JP2008187924A - 排気ガスを用いる土壌消毒装置及び方法 - Google Patents

排気ガスを用いる土壌消毒装置及び方法 Download PDF

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Abstract

【課題】農業においては、労力を省き経費を低く抑えながら如何に良質な農産物の収量を上げるかが最も重要な課題である。しかし従来、いわゆる連作障害等による重篤な生産物の低下をきたすことが大きな問題となっている。
【解決手段】トラクターなどのエンジンから排出する高温の排気ガスを用い、消毒すべき土壌にあらかじめ散布した消石灰等により排気ガス中の二酸化炭素や硫黄酸化物などをそれぞれ無害なカルシウム塩として固定し、これらの気体成分の環境への漏出を極力抑えながら土壌を消毒できる装置並びに方法を提供する。
【選択図】図1

Description

本発明はトラクターなどの農作業用機械の内燃機関であるエンジンより排出される排気ガスの熱やその成分により、土壌を消毒することのできる装置とその使用方法に関する。
農業においては、労力を省き経費を低く抑えながら如何に良質な農産物の収量を上げるかが最も重要な課題である。しかし多くの農家は気候や経済的な理由から同じ耕地に同じ農産物を繰り返し栽培する傾向があり、結果として線虫や病原菌などによる被害を招き、いわゆる連作障害や地力の低下等による重篤な生産物の減少をきたすことが大きな問題になっている。
これらを改善するためにトラクターなどの農作業用機械のエンジンより排出する高温の排気ガスで土壌を消毒すると同時に、あらかじめ散布した生石灰や消石灰等により排気ガス中の窒素酸化物や二酸化炭素及び硫黄酸化物などの気体成分はそれぞれカルシウム塩として固定し、これらの気体成分の環境への漏出を極力抑えることのできる手段を提供する新規な技術分野に関する。
従来、連作障害を回避するために行われてきた方法には間作、輪作、冠水、品種改良などの他、日光(例えば、特許文献1参照)、水蒸気(例えば、特許文献2参照)、熱水(例えば、特許文献3参照)、マイクロ波(例えば、特許文献4参照)、そして化学的な合成物である数多くの農薬による方法などがある。
間作による方法は病虫害の被害が大きくなる前に耕地を休耕し、その影響が減退したとき土地を再利用する方法であるが、これは広い代替え耕地を持たない農家には適用できない。輪作は病虫害の宿主とならない作物を交互に栽培する方法であるが、そのような作物の選択は限られており、輪作のみで作柄をコントロールすることは困難である。冠水による方法は7−9月頃、耕地を水浸しにすることにより地中の酸素量を減らし、結果的に有機酸、メタン、硫化水素などの毒性物質を産生して有害生物の発生を抑える方法である。
しかしこの方法では線虫の卵を殺すのに2年以上かかる可能性があり、水量が豊富で既に水路が完備している大規模な単作地方には適しているが、畑作農家がこの方法を選択することは殆どない。その他、品種改良による方法は近代のバイオ技術の進歩により非常に成果が上がりつつある分野であるが、新しい作物の安全性の問題やその作物に適応する害虫が出現する可能性を無視することはできない。
日光による土壌消毒は自然のエネルギーを利用することができるので有利であるが、天候に左右され、場合により夏季に休耕を余儀なくされることが難点である。
また、水蒸気を用いる方法は広い耕地の消毒には適さず、年に数回土壌を消毒するために高価なボイラーを整備することはあまり実用的ではない。熱水による方法は水を95℃以上に加熱して耕地に注ぐ方法であるが、高温の水による土質の変化を起こし易く、傾斜地や起伏のある広い耕地を適切に処理するのは困難である。また、レーザーや電磁波による方法は古い植物の根を破壊し、地中のあらゆる生物を殺すことができるが、これは温床などの小規模な土壌の消毒に限られ汎用的ではない。そして近代、人類の食料生産において最も重要な役割を担ってきたのは農薬による病虫害対策である。
農薬には急性毒性や発がん性を有するもの、環境を汚染し人畜に有害であるものなど実に多種多様なものがある。これらの中にあって容易に気化し土壌や作物に残留することのない臭化メチル(例えば、特許文献5参照)による土壌薫蒸法は、あらゆる病害虫を殺すことのできる極めて優れた方法である。しかしこれは人畜に対する毒性が極めて強く、その取扱いには細心の注意が必要である。また臭化メチルによる土壌薫蒸は消毒終了後、それがすべて気化するまでは作付けすることが出来ない。そして最大の問題点は、大気中に放出された臭化メチルは太陽からの有害な紫外線から生命を守るオゾン層を破壊することが明らかとなり、その使用は段階的に廃止されることになっている。
特開2004−201534号公報 特開2005−65574号公報 特開2005−102号公報 特開2004−298026号公報 特開1993−255025号公報
人類の食糧問題に直結する農作物の生産において、農薬の使用を減らし安全で良質なものを得るため早急な対策が求められている現状において、本発明は高額な経費を要することなく、例えばトラクターなどの農作業用機械に取付け、そのエンジンからの排気ガスの熱や成分により畑地、果樹園、花畑や農業用ハウス内の土壌などを消毒することが可能な土壌消毒装置及び土壌消毒方法を提供することを目的としている。
現在、世界で稼動中のトラクターや自動車などからの排気ガスは各国毎の環境排出基準を満たしているが、これには窒素酸化物(NO)、一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO)、二酸化硫黄(SO)、炭化水素(HC)、ならびに粒子状物質(PM)などの有害成分が含まれている。これらの成分のうち特にHCやPMは呼吸器を経て人体に入る有害な物質であるが水に難溶性であり、本発明においてはそれらの多くは土に吸着し、植物に吸収される量は極めて少ないと考えられる。
本発明において使用した23馬力のトラクターの排気ガス及び比較のために測定したガソリン車のアイドリング時の成分分析結果を表1に示す。
Figure 2008187924
トラクター及びガソリン車の排気ガス中のHCやNO(NO、NO等の混合物)の値に大きな差があるのは使用燃料による違いやガソリン車で使用されている三元触媒の働きによるものである。
古くから、大気中での放電(雷)により生ずるNOは地上に雨と共に降り注ぎ、窒素肥料として役立つことは知られているが、同様にトラクターから排出されるNOを土壌中に吹き込むと、それは水と反応して亜硝酸や硝酸となる。酸の一部は土壌中の細菌の作用によりアンモニアに還元される。
Figure 2008187924
Figure 2008187924
Figure 2008187924
上記化学式1,2,3に示す一連の化学反応におけるNOは反応性に富み、且つ非常に毒性の強い物質で、太陽光により炭化水素と反応し過酸化物(オキシダント)を生ずることは良く知られている。しかし太陽光の届かない地中において、水が存在しなければそれは気体のままとどまり害虫や病原菌を攻撃すると同時に種子の発芽や成長に影響を与える。
近年、世界的に農作地帯に化学肥料や有機肥料に起因する硝酸や亜硝酸の化合物が高濃度に蓄積しつつあることが問題になっているが、当然のことながら、トラクターなどの農作業用機械からの排気ガスも現状よりクリーンなものに改善されることが望ましい。すなわち、N、CO及びHOのみが排気ガスの主たる構成成分であれば、本発明による土壌消毒に伴う土壌の富栄養化の問題は完全に解消される。
しかし現行の排出基準による排気ガスに関し、本発明においてはNOに起因する酸類は水と消石灰、すなわち水酸化カルシウムとのイオン反応により中和してカルシウム塩に変え、酸性雨や地球の温暖化に関係する排気ガス成分のSOやCOもそれぞれ同じく無害なカルシウム塩として固定する。
従って、本発明の更なる目的は排気ガスによる土壌消毒に伴うこれら有害な気体成分の大気中への放出量を抑制することのできる土壌の消毒方法を提供することである。
なお、先行技術文献情報としては以下のものがある。
米国特許
1,725,190 8/1929 Thomas
2,598,121 5/1952 Lester et al.
2,988,026 6/1961 Loyd et al.
3,099,898 8/1963 Marlin et al.
添付図面を参照して本発明の要旨を説明する。
請求項1に記載の発明は、トラクター1などの農作業用機械のエンジン2からの排気ガスを誘導するためにパイプ3及び 誘導管4を設け、この誘導管4の分岐末端部として排気ガスを土壌に送入する複数のインジェクター9を設け、各インジェクター9の下端部に排気ガスを土壌中に送り込む複数の噴出孔14、15を設け、土壌中を上記インジェクター9を牽引走行し得るように構成したトラクター1などの農作業用機械のエンジン2からの排気ガスを用いる土壌消毒装置である。
また、請求項2に記載の発明はトラクター1などの農作業用機械のエンジン2からの排気ガスは耐熱性の保温材で外側を断熱構造としたパイプ3、4a及びフレキシブル管4bからなる前記誘導管4を経て耐熱性の素材で内壁を断熱構造とした分配管5に導入し、この分配管5にフランジ6を有する複数の分岐管8を溶接し、この上記分岐管5に耐熱性のパッキンを介してボルト10及びナット11により上記フランジ6に適合する相フランジ7を設けたインジェクター9を接続し、そのインジェクターの下端部に設けた複数の前記噴出孔14、15から土壌中に排気ガスを送り込むように構成したものである。
請求項3に記載の発明は、前記分配管5及びそれと一体であるインジェクター9は前記トラクター1のロータリ装置16と連動して大きく上下することができるように構成し、更にハンドル18を回転してインジェクター9の土壌中の深度を細かく上下して設定することのできる手動の昇降機19を設けたものである。
請求項4に記載の発明は、前記インジェクター9は進行方向に湾曲したブーメラン形のプレートで、土壌中を牽引したとき土壌より受ける抵抗を小さくできるように、このブーメラン形のプレートの前後の辺縁部12は鋭角とし、このプレートの中央にプレートの厚さより僅かに大きな径を持つパイプ13を溶接して埋め込み、このパイプ13を有するインジェクター9を土壌中に挿入し、そのパイプ13の先端部から排気ガスを放出できる複数の前記噴出孔14、15を設けたものである。
請求項5に記載の発明においては、前記分配管5に設けられた分岐管6の配列は横2列で、この分岐管8に装着されたインジェクター9はトラクター1によって牽引される際、進行方向の土壌から受ける抵抗を小さくできるようにすべてのインジェクター9のプレート面が並行になるように設定し、且つ、1列目と2列目のインジェクター9の配列は相互にジグザグをなして重なり合わないように設定し、これらのインジェクター9の先端部はすべて土壌中において同じ深度に位置するように構成している。
請求項6に記載の発明は、前記インジェクター9の下端部は土壌を耕運しながら土壌中に挿入して牽引走行できるように、インジェクター9をロータリ装置16の後方に配設したものである。
請求項7に記載の発明は、請求項1記載の土壌の消毒装置を用いて、土壌中に前記トラクター1のエンジン2からの排気ガスを送り込み、この排気ガスの熱、若しくはこの排気ガスの熱と排気ガスの成分により土壌を消毒する方法である。
請求項8に記載の発明は、消毒すべき土壌にあらかじめ生石灰または消石灰を散布してから、前記トラクター1のエンジン2からの排気ガスを土壌中に送り込み、その排気ガスに含まれる人体や環境等に有害な酸性の気体成分を水分の存在下でカルシウム塩として固定することにより、これら有害な気体成分の空気中への放散を防ぐ方法に係わるものである。
本発明は、上述のような構成で、農作業用機械のエンジンからの排気ガスを土壌中に送り込む装置を、例えばトラクターなどの農作業用機械に設ける構成であるため高額な経費を要することなく実現することができる。即ち、トラクターなどの農作業用機械は容易に入手可能であり、それらはすでに配備されているものを含め、工場や現場で容易に本装置を組立てることができる。
つまり、上述のような構成による装置を装備したトラクターなどの農作業用機械を用い、そのエンジンからの排気ガスの熱や成分により効率良く容易に土壌を消毒することができるため、作業性に優れ操作も簡単で極めて実用性に富む土壌消毒装置並びに土壌消毒方法となる。
本発明の請求項1の記載の発明においては、トラクター1のエンジン2の排気部に接続するパイプ3及び誘導管4を経て排気ガスを噴出する噴出孔14及び15を設けた複数のインジェクター9の下端部を土壌中に配設して牽引する構成により、走行方向に対して所定幅領域の土壌を効率良く確実に消毒できる新規で画期的な排気ガスを用いる土壌消毒装置となる。
また、請求項2の記載の発明においては、排気ガスの温度低下を防止するためパイプ3、誘導管4及び排気ガスを配分する分配管5をそれぞれ断熱構造とし、排気ガスを高温のまま土壌中に送り込むことができるようにし、この分配管5に脱着可能な手段で複数のインジェクター9を接合したことにより、インジェクター9の不具合等による不測の事態にすぐ対応できるようにしたものである。
請求項3の記載の発明においては、油圧で上下するロータリ16部分と連動して分配管5と一体であるインジェクター9を大きく上下できる構成とし、トラクター1の土壌消毒作業以外の方向転換や退避行動を瞬時に行うことができると共に、土壌消毒の作業中はインジェクター9の土壌中における深度を所望通り正確に行うことができる手段を記述したものである。
また、請求項4記載の発明においては、インジェクター9を土壌中で牽引する際の種々のタイプを検討した末、独特なブーメラン形のプレートが物理・工学的強度や耐久性に富む形状であることを見出し、このプレートの中央部に排気ガスを放出するパイプ13を溶接して設け、その先端部の噴出孔14及び15から排気ガスを噴出できるインジェクター9の構成について述べたものである。
また、請求項5記載の発明においては、トラクター1により土壌中でインジェクター9を牽引する際、インジェクター9のプレート面は土壌を切り裂いて進行できるように縦列且つ、並行に並べられるが、その配列の間隔が狭いと土壌を鋤のように掘り起す結果となりその背後に大きな溝を生ずる。他方、インジェクター9の配列の間隔を大きくすると溝は出来ないが、送入した排気ガスの土壌中での分布が不均一となる。これらの欠点を解消するためインジェクター9の配列を2列とし、間隔を広くした1列目の中間に2列目のインジェクター9が配列するように構成したことについて述べたものである。
また請求項6記載の発明においては、土壌を耕起しつつ、または耕起したあとでインジェクター9の下端部を土中に配設しながら牽引走行できるように構成したことにより、農作業と一体化して土壌中に排気ガスを送り込むことができることを述べたものである。
また、請求項7記載の発明においては、排気ガスの熱や排気ガスの構成成分により害虫や病原菌を死滅させる土壌消毒方法となるが、更に、請求項8記載の発明においては、あらかじめ散布した生石灰または消石灰と雨水や散水によるイオン反応で、排気ガス中の有毒な酸性成分をカルシウム塩として固定できるので、これら有毒な気体成分の空気中への放散を防止でき、人畜にたいする影響や環境汚染を少なくできる等、極めて優れた土壌消毒方法となる。
好適と考える本発明の実施形態を図面に基づき本発明の作用を示して簡単に説明する。
本発明は既に購入、或いは既に配備されているトラクター1などの農作業用機械のエンジン2の排気部に、誘導管4を接続、或いは接続できる構成であるから、低コストで実現でき、また、その作業操作も容易で耕地の作業範囲を走行するだけで自動的に土壌を消毒できる。
即ち、本発明はトラクター1などの農作業用機械のエンジン2から排出する高温の排気ガスをインジェクター9の先端部の噴出孔14及び15から噴出しながら、土壌中を牽引して土壌消毒を行うことのできる装置及びその方法に係わる。
更に本発明においては、このインジェクター9を複数並設し、トラクター1を走行させるときに、総てのインジェクター9の下端部が土壌の同じ深さのところに挿入されるようにしている。もしインジェクター9の排気ガスの噴出孔近辺の土壌の圧抵抗が、土壌中の深度の違いにより部分的に異なればガスの不均一な噴出が起こる。本発明ではそのようなことが起こらないように排気ガスを送入する土壌の位置を設定する手段、及び排気ガスの送入装置であるインジェクター9の形状や配列に考慮を払ってトラクター1からの排気ガスが確実に土壌中に送り込まれるように構成している。
また更に本発明においては、農作物の生育を阻害する害虫や病原菌に及ぼす排気ガスの影響の一つとして、例えば土壌中に送出され拡散した排気ガスの成分により生きている線虫などを比較的短時間に死滅させることができる。しかし、それだけではこれら害虫の「卵→幼生→成虫→卵」というサイクルの連鎖を断ち切ることは困難である。その連鎖を断ち切るための重要な因子は温度である。そのためにはエンジンからの高温の排気ガス(約140℃;機種により異なる)は、出来るだけ温度低下を少なくできるよう考慮した装置により土壌中に送り込むことが求められる。
高温においては病害虫や病原菌のたんぱく質は凝固し、生存に必要な酵素は不活性化されて死滅する。しかし余りにも高温だと土中の有益な細菌群を死滅させたり、栄養分を分解したりして土壌の活力を失わせることになるので適切にコントロールしなければならない。そのためトラクターの走行速度を速くしたり、逆にゆっくり往復したりするなどの方法でその土地の気候、風土に合った最良の方法を任意に選択することができる。土壌は熱の伝導性が悪く一旦温まったものは冷めにくいが、害虫の卵を死滅させるためには土壌を約30分間40℃−70℃程度に保つことが求められる。そのため所望により、本発明による土壌消毒の作業後マルチなどで一時的に耕地を覆って保温してもよい。
更に本発明においては、消毒すべき土壌に生石灰ないし消石灰を自動または手動で散布してから排気ガスを送入することにより、既に述べたように排気ガス中のCOなどの地球温暖化に関係する成分を環境に放散させることなく土壌消毒をすることが可能になる。
また本発明においては後述の実施例でも明らかなように、消毒終了後、雨水等によって充分な水分が与えられれば、臭化メチルや他の多くの土壌薫蒸剤と異なり直ちに作物の栽培を行うことができる点でも非常に優れている。
本実施例では図1に示すように、トラクター1からの排気ガスはパイプ3を経て2方向に切替え可能なガスコック22に接続し、その一方は非常時にガスコック22によりマフラー21から排気ガスを開放できるようにし、他方は排気ガスの圧力の異常を検知するための圧力計23を付けた供給管4に接続する。土壌消毒の作業中はガスコック22を切り替え、ガスはパイプ4a及びフレキシブル管4bよりなるガス供給管4を通じ、ガスの分配管5に流れるように構成する。パイプ3や4a及び4bを含む供給管4の総ての露出部分は排気ガスの温度低下を防ぐ目的で耐熱性の保温材を用いた断熱構造とする。
分配管5の内壁は耐熱性の断熱材、例えばケイ酸カルシウムなどによる内張り構造とする。この分配管5にはフランジ6を備えた複数の分岐管8を溶接し、これに薄い銅板等の耐熱性のパッキンを介して、ボルト10及びナット11により分岐管8に適合する相フランジ7を備えたインジェクター9を脱着自在に接合できるように構成する。インジェクター9は作業中に折損したり不具合をおこした場合、ボルト10及びナット11を外し容易にそれを交換できるようにしたものである。この分配管5の大きさは使用するトラクターの馬力の大小や耕地の広さの程度に応じその内径、外径、及び長さ等は任意に決められるが、長さは好適にはトラクターの車幅の大きさ程度である。
上記インジェクター9は排気ガスを効率よく土壌中に送入できる形状と土壌中を移動するのに充分な強度を持たせるため鋼板等の材料を用いたプレートで、それはトラクター1の進行方向に中ほどから前方にゆるやかにブーメラン形に湾曲し、そのプレートの辺縁は土壌を切り裂いて進行できるように鋭角に仕上げる。このブーメラン形の独特な形状は土壌中を牽引する際、土壌の抵抗により装置がせり上がるのを少なくなるよう考慮したものである。このインジェクター9の中央部に排気ガスを土壌中に送出するため、末端が開放されていてガスの噴出が可能である金属製のパイプ13を溶接して埋め込む。このパイプ13の末端の近くには複数の排気ガスの噴出孔15を設ける。
排気ガスの噴出孔周辺の土壌の圧抵抗は一様ではないが、消毒作業中はすべてのインジェクター9の末端の断面が地面と並行になるようにする。このような状態でのインジェクター9の牽引では排気ガスの噴出孔14直下の土壌の圧抵抗は極めて小さくゼロに近くなる。また、土壌消毒の作業中はすべてのインジェクター9の末端は土壌中において同一深度になることが重要である。さもないと土壌中へ送入された排気ガスの分布に不均一を生じたり、排気ガスを噴出するのに余計な圧力が必要になりエンジンの稼動に無理を生ずる。
本実施例ではインジェクター9の土壌中での深度を適正に決めるために分配管5の上部2箇所に昇降装置19の脚部を取付け、この昇降装置19を油圧機で大きく上下できるロータリのフレーム部分に分厚い鋼板等を用いて頑丈に取り付ける。昇降装置19は手動でハンドル18を操作することによりにより独立して微細な上下動ができるので、分配管5に装備されたインジェクター9が土壌中の所定の深度に正しく設定できる構成となる。
インジェクター9の中央部に溶接されたパイプ13の径の大きさは使用するトラクターの排気量の大小に応じて変えることができ、排気量が大きければ太いパイプを使用できる。しかし単なるノズル状のパイプではその形状を極めて太く頑丈にしないと必要な強度を保つことができない。パイプの径が大きければそれを土壌中で動かした後に大きな溝ができる。ガスを吹き込んだ後の溝が大きければガスの無駄な散逸を招くことになる。
インジェクター9の形状は図4の断面図に示すような板状であるが、しかし、その大まかな形状としては全体として流線型であることが望ましい。しかしその配列が横1列で相互の間隔が狭い場合は牽引する前方向に土が盛り上がり、その背後には大きな溝ができる。これらの解消法については既に述べた通りで、本発明におけるこの独特なインジェクター9の配列が土壌中でのインジェクター9の牽引を容易にし、且つ、排気ガスの無駄な放散を抑える働きを生むことになる。
なお、場合により2列目のインジェクター9によってできる僅かの起伏をなくするために、別途、インジェクター9の最後部に土を平坦にするため、ロータリカバー17のような土ならし板を設置してもよい。
なお、通常トラクターの前部にあるエンジンがトラクター本体の後方にあれば、エンジン2と分配管5との距離が小さくなり誘導管4の長さが短くて済むが、エンジン2から分配管5までの距離が大きいと、外気温の低いときには排気ガスの温度低下をきたすので場合により加温する必要がある。
加温はトラクター1に発電機を搭載し、通電により発熱することのできる市販の発熱ユニットを誘導管4ないし分配管5の内部に装着して行う。例えば、100V、2kwのニクロム線等の発熱体を使用することにより排気ガス4の温度を40−60℃上昇させることができるが、その際、排気ガスに含まれるHCやPMの量は赤熱したヒーターとの接触酸化反応により減少すると考えられる。
排気ガス中のCO、SOなどの成分をそのまま環境に放散させることなく土壌消毒をすることを可能にするため、消毒すべき土壌にあらかじめ生石灰ないし消石灰を自動または手動で散布してから排気ガスを送入することについては既に触れた通りである。
本実施例では、排気ガスと生石灰との反応を調べるため、砂質土壌100g(水分6%、pH6.2)をポリプロピレン製の袋に入れ、これにそれぞれ0.05、0.1、0.2、0.5、1.0及び3.0gの生石灰の粉末を加えて混和し、中に温度計を入れて空気を抜き室温でガソリン車からの排気ガス1リットルを封入後、時々袋全体を動かして内容を混和し24時間放置した。
この実験で温度は生石灰と土壌及び排気ガス中の水分との反応熱により最初の20分間で6−12℃上昇した後徐々に低下した。また、生石灰0.05g及び0.1gを混和した試料のpHは6.6及び6.8であったが、それ以外の試料は過多の生石灰によってpH8以上のアルカリ性を示した。消石灰と土の混合物は極めて少量の消石灰でもpH7以上のアルカリ性を示すが、実験で観測されたpH6.6ないし6.8の値は排気ガス中のCO及びその他の成分が消石灰と反応した結果によるものである。
植物が順調に生育するためには土壌のpHが重要であり、酸性土壌では消石灰などのアルカリ成分の量は多くしなければならないが、排気ガスにより消費されるアルカリ成分の量は化学量論的に釣合っていることが望ましい。すなわち散布する消石灰等の適量は排気ガスを送入した後のpHがあまり変化しないことが目安になる。
生石灰は排気ガスや土壌中の水分との反応により発熱する作用を有するので、その熱は病害虫の消毒に役立つがNOやCO等を固定する効果は安価で取扱いの容易な消石灰と同じである。消石灰などの必要量は後述の実施例と関連するが、その散布量はインジェクター9が土中へ到達する深さにより変化する。例えば、その深さがAcmの場合、Acmの土の重量を測定しそれを基に深さAcmで1mの面積の総重量を算出して消石灰をその重量当り0.01から3重量パーセント、好適には0.05から0.2重量パーセントの範囲で地上に均等に散布する。耕地面積(m)全体で必要な消石灰の量はこの単位面積当りの必要量から容易に計算できる。
消石灰を散布後、または散布しながらトラクター付属のロータリ装置16による土壌の撹拌と同時に高温の排気ガスを土中へ送り込みつつ一回目の走行を行う。この場合、仮にインジェクター9の到達深度が20cmの場合、酸素濃度の低い排気ガスの拡散が噴出口の周囲約5cmの範囲の土壌に及ぶとすれば、深さ20cmの場所で10cm幅の地層中の生物は高温と一時的な酸素不足の状態に置かれる。
次にインジェクター9の挿入深度を10cm引き上げて浅い所を走行する。これにより、深度25cmから上の地層の殆どを消毒処理できることになる。
土壌中への気体の拡散や熱伝導度は土壌における粘土質の含量、有機物の量、温度、湿度などにより大きく変化する。従って、耕地の性状によりインジェクター9の挿入深度を実情に合うように何段階にも変えて走行することにより、排気ガスの拡散及び熱による土壌の消毒を満遍なく行うことができる。
本発明による排気ガス成分の線虫などへの直接的な効果を調べるため、根腐れにより生育不良の症状を示したえんどう豆の根元から線虫を採取(8月9日)した。線虫の検出はキーエンス社のマイクロスコープ(Keyence VH-5000)を用い、縦7cm、横17cm及び深さ1.5cmのプラスチック製の容器に採取した土約5gを薄く展開し、倍率75のレンズで丹念に走査して行った。線虫は高温、乾燥及び強い光の照射に極めて敏感なので、その取扱いには細心の注意が必要である。
あらかじめ内部に極微量の水分を噴霧した10cmの透明なガラス製バイアルに線虫それぞれ5匹づつを入れ、室温32℃で、ガソリン車からの排気ガスを封入してその温度に保った。
排気ガスの組成(容量%)はA;(排気ガス100%)、B;(排気ガス80%+空気20%)、及びC;(排気ガス60%+空気40%)の3種類とし、光学顕微鏡下での観察により線虫がガラス壁の薄い水膜の中での動きを30秒間以上停止した時点で死亡と判定した。
同じ条件下で空気のみの場合、線虫は3時間以上生存する。
これらの結果を表2に示す。すなわち、トラクターの排気ガスよりクリーンな自動車の排気ガスでさえ線虫を32 ℃の温度において短時間で死亡させる効果を有する。
Figure 2008187924
過去、農作物を栽培したことがなく殆ど肥料分の無い粘土質の酸性土壌に約0.1%の濃度に相当する303g/mの量の消石灰を散布した後土壌を耕起したものをAとし、本発明による装置によりインジェクター9の深度20cm、エンジンの回転数2000−2300r.p.m.排気ガスの流量1.07−1.80m/min、走行速度1.5−1.8m/minで2回、4回及び6回の処理を行ったものをB、C及びDとする。これら各偶数回の処理のうち半数回の処理はインジェクター9の深度を10cmとした。
各処理直後の土壌に大根の種子を播種した。一方、それらの土壌をそれぞれ約15cmの深さで5−6kgずつ採取してpH、全窒素、硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素の分析を行うと共にハウス内でキャベツの発芽試験を行った。
土壌分析の結果を表3に示す。実施例2で触れたように、測定されたAのpHがB,C及びDのように変化したのは排気ガス中のCO等の成分が消石灰と反応した結果である。硝酸性及び亜硝酸性窒素の量は全窒素量の約1/150で、2−6回の処理回数による違いはあまりみられない。
Figure 2008187924
排気ガス処理の土壌における種子の発芽試験には、1週間4℃の冷蔵庫に保管したF1キャベツの種子(イタリア産)を播種前に3時間水に漬けたものを使用した。
試験は表3記載のA、B、C及びDの4種類の土壌を6グループ24個のポットにそれぞれ500gずつ入れ、そこに各々22粒ずつの種子を排気ガスの処理後、5日後及び10日後と時日を変えて播種した。水は播種直後50ml、以後各ポットの土の表面が乾燥する直前に30mlを給水した。A、B、C及びDの各グループは各2セットを用意し、それぞれ両方の発芽数の平均を求めた。発芽率はAの土壌による発芽数を100として計算し、結果を表4に示した。
Figure 2008187924
トラクターの排気ガスによる土壌消毒の処理回数B、C及びDに応じたキャベツの発芽率の数値間には大きな差がなく、排気ガス処理を行ったケースの発芽率は総て未処理Aの土壌のものより良好であった。しかし、大根の露地栽培による発芽率には排気ガス処理の回数による違いは無かった。
本実施例の後方斜視図である。 本実施例の分配管5及びインジェクター9の要部拡大背面図である。 本実施例のブーメラン型インジェクター9の要部拡大図である。 本実施例のインジェクター9の噴出孔を含む先端部位の断面図である。
符号の説明
1 トラクター
2 エンジン部
3 パイプ
4 供給管
5 分配管
6 フランジ
7 相フランジ
8 分岐管
9 インジェクター
10 ボルト
11 ナット
12 インジェクター両側の辺縁
13 排気ガスの噴出管
14 排気ガスの噴出孔
15 インジェクター側面の排気ガスの噴出孔
16 トラクターのロータリ装置部分
17 トラクターのロータリカバー
18 昇降機のハンドル
19 昇降機
20 マフラー
21 ガスコック
22 圧力計
4a パイプ
4b フレキシブル管

Claims (8)

  1. トラクターなどの農作業用機械のエンジンからの排気ガスを誘導するためにパイプ及び 誘導管を設け、この誘導管の分岐末端部として排気ガスを土壌に送入する複数のインジェクターを設け、各インジェクターの下端部に排気ガスを土壌中に送り込む複数の噴出孔を設け、土壌中を上記複数のインジェクターを牽引走行し得るように構成したことを特徴とするトラクターなどの農作業用機械のエンジンからの排気ガスを用いる土壌消毒装置。
  2. トラクターなどの農作業用機械のエンジンからの排気ガスは耐熱性の保温材で外側を断熱構造としたパイプ及びフレキシブル管からなる前記誘導管を経て耐熱性の素材で内壁を断熱構造とした分配管に導入し、この分配管にフランジを有する複数の分岐管を溶接し、この上記分岐管に耐熱性のパッキンを介してボルト及びナットにより上記フランジに適合する相フランジを設けたインジェクターを接続し、そのインジェクターの下端部に設けた複数の前記噴出孔から土壌中に排気ガスを送り込むように構成したことを特徴とする請求項1記載の土壌消毒装置。
  3. 前記分配管及びそれと一体であるインジェクターは前記トラクターのロータリ装置と連動して大きく上下することができるように構成し、更にハンドルを回転してインジェクターの土壌中の深度を細かく上下して設定することのできる手動の昇降機を設けたことを特徴とする請求項2記載の土壌消毒装置。
  4. 前記インジェクターは進行方向に湾曲したブーメラン形のプレートで、土壌中を牽引したとき土壌より受ける抵抗を小さくできるように、このブーメラン形のプレートの前後の辺縁部は鋭角とし、このプレートの中央にプレートの厚さより僅かに大きな径を持つパイプを溶接して埋め込み、このパイプを有するインジェクターを土壌中に挿入し、そのパイプの先端部から排気ガスを放出できる複数の前記噴出孔を設けたことを特徴とする請求項2及び3記載の土壌消毒装置。
  5. 前記分配管に設けられた分岐管の配列は横2列で、この分岐管に装着されたインジェクターはトラクターによって牽引される際、進行方向の土壌から受ける抵抗を小さくできるようにすべてのインジェクターのプレート面が並行になるように設定し、且つ、1列目と2列目のインジェクターの配列は相互にジグザグをなして重なり合わないように設定し、これらのインジェクターの先端部はすべて土壌中において同じ深度に位置するように構成したことを特徴とする請求項4記載の土壌消毒装置。
  6. 前記インジェクターの下端部は土壌を耕運しながら土壌中に挿入して牽引走行できるように、インジェクターをロータリ装置の後方に配設したことを特徴とする請求項5記載の土壌消毒装置。
  7. 請求項1記載の土壌の消毒装置を用いて、土壌中に前記トラクターのエンジンからの排気ガスを送り込み、この排気ガスの熱、若しくはこの排気ガスの熱と排気ガスの成分により土壌を消毒することを特徴とする土壌消毒方法。
  8. 消毒すべき土壌にあらかじめ生石灰または消石灰を散布してから、前記トラクターのエンジンからの排気ガスを土壌中に送り込み、その排気ガスに含まれる人体や環境等に有害な酸性の気体成分を水分の存在下でカルシウム塩として固定することにより、これら有害な気体成分の空気中への放散を防ぐことを特徴とする請求項7記載の土壌消毒方法。
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