本発明は、限定されないが血小板凝集、粘着、コラーゲン誘発ATP放出及びトロンボキサンA2(TXA2)形成を含むコラーゲン誘発血小板応答の強力な阻害剤である新規なGPVI特異的抗体を表す。本発明は、抗GPVI抗体を産生する方法をも表す。本発明の抗GPVI抗体は、血栓形成を阻害するため及び抗血栓治療を必要とする患者を治療するために有用となり得る。
用語「抗体」は、モノクローナル抗体を含む。本発明のモノクローナル抗体は、活性抗体フラグメント、例えばF(ab’)2及びFabフラグメント、並びに組換えで産生された任意の結合パートナーを含む。抗体は、それらがGPVIポリペプチド、ペプチド又はその天然変異体に、10−7M以下の解離定数(Kd)で結合するならば、「特異的に結合する」と定義される。本発明の実施形態において、抗GPVI抗体は、GPVIポリペプチド、ペプチド又はその天然変異体に、10−8M以下のKdで特異的に結合する。別の実施形態において、本発明の抗GPVI抗体は、GPVIポリペプチド、ペプチド又はその天然変異体に、10−9M以下のKdで特異的に結合する。結合パートナー又は抗体の親和性は、従来の技術を用いて、例えば125I標識IgG又はそのフラグメントの飽和結合等温線を測定することによるか、又はAnalyzing Data with GraphPad Prism(1999),GraphPad Software Inc.,San Diego,CAのMotulskyにより記載されるようにして非線形回帰分析を用いる非標識IgGによる125IgGの相同置換により、容易に測定できる。その他の方法は当分野で知られており、例えばScatchardら、Ann.NY Acad.Sci.,51:660(1949)により記載されるものがある。GPVIポリペプチド、ペプチド又はその天然変異体は、米国公開第2003/0186885号に記載されており、その全体を本明細書に参照として組み込む。
抗体は、種々の起源、例えばウマ、雌ウシ、ヤギ、ヒツジ、イヌ、ニワトリ、ウサギ、マウス、ハムスター又はラットから、当分野で公知の手順を用いて容易に産生してよい。本発明のある実施形態において、宿主動物はアルメニアハムスターである。別の実施形態において、宿主動物はGPVI欠損動物である。本明細書で用いる場合、「GPVI欠損」とは、野生型動物に比べて、ある動物中での内因性GPVI産生量の約50%以上の減少を指す。内因性GPVI産生量の減少は、GPVI産生が完全に阻害されるようなものであってもよい。GPVI欠損動物は、当分野で知られるいくつかの方法により産生してよい。これらは、動物における核酸(DNA又はRNA)レベルでのGPVI産生の操作を含んでよい。GPVI欠損動物は、限定されないが、ノックアウト(例えばGalli−Taliadorosら、J.Immunol.Methods181:1〜15,1995;Robbins,Circ.Res.73:3〜9,1993;Hergueuxら、Transplant Proc.25:30〜32,1993を参照されたい)、ノックイン(Colucci−Guyonら、Cell 79:679〜694,1994;Le Mouellicら、PNAS87:4712〜4716,1990;Hanksら、Science 269:679〜682,1995;Wangら、Nature 379:823〜825,1996)、変異(Askewら、Mol.Cell.Biol.13:4115〜4124,1993;Staceyら、Mol.Cell.Biol.14:1009〜1016,1995;Hastyら、Nature 350:243〜246,1991;Valanciusら、Mol.Cell.Biol.11:1402〜1408,1991;Wuら、PNAS 91:2819〜2823,1994;Horieら、Gene166:197〜204,1995;Tothら、Gene 178:161〜168,1996)、欠失(Youら、Nature Genet.,15:285〜288,1997;Holdener−Kennyら、Bioessays 14:831〜839,1992)、アンチセンスオリゴヌクレオチド技術(Wagnerら、Nature Biotechnol.14:840〜844,1996;Kitajimaら、Science 258:1792〜1795,1992;Urbanら、Farmaco.58:243〜58,2003;Orumら、Curr Opin Mol Ther.3:239〜43,2001;Sohailら、Curr Opin Mol Ther.2:264〜71,2000;Smithら、Eur J Pharm Sci.11:191〜8,2000)、干渉RNA(RNAi)技術(Scherrら、Curr Med Chem.10:245〜56,2003;Nishikura,Cell 107:415〜418,2001;Hannon,Nature 4418:244〜251,2002;米国特許第5506559号)を含む方法によるか、又は任意のその他の化学品、自然発生、組換え又は合成のペプチド、ポリペプチド、タンパク質、多糖類、小分子及び宿主におけるGPVI産生を減少させるか又は阻害するように設計されたその他の化合物を用いることにより産生してよい。
理論に拘わる訳ではないが、内因性GPVIを産生しないか又は通常量よりも少量産生する宿主は、通常レベルのGPVIを産生するものより強いGPVIに対する免疫反応を開始し得る。つまり、低用量でコラーゲン誘発血小板応答、例えば血小板凝集、血栓形成及び/又は血小板活性化を阻害するのにより効果的であるGPVIに対する抗体が、GPVIを産生する通常の宿主から得られるものに比べて産生されてよい。ノックアウト動物において抗体を産生する方法は、Passら、Scand.J.Immunol.58:298〜305(2003);Zlotら、J.Lipid Res.40:76〜84(1999);Declerckら、J.Biol.Chem.270:8397〜8400(1995);及びCastropら、Immunobiology 193:281〜287(1995)に記載されている。
宿主は、その全体を本明細書に参照として組み込む米国特許公開第2003/0186885A1に記載されるようにして免疫してよい。簡単に説明すると、宿主は、限定されないが、血小板又はその他のGPVI発現細胞から単離された未変性のGPVIポリペプチド、ペプチド又はその天然変異体;原核又は真核細胞から発現された組換えのGPVIポリペプチド、ペプチド又はその天然変異体の組み換え形;ヒトを含む種々の種から得られる血小板;GPVIポリペプチド、ペプチド又はその天然変異体を発現する細胞;GPVIポリペプチド、ペプチド又はその天然変異体をコードする核酸;或いはそれらのいずれかの組み合わせを含む「GPVI抗原」を用いて免疫してよい。
精製GPVIポリペプチド、又はアジュバント若しくは担体に複合化したGPVIポリペプチドのアミノ酸配列に基づくペプチドは、典型的には、宿主動物に腹腔内投与される。GPVIポリペプチドの免疫原性は、アジュバント、例えばフロイントの完全又は不完全アジュバントの使用を通して増強してよい。ブースター免疫化の後に、少量の血清試料を採取して、GPVIポリペプチドに対する反応性を試験する。このような測定に有用な種々のアッセイの例は、Antibodies:A Laboratory Manual,Harlow及びLane(編),Cold Spring Harbor Laboratory Press,1988に記載されるもの;及び向流免疫電気泳動(CIEP)、放射性免疫測定法、放射性免疫沈降法(RIP)、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、ドットブロットアッセイ及びサンドイッチアッセイ並びにFACSのような方法を含む。米国特許第4376110号及び第4486530号を参照されたい。
モノクローナル抗体は、公知の方法を用いて容易に産生でき、例えば米国特許第RE32011号、第4902614号、第4543439号及び第4411993号;Monoclonal Antibodies,Hybridomas:A New Dimension in Biological Analyses,Plenum Press,Kennett,McKearn及びBechtol(編),1980に記載される方法を参照されたい。簡単に説明すると、宿主動物は、約1週間の間隔で、任意にアジュバントの存在下にGPVI抗原を腹腔内注射される。免疫化は、抗体の所望の力価が達成されるまで行われる。
マウス血清は、次いで、GPVI−FcRγ鎖をトランスフェクションしたCHO細胞を用いるFACS分析によるか、又は当分野で知られる任意のその他の方法により分析する。選択されたマウスに、GPVI抗原のブースター用量を与える。3日後に、マウスを屠殺し、その脾臓細胞を、確立されたプロトコルに従って、市販の骨髄腫細胞であるP3U1(ATCC)と融合させる。骨髄腫細胞を血清フリー培地で数回洗浄し、マウス脾臓細胞と融合させる。融合剤は、50%PEG(Roche)である。融合物を、HAT添加DMEM培地を含む8枚の96ウェル平底プレート(Corning)に播種し、1〜2週間増殖させる。得られたハイブリドーマからの上清を回収し、GPVI及びFcRγ鎖を発現するCHO細胞を用いるFACS分析を行うことにより、抗GPVI抗体の存在を分析する。FACS分析は、CHO細胞抗原に対する抗体を産生するクローンを排除するために、野生型CHO細胞を用いても行われる。陽性のクローンは、大量培養で増殖させることができ、続いて、上清をプロテインA又はG Sepharose(商標)カラム(Pharmacia)で精製する。GPVIポリペプチド及びペプチドに対する抗体を産生するのに多くの方法を用いることができ、この実施形態は、本発明の範囲を限定するものではないことが理解される。
本発明のモノクローナル抗体は、別の技術、例えば、参照として本明細書に組み込まれるAlting−Meesら、「モノクローナル抗体発現ライブラリ:ハイブリドーマの迅速な代替法(Monoclonal Antibody Expression Libraries:A Rapid Alternative to Hybridomas)」,Strategies in Molecular Biology 3:1〜9(1990)に記載されるものを用いて産生してよい。同様に、例えば特異的結合抗体をコードする遺伝子の可変領域を組み込む組換えDNA技術を用いて構築された結合パートナーは、本発明のモノクローナル抗体に含まれる。このような技術は、Larrickら、Biotechnology,7:394(1989)に記載される。
その他のタイプの抗体を、当分野常識と連係して産生してもよい。例えば、抗イディオタイプ抗体を、Knightら、Mol.Immunol 32:1271〜81(1995)に記載されるように、宿主を精製モノクローナル抗GPVI抗体の抗原結合部位を含む抗原で免疫にし、得られた血清又はモノクローナル上清の活性を試験することにより得てよい。本発明のある実施形態において、抗イディオタイプ抗体は、宿主を本発明の抗GPVI抗体の相補性決定領域(CDR)を含むペプチドで免疫にすることにより得てよい。本発明の抗イディオタイプ抗体は、活性抗イディオタイプ抗体フラグメントを含み、これは、Fab、F(ab)2又は抗GPVI抗体に特異的に結合する少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)を含むペプチドを含む化学的、酵素的又は組換え的に産生された抗イディオタイプ抗体フラグメントのことをいう。さらに、本発明は、Hustonら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:5879(1988)に記載される生合成GPVI抗体結合部位;Wardら、Nature 341:544(1989)に記載される単離された重鎖可変ドメインを含む単一ドメイン抗体;及びGPVIポリペプチドに特異的に結合可能であるヒト抗体の要素を含むように加工された抗体を含む。抗GPVI抗体は、全てが参照として本明細書に組み込まれるVentorら、Ann Rev.Immunol.12:43355(1994)及び本明細書中に引用される参考文献に記載されるファージディスプレイ技術を用いて産生してもよい。
本発明の抗体は、Fab、F(ab)2、又はGPVIポリペプチド、ペプチド若しくはその天然変異体に特異的に結合する少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)を含むペプチドを含む、化学的、酵素的又は組換え的に産生された抗体フラグメントのことをいう活性抗体フラグメントも含む。ペプシン又はパパインを用いる通常の酵素学的方法は、Fc抗体ドメインを除去して二価のF(ab)2及び一価のFabフラグメントを産生する。これらの方法は、基本的にはGoriniら、J.Immunol.103:1132(1969);Handbook of Experimental Immunology Vol1:DM Wier(編),Blackwell Alden Press,Oxford,UK,1997;及びAntibodies:A Laboratory Manual,Harlow及びLane(編),Cold Spring Harbor Laboratory Press,1988;並びに米国特許第4470925号(Auditore−Hargreaves)に記載され、これらの全ては参照として本明細書に組み込まれる。
無傷のGPVI特異的抗体、及び抗体フラグメント、例えばFab及びF(ab)2フラグメントは、薬剤又は担体分子に共有結合させてよい。さらに、本発明のGPVI特異的抗体は、直接又は適切な担体分子を介して架橋して、多価複合体を形成してよい。ある実施形態において、F(ab)2フラグメントは、Renoら(米国特許第5506342号)(参照として本明細書に組み込まれる)に記載されるようにして、共有架橋結合により代謝的に安定化させる。
GPVIポリペプチド、ペプチド又はその天然変異体に特異的なモノクローナル抗体は、リガンド(コラーゲン)依存性結合による血小板活性化を阻止する能力について試験してよい。血小板の機能を阻止するモノクローナル抗体は、有用な抗血栓剤となり得る。
本発明の抗体は、ヒト化してもよい。ヒト抗体及びヒト化抗体は、したがって、臨床上の使用が好ましい。例えばLoBuglioら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86:4220〜24(1989);Meredithら、J.Nucl.Med.33,23〜29(1992);Salahら、Hum.Antibod.Hybridomas 3:19〜24(1992);Knightら、Mol.Immunol 32:1271〜81(1995);及びLockwoodら、Q.J.Med.89:903〜12,(1996)を参照されたい。
完全ヒト抗体の開発は、通常、ヒト免疫Bリンパ球の適切な起源を必要とする。ヒト抗体を産生するある方法は、免疫されていない個体から得られ、in vitro培養に付されていた未処理のB細胞のプールからの、適切な特異性を有するBリンパ球の免疫化及び増殖を伴う。Methods of Immunological Analysis,第II巻,Masseyeffら(編),VCH Verlagsgesellschaft mbH,Weinheim,第298〜325頁(1992)のOhlin及びBorrebaeck;Protocols in Cell and Tissue Culture,Doyleら(編),J.Wiley&Sons Ltd.,Chichester 25E:1.1〜7(1993)のOhlin及びBorrebaeck。HIV−1糖タンパク質に対するヒト抗体は、この方法により開発された。Ohlinら、Immunology 68:325〜331(1989);Ohlinら、Clin.Exp.Immunol.89:290〜295(1992);Duenasら、Immunology 89:1〜7(1996)。より最近では、ヒト免疫細胞を移植された動物又はヒト免疫グロブリン遺伝子座全体を導入された動物を用いるin vivo技術が開発された。Ilanら、Curr.Opin.Mol.Ther.4:102〜109(2002);Ishidaら、Cloning Stem Cells 4:91〜102(2002)。完全ヒト抗体は、これらの動物を種々のヒト抗原で免疫することにより産生された。
ヒト化抗体は、モノクローナル抗体のほとんど又は全ての構造部分を、対応するヒト抗体配列で置換することにより産生してよい。結果として、抗原特異的な可変領域又は相補性決定領域(CDR)が非ヒト配列で構成されたハイブリッド分子が産生される。ヒト化抗体を設計するための種々のストラテジが、Winter及びMilstein,Nature 349:293〜99(1991);Harris,BCSTBS5 23(4):1035〜38(1995);Important Advances in Oncology,J.B.Lippincott Co.(1990)のMorrison及びSchlom;Medicinal Chemistry,Academic Press(1994),Annual ReportsのL.Presta「ヒト化モノクローナル抗体(Humanized Monoclonal Antibody)」;並びにGeneration of Antibodies by Cell and Gene Immortalization.Year lmmunol.1993,第7号,第110〜118頁,(C.Terhorst,F.Malvasi及びA.Albertini(編)Basel,KargerのA.Lewis及びJ.Crowe「「最適」フレームワーク選択及び組換えポリメラーゼ連鎖反応によるヒト化モノクローナル抗体の産生(Generation of Humanized Monoclonal Antibody by‘Best Fit’Framework Selection and Recombinant Polymerase Chain Reaction)」で総説され、これらのそれぞれが参照として本明細書に組み込まれる。
GPVIポリペプチド、ペプチド又はその天然変異体に特異的な抗体は、Ig特異的吸着、例えばプロテインAクロマトグラフィー又は固定化GPVIペプチドを用いるアフィニティクロマトグラフィーによる抗GPVI抗体の選択及び精製によりヒト化してもよい。重鎖及び軽鎖を標準的な手段により分離し、それぞれの鎖を精製してよい。それぞれの鎖のアミノ酸部分配列を決定してよく、縮重オリゴヌクレオチドを各鎖について、Latheら、J.Mol.Biol.183:1〜12(1985)の方法に従って産生してよい。これらの抗体鎖をコードするDNAを、次いで、クローニングし、PCR又はその他の標準的な方法により抗GPVI抗体産生細胞から配列決定してよい。
抗体のDNA及びアミノ酸配列は、分析して、ヒト重鎖及び軽鎖の既知の配列と比較してよい。配列比較に基づいて、GPVI特異的抗体鎖は、非ヒトDNAの部分をヒト配列で置換してヒト化し、GPVIに対する特異性を有するキメラ抗体を形成してよい。ある実施形態において、GPVI特異的抗体は、Sunら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 84:214〜218(1987)により記載される発現ベクターを用いて、ヒトJ1及びK定常領域を用いてヒト化される。非ヒト−ヒトハイブリッドの産生のための方法は当分野で公知であり、例えばKnightら、Mol.lmmunol 32:1271〜81(1995);米国特許第5705154号(Dalieら);第5693322号(Creekmoreら);第5677180号(Robinsonら);第5646253号(Wallaceら);第5585097号(Boltら);第5631349号(Diamantsteinら);及び第5580774号(Beaversら)(それぞれが参照として本明細書に組み込まれる)に詳細に記載される。高親和性キメラ抗体産生を最大限にするために、Queenら(米国特許第5585089号)及びQueenら、Proc.Nat.Acad.Sci.USA,86:10029〜33(1989)の方法を用いてよい。
ヒト化抗体は、Raderら、Proc.Nat.Acad.Sci.USA,95:8910〜8915(1998)及びSteinbergerら、J.Biol.Chem.275:36073〜36078(2000)で教示され、Sonら、J Immunol Methods.286:187〜201(2004),Leeら、J Immunother.27:201〜210(2004),及び当業者により例証されているように、ファージディスプレイのアプローチを用いて産生してもよい。
抗原に結合する抗体分子の部分は、重鎖(VH)及び軽鎖(VL)の可変(V)領域の少数のアミノ酸で構成される。これらのアミノ酸は、V領域の折り畳みにより近接にされる。IgGの可変領域のアミノ酸配列の比較は、ほとんどの可変性は、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる3つの領域にあることを示す。各鎖(H及びL)は、3つのCDRを含む。異なる特異性の抗体は異なるCDRを有するが、全く同じ特異性の抗体は、通常、同一又は高度に保存されたCDRを有する。本発明は、本発明のGPVI抗体の少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)又はその変異体を含むモノクローナル抗体又はペプチドを包含する。本発明は、配列番号1〜24のアミノ酸配列の少なくとも1つ又はその変異体を含むモノクローナル抗体又はペプチドを包含する。
本明細書においてCDRを含む抗体又はペプチドの「変異体」は、配列番号1〜24に実質的に同一のアミノ酸配列を含むが、1又は複数の欠失、挿入又は置換により配列番号1〜24のものとは異なるアミノ酸配列を有する抗体又はペプチドのことをいう。変異体は、対応するCDRを含む抗体又はペプチドに比べて、GPVIポリペプチド、ペプチド又はその天然変異体に対する結合親和性の少なくとも70、80、90又は100%を維持する。結合親和性は、例えばFujimuraら、Thromb.Haemost.87:728〜734(2002)により教示され、以下の実施例4に例証されるような当分野で知られる任意の方法により測定してよい。変異体は、配列番号1〜24に好ましくは少なくとも60%、65%、70%、80%、85%又は90%同一のCDRを含む。パーセントでの同一性は、例えば、Devereuxら(Nucl.Acids Res.12:387,1984)により記載され、University of Wisconsin Genetics Computer Group(UWGCG)から入手可能なGAPコンピュータプログラム、バージョン6.0を用いて配列情報を比較することにより決定できる。GAPプログラムは、Smith及びWaterman(Adv.Appl.Math 2:482,1981)により改訂されたNeedleman及びWunsch(J.Mol.Biol.48:443,1970)のアラインメント法を用いる。GAPプログラムの好ましいデフォルトパラメータは:(1)ヌクレオチドについて単項比較マトリックス(同一には1の値及び非同一には0の値を含む)、及びSchwartz及びDayhoff編,Atlas of Protein Sequence and Structure,National Biomedical Research Foundation,第353〜358頁,1979に記載されるようなGribskov及びBurgess(Nucl.Acids Res.14:6745,1986)の加重比較マトリックス;(2)各ギャップについて3.0のペナルティ値及び各ギャップでの各記号についてさらなる0.10のペナルティ値;並びに(3)末端ギャップについてペナルティなしを含む。
変異体は、保存的に置換された配列を含んでよい。保存的置換とは、所定のアミノ酸残基を同様の生理化学的特徴を有する残基で置換することをいう。保存的置換の例は、1つの脂肪族残基の別のものへの置換、例えばIle、Val、Leu若しくはAlaを互いに、又は極性残基の別のものへの置換、例えばLysとArg;GluとAsp;若しくはGlnとAsnの間の置換を含む。その他のこのような保存的置換、例えば同様の疎水性特徴を有する領域全体の置換が知られている。
候補の抗GPVI抗体は、当分野で知られる種々のアッセイを用いて血小板粘着及び活性化への影響をスクリーニングしてよい。これらは、例えば、米国特許第5686571に記載の血小板粘着阻害剤アッセイ;Brown及びLarson(BMC Immunology 2:9〜15,2001)に記載されるように、より低容量の血液及びより少ない抗体の使用を可能にするDiaz−Ricartら(Blood 82:491〜496,1993)の定常フローアッセイの変法;Matsunoら(British J.Haematology 92:960〜967,1996)及びNakamuraら(J.Biol.Chem.273(8):4338〜44,1998)(Nakamura法)(それぞれ参照として本明細書に組み込まれる)に記載されるプレートアッセイを含む。それぞれの場合において、候補GPVIアゴニスト又はアンタゴニストは、Mg2+の存在下又は不在下に反応成分と、予め又は同時にインキュベートしてよい。Mg2+が存在しないときのインキュベーションは、残りのコラーゲン依存性活性が、GPVI受容体により主に媒介されるようにGPIa/IIaの機能を阻止する。
Nakamura法の変法を用いて、静的条件下での固定化酸不溶性原線維コラーゲンへの血小板粘着を測定してよい。Nakamuraアッセイの変法を、簡単に以下に記載する。本来のアッセイへの主な変更は、51Cr標識血小板を未標識の血小板に変えることと、粘着の測定が市販のキットを用いる粘着性血小板により放出されるLDH活性の定量によることである。当業者は、試験される特定の抗GPVI抗体の観点でアッセイ条件にその他の変更を加える方法を認識している。
粘着アッセイ:マイクロタイタープレートのウェルを、I型酸不溶性ウマ腱原線維コラーゲンで被覆する。4×108/mlの濃度の血小板を、タイロード−HEPES緩衝液又はMg2+(1mM)を補ったタイロード−HEPES緩衝液に懸濁し、粘着アッセイを以前に記載されたようにして(Tandonら、Br.J.Haematol.89:124〜30,1995)行う。簡単に説明すると、血小板を抗体溶液のような試料と室温で30分間インキュベートした後に、それらをコラーゲンで被覆したウェルに加える。粘着を、Mg2+の存在下又は非存在下に室温で60分間行う。粘着しなかった血小板を、ウェルを繰り返し洗浄することにより除去し、粘着した血小板をTritonX−100に溶解する。比色アッセイに基づく市販のLDH測定キット(CytoTox96,Promega,Madison,WI,USA)を用いて、放出されるLDH活性を測定する。
ATP放出及びトロンボキサンA2(TXA2)発生のアッセイ:コラーゲン誘発ATP放出を、デュアルチャンネル発光式凝集測定装置(モデル650CA−Chronolog Corporation Havertown PA,USA)を用いて測定する。簡単に説明すると、多血小板血漿(血小板の計数を貧血小板血漿(PPP)を用いて3×108/mlに調整)を、ルシフェラーゼ−ルシフェリン試薬(Chronolog Corporation)と混合する。血小板を、試験抗体溶液、例えばFabフラグメントの存在下又は非存在下に37℃で5分間インキュベートした後に、コラーゲンで攻撃する。凝集とATP放出とを同時に測定する。所望の時間に、TXA2の合成を阻害する阻害剤のカクテルの添加により反応を停止する。血小板懸濁物の上清を小さいチューブに移し、コラーゲン誘発TXA2形成を測定するまで−20℃で凍結させる。TXA2は、TXA2の安定な代謝産物であるTXB2と同様にして測定される。
血小板凝集アッセイ:抗血栓活性を検出又は測定するための単純な方法は、Sunら、J Cardivascular Pharmcol.40:557〜585(2002)に記載される血小板凝集アッセイにより提供される。抗GPVI抗体、すなわち無傷のIgG、F(ab’)2若しくはFabフラグメント、又は対照緩衝液(0.15M NaCl,0.01M Tris.HCI,pH7.4)を、多血小板血漿(200μl)を含むキュベットに加える。混合物を、凝集測定装置の加熱モジュール中で、37℃で3〜5分間インキュベートした後に、コラーゲンとの凝集を誘発する。キュベットを、レーザ散乱により粒子形成の動態を、及び光透過の変化により凝集を測定する4チャンネル凝集測定装置(AG10 Kowa,Japan)に入れる。凝集を、0.5〜4μg/mlのコラーゲンを用いて開始する。コラーゲンの最適濃度は、光透過で少なくとも70%の変化を与えるものであり、各実験について測定される。凝集を、コラーゲンの添加後少なくとも8〜10分間監視する。
in vitroアッセイ:GPVI特異的抗体又は抗体フラグメントは、Diaz−Ricartら(Arteriosclerosis,Thromb.Vasc.Biol.16:883〜888,1996)により開発された系を用いてさらに分析してよい。このアッセイは、GPVI抗体の血小板に対する流動条件下での影響を、内皮除去したウサギ大動脈及びヒト内皮細胞マトリクスを用いて測定する。
in vivoアッセイ:GPVI抗体又は抗体フラグメントのin vivo活性を、Coller及びScudder,Blood 66:1456〜59(1985);Collerら、Blood 68:783〜86(1986);Collerら、Circulation 80:1766〜74(1989);Collerら、Ann.Intern.Med.109:635〜38(1988);Goldら、Circulation 77,670〜77(1988);及びMickelsonら、J.Molec.Cell Cardiol.21:393〜405(1989)に記載されるような血小板機能の標準モデルを用いて分析してよい。
上記の試験は、本発明のGPVI特異的抗体が、他者により以前に報告されるものよりもより有効であることを明らかにする。具体的には、本発明のGPVI特異的抗体は、当分野の抗体よりも低いIC50でコラーゲン誘発血小板凝集を阻害する。用語「IC50」は、50%阻害が観察される、ゼロより大きい任意の正の値の濃度として当分野で知られている。コラーゲン誘発血小板凝集の阻害を誘発するIC50は、血小板との接触から5分以内に70〜90%の血小板凝集を誘導するコラーゲンの濃度を用いて決定した。用語「阻害」又は「阻害する」とは、任意の表現型特性の減少若しくは休止、又はその特性の発生、程度若しくは可能性の減少又は休止のことをいう。血小板凝集に関しては、「阻害」とは、血小板凝集の測定可能な減少又は休止のことをいう。このような阻害は、上記の試験、又は当分野で知られるその他の任意の方法により検出してよい。同様に、血小板粘着に関する「阻害」とは、表面への血小板粘着の測定可能な減少又は休止のことであり、このような阻害は、上記の試験、又は当分野で知られるその他の任意の方法により検出してよい。
本発明のGPVI特異的抗体は、コラーゲン誘発血小板凝集を、約7、4、3、2、1、0.6g/ml未満、又はこの範囲内に含まれる任意の値のIC50で阻害する。本発明のGPVI特異的抗体は、コラーゲン誘発血小板粘着も、約1、0.5、0.2、0.1μg/ml若しくはそれ未満又はこの範囲内に含まれる任意の値のIC50で阻害する。本発明のGPVI特異的抗体は、コラーゲン誘発ATP分泌及び/又はコラーゲン誘発トロンボキサンA2形成をも阻害する。本発明のGPVI特異的抗体は、活性抗体フラグメントを含む。活性抗体フラグメントは、化学的、酵素的又は組換え的に産生されたFabフラグメント、F(ab)2フラグメント、及びGPVIポリペプチド、ペプチド又はその天然変異体に特異的な少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)を含むペプチドを含む。
本発明のGPVI特異的抗体は、既知の方法に従って医薬組成物中に処方してよい。本発明の医薬組成物は、少なくとも1つのGPVI特異的抗体を含み、限定されないが、無傷のモノクローナル抗体;Fabフラグメント;F(ab)2フラグメント;及び少なくとも1つのCDR配列又はその変異体を含むペプチドを含む。GPVI特異的抗体は、その他の既知の活性物質と組み合わせてよい。
本発明の組成物は、限定されないが、希釈剤(例えばTris−HCI、酢酸塩、リン酸塩、水)、防腐剤(例えばチメロサール、ベンジルアルコール、パラベン)、乳化剤、塩、ポリマー、緩衝液、溶解剤、アジュバント及び/又は担体を含む薬学的に許容される賦形剤と混合した少なくとも1つのGPVI特異的抗体を含む。適切な賦形剤及びそれらの処方は、Remington:The Science and Practice of Pharmacy,第20版,Mack Publishing Co.(2000)に記載される。さらに、このような組成物は、ポリマー化合物、例えばポリ酢酸、ポリグリコール酸、ヒドロゲルなどに組み込まれるか、又はリポソーム、マイクロエマルジョン、ミセル、単層、多層若しくは複合層の小胞、赤血球ゴースト又はスフェロブラストに組み込まれた、ポリエチレングリコール(PEG)、金属イオンと複合化したGPVI特異的抗体を含んでよい。
本発明は、活性化又は休止血小板をGPVIに指向された抗体と接触させることを含む、例えば血小板凝集又は血小板粘着を阻害することにより血栓を阻害する方法も含む。「血栓を阻害する」とは、血栓性事象の減少若しくは休止、又は患者、患者集団若しくはin vitro試験系における血栓性事象の発生、程度若しくは可能性における減少のことをいう。本発明は、本明細書において、血栓又は血小板凝集又は血小板活性化の発生、可能性又は程度を減少する抗血栓治療を必要とする任意のヒト又は非ヒト動物と定義される患者の治療、又はヒト及び非ヒト動物を含む、治療が血管性疾患の治療について有益である任意の対象に関する。このような治療される非ヒト動物は、限定されないが、マウス、ラット、ウサギ、魚類、鳥類、ハムスター、イヌ、ネコ、ブタ、ヒツジ、ウマ、ウシ(cattle)及びヒト以外の霊長類を含む、全ての家畜及び野生の脊椎動物を含む。
患者の治療は、本発明の抗GPVI抗体含有組成物の薬学的有効量を投与することを含む。当業者は、最適投与量及びこれらの組成物の投与のための投与スケジュールを経験的に決定してよい。にもかかわらず、薬学的有効量は、測定可能な抗血栓効果、例えばin vivo若しくはin vitroで測定される血栓、血小板凝集又は血小板活性化の発生、程度又は可能性における減少を提供するか、或いは患者における血管性疾患、血塊若しくは塞栓形成又は虚血性事象の可能性、発生又は程度における測定可能な減少を提供する量である。
薬学的有効量は、治療の経過の間に単一用量又は複数用量として投与されてよい。本発明の範囲内のキットは、1回又は複数回用量の薬学的有効量の本発明の抗GPVI抗体含有組成物を含有する容器を含む。このようなキットは、単独か、適切な薬学的に許容される希釈剤及び/又はその他の賦形剤と混合又は懸濁されたか、或いは投与の前に、適切に許容される希釈剤及び/又はその他の賦形剤と混合又は懸濁されるように調剤された抗GPVI抗体を包含する。
本発明の組成物は、当業者が精通した任意の方法、例えばボーラス注射、連続的又は間欠的点滴による静脈内投与により投与してよい。別の実施形態において、組成物は、腹腔内、体腔内(intracorporeally)、関節内、心室内、くも膜下腔内、筋肉内、皮下、局所、扁桃腺、粘膜、鼻腔内、経皮、膣内、経口又は吸入により投与してよい。
本発明のGPVI特異的抗体は、抗血栓剤として有用となり得る化合物をスクリーニングするのに用いてもよい。スクリーニング方法は、GPVI抗原を試験化合物及びGPVI特異的抗体と接触させ、GPVI特異的抗体のGPVIポリペプチド、ペプチド又はその天然変異体への結合の阻害を測定することを含む。GPVI抗原、GPVI特異的抗体及び試験化合物は、いずれの順序で加えてもよい。例えば、GPVI抗原を試験化合物と接触させた後でGPVI特異的モノクローナル抗体と接触させてよい。別の例において、GPVI抗原は、GPVI特異的モノクローナル抗体及び試験化合物と同時に接触させてよい。
結合の阻害は、試験化合物が、GPVI特異的抗体と同じGPVI上の結合部位について競合するか、又は該結合部位を阻害することを示唆する。抗血栓剤のスクリーニングに関する「GPVI抗原」は、限定されないが、血小板又はその他のGPVI発現細胞から単離された未変性のGPVIポリペプチド、ペプチド又はその天然変異体;原核若しくは真核細胞から発現された組換えGPVIポリペプチド、ペプチド又はその天然変異体;或いはGPVIポリペプチド、ペプチド又はその天然変異体を発現する細胞のことをいう。試験化合物は、任意の化学品、タンパク質、ペプチド、ポリペプチド又は核酸(DNA又はRNA)であってよい。試験化合物は、自然発生であってよいか、又は当分野で知られた方法により合成されてもよい。本発明のスクリーニング方法は、ハイスループットスクリーニング(HTS)法を用いてよい。ハイスループットスクリーニング法は、Khandurinaら、Curr Opin Chem Biol.6:359〜66(2002);Kumble,Anal Bioanal Chem.377:812〜819(2003);及びBleicherら、Nature Rev Drug Disc 2:369〜378(2003)に総説されている。
GPVI特異的抗体又はその抗体フラグメントのGPVI抗原への結合を阻害すると同定される化合物は、本明細書に開示される任意の方法又は当分野で知られたその他の方法により、血小板へのその効果についてさらに試験されてよい。これらの血小板の機能は、コラーゲン誘発血小板凝集、コラーゲン誘発血小板粘着、コラーゲン誘発ATP分泌及びコラーゲン誘発トロンボキサンA2形成を含む。
本発明はまた、宿主細胞内での組換え発現によるヒトGPVI外部ドメイン(可溶性GPVI)を生成する方法を含む。可溶性GPVIに対する好適な発現ベクターは、標準的な分子生物学的方法により作製することができる。組換え可溶性GPVIはその分泌を促進するシグナルぺプチドを含有してもよい。シグナルぺプチドは当該技術分野において知られているいかなるシグナルぺプチドであってもよく、天然、人工又は異種シグナルぺプチド、例えばIgκ軽鎖のシグナルペプチドを含む。発現された可溶性GPVIは修飾部、例えば、検出又は精製を促進するぺプチドタグを含有してもよい。かかるぺプチドタグは、特に、ヒスチジンタグ、V5タグ、グルタチオンS−トランスフェラーゼ(GST)タグ、マルトース結合性タンパク質(MBP)タグ、ビオチンアクセプターぺプチド(BAP)タグ、ストレプトアビジン結合性ぺプチド(Strep−II)タグ、カルモジュリン結合性ぺプチド(CBP)タグ、ヘマグルチニン(HA)タグ、mycタグ、及びFLAGタグを含む。可溶性GPVIの発現に使用される宿主細胞は原核性であっても真核性であってもよい。例えば、真核宿主細胞はCHO細胞であってもよい。
組換え可溶性GPVIは複数の用途、例えばGPVIポリぺプチド、ぺプチド、又はそれらの天然変異体を検出又は定量するアッセイ用の標準タンパク質として、in vitro、ex vivo又はin vivoにおけるGPVI相互作用分子(コラーゲン、CRP、コンバルキシン等)との血小板相互作用の競合阻害剤として、GPVIの細胞外ドメインに対する新規な抗体を産生するための動物の免疫用の抗原として、及びGPVIの細胞外ドメインに対する抗体の親和性選択又は精製用の手段として、有用となり得る。
組換え可溶性GPVIは、本発明のELISA用、例えばヒト個体中の可溶性GPVI量の予防的又は治療的監視のため、生体内試料中の可溶性GPVIの検出に用いるELISA用の標準タンパク質として用いることができる。組換え可溶性GPVIは、GPVI相互作用分子、例えばコラーゲンとの血小板相互作用の競合阻害剤として用いることもでき、それにより血小板凝集、血液凝塊又は損傷した血管との血小板相互作用の他の望ましくない結果を予防又は低減する。組換え可溶性GPVIは、新規又は改良GPVI特異抗体を選択するため、或いは任意のGPVI特異抗体を精製するため、例えばアフィニティクロマトグラフィーにより精製するために固相支持体へ共有結合又は非共有結合していてもよい。本発明の1つの実施態様において、GPVI特異抗体は多数の異なるエピトープに対する抗体を含有する試料から選択又は精製することができ、それにより、実質的に汚染性抗体のない又は他の汚染性タンパク質のない、GPVI特異抗体の製剤を生成する。
本発明は、さらに生体試料中の可溶性GPVIの高感度な検出及び定量を可能にするアッセイを提供する。かかるアッセイの1つの実施態様は第1及び第2のGPVI特異抗体を用いるサンドイッチELISAである。好適なGPVI特異抗体は、本発明のモノクローナル抗体、例えばOM1、OM2、OM3及びOM4抗体を含む。本発明の第1及び第2の抗体は、コラーゲン誘発血小板凝集を約7、4、3、2、1、0.6μg/ml未満又はこの範囲に包含されるいかなる値のIC50においても阻害することができ、GPVIポリぺプチド、ぺプチド、又はそれらの天然変異体に10−8M以下のKdにおいて特異的に結合する。第1及び第2の抗体は互いに異なってもよい。OM1及びOM2抗体はGPVIの非重複性エピトープを認識し、したがって同じ可溶性GPVI分子に同時に及び非競合的に結合することができる。ELISAは第1の抗体、例えば固相支持体に固定化されているOM1、及び第2の抗体、例えば可溶性GPVIの検出及び定量を促進するための標識に直接又は間接的に結合しているOM2を含んでいてもよい。かかる標識の1つの例はビオチンであり、ビオチンはアビジンとの高度に特異的な相互作用を介して検出することができる。標識の他の例は、ジゴキシゲニン、蛍光プローブ、金属錯体及び酵素を含む。好適な蛍光プローブはCy3、Cy5、フィコエリトリン、フルオレセイン、ローダミン、テキサスレッド、量子ドット、クマリン蛍光プローブ、オキサゾール蛍光プローブ、及びAequorea victoria緑色蛍光タンパク質等の蛍光タンパク質、及びそれらの変種を含有してもよい。好適な金属錯体はユーロピウムクリプテート、金属カルボニル錯体、及びポルフィンを含有してもよい。好適な酵素はホースラディッシュペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、β−ガラクトシダーゼ及びルシフェラーゼを含有してもよい。可溶性GPVIは第1の抗体によって固相支持体上に捕捉されてもよく、及び第2の抗体の結合において検出及び定量されてもよい。本発明のELISAは、生体試料中の可溶性GPVIを0.2〜5ng/mlの低濃度において検出又は定量することが可能である。これは、可溶性GPVI量が一般に約6ng/mlである健常なヒト個体の血漿中の可溶性GPVI、及び上昇した量の可溶性GPVIを含有するヒト患者の血漿中の可溶性GPVIを検出又は定量するのに十分な感度である。本発明のELISAは、指示された時点又は指示された期間に及ぶ多数の時点に、ヒト個体の血中の可溶性GPVI量を監視するのに用いることができる。
本発明はさらに生体試料中又は試験試料中のGPVIポリぺプチド、ぺプチド、又はそれらの天然変異体の存在を検出又は定量するための方法及びキットを提供する。該方法は試料と上記本発明の第1の抗体との接触、試料と上記本発明の第2の抗体との接触、第1の抗体による可溶性GPVIの捕捉、及び標識可能な第2の抗体による可溶性GPVIの検出又は定量を含む。該キットは本発明の第1及び第2の抗体を含有し、第1の抗体は固定化されていてよく、第2の抗体は標識されていてよい。かかる方法及びキットは、異常量のGPVIポリぺプチド、ぺプチド、又はそれらの天然変異体と関連する症状を個体が発症する危険性が増大しているか、又はすでに患っているかを判定するために用いることができる。かかる病状には、免疫疾患、血管疾患及び他の疾患、例えば血小板減少症;血小板異常;不安定狭心症、急性心筋梗塞、冠動脈疾患、冠血行再建、心室血栓塞栓症、アテローム性動脈硬化症、プラーク形成等の心血管疾患;脳卒中、虚血等の脳血管疾患;慢性動脈閉塞症等の末梢血管疾患;下肢腫脹、潰瘍、肺塞栓症、腹部静脈血栓症等の静脈血栓塞栓疾患;癌転移、例えば癌性の大腸、胸部又は肝臓組織から誘導された腫瘍細胞の癌転移;肝臓疾患;及びある種の胎児疾患が挙げられる。
本発明では、GPVI欠損マウス(GPVI−KOマウス)に、GPVI及びFcRγを安定に発現するCHO細胞(CGP6)を免疫して得られたモノクローナル抗体OM1、OM2、OM4を得た。GPVI−KOマウスはGPVIを欠損し、高用量のコラーゲン及びコンバルキシン(GPVI特異的アゴニスト)には応答しない。GPVIを注射すると、GPVI欠損マウス中の方が通常のマウス中より抗原性が高く、GPVI−欠損マウスを使用して得られたOM1、OM2、OM4は、他の公知の抗体と比較して抗原に対して結合親和性の高い抗体であった。本発明者は、従来のELISAアッセイに比べて、試料中に低濃度で存在する抗体でも検出可能な、より高検出感度で、特異性が高く、良好な再現性を有するELISAアッセイ系の構築に成功した。本発明により、生体試料中の可溶性GPVIを検出することが可能となり、延いては血栓関連疾患とその病態との関わりをモニターすることが可能となった。
かかる方法又はキットの1つの実施態様は、上記のELISAを含む。キットは、個々の試料中のGPVIポリぺプチド、ぺプチド、又はそれらの変異体の測定量に基づいて、試験個体が、GPVIポリぺプチド、ぺプチド、又はそれらの天然変異体の異常量に関連する障害を発症する危険性が高いか、又はすでに患っているかを判定するための使用説明書を含んでいてもよい。
本発明は、いずれの限定もしないことを意図する以下の実施例により説明される。
(実施例1)
モノクローナルGPVI抗体の調製
正常なマウス(Balb/c、雌)、アルメニアハムスター(雄)及びGPVIノックアウトマウス(Otsuka GENインスティテュートで作出)を免疫して、以下に記載するようにしてモノクローナル抗体を産生した。
GPVIノックアウトマウスを、以前に記載されたようにして作製した(Moriら、Neurosci.Res.43:251〜7,2002)。ターゲティングベクターを、図1Aに示すように、エキソン2の最後の5塩基からエキソン3の前半(ClaI部位)までを含む129/Svマウスゲノムλクローン由来のGPVI遺伝子のゲノムフラグメント(Ezumi Y.ら、Biochem Biophys Res Comm 277:27〜36,2000)を、pMC1−neo−polyA(Stratagene)カセットで置き換えることにより構築した。直線化した構築物を、129/Svマウス由来のAB2.2 ES細胞(Lexicon Genetics Inc.,TheWoodlands,TX)にエレクトロポレーションし、細胞をG−418中で選択した。G−418耐性ES細胞クローンを、エキソン2及び3での相同組換えの成功について、SphI又はKpnIで消化したゲノムDNAを5’又は3’外側プローブでそれぞれプローブすることにより、スクリーニングした(図1B;サザンブロッティングのデータは示さず)。相同組換えES細胞由来のキメラマウスを、C57BL/6Jマウスと交配し、ヘテロ接合性変異体(F1)を得た。ホモ接合性変異体(F2)は、得られたヘテロ接合性変異体を交配させることにより得て、サザンブロッティングにより確認した。尾部小片から抽出したゲノムDNAを用いるポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により、マウスの遺伝子型を同定した。ホモ接合性変異体において、出生率、出生時体重、成長及び発育、メンデルの法則に従った分配、又は出血異常は観察されなかった。バックグラウンドが一致する野生型及びヘテロ接合性のマウスを対照として用いた。アルメニアハムスターは、Cytogen Research and Development Inc.Boston,MAから得た。全ての動物は、Otsuka Maryland Medicinal LaboratoriesのInstitutional Animal Care and Use Committee(IACUC)のプロトコルに従って維持及び飼育した。
正常なマウスを、GPVI cDNA(「p−ターゲット」)、GPVI−FcRγ鎖を発現するCHO細胞系(「CGP6」、トランスフェクションは、InvitrogenからのLipofectamine(商標)2000を用いて行った)、GPVI−FcRγ発現CHO細胞から精製したGPVI(「PGP6」)、ヒト血小板から精製した天然GPVI(「nGP6」)及び大腸菌(E.coli)で発現させた組換え部分GPVI(最初のIgドメインを欠く)(「PAGP6」)を用いて免疫した。ヒト血小板からの天然GPVI及びGPVI−FcRγでトランスフェクションした細胞からのPGP6を、レクチンアフィニティ、イオン交換クロマトグラフィー及び米国公開第2003/0186885号に記載のコンバルキシンアフィニティ法を組み合わせて精製した。
GPVI及びFcRγを安定に発現するCHO細胞(「CGP6」)を、全長ヒトGPVI cDNA(「p−ターゲット」)を含むpTargetベクター(Promega)と全長FcRγ cDNAを含むpcDNA3.1(+)zeocinベクター(Invitrogen)とのLipofectamine 2000(Invitrogen)を用いる同時トランスフェクションにより確立した。両方の受容体を発現する細胞を、G418及びゼオシンを補った培地で選択した。GPVIの発現を、ポリクローナルヒト抗GPVI抗体(上記のOkuma博士の血清)又はFITC標識コンバルキシンを用いてEpic Altra FACSアナライザー(Beckman Coulter)でのFACS分析により検出した。FcRγの発現の検出を、市販の抗FcRγポリクローナル抗体(Upstate Biotechnology)を用いるイムノブロッティングにより行った。
組換え部分GPVIを、pET21ベクター(Novagen)に、ヒトGPVIの最初のIg全体を欠くGPVIポリペプチドをコードするcDNAを挿入することにより産生した。この部分タンパク質を、大腸菌(E.Coli)BL21(DE3)株で発現させた。発現させたタンパク質(「PAGP6」)を、製造業者の説明に従って封入体から精製した。
アルメニアハムスターを、CGP6及びヒト血小板で免疫した。GPVIノックアウトマウスも、CGP6及びヒト血小板で免疫した。
p−ターゲット以外の免疫原を、腹腔内注射した。p−ターゲットは、皮内注射した。組換え又は精製タンパク質を、アジュバント(Titermax Gold,Cytrx Corporation)とのエマルジョンとして注射した。いくつかの抗原は、マウスIL−6(500U/注射)と共に免疫して、免疫系を追加免疫した。動物を、10〜50000の血清力価が得られるまで免疫した。
モノクローナル抗体を、通常のハイブリドーマ技術を用いて産生した。融合パートナーとしては、P3U1細胞を用いた。陽性のハイブリドーマクローンのスクリーニングのために、FACS分析を、Beckman CoulterからのEpic Altra FACSアナライザーで、GPVI−FcRγ発現CHO細胞を用いて行った。CGP6免疫化動物について、FACS分析をGPVI−FcRγでトランスフェクションしたCHO細胞及びトランスフェクションしていない野生型CHO細胞の両方を用いて、非GPVI抗体、例えばCHO細胞関連抗原に対する抗体を産生するクローンを区別した。
抗GPVI抗体を産生するハイブリドーマ細胞を、次いで、10%胎児ウシ血清(Invitrogen Corporation,CA)(無視できる量のウシIgG<1pg/ml血清を含有)を含む培地で増殖させた。IgGを、無細胞の培養上清から、Waters650システム(Waters Corporation,MA)でのプロテインG−Sepharose(商標)(Amersham Biosciences,NJ)又はプロテインA−Sepharose(商標)(Amersham Biosciences,NJ)アフィニティクロマトグラフィーにより精製した。マウスIgGを、プロテインG−Sepharose(商標)でのアフィニティクロマトグラフィーにより精製した。ハムスターIgGを、プロテインA−Sepharose(商標)で精製した。プロテインGに結合したIgGを、アフィニティマトリクスから低pHグリシン(pH2.75)を用いて溶出し、塩基性溶液に回収して酸を中和し、機能性アッセイに用いるために生理食塩水中で透析した。プロテインAに結合したハムスターIgGは、pH勾配7.5〜3.0で溶出した。抗体はpH4.5で溶出された。ほとんどの場合、抗体は、Agilent 2100 Bioanalyzer(Agilent Technology)で分析して>90%の純度であった。
二価のF(ab’)2フラグメントを、標準的な方法を用いるパパイン消化により無処置のIgGから調製した。IgG溶液(5mg/ml)を100mMクエン酸、pH6.5及び5.0mM EDTA中で作り、酵素のIgGに対する比が1:50(wt/wt)で、予め活性化したパパイン(システイン非含有)を用いて37℃で15時間消化した。反応を、新しく準備したヨードアセトアミドでクエンチし、F(ab’)2フラグメントを、未消化のIgG及びFcから、MonoQカラム(Amersham Biosciences,NJ)でのイオン交換クロマトグラフィーにより分離した。F(ab’)2を含有する画分をプールし、濃縮し、還元/アルキル化して一価のFabフラグメントをParhamら、J.Immunol.Meth.53:133〜173(1982)の方法に従って得た。最後に、Fabフラグメントを、Superdex75(Amersham Biosciences,NJ)でのサイズ排除クロマトグラフィーにより均質に精製した。システイン存在下でのパパインによるIgGの一価Fabへの直接変換は、回避した。なぜなら、パパインがIgGを過剰消化し、不安定で小さいサイズのFabフラグメントが増加する場合があるからである。
最初に、野生型Balb/cマウスを、ヒト血小板からの精製GPVI(「nGP6」)、GPVI cDNA含有プラスミド(「p−ターゲット」)及びGPVI−FcRγ鎖複合体発現CHO細胞(「CGP6」)を含む免疫原で、上記のようにして免疫した。表1を参照されたい。8500を超えるクローンをスクリーニングした後に、GPVIに対する明らかであるが穏やかな親和性を有する3つのクローンを同定した(2つはCGP6からであり、1つはPGP6からである)。驚くべきことに、p−ターゲット、nGPVI及びPAGP6での免疫化からの5500を超えるクローンが、生物活性を有するGPVI陽性ローンを1つも生じなかった。増強された親和性及び生物活性を有する抗体を得る試みにおいて、動物の異なる種を免疫した。アルメニアハムスターをCGP6で免疫した。なぜなら、この免疫原は、野生型マウスにおいて2つの陽性クローンを産生したからである。ヒト血小板はその表面で天然GPVIを発現するので、洗浄したヒト血小板も免疫原として用いた。7つのGPVI陽性クローンをCGP6免疫化から、そしてヒト血小板免疫化から1つのクローンを得た。表2を参照されたい。
GPVIノックアウト(GPVI−KO)マウスを、次いで免疫化の宿主として用いた。GPVI−KOマウスはGPVIを欠損し、高用量のコラーゲン及びコンバルキシン(GPVI特異的アゴニスト)には応答しない。したがって、注射したGPVIはGPVI欠損マウス中の方が抗原性が高く、したがってGPVIペプチドに高い親和性を有するGPVI抗体を産生し得ると理論上想定した。GPVI−KOマウスの免疫化の結果を表3に示す。GPVI−KOマウスの洗浄ヒト血小板懸濁物による免疫化は、陽性クローンを全く産生しなかった。しかし、GPVI−KOマウスのCGP6による免疫化で8種のクローンが得られ、これらはFACS分析における蛍光強度が大きく右側にシフトすることにより判定されるように、GPVIに対して高い親和性を有した。
次いで、IgG免疫グロブリンを、GPVI陽性クローンのうち、野生型マウスからの3クローン、ハムスター融合体からの8クローン、及びGPVI−KOマウス融合体からの8クローンから得た。IgGを、プロテインG(野生型及びGPVI−KOマウス)又はプロテインA(ハムスター)のいずれかを用いるアフィニティクロマトグラフィーにより、上記のようにして精製した。全てのクローンからの精製抗体は、0.1〜7μg/ml(17クローン)及び10〜30μg/ml(2クローン)の比較的低濃度のIgGで完全血小板凝集を誘発し、これらの抗体がGPVIとFcR IIAを架橋結合するか、又はGPVI分子を架橋結合することが示唆された。GPVI−FcRIIA架橋結合の可能性を排除するために、F(ab’)2フラグメントを調製した。予備試験において、2つの抗体から調製したF(ab’)2フラグメントはヒト血小板を活性化したが、無処置のIgGと比べると数倍高い濃度が必要であった。このことは、二価抗体によるGPVI架橋結合が、観察された血小板活性化の原因であり得ることを確かにした。GPVI架橋結合を避けるために、全てのF(ab’)2フラグメントを還元/アルキル化によりFabフラグメントに変換した。得られたFabフラグメントは、無処置のIgGがヒト血小板を活性化する濃度より数倍高い濃度まで試験したときに、ヒト血小板を活性化しなかった。
(実施例2)
GPVI特異的抗体は、コラーゲン誘発血小板凝集及び粘着の強力な阻害剤である
実施例1に従って産生されたFabフラグメントの阻害能力を、静的及び流動条件下で、コラーゲン誘発血小板凝集及び固定化コラーゲンに対する血小板の粘着を含むコラーゲン誘発血小板機能について試験した。
抗体を、in vitro血小板凝集について、次のようにして試験した。コラーゲン応答は個体のうちで変動するので、まず、添加から5分以内に70〜90%の血小板凝集を与えるコラーゲンの量を決定するために、コラーゲン投与実験を行った。さらに、このアッセイで用いたコラーゲンの種類は、応答に劇的に影響し得る。経験的に、酸不溶性ウマ腱コラーゲン(Nycomed,Germany)は、最大の血小板凝集応答を示した。Nieswandt(J.Biol.Chem.275:23998〜24002,2000,及び米国特許公開第2002/0141992号)、Lecutら(J.Thrombosis and Haemostasis 1:2653〜2662,2003)及びMoroiら(Thromb.Haemost.89:996〜1003,2003)も酸不溶性ウマ腱コラーゲンを用いたが、その他はコラーゲンのより応答が少ない形、例えばウシコラーゲンI型繊維を用いた(Smethurstら、Blood 103:903〜911,2004及び国際公開第03/054020号)。以下に例証するアッセイにおいて、1〜4μg/mlの酸不溶性ウマ腱コラーゲン(Nycomed,Germany)を用いて、血小板凝集に対する特定のFab調製物の阻害効果を調べた。用いたコラーゲンの種類は、Qianら(Human Antibodies 11:97〜105,2002)、国際公開第01/00810号、国際公開第02/080968号及びそれらの関連出願において用いられたものと同じである。しかし、以下で論じるように、本発明のGPVI抗体は、Qian、国際公開第01/00810号及び国際公開第02/080968号で開示されるGPVI抗体に比べて有意に大きい阻害効果を示す。
血小板凝集アッセイを、抗凝血剤としての3.8%クエン酸三ナトリウム1/10容量中に血液を採取することにより行った(Nakamuraら、J.Biol.Chem.273(8):4338〜44,1998)。多血小板血漿(PRP)を、全血を180×gで15〜20分間、室温で遠心分離することにより得た。血小板を計数し、血小板凝集試験を行う前に、貧血小板血漿中に3〜4×108血小板/mlに調整した。全ての実験は、採血から3〜4時間で行い、全ての時間、多血小板血漿を室温に保持した。凝集試験は、レーザ散乱により粒子形成の動態を、及び光スペクトルの可視領域の650nmでの光透過により凝集の動態を測定する4チャンネル凝集測定装置AG10(Kowa,Japan)で行った。多血小板血漿を、種々の量のFabフラグメントと37℃で10分間インキュベートし(攪拌なしで5分間、次いで攪拌しながらさらに5分)、その後、酸不溶性ウマ腱コラーゲン(Nycomed,Germany)を加え、凝集を、さらに5〜10分監視した。
静的条件下でのコラーゲンへの血小板粘着を、上記のNakamuraら、J.Biol.Chem.273:4338〜4334(1998)の変法を用いて調べた。簡単に説明すると、洗浄した血小板を、所望量のFabフラグメントと30分間、Mg2+の存在下及び非存在下で室温にてインキュベートし、その後、コラーゲン被覆したウェルに加えた(2μg/ウェルの酸不溶性ウマ腱コラーゲン)(Nycomed,Germany)。室温で60〜90分間のインキュベーションの後に、粘着しなかった血小板を生理食塩水で軽く洗浄して除去し、市販のLDHキット(Promega,MA)を用いて粘着血小板のLDH含量を測定することにより定量した。
流動条件下での固定化コラーゲンへの血小板粘着は、Glycotech(Rockville,MD)により開発されたフローチャンバ中で測定した。組換えヒルジン(hirudin)(50単位/ml)で抗凝固した全血を、Fabフラグメント含有溶液と15分間、37℃でインキュベートし、その後、高せん断(2600秒−1,2分)で、コラーゲン被覆した(5μg/cm2の酸不溶性ウマ腱コラーゲン)(Nycomed,Germany)フローチャンバを通過させた。粘着しなかった血小板を、リン酸緩衝生理食塩水で洗浄し、粘着した血小板をグルタルアルデヒド(0.5%w/v,1時間)で固定し、トルイジンブルー/ホウ酸ナトリウム(0.05%,5分)で染色した。血小板による表面被覆率をデジタル画像解析により評価した。重複していない画像10点から得た平均値を用いて表面積被覆率(%)を測定した。
選択した抗体のうち、4種のIgG、OM1、OM2、OM3及びOM4からのFabフラグメントが、ヒト血小板についてコラーゲン誘発血小板凝集を阻害した。表2、3及び4を参照されたい。コラーゲン誘発血小板凝集に対するFabフラグメントの阻害能力の順序は、OM1>OM2>OM3>OM4であった。コラーゲン誘発血小板凝集の阻害についての各抗体の平均IC50及びSD値は、表4に示す。
表4:抗GPVI Fabフラグメントのヒト血小板のコラーゲン誘発凝集に対する影響及び非ヒト血小板への交差反応性
*用量応答曲線は、3人の異なる対象からの血液を用いて得られた。IC50値は、非回帰分析(non−regression analysis)により算出した。値は、実験3回の平均値±SDである。
**動物血小板との交差反応性は、個別のFabフラグメントがコラーゲン誘発血小板凝集を阻害する能力と、FACS分析における陽性右方シフトに基づいた。(+)符号は、Fabフラグメントによるコラーゲン誘発凝集の阻害と陽性右方シフトを示すが、(−)符号は、どちらの試験においても反応がないことを示す。
***測定せず。
ラット、イヌ及びサルの血小板への各抗体の交差反応性も試験した。サル及びイヌの血液は、Covance Research Inc,Vienna,VAから購入した。Sprague Dowleyラットは、Charles River Laboratories,Willmington,MAから購入した。4種のFabフラグメント全てが、サル血小板のコラーゲン誘発凝集を阻害した。面白いことに、OM4は、ラットの血小板と交差反応した。これらのGPVI特異的抗体は、動物モデルにおいてGPVI特異的抗体の効果を試験するのに有用な手段である。OM1、OM2、OM3及びOM4抗体を産生するハイブリドーマは、アメリカンタイプカルチャーコレクション(American Type Culture Collection)(Manassas,VA)に、2004年4月29日にATCC番号PTA−5938、PTA−5939、PTA−5940及びPTA−5941としてそれぞれ寄託した。
比較のために、広く用いられているヒト−マウスキメラ抗GPIIb−IIIa FabフラグメントであるReoPro(登録商標)(Centocor,Inc.)と、抗GPIIb−IIIbモノクローナル抗体7E3のF(ab’)2フラグメント(Coller及びScudder,Blood 66:1456〜1459,1985)を、GPVI特異的抗体を試験するのに用いた同じ条件下でいくつかの同じドナーについて試験した。ReoPro(登録商標)は、コラーゲン誘発血小板凝集を、1.71μg/mlのIC50で阻害した。つまり、OM1は、ReoPro(登録商標)よりも大きい阻害能力を有したが、OM2はReoPro(登録商標)と等しい能力であった。ReoPro(登録商標)は、このアッセイにおいてOM3及びOM4よりも2〜4倍より強力であった。7E3 F(ab’)2はラット血小板と交差反応したが、ReoPro(登録商標)はしなかった(表4を参照されたい)。
静的条件下でのFabフラグメントの血小板粘着に対する影響も試験した。粘着は、Mg2+の存在下(GPIa−IIa及びGPVI依存性)及び非存在下(GPVI依存性)で行った。Mg2+非依存性粘着は、図2に示すように、GPVIの存在に依存するのみであり、比較的低い濃度で4種全てのFabにより阻害された(IC50は0.1〜1μg/mlの範囲)。OM1、OM2及びOM3は、類似の阻害活性であった(IC50は0.1〜0.2μg Fab/mlの範囲)が、OM4は、類似の阻害を達成するためにもう少し高い用量を必要とした(IC50は0.2〜1μg Fab/mlの範囲)。Mg2+依存性粘着過程は、Mg2+非依存性粘着過程に必要なものよりも比較的より高い用量のFabフラグメントを必要とした(図2を参照されたい)。しかし、いずれのFabも、血小板のコラーゲンへのMg2+依存性粘着を完全に阻止することはできなかった。
静的条件下でのFabフラグメントのMg2+非依存性血小板粘着に対する影響は、さらにより低い用量(0.001〜1μg Fab/ml)を用いて繰り返した。図3に示すように、OM2及びOM4 Fabフラグメントは、0.1μg Fab/mlで40〜60%の血小板粘着を阻害し、OM1及びOM3 Fabフラグメントは、同じ濃度で10〜20%の粘着を阻害した。この相違は、バッチの違い及びドナーの変動性によるのであろう。結果として、Fabフラグメントの一連のOMは、0.5μg/mlより低い濃度で、GPVI依存性(Mg2+非依存性粘着)を効果的に阻害する。
血小板粘着に対する抗GPVI Fabフラグメントの阻害効果についても、上記のようなin vivoの状況により近い条件下で試験した。OM1、OM2、OM3、OM4のFabフラグメントは、高せん断条件(2600秒−1)下で、固定化コラーゲンへの血小板粘着を有意に阻害した。対照試料に比べて、抗GPVI Fabは、凝集物のサイズ及び形態に劇的な変化を誘発した(図4)。これに比べて、ReoPro(登録商標)(Centocor,Inc.)も、凝集物の形成を妨げたが、コラーゲン繊維上に個々の血小板の均一な層が観察された(図4)。
凝集物の形態は、2つの事象:(1)血小板の一次単層で被覆された領域と(2)全体像に容積の次元を加える、その後の凝集物の形成との結果である。表面被覆率を伴う凝集物形成の抗GPVI Fabによる劇的な減少は、GPVIが一次粘着過程に参加するだけでなく、血小板活性化及びその後の血栓成長を含む粘着後事象においても重要な役割を演じていることを示唆する。
凝集及び粘着アッセイは、本発明のGPVI特異的抗体のFabフラグメント、例えばOM1、OM2、OM3及びOM4は、血小板の機能の強力な阻害剤であることを証明する。これらは、Lucetら(J.Thrombosis and Haemostasis 1:2653〜2662,2003)、国際公開第02/80968号及び米国特許公開第2004/0253236号に記載されるような組換え可溶性GPVI−Fc(rsGPVI−Fc)融合タンパク質をコードするcDNAで免疫されたマウスから産生されたマウスモノクローナル抗体9O12.2のFabフラグメントよりも、コラーゲン誘発血小板凝集の阻害において、より効力がある。さらに、OM抗体は、9012.2 Fabフラグメントよりも、コラーゲンへのMg2+非依存性粘着の阻害において、より効力がある。
Nieswandt(J.Biol.Chem.275:23998〜24002,2000及び米国特許公開第2002/0141992号)は、マウスGPVIに対するラットモノクローナル抗体、JAQ1を報告した。しかし、JAQ1の飽和濃度(20μg/ml)は、コラーゲン誘発血小板凝集に対して限られた阻害効果しか示さなかった(米国特許公開第2002/0141992号、段落29を参照されたい)。さらに、JAQ1は、我々又は他者の手中で、FACS分析又はウェスタンブロッティングにおいてヒトGPVIを認識しなかった(Takayamaら、J.Thromb.Hemost.14:75〜81,2003)。
他者は、単鎖Fvs(ScFvs)を産生している。例えば、Qianら(Human Antibodies 11:97〜105,2002)は、本発明で用いたのと同じコラーゲンを2μg/ml用いたコラーゲン誘発血小板凝集試験において80〜90μg/mlのIC50を有するGPVIの単鎖Fv(ScFv)抗体を報告した。つまり、本発明のGPVI特異的抗体は、Qianらに比べて、コラーゲン誘発血小板凝集の阻害効力が有意に高い。国際公開第01/00810号、国際公開第02/80968号及びその関連出願に報告されているScFvも、本発明のGPVI特異的抗体に比べて、コラーゲン誘発血小板凝集の阻害のために有意に大きい濃度(110〜150μg/mlのScFv)を必要とした。
同様に、Smethurstら(Blood 103:903〜911,2004及び国際公開第03/054020号)は、コラーゲン誘発血小板凝集において12〜16μg/mlのIC50を有するGPVIのScFv抗体を報告した。これに対して、OM1、OM2、OM3及びOM4は、SmethurtのScFvよりも強力である。さらに、米国特許第6245527号及び第6383779号が抗GPVI抗体を開示しているが、これらは、本発明のもののようにコラーゲン誘発血小板凝集を阻害するのに効果的な抗GPVI抗体の例を全く示さない。
(実施例3)
GPVI特異的抗体は、コラーゲン誘発分泌及びトロンボキサンA2形成を阻害する
本発明のGPVI特異的抗体のFabフラグメントを、コラーゲン誘発分泌及びトロンボキサンA2(TXA2)形成に対するそれらの影響についても試験した。分泌とは、血小板の高密度α顆粒からの生理活性内容物のアゴニスト誘発放出のことをいう。
アゴニスト誘発放出を定量するある方法は、化学発光法を用いるルシフェラーゼアッセイにより、媒質中のATP含量を測定することである。多血小板血漿を、コラーゲン誘発ATP分泌について、発光式凝集測定装置(Lumi−aggregometer)(Chronolog Corporation,PA)及びルシフェラーゼ−ルシフェリン試薬を用いて試験した。発光式凝集測定装置は、アゴニスト誘発血小板凝集とATP分泌とを同時に測定する。簡単に説明すると、ヒト血液を、シリンジを用いて3.8%クエン酸三ナトリウムに直接加えた(血液:クエン酸塩を9:1容量)。多血小板血漿は、180×gで15分間の遠心分離により調製した。多血小板血漿(360μl)を、40μlのルシフェラーゼ−ルシフェリン試薬(Chrono−lume;Chronolog Corporation,PA)と混合し、混合物を種々の量の試験Fab、ReoPro(登録商標)又は対照と37℃で5分間インキュベートした。1〜4μg/mlのコラーゲン(酸不溶性ウマ腱コラーゲン)(Nycomed,Germany)を5分で加え、凝集及びATP分泌を8分間監視した。反応の最後(10〜11分)に、既知の量のATP溶液を加えて、アゴニストでの攻撃の際に血小板により分泌されたATP量を算出するために用いられる偏向を得た。
トロンボキサンA2形成を、上記で用いたのと並行する試料で測定した。上記のコラーゲン添加工程の10分後に、500μLの停止溶液(130mM NaCl中の50mM EDTA、2mMインドメタシン)を200μLの多血小板血漿に加えて、トロンボキサンA2形成を停止させた。懸濁液を1000×gで4℃にて10分間遠心分離した。上清を回収し、トロンボキサンA2の安定な代謝産物であるトロンボキサンB2について試験するまで−20℃で凍結させた。トロンボキサンB2は、市販のキット(Thrombixane B2 Biotrak Assay,Amersham)を用いて定量した。
OM1、OM2、OM3及びOM4の全てのFabフラグメントは、ヒト血小板からのコラーゲン誘発ATP放出を強力に阻害した(表5)。OM1は、1μg/mLで90%を超える阻害を示した。OM2、OM3及びOM4も、3μg/mLで90%を超える阻害を達成した。ReoPro(登録商標)は、抗GPVI抗体よりもATP分泌の阻害において効果がより小さく、抗GPVI Fabがコラーゲン誘発ATP放出のよりよい阻害剤であることを示唆する。血小板から放出される二次アゴニストは、協調して血栓を成長させることが知られている。したがって、コラーゲン誘発分泌の阻害剤、例えば本発明のGPVI特異的抗体は、血栓成長の強力な阻害剤である。
表5:ヒト血小板からのコラーゲン誘発ATP放出に対する抗GPVI Fabフラグメントの影響*
*結果は、4人の異なる血小板ドナーから得た。
コラーゲン誘発トロンボキサンA2発生も、OM1、OM2、OM3及びOM4のFabフラグメントにより強く阻害された(表6)。試験した4種のFabフラグメントのうち、OM1は、1μg/mLで90%を超える阻害を示した。OM2及びOM3も、3μg/mLで90%を超える阻害を達成した。OM4は、トロンボキサンA2形成を3μg/mLで約86%阻害した。これに対して、ReoPro(登録商標)は、1及び3μg/mLでトロンボキサンA2形成に対してほとんど又は全く阻害効果を示さなかった。GPVIの遮断が、TXA2の発生及びコラーゲン粘着血小板上の活性化IIb−IIIa複合体の発現を阻害することも示されている(Nakamuraら、J.Biol.Chem.273:4338,1998;Nakamuraら、J.Biol.Chem.274:11879,1999)。したがって、抗GPVI FabフラグメントによるTXA2発生の阻害は、本発明のGPVI特異的抗体が、活性化IIb−IIIa複合体の発現を導く上流のシグナリング事象を阻害し、最終的にはその後の血栓成長を減弱化することを示唆する。
表6:ヒト血小板におけるコラーゲン誘発トロンボキサンA2形成に対する抗GPVI抗体のFabフラグメントの影響
*結果は、4人の異なるドナーからの血小板を用いて得た。
(実施例4)
GPVIに対する抗GPVI抗体のFabフラグメントの結合親和性及び反応性
結合親和性は、Fujimuraら Thromb Haemost 87:728〜34(2002)の方法に従って測定した。結合親和性の測定において用いた125I標識抗体は、未標識のIgGから、ヨード−ビーズ法(Pierce,IL)に従って調製した。簡単に説明すると、1つのヨード−ビーズを、0.5mCiの無担体のNa125I含有ヨウ素化緩衝液(Amersham)に浸漬し、その後、候補のIgG(100μg)を加えた。室温で5分間のインキュベーションの後に、反応混合物をPD10カラム(Amersham)にかけて、125Iに結合したIgGを遊離のヨウ素から分離した。125I−IgGを含む画分をカラムから溶出し、少量(1μl)をTCA沈殿に付した。沈殿したペレット及び得られた上清の両方をガンマカウンターでカウントして、IgGへの125Iの取り込みを定量した。沈殿中に最大カウントを有する画分(<95%)をプールし、280nmで分光光度計で読み取ってタンパク質濃度を測定した。既知の容量をガンマカウンターで再びカウントして、標識IgGの比放射能を得た。種々の抗体の比放射能は、0.33〜0.97μCi/ug IgGの範囲であった。
結合親和性は、洗浄したヒト血小板(5×108/ml)を1nMの125I−IgGと、種々の濃度の未標識相同IgG(0〜500nM)の存在下及び非存在下で1時間インキュベートすることにより測定した。遊離及び結合した放射活性は、混合物をBSA(生理食塩水中に10%)溶液に重層し、15000×gで10分間遠心分離することにより分離した。上清及びBSAクッションの両方を注意深く除去した後に、チューブの先端を切断してペレットの放射活性を、ガンマカウンターでカウントした。8〜10本の三点競合結合等温線(triplicate−point competition binding isotherms)を、個別のIgGの結合を評価するために得た。データは、非線形回帰分析ソフトウェアであるPrism(GraphPad Software Inc.CA)を用いて分析した。
結合親和性実験で、4種の抗体全てが、0.7〜1.7nMの範囲の親和性で血小板に強く結合することが明らかになった(表7)。本発明の抗体を、当分野で報告されている抗体の結合親和性と比較した。ReoPro(登録商標)(Kd=6.25±2.6×10−9M)(Sassoliら Thromb Haemost 85:868〜902,2001から)、scFv−10B12(Kd=7.9×10−7M)(Smethurstら、Blood 103:903〜91,2004から)及び9O12.2−IgG(Kd=18×10−9M)(国際公開第02/080968号から)。ReoPro(登録商標)及びscFv−10B12は、一価フラグメントであるが、この実施例で用いた一連のOM及び9O12.2は、IgGである。4種全てのOMは、ReoPro(登録商標)、scFv−10B12及び9O12.2−IgGについて報告されたよりもより高い親和性でヒト血小板に結合した(表7)。一価のフラグメントは、通常、無処置の対応するIgGに比べて親和性がいくらか低減されている。しかし、その減少は有意であるとは予想されないと思われる。
表7:抗GPVI抗体の結合親和性
一連のOMの結合の試験は、異なる個体からの血小板を用いる単独の実験による。各データ点は、3回測定した。
*Sassoliら Thromb Haemost 85:868〜902(2001)からのデータ。
**Smethurstら、Blood 103:903〜911(2004)からのデータ。10B12は、ファージディスプレイ法により得られるGPVIに対するヒト特異的scFv抗体である。
***国際公開第02/080968号からのデータ。9O12.2は、モノクローナル抗GPVI抗体である。
ウェスタンブロッティング分析を行って、異なる種からのGPVIに対する一連のOM抗体の反応性を測定した。異なる種からの血小板(1×108/ml)を、EDTA、EGTA、PMSF及びNEM(各1mM)を含有する2%SDSに可溶化した。タンパク質は、4〜20%のプレキャストTris−グリシングラジエントミニゲル(Invitrogen,Carlsbad,CA)で分離し、分割したタンパク質をニトロセルロース膜(Invitrogen,Carlsbad CA)に移した。個別のレーンを切り取り、TBS−T(10mM Tris.HCI pH 7.4,150mM NaCl及び0.5% Tween20)中の5%スキムミルクで60分間ブロックした。切断したニトロセルロースを、OM抗体(2μg/ml)又はビオチン化コンバルキシンと4℃で一晩インキュベートした。膜をTBS−Tで十分に洗浄し、室温で1時間、HRP−結合ヤギ抗マウスIgG(OM1、OM2及びOM4)、HRP結合ヤギ抗ハムスターIgG(OM3)又はストレプトアビジン−HRP(ビオチン化コンバルキシン)のいずれかを用いてプローブした。膜を、大過剰のTBS−Tで3回洗浄した。免疫反応性のバンドを、高感度化学発光検出システム(ECL−Amersham Pharmacia Biotech,Little Chalfont,UK)を用いて視覚化した。
4種全てのOM抗体は、イムノブロットにおいて、ヒト血小板からの変性GPVIと反応した(図5)。同様の反応性は、サル血小板とも観察された(ブロットは示さず)。いずれの抗体も、マウス、ブタ、イヌ、ウサギ又はモルモットの血小板とは反応しなかった。OM4のみが、ラット血小板溶解物と陽性反応した。これらのデータは、一連のOM抗体の全てがヒト及びサルからの血小板におけるGPVIを認識するが、OM4はラット血小板におけるGPVIもさらに認識することを示唆する。
(実施例5)
相補性決定領域(CDR)
OM1、OM2、OM3及びOM4の相補性決定領域(CDR)の配列を決定した。
全RNAを、OM1、OM2、OM3及びOM4のハイブリドーマからTRIzol(Invitrogen)を用いて単離した。cDNAを、ランダムプライマーを用いてSuperScript First−Strand System(Invitrogen)で合成した。抗体の可変領域に相当するDNA配列を、Platinum Pfx DNA Polymerase(Invitrogen)をHeavy Primers又はLight Primersミックス(Amersham)と共に用いてポリメラーゼ連鎖反応により増幅した。増幅したDNAを、pCR4−TOPOベクター(Invitrogen)に連結し、得られた構築物を、TOPO TA Cloningキット(Invitrogen)を用いて、化学的コンピテント細胞に形質転換した。形質転換細胞を、カナマイシンの存在下で培養し、増幅したプラスミドを、E.Z.N.A.Plasmid Miniprep Kit II(Omega Bio−tek)を用いて単離した。挿入DNAの配列決定を、ABI PRISM 310 Genetic Analyserで、ABI PRISM BigDye Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kit(Applied Biosystems)を用いて行った。DNA配列を分析して、OMIGA 2.0ソフトウェア(Oxford Molecular)を用いてアミノ酸配列に変換した。
OM1、OM2、OM3及びOM4のCDRを、表8に示す。
表8:抗GPVI抗体のCDR配列
(実施例6)
GPVIと血栓症
血栓症におけるGPVIの役割は、GPVI枯渇又はFcRγ−KO/GPVI欠損マウスを用いた以前の試験で示されている(Nieswandtら、The EMBO Journal 20:2120〜2130(2001))。GPVI枯渇又はFcRγ−KO/GPVI欠損マウスは共に、FcRγ鎖を欠く。この実施例においては、血栓症におけるGPVIの関わりを、FCRγ鎖を欠損していないGPVI−KOマウスを用いて確かめた。
GPVIノックアウトマウスは、上記のようにして得た。これらのマウスからの血小板は、高用量のコラーゲン(20μg/ml)にもGPVI特異的アゴニストであるコンバルキシン(3μg/ml)にも応答できなかったが、ADP(5μM)には正常に応答した(図6)。野生型に比べて半分の量のGPVIを産生するヘテロ接合性GPVI欠損マウスは、コラーゲン及びコンバルキシンに対する応答が減少したが、アゴニストの用量を増加させると通常の応答が観察された(図6)。これらの知見は、血小板表面での主要なコラーゲン受容体としてのGPVIの役割を確実にする。
血栓症及び恒常性におけるGPVIの役割を、まず、致死的な肺血栓塞栓症を通常は誘導するコラーゲン−エピネフリンの同時注入により試験した(表9を参照されたい)。マウスにケタミン/キシラジン(150/15mg/kg、IP)で麻酔をかけ、コラーゲンとエピネフリンの混合物(800/60μg/kg)を、右頚静脈に注射した。次いで、マウスを15分間観察し、次のように分類した:(a)注射の10分以内に死亡した動物、及び(b)10分以内に緩和される一過性の呼吸困難を示した生残り動物。生残り動物の外科的創傷を縫合し、動物を動物施設に戻した。約83%(18匹のうち15匹)のGPVI野生型動物が、注射の5分以内に死亡した。全てのヘテロ接合性GPVI欠損マウス(18匹のうち18匹)が、注射の5分以内に死亡した。野生型及びヘテロ接合性の動物とは対照的に、約55%のGPVI−KOマウス(ホモ接合性)は、コラーゲンとエピネフリンの致死的注射に対して生き残り、GPVIがコラーゲンの注射により誘導される肺血栓塞栓症において重要な役割を演じることを示唆した。
表9:肺血栓塞栓症におけるGPVIの役割
表10に示すように、GPVIノックアウトマウスは、野生型及びヘテロ接合性マウスと本質的に同じ尾部出血時間を示した。GPVIノックアウトマウスの出血時間を、血小板で見出され且つ血小板凝集及び血栓症に関わるβ3インテグリンを欠損するノックアウトマウスのものと比較した(Kairbaanら、J.Clin.Invest.103:229〜238,1999)。GPVI欠損マウスとは対照的に、ホモ接合性β3ノックアウトマウスは、継続して出血した。したがって、in vivoでの抗GPVI Fabフラグメントの投与は、GPVIノックアウトマウスでの出血時間は野生型マウスのものと同様であるので、これらが出血時間に大きく影響はしないことから、より安全であり得る。
表10:野生型、ヘテロ接合性及びホモ接合性マウスにおける尾部出血時間:β3ノックアウトマウスとの比較
*J Clin Invest 103:229,1999
**野生型及びヘテロ接合性マウスと有意に異なる。ほとんどの場合、出血は、死を避けるために手操作で止めなければならなかった。
血栓症におけるGPVIの役割をさらに確かめるために、野生型、ヘテロ接合性及びGPVI−KOマウスからの全血を、I型コラーゲンで被覆したカバーガラス上に2600秒−1のせん断応力で灌流させた。GPVI−KOマウスからの血小板は、コラーゲン繊維に粘着できなかったが、野生型及びGPVI−ヘテロ接合性マウスからの血小板は、コラーゲン繊維に粘着して、大きい血栓を形成した。野生型マウスとGPVI−ヘテロ接合性マウスとの間に、表面被覆率及び血栓形態における違いはなかった(図7)。
(実施例7)
カニクイザルでのex vivoコラーゲン誘発血小板凝集及び皮膚出血時間に対するOM2 Fabフラグメントの影響
用量段階増加試験:OM2 Fabフラグメントは、カニクイザルの血小板を用いたin vitroコラーゲン誘発血小板凝集アッセイにおいて、OM抗体のうちで最大の阻害効果を示したので、さらに試験した。OM2 Fabフラグメントを、用量を段階増加させながら、静脈内注射によりカニクイザルに投与し、ex vivoコラーゲン誘発血小板凝集及び皮膚出血時間に対するその影響を評価した。ReoPro(登録商標)を、同様の方法で試験した。
吸入麻酔の下で、OM2 Fabフラグメント又はReoPro(登録商標)を、1時間の間隔で前腕の橈側皮静脈に静脈内注射した。各注射の30分後に、コラーゲン誘発血小板凝集の測定のために血液を採取した。多血小板血漿及び貧血小板血漿を、クエン酸三ナトリウムで抗凝血化した血液を連続遠心分離することにより調製した。血小板凝集を、採血から1時間後に比濁法で測定した。血小板凝集を誘導するのに用いたコラーゲンの濃度は、各サルからの血小板の反応性に応じて、5〜20μg/mLであった。皮膚出血時間は、抗体の各注射の30分後に、前腕の筋肉をマンシェットを用いて40mmHgに締め付け、Triplett Bleeding Time Device(Helena Laboratory)を用いて皮膚を切開することにより測定した。創傷からの血流をろ紙で吸収し、出血が停止するまで又は1800秒間、出血時間を測定した。抗体の累積用量を用いて、抗体の効果を評価した。
OM2 Fabフラグメントは、コラーゲン誘発血小板凝集に対して用量依存性の阻害効果を示した(図8)。0.2mg/kg以上の累積用量で、OM2 Fabフラグメントは80%を超えて血小板凝集を阻害した。
ReoPro(登録商標)は、コラーゲン誘発血小板凝集に対して用量依存性の阻害効果を示した(図8)が、0.35mg/kg以上の累積用量で、80%を超えて血小板凝集を阻害した。
OM2 Fabフラグメントは、0.8mg/kgの累積用量で、皮膚出血時間を少し延長した(ベースライン値の2.4倍)(図9)。OM2 Fabフラグメントは、18.8mg/kgの累積用量で、出血時間を少し延長したが、出血時間は、0.8mg/kgで観察された出血時間を超えなかった。
これに対して、ReoPro(登録商標)は、皮膚出血時間を劇的に延長した(図9)。0.35mg/kgの累積用量で、平均出血時間は、ベースライン値より5分長かった。さらに、ReoPro(登録商標)による出血時間の延長は、用量依存的であった。1.55mg/kgの累積用量で、出血時間はベースライン値より9.5倍長かった。
結果として、OM2 Fabフラグメントは、ReoPro(登録商標)が示したのと同様に、ex vivoコラーゲン誘発血小板凝集に対する効果的な阻害効果を示した。しかし、皮膚出血時間に対するOM2 Fabフラグメントの効果は、ReoPro(登録商標)よりも穏やかであった。これらの結果は、GPVIの遮断は、GPIIb/IIIaの遮断に比べたときに優れたリスク/便益比を示し、したがって、臨床治療により適するであろうことを示唆する。さらに、ReoPro(登録商標)を0.4及び0.8mg/kgで投与した後の1匹のサルの注射部位に、赤い斑点が観察された。数日後にこの斑点は消えたが、OM2 Fab投与では異常は観察されなかった。
薬物動力学試験:ex vivoコラーゲン誘発血小板凝集及び皮膚出血時間に対する時間経過に伴うOM2 Fabフラグメントの効果の変化を、ボーラス静脈内注射の後の3匹のカニクイザルにおいて評価した。ReoPro(登録商標)による効果の変化を、同様にして評価した。
この試験について、0.4mg/kgの用量を選択した。なぜなら、OM2 Fabフラグメント及びReoPro(登録商標)が、ex vivoコラーゲン誘発血小板凝集を、それぞれ0.2mg/kg及び0.35mg/kgで阻害したからである。前腕の橈側皮静脈に抗体をボーラス静脈内注射した後に、血液を1、2、3、6及び24時間で採取した。血小板凝集を、各採血の1時間後に、上記の用量段階増加試験に記載したようにして測定した。血小板凝集を誘導するのに用いたコラーゲンの濃度は、各サルからの血小板の反応性に応じて、この試験において5又は10μg/mLであった。出血時間も、抗体投与の1、2、3、6及び24時間後に、上記の用量段階増加試験に記載したようにして測定した。
0.4mg/kgで注射されたOM2 Fabフラグメントは、ex vivoコラーゲン誘発血小板凝集を、投与の1、2、3及び6時間後に80%を超えて阻害した(図10)。注射の24時間後に、血小板凝集はほぼ基礎レベルに回復した。
同様に、0.4mg/kgで注射されたReoPro(登録商標)は、投与の1及び2時間後に、ex vivoコラーゲン誘発血小板凝集を、80%を超えて阻害した(図10)。しかし、OM2 Fabフラグメントとは対照的に、血小板凝集は経時的に回復した:投与の3時間後に73%の阻害、6時間後に47%の阻害、24時間後に6%の阻害。
図11に示すように、OM2 Fabフラグメントは、投与後1〜6時間の間に皮膚出血時間を少し延長した(ベースライン値より1.7〜2.0倍長い)。出血時間は、血小板凝集の回復と一致して、注射の24時間後にほぼベースライン値に戻った。
対照的に、ReoPro(登録商標)は、投与の1時間後に出血時間を有意に延長した(ベースライン値より10.7倍長い)(図11)。出血時間の延長は、時間に依存してあまり目立たなくなった。
これらの結果は、血小板凝集に対するOM2 Fabフラグメントの阻害の半減期が、ReoPro(登録商標)のものよりも長いことを示す。さらに、これらの結果は、OM2 Fabフラグメントのリスク/便益比がReoPro(登録商標)のものよりも優れることも示す。
(実施例8)
ラットにおけるex vivoコラーゲン誘発血小板凝集、出血時間及び血小板数に対するOM4 Fabフラグメントの影響
OM4 Fabフラグメントを、ラットにおけるex vivoコラーゲン誘発血小板凝集、尾部及び爪出血時間についてさらに試験した。比較のために、ヒト血小板糖タンパク質複合体GPIIb/IIIaに対して産生された樹立マウス抗体に由来する7E3 F(ab’)2(CollarらJ.Clin Invest.72:325〜338,1983)を、同様の方法で試験した。7E3 IgGを、ATCCから得た7E3ハイブリドーマを用いる大量培養から得た。F(ab’)2フラグメントを、CollarらJ.Clin Invest.72:325〜338,1983に記載のようにして調製した。ラットを用いた予備実験では、OM4 Fab及び7E3 F(ab’)2の最適用量は、それぞれ20及び10mg/kgと決定された。ex vivoコラーゲン誘発血小板凝集は、OM4 Fabにより30分間阻害されたままであり、その後、阻害は60〜90分で逆になったが、このことは、ラットにおいてOM4 Fabのクリアランスが早いことを示唆する。全ての観察は、媒体、試験抗体及び参照抗体の投与の20分後に行った。
成体の雄Sprague−Dawleyラットに、ケタミン/キシラジンで麻酔をかけた。薬剤投与、血圧/心拍数の記録及び血液採取のために、それぞれ大腿静脈、大腿動脈及び頚動脈にヘパリン充填カテーテルを挿入した。平衡化期間の後に、少量の血液(約1.2mL、10U/mLのヘパリンで抗凝固)を、血小板数のために頚動脈から採取した。1μg/mLコラーゲンにより惹起した血小板凝集の程度を、全血凝集測定装置(Chrono−log,Havertown,PA)を用いて測定した。爪出血時間も、このときに、後肢のつま先の爪の1つを爪髄(nail pulp)を横切開する点で切り、爪の切断表面に接触しないようにして、血液を15秒ごとに一片のろ紙に吸収することにより測定した。爪出血時間は、爪の切断からろ紙に血液が吸収されなくなる時点までの間に経過した時間として規定した。
媒体、OM4 Fab又は7E3 F(ab’)2組成物を、大腿静脈に投与した。20分で、2回目の血液試料を、上記のような凝集測定法及び血小板数測定のために採取した。最後の試料の採取の直後に、爪及び尾部出血時間を測定した。尾部出血時間は、鋭利なメスを用いて尾部の末端3mmを除去し、末端2〜3cmの尾部を37℃の生理食塩水に浸漬することにより測定した。尾部出血時間は、尾部の切断から尾部の切断表面から血液が出なくなる時点までの間に経過した時間として規定した。各群(媒体、OM4 Fab及び7E3 F(ab’)2フラグメント)について6匹のラットを用いた。
OM4 Fab及び7E3 F(ab’)2フラグメントは共に、媒体に対して(P<0.05)、抗体フラグメントの投与の20分後に、統計的に有意な程度の血小板凝集阻害を示した(図12)。OM4 Fab群において変動が少し大きかったが、阻害は非常に再現性があった。血圧及び体の芯の温度は、媒体、OM4 Fab及び7E3 F(ab’)2フラグメント化合物の投与によって変わらないままであった。
爪出血時間は、7E3 F(ab’)2フラグメントの投与により劇的に延長されたが、OM4 Fabの投与は、試験した6匹の動物のうち4匹に影響を与えなかった(図13A)。2匹の動物において、爪出血時間は、OM4 Fabの投与により、26及び31分に延長された。これに対して、7E3 F(ab’)2フラグメントは、1匹を除いて全ての場合において爪出血時間を30分を超えるまで延長させ、この1匹では、爪出血は18分で停止した(図13A)。7E3 F(ab’)2フラグメントを投与された動物の平均爪出血時間は、スチューデントのt検定により示されるように、OM4 Fab及び媒体よりも有意に長かった。OM4 Fabは、媒体と比較したときに、爪出血時間の有意な延長を誘導しなかった。
爪出血時間と同様に、7E3 F(ab’)2フラグメントの投与により、全ての動物において尾部出血時間が劇的に延長されたが、OM4 Fabの投与は試験した6匹の動物のうち4匹で影響を示さなかった(図13B)。2匹の動物において、尾部出血時間は26及び>30分に延長された。これに対して、7E3 F(ab’)2フラグメントは、全ての場合において尾部出血時間を30分を超えるまで延長した(図13B)。血小板数については、媒体、OM4 Fab及び7E3 F(ab’)2フラグメントの静脈内投与の有意な効果は示さなかった(図14)。
この試験から得られたデータは、OM4 Fab(20mg/kg)及び7E3 F(ab’)2フラグメント(10mg/kg)が、コラーゲン誘発血小板凝集の同程度の阻害を惹起するが、7E3 F(ab’)2は、出血時間を有意に延長することを示す。出血時間にあまり影響を与えずに血小板機能を阻害するOM4 Fabの能力は、これが治療的に有益であることを示唆する。OM4 Fabは、否定的な出血の副作用を示さずに、現在利用可能な血小板阻害剤と同様の有望な利益をもたらし得る。
(実施例9)
ラット動脈血栓症モデルでのOM4 Fabフラグメントの影響
OM4 Fabフラグメントの影響を、ラットのin vivo動脈血栓症モデルにおいても試験した。文献においてin vivo血栓症の種々のモデルが報告されているが、Folts(例えばCirculation 83(6補):IV 3〜14,1991を参照されたい)により開発されたモデルは、抗血栓剤の効能を試験するために広く用いられている。この元来のモデルは、イヌ冠状動脈において開発されたが、この試験においては、ラット頚動脈についての試験のためにこのモデルを改変した。簡単に説明すると、頚動脈を機械的に損傷し、その後、狭窄した。血管損傷及び血管の狭小化の組み合わせ(2つの条件は、血栓症の病原、すなわち動脈硬化及び狭窄を模倣する)は、血栓形成をもたらす。次いで、血管閉塞物をそれぞれ回収して置換することにより、血栓を機械的に除去して再構築できる。このことにより、以下でより詳細に論じる周期的流量減少(cyclic flow reduction;CFR)を起こす。抗血栓剤は、CFRの数を減少させるか、又はCFRの形成を完全に防止し得る。
ラットにペントバルビタールを用いて麻酔をかけ(50mg/kg,i.p.)、気管の挿管により機械的に人工呼吸させた。大腿静脈のセグメントを切開し、薬剤注入に用いた。頚動脈を、腹部頚部領域の正中線の切開により露出させ、結合組織を外して切開した。小さい流量プローブ(Transonic,1RB,Transonic Systems Inc.,Ithaca,NY)を動脈の末端において血流を測定した。2つの条件を適用することにより血栓症を誘発した。まず、一方のつめを閉じた持針器を用いて10秒ずつ、動脈の中央露出部の3連交叉金具により、損傷を誘導した。次に、損傷部位に置かれたC形のバルーンからなる静脈閉塞物(1.5mm内径,In Vivo Metric,Healdsburg,CA)を膨張させることにより、ベースラインの血液流量の50%減少を適用した。血液流量は、血栓の形成により、約2〜5分のうちに0まで徐々に減少させた。バルーンを収縮させることにより、血栓を物理的に除去し、血液流量を直ちに回復させた。50%血液流量減少の後に血液流量が0に減少したとき、及び血液流量が回復したときに、1のCFRを計測した。50%流量減少を再び適用した後に、血液流量は再び徐々に減少し、新しい血栓が形成されるにつれて次のCFRをもたらした。30分間の観察期間の間に、CFRの数を計数した。この数は、半分のサイクルまで回った。
損傷前の群において、生理食塩水又は20mg/kgのOM4 Fabフラグメントのいずれかを、機械的損傷を与える2分前に静脈内ボーラス注射により与えた。次いで、CFRを30分間記録した。
損傷後の群において、CFRは、内皮損傷及び流量50%減少により開始した。CFRを15分間観察し、その後、媒体又は20mg/kgのOM4 Fabフラグメントの静脈内ボーラス注射を行った。次いで、CFRを30分間記録した。
独立t検定を用いて、生理食塩水の群及びOM処理前群又はOM処理後群におけるCFRの数を比較した。P<0.05を有意とみなした。
損傷前群:機械的損傷前に20mg/kgで注射したOM4 Fabフラグメントは、CFRの数を10.5±4.1(平均値±SD)から4.1±5.2に減少させた(図15A)。この減少は、統計的に有意であった(p<0.02、t検定)。
損傷後群:CFRを確立した後に20mg/kgで注射したOM4 Fabフラグメントも、CFRの数を12.2±3.8から3.5±3.6に減少させた(図15B)。この減少も、統計的に有意であった(p<0.003、t検定)。この結果は、OM4 Fabフラグメントは、血小板と内皮下コラーゲンとの間の相互作用が開始された後であっても、血栓形成を阻害できることを証明する。さらに、これらの結果は、抗GPVI抗体が、臨床状況において血栓性疾患を引き起こすとされている内皮損傷/血液流量撹乱により誘導されるin vivo動脈血栓症形成を強力に阻害できることを示唆する。
(実施例10)
GPVIの占有率とコラーゲン誘発血小板凝集の阻害との関係
血小板表面上のGPVI占有率と、in vitroでのヒト血小板におけるビオチン化OM2 Fabフラグメントによるコラーゲン誘発血小板凝集に対する阻害効果との関係を調べた。
OM2 Fabフラグメントを、Sulfo−NHS−LC−Biotin(Pierce)を用いてビオチン化した。ビオチン溶液(150μL,蒸留水中に10mg/mL)を、Phosphate Buffered Saline(PBS)中のOM2 Fabフラグメント溶液(5mg,2mg/mL)に加えた。反応チューブを氷上で2時間インキュベートした。遊離のビオチンを除去するために、反応混合物を、生理食塩水に対して冷室で一晩透析した。
血液を、1/10容量の3.8%クエン酸三ナトリウム抗凝固剤中に3人の健康なドナーから採取し、多血小板血漿を、室温にて180×gで15分の遠心分離により得た。血小板を計数し、貧血小板血漿を用いて3×108血小板/mLに調整した。凝集の測定を、採血から4時間以内に行った。凝集試験は、AG10凝集測定装置(Kowa,Japan)にて行った。多血小板血漿を、ビオチン化OM2 Fabフラグメント(0、0.1、0.3、0.5、0.7、1、3、10及び20μg/mL)と37℃で10分間インキュベートし、その後、コラーゲンを加えて、凝集をさらに5〜10分間監視した。70〜90%の凝集を誘導するのに必要なコラーゲンの用量は、抗体の評価の前に各ドナーについて決定した。
多血小板血漿(3×108血小板/mL、各400μL)を、ビオチン化OM2 Fabフラグメント(0、0.1、0.3、0.5、0.7、1、3、10及び20μg/mL)と室温で10分間インキュベートした。次いで、洗浄した血小板を次のようにして調製した。多血小板血漿に1μg/mLのPGE1、1mM EDTA及びEGTAを補い、2000×gで10分間遠心分離した。血漿を捨てた後に、血小板のペレットをペレット洗浄緩衝液(PWB:1mM EDTA及びEGTA、0.1%NaN3、100ng/mL PGE1及び0.35%BSAを補ったリン酸緩衝生理食塩水、pH7.4)に懸濁した。次いで、血小板を遠心分離して再び洗浄した。洗浄した血小板を少量のPWBに懸濁し、血小板を計数した。最後に、洗浄した血小板(1×108血小板/mL)を、等容量の1%TritonX−100含有リン酸緩衝生理食塩水と混合することにより可溶化した。
ビオチン化OM2 Fabフラグメントを、捕捉試薬としてストレプトアビジン(Pierce,21125)を、及び検出試薬としてヤギ抗マウスIgG抗体−HRP(American Qualex,A106PU)を用いるELISA法により定量した。
3人全てのドナーにおいて、コラーゲン誘発血小板凝集は、3μg/mLの濃度でのビオチン化OM2 Fabフラグメントにより、75%を超えて阻害された。
占有率アッセイにおいて、占有率は、20μg/mLのビオチン化OM2 Fabフラグメントで100%であると見積もられた(結合した量:26.4±5.5ng/5×107血小板)。図16に示すように、結合したOM2 Fabフラグメントは3μg/mLで飽和した(24.3±3.5ng/5×107血小板)。3μg/mLのビオチン化OM2 Fabフラグメントの占有率は、92%であった。この結果は、血小板表面で90%を超えるGPVIの占有率が、コラーゲン誘発血小板凝集に対して最大限の阻害効果を発揮するのに必要であることを示唆する。
結論として、本発明のGPVI特異的抗体は、有用な抗血栓剤となり得る。上記で証明されたように、GPVI特異的抗体は、コラーゲンにより誘発される血小板機能の強力な阻害剤である。
(実施例11)
組換え可溶性GPVIの調製
GPVIの外部ドメインからなる組換え可溶性GPVIポリぺプチドを、生体試料中のシェディングした可溶性GPVIを検出、定量するためのELISA用の標準タンパク質として産生した。
ヒトGPVI(アミノ酸残基22〜219)の外部ドメインをコードするDNA配列を標準的なPCR操作により増幅した。PCR産物をEcoRI及びNotl制限酵素により消化し、EcoRI及びNotlの部位からプラスミドpEF1/SecTagA/V5HisA中に挿入した。このベクターは、挿入DNA配列によりコードされたポリぺプチドのN末端に融合したIgκ軽鎖のシグナルぺプチド、及びそのC末端に融合したV5及びHisx6ぺプチドをコードする。図17Aは、N末端にIgシグナルぺプチド、続いてGPVI外部ドメインの2つの免疫グロブリン(Ig)ドメイン、さらにC末端にV5及びHisx6のぺプチドタグを含む、生成可溶性GPVIポリぺプチドの構造を示す。
得られたプラスミドは、製造業者による記載に従って、Lipofectamine2000(Invitrogen)を用いてCHO−K1細胞中にトランスフェクトした。トランスフェクトCHO細胞は、限界希釈によりクローン化し、個々のG418抵抗性クローンを選択マーカーG418の存在下で増殖させた。個々の細胞クローンの培養媒体中で分泌された可溶性GPVI量を、サンドイッチELISA(実施例12参照)を用いて比較した。最大量の可溶性GPVIを産生するクローンをさらなる使用のために選択した。選択された可溶性GPVI発現CHO細胞は、2.0〜2.5%のウシ胎児血清(FCS)及び100μg/mlのG418を含有するDMEM/F12(1:1)媒体中で、37℃、5%CO2含有雰囲気中、ローラーボトルにおいて培養した。
該細胞が集密に達したとき、培養上清を採集した。培養上清を4℃、15000×gで45分間遠心分離し、細胞及び細胞残屑を除去した。澄明化した上清をAmicon YM10フィルター−アセンブリ(Millipore)を用いて20倍に濃縮した。次に、組換え可溶性GPVIを抗GPVI抗体(OM1)結合セファロース(商標)を用いるアフィニティクロマトグラフィーにより精製した。Amersham Pharmacia製のHiTrap(商標)NHS活性化HPカラムを用いて、製造業者の使用説明書に従ってセファロース(商標)ビーズにOM1IgGを結合させた。濃縮上清をPBSで平衡化させたOM1結合セファロース(商標)カラム上に載せた。低親和性の結合性タンパク質を除くため、洗浄液のOD280nmがベースライン(<0.01)まで戻るまで、PBSでカラムを十分に洗浄した。カラム結合可溶性GPVIは、PBS中の3MのKSCNで溶出した。タンパク質を含有する画分(OD280nmの測定により評価した)をプールし、PBS中で透析し、濃縮し、−20℃で保管した。可溶性GPVIの純度及び分子量をSDS−PAGEにより評価した。
図17Bは、左のレーンに分子量マーカー及び右のレーンに組換え可溶性GPVIを有するクーマシー染色SDSポリアクリルアミドゲルを示す。マーカータンパク質の分子量が示されている(kDa単位)。有意な汚染性ポリペプチドがないことから明らかなように、組換え可溶性GPVIは実質的に純粋であり、還元性条件下で40kDaの見掛け分子量を有する。可溶性GPVIが真正であることは、ウェスタンブロットとELISAアッセイにおいてビオチニル化したコンバルキシン、OM1及びOM2のIgGとの反応性を示すことにより確認された。さらに、Hisx6及びV5ペプチドタグの存在が、ELISAアッセイにおいて抗His及び抗V5モノクローナル抗体との反応性を示すことにより確認された。これらの結果は、高度に精製された組換え可溶性GPVI製剤が得られ、可溶性GPVI特異的ELISA用の標準タンパク質を含め、種々の用途に用いることができることを示す。
(実施例12)
生体試料中の可溶性GPVI測定用の高感度ELISA。
生体試料中で生成する可溶性GPVIの高感度に検出及び定量する方法を開発した。この方法は、例えば、急性若しくは慢性の血栓症又は他の血管疾患を有する患者から得られる血液試料中の可溶性GPVI量の観察に有用である。
この実施例は、サンドイッチELISAを提供する。すなわち、捕捉GPVI特異抗体(OM1)をプラスチックウェル等の固相支持体上に固定化した。ウェルを非特異タンパク質によりブロックした後、可溶性GPVIを加えた。次に、非競合の標識GPVI特異抗体(ビオチニル化OM2Fab)を加え、捕捉された可溶性GPVIをストレプトアビジンに複合化したホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)により検出及び定量した。図18はこのサンドイッチELISAの基本的な特性を示す。図18Aは、モノクローナルGPVI特異抗体OM1、OM2、OM3及びOM4により認識されたGPVIエピトープの重複の有無を示す。OM1及びOM2抗体は非重複エピトープを認識し、したがってGPVIへの結合に対して互いに競合しない。図18BはELISAによる可溶性GPVIの捕捉及び検出の原理を示す。
OM1及びOM2IgGを生成するハイブリドーマを、5%ウシ胎児血清(無視し得る量のウシIgG<1μg/mlを含む)を含有するDMEM/F12培地中、37℃、ローラーボトル中で増殖させた。細胞の増殖が至適密度に達し次第、細胞を3500×g、30分間の遠心分離により除き、得られた上清をさらに0.2μmのフィルターを通すろ過により澄明化した。ろ過した上清をWaters650タンパク質分離システムを用い、流速5〜6ml/分でProtein G−Sepharose(商標)カラム(Amersham Pharmacia)上に入れた。洗浄液のOD280nmがベースライン(<0.01)に戻るまでカラムを十分に洗浄した。結合したIgGを低pHのグリシン−HCL緩衝液(pH2.75)を用い、カラムから直接1/10容量の1Mトリス−HCl、pH8.0中に溶出した。タンパク質を含有する画分(OD280nmの測定により評価した)をプールし、濃縮し生理食塩水に対し十分に透析した。各IgGの純度をSDS−PAGEにより評価したところ、88から92%の範囲であった。
OM2モノクローナル抗体のFabフラグメントをパパイン消化により調製した。100mMのクエン酸、pH6.5中のOM2 IgG(5mg/ml)、及び5.0mMのEDTAを含み、システイン(10mM)により補助された溶液をパパイン(Sigma;28mg/mlストック)により、酵素:IgG比1:100(w/w)で37℃で3時間消化した。消化は新たに調製されたヨードアセトアミド(最終濃度30mM)により停止し、FabフラグメントをMonoQカラム(Amersham Pharmacia Biotech)のイオン交換クロマトグラフィーにより未消化のIgG及びFcフラグメントから分離した。Fab含有画分をプールし、Superdex 75カラム(Amersham Pharmacia Biotech)のサイズ排除クロマトグラフィーにより濃縮及び精製して均質にした。Fabフラグメントを等張生理食塩水(0.9%)に対して十分に透析し、PM10フィルターを有するAmicon濃縮ろ過ユニットを用い、10mg/mlに濃縮し、0.22μmのフィルターを通してろ過し、4℃で保管した。OM2Fab製剤の純度をSDS−PAGEにより評価したところ、95から98%の範囲であった。
供給元(Pierce Chemical Co.)から提供された使用説明書に基づき、OM2 FabをNHS−ビオチンを用いてビオチニル化した。すなわち、OM2 Fab(1〜5mg/ml)を100mM炭酸塩/300mM NaCl、pH8.0に対して透析した。NHS−ビオチン溶液を加え(IgG:NHS−ビオチン比が1:10(mol/mol))、混合物を1から3時間室温でインキュベートした。結合反応は1/10容量の1Mトリス−HCl、pH8.0を加えることにより終結させ、反応混合物をPBS(pH7.4)に対して十分に透析し、遊離のビオチンを除去した。ビオチニル化OM2 Fabを少量単位で4℃で保管した。
96ウェルELISAプレート(Mexisorb,Nunc)を各ウェルに100μlのIgG溶液(PBS中の1μg/mlのIgG/0.05%のアジド)を添加し、混合物を4℃で一晩インキュベートすることによりOM1 IgGで被覆した。IgG溶液を除去し、ウェルをPBST(0.05%のTween20を含有するPBS)で洗浄し、未占有部位を300μlのブロック緩衝液(例えば、PBS/5%ソルビトール/1%BSA/0.1%アジド)により室温で1〜2時間又は4℃で一晩ブロックした。可溶性GPVI測定開始前にウェルをPBSTで1度すすいだ。100μlの適当に希釈した試験試料(血漿)又は標準(組換え可溶性GPVI)をウェルに加え、室温で1〜2時間又は4℃で一晩インキュベートし、ウェルに固定化したOM1捕捉抗体により血漿可溶性GPVI又は組換え可溶性GPVIを捕捉した。ウェルをPBSTで3回洗浄した後、各ウェルにビオチニル化OM2 Fab(100μlの0.1μg/ml溶液)を加え、室温で1時間インキュベートした。ウェルをPBSTで3回洗浄し、未結合のビオチニル化OM2 Fabを除去した。ストレプトアビジン−HRP(100μl/ウェルの1:6000希釈液;Invitrogen)を各ウェルに加え、室温で30分間インキュベートした。プレートをPBSTで3回すすいだ後、100μlの基質溶液(Microwell Peroxidase Substrate System,KPL)を各ウェルに加えた。室温で10分間インキュベートした後、酵素反応を停止液(50μl/ウェルの1MH2SO4)を加えることにより終結させた。酵素反応から得られる発色強度をプレートリーダー(Power wave HT;BioTek Instruments,Inc.)により450nmの波長で測定した。
図19はELISAにより得られた結果の一例を示す。増大する濃度の組換え可溶性GPVI(実施例11参照)をウェルに加え(0.1ng/mlから5.0ng/mlの範囲内)、上記のようにして検出した。得られた曲線は、開発されたELISAが生体試料中の0.2ng/mlの低濃度の可溶性GPVI及び2.5ng/mlの高濃度の可溶性GPVIを確実に測定できることを示す。健常なヒトボランティアにおいて、可溶性GPVIの血漿濃度は平均して約6ng/mlであった。したがって、これらの結果は、本発明のELISAが健常なヒト個体の血漿中の可溶性GPVIレベル又は高められた可溶性GPVIシェディングに関連した病態を有する患者の血漿中の可溶性GPVIレベルを検出及び定量するのに十分に高感度であることを示す。
(実施例13)
ヒト血小板からの可溶性GPVIの時間に依存した及びアゴニストに誘発されたGPVIシェディングの観察
ヒト血小板からのアゴニスト誘発可溶性GPVIのシェディングのメカニズム及び経過を、in vitroアッセイシステムを用いて検討した。可溶性GPVIシェディングにおけるGPVI特異的及び非GPVI特異的アゴニストの効果を比較した。
健常ドナーから誘導されるヒトの多血小板血漿を、血小板アゴニストADP、トロンビンレセプター活性化ぺプチド(TRAP)、コラーゲン、コラーゲン関連ぺプチド(CRP)及びコンバルキシン(ガラガラヘビの毒液タンパク質)の最適な投与量(約90%の血小板凝集を生成する)により処置し、血小板凝集及び可溶性GPVIのシェディングを誘発した。コラーゲン、CRP及びコンバルキシンがそれらのGPVIとの相互作用により血小板を主に活性化させ、それによりGPVI特異的アゴニストと称呼される。一方、ADP及びTRAPは異なるレセプターを利用して血小板を活性化し、それにより非GPVI特異的アゴニストと称呼される。Matsumotoら、Thromb.Haemost.96:176〜175(2006)。試験アゴニストにより10分以内に誘発される最大血小板凝集及び2時間にわたるアゴニスト誘発可溶性GPVIシェディングを測定するために、実験を計画した。実験計画を図20に示す。
アゴニストの調製
ADP及びTRAP(SFLLRN−NH2)をSigma Chemical Companyから粉末として購入した。ADPを10mMの濃度で生理食塩水中に溶解し、少量単位で−20℃で保管した。ADP溶液の使用濃度は、使用当日に生理食塩水中に調整し、氷上に保持した。未使用のADPはその日の終わりに廃棄した。
TRAP(10mM)の原液は希酢酸(5mM)中で調製し、少量単位で−20℃で保管した。使用当日に、原液を希酢酸で所望の濃度に希釈し、希釈したTRAP溶液を氷上に保持した。2〜3日以内に使用する場合、TRAPの希釈した使用溶液は4℃で保管するか、さもなければ廃棄した。
酸不溶性タイプ1ウマコラーゲンであって、in vitro及びex vivoのコラーゲン誘発血小板凝集実験を遂行するために最も一般に使用されるコラーゲンをNycomedから1mg/mlで購入した。使用前に、原液を製造元から供給された緩衝液で100から200μg/mlに希釈した。希釈溶液は4℃で保管した。
CRP、繰り返されたGPO(グリシン、プロリン及びヒドロキシプロリン)配列を含有する40−merペプチドは、Dr.Michinori Tanaka、Medical Chemistry Research Institute、Otsuka Pharmaceutical Co.,Ltd.により合成して頂いた。CRP単量体はMortonら、Biochem.J.306:337〜344(1995)において記載された方法により、EMグレードグルタルアルデヒド(0.25%)を用い、4℃で2から3時間架橋することにより重合した。このCRP調製物は、31.25〜62ng/mlでヒト及びサルの血小板の最大凝集(70〜90%)を誘発した。CRPはPBS中1mg/mlで4℃で保管した。CRPの非常に希釈した使用溶液は、その日の終わりに廃棄した。
コンバルキシンは、熱帯ガラガラヘビの凍結乾燥した毒液(Crotalus durissus terrificus;Soerensen Laboratories,Brazil)からPolgarら、J.Biol.Chem.272:13576〜83(1997)に記載のサイズ排除クロマトグラフィーにより調製した。精製したコンバルキシンはコラーゲン希釈緩衝液(5mM酢酸/145mM NaCl/5mMグルコースpH3.0)中、4℃で保管した。コンバルキシン調製物は、10〜20ng/mlでヒト及びサルの血小板の最大凝集(70〜90%)を常に誘発した。
実験操作の間、アゴニストの全ての使用溶液は氷上で保持した。
試料の調製及び実験の実施
アゴニスト誘発血小板凝集に悪影響を与えるいかなる薬物も摂取していない3人の健康なボランティアのドナーから血液を集めた。ドナーの一人は、2つの別の場合において血液を2回提供した。2シリンジ法を用い、抗凝固剤として1/10容量の3.8%のクエン酸三ナトリウム中に血液を採取した。多血小板血漿を180×gで室温で20分間遠心分離することにより得た。血小板の数を計測し、血小板の乏しい血漿を用いて3×108個の血小板/mlに調整した。全ての実験は血液採取後4時間以内に行った。凝集研究はAG10血小板凝集計(Kowa、Japan)において行った。試験アゴニストにより試みる前に、凝集計内で多血小板血漿を37℃で1〜2分間攪拌した(1100rpm)。凝集が10分間続いた。次いで凝集管を取り除き、攪拌しながら37℃に維持した。所望の時間間隔(アゴニスト添加後0、10、30、60、及び120分)で試料を管から取り出し、14000gで5分間回転させて血小板を含まない上清を得、100000gで2時間回転させて血小板活性化の間に形成されるマイクロパーティクルも含まない、血小板を含まない上清を得た。得られた上清は、実施例12に記載されたサンドイッチELISA法による可溶性GPVIの定量まで−20℃で保管した。
実験結果
全てのアゴニストは、時間に依存する可溶性GPVIシェディングを誘発した。しかし、GPVI特異的アゴニスト(すなわち、コラーゲン、CRP及びコンバルキシン)は、非GPVI特異的アゴニスト(すなわち、ADP及びTRAP)に比べ、顕著により多くの可溶性GPVIシェディングを確実に誘発した。
図21はELISAにより得られたデータを示す。データは、3人のドナーから得られた多血小板血漿により行った4つの実験の平均を示す。それによって、2つの別の場合において血液はドナーの一人から2回採取した。アゴニストに応答する可溶性GPVIシェディングの定量は、試験試料のOD450nmにおける読み取りとプレートリーダーのソフトウェアにより生成される標準曲線の直線部分との相関に基づいた。エラーバーは標準偏差を反映する。図21は血小板を含まない上清(血小板凝集除去)並びに血小板−及びマイクロパーティクルを含まない上清(マイクロパーティクル除去)の両方についてのデータを示す。血小板−及びマイクロパーティクルを含まない上清についてのデータ(可溶性GPVI量は時間と共にプロットする)を図22においても示す。表12は同じデータを表の形式において提供する。
結果は、ヒト血漿中に存在する可溶性GPVIの基礎レベルが約9.55±2.52ng/mlであることを示す(図21−22及び表12;対照)。さらに、この値はいかなるアゴニストも添加されない状態において、2時間の試験期間全体にわたって一定に維持した。したがって、血小板は攪拌条件下でいかなる多量の可溶性GPVIも上清血漿中にシェディングさせず、生理食塩水単独では可溶性GPVIのシェディングを誘発しない。
しかし、アゴニスト、例えばADP、TRAP、コラーゲン、CRP及びコンバルキシンの最適投与量により試みると、可溶性GPVIのヒト血小板からの経時的のシェディングが観察される。非GPVI特異的アゴニストADP(10μM)及びTRAP(15μM)は強い血小板凝集を誘発するが、中等度の可溶性GPVIのシェディングを誘発するのみであり、2時間の時点で可溶性GPVI 38〜40ng/mlの最大量に到達する(図21−22及び表12;ADP及びTRAP)。GPVI特異的アゴニストのコラーゲン(2μg/ml)、CRP(31.25ng/ml)及びコンバルキシン(10ng/ml)は同じ時間内に顕著により多くの可溶性GPVIのシェディング(60〜80ng/ml)を誘発した(図21−21及び表12:コラーゲン、CRP及びコンバルキシン)。注目すべきは、可溶性GPVIのシェディングは沈殿なしに少なくとも2時間継続するスロープロセスに見える。さらに、GPVI特異的アゴニストは非GPVI特異的アゴニストに比べ顕著により多くのシェディングを誘発する。
要約すると、これらの結果は生体試料中の可溶性GPVIの生理的量を測定するための本発明のサンドイッチELISAの有用性を確認する(例えば実施例12参照)。さらに、結果はELISAの特異的な用途、すなわち、GPVI特異的アゴニスト、障害された血管系の大部分の血栓を作る成分であるコラーゲンを含む、による血小板の活性化に反応するヒトドナーから誘導された多血小板血漿中の可溶性GPVIのシェディングを検出及び定量する用途を示す。本発明はこのように健康な個体若しくは血管疾患を発症する危険性の増大した個体における可溶性GPVI量の予防監視用として、又は血管疾患を有する患者における、例えば治療期間中における可溶性GPVI量の診断監視用として用いることができる。
本明細書は、その全てについて全体が本明細書に参照として組み込まれる、本明細書に引用した参考文献の教示を考慮して最も完全に理解される。本発明のその他の実施形態は、本明細書及び本明細書に開示される本発明の実施を考慮して、当業者には明らかである。本明細書及び実施例は例示に過ぎないとみなし、本発明の真の範囲及び精神は、前記請求の範囲により示すことを意図している。
表12:ヒト血小板からのアゴニスト誘発、経時的可溶性GPVIのシェディング
*4つの異なる試料からのELISAの結果の平均、各2回測定
**4つの異なる試料からのELISAの標準偏差、各2回測定