JP2009154046A - 液体材料塗布装置、液体材料塗布方法、及び液体材料塗布装置を用いて作製された電子デバイス - Google Patents

液体材料塗布装置、液体材料塗布方法、及び液体材料塗布装置を用いて作製された電子デバイス Download PDF

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Abstract

【課題】基板が立体形状であっても自由度高く微細かつ欠陥のない滑らかなパターン作成を行う液体材料の塗布が可能な液体材料塗布装置、液体材料の塗布方法、及び液体材料塗布装置を用いて作製された電子デバイスを得ることを目的とする。
【解決手段】供給された液体材料を開口部から塗布対象体に対して吐出することで該塗布対象体上に液体材料の塗布を行うための少なくとも一つの管状構造体を備える液体材料塗布装置において、管状構造体の少なくとも開口部近傍の一部に、振動電界を誘起するための導電体部を備え、該導電体部に振動電界を誘起させた状態で、塗布対象体への液体材料の塗布が行われる。
【選択図】図1

Description

本発明は、液体材料、特にエレクトロニクスデバイスを構成しうる機能性液体材料の固体表面へのパターン形成のための液体材料塗布装置、液体材料塗布方法、及び液体材料塗布方法を用いて作製された電子デバイスに関するものである。
シリコンウェハー上に真空プロセスとフォトリソグラフィー等の微細加工技術を用いて集積回路を形成する従来型の固体/ガス材料ベースの機能素子作成方法に対して、溶液化した有機材料や溶媒中にコロイド状に分散された無機材料等の液体材料と、印刷技術とを組み合わせた全く新しい材料/プロセスに基づくいわゆる印刷エレクトロニクスを用いた機能素子が数多く提案されてきている。そして、現在、印刷エレクトロニクスにおける印刷方式は、インクジェット方式が中心となって検討が行われている。
ところで、インクジェット方式による描画では、微小なノズルから微小な液滴を吹き出すという原理上、描画される図形は点の集まりとなるので、それら点と点の境界に不均一を生じたり、また液滴が吹き出された後目標地点に到達するまでに、気流や静電気等の外乱要因によってその到達位置が目標からずれてしまったりすることが起こるという問題がある。また、極端な場合は、液滴の吐出そのものがうまく行われずパターンに断線などの欠陥が生じることもある。
インクジェット方式と同様に自由度の高いパターン形成法として、ピペット状の吐出口から連続的に材料を基板上に供給してパターン形成を行ういわゆるディスペンサ方式がある(例えば、特許文献1)。このディスペンサ方式もインクジェット方式と同様に、異なるパターンを逐次形成するのに向いたパターン形成方式である。
そして、このディスペンサ方式は、インクジェット方式のような液滴ではなく、線状の材料を連続的に基板上に供給することで塗布を行うので、形成されるパターンは、連続的に繋がった滑らかな表面を持つものになる。また、原理的に着弾ずれや未吐出といったことが生じないので、パターンは連続的かつ滑らかなものになる。
特開平8−066652号公報 特開2004−136653号公報 特開2005−000910号公報 特開平8−238774号公報
このように、ディスペンサ方式は、パターン形成の自由度が高く、またインクジェット方式と比較して、形成されるパターンは滑らかで欠陥がないという優れた特徴を有しているが、微細なパターンを描くことが難しいという問題がある。
すなわち、ディスペンサを用いて微細なパターンを描くためには、単にディスペンサ先端の形状を細く微細なものにすればよいように思われるが、先端形状を鋭利なものにし、吐出される液体材料の体積が小さくなると、それにつれて液滴にかかる重力よりも表面張力が支配的になり、その結果、吐出された液滴が先端に保持されずディスペンサ壁面に濡れ広がるなど液体材料のコントロールが困難になる。
この問題に対して、例えば(特許文献1,2)などでは、ディスペンサ先端の開口部付近を撥液性の高い膜でコーティングすることで、吐出した液体材料の壁面への這い上がりを防ぐ方法が提案されている。また、(特許文献3)では、吐出した液滴をコントロールするために、ディスペンサに電圧をかけて静電力によって液体材料を押し出すと同時に、ポンプによる吸引を行うことでバランスを取ることで、同様に液滴のコントロールを行う方法が提案されている。
しかし、撥液膜の利用は、構成も簡素であり好ましい方法ではあるが、液体の種類によっては有効ではない場合がある。そして、撥液膜の利用は、基本的に、ディスペンサが下に向いている場合、すなわち液体材料の這い上がりを防止する場合においてのみ有効であって、ディスペンサが横方向を向いたり鉛直上方を向いたりしている場合には有効であるとはいえない。また、(特許文献3)の方法は、機構的に複雑であるのに加えて、立ち上がり面への塗布において液滴のコントロールが困難になることは撥液膜利用の場合と同様である。
つまり、これらの改善提案は、基本的に平板である基板を想定したものであり、加えてディスペンサに対して下方に保持された平板上の基板の上面に液体材料を塗布するためのであって、基板が曲面であったり、立ち上がり面があったり、さらには基板がディスペンサの上方にあって天井面に液体材料を塗布するような場合は、もはや液滴のコントロールをすることは困難となり、事実上そのような面に対する塗布はできないものである。
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、基板が立体形状であっても自由度高く微細かつ欠陥のない滑らかなパターン作成を行う液体材料の塗布が可能な液体材料塗布装置、液体材料塗布方法、及び液体材料塗布装置を用いて作製された電子デバイスを得ることを目的とする。
上述した目的を達成するために、本発明は、供給された液体材料を開口部から塗布対象体に対して吐出することで該塗布対象体上に前記液体材料の塗布を行うための少なくとも一つの管状構造体を備える液体材料塗布装置において、前記管状構造体の少なくとも前記開口部近傍の一部に、振動電界を誘起するための導電体部を備え、該導電体部に前記振動電界を誘起させた状態で、前記塗布対象体への液体材料の塗布が行われることを特徴とする。
本発明によれば、導電体部に誘起される振動電界によって開口部近傍に誘電泳動力が発生し、これによって、開口部から吐出された液滴が、表面張力によって開口部外壁に濡れ広がることなく開口部に安定に保持される。そのため、たとえ塗布対象体が立体形状であっても、微細かつ欠陥のない滑らかなパターンを自由度高く塗布することができるという効果を奏する。
以下に図面を参照して、本発明にかかる液体材料塗布装置、液体材料塗布方法、及び液体材料塗布装置を用いて作製された電子デバイスを得ることを目的とするを詳細に説明する。
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1による液体材料塗布装置の要部構成を示す概念図である。図1において、符号1は塗布を行うディスペンサであり、請求項における管状構造体に対応している。符号2は電界誘起用の電源であり、電源線6を通してディスペンサ1に接続されている。符号3は液体材料貯蔵用のタンクである。符号4はタンク3から液体材料を取り出す液体材料搬送手段であり、液体材料輸送管5を通してディスペンサ1に供給する。符号7は塗布対象の基板である。符号8はディスペンサ1が塗布した基板1上の液体材料パターンである。符号9は塗布の際にディスペンサ1に保持された液体材料の液滴である。
その他の構成は、説明の煩雑化を避けるために、図1では図示を省略したが、以降の説明で必要に応じて言及することがあるので、念のために示すと、ディスペンサ1と基板7の相対位置を変化させるための相対位置変更機構、装置全体の動作を制御する制御部、制御部がスムースな制御を行うための位置決めセンサ、電圧や電圧波形検出のためのセンサ、液体材料の流量センサ等が含まれる。そして、制御部は、CPUとメモリと周辺回路で構成され、メモリには、CPUが実行する制御プログラムや塗布パターンを保持した描画データなどが用意されている。
図1に示した各構成要素は、次のようになっている。ディスペンサ1は、ガラス管を火炎中で加熱延伸したキャピラリであって、ガラス管の未延伸部分の外径は1mm、内径は約300ミクロンである。そして、先端部の外形は30ミクロン、内径は10ミクロンである。
図2は、図1に示すディスペンサの先端近傍の内部構造を示す縦断面図である。図2に示すように、ディスペンサ1であるガラス管の内壁面には、内壁導電体20が良導電性の材料である銀薄膜でコートされて形成されている。そして、図1に示した液体材料輸送管5は、このガラス管の一端(図2では上方端側)に接続され、他端である先端(図2では下方端側)の開口部が図1に示した基板7に対する液体材料の吐出口21である。
内壁導電体20は、図2では、内壁面の全体を被覆していて、吐出口21にその端部22(以降「内壁端部22」という)が露出している場合を示してあるが、少なくとも内壁面の一部に設けてあればよく、好ましくは、ディスペンサ1の先端近傍に配置されていてその内壁端部22が吐出口21の開口部に露出している状態がよい。
図1に示した電源2は、この内壁導電体20に接続されている。図1では、電源2は、電源線6を介してこの内壁導電体20に接続されているが、直接接続することができればその方が好ましい。
ガラス管を材料としたキャピラリは容易に作製可能であって、簡単なバーナーを用いて過熱延伸後切断するだけで先端が1ミクロン程度のものを得ることが可能である。また、内壁面への銀薄膜のコーティングは特殊な方法ではないので、詳細は割愛するが、硝酸銀溶液のPHを適切に調整した後に、キャピラリを熱湯に浸漬し、その状態で硝酸銀溶液をキャピラリに通すことによりコーティング膜が得られる。これは熱湯によって加熱された硝酸銀溶液から銀が析出し、キャピラリ内壁に堆積するからである。
ディスペンサ1は、ガラスのほかにプラスチックやセラミックを用いても作ることが可能である。また、金属などの導電性材料の外壁面を絶縁体でコーティングすることによっても同等の機能を持ったディスペンサを得ることが可能である。
なお、ディスペンサ1の本数については、1本のディスペンサによって本発明の本質を十分に説明できるので、本実施の形態では、1本のディスペンサを用いた例を説明するが、実際の装置においては、ディスペンサ1は複数本同時に使用するようにしてもよい。
次に、電源2は、内壁導電体20に、つまりディスペンサ1に電界を誘起するためのものである。電源2から電圧を印加することでディスペンサ1に誘起される電界は、正負両方向に等振幅で振動する正弦波状の交番電界であってバイアス成分を含まない。つまり、正負両方向に振動する電界の総和がゼロであるので、ディスペンサ1上には、正又は負の正味の電荷が誘起されることはない。
誘電泳動力は、電界強度に比例して強度が増大する力であるので、電源2はそれに応じた高い電圧を出力することのできるものが望ましい。一方で、必要な誘電泳動力を得るには、電界強度が確保されれば良く、電流が流れる必要はない。したがって、電源2は、高電圧であるが、電流はほとんど0であるというやや特殊なものとなっている。しかしながら、このような高電圧小電流電源は、一般に低電圧大電流電源と比較して簡易な構成で実現することができる。実際にこのような電源を確保することは容易である。例えば、トレックジャパン株式会社のPM 04015A型等が利用可能である。
液体材料タンク3には、金属銀コロイドを分散したトルエンが保存されている。これが本実施の形態1で用いる液体材料である。同様の液体材料は、多種類市販されており、例えば株式会社アルバック等から購入可能なものである。これら金属コロイド分散液は、塗布後に適切な条件で熱処理を施すことによりコロイド粒子同士が結合して金属薄膜を形成する。形成された金属膜は、真空蒸着やスパッタリングなどの従来プロセスで作製された薄膜と同様の性質を示すことが知られている。したがって、液体材料を基板上にたとえば配線用のパターンに塗布を行い、次いで熱処理を行えば、フォトリソグラフィー等に代表されるパターニング法に比較してはるかに簡単に所望のパターンを持った基板を得ることができる。
本発明で使用可能な液体材料は、機能材料又はその前駆体そのものが液体であるか、溶媒に溶解しているか、溶媒中にコロイド状で分散されているかという点と、基板上にパターン形成した後に適切な処理を行うことによって固定され電子機能を発現できるという点とを有していれば良い。
このような液体材料としては、非常に多くの種類のものが考えられる。また、それらは日々開発が行われてその種類を増やし続けている。一例を挙げると、貴金属類や遷移金属類のコロイド分散液、シリコンや無機化合物半導体、CdS/CdSe等によるコアシェル型半導体超微粒子の分散液、透明導電材料であるインジウム錫酸化物、インジウム亜鉛酸化物超微粒子の類を分散した液、溶媒に溶解可能な全ての有機電子材料又は液体状の前駆体等、そしてチタニアやチタン酸バリウムやシリカやその他非常に多岐に渡るセラミックス超微粒子の類等である。
次に、液体材料搬送手段4には、いわゆるポンプによる方法と、ガス圧力の差を利用しての液体材料の搬送、位置エネルギーを利用しての搬送などの方法とを選択することが可能である。ポンプによる方法を選択する場合は、液体材料の吐出脈動は塗布される液体材料のムラを生じる可能性があるので、例えば、ダイアフラムポンプの様な脈動のあるポンプは避けるべきで、スクイズポンプのように、無脈動で連続的に微小流量を送出できる無脈動ポンプを選択すると良い。無脈動ポンプには、スクイズポンプの他に、シリンジポンプ、スネークポンプ等がある。
次に、基板7は、本実施の形態では、説明の便宜から、通常概念に合わせて平板基板を使用する例を示すが、本発明の液体材料塗布装置は、電子機器の筐体内面に帯電防止材や電磁波遮断層を付与するなどの用途にも適用可能であるので、本発明での基板には、これら立体形状を持つ装置筐体なども含まれる。すなわち、これが、請求項で言う、塗布対象体の内容である。
通常概念での基板7として、本実施の形態1では、ホウ珪酸ガラス製の平板を使用するが、一般に電子デバイスが作製されるシリコンや化合物半導体の基板、焼結セラミックスや単結晶セラミックス、プラスチックなどが使用可能であり、またポリイミドやPETのフィルムを始めとするフレキシブル基板も好適である。そして、基板7上には、既に別プロセスで形成された薄膜トランジスタのような機能部品が存在していても構わない。
次に、図3〜図5を参照して、ディスペンサ1が液体材料を吐出する際に発現する挙動について説明する。なお、図3は、図1に示すディスペンサに誘起される電界によって生じる電気力線と誘電泳動力を説明するための概念図である。図4は、図1に示すディスペンサの先端近傍における液体材料の電界誘起有無による挙動を説明するための概念図である。図5は、図1に示すディスペンサが明示的な対極を備える場合の構成例を説明するための縦断面図である。図6は、図5に示す明示的な対極を備えたディスペンサにおける電気力線の発現を説明するための概念図である。
まず、図3を参照して、本発明の主要な制御要素である誘電泳動力について説明する。図3において、符号40は、電源2から印加された電圧によって内壁導電体20に誘起された電気力線である。符号41は、誘電泳動力によってディスペンサ1の先端に保持された液体材料からなる液滴であり、図1に示す符号9である、そして、符号42は、電界によって液滴41内部に誘起された誘導電界のベクトル成分を表す矢印である。
ここで、電源2から印加された電圧によってディスペンサ1に誘起される電界は振動電界であるので、電界強度は刻一刻と変化するが、図3では、その変化途中のゼロではない電界強度のある瞬間での電気力線による誘電泳動力の発生過程の様子を説明する。
なお、図3を用いて説明する液滴41の挙動は、誘電泳動力のみによるものであり、液滴41の表面張力は考慮に入れていないことを付記しておく。実際に生じる液滴41の挙動は、表面張力による動きを伴ったより複雑なものとなる。これについては、実施の形態2において詳細な説明を行う。
さて、図3において、ディスペンサ1では、電源2から交番電圧が印加されると、それによって、内壁導電体20の電位が変化する。電位が正極側に変化する場合は、内壁導電体20から遠方に向かって電位が低下するような電気力線40が張り出す。そして、電気力線40は、ディスペンサ1の幹の部分ではガラスのために遮蔽されてその勢力は弱くなるが、ディスペンサ1の先端部分にある内壁端部22では内壁導電体20が露出しているために強く張り出す。その結果、電気力線40は、ディスペンサ1の先端吐出口21の部分において、内壁端部22を基点として立体的に放射状に張り出すことになる。
この状況下において、吐出口21から液体材料が吐出されて液滴41を形成すると、液滴41には、放射状の電界によってその内部にいわゆる誘導電界42が誘起される、そして、その誘導電界42の電位勾配の方向は誘導電界42を誘起せしめた外部電界、すなわち内壁導電体20の内壁端部22から張り出した放射状の電界を打ち消すような方向となる。つまり、外部電界の方向と誘導電界42の方向とが互いに反対方向になる。これは誘電体の電界に対する応答として良く知られた現象であり、このときに液滴41内部に生成される誘導電界42の強度は、液滴41の誘電率によって決まる値となる。
このように内壁導電体20の電位が正極側に変化している場合は、液滴41の吐出口21側には反対の負極側電位が誘起されている。つまり、液滴41の吐出口21側には、内壁端部22に対して電気的な引力を感じている状況になる。そして、液滴41に誘起される誘導電界42は双極子であるので、誘導電界42の他端、すなわち吐出口21から出た電気力線40が液滴41を貫いて外へ出る出口側は正極側電位が誘起されており、液滴41の出口側部分は内壁導電体20に対して斥力を感じている。
この引力と斥力の内容を図3にて説明すると、液滴41を貫いている電気力線40は、内壁端部22を基点として放射状に広がっている。それによる誘導電界42も電位勾配は反対方向であるが、やはり放射状である。したがって、引力と斥力は、どちらも内壁端部22に対して最も強いものとなるが、引力と斥力は互いに逆向きの方向性を持っているので、実際に液滴41に作用する力の発生方向は、集中方向である引力のベクトルと、反対に発散方向である斥力のベクトルとを液滴41全体に渡ってベクトル合成した結果得られる合成ベクトルの方向である。
このように、不均一な広がりを有した電界による引力と、それによって誘電体である液滴41に誘起される誘導電界による斥力との相互作用によって発生する液滴41に及ぼす力が誘電泳動力であり、その方向が引力方向となり、液滴41はその誘電泳動力によってディスペンサ1の先端部、つまり吐出口21に保持されることになる。
そして、電源2から印加される交番電圧によって、内壁導電体20の電位が負極側に変化する場合は、符号が反対になるだけであり、以上説明した事項はそのまま適用できるので、同様に、液滴41を吐出口21に保持させる誘電泳動力が発生する。このような誘電泳動力を効果的に発生するためには、内壁導電体20の内壁端部22が吐出口21に露出していることが重要であることが解る。
このように、液滴41を吐出口21に保持させる誘電泳動力の発生に必要な要件は、不均一な電界の存在、すなわち不均一な電位の勾配のみの存在であって、電流の流れは不要である。このことは、不均一電界さえ発生できる条件であれば、明示的な電気的に対をなす電極は必要ないということを意味している。電位の勾配は、電荷からの距離の二乗に比例して減衰していくクーロン場であって、それが作用する範囲は、極めて限定的である。誘電泳動力は、そのような限定的な場で初めて発現が観察される特異な現象であるが、微小な液滴41をコントロールすることができるので、基板7上に微細なパターン形成を行う制御手段として適しているといえる。
ここで、以上のように、ディスペンサ1に誘起される電界は振動電界であるが、振動電界であっても誘電泳動力は問題なく発生するので、振動電界を用いるとした理由を説明する。振動電界を用いる理由は、振動電界の振動周期、すなわち印加される電圧の周波数を変化させることで、上記した引力と斥力との関係をコントロールできるからである。
再度、図3を参照して説明するが、振動電界による誘電泳動力の挙動については、JOURNAL OF APPLIED PHYSICS VOLUME 29、NUMBER 8、1182ページのSome Effects of Nonuniform Fields on Dielectricsに詳細な報告がなされているので、ここでは概要を説明する。
図3において、上記したように、電気力線40によって液滴41に誘起される誘導電界42のベクトルは、電気力線40とは反対方向に向いている。この誘導電界42が、振動電界、さらには交番電界によって電気力線40の方向が反転するときに、どのような応答をするかを詳細に観察することで誘電泳動力の周波数に対する興味深い性質を明らかにすることができる。
誘導電界42は、電気力線40に対して殆ど瞬時に発生するのではなく、若干の応答遅れのあることが解っている。この応答の遅れは、物質によって固有のものであり、複素誘電率を用いたクラウジウス−モソッチの式によって誘電泳動力と結びつけた説明がなされている。
周波数がある程度低い範囲では、誘導電界42の応答の遅れは、殆ど無視することができ、電気力線40の変化に追従して反対方向の電界を生じる。これは、今まで説明してきた現象であって、誘電泳動力が引力であることを示している。ところが、周波数が次第に高くなっていくと、誘導電界42の応答の遅れが次第に無視できなくなっていき、印加される電圧の位相と誘導電界42の応答の位相とにずれが生じてくる。これは、誘電泳動力による引力が低下していくことを意味する。そして、さらに周波数を高くしていくと、印加される電圧の位相に対して誘導電界42の応答の位相が90度遅れる状態となる。このときに誘電泳動力は零になる。その後、さらに周波数を高くしていくと、さらなる位相の遅れによって誘電泳動力は斥力として作用するようになる。
このように、誘電泳動力には、周波数依存性であり、引力と斥力の関係が振動電界の振動周期の大小関係に応じて逆転する現象が現れる。これを利用すれば、液滴41に作用する力を引力から斥力まで制御することができるので、液滴41の詳細なコントロールが可能になる。
次に、本実施の形態1における具体的な措置について説明する。ディスペンサ1に印加される交番電圧の振動振幅は、例えば1.2kVであり、その周波数は例えば5kHzであり、波形は正弦波状である。1.2kVという電圧は、大変高く感じられるが、ディスペンサ1は閉回路を構成していないので、実質的な意味での電流の流れは無い。したがって、電源2は、単に高電圧を発生すればよく、その構成はトランスと発振回路の組み合わせなどの簡易な構成で済ませることができる。
なお、採用する交番電圧の振幅と周波数は、使用する液体材料の種類、正確には液体材料の複素誘電率によって適切に選択されるべきものである。好ましい電圧振幅の範囲としては、100Vから10kVが挙げられるが、液体材料塗布装置が明示的なアース電極を使用することが可能な構成である場合には、この電圧範囲をより低減することが可能である。また、周波数範囲は、10Hzから10MHzであることが好ましい。おおよの液体材料は、この範囲の周波数で引力と斥力とを及ぼすことが可能である。
そして、上記したように、誘電泳動力は、印加される周波数によって引力から斥力まで変化するため、高調波成分が重畳された矩形波や三角波、さらには不定な高周波ノイズ成分やひずみ成分を含んだ波形の場合は、引力と斥力が拮抗し、結果的に誘電泳動力を弱めてしまう恐れがあるので、印加する交番電圧の波形は、正弦波であることが好ましい。
次に、図4を参照して、実際の装置におけるディスペンサ1の先端近傍で生じる誘電泳動現象について説明する。これによって、ディスペンサ先端に保持される液滴を、誘電泳動現象を利用して任意サイズの極小状態にすることができるので、筆先が細い程に細い線を描くことが容易であるように、このディスペンサを用いることで、より微細なパターンを描くことが可能になることが理解でき、しかも、ディスペンサを下向きだけでなく、上向きにしても、支障なくパターン描画が可能になることが理解できる。
なお、図4に示す符号45は、吐出口21から吐出された液体材料である。そして、図4(a),(b)は、ディスペンサ1を、吐出口21を鉛直下方に向けて保持した状態での電圧印加有無による状態比較を示したもので、図4(a)は電圧印加が無い場合を示し、図4(a)は電圧印加が有る場合を示している。また、図4(c),(d)は、ディスペンサ1を、吐出口21を鉛直上方に向けて保持した状態での電圧印加有無による状態比較を示したもので、図4(c)は電圧印加が無い場合を示し、図4(d)は電圧印加が有る場合を示している。
図4において、ディスペンサ1が吐出口21を鉛直下方に向けている場合に、ディスペンサ1の先端に液滴を形成するために液体材料を微量吐出させると、内壁導電体20に対する電圧の印加が無い場合は、吐出口21から押し出された液体材料45は表面張力のために、図4(a)に示すように、ディスペンサ1の壁面を這い登っていく。そして、ディスペンサ1の先端近傍に薄い濡れ広がった面を形成する。
一方、吐出口21を鉛直下方に向けているディスペンサ1に、電圧を印加しながら液体材料を微量吐出させた場合は、印加する電圧と周波数を適切に設定することによって、図4(b)に示すように、吐出された液体材料45をすでに説明した誘電泳動力の引力によって小さな液滴としてディスペンサ1の先端、吐出口21付近に保持することができる。このように誘電泳動力は、条件によって表面張力に勝る力を液体材料に及ぼすことが可能である。
次に、ディスペンサ1が吐出口21を鉛直上方に向けている場合を説明すると、まず、電圧の印加を行わずに液体材料を微量吐出した場合、これは図4(a)に示す場合と同様に、吐出された液体材料45は、ディスペンサ1の壁面を濡れ広がっていくが、ディスペンサ1が鉛直上方に保持されているので、濡れ広がった液体材料は、そのまま下方へと流れ去ってしまい、まったく液滴を形成することができない。
ところが、吐出口21を鉛直上方に向けているディスペンサ1に、電圧を印加しながら液体材料を微量吐出させた場合は、吐出された液体材料45は、図4(d)に示すように誘電泳動力による引力で吐出口21近傍に保持されるので、図4(b)に示す場合と同様の状態を示す。これは、条件を適宜選択することによって、誘電泳動力が重力と表面張力の両方に勝って液滴をコントロールするだけの力を液体材料に及ぼすことが可能であることを示している。
このような状態を実現するために、本実施の形態では、既に説明した通り、ディスペンサ1に対して、交番振動の振幅が1.2kV、周波数が5kHz、波形が正弦波であるような電圧を印加しているが、この条件は、本実施の形態で用いるディスペンサとトルエンを溶媒とする液体材料とに対して設定したものであり、他の条件においては適宜最適化されるべきものであることは言うまでもない。
さらに、ここまでに説明した条件は、ディスペンサ1に単に液滴9を保持するということを目的にしたものであり、同じ材料を用いた場合でも、印加される電圧条件等は状況に応じて適宜調整されるものである。つまり、単に液滴を保持している場合と、塗布を行っている場合と、塗布を終了してパターンを終端させる場合とでは、異なる条件を採用してもよいということである。極端な場合は、基板上でパターン形成を開始した後は電圧印加を停止するということもあってよい。
次に、本実施の形態1では、ディスペンサは、明示的な対極を持たない構成、すなわちディスペンサに備えられた電極から張り出した電気力線が無限遠に向けて伸びていくような構成であり、誘電泳動の作用に関する説明もそれに沿ったものとなっているが、不均一電界に基づく誘電泳動現象は明示的な対極が存在するような構成においても発現させることが可能であるので、図5と図6を参照して、明示的な対極が存在する場合の誘電泳動現象に関しての補足説明を行う。
図10では、ガラスやプラスチックなどの絶縁性管材料でできているディスペンサ1が明示的な対極を備える場合の構成例として、(a)外壁に施した導電体からなる外壁電極60と、内壁に施した導電体からなる内壁電極61とを有する場合と、(b)外壁の施した導電体からなる外壁電極60と、管の内部を貫通して吐出口21に至る導電性線材料からなる電極線62とを有する場合と、(c)管の内部を貫通して吐出口21に至る2本の導電性線材料からなる電極線64,65とを有する場合と、が示されている。
なお、図10(b),(c)において、符号63は、開口部断面の代表面を規定する断面位置であり、吐出口21の最適な配置位置を決める位置である。また、図10(c)において、符号66は、電極線64,65の先端である。そして、(a)に示す外壁電極60と内壁電極61との間、(c)に示す電極線64,65の間は、それぞれ電気的に絶縁された状態である。
このように明示的な対極を備えたディスペンサ1において、電界と電気力線は対極に対して一方の極の電位を変化させることによって発生される。これを、図10(a)の構成で言えば、外壁電極60に対して内壁電極61の電位を変化させることであって、この場合は外壁電極60が明示的な対極ということになる。同様に、図10(b)においては、外壁電極60に対して電極線62の電位を変化させる、図10(c)においては、電極線64に対して電極線65の電位を変化させるということである。
この場合、必要な誘電泳動現象を発生させるには、不均一な電界の広がり、不均一な電場の勾配が重要なのであって、不均一な電場を構成する電気力線の伸びる方向はどちらでもよい。
したがって、二本以上の電極の組からなる系を想定した場合は、いずれを明示的な対極として考えてもよく、また対極に対して他の電極の電位の変化方向は、正方向でも負方向でも、また交番であってもよい。さらに、明示的な対極は、ひとつの電極に限られる必要は無く、例えば、図10(c)のような構成において電極線が3本以上存在し、その相互に電位が発生するような構成、すなわち互いが互いの対極となるような構成を採ってもよい。その際には、複数の電極間にそれぞれ異なる位相の交番電界を印加することで、より微細な液滴制御が行えるので、好ましいものである。
さて、図11をも参照して、このような対極によって具体的に誘電泳動の発生制御を実施する例を説明する。なお、図11(a),(b)において、符号70は、図10(a)に示す構成において、電極間に発生する電気力線である。
図10(a)に示す構成において、外壁電極60と内壁電極61の間に電位差が発生するように電圧を印加すると、発生する電界と電気力線は、外壁電極60と内壁電極61が最も近くに配置されているところに局在する。この場合は、内壁端部22において最も強い電位勾配、すなわち不均一電場を形成する。この様子を説明するのが図11である。
電圧の印加によって、図11(a),(b)に示すように、電気力線70は、内壁電極61から外壁電極60へ向かって張り出す。勿論、印加する電圧の極性が逆であれば、電気力線70は、図11(a),(b)に示す向きとは逆方向に張り出す。また、交番電界の場合は、時間に応じてその強度と方向が変化する。
図11(b)は、ディスペンサ1を吐出口21の方向から見た図である。吐出口21の形状として、例えば円形を選択し、外壁電極60と内壁電極61とが同心円状に配置されるような構成をとる場合、発生する電気力線70は、図11(b)に示すようなものとなる。吐出口21の方向から電気力線70を見ても、内壁電極61から外壁電極60へ向かって電気力線70は、広がっており、やはり不均一な電場を形成しているのがわかる。いずれにしても、図10(a)に示す構成によるディスペンサ1においては、発生する電界は、内壁電極61と外壁電極60との間である内壁端部22近傍に局在化される。
したがって、誘電泳動によって引力を発生させる電圧と液体材料の条件を選択した場合に、液体材料からなる液滴は、内壁端部22近傍部分に強く保持されることになり、液体材料の表面張力による管壁への這い上がりを防ぐことができる。
また、このとき、液滴を保持したままディスペンサ1の保持方向を変化させても液滴の保持状態が影響を受けることは無いような条件を選択できる。これは印加する電圧や、交番の場合はその周波数を変化させることで発生する誘電泳動力を液体材料の表面張力や液滴に働く重力以上に強いものにすることができるからである。このような構成を採ることで、液体材料の微細な液滴を局所に配置することができ、液滴に働く重力や表面張力に打ち勝って液滴を自由度高くコントロールすることが可能になることが解る。以上説明したような現象は、図10(b),(c)に示す構成のディスペンサ1においても同様に観察される。
すなわち、図10(b)に示す構成において、電極線62は、極細線であって管壁内部に保持されており、その先端は開口部を構成する液体材料の吐出口21から外部に突出している。しかも、電極線62の先端形状は、針状に尖った形状をしている。
このような構成において電極線62と外壁電極60との間に電圧を印加すると、発生する電界と電気力線は、電極線62と外壁電極60の間に不均一な電場を形成するが、特に針状に尖った電極線62の先端近傍において最も不均一な電位勾配となるので、針状に尖った電極線62の先端近傍において最も強く誘電泳動力が発現する。
このとき、吐出口21から外部に突出している電極線62の針状先端は、吐出口21の径よりもさらに細くなっているので、形成するパターンをより精細なものとすることができることになる。
また、図10(b)に示す構成においては、電極線62の先端の突出具合を変更することで、液滴の保持状態を変化させることも可能である。
例えば、電極線62の先端位置をディスペンサ内部へ後退させた位置として、代表面の位置63まで後退させると、この位置63は、吐出口21を最も効率よく塞ぐことができる断面位置であるので、このような代表面の位置63に電極線62の先端が配置される場合には、不均一電場もほぼこの代表面の位置63内に局在化することになる。そこで発生する誘電泳動力が引力である場合は、液滴はほぼディスペンサ1の開口部を構成する吐出口21と同じサイズに規定されることになる。
そして、電極線62が代表面の位置63よりもさらに内奥に配置された場合は、誘電泳動力を斥力方向に作用させることで液滴を吐出し、そして引力方向とすることで吸引するといったコントロールが可能となる。これは最も電界が集中し、その結果、電場の不均一性が最も強くなるのが電極線62の針状先端部だからである。
このような構成を採ることで、誘電泳動力を用いて液体材料に対する微細な吐出/吸引作用を及ぼすことができる。これはすなわちディスペンサを、液体を制御する微小なポンプとしても利用することができるということを示している。
次の図10(c)に示す構成では、管壁は、内壁外壁共に導電性の材料で構成された部位は無く、電気力線は全て管の内部を貫通して開口部に至る電極線64,65によって発生される。
電極線64,65は、1本の極細棒状の導電体を縦に切断して作製された等しい形状の一対の導電体となっている。そして、電極線64,65は、その切断面が互いに並行になるように配置されており、その先端は図10(b)の例と同様代表面の位置63から突出している。
このような構成において、電極線64,65間に電圧が印加されると、互いに平行な二本の電極間に電気力線が張り出す。このとき、両電極線は、先端66が針状に尖っているために、電界は先端66に集中し、先端66において誘電泳動力が最も強く発現することになる。誘電泳動力が引力である条件を選択した場合、液滴は電極線の先端66間に強く保持される。この場合においても電極線64,65の先端は尖っているために微細なパターンの形成が可能である。
また、図10(c)に示す構成においては、用いられる電極線の数は2本に限定されるものではない。複数本の電極を用いてそれらが互いに電位差を持つようにし、液滴を複数の電極で保持するようにしてもよい。このような構成を採れば、通常では重力の作用によって液滴を保持することができないような大面積の開口部を持ったディスペンサの先端においても安定した液滴保持が可能になる。
さらに、図10(c)に示す構成においては、開口部がアスペクト比の大きな長方形の形状であるようなディスペンサを構成し、その吐出口に電極線を長方形の開口部の長手方向に直線状に並べ、それら電極が交互に電位差を持つような配線を行ってもよい。この場合は、液体材料はもはや液滴ではなく線状に保持されることになり、基板とディスペンサの相対位置を変化させる際にその変化方向によって微細な線状パターンの形成だけではなく、幅広い面状パターンをも一度に形成することが可能となる。
以上説明したように、誘電泳動力は、明示的な対極を持った構成においても発現する。また、ここで説明した例のように明示的な対極が比較的近い位置に配置される場合には、前述した明示的な対極を持たない構成に比較して、印加する電圧を低減することが可能である。これは、対極を用いることによって電気力線の張り出す範囲を局所に限定することができるために、電圧が低くても狭い範囲に大きな電位差を作り出すことができるからである。
例えば、10mm離れた電極間に1000Vの電圧が印加される時に形成される電場と同じ電位勾配は、電極間が10ミクロンであれば1Vの電圧で得ることができる。このような電圧低減の効果は、電源部の構成やディスペンサ回りの配線を簡素化できるなどの副次的な効果をももたらすことにもなる。
一般に、明示的な対極を持たない構成において必要とされる電圧が最大数十kVにも達するのに対して、明示的な対極を持つ構成の場合には数百から数十V、条件によっては数Vまで低減することが可能である。
次に、以上のように構成される本実施の形態1による液体材料塗布装置の動作について説明する。ここで、一連の液体材料塗布によるパターン形成では、図示しない制御部は図示しないメモリ上に保持された予め定められた制御プログラムに従って動作する。その過程で、図示しない制御部は、適切に配置された図示しないセンサ等から得られる情報に従って、図示しない可動ステージや液体材料搬送機構4としてのスクイズポンプ、電源2などを適切に制御し一連の塗布作業を進めていくものである。
まず、図示しない可動ステージの上に、適切な前処理が施された清浄な面をもつ基板7としてのガラス基板が固定される。基板7が固定されると、ディスペンサ1に電圧が印加される。同時に、スクイズポンプ4が駆動され、液体材料タンク3から微量の液体材料が取り出され、液体材料搬送管5を介してディスペンサ1に注入され、吐出口21から微量吐出される。吐出口21から吐出された液体材料は、上述したように発生する誘電泳動力によってディスペンサ1に先端に液滴として保持される。
この状態で基板7が液滴9に接する位置まで移動される。このとき、ディスペンサ1の先端と基板7とは、直接接することはなく、液滴9を介してのみ接するように位置調整がなされる。
次いで、基板7は、形成すべきパターンのデータに従って移動開始される。それと同時にディスペンサ1には、スクイズポンプ4から液体材料が連続的に供給される。スクイズポンプ4は、液体材料を無脈動の状態でディスペンサ1に供給する。また、基板7の移動も滑らかなものである。そのため、形成されるパターンは、欠陥の無い滑らかなものになる。このとき、吐出される液体材料の量と基板7の移動速度は、適切に制御されるので、形成されるパターンは、基板7の移動に応じた線状であってその幅は一定である。
ここで、本実施の形態で用いている基板は、平板であるが、前記したように基板が三次元形状や凹凸形状を持っていたりするような場合には、予めプログラムされた形状情報によるディスペンサの位置制御をすると共に、基板とディスペンサ間の距離を測定するセンサからの信号を元に基板の微小な凹凸に追従し基板とディスペンサ間の距離を一定に保つような制御が行われることになる。
一般に、液体材料を用いて基板への塗布を行う場合、材料と基板の組み合わせによっては、塗布された液体材料8が基板上で濡れ広がったり、また逆に、はじかれてパターンを崩したりすることがある。
このような場合は、例えば、予め基板を加熱しておいて塗布された液体材料の溶媒が直ちに蒸発し溶質が固化されるような条件を選択するとか、又は塗布された液体材料をレーザー加熱して直ちに熱処理を行うとかといった方法によって適切なパターンを得ることが可能である。
以上説明した工程によって形成されたパターンは、適切な後処理を行うことによって固定化されるが、本実施の形態で用いる液体材料は、前記したように、金属銀のコロイドをトルエン溶媒に分散させたものであるので、行われる後処理は、トルエンが揮発して固化した基板上の残留銀コロイドを熱処理によって金属化することである。ガラス基板上には、このような一連の工程を得て形成された金属銀のパターンが得られることになる。
なお、基板としては、ガラス基板に代えて、プラスチック製やセラミックス製の基板を用いてもよい。また、塗布する液体材料は、有機トランジスタの材料であってもよいし、インジウム錫酸化物のような透明導電体による電極パターンであってもよい。さらに、複数の種類の液体材料と複数のディスペンサとを逐次又は同時に用いるようにすれば、さらに高機能な回路形成を行ったりすることも可能である。
このように、本実施の形態1による液体材料塗布装置によれば、ディスペンサに振動電界を誘起することで、重力や表面張力よりも強力な誘電泳動力を発生して液体材料からなる液滴をディスペンサの先端に極めて自由度高く保持することができるので、塗布する対象となる基板に凹凸面や立ち上がり面、或いは、天井面があったとしても、ディスペンサの位置や保持角度を適切に制御することによって自由度の高いパターン形成が可能になる。
(実施の形態2)
図7は、本発明の実施の形態2による液体材料塗布装置の要部構成を示す概念図である。図7に示すように、本実施の形態2による液体材料塗布装置の要部構成は、実施の形態1による液体材料塗布装置と基本的に同一であり、図示しない周辺回路要素も同一である。異なる点は、ディスペンサ1及び電源2の構成と、ディスペンサ1と基板7との相対位置関係の3点である。ここでは、本実施の形態2に関わる部分を中心に説明する。
本実施の形態2では、基板7は、図7に示すように、ディスペンサ1に対して鉛直上方に配置され、ディスペンサ1はその下面、すなわち天井面に液体材料を塗布できるように配置されている。
また、電源2は、ディスペンサ1に対して、実施の形態1で用いたバイアス無しの振動電界に加えて、バイアスを加えた振動電界も誘起できるような電圧の出力が可能である。つまり、バイアスを加えた振動電界の振幅電圧の総和はゼロにならないので、本実施の形態2では、ディスペンサ1上に、正又は負の正味の電荷が誘起されることになる。振動電界の波形は、本実施の形態2においても、バイアスの大小にかかわらず、正弦波である。
そして、ディスペンサ1は、本実施の形態2においてもガラスのキャピラリを母材としているが、例えば、図8に示すように、実施の形態1とは異なる構成となっている。なお、図8は、図7に示すディスペンサの先端近傍の内部構造を示す縦断面図である。図8に示すように、ディスペンサ1であるガラス管の外壁面には、外壁導電体30が良導電性の材料である銀薄膜でコートされて形成されている。そして、外壁導電体30は、吐出口21を除くディスペンサ1の先端において終端した部分を有する。以降、この終端した部分を、単に外壁端部31と称する。なお、外壁導電体30は、実施の形態1と同様に、図示しない接続部が電源線6を介して電源2に接続されている。
ここで、外壁導電体30は、図8では、ディスペンサ1の外壁面全体を被覆しているとしてあるが、少なくとも外壁面の一部に設けてあればよく、好ましくは、ディスペンサ1の先端近傍での外壁面の全体を被覆している状態、さらにその外壁端部31が吐出口21の除くディスペンサ1の先端までを隙間無く覆っている状態がよい。
このように、本実施の形態2でのディスペンサ1は、少なくとも外壁が導電体で形成されていればよいので、例えば、ディスペンサ全体が導電体で構成されている、すなわち導電性の金属細管で構成されていることも好ましいものである。ガラスキャピラリに代えて金属細管を使用することでディスペンサ1の製造がより容易になるという工業的な利点がある。
次に、図9、図10を参照して、本実施の形態2による液体材料塗布装置の塗布動作について説明する。なお、図9は、図7に示すディスペンサの先端近傍における液体材料の電界誘起有無による挙動を説明するための概念図である。図10は、図7に示す液体材料塗布装置を用いて天井面に塗布を行う場合の様子を示す概念図である。
本実施の形態2では、電源2によってバイアスを加えた振動電界が誘起されているディスペンサ1に、液体材料搬送機構4であるスクイズポンプによって液体材料が注入されるが、塗布開始から塗布終了までのディスペンサ1と基板7との位置合わせ制御を含む一連の動作制御の内容は、実施の形態1と同様であるので、以下、本実施の形態2に関わる部分の動作を中心に説明する。
図7(a)〜(e)は電界を誘起させるための電圧の印加有無でのディスペンサ1先端近傍における液体材料9の挙動を説明するための図である。図7において45はディスペンサ1の吐出口21から微量吐出された液体材料がなす液滴である。
そして図8(a)は基板7に塗布を行っている状態でのディスペンサ1と基板7と塗布された液体材料8様子、(b)は塗布された液体材料8の塗布後の挙動を説明するための液体材料8の断面図である。
図9において、(a)は、ディスペンサ1に微量の液体材料の注入が行われたが、液滴を吐出口21から吐出していない状態でのディスペンサ1の先端近傍の状態を示す図である。この状態で、ディスペンサ1に電界の誘起を行わないまま液滴の吐出を行うと、図9(b)に示すように、吐出された液滴45は、ディスペンサ1の先端に保持されることなく、重力の作用によってディスペンサ1を伝って下方へ滑り落ちていく。
ここで、図9(c)は、図9(a)に示した状態で、実施の形態1で説明した、電圧が1.2kVで、振動数が5kHzである正弦波状のバイアスを含まない振動電界をディスペンサ1に誘起して液滴の吐出を行った場合におけるディスペンサ1の先端近傍の状態を示す図である。本実施の形態2でも、使用している液体材料と基板は実施の形態1での例と同じであるので、実施の形態1にて説明したように、吐出される液滴45に作用する誘電泳動力は引力である。
このとき、実施の形態1にて説明したように、誘電泳動力は、不均一に広がりを持った電界と、それにより誘電体に誘起される誘導電界の合成ベクトルが相互作用によって発生し、その発生する誘電泳動力が最も強く作用するのは外壁導電体30の外壁端部31である。したがって、この場合に吐出口21から吐出される液滴45は、外壁端部31から上方の最も電界が不均一に広がっている部分に移動しようとする。
ところが、本実施の形態2でのディスペンサ1は、吐出口21を鉛直上方に向けているので、吐出口21から吐出される液滴45は、誘電泳動力によって外壁端部31の上方へ移動しようとする力と、重力によって下方へ落下しようとする力と、さらに表面張力とによってディスペンサ1の表面に広がろうとする。これらの力がバランスよく働いている場合は、図9(c)に示すように、液滴45は、下方へ移動させようとする力を感じつつ落下せずに、ディスペンサ1の先端近傍に保持されることになる。
この状態で印加する電圧をさらに高くすることで液滴45を上方へ、すなわち不均一な電界が広がる外壁端部31の上方へ移動させることも可能である。これが、実施の形態1による液体材料塗布装置で実現できる天井面への塗布動作である。これに対して、本実施の形態2では、振動電界にバイアスを加えることで効率的な液滴のコントロールを実現している。
すなわち、図9(d),(e)は、図9(c)に示した状態において、振動電界にバイアスを加えた場合でのディスペンサ1の先端近傍の状態を示す図である。図9(d)は、正バイアスを850Vとしたものであり、図9(e)は、正バイアスを920Vとしたものである。
図9(d)では、液滴45は、広がり方が小さくなるとともに、ディスペンサ1の上方先端部側に移動している状態が示されている。バイアス電圧が更に高くなると、図9(e)に示すように、広がり方が更に小さくなるとともに、ディスペンサ1の上方先端に在る外壁端部31の上方に安定に保持される状態が実現される。
以上は、振動電界に正のバイアスを加えた場合であるが、振動電界に負のバイアスを加えた場合も全く同じ現象が起きる。このように、振動電界にバイアスを加えると、液滴45が外壁端部31の上方へ移動する現象は、バイアスによってもたらされるディスペンサ1の外壁導電体30に誘起される電荷と、液滴45に誘起される電荷とが、同極性であるので、その電荷同士の反発によるものであると説明できる。今の例では、ディスペンサ1の外壁導電体30及び液滴45は、正の電荷を帯びている。
そのため、図7(c)に示す状態においてバイアスを加えた振動電界を印加すると、液滴45は、ディスペンサ1の先端近傍から離反する方向へ移動付勢されるが、外壁端部31との間で誘電泳動力による強力な引力が作用しているので、外壁端部31側へ引き上げられる。最終的には、外壁端部31の上部に、表面張力で定まる球形状になって安定的に保持されることになる。
このように液滴を帯電させることでコントロールしようとする試みは、例えば、静電インクジェット方式によるプリンタにおいてなされている(例えば、特許文献4)。この(特許文献4)に開示されているプリンタでは、液滴を帯電させノズルとの反発を導き、ついには表面張力に打ち勝ってノズルから飛び出した液滴によってパターンを描くという静電インクジェット方式を採用している。
このように、単に液滴を飛ばすということであれば、帯電による反発力だけが必要になるので、正又は負の一定レベル静電界を誘起するだけで充分であるが、吐出口21を上方に向けたディスペンサ1に、正又は負の一定レベル静電界を誘起した場合、帯電による反発力のみでは液滴の大きさによって異なる条件のために、ディスペンサ先端に液滴を安定的に保持することは極めて難しい。
これに対して、本実施の形態2では、バイアスを加えた振動電界を用いるので、誘電泳動力による引力と帯電による反発力との同時作用によって、吐出口21を上方に向けたディスペンサ1のその先端上端部に、液滴を安定的に保持することができる。誘電泳動力による引力と帯電による反発力とは、自動車をコントロールするブレーキとアクセルに対応するので、極めて自由度高く、また大きさの違いなどに影響されずに、液滴の安定的な保持およびコントロールが行えることになる。
実際、図9(e)に示す例で言えば、ディスペンサ1の上部先端には、吐出口21の開口の大きさの10倍以上の直径を持つ液滴を安定的に保持可能である。そして、この状態は、ディスペンサ1を傾けで保持してもその保持方向に全く無関係である。さらに、印加するバイアス電圧を制御することで、液滴45を、図7(c)〜(e)に渡って可逆的に自由度高くコントロール可能である。
このような優れた液滴のコントロール性は、誘電泳動力と帯電による反発力とが同じ電気的なエネルギーに起因する力であるにもかかわらず、互いに独立して、その作用が制御可能であるいう独特の関係にあることで実現されるものであり、これが、本実施の形態2での特徴点である。
図7に示す液滴9は、図9(e)にて説明した、ディスペンサ1をその吐出口21を上に向けて配置した状態でディスペンサ1の先端に保持した液滴45を示している。実際の塗布工程では、図7に示すように、先端を上向きに配置したディスペンサ1のその先端に液滴9を保持した状態で、塗布対象の天井である基板7を移動させ、ディスペンサ1の先端と天井面である基板7の下面とが液滴9を介して接触した最適状態にする位置調整が行われ、液体材料の天井面への塗布が行われる。
図10は、そのような天井面(基板7の下面)への塗布工程の途中での塗布内容を説明する図である。図10(a)では、基板7の下面に塗布されて付着していく過程での液体材料8が示されている。図10(b)は、基板7の下面に塗布された液体材料8のその後の挙動を説明するための図である。
図10(a)に示す液体材料8は、基板7の下面に塗布された直後のものであって、未だ溶媒の蒸発やその他の処理によって乾燥又は固体化、ゲル化等がなされていない流動性を有した状態である。そのため、このように塗布直後の液体材料8の断面形状は、図10(b)に示すようになる。図8(b)において、矢印46が示す方向は、塗布された液体材料8に掛かる重力の方向を表している。矢印47が示す方向は、塗布された液体材料8の表面張力が液体材料8と基板7との親和性よりも小さいことに起因して液体材料8が剥がれずに濡れ広がろうとする方向を表している。
本実施の形態2において用いられている液体材料である、トルエンを溶媒とする銀コロイド分散液と、基板7としてのガラスとの間には、分散液の表面帳力に打ち勝つ大きい親和性がある。これは、トルエンの液滴をガラス基板上に滴下したときに、ガラス基板の上面は、トルエンによって濡れ、そしてさらにトルエンの滴下を行うと、ガラス基板の上面に盛り上がったトルエン滴が重力によってその形を平坦化しながら濡れ広がっていくことから解る。
このような両者の関係から、図8(a)のように、天井面である基板7の下面にトルエンを溶媒とする液体材料を塗布する場合でも、液体材料がはじかれて落下するようなことはなく、基板7の下面に付着し保持される。そして、基板7の下面では、鉛直下方に働く重力も作用するので、図10(b)に示すような断面形状を維持して基板7の下面上に留まることになる。この状態で、液体材料8は徐々にトルエン溶媒が蒸発して行き、最終的には固定化される。
ここで、単位面積当たりに塗布する液体材料の量を増加させていく場合について、液体材料を天井面に塗布する本実施の形態2による場合と、液体材料をディスペンサの下方に配置された床面に塗布する本実施の形態1による場合とを比較すると、液体材料と基板は、両実施の形態においてにおいて同一であるので、表面張力と親和性との大小関係は変わらない。相違点は、基板とディスペンサの位置関係が逆になっていて、塗布された液体材料にかかる重力の方向が、実施の形態1では液体材料を基板面に押し付ける方向であるのに対し、実施の形態2では液体材料を基板面から引き剥がす方向であることにある。
このような状態で単位面積当たりに塗布する液体材料の量を増加していくと、実施の形態1による場合は、塗布された液体材料は、重力の作用によって基板面に押し付けられた状態で濡れ広がっていくことになる。このことは、すなわち塗布直後から濡れ広がりによって線幅が増大し、それにつれて膜厚が減少していくことを意味する。そして、溶媒が蒸発する速度にもよるが、多かれ少なかれ線幅が広がった分だけ乾燥後に形成される銀コロイドの固定化膜は線幅の広がりが無い場合に比べて薄くなるものである。
一方、実施の形態2による場合は、図8(b)に示すように、液体材料に作用する重力は、液体材料を基板の下面から下方に引き剥がす矢印46の方向に働いている。したがって、塗布される液体材料の量が増加したとしても、液体材料の増加分に対する重力は、同様に矢印46の方向に作用し、基板7の下面上に液体材料を濡れ広げる作用を助長するような矢印47の方向には働かない。むしろ、増加分に対する重力は、表面張力に打ち勝つ親和性に抗して液体材料を基板の下面から引き剥がす方向に作用するものである。
要するに、本実施の形態2による液体材料塗布装置によって基板7の下面(天井面)に塗布された液体材料8は、表面張力に打ち勝つ大きい親和性によって濡れ広がろうとする力と、重力によって液体材料を天井面から引き剥がそうとする力とが拮抗し、流動性のある塗布直後の状態であっても濡れ広がりによる線幅の増大を招くことがない。そして、この状態は塗布された液体材料8が乾燥する過程でも維持され、結果的に得られる銀コロイドの固定化膜は塗布直後からそのパターンが何ら崩れることなく単位面積当たりの液体材料の塗布量に応じた厚膜として得られることになる。
勿論、表面張力に打ち勝つ親和性にも限度があるので、極端に大量の液体材料を塗布しようとすると、重力による引き剥がしの力が勝ることになり、結果的に液滴が落下してしまうことは避け得ない。これは、浴室の天井から凝縮した水滴が落下してくるという日常経験する事実からも容易に予想できることである。
したがって、膜厚の増大には一定の上限があるが、これは周辺条件を変えずに基板を床面に配置した実施の形態1と比較して、同じ線幅であれば、遥かに厚い膜を得ることができるという事実をそのまま維持することができる。
なお、本実施の形態2においては、ホウ珪酸ガラスと銀コロイドを分散したトルエンを用いて説明を行ったが、基板と液体材料の組み合わせは、それに限定されるものではない。また、同じ液体材料と基板とを用いても、基板の温度や凹凸、雰囲気の種類や圧力、その他様々な要因をコントロールすることで形成するパターンを制御可能であることは言うまでもない。また、予め基板上に液体材料との親和性の異なる領域を形成しておき、それを利用してより厚い、或いは、より高精細なパターン形成を行うことも好ましい。これは親和性の異なる液体材料でリブや土手のような物理構造を作ることや、パターンを持った表面修飾によって平坦であっても親和性の異なる領域が存在する基板を利用することなどが相当する。
以上のように、本実施の形態2による液体材料塗布装置によれば、ディスペンサに、バイアスを加えた振動電界を誘起することで、液滴の大きさに関係なく、また、たとえ鉛直上方向きであったとしても十分にディスペンサ先端に安定的に液滴を保持することができるので、塗布する液体材料の量制御の自由度も高くなる。その自由度の高さを利用して通常のディスペンサを用いた塗布方法では困難な厚膜の形成を行うことが可能となる。また、天井面に塗布を行う場合、通常の基板上面に液体材料を塗布する場合と比較して、塗布後のパターンを崩すことなく、遥かに厚い乾燥膜を得ることができる。
(実施の形態3)
図11は、本発明の実施の形態3として、本発明による液体材料塗布装置を用いて形成された機能部分を含む電子デバイスであるRFIDタグを示す概念図である。図11に示すRFIDタグは、基板49の表面に、そのループの長さと形状はRFIDとして動作するための最適な状態に設定されているアンテナ50と、RFIDとしての機能を実現する半導体チップ51とが配置され、また、基板49の表面と背面とを電気的に接続する2つの接続部52,53が配置されている。基板49の表面において、アンテナ50の一端は、接続部52に接続され、アンテナ50の他端と半導体チップ51とは、接続部53に接続されている。そして、2つの接続部52,53の間は、基板49の背面に配置された背面配線54を介して接続されている。
基板49は、厚さ100ミクロンのポリイミドフィルムシートで構成されている。アンテナ50と、2つの接続部52,53とは、銅コロイドを分散させた有機溶媒からなる液体材料を、実施の形態1又は2に示した液体材料塗布装置に供給して塗布形成したものである。
まず、アンテナ50は、実施の形態2による液体材料塗布装置を用いて形成した。すなわち、基板49をその表面を下に向けて鉛直上方に保持した状態で、下方からディスペンサを近づけ、基板49の下面である天井面において、2つの接続部52,53間を一筆書きのループで接続するように塗布を行ない、その後、適切な後処理を施すことで固定化した銅コロイドを金属膜化している。
勿論、このアンテナ50は、実施の形態1による液体材料塗布装置を用いて形成することも可能であるが、RFIDに接続されるアンテナとしての機能を考える場合、その形状はなるべく小型であって、かつアンテナ両極間の抵抗値がなるべく小さいものであることが望ましい。すなわち、パターンに求められる形状は、小型化のための狭い線幅と線間、そして抵抗値を小さくするための厚い膜厚である。よって、この条件を同時に満たしたパターンを形成するには、実施の形態2による液体材料塗布装置を用いた方が適している。
このようにして形成されたアンテナ50に半導体チップ51が実装されRFIDが完成する。勿論、実施の形態2による液体材料塗布装置を用いて形成されるアンテナのパターンは、厚さ、線幅、デザインすべてにおいて極めて自由度が高く、また元型を用いるパターン形成方法と異なり、任意の時点でパターンの変更が可能である。
次に、2つの接続部52,53は、基板49に、いわゆるスルーホールを開け、その内部を導電処理したものであってもよい。また、多孔質の基板に液体材料を含浸させることで表面と背面の電気的な接続を確保したものであっても良い。
この2つの接続部52,53は、いずれの液体材料塗布装置を用いても形成するのは容易である。例えば、接続部が図1,図6に示した基板7に設けるスルーホールである場合は、この中を満たして表面と背面の電気的接続を確保するためには、大き目の液滴を保持してそれをスルーホールに接触させるか、又はスルーホール内にディスペンサを挿入し、そこで風船を膨らませるように液滴を吐出すればよい。
そうすることで、液体材料は、その表面張力によってスルーホール内壁全面を覆うように保持され、スルーホールを満たす液だまりを形成する。これが乾燥することでスルーホール内壁面を隙間なく覆い、かつスルーホール周辺の基板面に汚れのない確実な表裏面間接続を実現することが可能になる。
このような自由度の高いプロセスは、液滴を直線状に飛ばすことしかできないインクジェット方式や、塗布する液体材料の量を場所によって制御することが難しいグラビア印刷法等にはまねのできないものである。
本実施の形態3では、RFIDタグを、実施の形態1又は2による液体材料塗布装置を用いて作製された機能部分を含む電子デバイスの例として説明したが、本発明を適用できる電子デバイスはこれに限定されるものではない。
すなわち、単純な導電体配線を形成するための液体材料を用いた場合でも、アンテナの他に、多層配線を含むプリント基板の形成や補修、素子間接続、電磁波シールド等にも適用できる。
また、実施の形態1,2にて用いた銀コロイドを後処理して得られる金属銀膜を鏡面や光遮蔽膜として利用した場合は、微小ミラーやビームスプリッタを始めとする各種光学素子および光学マスクの形成と補修に適用できる。
また、導体以外の機能を発現する液体材料を用いれば、絶縁体による配線間絶縁や薄膜トランジスタの絶縁膜、コンデンサの誘電体形成に適用可能であり、セラミックスを液体材料とした場合には、ITOを用いた透明配線やガラスによる微小レンズアレイの形成、光導波路および薄膜光回路用デバイス等への適用が考えられる。
また、近年開発が盛んに行われている有機半導体を始めとする半導体素子を形成する機能を持った液体材料を用いれば、より高機能の能動素子の形成が可能である。
さらに、これらの液体材料を同時に用い、複数のディスペンサを持った塗布装置を統合的に駆動することで、高度な機能を持ったディスプレイなどの電子デバイスを、基板上に何もない状態からフルスクラッチで構成することさえも可能である。
要するに、本発明による液体材料塗布装置を用いて作製された機能部分を含む電子デバイスの作製では、簡素かつ自由度の高いプロセスを用いることができる。したがって、形成されるパターンは微細であっても欠陥のない滑らかなものとなり、高機能かつ信頼性の高い電子デバイスを提供することが可能となる。
以上のように、本発明にかかる液体材料塗布装置、液体材料塗布方法、及び液体材料塗布装置を用いて作製された電子デバイスは、基板が立体形状であっても自由度高く微細かつ欠陥のない滑らかなパターン作成を行うに有用である。
本発明の実施の形態1による液体材料塗布装置の要部構成を示す概念図 図1に示すディスペンサの先端近傍の内部構造を示す縦断面図 図1に示すディスペンサに誘起される電界によって生じる電気力線と誘電泳動力を説明するための概念図 図1に示すディスペンサの先端近傍における液体材料の電界誘起有無による挙動を説明するための概念図 図1に示すディスペンサが明示的な対極を備える場合の構成例を説明するための縦断面図 図5に示す明示的な対極を備えたディスペンサにおける電気力線の発現を説明するための概念図 本発明の実施の形態2による液体材料塗布装置の要部構成を示す概念図 図7に示すディスペンサの先端近傍の内部構造を示す縦断面図 図7に示すディスペンサの先端近傍における液体材料の電界誘起有無による挙動を説明するための概念図 図7に示す液体材料塗布装置を用いて天井面に塗布を行う場合の様子を示す概念図 本発明の実施の形態3として、本発明による液体材料塗布装置を用いて形成された機能部分を含む電子デバイスであるRFIDタグを示す概念図
符号の説明
1 ディスペンサ
2 電源
3 タンク

Claims (20)

  1. 供給された液体材料を開口部から塗布対象体に対して吐出することで該塗布対象体上に前記液体材料の塗布を行うための少なくとも一つの管状構造体を備える液体材料塗布装置において、
    前記管状構造体の少なくとも前記開口部近傍の一部に、振動電界を誘起するための導電体部を備え、該導電体部に前記振動電界を誘起させた状態で、前記塗布対象体への液体材料の塗布が行われる、ことを特徴とする液体材料塗布装置。
  2. 前記導電体部に誘起される振動電界は、交番電界であることを特徴とする請求項1に記載の液体材料塗布装置。
  3. 前記導電体部に誘起される振動電界は、実質的に正弦波の波形を有していることを特徴とする請求項1または2に記載の液体材料塗布装置。
  4. 前記導電体部に誘起される振動電界は、バイアスが付与されていない振動電界と、バイアスが付与された振動電界とのいずれかであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の液体材料塗布装置。
  5. 前記管状構造体は、絶縁体材料によって構成され、前記導電体部は、該管状構造体の内壁面の少なくとも一部に設けられることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の液体材料塗布装置。
  6. 前記管状構造体は、絶縁体材料によって構成され、前記導電体部は、該管状構造体の外壁面の少なくとも一部に設けられることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の液体材料塗布装置。
  7. 前記管状構造体は、絶縁体材料によって構成され、前記導電体部は、該管状構造体の外壁面の一部に設けられる外壁導電体部と、該管状構造体の内壁面の一部に設けられる内壁導電体部とで構成され、前記外壁導電体部と前記内壁導電体部との間に、前記振動電界を誘起させる電圧が印加されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の液体材料塗布装置。
  8. 前記管状構造体は、絶縁体材料によって構成され、前記導電体部は、該管状構造体の内部を貫通して開口部に至る導電性材料からなる電極線である、ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の液体材料塗布装置。
  9. 前記管状構造体は、絶縁体材料によって構成され、前記導電体部は、該管状構造体の外壁面の少なくとも一部に設けられた外壁導電体部と、該管状構造体の内部を貫通して前記開口部に至る導電性材料からなる電極線とで構成され、前記外壁導電体部と前記電極線との間に、前記振動電界を誘起させる電圧が印加される、ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の液体材料塗布装置。
  10. 前記管状構造体は、導電性材料によって構成され、前記導電体部は、該管状構造体の内部を、該管状構造体の内部面との電気的な絶縁性を保った状態で貫通して前記開口部に至導電性材料からなる電極線と、該管状構造体とで構成され、前記電極線と該該管状構造体との間に、前記振動電界を誘起させる電圧が印加されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の液体材料塗布装置
  11. 前記管状構造体は、絶縁体材料によって構成され、前記導電体部は、該管状構造体の内部を貫通して前記開口部に至る導電性材料からなる複数の電極線で構成され、前記複数の電極線の間に、前記振動電界を誘起させる電圧が印加されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の液体材料塗布装置。
  12. 前記電極線の前記開口部側端は、該開口部の断面を規定する代表面から外側に突出して配置されていることを特徴とする請求項8〜11のいずれか一つに記載の液体材料塗布装置。
  13. 前記電極線の前記開口部側端は、該開口部の断面を規定する代表面と同一平面上に配置されていることを特徴とする請求項8〜11のいずれか一つに記載の液体材料塗布装置。
  14. 前記電極線の前記開口部側端は、該開口部の断面を規定する代表面から内側に配置されていることを特徴とする請求項8〜11のいずれか一つに記載の液体材料塗布装置。
  15. 前記電極線の前記開口部側端は、針状の形状を有していることを特徴とする請求項8〜11のいずれか一つに記載の液体材料塗布装置。
  16. 前記塗布対象体は、平面形状だけのものと、平面形状の他に曲面形状も含むことがある立体形状のものと、のいずれかであることを特徴とする請求項1〜15のいずれか一つに記載の液体材料塗布装置。
  17. 供給される液体材料を塗布対象体に向けて吐出する開口部を有する管状構造体の前記開口部近傍に設けた導電体部に振動電界を誘起させた状態で、前記液体材料を該管状構造体に供給し、前記開口部から前記塗布対象体に向けて吐出して塗布することを特徴とする液体材料塗布方法。
  18. 前記塗布対象体は、平面形状だけのものと、平面形状の他に曲面形状も含むことがある立体形状のものと、のいずれかであり、前記塗布対象体の塗布対象箇所が、床面よりも高位の位置にある場合は、前記管状構造体を前記開口部が上方を向けて配置し、該開口部から吐出した液体材料を前記塗布対象箇所に押しつけて塗布することを特徴とする請求項17に記載の液体材料塗布方法。
  19. 前記導電体部に誘起させる振動電界は、バイアスを付与しない振動電界と、バイアスを付与した振動電界と、のいずれかであることを特徴とする請求項17または18に記載の液体材料塗布方法。
  20. 前記請求項1に記載された液体材料塗布装置を用いて塗布作製された機能部分を含むことを特徴とする電子デバイス。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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CN103657537A (zh) * 2012-09-04 2014-03-26 香港大学深圳研究院 用于制备存在于气相中的液滴的设备和方法
CN105750110A (zh) * 2015-12-14 2016-07-13 南京久达光电科技有限公司 自动化控制静电喷射快速通断系统及其控制方法

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