JP2008167689A - キンバエ類によるレタスの交配方法 - Google Patents

キンバエ類によるレタスの交配方法 Download PDF

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Abstract

【課題】入手が容易で、かつ環境条件(日周、天候)に影響されない訪花性を有し、レタスの効率的な交配・採種に実用化できる送粉昆虫を提供すること。
【解決手段】キンバエ類を花粉媒介手段として用いることを特徴とする、レタスの交配方法。
【選択図】なし

Description

本発明は、レタスの交配方法、より詳しくは、キンバエ類を花粉媒介手段として用いることを特徴とするレタスの交配方法に関する。
従来からの植物品種は、自殖を進めて育成した固定種と雑種強勢を利用した雑種第一代品種(以下、「F1品種」という)が広く知られている。このF1品種の利点としては、雑種強勢の発現により収量性、耐病性等の農業形質が両親より優れたものになること、栽培される品種の形質が均一であること、また次世代において遺伝形質の分離が起こることにより品種育成者の利益が保護されること、などが挙げられる。これまでF1品種の育種法としては、自家不和合性を利用する方法および雄性不稔性を利用する方法などがある。アブラナ科、ナス科、ウリ科など多くの作物でF1品種が開発され、利用されている一方、レタス(Lactuca sativa L.)は世界各国で生産される重要な野菜であるにもかかわらず、F1親として優れた自家不和合性個体または雄性不稔性個体が得られていないこと、もともと自殖性植物で、花器の構造から他殖率が低く、特異な関係にある訪花昆虫が存在しないこと、などが原因でF1品種化が遅れていたが、本発明者らは、レタスF1品種の育種のための雄性不稔系統の作出に成功した(特許文献1)。
自家不和合性を示す作物は、交配・採種するためには何らかの花粉媒介手段が必要となるが、レタスのように自家和合性を示す作物では基本的に花粉媒介手段は必要とされない。しかし、レタスでも上記のように雄性不稔性を利用してF1品種化を図る場合、花粉媒介手段が不可欠となる。花粉媒介手段としては、手交配又は送粉昆虫の利用があるが、交配・採種コストを考慮すると送粉昆虫の利用が好ましい。これまで、レタスと同じくキク科タンポポ亜科作物であるチコリ、エンダイブなどでは送粉昆虫としてセイヨウミツバチが利用されているが、レタスは花冠サイズが約11mmと小さいのに対し、セイヨウミツバチは体長約13mmであるため、レタスを餌資源植物としてほとんど認識せず、セイヨウミツバチは有効ではない。また、レタスは午前中早い時間帯に開花し、数時間後には閉花する開花習性をもつため、送粉可能な時間が短いこと、また、曇天や小雨のような天候の日にも開花しやすいが、このような日には柱頭の伸長が不十分で、花粉放出量が減少することなどが知られており、これらの理由からレタスの交配・採種では、他の他家受粉性作物で送粉昆虫を利用した場合と比べて、送粉効果が劣るという問題がある。さらに、雄性不稔株に対する訪花頻度は一般に低いという問題もある。レタスについてはこれまで上記の種々の問題を解決し、効率的に交配・採種できる送粉昆虫としてケナガチビコハナバチが利用できることが報告されている(特許文献2)。しかしながら、ケナガチビコハナバチはユーラシア大陸に広く分布する小型の野生ハナバチであるが、その生息数は少なく、また、特異な訪花日周性を有することから、自然状態での捕獲が非常に困難である。従って、ケナガチビコハナバチを送粉昆虫として利用することは、その入手が容易ではないために実用的ではない。
特開2005−110623号 特開2002−247927号
従って、本発明の課題は、入手が容易で、かつ環境条件(日周、天候)に影響されない訪花性を有し、レタスの効率的な交配・採種に実用化できる送粉昆虫を提供することにある。
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、入手が容易なキンバエ類が、レタスの送粉昆虫として有効であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
即ち本発明は以下の発明を包含する。
(1) キンバエ類を花粉媒介手段として用いることを特徴とする、レタスの交配方法。
(2) キンバエ類がヒロズキンバエ(Lucilia sericata)である、(1)に記載のレタスの交配方法。
(3) レタス雄性不稔系統を母本として用いることを特徴とする、(1)または(2)に記載のレタスの交配方法。
(4)交配後の母本から雑種第一代種子(F1種子)を採取する工程をさらに含む、(1)から(3)のいずれかに記載のレタスの交配方法。
本発明によれば、これまで送粉昆虫の利用が困難とされていたレタスの交配を、入手が容易なキンバエ類を花粉媒介手段として用いることによって実施することが可能になる。本発明のレタス交配方法によれば、雄性不稔性を利用したF1種子の採種を効率的かつ経済的に行うことができ、例えば、レタス根腐病などの病害に対する抵抗性品種などの新しい雑種品種の育成を短期間で迅速に行う上で非常に有用である。
本発明によれば、キンバエ類を花粉媒介手段として用いることを特徴とする、レタスの交配方法が提供される。
本発明の方法に用いることができるキンバエ類としては、クロバエ(Calliphoridae)科に属するヒロズキンバエ(Lucilia sericata)、クロキンバエ(Phormia regina)、
オビキンバエ(Chrysomya megacephala)、ヒツジキンバエ(Lucilia cuprina)、キンバエ(Lucilia caesar)、オオクロバエ(Calliphora lata)、ケブカクロバエ(Aldrichina grahami)、ホホグロオビキンバエ(Chrysomya pinguis)、コガネキンバエ(Lucilia ampullacea)、ミドリキンバエ(Lucilia illustris)、ミヤマキンバエ(Lucilia papuensis)、スネアカキンバエ(Lucilia porphyrina)、ツマグロキンバエ(Stomorhina obsoleta)などが挙げられ、特に、ヒロズキンバエ(Lucilia sericata)が好ましい。これらは単独で用いてもよく複数種を併用してもよい。
上記のキンバエ類は、いずれもレタスに対する訪花性、送粉性に優れており、また、成虫の体長は約7mmでありレタスの花冠サイズより小さいという特性を共通して有する。従って、レタスの交配・採種に利用する時に亜種、地域個体群が違ったとしても同等の効果が得られる。
本発明の方法は、花粉親であるレタス雄性可稔系統の花粉を、母本であるレタス雄性不稔系統の雌蕊に授粉させるのに用いることができ、その好ましい実施態様としては、キンバエ類の生息環境においてレタスを栽培する方法、あるいはレタスを栽培している場所にキンバエ類を導入する方法などが挙げられる。
このとき、高い送粉効果を得るために、レタスの株数、キンバエ類の個体数を交配時期、採種方法、生育状況、栽培環境(又は周辺環境)によって任意に調整すればよい。例えば、交配時期の天候が悪い場合、レタスの生育が旺盛な場合、栽培環境にレタス以外のタンポポ亜科植物が多く生育している場合などは、レタスの株数を減らしたり、キンバエ類の個体数を増やして放飼密度を高く調節すればよい。
本発明の方法を用いて、単因子劣性の遺伝様式を示すレタス雄性不稔系統を母本とし、レタス雄性可稔系統を花粉親とする交配を行うによって、レタスF1種子を採種することができる。単因子劣性の遺伝様式を示す雄性不稔系統としては、本発明者らが確立したレタス雄性不稔系統「MS1024」(特許生物寄託センター寄託番号:FERM P-19543)を用いることができる。また、花粉親として使用する雄性可稔系統としては、現在、市販されているすべての固定種を利用でき、例えば、パトリオット(日東農産)、Vレタス(カネコ種苗)、ゴールドコスミー(ツルタ種苗)、晩抽レッドファイヤー(タキイ種苗)、テルミー(サカタのタネ)等が挙げられる。また、雄性可稔性のほかに、所望の形質(耐病性、晩抽性、多収性等)を付与してレタスを改質することができるものが好ましい。
また、レタスF1採種においては、通常の方法が適用できる。例えば、レタス雄性不稔個体と雄性可稔個体を1列ごとに交互に定植し、交配させた後、母本のみから採種する。
以下、実施例によって本発明を更に具体的に説明するが、これらの実施例は本発明を限定するものでない。
(実施例1)訪花昆虫の検討
供試昆虫として、ヒロズキンバエ、オオイエバエ、ノミバエ、ショウジョウバエ、ヒメハナカメムシ、イエバエ、タイリクヒメハナカメムシ、マルハナバチメス、マルハナバチオスを用いた。レタス(ロメイン)は、底面給水型のコンテナ(30cm×60cm)に入れた不織布ポット(直径12cm)にて栽培した。レタスは、レタス雄性不稔系統「MS1024」(特許生物寄託センター寄託番号:FERM P-19543)と同系統の可稔(F)株を用いた。栽培したレタス子株(雄性不稔(MS)株2株、雄性可稔(F)株2株の計4株)を供試昆虫別の小型網室(幅66cm×奥行き120cm×高さ210cmフレーム、寒冷紗被覆)内に入れ、供試昆虫を投入して訪花性と送粉性を調査した。ヒロズキンバエは平成17年8月29日夕方に投入し、同9月4日夕方に試験終了した。その他の昆虫は平成17年8月31日夕方に投入し、同9月4日夕方に試験終了した。採種調査は、同9月26日実施し、試験期間以前、以後に開花したものはすべて摘み取った。表1に、試験期間内の供試昆虫の訪花性と生存日数を示す(表1中、○印:昆虫投入日、数値:9:00〜9:30の訪花数、*印:全個体死亡日)。
Figure 2008167689
表1に示すように、試験期間中、レタスへの訪花はヒロズキンバエにおいて最も多く確認でき、生存日数もヒロズキンバエは長かった。これに対し、他の昆虫は訪花がまったく確認できない、訪花が確認できても数が少ない、あるいは生存日数が短かった。
また、供試昆虫ごとに、試験期間中のおける稔実花数、全開花数、各試験区MS株の一花当り結実粒数、コントロール(無昆虫)区F株の一花当り平均結実粒数を調査し、稔実率、結実率を求め、それらから採種効率を算出した。結果を表2に示す(表2中、稔実率=稔実花数/全開花数×100、結実率=各試験区MS株の一花当り結実粒数/コントロール区F株の一花当り平均結実粒数×100、採種効率=稔実率×結実率×100)。
Figure 2008167689
表2に示されるように採種効率はヒロズキンバエが高く、ヒロズキンバエは送粉能力に優れていることがわかった。

Claims (4)

  1. キンバエ類を花粉媒介手段として用いることを特徴とする、レタスの交配方法。
  2. キンバエ類がヒロズキンバエ(Lucilia sericata)である、請求項1に記載のレタスの交配方法。
  3. レタス雄性不稔系統を母本として用いることを特徴とする、請求項1または2に記載のレタスの交配方法。
  4. 交配後の母本から雑種第一代種子(F1種子)を採取する工程をさらに含む、請求項1から3のいずれかに記載のレタスの交配方法。
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