JP2009136216A - そうか病防御用微生物製剤 - Google Patents

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Abstract

【課題】主要なそうか病原菌であるS. scabiei、S. acidiscabiei、S. turgidiscabieiの全てに対してる生育抑制効果を有する、そうか病防除用微生物製剤を提供する。
【解決手段】
Eupenicillium属、Kionochaeta属、Chaetomium属、Pseudogymnoascus属、Fusarium属、Lecythophora属、Coniochaeta属、Cladosporium属またはMortierella属に属する微生物を含有するそうか病防除用微生物製剤。
【選択図】なし

Description

本発明は、Streptomyces属細菌種が引き起こす難防除性植物病害であるそうか病の防除剤および該防除剤に使用する新規微生物に関する。
そうか病は日本国内のみならず、世界中で発症例が報告されている難防除性植物病害である。本病害は、ジャガイモ、サツマイモ、ダイコン、ニンジン、テンサイ、ゴボウに代表される根菜類全般に被害をもたらすことが知られている。特に、ジャガイモは本病害による被害が経済的にも甚大な根菜類の1つであり、本病害を発病したジャガイモ塊茎表面には特徴的な暗褐色、コルク状の病斑部が現れ、外見の悪化やデンプン含量の減少を引き起こす。こうした病斑が一つでも現れたジャガイモは生鮮野菜としての価値が失われるとともに、加工用若しくはデンプン原料用へと転用されるため、市場価格が著しく減少することから、ジャガイモそうか病は生産者にとって経済的に深刻な問題となっている。
ジャガイモそうか病の病原菌種は、Streptomyces属に属する複数の細菌種であり、S. scabiei、S. acidiscabiei、S. turgidiscabieiが最も重要な病原菌種として世界中で広く知られている。最近の研究により、土壌中のそうか病原菌量とジャガイモ罹病率は相関関係にあることが明らかにされている(非特許文献1)ことから、土壌中のそうか病菌量を抑制することがそうか病防除を行う上で重要であると考えられている。
そうか病原菌の存在量を抑制する手法の1つとして、物理化学的手法が用いられる。例えば、畑土壌のpHを病原菌種の生育能を抑えるレベルまで低下させることにより、土壌中の病原菌量を抑制することが期待できる。これまで、硫酸鉄、硫酸アルミニウム、硫酸アンモニウム、硫黄がよく用いられている。また、クロルピクリンの様な人畜に有害なガスによる土壌燻蒸を行い、病原菌のみならず土壌中の生物を死滅させるといった手法も用いられているが、産地の周辺住民への健康被害が度々報告され、大きな問題となっている。
一方、生物学的手法として、そうか病原菌種に対して拮抗作用をもつ微生物(以下、拮抗微生物)を利用した手法があり、拮抗微生物は、抗生物質・細胞外酵素の生産、病原体への寄生、栄養分の占有、病原毒素の分解・生産阻害、栽培植物の生育促進、栽培植物の抵抗性誘導などを通じて拮抗作用をもたらすと考えられている(非特許文献2)。
糸状菌は、細菌に比べ固体培養が容易であり、胞子体の扱いが容易いといった利点があることから、微生物製剤や土壌改良剤の原材料として用いられることが多い。先に述べた拮抗微生物利用の観点から、そうか病防除のため糸状菌を利用した例として、そうか病原菌種に対して拮抗作用のあるトリコデルマ(Trichoderma)属糸状菌を固体栄養培地と混合・形成した微生物資材の利用に関して下記特許文献3に、抗菌性物質を生産するトリコデルマ属糸状菌培養物を利用する手法が下記特許文献4に記載されている。また、グリオクラディウム(Gliocladium)属糸状菌を利用したそうか病防除手法に関して、下記特許文献5に記載されており、バレイショ根面への定着能を有するペニシリウム(Penicillium)属糸状菌の利用に関して特許文献6に記載されている。
Koyama, O. et al.,: Microbes Environ (2006), 21, pp.185-188 Zamir, K. et al.,: TRENDS in Biotechnology (2003), 21, pp.400-407 特開2006−199601号公報 特開2004−137239号公報 特開平10−17422号公報 特開2004−262801号公報
前述のとおり、そうか病の防除対策として土壌pHを低下させる方法があるが、過剰なpHの低下は作物の収量低下をもたらし、かつ低pHに対する抵抗性を持つ病原菌種の出現が確認されていることから万能な手法ではない。またクロルピクリンといった土壌燻蒸剤による防除方法は、栽培面積が広大な北海道では事実上不可能であるとともに、長崎県、鹿児島県といった使用可能な地域でも、圃場周辺の住民および生産者への健康被害が実際に問題となっている。
一方で、我々が着目している生物学的手法は、環境にかかる負担を軽減し持続的農業を可能とする手法であると考えている。既往文献において、そうか病の防除を目的とした微生物製剤について数例報告されているが、これらの糸状菌はTrichoderma属、Gliocladium属とPenicillium属に属する糸状菌種しか得られていない。Trichoderma属及びGliocladium属糸状菌では、現在のところ上記3種のそうか病原菌種に対する生育抑制効果を実証した例は皆無である。また、Penicillium属糸状菌は同属内に植物の病原菌が存在することが知られており、圃場に大量散布するには実用上の懸念が残る。
本発明の課題は、そうか病原菌種に対して生育抑制効果を有する新規糸状菌を取得することであり、さらには主要そうか病原菌種S. scabiei、S. acidiscabiei、S. turgidiscabieiの3種全てに対して高い生育抑制効果を実証することで、そうか病の防除に用いることのできる全く新規な糸状菌とその糸状菌を用いた新規防除手法を提供することである。
本発明者は、上記課題を解決すべくそうか病菌防除作用を有する微生物を鋭意探索した結果、Eupenicillium属、Kionochaeta属、Chaetomium属、Pseudogymnoascus属、Fusarium属、Lecythophora属、Coniochaeta属、Cladosporium属またはMortierella属に属する微生物が、S. scabiei、S. acidiscabiei、及びS. turgidiscabieiの3種の主要なそうか病原菌全てに対して生育抑制効果を有し、さらに、そのうちの2株が既知の菌株とは異なるとの知見を得て、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は以下に示すとおりである。
(1)Eupenicillium属、Kionochaeta属、Chaetomium属、Pseudogymnoascus属、Fusarium属、Lecythophora属、Coniochaeta属、Cladosporium属またはMortierella属に属する微生物を含有することを特徴とする、そうか病菌防除用微生物製剤。

(2)そうか病菌がストレプトミセス属に属する放線菌であることを特徴とする上記(1)に記載の微生物製剤。

(3)ストレプトミセス属に属する放線菌が、S. scabiei、S. acidiscabiei、S. turgidiscabieiに属する菌株であることを特徴とする、上記(2)に記載の微生物製剤。

(4)配列番号1または配列番号2に示される18S rRNA遺伝子塩基配列を有し、そうか病菌防除作用を有する微生物。

(5)配列番号1に示される18S rRNA遺伝子塩基配列を有する微生物がMortierella属に属する微生物であることを特徴とする、上記(4)に記載の微生物。

(6)配列番号2に示される18S rRNA遺伝子塩基配列を有する微生物がKionochaeta属に属する微生物であることを特徴とする、上記(4)に記載の微生物。

(7)少なくともS. scabiei、S. acidiscabieiおよびS. turgidiscabieiに対して防除作用を有することを特徴とする、上記(4)に記載の微生物。

(8)Kionochaeta sp. MK-100株(FERM P−21337)

(9)Mortierella sp. CO-21株(FERM P−21338)
本発明においてスクリーニングされた微生物は、いずれも糸状菌であって、上記3種の主要なそうか病原菌種全てに対して生育抑制効果を有し、また、土壌に施用されてもその効力を発揮する点で、そうか病を有効に防除しうるものである。また、これらのうち、Kionochaeta属またはMortierella属に属する微生物は、これらの属内の公知菌種とは18S rRNAの遺伝子塩基配列において異なり、新菌種に属する微生物である。したがって、本発明は、新規でかつ有用なそうか病防除手段を提供するものである。
本発明の微生物製剤は、糸状菌であるEupenicillium属、Penicillium属、Kionochaeta属、Chaetomium属、Pseudogymnoascus属、Fusarium属、Lecythophora属、Coniochaeta属、Cladosporium属またはMortierella属に属する微生物を含有するそうか病防除用剤である。製剤中の微生物の含有形態としては、胞子、菌糸、酵母体のいずれであってもよく、また、これらを培地に培養した培養物の形態であってもよく、さらに、凍結保存した状態や乾燥粉末の形態であってもよい。なお、本明細書において用いる「胞子」とは通常の栄養菌糸以上の耐久性を持つ細胞であり、分生子、胞子嚢胞子に代表される無性生殖による胞子全般、有性胞子、厚壁胞子を含む。また、「生育抑制」とは放線菌胞子からの放線菌菌糸(基底菌糸及び気中菌糸を含む)生育を抑制すること、放線菌菌糸の伸張を抑制すること、及び生菌を死滅させることも含まれる。
該微生物製剤に使用する上記微生物は、北海道網走市のジャガイモ畑の土壌を分離源として、S. scabiei、S. acidiscabiei、及びS. turgidiscabieiの3種のそうか病菌に対する生育抑制効果を指標にスクリーニングすることにより得られたものであり、それらのうち2つの菌株については、既知のいずれの菌株とも異なり、それぞれ、Kionochaeta sp. MK-100株(FERM P−21337)、Mortierella sp. CO-21株(FERM P−21338)として特許生物寄託センターに寄託されており、Kionochaeta sp. MK-100株(FERM P−21337)及びMortierella sp. CO-21株(FERM P−21338)の18S rRNA遺伝子の部分塩基配列は、それぞれ配列表の配列番号1及び2に示される。
これら菌株の18S rRNAの遺伝子塩基配列は、それぞれKionochaeta属およびMortierella属内の公知菌種中に一致するものは見いだせず、Kionochaeta sp. MK-100株(FERM P−21337)は、これともっとも近縁な菌であるKionochaeta spissaと96.5%の相同性を示し、また、Mortierella sp. CO-21株(FERM P−21338)は、同じく最近縁種であるMortierella chlamydosporaと98.8%の相同性を示す。これらの18S rRNA遺伝子塩基配列比較の結果と菌学的性質の対比からKionochaeta sp. MK-100株(FERM P−21337)は新菌種に該当する微生物であり、Mortierella sp. CO-21株(FERM P−21338)は、新菌種であるかあるいは少なくともMortierella chlamydosporaの変種と考えられる。
本発明の微生物製剤を製造するには、上記Eupenicillium属、Penicillium属、Kionochaeta属、Chaetomium属、Pseudogymnoascus属、Fusarium属、Lecythophora属、Coniochaeta属、Cladosporium属またはMortierella属に属する微生物を培地に培養して、培養物から胞子あるいは菌糸を分離して微生物製剤としてもよいが、これらの分離操作をせず培養物自体を微生物製剤としてもよい。
培地の培養基材としては、糸状菌の培養に通常使用されているものでよいが、大量に培養するための培養基剤としては、単価の低い廃棄物の利用が有効であり、また、糸状菌のCFU数の増加及び、微生物製剤の保存性・操作性向上の観点から、胞子形成を促す培養基材の利用が望ましい。
これらとしては、小麦フスマ、米ぬか、籾殻、バガス、米糠、麦芽絞り粕、グルテンフィード、小麦粉、コーンブラン、コーンミール、ビート粕、油粕、脱脂大豆粉、全脂大豆粉、魚粉、カニ殻、エビ殻、オキアミ微粉末、落花生殻、鋸屑、パルプ廃材、古紙、デンプン粕、可溶性デンプン、糖類、酵母エキス、脱脂粉乳、骨粉、ピートモス、乾燥畜糞等が挙げられるが、これらを一種以上組み合わせてもよいし、また、培地の栄養成分が不足する場合には、不足する成分を適宜補えばよい。
また、胞子形成を促す培養基材としては、たとえば小麦フスマ、米ぬか等が挙げられる。
大量に培養した培養物自体を微生物製剤として使用し、そうか病を防除するには、微生物製剤をそうか病原菌含有土壌に混和する等して施用する。施用時期は土壌中のそうか病原菌種の増殖開始以前が好ましい。胞子あるいは菌糸からなる製剤の場合には、施用に先立ち培地で培養し、本発明の微生物を大量に増殖させてから、土壌に施用する。
次に実施例を挙げて本発明についてさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例になんら制限されるものではない。
実施例1
(1)糸状菌単離用培地
ポテトデキストロース培地(1000mlのポテトジュース(ジャガイモ200 g分を20分間熱水浸出)、20 gのグルコース、pH 6.0)、該培地成分を1/10濃度にした1/10 strengthポテトデキストロース培地、モルトエキストラクト培地、該培地成分を1/10濃度にした1/10 strengthモルトエキストラクト培地を使用し、寒天1.5%濃度で用いてゲル化して、糸状菌単離用培地とした。
全ての培地は121℃、15分間のオートクレーブ滅菌を行った後、細菌の生育を抑制する目的で終濃度50μg/mlのストレプトマイシンを、糸状菌コロニーの拡大を抑制する目的で、終濃度40μg/mlのローズベンガルを加えた。
(2)糸状菌の単離・収集
そうか病源菌種に対して生育抑制効果を示す糸状菌を数多く取得するために、土壌を分離源として、網羅的スクリーニングを行い糸状菌株を単離・収集した。分離源の土壌は、北海道網走市のジャガイモ畑土壌を用いた。
該土壌を適当な濃度に希釈し、糸状菌単離用試料とした。該試料を、上記糸状菌単離用平板プレートに撒き、室温、暗所で、36〜120時間培養し、生じた各コロニーから集菌し、最終的に880株以上の糸状菌を単離・収集した。単離された各糸状菌について、巨視的観察、微視的観察による菌の形態、及び18S rRNA遺伝子のPCR-RFLP(Restriction Fragment Length Polymorphism: 制限酵素断片長多型)解析の結果に基づき、330種程度のグループに分類した。
(3)平板プレートによるそうか病菌生育抑制糸状菌のスクリーニング
スクリーニングに使用する培地として、Streptomyces属細菌用のGYM培地(以下の成分を水1Lに溶解させる。4 gのグルコース、4 gのyeast extract、10 gのmalt extract)を10分の1に希釈した1/10 strength GYM培地を使用した。ゲル化剤としては1.0%の寒天を用い、pHは6.0に調製した。オートクレーブ滅菌後、40℃に冷却した培地に3種のそうか病原菌種胞子を終濃度1 × 105 CFU/mlで添加し、平板プレートに分注し固化せしめる。固化後の平板プレート中央の一点に、白金線を用いて糸状菌株を接種し、室温で培養を開始した。培養開始40時間後に平板プレートを観察し、糸状菌のコロニーの直径(mm)、周囲に形成されたハロの直径(mm)を測定した。糸状菌の生育抑制能の強さの指標として、観察されたハロの直径から糸状菌のコロニーの直径を引いたものを用いた(図1参照)。
平板プレートに対する植菌は各グループの代表1株を用いた。その結果、3種全てのそうか病原菌種に対して生育抑制効果を持つ16種が得られた。
実施例2
実施例1で得られた上記16種の糸状菌は表1に示すプライマーを用いて、18S rRNA遺伝子塩基配列を決定した。得られた塩基配列に基づきBLAST (http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/)による相同性検索を行った結果、Eupenicillium属、Penicillium属、Kionochaeta属、Chaetomium属、Pseudogymnoascus属、Fusarium属、Lecythophora属、Coniochaeta属、Cladosporium属、Mortierella属に近縁な糸状菌が含まれていることが明らかになった(表2)。
また、表3及び図2に1/10 strength GYM培地を用いた場合の、代表的な糸状菌株のそうか病原菌種に対する生育抑制効果を示す。
実施例3
以下に記載の方法で選抜した糸状菌の製剤化を行い、土壌中における微生物製剤の効果を検証した。微生物製剤は、小麦フスマを培養基材とし、アグリポット(東京硝子器械)内で無菌的に20日間培養した糸状菌培養物と、乾燥小麦フスマを重量比1対100で混合し作成した。試験用の土壌にはnec1定量値(非特許文献1参照)が高くない北海度網走市のジャガイモ畑土壌を用い、当該土壌に3種のそうか病原菌種の胞子を2.1 × 104 CFU/g・soil(各7.0 × 104 CFU/g・soil)の濃度で混合し、5日間室温にて静置後、再度混合し調製した。200 gのそうか病原菌種を混合した土壌に、0.24 g微生物製剤を添加後に攪拌し試験を開始した。試験は2連で行い、試験開始30日後にnec1遺伝子コピー数を非特許論文1に記載の方法で定量した。その結果、MK-100株、HB-113株、HB-52株、HB-296株、CO-21株の製剤を添加した系では微生物製剤を加えなかった系に比べ、nec1定量値の大幅な低下が認められた(表4、図3)。以上の結果より、上記糸状菌株を用いた微生物製剤は、そうか病原菌種に対する土壌中での効果が確認できた。
実施例4
上記16種の糸状菌のうち、18S rRNA遺伝子塩基配列の相同性において既知の菌と明らかな違いを有するMK-100(FERM P-21337)株、HB-113株、HB-296株及びCO-21(FERM P-21338)株について、詳細なその培養的、形態学的観察及び生理学的・化学分類学的試験を行った。
MK-100株、HB-113株、HB-296株のコロニーはほぼ同様の外観であり、18S rRNA遺伝子塩基配列はお互いに100%一致した。以下代表としてMK-100株の培養的・形態性質の特長を示す。
MK-100株は麦芽汁寒天培地(以後MA)、ポテトデキストロース寒天培地(以後PDA)、オートミール寒天培地(以後OA)、三浦培地(以後LCA)で成育した。コロニー色調はMA培地でOlive grey (1F-2;(Kornerup, A. and Wanscher, J. H.,: Methuen Handbook of Colour, 3rd edn. (1978), Methuen, London, p.243)で用いられている色のCoed No.を示す。以後同様。)、PDA培地でOlive grey (1F-2)、OA培地でBrown〜White (5F-5〜5A-1)、LCA培地でOlive (1EF-4)であり、表面の形状はいずれもビロード状であった。可溶性色素はPDA培地でVivid red〜Red (10A-B-8)、LCA培地でPale red (10A-3)を産生した(図4参照)。
微視的観察は、MA培地上に生育したMK-100株のコロニーの一部を滅菌針で少量の寒天と共にかきとり、ラクトフェノール液を一滴滴下したスライドガラス上に載せ、カバーガラスで覆い行った。その結果、栄養菌糸は寒天表面上、及び寒天内に形成され、無色〜茶褐色を呈し、隔壁を有した。無性生殖器官として、分生子並びに分生子柄が見られた。分生子柄は栄養菌糸より直生し高さ100〜250μm、隔壁を有し、茶褐色〜暗褐色を呈した。柄基部は菌糸が絡み合う感じでやや組織化した形状を示した。分生子柄の先端部から2〜3段の円筒形のメトレが形成され、その先に分生子形成細胞である円筒形のフィアライドが形成される、ペニシリス様構造が観察された。1段目のメトレは茶褐色〜暗褐色で、7〜9μm × 3〜4μm、2段目のメトレは明褐色〜無色で5〜6μm × 3μm、3段目のメトレは無色で4.5〜5.0μm × 2.5〜3.0μmであった。フィアライドは円筒形、無色、7〜8μm × 2μmだった。分生子は円筒形〜楕円形、無色、一細胞、3.0〜4.0μm × 1.5〜2.0μmで表面模様は平滑、フィアライド先端部に分生子塊を形成する様子が観察された。2ヶ月間の培養期間中に有性生殖器官の形成は認められなかった(図5、6参照)。
また、実施例3に示すように、BLAST検索を用いたMK-100(FERM P−21337)株、HB-113株、HB-296株の18S rRNA遺伝子塩基配列の相同性検索の結果、最近縁種のKionochaeta spissa (GenBank No. AB003790)の18S rRNA遺伝子塩基配列と96.5〜97.1% (それぞれ1589/1647、1572/1628、856/882 bp)の相同性を示している。また、これまでにKionochaeta属糸状菌株は、鹿児島県と沖縄県、南アフリカ共和国の土壌からの分離株が報告されている(Okada, G. et al.,: Mycoscience (1997), 38, pp.409-420、Crous, P. W. et al.,: Mycologia (1994), 83, pp.447-450)。MK-100株の菌糸・分生子柄は茶褐色〜暗褐色であり、菌糸が茶〜黒色であるというKionochaeta属の重要な特徴と一致する。また、分生子の形状や分生子塊が分生子柄の頂上に形成される点で既知株との違いも見られる。以上の知見からMK-100株はKionochaeta属に属するが、既知の株とは異なるKionochaeta属.の新種と考えられる。HB-113株、HB-296株も同様にKionochaeta 属の新種であると考えられる。
一方、CO-21株(FERM P−21338)は、麦芽汁寒天培地(MA)、ポテトデキストロース寒天培地(PDA)、オートミール寒天培地(OA)、三浦培地(LCA)で成育した。コロニー色調はMA培地でDark green〜White (26F-8〜26A-1)、PDA培地でWhite (1A-1)、OA培地でDeep green〜Dark green (26E-7〜26F-8)、LCA培地でGreenish white (26A-2)であり、表面の形状はいずれも綿状であったが、特にPDA培地の場合は同心円上に広がる舌状紋を示した。MA培地とLCA培地の場合は気中菌糸の発達はあまり認められなかった。いずれの培地でも可溶性色素の産生は見られなかった(図7参照)。
微視的観察は、PDA培地上に生育したCO-21株のコロニーの一部を滅菌針で少量の寒天と共にかきとり、ラクトフェノール液を一滴滴下したスライドガラス上に載せ、カバーガラスで覆い行った。その結果、栄養菌糸は寒天表面上、及び寒天内に形成され、無色、無隔壁菌糸の形成が確認できた。栄養菌糸のいたる箇所に卵形、亜球形〜不定形の厚膜胞子の形成が観察された。
無性生殖器官として、胞子嚢胞子及び胞子嚢が確認された。胞子嚢柄は栄養菌糸より直生し高さ80〜150μm、非分岐で、基端部 (7〜8μm)はやや膨らみ、先端部 (1.5〜2μm)にかけてなだらかに細くなる形状が観察された。胞子嚢は球形〜亜球形であり、直径10〜15μm、胞子嚢膜は平滑、内部に多数の胞子嚢胞子を形成する、多胞子性胞子嚢が確認された。胞子嚢内の柱軸の形成及び胞子嚢下部のアポフィシスの形成は確認されなかった。胞子嚢が取れた跡の胞子嚢柄の先端部には胞子嚢膜が襟状に残っている様子が観察された。胞子嚢胞子は卵形〜楕円形、一細胞、2〜4μm × 3〜7μmで表面は平滑だった。1ヶ月間の培養期間中に有性生殖器官の形成は認められなかった(図8,9参照)。
また、実施例3に示すように、BLAST検索を用いたCO-21株の18S rRNA遺伝子塩基配列の相同性検索の結果、Mortierella chlamydosporaの18S rRNA遺伝子塩基配列 (GenBank No. AF157143)と98.8% (1614/1633 bp)の相同性を示している。
Mortierella属糸状菌は土壌環境に広く生息する菌種として知られており、有用脂質代謝産物に関する応用研究が多数報告されている。CO-21株は舌状紋の特徴的なコロニーの形成や胞子嚢内の柱軸の形成が見られないといったMortierella属糸状菌に特徴的な形質を有すること、かつ分子系統学的解析の結果から、本株がMortierella属に属することが明らかとなった。しかし、18S rRNA遺伝子の塩基配列の相同性が最近縁種に対して98.8%と違いがあること、本株はMortierella sp.属の新種乃至Mortierella chlamydosporaの変種と考えられる。
そうか病原菌種に対する糸状菌の生育抑制能アッセイ方法の概略図。 3種のそうか病原菌種に対する糸状菌の生育抑制効果を示すグラフ。 微生物製剤添加30日後の土壌中の病原性遺伝子nec1コピー数の変化を示すグラフ。 MK-100株の巨視的観察像を示す写真(左上、PDA培地。右上、MA培地。左下、OA培地。右下、LCA培地。PDA、MA、LCAは培養4週間後、OAは培養1週間後の写真)。 MK-100株の微視的観察像を示す写真(分生子柄)。 MK-100株の微視的観察像を示す写真(分生子)。 CO-21株の巨視的観察像を示す写真(左上、PDA培地。右上、MA培地。左下、OA培地。右下、LCA培地。全て培養1週間後の写真)。 CO-21株の微視的観察像を示す写真(胞子嚢柄)。 CO-21株の微視的観察像を示す写真(胞子嚢)。

Claims (9)

  1. Eupenicillium属、Kionochaeta属、Chaetomium属、Pseudogymnoascus属、Fusarium属、Lecythophora属、Coniochaeta属、Cladosporium属またはMortierella属に属する微生物を含有することを特徴とする、そうか病菌防除用微生物製剤。
  2. そうか病菌がストレプトミセス属に属する放線菌であることを特徴とする請求項1に記載の微生物製剤。
  3. ストレプトミセス属に属する放線菌が、S. scabiei、S. acidiscabiei、S. turgidiscabieiに属する菌株であることを特徴とする、請求項2に記載の微生物製剤。
  4. 配列番号1または配列番号2に示される18S rRNA遺伝子塩基配列を有し、そうか病菌防除作用を有する微生物。
  5. 配列番号1に示される18S rRNA遺伝子塩基配列を有する微生物がMortierella属に属する微生物であることを特徴とする、請求項4に記載の微生物。
  6. 配列番号2に示される18S rRNA遺伝子塩基配列を有する微生物がKionochaeta属に属する微生物であることを特徴とする、請求項4に記載の微生物。
  7. 少なくともS. scabiei、S. acidiscabieiおよびS. turgidiscabieiに対して防除作用を有することを特徴とする、請求項4に記載の微生物。
  8. Kionochaeta sp. MK-100株(FERM P−21337)
  9. Mortierella sp. CO-21株(FERM P−21338)
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