JP2009207417A - 線虫における簡便な多重遺伝子同時機能抑制法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】複数の標的遺伝子のcDNA全長配列又は部分配列を連結して挿入したRNAi用ベクターを用いて、微生物を形質転換することにより、微生物中で前記複数の標的遺伝子cDNA全長配列又は部分配列を含む2本鎖RNAがそれぞれ発現し、該微生物を摂食した線虫において前記複数の標的遺伝子が同時機能抑制される方法。
【選択図】図1
Description
従来、線虫でのRNAiにおいては、RNAi用ベクターに標的遺伝子のcDNAを挿入するが、1種類のcDNAが挿入され、1つのベクターで1種類の標的遺伝子のみの機能抑制が行われてきた。
本明細書において、各種用語の意味は、下記の通り定義するものとする。
「標的遺伝子」とは、線虫の遺伝子のうち、機能抑制の標的となる遺伝子を意味する。線虫はゲノム配列が解読されており、約19000の遺伝子cDNA配列が明らかになっていることから、ゲノム上の全ての遺伝子を標的遺伝子とすることができる。標的遺伝子の具体例として、コスミド上の遺伝子番号Y54G9A.3、F35H12.3、Y76A2A.2、Y110A7A.5、F38B4.3、ZK783.1などの遺伝子が挙げられるが、これらに限られるものではない。ヒトの疾病メカニズムの解明・新薬開発などにおいては、ヒトのホモログ遺伝子から選択することができる。また、「多重遺伝子」は、複数の標的遺伝子と同義的に用いられ、1又は数個の標的遺伝子を意味するものである。
「cDNA」とは、mRNAから逆転写反応によって合成されたDNAをいう。線虫のゲノム配列は決定されていることから、ここで用いられる標的遺伝子のcDNA配列は、公的又は民間のデータベース、例えばDDBJ、WormBase、NCBIなどのデータベースを利用して容易に入手することができる。
DDBJ(http://www.ddbj.nig.ac.jp/index-j.html)
WormBase(http://www.wormbase.org/)
NCBI(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)
「全長配列又は部分配列」とは、ある遺伝子の全長配列の全て、又は全長配列の一部の配列、及び全長配列もしくは全長配列の一部の配列に対し、天然配列にハイブリダイズする程度の一定の変異を有する変異体配列を含む配列を意味する。一般に、ヒトを含む哺乳動物の遺伝子の塩基配列は、必ずしも同一ではなく、個体によっては最大多数を占める遺伝子配列と多少異なる変異体をゲノム上にコードしている場合があることから、ここでいう「全長配列又は部分配列」は、データベース等に公開された全長配列と比較した際に、1以上の塩基を欠失、置換、付加してなる塩基配列からなる変異体をコードするポリヌクレオチドを含んでもよい。ここで、1以上の塩基とあるのは、1ないし数塩基を意味するものであり、例えば、1塩基、2塩基、3塩基、4塩基、5塩基、6塩基、7塩基、8塩基、9塩基、10塩基のいずれかを欠失、置換、付加してもよいという意味である。
「形質転換用ベクター」とは、遺伝子組換えに用いることのできる、組換えDNAを導入するための核酸分子を意味する。ここでは特に、2本鎖RNAを発現するためのベクターが好ましい。例えば、pPD129.36やLITMUS 28i(New England Biolabs社製)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
「制限酵素」とは、特定の塩基配列を有するDNAを切断する酵素を意味し、「制限酵素サイト」とは、制限酵素が認識し、切断する特定の塩基配列を有する部位を意味する。後述の実施例においては、制限酵素EcoRIを用いている。その他にNotI、BamHI又はXhoIなどがあるが、これらに限定されるものではない。
「微生物」とは、真正細菌や古細菌を含む原核生物、藻類、原生生物、菌類、粘菌等を含む真核生物、ウイルスなどを意味し、好ましくは、線虫の餌となるバクテリアや糸状菌などの微生物を意味する。具体的には、大腸菌、サルモネラ菌、枯草菌、アオカビ、コウジカビ、灰色カビなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
「ライブラリ」とは、ある属性を持った一群のDNA断片がベクターにクローン化されたものを意味する。ここでは特に、様々な標的遺伝子が挿入されたRNAi用ベクター群を意味するものとする。
ここでいう「同時機能抑制」とは、複数の標的遺伝子を同程度に抑制することを意味する。複数の標的遺伝子の機能を抑制するにあたって、抑制効率に影響を及ぼさない範囲内で、完全に同程度の抑制である必要はない。
ここでいう「連結された」とは、複数の標的遺伝子cDNA全長配列又は部分配列が結合していることを意味する。それぞれの配列は、直接結合していてもよく、1塩基以上のリンカー配列を介して結合していてもよいが、リンカー配列は、プロモーター配列、ターミネーター配列、エンハンサー配列などの種々の調節エレメントを含まないものとする。また、「隣接する」とは、0又は1塩基以上のリンカー配列を挟んで存在することをいうものとする。
<微生物形質転換用ベクター>
本実施形態は、連結された複数の標的遺伝子cDNAの全長配列又は部分配列を含むベクターであって、微生物中で前記複数の標的遺伝子cDNAの全長配列又は部分配列を含む2本鎖RNAを発現させ、前記微生物を摂食した線虫において前記複数の標的遺伝子を同時機能抑制するための、微生物形質転換用ベクターである。後述の実施例に示すように、本実施形態のベクターは、連結された複数の標的遺伝子cDNAの全長配列又は部分配列を含むため、微生物中において前記複数の標的遺伝子cDNA全長配列又は部分配列を含む2本鎖RNAが発現するので、前記微生物を摂食することにより線虫において前記複数の標的遺伝子が同時機能抑制される。
また、本実施形態は、上記のベクターを用いて形質転換された、線虫において前記複数の標的遺伝子を同時機能抑制するための微生物である。後述の実施例に示すように、本実施形態の微生物は、連結された複数の標的遺伝子cDNAの全長配列又は部分配列を有する形質転換用ベクターで形質転換されているため、前記複数の標的遺伝子cDNA全長配列又は部分配列を含む2本鎖RNAが発現するので、前記微生物を摂食することにより線虫において前記複数の標的遺伝子が同時機能抑制される
また、本実施形態は、上記の微生物を用いて複数の標的遺伝子が同時機能抑制された線虫又はその一部である。本実施形態の線虫又はその一部は、複数の標的遺伝子が同時機能抑制されているため、遺伝子の機能解析や、疾病メカニズムの解明・新薬開発などに有用である。ここで、後述の実施例においては、線虫としてC.エレガンスが用いられているが、C.ブリグセ、C.レマニであってもよい。
また、本実施形態は、上記の微生物を線虫に摂食させることによる複数の標的遺伝子を同時機能抑制する方法である。後述の実施例に示すように、本実施形態の方法は、線虫において複数の標的遺伝子を同時機能抑制するため、線虫を用いた遺伝子の機能解析や、疾病メカニズムの解明・新薬開発などに有用である。
本実施例では、oma−1遺伝子及びoma−2遺伝子を用いて複数の標的遺伝子同時機能抑制について試験した。OMA−1及びOMA−2は、胚発生制御に関与するCCCHジンクフィンガーモチーフを有するRNA結合型タンパク質である。OMA−1とOMA−2は、一方が機能を喪失しても他方が機能していれば正常な卵母細胞が形成されるというパラログの関係にあり、両者の機能が喪失された場合のみ卵母細胞の形成が阻害されることから、本発明の同時機能抑制作用の有効性を証明するためのモデルとして用いた。
(RNAiプラスミドの構築)
ISOGEN(日本ジーン社製)ならびにPoly(A)+Isolation Kit(日本ジーン社製)を用いてmRNAを調製した。次いで、TaKaRa RNA PCR Kitを用いてcDNAを合成し、PCRの鋳型とした。
oma−1、oma−2の部分cDNAの増幅には以下のプライマーを用いた。
oma−1−FW:5’−CAACGAGAAGATCGATGAGC−3’(配列番号:1)
oma−1−RV:5’−CCAAGCGTCTAGAGCAAACA−3’(配列番号:2)
oma−2−FW:5’−ATCCAGAATAATGAGGCTCG−3’(配列番号:3)
oma−2−RV:5’−CAGACTATCCAATGCGAAGA−3’(配列番号:4)
上記cDNAを鋳型としてPCRを行い、その産物をpGEM−T Easy Vector(Promega社製)にサブクローニングし、塩基配列分析を行うことにより、目的のcDNAが得られたことを確認した。それぞれのプラスミドを制限酵素EcoRIで消化し、目的のcDNAを得た。
RNAi用ベクターpPD129.36(cDNAを挿入するマルチクローニングサイトの両端にT7配列が付加したもの:+鎖、−鎖を鋳型とした転写が可能:米国スタンフォード大学Andew Fire博士より分与)のEcoRI部位にoma−1cDNA部分配列、oma−2cDNA部分配列、両者を挿入し、RNAiプラスミド(それぞれpOMA−1RNAi、pOMA−2RNAi、pOMA−1・2RNAi)とした(図1)。
これらのRNAiプラスミドを宿主大腸菌HT115(DE3)株(米国Caenorhabiditis Genetic Centerより入手)に導入し、摂食法によるRNAiを実施した。また、対照区として、oma−1cDNA部分配列又はoma−2cDNA部分配列のどちらも挿入していないRNAi用ベクターを導入した大腸菌HT115(DE3)株を用いた。
RNAiプラスミドあるいはRNAi用ベクターを保持する形質転換株をアンピシリン(100μg/ml)テトラサイクリ(12.5μg/ml)を含むLB培地に殖菌し、一昼夜37度にて振とう培養した。この培養液12μlをアンピシリン(100μg/ml)テトラサイクリ(12.5μg/ml)を含む2 X YT培地に加え、600nmの吸光度(濁度)が0.4になるまで37度にて振とう培養を行った。続いて、100mM IPTGを4μl添加し、4時間振とう培養を継続した。この培養液をRNAi用線虫培地(通常の線虫生育培地NGM(nematode growth medium)にアンピシリン(100μg/ml)テトラサイクリ(12.5μg/ml)を加えたもの)に塗布後、4齢を移し、25度にて生育した。成虫時の生殖巣内の卵母細胞を顕微鏡下で写真撮影すると共に、排出された卵の数を測定した。
成虫の生殖巣内の卵母細胞を顕微鏡下で観察したところ、pOMA−1RNAi導入区、pOMA−2RNAi導入区及び対照区においては成熟した卵母細胞が確認されたが、pOMA−1・2RNAi導入区においては成熟した卵母細胞が確認されなかった(図2)。さらに、それぞれの区における産卵数を測定したところ、pOMA−1RNAi導入区及びpOMA−2RNAi導入区における産卵数は、対照区と同程度であった。それに対し、pOMA−1・2RNAi導入区における産卵数は、他の3区に比べて有意に低い値であった(図3)。
上記の結果は、oma−1部分cDNA及びoma−2部分cDNAを連結した配列を有するベクターを導入した大腸菌を用いて、oma−1遺伝子及びoma−2遺伝子の機能を同時に抑制したことを示すものである。つまり、複数の標的遺伝子cDNA全長配列又は部分配列が連結された配列を挿入したRNAiベクターで微生物を形質転換することにより、微生物中で複数の標的遺伝子cDNA全長配列又は部分配列に対する2本鎖RNAがそれぞれ発現し、該微生物を摂食した線虫において複数の標的遺伝子が同時機能抑制されることが明らかとなった。本発明は、顕微注入法による特別な装置及び技術を必要とする点や煩雑かつコスト高である点を解消するものであり、また、浸漬法における複数遺伝子を同程度に機能抑制できないという問題点を解消するものである。さらに、本発明は、複数種類の組換え大腸菌を摂食させることによる複数の標的遺伝子機能抑制方法及び複数種類のベクターを導入した組換え大腸菌を用いる複数の標的遺伝子機能抑制方法における課題であった同時機能抑制という問題点をも解消するものである。
Claims (9)
- 連結された複数の標的遺伝子cDNAの全長配列又は部分配列を含むベクターであって、微生物中で前記複数の標的遺伝子cDNAの全長配列又は部分配列を含む2本鎖RNAを発現させ、前記微生物を摂食した線虫において前記複数の標的遺伝子を同時機能抑制するための、微生物形質転換用ベクター。
- 前記標的遺伝子の一つがrrf−3である、請求項1に記載のベクター。
- 請求項1又は2に記載のベクターを含む、前記微生物を摂食した線虫において前記複数の標的遺伝子を同時機能抑制するためのキット。
- 請求項1又は2に記載のベクターで形質転換された、線虫において前記複数の標的遺伝子を同時機能抑制するための微生物。
- 前記微生物が大腸菌である、請求項4に記載の微生物。
- 請求項4又は5に記載の微生物を摂食させることによって、前記複数の標的遺伝子が同時機能抑制された線虫又はその一部。
- 請求項4から6の何れか1項に記載の微生物を摂食させることによる、前記微生物を摂食した線虫において前記複数の標的遺伝子を同時機能抑制する方法。
- rrf−3遺伝子cDNAの全長配列又は部分配列と該配列に隣接した制限酵素サイトとを有するベクターであって、微生物中でrrf−3遺伝子cDNAの全長配列又は部分配列と前記制限酵素サイトに挿入された標的遺伝子cDNAの全長配列又は部分配列を含む2本鎖RNAを発現させ、前記微生物を摂食した線虫の神経細胞系において前記標的遺伝子を機能抑制するための、微生物形質転換用ベクター。
- 前記制限酵素サイトに線虫遺伝子cDNA全長配列又は部分配列が挿入された、請求項8に記載の微生物形質転換用ベクターを含むライブラリ。
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