JP2008226662A - 電解質膜形成用スラリー - Google Patents
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Abstract
【課題】セリウム系酸化物ナノ粒子を電解質材料とした電解質膜の形成に好適な、水を溶媒とした電解質膜形成用スラリーを得る。
【解決手段】溶媒が水であり、セリウム系酸化物ナノ粒子と、セリウム系酸化物ナノ粒子分散させ得るエマルジョン系バインダーと、スラリーに粘性及び保湿性を付与する水溶性の増粘剤とが少なくとも含むようにした。増粘剤はペクチンとすることが好ましい。さらに、焼結助剤を含むようにした。
【選択図】図8
【解決手段】溶媒が水であり、セリウム系酸化物ナノ粒子と、セリウム系酸化物ナノ粒子分散させ得るエマルジョン系バインダーと、スラリーに粘性及び保湿性を付与する水溶性の増粘剤とが少なくとも含むようにした。増粘剤はペクチンとすることが好ましい。さらに、焼結助剤を含むようにした。
【選択図】図8
Description
本発明は電解質膜形成用スラリーに関する。さらに詳述すると、本発明は、固体酸化物型燃料電池の電解質膜を作製するのに好適な、セリウム系酸化物ナノ粒子を分散させたスラリー並びに当該スラリーにより電解質膜が形成された固体酸化物型燃料電池に関する。
燃料を電気化学的に燃焼させることにより電気エネルギーに変換できる発電素子が燃料電池である。燃料電池には幾つかの方式があるが、電池の全てが固体で構成される固体酸化物型燃料電池は熱効率も良く、実用化が期待されている。図1に固体酸化物型燃料電池の積層構造の一例として平行平板型の固体酸化物型燃料電池を示す。この平行平板型の固体酸化物型燃料電池は、平板状の緻密な電解質103を多孔質である空気極102と燃料極104とで挟持した単電池101をガス流路となるスペーサとセパレータ104とを利用して積層したものであり、燃料極104に燃料ガスを、空気極102に空気を供給することにより発電を行う。また、単電池101の構造については、1000℃前後で作動させる場合には、図2(a)に示すように、電解質部材103の片面に多孔質空気極102を、もう一方の面に多孔質燃料極104を塗布・修飾した電解質支持型が主流であった。しかし、燃料電池の作動電圧の低温化に伴い、図2(b)並びに(c)に示すように、比抵抗の低い電解質膜103を多孔質空気極102あるいは多孔質燃料極104上に薄膜として形成する電極支持型方式が採用されつつある。固体酸化物型燃料電池の単電池構造は、平行平板型以外にも、熱応力に耐性のある円筒型構造が知られているが、この構造の場合についても、上記と同様の理由で、電解質膜を多孔質空気極あるいは多孔質燃料極上に薄膜として形成する電極支持型方式が採用されつつある。
多孔質電極基板上に緻密な電解質薄膜を形成する手法としては、例えば特許文献1に記載の手法が知られている。具体的には、0.1〜5μmの開口径を有する多孔質空気極あるいは燃料極を基板とし、基板部を加熱すると共にバイアスを設定してスパッタリング法により緻密な電解質薄膜を形成している。また、スパッタリング法以外にも、例えば電気化学的気相析出法やプラズマ溶射法を用いることにより、多孔質空気極あるいは燃料極を基板として緻密な電解質薄膜を基板上に形成することも可能である。
しかしながら、スパッタリング法や電気化学的気相析出法、プラズマ溶射法を電解質薄膜形成に採用した場合には以下のような問題がある。即ち、大気と遮蔽された特殊な雰囲気下及び物理的条件下で膜形成を行う必要があるため、非常に高価で取り扱いも煩雑な装置を必要とする。また、燃料極基板や空気極基板の面積に応じて、これを収容するのに適した大きさの装置が必要となることから、大面積の燃料極基板や空気極基板に電解質膜を形成するのが難しく、生産性を向上させ難い。したがって、低コストで生産性が高く、しかも基板の面積に左右されることのない緻密電解質薄膜の形成手法の開発が望まれる。
そのような緻密電解質薄膜の形成手法として、ディップコート法などの湿式法を採用することが考えられている。ここで、湿式法により電解質膜を形成する場合に使用するスラリーの溶媒には有機溶剤が用いられることが多い。有機溶剤を溶媒として使用した有機系スラリーは、バインダー物質の選択肢の幅が広く、スラリーを塗布・乾燥した後の膜の均一性や強度などの点において優れている。
また、豊富な資源量や高い酸化物イオン導電性から、500〜650℃付近の温度域で作動する固体酸化物型燃料電池の電解質材料として、セリウム酸化物が有望視されており、種々の研究がなされている。例えば、特許文献2には、固体酸化物型燃料電池の電解質材料に用いることが可能な、分散性に優れたセリウム系酸化物ナノ粒子(Ce0.9Gd0.1O1.95)が開示されている。
特開2005−78951
特開2006−256936
有機溶剤をスラリーの溶媒として使用した場合には、バインダー物質の選択肢の幅が広く、電解質材料として有望視されているセリウム系酸化物のナノ粒子をスラリー化することも容易である。しかしながら、有機溶剤をスラリーの溶媒として使用した場合、地下水汚染や大気汚染といった環境汚染が引き起こされるだけでなく、スラリーを取り扱う作業者の健康を害する虞がある。したがって、有機溶剤をスラリーの溶媒として使用する場合には、有機溶剤の揮発・漏洩対策を十分に行う必要があるため、プロセスコストが上昇してしまう。そこで、工場等における量産プロセスを考慮した場合には、有機溶剤を使用せずに、環境負荷がほとんど無い水を溶媒としたスラリーを用いることが、プロセスコストの削減や安全性の面から非常に有効である。
しかし、水を溶媒としてスラリーを調製する場合、以下のような問題がある。即ち、水を溶媒としたスラリー中で電解質材料であるセリウム系酸化物ナノ粒子を均一に分散させるためには、適切なバインダーが必要になる。例えば、アクリル樹脂等に代表される水溶系バインダーやエポキシ樹脂に代表されるエマルジョン系バインダーが挙げられる。しかしながら、水溶系バインダーを用いた場合、基板と電解質膜との密着性に問題があり、スラリー塗布後の工程で電解質膜の剥離が生じやすい。エマルジョン系バインダーを用いた場合、基板と電解質膜との密着性は高まるものの、セリウム系酸化物ナノ粒子を均一に分散させることが難しく、均一なセリウム系酸化物ナノ粒子のスラリーを得ることが難しい。つまり、水を溶媒とした場合には、基板と電解質膜との密着性を高めることのできる均一なセリウム酸化物系ナノ粒子のスラリーを得ることが極めて困難である。
本発明は、かかる問題に鑑みてなされたものであって、セリウム系酸化物ナノ粒子を電解質材料とした電解質膜の形成に好適な、水を溶媒とした電解質膜形成用スラリーを提供することを目的とする。
また、本発明は、多孔質電極基板上に緻密なセリウム酸化物電解質膜が形成された固体酸化物型燃料電池を提供することを目的とする。
かかる課題を解決するため、本願発明者は、セリウム系酸化物ナノ粒子を高度に分散させ得るエマルジョン系バインダーについて種々検討したところ、ユケン工業製のセランダーDB−20を用いることで、セリウム系酸化物ナノ粒子を均一に分散できることを知見した。
そこで、水を溶媒として、セリウム系酸化物ナノ粒子とセランダーDB−20を主成分としたスラリーを調製し、このスラリーを酸化ニッケルとセリウム酸化物とのコンポジット多孔質電極基板上に塗布して電解質膜を形成したところ、電解質膜の乾燥が進行するにつれて電解質膜の収縮が起こり、最終的には電解質膜が基板から剥離することが判明した。つまり、セリウム系酸化物ナノ粒子をエマルジョン系バインダーを用いて均一に分散するだけでは、基板と電解質膜との密着性の確保が十分にできないことを知見した。この問題を解決すべく、本願発明者がさらに鋭意検討を重ねた結果、スラリーにペクチンを添加することにより、乾燥後も剥離することがない、塗工性に優れたスラリーが得られることを知見した。さらに、電解質膜の乾燥後に酸化ニッケルとセリウム酸化物とのコンポジット多孔質電極基板と電解質膜とを1400℃で共焼結しても、基板から電解質膜が剥離することなく、しかも、電解質膜が十分に緻密化されていることを知見し、本発明に至った。
かかる知見に基づく本発明の電解質膜形成用スラリーは、溶媒が水であり、セリウム系酸化物ナノ粒子と、セリウム系酸化物ナノ粒子を分散させ得るエマルジョン系バインダーと、スラリーに粘性及び保湿性を付与する水溶性の増粘剤とが少なくとも含まれているものである。
したがって、このスラリーによると、セリウム系酸化物ナノ粒子がエマルジョン系バインダーに均一に分散されて、溶媒である水に分散されている。また、水溶性の増粘剤が水に分散されて、スラリーの粘度が高められていると共に、保湿性が付与されているので、このスラリーにより基板上に形成された電解質膜の乾燥時における急激な収縮が抑制されて基板からの当該膜の剥離が抑えられる。
ここで、本発明に用いられる増粘剤としては、ペクチンが好ましい。また、水100重量部に対し、増粘剤が0.2〜10重量部含まれることが好ましい。
さらに、セリウム系酸化物ナノ粒子100重量部に対し、エマルジョン系バインダーが5重量部超〜30重量部含まれることが好ましい。
ここで、焼結助剤がさらに含まれることが好ましい。この場合には、このスラリーにより形成される電解質膜の焼結温度を低下させると共に、結晶粒の成長が促される。
また、セリウム系酸化物ナノ粒子を構成するセリウム(Ce)カチオン100モルに対し、焼結助剤を構成する金属カチオンを2モル以下含むことが好ましい。
次に、本発明の固体酸化物型燃料電池は、本発明の電解質膜形成用スラリーを使用して、燃料極多孔質基板または空気極多孔質基板上に電解質膜が形成されているものである。したがって、この固体酸化物型燃料電池によると、セリウム系酸化物ナノ粒子により緻密且つ基板との密着性に優れた電解質膜が形成されているので、500〜650℃付近の温度域での作動に好適である。
本発明の電解質膜形成用スラリーによれば、溶媒が水であるから、地下水汚染や大気汚染といった環境汚染が引き起こされることなく、しかも、スラリーを取り扱う作業者の健康を害する虞がない。したがって、溶媒が有機溶剤である場合の様に、溶媒の揮発・漏洩対策を特に行うことなく安全性を確保できると共に、プロセスコストを大幅に低減させることができる。したがって、工場等の量産ラインにおいても、安全且つ低コストに、しかも簡易に電解質膜を形成することが可能となる。
また、焼結助剤が添加された本発明の電解質形成用スラリーによれば、当該スラリーにより形成される電解質膜の焼結温度を低下させると共に、結晶粒の成長が促される。したがって、焼結にかかるプロセスコストを低減することが可能になると共に、基板となる固体酸化物型燃料電池の多孔質空気極あるいは多孔質燃料極にかかる熱量を低減することができるので、多孔質空気極あるいは多孔質燃料極の多孔性の維持を図りやすくなる。しかも、スラリーにより形成される電解質膜とは熱収縮挙動が異なる基板上に電解質膜を形成した場合であっても、電解質膜に亀裂が生じたり、基板からの膜の剥離が起こり難くなるので、電解質膜の製造マージンを広げて、電解質膜の形成を容易なものとすることができる。
本発明の固体酸化物型燃料電池によれば、多孔質電極基板上に緻密且つ基板との密着性に優れたセリウム酸化物電解質膜が形成されているので、500〜650℃付近の温度域での作動に好適な固体酸化物型燃料電池を提供することができる。
以下、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。
本発明の電解質膜形成用スラリーは、溶媒が水であり、セリウム系酸化物ナノ粒子と、セリウム系酸化物ナノ粒子を分散させ得るエマルジョン系バインダーと、スラリーに粘性及び保湿性を付与する水溶性の増粘剤とが少なくとも含まれているものである。
本発明に用いる水は、スラリーを構成する成分の分散媒として機能する物質であり、金属イオン等の不純物含有量が少ないものが好ましい。この場合には、本発明のスラリーを使用して形成された電解質膜のイオン導電性を低下させることが無く、セリウム系酸化物ナノ粒子の分散性を高めることができる。このような水としては、例えば、イオン交換水が挙げられるが、これに限定されるものではない。
本発明に用いるセリウム系酸化物ナノ粒子とは、粉末中の最小粒子である一次粒子が10nm以上200nm未満で、この一次粒子が凝集している粒子である二次粒子が0.05μm以上1μm未満の粒子である。
セリウム系酸化物ナノ粒子の組成式は、Ce1−xLnxO2+δで表され、Lnはスカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)及び希土類元素(但し、Ceは除く)からなる群より選ばれた一種又は二種以上の元素であり、0<x≦0.4である。尚、組成式中のδは組成・温度等で種々変化する酸素量であり、規定することに意味の無い数値である。
このセリウム系酸化物の代表的な組成の一例として、Ce0.9Gd0.1O1.95が知られている。そして、セリウム(Ce)とガドリニウム(Gd)は希土類元素であり、Gdの代わりに、スカンジウム(Sc)やイットリウム(Y)を含む他の希土類元素(La、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu)により部分置換できることが知られている。
部分置換範囲xは、0<x<0.5であれば、酸化物イオン導電性を確保できるが、0<x≦0.4とすることが好ましく、0<x≦0.3とすることがより好ましい。部分置換する前のCeO2の結晶構造は、ホタル石形構造である。希土類元素でこのホタル石形構造をとるのは、セリウム酸化物だけであり、その他の希土類元素は、A−希土構造、B−希土構造、C−希土構造をとる。したがって、xが0.5以上になると、ホタル石形構造をとらなくなる可能性があり、ホタル石形構造の特徴である酸化物イオン導電性が喪失してしまう。そのため、結晶系が確実にホタル石形構造をとるx≦0.4とすることが好ましい。
セリウム系酸化物ナノ粒子は、市販されているものを用いることもできるし、以下の文献により公知となっている方法や、新規な方法で得られたものを用いることができる(特開2004−107186、特開2006−256936、須田栄作、森 昌史、村井啓一郎、Pernard Pacaud、森賀俊広:「易焼結性Ce0.9Gd0.1O1.95ナノ粒子の量産技術の開発」、日本セラミックス協会学術論文誌113[12],793−798(2005).)。
ここで、セリウム系酸化物ナノ粒子1重量部を希釈する水は、0.5〜40重量部とすることが好ましい。0.5重量部未満では、セリウム酸化物ナノ粒子の全量を分散することが難しくなる。また、40重量部超とすると、十分なスラリー粘度が保持できなくなり、塗工性に問題が生じ易くなる。尚、セリウム系酸化物ナノ粒子に対する水の量により、スラリーの粘度を調整して電解質膜の膜厚制御を行うことができる。つまり、水の量を0.5重量部に近づけると粘度が高くなるので、形成される電解質膜の膜厚を厚くすることができ、逆に、水の量を40重量部に近づけると粘度が低くなるので、形成される電解質膜の膜厚を薄くすることができる。したがって、所望の電解質膜の膜厚により、セリウム系酸化物ナノ粒子に対する水の量を適宜選択して膜厚の制御を行うことが可能である。
本発明に用いるエマルジョン系バインダーは、ウレタン系のエマルジョン系バインダーであるユケン工業製のセランダーDB−20が好ましい。この場合には、目視レベルで観察されるセリウム系酸化物ナノ粒子同士の凝集はほとんど発生せず、セリウム系酸化物ナノ粒子の均一分散状態を保持することができる。尚、このエマルジョン系バインダーに限定されるものではなく、セリウム系酸化物ナノ粒子のゼータ電位の絶対値を高めて均一分散状態を保持することができる他のエマルジョン系バインダーを用いてもよいし、スラリーに界面活性剤を添加したり、pHを制御することによりセリウム系酸化物ナノ粒子のゼータ電位の絶対値を高めて均一分散状態を保持するようにしてもよい。
ここで、エマルジョン系バインダーは、セリウム系酸化物ナノ粒子100重量部に対して、固形成分で5重量部超〜30重量部含まれることが好ましく、6〜20重量部含まれることがより好ましく、8〜12重量部含まれることがさらに好ましい。エマルジョン系バインダーの量を5重量部以下とすると、スラリーにより形成される電解質膜の基板との密着性が低下して膜の剥離が生じ易くなると共に、セリウム系酸化物ナノ粒子を十分に分散させることができない。また、30重量部超とすると、バインダーが膜の緻密化を阻害し、逆に造孔剤として機能してしまうので使用できない。
本発明に用いる水溶性の増粘剤としては、ペクチンを用いることが好ましい。また、セルロースを用いることも可能である。この場合、スラリーの粘度を調整できると共に、スラリーにより形成される電解質膜を乾燥させる際に当該膜が急激に収縮するのを抑制して、基板から当該膜が剥離するのを抑えることができる。しかも、セリウム酸化物ナノ粒子の分散性に影響を与えることがない。但し、増粘剤はこれらに限定されるものではなく、スラリーに粘性及び保湿性を付与することのできる、ペクチンと同等あるいは類似の機能を有する物質も同様に用いることができる。
ここで、増粘剤は、セリウム系酸化物ナノ粒子100重量部に対して、0.2〜10重量部含まれることが好ましく、1〜8重量部含まれることがより好ましく、3〜6重量部含まれることがさらに好ましい。0.2重量部未満とすると、スラリーに保湿性を十分に付与することができず、基板から塗布膜が剥離する虞がある。また、10重量部超とすると、バインダー過多の場合と同様、緻密化を阻害し、造孔材として機能してしまうとともに、粘度が高すぎて塗工性に問題が生じる。また、増粘剤に含まれる成分、例えばペクチンに含まれるカルシウムが、スラリーにより形成される電解質膜の特性に影響を与える虞がある。
本発明のスラリーには、さらに焼結助剤を添加することが好ましい。この場合には、スラリーにより形成された電解質膜の焼結温度を低下させて、焼結にかかるコストを低減することができると共に、結晶粒の成長が促される。
焼結助剤としては、コバルト酸化物(Co3O4)、鉄酸化物(Fe2O3)、銅酸化物(CuO)、ビスマス酸化物(Bi2O3)を単独で、あるいはこれらを2種以上組み合わせて用いることができるが、これらに限定されるものではない。
ここで、セリウム系酸化物ナノ粒子を構成するセリウム(Ce)カチオン100モルに対し、焼結助剤を構成する金属カチオンを2モル以下含むことが好ましい。2モル超とすると、焼結助剤を構成する金属カチオンが、スラリーにより形成される電解質膜の酸化物イオン導電性を低下させる虞や、スラリー中のセリウム系酸化物ナノ粒子の分散性、スラリーの塗工性に影響を与える虞がある。
尚、エマルジョン系バインダー、増粘剤及び焼結助剤以外の添加剤をスラリーに添加してもよい。例えば、セリウム系酸化物ナノ粒子をエマルジョン系バインダーに分散させる際に生じる泡を消す消泡剤やセリウム系酸化物ナノ粒子の分散性を高める分散剤を、スラリーの特性に悪影響を及ぼさない範囲で、例えば、エマルジョン系バインダー100重量部に対して10重量部以下の範囲で含んでいてもよい。
本発明のスラリーは、例えば以下のように調製するのが好適である。まず、所定の容器内にセリウム系酸化物ナノ粒子と、水とを所定量入れて混合する。混合は、例えばジルコニアシリンダー等を容器にいれてボールミル処理することにより行う。ボールミル処理を行う前に、セリウム系酸化物ナノ粒子の分散性を高めるための分散剤や、上述した酸化物系の焼結助剤を添加しても良い。ボールミル処理後は、エマルジョン系バインダーを所定量添加し、さらにボールミル処理を行う。この際、スラリーが泡立つ場合があるので、ボールミル処理前に消泡剤を適宜添加してもよい。ボールミル処理終了後、ジルコニアシリンダーを取り出して、スラリーの調製が完了する。尚、このスラリーの調製方法は一例であって、この方法に限定されるものではなく、適宜変更可能である。例えば、全ての材料を添加してからボールミル処理することも可能である。
次に、本発明のスラリーを使用して電解質膜を形成する方法を以下に説明する。
本発明のスラリーを使用して基板上に電解質膜を形成する際には、湿式法を用いる。湿式法としては、スラリーコーティング法が挙げられる。他にも、スプレー法、ディッピング法を用いることができる。尚、電解質膜の厚みは例えば10μm以下とすることが好ましい。10μmを超えると、中温作動用固体酸化物型燃料電池の電解質としての性能を確保し難くなる。
電解質膜を形成する基板としては、中温作動用固体酸化物型燃料電池の多孔質電極材料、即ち、多孔質燃料極材料あるいは多孔質空気極材料を用いることができる。
多孔質燃料極材料としては、酸化ニッケル−セリウム系酸化物のコンポジットが挙げられる。より具体的には、NiO−Ce0.8Sm0.2O1.9、NiO−Ce0.9Gd0.1O1.95が挙げられるが、これらに限定されるものではなく、中温作動用固体酸化物型燃料電池の燃料極材料として公知あるいは新規の材料を用いることができる。
多孔質空気極材料の具体例としては、LSCF(AサイトがLaとSrにより構成され、BサイトがCoとFeにより構成されたペロブスカイト酸化物(ABO3)あるいはAサイト欠損型ペロブスカイト酸化物)、LSC(AサイトがLaとSrにより構成され、BサイトがCoにより構成されたペロブスカイト酸化物(ABO3))、SSC(AサイトがSmとSrにより構成され、BサイトがCoにより構成されたペロブスカイト酸化物(ABO3))を挙げることができるが、これらに限定されるものではなく、中温作動用固体酸化物型燃料電池の空気極材料として公知あるいは新規の材料を用いることができる。
基板としては、形状が維持できる程度に低温で焼成された基板(焼結開始初期の基板)や、電極材料に疎水性の結着剤を混合して成形した基板、つまり、十分に焼成処理されていない基板を用いることが好ましい。この場合には、基板と電解質膜との共焼結の際に、基板の収縮に伴って電解質膜が収縮し易く、緻密な電解質膜を得やすい。尚、電解質膜との共焼結後に電極に要求される多孔性が確保されるように、グラファイトやメタクリル樹脂(PMMA)等を造孔剤として添加してもよい。ここで、ニッケル酸化物とセリウム系酸化物のコンポジットを基板とした場合、電解質膜との共焼結後に多孔性が確保されていない場合であっても、電池作動時に燃料が燃料極に供給されることにより、ニッケル酸化物がニッケル金属にまで還元されて、多孔質構造が実現される。したがって、ニッケル酸化物とセリウム系酸化物のコンポジットを基板として用いる場合には、電解質膜との共焼結後に多孔性が確保されている必要は無い。
本発明のスラリーを使用して、湿式法により上記基板上に電解質膜を形成する。電解質膜形成後は室温付近で8時間以上乾燥させた後、電解質膜と基板とを共焼結処理する。共焼結処理は、電解質膜が十分に緻密化する温度、例えば1000〜1450℃で1〜20時間行う。ここで、共焼結を行う際に使用する基板は、その熱収縮挙動が電解質膜の熱収縮挙動と近似したものとすることが好適である。この場合には、共焼結時に膜の亀裂や膜の基板からの剥離が発生し難い。また、スラリーに焼結助剤を添加することにより、膜の亀裂や膜の基板からの剥離がさらに発生し難くなる。したがって、焼結助剤をスラリーに添加して、電解質膜の製造マージンを広げるようにしてもよい。また、焼結助剤の添加により、電解質膜の焼結を促進することができるので、共焼結温度を従来よりも低温にした場合でも電解質膜の緻密性を確保し易くなり、基板の多孔性が確保し易くなる。
また、基板上に本発明のスラリーにより電解質膜を形成し焼結する処理を複数回繰り返すことにより、電解質膜の緻密化を図るようにしてもよい。この場合、スラリーのセリウム系酸化物濃度は例えば5重量%程度として、1度の成膜で膜厚が厚くなり過ぎないようにする。スラリーにより電解質膜を形成し焼結する処理を複数回繰り返すことにより、上述した基板だけでなく、電解質膜との共焼結時に基板の収縮がほとんど起こらない基板(例えば、十分に焼成処理された基板)を用いた場合であっても、電解質膜の緻密化を図り易くなる。さらに、先に述べた焼結助剤を用いたり、乾燥後の基板からの電解質膜の剥離を配慮しながら、100MPa以上の静水圧プレスを行なうことにより、電解質膜の緻密化を促進するようにしてもよい。
以上の方法により、多孔質燃料極あるいは多孔質空気極上に緻密な電解質薄膜が形成された固体酸化物型燃料電池を作製することができる。
なお、上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、本実施形態では、一次粒子が10nm以上200nm未満で、この一次粒子が凝集している粒子である二次粒子が0.05μm以上1μm未満の粒子であるセリウム酸化物系のナノ粒子を用いるようにしているが、本発明の効果を奏する範囲で、上記粒径範囲を逸脱するセリウム酸化物系粒子を用いることも可能である。また、本実施形態では、本発明のスラリーにより形成した膜を固体酸化物型燃料電池の電解質膜として用いるようにしているが、この膜に通電することにより、水(水蒸気)を電解したり、浮遊粒子状物質やNOx、揮発性有機化合物(VOC)の分解・浄化膜として用いることもできる。またこの膜を紫外線吸収膜として用いることも可能である。
以下、実施例により本発明をさらに具体的に示すが、本発明はこれに限定されるものではなく、適宜発明の範囲内で変更できるものである。
(実施例1)
セリウム系酸化物ナノ粒子を高度に分散させることができるエマルジョン系バインダーの検討を行った。セリウム系酸化物ナノ粒子には、Ce0.9Gd0.1O1.95(阿南化成製)を用いた。以降の説明では、このセリウム系酸化物ナノ粒子をCGOナノ粒子と呼ぶこととする。溶媒には、純水(イオン交換水)を用いた。CGOナノ粒子1gと純水4〜9mLに対し、以下の(a)または(b)のバインダーの固形成分をそれぞれ0.1g混合・撹拌して、CGOナノ粒子の分散状態を目視で確認した。
(a)セランダーDB−17(ユケン工業製)
(b)セランダーDB−20(ユケン工業製)
セリウム系酸化物ナノ粒子を高度に分散させることができるエマルジョン系バインダーの検討を行った。セリウム系酸化物ナノ粒子には、Ce0.9Gd0.1O1.95(阿南化成製)を用いた。以降の説明では、このセリウム系酸化物ナノ粒子をCGOナノ粒子と呼ぶこととする。溶媒には、純水(イオン交換水)を用いた。CGOナノ粒子1gと純水4〜9mLに対し、以下の(a)または(b)のバインダーの固形成分をそれぞれ0.1g混合・撹拌して、CGOナノ粒子の分散状態を目視で確認した。
(a)セランダーDB−17(ユケン工業製)
(b)セランダーDB−20(ユケン工業製)
結果を図3に示す。撹拌後に傾けたビーカーの底を見ると(a)のバインダーを用いた場合には、CGOナノ粒子の凝集が見られた。一方、(b)のバインダーを用いた場合には、CGOナノ粒子がほとんど凝集することなく分散していることが確認された。したがって、ユケン工業製のセランダーDB−20をエマルジョン系バインダーとして使用することで、均一分散状態を保持できることが明らかとなった。
(実施例2)
以下の2種類のスラリーA及びスラリーBの基板への塗工性について検討した。スラリーAは以下のようにして調製した。250mL容量のポリエチレン容器に、CGOナノ粒子を10g、純水を30mL、分散剤(ユケン工業製、セランダーCA)を0.05g、3/8インチジルコニアシリンダーを250g入れて混合し、1回目のボールミル処理を12時間行った。1回目のボールミル処理後、消泡剤(ユケン工業製、セランダーP)を0.02g、エマルジョン系バインダー(ユケン工業製、セランダーDB−20)の固形成分を1g混合し、2回目のボールミル処理を12時間行った。2回目のボールミル処理後、ポリエチレン容器から3/8インチジルコニアシリンダーを取り除いてスラリーAを得た。
以下の2種類のスラリーA及びスラリーBの基板への塗工性について検討した。スラリーAは以下のようにして調製した。250mL容量のポリエチレン容器に、CGOナノ粒子を10g、純水を30mL、分散剤(ユケン工業製、セランダーCA)を0.05g、3/8インチジルコニアシリンダーを250g入れて混合し、1回目のボールミル処理を12時間行った。1回目のボールミル処理後、消泡剤(ユケン工業製、セランダーP)を0.02g、エマルジョン系バインダー(ユケン工業製、セランダーDB−20)の固形成分を1g混合し、2回目のボールミル処理を12時間行った。2回目のボールミル処理後、ポリエチレン容器から3/8インチジルコニアシリンダーを取り除いてスラリーAを得た。
スラリーBの調製は、1回目のボールミル処理後であって2回目のボールミル処理前にレモンペクチン(和光純薬工業製、試薬級)を0.4g添加した以外は、スラリーAの調製と同様とした。
スラリーを塗布する基板には、平均粒径が0.5μmの46vol%NiO−Ce0.8Sm0.2O1.9(セイミケミカル製、クエン酸法均一分散品)を80MPaで一軸加圧成形後、1000℃で5時間焼成したペレット状の基板を用いた。この基板の相対密度は62%であった。
尚、本明細書における相対密度とは、試料の体積と試料の重さとの関係から、試料密度を計算し、試料密度と材料の理論密度との関係から、以下の数式1により計算される値である。
[数式1] (相対密度)=100×(試料密度)/(理論密度)
[数式1] (相対密度)=100×(試料密度)/(理論密度)
スラリーA及びスラリーBをそれぞれ刷毛を用いて基板に塗布して膜を形成し、これらを6時間室温で乾燥させた。この結果を図4に示す。図4(a)はスラリーAを使用した結果であり、図4(b)はスラリーBを使用した結果である。スラリーAを使用した場合には、図4(a)に示すように、膜が収縮して基板から剥離することが確認された。しかも、膜の収縮は乾燥直後から徐々に進行していた。一方、スラリーBを使用した場合には、図4(b)に示すように、乾燥後も膜が基板から剥離することがなかった。したがって、レモンペクチン等のペクチン全般を用いることにより、乾燥後も膜が基板から剥離することのない、塗工性に優れたスラリーが得られることが明らかとなった。
尚、本願発明者は、スラリーAのエマルジョン系バインダーの固形成分量を0.5gに減らして同様の実験を行ったところ、膜が自然に剥がれることが確認されたことから、この量のエマルジョン系バインダーでは、基板と膜とを十分に密着できないことが判明した。したがって、CGOナノ粒子100重量部に対し、エマルジョン系バインダーを5重量部超とすることで、基板と膜との密着性を十分に確保できることがわかった。
(実施例3)
基板材料とCGOナノ粒子の焼結挙動について検討を行った。基板材料は以下のようにして作製した。ニッケル酸化物(NiO、住友金属鉱山製Q42、比表面積107m2/g)と、CGO(セイミケミカル製、比表面積30m2/g)とを、体積比にして46:54で混合し、エタノール中で24時間以上ボールミル処理を行った。ボールミル処理後に乾燥させ、篩を使って造粒した後、80MPaの圧力で一軸加圧成形してペレット状とした。この基板を試料1と呼ぶ。また、基板材料をNiO−CGOと呼ぶ。
基板材料とCGOナノ粒子の焼結挙動について検討を行った。基板材料は以下のようにして作製した。ニッケル酸化物(NiO、住友金属鉱山製Q42、比表面積107m2/g)と、CGO(セイミケミカル製、比表面積30m2/g)とを、体積比にして46:54で混合し、エタノール中で24時間以上ボールミル処理を行った。ボールミル処理後に乾燥させ、篩を使って造粒した後、80MPaの圧力で一軸加圧成形してペレット状とした。この基板を試料1と呼ぶ。また、基板材料をNiO−CGOと呼ぶ。
CGOナノ粒子の熱収縮率を測定するための試料は、以下のようにして作製した。CGOナノ粒子を試料1と同様、造粒・一軸加圧成形してペレット状の試料を作製した。この試料を試料2と呼ぶ。
また、CGOナノ粒子を構成するセリウムカチオン100モルに対して、コバルト酸化物(Co3O4、ナカライテスク製)2モルを焼結助剤として添加した以外は試料2の作製と同様とした試料を作製した。この試料を試料3と呼ぶ。
試料1、2及び3を200℃/時間で昇温し、600℃以上の焼成温度における各試料の熱収縮率を測定した。熱収縮率の測定は50℃刻みで行い、各試料は、熱収縮率の測定を行う所定の温度で10時間保持してから測定に供した。
熱収縮率は以下に説明する計算方法により得た。まず、加圧成形直後(焼成前)のペレットの直径をノギスで測定し、この値を「初期長さ」とした。次に、焼成後のペレットの直径をノギスで測定し、この値を「焼成後長さ」とした。そして、数式2により熱収縮率を計算した。
[数式2] (熱収縮率)= −100×((初期長さ)−(焼成後の長さ))/(初期の長さ)
[数式2] (熱収縮率)= −100×((初期長さ)−(焼成後の長さ))/(初期の長さ)
図5に試料1、2及び3の熱収縮率の温度依存性を示す。▲は試料1を、●は試料2を、■が試料3の結果を示している。試料1と試料2は比較的近い焼結挙動を示すことが確認された。つまり、基板材料であるNiO−CGOは、CGOナノ粒子と比較的近い焼結挙動を示すことが明らかとなった。
一方、試料1と試料3は焼結挙動の差が大きいことが確認された。つまり、基板材料であるNiO−CGOの焼結挙動と、焼結助剤を添加したCGOナノ粒子の焼結挙動とは大きな差があり、これらを共焼結した場合には、この焼結挙動の差異から、電解質膜に亀裂が発生する虞があることが示唆された。
(実施例4)
本発明のスラリーを基板に塗布して焼結性の検討を行った。基板には、実施例3で作製したNiO−CGO基板を、熱収縮が始まる温度である700℃で5時間焼成してから使用した。
本発明のスラリーを基板に塗布して焼結性の検討を行った。基板には、実施例3で作製したNiO−CGO基板を、熱収縮が始まる温度である700℃で5時間焼成してから使用した。
スラリーは実施例1で作製したスラリーBと同じものを使用した。また、1回目のボールミル処理前に酸化コバルトを0.095g添加する以外は、スラリーBと同様の手順で調製したスラリーCを使用した。
スラリーBとスラリーCをNiO−CGO基板に塗布した。塗り斑を極力抑えるため、方向を変えて均一に4回塗布した。これらを12時間室温で乾燥させた。この結果を図6に示す。図6(a)はスラリーBを使用した結果であり、図6(b)はスラリーCを使用した結果である。どちらのスラリーを使用した場合においても、基板からの膜の剥離は起こらなかった。
乾燥後、昇温速度を200℃/時間とし、焼成温度1400℃で10時間共焼結を行った。この結果を図7に示す。どちらのスラリーを使用した場合にも、膜が緻密化して透明になり、電極基板表面の光沢が膜を介して観察されることが確認された。基板表面を光学顕微鏡と電子顕微鏡によりつぶさに観察したが、亀裂等は観察されなかった。尚、コバルト酸化物を添加したCGOナノ粒子の熱収縮がNiO−CGO基板よりも低温から始まり、焼結挙動にも大きな差が見られることが実施例3で明らかになったにも関わらず、酸化コバルトを添加したスラリーCを使用した場合にも膜に亀裂等が観察されなかった。この理由は、Coの存在がCGOの自己拡散を促し、応力を緩和しながら、結晶粒成長を促したことによるものと考えられる。
図8に電子顕微鏡による表面の2次電子像を示す。図8(a)はスラリーBを使用した結果であり、図8(b)はスラリーCを使用した結果である。双方とも、CGOの結晶粒が大きく成長していることが確認された。また、図9にコバルト酸化物を添加したスラリーであるスラリーCを使用して共焼結した場合の基板断面の二次電子像と反射電子像を示す。図9(a)が二次電子像を、図9(b)が反射電子像を示す。また、Aの領域がNiO−CGO基板であり、Bの領域が電解質膜である。この結果からも、NiO−CGO基板上に緻密なCGO電解質膜が形成されていることが確認された。
(実施例5)
焼成温度を1000℃で10時間とした以外は、実施例4と同様の工程とし、焼成温度の低温化による電解質膜の緻密性への影響について検討した。結果を図10並びに図11に示す。図10は共焼結後の基板全体の外観を示し、図11は電子顕微鏡による電解質膜表面の2次電子像を示す。また、図10並びに図11共に、(a)はスラリーBを使用した結果であり、(b)はスラリーCを使用した結果である。図11の結果から、実施例4の場合と比較すると、結晶粒が十分成長しているとはいえないが、焼結助剤のコバルト酸化物を添加したスラリーCを使用した場合には、コバルト酸化物を添加していないスラリーBを使用した場合と比較すると結晶粒が大きくなることが確認された。また、図10に示すように、スラリーBを使用した場合には電解質膜が白かったのに対し、スラリーCを使用した場合には電解質膜が半透明になっていた。したがって、基板の熱収縮率を向上させたり、スラリーの塗布・焼結を繰り返すことによって、電解質膜を1000℃でも緻密化できることが示唆された。また、1000℃程度の焼成温度しなければ十分な多孔性を確保することができない空気極材料を基板として用いることも可能である。
焼成温度を1000℃で10時間とした以外は、実施例4と同様の工程とし、焼成温度の低温化による電解質膜の緻密性への影響について検討した。結果を図10並びに図11に示す。図10は共焼結後の基板全体の外観を示し、図11は電子顕微鏡による電解質膜表面の2次電子像を示す。また、図10並びに図11共に、(a)はスラリーBを使用した結果であり、(b)はスラリーCを使用した結果である。図11の結果から、実施例4の場合と比較すると、結晶粒が十分成長しているとはいえないが、焼結助剤のコバルト酸化物を添加したスラリーCを使用した場合には、コバルト酸化物を添加していないスラリーBを使用した場合と比較すると結晶粒が大きくなることが確認された。また、図10に示すように、スラリーBを使用した場合には電解質膜が白かったのに対し、スラリーCを使用した場合には電解質膜が半透明になっていた。したがって、基板の熱収縮率を向上させたり、スラリーの塗布・焼結を繰り返すことによって、電解質膜を1000℃でも緻密化できることが示唆された。また、1000℃程度の焼成温度しなければ十分な多孔性を確保することができない空気極材料を基板として用いることも可能である。
101 固体酸化物型燃料電池
102 空気極
103 電解質
104 燃料極
102 空気極
103 電解質
104 燃料極
Claims (7)
- 溶媒が水であり、セリウム系酸化物ナノ粒子と、前記セリウム系酸化物ナノ粒子を分散させ得るエマルジョン系バインダーと、スラリーに粘性及び保湿性を付与する水溶性の増粘剤とが少なくとも含まれていることを特徴とする電解質膜形成用スラリー。
- 前記増粘剤がペクチンである請求項1に記載の電解質膜形成用スラリー。
- 前記水100重量部に対し、前記増粘剤が0.2〜10重量部含まれるものである請求項1または2に記載の電解質膜形成用スラリー。
- 前記セリウム系酸化物ナノ粒子100重量部に対し、前記エマルジョン系バインダーが5重量部超〜30重量部含まれるものである請求項1〜3のいずれかに記載の電解質膜形成用スラリー。
- 焼結助剤がさらに含まれるものである請求項1〜4のいずれかに記載の電解質膜形成用スラリー。
- 前記セリウム系酸化物ナノ粒子を構成するセリウムカチオン100モルに対し、前記焼結助剤の金属カチオンが2モル以下含まれるものである請求項5に記載の電解質膜形成用スラリー。
- 請求項1〜6のいずれかに記載の電解質膜形成用スラリーを使用して、燃料極多孔質基板または空気極多孔質基板上に電解質膜が形成されていることを特徴とする固体酸化物型燃料電池。
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2007
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