JP2008240032A - 耐摩耗性マグネシウム合金 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】低摩擦性マグネシウム合金は、金属間化合物結晶体が球若しくは楕円のように鋭角な角を持たない微粒子状とし、この金属間化合物の平均直径が1〜20μm、母相の473Kにおける降伏強度が85MPa以上である。これにより金属間化合物結晶体が母相との界面での集中応力を抑えるような形状となり、さらにこの母相中には針状のβ相が析出する。
【選択図】図5
Description
現在、マグネシウム合金は自動車部品として、ステアリング部品、エンジンヘッドカバーおよびシートフレームなど構造材料分野への適用がなされている。更なる燃費改善のため、シリンダやピストンといったエンジン部材といった劣悪な環境下への適用が望まれている。摺動部に適用するためには、耐摩耗性および耐熱性を改善することが要求課題となる。
近年、耐熱性マグネシウム合金の開発において、コストパフォーマンスおよびダイカスト性の観点から、銅およびケイ素等を添加することで耐熱性を向上させる研究が行われている(非特許文献4、5)。これらの元素添加により構成されるマグネシウム合金の組織は、AZ91合金の析出相であるMg17Al12の融点と比較して高融点な金属間化合物(非特許文献6)がデンドライト状に形成される(非特許文献7〜8)ことが知られている。
しかし、実用上十分な耐摩耗性を有するものについては未だほ報告されていない。
松岡敬、坂口一彦、向井敏司、松山雅和、吉岡亮、材料、51,10,1154−1159,(2002)。 吉岡亮、松岡敬、坂口一彦、向井敏司、村田彰宏、材料、52,6,702−708,(2003)。 村田彰宏、谷川洋平、松岡敬、坂口一彦、渡辺博行、向井敏司、材料、54,1,90−96,(2005)。 菅野幹宏、自動車技術、56,10,5,(2002)。 里達雄、金属、71,6,42−50,(2001)。 高橋恒夫編、「新版 非鉄金属材料選択のポイント」、(日本規格協会、東京、1992)、221. M。Abulsain、 A。Berkani、 F。A。Bonilla、 Y。Liu、 M。A。Arenas、 P。Skeldon、 G。E。Thopmpson、 P。Bailey、 T。C。Q。Noakes、 K。Shimizu、 H。habazaki、 Electochimica Acta、 49, 899−904, (2004)。 Y。Pan、 X。Liu、 H。Yang、 Materials Characterization、 55, 241−247, (2005)。 加藤一、杜澤達美、高山善匡、軽金属、40,12,891−895,(1990)。 J。Halling、松永正久訳、「トライボロジ」、(近代科学社、東京、1984)、92.
この原因は、金属間化合物結晶体の形状が、母相との界面での集中応力を抑えるような形状にしたから、及び鋭利な角部により相手材を損傷することが抑えられたからと考えられる。
合金中に存在する金属間化合物を母材中に過飽和に固溶化させ、化合物の均質化を図るため、溶体化処理を施した。各材料における処理温度および保持時間については実施例に示すとおりである。酸化や燃焼を防ぐため、炭酸ガス雰囲気中にて溶体化処理を行った。
固溶度が温度の低下とともに減少する場合は、溶体化処理によって得られた過飽和固溶状態を解消するため時効析出が起こる。時効析出過程および析出組織は合金系や時効温度、合金組成、および成型方法等によって変化する。そのため、溶体化処理を施した各試験片における時効処理条件について検討する必要がある。処理温度を150℃、175℃および200℃の3条件とし、保持温度を10分、1時間、2時間、6時間、24時間および48時間の6条件に設定した。ただし、時効曲線の極大値が見られた場合、時効時間はそれまでとした。空気循環炉を用いて時効処理を実施した後、空冷した。
鋳造まま材(As−cast材)および前記溶体化処理を施した各マグネシウム合金に対する組織観察を行うため、試験片をバフ研磨した。
その後、光学顕微鏡((株)ニコン;ECLIPSE LV150)により組織観察を行った。
前記溶体化処理後、前記人工時効処理を施したときの各温度における時効硬化曲線を図1に示す。
摩耗面の硬さは摩擦・摩耗特性に大きく影響を及ぼす。
そこでビッカース微小硬度計((株)アカシ(現(株)Mitutoyo);MVK−H2)を用いて、摩擦・摩耗試験前の試験片摩耗面の硬度について検討した。圧子には頂角136°のダイヤモンド正四角錘を用い、室温環境の下100gfで15秒間押しつけた。硬さはビッカース硬さとし、各試験片について底辺からの距離が一定の範囲で、10箇所を無作為に選んで測定し、最大値および最小値を除去した8点の平均値を採用した。
本発明で用いる試験片の高温強度について検討するため、高温圧縮試験を実施した。Pin−on−desk型摩擦・摩耗試験の荷重作用環境に近いものとするため、圧縮試験とした。
また、摩耗面温度は150〜200℃程度に達するため、150℃および200℃にて高温圧縮試験を実施した。
比較のため、室温(25℃)環境下における圧縮試験も行った。高温圧縮試験にはインストロン材料試験機5567型、室温圧縮試験には同5569型により圧縮試験を実施した。試験片形状は直径6mm×高さ9mmの円柱型試験片とし、ひずみ速度10−3sec−1の条件下で試験した。
試験片寸法および表面粗さ
摩擦・摩耗試験を実施するため、試験片を直径4mm×長さ12mmの円筒ピン形状に加工した。摩擦・摩耗試験時の接触面表面は、#400−600の耐水研磨紙を取り付けた研磨機(ビューラー;エコメット研磨機3型)を用いて、端面が水平になるように研磨し、表面計測装置((株)Mitutoyo;SURFTEST SV−400)を用いて、算術平均粗さがRa=0.40〜0.60μmとなるように調節した。摩擦・摩耗試験開始直後から終了時まで常に一定の接触面積を得るため、エッジ部に面取りは施さなかった。
摩擦・摩耗試験のディスク相手材には一般性を考慮し、汎用的な軸受鋼の一つであり良好なすべり特性が得られる高炭素クロム軸受鋼(以下、SUJ2もしくは相手材)を選択した。
SUJ2には無酸化ズブ焼入れ焼戻し処理を施した。寸法形状は、直径60mm×厚さ14mmのディスク型とし、ビッカース硬さはHV=720のものを用いた。摩擦・摩耗試験時における試験片との接触面は、#240−400の耐水研磨紙を取り付けた研磨機(ビューラー;エコメット研磨機3型)を用いて研磨し、表面計測装置((株)Mitutoyo;SURFTEST SV−400)を用いて、算術平均粗さがRa=0.08〜0.12μmとなるように仕上げた。
本発明では、試験機にPin−on−Disk型摩擦摩耗試験機((株)村山製作所製)を用いた。この試験機は、主として空気シリンダ、回転機構および計測機器により構成されている。
空気シリンダ(CKD(株)製)には、載荷用空気供給減コンプレッサ(アネスト岩田(株)製)より随時圧縮空気が供給されている。この空気シリンダによって、スライディング機構を通して、ピン試験片側が上下移動する仕組みになっている。空気シリンダ内に存在する圧縮空気の圧力を制御することにより、試験片および相手材間に作用する荷重を調節することができる。回転機構は、三相誘電電動機(三菱電機(株)製)および回転台から構成されている。
電動機は回転台に接続されているため、回転台に固定したディスクの回転数を調節することができる。ディスクの回転数は1rpm間隔で1500rpmまで制御可能なため、低速から高速まで広範囲の摩擦・摩耗試験が可能である。計測機器には、トルクセルLT−8NSおよびロードセルCLZ−5KNS(ともに(株)東京測器研究所製)を用いた。これにより、試験中に変動するトルクおよび垂直荷重を任意の時間間隔で測定することができるため、正確な摩擦係数を算出することが可能である。
試験中、ピン−ディスク間に発生するトルクおよび荷重を1秒間隔で測定した。試験条件はすべり速度80mm/sec、荷重50Nとした。ディスク中心からピン中心までの距離であるピンの回転半径は15mmであり、すべり速度は回転数に換算すると51rpmである。試験時間は1時間としたため、すべり距離を計算すると288mである。試験環境は室温23±2℃とし、室温無潤滑下にてすべり摩擦・摩耗試験を実施した。
耐摩耗性の評価には、過去の研究との比較を考慮し、以下に示す「単位すべり距離当たりの摩耗体積」である摩耗率wを算出した。ただし、mは摩耗量、pは密度、Lはすべり距離である。(非特許文献10参照)
(数式1)
また、実験中、ピン−ディスク間に発生するトルクTおよび垂直荷重Wを用いて、以下に示す摩擦係数μを算出した。ただし、rはピンの回転半径である。
(数式2)
摩耗粉は摩擦・摩耗特性に大きく影響したと考えられる。
そこで、摩耗粉がトライボロジー特性に与える影響を検討するため、各試験片により脱落した摩耗粉をSEMにより観察した。
さらに詳細に摩耗粉について検討するため、SEMに付属しているエネルギー分散型X線分析装置(EDAX製;Genesis、以下EDAX)を用いて、摩耗粉の成分分析を行った。
銅と純マグネシウム(純度:99.95 %)を二酸化炭素雰囲気にて完全に溶解し、鉄製鋳型に鋳込み、Mg−4.5wt.%Cu合金を作製した(以下、この試料をas−cast材と示す)。得られた鋳造合金を温度440℃にて24時間炉中保持後、水冷することにより、溶体化処理を施した。その後、150, 175, 200℃、10分、1,2,6,24,48時間にて熱処理を行い、時効材および過時効材を作成した(以下、この試料をそれぞれ、peak−aged材、over−aged材と示す)。Over−aged材の光学顕微鏡組織観察結果を図2に示す。Mg−Cu組成からなる金属間化合物の形成が確認できる。これらの試料を、機械加工により、直径4mm×長さ12mmの円柱試験片を作成し、Pin−on−disk型摩耗試験機を使用し、摩耗特性を調査した。その結果を表1に示す(摩耗率の値が低い程、特性が良い)。表1には比較のため、最も一般的に使用されているマグネシウム合金であるMg−9wt.%Al−1wt.%Zn(AZ91)合金の値も併せて示す。本発明で用いた試料の摩耗率の方が、従来材より優れていることが確認できる。摩耗試験後の試料を走査型電子顕微鏡で観察した結果を図3に示す。すべり方向に平行な削り傷が観察されるが、摩耗粉の固着も併せて確認できたことから凝着摩耗の形成が予測される。
銅と亜鉛と純マグネシウム(純度:99.95 %)を二酸化炭素雰囲気にて完全に溶解し、鉄製鋳型に鋳込み、Mg−4.5wt.%Cu−6.0wt.%合金を作製した(as−cast材)。その後、実施例1と同様の熱処理条件にてpeak−aged材およびover−aged材を準備・加工し、摩耗試験を実施した。表1より、本発明で用いた試料の摩耗率の方が、従来材より優れていることが確認できる。また、as−cast、peak−agedおよびover−aged材を、機械加工により平行部直径4mm×長さ8mmの円柱試験片を作成し、室温、150℃、200℃にて圧縮試験を行った。得られた応力−ひずみ曲線、およびその時の結果を図4と表2に示す。150℃では、室温の圧縮強度と同等またはそれ以上であり、優れた耐熱性を示すことが分かる。また、表2よりMg−9wt.%Al−1wt.%Znの圧縮強度よりも高い値を示し、耐熱性に優れていることが分かる。
ケイ素と純マグネシウム(純度:99.95 %)を二酸化炭素雰囲気にて完全に溶解し、鉄製鋳型に鋳込み、Mg−2.0wt.%Si合金を作製した(as−cast材)。得られた鋳造合金を温度590℃にて24時間炉中保持後、水冷することにより、溶体化処理を施した。その後、実施例1と同様の熱処理条件にてpeak−aged材およびover−aged材を準備・加工し、摩耗試験を実施した。表1より、本発明で用いた試料の摩耗率の方が、従来材より優れていることが確認できる。
ケイ素と亜鉛と純マグネシウム(純度:99.95 %)を二酸化炭素雰囲気にて完全に溶解し、鉄製鋳型に鋳込み、Mg−2.0wt.%Si−6.0wt.%合金を作製した(as−cast材)。その後、実施例1と同様の熱処理条件にてpeak−aged材およびover−aged材を準備・加工し、摩耗試験および圧縮試験を実施した。Over-aged材の典型的な透過型電子顕微鏡を用いた組織観察の結果を図5に示す。楕円形の金属間化合物がMg2Si相であり、また、マグネシウム母相に対し針状に析出している金属間化合物がb相である。図6に圧縮試験により得られた応力-ひずみ曲線を示す。図6ならびに表1・2より、本発明で用いた試料は耐摩耗性と耐熱性に優れていることが分かる。摩耗試験後の試料を走査型電子顕微鏡で観察した結果を図7に示す。すべり方向に平行な削り傷が観察されるが、図3のような凝着摩耗の形態が見られないため、耐摩耗性がさらに良好となったものと考えられる。
Claims (5)
- マグネシウム母相中に金属間化合物結晶体が分散されてなる低摩擦性マグネシウム合金であって、前記金属間化合物結晶体が球若しくは楕円のように鋭角な角を持たない微粒子状であることを特徴とする低摩擦性マグネシウム合金。
- 請求項1に記載の低摩擦性マグネシウム合金において、前記金属間化合物結晶体の平均直径が1〜20μmであることを特徴とする低摩擦性マグネシウム合金。
- 請求項1又は2に記載の低摩擦性マグネシウム合金において、前記母相の473Kにおける降伏強度が85MPa以上であることを特徴とする低摩擦性マグネシウム合金。
- 請求項3に記載の低摩擦性マグネシウム合金において、前記母相の473Kにおける降伏強度が90MPa以上であることを特徴とする低摩擦性マグネシウム合金。
- 請求項1から2のいずれかに記載の低摩擦性マグネシウム合金において、前記母相中に針状のβ相が析出されてなることを特徴とする低摩擦性マグネシウム合金。
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