JP2009046764A - 腐食疲労特性に優れたばね用鋼 - Google Patents

腐食疲労特性に優れたばね用鋼 Download PDF

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Abstract

【課題】従来技術よりも優れた疲労特性を有するばね用鋼を提供すること。
【解決手段】C等を含有し、残部が鉄及び不可避不純物からなり、フェライト脱炭層深さが0mmであり、下記式(1)で示されるCeq1が0.580以上であり、下記式(2)で示されるCeq2が0.49以下であり、下記式(3)で示されるCeq3が0.570以下であることを特徴とするばね用鋼。
Ceq1=[C]+0.11[Si]−0.07[Mn]−0.05[Ni]+0.02[Cr] … (1)
Ceq2=[C]+0.30[Cr]−0.15[Ni]−0.70[Cu] … (2)
Ceq3=[C]−0.04[Si]+0.24[Mn]+0.10[Ni]+0.20[Cr]−0.89[Ti]−1.92[Nb] … (3)
〔上記式中、[ ]は鋼中の各元素の含有量(質量%)を表す。〕
【選択図】なし

Description

本発明は、調質(焼入れ・焼戻し)した状態で使用されるコイルばねの素材として有用なばね用鋼(ばね鋼)に関するものであり、より詳細には腐食疲労特性に優れたばね用鋼に関するものである。
自動車等に用いられるばねには、排ガス低減や燃費向上のため軽量化が求められ、その一環として高強度化が指向されている。高強度化されたばね(焼入れ・焼戻し後の引張強度が、例えば、1900MPa以上であるばね)では、一般に、水素脆性や腐食疲労による早期折損が問題となる。
そのような問題を解決するため、従来、様々な技術が提案されている。例えばCrは一般に耐食性向上元素として知られているが、特許文献1は、塩水噴霧サイクル試験後の低歪速度での引張試験を行った場合にはCr添加では却って耐食性が低下する場合があること、このような場合の耐食性を向上させるにはCuやNiが効果的であり、CuとNiの合計量をCrの2倍以上にすることを提案している。
特許文献2は、Cが腐食疲労強度低下原因であるとしてCを低減すること、そしてCの低減によって懸念される耐へたり性の低下を、Si、Cu、Niなどの添加で防止すること、CuやNiは耐食性を高めるためにも有効であることを教示している。
しかしこれら特許文献1〜2では、技術レベルが十分に高いとは言えず、腐食疲労強度のさらなる向上余地がある。例えば、特許文献1〜2では、Niについては単に耐食性に優れるとの認識に過ぎず、その詳細な作用メカニズムや功罪両面の詳細検討が不足している。また同様のことは、Ni以外の元素についてもいえる。
特開2002−47539号公報 特開2004−10965号公報
本発明の目的は、腐食疲労強度(特に調質後の腐食疲労強度)をより高いレベルで改善できるばね用鋼を提供することにある。
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、腐食疲労強度を向上するには、フェライト脱炭を防止した上で、鋼の強度(硬さ)、腐食ピット形状、耐水素脆性の3点を改善する必要があることを見出し、しかもこの3点に及ぼす種々の元素の複雑な影響を解明し、本発明を完成した。
従って前記目的を達成し得た本発明のばね用鋼とは、C:0.38〜0.47%(質量%の意味。以下同じ)、Si:1.9〜2.5%、Mn:0.6〜1.3%、Cr:0.4%以下(0%を含む)、Cu:0.7%以下(0%を含む)、Ni:0.7%以下(0%を含む)、Ti:0.05〜0.15%、及びAl:0.003〜0.1%を含有し、残部が鉄及び不可避不純物であって、フェライト脱炭層深さが0.01mm以下であり、さらに下記式(1)で示されるCeq1が0.580以上、下記式(2)で示されるCeq2が0.49以下、下記式(3)で示されるCeq3が0.570以下である点にその特徴がある。
Ceq1=[C]+0.11[Si]−0.07[Mn]−0.05[Ni]+0.02[Cr] … (1)
Ceq2=[C]+0.30[Cr]−0.15[Ni]−0.70[Cu] … (2)
Ceq3=[C]−0.04[Si]+0.24[Mn]+0.10[Ni]+0.20[Cr]−0.89[Ti]−1.92[Nb] … (3)
(上記式中、[ ]は鋼中の各元素の含有量(質量%)を表す。なお鋼が、上記式に記載された元素(例えばCr)を含有しない場合、その対応する項目(例えば[Cr])にはゼロを代入して、Ceq1〜3を計算すればよい。)
本発明のばね用鋼として、下記に示す腐食試験を行った後に、試験片表面に観察される腐食ピットの中から、深さが大きいものから順に5個以上の腐食ピットを選択し、それら腐食ピットの下記式(4)で示されるアスペクト比の平均値が0.9以下であるものが好ましい。
アスペクト比=(腐食ピットの深さ×2)/(腐食ピットの幅) … (4)
腐食試験:
ばね用鋼を温度925℃で10分加熱した後、温度70℃の油で冷却して油焼入れし、次いで温度400℃で60分加熱して焼戻しを行った後、表面を800番のエメリー紙で研磨して腐食試験用の試験片を作製する。
この試験片に、5質量%のNaCl水溶液を、JIS Z 2371に従い35℃で8時間噴霧し、その後、試験片を湿度60%及び温度35℃の湿潤環境に16時間保持することを1サイクルとして、これを合計14サイクル行う。
その後、錆を除去してから、試験片表面の腐食ピットをレーザー顕微鏡にて観察する。
本発明のばね用鋼は、必要に応じて、さらにNb:0.1%以下(0%を含まない)、B:0.005%以下(0%を含まない)などを単独で又は組み合わせて含有していても良い。また本発明のばね用鋼中で、Pが0.02%以下(0%を含まない)、Sが0.02%以下(0%を含まない)、Nが0.007%以下(0%を含まない)、Oが0.0015%以下(0%を含まない)になっていることが望ましい。
本発明によれば、フェライト脱炭を防止した上で、種々の合金元素が適切に制御されているため、調質(焼入れ・焼戻し)後の鋼の硬さを向上でき、腐食ピットの形状を平坦化でき、且つ水素脆化に対する耐性を向上させることができ、その結果、優れた腐食疲労強度を実現することができる。さらに本発明のばね用鋼は、合金元素が節約されており、経済性にも優れている。
本発明鋼は、フェライト脱炭が防止されており、しかも調質後の硬さが高く、腐食により生じるピットが平らであり、かつ耐水素脆性が向上している点に特徴がある。このような鋼は、腐食疲労強度が優れている。前記フェライト脱炭の防止は、製造条件を工夫することによって達成できる。調質後の硬さ、腐食ピット形状、耐水素脆性は、フェライト脱炭を防止した上で、合金元素を適切に制御することによって(すなわち上記Ceq1〜3を適切にすることによって)達成できる。以下、順に説明する。
本発明では、製造方法を工夫することによってフェライト脱炭を防止している。フェライト脱炭は、合金元素を制御することによっても低減できるが、その場合には合金元素の添加量が増大して経済性が低下する虞があり、またCeq1〜3の制御との両立が難しくなるため、製造方法の工夫によってフェライト脱炭を防止することとした。
通常、ばね用鋼(線材)は、鋼材を加熱及び熱間圧延し、コイリング後、冷却床で冷却することによって製造されており、本発明ではこの製造条件を適正に調整することによって、フェライト脱炭を防止した。具体的には、鋼材の化学成分の平衡状態図(C量だけを変化させたときの平衡状態図。Thermo−Calcを利用して作図できる)でC=0質量%としたときのA1変態点、A3変態点、及びA4変態点をそれぞれ、A1(C=0)変態点、A3(C=0)変態点、及びA4(C=0)変態点と称したとき、熱間圧延の仕上げ圧延中の鋼の最高到達温度を、A3(C=0)変態点以上、A4(C=0)変態点以下にすることによってフェライト脱炭を防止した。
上記製造条件において注目すべきは、C=0質量%の状態を想定して圧延条件(特に仕上げ圧延の最高到達温度)を設定している点である。この利点は、鋼材の全成分量から計算したA3変態点以上の温度に保持して、相変態による炭素拡散を防止しつつ鋼材を圧延した場合と対比すると明瞭になる。全成分量から計算したA3変態点以上の温度に保持しても、圧延中、鋼表面の炭素濃度は徐々に低下していく。そして亜共析鋼では、C量が減少すると、A3変態点が上昇する。一方、圧延温度(鋼の温度)は、特に粗圧延及び中間圧延段階で徐々に低下していく。徐々に低下していく圧延温度が、徐々に上昇していく鋼表面のA3変態点に達すると、鋼表面では相変態が生じ、炭素拡散によるフェライト脱炭が急速に進行する。これに対して、仕上げ圧延でA3(C=0)変態点以上になるようにすると、たとえ仕上げ圧延前に(例えば、粗圧延後の中間圧延段階で)A3(C=0)変態点以下になってフェライト脱炭が生じていても、Cの逆拡散によってフェライト脱炭層を消失させることができる。なお仕上げ圧延の最高到達温度の上限をA4(C=0)変態点以下にしたのは、この温度を超えると、鋼表面にδフェライトが生成し、逆にフェライト脱炭が進行してしまうためである。またA4(C=0)変態点以上になると、極めて高温になるため、トータル脱炭(全脱炭)も進行してしまう。
仕上げ圧延の好ましい温度範囲は、1000℃以上(特に1050℃以上)、1250℃以下(特に1200℃以下)である。仕上げ圧延直前の圧延温度(例えば中間圧延の最終温度)は、特に限定されないが、通常850℃以上(好ましくは860℃)以上である。
本発明の仕上げ圧延温度は、通常の仕上げ圧延温度に比べて高い。仕上げ圧延温度を前記範囲にするためには、例えば、仕上げ圧延前に通常行っている水冷を省略(水冷を弱くすることを含む)し、仕上げ圧延時の加工発熱を利用して、鋼材温度を高めればよい。
なおフェライト脱炭を確実に防止するには、仕上げ圧延の温度制御に加え、圧延前の鋼の加熱温度、熱間圧延してコイリングした後の冷却床への載置温度、コイル(リング)の冷却条件なども制御する必要がある。
熱間圧延前の鋼の加熱温度は、900℃以上(好ましくはA3(C=0)変態点以上)、A4(C=0)変態点以下(好ましくは1250℃以下)である。加熱温度が低すぎると、フェライト−オーステナイト域での滞留時間が長くなる。また熱間圧延の生産性が低下する。一方、加熱温度がA4(C=0)変態点を超えると、δ−フェライト変態に起因するフェライト脱炭、及び高温加熱に起因するトータル脱炭(全脱炭)が進行する。
冷却床への載置温度は、熱間圧延からコイリングまでの冷却条件を反映したものである。載置温度は、900℃以上、好ましくは940℃以上である。載置温度が低すぎると、フェライト単相域での滞留時間が長くなってフェライト脱炭が生じ易くなる。なお載置温度の上限はフェライト脱炭とは無関係であるが、A1(C=0)変態点+50℃以下(好ましくは1000℃以下、特に975℃以下)にすることが推奨される。載置温度が高すぎると、冷却時に過冷組織(ベイナイトやマルテンサイト)が発生し易くなり、ばね用鋼の加工性が劣化する。
なお仕上げ圧延後、コイリングまでの条件は、コイリング後の線材(ばね用鋼)を、そのまま所定の載置温度で冷却床に供給可能なように設計される。通常は、仕上げ圧延後、水冷又は風冷(好ましくは水冷)によって所定の載置温度近くまで急冷してから、コイリングする。急冷によって、冷却床での冷却開始までにフェライト脱炭が開始するのを防止することもできる。
冷却床では、コイルの密部(冷却コンベアの幅方向両端)とコイルの疎部(冷却コンベアの幅方向中央)に分けて、600〜750℃の温度範囲の冷却速度を制御することが重要である。コイルの密部は、疎部に比べて冷却速度が遅くなり易く、この冷却速度が過度に遅くなると脱炭(特にフェライト脱炭)が生ずる。従ってコイル密部の冷却速度は、1.0℃/秒以上(好ましくは1.2℃/秒以上)にする。一方、フェライト脱炭防止とは無関係であるが、コイルの疎部は、密部に比べて冷却速度が速くなり易く、この冷却速度が過度に速くなると過冷組織が発生し易くなり、加工性に悪影響が出ることがある。従って過冷組織を防止する場合には、コイルの疎部の冷却速度は、8℃/秒以下(7℃/秒以下)にすることが推奨される。コイル密部及び疎部の冷却速度は、例えば、それぞれの場所にあたる風量を調節することによって別々に調整できる。
上記のようにしてばね用鋼(線材)のフェライト脱炭層を低減できる。本発明のばね用鋼では、フェライト脱炭層は、0.01mm以下(好ましくは、0.00mm)である。なお全脱炭層深さも浅いほど好ましく、例えば、0.25mm以下(好ましくは0.05〜0.20mm程度)である。
本発明のばね用鋼は、フェライト脱炭層が低減されているだけでなく、1)調質(焼入れ・焼戻し)後の硬さが高く、2)腐食により生じるピットが平らであり、かつ3)耐水素脆性が向上している点に特徴がある。フェライト脱炭の防止に加え、これら3つの特徴を兼ね備えることによって、腐食疲労強度を高めることができる。そして本発明の最大の特徴は、1)硬さ、2)ピット形状、3)耐水素脆性に与える合金元素の複雑な関係を明瞭に解明し、それぞれ、Ceq1、Ceq2、Ceq3と極めて高い相関関係があることを突き止めた点にある(図1〜3参照)。Ceq1が大きいほど硬くなり、Ceq2が小さいほどピット形状が平らになり、Ceq3が小さいほど耐水素脆性が向上し、それぞれ腐食疲労強度を高めるのに有利に作用する。
Ceq1=[C]+0.11[Si]−0.07[Mn]−0.05[Ni]+0.02[Cr] … (1)
Ceq2=[C]+0.30[Cr]−0.15[Ni]−0.70[Cu] … (2)
Ceq3=[C]−0.04[Si]+0.24[Mn]+0.10[Ni]+0.20[Cr]−0.89[Ti]−1.92[Nb] … (3)
上記式から把握されるように例えば、Niは、Ceq1(硬さ)とCeq3(耐水素脆性)の観点からは腐食疲労強度にとって不利に作用し、Ceq2(ピット形状)の観点からは腐食疲労強度にとって有利に作用する。他の合金元素も、同様に、複雑な関与の仕方をする。本発明によれば、各元素を個別に制御するのでなく、Ceq1〜3の視点にたって総合的に制御することによって、腐食疲労強度を確実に高めることができる。
Ceq1の範囲は、0.580以上、好ましくは0.59以上、より好ましくは0.60以上である。Ceq2は、0.49以下、好ましくは0.47以下、より好ましくは0.45以下、特に0.43以下である。Ceq3は、0.570以下、好ましくは0.54以下、より好ましくは0.52以下である。
本発明のばね用鋼の硬さは、例えば、540HV以上(例えば、540〜580HV程度)である。なお前記硬さは、ロックウェルC硬さや引張強さに換算すると、52〜54HRC程度、1900〜2000MPa程度に相当する。
また本発明のばね用鋼によって達成されるピット形状は、下記腐食試験を実施することによって求まるアスペクト比によって特定でき、そのアスペクト比は、例えば、0.9以下程度(例えば、0.3〜0.85程度)である。
腐食試験:
(a)ばね用鋼を温度925℃で10分加熱した後、温度70℃の油で冷却して油焼入れし、次いで温度400℃で60分加熱して焼戻しを行った後(その後、必要なら表面を削って縮径した後(例えば、直径を0.25mm程度短くした後))、次いで表面を800番のエメリー紙で研磨して腐食試験用の試験片を作成する。
(b)この試験片に、5質量%のNaCl水溶液を、JIS Z 2371に従い35℃で8時間噴霧し、その後、試験片を湿度60%及び温度35℃の湿潤環境に16時間保持することを1サイクルとして、これを合計14サイクル行う。
(c)クエン酸アンモニウム(98.7%)を蒸留水で10質量%に希釈した液に常温で試験片を浸し、塩水噴霧で発生した錆びを除去する。次いで試験片表面の腐食ピットをレーザー顕微鏡にて観察し、試験片表面に観察される腐食ピットの中から、深さが大きいものから順に5個以上の腐食ピットを選択し、それら腐食ピットのアスペクト比を下記式(4)に従って算出する。
アスペクト比=(腐食ピットの深さ×2)/(腐食ピットの幅) … (4)
本発明のばね用鋼の水素割れ寿命は、例えば、720秒以上(例えば、800〜1200秒程度)である。水素割れ寿命は、以下のようにして求めることができる。
ばね用鋼を温度925℃で10分加熱した後、温度70℃の油で冷却して油焼入れし、次いで温度400℃で60分加熱して焼戻しを行い、試験片にする。4点曲げによって1400MPaの応力を作用させながら、試験片を硫酸(0.5mol/L)及びチオシアン酸カリウム(0.01mmol/L)の混合水溶液に浸漬する。ポテンションスタットを用いてSCE電極よりも卑である−700mVの電圧をかけ、割れが発生するまでの時間を測定する。
本発明のばね用鋼の腐食疲労強度は、例えば、290MPa以上(好ましくは300〜400MPa程度)である。腐食疲労強度は、例えば、以下のようにして求めることができる。
腐食疲労強度:
(a)ばね用鋼を温度925℃で10分加熱した後、温度70℃の油で冷却して油焼入れし、次いで温度400℃で60分加熱して焼戻しを行った後、JIS試験片(疲労試験片)に加工する。
(b)この疲労試験片の平行部を800番のエメリー紙で研磨した。試験片の掴み部が腐食しないように被膜で保護した後、この試験片に、5質量%のNaCl水溶液を、JIS Z 2371規格に従い35℃で8時間噴霧し、その後、試験片を湿度60%及び温度35℃の湿潤環境に16時間保持することを1サイクルとして、これを合計14サイクル行った後、小野式回転曲げ疲労試験で疲労試験を実施する。10MPa間隔で負荷応力を増大させながら、各負荷応力につき5本の試験片を用いて疲労試験を実施し、5本の試験片全てで1000万回まで折損しなかった応力を、腐食疲労強度とする。
本発明を適用できるばね用鋼の成分組成は、以下の通りである。
C:0.38〜0.47%、
Si:1.9〜2.5%、
Mn:0.6〜1.3%、
Cr:0.4%以下(0%を含む)、
Cu:0.7%以下(0%を含む)、
Ni:0.7%以下(0%を含む)、
Ti:0.05〜0.15%、及び
Al:0.003〜0.1%、
残部:鉄及び不可避不純物
合金元素量(成分)の限定理由について詳述する。
C:0.38〜0.47%
Cは、鋼中に必須的に含まれ、焼入れ・焼戻し後の強度(硬さ)の向上に寄与する。しかしC量が多すぎると、腐食ピットのアスペクト比が増大することで腐食ピットへの応力集中が増大し、また鋼中マトリックスの靱性が劣化することで耐水素脆性も劣化する。その結果、C量が過剰であると腐食疲労特性が劣化する。そこでC量を、0.38%以上(好ましくは0.39%以上)、0.47%以下(好ましくは0.45%以下、より好ましくは0.43%以下)と定めた。
Si:1.9〜2.5%
Siは、固溶強化元素として強度向上に寄与し、耐力も向上させる。そのためSi量が少なすぎると、マトリックス強度が不足する。さらにSiは、焼戻し時の炭化物析出温度を高温側にシフトさせて、焼戻し脆性域を高温側にシフトさせることによって、耐水素脆性を向上させる作用も有する。しかしSi量が過剰であると、調質加熱時の炭化物の溶け込みを阻害し、強度が低下する。そこでSi量を、1.9%以上(好ましくは1.95%以上)、2.5%以下(好ましくは2.3%以下、より好ましくは2.2%以下)と定めた。
Mn:0.6〜1.3%
Mnは、平衡状態図におけるオーステナイト領域を広げる元素(オーステナイトフォーマー元素)であり、安定してフェライト脱炭を抑制するのに有効である。しかしMn量が過剰であると、鋼中マトリックスの靱性が低下して耐水素脆性が劣化し、その結果、腐食疲労特性が劣化する。そこでMn量を、0.6%以上(好ましくは0.65%以上、より好ましくは0.7%以上)、1.3%以下(好ましくは1.1%以下、より好ましくは0.9%以下)と定めた。
Cr:0.4%以下(0%を含む)
Crは、固溶強化により鋼のマトリックスを強化し、また焼入性を向上させる作用を有する。こうした作用を発揮させるために鋼中にCrを、好ましくは0.1%以上(より好ましくは0.15%以上、さらに好ましくは0.20%以上)の量で含有させることが推奨される。しかしCrは、腐食ピット底部のpH値を下げて、腐食ピットのアスペクト比を増大させる(鋭利にする)という作用を有し、これは腐食疲労特性に悪影響を及ぼす。従って本発明では、Cr量の上限を、0.4%以下(好ましくは0.3%以下、より好ましくは0.25%以下)と定めた。
Cu:0.7%以下(0%を含む)
Cuは、電気化学的に鉄よりも貴な元素であり、鋼の耐食性を高める作用を有する。さらにCuは、腐食中に生じる錆のアモルファス組成を増大させて、腐食原因の1つであるCl元素が腐食ピット底部に濃化することを抑制する作用を有する。この作用によって、腐食ピットのアスペクト比が制限され、応力集中が緩和され、腐食疲労特性が向上する。こうした作用を発揮させるために鋼中にCuを、好ましくは0.1%以上(より好ましくは0.15%以上、さらに好ましくは0.22%以上)の量で含有させることが推奨される。しかしCu添加によって、熱間圧延割れが生ずることがある。従って本発明では、Cu量の上限を0.7%以下(好ましくは0.5%以下、より好ましくは0.4%以下、特に0.35%以下)と定めた。
Ni:0.7%以下(0%を含む)
Niは、Cuと同様に、耐食性を高める作用、及び錆のアモルファス組成を増大させて、腐食ピットのアスペクト比を低減させる作用を有する。こうした作用を発揮させるために鋼中にNiを、好ましくは0.1%以上(より好ましくは0.15%以上、さらに好ましくは0.20%以上)の量で含有させることが推奨される。しかしNiは、調質(焼入れ・焼戻し)後のマトリックス中の残留オーステナイト量を増大させる作用を有し、その結果、調質後の硬さ(引張強さ)を低減させる。さらに耐水素脆性も低下させる。従って本発明では、Ni量の上限を、0.7%以下、好ましくは0.5%以下、さらに好ましくは0.4%以下、特に0.35%以下と定めた。
本発明のばね用鋼は、上記Cr、Cu及びNiのいずれも含まなくても良いが、好ましくはCr、Cu及びNiの中から少なくとも1種、より好ましくはCr及びNiのいずれか1種を、上述した量で含有することが好ましい。
Ti:0.05〜0.15%
Tiは、焼入れ・焼戻し後の旧オーステナイト結晶粒を微細化し、大気耐久性及び耐水素脆性の向上に有効である。しかしTi量が過剰であると、粗大なTi窒化物が析出し、疲労特性が劣化する。そこでTi量を、0.05%以上(好ましくは0.06%以上、より好ましくは0.07%以上)、0.15%以下(好ましくは0.1%以下、より好ましくは0.09%以下、特に0.085%以下)と定めた。
Al:0.003〜0.1%
Alは、溶鋼処理時の脱酸剤として作用する元素である。またAlは、微細なAl窒化物を形成し、そのピニング効果によって結晶粒を微細化する作用を有する。しかしAl量が過剰であると、粗大なAl酸化物を形成し、疲労特性に悪影響を及ぼす。そこでAl量を、0.003%以上(好ましくは0.005%以上)、0.1%以下(好ましくは0.05%以下、より好ましくは0.03%以下)と定めた。
本発明で用いるばね用鋼の残部は、実質的に鉄である。但し鉄原料(スクラップを含む)、副原料などの資材、製造設備等の状況によって持ち込まれる不可避不純物が鋼中に含まれることは、当然に許容される。この不可避不純物を厳密に制御してもよく、例えばP、S、O、Nなどを以下の範囲に制御してもよい。
P:0.02%以下(0%を含まない)
Pは、旧オーステナイト粒界に偏析して粒界を脆化させ、疲労特性を低下させる元素である。そこでP量は、できるだけ低いほど好ましく、例えば0.02%以下(好ましくは0.01%以下)に制御してもよい。
S:0.02%以下(0%を含まない)
Sは、旧オーステナイト粒界に偏析して粒界を脆化させ、疲労特性を低下させる元素である。そこでS量は、できるだけ低いほど好ましく、例えば0.02%以下(好ましくは0.01%以下)に制御してもよい。
N:0.007%以下(0%を含まない)
N量が多くなるほど、TiやAlと共に粗大な窒化物を形成し、疲労特性に悪影響を及ぼす。そこでN量はできるだけ少ないほど好ましく、例えば0.007%以下(好ましくは0.005%以下)に制御してもよい。一方、N量を低減しすぎると、生産性が著しく低下する。またNはAlと共に窒化物を形成して、結晶粒の微細化に貢献する。この観点からすればN量を、0.001%以上(好ましくは0.002%以上)に設定することが好ましい。
O:0.0015%以下(0%を含まない)
O量が過剰になると、粗大な酸化物系介在物(Al23など)が形成され、疲労特性に悪影響を及ぼす。そこでO量の上限を、0.0015%以下(好ましくは0.0010%以下)と定めた。一方、O量の下限は、工業生産上、一般に0.0002%以上(好ましくは0.0004%以上)である。
さらに本発明のばね用鋼は、必要に応じて、以下の選択元素を含有していても良い。
Nb:0.1%以下(0%を含まない)
Nbは、微細な化合物(Nb炭化物、窒化物、硫化物やこれらの複合化合物)を形成して、耐水素脆性を向上させる作用を有する元素である。さらにNbは、結晶粒微細化効果を発揮して、靱性や耐力を高める作用も有する。そこで必要に応じてNbを、好ましくは0.01%以上(より好ましくは0.02%以上)の量で含有させることが推奨される。しかしNb量が過剰であると、焼入れ加熱時にオーステナイト中に固溶されない炭化物の量が増大し、充分な強度が得られなくなる。またNb量が過剰であると、粗大なNb窒化物を形成して、疲労折損が生じ易くなる。そこで含有させる場合のNb量を、0.1%以下(好ましくは0.05%以下)と定めた。
B:0.005%以下(0%を含まない)
Bは、Pの粒界偏析を防止して粒界を清浄化し、耐水素脆性や靱延性を向上させるために有効な元素である。また少量のBを添加するだけで、多量の合金元素を添加しなくとも焼入性を増大させることができるので、圧延後の徐冷中に生じる線材表層のフェライト析出を抑えると共に、ばね製造時の焼入時の硬さを深くまで確保できる。そこで必要に応じてBを、好ましくは0.0003%以上(より好ましくは0.0005%以上)の量で含有させることが推奨される。しかしB量が過剰になると、Fe23(CB)6等のB化合物が形成されて、フリーのBが減少するため、Pの粒界偏析を防止する効果が飽和する。さらにこのB化合物は粗大であることが多いため、疲労折損の起点となって疲労特性が低下し得る。そこで含有させる場合のB量を、0.005%以下(好ましくは0.004%以下)と定めた。
本発明のばね用鋼の線径は、例えば、9〜25mm(好ましくは10〜20mm)である。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって制限を受けるものではなく、上記・下記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
参考例
表1に示す化学成分組成の鋼(鋼種SA〜SG)を80トンの転炉にて溶製し、連続鋳造で400mm角のブルームを作製し、さらに分塊圧延して155mm角のビレットにした。このビレットを加熱した後、熱間圧延し、載置温度近くまで水冷した後、コイリングし、ステルモア冷却設備の冷却床(コンベア)に載置し、コイル密部とコイル疎部に供給する風量を調節しながら衝風冷却することによって、直径14.3mmのばね用線材を2トン作製した。詳細な製造条件は、表2に示した通りである。また表2中、冷却速度は、温度750℃〜600℃の間の速度である。
得られた線材の脱炭層深さを以下のようにして調べた。
線材コイルのトップ部(圧延始め)及びボトム部(圧延終わり)からそれぞれ5巻き目を寸断した。トップ側及びボトム側の1巻きをそれぞれ8等分に分割し、合計16本の線材片を作製し、各線材片から10mm程度のサンプルを切断した。このサンプルを、切断面(横断面)が表面に出るようにしながら樹脂に埋込み、エメリー紙及びダイヤモンド粒子を用いて湿式研磨し、次いでピクラール液でエッチングして、合計16個の脱炭層深さ測定用試験片を作製した。これら試験片を光学顕微鏡にて観察倍率200倍で観察し、表層の全脱炭層深さ及びフェライト脱炭層深さを測定した。この測定法は、JIS G 0558の顕微鏡による測定法に従った。16個のサンプルの中で、全脱炭層深さ及びフェライト脱炭層深さの最大値を、各線材コイルにおける「全脱炭層深さ」及び「フェライト脱炭層深さ」とした。
測定結果を表2に示す。また表2には、化学成分組成(但しC=0%)からThermo−Calcで計算したA1変態点、A3変態点、及びA4変態点(すなわちA1(C=0)変態
点、A3(C=0)変態点、A4(C=0)変態点)も記載した。なお鋼種SGでは、C=0%付近でA3及びA4線が結合してしまい、A3(C=0)変態点及びA4(C=0)変態点が消失した。
Figure 2009046764
Figure 2009046764
製造条件が適切である線材SA−1、SB−1、SC−1、SD−1、SE−1、及びSF−1は、フェライト脱炭層深さが0.00mmであった。
一方、加熱温度が高い線材SA−3及びSE−2、仕上げ圧延中の最高到達温度が低い線材SA−2及びSC−2、仕上げ圧延中の最高到達温度が高い線材SB−2及びSF−2、載置温度が低い線材SD−2、コイル密部の冷却速度が小さい線材SB−3及びSE−3、並びにA3(C=0)変態点やA4(C=0)変態点が消失してしまった線材SG−1はフェライト脱炭が生じている。
実験例
表3に示す化学成分組成の鋼を150kgの小型真空溶解炉にて溶製し、熱間鍛造して155mm角のビレットを作製した。化学成分組成から計算されるCeq1〜3を、表5に示す。前記ビレットを加熱した後、熱間圧延し、載置温度近くまで水冷したあと、コイリングし、ステルモア冷却設備の冷却床(コンベア)に載置し、コイル密部とコイル疎部に供給する風量を調節しながら衝風冷却することによって、直径13.5mmのばね用鋼(線材)を作製した。詳細な製造条件は、表4に示した通りである。また表4中、冷却速度は600〜750℃の間の速度である。なお表4には、化学成分組成(但しC=0%)からThermo−Calcで計算したA1(C=0)変態点、A3(C=0)変態点及びA4(C=0)変態点を記載した。
得られたばね用鋼の脱炭層強さ、調質(焼入れ・焼戻し)後の疲労強度、ビッカース硬さ、腐食ピットのアスペクト比、及び水素脆化割れ寿命を以下のようにして調べた。
(1)脱炭層深さ
線材コイルのボトム側(圧延終わり)から3、4及び5巻き目を寸断し、1巻きをそれぞれ8等分に分割し、合計24本の線材片を作製した。線材片から、それぞれ10mm程度切断して、サンプルを取得した。このサンプルを、切断面(横断面)が表面にでるようにしながら樹脂に埋込み、エメリー紙及びダイヤモンド粒子を用いて湿式研磨し、次いでピクラール液でエッチングして、合計24個の脱炭層深さ測定用試験片を作製した。これら試験片を光学顕微鏡にて観察倍率200倍で観察し、参考例の場合と同様にして、全脱炭層深さ(DmT)、フェライト脱炭層深さ(DmF)を求めた。
(2)疲労強度
前記線材片を引き抜き加工(摩棒加工)及び切断して、直径12.5mm×長さ70mmのサンプルを作製した。このサンプルを、温度925℃で10分加熱した後、温度70℃の油で冷却して油焼入れし、次いで温度400℃で60分加熱して焼戻しを行った。焼入れ・焼戻しを行った鋼を、掴み部径12mm、平行部径8mmnJIS Z2274の1号試験片(疲労試験片)に加工した。
この疲労試験片の平行部を800番のエメリー紙で研磨した。試験片の掴み部が腐食しないようにエナメル被膜で保護した後、この試験片に、5質量%のNaCl水溶液を、JIS Z 2371に従い35℃で8時間噴霧し、その後、試験片を湿度60%及び温度35℃の湿潤環境に16時間保持することを1サイクルとして、これを合計14サイクル行った。この腐食試験を行った試験片は、小野式回転曲げ疲労試験に供するまで、真空デシケータに保管した。10MPa間隔で負荷応力を増大させながら、各負荷応力につき5本の試験片を用いて小野式回転曲げ疲労試験を実施し、5本の試験片全てで1000万回まで折損しなかった応力を、腐食疲労強度とした。結果を表5に示す。
(3)ビッカース硬さ
前記線材片を摩棒加工及び切断して、直径12.5mm×長さ60mmのサンプルを作製した。このサンプルを、疲労試験と同じ条件にて焼入れ・焼戻しして、ビッカース硬さ測定用の試験片を作製した。この試験片を横断面が露出するようにして樹脂に埋込み、研磨・鏡面仕上げした後、表層から深さ0.1mmの位置を10kgの荷重でビッカース硬さ試験を行い、ビッカース硬さを測定した。結果を表5に示す。図1に、ビッカース硬さとCeq1との関係を示すグラフを記載する。また表5には、ビッカース硬さから換算した引張強度を記載する(表5中で「換算TS」と記載)。この換算には、下記式(5)を使用した:
TS=58.33×(−9.751+0.16491×HV
−9.4457×10-5×HV2)−1135.7 … (5)
〔上記式中、TSは引張強さ(MPa)を表し、HVはビッカース硬さを表す。〕
(4)腐食ピットのアスペクト比
前記の線材片を摩棒加工及び切断して、直径12.5mm×長さ120mmのサンプルを作製した。このサンプルを、疲労試験と同じ条件にて焼入れ・焼戻しした後、直径10mm×長さ100mmの形状に機械加工して、アスペクト比測定用の試験片を作製した。試験片の表面を800番のエメリー紙で研磨した。腐食しないように、この試験片の両端10mmをエナメル被覆で保護し、この試験片に、5質量%のNaCl水溶液を、JIS Z 2371に従い35℃で8時間噴霧し、その後、試験片を湿度60%及び温度35℃の湿潤環境に16時間保持することを1サイクルとして、これを合計14サイクル行った。その後、クエン酸アンモニウム(98.7%)を蒸留水で10質量%に希釈した液に常温で試験片を浸し、塩水噴霧で発生した錆びを除去し、試験片表面の腐食ピットをレーザー顕微鏡(レーザーテック社製「1LM21W」、倍率:100〜200倍)にて観察した。鋼種ごとに5本の試験片を使用した。5本の試験片表面に観察される腐食ピットの中から、深さが大きいものから順に10個の腐食ピットを選択し、各腐食ピットの深さ及び幅を上記式(4)に代入してアスペクト比を求め、これらの平均値を求めた。結果を表5に示す。図2に、腐食ピットのアスペクト比(平均値)とCeq2との関係を示すグラフを記載する。
(5)水素脆化割れ寿命
前記の線材片を摩棒加工及び切断して、直径12.5mm×長さ70mmのサンプルを作製した。このサンプルを、疲労試験と同じ条件にて焼入れ・焼戻ししてから、幅10mm×厚さ1.5mm×長さ65mmの試験片を切り出した。この試験片に対して、4点曲げによって1400MPaの応力を作用させながら、試験片を硫酸(0.5mol/L)及びチオシアン酸カリウム(0.01mmol/L)の混合水溶液に浸漬した。ポテンションスタットを用いてSCE電極よりも卑である−700mVの電圧をかけ、割れが発生するまでの時間を測定した。結果を表5に示す。図3に、水素脆化割れ寿命とCeq3との関係を示すグラフを記載する。
Figure 2009046764
Figure 2009046764
Figure 2009046764
表3〜5の結果から、フェライト脱炭しておらず、かつ本発明のCeq1〜3の要件を満たす鋼種A〜Lは、良好な腐食疲労強度(例えば、290MPa以上)を示す。一方、Ceq1が0.580未満である鋼種Mは、ビッカース硬さが低く、そのため疲労強度が低くなっている。Ceq2が0.49を超える鋼種O〜Qは、腐食ピットのアスペクト比が大きく、そのため疲労強度が低くなっている。Ceq3が0.570を超える鋼種N〜Uは、水素脆化割れ寿命が短く、そのため疲労強度が低くなっている。
また表3〜5の結果から示されるように、フェライト脱炭を防止した鋼において、そのビッカース硬さ、腐食ピットのアスペクト比及び水素脆化割れ寿命は、腐食疲労強度に影響する。そして図1〜3のグラフから示されるように、これらビッカース硬さ、腐食ピットのアスペクト比及び水素脆化割れ寿命は、それぞれCeq1〜3と極めて高い相関関係がある。従って鋼の化学成分組成を、本発明のCeq1〜3の要件を満たすように調整することで、ビッカース硬さ、腐食ピットのアスペクト比及び水素脆化割れ寿命を制御でき、良好な腐食疲労強度を達成できる。
図1は、実施例で測定したビッカース硬さとCeq1との関係を示すグラフである。 図2は、実施例で測定した腐食ピットのアスペクト比とCeq2との関係を示すグラフである。 図3は、実施例で測定した水素脆化割れ寿命とCeq3との関係を示すグラフである。

Claims (5)

  1. C :0.38〜0.47%(質量%の意味。以下同じ)、
    Si:1.9〜2.5%、
    Mn:0.6〜1.3%、
    Cr:0.4%以下(0%を含む)、
    Cu:0.7%以下(0%を含む)、
    Ni:0.7%以下(0%を含む)、
    Ti:0.05〜0.15%、及び
    Al:0.003〜0.1%
    を含有し、残部が鉄及び不可避不純物からなり、
    フェライト脱炭層深さが0.01mm以下であり、
    下記式(1)で示されるCeq1が0.580以上であり、
    下記式(2)で示されるCeq2が0.49以下であり、
    下記式(3)で示されるCeq3が0.570以下であることを特徴とするばね用鋼。
    Ceq1=[C]+0.11[Si]−0.07[Mn]−0.05[Ni]+0.02[Cr] … (1)
    Ceq2=[C]+0.30[Cr]−0.15[Ni]−0.70[Cu] … (2)
    Ceq3=[C]−0.04[Si]+0.24[Mn]+0.10[Ni]+0.20[Cr]−0.89[Ti]−1.92[Nb] … (3)
    〔上記式中、[ ]は鋼中の各元素の含有量(質量%)を表す。〕
  2. 下記に示す腐食試験を行った後に、試験片表面に観察される腐食ピットの中から、深さが大きいものから順に5個以上の腐食ピットを選択し、それら腐食ピットの下記式(4)で示されるアスペクト比の平均値が0.9以下である、請求項1に記載のばね用鋼。
    アスペクト比=(腐食ピットの深さ×2)/(腐食ピットの幅) … (4)
    腐食試験:
    ばね用鋼を温度925℃で10分加熱した後、温度70℃の油で冷却して油焼入れし、次いで温度400℃で60分加熱して焼戻しを行った後、表面を800番のエメリー紙で研磨して腐食試験用の試験片を作製する。
    この試験片に、5質量%のNaCl水溶液を、JIS Z 2371に従い35℃で8時間噴霧し、その後、試験片を湿度60%及び温度35℃の湿潤環境に16時間保持することを1サイクルとして、これを合計14サイクル行う。
    その後、錆を除去してから、試験片表面の腐食ピットをレーザー顕微鏡にて観察する。
  3. さらにNb:0.1%以下(0%を含まない)を含有する請求項1又は2に記載のばね用鋼。
  4. さらにB:0.005%以下(0%を含まない)を含有する請求項1〜3のいずれかに記載のばね用線材の製造方法。
  5. Pが0.02%以下(0%を含まない)、Sが0.02%以下(0%を含まない)、Nが0.007%以下(0%を含まない)、Oが0.0015%以下(0%を含まない)である請求項1〜4のいずれかに記載のばね用鋼。
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