JP2009067709A - ガン細胞表面の糖鎖構造の変化を誘導するためのキット - Google Patents

ガン細胞表面の糖鎖構造の変化を誘導するためのキット Download PDF

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Abstract

【課題】正常細胞に対する副作用が少なく、ガン細胞に対してのみ十分な効果を発揮し得る新規な手段を提供する。
【解決手段】ガン細胞表面の糖鎖構造の変化を誘導するためのキットであって、フコイダン抽出物を含むことを特徴とするキット。好ましくは、糖鎖認識タンパク質または糖鎖認識タンパク質発現細胞をさらに含む。
【選択図】図1

Description

本発明は、ガン細胞表面の糖鎖構造の変化を誘導するためのキットに関する。
ガンの免疫療法は、正常な細胞とガン細胞との抗原上の違いを免疫系の細胞に認識させて、直接的あるいは間接的にガンを攻撃する治療法の総称である。ガンという変異細胞に対して生体の免疫系が作用することは、純系動物を用いた移植腫瘍の拒絶実験において、宿主内免疫系が腫瘍を異物として特異的に認識することが明らかになっており、これらの機能を人為的に制御してガンに対抗する手段として利用することは、非常に有効なアプローチになると考えられる。また、免疫療法の特徴として、(1)生体が腫瘍が認識する機構を最大限に利用することから、克服が難しいとされている転移性のガン、他の手段では扱い難い部位にある腫瘍であっても効果が期待できること、(2)免疫系のガンに対抗する能力の多様性を利用して幅広い応用ができること、(3)ガン細胞への反応特異性の高さを利用することで、周りの正常細胞への障害作用を最小限にできることなどが挙げられ、これらの試みにより推測される副作用の軽減は、ガン患者のQOL(Quality Of Life)を実践する上で有用な手段となり得ることから、発展が期待される治療分野である。
しかしながら、ヒトのガンは様々な機序により免疫防御システムをすり抜けることが知られており、ガン細胞の免疫回避機構の解明とその克服法の開発は大きな課題となっている。その1つの要因として、生活習慣の変化による糖鎖異常に起因する細胞間の伝達機能の低下が挙げられる。すなわち、ヒトの細胞は、タンパク質、脂質に結合した糖鎖で密に覆われている。ここで、糖鎖とは、グルコースなどの糖が幾つも結合した分子を指す。
古くから、細胞がガン化すると糖鎖の構造を決定する酵素の遺伝子の発現が変化して糖鎖構造が著しく変化することが知られている。また、ガンの悪性化に伴い、さらに糖鎖発現、糖鎖構造が変化することも知られている。その結果、ガン化した細胞は細胞間に張り巡らされた繊維状の構造物(細胞外マトリクス)と結合できなくなる場合もあり、これはガン細胞が転移しやすい理由の1つとして考えられている。最近ではその一部は腫瘍マーカーとして実際に臨床において用いられているものである。また一方で、糖鎖形成に関与する8種類の糖鎖(グルコース、ガラクトース、マンノース、フコース、キシロース、N−アセチルグルコサミン、N−アセチルガラクトサミン、N−アセチルノイラミン酸)を直接摂取することで、糖鎖機能の正常化を図る代替医療も行われている。しかしながら、正常細胞に対する副作用が少なく、しかも十分な効果を発揮し得るような手段は未だなく、開発が望まれている。
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的とするところは、正常細胞に対する副作用が少なく、ガン細胞に対してのみ十分な効果を発揮し得る新規な手段を提供することである。
本発明は、ガン細胞表面の糖鎖構造の変化を誘導するためのキットであって、フコイダン抽出物を含むことを特徴とする。
本発明のキットは、糖鎖認識タンパク質をさらに含むことが好ましく、この場合、糖鎖認識タンパク質はタチナタマメレクチンであることが特に好ましい。
本発明のキットはまた、上述した糖鎖認識タンパク質に代えて、糖鎖認識タンパク質発現細胞をさらに含んでいてもよい。この場合、糖鎖認識タンパク質発現細胞により発現される糖鎖認識タンパク質はタチナタマメレクチン様であることが特に好ましい。またこの場合、糖鎖認識タンパク質発現細胞が未分化状態または分化した状態の樹状細胞であることが特に好ましい。
また、本発明のキットにおけるフコイダン抽出物は、分子量が500以下であることが好ましい。
本発明は、フコイダン抽出物が、ガン細胞表面の糖鎖構造の変化を誘導し得るという本発明者らによって初めて見出された知見に基づきなされたものであり、本発明のキットによれば、ガン患者に適用した場合に、ガン細胞表面の糖鎖構造の変化を誘導し、悪性化したガン細胞がアポトーシスを起こしやすくすることができる。また、本発明のキットは、好ましくはフコイダン抽出物に加え、糖鎖認識タンパク質または糖鎖認識タンパク質産生細胞を含み、これによって、糖鎖認識タンパク質(糖鎖認識タンパク質産生細胞により産生された糖鎖認識タンパク質も含む)により、フコイダン抽出物が有するガン細胞に対するアポトーシス誘導能を有意に増強させることができ、ガン細胞表面の糖鎖構造の変化を誘導するだけでなく、悪性化したガン細胞がアポトーシスを起こしやすくすることができる。
本発明は、ガン細胞表面の糖鎖構造の変化を誘導するためのキットであって、フコイダン抽出物を含むことを特徴とする。ここで、本発明における「フコイダン(fucoidan)」とは、モズク、コンブ、ワカメ、メカブなど褐藻類から抽出された分子量20万〜30万の粘質多糖類であり(当該褐藻類に乾燥重量で約4%含まれる)、以下に基本構造を示すように、L−フコースのエステル化硫酸を主成分として少量のガラクトース、キシロース、さらにグルクロン酸などを含む複雑な硫酸化多糖である。
このようなフコイダン抽出物は、免疫賦活作用、血管新生抑制作用およびアポトーシス誘導作用の3つに起因する抗腫瘍作用を有することが知られており、近年、代替医療に対する関心の高まりとともに関心が寄せられており、様々な研究報告がなされている。上述のようにフコイダン抽出物は様々な構造を有する糖分子の混合物であり、このことが上述したような幅広い効果をもたらす一因であると考えられる。
本発明者らは、フコイダン抽出物が、ガン細胞の表面糖鎖の構造変化を有意に誘導する作用を有することを見出し、この知見に基づき、当該フコイダン抽出物を含有する、ガン細胞表面の糖鎖構造の変化を誘導するためのキットを提供するものである。ここで、図1はヒト子宮頚ガン細胞株であるHeLa細胞についての糖鎖発現プロファイリング(後述する実験例1)の測定結果を示すグラフであり、図1(a)はタチナタマメレクチン(ConA)、図1(b)はインゲンマメレクチン−E4(PHA−E4)、図1(c)はレンズマメレクチン(LCA)、図1(d)はピーナッツレクチン(PNA)、図1(e)はドリコス豆凝集素(DBA)、図1(f)はハリエニシダレクチン(UEA−I)、図1(g)はヒマレクチン(RCA120)、図1(h)は小麦胚芽レクチン(WGA)についての結果を示している。なお、図1中、点線は1%フコイダン抽出物により処理した場合、実線は5%フコイダン抽出物により処理した場合、破線(灰色で示す領域を囲む破線)は対照群を示している。詳細は実験例1にて後述するが、図1は、HeLa細胞について、1%または5%のフコイダン抽出物にて処理した後、レクチンであるConA、DBA、LCA、PHA−E4、PNA、RCA120、UEA−IまたはWGAをそれぞれ添加し、フローサイトメーターに供した結果を、当該処理を行わなかった対照群と比較して示している。図1から、ConA、DBA、UEA−IおよびWGAでフコイダン処理濃度に応じてヒストグラムが右にシフトしており、感受性の増加が確認されたことが分かる。すなわち、HeLa細胞はフコイダン抽出物による処理によって、これらレクチンと特異性を有する糖鎖発現が増加したか、もしくはこれらのレクチンに認識されやすい糖鎖構造になったのではないかと考えられる。また図1から、PNAではフコイダン抽出物の濃度に応じてヒストグラムの減少が見られることも分かる。すなわち、HeLa細胞はフコイダン抽出物による処理によってPNAとの特異性のある糖鎖発現を減少させるか、もしくはPNAに認識されにくい糖鎖構造となったのではないかと考えられる。
また図2は、ヒト肺腺ガン細胞株であるA549細胞についての糖鎖発現プロファイリング(後述する実験例1)の測定結果を示すグラフであり、図2(a)はConA、図2(b)はPHA−E4、図2(c)はLCA、図2(d)はPNA、図2(e)はDBA、図2(f)はUEA−I、図2(g)はRCA120、図2(h)はWGAについての結果を示している。なお、図2中、点線は1%フコイダン抽出物により処理した場合、実線は5%フコイダン抽出物により処理した場合、破線(灰色で示す領域を囲む破線)は対照群を示している。詳細は実験例1にて後述するが、図2は、A549細胞について、上述したHeLa細胞の場合と同様の実験を行った結果を示している。図2から、ConAでのみフコイダン抽出物の濃度に応じてヒストグラムが右にシフトしており、感受性の増加が確認されたことが分かる。すなわち、A549細胞はフコイダン抽出物による処理によってConAと特異性のある糖鎖発現が増加したか、ConAに認識されやすい糖鎖構造になったのではないかと考えられる。また図2から、WGAとRCAではフコイダン抽出物の濃度に応じてヒストグラムの減少が見られることが分かる。すなわち、A549細胞はフコイダン抽出物で処理することで、これらレクチンと特異性を有する糖鎖発現を減少させるか、もしくはこれらレクチンに認識されにくい糖鎖構造となったのではないかと考えられる。
また図3は、ヒト繊維肉腫細胞株であるHT1080細胞についての糖鎖発現プロファイリング(後述する実験例1)の測定結果を示すグラフであり、図3(a)はConA、図3(b)はPHA−E4、図3(c)はLCA、図3(d)はPNA、図3(e)はDBA、図3(f)はUEA−I、図3(g)はRCA120、図3(h)はWGAについての結果を示している。なお、図3中、点線は1%フコイダン抽出物により処理した場合、実線は5%フコイダン抽出物により処理した場合、破線(灰色で示す領域を囲む破線)は対照群を示している。詳細は実験例1にて後述するが、図3は、HT1080細胞について、上述したHeLa細胞の場合と同様の実験を行った結果を示している。図3から、ConA、PNA、RCA120およびWGAでフコイダン抽出物の濃度に応じてヒストグラムが右にシフトしており、感受性の増加が確認されたことが分かる。すなわち、HT1080細胞はフコイダン抽出物による処理によってこれらのレクチンと特異性のある糖鎖発現が増加したか、これらのレクチンに認識されやすい糖鎖構造になったのではないかと考えられる。また、図3から、DBAではフコイダン抽出物の濃度に応じてヒストグラムの減少が見られることが分かる。すなわち、HT1080細胞はフコイダン抽出物で処理することで、DBAと特異性を有する糖鎖発現を減少させるか、もしくはDBAに認識されにくい糖鎖構造となったのではないかと考えられる。
さらに、図4は、ヒト正常線維芽細胞であるTIG−1細胞についての糖鎖発現プロファイリング(後述する実験例1)の測定結果を示すグラフであり、図4(a)はConA、図4(b)はPHA−E4、図4(c)はLCA、図4(d)はPNA、図4(e)はDBA、図4(f)はUEA−I、図4(g)はRCA120、図4(h)はWGAについての結果を示している。なお、図4中、点線は1%フコイダン抽出物により処理した場合、実線は5%フコイダン抽出物により処理した場合、破線(灰色で示す領域を囲む破線)は対照群を示している。詳細は実験例1にて後述するが、図4は、TIG−1細胞について、上述したHeLa細胞の場合と同様の実験を行った結果を示している。図4から、ConA、LCA、UEA−IおよびWGAにおいてフコイダン抽出物の濃度に応じてヒストグラムが右にシフトしており、感受性の増加が確認されたことが分かる。すなわち、TIG−1細胞はフコイダン抽出物による処理によってこれらのレクチンと特異性のある糖鎖発現が増加したか、これらのレクチンに認識されやすい糖鎖構造になったのではないかと考えられる。また図4から、正常細胞であるTIG−1細胞の場合には、ガン細胞とは異なり、ヒストグラムの減少は見られなかったことが分かる。
詳細は実験例1にて後述するが、図1〜図4を参照して上述した実験結果から、フコイダン抽出物による処理によって、ガン細胞表面における糖鎖構造の変化が誘導されたことが分かる。中でも、実験した全ての細胞において、フコイダン抽出物による処理でConA反応性糖鎖の発現の上昇がみられており、ConAはマンノース鎖を特異的に認識するレクチンであることから、フコイダン抽出物による処理によってガン細胞表面のマンノース鎖の発現が高まったか、あるいはConAに認識されやすい糖鎖構造となったものと考えられる。本発明のキットは、このようなフコイダン抽出物が、ガン細胞表面の糖鎖構造の変化を誘導し得るという本発明者らによって初めて見出された知見に基づきなされたものであり、ガン患者に適用した場合に、ガン細胞表面の糖鎖構造の変化を誘導し、悪性化したガンを良性に向かわせることができる。
本発明のキットに用いられるフコイダン抽出物は、褐藻類から抽出された状態では通常は巨大な化合物である。本発明に用いられるフコイダン抽出物は、分子量については特に制限されるものではないが、分子量500以下であることが好ましい。本発明においては、上述した巨大な化合物のままの状態のフコイダン抽出物を用いても勿論よいが、分子量500以下にまで低分子化されたフコイダン抽出物を用いることによって、腸管からのフコイダン抽出物の吸収を促進させることができる。ここで、腸管からの吸収に注目する理由としては、全身の免疫を司るリンパ球の60〜70%が腸管に存在し、抗体全体の60%は腸管で作られていることが挙げられる。生まれてからの免疫系の代表器官は骨髄と胸腺であることは知られているが、中年以後になると、免疫系器官の中心は胸腺から腸管リンパ組織へ移行する。そのため、いかにして腸管での吸収を高めるかは大きな意義があると考えられる。
フコイダン抽出物は、褐藻類(具体的にはトンガ王国産モズク(Cladosiphon novae-caledniae Kylin)など)から当分野において通常行われているように有機酸抽出し、脱塩処理して抽出することで作製することができる。また、上述したように分子量500以下に低分子化されたフコイダン抽出物を用いる場合には、当分野において通常行われているような酵素消化処理(たとえば、アワビのグリコシダーゼを用いた酵素消化)、酸加水分解、放射線による分解なども考えられるが、酸加水分解では硫酸基まで分解してしまい、放射線による分解では放射線により構造まで壊れる可能性がある。これに対し、酵素処理は温和で、構造を維持した状態で分解が行えるという利点を有するため、好ましい。
また、本発明におけるフコイダン抽出物は、酵素消化フコイダン(パワーフコイダン(登録商標)、販売元:第一産業株式会社)などの市販品を用いても勿論よい。
本発明のキットにおけるフコイダン抽出物の含有量は特に制限されるものではないが、50μg/mL〜10mg/mLの範囲内であることが好ましく、100μg/mL〜1mg/mLの範囲内であることがより好ましい。フコイダン抽出物の含有量が50μg/mL未満である場合には、フコイダン抽出物により奏される効果が認められにくくなる虞があり、また、フコイダン抽出物の含有量が10mg/mLを超えても、それ以上の効果は得られにくい傾向にあるためである。
本発明のキットは、上述したフコイダン抽出物に加え、糖鎖認識タンパク質または糖鎖認識タンパク質産生細胞をさらに含んでいてもよい。これによって、糖鎖認識タンパク質(糖鎖認識タンパク質産生細胞により産生された糖鎖認識タンパク質も含む)により、フコイダン抽出物が有するガン細胞に対するアポトーシス誘導能を有意に増強させることができ、ガン細胞表面の糖鎖構造の変化誘導だけでなく、ガン細胞に対するアポトーシス誘導によってもガン細胞に作用し、悪性化したガンを良性に向かわせることができる
ここで、図5〜図8は、フコイダン抽出物と糖鎖認識タンパク質との組み合わせによるアポトーシス感受性への効果を検定(後述する実験例2)した結果を示す図であり、図5はHeLa細胞、図6はA549細胞、図7はHT1080細胞、図8はTIG−1細胞についての結果を示している。詳細は実験例2にて後述するが、図5〜図8は、各細胞について、1%のフコイダン抽出物で処理した後に糖鎖認識タンパク質としてタチナタマメレクチン(ConA)を用いて刺激した後、フローサイトメーターに供した結果を、当該処理を行わなかった対照群と比較して示している。
図5から、フコイダン抽出物にて処理したHeLa細胞にConAを添加して刺激を加えた条件とすることで、アポトーシス誘導効果の増強作用が確認されたことが分かる。また図6から、HeLa細胞ほどではなかったが、フコイダン抽出物にて処理したA549細胞にConAを添加して刺激を加えた条件とすることで、アポトーシス誘導効果の増強作用が確認されたことが分かる。また、図7から、フコイダン抽出物にて処理したHT1080細胞にConAを添加して刺激を加えた条件とすることで、他のガン細胞と比較して最も顕著にアポトーシス誘導効果の増強作用が確認されたことが分かる。これらの結果に対し、図8から、正常細胞であるTIG−1細胞については、ガン細胞の場合とは異なり、フコイダン処理することによってアポトーシス誘導効果が対照やレクチンを処理しただけの条件のものより低下していることが分かる。これらの実験結果から、フコイダン抽出物と糖鎖認識タンパク質との組み合わせにより、フコイダン抽出物が有するガン細胞に対するアポトーシス誘導能を増強することができ、しかもこのアポトーシス誘導能の増強はガン細胞特異的であるという知見が本発明者らによって初めて得られた。
本発明のキットに好適に用いられ得る糖鎖認識タンパク質としては、レクチンが挙げられる。レクチンは、糖に親和性を示すタンパク質の総称で、一般に抗体、酵素を除くものとされている。しかし今日では様々な例外も報告され、糖鎖を特異的に認識して結合、架橋形成するタンパク質と定義するのが一般的である。本発明のキットに好適に用いられ得るレクチンとしては、たとえば、上述したタチナタマメレクチン(コンカナヴァリンA)(ConA:Concanavallin A)、ドリコス豆凝集素(DBA:Dolichos Bifiorus)、レンズマメレクチン(LCA:Lens Culinaris Agglutinin)、インゲンマメレクチン−E4(PHA−E4:Erythroagglutinating Isolectin of Phytohemagglutinin)、ピーナッツレクチン(PNA:Arachis Hypogaea Agglutinin)、ヒマレクチン(RCA120:Ricinus Communis Agglutinin)、ハリエニシダレクチン(UEA−1:Ulex Europaeus Agglutinin)、小麦胚芽レクチン(WGA:Wheat Germ Agglutinin)が挙げられる。これらの中でも、マンノース特異的糖鎖を認識するレクチンであるタチナタマメレクチン(ConA)が好ましい。既に上述したように、実験に供したHeLa細胞、A549細胞、HT1080細胞の全てにおいて、フコイダン抽出物による処理で、ConA反応性糖鎖の発現の上昇の観察がみられており、フコイダン抽出物による処理によってガン細胞表面のマンノース鎖の発現が高まったか、あるいはConAに認識されやすい糖鎖構造となったと考えられ、より顕著な効果を奏するものと考えられるためである。
本発明のキットが糖鎖認識タンパク質を含む場合、糖鎖認識タンパク質は、1μg/mL〜5mg/mLの範囲内で含まれていることが好ましく、10μg/mL〜500μg/mLの範囲内で含まれていることがより好ましい。糖鎖認識タンパク質の含有量が1μg/mL未満である場合には、糖鎖認識タンパク質を含むことにより奏される効果が認められにくくなる虞があり、また、糖鎖認識タンパク質の含有量が5mg/mLを超える場合には、正常組織または正常細胞に対して細胞毒性が現れる傾向にある。
また本発明のキットにおいて好適に用いられ得る糖鎖認識タンパク質発現細胞としては、上述したような糖鎖認識タンパク質を発現し得る細胞であれば特に制限されるものではなく、たとえば樹状細胞、単球、マクロファージ、ランゲルハンス細胞などが挙げられる。なお、糖鎖認識タンパク質発現細胞は、未分化の状態、分化された状態のいずれの状態であってよい。未分化の状態の糖鎖認識タンパク質発現細胞を用いる場合には、本発明のキットを適用したガン組織において、当該糖鎖認識タンパク質発現細胞を分化させ、当該ガン組織で糖鎖認識タンパク質を発現し得るように実現され得る。樹状細胞は、各組織の免疫反応の初期段階に大きく影響することから、糖鎖認識タンパク質発現細胞は未分化状態または分化した状態の樹状細胞であり、当該細胞により発現される糖鎖認識タンパク質がタチナタマメレクチン(ConA)様であることが好ましい。樹状細胞は、自分が取り込んだ抗原を、他の免疫系の細胞に伝える役割を有する抗原提示細胞として機能する免疫細胞の1種であり、マンノース認識能を有することが知られている。また、未分化状態の樹状細胞としては、マンノース認識レセプターを細胞表面上に発現しているヒト単球様細胞株で、各種刺激によりマクロファージ、DC(樹状細胞)へと分化することができる細胞として知られているTHP−1細胞を好適に用いることができる。なお、糖鎖認識タンパク質発現細胞は、ガン細胞数に対し5倍以上の数を使用し、フコイダン抽出物150μg/mLに対し1×105個の細胞を用いることで好適に本発明のキットに用いられ得る。
本発明のキットは、たとえば、フコイダン抽出物(および糖鎖認識タンパク質または糖鎖認識タンパク質発現細胞)をガン組織に直接、またはガン患者に経口的に投与することによりガン治療効果を高め得る。なお、本発明のキットは、フコイダン抽出物と糖鎖認識タンパク質または糖鎖認識タンパク質発現細胞とを含む場合には、フコイダン抽出物と糖鎖認識タンパク質または糖鎖認識タンパク質発現細胞とを別々の容器に収容するように実現されてもよいし、1つの容器内に混合物として収容されて実現されてもよい。また本発明のキットは、ガン予防を目的とする健康食品(健康飲料を含む)として実現されてもよい。
以下に実験例を挙げて、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実験例に限定されるものではない。
<実験例1>
本実験例では、ガン細胞および正常細胞の表面の糖鎖発現にどのような違いがあるのかをレクチンとの感受性により確かめ、その感受性がフコイダン抽出物を用いることでどのように変化するのかをプロファイリングした。
なお、本実験例において、フコイダン抽出物としては、分子量500以下にまで低分子化された酵素消化フコイダン(パワーフコイダン(登録商標)、販売元:第一産業株式会社)に、2回の遠心分離(10000×g、30分間)を繰り返した後、上清をオートクレーブで滅菌したものを用いた。調製されたフコイダン抽出物は、pH6.8、浸透圧約0.206osmol/kgの水溶液であった。
また本実験例において、糖鎖認識タンパク質としては、予めFITC標識されたタチナタマメレクチン(ConA)、ドリコス豆凝集素(DBA)、レンズマメレクチン(LCA)、インゲンマメレクチン−E4(PHA−E4)、ピーナッツレクチン(PNA)、ヒマレクチン(RCA120)、ハリエニシダレクチン(UEA−I)および小麦胚芽レクチン(WGA)を含む、FITC標識レクチンのセット(Lectin Set I−FITC(Lot No.K6061)、J−オイルミルズ製)を用いた。
また、本実験例において用いたヒト子宮頚ガン細胞株であるHeLa細胞、ヒト肺腺ガン細胞株であるA549細胞、ヒト繊維肉腫細胞株であるHT1080細胞、ヒト正常線維芽細胞であるTIG−1細胞は、いずれも、東北大学加齢医学研究所医用細胞資源センターより譲渡されたものを用いた。A549細胞、HeLa細胞、HT1080細胞、TIG−1細胞のいずれも、10%FBS、1% 非必須アミノ酸(NEAA:non essential amino acid)(Invitrogen社製)含有MEM培地(日水製薬(株)製)を用い、37℃、5%二酸化炭素/95%空気の培養条件下でそれぞれ継代培養した。いずれも、3×106cellsの細胞を1mLの凍結培地(MEM:0.7mL、FBS:0.2mL、DMSO:0.1mL)に懸濁し、−80℃で保存した。
(1)HeLa細胞の糖鎖発現プロファイリング
HeLa細胞を6ウェルプレート中に1×105cells/wellで播種して前培養を行った後、1%または5%のフコイダン抽出物をそれぞれ含有する培地中で3日間のフコイダン処理を施した。また、対照群としては、フコイダン抽出物の代わりにMilli−Q水を含有する培地に同様に各細胞を播種した。細胞の形状を顕微鏡で確認した後、細胞を回収して500μLのPBSに懸濁し、1.5mLのエッペンチューブに回収した。遠心分離(800×g、1分間)し、上清をアスピレートした後、50μLのPBSに細胞を懸濁した。
以降の操作は暗所で行った。まず、FITC標識された各レクチンを2μg量(ConAでは0.98μL、DBAでは1.89μL、LCAでは1.28μL、PHA−E4では1.85μL、PNAでは1.36μL、RCA120では1.12μL、UEA−Iでは2μL、WGAでは1.17μL)ずつ添加し、室温(25℃)で15分間インキュベート(5分ごとにタッピング)後、1mLのPBSを入れて懸濁し、遠心分離した(800×g、1分間)。上清をアスピレートした後、500μLのPBSで細胞を懸濁して、フローサイトメーター(EPICS XL System II−JK、ベックマンコールター社製)に供した。なお、測定の手順は、ベックマンコールター社の取扱説明書に記載されたプロトコルを一部改変して使用した。
図1はHeLa細胞についての測定結果を示すグラフであり、図1(a)はConA、図1(b)はPHA−E4、図1(c)はLCA、図1(d)はPNA、図1(e)はDBA、図1(f)はUEA−I、図1(g)はRCA120、図1(h)はWGAについての結果を示している。なお、図1中、点線は1%フコイダン抽出物により処理した場合の場合、実線は5%フコイダン抽出物により処理した場合、破線(灰色で示す領域を囲む破線)は対照群を示している。図1に示されるように、結果、ConA、DBA、UEA−IおよびWGAでフコイダン抽出物の濃度に応じてヒストグラムが右にシフトしており、感受性の増加が確認された。すなわち、HeLa細胞はフコイダン抽出物による処理によって、これらレクチンと特異性のある糖鎖発現が増加したか、もしくはこれらのレクチンに認識されやすい糖鎖構造になったのではないかと考えられた。また逆の結果として、PNAではフコイダン抽出物の濃度に応じてヒストグラムの減少が見られた。すなわち、HeLa細胞はフコイダン抽出物で処理することでPNAとの特異性のある糖鎖発現を減少させるか、もしくはPNAに認識されにくい糖鎖構造となったのではないかと考えられた。
(2)A549細胞の糖鎖発現プロファイリング
A549細胞を用いたこと以外は上述したHeLa細胞の場合と同様にして、糖鎖発現プロファイリングを行った。図2はA549細胞についての測定結果を示すグラフであり、図2(a)はConA、図2(b)はPHA−E4、図2(c)はLCA、図2(d)はPNA、図2(e)はDBA、図2(f)はUEA−I、図2(g)はRCA120、図2(h)はWGAについての結果を示している。なお、図2中、点線は1%フコイダン抽出物により処理した場合、実線は5%フコイダン抽出物により処理した場合、破線(灰色で示す領域を囲む破線)は対照群を示している。図2に示されるように、結果、ConAでのみフコイダン抽出物の濃度に応じてヒストグラムが右にシフトしており、感受性の増加が見られた。すなわち、A549細胞はフコイダン抽出物による処理によってConAと特異性のある糖鎖発現が増加したか、ConAに認識されやすい糖鎖構造になったのではないかと考えられた。また逆の結果として、WGAとRCAではフコイダン抽出物の濃度に応じてヒストグラムの減少が見られた。すなわち、A549細胞はフコイダン抽出物で処理することで、これらレクチンと特異性を有する糖鎖発現を減少させるか、もしくはこれらレクチンに認識されにくい糖鎖構造となったのではないかと考えられた。
(3)HT1080細胞の糖鎖発現プロファイリング
HT1080細胞を用いたこと以外は上述したHeLa細胞の場合と同様にして、糖鎖発現プロファイリングを行った。図3はHT1080細胞についての測定結果を示すグラフであり、図3(a)はConA、図3(b)はPHA−E4、図3(c)はLCA、図3(d)はPNA、図3(e)はDBA、図3(f)はUEA−I、図3(g)はRCA120、図3(h)はWGAについての結果を示している。なお、図3中、点線は1%フコイダン抽出物により処理した場合、実線は5%フコイダン抽出物により処理した場合、破線(灰色で示す領域を囲む破線)は対照群を示している。図3に示されるように、結果、ConA、PNA、RCA120およびWGAでフコイダン抽出物の濃度に応じてヒストグラムが右にシフトしており、感受性の増加が見られた。すなわち、HT1080細胞はフコイダン抽出物による処理によってこれらのレクチンと特異性のある糖鎖発現が増加したか、これらのレクチンに認識されやすい糖鎖構造になったのではないかと考えられた。また逆の結果として、DBAではフコイダン抽出物の濃度に応じてヒストグラムの減少が見られた。すなわち、HT1080細胞はフコイダン抽出物で処理することで、DBAと特異性を有する糖鎖発現を減少させるか、もしくはDBAに認識されにくい糖鎖構造となったのではないかと考えられた。
(4)TIG−1細胞の糖鎖発現プロファイリング
TIG−1細胞を用い、フローサイトメーターによる測定の際のプロトコルとしてTIG ConA(8種類のレクチン全て)に従ったこと以外は、上述したHeLa細胞の場合と同様にして、糖鎖発現プロファイリングを行った。図4はTIG−1細胞についての測定結果を示すグラフであり、図4(a)はConA、図4(b)はPHA−E4、図4(c)はLCA、図4(d)はPNA、図4(e)はDBA、図4(f)はUEA−I、図4(g)はRCA120、図4(h)はWGAについての結果を示している。なお、図4中、点線は1%フコイダン抽出物により処理した場合、実線は5%フコイダン抽出物により処理した場合、破線(灰色で示す領域を囲む破線)は対照群を示している。図4に示されるように、結果、ConA、LCA、UEA−IおよびWGAにおいてフコイダン抽出物の濃度に応じてヒストグラムが右にシフトしており、感受性の増加が見られた。すなわち、TIG−1細胞はフコイダン抽出物による処理によってこれらのレクチンと特異性のある糖鎖発現が増加したか、これらのレクチンに認識されやすい糖鎖構造になったのではないかと考えられた。なお、TIG−1細胞では、ガン細胞とは異なり、ヒストグラムの減少は見られなかった。
<実験例2>
実験例1の結果から、用いた全ての細胞においてフコイダン抽出物により、ConAとの感受性が上がることが示された。これは細胞表面がマンノースリッチな状態となっている可能性を示唆している。本実験例では、フコイダン抽出物による処理をガン細胞に行いConAとの感受性を高め、そこにConA刺激が加わることでアポトーシス感受性が増強されるのではないかという仮説を実証するための検討を行った。また併せて、その結果はガン細胞特異的なものであるかどうかの確認として、正常細胞も用いて同様に検討を行った。
本実験例でも、フコイダン抽出物および各細胞は実験例1と同様のものを用いた。糖鎖認識タンパク質については、本実験例では、標識されていないConA(和光純薬工業株式会社製)を用いた。
HeLa細胞、A549細胞、HT1080細胞およびTIG−1細胞を、6ウェルプレート中に1×105cells/wellでそれぞれ播種して前培養を行った後、1%、5%、10%または20%のフコイダン抽出物を含有する培地中に3日間のフコイダン処理を施した。また、対照群としては、フコイダン抽出物の代わりにMilli−Q水を含有する培地に同様に各細胞を播種した。細胞の形状を顕微鏡で確認した後、15mLの遠心管に上清を回収後、1mLのPBSでウェルを洗浄してその液を回収し、ウェルに貼りついている細胞をトリプシンで剥がして回収した。遠心分離(200×g、5分間)後、上清をアスピレートして、500μLのPBSに細胞を懸濁し、1.5mLエッペンチューブに回収した。遠心分離(800×g、1分間)した後、上清をアスピレートし、50μLのPBSに細胞を懸濁した。これにConAを5μL添加(対照群では未添加)後、室温で30分間静置した。1mLのPBSを入れて洗浄(800×g、2分間)後、上清をアスピレートし、得られたペレットを150μLのPBSに懸濁後、350μLの冷99.5%エタノールを加えることで終濃度約70%のエタノールとし、細胞を固定した。30分間氷上静置後、遠心分離(800×g、2分間)し、得られたペレットに470μLのPBSおよび20μLの1mg/mLのRNaseA/PBS溶液を加え、懸濁後、室温で30分間静置した。10μLの1mg/mLのPI/PBS溶液を加え軽く振った後、室温で10分間静置し、フローサイトメーター(EPICS XL System II−JK、ベックマンコールター社製)に供した。なお、測定の手順は、ベックマンコールター社の取扱説明書に記載されたプロトコルを一部改変して使用した。
図5〜8は、1%のフコイダン抽出物で処理した場合のHeLa細胞、A549細胞、HT1080細胞およびTIG−1細胞についてのアポトーシス感受性への効果検定をそれぞれ示す図である。図5から分かるように、フコイダン抽出物にて処理したHeLa細胞にConAを添加して刺激を加えた条件とすることで、アポトーシス誘導効果の増強作用が見られた。また図6から分かるように、HeLa細胞ほどではなかったが、フコイダン抽出物にて処理したA549細胞にConAを添加して刺激を加えた条件とすることで、アポトーシス誘導効果の増強作用が見られた。また、図7から分かるように、フコイダン抽出物にて処理したHT1080細胞にConAを添加して刺激を加えた条件とすることで、他のガン細胞と比較して最も顕著にアポトーシス誘導効果の増強作用が見られた。なお、これらガン細胞におけるアポトーシス誘導効果の増強作用は、フコイダン抽出物の濃度が高い方がさらに増強される傾向がみられた(図示せず)。また、図8から、正常細胞であるTIG−1細胞については、ガン細胞の場合とは異なり、フコイダン処理することによってアポトーシス誘導効果が対照やレクチンを処理しただけの条件のものより低下していることが分かる。また、図9は、10%のフコイダン抽出物で処理した場合のTIG−1細胞についてのアポトーシス感受性への効果検定を示す図であるが、図9に示されるように、正常細胞の場合であっても、フコイダンの濃度を10%に上げた場合には、フコイダンの量が増えることによるストレスのためか、アポトーシスが引き起こされる結果となった。
実験例2の結果から、フコイダン抽出物によりConA感受性を上げたガン細胞に対して、ConA刺激を与えることで細胞死が誘導され、さらにこの細胞死経路は、sub−G1測定の結果からアポトーシスであると考えられた。また、A549、HeLaおよびHT1080の三種類のガン細胞に対してはフコイダン抽出物でConA感受性を高めた状態でのConA刺激はアポトーシス感受性の増強作用をもたらすが、TIG−1においてはConA刺激のみの場合より細胞死が抑えられており、この作用はガン細胞特異的なのではないかと考えられた。
<実験例3>
本実験例では、マンノース認識レセプターを細胞表面上に発現していることが知られているヒト単球様細胞株THP−1と各種ガン細胞を共培養することにより、ConAと同様に細胞死誘導効果の増強効果がフコイダン抽出物による処理によって誘導されるのではないかと考え検討を行った。
本実験例でも、フコイダン抽出物および各細胞は実験例1と同様のものを用いた。また、糖鎖認識タンパク質発現細胞として用いた、ヒト単球細胞株THP−1は、理化学研究所細胞銀行(RCB)より譲渡されたものを用いた。THP−1細胞は、10%非働化FBS、1%非必須アミノ酸(NEAA、Invitrogen社製)含有MEM培地(日水製薬(株)製)を用い、37℃、5%二酸化炭素/95%空気の培養条件下で継代培養した。また、表面抗原を認識する抗体(分化マーカーとしてCD14、CD1a、CD11c、HLA−DR、機能発現に関与するマーカーとしてCD40、CD80、CD83、CD86、マンノース認識レセプターとしてCD209)は、それぞれ、予めフィコエリスリン(PE)標識されたフナコシ株式会社製の市販品を用いた。
(1)THP−1細胞の分化処理
分化試薬としてPMA(Phorbol 12-myristate 13-acetate、C36568、Fw=616.8、SIGMA社製)を用いた。PMAは光によって分解されやすいので、暗所で用い、4℃で保存した。PMA粉末は有機溶媒でないと溶けないのでエタノールに溶解し、それをさらにMEMに希釈溶解した。THP−1細胞を撒く際に、終濃度10ng/mLとなるようにPMAを処理し、37℃CO2インキュベーターで24時間インキュベートした。その後、シャーレの上清を遠心管に回収し、PBSでシャーレを洗浄した後、5mM EDTA−0.85%NaCl溶液をシャーレに添加し、2分間静置した。液を遠心管に回収し、遠心した(200×g、5分間)後、PBSで3回洗浄(200×g、5分間)し、5%非働化FBS(fetal bovine serum)−MEMに細胞を懸濁した。なお、この非働化FBSは、FBSを56℃の湯浴中で30分加熱処理することで非働化(血清中の補体を不活化)されものである。このようにFBSを非働化したのは、補体が活動すると抗体の働きのみを知ることができないためである。
(2)共培養
HeLa細胞およびHT1080細胞を6ウェルプレート中に1×105cells/wellでそれぞれ播種して前培養を行った後、5%のフコイダン抽出物を含有する培地中に3日間のフコイダン処理を施した。また、対照群としては、フコイダン抽出物の代わりにMilli−Q水を含有する培地に同様に各細胞を播種した。その後、各細胞を6ウェルプレートから回収して新たな6ウェルプレートに1×105cells/wellで再度播種した。各細胞が接着した後、未分化の状態のTHP−1細胞または分化した状態のTHP−1細胞(食作用が増強されたマクロファージ)を5×105cells/wellで播種した(HeLa細胞またはHT1080細胞:THP−1細胞=1:5)。24時間ごとに位相差顕微鏡により観察を行った。
ここで、図10は、HeLa細胞と未分化状態のTHP−1細胞とを共培養した場合、図11は、HeLa細胞と分化状態のTHP−1細胞とを共培養した場合、図12は、HT1080細胞と未分化状態のTHP−1細胞とを共培養した場合、図13は、HT1080細胞と分化状態のTHP−1細胞とを共培養した場合についての結果を示す写真である。なお、図10(a)、図11(a)、図12(a)、図13(a)はフコイダン未処理のHeLa細胞またはHT1080細胞を単独培養させた場合、図10(b)、図11(b)、図12(b)、図13(b)は5%のフコイダン抽出物で処理したHeLa細胞またはHT1080細胞を単独培養させた場合、図10(c)、図11(c)、図12(c)、図13(c)はフコイダン未処理のHeLa細胞またはHT1080細胞をフコイダン未処理のTHP−1細胞と共培養させた場合、図10(d)、図11(d)、図12(d)、図13(d)は5%のフコイダン抽出物で処理したHeLa細胞またはHT1080細胞をフコイダン未処理のTHP−1細胞と共培養させた場合、図10(e)、図11(e)、図12(e)、図13(e)は5%のフコイダン抽出物で処理したHeLa細胞またはHT1080細胞を5%のフコイダン抽出物で処理したTHP−1細胞と共培養させた場合の結果をそれぞれ示している。なお、いずれも、共培養2日目の時点での写真を示している。図10〜図13から、フコイダン抽出物で処理したHeLa細胞、HT1080細胞は、未分化状態または分化した状態のTHP−1細胞による細胞傷害感受性が上昇していることが分かる。また、THP−1細胞についてもフコイダン抽出物で処理することで、その活性がさらに上昇していることが分かる。
(3)THP−1細胞の表面抗原分子の検討
未分化状態のTHP−1細胞を6ウェルプレート中に1×105cells/wellでそれぞれ播種して前培養を行った後、1%または5%のフコイダン抽出物を含有する培地中に3日間のフコイダン処理を施した。また、対照群としては、フコイダン抽出物の代わりにMilli−Q水を含有する培地に同様に各細胞を播種した。その後、細胞を1.5mLエッペンチューブに回収して遠心分離(800×g、2分間)し、上清をアスピレートした後、50μLの5%FBS−PBSに細胞を懸濁した。表面抗原を認識する抗体(分化マーカーとしてCD14、CD1a、CD11c、HLA−DR、機能発現に関与するマーカーとしてCD40、CD80、CD83、CD86、マンノース認識レセプターとしてCD209)を各々5μLずつ添加し、氷上で30分間静置した。用いた抗体はPE標識されたものであるため、以降の操作は暗所で行った。1mLのPBSで洗浄して遠心分離(800×g、1分間)した後、上清をアスピレートし、300μLのPBSに懸濁してフローサイトメーター(EPICS XL System II−JK、ベックマンコールター社製)に供した。なお、測定の手順は、ベックマンコールター社の取扱説明書に記載されたプロトコルを一部改変して使用した。
図14は、THP−1細胞の表面抗原分子の検討結果を示す図であり、図14(a)はCD14、図14(b)はCD1a、図14(c)はCD11c、図14(d)はHLA−DR、図14(e)はCD40、図14(f)はCD80、図14(g)はCD83、図14(h)はCD86、図14(i)はCD209についての結果をそれぞれ示している。結果、分化マーカーとしてより未分化な状態でみられるCD14、単球からマクロファージへ分化したときに発現上昇が見られるCD1a、DCへと分化したときに発現が上昇するCD11c、また分化した細胞で発現上昇が見られるHLA−DRの4つのTHP−1の分化に関するマーカー分子の発現には全く影響を及ぼさなかった。一方、THP−1の機能発現に関するマーカーであるCD80、CD83、CD86およびCD40については、発現上昇が観察された。さらにTHP−1が有するマンノース認識レセプターの1つであるCD209の発現もフコイダン抽出物による処理によって増強された。
実験例3の結果から、フコイダン抽出物はガン細胞表面のマンノースの発現変化を誘導し、マンノース認識能のあるTHP−1と強く作用することで細胞傷害活性効果をもたらすことが確認された。またその効果は、マクロファージに分化していない未分化状態のTHP−1細胞とでも確認できたことから、未分化状態であってもTHP−1細胞にはマンノースを認識し、作用する働きがあるのではないかと考えられる。また一方で、THP−1細胞も同時にフコイダン抽出物にて処理することで細胞傷害活性が上昇したことから、THP−1細胞にもフコイダン抽出物は作用していると考えられる。その仮説を裏付けるかの如く、本実験例では、フコイダン抽出物による処理によってTHP−1細胞の機能発現に関与するマーカーの発現増強効果が認められた。この結果において分化マーカーの発現には変化が見られなかったことから、フコイダン抽出物はTHP−1細胞に分化誘導効果をもたらしているのではなくて、機能変化をもたらしていると考えられる。また機能発現に関与するマーカーのうち、マンノース認識レセプターの1つであるCD209で発現が上昇したことは、フコイダン抽出物による処理によりTHP−1細胞のマンノース認識能が増強されたことが示唆される。このことから、フコイダン抽出物による処理はガン細胞のマンノース発現に変化を及ぼすだけでなく、THP−1細胞のマンノース認識能にも変化をもたらしていることを示しており、すなわち、フコイダン抽出物はガン細胞の機能変化および免疫系の細胞によるガン細胞攻撃能の両面に作用することで、ガンの抑制効果を発揮しているものと考えられる。
今回開示された実施の形態および実験例は、全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
ヒト子宮頚ガン細胞株であるHeLa細胞についての糖鎖発現プロファイリングの測定結果を示すグラフであり、図1(a)はタチナタマメレクチン(ConA)、図1(b)はインゲンマメレクチン−E4(PHA−E4)、図1(c)はレンズマメレクチン(LCA)、図1(d)はピーナッツレクチン(PNA)、図1(e)はドリコス豆凝集素(DBA)、図1(f)はハリエニシダレクチン(UEA−I)、図1(g)はヒマレクチン(RCA120)、図1(h)は小麦胚芽レクチン(WGA)についての結果を示している。 ヒト肺腺ガン細胞株であるA549細胞についての糖鎖発現プロファイリングの測定結果を示すグラフであり、図2(a)はConA、図2(b)はPHA−E4、図2(c)はLCA、図2(d)はPNA、図2(e)はDBA、図2(f)はUEA−I、図2(g)はRCA120、図2(h)はWGAについての結果を示している。 ヒト繊維肉腫細胞株であるHT1080細胞についての糖鎖発現プロファイリングの測定結果を示すグラフであり、図3(a)はConA、図3(b)はPHA−E4、図3(c)はLCA、図3(d)はPNA、図3(e)はDBA、図3(f)はUEA−I、図3(g)はRCA120、図3(h)はWGAについての結果を示している。 ヒト正常線維芽細胞であるTIG−1細胞についての糖鎖発現プロファイリングの測定結果を示すグラフであり、図4(a)はConA、図4(b)はPHA−E4、図4(c)はLCA、図4(d)はPNA、図4(e)はDBA、図4(f)はUEA−I、図4(g)はRCA120、図4(h)はWGAについての結果を示している。 HeLa細胞について、フコイダン抽出物と糖鎖認識タンパク質との組み合わせによるアポトーシス感受性への効果を検定した結果を示す図である。 A549細胞について、フコイダン抽出物と糖鎖認識タンパク質との組み合わせによるアポトーシス感受性への効果を検定した結果を示す図である。 HT1080細胞について、フコイダン抽出物と糖鎖認識タンパク質との組み合わせによるアポトーシス感受性への効果を検定した結果を示す図である。 TIG−1細胞について、フコイダン抽出物と糖鎖認識タンパク質との組み合わせによるアポトーシス感受性への効果を検定した結果を示す図である。 10%のフコイダン抽出物で処理した場合のTIG−1細胞についてのアポトーシス感受性への効果検定を示す図である。 実験例3において、HeLa細胞と未分化状態のTHP−1細胞とを共培養した場合の結果を示す写真である。 実験例3において、HeLa細胞と分化状態のTHP−1細胞とを共培養した場合の結果を示す写真である。 実験例3において、HT1080細胞と未分化状態のTHP−1細胞とを共培養した場合の結果を示す写真である。 実験例3において、HT1080細胞と分化状態のTHP−1細胞とを共培養した場合についての結果を示す写真である。 THP−1細胞の表面抗原分子の検討結果を示す図であり、図14(a)はCD14、図14(b)はCD1a、図14(c)はCD11c、図14(d)はHLA−DR、図14(e)はCD40、図14(f)はCD80、図14(g)はCD83、図14(h)はCD86、図14(i)はCD209についての結果をそれぞれ示している。

Claims (7)

  1. ガン細胞表面の糖鎖構造の変化を誘導するためのキットであって、フコイダン抽出物を含むことを特徴とする、キット。
  2. 糖鎖認識タンパク質をさらに含む、請求項1に記載のキット。
  3. 糖鎖認識タンパク質がタチナタマメレクチンである、請求項2に記載のキット。
  4. 糖鎖認識タンパク質発現細胞をさらに含む、請求項1に記載のキット。
  5. 糖鎖認識タンパク質発現細胞により発現される糖鎖認識タンパク質が、タチナタマメレクチン様である、請求項4に記載のキット。
  6. 糖鎖認識タンパク質発現細胞が未分化状態または分化した状態の樹状細胞である、請求項4または5に記載のキット。
  7. フコイダン抽出物の分子量が500以下である、請求項1〜6のいずれかに記載のキット。
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