現代の先進工業国の全医療費のおよそ3〜8パーセントが、現在、肥満の直接経費に帰せられる(Wolf, 1996)。ドイツでは、1995年に肥満および共存障害に関連する全経費(直接および間接の)が210億ドイツマルク(29.4米ドル)であると推定された(Schneider, 1996)。2030年までには、これらの経費は、たとえ肥満の有病率がさらに増加しなくても50%上昇するであろう。
肥満はしばしば、単に、健康を害する程度の脂肪組織中の異常なまたは過剰な脂肪蓄積の状態として定義される。基礎となる疾患は、望ましくない正のエネルギー収支および体重増加のプロセスである。内臓脂肪型は、皮下脂肪型より高い健康危険度に関連している。
肥満指数(BMI;kg/m2)が、粗いとはいえ最も有用な肥満の集団レベルの尺度を提供する。それを集団内の肥満の有病率およびそれに関連する危険度を推定するために用いることができる。しかしながら、BMIは身体組成や体脂肪分布を説明しない(WHO, 1998)。
また、第85および第95BMI百分位数を肥満および重症の肥満のカットオフとして用いて、肥満を定義してきた。BMI百分位数がいくつかの集団内で計算され;ドイツ国民栄養調査に基づくドイツ人集団の百分位数が、1994年以来利用可能となった(Hebebrand et al., 1994, 1996)。WHOの種々の体重区分分類は成人のみに適用することができるので、子供および若者における肥満の定義のためには、BMI百分位数を参照することが慣習となっている。
肥満の有病率の最近の上昇は、いくつかの国々の医療制度にとっての主要な関心事である。米国疾病対策予防センター(CDC)の報告書によれば、過去20年間に米国で肥満の劇的な増加があった。1985年には、少数の州のみがCDCの行動危険因子サーベイランスシステム(BRFSS)に参加して、肥満データを提供していた。1991年には、4州が15〜19パーセントの肥満有病率を報告し、20パーセント以上の率を報告した州はなかった。2002年には、20州で15〜19パーセントの肥満有病率があり;29州で20〜24パーセントの率があり;また1州は25パーセント以上の率を報告している。ヨーロッパおよび南アメリカの他の国々でも同様の傾向が観察されている。
子供および若者もこの傾向から免がれていない。全く対照的に、USAにおける増加は膨大であった。例えば1960年代と1990年の間で、体重超過および肥満が、6歳から17歳に亘って劇的に増加した。増加量は、カットオフとして第85BMI百分位数(1960年代で計算して)を用いると40%の相対的な増加に、および第95百分位数を用いると100%の増加になる。1985年と1995年の間に極端な肥満のために入院患者として治療されたドイツの子供および若者に関する横断的研究では、この10年の期間にわたる平均BMIのほとんど2kg/m2の有意な増加が報告された。この極端な群では、増大量は最上部のBMI範囲で最も著しかった。
この肥満の有病率の増加の根底に存在する機構は未知である。根底にある原因として環境要因が一般に引用されている。基本的に、増加したカロリー摂取量および低下した身体活動レベルの両方が議論されている。英国では、肥満率の増加は後者の機構によるものとされてきた。この国では、平均カロリー摂取量は、最近の20年間で多少減少さえし、その一方でテレビを見て過ごす時間の増加および家庭当たりの自動車の平均数は増加したという間接証拠から、身体活動レベルの低下が妥当な要因として指摘されている。
以前は、遺伝因子は寄与する原因と見なされていなかった。それと全く逆に、最近の20年間に肥満率の増加が観察されたという事実が、遺伝因子に責任があると考えることができない証拠と見られていた。しかし、近親結婚率の増加が、観察された現象への非常に大きな遺伝的貢献となる可能性があるという提案がされている。この仮説は、肥満した個人を非難することが最近の社会現象であり、それにより近親結婚率の増加が常にもたらされていることを示唆する証拠に基づく。結果として、子孫は、肥満の根底に存在する加算的なおよび非加算的な遺伝因子の両方の高い負荷を負う。確かに、非常に肥満した子供および若者の親の中で、極めて高い(推定された)近親結婚率が観察されている。
肥満に関連する潜在的に生命を脅かす慢性的な健康問題は:1)高血圧症、慢性心臓病、および卒中を含む心血管障害、2)インシュリン抵抗性関連疾患、すなわちインスリン非依存型糖尿病(NIDDM)、3)ある型の癌、主としてホルモン関連癌および大腸癌、および、4)胆嚢疾患、の4つの主要分野に分かれる。肥満に関連する他の問題には、呼吸困難、慢性の筋−骨格問題、皮膚病および不妊が含まれる(WHO, 1998)。
これらの障害を治療するための現在利用可能な主要な戦略には、食事制限、身体活動の増進、薬理学的および外科的手法が含まれる。成人では、旧来からの介入を用いる長期減量は例外的である。現在の薬理学的介入は、通常は5〜15キログラムの減量を引き起こすが、投薬を中止すると続いて体重増加の再発が起こる。外科治療は比較的好結果をもたらし、極度の肥満および/または重症の医学的合併症を有する患者専用である。
最近、10歳の重症の肥満少女(彼女にはレプチン欠失突然変異が検出された)が成功裡に組換えレプチンで治療された。これが、病的肥満の原因となる突然変異の検出によって治療上の利益を得た最初の個人である。
BMIの遺伝率を評価するためにいくつかの双子の研究が行なわれた。それらのうちのいくつかは1000以上の双子ペアを含んでいた。結果は非常に一貫していた:一卵性双生児のペア内の相関は、年令および性別と無関係に、通常は0.6〜0.8であった。1つの研究では、一卵性および二卵性双生児の相関が、双子を別々にまたは一緒に育てたかどうかと無関係に、基本的に同一であった。BMIの遺伝率は0.7と評価された;共有されていない環境要因が、相違の残りの30%を説明した。驚いたことに、共有されている環境要因は、相違の相当な部分を説明しなかった。カロリー超過およびカロリー不足の栄養補給の両方が、一卵性双子ペアの両方のメンバー中で同程度の体重増加または減少をもたらし、これは、遺伝因子が、環境によって引き起こされたエネルギー利用可能性の変化の体重に対する影響を調節することを示している。過食および少食における代謝反応および体脂肪分布の変化もまた、遺伝的制御下にある(Hebebrand et al., 1998 に概説されている)。
大規模な養子縁組研究によって、養子のBMIは、養父母のBMIではなく、その生物学的父母のBMIと関連していることが明らかにされた。家族研究によると、同胞のBMI間の相関は0.2〜0.4である。親子の相関は、通常はわずかにこれより低い。分離比分析が、繰り返し主要な劣性遺伝子の影響を示唆した。これらの分析に基づき、一致および不一致手法に基づいて標本数計算が行なわれた。期待に反して、一致同胞ペア手法が優れていた;同じ成果を達成するためにより少数の家族しか必要としなかった。
非常に肥満した若い指標患者に基づいた家族研究において、大多数の家族中で、母親か父親のいずれかまたは両方が、>第90十分位数のBMIを有する。>第95百分位数のBMIを有する指標患者に基づくと、それぞれの家族のおよそ20%が、>第90百分位数のBMIを有する同胞を有する。
結論として、環境因子が、個体を肥満の発症に対して多かれ少なかれ敏感にする特異的な遺伝子型と相互作用することが明らかである。さらに、主要な遺伝子が検出されたという事実にもかかわらず、スペクトラムは、そのような主要遺伝子から小さな影響のみを有する遺伝子にまで広がっていることを考慮することが必要である。
1994年の終りのレプチン遺伝子の発見(Zhang et al., 1994)に続いて、食欲および体重調節の根底に存在する調節系を明らかにする科学的な努力の事実上の爆発が起こった。それは現在最も急成長している生物医学的分野である。この発展はまた、明らかな臨床的興味により、ヒト、げっ歯動物、および他の哺乳動物における肥満と基本的にすべて関連する大規模な分子遺伝学的活動をもたらした(Hebebrand et al., 1998)。
これに関して、多くの遺伝子(その突然変異は現在知られている単一遺伝子型の肥満が引き起こす)が、げっ歯動物でクローニングされた。これらの突然変異の全身に対する影響が現在分析されている。これらのモデルは、体重調節に含まれる複雑な調節系に対する洞察を与え、最もよく知られているものにはレプチンおよびそのレセプターが含まれる。
マウスだけでなくブタでも、15以上の量的形質座位(QTL)が同定され、それらは体重調節において重要である可能性が非常に高い(Chagnon et al., 2003)。
ヒトでは、4つの非常にまれな肥満の常染色体劣性型が、1997年時点で報告された。レプチン、レプチンレセプター、プロホルモン転換酵素1、およびプロ−オピオメラノコルチン(POMC)をコードする遺伝子中の突然変異が、摂食亢進症に関連する早発型の重症の肥満を引き起こすことが示された。別の付加的な臨床的異常(例えば赤毛、原発性無月経)および/または内分泌学的異常(例えば著しく変化した血清レプチンレベルおよびACTH分泌欠乏)が、それぞれの候補遺伝子の位置を特定した。単一遺伝子動物モデルおよびヒト単一遺伝子型の両方が、体重調節の根底に存在する複雑なシステムに対する新しい洞察をもたらした。
極めて最近、ヒトにおける最初の肥満の常染色体優性型が報告された。メラノコルチン−4レセプター遺伝子(MC4R)内の2つの異なる突然変異が、これらの変異にヘテロ接合である発端者に極度の肥満をもたらすことが観察された。前述の発見とは対照的に、これらの突然変異は、極端な肥満以外の容易に分かる表現型異常を含まない(Vaisse et al., 1998; Yeo et al., 1998)。興味深いことに、両方のグループは、比較的小さな調査グループ(n=63およびn=43)の系統的スクリーニングによって、突然変異を検出した。
Hinney et al.(1999)が、合計492人の肥満の子供および若者の中でMC4Rをスクリーニングした。全体で、ハプロ不全をもたらす2つの異なる突然変異を有する4人の個体を検出した。1つは、以前に Yeo et al., (1998)によって観察されたものと同一であった。もう1つの突然変異は3人の個体で検出され、レセプターの細胞外ドメイン中に停止突然変異を引き起こした。極度の肥満個体のおよそ1パーセントが、MC4R中にハプロ不全突然変異を保持する。ハプロ不全の2つの型に加えて、Hinney et al., (1999)はまた、保存的および非保存的アミノ酸置換をもたらす追加の突然変異を検出した。興味深いことに、これらの突然変異は主として肥満調査グループで観察された。これらの突然変異の機能的な意味は、現在分かっていない。
MC4R突然変異を有する個体の同定は、薬理学的介入の可能性の観点から興味深い。例えば、すべてのメラノコルチンの中核配列であるアドレノコルチコトロピン4-10(ACTH4-10)の鼻腔内投与により、健康な対照において体重、体脂肪量、および血漿レプチン濃度が減少した。突然変異保持者がこの治療にどのように反応するだろうかという点が問題となるが、それは理論上は、その保持者の低下したレセプター密度を埋め合わせることができる可能性があろう。
体重調節に特定遺伝子が関与していることは、さらに遺伝子組換えマウスから得られたデータによって実証される。例えば、MC4R欠失マウスは、早発性肥満を発症する(Huszar et al.,1997)。
種々のグループが、肥満または肥満依存表現型(BMI、レプチンレベル、体脂肪量、その他)に関連するゲノムの探索を行っている。この手法は、系統的およびモデル非依存の両方であるので、非常に有望に見える。さらに、それが例外的な成功をおさめることが既に示されている。例えば、比較的小さな調査グループの分析によってでさえも正の連関の結果が得られた。より重要なことに、既にいくつかの発見が追試されている。次の領域:第1染色体p32、第2染色体p21、第6染色体p21、第10染色体、および第20染色体q13、の各々を少なくとも2つの独立したグループが同定した(Chagnon et al., 2003)。
発明の開示
本発明は、ここに肥満および代謝障害の診断、予防、および治療のために、ならびに治療活性を有する薬剤のスクリーニングのために用いることができるヒト肥満感受性遺伝子の同定を開示する。
本発明は、より詳細には、肥満および関連障害の診断、予防、および治療のために、ならびに治療活性を有する薬剤のスクリーニングのために用いることができるヒト肥満感受性遺伝子の同定を開示する。本発明はより具体的には、肥満に対する感受性と関係し、治療介入のための新しい標的であるコンタクチン関連タンパク質様2(CNTNAP2)遺伝子の一定の対立遺伝子を開示する。本発明は、CNTNAP2遺伝子の特定の突然変異および発現産物、ならびにこれらの突然変異に基づいた診断ツールおよびキットに関する。本発明を、低αリポタンパク血症、家族性混合型高脂血症、インスリン抵抗性症候群Xまたは多重代謝異常、冠動脈疾患、糖尿病および関連する合併症ならびに異脂肪血症を非限定的に含む冠性心疾患および代謝障害に対する素因の診断、検出、予防、および/または治療に用いることができる。
本発明を、肥満または関連障害に対する素因の診断、またはそれらからの保護、それらの検出、予防、および/または治療に用いることができる。その方法は、被験者からの試料中のCNTNAP2遺伝子もしくはポリペプチドの変化の存在を検出する工程を含み、前記変化の存在は肥満および関連障害の存在またはそれらに対する素因を示唆する。前記変化の存在はまた肥満からの保護を示唆する。
本発明の特定の目的は、被験者の肥満または関連障害の存在または素因を検出する方法にあり、その方法はCNTNAP2遺伝子座中の変化の存在を被験者からの試料中で検出する工程を含み、前記変化の存在は肥満または関連障害の存在または素因を示唆する。
本発明の追加の特定の目的は、被験者における肥満または関連障害からの保護を検出する方法であり、その方法はCNTNAP2遺伝子座中の変化の存在を被験者からの試料中で検出する工程を含み、前記変化の存在は肥満または関連障害からの保護を示唆する。
本発明の別の特定の目的は、肥満または関連障害の治療に対する被験者の応答を評価する方法にあり、その方法はCNTNAP2遺伝子座中の変化の存在を被験者からの試料中で検出する工程を含み、前記変化の存在は前記治療に対する特定の応答を示唆する。
本発明のさらに特定の目的は、肥満または関連障害の治療の被験者への悪影響を評価する方法にあり、その方法はCNTNAP2遺伝子座中の変化の存在を被験者からの試料中で検出する工程を含み、前記変化の存在は前記治療の悪影響を示唆する。
本発明はまた、被験者の肥満または関連障害を予防するための方法に関するものであって、CNTNAP2遺伝子座中の変化の存在を被験者からの試料中で検出する工程(前記変化の存在は肥満または関連障害に対する素因を示唆する)、および肥満または関連障害に対する予防療法を施す工程を含む。
好ましい実施態様では、前記変化は、肥満または関連障害に関連する1つまたはいくつかのSNPあるいはSNPのハプロタイプである。より好ましくは、肥満または関連障害に関連する前記ハプロタイプは、SNP11、SNP14、SNP40、SNP45、SNP47、SNP48、SNP49、SNP50、SNP51、SNP53、SNP56、SNP60、SNP63、SNP65、SNP77、SNP94、SNP111、SNP112、SNP113、SNP116、SNP141、SNP142、SNP156、SNP161、およびSNP163から成る群より選ばれるいくつかのSNPを含むかまたはそれらから成る。さらにより好ましくは、前記ハプロタイプは、表4に開示されているハプロタイプから選ばれる。より好ましくは、肥満または関連障害に関連する前記SNPを、SNP45、SNP48、SNP49、SNP50、SNP51、SNP53、SNP56、SNP60、SNP63、SNP65、SNP77、SNP94、SNP111、SNP112、SNP141、SNP142、SNP156、SNP161、およびSNP163から成る群より選ぶことができる。より好ましくは肥満からの保護に関連する前記SNPを、SNP45、SNP48、SNP49、SNP50、SNP51、SNP53、SNP56、SNP60、SNP63、SNP65、SNP77、SNP94、SNP111、SNP112、SNP141、SNP142、SNP156、SNP161、およびSNP163から成る群より選ぶことができる。特に好ましい実施態様の1つでは、肥満からの保護に関連する前記SNPはSNP156であってよく、より詳細にはこのSNPの対立遺伝子2であってよい。
好ましくは、CNTNAP2遺伝子座の変化を、ハイブリダイゼーション分析、配列決定分析、微小配列決定分析、あるいは対立遺伝子特異的増幅分析を実施することにより決定する。
本発明の特定の局面は、CNTNAP2遺伝子を含むゲノム領域中の肥満に関連する少なくとも1つのSNPまたはハプロタイプあるいはそれらの組合せを特異的に検出するように設計された、プライマー、プローブ、および/またはオリゴヌクレオチドを含む、物質の組成物である。より好ましくは、肥満または関連障害に関連する前記ハプロタイプは、SNP11、SNP14、SNP40、SNP45、SNP47、SNP48、SNP49、SNP50、SNP51、SNP53、SNP56、SNP60、SNP63、SNP65、SNP77、SNP94、SNP111、SNP112、SNP113、SNP116、SNP141、SNP142、SNP156、SNP161、およびSNP163から成る群より選ばれるいくつかのSNPを含むかまたはそれらから成る。さらにより好ましくは、前記ハプロタイプは表4に開示されているハプロタイプから選ばれる。より好ましくは、肥満または関連障害に関連する前記SNPを、SNP45、SNP48、SNP49、SNP50、SNP51、SNP53、SNP56、SNP60、SNP63、SNP65、SNP77、SNP94、SNP111、SNP112、SNP141、SNP142、SNP156、SNP161、およびSNP163から成る群より選ぶことができる。より好ましくは肥満からの保護に関連する前記SNPを、SNP45、SNP48、SNP49、SNP50、SNP51、SNP53、SNP56、SNP60、SNP63、SNP65、SNP77、SNP94、SNP111、SNP112、SNP141、SNP142、SNP156、SNP161、およびSNP163から成る群より選ぶことができる。特に好ましい実施態様の1つでは、肥満からの保護に関連する前記SNPはSNP156であってよく、詳細にはこのSNPの対立遺伝子2であってよい。
本発明はまた、CNTNAP2の発現または活性のモジュレーションにより被験者の肥満および/または関連障害を治療する方法に存在する。そのような治療は、例えばCNTNAP2ポリペプチド、CNTNAP2 DNA配列(CNTNAP2遺伝子座に向けられたアンチセンス配列およびRNAiを含む)、CNTNAP2の発現または活性をモジュレーションする抗CNTNAP2抗体または薬剤を使用する。
本発明はまた、遺伝子療法、タンパク質置換療法による、またはCNTNAP2タンパク質模倣剤および/または阻害剤の投与によるなどの、発症前治療または併用療法を含む、CNTNAP2遺伝子の有害な対立遺伝子を所持する個体を治療する方法に関する。
本発明のさらなる局面は、肥満または関連障害に関連するCNTNAP2遺伝子の対立遺伝子またはその遺伝子産物のモジュレーションまたはそれらへの結合に基づく、肥満または関連障害の治療のための薬剤のスクリーニングにある。
本発明のさらなる局面は、CNTNAP2ポリペプチド断片に特異的な抗体およびそのような抗体の誘導体、そのような抗体を分泌するハイブリドーマ、ならびにそれらの抗体を含む診断キット、を含む。より好ましくは、前記抗体は、変化を含むCNTNAP2ポリペプチドまたはその断片に特異的であり、前記変化はCNTNAP2の活性を修飾する。
本発明はまた、変化を含むCNTNAP2遺伝子またはその断片に関し、前記変化はCNTNAP2の活性を修飾する。本発明はさらに、変化を含むCNTNAP2ポリペプチドまたはその断片に関し、前記変化はCNTNAP2の活性を修飾する。
発明の詳細な説明
本発明は、ヒト肥満感受性遺伝子としてのCNTNAP2の同定を開示する。肥満を有する家族からの様々な核酸試料を特定のGenomeHIPプロセスに付した。このプロセスにより、前記集団中の特定の同祖的断片が同定され、それは肥満した被験者中では変化していた。同祖的断片のスクリーニングによって、我々は、第7染色体q35〜q36上のコンタクチン関連タンパク質様2遺伝子(CNTNAP2)を、肥満および関連障害に対する候補として同定した。この遺伝子は、重要な区間中に確かに存在し、肥満の遺伝的調節と矛盾しない機能的表現型を発現する。ヒト被験者の肥満に関連づけられるCNTNAP2遺伝子のSNPもまた同定された。CNTNAP2遺伝子座中に位置するSNP45、SNP47、SNP48、SNP49、SNP50、SNP51、SNP53、SNP56、SNP60、SNP63、SNP65、SNP77、SNP94、SNP111、SNP112、SNP141、SNP142、SNP156、SNP161、およびSNP163は、肥満または関連障害に関連付けられることが発見された。SNP11、SNP14、SNP40、SNP45、SNP48、SNP49、SNP50、SNP51、SNP53、SNP56、SNP60、SNP63、SNP65、SNP77、SNP94、SNP111、SNP112、SNP113、SNP116、SNP141、SNP142、SNP156、SNP161、およびSNP163から成る群より選ばれるいくつかのSNPを含む、表4に開示されたハプロタイプもまた肥満に関連していると同定された。SNP156、特に対立遺伝子2は、肥満からの保護にも関連していることが判明した。
本発明は、従ってCNTNAP2遺伝子および対応する発現産物を、肥満および関連障害の診断、予防、および治療のために、ならびに治療上有効な薬剤のスクリーニングのために用いることを提案する。
定義
肥満および代謝障害: 肥満を、健康が害される程度までに、脂肪組織中に異常なまたは過多の脂肪が蓄積した任意の状態と解釈するものとする。関連障害、疾病、または病理にはより具体的には、糖尿病(詳細にはII型糖尿病)、および糖尿病性神経障害、低αリポタンパク血症、家族性混合型高脂血症、高インスリン血症、インシュリン抵抗性、インスリン抵抗性症候群Xまたは多重代謝異常などの関連する合併症、冠疾患などの心臓血管合併症、ならびに異脂肪血症、を含む任意の代謝障害が含まれる。好ましい関連障害は、II型糖尿病、高インスリン血症、インスリン抵抗性、および糖尿病性神経障害から成る群より選ばれる。
本発明を、様々な被験体で、特に成人、子供、および出生前段階を含むヒトで用いることができる。
本発明中では、CNTNAP2遺伝子座とは、CNTNAP2のコード配列、CNTNAP2の非コード配列(例えばイントロン)、転写および/または翻訳をコントロールするCNTNAP2調節配列(例えばプロモーター、エンハンサー、ターミネーター、その他)、ならびにCNTNAP2 RNA(例えばmRNA)およびCNTNAP2ポリペプチド(例えば、前駆タンパク質および成熟タンパク質)などのすべての対応する発現産物を含む、細胞または生物体中のすべてのCNTNAP2配列または生成物を指す。CNTNAP2遺伝子座はまた、CNTNAP2遺伝子中に位置するSNPと連鎖不平衡にあるSNPを含むCNTNAP2遺伝子の周辺配列を含む。例えば、CNTNAP2座は、SNP11、SNP14、SNP40、SNP45、SNP47、SNP48、SNP49、SNP50、SNP51、SNP53、SNP56、SNP60、SNP63、SNP65、SNP77、SNP94、SNP111、SNP112、SNP113、SNP116、SNP141、SNP142、SNP156、SNP161、およびSNP163を含む周辺配列を含む。
本出願で用いられる用語「CNTNAP2遺伝子」とは、第7染色体q35〜q36上のコンタクチン関連タンパク質様2遺伝子、ならびに肥満および関連障害に対する感受性に関係するそれの対立遺伝子(例えば生殖細胞系列突然変異)を含むその変異体、類似体、および断片を指す。CNTNAP2遺伝子はまた、コンタクチン関連タンパク質2、細胞認識分子(CASPR2)、ショウジョウバエ・ニューレキシンIV(NRXN4)の同族体、とも呼ばれる。
用語「遺伝子」を、ゲノムDNA(gDNA)、相補的DNA(cDNA)、合成または半合成DNA、ならびに対応するRNAの任意の型を含む、任意の型のコードする核酸を含むと解釈するものとする。用語遺伝子には、特にCNTNAP2をコードする組換え核酸、即ち、例えば配列を集め、カットし、ライゲートし、増幅することによって人為的に作成された任意の自然に存在しない核酸分子、が含まれる。CNTNAP2遺伝子は、一本鎖などの他の形を考慮することもできるが、通常は二重鎖である。CNTNAP2遺伝子を、様々な供給源から、またDNAライブラリをスクリーニングするかまたは様々な自然の源から増幅するなどの、様々なこの分野の公知技術によって得ることができる。組換え核酸を、化学合成、遺伝子工学、酵素技術、またはそれらの組合せを含む従来技術によって調製することもできる。適切なCNTNAP2遺伝子配列を、Unigene Cluster for CNTNAP2(Hs.106552)および Unigene Representative Sequence NM_014141などの遺伝子バンクで見出すことができる。CNTNAP2遺伝子の特定の例は、配列番号1を含む。
用語「CNTNAP2遺伝子」には、配列番号1の、または上に同定した任意のコード配列の、任意の変異体、断片、または類似体が含まれる。そのような変異体には、例えば、個体間の対立遺伝子変異により自然発生した変異体(例えば多型)、肥満または関連障害と関係する突然変異対立遺伝子、および選択的スプライシング形式など、が含まれる。用語変異体にはまた、他の供給源または生物体からのCNTNAP2遺伝子配列が含まれる。変異体は、好ましくは配列番号1に実質的に相同である;すなわち、配列番号1と少なくとも約65%、通常は少なくとも約75%、好ましくは少なくとも約85%、より好ましくは少なくとも約95%のヌクレオチド配列同一性を示す。CNTNAP2遺伝子の変異体および類似体にはまた、厳格なハイブリダイゼーション条件下で上に定義される配列(あるいはそれの相補鎖)にハイブリダイズする核酸配列が含まれる。
通常の厳格なハイブリダイゼーション条件は、30℃を越える、好ましくは35℃を越える、より好ましくは42℃より上の温度、および/または約500mM未満の、好ましくは200mM未満の塩分を含む。ハイブリダイゼーション条件は、当業者が、温度、塩分および/またはSDS、SSCなどの他の試薬の濃度を修飾して調節してもよい。
CNTNAP2遺伝子の断片とは、上に開示された配列の少なくとも約8の連続したヌクレオチドの、好ましくは少なくとも15の、より好ましくは少なくとも20ヌクレオチドの、さらに好ましくは少なくとも30ヌクレオチドの、任意の部分を指す。断片は、8〜100ヌクレオチドの、好ましくは15〜100の、より好ましくは20〜100の、あらゆる可能なヌクレオチド長を含む。
CNTNAP2ポリペプチドとは、上に開示されたCNTNAP2遺伝子によってコードされる任意のタンパク質またはポリペプチドを指す。用語「ポリペプチド」とは、アミノ酸の伸張を含む任意の分子を指す。この用語には、様々な長さの、ペプチドおよびタンパク質などの分子が含まれる。ポリペプチドは、グリコシル化および/またはアセチル化、および/または化学反応またはカップリングなどにより修飾されてもよく、1つまたはいくつかの自然に存在しないまたは合成のアミノ酸を含んでもよい。CNTNAP2ポリペプチドの具体的な例は、配列番号2(NP_054860)のすべてまたは部分を含む。
用語「治療に対する応答」とは、個体中での、治療用化合物を代謝する能力、プロドラッグを有効な薬剤に変換する能力、および薬物速度論(吸収、分布、排泄)、および薬剤の薬物動力学(レセプター関連の)を非限定的に含む、治療有効性を指す。
用語「治療の悪影響」とは、薬剤の主要な薬理作用の延長に起因する治療の悪影響、または薬剤と独特のホスト因子との相互作用に起因する特異体質性有害反応、を指す。「治療の副作用」には、皮膚、血液、肝臓の毒性などの有害反応、およびさらに胃および腸管の潰瘍形成、血小板機能の障害、腎損傷、全身性じんま疹、気管支収縮、低血圧、およびショックが非限定的に含まれる。
診断
本発明は、ここで被験者のCNTNAP2遺伝子座のモニタリングに基づく診断方法を提供する。本発明中では、用語「診断」には、成人、子供および出生前の、初期、発症前段階、および後期を含む様々な病期における、検出、モニタリング、薬剤投与、比較、その他が含まれる。診断には通常、予後、発病の素因または危険性の事前評価、最も適切な治療を規定するための被験者の特性決定(薬理遺伝学)、その他が含まれる。
本発明は、個人がCNTNAP2遺伝子座中の突然変異または多型に起因して、肥満または肥満関連障害の発病の危険に瀕しているか、あるいは肥満または肥満関連障害に罹患しているかどうかを判断するための診断方法を提供する。本発明はまた、個人が治療薬に対してよい方向に応答しやすいか、あるいは個人が治療薬に対して悪い副作用を起こす危険性があるかどうかを判断する方法を提供する。
本発明のある特定の目的は、被験者における肥満または肥満関連障害の存在または素因を検出する方法にあり、その方法は被験者からの試料中に、この試料中のCNTNAP2遺伝子座中の変化を検出する工程を含む。前記変化の存在は、肥満または肥満関連障害の存在または素因を示唆する。任意で、前記方法は被験者からの試料を提供する前工程を含む。好ましくは、前記試料中のCNTNAP2遺伝子座中の変化の存在を、試料の遺伝子型決定により検出する。
本発明の別の特定の目的は、被験者中の肥満または肥満関連障害からの保護を検出する方法にある。その方法は、被験者からの試料中にCNTNAP2遺伝子座中の変化の存在を検出する工程を含み、前記変化の存在は肥満または肥満関連障害からの保護を示唆する。
好ましい実施態様では、前記変化は、肥満または関連障害に関連する1つまたはいくつかのSNPまたはSNPのハプロタイプである。より好ましくは、肥満または関連障害に関連する前記ハプロタイプは、SNP11、SNP14、SNP40、SNP45、SNP47、SNP48、SNP49、SNP50、SNP51、SNP53、SNP56、SNP60、SNP63、SNP65、SNP77、SNP94、SNP111、SNP112、SNP113、SNP116、SNP141、SNP142、SNP156、SNP161、およびSNP163から成る群より選ばれるいくつかのSNPを含むか、またはそれらから成る。さらにより好ましくは、前記ハプロタイプを表4に開示されたハプロタイプから選ぶ。より好ましくは、肥満または関連障害に関連する前記SNPを、SNP45、SNP48、SNP49、SNP50、SNP51、SNP53、SNP56、SNP60、SNP63、SNP65、SNP77、SNP94、SNP111、SNP112、SNP141、SNP142、SNP156、SNP161、およびSNP163から成る群より選ぶ。より好ましくは、肥満からの保護に関連する前記SNPを、SNP45、SNP48、SNP49、SNP50、SNP51、SNP53、SNP56、SNP60、SNP63、SNP65、SNP77、SNP94、SNP111、SNP112、SNP141、SNP142、SNP156、SNP161、およびSNP163、から成る群より選ぶことができる。特に好ましい実施態様の1つでは、肥満からの保護に関連する前記SNPは、SNP156で、より特別にはこのSNPの対立遺伝子2であり得る。
本発明の別の特定の目的は、被験者の肥満または関連障害の治療に対する応答を評価する方法にあり、その方法は(i)被験者からの試料を提供する工程、および(ii)前記試料中のCNTNAP2遺伝子座中の変化の存在を検出する工程、を含む。
本発明の別の特定の目的は、被験者の肥満または関連障害の治療に対する応答を評価する方法に存在し、この方法は被験者からの試料中で、この試料中のCNTNAP2遺伝子座中の変化の存在を検出する工程を含む。前記変化の存在は、前記治療に対する特定の応答を示唆する。好ましくは、試料の遺伝子型決定によって前記試料中のCNTNAP2遺伝子座中の変化の存在を検出する。
本発明のさらに特定の目的は、被験者への肥満または関連障害の治療の悪影響を評価する方法にあり、その方法は被験者からの試料中に、この試料中のCNTNAP2遺伝子座中の変化の存在を検出する工程を含む。前記変化の存在は前記治療への悪影響を示す。好ましくは、試料の遺伝子型決定によって前記試料中のCNTNAP2遺伝子座中の変化の存在を検出する。
ある好ましい実施態様では、前記変化は、肥満または関連障害に関連する1つまたはいくつかのSNPまたはSNPのハプロタイプである。より好ましくは、肥満または関連障害に関連する前記ハプロタイプは、SNP11、SNP14、SNP40、SNP45、SNP47、SNP48、SNP49、SNP50、SNP51、SNP53、SNP56、SNP60、SNP63、SNP65、SNP77、SNP94、SNP111、SNP112、SNP113、SNP116、SNP141、SNP142、SNP156、SNP161、およびSNP163から成る群より選ばれるいくつかのSNP、を含むか、またはそれらから成る。さらにより好ましくは、前記ハプロタイプを表4に開示されたハプロタイプから選ぶ。より好ましくは、肥満または関連障害に関連する前記SNPを、SNP45、SNP48、SNP49、SNP50、SNP51、SNP53、SNP56、SNP60、SNP63、SNP65、SNP77、SNP94、SNP111、SNP112、SNP141、SNP142、SNP156、SNP161、およびSNP163から成る群より選ぶ。より好ましくは、肥満からの保護に関連する前記SNPを、SNP45、SNP48、SNP49、SNP50、SNP51、SNP53、SNP56、SNP60、SNP63、SNP65、SNP77、SNP94、SNP111、SNP112、SNP141、SNP142、SNP156、SNP161、およびSNP163、から成る群より選ぶことができる。特に好ましい実施態様の1つでは、肥満からの保護に関連する前記SNPは、SNP156で、より特別にはこのSNPの対立遺伝子2で、あり得る。
ある追加の実施態様では、本発明は、被験者の肥満または関連障害を予防する方法に関し、その方法は、被験者からの試料中のCNTNAP2遺伝子座中の変化の存在を検出する工程(前記変化の存在は、肥満または関連障害に対する素因を示唆する)、および肥満または関連障害に対する予防治療を施す工程を含む。前記予防治療は、薬剤の投与および/または食事制限であり得る。
治療または薬剤に対する応答、あるいは治療または薬剤の副作用を、分析し予測する診断法を、特定の治療薬で個体を治療するべきかどうかを判断するために用いることができる。例えば診断法が、個体が特定の薬剤による治療に良い応答をする可能性が高いことを示す場合は、個体に薬剤を投与してもよい。反対に、診断法が、個体が特定の薬剤による治療に否定的な応答をする可能性が高いことを示す場合は、別の治療法を処方する。否定的な応答を、効果的な応答の欠如または有毒な副作用の存在のいずれかとして定義することができる。
臨床薬剤テストは、CNTNAP2のSNPの別の応用である。薬剤への応答、または薬剤の副作用を示す1以上のCNTNAP2のSNPを、上述の方法を用いて同定することができる。それに従って、そのような作用薬の臨床テストの可能な参加者をスクリーニングし、薬に良好に応答する可能性が最も高い個体を同定し、かつ副作用を経験する可能性の高い個体を除外することができる。そのようにして、調査で良い応答をする可能性の低い個体を含めた結果として測定値を低下させることなく、また望ましくない安全性問題の危険を冒さず、薬剤に良好な反応をする個体で薬物治療の有効性を測定することができる。
変化を、CNTNAP2のgDNA、RNA、またはポリペプチドのレベルで、決定することができる。任意で、検出はCNTNAP2遺伝子のすべてまたは部分の配列決定により、またはCNTNAP2遺伝子のすべてまたは一部の選択的ハイブリダイゼーションまたは増幅により、行なわれる。より好ましくは、CNTNAP2遺伝子特異的な増幅は、変化を同定する工程の前に実行される。
CNTNAP2遺伝子座中の変化は、遺伝子座のコード領域および/または非コード領域中の、任意の形式の突然変異、欠失、再配列、および/または挿入の、単独または様々な組合せであってよい。突然変異には、より具体的には点突然変異が含まれる。欠失は、2残基から全遺伝子または遺伝子座までなどの、遺伝子座のコード部分または非コード部分の2つ以上の残基の任意の領域を包含することができる。通常の欠失は、ドメイン(イントロン)または反復配列、あるいは連続約50未満の塩基対の断片、などの小さな領域に影響する。しかしより大きな欠失も生じ得る。挿入は、遺伝子座のコード部分または非コード部分での1つまたはいくつかの残基の付加を包含してもよい。挿入は、通常は遺伝子座中の1〜50塩基対の付加を含む。再配列には、配列の逆位が含まれる。CNTNAP2遺伝子座の変化は、停止コドンの創生、フレームシフト突然変異、アミノ酸置換、特定のRNAスプライシングまたはプロセシング、生成物の不安定性、切り詰められたポリペプチド産生などに帰着する可能性がある。変化は、変化した機能、安定性、ターゲティング、または構造を有するCNTNAP2ポリペプチドの生産をもたらす可能性がある。変化はまた、タンパク質発現の低下あるいは前記産生の増加を引き起こす可能性がある。
本発明による方法のある特定の実施態様では、CNTNAP2遺伝子座中の変化は、CNTNAP2遺伝子または対応する発現産物中の点突然変異、欠失および挿入、より好ましくは点突然変異および欠失から選ばれる。その変化は、CNTNAP2 gDNA、RNA、またはポリペプチドのレベルで決定することができる。
この点に関して、本発明は、ここでCNTNAP2遺伝子中のSNPおよび一定のハプロタイプを開示する、それはSNP11、SNP14、SNP40、SNP45、SNP47、SNP48、SNP49、SNP50、SNP51、SNP53、SNP56、SNP60、SNP63、SNP65、SNP77、SNP94、SNP111、SNP112、SNP113、SNP116、SNP141、SNP142、SNP156、SNP161、およびSNP163から成る群からより選ばれるSNPを含み、それらは肥満または関連障害に関連している。SNPを次の表1に報告する。
本発明による任意の方法において、CNTNAP2遺伝子中の1つまたはいくつかのSNP、ならびにCNTNAP2遺伝子中のSNPを含む一定のハプロタイプ、より詳細にはSNP11、SNP14、SNP40、SNP45、SNP47、SNP48、SNP49、SNP50、SNP51、SNP53、SNP56、SNP60、SNP63、SNP65、SNP77、SNP94、SNP111、SNP112、SNP113、SNP116、SNP141、SNP142、SNP156、SNP161、およびSNP163を含む一定のハプロタイプは、肥満または関連障害に関連し他の遺伝子中に位置する他のSNPまたはハプロタイプと組み合わせて用いることができる。
ある別の変形では、方法は、変化したCNTNAP2 RNA発現の存在を検出する工程を含む。変化したRNA発現には、変化したRNA配列の存在、変化したRNAスプライシングまたはプロセシングの存在、変化した量のRNAの存在、その他が含まれる。これらを、例えばCNTNAP2 RNAのすべてもしくは一部の配列決定、あるいは前記RNAのすべてもしくは一部の選択的なハイブリダイゼーションまたは選択的な増幅を含む、様々な公知技術によって検出することができる。
さらなる変形では、方法は、変化したCNTNAP2ポリペプチド発現の存在を検出する工程を含む。変化したCNTNAP2ポリペプチドの発現は、変化したポリペプチド配列の存在、変化した量のCNTNAP2ポリペプチドの存在、変化した組織分布の存在、その他を含む。これらを例えば、配列決定および/または特異的なリガンド(抗体など)への結合を含む、様々な公知技術により検出することができる。
上に示したように、変化したCNTNAP2遺伝子もしくはRNAの発現または配列を検出または定量するために、配列決定、ハイブリダイゼーション、増幅、および/または特異的なリガンド(抗体などの)への結合を含む、当該技術分野における様々な公知技術を用いることができる。他の適切な方法には、対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチド(ASO)、対立遺伝子特異的増幅、サザンブロット(DNA用)、ノーザンブロット(RNA用)、一本鎖立体構造解析(SSCA)、PFGE、蛍光インサイチューハイブリダイゼーション(FISH)、ゲル泳動、固定変性ゲル電気泳動法、ヘテロ二本鎖分析、RNアーゼ保護、化学的ミスマッチ切断、ELISA、ラジオイムノアッセイ(RIA)、および免疫酵素分析(IEMA)、が含まれる。
これらの手法(例えばSSCAおよびCGGE)のうちのいくつかは、変化した配列の存在による核酸の電気泳動度の変化に基づく。これらの技術により、変化した配列がゲル上の移動度の変化により可視化される。次に、変化を確認するために断片の配列決定を行う。
他のいくつかは、被験者からの核酸と、野生型または変化したCNTNAP2遺伝子またはRNAに特異的なプローブとの間の特異的ハイブリダイゼーションに基づく。プローブは、懸濁液中にあっても、基板上に固定されていてもよい。プローブを、ハイブリッドの検出を容易にするために、通常はラベルする。
ノーザンブロット、ELISA、およびRIAなどのこれらの手法のいくつかは、ポリペプチド配列または発現レベルを評価することに特に適する。これらの後者は、ポリペプチドに特異的なリガンド、より好ましくは特異的抗体の使用を要する。
ある特定の好ましい実施態様では、方法は、被験者からの試料中の変化したCNTNAP2遺伝子発現プロフィールの存在を検出する工程を含む。上に示したように、より好ましくはこの工程を、前記試料中に存在する核酸の配列決定、選択的ハイブリダイゼーション、および/または選択的増幅により、遂行することができる。
配列決定
配列決定を、自動シーケンサーを用い、当該技術分野における周知技術を用いて実施することができる。配列決定を、完全なCNTNAP2遺伝子について、またはより好ましくはその特異的なドメインについて、通常は有害突然変異または他の変化を所持することが知られているかその疑いのあるドメインについて、行なうことができる。
増幅
増幅は、核酸複製を開始する役目をする相補的な核酸配列間の特異的なハイブリッド形成に基づく。
増幅は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、リガーゼ連鎖反応(LCR)、鎖置換増幅(SDA)、および核酸配列に基づく増幅(NASBA)などの、当該技術分野における様々な公知技術によって行なうことができる。これらの技術を、市販の試薬およびプロトコルを用いて実施することができる。好ましい技術は、対立遺伝子特異的なPCRまたはPCR−SSCPを用いる。増幅には、通常反応を開始するために特異的核酸プライマーを使用することが必要である。
CNTNAP2遺伝子または遺伝子座からの配列を増幅するために役立つ核酸プライマーは、前記遺伝子座の標的領域に隣接するCNTNAP2遺伝子座の一部と特異的にハイブリダイズすることができ、前記標的領域は肥満または関連障害を有するある被験者中では変化している。そのような標的領域の例を表1に示す。
表1に示されているSNPを含むCNTNAP2の標的領域を増幅するために用いることができるプライマーを、配列番号1の配列またはCNTNAP2のゲノム配列に基づいて設計する。特定の実施態様では、プライマーを配列番号3〜27の配列に基づいて設計することができる。
本発明の別の特定の目的は、周辺領域を含むCNTNAP2遺伝子または遺伝子座からの配列を増幅するために役立つ核酸プライマーにある。そのようなプライマーは、好ましくはCNTNAP2遺伝子座中の核酸配列に、相補的でありまた特異的にハイブリダイズする。特定のプライマーは、前記遺伝子座の標的領域に隣接するCNTNAP2遺伝子座の一部と特異的にハイブリダイズすることができ、前記標的領域は、肥満または関連障害を有する一定の被験者中で変化している。
本発明はまた、核酸プライマーに関し、前記プライマーは、肥満または関連障害を有する一定の被験者中で変化したCNTNAP2コード配列(例えば遺伝子またはRNA)の一部と相補的であり、それに特異的にハイブリダイズする。この点では、本発明の特定のプライマーは、CNTNAP2遺伝子またはRNA中の変化した配列に特異的である。そのようなプライマーを用いることによる、増幅生成物の検出は、CNTNAP2遺伝子座中の変化の存在を示す。対照的に、増幅生成物の不存在は、特異的な変化が試料中に存在しないことを示す。
本発明の通常のプライマーは、長さ約5〜60ヌクレオチドの、より好ましくは長さ約8〜約25ヌクレオチドの、一本鎖核酸分子である。配列は、CNTNAP2遺伝子座の配列から直接導出することができる。高い特異性を保証するために完全な相補性が好ましい。しかし、一定のミスマッチは許される。
本発明はまた、上述の核酸プライマーまたは1対の核酸プライマーの、被験者中の肥満または関連障害の存在または素因を検出する方法における、または肥満または関連障害の治療に対する被験者の応答を評価する方法における使用に関する。
選択的ハイブリダイゼーション
ハイブリダイゼーション検出法は、核酸配列変化を検出する役割を果たす相補的な核酸配列との間の特異的なハイブリッド形成に基づく。
ある特定の検出技術には、野生型または変化したCNTNAP2遺伝子またはRNAに特異的な核酸プローブの使用およびそれに続くハイブリッドの存在の検出が含まれる。プローブは、懸濁液中に存在しても、または基板もしくは支持体上に固定されてもよい(核酸アレイまたはチップ技術のように)。プローブを、ハイブリッドの検出を容易にするために、通常はラベルする。
その際、本発明の特定の実施態様は、被験者からの試料を、変化したCNTNAP2遺伝子座に特異的な核酸プローブと接触させ、そしてハイブリッド形成を評価する工程を含む。ある特定の好ましい実施態様では、方法は、試料を野生型CNTNAP2遺伝子座およびそれらの様々な変化形に対してそれぞれ特異的な1組のプローブと、同時に接触させる工程を含む。この実施態様では、試料中の様々な形のCNTNAP2遺伝子座中の変化の存在を直接検出することが可能である。さらに様々な被験者からの様々な試料を並行して処理してもよい。
本発明中では、プローブとは、CNTNAP2遺伝子またはRNA(の標的部分)と相補的であり、特異的ハイブリダイゼーションが可能であって、肥満または関連障害を起こしやすいかまたはそれに関連するCNTNAP2対立遺伝子に関連するポリヌクレオチド多型の検出に適するポリヌクレオチド配列を指す。プローブは、好ましくはCNTNAP2遺伝子、RNA、またはそれらの標的部分に完全に相補的である。プローブは通常、8〜1000の、例えば10〜800の、より好ましくは15〜700の、典型的には20〜500ヌクレオチドの長さの、一本鎖核酸を含む。より長いプローブも同様に用いることができることは当然である。本発明のある好ましいプローブは、長さ8〜500ヌクレオチドの一本鎖核酸分子であり、CNTNAP2遺伝子またはRNAの変化を有する領域へ特異的にハイブリダイズすることができる。
本発明のある特異的な実施態様は、変化した(例えば、突然変異した)CNTNAP2遺伝子またはRNAに特異的な核酸プローブ、即ち前記変化したCNTNAP2遺伝子またはRNAに特異的にハイブリダイズし、前記変化を欠くCNTNAP2遺伝子またはRNAには本質的にハイブリダイズしない核酸プローブである。特異性とは、標的配列へのハイブリダイゼーションが、非特異的ハイブリダイゼーションによって生成されたシグナルと識別することができる特異的なシグナルを生成することを示す。完全に相補的な配列が、本発明によるプローブを設計するために好ましい。しかし、特異的シグナルが非特異的ハイブリダイゼーションと識別できる限り、ある程度のミスマッチが許されることは当然である。
そのようなプローブの特定の例は、上の表1に挙げられた点突然変異を有するCNTNAP2遺伝子またはRNAを含むゲノム領域の標的部分に相補的な核酸配列である。より詳細には、プローブは、配列番号3〜27またはSNPを含むそれらの断片、あるいはそれらの相補的配列から成る群より選ばれる配列を含むことができる。
プローブ配列は、本出願中に提供されるCNTNAP2遺伝子およびRNAの配列から導出することができる。プローブのヌクレオチド置換ならびに化学的修飾を行なってもよい。そのような化学的修飾は、ハイブリッドの安定性を増加させるか(例えばインターカレート基)またはプローブをラベルするために実施される。ラベルの代表例には、放射能、蛍光、ルミネセンス、酵素ラベル、その他が非限定的に含まれる。
本発明はまた、被験者中の肥満または関連障害の存在または素因を検出する方法、または肥満または関連障害の治療に対する被験者の応答を評価する方法、における上述の核酸プローブの使用に関する。
特異的リガンド結合
上に示したように、CNTNAP2遺伝子座中の変化を、CNTNAP2のポリペプチド配列または発現レベルの変化についてスクリーニングすることにより検出することもできる。この際、本発明の具体的な実施態様は、試料をCNTNAP2ポリペプチドに特異的なリガンドと接触させる工程、および複合体の形成を測定する工程を含む。
特異的抗体などの種々の型のリガンドを用いることができる。ある特定の実施態様では、試料をCNTNAP2ポリペプチドに特異的な抗体と接触させ、免疫複合体の形成が測定される。ELISA、放射免疫定量法(RIA)および免疫酵素分析(IEMA)などの、免疫複合体を検出するための様々な方法を用いることができる。
本発明中では、抗体とは、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、ならびに同一の抗原特異性を実質的に有するそれらの断片または誘導体を指す。断片には、Fab、Fab'2、CDR領域などが含まれる。誘導体には、一本鎖抗体、ヒト化抗体、多機能抗体、その他が含まれる。
CNTNAP2ポリペプチドに特異的な抗体とは、CNTNAP2ポリペプチドを選択的に結合する抗体、即ちCNTNAP2ポリペプチドまたはそのエピトープを含む断片に対して作成された抗体を指す。他の抗原への非特異的結合が生じてもよいが、標的CNTNAP2ポリペプチドへの結合がより高い親和性で生じて、非特異的結合から確実に区別することができる。
ある特定の実施態様では、方法は、被験者からの試料を、変化した形のCNTNAP2ポリペプチドに特異的な抗体(でコートされた支持体)と接触させ、免疫複合体の存在を測定する工程を含む。ある特定の実施態様では、試料を、同時にまたは並行してあるいは連続して、野生型CNTNAP2ポリペプチドおよびその様々な変化した形などの、種々の形のCNTNAP2ポリペプチドに特異的な様々な抗体(でコートされた支持体)と接触させてもよい。
本発明はまた、被験者の肥満または関連障害の存在または素因を検出する方法中での、あるいは肥満または関連障害の治療に対する被験者の反応を評価する方法中での、上に述べたリガンド、好ましくは抗体、それらの断片または誘導体、の使用に関する。
本発明はまた、被験者からの試料中の、CNTNAP2遺伝子またはポリペプチドの変化、CNTNAP2遺伝子またはポリペプチドの発現の変化、および/またはCNTNAP2活性の変化、の存在を検出するための製品および試薬を含む診断キットに関する。本発明による前記診断キットは、本発明に記述されている任意のプライマー、任意の対のプライマー、任意の核酸プローブ、および/または任意のリガンド、好ましくは抗体を含む。本発明による前記診断キットは、さらにハイブリダイゼーション、増幅、または抗原抗体免疫反応を行なうための試薬および/またはプロトコルを含むことができる。
診断方法を、インビトロ、エクスビボ、またはインビボで、好ましくはインビトロまたはエクスビボで、遂行することができる。それは、被験者からの試料を用いて、CNTNAP2遺伝子座の状態を評価する。試料は、被験者に由来する任意の生体試料でよく、それは核酸またはポリペプチドを含む。そのような試料の例には、体液、組織、細胞試料、器官、生検、その他が含まれる。主な好ましい試料は、血液、血漿、唾液、尿、精液等である。出生前の診断を、例えば胎児細胞または胎盤細胞を検査して行なってもよい。従来技術によって試料を集め、直接診断に用いるかまたは貯蔵してもよい。核酸またはポリペプチドの検査に対する有用性を与えるかまたは改善するために、試料を、方法を実行する前に処理してもよい。処理には、例えば溶解(例えば、機械的、物理的、化学的、その他)、遠心分離などが含まれる。さらに、核酸および/またはポリペプチドを従来技術によって予め精製するか濃縮してもよく、および/または複雑さを減少させてもよい。核酸およびポリペプチドを、酵素または他の化学的または物理的処理により処理して、それらの断片を生成してもよい。権利請求する方法の高い感度を考えれば、分析を行なうためには非常に少ない量の試料で十分である。
示したように、変化したCNTNAP2遺伝子座の存在を評価するために、試料をプローブ、プライマーまたはリガンドのような試薬と好ましくは接触させる。接触を、プレート、チューブ、ウエル、グラスなどの任意の適当な装置中で行なうことができる。具体的な実施態様では、接触を、核酸アレイまたは特異的リガンドアレイなどの試薬でコートされた基板上で行なう。基板は、ガラス、プラスチック、ナイロン、紙、金属、ポリマー、その他を含む任意の支持体などの、固体または半固体の基板でよい。基板は、スライド、薄膜、ビーズ、カラム、ゲルなどの様々な形および大きさでよい。接触を、試薬と試料の核酸もしくはポリペプチドとの間の複合体を形成するために適当な任意の条件下で行うことができる。
試料中における変化したCNTNAP2ポリペプチド、RNA、またはDNAの所見は、被験者中の変化したCNTNAP2遺伝子座の存在を示しており、それを肥満または関連障害の存在、素因、または進行の段階に関連づけることができる。例えば、生殖細胞系列のCNTNAP2突然変異を有する個体は、肥満または関連障害を発症する増大した危険を有する。被験者中の変化したCNTNAP2遺伝子座の存在の決定はまた、より有効であり個別化された適切な治療介入の設計を可能にする。さらに、発症前レベルのこの決定は、予防処置を適用することを可能にする。
連鎖不平衡
一旦第1のSNPを関心対象のゲノム領域中で、より詳細にはCNTNAP2遺伝子座中で同定した場合は、当業者は、この第1のSNPと連鎖不平衡にある新たなSNPを容易に同定することができる。実際、肥満または関連障害に関連する第1のSNPと連鎖不平衡にある任意のSNPも、この形質に関連しているであろう。したがって、一旦与えられたSNPと肥満または関連障害との関連性が実証されたならば、この形質に関連する追加のSNPを発見することは、この特定の領域のSNPの密度を増加させるために大変重要である。
所与のSNPと連鎖不平衡にある追加のSNPの同定には:(a)複数の個体からの、第1のSNPを含むまたはそれを囲むゲノム領域からの断片を増幅する工程;(b)前記第1のSNPを保持するまたはそれを囲むゲノム領域で、第2のSNPを同定する工程;(c)前記第1のSNPと第2のSNPの間の連鎖不平衡分析を行なう工程;および(d)前記第2のSNPを、前記第1のマーカーと連鎖不平衡であるとして選択する工程、が含まれる。工程(b)および(c)を含む副次的組合せも考えられる。
周知の方法を用いることにより、当業者は過度な実験なしに、SNPを同定し連鎖不平衡分析を行なう方法を実行することができる。
連鎖不平衡にあるこれらのSNPも、本発明による方法中で、詳細には本発明による診断方法中で、用いることができる。
例えば、クローン病の連鎖遺伝子座が、第5染色体q31上の18cMに跨る大きな領域へマッピングされた(Rioux et al., 2000 and 2001)。全領域に亘るマイクロサテライトマーカーおよびSNPの濃密なマップを用いて、連鎖不平衡(LD)の強い証拠が見出された。LDの証拠を見つけて、著者らは、超高密度のSNPマップを開発し、このマップから選ばれたマーカーのより濃密なコレクションを研究した。多重遺伝子座分析によって、各々独立してTDTを用いて関連付けられた複数のSNPによって特徴づけられる単一の共通危険ハプロタイプが明らかにされた。これらのSNPは危険ハプロタイプに特有であり、互いにほとんど完全なLDにあることにより、その情報量において本質的に同一であった。これらのSNPの等価な性質が、遺伝的証拠だけに基づいてこの領域内の原因となる突然変異を同定することを不可能にしている。
原因突然変異
肥満または関連障害の原因であるCNTNAP2遺伝子中の突然変異を、肥満または関連障害を示している患者からのおよび対照個体からのCNTNAP2遺伝子配列を比較することにより、同定することができる。CNTNAP2のSNPと肥満または関連障害との同定された関連性に基づいて、同定された遺伝子座を突然変異について走査することができる。好ましい実施態様では、CNTNAP2遺伝子のエクソンおよびスプライシング部位などの機能領域、プロモーターおよび他の調節領域を、突然変異について走査する。好ましくは、肥満または関連障害を示す患者は、肥満または関連障害に関連することが示された突然変異を保持し、また対照の個体は、肥満または関連障害に関連する突然変異または対立遺伝子を保持しない。肥満または関連障害を示す患者は、肥満または関連障害に関連することが示された突然変異を、対照個体より高い頻度で保持することもあり得よう。
そのような突然変異を検出するために用いる方法は、一般に次の工程を含む:肥満または関連障害を示す患者および対照個体からのCNTNAP2遺伝子のDNA試料からの、肥満または関連障害に関連するSNPまたはSNPのグループを含むCNTNAP2遺伝子領域を増幅する工程;増幅された領域を配列決定する工程;肥満または関連障害を示す患者と対照個体からの、CNTNAP2遺伝子のDNA配列を比較する工程;肥満または関連障害を示す患者に特異的な突然変異を決定する工程。
したがって、CNTNAP2遺伝子中の原因突然変異の同定を、当業者は周知の方法を用いて、過度な実験なしに実行することができる。
例えば、次の例において、型通りの方法を用いることにより原因突然変異が同定された。
Hugot et al.(2001)は、以前にクローン病への感受性に連関していると分かった第16染色体の領域中の、クローン病への感受性に関する遺伝子変異体を同定するために、ポジショナルクローニング戦略を適用した。可能性のある感受性遺伝子座の位置を精密にするために、26個のマイクロサテライトマーカーの遺伝子型を決定し、伝達不平衡テストを用いて、クローン病との関連性をテストした。境界線上の有意な関連性がマイクロサテライトマーカーD16S136の1つの対立遺伝子との間で見出された。周辺領域から追加の11のSNPが選ばれ、いくつかのSNPが有意な関連性を示した。この領域からのSNP5−8は、NOD2/CARD15遺伝子の単一のエクソン中に存在することが見出され、非同義変異体であることが示された。これに促されて著者らは、50人のCD患者中のこの遺伝子の完全なコード配列を配列決定した。2つの追加の非同義突然変異(SNP12およびSNP13)が見出された。SNP13が、家系伝達不平衡テストを用いて、最も有意に関連していた(p=6×10-6)。別の独立した研究において、同一の変異体が、さらに12人の罹患個体からのこの遺伝子のコード領域を配列決定して4つの対照と比較することにより見出された(Ogura et al., 2001)。SNP13の希な対立遺伝子は1塩基対挿入に対応し、NOD2/CARD15タンパク質をトランケートすると予測された。この対立遺伝子は、対照と比較して有意に低い頻度でとはいえ、正常に健康な個体中にも存在した。
同様に、Lesage et al.(2002)は、166人の散発性の患者および287人の家族性のケースを含むCDを有する453人の患者、159人の潰瘍性大腸炎(UC)を有する患者、および103人の健康な対照被験者、の中のCARD15の突然変異の分析を、コード領域の系統的配列決定によって行なった。同定された67の配列バリエーションのうち9が、CDを有する患者のなかで >5%の対立遺伝子頻度を有していた。そのうちの6つは多型と考えられ、3つ(SNP12−R702W、SNP8−G908RおよびSNP13−1007fs)はCDに対する感受性に独立して関連していることが確かめられた。27のまれな追加の突然変異もまた、疾病を引き起こす突然変異(DCM)の可能性があると考えられた。3つの主な変異体(R702W、G908R、および1007fs)はそれぞれ、全CD突然変異の32%、18%、および31%に相当し、一方で27のまれな突然変異の合計は、DCMの19%に相当した。全体として、突然変異の93%が、遺伝子の遠位1/3に位置した。どの突然変異も、UCに関係しないことが分かった。対照的に、CDを有する患者の50%が、二重突然変異を有していた17%を含めて、少なくとも1つのDCMを所持していた。
薬剤スクリーニング
本発明は、さらに薬剤候補またはリード化合物のスクリーニングのための新しい標的および方法を提供する。この方法は、結合分析および/または機能分析を含み、またインビトロで、細胞システムで、動物中、その他で、行なうことができる。
本発明のある特定の目的は、肥満または関連障害に有効な化合物を選択する方法であり、この方法は、インビトロでテスト化合物を本発明によるCNTNAP2遺伝子またはポリペプチドと接触させて、前記テスト化合物が前記CNTNAP2遺伝子またはポリペプチドを結合する能力を測定する工程を含む。前記遺伝子またはポリペプチドへの結合は、化合物が前記標的の活性をモジュレートする能力、したがって被験者中の肥満または関連障害をもたらす経路に影響する能力に関する示唆を与える。好ましい実施態様では、方法は、インビトロでテスト化合物を本発明によるCNTNAP2ポリペプチドまたはその断片と接触させる工程、および前記テスト化合物が前記CNTNAP2ポリペプチドまたは断片を結合する能力を測定する工程、を含む。断片は、好ましくはCNTNAP2ポリペプチドの結合部位を含む。好ましくは、前記CNTNAP2遺伝子またはポリペプチドあるいはそれらの断片は、変化したまたは突然変異したCNTNAP2遺伝子またはポリペプチド、あるいは変化または突然変異を含むそれらの断片である。
本発明のある特定の目的は、肥満または関連障害に有効な化合物を選択する方法にあり、前記方法は、インビトロでテスト化合物を本発明によるCNTNAP2ポリペプチドまたはそれの結合部位を含む断片と接触させる工程、および前記テスト化合物が前記CNTNAP2ポリペプチドまたはその断片を結合する能力を測定する工程を含む。好ましくは、前記CNTNAP2ポリペプチドまたはその断片は、変化したまたは突然変異したCNTNAP2ポリペプチドあるいは変化または突然変異を含むそれの断片である。
さらに特定の実施態様では、方法は、本発明によるCNTNAP2ポリペプチドを発現している組換えホスト細胞をテスト化合物と接触させる工程、および前記テスト化合物が前記CNTNAP2を結合し、CNTNAP2ポリペプチドの活性をモジュレートする能力を測定する工程を含む。好ましくは、前記CNTNAP2ポリペプチドまたはその断片は、変化したまたは突然変異したCNTNAP2ポリペプチドあるいは変化または突然変異を含むその断片である。
結合の測定を、テスト化合物のラベル、ラベルされた参照リガンドとの競合などの様々な技術によって行なってもよい。
本発明のさらなる目的は、肥満または関連障害に有効な化合物を選択する方法にあり、前記方法は、インビトロでテスト化合物を本発明によるCNTNAP2ポリペプチドと接触させる工程、および前記テスト化合物が前記CNTNAP2ポリペプチドの活性をモジュレートする能力を測定する工程を含む。好ましくは、前記CNTNAP2ポリペプチドまたはその断片は、変化したまたは突然変異したCNTNAP2ポリペプチドあるいは変化または突然変異を含むその断片である。
本発明のさらなる目的は、肥満または関連障害に有効な化合物を選択する方法にあり、前記方法は、インビトロでテスト化合物を本発明によるCNTNAP2遺伝子と接触させる工程および前記テスト化合物が前記CNTNAP2遺伝子の発現をモジュレートする能力を測定する工程を含む。好ましくは、前記CNTNAP2遺伝子またはそれの断片は、変化したまたは突然変異したCNTNAP2遺伝子あるいは変化または突然変異を含むそれの断片である。
ある別の実施態様では、本発明は、活性化合物、特に肥満または関連障害に有効な化合物をスクリーニングし、選択し、または同定する方法に関し、この方法は、テスト化合物を、レポーターコンストラクトを含む組換えホスト細胞と接触させる工程(前記レポーターコンストラクトは、CNTNAP2遺伝子プロモーターのコントロール下のレポーター遺伝子を含む)、およびレポーター遺伝子の発現をモジュレートする(例えば、刺激するまたは減少させる)テスト化合物を選択する工程を含む。好ましくは、前記CNTNAP2遺伝子プロモーターまたはその断片は、変化したまたは突然変異したCNTNAP2遺伝子プロモーターあるいは変化または突然変異を含むその断片である。
スクリーニング方法の特定の実施態様では、モジュレーションは阻害である。スクリーニング方法の別の特定の実施態様では、モジュレーションは活性化である。
上記のスクリーニング分析を、プレート、チューブ、ディッシュ、フラスコなどの任意の適当な装置中で行なうことができる。通常は、マルチウエルプレート中で分析を行なう。いくつかのテスト化合物を平行して分析することができる。さらに、テスト化合物は様々な起源、性質、および組成であってよい。それは、単離された、または他の物質との混合物中の、脂質、ペプチド、ポリペプチド、核酸、小さな分子などの任意の有機物または無機物であってよい。化合物は、例えば生成物の組合せライブラリのすべてまたは一部でよい。
医薬組成物、治療法
本発明のさらなる目的は、(i)上述のCNTNAP2ポリペプチドまたはその断片、CNTNAP2ポリペプチドまたはその断片をコードする核酸、ベクターまたは組換えホスト細胞、および(ii)薬学的に許容される担体または賦形剤、を含む医薬組成物である。
本発明はまた、被験者の肥満または関連障害を治療するかまたは予防する方法に関し、その方法は、前記被験者に、機能的な(例えば、野生型の)CNTNAP2ポリペプチドまたはそれをコードする核酸を投与する工程を含む。
本発明の別の実施態様は、被験者の肥満または関連障害を治療または予防する方法に存在し、その方法は、前記被験者に、本発明によるCNTNAP2遺伝子またはタンパク質の発現または活性をモジュレートする、好ましくは活性化するか模倣する化合物を投与する工程を含む。前記化合物は、CNTNAP2のアゴニストまたはアンタゴニスト、CNTNAP2のアンチセンスまたはRNAi、本発明によるCNTNAP2ポリペプチドに特異的な抗体またはその断片または誘導体であってよい。方法のある特定の実施態様では、モジュレーションは阻害である。方法の別の特定の実施態様では、モジュレーションは活性化である。
本発明はまた一般に、機能的CNTNAP2ポリペプチド、それをコードする核酸、あるいは本発明によるCNTNAP2遺伝子またはタンパク質の発現または活性をモジュレートする化合物の、被験者の肥満または関連障害を治療するかまたは予防するための医薬組成物の製造における使用に関する。前記化合物は、CNTNAP2のアゴニストまたはアンタゴニスト、CNTNAP2のアンチセンスまたはRNAi、本発明によるCNTNAP2ポリペプチドに特異的な抗体または断片あるいはそれらの誘導体であり得る。方法の特定の実施態様では、モジュレーションは阻害である。方法の別の特定の実施態様では、モジュレーションは活性化である。
本発明は、肥満または関連障害とCNTNAP2遺伝子座の間の相関を実証する。本発明は、したがって治療介入の新しい標的を提供する。被験者の、特に変化したCNTNAP2遺伝子座を保持する被験者の、CNTNAP2活性または機能を回復またはモジュレートするために様々な手法を構想することができる。そのような被験者への野生型機能の供給が、病理的細胞または生物体中の肥満および関連する障害の表現型発現を抑制することが期待される。そのような機能の供給を、遺伝子またはタンパク質療法によって、またはCNTNAP2ポリペプチド活性をモジュレートまたは模倣する化合物(例えば上記のスクリーニング分析で同定されたアゴニスト)の投与によって、遂行することができる。
野生型のCNTNAP2遺伝子またはその機能的部分を、それを必要とする被験者の細胞へ、上述のようなベクターを用いて導入することができる。ベクターはウイルスベクターまたはプラスミドでよい。遺伝子を、裸のDNAとして導入してもよい。遺伝子は、受容ホスト細胞のゲノムへ組込まれるように提供しても、あるいは染色体外部に留まるように提供してもよい。組込みは、ランダムにでも、または相同組換えを通して行われるなどの正確に定められた部位に起ってもよい。特に、CNTNAP2遺伝子の機能的なコピーを、相同組換えにより細胞中の変化したバージョンと置き換えて挿入してもよい。さらなる技術には、遺伝子銃、リポソームを介するトランスフェクション、カチオン脂質を介するトランスフェクション、その他が挙げられる。遺伝子療法を、直接の遺伝子注入により、またはエクスビボで調製された機能的CNTNAP2ポリペプチドを発現している遺伝的修飾細胞の投与によって遂行してもよい。
被験者中の機能的CNTNAP2活性を回復させるためにまたは細胞中の有害な表現型を抑制するために、CNTNAP2活性を有する他の分子(例えばペプチド、薬剤、CNTNAP2アゴニスト、または有機化合物)を用いることもできる。
細胞中の機能的なCNTNAP2遺伝子機能の回復を、肥満または関連障害の発症を予防するかあるいは前記疾病の進行を低下させるために用いることができる。そのような治療は、細胞、特に有害な対立遺伝子を保持する細胞の肥満に関連する表現型を抑制することができる。
本発明のさらなる局面および利点を、次の実験の項で開示することになる。それは説明であって、本出願の範囲を制限するものではないと見なすべきである。
遺伝子、ベクター、組換え細胞、およびポリペプチド
本発明のさらなる局面は、診断、治療、またはスクリーニングで使用するための新しい生成物にある。これらの生成物は、CNTNAP2ポリペプチドまたはその断片をコードする核酸分子、これを含むベクター、組換えホスト細胞、および発現したポリペプチドを含む。
より詳細には、本発明は、変化したかまたは突然変異したCNTNAP2遺伝子または前記変化もしくは突然変異を含むその断片に関する。本発明はまた、変化したかもしくは突然変異したCNTNAP2ポリペプチドまたは前記変化もしくは突然変異を含むその断片をコードする核酸分子に関する。前記変化もしくは突然変異は、CNTNAP2活性を修飾する。修飾された活性は、増加または減少することがあり得る。本発明はさらに、改変されたかもしくは突然変異されたCNTNAP2遺伝子または前記変化もしくは突然変異を含むその断片を含むか、あるいは変化したかもしくは突然変異したCNTNAP2ポリペプチドまたは前記変化もしくは突然変異を含むその断片をコードする核酸分子を含む、ベクター、組換えホスト細胞、ならびに発現されたポリペプチド、に関する。
本発明のさらなる目的は、本発明によるCNTNAP2ポリペプチドをコードする核酸を含むベクターである。ベクターは、クローニングベクター、またはより好ましくは発現ベクター、即ちコンピテントなホスト細胞中の前記ベクターからCNTNAP2ポリペプチドの発現を引き起こす調節配列を含むベクター、でよい。
これらのベクターを、CNTNAP2ポリペプチドをインビトロ、エクスビボまたはインビボで発現するため、遺伝子組換えのまたは「ノックアウト」の非ヒト動物を作成するため、核酸を増幅するため、アンチセンスRNAを発現するため、などに用いることができる。
本発明のベクターは、通常は、例えばプロモーター、ポリAなどの調節配列に操作可能な状態で連関した本発明によるCNTNAP2のコード配列を含む。用語「操作可能な状態で連関した」とは、コード配列および調節配列が機能的に関連していて、調節配列がコード配列の発現(例えば転写)を引き起こすことをいう。ベクターはまた、複製マーカーおよび/または選択可能マーカーの1つまたはいくつかの起点を含んでいてもよい。プロモーター領域は、コード配列に関して相同または非相同であってよく、またインビボの使用を含む任意の適切なホスト細胞中で、遍在的で、構成的で、調節され、および/または組織特異的な発現を提供することができる。プロモーターの例には、バクテリアプロモーター(T7、pTAC、Trpプロモーター、その他)、ウイルスプロモーター(LTR、TK、CMV−IE、その他)、哺乳動物遺伝子プロモーター(アルブミン、PGKなど)、その他が含まれる。
ベクターは、プラスミド、ウイルス、コスミド、ファージ、BAC、YACなどでよい。プラスミドベクターを、pBluescript、pUC、pBRなどの市販のベクターから調製してもよい。ウイルスベクターを当該技術分野で公知の組換えDNA技術によって、バキュロウイルス、レトロウイルス、アデノウイルス、AAV、その他から生成してもよい。
これに関連して、本発明のある特定の目的は、上に定義されたCNTNAP2ポリペプチドをコードする組換えウイルスにある。組換えウイルスは、好ましくは複製欠損であり、さらにより好ましくはE1−および/または、E4−欠損アデノウイルス、Gag−、pol−および/またはenv−欠損レトロウイルスおよびRep−および/またはCap−欠損AAVより選ばれる。そのような組換えウイルスを、パッケージング細胞のトランスフェクション、またはヘルパープラスミドまたはウイルスによる一過性トランスフェクションなどの当該技術分野における公知技術により生成することができる。ウイルスパッケージング細胞の代表例には、PA317細胞、PsiCRIP細胞、GPenv+細胞、293細胞などが含まれる。そのような複製欠損組換えウイルスを生成するための詳細なプロトコルは、例えばWO95/14785、WO96/22378、US5,882,877、US6,013,516、US4,861,719、US5,278,056、およびWO94/19478中に見出すことができる。
本発明のさらなる目的は、組換えCNTNAP2遺伝子または上に定義されたベクターを含む組換えホスト細胞にある。適当なホスト細胞には、原核細胞(バクテリアなど)および真核細胞(酵母細胞、哺乳動物細胞、昆虫細胞、植物細胞、その他)が非限定的に含まれる。具体的な例には、E.coli、KluyveromycesまたはSaccharomyces酵母、哺乳動物細胞系統(例えばVero細胞、CHO細胞、3T3細胞、COS細胞、その他)、ならびに一次または確立哺乳動物培養細胞(例えば繊維芽細胞、胚細胞、上皮細胞、神経細胞、脂肪細胞、その他から生成された)が含まれる。
本発明はまた、本発明によるCNTNAP2ポリペプチドを発現する組換えホスト細胞を生成する方法に関し、前記方法は(i)インビトロまたはエクスビボで、コンピテントなホスト細胞へ組換え核酸または上述のベクターを導入する工程、(ii)得られた組換えホスト細胞をインビトロまたはエクスビボで培養する工程、および(iii)任意で、CNTNAP2ポリペプチドを発現する細胞を選択する工程を含む。
下記のように、そのような組換えホスト細胞をCNTNAP2ポリペプチドの生産ならびに活性分子のスクリーニングに用いることができる。そのような細胞を肥満および関連障害を研究するためのモデル系として用いることもできる。これらの細胞を、DMEM、RPMI、HAM、その他の適当な培地中で、任意の適切な培養装置(プレート、フラスコ、ディッシュ、チューブ、袋、その他)中で、維持することができる。
実施例
実施例1
第7染色体感受性遺伝子を同定するためのGenomeHIPプラットホーム
GenomeHIPプラットホームを、肥満感受性遺伝子の迅速な同定を可能にするために適用した。
簡潔に述べれば、技術は、関連する個体のDNAから対を形成することから成る。各DNAを、その同定を可能にする特異的なラベルでマークする。ハイブリッドが次に2つのDNA間で形成される。次に多工程過程において、2つのDNAからの同祖的な(IBD)断片をすべて選択する特定のプロセス(WO00/53802)を適用する。残りのIBD濃縮DNAを次にBACクローン由来のDNAマイクロアレイに対して評価し、それによりIBD分画の染色体上の位置決定が可能になる。
このプロセスを多くの様々な家族に適用することにより、各家族からの各ペアに対するIBD分画マトリックスが得られる。統計分析によって、次に、テストしたすべての家族間で共有されている最小のIBD領域を計算する。有意な結果(p値)が、陽性領域と関心対象の形質(ここでは肥満)とが連関している証拠である。連関した区間の限界を、有意なp値を示す2つの最も離れたクローンによって定めることができる。
本研究では、重度の肥満(>第90百分位数の肥満指数によって定義される)に合致したドイツ起源の164の家族(178の独立した同胞対)を、GenomeHIPプロセスに付した。その結果得られたIBD濃縮DNA分画を、次に、Cy5蛍光色素でラベルし、1.2メガ塩基対の平均間隔で全ヒトゲノムを覆う2263のBACクローンから成るDNAアレイに対してハイブリダイズさせた。Cy3でラベルされた選択されていないDNAを、信号値を正規化し各クローンの比率を計算するために用いた。比率結果の区分わけを次に行い、各クローンおよび対のIBD状態を決定した。
この過程の適用によって、第7染色体上の領域のおよそ5.7メガ塩基(第144 608 830〜第150 454 591塩基)にまたがるいくつかのBACクローン(BACA25ZB12、BACA2ZB02、およびBACA20ZB03)を同定し、それらは肥満への連関を立証する有意な証拠を示した(p=1.20E−07)。
表2:第7染色体CNTNAP2遺伝子座に対する連関結果: 連関の証拠を持つ3つのBACクローンへ対応する領域を示す。クローンの開始および停止位置は、染色体の開始(p端)についてのNCBI Build34配列に基づいた、それらのゲノム位置に対応する。
実施例2
第7染色体上の肥満感受性遺伝子の同定
連関した染色体領域の前述の5.7メガ塩基をスクリーニングすることにより、我々は、コンタクチン関連タンパク質様2(CNTNAP2)遺伝子を肥満および関連する表現型の候補として同定した。この遺伝子は確かに、上に概観したクローンによって限界が定められた連関の証拠がある決定的な区間内に存在する。
CNTNAP2遺伝子は、NP_054860(mRNA NM_014141(8107塩基対))に対して推定された1331アミノ酸のポリペプチドをコードし、2304.258kbのゲノム配列上に広がっている。この遺伝子によってコードされるタンパク質は、細胞接着分子およびレセプターとして脊椎動物神経系中で機能するニューレキシンファミリーのメンバーである。このタンパク質は、他のニューレキシンタンパク質と同様に、表皮増殖因子反復およびラミニンGドメインを含む。さらにそれは、F5/8型Cドメイン、ディスコイディン/ニューロピリン様およびフィブリノーゲン様ドメイン、トロンボスポンジンN末端様ドメイン、および推定PDZ結合部位を含む。このタンパク質は有髄軸索の傍パラノード(juxtaparanodal)に局在し、カリウムチャンネルに関係している。
CNTNAP2は、Shaker様カリウムチャンネルと傍パラノード領域に正確に共局在している(Poliak et al., 1999)。CNTNAP2は、特異的にKv1.1(KCNA1)、Kv1.2(KCNA2)、およびそれらのKv−β−2サブユニット(KCNA2)に関連していた。この関連は、CNTNAP2のC末端領域を含んでいた。このことから、著者らは、CNTNAP2がカリウムチャンネルの傍パラノード領域での局在化を安定させ、CNTNAP2ファミリーメンバーが、軸索が別の機能的なサブドメイン中へ局所的に分化する上で役割を果たしている可能性を示唆する。
KCNAB2およびKCNA1との有意な連関および関連が、本研究中で用いられたのと同じ家族で見つかり(特許出願US 60/578,829を参照のこと)、これは互いに相互作用する1組のタンパク質が共同で肥満の発症に寄与することを示す。
電位依存性カリウム(Kv)チャンネルは、機能的および構造的の両方の見地から、最も複雑なクラスの電依存性イオンチャネルである。それらの広汎な機能には、神経伝達物質放出、心拍度数、インシュリン分泌、ニューロンの興奮性、上皮の電解質輸送、平滑筋収縮、および細胞体積の調節が含まれる。
最近の研究は、Kvチャンネルがβ細胞の電気的活性およびインシュリン分泌の調節の能動的関係者であることを示唆している(MacDonald and Wheeler, 2003)。β細胞Kvチャンネルは、インシュリン分泌制御に生理学上重要な経路である、Gタンパク質共役GLP−1レセプターおよびグルコース代謝からのシグナル標的である(MacDonald and Wheeler, 2003)。
Kv1.3欠損マウス(Kv1.3(−/−))の研究は、体重調節におけるKv1.3の以前に認識されていなかった役割を明らかにした。Kv1.3(−/−)マウスは、対照の同腹の子よりも有意に体重が少なかった(Xu et al., 2003)。さらに、ノックアウトマウスは食事によって引き起こされる肥満から保護され、また高脂肪食にされた場合は、同腹の子の対照よりも体重増加が有意に少なかった。
McDaniel et al.(2001)は、Kvチャンネル遮断薬である4−アミノピリジン(4-AP)を、KCNAB2によってコードされたKvβ2.1を含む複数のKvチャンネルαサブユニットおよびβサブユニットを機能的に発現する腸間膜動脈の平滑筋(MASMC)および腸上皮細胞に細胞外投与することによって、K+チャンネル遮断の食欲不振効果を、ラットにおいて報告した。
食欲不振薬、フェンフルラミンおよびデキセンフルラミンが、セロトニントランスポーターの阻害(Baumann et al., 2000)に加えて、血管平滑筋細胞のKvチャンネル活性を減少させることが実証された(Hu et al., 1998; Michelakis et al., 1999; Wang et al., 1997)。これらの観察は、MASMC中のKvチャンネルの活性が、栄養輸送を制御することによって、エネルギー摂取の調節に重要な役割を果す可能性のあることを示唆する。
本出願で提供される連関の結果、即ちヒトCNTNAP2遺伝子を第7染色体上の肥満に連関している遺伝子変化の決定的な区間中で同定したことを、それが電位依存性カリウム(Kv)チャンネルとの相互作用に関与していることを合わせて考えると、我々は、CNTNAP2遺伝子またはその調節配列の変化(例えば突然変異および/または多型性)がヒトの肥満の発症に寄与し、かつ診断または治療介入の新しい標的である可能性がある、と結論する。
実施例3
関連性の研究
連関研究に用いたのと同じ家族を使って、問題にしている特異的な表現型(ここでは肥満)と、遺伝子マーカー対立遺伝子、または特異的マーカー対立遺伝子を含むハプロタイプ、との間の関連性を、伝達不平衡テスト(TDT)を用いて調査した。TDTはテストする試料中の個体群層化問題に影響されないので、強力な関連性テストである。簡潔に述べれば、ヘテロ接合の親から罹患した子供への対立遺伝子の分離をテストする。罹患した子孫に伝達されなかった対立遺伝子と比較した伝達された対立遺伝子の割合と、ランダム分布の下で期待される比率とを比較する。対立遺伝子の伝達が期待値よりも有意に超過していることが、それぞれの対立遺伝子またはハプロタイプが、調査した肥満表現型と関連している証拠である。
この分析の結果は、CNTNAP2遺伝子の一定の対立遺伝子は肥満に正に関連しており、したがって疾病に対する感受性を増大させることを示す。テストした集団では、例えば、伝達不平衡テストによって決定されるように(p値=0.000246)、SNP156の対立遺伝子1が肥満と関連している。対照的に、SNP156の対立遺伝子2は、自閉症の個体には有意に少なく伝達され、これはこの対立遺伝子がその疾病からの保護に役立つことを示す。肥満に関連する他のSNPには、表3中の肥満患者への対立遺伝子伝達の例中に示される、SNP45、SNP48、SNP49、SNP50、SNP51、SNP53、SNP56、SNP60、SNP63、SNP65、SNP77、SNP94、SNP111、SNP112、SNP141、SNP142、およびSNP163、が含まれる。
肥満患者に対する対立遺伝子の伝達および非伝達の例を表3に挙げる。
さらに、すべてのSNPの相を同定するために、SNP94を除く表3に含まれるすべてのSNPと、それに加えて、SNP11、SNP14、SNP40、SNPSNP47、SNP65、SNP113、SNP116、SNP142、およびSNP161に対して、ハプロタイプを構成した。
テストした集団でのこの分析の結果は、あるハプロタイプは強く肥満に関連しており、一方であるハプロタイプは優先的に肥満患者に非伝達であることを示した。肥満患者に優先的に伝達されるハプロタイプの例は、SNP50−SNP56−SNP113−SNP156に対するハプロタイプ1−2−1−1で、p=4.946-06である。肥満の患者に優先的に非伝達のハプロタイプの例は、SNP50−SNP56−SNP113−SNP156に対するハプロタイプ2−1−1−2で、p=0.0007862である。
肥満患者への優先的な伝達および非伝達があるハプロタイプの例を表4に挙げる。