JP2010031081A - リン脂質膜を有する高分子基材及びその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】リン脂質膜を有する高分子基材は、疎水性高分子基材11の表面に疎水基よりなるグラフト鎖12が形成され、該グラフト鎖12にリン脂質14が親和して吸着されリン脂質膜17が形成されているものである。グラフト鎖12の疎水基は、炭素数6〜12のアルキレン基であることが好ましい。このリン脂質膜17を有する高分子基材は、疎水性高分子基材11の表面にアルキレン基よりなるグラフト鎖12を形成し、該疎水性高分子基材11をリン脂質14が分散されている懸濁液中に浸漬した後、引き上げて乾燥させることにより得られる。
【選択図】図1
Description
請求項3のリン脂質膜を有する高分子基材では、請求項1又は請求項2に係る発明において、前記グラフト鎖にはリン脂質に加えて脂肪酸が親和して吸着されリン脂質膜が形成されていることを特徴とする。
請求項5のリン脂質膜を有する高分子基材の製造方法では、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のリン脂質膜を有する高分子基材の製造方法である。そして、疎水性高分子基材の表面に疎水基よりなるグラフト鎖を形成し、該疎水性高分子基材をリン脂質が分散されている懸濁液中に浸漬した後、引き上げて乾燥させることを特徴とする。
請求項1に係る発明のリン脂質膜を有する高分子基材では、疎水性高分子基材の表面に疎水基よりなるグラフト鎖が形成され、該グラフト鎖にリン脂質が親和して吸着されリン脂質膜が形成されている。このため、グラフト鎖の疎水基が疎水性を示し、その疎水基にリン脂質の疎水部分が親和し、リン脂質の親水部分が表面側に配向する。このように、リン脂質の疎水部分がグラフト鎖の疎水基に親和力により緩く結合され、位置の移動が容易になっている。従って、リン脂質の親水部分を表面側に容易に配向させることができると共に、リン脂質の安定性及び流動性を発揮することができる。
本実施形態におけるリン脂質膜を有する高分子基材は、疎水性高分子基材の表面に疎水基よりなるグラフト鎖が形成され、該グラフト鎖にリン脂質が親和して吸着されリン脂質膜(いわゆる自己組織化膜)が形成されているものである。係る高分子基材ではグラフト鎖の疎水基が疎水性を示し、その部分にリン脂質の疎水部分が親和し、リン脂質の親水部分が表面側に配向する。従って、表面に配向したリン脂質の親水部分に蛋白質や酵素などの生体高分子を固定化することができる。
まず、図1(b)に示すように、疎水性高分子基材11の表面に疎水基よりなるグラフト鎖12を形成する。この場合、図1(a)及び(b)に示すように、グラフト鎖12は、疎水性高分子基材11にカルボキシル基13を結合した後、アミン化合物及び縮合試薬を作用させてカルボキシル基13とアミノ基とを反応させることにより得られるものであることが好ましい。グラフト鎖12をこのように形成すれば、疎水性高分子基材11に対するグラフト鎖12の結合力が高く、安定性に優れている。
・ 本実施形態におけるリン脂質膜を有する高分子基材では、疎水性高分子基材の表面に疎水基としてアルキレン基よりなるグラフト鎖が形成され、該グラフト鎖にリン脂質が親和して吸着されリン脂質膜が形成されている。このため、グラフト鎖の疎水基が疎水性を有し、その疎水基にリン脂質の疎水部分が親和し、リン脂質の親水部分が表面側に配向する。このように、リン脂質の疎水部分がグラフト鎖の疎水基に親和力により緩く結合され、位置の移動が容易になっている。従って、リン脂質の親水部分を表面側に容易に配向させることができると共に、リン脂質の安定性及び流動性を発揮することができる。
・ 前記グラフト鎖にはリン脂質に加えて脂肪酸が親和して吸着されリン脂質膜が形成されていることにより、脂肪酸の官能基(カルボキシル基)を利用して酵素等の生体高分子の固定化を行うことができる。
〔参考例1、グラフト鎖を有するLDPEフィルムの調製〕
原材料として次に示すものを用意した。
ビニルメチルエーテル/無水マレイン酸共重合体(VEMA):GAF社製、GANTREZ−AN139、Mn=41000で、200メッシュの篩を通過するものを用いた。
トリメチレンジアミン(TMDA、NH2(CH2)3NH2)
ヘキサメチレンジアミン(HMDA、NH2(CH2)6NH2)
ドデカメチレンジアミン(DMDA、NH2(CH2)12NH2)
そして、LDPEフィルムを0.2%(w/v)のVEMA及び5%(v/v)のp−キシレンを含むシクロヘキサノン溶液に60℃において浸漬した後、1時間程度空気乾燥した。さらに、一晩減圧乾燥した。その後、表面の過剰なVEMAを取り除くために、テトラヒドロフランで10秒間軽く表面を洗浄し、15分程度空気乾燥した。その後、一晩減圧乾燥し、VEMA含有LDPEフィルムを調製した。該フィルムに、プラズマ照射装置でアルゴンプラズマを出力20Wにて30秒間照射し、フィルムを取り出した後、0.1N水酸化ナトリウム水溶液、1N塩酸水溶液、精製水の順にそれぞれ10分間反応させ、VEMAの無水マレイン酸部位を加水分解することにより、LDPE表面にカルボキシル基を有するLDPE−VEMACフィルムを調製した。
(LDPEフィルム表面のカルボキシル基密度)
係るLDPE−VEMACフィルム表面のカルボキシル基密度を次のようにして測定した。
次に、試験管にLDPE−VEMACフィルム、水5mL及び縮合試薬として0.25MのEDC水溶液1mLを加え、30℃にて2時間反応させた。その後、0.25Mのアルキルジアミン(TMDA、HMDA又はDMDA)水溶液1mL(DMDAについては溶解度の関係から濃度を0.0025Mとした)を加え、30℃にて24時間反応させた。反応後、LDPE−VEMACフィルムを蒸留水中にて1時間撹拌、洗浄し、その後一晩減圧乾燥することによってグラフト鎖を有するLDPEフィルムを得た。
(LDPEフィルム表面におけるアルキルジアミンの固定化密度)
アルキルジアミン固定化LDPEフィルムにおける表面カルボキシル基の残存密度を、前述のトルイジンブルーに従って定量し、アルキルジアミン固定化前のLDPE−VEMACフィルム表面のカルボキシル基密度から差し引くことにより算出した。その結果、アルキルジアミンの固定化密度は、アルキルジアミンがトリメチレンジアミン(TMDA)の場合には3.8nmol/cm2、ヘキサメチレンジアミン(HMDA)の場合には3.5nmol/cm2及びドデカメチレンジアミン(DMDA)の場合には3.9nmol/cm2であった。
〔実施例1、リン脂質膜を有するLDPEフィルムの調製〕
リン脂質として、ホスファチジルコリン〔PC、和光純薬(株)製、質量平均分子量787〕を用意した。
(リン脂質膜を有するLDPE表面のPC密度の測定)
試験管に1mMのPC懸濁液5mL及びグラフト鎖を有するLDPEフィルムを入れ、30℃で24時間保持してリン脂質膜を有するLDPEを形成した。その後上澄を分取し、光の波長230nmにおける吸光度を紫外吸光光度計にて測定した。また、ブランクとして、試験管に1mMのPC懸濁液のみを入れ、同様に30℃にて24時間保持し、光の波長230nmにおける吸光度を測定した。そして、予め作成しておいた検量線により、懸濁液濃度を求め、ブランクとサンプルの濃度差に相当する値をリン脂質膜を有するLDPEの形成に使用されたPC量と判断し、サンプルフィルムの表面積12cm2で除した値をLDPEフィルム表面のPC密度と見積もった。また、未処理のLDPEフィルム及びLDPE−VEMACフィルムについても同様に検討を行った。その結果を図5に示した。
(リン脂質膜を有するLDPEフィルムの段階的温度変化に対する熱安定性試験)
石英セルに精製水4mL及びリン脂質膜を有するLDPEフィルム(プラズマ照射時間30秒)を入れ、紫外吸光光度計内に設置した。この場合、LDPEフィルムはセル壁に固定した。付属の電子冷熱式セル温度コントローラを用い、予めセットしておいたプログラムに従い、測定しようとする温度で所定時間経過後、光の波長205nmにおける吸光度を測定した。プログラムについては、測定しようとする温度までに達する時間を1分間とし、その後その温度において20分間一定に保つようセットした。測定時間は、一定温度を維持してから10分後及び20分後とした。
(リン脂質膜を有するLDPEフィルムのリン脂質抽出溶液に対する膜安定性)
検量線の作成:0、0.008、0.08、0.1及び0.2mg/mLの濃度となるように、リン脂質をクロロホルム/メタノール混合溶液(2/1v/v)に溶かし、検量線作成用標準溶液を調製した。そして、各種濃度の検量線作成用標準溶液について光の波長255nmにおける吸光度を紫外吸光光度計にて測定し、濃度に対する吸光度の検量線を作成した。
(長期水中保存に対するリン脂質膜の安定性試験)
水中に所定のLDPEフィルムを浸漬し、所定時間経過後上澄みを採取し、紫外吸光光度計によりLDPEフィルム表面からのリン脂質の脱離を検出することにより、リン脂質膜の安定性を評価した。すなわち、LDPEとして未処理LDPE、カルボキシル基を有するLDPE及びHMDAに基づくグラフト鎖を有するLDPEを使用した場合について、リン脂質の長期水中保存試験を実施し、LDPE表面におけるリン脂質の残存率(%)を測定し、その結果を図11に示した。図11に示したように、LDPE表面にHMDAのグラフト鎖を導入したことにより、30日経過後においてもLDPE表面に約95%のリン脂質が残存していた。一方、未処理のLDPE及びカルボキシル基を有するLDPEの場合には、リン脂質の残存率はそれぞれ約65%及び約80%であった。従って、LDPE表面にHMDAのグラフト鎖を導入することにより、長期的な水中保存に対してもリン脂質の高い安定性が保持された。
〔実施例2、リン脂質膜を有するLDPEフィルムの調製〕
リン脂質として、ホスファチジルエタノールアミン(PEA)を用意した。
〔実施例3、金コーティングによるリン脂質膜を有するLDPEフィルムの調製〕
未処理のLDPEの片面に金(Au)を真空蒸着した。その後、LDPEフィルムの金未蒸着表面を粘着テープで覆い、エタノール及び水にそれぞれ10分間ずつ浸漬し、LDPEフィルムの表面を洗浄した。続いて、一晩減圧乾燥を行い、金コーティングLDPEを得た。
(リン脂質膜を有するLDPEフィルムの段階的温度変化に対する熱安定性試験)
実施例1で説明した熱安定性試験に準じて実施し、段階的温度変化に対する熱安定性を評価した。すなわち、LDPE、金が結合されたLDPE、SH基が結合されたLDPE及びHMDAに基づくグラフト鎖が形成されたLDPEについて、温度とリン脂質の脱離率(%)との関係を測定し、その結果を図12に示した。係る図12に示した結果より、HMDAに基づくグラフト鎖が形成されたLDPEを使用した場合には、80℃までリン脂質の脱離は認められなかった。その一方、SH基が結合されたLDPEを使用した場合には50℃付近からリン脂質の脱離が認められ、金が結合されたLDPE及びLDPEの場合にはいずれも30℃付近からリン脂質の脱離が認められた。
〔実施例4、ステアリン酸を含むリン脂質膜を有するLDPEフィルムの調製〕
試験管にエタノール4mL及びステアリン酸(StA)174mgを入れ、ボルテックスミキサーを用いて完全に溶解させた。さらに、ホスファチジルエタノールアミン(PC)80mgを加えて懸濁溶液を調製した。このとき、PCに対するStAのモル比(StA/PC)は6である。この懸濁溶液に水を加えて100mLとし、1時間程度撹拌し、反応液を調製した。続いて、別の試験管に、ヘキサメチレンジアミンに基づくグラフト鎖を有するLDPE及び上記反応液10mLを入れ、30℃にて24時間反応させた。反応後、蒸留水にて30分程度撹拌、洗浄し、次いで一晩減圧乾燥した。このようにして、ステアリン酸を含むリン脂質膜を有するLDPEフィルムを調製した。
(リン脂質膜を有するLDPEフィルムの段階的温度変化に対する熱安定性試験)
実施例1で説明した熱安定性試験に準じて実施し、段階的温度変化に対する熱安定性を評価した。すなわち、HMDAに基づくグラフト鎖を有するLDPEを用い、ステアリン酸を導入したLDPEフィルム、コレステロール(Cholesterol)を導入したLDPE及びステアリン酸とコレステロールを導入したLDPEについて、温度変化に対するリン脂質の脱離率を紫外吸光光度計により検出し、評価を行い、その結果を図13に示した。この図13に示したように、いずれのLDPEフィルムにおいても80℃付近までリン脂質の脱離は認められなかった。また、いずれのLDPEフィルムについても90℃におけるリン脂質の脱離率は約15%程度であり、有意な差は認められなかった。つまり、ステアリン酸及びコレステロールによる熱安定性の変化は認められないことが明らかとなった。
〔実施例5、ステアリン酸を含むリン脂質膜を有するLDPEフィルムの流動性試験〕
実施例4と同様にしてLDPEフィルム表面に、ステアリン酸(StA)を含有するリン脂質膜を有するLDPEフィルムを得た。このLDPEフィルム表面のステアリン酸量は、0.3nmol/cm2であった。このLDPEフィルムに10mMリン酸緩衝液(pH4.0)5mL及び縮合試薬としてEDC48mgを加え、室温にて2時間反応させた。このLDPEフィルムを蒸留水で洗浄した後、濃度が1mg/10mLのアルブミン−リン酸緩衝生理食塩水(pH7.4)10mLに浸し、4℃で48時間反応させた。その後、リン酸緩衝生理食塩水で十分に洗浄し、アルブミンを固定化したLDPEフィルムを得た。
なお、前記実施形態を次のように変更して具体化することも可能である。
・ 前記グラフト鎖を形成する疎水基であるアルキル基を形成するアミン化合物として、ヘキシルアミン、オクチルアミン等の1級アミンなどを使用することもできる。
さらに、前記実施形態から把握される技術的思想について以下に記載する。
Claims (6)
- 疎水性高分子基材の表面に疎水基よりなるグラフト鎖が形成され、該グラフト鎖にリン脂質が親和して吸着されリン脂質膜が形成されていることを特徴とするリン脂質膜を有する高分子基材。
- 前記グラフト鎖の疎水基は、炭素数6〜12のアルキレン基であることを特徴とする請求項1に記載のリン脂質膜を有する高分子基材。
- 前記グラフト鎖にはリン脂質に加えて脂肪酸が親和して吸着されリン脂質膜が形成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のリン脂質膜を有する高分子基材。
- 前記リン脂質膜は流動性を有していることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のリン脂質膜を有する高分子基材。
- 請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のリン脂質膜を有する高分子基材の製造方法であって、
疎水性高分子基材の表面に疎水基よりなるグラフト鎖を形成し、該疎水性高分子基材をリン脂質が分散されている懸濁液中に浸漬した後、引き上げて乾燥させることを特徴とするリン脂質膜を有する高分子基材の製造方法。 - 前記グラフト鎖は、疎水性高分子基材にカルボキシル基を導入した後、アミン化合物及び縮合試薬を作用させてカルボキシル基とアミノ基とを反応させることにより得られるものであることを特徴とする請求項5に記載のリン脂質膜を有する高分子基材の製造方法。
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