JP2009165391A - 光合成を利用した酸素発生型光合成微生物による水素生産方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】遺伝子組換え技術を用いて酸素発生型光合成微生物の光合成機能(水の酸化速度)を高めることにより、太陽光エネルギーを利用して効率良く酸素発生型光合成微生物に水素を作らせる方法を提供すること。
【解決手段】酸素発生型光合成微生物の光合成電子伝達系を構成する光化学系IIの反応中心タンパク質D1をコードする複数の遺伝子のうち、少なくとも一つを残し、他の遺伝子を破壊することによって、光化学系II当たりの酸素発生活性を上昇させることを含む、酸素発生型光合成微生物を用いて光合成による水分解速度を上昇させる方法を提供する。
【選択図】図5

Description

本発明は、酸素発生型光合成微生物を用いた光合成による水分解速度を促進する方法および水素生産方法に関する。より詳しくは、本発明は、好熱性ラン藻の改変方法、改変微生物、遺伝子組換え技術、および水素エネルギー生産方法に関する。
2004年のエネルギー白書によれば、2001年の日本の一次エネルギー供給の約80%が化石燃料であり、残りが原子力、水力、その他の新エネルギーである。化石燃料を用いた発電の際には大量のCO2や窒素化合物(NOx)、硫黄化合物(SOx)等が発生し、それらが地球温暖化問題の大きな原因の1つになっている。さらに、化石燃料の地球の埋蔵量には限界があるにも拘わらず、エネルギー需要量は年々増えており、化石燃料に替わる新エネルギーの効率的な製造開発は、社会的、産業的に非常に重要な課題となっている。
最近、クリーンで発電効率の高い新エネルギーとして注目されているのが水素エネルギーである。しかし、現行の工業的水素の製造方法は、水分子をエネルギーを使って電気分解、あるいは、熱分解しているため、効率面に加えて、クリーンな水素を得るためにCO2発生を伴うエネルギーを使用するという不合理な問題点を抱えている。また、光触媒による水素発生技術はクリーンであるが、コストの面で課題を抱えている。従って、CO2濃度の削減と、効率の良い水素エネルギー製造方法の開発が、地球規模での解決すべき問題となっている。
微生物を用いた水素エネルギー製造方法としては、例えば、特許文献1に開示の水素産生光合成微生物を用いる方法、および、特許文献2に開示の光合成能力を有する細菌により水素を生産する方法等が開発されている。これらはいずれも光合成微生物を用いるものであるが、電子供与体として炭素を含有する化合物を用いるものであり、水分子を電子供与体として用いる光合成微生物による水素生産方法は知られていない。
光合成生物は光エネルギーを化学エネルギーに変換する機構を持っている。このエネルギー変換系は、初発の反応で水分子を基質に用いて分子状酸素を発生させる「酸素発生型」と有機酸等を基質に用いて酸素を発生しない「非酸素発生型」に大きく分類することができる。前者は色素にクロロフィルを持ち、好気的に生育する植物や藻類が相当し、後者はバクテリオクロロフィルを色素に持ち、嫌気的に生育する光合成細菌が相当する。
酸素発生型光合成を行う好熱性ラン藻(ラン藻は、シアノバクテリア、藍藻、藍色細菌とも称される)は、温泉等に生育する耐熱性の水分解型光合成微生物であり、光合成電子伝達系によって、ほぼ90%の量子収率で太陽光エネルギーを化学エネルギーに変換する生体エネルギーデバイスであり(図1)、エネルギー変換機構を分子レベルで解明する良いモデル材料になってきた。しかし、この光合成微生物には水素生産能力がないために、直接的なエネルギー製造の材料にはなっていない。また、改良するには遺伝子組換えが必要であるが、遺伝子組換え技術が困難であるために、この微生物のような酸素発生型光合成微生物を用いたエネルギー生産方法はこれまで知られていない。
特許第3224992号公報 特開2004−97116号公報
本発明の目的は、遺伝子組換え技術を用いて酸素発生型光合成微生物の光合成による水の酸化速度を高め、太陽光エネルギーを利用して効率良く光合成微生物に水素を作らせることである。
酸素発生型光合成において光エネルギーを化学エネルギーに変換する初発の反応は、チラコイド膜に局在する光合成電子伝達系を構成する光化学系IIで生じる(図2-A)。酸素発生型の光合成生物は、光を受容すると、光化学系II複合体のMn4Ca錯体の触媒作用により、水を酸化して分子状酸素(O2)、電子(e-)、およびプロトン(H+)を作る。ここで生じた電子は光合成電子伝達系で使われて化学エネルギーを合成する。プロトンは蓄積すると膜内のpHを上昇させて生命の危険にさらされるため、膜の外に汲み上げる。この時、同時に化学エネルギーが生じる。一方、酸素は地球上の生物の呼吸に利用される。
光合成光化学系IIで生じるプロトン(H+)を還元すれば分子状水素(H2)になるが、ラン藻をはじめとする酸素発生型光合成微生物は、この還元反応を触媒する遺伝子を持たない。したがって、このプロトン還元酵素(ヒドロゲナーゼ)を持つ生物からプロトン還元酵素遺伝子をクローニングして、遺伝子の発現制御にプロモーターの下流に連結して発現させることにより、酸素発生型光合成微生物にプロトン還元機能を付与することが可能となる。
しかし、光合成による水の酸化速度(水素イオン合成速度)が従来のままでは、酸素発生型光合成微生物の化学エネルギー合成量が下がってしまう上に、水素生産量が低いため、これを改良して水素生産を増産させる工夫が必要である。
本発明者は、まず、ラン藻を材料に用いて、光合成電子伝達系によるエネルギー変換の初発の反応を担う光化学系II複合体のコアとなる反応中心タンパク質D1をコードする遺伝子3つ(psbA1、psbA2およびpsbA3)のうちの2つ(psbA1、psbA2)を破壊することにより、酸素発生量を上昇させることができることを見いだした。
ここで、D1とは、約20サブユニットタンパク質から成る光化学系II複合体の中でも、構造的、機能的に最も重要なタンパク質サブユニットである。構造的には複合体の中心部分に位置し、光化学系IIの構成タンパク質のアッセンブリーの際のコアとなる。機能的には、光エネルギーの化学エネルギー変換の為の電子伝達成分(クロロフィル、フェオフィチン、レドックスアクティブなチロシン残基、Mn4Ca錯体、プラストキノンなど)を含み、電子伝達の中心となっている。このように、D1は酸素発生型光合成生物の生存を左右する最も重要なタンパク質であるため、殆どの酸素発生型光合成微生物はD1をコードする遺伝子(psbA)を3〜5コピー持っている事が知られている。具体的には、好熱性ラン藻であるThermosynechococcus elongatusは、psbA1〜psbA3の3つ、常温性ラン藻であるSynechocystis sp. PCC6803は、psbA1〜psbA3の3つ、Anabena sp. PCC7120は、psbA1〜psbA5の5つ、Gloeobacter violaceus sp. PCC7421は、psbA1〜psbA5の5つを有している。なお、psbAnといった番号付けは便宜的なものであり、生物が異なれば、同じpsbA1遺伝子という名称であってもその配列は異なっている。一方、高等植物はpsbA遺伝子を1コピーのみ有している。
即ち本発明は、第一の態様において、酸素発生型光合成微生物の光合成電子伝達系を構成する光化学系IIの反応中心タンパク質D1をコードする複数の遺伝子のうち、少なくとも一つを残し、他の遺伝子を破壊することによって、光化学系II当たりの酸素発生活性を上昇させることを含む、酸素発生型光合成微生物を用いて光合成による水分解速度を上昇させる方法を提供する。好ましくは酸素発生型光合成微生物は、酸素発生型好熱性ラン藻である。
本発明は、第二の態様において、酸素発生型好熱性ラン藻の光合成電子伝達系を構成する光化学系IIの反応中心タンパク質D1をコードする3つのpsbA遺伝子である、psbA1、psbA2およびpsbA3のうち、psbA1およびpsbA2を破壊することによって光化学系II当たりの酸素発生活性を上昇させることを含む、酸素発生型好熱性ラン藻を用いて光合成による水分解速度を上昇させる方法を提供する。
本発明者らは、ラン藻を用いた第二の態様において、更に残りの遺伝子(psbA3)の反応中心クロロフィルに金属結合するアミノ酸に相当する遺伝子を改変することにより、水の酸化速度を高め、酸素発生量を野生型(従来)の1.5〜1.8倍に上げることに成功した。
即ち本発明は、第一の態様の方法において、残した少なくとも一つのD1遺伝子に突然変異を導入して光化学系II当たりの酸素発生活性をさらに上昇させることを含む、酸素発生型光合成微生物を用いて光合成による水分解速度を上昇させる方法を提供する。
本発明は、ラン藻を用いた第二の態様において、psbA3に突然変異を導入して光化学系II当たりの酸素発生活性をさらに上昇させることを含む、酸素発生型好熱性ラン藻を用いて光合成による水分解速度を上昇させる方法を提供する。
ラン藻を用いた第二の態様において、突然変異は好ましくは、psbA3がコードするD1タンパク質の198位のアミノ酸におけるヒスチジンからグルタミンへの突然変異である。
更に、この組み換えラン藻細胞を宿主にして、ラルストニア・エウトロファ(Ralstonia eutropha)の酸素耐性のNi-Fe型プロトン還元酵素遺伝子を発現させ、好熱性ラン藻に水素生産能力を付与することにより、本発明を完成させるに至った。また、この発現の制御に、本発明者が既に別の遺伝子の発現実験に成功した、ラン藻のフィコビリンタンパク質遺伝子(アンテナ遺伝子)のプロモーターを用いることにより、細胞当たりの酸素発生量をさらに上昇させることが出来ることを見いだした。なお、フィコビリンタンパク質遺伝子を破壊することにより、細胞当たりの光化学系IIの量が増加することも見いだした。
即ち本発明は、第一の態様の方法において、フィコビリンタンパク質遺伝子を破壊することにより、細胞当たりの光化学系IIの量を増加させることをさらに含む、酸素発生型光合成微生物を用いて光合成による水分解を促進する方法を提供する。
好ましくは、破壊するフィコビリンタンパク質遺伝子は、apcA遺伝子および/またはapcB遺伝子である。
本発明はさらに、プロトン還元酵素をコードする遺伝子を導入することをさらに含む、酸素発生型光合成微生物を用いて光合成による水分解を促進したうえで、水素を産生させる方法を提供する。
好ましくは、フィコビリンタンパク質遺伝子apcAのプロモーターの下流にプロトン還元酵素をコードする遺伝子を連結して、酸素発生型光合成微生物にプロトン還元酵素を導入する。
ここで、プロトン還元酵素とは、H+ + H+←→H2の反応を触媒する金属タンパク質であり、その反応は可逆的である。嫌気的条件下ではH+ + H+ → H2の反応を、好気的存在下ではH2→ H+ + H+の反応が優先的に行われることが知られてきたが、最近、Fe-S型のヒドロゲナーゼ、特にラルストニア・エウトロファ(Ralstonia eutropha)では好気的条件下でH+ + H+ → H2の反応を行うことが知られている。プロトン還元酵素の分類に関する総説として、Vignais PM, Billoud B, and Meyer J. Classification and phylogeny of hydrogenases. FEMS Microbiol Rev. (2001) 25, 455-501を、Ni-Fe型ヒドロゲナーゼについては、Vignais PM, and Colbeau A., Molecular biology of microbial hydrogenases. Curr Issues Mol Biol. (2004) 6, 159-88を参照されたい。
本発明において用いるプロトン還元酵素は、酸素耐性のものが好ましく、特に好ましくは、ラルストニア・エウトロファ(Ralstonia eutropha)由来の酸素耐性Ni-Fe型プロトン還元酵素である。
このようにして得られた改良型の酸素発生型光合成微生物は、光を照射すれば水素を生産する能力を有する。また、この酸素発生型光合成微生物は、光合成炭酸固定系によってCO2を取り込んで糖に還元するため(図2-B)、水素の製造と同時に地球上のCO2の削減にも寄与する。
したがって、本発明は、上記方法に用いられる、遺伝的に改変された酸素発生型光合成微生物、好ましくは、酸素発生型好熱性ラン藻を提供する。
酸素発生型光合成微生物は、光合成炭酸固定系を持っているので、本発明により、光合成による水分解を促進し、水素を生産させると同時に地球上のCO2の削減にも寄与できる、地球規模の問題を同時に解決する究極のエコ水素製造技術が提供される。本発明によると、水素の製造に水(休耕田や温泉など)と太陽と本発明による改良型の酸素発生型光合成微生物のみが必要であり、酸素発生型光合成微生物が太陽光下で増殖する際、炭酸同化の為にCO2を吸収するので、コストがかからない上にCO2の削減にも貢献できる。特に、酸素発生型光合成微生物として酸素発生型好熱性ラン藻を用いると、増殖が容易なので、水素製造量を上げるには培養量を増やすだけでよい。
酸素発生型光合成微生物が他の非水分解型光合成微生物(Rhodopseudomonas、RhodovulumやRhodobactorなど)よりも優位な点は、1)水を分解して水素製造の材料になるプロトン(H+)を生じること、2)その水の分解活性が極めて高く安定なことが挙げられる。特に、酸素発生型好熱性ラン藻を用いると、摂氏25度から摂氏98度の間で生育するために、太陽が照りつける培養地では温度制御の必要がない。
本発明は、酸素発生型光合成微生物の光合成電子伝達系を構成する光化学系IIの反応中心タンパク質D1をコードする複数の遺伝子のうち、少なくとも一つを残し、他の遺伝子を破壊することによって、光化学系II当たりの酸素発生活性を上昇させることを含む、酸素発生型光合成微生物を用いて光合成による水分解速度を上昇させる方法を提供する。
宿主として用いる酸素発生型光合成微生物としては、例えば、Thermosynechococcus elongatus、Synechosystis sp. PCC6803、Anabena sp. PCC7120、Gloeobacter violaceus sp. PCC7421などが挙げられ、好ましくは宿主は、酸素発生型好熱性ラン藻である。かかる酸素発生型光合成微生物はD1をコードする遺伝子を複数コピー有するため、遺伝子組換えにより、複数のD1遺伝子のうち、少なくとも一つを残し、他の遺伝子を破壊することによって、光化学系II当たりの酸素発生活性を上昇させることが可能である。遺伝子組換えによって得られた突然変異微生物は、そのD1タンパク質の構成が野生型微生物と異なるため、光合成による光化学系II当たりの酸素発生活性が野生型と異なり、その結果、細胞全体としての酸素発生活性も変化している。かかる突然変異微生物の酸素発生活性を常套の方法により測定すれば、野生型と比較して光合成による水分解速度が上昇した突然変異微生物を同定することが可能である。
さらに本発明は、上記方法により残した少なくとも一つのD1遺伝子に突然変異を導入して光化学系II当たりの酸素発生活性をさらに上昇させることを含む、酸素発生型光合成微生物を用いて光合成による水分解速度を上昇させる方法を提供する。
D1遺伝子に突然変異を導入するには当業者に周知の部位特異的突然変異誘発を用いるとよい。突然変異の導入により光化学系II当たりの酸素発生活性が上昇したかどうかは、得られた突然変異微生物と、その由来である野生型微生物の細胞当たりの酸素発生活性を比較することにより判定することが可能である。
本発明はさらに、フィコビリンタンパク質遺伝子を破壊することにより、細胞当たりの光化学系IIの量を増加させることをさらに含む、酸素発生型光合成微生物を用いて光合成による水分解速度を上昇させる方法を提供する。破壊するフィコビリンタンパク質遺伝子としては、apcAおよびapcBが好ましい。これらのフィコビリンタンパク質遺伝子は、当業者に知られた方法により破壊することが出来、かかる方法としては、相同組換えが好ましい。
本発明は上記のように、光化学系II当たりの酸素発生活性を上昇させること、および/または、細胞当たりの光化学系IIの量を増加させることによる、酸素発生型光合成微生物を用いて光合成による水分解速度を上昇させる方法を提供する。このように改変された酸素発生型光合成微生物に、プロトン還元酵素をコードする遺伝子を導入することにより、酸素発生型光合成微生物による水素の産生が可能となる。
プロトン還元酵素をコードする遺伝子の導入方法および発現に用いるプロモーターは特に限定されないが、例えば宿主として好熱性ラン藻を用いる場合、ラン藻の生育に必須でない遺伝子のプロモーターにプロトン還元酵素をコードする遺伝子を連結して好熱性ラン藻に導入すると、対応する部位に相同組換えによりプロトン還元酵素が組み込まれる。しかしプロモーターは宿主由来のものに限定されず、他の細菌などの微生物由来のプロモーターを用いることも可能である。
例えば、ラン藻の生育に必須でない遺伝子のプロモーターとして、フィコビリンタンパク質遺伝子apcAのプロモーターの下流に、プロトン還元酵素をコードする遺伝子を連結して、プロトン還元酵素をコードする遺伝子を導入するのが好ましい。
また用いるプロトン還元酵素は酸素耐性型のものが好ましく、ラルストニア・エウトロファ(Ralstonia eutropha)由来の酸素耐性Ni-Fe型プロトン還元酵素が特に好ましい。
本発明は、上記いずれかの方法に用いられる、遺伝的に改変された酸素発生型光合成微生物、好ましくは遺伝的に改変された好熱性ラン藻を提供する。
以下、特に好ましい態様として、宿主として好熱性ラン藻を用いる場合に言及して本発明をさらに詳細に説明する。
本発明は、好適な態様において、酸素発生型好熱性ラン藻の光合成電子伝達系を構成する光化学系IIの反応心タンパク質D1をコードする3つのpsbA遺伝子である、psbA1、psbA2およびpsbA3のうち、psbA1およびpsbA2を破壊することによって光化学系II当たりの酸素発生活性を上昇させることを含む、酸素発生型好熱性ラン藻を用いて光合成による水分解速度を上昇させる方法を提供する。
この態様において、宿主として用いる酸素発生型好熱性ラン藻は、酸素発生型の光合成を行い、摂氏45〜90度の温度で成育できるラン藻であれば特に限定されないが、好ましくは、別府温泉から単離された、Thermosynechococcus elongatusを用いる。
Thermosynechococcus elongatusの野生型株は、特許法施行規則第27条の3の規定にしたがい、本出願人が分譲可能であることを保証する。
宿主としてThermosynechococcus elongatusを用いる場合の培養条件は、例えば、これらに限定されないが、野生型の場合、液体培養ではDTN培地(組成:0.5 mM EDTA, 0.5 mM MgSO4, 1 mM KNO3, 8.5 mM NaNO3, 0.8 mM Na2HPO4, 0.35 mM CaCl2, 0.125 mM NaCl,0.007 mM FeCl2, 0.8 mM Na2S2O3, 0.8 mM Na2SO3, 1.6 mM NaHSO4,16 mM Tricine, 0.1 mM NH4Cl, 0.25 μM H2SO4, 4 μM H3BO3, 7 μM MnSO4, 0.85 μM ZnSO4, 0.05 μM CuSO4, 0.05 μ Na2MoO4, 0.025μM (NH4)2Ni(SO4)2, 0.01 μM NaSeO4, pH:7.5-7.6)に10 mM バイカーボネートを加えたものを使用し、約120回転/分程度で振盪させる、あるいは、振盪の代わりに空気(エアポンプを推奨)をガラス管からバブリングしながら培養する。その時の光強度は、20-100 μmols photons/m2/sの範囲、温度は摂氏45-70度が好ましい。固体培養では、1.2%の寒天と10 mM バイカーボネートを含むDTN培地を使用し、静地で20〜80 μmols photons/m2/sの範囲の光強度で培養するとよい。突然変異体の場合も限定されないが、例えば、液体培養、および固体培養ともにDTN培地を用い、培地には変異体に導入した選抜マーカーに対応する抗生物質を加える。カナマイシン、スペクチノマイシン、クロラムフェニコール、エリスロマイシンの有効濃度はそれぞれ、40 μg/mL、25 μg/mL、5 μg/mL、20 μg/mLである。光強度は、液体培地では20-100 μmols photons/m2/s、固体培地では20〜60 μmols photons/m2/sに調節し、温度は摂氏約45度で培養を行うのが好ましい。
本発明の好適な態様において宿主として用いる酸素発生型好熱性ラン藻は、光化学系IIのD1タンパク質をコードする遺伝子を3つ有しており、それぞれpsbA1、psbA2およびpsbA3と称され、そのヌクレオチド配列を、配列番号1、3、5に、そのアミノ酸配列を、配列番号2、4、6にそれぞれ示す。なお、宿主として用いる野生型の酸素発生型好熱性ラン藻においては、主にpsbA1遺伝子が発現している。
次いでpsbA1およびpsbA2の破壊方法について説明する。本発明において、酸素発生型好熱性ラン藻の形質転換方法としては、実施例1に記載の方法が好適である。psbA1とpsbA2は酸素発生型好熱性ラン藻のゲノム内にタンデムに存在しているため、一つのコンストラクトを用いて、相同組換えにより破壊することが出来る。この際、用いるプラスミドとしては、pUC19、pBluescript、pT7Blue等の汎用プラスミド等が挙げられる。
用いるコンストラクトは、相同組換えにより、psbA1とpsbA2を同時に破壊できるものであれば特に限定されないが、例えば、実施例2に記載のコンストラクトが好適に用いられる。具体的には、図3Aに示すように、野生型のpsbA1とpsbA2を含むゲノム断片を宿主から増幅して取り出し、psbA1およびpsbA2のコード配列を含む部分を、抗生物質耐性遺伝子で置換する。この際、相同組換えが確実に起こるように、psbA1の5'非コード領域の部分とpsbA2の3'非コード領域部分に相同的な配列をコンストラクトに含めておくとよい。
このようにして作製したコンストラクトを宿主である好熱性ラン藻に形質転換する。形質転換の方法は、特に限定されないが、エレクトロポーレーションが好適である。エレクトロポーレーションは、実施例1に記載のようにおこなうことができる。
上記のようなコンストラクトによる形質転換の結果、相同組換えにより、好熱性ラン藻に内在するpsbA1の5'非コード領域およびpsbA2の3'非コード領域部分と、それらに相同的なコンストラクト上の配列の間で相同組換えが起こり、結果として、ゲノムに内在するpsbA1およびpsbA2が破壊され、当該部分に抗生物質耐性遺伝子が導入される。したがって形質転換された好熱性ラン藻は、対応する抗生物質を用いて選抜することが出来る。ここで好適な抗生物質としては、カナマイシン、スペクチノマイシン&ストレプトマイシン、クロラムフェニコール、エリスロマイシン等が挙げられる。
なお、宿主である好熱性ラン藻は細胞当たりゲノムを約80〜100コピー有しているので、すべての内在性のpsbA1およびpsbA2が完全に破壊されたことを確認するのが好ましい。内在性遺伝子の破壊の確認は、実施例2に記載のように行うことが出来る。
具体的には、野生型配列と組換え型配列(psbA1とpsbA2が破壊され、抗生物質耐性遺伝子と置換された配列)をPCRに供した場合、異なる長さの断片が増幅されるプライマー対を用いるとよい。例えば、図3Aに示すように、psbA1の5'非コード領域とpsbA2の3'非コード領域の内部にあるプライマーをそれぞれフォワードプライマーおよびリバースプライマーとして用いるとよい(図中、P1およびP2として示される)。
次いで野生型および形質転換体からゲノムを抽出し、かかるプライマー対を用いてPCRを行い、増幅産物をアガロースゲル電気泳動によりその長さを確認する。すべての増幅産物が組換え型配列の長さとなっていることを確認することにより、ゲノム内のすべてのpsbA1およびpsbA2遺伝子が破壊されたことを確認するとよい。
このようにして得られる、好熱性ラン藻において、内在性のpsbA1およびpsbA2遺伝子が破壊された形質転換体を以下、WT*と称する。
psbA1とA2の破壊の結果、通常主に発現しているA1にかわってpsbA3のみが発現する。psbA3のコードするD1を有する光化学系IIは、psbA1のものと比較して高い酸素発生活性を示すため、かかる破壊の結果、光化学系II当たりの酸素発生活性を上昇させることができる。
〈酸素発生活性測定方法〉
[光化学系II当たりの酸素活性測定方法]
酸素発生活性測定には、Hansatech社あるいはThe Rank Brothers社の酸素電極(プラチナ電極と銀電極を持つ)を用いる。精製した光化学系IIタンパク質複合体を40 mM MES, 15 mM CaCl2, 15 mM MgCl2, 10 mM NaCl (pH6.5)の緩衝液で2-5 μg クロロフィル/mLの濃度になるように希釈し、最終濃度が1 mMとなるように2, 6-ジクロロベンゾキノンを加え、反応液を摂氏25度に制御する。電源(自作)から0.6Vの電圧を与え、反応液にハロゲンランプを光源とする光を照射し(約2,000 W/m2)、反応液から出てくる酸素量を変化した電圧から計算する。酸素の変化量は、水にジチオナイトを入れたときの変化量を256 μM O2とする。
[光化学系II複合体の精製方法]
大量培養(8-20 L)したHis-tag付きの好熱性ラン藻細胞を4,000 gで遠心分離して回収する。細胞を約500 mLのTP1(40 mM MES, 15 mM CaCl2, 15 mM MgCl2, pH6.5)に再懸濁した後に5,000 gで遠心分離する。50-100 mLのTP1に懸濁した後に、0.02% BSA, 1 mM ベンズアミジン, 1 mM アミノカプロン酸および100 mg DNaseIを加え、フレンチプレスにより450-700 PSIで細胞を破砕する。破砕した細胞から非破砕細胞を4,000 gの遠心分離で除いた後、チラコイド膜画分を276,700 gの超遠心分離で沈殿させる。チラコイド膜をTP1に100 mM NaClを加えた緩衝液(TP2)で1 mg クロロフィル/mLにし、1%になるように界面活性剤βドデシルマルトシドを加え、室温で膜を可溶化する。可溶化した膜画分をNi2+ レジン(InvitrogenのProBondNあるいはNi2+-NTAレジンを使用)を詰めたカラムにロードし、カラム容量の5-10倍量のTP3(TP2に0.03% βドデシルマルトシドおよび15 mM イミダゾールを加えたもの)でカラムを洗浄した後、TP4(TP2に0.03% βドデシルマルトシドおよび300 mM イミダゾールを加えたもの)で光化学系II複合体タンパク質を溶出する。溶出した光化学系IIは必要に応じて限外濾過法により、濃縮する。
[光化学系IIのクロロフィル定量方法]
光化学系IIのクロロフィルを80%のアセトンで抽出し、アーノンの方法(文献:Arnon, DI. Plant Physiol. 1949, 24, 1-15)に従って663 nmと645 nmの吸光度から求める(Chla μg/mL = 12.7 x A663 2.69 x A645)。
本発明はまた、上記方法により得られた好熱性ラン藻のWT*株において、psbA3遺伝子に突然変異を導入する方法も提供する。即ち、本発明は、psbA3に突然変異を導入して光化学系II当たりの酸素発生活性をさらに上昇させることを含む方法を提供する。
本発明のこの態様において宿主としては、上記の方法により得られた好熱性ラン藻のWT*株(psbA1A2破壊株)を用いる。
突然変異の誘発は、当業者に周知の部位特異的突然変異誘発により行うことが出来る。例えば、実施例3に記載の方法を用いるとよい。具体的には、psbA3の配列中、所望の部位に特異的に突然変異を入れた配列に、抗生物質耐性遺伝子をつないだコンストラクトを作製し、上記の方法によってWT*株に形質転換して、相同組換えを起こさせる。
この際、確実に野生型のpsbA3遺伝子と突然変異導入psbA3遺伝子が置換されたことを確認するために、用いるコンストラクトにおいて、部位特異的突然変異を導入する前後で制限断片長が異なるようになるような制限部位を導入しておくとよい。そして、野生型および突然変異体のゲノムを抽出し、かかる制限部位を包含するPCR産物が得られるようプライマーを設計しPCRを行う(例えば、実施例3、図4CにおけるプライマーP3およびP4を用いる)。そしてPCR産物を当該制限酵素で切断した切断産物の長さをアガロースゲル電気泳動により確認する。すべての増幅産物が突然変異型配列となっていることを確認することにより、ゲノム内のすべてのpsbA3遺伝子に突然変異が導入されたことを確認するとよい。
次いで得られた突然変異型の好熱性ラン藻の光化学系II当たりの酸素発生活性を測定し、野生型の光化学系IIと比較して活性が上昇した突然変異体を選抜するとよい。なお、酸素発生活性測定方法は上記の通りである。
かかる光化学系IIの酸素発生活性を上昇させる好ましい突然変異としては、psbA3によってコードされるD1タンパク質の198位のヒスチジンからグルタミンへの突然変異が挙げられる。
本発明はさらに、上記の好熱性ラン藻のWT*株またはWT*に突然変異を導入して酸素発生活性を上昇させた株において、フィコビリンタンパク質遺伝子apcAおよびapcBを破壊することにより、細胞当たりの光化学系IIの量を増加させることをさらに含む方法を提供する。
フィコビリンタンパク質遺伝子apcAのヌクレオチド配列を配列番号7に示す。配列番号7において、プロモーター配列は、第121〜298ヌクレオチド部分周辺である。
フィコビリンタンパク質遺伝子apcAおよびapcBの破壊方法は、上記のpsbA1およびpsbA2の破壊方法と同様にして行うことが出来、相同組換えによりapcAおよびapcBを破壊することが出来る。フィコビリンタンパク質は光合成の集光性タンパク質であり、apcAおよびapcB遺伝子を破壊することにより、集光性タンパク質が欠損するが、細胞当たりの光化学系II量が上がる。その結果、細胞全体としての光合成活性を上昇させることができる。
本発明はさらに、上記の好熱性ラン藻のWT*株またはWT*に突然変異を導入して酸素発生活性を上昇させた株において、酸素発生型好熱性ラン藻にプロトン還元酵素を導入することをさらに含む方法も提供する。
本発明において用いるプロトン還元酵素の性質は、プロトンを還元して分子状水素を産生する反応を触媒するものであり、好ましくは、酸素ストレスに耐性のある。プロトン還元酵素の由来としては、古細菌Aeropyrum 属、好熱性水素細菌Hydrogenobacter thermophilus、Ralstonia eutropha等が挙げられ、好ましくはラルストニア・エウトロファ(Ralstonia eutropha)由来の酸素耐性Ni-Fe型プロトン還元酵素である。この酵素の小サブユニット(hoxK)および大サブユニット(hoxG)のアミノ酸配列とヌクレオチド配列を、配列番号8および9(hoxK)、10および11(hoxG)に示す。
プロトン還元酵素の導入に用いるプロモーターとしては、宿主である好熱性ラン藻の生育に必須でない遺伝子のプロモーターや、細菌由来のプロモーターを用いることが出来る。好ましくはプロモーターは、フィコビリンタンパク質遺伝子apcAのプロモーターである。
即ち、本発明は、フィコビリンタンパク質遺伝子apcAのプロモーターの下流にプロトン還元酵素をコードする遺伝子を連結して、プロトン還元酵素をコードする遺伝子を導入することをさらに含む、光合成により水分解を促進したうえで、水素を産生する方法を提供する。
この方法では、上記のapcAプロモーターにインフレームにプロトン還元酵素をコードする遺伝子を連結したコンストラクトを作製し、ラン藻のWT*株またはWT*に突然変異を導入して酸素発生活性を上昇させた株に形質転換することにより、相同組換えを起こさせて好熱性ラン藻の内在性のapcAおよびapcB遺伝子とプロトン還元酵素遺伝子を置換させる。形質転換方法およびapcAおよびapcB遺伝子の破壊の確認方法は上記と同様にして行うことが出来る。
こうして得られた組換え体の好熱性ラン藻は、光合成活性が上昇しているため、野生型と比較して多量のプロトンを光合成により生成することが出来、かつ、プロトン還元酵素が導入されているため、細胞自体により、水素を産生することができる。
[水素産生の確認方法]
反応容器に数mlの試料を入れて、脱気した後、気相を不活性ガス(アルゴンや窒素)で置換する。恒温水槽内に反応容器をセットし、光照射装置を用いて可視光をあて、一定時間ごとに気相を採取し、ガスクロで分析する。
本発明はさらに、上記の方法によって得られた組換え好熱性ラン藻を提供する。かかる組換え好熱性ラン藻としては、psbA1およびA2を破壊した株(WT*)、WT*においてさらにpsbA3に突然変異を導入した株、かかる突然変異導入株のapcAおよびapcB遺伝子を破壊した株、さらにかかる突然変異導入株においてプロトン還元酵素を導入した株が含まれる。好ましくはプロトン還元酵素はapcAプロモーターの下流に連結して導入される。
[実施例]
以下に、実施例をあげて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例にのみ限定されるものではなく、本発明の技術分野における通常の変更を行うことができる。
なお、本実施例で用いた材料は以下の通りである。
好熱性ラン藻Thermosynechococcus elongatusの全ゲノム配列は、2001年にかずさDNA研究所によって解読されており、データベースとして、http://bacteria.kazusa.or.jp/cyano/Thermo/index.htmlに公開されている。
遺伝子のクローニング等に用いた合成オリゴヌクレオチドは、シグマ-アルドリッチ社に合成を依頼した。制限酵素はNew England Bio Lab社より、pfu ポリメラーゼはストラタジーン社より、Taq ポリメラーゼはToyoboより購入した。遺伝子配列の特異的な置換は、ストラタジーン社のQuick Change XL Site-Directed Mutagenesis Kit を用いて行った。
また、野生型の好熱性ラン藻Thermosynechococcus elongatusは、ドイツのMuhflenhoff博士から入手した。
好熱性ラン藻の遺伝子組換え法
本実施例において、好熱性ラン藻の遺伝子組換えは以下の方法にしたがって行った。好熱性ラン藻をDTN液体培地で、摂氏65度でO.D.730=0.6〜0.8になるまで培養した。細胞を遠心によって沈殿させた後、10 mM Tricin / 1 mM EDTA (pH8.0)で洗浄し、再び遠心によって沈殿させて滅菌水で洗浄した。細胞周辺の塩を除くため、これを更に2回繰り返した。細胞は、O.D.730=60になるように滅菌水に懸濁した後、40μLの細胞に4-8 μgのプラスミドDNAを混ぜた。これをタイムコンスタント5 msec、抵抗値200 Ω、キャパシタンス25 μF、電圧8〜12 kV / cmの条件下でエレクトロポレーションにより、プラスミドDNAを細胞内に導入した。摂氏45度で2日間培養した後、組換え体の選抜方法に応じて、1.5 μg / ml クロラムフェニコール、6.5 μg / ml スペクチノマイシン、2 μg / ml ストレプトマイシンを含有するDTN寒天培地に撒いた。摂氏45度で培養し、出現したコロニーを新しい抗生物質含有培地にストリークし、細胞内の全ゲノムDNAコピーが組み換わるまで、ゲノムDNAを解析しながら繰り返した。新しい培地にストリークする際に、抗生物質の量を2倍ずつ上げ、最終的に4倍にまで上げた。得られた組換え体細胞は、DTN液体培地に植え、抗生物質含有培地では摂氏45度で、否含有培地では摂氏65度の温度、50-80 μmol photons / s-1 /m-2 の光照射条件下で培養した。
D1遺伝子破壊株(WT*)の作製
T. elongatusゲノム上には、D1タンパク質をコードする遺伝子が3つ存在する(psbA1〜psbA3)。本実施例では、そのうちの2つ(psbA1およびpsbA2)のコーディング領域をCmカセット遺伝子に置き換えることにより破壊した。
また、T. elongatusは、細胞あたり約80〜100コピーのDNAを持っているので、全てのコピー遺伝子のpsbA1およびpsbA2が完全に破壊されたことを確認した。
好熱性ラン藻Thermosynechococcus elongatusのゲノムDNA上には、光化学系II反応中心タンパク質D1をコードする遺伝子psbAが3つ存在する。psbA1、psbA2、および、psbA3は、データベース上のtlr1843(配列番号1)、tlr1844(配列番号3)、および、tlr1477(配列番号5) にそれぞれ相当する。psbA1、psbA2を含む約4500 bpをThermosynechococcus elongatus ゲノムからpfuポリメラーゼを用いてPCRによってクローニングし(用いたプライマーの配列は、フォワード:5'-CTGCAGTATTAAGTTAATGCTTAAGCC-3'(配列番号12)、リバース: 5'-GAGCTCGTTGCTTAGCCGTTGATGCTGGG-3' (配列番号13)である)、プラスミドベクターpUC19にサブクローニングした。図3-Aに示すように、psbA1の開始コドンの約80 bp上流にPst I部位とpsbA2のストップコドンの直ぐ下流にSac Iを作製し、プラスミドDNAをPst IとSac Iで消化し、これらの間にクロラムフェニコール(Cm)耐性カセット遺伝子を挿入したプラスミドを構築した。このプラスミドを大腸菌で増幅させ、精製した後、Thermosynechococcus elongatus 細胞に実施例1に記載のようにエレクトロポレーションによって導入した。組換え体は抗生物質Cmを含むDTN寒天培地で選抜し、図3-AのP1およびP2に相同性を持つPCRプライマー(P1 プライマー (5'-ACAACTGCGTATTTAGTTTTACTAACAATAA-3'(配列番号14)、P2 プライマー (5'-GAAATCCAGCCCGTCACGAGTGCTGGCGAT-3' (配列番号15))を用いて、PCR増幅により、長さの違いによりゲノム上のpsbA1、psbA2遺伝子がCm耐性カセットに置き換わり、完全にpsbA1およびpsbA2が破壊されたことを確認した(図3-B)。以下、この組換え体をWT*と呼ぶ。
D1タンパク質遺伝子psbA3の部位特異的変異によるタンパク質の構造の改変
P680と呼ばれる二量体クロロフィルは、生物界で最も高い酸化還元電位を持っており、この高い電位のために光合成生物は水を酸化した際に出る電子を引き抜くことができる。即ち、P680の電位が水の分解機能に大きく関わっている。
ラン藻において、D1タンパク質の198番目のヒスチジンは、P680のMgと金属結合している。このヒスチジンをグルタミンに置換した部位特異的変異体を作製した(以下この変異体をD1-H198Qと称する)。
実施例2で構築したWT*のpsbA3に、ヒスチジンをグルタミンにコードする遺伝子に置き換えた変異を導入し(図4-A)、全てのコピー遺伝子が置き換わったことを確認した(図4-Bおよび4−C)。
光化学系IIにはP680と呼ばれる第一電子受容体がある。この実態は2量体のクロロフィルで、酸化還元電位が約+1.3 V(推定)という、生物界で最も高い電位を持つ。水の電位が既に+0.8 Vであるので、酸素発生型の光合成生物は、水を酸化できるだけの高い電位をもつこのP680のお陰で水を酸化することができる。この構造を変化させ、水の酸化速度を上げるために、P680クロロフィルのMgと金属結合するD1のヒスチジン(D1-His198)を、グルタミンに置換した組換え体を構築した。図4-Aに示したように、実施例2に記載のように細胞内で3つのpsbAのうち、唯一、psbA3のみが発現可能となったWT*を宿主細胞に用いて、部位特異的変異組換え体(D1-H198Q)を構築した。この時、同時にスペクチノマイシン/ストレプトマイシン(Sp/Sm)耐性遺伝子カセットを挿入した。組換え体は、スペクチノマイシンおよびストレプトマイシンを含有するDTN培地で選抜した後、細胞からゲノムDNAを抽出し、部位特異的変異の前後に相当するPCRプライマー(P3およびP4)(P3プライマー (5’−CCAGGCACTCAACTGGAGTTGTGAACGGTT−3’(配列番号16))、 P4プライマー(5’−GCTGATACCCAGGGCAGTAAACCAGATGCC−3’(配列番号17)))を用いてPCRでDNAを増幅させた後、部位特異的変異の導入の際に新たに作った制限酵素認識部位Pvu IIで消化して、全てのゲノムDNAコピーに変異が入ったことを確認した(図4−Bおよび4−C)。
野生型と組換え体における水の分解活性の比較
水素イオンの発生量を調べるために、水を酸化したときに水素イオンと同量発生する酸素量を、Hansatec社の酸素電極、および、自作のパワーサプライを含む酸素発生活性装置を用いて測定した。野生型の精製した光化学系IIによる酸素発生活性は2500〜3000 μmol O2 / mg Chl / hであったのに対し、実施例2のD1遺伝子破壊株(WT*)の酸素発生活性は3500〜5000μmol O2 / mg Chl / hであった。さらに実施例3の組換え体(D1-H198Q)の酸素発生活性は4500〜5000 μmol O2 / mg Chl / hであった。つまり、改良により、水素イオンの発生量は約1.8倍高められたことになる。
集光性タンパク質遺伝子プロモータを利用した外来遺伝子の発現
他の生物からクローニングした遺伝子を好熱性ラン藻で発現させ、機能を持たせるために、集光性タンパク質であるフィコビリンタンパク質遺伝子apcA (データベースのtll0957)(配列番号7)のプロモータを用いた。好熱性ラン藻は、解糖系に関わる全ての遺伝子をゲノム上に持っているにも拘わらず、細胞外から糖を取り込むことができないために、自身で光合成をしてエネルギーを作らないと生きていくことができない。糖を取り込み、光合成しないでも生育できるように、他の微生物から糖を取り込むグルコーストランスポーターの遺伝子をクローニングし、好熱性ラン藻のapcAプロモータの下流に連結して組換え体を作製した。このプロモータを利用するために、内在性apcAおよびその下流のapcB遺伝子は破壊されている。その結果、トランスポーター遺伝子は大量に発現し、光化学系IIの電子伝達系を阻害することにより、光合成ができないようにしても、糖を取り込んで生育することが確認できた。この組換え体では、apcAおよびapcBにコードされる集光性タンパク質が無くなったが、光化学系IIに結合している35〜36分子のクロロフィルによって光を集めるためか、光化学系II量が野生型の約2倍に増えた。つまり、細胞あたりの水素イオン発生量が約2倍になったことになる。これらの結果から、フィコビリンタンパク質遺伝子apcAのプロモーターを、プロトン還元酵素遺伝子の発現を制御するプロモータとして用いると、1)確実に遺伝子を発現させることができること、2)野生型より水素イオン発生量が多くなること、が期待できるので、最適なプロモータであると考えられる。
野生型と組換え体における光化学系IIの量の比較
細胞から調製したチラコイド膜画分における光化学系Iに対する光化学系IIの量比を調べたところ、野生型では0.5だったのに対し、apcAおよびapcBを破壊した組換え体では0.9まで上昇していた。そして、実際の細胞あたりの光化学系IIの絶対量も約2倍に増えていることを確認した。
実施例2および3により、組み換え細胞内では、比較的活性の低いpsbA遺伝子(psbA1およびpsbA2)を破壊し、psbA3中において光の受容に重要な役割を担うP680クロロフィルの周辺構造を改良することにより、光化学系II自体の光合成活性が上昇することが判明した。また、実施例5および6により、apcAプロモーターを用いる組換えにより、光化学系II絶対量が約2倍に増えることが判明した。即ち、これらの組換えの組合せにより、光化学系IIあたりの水素イオンの発生量が約1.8倍に増え、細胞レベルで見ると、組換え体では野生型の約3.6倍になる。
実施例5および6により、光受容に関わるフィコビリタンパク質遺伝子のプロモータの下流に外来生物のコーディング領域を連結させ、発現させた結果、1)PSII量が上昇、2)その遺伝子を破壊しても生育、むしろPSII研究には都合がよい、そして3)大量に発現させることのできるプロモータであることが判明した。したがって、フィコビリタンパク質遺伝子のプロモータは水素生産用のヒドロゲナーゼ遺伝子の発現プロモータに用いるのに最適である。
プロトン還元酵素遺伝子の改良型好熱性ラン藻での発現(水素イオン還元能の付与)
プロトン還元酵素は水素イオン(H+)を分子状水素(H2)に還元する酵素である。一般的にプロトン還元酵素は酸素存在下では、この還元活性が著しく低いことが知られている。Ralstonia eutropha のNi-Fe型ヒドロゲナーゼは酸素耐性であり、酸素存在条件下の再構成系で活性が認められている(Photochemistry and Photobiology 82, 2006, 676682)(Ralstonia eutropha のNi-Fe型ヒドロゲナーゼの小サブユニットのヌクレオチド配列を配列番号9に、大サブユニットのヌクレオチド配列を配列番号11に示す)。この遺伝子の一方(大サブユニット)または両方(大サブユニットおよび小サブユニット)を実施例5のapcAプロモータの下流に連結し、実施例3で作製した改良型好熱性ラン藻(D1-H198Q)に導入し、実施例1の方法を用いて組換え体を作製した。上記の改良の組合せによって光化学系IIあたりのH+発生量を上げ、更に光化学系II絶対量を上昇させ、そこにH+から水素を生産をさせる能力を付与することができる(図5)。
光合成電子伝達系を、電位に基づいて示す図である。4Mnは、Mn4Ca錯体を示す。 光合成電子伝達系(A)および炭酸固定系(B)を模式的に示す図である。 Thermosynechococcus elongatusゲノムのpsbA1およびpsbA2を破壊した方法(A)、および、破壊されたことを確認したことを示すアガロースゲル電気泳動(B)の図である。図3(A)中、Cm:クロラムフェニコール、CmR cassette:クロラムフェニコール耐性遺伝子カセット、P1およびP2:PCR用プライマー、箱の上の数字: psbA1 N末端からのアミノ酸番号。図3(B)中、レーン1:1000 bp DNAラダーマーカー、レーン2:野生型(従来型)のゲノムDNAをP1およびP2のPCRプライマーを用いて増幅させたDNA(2990 bp)、レーン3:psbA1およびpsbA2を破壊した組換え体WT*のゲノムDNAをP1およびP2のPCRプライマーを用いて増幅させたDNA(1753 bp)。確実に遺伝子が破壊されたことを確認した。 Thermosynechococcus elongatusゲノムのpsbA3に導入した部位特異的変異体(D1-H198Q)のH198周辺の配列(A)、変異が入ったことを確認した示すアガロースゲル電気泳動(B)、および、その原理を模式的に示した図(C)である。図4(A)中、配列の上の数字:psbA1 N末端からのアミノ酸番号。図4(B)中、レーン1:100 bp DNAラダーマーカー、レーン2:野生型(従来型)のゲノムDNAをP3およびP4のPCRプライマーを用いて増幅させたDNA(943 bp)、レーン3:レーン2のDNAをPvu IIで消化したDNA(819 bpおよび124 bp)、レーン4:部位特異的変異体D1-H198QのゲノムDNAをP3およびP4のPCRプライマーを用いて増幅させたDNA(943 bp)、レーン5:レーン4のDNAをPvu IIで消化したDNA(541 bp、278 bpおよび124 bp)。変異が入ったことを確認した。図4(C)中、ORF:psbA3のコーディング領域、Sp/SmR cassette:スペクチノマイシン/ストレプトマイシン耐性遺伝子カセット。 酸素発生型光合成微生物を用いて水素製造をするための装置を示す図である。

Claims (13)

  1. 酸素発生型光合成微生物の光合成電子伝達系を構成する光化学系IIの反応中心タンパク質D1をコードする複数の遺伝子のうち、少なくとも一つを残し、他の遺伝子を破壊することによって、光化学系II当たりの酸素発生活性を上昇させることを含む、酸素発生型光合成微生物を用いて光合成による水分解速度を上昇させる方法。
  2. 残した少なくとも一つのD1遺伝子に突然変異を導入して光化学系II当たりの酸素発生活性をさらに上昇させることを含む、請求項1に記載の方法。
  3. 酸素発生型光合成微生物が、酸素発生型好熱性ラン藻である請求項1または2に記載の方法。
  4. 酸素発生型好熱性ラン藻の光合成電子伝達系を構成する光化学系IIの反応中心タンパク質D1をコードする3つのpsbA遺伝子である、psbA1、psbA2およびpsbA3のうち、psbA1およびpsbA2を破壊することによって光化学系II当たりの酸素発生活性を上昇させることを含む、酸素発生型好熱性ラン藻を用いて光合成による水分解速度を上昇させる、請求項3に記載の方法。
  5. psbA3に突然変異を導入して光化学系II当たりの酸素発生活性をさらに上昇させることを含む、請求項4に記載の方法。
  6. 突然変異が、psbA3がコードするD1タンパク質の198位のアミノ酸におけるヒスチジンからグルタミンへの突然変異である、請求項5に記載の方法。
  7. フィコビリンタンパク質遺伝子を破壊することにより、細胞当たりの光化学系IIの量を増加させることをさらに含む、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
  8. フィコビリンタンパク質遺伝子であるapcAおよびapcBを破壊することにより、細胞当たりの光化学系IIの量を増加させる、請求項7に記載の方法。
  9. プロトン還元酵素をコードする遺伝子を導入することをさらに含む、請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
  10. フィコビリンタンパク質遺伝子apcAのプロモーターの下流にプロトン還元酵素をコードする遺伝子を連結して、プロトン還元酵素をコードする遺伝子を導入することをさらに含む、請求項9に記載の方法。
  11. プロトン還元酵素が酸素耐性型のものである、請求項9または10に記載の方法。
  12. 請求項1〜11のいずれかの方法に用いられる、遺伝的に改変された酸素発生型光合成微生物。
  13. 好熱性ラン藻である、請求項12に記載の遺伝的に改変された酸素発生型光合成微生物。
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