JP2008182912A - 癌幹細胞の培養方法、および癌幹細胞 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】少なくとも腫瘍増殖因子β(Tumor growth factor β(TGFβ ))と腫瘍壊死因子α(Tumor necrosis factor α(TNFα))を含む培養液を用いる癌幹細胞の選択的培養方法。選択された癌幹細胞を用いた特異的発現遺伝子および選択的阻害剤のスクリーニング法。
【選択図】なし
Description
幹細胞表面マーカー:幹細胞を他の細胞と分離することができる細胞表面発現抗原をいう。グリオーマにおいて神経幹細胞マーカーCD133が、急性白血病幹細胞において造血幹細胞マーカーCD34が発現しており、このような正常組織の幹細胞マーカーを利用して癌幹細胞が濃縮されることが報告されている。上皮系癌では、上皮幹細胞マーカーとして同定されているp75神経栄養因子レセプター(p75 neutrophin receptor: 以下p75NTRという。特許文献2、非特許文献1及び2参照)、インテグリンα6、インテグリンβ1、Notch1およびp63を利用して癌幹細胞の分離が期待される。 (2)SP:蛍光色素Hoechst33342の排出能力により特異的な蛍光色素パターンを示す一群の細胞をいう。この排出能力はABCトランスポーターの活性によると考えられ、様々な正常組織幹細胞がこのSP分画に濃縮されることが発見された。また、近年、急性白血病、悪性固形腫瘍および癌細胞株においてもSP分取が癌幹細胞濃縮法として利用されている。(3)浮遊細胞塊形成;浮遊細胞塊培養法は神経幹細胞の培養・濃縮法として確立されたが、種々の癌幹細胞、乳癌幹細胞、グリオーマおよび髄芽腫幹細胞、メラノーマ幹細胞などもbFGF、EGF等の成長因子を加えた無血清培地中で浮遊細胞塊を形成し、維持・濃縮されていることが報告されている。これら3つの方法は、少なくとも癌幹細胞を濃縮することは可能であるが、混在する非幹細胞である癌細胞を完全に排除することができず、癌幹細胞を分離するためには更なる工夫が求められていた。
(1)腫瘍増殖因子βと腫瘍壊死因子αとを含有する培養液を用いる癌幹細胞の培養方法、
(2)癌細胞と癌幹細胞の混在した状態から癌幹細胞のみを選択して培養することを特徴とする(1)に記載の癌幹細胞の培養方法、
(3)培養液における腫瘍増殖因子βと腫瘍壊死因子αの濃度がそれぞれ0.1〜1000ng/mLであることを特徴とする前記(1)又は(2)記載の癌幹細胞の培養方法、
(4)血清を含有しない培養液を用いることを特徴とする前記(1)ないし(3)のいずれか一項に記載の癌幹細胞の培養方法、
(5)癌幹細胞がヒトパピローマウイルス16の癌ウイルス遺伝子を導入して不死化させた子宮頸部上皮細胞である前記(1)ないし(4)のいずれか一項に記載の培養液を用いる培養方法、
(6)前記(1)ないし(5)のいずれか一項に記載の癌幹細胞の培養方法により選択される癌幹細胞、
(7)前記(6)記載の癌幹細胞を用いた特異的発現遺伝子のスクリーニング法、
(8)前記(7)記載のスクリーニング法により同定された特異的発現遺伝子、
(9)前記(6)記載の癌幹細胞を用いた特異的発現タンパク質のスクリーニング法、
(10)前記(9)記載のスクリーニング法により同定された特異的発現タンパク質、
(11)前記(8)記載の特異的発現遺伝子及び/または前記(10)記載の特異的発現タンパク質を用いた癌の治療法および診断方法、
(12)前記(8)記載の特異的発現遺伝子及び/または前記(10)記載の特異的発現タンパク質を検出するためのPCRプライマー、オリゴ・プローブおよび抗体、
(13)前記(12)記載のPCRプライマー、オリゴ・プローブおよび抗体を用いた癌の治療法および診断方法、
(14)前記(8)記載の特異的発現遺伝子の遺伝子組換体および遺伝子改変動物、
(15)前記(6)記載の癌幹細胞を用いた薬理化合物および生理活性物質のスクリーニング法、
(16)前記(15)記載のスクリーニング法により選択された薬理化合物および生理活性物質、
(17)前記(16)記載の薬理化合物および生理活性物質を用いた癌の治療法および診断方法、
に関する。
以下に本発明を詳述する。
なお、本明細書において使用する用語「TGFβ」および「TNFα」とは、各々腫瘍増殖因子β(Tumor growth factor(TGFβ ))と腫瘍壊死因子α(Tumor necrosis factor α(TNFα))を意味し、組み換えDNA等により人工的に製造された非天然由来の腫瘍増殖因子βおよび腫瘍壊死因子αを包含することを意味する。
上記TGFβおよびTNFαにおいて、由来する動物種は特に限定されず(例えばヒト由来)、組み換えDNAを作製してこれを発現させることにより製造したものを用いてもよく、また市販のものを用いてもよい。上記TGFβおよびTNFαのうち市販のものとしては、例えば、「RecombinantTGFβ」および「RecombinantTNFα」(Peprotech社製)等が挙げられる。
これらの「TGFβ」および「TNFα」は、PCR等で合成した遺伝子配列が既知のものが好ましい。
公知の基礎培養液としては、癌幹細胞のもととなる癌細胞の培養に適したものであれば特に限定されないが、例えばMCDB153培地、イーグル培養液(EMEM)、ダルベッコ改変イーグル培養液(DMEM)、ハムF12培養液、RPMI1640培養液、McCoy’s 5a medium、等が挙げられる。この中ではMCDB153培地(以下細胞培養培地ともいう)が好ましい。
培養液の具体例としては、EGF:5ng/mL、Insulin:5ng/mL、Transferin:10ng/mL、コルチコステロイド:0.2μM、脳下垂体抽出物:6.25μg/mLを加えたMCDB153培地が挙げられる。
上記癌幹細胞のもととなる癌細胞は、市販のHeLa細胞などの癌細胞株を用いてもよく、また、SV40などの癌ウイルス遺伝子もしくはRasなどの癌遺伝子を導入した細胞や、癌組織から採取・株化した細胞などを用いてもよい。組織からの細胞の採取は、従来公知の方法により採取することができる。例えば、組織からコラゲナーゼ、ディスパーゼ等による酵素処理により細胞を分離し、適切な培地を用いて増殖させて使用することができる。幹細胞の同定法としては、インテグリンα6、インテグリンβ1、Notch1およびp63等の上皮幹細胞表面マーカーやSPなどを用いても解析することができる。
本発明の培養方法の対象となる癌幹細胞の由来は特に限定されず、ヒト、ブタ、サル、チンパンジー、イヌ、ウシ、ウサギ、ラット、マウス等の哺乳動物;鳥類等に由来するものを用いることができる。なかでも薬理化合物・生理活性物質のスクリーニングの目的にはヒト由来のものが好ましい。
本発明の癌幹細胞の培養方法において、培養条件は、培養液中で癌幹細胞を選択的に培養できる条件、すなわち通常の細胞培養条件と同一であることができる。例えば、ヒトパピローマウイルス16の癌ウイルス遺伝子を導入して不死化させた子宮頸部上皮細胞等のヒト由来細胞である場合、約37℃、5%CO2環境下で溶液培養を行うことができる。
コンフレントになった細胞は0.05%〜0.5%のトリプシンおよび0.005%〜0.05%EDTAを含むリン酸緩衝液(PBS)に37℃の環境下で浸すことで培養容器から剥がすことができる。遠心分離(500rpm〜1500rpm、3分〜10分)して回収した細胞の数を計測した後、コンフレントの状態から1/4〜1/10に培養液を用いて希釈し、新しい培養容器に移して培養することができる。継代間隔は細胞の状態によって適宜調節することができるが、好ましくは3〜5日である。
遺伝子の発現を抑制するRNAとは遺伝子もしくはその転写産物、または転写調節因子の全体又は部分に対してアンチセンスであり、癌幹細胞特異的遺伝子もしくはタンパク質の発現を阻害できる、siRNAなどのRNA配列、リボザイム等をいう。
またこのようにして同定されたタンパク質を用いて抗体を作成することができる。ここで抗体とは、モノクローナル抗体・ポリクローナル抗体、抗血清のいずれをも指す。該タンパク質に対するモノクローナル抗体は、抗原として癌幹細胞に特異的に発現するマウス、ラット等に感作した後に抗体産生細胞を採取し、抗体産生細胞とハイブリドーマ細胞と融合し、この融合細胞の培養上清から得ることができる。抗血清は、例えば、癌幹細胞特異的に発現するタンパク質を完全フロイドアジュバンド又は不完全フロイドアジュバンド等のアジュバンドを用いて懸濁し、ウサギ、ラット等の動物に皮下投与もしくは筋肉内投与を数回行った後、採取した血液から血清を分離し、該タンパク質に対する抗血清が得られる。また、本発明の抗体の作製に用いられる癌幹細胞特異的に発現するタンパク質は、癌幹細胞から調製したものでも該タンパク質のアミノ酸配列に基づき、ペプチド合成機による化学合成したものであってもよく、その由来は問わない。このようにして得られた抗体は、癌幹細胞特異的に発現するタンパク質を認識するため、癌幹細胞の選択や、後述する本発明を用いた新規薬剤のスクリーニング法において癌幹細胞特異的に発現するタンパク質の発現の確認等に有効に利用することができる。しかしながら、本発明の抗体の用途はこれに限定されるものではない。
従って、本発明は、本発明で培養される癌幹細胞に対する測定しようとする成分(抗がん剤の単一成分や天然物等の混合物を含む成分)の癌幹細胞に対する影響を評価する方法まで拡大される。
ヒト子宮頸部上皮細胞にヒトパピローマウイルス癌遺伝子を遺伝子導入して不死化した細胞株NCE16細胞を得た(「Ohta Y.,Tsutsumi K.,Kikuchi K.and Yasumoto S.“Two distinct human uterine cervical epithelial cell lines established after transfection with human papillomavirus 16 DNA.” Jpn.J.Cancer Res.1997;88(7):p.644−651.」参照)。NCE16細胞から、幹細胞マーカーのp75NTRに対する抗体を用いた磁性細胞分離法(ミルテニーバイオテック社製)を用いて、p75NTR陽性細胞である「NCE16N+細胞」とp75NTR陰性細胞である「NCE16N−細胞」を得た。これらの細胞をEGF:5ng/mL、Insulin:5ng/mL、Transferin:10ng/mL、コルチコステロイド:0.2μM、脳下垂体抽出物:6.25μg/mLを添加したMCDP153(以下細胞培養培地という)に懸濁した細胞懸濁液を調製し、チャンバースライドに5.0×103cells/シャーレの濃度になるように播種し、37℃、5%CO2環境下で24時間培養して細胞を培養プレートに接着させた。
次いで、培養液を、TNFαとTGFβをいずれも添加していない細胞培養培地、10ng/mLTNFα(Peprotech社製)のみをさらに添加した細胞培養培地、10ng/mLTGFβ(Peprotech社製)のみをさらに添加した細胞培養培地、およびTNFαとTGFβの濃度がいずれも10ng/mLである幹細胞選択培地1.0mLと交換した。5日後にTUNEL法により細胞死を赤色蛍光で検出した。
添加TNFαとTGFβの組み合わせによる、「NCE16N+細胞」または「NCE16N−細胞」の生存の違いを図1に示した。無添加の細胞培養培地、及びTNFα又はTGFβのみを添加した細胞培養培地で培養した「NCE16N+細胞」と「NCE16N−細胞」では生存に差は見られなかったが、幹細胞選択培地で培養した「NCE16N+細胞」と「NCE16N−細胞」とでは、「NCE16N+細胞」では細胞死が観察されなかったのに対し、「NCE16N−細胞」では多くの細胞死が観察された。
「NCE16N+細胞」を細胞培養培地に懸濁した細胞懸濁液を調製し、60mm細胞培養シャーレに5.0×104cells/シャーレの濃度になるように播種し、37℃、5%CO2環境下で24時間培養して細胞を培養プレートに接着させた。
次いで、培養液を幹細胞選択培地(TNFαとTGFβの濃度はいずれも10ng/mL)0.5mLに交換した。この時点を培養0週とした。その後6週間培養を続け、培養0、2、4および6週の細胞数を測定し、またp75NTRの発現をフローサイトメトリーで解析した。
細胞数の変化を図2に、p75NTRの発現の変化を図3に示した。「NCE16N+細胞」は培養後第4週から6週にかけて10倍以上の数に増殖した。これらの増殖した「NCE16N+細胞」はp75NTRを発現していた。
「NCE16N−細胞」について、実施例2と同様にして播種・接着し、6週間培養を続け、培養0、2、4および6週の細胞数を測定した。
細胞数の変化を図2に示した。「NCE16N−細胞」は増殖せず、第2週において死滅した。
「NCE16N+細胞」を、細胞培養培地又は幹細胞選択培地で6週間培養した。6週間後の「NCE16N+細胞」におけるp75NTRのmRNA発現量をPCRで解析し、ヒト全遺伝子の発現量の比較をDNAマイクロアレイ解析(Human Genome U133 Plus 2.0 Array(株式会社バイオマトリックス研究所))で解析した。
p75NTRのmRNA発現を図4に、全ゲノムアレイ解析の結果を図5に示した。「NCE16N+細胞」を幹細胞選択培地で培養するとp75NTRのmRNA発現が認められたが、細胞培養培地で培養するとp75NTRのmRNA発現は認められなかった。
「NCE16N−細胞」を、細胞培養培地で6週間培養した。6週間後のp75NTRのmRNA発現量を実施例3と同様にPCRで解析した。
p75NTRのmRNA発現を図4に示した。「NCE16N−細胞」においてp75NTRのmRNA発現は認められなかった。
Claims (8)
- 腫瘍増殖因子βと腫瘍壊死因子αとを含有する培養液を用いる癌幹細胞の培養方法。
- 癌細胞と癌幹細胞の混在した状態から癌幹細胞のみを選択して培養することを特徴とする請求項1に記載の癌幹細胞の培養方法。
- 培養液における腫瘍増殖因子βと腫瘍壊死因子αの濃度がそれぞれ0.1〜1000ng/mLであることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の癌幹細胞の培養方法。
- 血清を含有しない培養液を用いることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の癌幹細胞の培養方法。
- 癌幹細胞がヒトパピローマウイルス16の癌ウイルス遺伝子を導入して不死化させた子宮頸部上皮細胞である請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の培養液を用いる培養方法。
- 請求項1ないし5のいずれか一項に記載の癌幹細胞の培養方法により選択される癌幹細胞。
- 請求項6記載の癌幹細胞を用いた特異的発現遺伝子のスクリーニング法。
- 請求項7記載のスクリーニング法により同定された特異的発現遺伝子。
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