に対しては、pEMBLYまたはpYES2を;CHO細胞、HEK−293細胞およびCOS細胞に対しては、pcDNA3、pMAMneoまたはpBabe Puroを;BmN4細胞に対しては、カイコ核多角体ウイルス(BmNPV)のポリヘドリンプロモーターを有するベクター(例えばpBK283)を挙げることができる。
GPR43を含有する細胞は、GPR43を細胞膜表面に発現している限り、特に限定されるものではない。GPR43を元々発現する細胞を、GPR43を含有する細胞として利用することができる。また、前記形質転換体(すなわち、GPR43をコードするポリヌクレオチドを含むプラスミドで形質転換された細胞)を、GPR43の発現が可能な条件下で培養することによりGPR43を含有する細胞を得ることもできるし、あるいは、適当な細胞に、GPR43をコードするRNAを注入し、GPR43の発現が可能な条件下で培養することによりGPR43を含有する細胞を得ることもできる。
[細胞膜画分]
また、GPR43を含有する本発明に使用する細胞膜画分は、例えば前記のGPR43を発現する細胞を破砕した後、細胞膜が多く含まれる画分を分離することにより得ることができる。細胞の破砕方法としては、例えばホモジナイザー(例えばPotter−Elvehiem型ホモジナイザー)で細胞を押し潰す方法、ワーリングブレンダーまたはポリトロン(Kinematica社)による破砕、超音波による破砕、あるいは、フレンチプレスなどで加圧しながら細いノズルから細胞を噴出させることによる破砕などを挙げることができる。また、細胞膜の分画方法としては、例えば遠心力による分画法、例えば分画遠心分離法または密度勾配遠心分離法を挙げることができる。
[スクリーニング方法]
本発明によるスクリーニング方法では、被験物質がGPR43の機能を調節する物質であるかどうかは、GPR43のバインディングアッセイ(第一の態様)、GPR43を介した細胞刺激活性のアッセイ(第二の態様)、およびこれらを組み合わせたアッセイ(第三の態様)のいずれかにより決定することができる。
本発明によるスクリーニング方法の第一の態様によれば、GPR43またはそれを含有する細胞もしくはその細胞膜画分への被験物質の結合の程度を測定することにより、被験物質がGPR43の機能を調節する物質であるかどうかを決定するスクリーニング方法が提供される。被験物質がGPR43またはそれを含有する細胞もしくはその細胞膜画分へ結合性を有する場合には、その被験物質はGPR43の機能を調節する物質であると決定することができる。GPR43のリガンドとして短鎖脂肪酸を用いて被験物質の結合の程度を測定することができるが、後述するようにリガンドを使用せずに被験物質の結合の程度を直接測定することもできる。
例えば、本発明によるスクリーニング方法の第一の態様によれば、被験物質存在下および被験物質非存在下において、GPR43またはGPR43を含有する細胞もしくはその細胞膜画分を短鎖脂肪酸と接触させ、次いで、GPR43またはGPR43を含有する細胞もしくはその細胞膜画分への短鎖脂肪酸の結合の程度を測定することにより、被験物質がGPR43の機能を調節する物質であるかどうかを決定するスクリーニング方法が提供される。
このスクリーニング方法では、GPR43の機能を促進もしくは阻害する能力を区別せずに被験物質をスクリーニングすることができる。すなわち、このスクリーニング方法では、短鎖脂肪酸とGPR43との相互作用を変化させる物質を、具体的には、短鎖脂肪酸のGPR43への結合性を変化させる物質を、GPR43の機能を調節(すなわち、促進もしくは阻害)する能力を有する物質であると、具体的には、Th17細胞および/またはTreg細胞の分化誘導を調節する物質であると決定することができる。
例えば、被験物質非存在下および被験物質存在下の各条件下において、GPR43または前記細胞もしくは前記細胞膜画分と、標識したリガンド(すなわち、短鎖脂肪酸)とを接触させ、前記条件下におけるGPR43または前記細胞もしくは前記細胞膜画分を介する前記リガンドの特異的結合量を比較することにより、GPR43の機能を促進もしくは阻害する能力を区別せずに被験物質をスクリーニングすることができる。すなわち、被験物質非存在下におけるGPR43または前記細胞もしくは前記細胞膜画分を介する前記リガンドの特異的結合量に対して、被験物質存在下における前記特異的結合量が低下する場合(例えば、被験物質非存在下の結合量と比較して5%以上あるいは10%以上減少する場合)には、その被験物質は、短鎖脂肪酸とGPR43との相互作用を変化させる物質(具体的には、GPR43の機能を調節(すなわち、促進もしくは阻害)する能力を有する物質)であるから、Th17細胞および/またはTreg細胞の分化誘導を調節(すなわち、促進もしくは阻害)する物質であると決定することができる。
本発明のスクリーニング方法において、GPR43または前記細胞もしくは前記細胞膜画分を介するリガンドの特異的結合量を比較する場合には、標識したリガンドを用いることができる。その標識としては、例えば、放射性同位元素、酵素、蛍光物質、発光物質などが用いられる。放射性同位元素としては、例えば、[H]、[14C]、[125I]、[35S]などを用いることができる。酵素としては、例えばβ−ガラクトシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、パーオキシダーゼなどを用いることができる。蛍光物質としては、例えばフルオレセイソチオシアネート、BODIPYなどを用いることができる。発光物質としてはルシフェリン、ルシゲニンなどを用いることができる。場合によっては、リガンドと標識物質を結合させるためにビオチン−アビジンの系を用いることもできる。
本発明のスクリーニング方法において、GPR43またはGPR43を含有する細胞もしくはその細胞膜画分へのリガンドの結合の程度を測定する装置は、当該結合量が測定可能な装置である限り特に限定されるものではないが、例えば、放射線測定装置、光学測定装置(イメージアナライザー、蛍光検出装置、発光検出装置、共焦点レーザー顕微鏡、共振導波路回折格子を用いた光バイオセンサーなど)、電気抵抗測定装置、およびこれらの組み合わせが挙げられる。これらの装置は市販されており、リガンドの標識の種類や標識の有無に応じて適宜選択することができる。
本発明では「放射線測定装置」を用いて放射性同位元素で標識されたリガンドの結合量を測定することができる。このような装置としては、液体シンチレーションカウンターが挙げられる。
本発明ではまた、「光学測定装置」を用いて蛍光物質、発光物質などで標識されたリガンドの結合量を測定することができる。このような検出は、FRET(Fluorescence resonance energy transfer)法に従って行ってもよい。蛍光や発光を測定できる装置としては、イメージアナライザー、蛍光検出装置、発光検出装置が挙げられる。
本発明ではまた、GPR43にリガンドあるいは被験物質が結合したことにより生ずる構造変化を測定することにより、GPR43またはGPR43を含有する細胞もしくはその細胞膜画分へのリガンドあるいは被験物質の結合の程度を直接検出することができる。このような構造変化を検出できるキットは市販されており、例えば、Tango(Invitrogen社)を使用した場合にはGタンパク質結合受容体にリガンドあるいは被験物質が結合したことによるその受容体の活性化の程度を共焦点レーザー顕微鏡を用いて検出することができる。構造変化を測定するこの方法によれば、標識を使用せずにGRP43とリガンドとの結合の程度を測定できる。また、構造変化を測定するこの方法によれば、リガンドを使用せずにGPR43への被験物質の結合の程度を測定できる。
本発明では更に、生体分子間の相互作用を測定できる「電気抵抗測定装置」や「光学測定装置」を用いて、GPR43とリガンドあるいは被験物質との間の相互作用を測定することにより、GPR43またはGPR43を含有する細胞もしくはその細胞膜画分へのリガンドあるいは被験物質の結合の程度を直接検出することができる。このような「電気抵抗測定装置」としては、細胞内外のインピーダンスの変化を測定することができるもの(例えば、Cellkeyシステム、MDS Analytical Technologies社)が挙げられ、また、「光学測定装置」としては、標的物質とそれに結合する物質との相互作用によって生じる微少な屈折率変化を共振導波路回折格子により検出できるもの(例えば、EPICバイオセンサー(コーニング社)が挙げられる。生体分子間の相互作用を測定するこの方法によれば、標識を使用せずにGRP43とリガンドとの結合の程度を測定できる。また、生体分子間の相互作用を測定するこの方法によれば、リガンドを使用せずにGPR43への被験物質の結合の程度を測定できる。
本発明によるスクリーニング方法の第二の態様によれば、被験物質存在下および被験物質非存在下において、GPR43またはGPR43を含有する細胞もしくはその細胞膜画分の細胞刺激活性を測定することにより、被験物質がGPR43の機能を調節する物質であるかどうかを決定するスクリーニング方法が提供される。
このスクリーニング法では、GPR43リガンドによりGPR43を経由して惹起される細胞刺激活性を変化(促進もしくは阻害)させる物質を、GPR43の機能を調節する物質であると、より具体的には、Th17細胞および/またはTreg細胞の分化誘導を調節する物質であると決定することができる。
このスクリーニング法では、また、GPR43を経由した細胞刺激活性を促進または阻害する能力を区別して被験物質をスクリーニングしてもよい。具体的には、被験物質非存在下における細胞刺激活性と、被験物質存在下における細胞刺激活性とを比較し、後者の方が大きい場合(例えば、被験物質非存在下の細胞刺激活性と比較して5%以上あるいは10%以上増加する場合)には、その被験物質は、GPR43を経由した細胞刺激活性を促進ないし増強する物質であると決定することができる。また、被験物質非存在下における細胞刺激活性と、被験物質存在下における細胞刺激活性とを比較し、後者の方が小さい場合(例えば、被験物質非存在下の細胞刺激活性と比較して5%以上あるいは10%以上低下する場合)には、その被験物質は、GPR43を経由した細胞刺激活性を阻害ないし低減する物質であると決定することができる。なお、細胞刺激活性の低下を指標としてGPR43の機能を阻害する物質をスクリーニングする場合には、適度な細胞刺激活性が得られるよう、スクリーニング系に短鎖脂肪酸を添加してもよい。
本発明によるスクリーニング方法の第三の態様によれば、第一の態様のスクリーニング方法を実施し、GPR43へ結合性を有する物質であると決定された被験物質について第二の態様のスクリーニング方法を実施する、スクリーニング方法が提供される。
このスクリーニング法では、GPR43またはGPR43を含有する細胞もしくはその細胞膜画分へ結合性を有する物質を絞り込んだ上で、細胞刺激活性の測定を行い、実際にGPR43の機能を調節(すなわち、促進もしくは阻害)する被験物質をスクリーニングできる点で有利である。すなわち、第三の態様のスクリーニング方法では、GPR43またはGPR43を含有する細胞もしくはその細胞膜画分へ結合性を有する物質をまず同定し、次いで、同定された物質について細胞刺激活性へ与える影響を評価し、GPR43の細胞刺激活性を変化(促進もしくは阻害)させる物質をGPR43の機能を調節する物質であると、より具体的には、Th17細胞および/またはTreg細胞の分化誘導を調節(すなわち、促進もしくは阻害)する物質であると決定することができる。
具体的には、まず、GPR43またはそれを含有する細胞もしくはその細胞膜画分への被験物質の結合の程度を測定することにより、GPR43の機能を促進もしくは阻害する能力を区別せずに化合物をスクリーニングする(第一の態様のスクリーニング方法)。この場合、短鎖脂肪酸の存在下でスクリーニングを行うことができる。すなわち、被験物質非存在下および被験物質存在下の各条件下において、GPR43または前記細胞もしくは前記細胞膜画分を短鎖脂肪酸と接触させ、被験物質非存在下および被験物質存在下におけるGPR43または前記細胞もしくは前記細胞膜画分を介する前記リガンドの特異的結合量を比較することにより、GPR43の機能を促進もしくは阻害する能力を区別せずに化合物をスクリーニングすることができる。次いで、前記スクリーニングにおいて同定されたGPR43に結合性を有する被験物質の非存在下および存在下の各条件下において、GPR43またはGPR43を含有する細胞もしくはその細胞膜画分の細胞刺激活性を比較することにより、実際にGPR43の機能を調節(すなわち、促進もしくは阻害)する被験物質をスクリーニングする(第二の態様のスクリーニング方法)。
第二の態様および第三の態様のスクリーニング方法では、GPR43を経由した細胞刺激活性を促進もしくは阻害する能力を区別して被験物質をスクリーニングし、その結果に基づいてTh17細胞およびTreg細胞の分化誘導を促進あるいは阻害する物質であると決定してもよい。
例えば、スクリーニング系が齧歯類(例えば、マウス)のGPR43またはGPR43を含有する細胞もしくはその細胞膜画分から構成されている場合には、被験物質が短鎖脂肪酸による細胞刺激活性を阻害する物質であると評価されるときに、その被験物質を齧歯類(例えば、マウス)におけるTh17細胞分化誘導阻害剤またはその候補あるいはTreg細胞分化誘導促進剤またはその候補であると決定することができる。なお、齧歯類の例としては、マウス、ラット、ハムスター、モルモット等が挙げられる。
また、スクリーニング系が霊長類(例えば、ヒト)のGPR43またはGPR43を含有する細胞もしくはその細胞膜画分から構成されている場合には、被験物質が短鎖脂肪酸による細胞刺激活性を阻害する物質であると評価されるときに、その被験物質を霊長類(例えば、ヒト)におけるTh17細胞分化誘導促進剤またはその候補あるいはTreg細胞分化誘導阻害剤またはその候補であると決定することができる。なお、霊長類の例としては、ヒト、サル、チンパンジー、ゴリラ等が挙げられる。
第二の態様および第三の態様のスクリーニング方法では、細胞刺激活性として、細胞内のカルシウムの遊離、アデニル酸シクラーゼの活性化、細胞内cAMP生成、細胞内cGMP生成、イノシトールリン脂質生成、細胞膜電位変化、細胞膜近傍pH変化、細胞内タンパク質のリン酸化、c−fosおよびc−junの誘導活性などを測定することができ、好ましくは、アデニル酸シクラーゼの活性化の程度や細胞内Ca2+濃度の変化を測定することができる。
これらの態様のスクリーニング方法においては、例えばアデニル酸シクラーゼの活性化によって細胞内に生成するcAMP濃度や、ホスホリパーゼCの活性化によって上昇する細胞内カルシウム濃度を公知の手法で測定すればよい。
例えば、GPR43の機能を調節する化合物をスクリーニングする場合には、このスクリーニング系でGPR43を介するリガンドに代わり、被験物質を単独で接触させて細胞内のcAMPの濃度が変化するか、あるいは細胞内Ca2+濃度が変化する化合物を選択しても良い。あるいは、アデニル酸シクラーゼ活性化剤、GPR43のリガンド、および被験物質をスクリーニング用細胞に添加し、アデニル酸シクラーゼ活性化剤を単独で添加した場合に比べて、cAMP生成量が変化する化合物を選択しても良い。
細胞内cAMP量を測定する方法としては、例えばイムノアッセイなどが挙げられるが、市販のcAMP定量キットを使用することもできる。
第二の態様および第三の態様のスクリーニング方法においては、また、GPR43を細胞膜上に発現(好ましくは、GPR43を含む発現ベクターを導入し過剰に発現)し、しかも、cAMP応答配列(CRE)が5’上流に位置するレポーター遺伝子(例えばアルカリフォスファターゼ遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子、ベータラクタマーゼ遺伝子、ニトロレダクターゼ遺伝子、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ遺伝子、ベータガラクトシダーゼ遺伝子など、またはGFP(Green Fluorescent Protein)などの蛍光タンパク質遺伝子など)を含有する細胞(以下、「スクリーニング用細胞」と称することもある)を用いることにより、GPR43の機能を調節する化合物をスクリーニングすることができる。この場合は、前述のcAMPの生成が増加するとその結果、前記スクリーニング用細胞に導入されているCREをプロモーター領域に有するレポーター遺伝子の転写が促進されることを利用している。
以下、細胞内刺激活性の変化を測定する手順について、より具体的に説明する。
すなわち、前記スクリーニング用細胞に導入されているCREは、細胞内のcAMPの濃度が上昇すると発現が亢進する遺伝子群(cAMP誘導性遺伝子)の転写調節領域に共通して存在する塩基配列である。従って、アデニル酸シクラーゼの活性化剤(例えばFSK)をスクリーニング用細胞に添加すると、細胞内のcAMPの濃度が上昇し、その結果、CREの下流に位置するレポーター遺伝子の発現量が増加する。さらにこのレポーター遺伝子は、細胞内Ca2+濃度の上昇によるシグナル伝達系によっても発現量が増加する。レポーター遺伝子産物の発現量は、レポーター遺伝子産物と反応し基質から生成した発光物質の量に由来する発光を測定することによりもしくはレポーター遺伝子として産生された蛍光タンパク質由来の蛍光を測定することで容易に測定することが可能である。
被験物質による作用が、GPR43に対する結合を介した作用であるか否かは、簡単に確認することができる。例えばスクリーニング用細胞(すなわち、GPR43を細胞膜上に発現し、しかも、CREが5’上流に位置するレポーター遺伝子を含有する細胞)を用いた前記試験と並行して、コントロール用細胞(例えばCREが5’上流に位置するレポーター遺伝子を含有するものの、GPR43を細胞膜上に発現していない細胞)を用いて同様の試験を実施する。その結果、被験物質による作用が、GPR43に対する結合による作用でない場合には、スクリーニング用細胞およびコントロール用細胞でレポーター遺伝子産物の発現量に関して同じ現象が観察されるのに対して、被験物質による作用が、GPR43に対する結合による作用である場合には、スクリーニング用細胞とコントロール用細胞とでレポーター遺伝子産物の発現量に関して異なる現象が観察される。
本発明のスクリーニング方法において、GPR43またはそれを含有する細胞もしくはその細胞膜画分の細胞刺激活性を測定する装置は、当該細胞刺激活性が直接あるいは間接的に測定可能な装置である限り、特に限定されるものではないが、例えば、放射線測定装置、光学測定装置(蛍光検出装置、発光検出装置、イメージアナライザーなど)、およびこれらの組み合わせが挙げられる。
本発明では「放射線測定装置」を用いて放射性同位元素で標識された細胞内刺激活性の指標となる物質の量を測定することができる。例えば、基質として[H]myo-イノシトールを基質として用いてリン酸化イノシチドを測定することによりGPR43からのシグナリングの有無を測定することができる。放射線測定装置としては、液体シンチレーションカウンターが挙げられる。また、リン酸化イノシチドの測定は後述するHTRF法に従って実施することができる。
本発明では「光学測定装置」を用いて蛍光物質、発光物質、発色物質などの蛍光量、発光量、発色量を測定することにより、細胞内刺激活性の指標となる細胞内カルシウムイオン濃度、細胞内cAMP濃度、細胞内タンパク質のリン酸化の程度などを測定することができる。細胞内カルシウムイオン濃度、細胞内cAMP濃度、細胞内タンパク質のリン酸化の程度などを測定は当業者に周知であり、これらの測定用キットや装置も市販されている。
例えば、カルシウムイオンと結合することにより蛍光強度が変化する蛍光物質を用いて細胞内カルシウム濃度を測定することができ、そのような蛍光物質としてはFluo-3/AM、Fluo-2, Fluo-4、Fura-2、エクオリン、Calcium4などが挙げられる。この場合、Gqキメラタンパク質を利用した検出系を用いて細胞内カルシウム濃度を測定してもよい。蛍光物質を利用した細胞内カルシウム濃度の測定は、例えば、蛍光強度測定プレートリーダー(例えば、FLIPR(Molecular Device社製)、ARVO(PerkinElmer社))や細胞の機能解析装置(FDSS(浜松ホトニクス社製))などを用いて行うことができる。
また、cAMPを認識する抗体を用いて細胞内cAMP濃度を測定することができ、この場合には、ELISA法により酵素反応による発色の程度などを検出することにより細胞内cAMP濃度を測定することができる。また、cAMP生成の際に消費されるATPの量により発光量が変化する発光物質(例えば、ルシフェラーゼ)を用いて細胞内cAMP濃度を測定することができる。更に、アルファスクリーン法により細胞内cAMP濃度を測定することもでき、この場合、ビオチン化されたcAMPを介して結合する二種類のビーズのうちレーザー照射によってドナービーズから化学的シグナルが生じ、それによりアクセプタービーズから蛍光シグナルが生じ、この蛍光強度を測定することにより細胞内cAMP濃度を測定できる。これらの酵素反応による発色の程度や蛍光強度の変化の測定は、例えば、発光検出装置や蛍光検出装置を用いて行うことができる。また、細胞内cAMP濃度の測定は後述するHTRF法に従って実施することもできる。
また、リン酸化キナーゼ(例えば、MAPキナーゼ、PI3キナーゼ)を認識する抗体を用いて細胞内タンパク質のリン酸化の程度を測定することができ、この場合、酵素反応による発色の程度などを測定することによりリン酸化されたタンパク質の量を測定することができる。この酵素反応による発色の程度は、例えば、ウェスタンブロット法に基づいてEnhanced ChemiLuminescence法などにより、トータルラボイメージャー(アマシャム社)、LASイメージアナライザー(富士フィルム社)などのケミルミネッセンス発光検出装置を用いて測定することができる。
本発明においては、ハイスループットスクリーニング(HTS)を実施するために、蛍光強度の測定をホモジニアスなアッセイ系で実施することができ、例えば、HTRF(Homogeneous Time Resolved Fluorescence)法のようなTR−FRET(Time Resolved-Fluorescence Resonance Energy Transfer)法を実施することができる。このようなアッセイ系における蛍光強度の測定は、HTRF法試薬(Cisbio社)を用いて、HTRF法専用のマイクロプレートリーダー(PerkinElmer社)で実施することができる。
第二の態様および第三の態様のスクリーニング方法では、また、細胞刺激活性として、Th17細胞分化誘導活性および/またはTreg細胞分化誘導活性を測定することができる。すなわち、スクリーニング系が齧歯類(例えば、マウス)のGPR43またはGPR43を含有する細胞もしくはその細胞膜画分から構成されている場合には、短鎖脂肪酸によるGPR43を経由した細胞刺激活性の上昇は、Th17細胞分化誘導活性の上昇(Th17細胞分化誘導阻害活性の低下)あるいはTreg細胞分化誘導活性の低下(Treg細胞分化誘導阻害活性の上昇)を指標とすることができる。また、スクリーニング系が齧歯類の場合において、短鎖脂肪酸によるGPR43を経由した細胞刺激活性の低下は、Th17細胞分化誘導活性の低下(Th17細胞分化誘導阻害活性の上昇)あるいはTreg細胞分化誘導活性の上昇(Treg細胞分化誘導阻害活性の低下)を指標とすることができる。
スクリーニング系が霊長類(例えば、ヒト)のGPR43またはGPR43を含有する細胞もしくはその細胞膜画分から構成されている場合には、短鎖脂肪酸によるGPR43を経由した細胞刺激活性の上昇は、Th17細胞分化誘導活性の低下(Th17細胞分化誘導阻害活性の上昇)あるいはTreg細胞分化誘導活性の上昇(Treg細胞分化誘導阻害活性の低下)を指標とすることができる。また、スクリーニング系が霊長類の場合において、短鎖脂肪酸によるGPR43を経由した細胞刺激活性の低下は、Th17細胞分化誘導活性の上昇(Th17細胞分化誘導阻害活性の低下)あるいはTreg細胞分化誘導活性の低下(Treg細胞分化誘導阻害活性の上昇)を指標とすることができる。
第二の態様および第三の態様のスクリーニング方法では、細胞刺激活性として、細胞内のカルシウムの遊離、アデニル酸シクラーゼの活性化、細胞内cAMP生成、細胞内cGMP生成、イノシトールリン脂質生成、細胞膜電位変化、細胞膜近傍pH変化、細胞内タンパク質のリン酸化、c−fosおよびc−junの誘導活性などを測定して被験物質をスクリーニングし、その後、Th17細胞分化誘導活性および/またはTreg細胞分化誘導活性を測定して被験物質が実際にTh17細胞分化誘導活性および/またはTreg細胞分化誘導活性に影響を及ぼすか否かを確認してもよい。
本明細書において「Th17細胞」とはIL−17を産生するCD4陽性T細胞(CD4T細胞)を意味する。また、「Th17細胞分化誘導活性」とは、CD4陽性T細胞をTh17細胞へ分化誘導させる活性を意味し、Th17細胞の出現頻度および/または細胞数を指標にすることができる。
本明細書において「Treg細胞」とはFoxp3陽性CD4陽性T細胞を意味する。また、「Treg細胞分化誘導活性」とは、CD4陽性T細胞をTreg細胞へ分化誘導させる活性を意味し、Treg細胞の出現頻度および/またはTreg細胞の細胞数を指標にすることができる。
これらの態様のスクリーニング方法においては、CD4陽性T細胞を培養し、培養後、IL−17陽性細胞やFoxp3陽性細胞の出現頻度や細胞数をフローサイトメーターなどを用いて測定することができる。CD4陽性T細胞の取得や培養は公知の方法に従って行うことができ、例えば、Cobb B et al. A role for Diver in immune regulation, J Exp Med. 2006, 203: 2519-2527を参照することができる。
IL−17陽性細胞の出現頻度や細胞数が上昇する場合にはTh17細胞の分化誘導が促進されていると判断でき、IL−17陽性細胞の出現頻度や細胞数が低下する場合にはTh17細胞の分化誘導が阻害されていると判断できる。また、Foxp3陽性細胞の出現頻度や細胞数が上昇する場合にはTreg細胞の分化誘導が促進されていると判断でき、Foxp3陽性細胞の出現頻度や細胞数が低下する場合にはTreg細胞の分化誘導が阻害されていると判断できる。
CD4陽性細胞を培養してTh17細胞分化誘導活性および/またはTreg細胞分化誘導活性を測定する場合には、CD4陽性T細胞をTh17細胞誘導条件(Th17コンディション)あるいはTreg細胞誘導条件(Tregコンディション)で培養し、IL−17陽性細胞やFoxp3陽性細胞の出現頻度や細胞数を測定してもよい。Th17コンディションやTregコンディションでの培養は公知の方法に従って行うことができ、例えば、Cobb B et al. A role for Diver in immune regulation, J Exp Med. 2006, 203: 2519-2527を参照することができる。
本発明に使用する被験物質はどのような物質であってもよいが、例えば遺伝子ライブラリーの発現産物、合成低分子化合物並びにその塩および溶媒和物、核酸(オリゴDNA、オリゴRNA)、合成ペプチド、抗体、細菌放出物質、細胞(微生物、植物細胞、動物細胞)抽出液、細胞(微生物、植物細胞、動物細胞)培養上清、精製または部分精製ポリペプチド、海洋生物、植物または動物由来の抽出物、土壌、ランダムファージペプチドディスプレイライブラリーを挙げることができる。
Th17細胞の分化誘導は自己免疫疾患(例えば、多発性硬化症、潰瘍性大腸炎、クローン病、慢性関節リウマチ、乾癬)の発症・進展に関与していることが知られている(多発性硬化症:Lock C et al. Gene-microarray analysis of multiple sclerosis lesions yields new targets validated in autoimmune encephalomyelitis. Nat Med. 2002 May;8(5):451-453、潰瘍性大腸炎:Arisawa T et al. The influence of polymorphisms of interleukin-17A and interleukin-17F genes on the susceptibility to ulcerative colitis. J Clin Immunol. 2008 Jan;28(1):44-49、クローン病:van Beelen AJ et al. Stimulation of the intracellular bacterial sensor NOD2 programs dendritic cells to promote interleukin-17 production in human memory T cells. Immunity. 2007 Oct;27(4):660-669、関節リウマチ:Okamoto H et al. Molecular targets of rheumatoid arthritis. Inflamm Allergy Drug Targets. 2008 Mar;7(1):53-66、乾癬:Fitch E et al. Pathophysiology of psoriasis: recent advances on IL-23 and Th17 cytokines. Curr Rheumatol Rep. 2007 Dec;9(6):461-467)。従って、本発明によるスクリーニング方法は、自己免疫疾患の発症・進展を調節する物質の探索、特に、自己免疫疾患治療剤またはその候補の探索にも用いることができる。すなわち、本発明によるスクリーニング方法のうち、Th17細胞の分化誘導阻害剤(またはTreg細胞の分化誘導促進剤)のスクリーニング方法は、自己免疫疾患治療剤のスクリーニング方法として用いることができる。
また、Treg細胞の分化誘導は、ガン(例えば、悪性黒色腫や卵巣癌)の発症・進展に関与していることが知られている(Rasku M. et al., J Trans Med 6:12, 2008; Curiel TJ, et al., Nat Med 10(9):942-9, 2004)。従って、本発明によるスクリーニング方法は、ガンの発症・進展を調節する物質の探索、特に、抗ガン剤またはその候補の探索にも用いることができる。すなわち、本発明によるスクリーニング方法のうち、Treg細胞の分化誘導阻害剤(またはTh17細胞の分化誘導促進剤)のスクリーニング方法は、抗ガン剤のスクリーニング方法として用いることができる。
本明細書において「治療」とは、一般的に、所望の薬理学的効果および/または生理学的効果を得ることを意味する。効果は、疾病および/または症状を完全にまたは部分的に防止する点では予防的であり、疾病および/または疾病に起因する悪影響の部分的または完全な治癒という点では治療的である。本明細書において「治療」とは、哺乳動物、特にヒトの疾病の任意の治療を含み、例えば以下の治療を含む:
・疾病または症状の素因を持ちうるが、まだ持っていると診断されていない患者において、疾病または症状が起こることを予防すること;
・疾病症状を阻害する、即ち、その進行を阻止または遅延すること;
・疾病症状を緩和すること、即ち、疾病または症状の後退、または症状の進行の逆転を引き起こすこと。
本発明によるスクリーニング方法の好ましい態様によれば、被験物質の存在下および被検物質の非存在下において、齧歯類(例えば、マウス)CD4陽性T細胞を短鎖脂肪酸の存在下で培養し、培養後、Th17細胞分化誘導活性を測定し、被験物質がTh17細胞の分化誘導を阻害する物質であるかどうかを決定することを含んでなる、齧歯類(例えば、マウス)におけるTh17細胞分化誘導阻害剤のスクリーニング方法が提供される。この場合、被験物質の存在下および被検物質の非存在下におけるTh17細胞の分化誘導活性を比較し、被験物質の存在下でTh17細胞の分化誘導が阻害される場合にその被験物質を齧歯類(例えば、マウス)Th17細胞分化誘導阻害剤またはその候補と決定することができる。
本発明によるスクリーニング方法の好ましい態様によれば、また、被験物質の存在下および被検物質の非存在下において、齧歯類(例えば、マウス)CD4陽性T細胞を短鎖脂肪酸の存在下で培養し、培養後、Th17細胞分化誘導活性を測定し、被験物質がTh17細胞の分化誘導を阻害する物質であるかどうかを決定することを含んでなる、齧歯類(例えば、マウス)における自己免疫疾患治療剤のスクリーニング方法が提供される。この場合、被験物質の存在下および被検物質の非存在下におけるTh17細胞の分化誘導活性を比較し、被験物質の存在下でTh17細胞の分化誘導が阻害される場合にその被験物質を齧歯類(例えば、マウス)における自己免疫疾患治療剤またはその候補と決定することができる。
本発明によるスクリーニング方法の好ましい態様によれば、被験物質の存在下および被検物質の非存在下において、霊長類(例えば、ヒト)CD4陽性T細胞を短鎖脂肪酸の存在下で培養し、培養後、Treg細胞分化誘導活性を測定し、被験物質がTreg細胞の分化誘導を阻害する物質であるかどうかを決定することを含んでなる、霊長類(例えば、ヒト)におけるTreg細胞分化誘導阻害剤のスクリーニング方法が提供される。この場合、被験物質の存在下および被検物質の非存在下におけるTreg細胞の分化誘導活性を比較し、被験物質の存在下でTreg細胞の分化誘導が阻害される場合にその被験物質を霊長類(例えば、ヒト)におけるTreg細胞分化誘導阻害剤またはその候補と決定することができる。
本発明によるスクリーニング方法の好ましい態様によれば、また、被験物質の存在下および被検物質の非存在下において、霊長類(例えば、ヒト)CD4陽性T細胞を短鎖脂肪酸の存在下で培養し、培養後、Treg細胞分化誘導活性を測定し、被験物質がTreg細胞の分化誘導を阻害する物質であるかどうかを決定することを含んでなる、霊長類(例えば、ヒト)におけるガン治療剤のスクリーニング方法が提供される。この場合、被験物質の存在下および被検物質の非存在下におけるTreg細胞の分化誘導活性を比較し、被験物質の存在下でTreg細胞の分化誘導が阻害される場合にその被験物質を霊長類(例えば、ヒト)におけるガン治療剤と決定することができる。
本発明によるスクリーニング方法のいずれの好ましい態様も、第一の態様のスクリーニング方法を実施した後に、CD4陽性T細胞の培養下でのスクリーニングを行ってもよい。すなわち、被験物質の存在下および被験物質の非存在下において、GPR43またはそれを含有する細胞もしくはその細胞膜画分と、短鎖脂肪酸とを接触させ、次いで、GPR43またはそれを含有する細胞もしくはその細胞膜画分への短鎖脂肪酸の結合量を測定することにより、被験物質がTh17細胞および/またはTreg細胞の分化誘導を調節する物質であるかどうかを決定して、短鎖脂肪酸のGPR43への結合性を変化させる物質を絞り込んだ上で、CD4陽性T細胞の培養下でのスクリーニングを行ってもよい。
本発明によるスクリーニング方法の好ましい態様で用いられるCD4陽性T細胞は、GPR43を発現しているものが使用される。
[スクリーニング用キット]
本発明によれば、Th17細胞および/またはTreg細胞の分化誘導を調節する物質のスクリーニング用キットが提供される。 本発明のスクリーニング用キットは、リガンド(すなわち、短鎖脂肪酸)と、GPR43または前記細胞(すなわち、GPR43を含有する細胞)もしくは前記細胞膜画分(すなわち、GPR43を含有する細胞膜画分)とを少なくとも含んでなる。リガンドは、標識したリガンドであってもよい。本発明によるスクリーニング用キットは、所望により、本発明によるスクリーニング方法を実施するための種々の試薬、例えば結合反応用緩衝液、洗浄用緩衝液、説明書、および/または器具などをさらに含むことができる。
本発明の別の態様のスクリーニング用キットは、リガンド(すなわち、短鎖脂肪酸)、およびGPR43を細胞膜上に発現(好ましくは、GPR43を含む発現ベクターを導入して過剰に発現)し、しかも、cAMP応答配列(CRE)が5’上流に位置するレポーター遺伝子(例えば、アルカリフォスファターゼ遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子など)を含有する細胞とを少なくとも含有する。前記リガンドは、標識したリガンドであってもよい。本発明によるスクリーニング用キットは、所望により、種々の試薬、例えばレポーター遺伝子産物(例えば、アルカリフォスファターゼもしくはルシフェラーゼなど)の基質、アデニル酸シクラーゼ活性化剤(例えばFSK)、結合反応用緩衝液、洗浄用緩衝液、説明書、および/または器具などをさらに含むことができる。また、本発明によるスクリーニング用キットは、CREが5’上流に位置するレポーター遺伝子を含有するものの、GPR43を細胞膜上に発現していない細胞を含んでいてもよい。
本発明を下記実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。
実施例1:Th17細胞およびTreg細胞の分化誘導への短鎖脂肪酸の影響
(1)インビトロ実験のための細胞の調製
エーテル麻酔下のマウスより脾臓を摘出したのちに、浮遊細胞を調製し、RBC lysing solution(Sigma-Aldrich Corporation, St.Louis, MO, USA) によって赤血球を破砕することで脾臓細胞を得た。細胞を液体培地で洗浄したのちに、1%ウシ胎児血清(HyClone Utah, USA)と1mM EDTA(Gibco-Invitrogen, California, USA)を添加したD−PBS(−)培地(Sigma-Aldrich Corporation, St.Louis, MO, USA)に浮遊した。本細胞浮遊液から、MACS磁気ビーズ法を用いてCD4T細胞を調製した(CD4+ T cell isolation kit, Miltenyi Biotech GmbH, Bergisch Gladbach, Germany)。得られたCD4T細胞について、APC標識抗CD62L抗体(MEL−14)、FITC標識 抗CD44抗体(IM7)、PE標識抗CD25抗体(PC61)、APC−AlexaFluor 750標識 抗CD4抗体(RM4−5)(いずれもeBiosciences、California, USAより購入)で細胞表面標識を行い、FACSAria cell sorter(BD Biosciences, California, USA)を用いてCD62LhighCD44lowCD25negCD4 ナイーブCD4T細胞を調製した。
(2)インビトロTh17細胞/Treg細胞分化誘導培養
ナイーブCD62LhighCD44lowCD25negCD4 T細胞(1×10細胞/ウェル)を抗IL−4抗体(10μg/ml)(11B11, BD Biosciences, California, USA)及び抗IFN−γ抗体(10μg/ml)(XMG1.2, BD Biosciences, California, USA)存在下に、固相化抗TCRβ抗体(200ng/ml)(H57-597, eBiosciences, California, USA)と抗CD28抗体(2μg/ml)(37.51, BD Biosciences, California, USA)によって刺激培養した。Treg細胞誘導(Tregコンディション)では、ヒトTGF−β1(1ng/ml,R&D Systems, MN, USA)を培養に添加し、Th17細胞誘導(Th17コンディション)では、ヒトTGF− β1(1ng/ml,R&D Systems, MN, USA)に加えてIL−6(50ng/ml,R&D Systems, MN, USA)を添加し、96穴平底プレート(Nalgen Nunc International, NY, USA)を用いて、37℃、5%CO、加湿下のもと5日間培養した。回収した細胞をブレフェルディンA(40μg/ml)(BD GolgiPlug, BD Biosciences, California, USA)およびモネンシン(2μM)(BD GolgiStop, BD Biosciences, California, USA)の存在下に、フォルボールミリステートアセテート(65nM)(Sigma-Aldrich Corporation, St.Louis, MO, USA)およびイオノマイシン(5.3μM)(Sigma-Aldrich Corporation, St.Louis, MO, USA)を用いて4時間刺激し、FITC標識抗CD4抗体(RM4-5, eBiosciences, California, USA)、AlexaFluor647標識抗Foxp3抗体(FJK-16s, eBiosciences, California, USA)ならびにPE標識抗IL−17抗体(TC11-18H10.1, BD Biosciences, California, USA)で細胞染色した。CD4陽性細胞のうち、Foxp3あるいはIL−17が陽性である細胞を、フローサイトメーター(FACSAria cell sorterもしくはFACSCanto II、BD Biosciences, California, USA)で検出し、Foxp3陽性Treg細胞ならびにTh17細胞を算定した。
(3)短鎖脂肪酸によるTh17細胞/Treg細胞刺激試験
前記(2)の手法に従って作製したTh17細胞(1×10細胞/ウェル)を、マイトマイシンC(Sigma-Aldrich Corporation, St.Louis, MO, USA #M4287)処理したマウス脾臓細胞(2×10細胞/ウェル)をアクセサリー細胞として、抗CD3抗体(3μg/ml,145-2c11, BD Biosciences, California, USA)と抗CD28抗体(10μg/ml,37.51, BD Biosciences, California, USA)で、水酸化ナトリウム (和光純薬工業株式会社、大阪、日本)でpH7付近に調整した酢酸、プロピオン酸、ブチル酸、あるいはブチル酸のナトリウム塩(300μM)(いずれもSigma-Aldrich Corporation, St.Louis, MO, USA #B5887)存在下に、96穴平底プレート(Nalgen Nunc International, NY, USA)を用いて、37℃、5%CO、加湿下のもと3日間刺激培養を行った。培養開始1日後、2日後、3日後に培養細胞と培養上清を回収し、Th17細胞とFoxp3陽性Treg細胞の頻度をフローサイトメーターで解析するとともに(前記(2)の手法と同じ)、培養上清中のIL−17は、DuoSet ELISA Development Kits (R&D Systems, MN, USA, #DY421)を用いて定量を行った。
(4)試験結果I
7〜10週齢のメスC57BL/6Crマウス(Japan SLC. Inc., Shizuoka, Japan)の脾臓よりナイーブCD62LhighCD44lowCD25negCD4T細胞を純化し、短鎖脂肪酸(酢酸、プロピオン酸、ブチル酸)存在下において、Th17細胞/Treg細胞分化誘導培養を行った。細胞の調製、分化誘導培養、および刺激試験は前記(1)、(2)、および(3)の手法に従って行った。
結果は図1に示される通りであった。フローサイトメーターの解析像によると、Tregコンディション(左パネル)では、短鎖脂肪酸の添加はTreg細胞の分化に影響を与えなかった。一方、Th17コンディション(右パネル)では、いずれの短鎖脂肪酸も容量依存的にTh17細胞の分化を増強した。
また、フローサイトメーターの解析像におけるTreg細胞とTh17細胞の絶対数は図2に示される通りであった。発現頻度のみならず、絶対数においても短鎖脂肪酸は、Th17細胞の誘導を増強していた。
このように、短鎖脂肪酸は、マウスのナイーブCD4T細胞からのTh17細胞の分化を強力に促進することが明らかとなった。短鎖脂肪酸の受容体がGPR43であることから、マウスにおける短鎖脂肪酸によるTh17誘導増強が、GPR43からのシグナリングによる現象である可能性が強く示唆された。
(5)試験結果II
7〜10週齢のメスBALB/cマウス(Japan SLC. Inc., Shizuoka, Japan)の脾臓よりナイーブCD62LhighCD44lowCD25negCD4T細胞を純化し、ブチル酸ナトリウム塩の存在下に、Th17細胞/Treg細胞分化誘導培養を行った。細胞の調製、分化誘導培養、および刺激試験は前記(1)、(2)、および(3)の手法に従って行った。
結果は図3に示される通りであった。図3から明らかなように、Tregコンディションでは、ブチル酸ナトリウム塩の容量依存的にTreg細胞の分化が抑制され、これと同時にTh17細胞が分化誘導された。一方、Th17コンディションでは、ブチル酸ナトリウム塩の容量依存的にTh17細胞の分化が強力に増強された。
このことから、GPR43からのシグナリングは、マウスのナイーブCD4T細胞からのTh17細胞/Treg細胞分化経路を、強力にTh17細胞へとシフトさせるものであることが強く示唆された。
(6)試験結果III
メスGPR43ノックアウトマウス(GPR43−/−)(Deltagen社より購入、129sv由来のノックアウトマウスをC57BL/6Jに6回バッククロスしたもの)、並びに同世代のGPR43へテロマウス(GPR43+/−)およびGPR43野生型マウス(GPR43+/+)の脾臓から、ナイーブCD62LhighCD44lowCD25negCD4T細胞を純化し、ブチル酸ナトリウム塩の存在下で、Th17細胞/Treg細胞分化誘導培養を行った。細胞の調製、分化誘導培養、および刺激試験は前記(1)、(2)、および(3)の手法に従って行った。
結果は図4に示される通りであった。図4から明らかなように、GPR43野生型マウスとGPR43へテロマウスにおいては、ブチル酸ナトリウム塩の容量依存的にTh17細胞の誘導増強が見られた(最右列に培養終了時のTh17細胞ならびにTreg細胞の細胞数を示した)。一方、この効果は、GPR43ノックアウトマウスでは減弱しており(中列最下段)、細胞数算定の結果では、ブチル酸ナトリウム塩の効果がキャンセルされていた(最右列最下段)。
短鎖脂肪酸によるTh17細胞誘導増強効果がGPR43ノックアウトマウスではキャンセルされたことから、マウスにおけるGPR43のシグナリングがTh17細胞/Treg細胞分化経路を強力にTh17細胞へとシフトさせるものであることが確定的となった。
(7)試験結果IV
分化を終えたTh17細胞の機能の活性化ならびに増殖に短鎖脂肪酸が与える影響について調べた。具体的には、7〜10週齢のメスBALB/cマウス(Japan SLC. Inc., Shizuoka, Japan)のナイーブCD62LhighCD44lowCD25negCD4T細胞を純化し、Th17コンディションにて分化誘導したTh17細胞(培養4日)を回収し、BALB/c由来のアクセサリー細胞とともに、300μMブチル酸存在下に、抗CD3抗体と抗CD28抗体によって細胞刺激を加えた。細胞の調製、分化誘導培養、および刺激試験は前記(1)、(2)、および(3)の手法に従って行った。
結果は図5に示される通りであった。ブチル酸の容量依存的にTh17細胞数が増加するとともに、Th17細胞からのIL17産生量が増加しており、ブチル酸非存在下のコントロールとの比較によってその効果が明らかに示された。すなわち、短鎖脂肪酸は、分化を終えたマウスのTh17細胞の機能の活性化ならびに増殖を促進することが明らかとなった。試験結果I〜IIIから、マウスにおけるGPR43からのシグナリングはTh17細胞/Treg細胞分化経路を強力にTh17細胞へとシフトさせることが判明したが、試験結果IVから、マウスにおけるGPR43からのシグナリングは、分化を終えたTh17細胞の増殖や機能を増強していることが強く示唆された。
実施例2:マウスへの短鎖脂肪酸投与試験
D−PBS(−)で希釈したブチル酸ナトリウム塩(1000mg/kg、20mg/250μl PBS/マウス)(Sodium Butyrate、NaB, Sigma-Aldrich Corporation, St.Louis, MO, USA #B5887)もしくはD−PBS(−)(250μl/マウス)を、メスBALB/cマウスに、4日間連続で腹腔内投与した。エンドトキシン併用群では、D−PBS(−)に溶解したエンドトキシン(20μg/125μl PBS/マウス)(Lipopolisaccharaides form E.Coli 055:B5, LPS, Sigma-Aldrich Corporation, St.Louis, MO, USA #L2637)をブチル酸投与初日に、同時腹腔内投与した。コントロールにはD−PBS(−)(125μl/マウス)を用いた。投与開始日を第0日とし、第4日にそれぞれのマウスから、腸間膜リンパ節(mesenteric lymphnode, MLN)、脾臓(Spleen)を摘出し、調製したリンパ球について、フローサイトメーターを用いてFoxp3陽性Treg細胞ならびにTh17細胞を検出した。検出は実施例1(2)の手法に従って行った。
結果は図6に示される通りであった。マウスの腸間膜リンパ節では、ブチル酸ナトリウム塩(NaB)やエンドトキシン(LPS)の単独投与によってはTh17細胞頻度の上昇は見られなかったが、両者の併用によってその上昇が見られた(図6、左上段)。マウスの脾臓では、ブチル酸ナトリウム塩(NaB)とエンドトキシン(LPS)の併用によるTh17細胞上昇はより顕著にみられた。いずれの投与群においてもTreg細胞頻度には大きな影響はみられなかった。
LPS投与によってマウス体内では、IL−6をはじめとする炎症性サイトカインの産生がもたらされており、これはインビトロにおけるTh17コンディションに近似した環境と考えられる。ここにブチル酸ナトリウム塩が存在していると、Th17細胞頻度が上昇したことから、マウス体内においても短鎖脂肪酸はTh17細胞の分化や増殖を増強することが示された。
実施例3:ヒト末梢血由来ナイーブCD4T細胞からのTh17細胞およびTreg細胞の分化誘導への短鎖脂肪酸の影響
(1)インビトロ実験のための細胞の調製
健常供血者からヘパリン存在下に静脈血を採血し、Ficoll-Paque PLUS(GE Healthcare Bio-Sciences AB, Uppsala, Sweden )による比重遠心法にて末梢血単核球を採取し、細胞を2%ウシ胎児血清(HyClone Utah, USA)を添加したD−PBS(−)培地(Sigma-Aldrich Corporation, St.Louis, MO, USA)に浮遊した。これを、FITC標識抗CD45RA抗体(ALB11, Beckman coulter, CA, USA)、PE標識 抗CD25抗体(B1.49.9, Beckman coulter, CA, USA)、APC標識抗CD45RO抗体(UCHL1, eBiosciences、CA, USA)、APC−Cy7標識 抗CD4抗体(RPA-T4, eBiosciences、CA, USA)で細胞表面標識を行い、FACSAria cell sorter(BD Biosciences, CA, USA)を用いてCD45RACD45ROnegCD25negCD4 ナイーブT細胞を調製した。
(2)インビトロTh17細胞/Treg細胞分化誘導培養
ナイーブCD45RACD45ROnegCD25negCD4T細胞(5×10細胞/ウェル)を抗CD3/抗CD28抗体結合磁気ビーズ(5×10ビーズ)(CD3/CD28 T cell expander, Dynal, CA, USA)によって刺激培養した。Treg細胞誘導(Tregコンディション)では、ヒトIL−2(50IU/ml,PeproTech, NJ, USA)およびヒトTGF−β1(5ng/ml,R&D Systems, MN, USA)を培養に添加し、Th17細胞誘導(Th17コンディション)では、ヒトTGF−β1(10ng/ml,R&D Systems, MN, USA)に加えてヒトIL−23(100ng/ml,eBiosciences、CA, USA),ヒトIL−1β(10ng/ml, R&D Systems, MN, USA),ヒトIL−6(20ng/ml,BD Biosciences, CA, USA),ヒトIL−21(25ng/ml, Cell Sciences, MA, USA)およびヒトIL−2(10IU/ml, PeproTech, NJ, USA,培養第3日より)を添加し、96穴U底プレート(Nalgen Nunc International, NY, USA)を用いて、37℃、5%CO、加湿下のもと6日あるいは9日間培養した。コントロール培養では、ヒトIL−2(50IU/ml,PeproTech, NJ, USA)のみを添加した。培養後に回収した細胞をブレフェルディンA(40μg/ml)(BD GolgiPlug, BD Biosciences, California, USA)およびモネンシン(2μM)(BD GolgiStop, BD Biosciences, California, USA)の存在下に、フォルボールミリステートアセテート(50ng/ml)(Sigma-Aldrich Corporation, St.Louis, MO, USA)およびイオノマイシン(500ng/ml)(Sigma-Aldrich Corporation, St.Louis, MO, USA)を用いて5時間刺激した後、FITC標識抗CD3抗体(BW264/56, Miltenyi Biotec GmBH, Bergisch Gladbach, Germany)、APC−Cy7標識 抗CD4抗体(RPA-T4, eBiosciences、CA, USA)、Alexa Fluor 647標識抗Foxp3抗体(236A/E7, eBiosciences, CA, USA)ならびにPE標識抗IL−17抗体(eBio64DEC17, eBiosciences, CA, USA)で細胞染色した。CD3陽性CD4陽性細胞のうち、Foxp3あるいはIL−17が陽性である細胞を、フローサイトメーター(FACSAria cell sorterもしくはFACSCanto II、BD Biosciences, California, USA)で検出し、Foxp3陽性Treg細胞ならびにIL−17陽性Th17細胞を算定した。
また、Th17細胞誘導(Th17コンディション)については、培養後の細胞をフォルボールミリステートアセテート(50ng/ml)(Sigma-Aldrich Corporation, St.Louis, MO, USA)およびイオノマイシン(500ng/ml)(Sigma-Aldrich Corporation, St.Louis, MO, USA)を用いて5時間刺激した後、その培養上清について、IL−17濃度をELISAによって測定した(DuoSet ELISA Development System, R&D Systems, MN, USA)。
(3)試験結果I
健常供血者から得られた末梢血単核球よりCD45RACD45ROnegCD25negCD4 ナイーブCD4T細胞を純化し、ブチル酸ナトリウム塩の存在下において、Th17細胞/Treg細胞分化誘導培養を行った。細胞の調製、分化誘導培養、および刺激試験は前記(1)、(2)の手法に従って行った。
結果は図7に示される通りであった。フローサイトメーターの解析像によると、通常はわずかなTreg細胞のみしか誘導しえないコントロール培養において、強いTreg細胞誘導をみとめた(最上段パネル)。Treg細胞コンディションでは、培養のみにて強いTreg細胞がみられており、ここでは、ブチル酸ナトリウム塩の明瞭な効果は検出できなかった(中段パネル)。Th17細胞コンディションでは、Th17細胞とTreg細胞の誘導効率にはFACS上では明確な傾向を見出せなかったが、培養上清中のIL−17を測定したところ、ブチル酸ナトリウム塩に対して用量依存的にIL−17産生の阻害が確認された(最下段最右)。フローサイトメーターの解析像から算定したTreg細胞とTh17細胞の培養中の発現頻度と絶対数を中列ならびに右列に示した。Treg細胞の分化にはTGF−βが必須とされるが、これを添加していないコントロール培養においてTreg細胞誘導の増強が顕著であった。
(4)試験結果II
ブチル酸ナトリウム塩にかわり、同じ短鎖脂肪酸である酢酸の影響を(1)、(2)の手法に従って検討した。結果を図8に示した。酢酸によっても、コントロール培養でTreg細胞の誘導増強が確認できた(最上段)。また、Treg細胞コンディションにおいてはTreg細胞の発現頻度の誘導増強を認めたが、絶対数においては明確ではなかった(中段)。Th17細胞コンディションではフローサイトメーター解析では明確な傾向はみられなかったが(最下段)、培養上清中のIL−17では、その産生抑制が認められた(最下段最右)。
このように、短鎖脂肪酸は、ヒトのナイーブCD4T細胞からのTreg細胞の分化を強力に促進することが明らかとなった。この効果は、Treg細胞の分化に必須であるTGF−βを添加しないコントロール培養においても明確に認められた。培養上清中のIL−17の測定から、短鎖脂肪酸はヒトにおけるTh17誘導においては阻害的に作用することが示唆された。

Claims (20)

  1. GPR43の機能を調節する物質をTh17細胞および/またはTreg細胞の分化誘導を調節する物質であると決定することを特徴とする、Th17細胞および/またはTreg細胞の分化誘導を調節する物質のスクリーニング方法。
  2. GPR43またはそれを含む細胞もしくはその細胞膜画分を被験物質と接触させ、被験物質がGPR43の機能を調節する物質であるかどうかを決定し、被験物質がGPR43の機能を調節する物質である場合に、その物質をTh17細胞および/またはTreg細胞の分化誘導を調節する物質であると決定することを含んでなる、請求項1に記載の方法。
  3. GPR43またはそれを含有する細胞もしくはその細胞膜画分への被験物質の結合の程度を測定することにより、被験物質がGPR43の機能を調節する物質であるかどうかを決定する、請求項2に記載の方法。
  4. 被験物質の存在下および被験物質の非存在下において、GPR43またはそれを含有する細胞もしくはその細胞膜画分を短鎖脂肪酸またはその塩と接触させ、次いで、GPR43またはそれを含有する細胞もしくはその細胞膜画分への短鎖脂肪酸またはその塩の結合の程度を測定することにより、被験物質がGPR43の機能を調節する物質であるかどうかを決定する、請求項2に記載の方法。
  5. 被験物質の非存在下における、GPR43またはそれを含有する細胞もしくはその細胞膜画分への短鎖脂肪酸またはその塩の結合量に対して、被験物質存在下における前記結合量が低下する場合に、その被験物質をGPR43の機能を調節する物質であると決定する、請求項4に記載の方法。
  6. 被験物質の存在下および被検物質の非存在下において、GPR43またはそれを含有する細胞もしくはその細胞膜画分の細胞刺激活性を測定することにより、被験物質がGPR43の機能を調節する物質であるかどうかを決定する、請求項2に記載の方法。
  7. 被験物質の非存在下における細胞刺激活性に対して、被験物質存在下における細胞刺激活性が変化する場合に、その被験物質をGPR43の機能を調節する物質であると決定する、請求項6に記載の方法。
  8. GPR43またはそれを含有する細胞もしくはその細胞膜画分を、更に短鎖脂肪酸またはその塩と接触させ、被験物質の非存在下における細胞刺激活性に対して、被験物質存在下における細胞刺激活性が変化する場合に、その被験物質をGPR43の機能を調節する物質であると決定する、請求項6に記載の方法。
  9. (A)GPR43またはそれを含有する細胞もしくはその細胞膜画分への被験物質の結合の程度を測定することにより、被験物質がGPR43またはそれを含有する細胞もしくはその細胞膜画分へ結合性を有する物質であるかどうかを決定し、
    (B)前記(A)によりGPR43またはそれを含有する細胞もしくはその細胞膜画分へ結合性を有すると決定された被験物質の存在下および非存在下において、GPR43またはそれを含有する細胞もしくはその細胞膜画分の細胞刺激活性を測定することにより、被験物質がGPR43の機能を調節する物質であるかどうかを決定する、
    請求項2に記載の方法。
  10. (A)において、被験物質の存在下および被験物質の非存在下において、GPR43またはそれを含有する細胞もしくはその細胞膜画分を短鎖脂肪酸またはその塩と接触させ、次いで、GPR43またはそれを含有する細胞もしくはその細胞膜画分への短鎖脂肪酸またはその塩の結合の程度を測定することにより、被験物質がGPR43またはそれを含有する細胞もしくはその細胞膜画分へ結合性を有する物質であるかどうかを決定する、請求項9に記載の方法。
  11. (B)において、被験物質の非存在下における細胞刺激活性に対して、被験物質存在下における細胞刺激活性が変化する場合に、その被験物質をGPR43の機能を調節する物質であると決定する、請求項9に記載の方法。
  12. (B)において、GPR43またはそれを含有する細胞もしくはその細胞膜画分を、更に短鎖脂肪酸またはその塩と接触させ、被験物質の非存在下における細胞刺激活性に対して、被験物質存在下における細胞刺激活性が変化する場合に、その被験物質をGPR43の機能を調節する物質であると決定する、請求項9に記載の方法。
  13. 細胞刺激活性が、細胞内アデニル酸シクラーゼ活性および/または細胞内のカルシウム遊離活性である、請求項6〜12のいずれか一項に記載の方法。
  14. 細胞刺激活性が、Th17細胞分化誘導活性および/またはTreg細胞分化誘導活性である、請求項6〜12のいずれか一項に記載の方法。
  15. 短鎖脂肪酸が、ブチル酸、プロピオン酸、または酢酸である、請求項4、5、8、10、または12に記載の方法。
  16. 自己免疫疾患および/またはガンの発症・進展を調節する物質のスクリーニング方法である、請求項1〜15のいずれか一項に記載の方法。
  17. GPR43またはそれを含む細胞もしくはその細胞膜画分が齧歯類由来である、請求項1〜16のいずれか一項に記載の方法。
  18. 被験物質が、短鎖脂肪酸存在下における細胞刺激活性を低下させる場合に、その物質を齧歯類におけるTh17細胞分化誘導阻害剤またはその候補あるいはTreg細胞分化誘導促進剤またはその候補であると決定する、請求項17に記載の方法。
  19. GPR43またはそれを含む細胞もしくはその細胞膜画分が霊長類由来である、請求項1〜16のいずれか一項に記載の方法。
  20. 被験物質が、短鎖脂肪酸存在下における細胞刺激活性を低下させる場合に、その物質を霊長類におけるTh17細胞分化誘導促進剤またはその候補あるいはTreg細胞分化誘導阻害剤またはその候補であると決定する、請求項19に記載の方法。
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