JP2008524718A - コレステロール代謝に関する方法およびモデル - Google Patents
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Abstract
本発明は、動物におけるコレステロール代謝のコンピュータ・モデルを作成するための新規な方法を包含する。詳しくは、このモデルは、脂質の流れおよびリポタンパク質粒子の両者に関係する生物学的プロセスの表現を含んでいる。さらに本発明は、コレステロール代謝のコンピュータ・モデル、コレステロール代謝をシミュレートする方法、およびコレステロール代謝をシミュレートするためのコンピュータ・システムを包含する。脂質の流れに関係する生物学的プロセスは、とりわけ、肝臓組織からリポタンパク質粒子への脂質の流れ、リポタンパク質粒子から肝臓組織への脂質の流れ、或るリポタンパク質粒子から同じまたは異なるクラスまたはサブクラスの他のリポタンパク質粒子への脂質の流れ、末梢組織からリポタンパク質粒子への脂質の流れ、またはリポタンパク質粒子から末梢組織への脂質の流れに関係し得る。
Description
I.はじめに
A.関連出願への相互参照
本願は、2004年12月16日付の米国特許仮出願第60/637,106号の利益を主張する。
A.関連出願への相互参照
本願は、2004年12月16日付の米国特許仮出願第60/637,106号の利益を主張する。
B.分野
本開示は、コレステロール代謝の数学的モデルおよびコンピュータ・モデルに関する。
本開示は、コレステロール代謝の数学的モデルおよびコンピュータ・モデルに関する。
C.背景
コレステロール代謝のモデル化は、粒子の領域および脂質分子の領域のダイナミクスを定量化するための2つの方法に集中している。一方の方法は、VLDL、IDL、およびLDLの粒子クラスの合成、代謝回転、および異化を定めるためにアポB−100粒子のトレーサの研究を使用して、リポタンパク質粒子の領域をモデル化している(非特許文献1;非特許文献2;非特許文献3)。他方の方法は、組織および血管の区画の間の脂質の流れを測定するために標識付けしたコレステリルエステルおよびトリグリセリド分子を使用して脂質分子の領域をモデル化している(非特許文献4;非特許文献5)。これらのモデルは、それぞれの領域を別個に研究しているため、いずれもリポタンパク質粒子、脂質分子、血管区画、肝臓、および末梢組織の間の相互作用を正確には捉えていない。
コレステロール代謝のモデル化は、粒子の領域および脂質分子の領域のダイナミクスを定量化するための2つの方法に集中している。一方の方法は、VLDL、IDL、およびLDLの粒子クラスの合成、代謝回転、および異化を定めるためにアポB−100粒子のトレーサの研究を使用して、リポタンパク質粒子の領域をモデル化している(非特許文献1;非特許文献2;非特許文献3)。他方の方法は、組織および血管の区画の間の脂質の流れを測定するために標識付けしたコレステリルエステルおよびトリグリセリド分子を使用して脂質分子の領域をモデル化している(非特許文献4;非特許文献5)。これらのモデルは、それぞれの領域を別個に研究しているため、いずれもリポタンパク質粒子、脂質分子、血管区画、肝臓、および末梢組織の間の相互作用を正確には捉えていない。
本明細書において、動物における血中コレステロールの仮想のプロファイルを生成するため、VLDL、IDL、LDL、およびHDL粒子のリポタンパク質粒子の組成および数、リポタンパク質および組織関連の酵素および受容体の活性、ならびに肝臓のリポタンパク質粒子の合成について公に入手可能なデータを統合してなるコレステロール輸送の予測コンピュータ・モデルが提供される。これらのモデルは、コレステロールの合成および排出ならびに酵素活性および組織受容体発現を左右する食事性の変動および薬理学的変動に完全に応答性である。
Prinsenら、J.Lipid Res.(2003年)44:1341〜48 Demantら、J.Clin.Invest.(1991年)88:1490〜1501 Packardら、J.Lipid Res.(2000年)41:305〜8 Schwartzら、J.Lipid Res.(2004年)45:1594〜1607 GrundyおよびAhrens、J.Lipid Res.(1969年)10:91〜107
Prinsenら、J.Lipid Res.(2003年)44:1341〜48 Demantら、J.Clin.Invest.(1991年)88:1490〜1501 Packardら、J.Lipid Res.(2000年)41:305〜8 Schwartzら、J.Lipid Res.(2004年)45:1594〜1607 GrundyおよびAhrens、J.Lipid Res.(1969年)10:91〜107
D.発明の概要
本発明の一態様は、動物におけるコレステロール代謝のコンピュータ・モデルを作成するための方法であって、リポタンパク質粒子に関係する1つ以上の生物学的プロセスを特定すること;脂質の流れに関係する1つ以上の生物学的プロセスを特定すること;それぞれの生物学的プロセスを数学的に表現して、リポタンパク質粒子に関係する生物学的プロセスの1つ以上の表現および脂質の流れに関係する生物学的プロセスの1つ以上の表現を生成すること;および生物学的プロセスの表現を組み合わせて、コレステロール代謝のコンピュータ・モデルを形成すること;を含んでいる方法を提供する。
本発明の一態様は、動物におけるコレステロール代謝のコンピュータ・モデルを作成するための方法であって、リポタンパク質粒子に関係する1つ以上の生物学的プロセスを特定すること;脂質の流れに関係する1つ以上の生物学的プロセスを特定すること;それぞれの生物学的プロセスを数学的に表現して、リポタンパク質粒子に関係する生物学的プロセスの1つ以上の表現および脂質の流れに関係する生物学的プロセスの1つ以上の表現を生成すること;および生物学的プロセスの表現を組み合わせて、コレステロール代謝のコンピュータ・モデルを形成すること;を含んでいる方法を提供する。
脂質の流れに関係する生物学的プロセスは、とりわけ、肝臓組織からリポタンパク質粒子への脂質の流れ、リポタンパク質粒子から肝臓組織への脂質の流れ、或るリポタンパク質粒子から同じまたは異なるクラスまたはサブクラスの他のリポタンパク質粒子への脂質の流れ、末梢組織からリポタンパク質粒子への脂質の流れ、またはリポタンパク質粒子から末梢組織への脂質の流れに関係し得る。本発明の特定の実現においては、脂質の流れに関係する生物学的プロセスの数学的表現が、総コレステロール、総トリグリセリド、粒子クラスおよび/またはサブクラス当たりのコレステロール・エステル(CE)、粒子クラスおよび/またはサブクラス当たりのトリグリセリド(TG)含有量、肝酵素、末梢酵素、肝受容体、末梢受容体、または治療薬を表わす変数を含んでいる。
リポタンパク質粒子に関係する生物学的プロセスは、リポタンパク質粒子の合成、再分類、または異化に関係する生物学的プロセスであってよい。1つ以上の生物学的プロセスは、肝臓の区画からのリポタンパク質粒子の分泌に関係することができる。本発明の好ましい実現においては、リポタンパク質粒子に関係する生物学的プロセスの数学的表現が、リポタンパク質粒子のクラス、リポタンパク質粒子のサブクラス、リポタンパク質粒子の数、リポタンパク質粒子のアポリポタンパク質組成、リポタンパク質粒子のコレステリルエステル(CE)含有量、リポタンパク質粒子のトリグリセリド(TG)含有量、リポタンパク質粒子の遊離コレステロール(FC)含有量、肝酵素、肝受容体、または治療薬を表わす変数を含んでいる。
特定の実現においては、コレステロール代謝のモデルの作成方法が、生物学的プロセスを数学的に表現することを含んでおり、生物学的プロセスを数学的に表現することが、リポタンパク質粒子および/または脂質の流れに関係する生物学的プロセスの1つ以上からの第1の生物学的プロセスに関する変数の間の第1の数学的関係を形成すること;および第1の生物学的プロセスならびにリポタンパク質粒子および/または脂質の流れに関係する生物学的プロセスの1つ以上からの第2の生物学的プロセスに関する変数の間の第2の数学的関係を形成すること;を含んでいる。この方法は、第1の数学的関係および第2の数学的関係における一式のパラメータ変化を生成すること;および前記一式のパラメータ変化からの少なくとも1つのパラメータ変化にもとづいて、シミュレーションによる生物学的属性を生成すること;をさらに含むことができ、このシミュレーションによる生物学的属性が、第1のコレステロール代謝の定常状態の基準パターンに関係する少なくとも1つの生物学的属性に実質的に一致している。また、この方法は、第1の数学的関係および第2の数学的関係からの少なくとも1つに関係しているパラメータを変換し、動物におけるコレステロール恒常性の変動によって値が変化する変換済み生物学的変数とすること;および前記変換済み生物学的変数にもとづいて、シミュレーションによる一連の生物学的属性を生成すること;をさらに含むことができ、このシミュレーションによる一連の生物学的属性が、動物の基準パターンに関係する対応する生物学的属性に実質的に一致し、第2のコレステロール代謝の定常状態を表わしている。
本発明の他の態様は、プロセッサによって実行されたときに動物におけるコレステロール代謝をプロセッサにシミュレートさせるコンピュータ読み取り可能なインストラクションを保存してなるコンピュータ読み取り可能な媒体であって、前記インストラクションが、a)リポタンパク質粒子に関係する1つ以上の生物学的プロセスの数学的表現を定めること、b)脂質の流れに関係する1つ以上の生物学的プロセスの数学的表現を定めること、およびc)生物学的プロセスの前記表現の間の一式の数学的関係を定め、コレステロール代謝のモデルを形成すること、を含んでいるコンピュータ読み取り可能な媒体を提供する。好ましい実現においては、インストラクションが、1つ以上のパラメータを指定するユーザの入力、または数学的表現の1つ以上に関係するユーザの入力を受け入れることをさらに含んでいる。これに代え、あるいはこれに加えて、インストラクションは、仮想のプロトコルをコレステロール代謝のモデルへと適用することを含むことができる。好ましくは、仮想のプロトコルが、治療計画、診断手順、時間の経過、または食事の変化を表わしている。インストラクションは、必要に応じて、1つ以上の仮想の患者を定めることを含み得る。
本発明のさらなる態様は、動物におけるコレステロール代謝をシミュレートする方法であって、上述のコンピュータ・モデルを実行することを含んでいる方法を提供する。本発明のモデルは、粒子のダイナミクスのみまたは脂質のダイナミクスのみを含んでいるのではなく、脂質および粒子のダイナミクスを含んでいるため、長期の治療の応答をモデル化することができ、脂質の質量平衡を維持することができる。好ましくは、この方法は、仮想のプロトコルをコンピュータ・モデルへと適用して、生体系の表現型を表わす一式の出力を生成することを含んでいる。仮想のプロトコルは、とりわけ、治療計画、診断手順、時間の経過、または食事の変化を表わすことができる。特定の実現においては、前記一式の出力が、疾病状態(例えば、異常脂質血症)を表わしている。さらに、コレステロール代謝をシミュレートする方法は、コンピュータ・モデルの実行に先立って、1つ以上の数学的表現に関係する1つ以上のパラメータまたは変数を指定するユーザの入力を受け入れることを含むことができる。
本発明の一態様は、a)プロセッサによって実行されたときに動物におけるコレステロール代謝をプロセッサにシミュレートさせるコンピュータ読み取り可能なインストラクションを保存しているプロセッサ、b)前記コンピュータ読み取り可能なインストラクションによって定められる1つ以上の数学的表現に関して、1つ以上のパラメータを指定するユーザの入力を受信するように動作できる第1のユーザ端末、およびc)一式の出力を第2のユーザへと提供するように動作できる第2のユーザ端末、を含んでいるシステムを提供する。コンピュータ読み取り可能なインストラクションは、好ましくは、i)リポタンパク質粒子に関係する1つ以上の生物学的プロセスを数学的に表現すること、ii)脂質の流れに関係する1つ以上の生物学的プロセスを数学的に表現すること、iii)リポタンパク質粒子に関係する生物学的プロセスの表現および脂質の流れに関係する生物学的プロセスの表現の間の一式の数学的関係を定めること、およびiv)前記一式の数学的関係へと仮想のプロトコルを適用して、一式の出力を生成すること、を含んでいる。
以上概説した実施形態を任意の適切な組み合わせにてまとめて使用して、明示的には上述されていないさらなる実施形態を生成できること、およびそのような実施形態が本発明の一部であると考えられることを、当業者であれば理解できるであろう。
II.図面の簡単な説明
当業者であれば、後述の図面があくまで説明を目的とするものであることを、理解できるであろう。図面は、決して本発明の教示の範囲を限定しようとするものではない。
当業者であれば、後述の図面があくまで説明を目的とするものであることを、理解できるであろう。図面は、決して本発明の教示の範囲を限定しようとするものではない。
III.詳細な説明
A.概要
本発明は、動物におけるコレステロール代謝のコンピュータ・モデルを作成するための新規な方法を包含する。詳しくは、モデルが、脂質の流れおよびリポタンパク質粒子の両者に関する生物学的プロセスの表現を含んでいる。さらに本発明は、コレステロール代謝のコンピュータ・モデル、コレステロール代謝をシミュレートするための方法、およびコレステロール代謝をシミュレートするためのコンピュータ・システムを包含する。
A.概要
本発明は、動物におけるコレステロール代謝のコンピュータ・モデルを作成するための新規な方法を包含する。詳しくは、モデルが、脂質の流れおよびリポタンパク質粒子の両者に関する生物学的プロセスの表現を含んでいる。さらに本発明は、コレステロール代謝のコンピュータ・モデル、コレステロール代謝をシミュレートするための方法、およびコレステロール代謝をシミュレートするためのコンピュータ・システムを包含する。
B.定義
「生体系」は、例えば、個々の細胞、細胞培養のような細胞の集まり、器官、組織、個々のヒト患者のような多細胞生物、多細胞生物の細胞のサブセット、または一群のヒト患者または全体的な一般の人間の集団のような多細胞生物の集団を含むことができる。さらに、生体系は、例えば、神経系、免疫系、または心臓血管系などの多組織系も含むことができる。
「生体系」は、例えば、個々の細胞、細胞培養のような細胞の集まり、器官、組織、個々のヒト患者のような多細胞生物、多細胞生物の細胞のサブセット、または一群のヒト患者または全体的な一般の人間の集団のような多細胞生物の集団を含むことができる。さらに、生体系は、例えば、神経系、免疫系、または心臓血管系などの多組織系も含むことができる。
「生物学的コンポーネント」という用語は、生体系の一部を指す。生体系の一部である生物学的コンポーネントは、例えば、細胞外成分、細胞成分、細胞下成分、またはこれらの組み合わせを含むことができる。適切な生物学的コンポーネントの例としては、これらに限られるわけではないが、代謝産物;DNA;RNA;タンパク質;表面および細胞内受容体;酵素;脂質分子(すなわち、遊離コレステロール、コレステロール・エステル、トリグリセリド、およびリン脂質);ホルモン;細胞;器官;組織;細胞、組織、または器官の一部;細胞内小器官;H+などの化学反応性分子;過酸化物;ATP;ならびにこれらの種類の生物学的コンポーネントの組み合わせまたは集合表現が挙げられる。さらに、生物学的コンポーネントとして、HMG−CoAレダクターゼ阻害剤(例えば、スタチン)、コレステロール吸収阻害剤(例えば、エゼチミブ)、MTP阻害剤(例えば、ガーリック)、CETP阻害剤(例えば、トルセトラピブ)、ならびに併用療法(例えば、バイトリン)などといった治療薬を挙げることができる。
本明細書において、「生物学的プロセス」という用語は、生物学的コンポーネントの間の相互作用または一連の相互作用を意味して使用される。適切な生物学的プロセスの例としては、これらに限られるわけではないが、リポタンパク質粒子の合成、リポタンパク質粒子のアポリポタンパク質組成、リポタンパク質粒子の脂質合成、リポタンパク質粒子の異化、リポタンパク質粒子の種々のクラスまたはサブクラスへの再構成、肝臓および末梢組織への脂質分子の貯蔵、ならびに肝臓、血管、および末梢組織の間の脂質分子の輸送が挙げられる。さらに、「生物学的プロセス」という用語は、例えば細胞メディエータへの治療薬の結合のプロセスなど、1つ以上の治療薬からなるプロセスを含むことができる。生物学的プロセスのそれぞれの生物学的変数は、例えば、必ずしも特定されている必要はなく、理解されている必要すらない何らかの生物学的機構による生物学的プロセスの少なくとも1つの他の生物学的変数によって影響を受ける可能性がある。
本明細書において、用語「パラメータ」は、2つ以上の生物学的コンポーネントの間の相互作用を特徴付ける値を意味して使用される。パラメータの例としては、親和定数Km、Kd、kcat、コレステロール・エステル(CE)およびトリグリセリド(TG)などといった脂質分子のそれぞれの粒子クラスから肝臓または末梢の貯蔵への正味の流れ、コレステロールの合成の速度、トリグリセリドの合成の速度、アポB−100粒子クラスの合成の速度、およびHDL粒子の形成の速度が挙げられる。
本明細書において使用されるとき、用語「変数」は、生物学的コンポーネントを特徴付ける値を指す。変数の例としては、リポタンパク質粒子の総数、特定のクラスまたはサブクラスのリポタンパク質粒子の数、リポタンパク質粒子のアポリポタンパク質組成、リポタンパク質粒子のコレステリルエステル(CE)含有量、リポタンパク質粒子のトリグリセリド(TG)含有量、リポタンパク質粒子の遊離タンパク質(FC)含有量、CEの血漿濃度、またはTGの血漿濃度が挙げられる。
本明細書において、用語「表現型」は、一連の生物学的プロセスの発生の結果を意味して使用される。生物学的プロセスはお互いに対して変化するため、表現型も変化にさらされる。表現型の1つの測定は、特定の時点および特定の実験または環境条件のもとでの変数、パラメータ、および/または生物学的プロセスの活性のレベルである。
表現型としては、例えば、個々の細胞、器官、組織、および/または多細胞生物の状態を挙げることができる。本明細書に開示される方法およびモデルにおいて有用な生物は、動物である。本明細書において使用されるとき、用語「動物」は、哺乳類およびヒトを含む。表現型は、これらに限られるわけではないが、動物に存在する総トリグリセリド、総血漿コレステロール、LDLコレステロール、および/またはHDLコレステロールをさらに含むことができる。これらの状態を、実験的に与えることができ、あるいはこれらの状態が、患者タイプに存在する状態であってよい。例えば、系全体のコレステロールおよび/または系全体のトリグリセリドの表現型が、健康な血中脂質が正常な患者において種々のリポタンパク質クラスに存在するリポタンパク質粒子の数を含むことができる。他の例では、系全体のコレステロールおよび/または系全体のトリグリセリドの表現型が、異常脂質血症の患者において種々のリポタンパク質クラスに存在するリポタンパク質粒子の数を含むことができる。さらに他の例では、系全体のコレステロールおよび/または系全体のトリグリセリドの表現型が、上述の1つ以上の治療薬によって処置されている患者において種々のリポタンパク質クラスに存在するリポタンパク質粒子の数を含むことができる。
本明細書において、用語「疾病状態」は、1つ以上の生物学的プロセスが疾病の原因または臨床的徴候に関係している表現型を意味して使用される。例えば、疾病状態は、病んだ細胞、病んだ器官、病んだ組織、または病んだ多細胞生物の状態であってよい。モデル化できる疾病の例としては、高トリグリセリド血症および高脂血症などといった遺伝性疾患、非インスリン依存の糖尿病などといった代謝性疾患、メタボリック症候群、脂肪肝、およびアテローム性動脈硬化などの1つ以上のリポタンパク質粒子の蓄積に関係する病状が挙げられる。病んだ多細胞生物は、例えば、個々のヒト患者、一群のヒト患者、または全体としてのヒト集団であってよい。さらに、疾病状態として、例えば、CETPの不足またはVLDLの蓄積など、種々の器官および/または組織において生じうる酵素不全または或るクラスまたはサブクラスのリポタンパク質粒子の蓄積を挙げることができる。
本明細書において、用語「シミュレーション」は、数学的モデルの数値積分または解析積分を意味して使用される。例えば、シミュレーションは、上述の式、すなわちdx/dt=f(x,p,t)によって定められる表現型の数学的モデルの数値積分を意味することができる。
本明細書において、用語「生物学的属性」は、疾病状態を含む表現型の生物学的特徴を意味して使用される。例えば、特定の疾病状態の生物学的属性として、疾病に関する臨床的徴候および診断基準が挙げられる。疾病状態を含む表現型の生物学的属性は、生物学的変数、パラメータ、および/またはプロセスについての測定値であってよい。異常脂質血症の疾病状態に関係する生物学的属性の適切な例として、これらに限られるわけではないが、総血漿コレステロール、総トリグリセリド、LDLコレステロール、およびHDLコレステロールについての測定値が挙げられる。
本明細書において、用語「基準パターン」は、正常または病んだ生体系において測定された一式の生物学的属性を意味して使用される。例えば、測定を、正常または病んだヒトまたは動物に由来する血液サンプル、生検サンプル、または細胞培養について実行することができる。病んだ生体系の例として、異常脂質血症の表現型の細胞または動物モデル、および関節硬化症が挙げられる。
本明細書において、用語「シミュレーション」は、数学的モデルの数値積分または解析積分を意味して使用される。例えば、シミュレーションは、上述の式、すなわちdx/dt=f(x,p,t)によって定められる表現型の数学的モデルの数値積分を意味することができる。
本明細書において使用されるとき、用語「生物学的特徴」は、生体系の特定の表現型の特性、特質、または性質を指す。例えば、特定の疾病状態の生物学的特徴として、疾病に関する臨床的徴候および診断基準が挙げられる。生体系の生物学的特徴は、生物学的変数、パラメータ、および/またはプロセスについての測定値であってよい。コレステロール代謝の表現型に関係する生物学的特徴の適切な例として、これらに限られるわけではないが、総血漿コレステロール、総トリグリセリド、LDLコレステロール、およびHDLコレステロールについての測定値が挙げられる。
本明細書において使用されるとき、用語「コンピュータ読み取り可能な媒体」は、本明細書において説明される方法を実行するための一連のインストラクションを保存またはエンコードできる任意の媒体を含み、これらに限られるわけではないが、光学式および/または磁気式の記憶装置および/またはディスク、ならびに搬送波信号を含むことができる。
C.コレステロール代謝のモデルの作成方法
コンピュータ・モデルを、1つ以上の生物学的プロセスまたは機能をモデル化するために設計することができる。コンピュータ・モデルは、生物学的状態(例えば、疾病)を表わしている一般的な1組の挙動を定義することから開始する「トップダウン」方式を使用して作成することができる。次いで、それらの挙動がシステムについての制約として使用され、1組の入れ子にされたサブシステムが、内在する詳細の次のレベルを定義するために作成される。例えば、血漿コレステロール濃度の上昇などといった挙動を考えると、この挙動を引き起こす具体的機構のそれぞれをモデル化して、1組のサブシステムを得ることができ、それらのサブシステムを分解し、詳しくモデル化することができる。したがって、これらサブシステムの制御および文脈が、全体としてシステムのダイナミクスを特徴付ける挙動によって前もって定められる。分解のプロセスは、所与の生物学的挙動を再現するために充分な詳細が存在するまで、上から下へと、さらに生物学のモデル化を続ける。具体的には、モデルは、薬剤または他の治療剤によって操作できる生物学的プロセスをモデル化することができる。
コンピュータ・モデルを、1つ以上の生物学的プロセスまたは機能をモデル化するために設計することができる。コンピュータ・モデルは、生物学的状態(例えば、疾病)を表わしている一般的な1組の挙動を定義することから開始する「トップダウン」方式を使用して作成することができる。次いで、それらの挙動がシステムについての制約として使用され、1組の入れ子にされたサブシステムが、内在する詳細の次のレベルを定義するために作成される。例えば、血漿コレステロール濃度の上昇などといった挙動を考えると、この挙動を引き起こす具体的機構のそれぞれをモデル化して、1組のサブシステムを得ることができ、それらのサブシステムを分解し、詳しくモデル化することができる。したがって、これらサブシステムの制御および文脈が、全体としてシステムのダイナミクスを特徴付ける挙動によって前もって定められる。分解のプロセスは、所与の生物学的挙動を再現するために充分な詳細が存在するまで、上から下へと、さらに生物学のモデル化を続ける。具体的には、モデルは、薬剤または他の治療剤によって操作できる生物学的プロセスをモデル化することができる。
コレステロール代謝のコンピュータ・モデルを作成するために使用される方法の概要が、図1Aに示されている。これらの方法は、典型的には、動物におけるコレステロール代謝に関するデータを特定することから開始される。これらの方法は、次に、脂質の流れに関係する1つ以上の生物学的プロセスおよびリポタンパク質粒子に関係する1つ以上の生物学的プロセスの特定に進む。次に、この方法は、特定したそれぞれの生物学的プロセスを数学的に表現するステップを含んでいる。生物学的プロセスは、さまざまなやり方のいずれかにて数学的に表現することができる。典型的には、生物学的プロセスが、後述のように式によって、すなわちdx/dt=f(x,p,t)によって定義される。2つの領域に関係するプロセスの表現が組み合わせられ、動物について仮想の血中コレステロール・プロファイルを生成するため、例えばVLDL、IDL、LDL、およびHDL粒子、リポタンパク質ならびに組織関連の酵素および受容体の活性、ならびに肝臓のリポタンパク質粒子の合成についてのデータを統合してなるコレステロール代謝についての予測モデルが形成される。
図3が、動物におけるコレステロール代謝に関係する種々の生物学的プロセスを示している。2つの主たる領域、すなわちリポタンパク質粒子の領域および脂質分子の領域が、コレステロール代謝を左右している。これらの領域のそれぞれが、環境および被験者の表現型の変化に動的に応答する。
好ましい実施形態においては、リポタンパク質粒子の領域に関係する生物学的プロセスの特定が、リポタンパク質粒子の合成、再分類、または異化に関係する生物学的プロセスの特定を含んでいる。1つ以上の生物学的プロセスが、肝臓の区画からのリポタンパク質粒子の分泌に関係することができる。本発明の好ましい実現においては、リポタンパク質粒子に関係する生物学的プロセスの数学的表現としては、リポタンパク質粒子のクラス、リポタンパク質粒子のサブクラス、リポタンパク質粒子の数、リポタンパク質粒子のアポリポタンパク質組成、リポタンパク質粒子のコレステリルエステル(CE)含有量、リポタンパク質粒子のトリグリセリド(TG)含有量、リポタンパク質粒子の遊離コレステロール(FG)含有量、肝酵素、肝受容体、または治療薬を表わす変数が挙げられる。
生物学的プロセスは、それらの生物学的プロセスの表現が組み合わせられた場合に、肝臓および末梢組織におけるリポタンパク質粒子および脂質分子の間の相互作用を統合できるように選択される。例えば、リポタンパク質粒子のサイズ、数、分類、再分類、および組成を左右する相互作用を統合し、健康および病んだ動物の血中コレステロールのプロファイルをシミュレートするコンピュータ・モデルを形成できる。モデル化可能な疾病としては、遺伝性疾患、代謝性疾患、およびコレステロール恒常性における変動に関係する病理状態が挙げられる。
いくつかの実施形態において、コレステロール代謝をシミュレートするコンピュータ・モデルを作成するための方法は、種々の組織および粒子の間の脂質の流れに関係する生物学的プロセスを特定することを含んでいる。それらの方法は、肝臓の貯蔵および末梢組織の貯蔵の間の脂質の流れを左右する生物学的プロセスの特定を含んでいる。本明細書に記載の方法において使用される他の生物学的プロセスとして、リポタンパク質粒子の間の脂質の流れに関係する生物学的プロセスが挙げられる。例えば、リポタンパク質粒子の合成、異化、および再分類に関与する生物学的プロセスが、生体系に存在する種々の粒子の間の脂質の流れを左右する可能性がある。これらの生物学的プロセスは、組み合わせられた場合に、リポタンパク質粒子の領域および脂質分子の領域の間の脂質の流れを左右する相互作用を統合できるように選択される。
いくつかの実施形態において、コレステロール代謝をシミュレートするコンピュータ・モデルを作成するための方法は、リポタンパク質粒子の合成、再分類、または異化に関係する生物学的プロセスを特定することを含んでいる。そのような生物学的プロセスとしては、新たに合成されたリポタンパク質粒子と既存のリポタンパク質粒子との間のコレステリルエステル(CE)の流れ、リポタンパク質粒子の間のトリグリセリド(TG)の流れ、ベースライン・アポB−100の合成、肝臓の貯蔵から新たに合成されたLDL粒子への脂質の取り込み、脂質を肝臓または末梢の脂質貯蔵へと放出する既存の粒子の異化、ならびに酵素(例えば、CETP、HL、LPL)または受容体(例えば、SR−B1)の介在による粒子からの脂質の除去または粒子への脂質の付加が挙げられる。例えば、末梢および肝臓組織における酵素および受容体の活性を左右する生物学的プロセスを特定し、リポタンパク質粒子間のCEおよびTGの流れにおけるこれらの酵素の役割を記述するコンピュータ・モデルを形成することができる。これらの生物学的プロセスは、組み合わせられた場合に、粒子の再分類に寄与するリポタンパク質粒子への脂質の付加ならびにリポタンパク質粒子からの脂質の喪失を左右する相互作用を統合できるように選択される。
いくつかの実施形態においては、コレステロール代謝を、リポタンパク質粒子の領域および脂質分子の領域の間、およびリポタンパク質粒子の領域および脂質分子の領域における脂質の流れに関係するコレステロールの輸送経路を特定することによって、モデル化することができる。他の実施形態においては、コレステロール代謝を、所与のクラスまたはサブクラスのリポタンパク質粒子の数および脂質の組成を特定することによって、モデル化することができる。さらに他の実施形態においては、コレステロール代謝を、リポタンパク質粒子の合成、およびその後のこれら粒子の種々のリポタンパク質クラスへの再分類(粒子の脂質組成の変化に起因する)を特定することによって、モデル化することができる。特定の実現においては、コレステロール代謝をモデル化するためのこれらの種々の方法が、コレステロール恒常性における変動に対する定常応答を予測するが、食事の変化や治療薬の投与などといった刺激から24時間以内に生じるコレステロール恒常性の一時的変化は予測しない。すなわち、数日または数週間にわたって生じる定常応答を、本明細書に記載の方法を使用してモデル化することができる。他の実現においては、コレステロール代謝のモデルが、食物の摂取に続いて生じるダイナミクス(食事後の動態)など、コレステロール代謝に関する過渡的ダイナミクスをシミュレートできる。
いくつかの実現においては、これらの方法が、特定のクラスまたはサブクラスに割り当てられているリポタンパク質粒子に関係する生物学的プロセスを特定することを含んでいる。図1Bが、粒子を特定のクラスまたはサブクラスへと区分けする典型的な方法を説明している。この実現においては、粒子のクラスまたはサブクラスが、当該クラス内の粒子のサイズによって定められている。粒子サイズは、粒子に含まれているコレステロールおよびトリグリセリドの体積を定量化することによって割り出される。したがって、特定のクラスに含まれる粒子は、全て同じサイズを有しており、すなわち、当該クラス内の粒子ごとにコレステロールまたはトリグリセリドの量はさまざまであっても、脂質の総量は同じである。モデルの1つの実現においては、粒子の脂質含有量が、その粒子クラスの同サイズの制約を満足する最大脂質含有量を超える場合、その粒子は、他のより大きな粒子クラスへと再分類される。同様に、粒子の総脂質含有量が、その粒子クラスの同サイズの制約を満足するために必要な最小脂質含有量を下回る場合、その粒子は、より小さなクラスへと再分類され、粒子クラスまたはサブクラスにおいて一定の粒子サイズが維持される。
特定の実現においては、コレステロール代謝のモデルが、コレステロールの合成、堆積、および摂取がすべて平衡している恒常状態の生体系をシミュレートすることができる。恒常状態の生体系の例は、夜間絶食後のヒト被験者である。図1Cが、恒常状態のコレステロール代謝のモデルを作成する上で好ましく考慮されるいくつかの生物学的コンポーネントを示している。すなわち、粒子と肝臓との間、末梢組織(ヒトの図によって示されている)と粒子との間、および種々のクラスの粒子の間の脂質の流れが、好ましくはモデル化される。さらに、種々のリポタンパク質サブクラスにおけるCEおよびTG含有量が、モデル化されることが好ましい。図1Cに示され、さらに詳しく後述されるように、所与のリポタンパク質クラスまたはサブクラスのCEおよびTG含有量は、末梢および肝臓組織に位置する特定の酵素(例えば、CETP、LCAT、HL、LPL)およびスカベンジャー受容体(例えば、SR−B1)の活性によって左右され、肝組織区画における新たなLDL粒子の合成、または末梢組織からのコレステロール摂取による新たなHDL粒子の形成によって左右され、さらにはこれらの区画によるLDLまたはHDL粒子の異化によって左右される。恒常状態において、コレステロールの流れは平衡している。モデルの何らかのパラメータまたはコンポーネントを変化させる仮想のプロトコル(例えば、長期仮想治療)の適用は、変化の後の粒子の数および分布、ならびに粒子、肝臓、および末梢区画のコレステロール含有量によって特徴付けられる新たな恒常状態に向かって、システムを変動させると予想される。
図1Dは、本発明の1つの実現におけるリポタンパク質粒子の1つのサブクラスの挙動を示している。リポタンパク質粒子のサブクラスにおいて、粒子の脂質成分が、いくつかの酵素の活性にさらされる。典型的には、粒子の正味のコレステロール含有量が、CETPおよびSR−B1の組み合わせの作用ゆえに増加する一方で、粒子の正味のトリグリセリド含有量は、CETP、HL、およびLPLの組み合わせの作用ゆえに減少する。したがって、図示のように、クラス内の粒子の全体的な移動は、特定のクラスの粒子の平均のTGおよびCE含有量への追加の寄与が存在しない場合、サイズの等圧線(isobar)を下る。粒子クラス内でのTGおよびCE含有量の平衡状態は、高いトリグリセリド含有量および低いコレステロール含有量を有する粒子の追加によってのみ、維持することができる。この要件は、文献からの報告に一致し、肝臓または末梢の組織においてそのような高TG、低CEの粒子が新たに合成されることによって満足される。さらに、図1は、正味のトリグリセリドの流れが、サイズの等圧線に沿った移動に貢献するだけでなく、定められたサブクラスの境界を下回って粒子の総脂質含有量を少なくするほどに充分にトリグリセリドが除かれることによって、粒子の再分類にも貢献することを示している。したがって、トリグリセリドの流れは、より小さな粒子クラスまたはサブクラスへの粒子の再分類に重要である。再分類は、もっぱらより小さなクラスへと行われるが、正味のCEおよびTGの流れ、ならびに所与のリポタンパク質粒子のCEおよびTG含有量を左右する種々の酵素の正味の作用などの要因に応じて、粒子のサイズは「上」または「下」へと再分類されうる。
図1Dは、本発明の1つの実現におけるリポタンパク質粒子の1つのサブクラスの挙動を示している。リポタンパク質粒子のサブクラスにおいて、粒子の脂質成分が、いくつかの酵素の活性にさらされる。典型的には、正味のコレステロール含有量が、CETPおよびSR−B1の活性ゆえに増加する一方で、正味のトリグリセリド含有量は、CETP、HL、およびLPLの活性ゆえに減少する。したがって、図示のように、クラス内の粒子の全体的な移動は、サイズの等圧線を下る。粒子クラスの質量の平衡は、高いトリグリセリド含有量および低いコレステロール含有量を有する粒子の追加によってのみ、維持することができる。この要件は、肝臓または末梢の組織によってそのような高TG、低CEの粒子が新たに合成されることによって満足される。さらに、図1Dは、正味のトリグリセリドの流れが、サイズの等圧線に沿った移動に貢献するだけでなく、粒子の総脂質含有量が定められたサブクラスの境界よりも少なくなるほどにトリグリセリドが除かれることによって、粒子の再分類にも貢献することを示している。したがって、トリグリセリドの流れは、より小さな粒子クラスまたはサブクラスへの粒子の再分類に重要である。再分類は、もっぱらより小さなクラスへと行われるが、正味のCEおよびTGの流れ、ならびに所与のリポタンパク質粒子のCEおよびTG含有量を左右する種々の酵素の正味の作用などの要因に応じて、粒子のサイズは「上」または「下」へと再分類されうる。
本発明の方法の文脈においてひとたび1つ以上の生物学的プロセスが特定されると、それぞれの生物学的プロセスが数学的に表現される。例えば、コンピュータ・モデルが、第1の数学的関係を使用して第1の生物学的プロセスを表現でき、第2の数学的関係を使用して第2の生物学的プロセスを表現できる。数学的関係は、典型的には、その挙動(例えば、時間変化)をコンピュータ・モデルによってシミュレートできる1つ以上の変数を含むことができる。さらに詳しくは、コンピュータ・モデルの数学的関係が、生体系の種々の生物学的コンポーネントのレベルおよび活性、ならびに種々の生物学的コンポーネントの組み合わせまたは集合表現のレベルまたは活性を記述する変数の間の相互作用を定めることができる。さらに、変数は、生体系へと加えることができる種々の刺激を表わすことができる。コンピュータによって実行できるソフトウェア・コードからなる数学的モデルが、コレステロール代謝に関する動的な生物学的プロセスを表現する。使用される数式の形態として、例えば偏微分方程式、確率微分方程式、微分代数方程式、差分方程式、セルオートマトン、結合マップ、ブーリアン・ネットワークの方程式、またはファジー論理ネットワークなどを挙げることができる。
いくつかの実施形態において、モデルにおいて使用される数式は、
dx/dt=f(x,p,t)
という形式の常微分方程式であり、
ここでxは、その成分が系の生物学的コンポーネントの特徴を表わしているN次元のベクトルであり、tは時間であり、dx/dtはxの変化率であり、pは系のパラメータのM次元の組であり、fは生物学的変数の間の複合の相互作用を表わす関数である。1つの実現においては、パラメータが、生体系について固有の特性(例えば、遺伝因子)ならびに外的特徴(例えば、環境因子)を表わすために使用される。
dx/dt=f(x,p,t)
という形式の常微分方程式であり、
ここでxは、その成分が系の生物学的コンポーネントの特徴を表わしているN次元のベクトルであり、tは時間であり、dx/dtはxの変化率であり、pは系のパラメータのM次元の組であり、fは生物学的変数の間の複合の相互作用を表わす関数である。1つの実現においては、パラメータが、生体系について固有の特性(例えば、遺伝因子)ならびに外的特徴(例えば、環境因子)を表わすために使用される。
いくつかの実施形態においては、表現型を、所与の時点におけるxおよびpの値によって数学的に定めることができる。ひとたびモデルの表現型が数学的に指定されると、コンピュータを使用する上述の方程式の数値積分によって、例えば生物学的変数x(t)の時間変化、すなわち表現型の経時変化が割り出される。
生物学的プロセスの表現が、コレステロール代謝のモデルを生成するために組み合わせられる。生体系のモデルの生成は、例えば「Hierarchical Biological Modeling System and Method」という標題の米国特許第5,657,255号および第5,808,918号、「System and Method for Simulating Operation of Biochemical Systems」という標題の米国特許第5,914,891号、「Computer−based System and Methods for Information Storage,Modeling and Simulation of Complex Systems Organized in Discrete Compartments in Time and Space」という標題の米国特許第5,930,154号、「Method of Generating a Display for a Dynamic Simulation Model Utilizing Node and Link Representations」という標題の米国特許第6,051,029号、「Method of Providing Access to Object Parameters Within a Simulation Model」という標題の米国特許第6,069,629号、「A Method of Managing Objects and Parameter Values Associated With the Objects Within a Simulation Model」という標題の米国特許第6,078,739号、「Method of Generating a Display For a Dynamic Simulation Model Utilizing Node and Link Representations」という標題の米国特許第6,539,347号、「Method and Apparatus for Conducting Linked Simulation Operations Utilizing a Computer−Based System Model」という標題の米国特許出願公開第20010032068号、「A Method of Monitoring Values within a Simulation Model」という標題のPCT公開第WO99/27443号に記載されている。これらの表現が、組み合わせられたときに、それぞれの生物学的プロセスによって記述される相互作用を統合して、モデルに粒子のダイナミクスおよび脂質の流れの両者を含めることによってコレステロール代謝のシミュレートを可能にするモデルを形成し、このモデルが、実際の被験者において見られる脂質の平衡をシミュレートすることができる。
これらの方法は、さらに、本明細書に記載されるコンピュータ・モデルを検証するための方法を含むことができる。例えば、これらの方法は、動物におけるコレステロール代謝に関してシミュレーションによる生物学的属性を生成し、このシミュレーションによる生物学的属性を、正常または病んだ動物において測定された対応する基準の生物学的属性と比較することを含むことができる。この比較の結果を、既知の動的な制約と組み合わせることで、モデルの或る部分を確認することができ、あるいはモデルの全体の忠実度を改善するモデル内の数学的関係の変更を、ユーザに指摘することができる。
D.コレステロール代謝のコンピュータ・モデル
ここに、動物におけるコレステロール代謝の経路のモデル化にとくに有用であるモデルを提示する。いくつかの実施形態においては、モデルは、動物におけるコレステロール代謝をシミュレートするコンピュータ・モデルである。他の実施形態においては、コレステロール代謝を左右するプロセスを記述するために、数学的モデルが使用される。例えば、コンピュータ・モデルを、動物におけるコレステロール代謝を左右する異なる生物学的領域(例えば、リポタンパク質粒子の領域および脂質分子の領域)に関係する生物学的プロセスを組み合わせることによって、形成することができる。数学的モデルを、リポタンパク質粒子の領域および/または脂質分子の領域に関係する1つ以上の生物学的プロセスに関係する生物学的変数の間の数学的関係を特定し、これらの値を統合してコレステロール代謝に関する表現型を定めることによって形成することができる。
ここに、動物におけるコレステロール代謝の経路のモデル化にとくに有用であるモデルを提示する。いくつかの実施形態においては、モデルは、動物におけるコレステロール代謝をシミュレートするコンピュータ・モデルである。他の実施形態においては、コレステロール代謝を左右するプロセスを記述するために、数学的モデルが使用される。例えば、コンピュータ・モデルを、動物におけるコレステロール代謝を左右する異なる生物学的領域(例えば、リポタンパク質粒子の領域および脂質分子の領域)に関係する生物学的プロセスを組み合わせることによって、形成することができる。数学的モデルを、リポタンパク質粒子の領域および/または脂質分子の領域に関係する1つ以上の生物学的プロセスに関係する生物学的変数の間の数学的関係を特定し、これらの値を統合してコレステロール代謝に関する表現型を定めることによって形成することができる。
コレステロール代謝のモデルを作成する上述の方法は、数百または数千ものオブジェクト(そのそれぞれが、複数のパラメータを含みうる)を含みうるモデルの生成に使用することが可能である。シミュレーション・モデルを使用して有効な「仮説」の分析を実行するためには、シミュレーション作業に先立って、特定の重要なパラメータの入力値にアクセスして観察することが有用であり、おそらくはそのような作業の終わりにおいて、これら重要なパラメータの出力値を観察することが有用である。多数のパラメータが、2つのオブジェクトの間の関係の表現に含まれ、2つのオブジェクトの間の関係によって左右されるため、モデル作成者は、そのような関係の片側において特定のパラメータを調べる必要もある。例えば、モデル作成者は、特定のオブジェクトがいくつかの他のオブジェクトに対して有する影響を特定するパラメータ、ならびに当該特定のオブジェクトに対するこれら他のオブジェクトの影響を特定するパラメータを調査したいと望むかもしれない。また、複雑なモデルは、ソフトウェアの特徴を使用し、あるいは単にモデル作成者の慣習によって、サブモデルからなるシステムへとしばしば分解される。したがって、特定のサブモデルに含まれる選択されたパラメータを同時に眺めることが、モデル作成者にとって有用であることが多い。このニーズの満足は、サブモデルの境界がパラメータに関して相互に排他的ではなく、すなわち1つのパラメータが多数のサブモデルに出現する可能性があるという事実により、困難である。さらには、モデルの発展につれてサブモデルの境界が変化することもしばしばである。
生成されたコンピュータ・モデルは、多数のレベルにおける生物学的プロセスを表わしており、したがって、すべてのレベルにまたがって生物学的プロセスの生物学的プロセスに対する影響を評価する。すなわち、生成されたコンピュータ・モデルが、生体系について多変数の眺めをもたらす。また、生成されたコンピュータ・モデルは、2つ以上の分野からの情報をただ1つのコンピュータ・モデルへと合成することによって、あるいは異なる分野を表わしている2つのコンピュータ・モデルをリンクさせることによって、学際的な観察をもたらす。
典型的なコンピュータ・モデルは、特定の生体系、ならびにコンピュータ・モデルによって探索されるべき問題に関する解剖学的要因を反映している。モデルへと取り入れられた細部のレベルは、そのコンピュータ・モデルについて意図される特定の用途によって決定されることが多い。例えば、評価対象の生物学的コンポーネント(例えば、酵素CETP)は、細胞内のレベルで機能することがしばしばであり、したがって細胞内のレベルが、モデルにおいて表現される細部の最低のレベルをしめることができる。細胞内のレベルとしては、例えば、DNA、mRNA、タンパク質、化学的に反応性である分子、および細胞内小器官などの生物学的コンポーネントが挙げられる。同様に、モデルを、多細胞のレベル(例えば、肝組織)において評価でき、あるいは生物全体のレベルにおいてさえも評価可能である。個々の生体系(例えば、1人のヒト)が、生物学的コンポーネントの最終的な効果に関して興味の対象である一般的な実体であるため、個々の生体系(例えば、臨床転帰の形態で表現される)が、システムにおいて表現される最高のレベルである。疾病のプロセスおよび治療の介入が、下位レベルのパラメータの変化によってモデルへと導入され、臨床転帰の変数を直接変更することによって疾病の影響を表現するのと対照的に、これら下位レベルの変化の結果として臨床転帰が変化する。
1つの実現においては、例えば1997年8月12日に発行された「Hierarchical Biological Modeling System and Method」という標題の米国特許第5,657,255号、1998年9月15日に発行された「Hierarchical Biological Modeling System and Method」という標題の米国特許第5,808,918号、2000年4月18日に発行された「Method of Generating a Display for a Dynamic Simulation Model Utilizing Node and Link Representations」という標題の米国特許第6,051,029号、2003年3月25日に発行された「Method of Generating a Display For a Dynamic Simulation Model Utilizing Node and Link Representations」という標題の米国特許第6,539,347号、2000年1月25日に発行された「A Method of Managing Objects and Parameter Values Associated With the Objects Within a Simulation Model」という標題の米国特許第6,078,739号、および2000年5月30日に発行された「Method of Providing Access to Object Parameters Within a Simulation Model」という標題の米国特許第6,069,629号に記載されているように、シミュレーション・モデル化ソフトウェアが、コンピュータ・モデルをもたらすために使用される。シミュレーション・モデル化ソフトウェアの例は、米国特許第6,078,739号に見ることができる。
表現型の要素間の動的関係を示すために、種々のダイアグラムを使用することができる。適切なダイアグラムの例として、エフェクトおよびサマリー・ダイアグラムが挙げられる。例えば「Method and Apparatus for Computer Modeling a Joint」という標題の米国特許第6,862,561号を参照されたい。この米国特許の開示は、ここでの言及によって本明細書に取り入れられたものとする。
エフェクト・ダイアグラムは、モデル方程式の視覚的表現であってよく、表現型の要素の間の動的な関係を説明することができる。図2が、エフェクト・ダイアグラムの例を示しており、それぞれの粒子クラスのコレステロール・エステル(CE)およびトリグリセリド(TG)が計算され、シミュレーションの最中のそれぞれの時点においてプロットされている。エフェクト・ダイアグラムは、モジュールまたは機能領域へと組織化され、一体にまとめられたときに、モデル化対象の表現型の大きくて複雑な生理学を表現する。
サマリー・ダイアグラムは、本明細書に記載の方法およびモデルにおいてモデル化される種々の経路の概要を提供することができる。例えば、図3に示したサマリー・ダイアグラムは、コレステロール代謝を左右しうるコレステロール輸送経路の概要を提供している。また、サマリー・ダイアグラムは、モデルの個々のモジュールへのリンクを提供することができる。モジュールは、その関係が図式的な矢印記号を使用して定義される「状態」および「機能」のノードを使用することによって、表現型の該当のコンポーネントをモデル化している。このようにして、表現型の種々の要素の複雑かつ動的な数学的関係が、ユーザ・フレンドリーな様相で容易に表現される。このやり方で、通常の表現型を表わすことができる。
図2は、図3に示したモジュール・ダイアグラムのうちの1つの例を示している。図2に示したモジュール・ダイアグラムは、アポB−100粒子に関する種々の合成、異化、および再分類のプロセスを開示している。アポB−100粒子に関する該当の生物学的変数および生物学的プロセスが、その関係が図式的な矢印記号を使用して定義される状態および機能のノードを使用することによって、表現されている。状態ノード、機能ノード、および矢印を使用することで、ユーザ・フレンドリーな様相で表示されるべき生理学的システムの種々の要素について、複雑かつ動的な数学的関係を表現することができる。
状態および機能ノードが、それらが表現する変数の名称およびモデルにおけるそれらの位置を示している。矢印および修飾因子が、モデルにおける状態および機能ノードの他のノードに対する関係を示している。さらに、状態および機能ノードは、それが表現している変数の値を計算するためにシミュレートされた実験において使用されるパラメータおよび方程式を含んでいる。いくつかの実施形態においては、状態および機能ノードが、どちらも「Method of generating a display for a dynamic simulation model utilizing node and link representations」という標題であって、ここでの言及によって本明細書に取り入れられたものとする米国特許第6,051,029号および米国特許出願第09/588,855号(本件出願と同時に係属中である)に記載の方法に従って表現される。状態および機能ノードのさらなる例を、以下でさらに検討する。
状態ノードは、一重の縁取りの楕円によって表現され、システムにおける変数であって、その値が経時的な入力の累積効果によって決定される変数を表わしている(例えば、図3を参照)。「入力」は、状態ノードによってモデル化される変数を左右しうる任意のパラメータを指す。例えば、CE/粒子を表わしている状態ノードの入力は、CETP酵素活性またはSR−B1受容体活性であってよい。状態ノードの値は、微分方程式によって定められる。状態ノードのための所定のパラメータは、その初期値(S0)およびその状態を含んでいる。いくつかの実施形態においては、状態ノードが半減期を有することができる。それらの実施形態においては、「H」を含んでいる円が、半減期を有するノードに付される。
機能ノードは、二重の縁取りの楕円によって表現され、システムにおける変数であって、任意の時点における値がその同じ時点における入力によって決定される変数を表わしている。機能ノードは、それらの入力の代数関数によって定められる。機能ノードのための所定のパラメータは、その初期値(F0)およびその状態を含んでいる。ノードの状態の設定が、どのようにノードの値が決定されるのかに影響する。状態および機能ノードの状態は、1)計算される(値が、その入力の結果として計算される)、2)指定かつ固定される(値が、時間に対して一定に保たれる)、および3)指定されたデータである(値が、所定のデータ点に従って時間とともに変化する)ことができる。機能ノードの方程式は、その機能ノードへと向いた矢印(引数)を有しているノードの値についての指定の関数を評価することによって、計算される。例えば、「Method and Apparatus for Computer Modeling a Joint」という標題の米国特許第6,862,561号を参照されたい。この米国特許の開示は、機能ノード方程式の計算の検討について、ここでの言及によって本明細書に取り入れられたものとする。
状態および機能ノードは、エイリアス・ノードとしてモジュール・ダイアグラムにおいて2回以上出現することができる。エイリアス・ノードは、1つ以上の点によって示されている(例えば、図3の状態ノードVLDL1粒子を参照)。また、状態および機能ノードは、矢印および他のノードに対する位置によって、ソース・ノード(S)またはターゲット・ノード(T)として定められる。ソース・ノードは、矢印の尻尾に位置しており、ターゲット・ノードは、矢印の先端に位置している。ノードは、有効または無効であってよい。例えば、「Method and Apparatus for Computer Modeling a Joint」という標題の米国特許第6,862,561号を参照されたい。この米国特許の開示は、状態ノードの計算状態の検討について、ここでの言及によって本明細書に取り入れられたものとする。
矢印が、ソース・ノードをターゲット・ノードへと結びつけており、ノード間の数学的関係を表現している。矢印に、矢印の活性を示す円を付すことができる。円内の注記についての鍵が、それぞれのエフェクト・ダイアグラムの左上の角に位置している。矢じりが黒塗りである場合、効果は正である。矢じりが白抜きである場合、効果は負である。矢印の種類、矢印の特徴、および矢印の方程式のさらなる説明については、例えば「Method and Apparatus for Computer Modeling a Joint」という標題の米国特許第6,862,561号を参照されたい。この米国特許の開示は、ここでの言及によって本明細書に取り入れられたものとする。
コレステロールの代謝には、2つの別個の領域が関係する。すなわち、肝臓および末梢組織の間の疎水性の脂質の血管内の輸送を促進するリポタンパク質粒子、ならびに脂質分子そのものである。リポタンパク質粒子は、2つの主要なクラスで構成されている。すなわち、肝臓によって合成および分泌され、超低比重リポタンパク質粒(VLDL)、中間比重リポタンパク質(IDL)、および低比重リポタンパク質(LDL)を含んでいるアポB−100粒子、ならびに高比重リポタンパク質(HDL)とも称されるアポA粒子である。脂質分子は、肝臓によってリポタンパク質粒子へとパッケージされる遊離コレステロールおよびエステル型コレステロール(それぞれ、FCおよびCE)ならびにトリグリセリド(TG)を含んでいる。リポタンパク質粒子は、肝臓によって血流へと分泌され、ひとたび血流に入ると、TGおよびCEを取り出す末梢組織の酵素の作用を受けることができる。次いで、粒子の残部は、典型的には肝臓において、特異受容体によって異化され、分解される。これらの酵素および受容体の介在による変化が、粒子の数、サイズ、および分類、ならびに血管内および組織内の脂質の濃度を左右する。
脂質分子の領域は、種々の生物学的区画およびリポタンパク質粒子の間の脂質の流れに関係している。脂質分子は、3つの区画、すなわち肝臓(肝臓の脂質の貯蔵)、リポタンパク質粒子、または循環を含む体の残りの部分(末梢の脂質の貯蔵)のうちの1つに、主として存在しているとして記述することができる。コレステロールの摂取または分泌に関係している他の区画(例えば、腸の区画)も、モデルに含めることができる。
リポタンパク質粒子の領域および脂質分子の領域の間の複雑な相互作用を効果的に捉えるため、本発明の方法は、両領域において生じる生物学的プロセスを組み合わせることを含んでいる。これらの生物学的プロセスは、リポタンパク質粒子数および脂質組成の基礎をなす体内経路内のコア・コンポーネント、すなわちリポタンパク質粒子の領域または区画を、肝臓および末梢組織の間の脂質分子の輸送の基礎をなす体内経路内のコア・コンポーネント、すなわち脂質分子の領域または区画とともに取り入れている。得られるコンピュータ・モデルは、健康および/または病んだ動物のコレステロール代謝の予測的表現をもたらすことができる。モデルは、健康および病んだ動物における食事の変更、治療薬、代謝異常などに応答してのコレステロール代謝の変動をシミュレートすることができる。モデル間の比較を、例えば、健康な動物および病んだ動物の対比において、リポタンパク質粒子のプロファイルおよび血漿中脂質のプロファイルを予測するために使用することができる。他の用途としては、これらに限られるわけではないが、リポタンパク質粒子のプロファイルおよび血漿中脂質のプロファイルに対する種々の治療薬の効果の健康な動物および病んだ動物の対比における比較が挙げられる。臨床データとの比較を、コンピュータ・モデルのコア・コンポーネントの微妙な調節に使用することが可能である。
コレステロール代謝に関係する任意の数の生物学的プロセスを、本明細書に記載の方法およびモデルへと取り入れることが可能である。さらには、追加のプロセスを、既存のモデルへと取り入れることが可能である。図3が、コレステロール代謝を左右しうる生物学的変数およびプロセス、すなわち、1)食事性コレステロールの輸送(コレステロールの摂取)、2)肝臓の脂質貯蔵、3)アポB−100粒子、4)肝臓の酵素および受容体、5)アポB−100粒子の再構成、6)CETP活性、7)HDL粒子の再構成、8)HDL粒子、9)末梢の酵素および受容体、10)末梢の脂質貯蔵、および11)臨床的手段をモデル化しているモジュールへとつながるいくつかの「状態」ノードを示している。上述の状態ノードのそれぞれについてモデル化されたプロセスを示しているモジュールが、図4〜14に示されている。
図3に示されているように、一般的に、これらの方法は、食物の遊離コレステロール(FC)の摂取によって始まる。食物のFCが吸収され、肝臓区画へと運ばれる。FCを、胆汁へと不可逆に変換でき、あるいはコレステロール・エステル(CE)へとエステル化して、トリグリセリド(TG)と一緒にアポB−100リポタンパク質粒子へとパッケージし、末梢の組織への輸送のために血流へと分泌することができる。末梢の組織から肝臓区画へのコレステロール逆輸送は、末梢組織のコレステロールのHDL粒子の摂取によって生じ得るか、あるいは末梢組織の酵素活性の後に残されたアポB−100粒子の残余の受容体の介在による摂取によって生じ得る。
図4は、アポB−100粒子についてコアな生物学的コンポーネントをモデル化するモジュールのうちの1つを示している。アポB−100粒子は、リポタンパク質粒子の2つの主要なクラスのうちの一方を構成している。アポB−100粒子は、さまざまな比のトリグリセリド(TG)、コレステロール・エステル(CE)、遊離コレステロール(FC)、およびリン脂質(PL)で構成されている。図6Aに示されているように、アポB−100粒子は、肝臓において合成され、パッケージされ、血流へと分泌される。図7に示されているモジュールが、肝臓および末梢組織の両方の区画におけるこれらの粒子の異化に関係する種々のプロセスを説明している。
図4に示されているように、VLDL、IDL、およびLDL粒子は、一連の小さな脂肪分解ステップにおいて脂質(主として、トリグリセリド)を追加または喪失することができる連続的な代謝のカスケードに結びつけられている。VLDL、IDL、およびLDLは、肝臓によって連続的に合成および分泌される。リポタンパク質のアセンブリが、疎面小胞体の成長しているアポB鎖へと脂質を加えることによって開始される。さらなる脂質(主として、トリグリセリド)が、分泌経路に沿って通過する新生粒子へと加えられる(例えば、上記のPackard and Shepherd,1997年、およびその引用文献を参照)。VLDL、IDL、およびLDL粒子の合成、異化、および再構成を左右するさらなる生物学的変数およびプロセスが、図5A〜5Cに示されている。
アポB−100粒子は、3つの主要なクラス、すなわちVLDL、IDL、およびLDLへと分画できる。この3つの主要なクラスを、それらのサイズによって定められるさらなるクラスへと分画できる。VLDL粒子のサイズは、約350オングストローム〜700オングストロームの直径までさまざまである。サイズの相違の大部分は、トリグリセリドのコアに起因する。350オングストローム〜700オングストロームの直径の範囲において、2つまたは3つのさらなるサブ部分が特定されている。Sf60〜400のVLDL1およびSf20〜60のVLDL2、あるいはSf100〜400のVLDL1、Sf60〜100のVLDL2、およびSf20〜60のVLDL3である。IDL粒子のサイズは、270〜300オングストロームまでさまざまである。2つのサブ部分を識別できるが、それらのサイズおよび比重が似通っているため、容易には分離することができない。LDL粒子のサイズは、200〜270オングストロームまでさまざまである。直径200〜270オングストロームの範囲において、3つのさらなるサブ部分が特定されている。すなわち、比重が(d)=1.025g/ml〜1.034g/mlのLDL−I、D=1.034g/ml〜1.044g/mlのLDL−II、d=1.044g/ml〜1.060g/mlのLDL−IIIである(例えば、上述のPackard and Shepherd,1997年を参照)。本発明の1つの実現においては、粒子のサイズが、粒子の体積の指標である。粒子の直径および体積が、それぞれの粒子が球であるとして計算される。したがって、総体積が、粒子内のCEおよびTGの平均密度、CEおよびTGの総質量、および粒子ごとの平均のタンパク質含有量にもとづいて計算される。このようにして、粒子のサイズが、脂質ならびにタンパク質の含有量に相関付けられる。図8A〜Cに示したモジュールが、種々の粒子間の脂質の流れに対する種々の酵素活性の影響、および脂質含有量の変化がそれらの粒子の再分類をどのように左右するのかを示している。
アポB−100粒子の再分類および再構成は、LPL、HL、およびSR−B1の作用によって行われる。これらの酵素が、それぞれの粒子のTGおよびCE成分を変化させ、すでに述べたように粒子サイズの変化に寄与する。全体としての酵素の作用が各粒子の分類を左右する正味のCEおよび正味のTGの流れへと組み合わせられるモジュールが、別個に図8A〜8Cに示されている(「正味CE流れ」および「正味TG流れ」)。これらの流れが、それぞれの粒子クラスの平均のCEおよびTG含有量を平衡の値から左右する(平均CEの調節−再構成)。このように、大きな粒子が小さな粒子へと再分類され、その逆も然りである(「平均CEの調節−上への再分類」および「平均CEの調節−下への再分類」)。
基準の仮想の患者についてのアポB−100粒子のリポタンパク質組成を、文献報告または実験プロトコルからのデータを分析および統合することによって決定できる。値が、それぞれの粒子クラスに関して以下のパラメータについて集められる。すなわち、1)粒子当たりのCEおよびTG、2)肝臓の合成および異化の速度、3)粒子の数である。恒常状態において、例えば夜間絶食の後で、CEおよびFCは、相互交換のダイナミクスが比較的高速であるため平衡にあると考えられる。さらに、状態変数CE/粒子が、それぞれの粒子クラスについて追跡される(例えば、図5A〜5Cを参照されたい)。TG/粒子が、特定のクラスの粒子が文献中の報告から決定される特定の「平均」サイズにとどまるという制約にもとづいて計算される。粒子サイズを変化させる粒子組成の変化が、他のクラスへの粒子の再分類をもたらす。粒子サイズは、密度勾配遠心分離法、電気泳動法、親和性クロマトグラフィ、およびNMRなど、いくつかの異なる方法によって割り出すことができる。一般に、NMRが粒子数を割り出すために使用される。粒子数を割り出す他の手段として、放射性の標識を付けたトレーサの研究と遠心分離との組み合わせの使用が挙げられる。当業者であれば容易に理解できるとおり、異なる方法を使用して異なる粒子の数が得られるであろう。
図10A〜10Dは、他の主要なリポタンパク質粒子の部分集合、すなわち高比重リポタンパク質(HDL)粒子についての生物学的変数およびプロセスを表現するモジュールを示している。HDL粒子は、粒子当たりに1つ以上のアポA分子が存在することによって定義される。アポB−100粒子と同様、HDL粒子は、さまざまな比のTG、CE、FC、およびPLで構成されるが、末梢組織から得られたFCを新生の「脂質不足」のHDLへと取り入れられるCEへとエステル化する血漿酵素のレシチン・コレステロール・アセチル転移酵素の作用によって形成される。HDL粒子は、脂質不足(最小)、HDL−3、HDL−2、およびHDL−1(最大)として分類される。HDL形成のプロセスが、図2に示されている。モデルは、アポB−100粒子と同様のやり方で、HDLクラスについて状態変数CE/粒子を追跡する。HDL粒子の組成、異化速度、および数についての平衡値を、文献からの報告を統合することによって得ることができる。
図6Aが、肝臓のフィードバック機構に関する脂質の流れを左右する生物学的プロセスおよび変数を示している。図6Aは、肝臓のリポタンパク質粒子の合成、分泌、および異化を調節するフィードバック・システムを示している。図6Aに示した実施形態において、新たに合成される粒子の脂質含有量は、粒子の平均の脂質含有量と異なっている可能性がある。肝臓のTG合成のセンサが、アポB−100粒子の合成速度および粒子クラスの間の分布を直接調節する。肝内のコレステロール貯蔵のセンサが、肝臓のLDL受容体(LDL−R)の発現を調節することによって、アポB−100粒子の合成ならびにアポB−100およびHDL粒子の異化を調節する。結果として、LDL−Rによる粒子の異化が、肝臓のコレステロールの合成(HMG−CoAレダクターゼによる)およびトリグリセリドの合成の両者を左右して、フィードバックループを完成させる(例えば、図9Dを参照)。
図6Bは、末梢のコレステロール貯蔵の独立の調節を示している。正味の末梢のコレステロール合成は、末梢のコレステロール貯蔵が減少すると増加する。末梢のコレステロール貯蔵は、LCATの介在のCEの流れによって消費される。
末梢および肝臓の酵素活性によって左右される生物学的プロセスを説明するエフェクト・ダイアグラムが、図9A〜9Dに示されている。図9Aに示されているモジュールは、アポB−100およびHDL粒子の脱脂の原因である酵素の概要を提示している。図9Bに示されているモジュールは、末梢組織において発現されるリポタンパク質リパーゼ(LPL)、および肝臓において発現される肝性リパーゼ(HL)の活性を示している。図9Cに示されているモジュールは、末梢組織において発現されるスカベンジャー受容体B−1(SR−B1)の活性を示している。2つのモジュールが一体となって、トリグリセリドを取り去るLPLまたはHLの作用、あるいはCEを取り去るSR−B1の作用を表わしている。酵素の作用を、機能ノード(「末梢TG流れの増減」、「肝臓TG流れの増減」、「肝臓CE流れの増減」、および「末梢CE流れの増減」)の値を調節することによって変化させることができる。それぞれの粒子クラスから肝臓または末梢の貯蔵へのTGまたはCEの正味の流れ(図9A)が、それぞれの粒子クラスについて合計され(図9Bおよび9C)、これに応じてTGおよびCEの末梢または肝臓の貯蔵が調節される。
図11Aおよび11Bが、コレステロール・エステル転送タンパク(CETP)の活性をモデル化するモジュールを示している。CETPは、末梢から肝臓の区画への「コレステロール逆輸送」に重要な血漿酵素である。CETPは、HDL粒子のCEのアポB−100粒子のTGへの正味の交換を促進する。次いで、アポB−100粒子の肝臓での異化が、血流からのコレステロールの除去をもたらす。この実施形態においては、CETPが、HDL−1およびHDL−2粒子からのみCEを取り去ると考えられる。固定のモル交換比が、CETPの仲介による各サブクラスのアポB−100粒子との交換について確立される。HDLからアポB−100粒子クラスへのCEの正味の流れが割り出され、対応するTGの流れが、指定のモル交換が達成されるように計算される。
図13に記載されているモジュールは、食事性コレステロールの処理をモデル化する1つの方法を示している、この実施形態においては、腸コレステロールの総量の一部分が腸細胞によって吸収され、残りの部分が直接排泄される。吸収されるコレステロール分は、食物繊維または治療的介入などといった外的要因によって調整される。腸コレステロールの総プールへの寄与者として、(1)細胞の流れ(cell shedding)によって失われる腸細胞の細胞内および細胞膜コレステロール、および(2)食事性コレステロールの源が挙げられる。吸収された腸コレステロール分は、全体の細胞内腸細胞コレステロール・プールに寄与する。このプールからのコレステロールが、カイロミクラによって肝臓区画へと運ばれる。特定の実現においては、食後状態の過渡的なカイロミクロンのダイナミクスを明示的に表現する代わりに、腸細胞によるカイロミクロンの分泌の時間平均の表現を含ませることができる。コレステロールは、(1)リポタンパク質粒子のパッケージングおよび合成、(2)胆汁への変換および腸管への分泌による排泄、または(3)胆汁中に捕捉された未変換のコレステロールの腸管への輸送によって、肝臓のプールから取り出すことができる。
本明細書に開示の方法は、患者の表現型をシミュレートできるコンピュータ・モデルを形成するために使用可能であり、新規なコンポーネントの追加を取り入れることができ、さらにはすでにモデル化済みのコンポーネントにさらなる詳しさを取り入れることができる。例えば、種々の遺伝的機能障害を有する異常脂質血症の患者における定常コレステロール平衡の変化を予測するコンピュータ・モデルを、モデル化することができる。遺伝的機能障害は、コレステリルエステル転送タンパク質の不足などの既知の遺伝的機能障害であってよい(例えば、Barterら、Arterioscler Thromb Vase Biol、23:160〜167、2003年を参照)。当業者であれば理解できるとおり、コレステロール代謝において新規に発見される遺伝的欠陥も、本明細書に記載の方法を使用してモデル化することができる。同様に、これらのコンピュータ・モデルは、リポタンパク質粒子の分類、再分類、合成、および異化に関係する生物学的特徴を取り入れることが可能である。
他の実施形態においては、コレステロール代謝のコンピュータ・モデルが、本明細書において説明される。例えば、コンピュータ読み取り可能なインストラクションを保存してなるコンピュータ読み取り可能な媒体にエンコードされたコンピュータ・モデルであって、プロセッサによって実行されたときにコレステロール代謝のシミュレートをプロセッサに実行せしめ、前記インストラクションが、リポタンパク質粒子および脂質の流れに関する一式の生物学的プロセスを含んでおり、生物学的プロセスの生物学的コンポーネント間の相互関係を表わす一式の数学的関係を定めているコンピュータ・モデルが開示される。少なくとも2つの生物学的プロセスが、数学的関係によって表わされている。
他の実施形態においては、コレステロール代謝のコンピュータ・モデルが、コードを保存することができるコンピュータ読み取り可能なメモリと、このコンピュータ読み取り可能なメモリに接続されたプロセッサとを有しており、プロセッサが前記コードを実行するように構成されている。メモリが、リポタンパク質粒子および脂質の流れに関係する生物学的プロセスに関する一式の生物学的プロセスを定めるためのコードと、生物学的プロセスの生物学的コンポーネントの間の相互作用を表現する数学的関係を定めるためのコードとを含んでいる。生物学的プロセスからの少なくとも2つの生物学的プロセスが、数学的関係に組み合わせられている。
本発明は、複数の目的に機能するただ1つのコンピュータ・モデルを含むことができる。あるいは、このレイヤーが、生体系の広い範囲をカバーする一式の大型のコンピュータ・モデルを含むことができる。コレステロール代謝のモデルを備える他に、システムは、例えば疫学的なコンピュータ・モデルおよび病原体のコンピュータ・モデルなど、対をなすコンピュータ・モデルを備えることができる。医療における使用のために、コンピュータ・モデルを、多数の被験者および治療を分析するように設計することができる。或る場合には、コンピュータ・モデルを、多数の検証済みの仮想の患者を生成して、多数の治療に対するそれらの応答をシミュレートするために使用することができる。
本発明および本明細書に記載される機能的動作のすべてを、デジタル電子回路に実現することが可能であり、本明細書に開示の構造的手段およびそれらの構造的均等物を含むコンピュータ・ソフトウェア、ファームウェア、またはハードウェアに実現することが可能であり、あるいはこれらの組み合わせに実現することが可能である。本発明は、データ処理装置(例えば、プログラマブルなプロセッサ、コンピュータ、または複数のコンピュータ)によって実行され、あるいはデータ処理装置の動作を制御する1つ以上のコンピュータ・プログラム製品として、すなわち情報担体(例えば、機械読み取り可能な記憶装置または伝搬信号)に実体的に具現化された1つ以上のコンピュータ・プログラムとして、実現可能である。コンピュータ・プログラム(プログラム、ソフトウェア、ソフトウェア・アプリケーション、またはコードとしても知られる)は、コンパイルまたは翻訳された言語を含む任意の形式のプログラミング言語で記述することができ、スタンドアロンのプログラムとして、あるいはモジュール、コンポーネント、サブルーチン、またはコンピュータ環境における使用に適した他のユニットとして、任意の形式で展開することができる。コンピュータ・プログラムは、必ずしもファイルに相当する必要はない。プログラムを、他のプログラムまたはデータを保持しているファイルの一部分に保存することができ、当該プログラムに専用の1つのファイルに保存することができ、あるいは協調する複数のファイル(例えば、1つ以上のモジュール、サブプログラム、またはコードの一部を保存するファイル)に保存することができる。コンピュータ・プログラムは、1つのコンピュータ、1つの場所の複数のコンピュータ、あるいは複数の場所にまたがって分散して通信ネットワークによって相互に接続されている複数のコンピュータによって実行されるように展開できる。
本発明の方法の各ステップなど、本明細書に記載のプロセスおよび論理の流れは、入力データに働きかけて出力データを生成することで本発明の機能を実行すべく、1つ以上のコンピュータ・プログラムを実行する1つ以上のプログラマブルなプロセッサによって実行可能である。また、プロセスおよび論理の流れを、例えばFPCG(フィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ)またはASIC(特定用途向け集積回路)などといった専用目的の論理回路によって実行することも可能であり、本発明の装置を、そのような専用目的の論理回路として実現することが可能である。
コンピュータ・プログラムの実行に適したプロセッサとしては、例えば、汎用および専用の両方のマイクロプロセッサ、ならびに任意の種類のデジタル・コンピュータの任意の1つ以上のプロセッサが挙げられる。一般に、プロセッサは、読み出し専用メモリまたはランダム・アクセス・メモリあるいは両者から、インストラクションおよびデータを受信する。コンピュータの基本的な要素は、インストラクションを実行するためのプロセッサ、ならびにインストラクションおよびデータを保存するための1つ以上のメモリ装置である。一般に、コンピュータは、例えば磁気、光磁気、または光ディスクなど、データを保存するための大容量記憶装置をさらに含んでおり、あるいはデータの受信、データの送信、または両方のために、そのような大容量記憶装置に作用可能に接続されている。コンピュータ・プログラム・インストラクションおよびデータを具現化するための情報担体として、例えばEPROM、EEPROM、およびフラッシュ・メモリ・デバイスなどといった半導体メモリ・デバイスを含むあらゆる形式の不揮発メモリ、例えば内蔵ハードディスクまたはリムーバブル・ディスクなどの磁気ディスク、光磁気ディスク、ならびにCD ROMおよびDVD−ROMディスクが挙げられる。プロセッサおよびメモリを、専用目的の論理回路によって補うことができ、あるいは専用目的の論理回路へと取り入れることができる。
ユーザとのやりとりを提供するために、本発明を、ユーザへと情報を表示するための表示装置(例えば、CRT(冷陰極管)またはLCD(液晶表示)モニタ)と、ユーザによってコンピュータへと入力をもたらすことができるキーボードおよびポインティング・デバイス(例えば、マウスまたはトラックボール)とを有しているコンピュータ上に実現することができる。ほかの種類の装置も、やはりユーザとのやりとりを提供するために使用することが可能であり、例えばユーザへともたらされるフィードバックが、例えば視覚によるフィードバック、聴覚によるフィードバック、または触覚によるフィードバックなど、任意の形式の感覚によるフィードバックであってよく、ユーザからの入力を、音響、発語、または触覚による入力など、任意の形式で受け取ることができる。
本発明を、例えばデータ・サーバとしてのバックエンド・コンポーネントを含んでおり、例えばアプリケーション・サーバなどのミドルウェア・コンポーネントを含んでおり、例えばクライアント・コンピュータ(グラフィカル・ユーザ・インターフェイスまたはウェブ・ブラウザを有しており、これを通じてユーザが本発明の実現とやりとりできる)などのフロントエンド・コンポーネントを含んでおり、あるいはこのようなバックエンド、ミドルウェア、またはフロントエンドのコンポーネントの組み合わせを含んでいるコンピュータ・システムに実現することができる。システムのコンポーネントを、例えば通信ネットワークなど、デジタル・データ通信の任意の形式または媒体によって相互に接続することができる。通信ネットワークの例としては、構内通信網(「LAN」)およびインターネットなどの広域通信網(「WAN」)が挙げられる。
コンピュータ・システムは、クライアントおよびサーバを含むことができる。クライアントおよびサーバは、通常は互いに離れており、典型的には通信ネットワークによってやりとりを行う。クライアントおよびサーバの関係は、それぞれのコンピュータ上で動作し、互いにクライアント−サーバの関係を有しているコンピュータ・プログラムによって生じる。
E.コレステロール代謝のシミュレート
さらに、本発明は、動物におけるコレステロール代謝をシミュレートする方法であって、上述したようなコレステロール代謝のコンピュータ・モデルを実行することからなる方法を提供する。コレステロール代謝をシミュレートする方法は、生体系の表現型を表わす一式の出力を生成するために、コンピュータ・モデルへと仮想のプロトコルを適用することを、さらに含むことができる。表現型は、正常な状態または病んだ状態を表現することができる。特定の実現においては、これらの方法が、コンピュータ・モデルの実行に先立って、1つ以上の数学的表現に関係する1つ以上のパラメータまたは変数を指定するユーザの入力を受け付けることを、さらに含むことができる。好ましくは、ユーザの入力は、仮想の患者の定義または仮想のプロトコルの定義を含んでいる。
さらに、本発明は、動物におけるコレステロール代謝をシミュレートする方法であって、上述したようなコレステロール代謝のコンピュータ・モデルを実行することからなる方法を提供する。コレステロール代謝をシミュレートする方法は、生体系の表現型を表わす一式の出力を生成するために、コンピュータ・モデルへと仮想のプロトコルを適用することを、さらに含むことができる。表現型は、正常な状態または病んだ状態を表現することができる。特定の実現においては、これらの方法が、コンピュータ・モデルの実行に先立って、1つ以上の数学的表現に関係する1つ以上のパラメータまたは変数を指定するユーザの入力を受け付けることを、さらに含むことができる。好ましくは、ユーザの入力は、仮想の患者の定義または仮想のプロトコルの定義を含んでいる。
コンピュータ・モデルを実行すると、コンピュータ・モデルによって表現された生体系について一式の出力が生み出される。この一式の出力が、生体系、すなわちシミュレート対象の被験者の1つ以上の表現型を表わしており、特定の時点および特定の実行シナリオについての変数およびパラメータに関する値または他のしるしを含んでいる。例えば、表現型は、特定の時点における値によって表現される。変数の挙動が、例えば1つ以上の数学的関係の数値積分または解析積分によってシミュレートされ、種々の時点における変数の値、したがって表現型の経時的な変化が生成される。
コンピュータによって実行できるソフトウェア・コードが、シミュレートされる種々の実験状況のもとで、モデルの数式を数値的に解く。さらに、コンピュータによって実行できるソフトウェア・コードは、種々の刺激が加えられる種々の患者をシミュレートするために、モデルの方程式およびそれらの関連のパラメータについて、視覚化および操作を容易にすることができる。例えば、ここでの言及によってその開示が本明細書に取り入れられたものとする「Managing objects and parameter values associated with the objects within a simulation model」という標題の米国特許第6,078,739号を参照されたい。すなわち。コンピュータ・モデルを、仮説を迅速に試験して、考えられる薬剤標的または治療方針を吟味するために使用することができる。
ユーザへと報告される詳しさのレベルは、対象ユーザの知識のレベルに応じてさまざまであってよい。健康管理の場面において、とくには一般人によって使用される場合には、コンピュータ・モデルの上部に、より高度な抽象化を含ませることが望ましいと考えられる。この高度な抽象化は、例えば主要な生理学的サブシステムおよびそれらの相互接続を見せることができるが、コンピュータ・モデルの特定の詳しい要素については、少なくともユーザがそのような詳しい要素を眺めることを明示的に決定しない限りは、報告する必要がない。この高度な抽象化は、仮想の患者の表現型および基礎にある生理学的特徴についての記載を提示できるが、コンピュータ・モデルにおいて当該仮想の患者を生成するために使用した特定のパラメータ設定を含む必要はない。治療を表現する場合、この高度の抽象化は、治療が何を行うのかを記述することができるが、コンピュータ・モデルにおいて当該治療をシミュレートするために使用した特定のパラメータ設定を含む必要はない。コンピュータ・モデルの出力のうち、被験者および医師にとってとくに関係がある一部分のみを、容易にアクセスできるようにすることが可能である。
1つの実現においては、コンピュータ・モデルが、数学的関係、ならびに変数、パラメータ、および生物学的プロセスの間の相互関係について、視覚的表現を可能にするように構成される。この視覚的表現は、一体にまとめられたときに生体系の大きくて複雑なモデルを表現する複数のモジュールまたは機能領域を含んでいる。
1つの実現においては、コンピュータ・モデルが、生体系について、正常な状態ならびに異常な状態(例えば、病んだ状態、または中毒の状態)を表現することができる。例えば、コンピュータ・モデルは、健康な血中脂質が正常な動物の表現型によって表わされるような正常な表現型で開始することができる。正常な表現型を、モデル化対象の表現型の生物学的変数および生物学的プロセスなどといった要素を定義する一連のユーザ・インターフェイス画面によってモデル化できる。コンピュータ・モデルは、異常な状態または異常な状態へと向かう進行をシミュレートすべく変更されるパラメータを含んでいる。病んだ状態を表現するためのパラメータ変化は、典型的には、例えば基礎をなす生理学への疾病の遺伝的影響または環境効果を表わすための病んだ状態に関する基礎をなす生物学的プロセスの変更である。1つ以上のパラメータを選択して変更することで、ユーザは、正常な状態を変更して、興味の対象である病んだ状態を引き起こす。一実現においては、1つ以上のパラメータの選択および変更が、自動的に行われる。コレステロール代謝の疾病の例としては、高トリグリセリド血症および高脂血症などの遺伝性疾患、非インスリン依存の糖尿病などの代謝性疾患、メタボリック症候群、脂肪肝、およびアテローム性動脈硬化などの1つ以上のリポタンパク質粒子の蓄積に関係する病状が挙げられる。
例えば、いくつかの実施形態において、仮想の患者の血中コレステロールのプロファイルを生成することによって、健康な個人のコレステロール代謝をシミュレートするコンピュータ・モデルを形成することができる。プロファイルは、アポB−100粒子の数およびクラス、HDL粒子の数およびクラス、ならびに総血漿コレステロールおよびトリグリセリドを含むことができる。例えば、食事性コレステロールの追加など、モデルを構成している変数の1つ以上に変化を加えることができ、変化の影響を、新たな仮想の患者血中コレステロール・プロファイルを生成することによって予測することができる。
コンピュータ・モデルに関連して1つ以上の仮想の患者を、初期のパラメータ値に関連する初期の仮想の患者にもとづいて生成することができる。初期の仮想の患者へと変更を導入することによって、初期の仮想の患者にもとづいて、さまざまな仮想の患者を生成することができる。そのような変更としては、例えばパラメータの変化(例えば、1つ以上の初期のパラメータ値の変更または指定)、1つ以上の変数の挙動の変更または指定、変数間の相互作用を表わしている1つ以上の関数の変更または指定、あるいはこれらの組み合わせを挙げることができる。例えば、ひとたび初期の仮想の患者が定義されると、他の仮想の患者を、初期のパラメータ値から出発して初期のパラメータ値のうちの1つ以上を変更することによって、初期の仮想の患者にもとづいて生成することができる。他のパラメータ値は、例えば米国特許第6,078,739号に開示のように定めることができる。これら他のパラメータ値を、コンピュータ・モデルの種々の仮想の患者を定義するために使用できる種々のパラメータ値の組へとまとめることができる。特定の用途においては、初期の仮想の患者そのものを、上述のとおりのやり方で他の仮想の患者(例えば、別の初期の仮想の患者)にもとづいて生成することができる。
これに代え、あるいはこれに組み合わせて、コンピュータ・モデルにおける1つ以上の仮想の患者を、例えば以下の刊行物、すなわち「Method and Apparatus for Conducting Linked Simulation Operations Utilizing A Computer−Based System Model」(2001年10月18日公開の米国特許出願公開第20010032068号)に開示されているようなリンクされたシミュレーション作業を使用し、初期の仮想の患者にもとづいて生成することができる。この刊行物は、初期のシミュレーション作業にもとづいて追加のシミュレーション作業を実行するための方法を開示しており、初期のシミュレーション作業への変更が1つ以上の時点において導入されている。本発明のこの実施形態においては、このような追加のシミュレーション作業を、初期のシミュレーション作業を使用して生成された初期の仮想の患者にもとづいてコンピュータ・モデルの追加の仮想の患者を生成するために、使用することができる。とくには、仮想の患者を、所望であれば特定の被験者を表わすようにカスタマイズでき、1つ以上のシミュレーション作業を、コンピュータ・モデルの1つ以上の「安定な」仮想の患者を生成するために充分な時間にわたって実行することができる。典型的には、「安定な」仮想の患者は、平衡または定常状態にあり、あるいは平衡または定常状態に実質的に接近している1つ以上の変数によって特徴付けられる。
コンピュータ・モデルの種々の仮想の患者が、所与の治療に対する生体系の応答について生体系の多様性がもたらす影響を評価できるよう、充分に異なっている生体系の多様性を表現することができる。詳しくは、コンピュータ・モデルによって表現される1つ以上の生物学的プロセスを、治療に対する生物学的応答を変化させるうえで役割を果たしていると特定することができ、種々の仮想の患者を、この1つ以上の生物学的プロセスの種々の変更を表わすように定義することができる。この1つ以上の生物学的プロセスの特定は、例えば、実験または臨床データ、科学文献、コンピュータ・モデルの結果、あるいはこれらの組み合わせに基づくことができる。ひとたび問題とする1つ以上の生物学的プロセスが特定されると、種々の仮想の患者を、コンピュータ・モデルに含まれる1つ以上の数学的関係(この1つ以上の生物学的プロセスを表現している)に対してさまざまな変更を定めることによって、生成することが可能である。数学的関係に対する変更としては、例えばパラメータの変化(例えば、この数学的関係に関する1つ以上のパラメータ値の変更または指定)、この数学的関係に関する1つ以上の変数の挙動の変更または指定、この数学的関係に関する1つ以上の関数の変更または指定、あるいはこれらの組み合わせを挙げることができる。コンピュータ・モデルを、特定の変更にもとづいて、コンピュータ・モデルの「安定な」構成が生成されるための充分な時間にわたって実行することができる。
特定の実現においては、コレステロール代謝のモデルが、例えば食事の型の変更または薬物の投与を表わしている仮想の刺激またはプロトコルを加えつつ実行される。仮想の刺激を、生体系へと加えることができる刺激または同様に関連付けることができる。種々の仮想の刺激を、互いに何らかの様相で相違している刺激に関連付けることができる。生体系へと加えることができる刺激として、例えば、既存または仮想の治療薬、治療計画、および医学的検査を挙げることができる。刺激の他の例としては、既存または仮想の疾病前駆物質が挙げられる。刺激のさらなる例としては、環境要因(例えば、抗原)への暴露のレベルの変化に関係するような環境変化、および身体活動または運動のレベルの変化が挙げられる。
例えば仮想の治療など、実際の治療を表現している仮想のプロトコルを、仮想の患者の実世界の相当物が治療にどのように反応するのかを予想する試みにおいて、仮想の患者へと加えることができる。生体系へと加えることができる仮想のプロトコルとして、例えば、既存または仮想の治療薬および治療計画、単なる時間の経過、環境有害物質への暴露、運動の増加などを挙げることができる。仮想の患者に仮想のプロトコルを加えることによって、仮想のプロトコルの一式の結果を生成することができ、これが治療のさまざまな効果を知らせることができる。
特定の用途において、仮想のプロトコルを、例えば、モデルに含まれている1つ以上の数学的関係であって、この仮想のプロトコルに関係する状況または効果によって左右される1つ以上の生物学的プロセスを表現できる数学的関係について、変更を定義することによって生成することができる。仮想のプロトコルは、当該仮想のプロトコルに関係する特定の状況および/または効果に応じて、静的、動的、またはこれらの組み合わせにて導入されるべき変更を定めることができる。
いくつかの実施形態においては、コレステロール代謝における遺伝的欠陥または代謝欠陥に関する種々の疾病状態について、そのような疾病状態に関係するリポタンパク質粒子の数および脂質含有量に対する治療薬の作用をシミュレートできるコンピュータ・モデルが形成される。IDLは、心臓病のリスクの増大に関連付けられている(例えば、上記のPackard and Shepherd、1997年を参照)。LDL粒子は、血漿においてリポタンパク質を運んでいる主要なコレステロールであり、アテロームの発生に強く関与している。さらに、LDL粒子のサイズおよび不均一性を、心臓病の予測判断材料として」使用することができる。例えば、正常および高脂血症の被験者において、LDLの別個の各部分、例えばLDL−I、LDL−II、LDL−III、およびLDL−IVが存在するが、高脂血症の被験者においては、より小さい部分が支配的になる。さらに。LDLのサイズとトリグリセリド含有量との間の関連性が観察されている。大きなLDL、すなわちLDL−Iが、低い血漿トリグリセリド・レベルに関連付けられる一方で、小さなLDL、すなわちLDL−IVは、高い血漿トリグリセリド・レベルに関連付けられる(例えば、上記のPackard and Shepherd、1997年、およびその引用文献を参照)。
図6Aおよび6Bに示したモジュールを、コレステロールの合成および排出の調節についてのHMG−CoAレダクターゼ阻害およびエゼチミブの効果をモデル化するために使用することができる(機能ノード「HMG−CoAレダクターゼ」および「エゼチミブ治療」)。HMG−CoAレダクターゼ阻害剤は、機能ノード「肝臓コレステロール合成」を減少させるために指定される。食事性コレステロールの入力および排出が、ゼロ次のプロセスとしてモデル化され、食事性コレステロールのうちの固定の割合が、肝臓のコレステロール貯蔵へと移動する。コレステロールの排出は構成要素であるが、排出を増加または減少させるべく調節することができる。
同様に、図11aおよび11Bに示されているモジュールを、CETPの活性に対する治療薬の影響をモデル化するために使用することができる。この実施形態においては、CETP阻害の治療が、HDL粒子からのCEの流れを直接阻害する。結果として、CEと交換されるTGの流れが、自動的に少なくなる。
図2〜13に示した種々のエフェクト・ダイアグラムおよびサマリー・ダイアグラムならびにモジュールのためのデータを、血中コレステロールのスクリーニングを受けるヒト患者の血液の臨床検査から得ることができる。そのような検査は、典型的には、総トリグリセリド(総TG)、コレステロール(血漿TC)、LDLコレステロール(LDL−C)、およびHDLコレステロール(HDL−C)についての測定結果をもたらす。図14のエフェクト・ダイアグラムは、これらの値を指定の機能ノードにおいて、モデルの仮想の患者についてリアルタイムで計算する。さらにモデルは、IDLコレステロールおよびVLDLコレステロール(IDL−CおよびVLDL−C)、ならびに総トリグリセリドの各粒子クラス(VLDL−TG、IDL−TG、LDL−TG、HDL−TG)への分解など、臨床上の重要性を有すると考えられるさらなる値を提供する。さらに、機能ノードは、総LDL粒子のうちのLDL−LおよびLDL−Sである部分を、系全体のコレステロール(系TC)およびトリグリセリド(系TG)とともに計算する。
上述の一般的説明および以下の詳細な説明の両者が、あくまで例示および説明のためのものであり、本明細書に記載の方法およびモデルを限定するものではないことを、理解すべきである。本出願において、単数の使用は、とくにそのようではないと示されない限りは、複数を含んでいる。さらに、「または(or)」の使用は、とくにそのようではないと示されない限りは、「および/または(and/or)」を意味している。同様に、「・・・を含む(comprise、comprises、comprising)」および「・・・を含む(include、includes、including)」は、限定を意味するものではない。
IV.実施例
A.粒子数および脂質含有量にもとづいてコレステロール代謝についてのコンピュータ・モデルを作成するための方法
ここに記載されるモデルを定める重要な方程式は、それぞれのリポタンパク質粒子クラスについて正味のCEの流れおよび正味のTGの流れを計算する方程式である。次いで、正味のCEおよびTGの流れを、それぞれのサイズ・クラスにおいて生じうるリポタンパク質粒子の組成および粒子数の動的な変化を割り出すために使用することができる。方程式において使用される変数の説明を、以下に示す。
指数および下付き文字
指数iは、以下のアポB−100粒子(5つのクラス)をカバーしている:VLDL−1、VLDL−2、IDL、LDL−L、およびLDL−S(粒子サイズが小さくなるにつれて指数は大きくなる)。
A.粒子数および脂質含有量にもとづいてコレステロール代謝についてのコンピュータ・モデルを作成するための方法
ここに記載されるモデルを定める重要な方程式は、それぞれのリポタンパク質粒子クラスについて正味のCEの流れおよび正味のTGの流れを計算する方程式である。次いで、正味のCEおよびTGの流れを、それぞれのサイズ・クラスにおいて生じうるリポタンパク質粒子の組成および粒子数の動的な変化を割り出すために使用することができる。方程式において使用される変数の説明を、以下に示す。
指数および下付き文字
指数iは、以下のアポB−100粒子(5つのクラス)をカバーしている:VLDL−1、VLDL−2、IDL、LDL−L、およびLDL−S(粒子サイズが小さくなるにつれて指数は大きくなる)。
指数jは、以下のHDL粒子(2つのクラス)をカバーしている:HDL1、HDL2(粒子サイズが小さくなるにつれて指数は大きくなる)。
CE:コレステロール・エステル
TG:トリグリセリド。
TG:トリグリセリド。
(変数)
Ni:クラスiの粒子の数
SAi:クラスiの粒子の表面積
CEi:クラスiの粒子の平均CE含有量
CEi syn:クラスiの新たに合成された粒子のCE含有量
TGi:クラスiの粒子の平均TG含有量
Ri:クラスiについてのCETP交換モル比
C.スカラー
syni:クラスiの粒子の合成速度
catabi:クラスiの粒子の異化速度
Vi:クラスiの粒子の特定の体積
dCE:CEの比重
dTG:TGの比重
MCE:CEのモル質量
MTG:TGのモル質量
A:粒子クラスiからの肝臓流れのスカラー
B:粒子クラスiからの末梢流れのスカラー
C:粒子クラスiから粒子クラスjへのCETP介在の流れのスカラー
W1〜W10:重み付け指数。
Ni:クラスiの粒子の数
SAi:クラスiの粒子の表面積
CEi:クラスiの粒子の平均CE含有量
CEi syn:クラスiの新たに合成された粒子のCE含有量
TGi:クラスiの粒子の平均TG含有量
Ri:クラスiについてのCETP交換モル比
C.スカラー
syni:クラスiの粒子の合成速度
catabi:クラスiの粒子の異化速度
Vi:クラスiの粒子の特定の体積
dCE:CEの比重
dTG:TGの比重
MCE:CEのモル質量
MTG:TGのモル質量
A:粒子クラスiからの肝臓流れのスカラー
B:粒子クラスiからの末梢流れのスカラー
C:粒子クラスiから粒子クラスjへのCETP介在の流れのスカラー
W1〜W10:重み付け指数。
1.それぞれの粒子クラスについての酵素による作用および受容体の介在による作用にもとづく正味のCEの流れおよび正味のTGの流れの計算
アポB−100粒子についての流れの方程式の例を、以下に示す。
アポB−100粒子についての流れの方程式の例を、以下に示す。
粒子クラスiについての肝臓CE流れ 対 SR−B1
2.一定の体積として定められる各粒子クラスの流れおよび制約にもとづく各粒子クラスについての再構成および再分類の項の計算
図1Dおよび図15A〜Fに示したように、各粒子クラスについて、基礎をなす酵素による作用および受容体の仲介による作用の正味の影響を割り出すために、正味のCEの流れおよび正味のTGの流れを、ベクトル和に組み合わせることができる。各粒子クラスが、物理的なサイズによって定められているため、粒子クラスの組成は、傾きがTGおよびCEの相対比重によって決定される斜めの線としてTG−CE空間に描かれた等体積の輪郭に沿って位置するように制約される。図示のダイアグラムにおいては、2つの正味の流れのベクトル和が、等体積の輪郭に沿っている再構成の項(この場合には、右下への正味の移動について、CEの増加およびTGの減少)と、再分類の項(この場合には、この粒子クラスからより小さい粒子クラスへと等CEの輪郭に沿って粒子が再分類されるためのTGの負の流れ)という2つの別個の項へとつながっている。
図1Dおよび図15A〜Fに示したように、各粒子クラスについて、基礎をなす酵素による作用および受容体の仲介による作用の正味の影響を割り出すために、正味のCEの流れおよび正味のTGの流れを、ベクトル和に組み合わせることができる。各粒子クラスが、物理的なサイズによって定められているため、粒子クラスの組成は、傾きがTGおよびCEの相対比重によって決定される斜めの線としてTG−CE空間に描かれた等体積の輪郭に沿って位置するように制約される。図示のダイアグラムにおいては、2つの正味の流れのベクトル和が、等体積の輪郭に沿っている再構成の項(この場合には、右下への正味の移動について、CEの増加およびTGの減少)と、再分類の項(この場合には、この粒子クラスからより小さい粒子クラスへと等CEの輪郭に沿って粒子が再分類されるためのTGの負の流れ)という2つの別個の項へとつながっている。
図1Dは、正味のTGおよびCEの流れのベクトル和について考えられる8つの構成のうちの1つのみを示している。下記の表1が、流れのさまざまな符号および相対的な大きさからもたらされるベクトル和について考えられるすべての構成を挙げている。
表1の8つのベクトル和インデックスのそれぞれは、粒子の再分類および再構成のダイナミクスを計算するために必要とされる4つの項についての方程式を定める異なる状態の組をもたらす。方程式を定める3つの状態の説明を、下記に示す。
isoTG:再分類が、等体積の制約において正味のCEの流れが正味のTGの流れに対して過剰であることから生じる。結果として、粒子が、元の粒子と同じTG含有量でより小さなクラスまたはより大きなクラスに再分類される。
isoCE:再分類が、等体積の制約において正味のTGの流れが正味のCEの流れに対して過剰であることから生じる。結果として、粒子が、元の粒子と同じCE含有量でより小さなクラスまたはより大きなクラスに再分類される。
diag:再分類が、正味の流れが両方とも正である(粒子が、より大きいクラスに再分類される)こと、または正味の流れが両方とも負である(粒子が、より小さいクラスに再分類される)ことから生じる。
方程式において使用される項についての定義は、以下のとおりである。
reclassi down:粒子がより小さい粒子クラスへと再分類される速度
reclassi up:粒子がより大きい粒子クラスへと再分類される速度
CEi reclass:再分類の際の粒子のCE組成
remodeli:粒子クラスの平均CE含有量の変化率
ベクトル和インデックスからもたらされる項および状態についての方程式を、以下の表2に示す。
reclassi up:粒子がより大きい粒子クラスへと再分類される速度
CEi reclass:再分類の際の粒子のCE組成
remodeli:粒子クラスの平均CE含有量の変化率
ベクトル和インデックスからもたらされる項および状態についての方程式を、以下の表2に示す。
B.HMG−CoAレダクターゼ阻害治療によって処置される仮想の患者のコンピュータ・シミュレーションによるリポタンパク質プロファイル
図2に示されているように、治療計画の最中の仮想の患者のリポタンパク質プロファイルの変化をリアルタイムで調べるために、各粒子クラスのCEおよびTG含有量をシミュレーションの最中の各時点において計算して、プロットすることができる。基準となる仮想の患者のベースライン(平衡)のリポタンパク質プロファイル、および典型的なHMG−CoAレダクターゼ阻害治療の後に見られるリポタンパク質プロファイルが、図16Aおよび16Bならびに17Aおよび17Bに示されている。図18Aおよび18Bは、基準となる仮想の患者のベースラインの血漿中脂質プロファイル、および典型的なHMG−CoAレダクターゼ阻害治療の後に見られる血漿中脂質プロファイルを示している。
図2に示されているように、治療計画の最中の仮想の患者のリポタンパク質プロファイルの変化をリアルタイムで調べるために、各粒子クラスのCEおよびTG含有量をシミュレーションの最中の各時点において計算して、プロットすることができる。基準となる仮想の患者のベースライン(平衡)のリポタンパク質プロファイル、および典型的なHMG−CoAレダクターゼ阻害治療の後に見られるリポタンパク質プロファイルが、図16Aおよび16Bならびに17Aおよび17Bに示されている。図18Aおよび18Bは、基準となる仮想の患者のベースラインの血漿中脂質プロファイル、および典型的なHMG−CoAレダクターゼ阻害治療の後に見られる血漿中脂質プロファイルを示している。
基準となる仮想の患者について、典型的なアトルバスタチン(HMG−CoAレダクターゼ阻害)治療の直接的効果は、肝臓のコレステロール貯蔵の減少である。この減少に、2つの独立のフィードバックループが応答し、1)合成されるアポB−100粒子の数の減少(図6Aを参照)、および2)LDL−Rの上方調節に起因するアポB−100粒子の肝臓での異化の増加(図9Dを参照)を引き起こす。これら2つの応答の組み合わせによって、血漿中を循環するアポB−100粒子の総数の正味の減少、および血漿総コレステロールの減少の両者が、同時に生じる(図18A)。このシミュレーションは、LDLクラスが粒子の数について最も顕著な減少を示し、したがってLDL−Cも大きく減少することを予測している(図18A)。シミュレーションによる治療に対するフィードバック応答は、いずれも定常状態のアポB−100のTG/粒子を大きくは左右しておらず、したがってアポB−100粒子の総数の減少によって、総血漿TGも同様に減少する(図18B)。また、治療によって誘発されるアポB−100粒子の合成の変化は、アポB−100およびHDL粒子の組成の変化も生じさせる。例えば、シミュレーションによる治療によって、リポタンパク質のTG/CE含有量曲線の右方への移動が引き起こされ、治療後のLDL−L、IDL、VLDL−2、およびVLDL−1の粒子クラスについての定常状態の平均CE/粒子の増加を反映している(図16AおよびB)。この挙動は、治療のもとでの新たな平衡状態について、新たに合成される粒子(CE/粒子が小さい)の寄与が減少することによって説明できる(ベクトル数式を参照)。さらに、血漿アポB−100粒子が少なくなることで、必然的に、CETPの介在によるアポB−100粒子からHDL−2粒子へのTGの流れが減少する。これが、シミュレーションによる治療後に観察されるHDL−2のTG/粒子の減少に反映されている(図17AおよびB)。
同様に、IIb型の異常脂質血症の仮想の患者について、ベースラインのリポタンパク質プロファイルおよび血漿中脂質プロファイルを、モデル化することができる。IIb型の異常脂質血症の仮想の患者のベースライン(平衡)のリポタンパク質プロファイル、および典型的なHMG−CoAレダクターゼ阻害治療の後に見られるリポタンパク質プロファイルが、図16Cおよび16Dならびに17Cおよび17Dに示されている。図18Cおよび18Dは、IIb型の異常脂質血症の仮想の患者のベースラインの血漿中脂質プロファイル、および典型的なHMG−CoAレダクターゼ阻害治療の後に見られる血漿中脂質プロファイルを示している。
シミュレートした40mg/日のアトルバスタチン治療に対するIIb型の異常脂質血症の仮想の患者の定量的な応答は、基準の仮想の患者について観察されたアトルバスタチンへの応答と同様である。アポB−100粒子の定常状態の平均CE/粒子が大きくなり、TG/CE含有量曲線の右方への移動をもたらしている(図16CおよびD)。HDL−2粒子は、TG/粒子の減少を呈している(図17CおよびD)。最後に、血漿TC、LDL−C、血漿TG、およびLGL−TGgは、上述の機構の結果として顕著に減少する。
Claims (20)
- 動物におけるコレステロール代謝のコンピュータ・モデルを作成するための方法であって、
リポタンパク質粒子に関係する1つ以上の生物学的プロセスを特定すること、
脂質の流れに関係する1つ以上の生物学的プロセスを特定すること、
それぞれの生物学的プロセスを数学的に表現して、リポタンパク質粒子に関係する生物学的プロセスの1つ以上の表現および脂質の流れに関係する生物学的プロセスの1つ以上の表現を生成すること、および
該生物学的プロセスの表現を組み合わせて、コレステロール代謝のコンピュータ・モデルを形成すること
を含んでいる方法。 - 前記脂質の流れに関係する1つ以上の生物学的プロセスが、肝臓組織からリポタンパク質粒子への脂質の流れ、リポタンパク質粒子から肝臓組織への脂質の流れ、或るリポタンパク質粒子から同じまたは異なるクラスまたはサブクラスの他のリポタンパク質粒子への脂質の流れ、末梢組織からリポタンパク質粒子への脂質の流れ、またはリポタンパク質粒子から末梢組織への脂質の流れの1つ以上を含んでいる生物学的プロセスである、請求項1に記載の方法。
- 前記脂質の流れに関係する生物学的プロセスの表現が、総コレステロール、総トリグリセリド、粒子クラスおよび/またはサブクラス当たりのコレステロール・エステル(CE)、粒子クラスおよび/またはサブクラス当たりのトリグリセリド(TG)含有量、肝酵素、末梢酵素、肝受容体、末梢受容体、または治療薬を表わしている変数の1つ以上を含んでいる、請求項1に記載の方法。
- 前記リポタンパク質粒子に関係する生物学的プロセスが、リポタンパク質粒子の合成、再分類、または異化に関係する生物学的プロセスである、請求項1に記載の方法。
- 前記リポタンパク質粒子に関係する生物学的プロセスの表現が、リポタンパク質粒子のクラス、リポタンパク質粒子のサブクラス、リポタンパク質粒子の数、リポタンパク質粒子のアポリポタンパク質組成、リポタンパク質粒子のコレステリルエステル(CE)含有量、リポタンパク質粒子のトリグリセリド(TG)含有量、リポタンパク質粒子の遊離コレステロール(FC)含有量、肝酵素、肝受容体、または治療薬を表わしている変数の1つ以上を含んでいる、請求項1に記載の方法。
- 前記1つ以上の生物学的プロセスが、肝臓の区画からのリポタンパク質粒子の分泌に関係している、請求項1に記載の方法。
- 生物学的プロセスを数学的に表現することが、
リポタンパク質粒子および/または脂質の流れに関係する生物学的プロセスの1つ以上からの第1の生物学的プロセスに関する変数の間の第1の数学的関係を形成すること、ならびに
第1の生物学的プロセスならびにリポタンパク質粒子および/または脂質の流れに関係する生物学的プロセスの1つ以上からの第2の生物学的プロセスに関する変数の間の第2の数学的関係を形成すること
を含んでいる、請求項1に記載の方法。 - 前記第1の数学的関係および前記第2の数学的関係における一式のパラメータ変化を生成すること、ならびに
該一式のパラメータ変化からの少なくとも1つのパラメータ変化にもとづいて、シミュレーションによる生物学的属性を生成すること
をさらに含んでおり、
該シミュレーションによる生物学的属性が、第1のコレステロール代謝の定常状態の基準パターンに関係する少なくとも1つの生物学的属性に実質的に一致している、請求項7に記載の方法。 - a)前記第1の数学的関係および前記第2の数学的関係からの少なくとも1つに関係しているパラメータを変換し、動物におけるコレステロール恒常性の変動によって値が変化する変換済み生物学的変数とすること、ならびに
b)該変換済み生物学的変数にもとづいて、シミュレーションによる一連の生物学的属性を生成すること
をさらに含んでおり、
該シミュレーションによる一連の生物学的属性が、動物の基準パターンに関係する対応する生物学的属性に実質的に一致し、第2のコレステロール代謝の定常状態を表わしている、請求項8に記載の方法。 - プロセッサによって実行されたときに動物におけるコレステロール代謝をプロセッサにシミュレートさせるコンピュータ読み取り可能なインストラクションを保存してなるコンピュータ読み取り可能な媒体であって、さらに
該インストラクションが、
a)リポタンパク質粒子に関係する1つ以上の生物学的プロセスの数学的表現を定めること、
b)脂質の流れに関係する1つ以上の生物学的プロセスの数学的表現を定めること、および
c)生物学的プロセスの該表現の間の一式の数学的関係を定め、コレステロール代謝のモデルを形成すること
を含んでいる、コンピュータ読み取り可能な媒体。 - 前記インストラクションが、
1つ以上のパラメータを指定するユーザの入力、または前記数学的表現の1つ以上に関係するユーザの入力を受け入れること
をさらに含んでいる、請求項10に記載のコンピュータ読み取り可能な媒体。 - 前記インストラクションが、
仮想のプロトコルを前記コレステロール代謝のモデルへと適用すること
をさらに含んでいる、請求項10に記載のコンピュータ読み取り可能な媒体。 - 前記仮想のプロトコルが、治療計画、診断手順、時間の経過、または食事の変化を表わしている、請求項12に記載のコンピュータ読み取り可能な媒体。
- 前記インストラクションが、
1つ以上の仮想の患者を定めること
をさらに含んでいる、請求項10に記載のコンピュータ読み取り可能な媒体。 - 動物におけるコレステロール代謝をシミュレートする方法であって、
請求項10によるコンピュータ・モデルを実行することを含んでいる方法。 - 仮想のプロトコルを前記コンピュータ・モデルへと適用して、生体系の表現型を表わす一式の出力を生成することをさらに含んでいる、請求項15に記載の方法。
- 前記仮想のプロトコルが、治療計画、診断手順、時間の経過、または食事の変化を含んでいる、請求項16に記載の方法。
- 前記表現型が、疾病状態を表わしている、請求項16に記載の方法。
- 前記コンピュータ・モデルの実行に先立って、1つ以上の数学的表現に関係する1つ以上のパラメータまたは変数を指定するユーザの入力を受け入れること
をさらに含んでいる、請求項15に記載の方法。 - a)プロセッサによって実行されたときに動物におけるコレステロール代謝をプロセッサにシミュレートさせるコンピュータ読み取り可能なインストラクションであって、
i)リポタンパク質粒子に関係する1つ以上の生物学的プロセスを数学的に表現すること、
ii)脂質の流れに関係する1つ以上の生物学的プロセスを数学的に表現すること、
iii)リポタンパク質粒子に関係する生物学的プロセスの表現および脂質の流れに関係する生物学的プロセスの表現の間の一式の数学的関係を定めること、および
iv)該一式の数学的関係へと仮想のプロトコルを適用して、一式の出力を生成すること
を含んでいるインストラクションを備える、プロセッサと
b)該コンピュータ読み取り可能なインストラクションによって定められる1つ以上の数学的表現に関して、1つ以上のパラメータを指定するユーザの入力を受信するように動作できる第1のユーザ端末と、
c)前記一式の出力を第2のユーザへと提供するように動作できる第2のユーザ端末と
を含むシステム。
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