JP2008536497A - 酵母におけるd‐グルコースからのアスコルビン酸の生産 - Google Patents

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Abstract

ここでは、マンノースエピメラーゼにより形質転換された酵母からアスコルビン酸を製造する方法を開示する。別の態様において、酵母は更にミオイノシトールホスファターゼにより形質転換されてもよい。その方法においては、形質転換された酵母がD‐グルコースからL‐アスコルビン酸を生産しうる。形質転換された酵母は、適切な培地において培養された場合に、増加した増殖率、細胞密度、または生存性を有することが観察された。

Description

発明の背景
1.発明の分野
本発明は、一般に、アスコルビン酸生産の分野に関する。更に詳細には、組換え酵母を含めた酵母からのL‐アスコルビン酸の生産方法に関する。
2.関連技術の説明
L‐アスコルビン酸(ビタミンC)は、ヒトにおいて全組織型(all tissue types)の成長および維持に不可欠な、強力な水溶性酸化防止剤である。アスコルビン酸の重要な役割の一つに、結合組織、筋肉、腱、骨、歯、および皮膚の必須細胞成分であるコラーゲンの生産への関与がある。コラーゲンは、血管、挫傷、および骨折の修復にも必要である。アスコルビン酸は血圧の調節に役立ち、コレステロールレベルの低下に寄与し、動脈壁からコレステロール沈着物の除去を助ける。アスコルビン酸は、葉酸の代謝も助け、鉄の取込みを調節し、ノルアドレナリンへのアミノ酸L‐チロシンおよびL‐フェニルアラニンの変換に必要とされる。睡眠、疼痛制御(pain control)、および幸福感に関与する神経ホルモン、セロトニンへのトリプトファンの変換にも、アスコルビン酸の十分な供給を必要とする。
アスコルビン酸の欠乏は、コラーゲンの生産を損ない、関節痛、貧血、神経質、および発育遅延へ至ることがある。他の影響には、免疫応答の低下および感染症をおこしやすくなることがある。アスコルビン酸欠乏症の最も極端な形態は、関節の腫脹、歯肉の出血、および皮膚の表面下において毛細血管の出血により顕在化される症状、すなわち壊血病である。未治療のままだと、壊血病は致命的である。腸はアスコルビン酸を容易に吸収するが、それは摂取から2〜4時間以内で尿へ排出される。したがって、それは体内において貯蔵されない。L‐アスコルビン酸は全ての高等植物とほとんどの高等動物の肝臓または腎臓において生産されるが、ヒト、コウモリ、一部の鳥類、および様々な魚類において生産されない。したがって、ヒトは、最良の健康を維持するために、十分な食物源または補助食品から十分量のアスコルビン酸を入手しなければならない。
アスコルビン酸の食物源には、シトラスフルーツ、ジャガイモ、コショウ、緑葉野菜、トマト、およびベリーがある。アスコルビン酸は、丸剤、錠剤、粉末、ウェハース(wafers)、およびシロップの形態により補助食品としても市販されている。
L‐アスコルビン酸は米国食品医薬品局により栄養補助食品および化学保存剤として使用承認され、一般的に安全と認められた物質のFDAのリストが掲載されている。L‐アスコルビン酸は、ソフトドリンクのフレーバー成分用の酸化防止剤、肉および肉含有製品、保存加工およびピクリング、小麦粉の焼き具合改良、ビールの安定剤、油脂の酸化防止剤、および様々な食品のアスコルビン酸強化用に用いられている。L‐アスコルビン酸は、しみ抜き剤、ヘアケア製品、プラスチック製造、写真撮影、および水処理にも利用法を有しうる。
アスコルビン酸へ至る生合成経路の酵素は、まだ完全には特定されていない。植物における生理学的経路の現時点において判明していることを図1に示す。
二つの別々な経路が植物においてアスコルビン酸合成に関して報告された。一つの経路では、L‐アスコルビン酸はD‐グルコースからL‐ソルボソンを経由して合成される(Loewus M.W.et al.,1990,Plant.Physiol.,94,1492-1495)。現在までの証拠によると、主要な生理学的経路がD‐グルコースからL‐ガラクトースおよびL‐ガラクトノ‐1,4‐ラクトンを経由してL‐アスコルビン酸へ進むことが示されている(Wheeler G.L.et al.,1998,Nature,393,365-369)。最後の二つの工程は、酵素L‐ガラクトースデヒドロゲナーゼおよびL‐ガラクトノ‐1,4‐ラクトンデヒドロゲナーゼにより触媒される。最後の酵素が単離および特徴づけられ、Brassica oleraceaからの遺伝子が複製され、そして配列決定された(Ostergaard J.et al.,1997,J.Biol.Chem.,272,30009-30016)。
栄養補助食品としての用途では、アスコルビン酸は天然源から単離しても、またはReichstein工程のバリエーションの場合のようにL‐ソルボースの酸化により化学的に合成してもよい(米国特許第2,265,121号)。
利便性の高い工程によるアスコルビン酸の生産方法が望まれている。合成は、アスコルビン酸のL‐エナンチオマーのみが生物学的に活性であるため、エナンチオ選択的でなければならない。
一つの可能な方法は、微生物からのL‐アスコルビン酸の生産である。微生物は工業規模で容易に増殖させられる。微生物および真菌からのL‐アスコルビン酸の生産は過去に報告されたが、L‐アスコルビン酸ではなくL‐アスコルビン酸類似体であることが最近の証拠により明らかにされてる(Huh W.K.et al.,1998,Mol.Microbiol.,30,4,895-903、Hancock R.D.et al.,2000,FEMS Microbiol.Let.,186,245-250、Dumbrava V.A.et al.,1987,BBA,926,331-338、Nick J.A.et al.,1986,Plant Science,46,181-187)。酵母(CandidaおよびSaccharomyces種)においては、エリトロアスコルビン酸の生産が報告された(Huh W.K.et al.,1994,Eur.J.Biochem.,225,1073-1079、Huh W.K.et al.,1998,Mol.Microbiol.,30,4,895-903)。このような酵母においては、D‐グルコースからD‐アラビノースおよびD‐アラビノノ‐1,4‐ラクトンを経由してエリトロアスコルビン酸へと進行する生理学的経路が提案された(Kim S.T.et al.,1996,BBA,1297,1-8)。Candida albicansおよびS.cerevisiaeからの酵素D‐アラビノースデヒドロゲナーゼおよびD‐アラビノノ‐1,4‐ラクトンオキシダーゼの特性が明らかにされた。興味深いことに、L‐ガラクトースおよびL‐ガラクトノ‐1,4‐ラクトンが、インビトロにおけるこれらの活性に対する基質である。
L‐アスコルビン酸のインビボにおける生産は、野生型Candida細胞へL‐ガラクトノ‐1,4‐ラクトンを供給することにより得られた(国際特許出願WO85/01745号)。最近、L‐ガラクトース、L‐ガラクトノ‐1,4‐ラクトン、またはL‐グロノ‐1,4‐ラクトンとともに培養された場合に、野生型S.cerevisiae細胞がL‐アスコルビン酸を細胞内に蓄積することが示された(Hancock et al.,2000,FEMS Microbiol.Lett.,186,245-250、Spickett C.M.et al.,2000,Free Rad.Biol.Med.,28,183-192)。
L‐ガラクトノ‐1,4‐ラクトンとともに培養された野生型Candida細胞は培地にL‐アスコルビン酸を蓄積し、この酵母が細胞内蓄積L‐アスコルビン酸の放出のための生物学的メカニズムを有することを示す、すなわち実際には、L‐アスコルビン酸は複雑な分子であり、培地中においてその蓄積が単純な拡散過程によるものではなく、促進または能動輸送に依存しているに違いない、と考えるのが合理的であろう。この結論は高等真核生物(哺乳動物)細胞においてL‐アスコルビン酸トランスポーターの特定および特徴づけにより支持される(Daruwala R.et al.,1999,FEBS Letters,460,480-484)。しかしながら、L‐アスコルビン酸トランスポーターは酵母属の中においてはこれまで記載されたことがない。それにもかかわらず、L‐ガラクトノ‐1,4‐ラクトンを含有した培地において増殖するCandida細胞は培地にL‐アスコルビン酸を蓄積するが、野生型S.cerevisiae細胞からのL‐アスコルビン酸の培地中における蓄積は意外にもこれまで記載されたことがない。
アスコルビン酸の大量生産に関する望ましい方法は、遺伝子工学により処理された微生物(すなわち、組換え微生物)の使用である。原核および真核微生物は双方とも、今日では異種タンパク質の生産と異種代謝産物の生産により、容易にかつ成功して用いられている。原核生物の中では、Escherichia coliおよびBacillus subtillisが頻繁に用いられている。真核生物においては、酵母S.cerevisiaeおよびKluyveromyces lactisが頻繁に用いられる。
Ostergaardらは、酵母S.cerevisiaeにおいてカリフラワーのL‐ガラクトノ‐1,4‐ラクトンデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子の複製を作成した(J.Biol.Chem.,1997,272,48,30009-30016)。インビトロにおいて、著者らは酵母細胞抽出物においてL‐ガラクトノ‐1,4‐ラクトンデヒドロゲナーゼ活性を見出したが(シトクロムcアッセイ、Ostergaardら参照)、L‐アスコルビン酸の生産はインビボにおいて証明されなかった。
Berryらの国際特許出願WO99/64618号はアスコルビン酸の植物生合成経路の使用可能性について論じている、GDP‐L‐ガラクトースへのGDP‐D‐マンノースの変換を触媒する活性について特別な注目が払われている。しかしながら、この工程を触媒する酵素の特徴は詳細には掲載されていなかった。過剰発現されたE.coliホモログは不活性であることが判明した。
SmirnoffらのWO99/33995号はアスコルビン酸の生産に際するL‐ガラクトースデヒドロゲナーゼの使用について論じている。前記酵素はエンドウ苗木から精製され、N末端タンパク質配列が決定された。
Rolandらの米国特許第4,595,659号および第4,916,068号は、L‐ガラクトン酸基質をL‐アスコルビン酸へ変換する上で、非組換えCandida株の使用について論じている。Rolandらは、L‐ガラクトノ‐1,4‐ラクトンオキシダーゼとしての能力を有する酵素を記載していた。
KumarらのWO00/34502号は生産に際する唯一の炭素源として2‐ケト‐L‐グロン酸を用いうるCandida blankiiおよびCryptococcus dimennae酵母におけるL‐アスコルビン酸の生産について論じている。Kumarは、L‐ガラクトノラクトンオキシダーゼを伴う経路による、またはL‐ガラクトン酸前駆体の変換による酵母からの生産を特に除外している。
以前、我々は、特にL‐ガラクトースデヒドロゲナーゼ(LGDH)、D‐アラビノノ‐1,4‐ラクトンオキシダーゼ(ALO)、または双方において形質転換され、L‐ガラクトノ‐1,4‐ラクトン、L‐グロノ‐1,4‐ラクトン、またはL‐ガラクトースのうち1種以上を含有した培地において増殖されたS.cerevisiaeによる、L‐アスコルビン酸の生産について報告した(米国特許第6,630,330号)。
利便性の高い発酵工程によるアスコルビン酸の生産方法が望まれている。D‐グルコースから出発するL‐アスコルビン酸の生産方法も望まれるであろう。
発明の概要
一つの態様において、本発明は、L‐アスコルビン酸の製造方法であって、
a)マンノースエピメラーゼ(ME)をコードするコード領域において機能的に形質転換された組換え酵母を得て、
b)D‐グルコースを含む培地において前記組換え酵母を培養し、それによりL‐アスコルビン酸を形成させ、そして
c)L‐アスコルビン酸を単離すること
を含んでなることを特徴とする、製造方法に関する。
他の態様において、本発明はマンノースエピメラーゼ(ME)をコードするコード領域において機能的に形質転換された組換え酵母に関する。前記方法および組換え酵母の別の態様において、酵母はミオイノシトールホスファターゼ(MIP)をコードするコード領域において更に機能的に形質転換させてもよい。本発明は、利便性の高い発酵工程によるD‐グルコースからL‐アスコルビン酸への製造方法を提供する。
発明の具体的説明
一つの態様において、本発明は、L‐アスコルビン酸の製造方法であって、
a)マンノースエピメラーゼ(ME)をコードするコード領域において機能的に形質転換された組換え酵母を得て、
b)D‐グルコースを含む培地において前記組換え酵母を培養し、それによりL‐アスコルビン酸を形成させ、そして
c)L‐アスコルビン酸を単離すること
を含んでなることを特徴とする、製造方法に関する。
“組換え”酵母とは、酵母に天然において存在しない核酸配列または内在核酸配列の追加コピーを含有した酵母であり、前記核酸配列は酵母またはその祖先細胞へ人為的に導入される。組換えDNA技術、例えばSambrook et al.,Molecular Genetics:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Pressは周知であり、そこでは当業界において公知である、ここで記載された様々な技術に関する情報を更に提供する。この態様においては、同種および/または異種遺伝子のコード領域が、前記遺伝子を保有した生物から単離される。前記生物としては細菌、原核生物、真核生物、微生物、真菌、植物、または動物がある。
コード領域を含む遺伝物質はいかなる公知技術により生物の細胞から抽出してもよい。その後で、コード領域がいずれか適切な技術により単離される。一つの公知技術においては、最初にゲノムDNAライブラリーまたはcDNAライブラリーを作製し、次いでゲノムDNAライブラリーまたはcDNAライブラリーによりコード領域を特定し、例えば前記コード領域と少なくとも部分的に相同的であるように選択された、またはそうであると思われる標識ヌクレオチドプローブにより前記ライブラリーを探査し、コード領域の発現が前記コード領域を含むライブラリー微生物へ検出可能な表現型を付与するか否かを調べるか、またはPCRにより望ましい配列を増幅させることにより、前記コード領域が単離される。
形質転換される酵母は、いかなる公知の属または種の酵母から選択してもよい。酵母はN.J.W.Kreger-van Rij,”The Yeasts”,Vol.1 of Biology of Yeasts,Ch.2,A.H.Rose and J.S.Harrison,Eds.Academic Press,London,1987において記載されている。一つの態様においては、酵母属として特にSaccharomyces、Zygosaccharomyces、Candida、Hansenula、Kluyveromyces、Debaromyces、Nadsonia、Lipomyces、Torulopsis、Kloeckera、Pichia、Schizosaccharomyces、Trigonopsis、Brettanomyces、Cryptococcus、Trichosporon、Aureobasidium、Lipomyces、Phaffia、Rhodotorula、Yarrowia、またはSchwanniomycesがある。別の態様においては、酵母としてSaccharomyces、Zygosaccharomyces、またはKluyveromyces種がある。更に別の態様においては、酵母としてS.cerevisiae、Z.bailii、またはK.lactisがある。更に別の態様において、酵母は、S.cerevisiae株GRF18U、W3031B、BY4742(MATα、his3、leu2、lys2、ura3,EuroScarf受理No.Y10000)またはYML007w(BY4742 ΔYap1)(MATα、his3、leu2、lys2、ura3,Yap1 EuroScarf受理No.Y10569)、Z.bailii ATCC60483、またはK.lactis PM6‐7Aである。
組換え酵母は、マンノースエピメラーゼ(D‐マンノース:L‐ガラクトースエピメラーゼ、ME)をコードするコード領域において機能的に形質転換される。MEは、いかなるGDP‐マンノース‐3,5‐エピメラーゼ(5.1.3.18)でもよく、これはGDP‐L‐ガラクトースへのGDP‐マンノースの変換を触媒する酵素を意味する。例示のMEが配列番号1として記載される。
一つの態様において、MEは配列番号1と少なくとも約95%の同一性を有するものである。別の態様において、MEは配列番号1と少なくとも約98%の同一性を有するものである。“同一性”はClustalWプログラムとそのデフォルト値、すなわち:DNAギャップ・オープン・ペナルティ=15.0、DNAギャップ・エキステンション・ペナルティ=6.66、DNAマトリックス=同一性、タンパク質ギャップ・オープン・ペナルティ=10.0、タンパク質ギャップ・エキステンション・ペナルティ=0.2、タンパク質マトリックス=Gonnetを用いて行われる配列アライメントにより求められる。同一性は、ClustalW文書において記載された手順に従い計算される、すなわち“並べられる配列の全ペアについてペア方式スコアが計算される。これらのスコアの結果について表に掲載される。ペア方式スコアは、比較される残基の数で割った最良アライメント中、同一物の数として計算される(ギャップ位置は除外される)。これらスコアの双方が同一性スコア率として最初に計算され、部位当たりの相違数を求めるために100で割り1.0から引くことにより距離へ変換される。我々はこれらの初期距離で多置換については補正しない。選択されるマトリックスおよびギャップとは無関係にペア方式スコアが計算されると、それは配列の特定ペアについて常に同じ値となる。”
更に別の態様において、MEは配列番号1を有している。
一つの態様において、組換え酵母はミオイノシトールホスファターゼ(MIP)をコードするコード領域において更に機能的に形質転換される。MIPはいかなるミオイノシトールホスファターゼ(3.1.3.25)でもよく、これはL‐ガラクトースへのL‐ガラクトース‐1Pの変換を触媒する酵素を意味する。例えば、酵素L‐ガラクトース‐1‐ホスファターゼもL‐ガラクトースへのL‐ガラクトース‐1Pの変換を触媒し、この定義によるとMIPである。一つの態様において、MIPは配列番号2として記載された配列を有する。
一つの態様において、MIPは配列番号2と少なくとも約95%の同一性を有する。別の態様において、MIPは配列番号2と少なくとも約98%の同一性を有する。更に別の態様において、MIPは、配列番号2を有する。
一つの態様において、組換え酵母はL‐ガラクトースデヒドロゲナーゼ(LGDH)、L‐ガラクトノ‐1,4‐ラクトンデヒドロゲナーゼ(AGD)、D‐アラビノースデヒドロゲナーゼ(ARA)、D‐アラビノノ‐1,4‐ラクトンオキシダーゼ(ALO)、またはL‐グロノ‐1,4‐ラクトンオキシダーゼ(GLO)から選択される酵素をコードするコード領域において更に形質転換される。
本発明は、植物、酵母、または他の生物においてL‐アスコルビン酸中間体またはL‐アスコルビン酸の生産に関して知られた経路の酵素に限定されない。
他の態様において、本発明は、ストレス抵抗性または頑強性(robust)である、MEまたはMEおよびMIP双方において形質転換された微生物に関する。更に他の態様において、微生物はLGDH、ALO、MEまたはLGDH、ALO、ME、およびMIPにより形質転換してもよい。微生物はいかなる微生物でもよく、例えば細菌、酵母、または他の真菌(例えば糸状菌)、培養動物細胞または培養植物細胞である。一つの態様において、微生物は酵母である。
ストレスにより微生物(酵母)バイオプロセスの摂動(perturbation)へ至ることがある、と通常認められている。ストレスは、細胞(内部または細胞内)源、環境(外部または細胞外)源、または双方である。内部源ストレスの古典的な例としては、特に、タンパク質および代謝産物過剰生産高(重量/容量で)と、タンパク質および代謝産物過剰生産力(単位時間当たりの重量/容量で)とがある。
外部源ストレスの例としては、特に、高浸透性、高塩分、酸化ストレス、高または低温、高または低pH値、有機酸の存在、毒性化合物の存在、ならびに大および小栄養欠乏がある。
ストレスは、典型的にはストレス要因(または刺激)により引き起こされる。ストレス要因は、平衡を維持するために、ストレス要因の非存在下において要する以上の努力を細胞に求めさせる、細胞に及ぼす負の影響である。このより大きな努力は、特により高いまたは低い代謝活性、より低い成長率、より低い生存力、またはより低い生産力へつながりうる。ストレス要因は、所定生命体の通常の細胞内または細胞外条件において変化を表わす、物理的、化学的、または生物学的性質の要因である。すなわち、特定の条件(例えば、65℃の温度)は通常37℃において生きる、ある種類のものにとってストレスである(または致命的ですらある)が、それは好熱性生物には最適であろう。
供給源にかかわらず、特に、より高いまたは低い代謝活性、より低い成長率、より低い生存力、またはより低い生産力を含めて、ストレスは異なる効果を有しうる。細胞または分子レベルの効果としては、特に、DNAへの損傷、脂質への損傷、タンパク質への損傷、膜への損傷、他の分子および高分子への損傷、活性細胞種(ROS)の生成、アポトーシス(計画的細胞死)の誘導、細胞壊死、細胞溶解、細胞統合性(cell integrity)の障害、および細胞生存力の障害がある。
ROSは、細胞内および細胞外双方の刺激により生じうる。内在ROSの大部分はミトコンドリア電子伝達連鎖からこれら種類の漏出により生じる。加えて、NADPHオキシダーゼを含めたサイトゾル酵素系とペルオキシソーム代謝の副産物もROSの内在源である。ROSの発生は、電離線(IR)、UV光、化学療法剤、環境毒素、ならびに高熱を含めた多くの外部要因および事象への暴露によっても生じうる。細胞内ROSに起因する酸化的損傷は、DNA塩基修飾、一本および二本鎖断裂、ならびにアプリン酸/アピリミジン酸障害の形成を招くことがあり、その多くは毒性および/または変異原性である。したがって、生じるDNA損傷は有害な生物学的影響を及ぼす直接的原因でもある(Tiffany,B.et al.,Nucleic Acids Research,2004,Vol.32,No.12,3712-3723)。
生物が生産のための手段として用いられる工業的工程において、生物に加わるストレスは典型的には産物の低またはゼロ生産高、低またはゼロ生産力、産物の低またはゼロ収率、またはそれらの2以上につながる。したがって、ストレスは非常に望ましくない現象であり、それを最少化させる技術が有用となるであろう。
この態様に関して用いられている“生産”とは、微生物により1種以上の産物を製造させる工程を意味する(微生物自体が産物でも、あるいは微生物の代謝工程において生成または修飾された化合物、例えばタンパク質、有機酸、ビタミン、または抗生物質が産物でもよい)。微生物の増殖および生存が維持される培地の重量または容量、あるいは微生物のバイオマスの重量または容量当たりで生産される産物の重量を調べることにより、生産高は工程の開始後いつでも定量しうる。“生産力”とは、所定の時間にわたり、上記のように定量される、生産の量(例えば、g/L/hr、mg/L/週、またはg/バイオマスのg/hrのような割合)を意味する。“収率”とは、産物へ変換される基質の量当たりの生産された産物の量を意味する。ここで用いられている、株のストレス許容性、ストレス抵抗性、または構造安定性(robustness)とは、微生物が生産工程において高い工業性能を示す意味である。これは次の一つとして顕在化するであろう、すなわちストレスを相殺しうる高い能力、生物または生産力に及ぼすストレスの負の影響の減少、増殖率の増加または細胞密度の増加、生産力の抑制の減少、細胞死の減少(生存力の増加)、増殖阻止の減少、ストレス条件による細胞不活性化の防止である。我々は、MEまたはMEおよびMIP双方において形質転換された酵母がMEまたはMEおよびMIP双方において形質転換されなかった酵母より大きなストレス抵抗性または構造安定性を有することを観察した。この抵抗性は多くのストレス要因に対抗しうる。この大きなストレス抵抗性は、培養においてMEまたはME+MIPを発現する微生物のより速い増殖率、培養においてMEまたはME+MIPを発現する微生物の高い細胞密度、培養においてMEまたはME+MIPを発現する微生物の高い生存性、あるいは培養においてMEまたはME+MIPを発現する微生物の高い生産高のうちの1以上として顕在化しうる。細胞生存性の尺度は(典型的には、細胞の総数に対する生存細胞の割合として与えられる)生存力である。生存力は、適切な寒天プレートにおいてコロニーを形成しうる、既知の細胞の能力(再現性能力)として決定される。細胞は更に、それらが代謝活性を示すか、またはそれらの細胞膜が無傷であれば、生存可能とみなすことができる。別の微生物群も生存可能と記せるであろうが、あるものから他への直接的結論は不可能であることが、理解されねばならない。例えば、なお代謝的に活性な細胞であっても、もはや再現性(コロニー形成性)でないかもしれない。結果的に、培養物の生存力を調べると異なる結果を示すことがある、異なる方法も適用しうる。典型的な方法においては、コロニー形成単位の数を調べるために寒天プレート上において培養し、トリパンブルーにより染色し、顕微鏡下において計数するが、そこでは死んだ細胞が青色に変わり、生きた細胞が無傷な膜のために無色のままである。他の方法としてフローサイトメトリーがあり、そこでは細胞が特にヨウ化プロピジウム(無傷な膜は侵入を阻止する)、臭化エチジウム(代謝活性細胞は染色を許さない)を含めた異なる化合物により染色される。
以下の理論に拘束されるわけではないが、酸化ストレスに大きな抵抗性を示す微生物においては、記載された態様により得られるような大きなストレス抵抗性が酸化防止剤レベル(特に、L‐アスコルビン酸)の増加から生じている、と我々は提唱している。この大きなストレス抵抗性が、そのままのまたは追加のコード領域において形質転換された、MEまたはME+MIPを発現する微生物を、特に工業的な発酵により代謝産物の生産に適したものにしている、と我々は考えている。
他の態様においては、発酵に際して酵母のような微生物により生産される産物の生産高、生産力、または収率が、マンノースエピメラーゼ(ME)をコードするコード領域において微生物を機能的に形質転換することにより高められる。更に他の態様では、発酵に際し、代謝活性または膜完全性として、コロニーを形成しうる能力として規定されるような、酵母のような微生物の生存力が、マンノースエピメラーゼ(ME)をコードするコード領域において微生物を機能的に形質転換することにより高められる。
要約すると、微生物生産工程に際して典型的に出会うストレスの負の効果は、本発明により減少または消滅させうるのである。すなわち、微生物の生産高、生産力、収率、または生存力は、上記酵素の発現を介した微生物のL‐アスコルビン酸含有率の確立または増加により高められる。
したがって、微生物が浸透ストレスの条件下において培養されるならば、微生物においてME、またはMEと次の酵素、すなわちMIP、ALO、またはLGDHの1種以上とを発現させることが特に有用である。浸透ストレスとは、250ミリオスモル以上、特に500ミリオスモル以上、または750ミリオスモル以上で、各微生物において規定される至適オスモル濃度から離れたオスモル濃度の違いに微生物が出会う条件のことである。酵母S.cerevisiaeの場合、オスモル濃度で500ミリオスモル以上、750ミリオスモル以上、または1000ミリオスモル以上の条件はストレス性である。
更に、微生物がpHストレスの条件下において培養されるならば、微生物においてME、またはMEと次の酵素、すなわちMIP、ALO、またはLGDHの1種以上とを発現させることが特に有用である。pHストレスとは、1より、2より、または3より大きなpH単位により、各微生物の生産に際して至適pH値から離れたpH値の違いに微生物が出会う条件のことである。酵母S.cerevisiaeの場合、バイオプロセスの実施における典型的な至適pHは5である。4未満のpH、3未満のpH、2未満のpH、6より大きなpH、7より大きなpH、または8より大きなpHはストレス性であり、本発明の関係では、このようなpH条件下において生産宿主として用いられるならば、記載された遺伝子をS.cerevisiaeのような酵母において発現させることが有用であるらしい。
微生物が温度ストレスの条件下において培養される場合にも、微生物でME、またはMEと次の酵素、すなわちMIP、ALO、またはLGDHの1種以上とを発現させることが特に有用である。温度ストレスとは、2℃以上、5℃以上、または更には10℃以上において、各微生物の増殖または生産に際して至適温度値とは異なる培養温度に微生物が出会う条件のことである。酵母S.cerevisiaeの場合、32℃以上、35℃以上、または40℃以上の温度がストレス性である。細菌E.coliの場合、38℃以上、41℃以上、または46℃以上の温度がストレス性である。
更に、微生物が酸化ストレスの条件下において培養されるならば、微生物においてMEまたはMEと次の酵素、すなわちMIP、ALO、またはLGDHの1種以上とを発現させることが特に有用である。酸化ストレスとは、活性細胞種(ROS)に起因した、細胞中における酸化損傷の定常状態レベルを表わすために用いられる一般用語である。この損傷は特定の分子または生物全体に影響を与えうる。遊離基および過酸化物のような活性細胞種とは、酸素の代謝から誘導されて、全ての好気性生物において生来的に存在する分子の種類を表わす。酸化ストレスは酸化促進剤の形成と中和との不均衡から生じる。動物細胞は、他の例の中でも、標準培養条件に際して非常に大きな酸化ストレスへ曝されうる。したがって、動物細胞においてMEまたはMEと次の酵素、すなわちMIP、ALO、またはLGDHの1種以上とを発現させることが特に有用であろう。
培養微生物が代謝産物またはタンパク質の過剰生産によりストレスに曝される場合も、微生物においてMEまたはMEと次の酵素、すなわちMIP、ALO、またはLGDHの1種以上とを発現させることが特に有用である。このようなストレス条件の徴候は、当業界において知られているように、UPR(未折畳みタンパク質応答)と関連した遺伝子の上方調節であろう。
ME、MIP、または他の酵素をコードするコード領域は、いかなる供給源から単離してもよい。一つの態様において、MEのコード領域はArabidopsis thalianaから単離される。一つの態様において、MIPのコード領域はA.thalianaから単離される。コード領域が生物の細胞から精製されたタンパク質の場合と実質的に同一のタンパク質配列をコードしていれば、前記コード領域は生物から“単離”されている、と言える。例えば、上記の具体的態様において、MEコード領域またはMIPコード領域は、必ずしもA.thalianaの核酸から単離し、またはA.thalianaから抽出された核酸の複製の1回以上の実施により生産しなくてよい。
好ましくは、望ましい酵素をコードするコード領域は、望ましい酵素が酵母において生産されて実質的に機能性であるように、酵母へ組み込まれる。このような酵母はここでは“機能的に形質転換された”と称されてもよい。
コード領域が生物の核酸から抽出されるかまたは化学的手段により合成されると、それは酵母への形質転換とそこでの発現のために調製される。最小限でも、これにはベクターへのコード領域の挿入と、ベクターでみられて酵母中において活性なプロモーターへの作動的結合を伴う。いかなるベクター(組込み、染色体性、またはエピソーム性)も用いうる。
標的宿主において活性なプロモーター(同種または異種(構成性、誘導性、または抑制性))も用いうる。このような挿入には、プロモーターへの作動的結合が可能な望ましい箇所においてベクターを“開く”制限エンドヌクレアーゼの使用と、それに次ぐ望ましい箇所へのコード領域の結合を伴う。所望であれば、ベクターへの挿入前に、コード領域は標的生物において使用向けに調製してもよい。これには、当業界において知られた他の可能な調製法の中でも、標的生物のコドン使用とより完全に合うようにコード領域において用いられるコドンを変えること、コード領域の転写もしくは翻訳またはコード領域のmRNA転写物の安定性を損ないうるコード領域中の配列を変えること、あるいはシグナリングペプチド(タンパク質を特定位置(例えば、オルガネラ、細胞もしくはオルガネラの膜、または細胞外分泌)へ導くコード領域によりコードされたタンパク質の領域)をコードする部分を付加または除去することを含む。
コード領域が修飾されるか否かにかかわらず、コード領域がベクターへ挿入される場合、それは酵母において活性なプロモーターへ作動的に結合される。プロモーターとは、公知のように、隣接コード領域の転写を導くDNA配列のことである。既に記載されているように、プロモーターは、構成性、誘導性、または抑制性でもよい。構成性プロモーターは隣接コード領域の転写を連続的に導く。誘導性プロモーターは、プロモーターの同一性(identity)により定まる、適切なインデューサー分子の媒体への付加により誘導されうる。抑制性プロモーターは、プロモーターの同一性により決定される、適切なリプレッサー分子の媒体への付加により抑制されうる。一つの態様において、プロモーターは構成性である。別の態様において、構成性プロモーターはS.cerevisiaeトリオースリン酸イソメラーゼ(TPI)プロモーターである。
コード領域をプロモーターへ作動的に結合させるベクターは、酵母において使用に適すると当業界において知られているものの中でも、プラスミド、コスミド、または酵母人工染色体である。プロモーターへ作動的に結合されたコード領域に加えて、ベクターは他の遺伝要素も含んでよい。例えば、酵母ゲノムへ組み込むことがベクターに不要であれば、ベクターを含む酵母の子孫細胞へベクターを継代させうる複製起点をベクターに含ませてもよい。酵母ゲノムへのベクターの組込みが必要であれば、ベクターは酵母ゲノムにおいてみられる配列と相同的な配列を含み、組み込みを促進しうるコード領域も含みうる。どの酵母細胞が形質転換されたか否かを決定するために、例えばそれが未形質転換酵母に致命的な抗生物質を含んだ培地で生存するか、またはそれが他の表現型の中でも未形質転換酵母がもたない産物へ培地の成分を代謝するように、それを未形質転換酵母から区別する表現型を酵母へ付与する選択マーカーまたはスクリーンマーカーをベクターが含んでもよい。加えて、ベクターは、例えば制限エンドヌクレアーゼ部位およびベクターにおいて典型的に見られるその他のものなど、他の遺伝的要素を含んでもよい。
コード領域がプロモーターへ作動的に結合されてベクターが調製された後、酵母は前記ベクターにより形質転換される(すなわち、ベクターが酵母群の細胞の少なくとも一つへ導入される)。酵母形質転換の技術は確立されており、特にエレクトロポレーション、マイクロプロジェクタイル・ボンバードメント、およびLiAc/ssDNA/PEG法がある。次いで、形質転換された酵母細胞は、ベクターによるスクリーンまたは選択マーカーの使用により調べられる。“形質転換された酵母”という語句は、前記のような“組換え酵母”と本質的に同様の意味を有していることに留意すべきである。形質転換酵母とは、形質転換技術によりベクターを受け取ったもの、またはこのような酵母の子孫である。
組換え酵母が得られた後、酵母は培地において培養される。酵母が培養される培地は、この目的に適することが当業界において公知のいかなる培地でもよい。培養技術および培地は当業界において周知である。一つの態様において、培養は適切な容器により水性発酵(aqueous fermentation)により行われる。酵母発酵用の典型的容器の例として振盪フラスコまたはバイオリアクター(bioreactor)がある。培地はD‐グルコースを含有しうる。それは酵母の増殖に必要な他の成分を更に含有しうる。D‐グルコースは、酵母の増殖に必要な成分であるが、なくてもよい。
培地は、D‐グルコース以外の炭素源、例えば特にスクロース、フルクトース、ラクトース、D‐ガラクトース、または植物質の加水分解産物を含有しうる。一つの態様において、培地は有機または無機分子として窒素源も含有しうる。別の態様において、培地は、特に、アミノ酸類、プリン類、ピリミジン類、コーンスティープリカー(corn steep liquor)、酵母エキス、タンパク質加水分解産物、水溶性ビタミン(例えば、ビタミンB複合体)、または無機塩(例えば、Ca、Mg、Na、K、Fe、Ni、Co、Cu、Mn、Mo、またはZnの塩化物、塩酸塩、リン酸塩または硫酸塩)のような成分も含有しうる。酵母の培養または発酵において有用である当業者に公知の別の成分も含有させてよい。培地は緩衝化させてもよいが、させなくともよい。
発酵の過程において、D‐グルコースは酵母に取り込まれ、多くの工程を経てL‐アスコルビン酸へ変換される。こうして生産されたL‐アスコルビン酸は酵母内に集められるか、または酵母により培地中へ分泌される。
好ましい培地は、D‐グルコースおよびYNBを含む。
酵母、培地、または双方において望ましい濃度のL‐アスコルビン酸を生産するために十分な時間にわたり培養が進行した後、L‐アスコルビン酸が単離される。ここで用いられている“単離される”とは、酵母または培地の少なくとも1種の非L‐アスコルビン酸成分からのL‐アスコルビン酸の分離により、より高純度の状態とされることを意味する。好ましくは、単離されたL‐アスコルビン酸は少なくとも約95%の純度、更に好ましくは少なくとも約99%の純度である。
酵母からL‐アスコルビン酸を単離するために、単離の第一工程は、酵母が培地から分離された後で、化学処理もしくは酵素処理、ガラスビーズ処理、音波処理、凍結/解凍サイクリング、または公知の他の技術による酵母の溶解である。L‐アスコルビン酸は、特に、遠心、濾過、マイクロ濾過、限外濾過、ナノ濾過、液体‐液体抽出、結晶化、ヌクレアーゼもしくはプロテアーゼによる酵素処理、またはクロマトグラフィーのような適切な技術により、酵母溶解物の膜、タンパク質、および核酸フラクションから精製される。
培地に蓄積されたL‐アスコルビン酸を単離するために、単離に際して培地からアスコルビン酸を精製してもよい。精製は、特にイオン交換樹脂、活性炭、マイクロ濾過、限外濾過、ナノ濾過、液体‐液体抽出、結晶化、またはクロマトグラフィーの使用のような公知技術により行える。
L‐アスコルビン酸は、酵母および培地の双方から単離しうる。
酵母が培養工程に際して培地にL‐アスコルビン酸を蓄積するならば、好ましくはL‐アスコルビン酸の濃度は一定にされるかまたは増加する。
本発明の詳細な説明を理解する上で当業者の一助となるように次の定義を示す。
“バックグラウンドレベル以上のアスコルビン酸の蓄積”という用語は、ここで記載された操作を用いて調べた場合に、未検出レベル以上のアスコルビン酸の蓄積に関する。
ここで用いられている“アスコルビン酸”および“アスコルビン酸塩”とはL‐アスコルビン酸に関する。
“アスコルビン酸前駆体”とは、本発明の酵母により直接または1種以上の中間体を経てL‐アスコルビン酸へ変換されうる化合物のことである。
“増幅”とは、どのような手段であろうと、望まれる核酸分子のコピー数を増加させること、または酵素の活性を高めることに関する。
“コドン”とは、具体的なアミノ酸を特定するヌクレオチド3個の配列に関する。
“DNAリガーゼ”とは、二つの二本鎖DNAを共有結合させる酵素に関する。
“エレクトロポレーション”とは、宿主細胞の透過性を高めてそれらに染色体外DNAを取り込ませるために短時間の高電圧DCの電荷を用いる、外来DNAを細胞へ導入する方法に関する。
“エンドヌクレアーゼ”とは、内部位置(internal locations)において二本鎖DNAを加水分解する酵素に関する。
酵素1.1.3.37、D‐アラビノノ‐1,4‐ラクトンオキシダーゼとは、D‐エリトロアスコルビン酸+HへのD‐アラビノノ‐1,4‐ラクトン+Oの変換を触媒するタンパク質に関する。同酵素は、基質範囲の広さにより、L‐アスコルビン酸+HへのL‐ガラクトノ‐1,4‐ラクトン+Oの変換も触媒する。誤って、同酵素はL‐ガラクトノ‐1,4‐ラクトンオキシダーゼ(酵素1.1.3.24)と称されている(Huh,W.K.et al.,1998,Mol.Microbiol.,30,4,895-903参照)。酵素1.3.2.3、L‐ガラクトノ‐1,4‐ラクトンデヒドロゲナーゼは、L‐アスコルビン酸+2フェロシトクロムCへのL‐ガラクトノ‐1,4‐ラクトン+2フェリシトクロムCの変換を触媒するタンパク質に関する。
酵素1.1.3.8、L‐グロノ‐1,4‐ラクトンオキシダーゼは、L‐アスコルビン酸へ自然に異性化するL‐キシロ‐ヘキスロノラクトンへのL‐グロノ‐1,4‐ラクトンの酸化を触媒するタンパク質に関する。
酵素GDP‐マンノース‐3,5‐エピメラーゼ(5.1.3.18)は、GDP‐L‐ガラクトースへのGDP‐マンノースの変換を触媒するタンパク質に関する。
酵素ミオイノシトールホスファターゼ(3.1.3.23)は、L‐ガラクトースへのL‐ガラクトース‐1Pの変換を触媒するタンパク質に関する。
関係のある他の酵素およびそれらの分類番号は次の通りである:
ヘキソキナーゼ 2.7.1.1
グルコース‐6‐Pイソメラーゼ 5.3.1.9
マンノース‐6‐Pイソメラーゼ 5.3.1.8
ホスホマンノムターゼ 5.4.2.8
マンノース‐1‐Pグアニリルトランスフェラーゼ 2.7.7.22
GDP‐マンノース 3,5‐エピメラーゼ 5.1.3.18
糖ホスファターゼ 3.1.3.23
L‐ガラクトース‐デヒドロゲナーゼ
L‐ガラクトノ‐1,4‐ラクトンデヒドロゲナーゼ 1.3.2.3
D‐マンノースキナーゼ 2.7.1.1
ホスホグルコムターゼ 5.4.2.2
UTP‐グルコース‐1‐Pウリジリルトランスフェラーゼ 2.7.7.9
UDP‐D‐グルコースデヒドロゲナーゼ 1.1.1.22
UDP‐グルクロン酸 4‐エピメラーゼ 5.1.3.6
グルクロン酸‐1‐Pウリジリルトランスフェラーゼ 2.7.7.44
D‐グルクロノキナーゼ 2.7.1.43
D‐グルクロン酸レダクターゼ 1.1.1.19
アルドノラクトナーゼ 3.1.1.17
L‐グロノ‐1,4‐ラクトンオキシダーゼ 1.1.3.8
ウロノラクトナーゼ 3.1.1.19
グルクロノラクトンレダクターゼ活性 1.1.1.20
L‐ガラクトノ‐1,4‐ラクトン 3‐エピメラーゼ
ガラクツロン酸‐1‐Pウリジリルトランスフェラーゼ
ガラクツロノキナーゼ 2.7.1.44
ヘキスロン酸(D‐ガラクツロン酸)レダクターゼ
ミオイノシトール 1‐Pシンターゼ 5.5.1.4.
ミオイノシトール 1‐Pモノホスファターゼ 3.1.3.25
ミオイノシトールオキシゲナーゼ 1.13.99.1
D‐ガラクトキナーゼ 2.7.1.6
UTP‐ヘキソース 1‐Pウリジリルトランスフェラーゼ 2.7.7.10
UDP‐グルコース 4‐エピメラーゼ 5.1.3.2
Sucシンターゼ 2.4.1.13
フルクトキナーゼ 2.7.1.4
)分類番号がデータベースに入力されていない
“発現”という用語は、対応mRNAを生じる遺伝子の転写と、対応遺伝子産物、すなわちペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質を生じるこのmRNAの翻訳に関する。
“機能的に結合された”または“作動的に結合された”という語句は、コードまたは構造配列の転写がプロモーターまたはプロモーター領域により導かれるような配向および距離にある、プロモーターまたはプロモーター領域とコードまたは構造配列とに関する。
“遺伝子”という用語は、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質をコードする染色体DNA、プラスミドDNA、cDNA、合成DNAもしくは他のDNA、またはRNA分子と、発現の調節に関与するコード配列に隣接する領域とに関する。
“ゲノム”という用語は、宿主細胞内の染色体およびプラスミド双方を包含する。したがって、宿主細胞へ導入された本発明のコードDNAは染色体へ組み込まれても、またはプラスミドに局在してもよい。
“異種DNA”とは、レシピエント細胞のものとは異なる供給源からのDNAに関する。
“同種DNA”とは、レシピエント細胞のものと同じ供給源からのDNAに関する。
“ハイブリッド形成”とは、塩基対合により相補鎖と結合しうる核酸の鎖の能力に関する。ハイブリッド形成は、二つの核酸鎖の相補的配列が互いに結合した場合に生じる。
“培地”という用語は、酵母または組換え酵母の増殖に必要な諸成分とアスコルビン酸の生産用の1種以上の前駆体とを含んでなる、酵母の化学的環境に関する。酵母の増殖用の諸成分とアスコルビン酸の生産用の前駆体とは同一でもまたはそうでなくてもよい。
“読取り枠(ORF)”とは、ペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質をコードするDNAまたはRNAの領域に関する。
“プラスミド”とは、環状で、染色体外の、DNAの複製可能な部分(piece)に関する。
“ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)”とは、核酸のある配列の多数のコピーを作成する酵素技術に関する。DNA配列のコピーは、2アンプリマー間においてDNAポリメラーゼを往復させることにより製造される。この増幅法の基礎は、アンプリマーを変性させてから再アニールさせる温度変化と、それに次ぐ隣接アンプリマー間に位置する領域において新たなDNA鎖を合成する伸長との多数サイクルである。
“プロモーター”または“プロモーター領域”という用語は、RNAポリメラーゼの認識部位および/または正しい部位において転写の開始に必要な他の因子を設けることによって、メッセンジャーRNA(mRNA)の生産を制御することにより、コード配列の発現を制御する、コード配列の上流(5′)において通常みられるDNA配列に関する。
“組換え細胞”または“形質転換細胞”とは、細胞において自然に存在しない核酸配列または内在核酸配列の追加コピーを含有した細胞であり、ここで前記核酸配列は人為的に細胞またはその祖先へ導入される。
“組換えベクター”または“組換えDNAまたはRNA構築体”という用語は、何らかの供給源に由来し、ゲノム組込みまたは自律複製でき、1以上の配列が機能上作動的に結合された核酸分子を含んでなる、プラスミド、コスミド、ウイルス、自律複製配列、ファージ、または線状もしくは環状一本鎖または二本鎖DNAもしくはRNAヌクレオチド配列の物質に関する。このような組換え構築体またはベクターは、翻訳ひいては発現されるまたは発現されない機能性mRNAへDNA配列が転写されるように、5′調節配列またはプロモーター領域と選択遺伝子産物用のDNA配列とを細胞中へ導入しうる。
“制限酵素”とは、二本鎖DNAにおいてヌクレオチドの特定配列を認識して、両鎖を開裂する酵素に関し、制限エンドヌクレアーゼとも称されている。開裂は典型的には制限部位内またはその近くにおいて生じる。
“選択マーカー”とは、その発現が核酸配列を含有した細胞の特定化を容易にさせる表現型を付与する、核酸配列に関する。選択マーカーとしては、毒性のある化学物質への耐性を付与するもの(例えば、アンピシリン、カナマイシン)、または栄養欠乏を補うもの(例えば、ウラシル、ヒスチジン、ロイシン)がある。
“スクリーンマーカー”とは、その発現が視覚的に区別できる特徴(例えば、変色、蛍光)を付与する、核酸配列に関する。
“転写”とは、DNA鋳型からRNAコピーを生産する過程に関する。
“形質転換”とは、外在核酸が染色体へ取り込まれるまたは自律複製しうる細胞中へ外在核酸配列(例えば、ベクター、プラスミド、または組換え核酸分子)を導入する過程に関する。形質転換を受けた細胞またはこのような細胞の子孫は“形質転換”または“組換え”されている。外来の核酸が所望のタンパク質をコードするコード領域を含み、所望のタンパク質が形質転換酵母により生産され、実質的に機能性であれば、このような形質転換酵母は“機能的に形質転換”されている。
“翻訳”とは、メッセンジャーRNAからのタンパク質の生産に関する。
“収率”という用語は、生産されたアスコルビン酸(モルまたは重量/容量)を消費された前駆体の量(モルまたは重量/容量)で割り100を掛けた量に関する。
酵素の“単位”とは、酵素活性に関し、変換される基質マイクロモルの量/全細胞タンパク質mg/minを示す。
“ベクター”とは、宿主細胞中へ核酸配列を運ぶ(特に、例えばプラスミド、コスミド、バクテリオファージ、酵母人工染色体、またはウイルスなど)DNAまたはRNA分子に関する。ベクターまたはその一部が宿主細胞のゲノムへ挿入される。
略語のリスト:
Asc L‐アスコルビン酸(ビタミンC)
AGD L‐ガラクトノ‐1,4‐ラクトンデヒドロゲナーゼ
(シグナリングペプチドなし)
ALO D‐アラビノノ‐1,4‐ラクトンオキシダーゼ
ARA D‐アラビノースデヒドロゲナーゼ
Gal L‐ガラクトノ‐1,4‐ラクトン
Gul L‐グロノ‐1,4‐ラクトン
LGDH L‐ガラクトースデヒドロゲナーゼ
ME マンノースエピメラーゼ
MIP ミオイノシトールホスファターゼ
RGLO L‐グロノ‐1,4‐ラクトンオキシダーゼ
TCA トリクロロ酢酸
TPI トリオースリン酸イソメラーゼ
下記例は、本発明の具体的態様を実証するために記載されている。下記例において開示された技術は本発明者らが開示した技術を表わし、本発明の実施に際してうまく機能する、従ってその実施において好ましい態様を構成していると考えられることは、当業者に自明である。しかしながら、本開示を見た当業者によれば、多くの変更が開示された具体的な態様により行え、本発明の精神および範囲から逸脱せずに同様または類似の結果をなお得ることが理解される。
物質および方法
1.アスコルビン酸の測定
アスコルビン酸はSullivanら(1955,Assoc.Off.Agr.Chem.,38,2,514-518)の方法に従い分光光度法により測定した。試料135μLをHPO(85%)40μLとキュベット中において混合した。次いで、α,α′‐ビピリジル(0.5%)675μLおよびFeCl(1%)135μLを加えた。10分後、吸光度を525nmにおいて測定した。一部の実験においては、標準として純粋なL‐アスコルビン酸(Aldrich,A9,290-2)を用い、アスコルビン酸の同定をHPLC(Tracer Extrasil Column C8,5μM,15×0.46cm,Teknokroma,S.Coop.C.Ltda.# TR-016077、溶離液:95/5HO/アセトニトリル中5mMセチルトリメチルアンモニウムブロミド,50mM KHPO、流速:1mL/min,Detection UV@254nm)により行った。
2.特定遺伝子配列の増幅
特定の遺伝子配列を増幅させるために、PfuTurbo DNAポリメラーゼ(Stratagene #600252)がGeneAmp PCR System 9700(PE Appl.Biosystems,Inc.)において用いられた。用いられた標準条件は400μM dNTP、0.5μMプライマー、0.5mM MgCl(緩衝液へ添加)、および3.75U Pfu/100μL反応液であった。
用いられた遺伝子の配列は、MIPを除き、次のようにGenbankにおいて公に報告されている。配列番号4として掲載されているMIP配列は、2箇所の翻訳サイレント点置換:bp271,A(NM 111155)→T(配列番号4)、bp685,T(NM 11155)→G(配列番号4)において、Genbank配列、受理no.NM 111155とは異なっていた。
Figure 2008536497
下記プログラムをALOの増幅に用いた:
Figure 2008536497
下記プログラムをLGDHの増幅に用いた:
Figure 2008536497
下記プログラムをMEの増幅に用いた:
Figure 2008536497
下記プログラムをMIPの増幅に用いた:
Figure 2008536497
LGDH、ME、およびMIP用の鋳型DNA:50ngプラスミドcDNAライブラリーpFL61 Arabidopsis(ATCC#77500(Minet M.et al.,1992,Plant J.,2,417-422))。ALO用の鋳型DNA:標準法を用いて抽出された、S.cerevisiae GRF18UからのゲノムDNA50ng。Novagen Inc.の完全ブラントクローニングキット(#70191‐4)を用いて、PCR産物をpSTBlue‐1のEcoRV部位へブラント末端クローン化した。
用いられたオリゴヌクレオチド 増幅される遺伝子
配列番号8:tttcaccatatgtctactatcc
配列番号9:aaggatcctagtcggacaactc ALO(酵母)
配列番号10:atgacgaaaatagagcttcgagc
配列番号11:ttagttctgatggattccacttgg LGDH(植物)
配列番号12:gcgccatgggaactaccaatggaaca
配列番号13:gcgctcgagtcactcttttccatca ME(植物)
配列番号14:atccatggcggacaatgattctc
配列番号15:aatcatgcccctgtaagccgc MIP(植物)
3.プラスミドの構築
ここで用いられている命名法によると、例えば多クローニング部位(MCS)に関してセンス方向でALOを含有しているpSTBlue‐1はpSTB ALO‐1と命名した。別の例においては、MCSに関してアンチセンス方向でALOを含有しているpSTBlue‐1はpSTB ALO‐2と命名した、等である。pYXシリーズ(R&D Systems,Inc.)または動原体発現プラスミドpZおよびpZ(P.Branduardi,M.Valli,L.Brambilla,M.Sauer,L.Alberghina and D.Porro.The Yeast Zygosaccharomyces bailii:a New Host for Heterologous Protein Production,Secretion and for Metabolic Engineering Applications,FEBS Yeast Research,FEMS Yeast Res.,4,493-504,2004)を用いてインサートをクローン化した。標準操作を全クローニング目的に用いた(Sambrook J.et al.,Molecular Genetics:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press)。
Figure 2008536497
以下において行われた全作業について、酵母コントロール株は対応エンプティベクターにより形質転換した。
4.酵母培養および試験:
用いられた酵母株はS.cerevisiae GRF18U(Brambilla,L.et al.,1999,FEMS Microb.Lett.,171,133-140)、S.cerevisiae GRFc(Brambilla et al.,1999,FEMS Microb.Lett.,171,133-140)、S.cerevisiae BY4742(MATα、his3、leu2、lys2、ura3,EuroScarf受理No.Y10000)、S.cerevisiae YML007w(BY4742、MATα、his3、leu2、lys2、ura3 YML007w::KanMX4,EuroScarf受理No.Y10569)であるか、または異なる開発プラスミドによる形質転換によりそれらから誘導した。全ての株を、振盪フラスコ中、標準条件下(30℃において振盪)において最少培地(適切なアミノ酸またはアデニンもしくはウラシルを各々50μg/Lまで添加した0.67%w/v YNB(Difco Laboratories,Detroit,MI#919‐15)、2%w/vグルコースまたはマンノース)および/または適切な抗生物質(G418またはヒグロマイシンを各々500mg/Lおよび400mg/Lまで)により培養した。660nmの初期光学濃度は、アスコルビン酸測定の場合に約0.05、酸化ストレスからの回復の動態の場合に0.1であった。細胞を4℃において4000rpmで5分間の遠心により回収し、冷蒸留HOにより1回洗浄し、次のように処理した:細胞内アスコルビン酸測定の場合、細胞をペレットの約3倍容量の冷10%TCAに再懸濁し、激しく攪拌し、氷上において約20分間保ち、次いで上澄を遠心により細胞残骸(cell debris)から分離させた。
5.酵母形質転換:
酵母細胞の形質転換を標準LiAc/ss‐DNA/PEG法(Gietz,R.D.and Schiestl,R.H.,1996,Transforming Yeast with DNA,Methods in Mol.and Cell.Biol.)に従い行った。形質転換された酵母はATCCに寄託したが、カタログNo.はまだ付与されていない。
実験結果
GRF18UにおけるArabidopsis thaliana ME、MIP、LGDH、およびS.cerevisiae ALOの発現
A.thaliana ME、S.cerevisiae ALO、A.thaliana LGDH、およびA.thaliana MIPをコードする遺伝子を各々それ自体の組込みプラスミドにTPIプロモーターのコントロール下で置いたが、但しMEは動原体プラスミドにおいてサブクローン化した。遺伝子の2種以上がS.cerevisiae GRF18UおよびBY4742へ組み込まれた。各遺伝子はユニーク座(unique locus)において組み込まれた。
図1は、植物におけるD‐グルコースからL‐アスコルビン酸へ至る生理学的生合成経路の現在の理解の略記を示す。次の酵素が関与する:A,L‐ガラクトノ‐1,4‐ラクトンデヒドロゲナーゼ(1.3.2.3)、B,L‐ガラクトースデヒドロゲナーゼ、C,ミオイノシトールホスファターゼ(3.1.3.23)、D,ヒドロラーゼ(推定)、E,GDP‐マンノース‐3,5‐エピメラーゼ(5.1.3.18)、F,マンノース‐1‐リン酸グアニリルトランスフェラーゼ(2.7.7.22)、G,ホスホマンノムターゼ(5.4.2.8)、H,マンノース‐6‐リン酸イソメラーゼ(5.3.1.8)、I,グルコース‐6‐リン酸イソメラーゼ(5.3.1.9)、J,ヘキソキナーゼ(2.7.1.1)。図1において示された経路において、ALOは反応Aを触媒し、LGDHは反応Bを触媒し、MEは反応Eを触媒し、MIPは反応Cを触媒する。野生型酵母細胞はGDP‐マンノースを生産して(図1において反応F〜J)、それを小胞体へ輸送することが知られている。
下記表は、(i)ALOおよびLGDH、(ii)ALO、LGDH、およびME、または(iii)ALO、LGDH、ME、およびMIPにおいて形質転換されたS.cerevisiae GRFc(コントロール)またはS.cerevisiae GRF18Uによるアスコルビン酸へのD‐グルコースおよびD‐マンノースの変換を示す。0.05のOD660から出発して最少培地(2%グルコースまたはマンノース、0.67%YNB)において細胞を増殖させた。24時間の増殖後、アスコルビン酸を測定した。野生型GRFcとALOおよびLGDHで形質転換されたGRF18U細胞とは双方ともアスコルビン酸を蓄積しなかったが、ALO、LGDH、およびME、またはALO、LGDH、ME、およびMIPにより形質転換された細胞は各々予想外に相当量の(すなわち、バックグラウンドレベルより多く)アスコルビン酸を蓄積した。形質転換された酵母をグルコースまたはマンノースベース培地で回分増殖(batch grown)させた:
Figure 2008536497
コントロール株において求められた値は、野生型酵母により通常生産されるエリトロアスコルビン酸の生産高を示す。
酵母がGDP‐L‐ガラクトースからL‐ガラクトースへの反応を非特異的に触媒しうる活性を内在的に有している、と我々は結論づけた(図1参照)。特に、理論に拘束されることなく、GDP‐L‐ガラクトースがL‐ガラクトース‐1‐Pへ自然に加水分解し、非特異的ホスファターゼがL‐ガラクトースへのL‐ガラクトース‐1‐Pの変換を触媒し、次いでこれがLGDHおよびALOによりL‐アスコルビン酸へ変換された、と我々は結論づけた。MIPは推定非特異的ホスファターゼより優れたL‐ガラクトースへのL‐ガラクトース‐1‐Pの触媒作用を示した(ALO、LGDH、ME、MIP vs. ALO、LGDH、ME)。我々は培地においてアスコルビン酸の蓄積を何ら観察しなかった。
図2は、YML007w酵母宿主が特に酸化ストレスを受けやすいことを示す。Yap1pは酸化ストレスへの応答に必要な遺伝子を活性化する、この遺伝子の欠損は観察された表現型へ至る(Rodrigues-Pousada CA,Nevitt T,Menezes R,Azevedo D,Pereira J,Amaral C.Yeast activator proteins and stress response:an overview.FEBS Lett.,2004 Jun 1;567(1):80-85)。
下記酵母株が分析された:
BY4742(▲)
YML007w(○)
図2A.0.1のOD660から出発して最少培地(2%グルコース、0.67%YNB)において酵母株を増殖させた。
図2B.0.8mMのHの存在下において0.1のOD660から出発して最少培地(2%グルコース、0.67%YNB)により酵母株を増殖させた。
図2C.1.0mMのHの存在下において0.1のOD660から出発して最少培地(2%グルコース、0.67%YNB)により酵母株を増殖させた。
2種の株はHの非存在下において増殖したが(図2A)、YML007w酵母宿主の増殖は0.8mMの過酸化水素を含有した培地において著しく遅れ(図2B)、1mMの過酸化水素を含有した培地において完全に損なわれた(図2C)。
図3は、YML007w酵母の増殖感受性が培地へアスコルビン酸を加えることにより救済されうることを示す。
下記酵母株が分析された:
BY4742(▲)
YML007w(○)
図3A.0.8mMのHの存在下において0.1のOD660から出発して最少培地(2%グルコース、0.67%YNB)により酵母株を増殖させた。アスコルビン酸を15mg/Lの最終濃度でT=0に加えた。
図3B.1.0mMのHの存在下において0.1のOD660から出発して最少培地(2%グルコース、0.67%YNB)により酵母株を増殖させた。アスコルビン酸を15mg/Lの最終濃度においてT=0に加えた。
添加アスコルビン酸の効果は濃度依存性である。事実、30mg/Lまでアスコルビン酸濃度の増加は増殖欠陥のより速やかな救済を示した(図にデータ示さず)。
図4は、YML007w酵母宿主の増殖欠陥がALO、LGDH、ME、およびMIPの発現後に救済されうることを示す。
下記酵母株が分析された:
BY4742(▲)
ALO、LGDH、およびMEを発現するYML007w(□)
ALO、LGDH、ME、およびMIPを発現するYML007w(黒四角)
図4A.0.8mMのHの存在下において0.1のOD660から出発して最少培地(2%グルコース、0.67%YNB)により酵母株を増殖させた。
図4B.1.0mMのHの存在下において0.1のOD660から出発して最少培地(2%グルコース、0.67%YNB)により酵母株を増殖させた。
クローン化遺伝子は、培地へアスコルビン酸を加えることで得られた場合と類似した、増殖感受性の救済をなしえた(図3参照)。
MIPの存在が、それなしの酵母細胞と比較して、速い回復をなしえたことは、注目に値する。
ストレスの古典的な例として、我々は野生型酵母細胞をHにより刺激した。予想通りに、野生型細胞はHの非存在下においてよく増殖するが(図5A)、同酵母細胞はHの存在下において増殖しない(図5B)。この外部ストレス要因は、細胞下構造の中でも、DNAへの損傷、脂質への損傷、タンパク質への損傷、および膜への損傷に至り、最終的には細胞生存力および細胞統合性の喪失へ至ることが、通常認められている。したがって、図5Bにおいて示されるように、このストレス要因の存在が産物(この場合には、野生型酵母バイオマス)のゼロ生産高、ゼロ生産力、およびゼロ収率につながることは意外ではない。(i)LGDH、ALO、およびMEまたは(ii)LGDH、ALO、ME、およびMIPにおいて野生型GRF酵母の形質転換により、組換え酵母は上記のようにアスコルビン酸を生産したが、野生型酵母は自然にはアスコルビン酸を生産しない。意外にも、これらの組換え酵母に基づくバイオプロセスは産物、酵母バイオマスの高生産高、高生産力、および高収率を示した(図5B)。生産高、生産力、および収率の値は、0.00(コントロール株の値)より大きい。
図5は、野生型GRF酵母株が発酵ストレス条件(2mMのHを加えることで誘導されたストレス条件)に感受性であることを示す、意外にも、アスコルビン酸を生産する組換え酵母株は強い構造安定性(robustness)を示す。次の酵母株が分析された:GRFc(黒三角)、ALO、LGDH、およびMEを発現するGRF18U(白四角)、およびALO、LGDH、ME、およびMIPを発現するGRF18U(黒四角)。
図5A.0.1のOD660から出発して最少培地(2%グルコース、0.67%YNB)において酵母株を増殖させた。
図5B.2.0mMのHの存在下において0.1のOD660から出発して最少培地(2%グルコース、0.67%YNB)により酵母株を増殖させた。野生型株はグルコースを消費しない。
この実験において用いられた全ての株が同様の栄養要求性および同様の抗生物質耐性カセット(異なる異種遺伝子の発現に必要である)を有し、そのためそれらの全て、すなわち3または4種の異種遺伝子を発現するものまたは野生型株について同様の培地を用いることが可能であった。この実験においては、2種の組換えGRF酵母株が野生型GRF酵母より頑強な株であり、したがってある工業的工程により適することを示す。理論に拘束されることなく、おそらくアスコルビン酸による活性細胞種(ROS)の直接的な除去(scavenging)と、特にアポトーシス、細胞死、生存力喪失、および完全性喪失のような望ましくないストレス反応へのアスコルビン酸による干渉とにより、組換え酵母が多様なストレス要因にさほど感受性でなくなっているらしい、と我々は考察する。
本発明の組成物、方法、および酵母株が具体的態様に関して記載されてきたが、本発明の概念、精神、および範囲から逸脱せずにバリエーションを加えうることは、当業者に明らかである。
参考文献
下記参考文献は、それらがここで記載されたものに補足的な例示の操作または他の詳細を示す限り、特に引用することにより本明細書の開示の一部とされる。

Figure 2008536497
Figure 2008536497
Figure 2008536497
図1は、D‐グルコースからL‐アスコルビン酸の合成に関する、主要な植物経路(plant pathway)を示す。 図2は、酸化ストレスの非存在下(図2A)および存在下(図2B〜2C)において、BY4742およびYML007w酵母の660nmにおける光学濃度を示す。Yap1pは酸化ストレスへの応答に必要な遺伝子を活性化し、この遺伝子の欠損は観察された表現型へ至る。 図3は、酸化ストレスの存在下および培地へのアスコルビン酸の添加により、BY4742wtおよびYML007w酵母の660nmにおける光学濃度を示す(図3A〜3B)。 図4は、酸化ストレスの存在下において、BY4742wt、ALO、LGDH、およびMEを発現するYML007w、およびALO、LGDH、ME、およびMIPを発現するYML007w酵母の660nmにおける光学濃度を示す(図4A〜4B)。 図5は、酸化ストレスの非存在下(図5A)および存在下(2mMのH)において、野生型GRFc、ALO、LGDH、およびMEを発現するGRF18U、およびALO、LGDH、ME、およびMIPを発現するGRF18U酵母株の660nmにおける光学濃度を示す。

Claims (25)

  1. L‐アスコルビン酸の製造方法であって、
    a)マンノースエピメラーゼ(ME)をコードするコード領域において機能的に形質転換された組換え酵母を得て、
    b)D‐グルコースを含む培地において前記組換え酵母を培養し、それによりL‐アスコルビン酸を形成させ、そして
    c)L‐アスコルビン酸を単離すること
    を含んでなることを特徴とする、製造方法。
  2. 前記組換え酵母が、ミオイノシトールホスファターゼ(MIP)をコードするコード領域において更に機能的に形質転換されたものである、請求項1に記載の方法。
  3. 前記酵母が、属Saccharomyces、Zygosaccharomyces、Candida、Hansenula、Kluyveromyces、Debaromyces、Nadsonia、Lipomyces、Torulopsis、Kloeckera、Pichia、Schizosaccharomyces、Trigonopsis、Brettanomyces、Cryptococcus、Trichosporon、Aureobasidium、Lipomyces、Phaffia、Rhodotorula、Yarrowia、またはSchwanniomycesに属するものである、請求項1に記載の方法。
  4. 前記酵母が種S.cerevisiae、K.lactis、またはZ.bailiiに属するものである、請求項3に記載の方法。
  5. 前記酵母が、S.cerevisiae株GRF18U、S.cerevisiae株W3031B、BY4742、およびYML007w、K.lactis株CBS2359、またはZ.bailii株ATCC60483から選択されるものである、請求項4に記載の方法。
  6. 前記MEが配列番号1と少なくとも約95%の同一性を有するものである、請求項1に記載の方法。
  7. 前記MEが配列番号1と少なくとも約98%の同一性を有するものである、請求項6に記載の方法。
  8. 前記MIPが配列番号2と少なくとも約95%の同一性を有するものである、請求項2に記載の方法。
  9. 前記MIPが配列番号2と少なくとも約98%の同一性を有するものである、請求項8に記載の方法。
  10. 前記酵母が、L‐ガラクトースデヒドロゲナーゼ(LGDH)、L‐ガラクトノ‐1,4‐ラクトンデヒドロゲナーゼ(AGD)、D‐アラビノースデヒドロゲナーゼ(ARA)、D‐アラビノノ‐1,4‐ラクトンオキシダーゼ(ALO)、またはL‐グロノ‐1,4‐ラクトンオキシダーゼ(GLO)から選択される酵素をコードするコード領域において更に機能的に形質転換されたものである、請求項1に記載の方法。
  11. 前記コード領域が、酵母において活性なプロモーターへ結合される、請求項1に記載の方法。
  12. 前記プロモーターがS.cerevisiaeトリオースリン酸イソメラーゼ(TPI)プロモーターである、請求項11に記載の方法。
  13. 前記単離工程が酵母を溶解させることを含んでなる、請求項1に記載の方法。
  14. 前記単離工程が、遠心、濾過、マイクロ濾過、限外濾過、ナノ濾過、液体‐液体抽出、結晶化、ヌクレアーゼもしくはプロテアーゼによる酵素処理、またはクロマトグラフィーを更に含んでなる、請求項13に記載の方法。
  15. 前記単離工程が、クロマトグラフィー、活性炭、マイクロ濾過、限外濾過、ナノ濾過、液体‐液体抽出、または結晶化を含んでなる、請求項1に記載の方法。
  16. 前記酵母が、マンノースエピメラーゼ(ME)をコードするコード領域において機能的に形質転換されたものである、組換え酵母。
  17. 前記組換え酵母が、ミオイノシトールホスファターゼ(MIP)をコードするコード領域において更に機能的に形質転換されたものである、請求項16に記載の組換え酵母。
  18. 前記MEが配列番号1と少なくとも約95%の同一性を有するものである、請求項16に記載の組換え酵母。
  19. 前記MIPが配列番号2と少なくとも約95%の同一性を有するものである、請求項17に記載の組換え酵母。
  20. 前記酵母が、L‐ガラクトースデヒドロゲナーゼ(LGDH)、L‐ガラクトノ‐1,4‐ラクトンデヒドロゲナーゼ(AGD)、D‐アラビノースデヒドロゲナーゼ(ARA)、D‐アラビノノ‐1,4‐ラクトンオキシダーゼ(ALO)、またはL‐グロノ‐1,4‐ラクトンオキシダーゼ(GLO)から選択される酵素をコードするコード領域において更に機能的に形質転換されたものである、請求項16に記載の組換え酵母。
  21. マンノースエピメラーゼ(ME)をコードするコード領域において微生物を機能的に形質転換することを含んでなる、発酵に際して微生物により生産される産物の生産高、生産力、または収率を増加させる方法。
  22. 更に、ミオイノシトールホスファターゼ(MIP)をコードするコード領域において微生物を機能的に形質転換することを含んでなる、請求項21に記載の方法。
  23. 前記微生物が、細菌、酵母、糸状菌、動物細胞、および植物細胞からなる群より選択されるものである、請求項21に記載の方法。
  24. 前記酵母が種S.cerevisiae、K.lactis、またはZ.bailiiに属するものである、請求項23に記載の方法。
  25. 前記酵母が株S.cerevisiae GRFに属するものである、請求項24に記載の方法。
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