JP2008137954A - アテロコラーゲンおよび幹細胞を含んでなる、精神疾患または脳神経疾患のための医薬組成物 - Google Patents

アテロコラーゲンおよび幹細胞を含んでなる、精神疾患または脳神経疾患のための医薬組成物 Download PDF

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Abstract

【課題】細胞移植を用いた再生医療に基づく精神疾患および脳神経疾患の治療に有効な安全性の高い医薬組成物の提供。
【解決手段】アテロコラーゲンおよび幹細胞(特に、神経幹細胞または間葉系幹細胞)を含んでなる、精神疾患または脳神経疾患のための医薬組成物。再生医療においては、強い免疫拒絶反応が起きる問題点があるが、アテロコラーゲンを用いることによって、免疫反応が通常の場合よりも抑制されることから、免疫抑制剤の量を低減することができる効果がある。
【選択図】なし

Description

本発明は、精神疾患および脳神経疾患のための医薬組成物に関する。
精神疾患に対しては、様々な薬物が開発され、治療効果と安全性が徐々に改善しつつあるものの、依然として薬物に対する反応性に乏しい難治性の症例も数多く存在し、そのメカニズム解明と治療法の確立が長年の課題となっている。
近年では、神経変性疾患に加え、ある種の精神疾患においても、脳の神経回路網の形成・修復の異常が疾患に関与していることが指摘されている。特に、うつ病患者の脳においては、画像上で海馬の容積減少が認められることが明らかにされ(非特許文献1参照)、さらに、うつ病のメカニズムとして、ストレスによって神経回路網を構築する神経細胞が脱落するとともに、神経幹細胞の機能低下によって神経新生が減少するという仮説が提唱されている(非特許文献2参照)。また、抗うつ薬は、神経細胞の新生を増加させるとともに、神経回路網の再構築を促進することによりその効果を発現することも示唆されている(非特許文献3参照)。さらにまた、うつ病の他、統合失調症においても、ある種の非定型抗精神病薬と抗うつ薬との組み合わせにより得られる治療効果に、海馬における神経新生が関与していることが示唆されている(非特許文献4参照)。
しかしながら、脳梗塞等の脳血管障害やパーキンソン病等の神経変性疾患においては、神経幹細胞や間葉系幹細胞などの分化能を有する細胞を神経細胞が変性・脱落した病変組織に移植する再生医療の研究が盛んになされているにもかかわらず、精神疾患においては、アルコールやタバコ、薬物等の精神作用物質による疾患のほか、うつ病、統合失調症などといったいずれの疾患においても、薬物による対症療法的な治療が主流であるため、分化能を有する細胞を移植する再生医療の試みは現在まで全くなされてこなかった。また、神経変性疾患等に対する神経幹細胞や間葉系幹細胞等の移植についても、病変組織における移植細胞の定着率や分化率が低いことが問題となっており、実際に臨床の場において実施されるには至っていない。
一方、組織工学的手法による再生医療においてインプラント材料や再生組織用の足場材料として従来から用いられてきたアテロコラーゲンは、コラーゲン分子のN末端およびC末端に存在する主たる抗原部位であるテロペプチドと呼ばれるアミノ酸領域部位を酵素処理により除去した抗原性の低いペプチド分子であり、人体への安全性が確認されているバイオマテリアルである。最近では、アテロコラーゲンを細胞増殖の足場として自家培養軟骨細胞を培養することにより生体外で軟骨組織の作製を行い、得られた軟骨組織を移植して関節軟骨疾患の治療に用いる試みのほか(非特許文献5参照)、椎間板変性疾患の再生医療においてもアテロコラーゲンを使用する試みがなされ、間葉系幹細胞の移植において、アテロコラーゲンにより包埋した間葉系幹細胞を椎間板変性疾患のモデル動物に移植したところ、間葉系幹細胞の増殖、マトリックス形成および分化が実現したことが報告されている(非特許文献6参照)。さらにまた、腫瘍疾患動物モデルにおいて、siRNAとアテロコラーゲンの複合体の投与が、siRNA単独の投与よりも、局所および全身性デリバリーの両方において、より高い腫瘍増殖抑制効果ならびに腫瘍患部へのより効率的なsiRNAのデリバリーが観察されることが示され(非特許文献7〜10参照)、遺伝子治療における担体としてアテロコラーゲンが注目を集めている。しかしながら、間葉系幹細胞や神経幹細胞等の幹細胞の移植においてアテロコラーゲンを使用することについては、未だ検討がなされていないのが現状である。
Sapolsky R. M., Science, 1996, 273:749-50 Jacobs B. L., Praag, H. and Gage F. H., Molecular Psychiatry, 2000, 5:262-9 Malberg J. E., Eisch A. J., Nestler E. J. and Duman R. S., Journal of Neuroscience, 2000, 20:9104-9110 Xu H., Chen Z., He J., Haimanot S., Li X., Dyck L. and Li X, Hippocampus, 2006, 16:551-9 Agung M., Ochi M., Adachi N., Uchino Y., Takao M. and Kawasaki K., Arthroscopy, 2004, 20:1075-80 Sakai D., Mochida J., Yamamoto Y., Nomura T., Okuma M., Nishimura K., Nakai T., Ando K. and Hotta T., Biomaterials, 2003, 24:3531-41 Minakuchi Y., Takeshita F., Kosaka N., Sasaki H., Yamamoto Y., Kouno M, Honma K., Nagahara S., Hanai K., Sano A., Kato T., Terada M. and Ochiya T., Nucleic Acids Research, 2004, 32:e109 Takei Y., Kadomatsu K., Yuzawa Y., Matsuo S. and Muramatsu T., Cancer Res., 2004, 64:3365-3370 Hanai K., Kurokawa T., Minakuchi Y., Maeda M., Nagahara S., Miyata T., Ochiya T. and Sano A., Human Gene Therapy, 2004, 15:263-272 Takeshita F., Minakuchi Y., Nagahara S., Honma K., Sasaki H., Hirai K., Teratani T., Namatame N., Yamamoto Y., Hanai K., Kato T., Sano A. and Ochiya T., Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 2005, 102:12177-12182
したがって、本発明の課題は、細胞移植を用いた再生医療に基づく精神疾患および脳神経疾患の治療に有効な安全性の高い医薬組成物を提供することにある。
そこで本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意検討を行う中で、神経幹細胞等の幹細胞をアテロコラーゲンと共に精神疾患・脳神経疾患モデル動物に投与することにより、脳組織へ良好に幹細胞を移行させることができることを見出し、本発明を完成させた。
したがって、本発明は、アテロコラーゲンおよび幹細胞を含んでなる、精神疾患または脳神経疾患のための医薬組成物に関する。
また、本発明は、静脈内投与により治療効果が得られる、前記医薬組成物に関する。
さらに本発明は、幹細胞が、神経幹細胞または間葉系幹細胞である、前記の医薬組成物に関する。
本発明はまた、精神疾患または脳神経疾患が、神経幹細胞の機能異常により惹起される疾患である、前記の医薬組成物に関する。
また、本発明は、精神疾患または脳神経疾患が、アルコール障害、胎児性アルコール症候群、アルツハイマー病、感情障害または統合失調症である、前記の医薬組成物に関する。
本発明による医薬組成物は、精神疾患および脳神経疾患の治療に極めて優れた効果を奏するものであり、かかる効果は、投与した幹細胞(特に、神経幹細胞、間葉系幹細胞)が、疾患の原因となっている脳の病変部位に移行して定着し、神経幹細胞の生存・増殖が障害されている神経組織を再生して神経回路網の再構築を促進し、神経新生を惹起することによって達成されるものと考えられる。
したがって、従来の治療薬が、病変部位での神経組織の障害・機能低下から発生する神経伝達物質の欠乏に対して、その欠乏した神経伝達物質を補充することによって対症療法的に症状を抑制することができるにすぎないのに比べ、本発明の医薬組成物は、精神疾患または脳神経疾患の進行を遅延させるだけでなく、本来の機能が障害されている神経組織を再建し、その機能の回復を達成し得るという、従来の対症療法では実現不可能であった優れた治療効果を奏するものである。
また、一般に、再生医療においては、同種移植であっても強い免疫拒絶反応が現れることが問題となっているが、本発明の医薬組成物を使用した移植においては、アテロコラーゲンの使用により免疫反応が通常の場合よりも抑制されることから、使用する免疫抑制剤の量を低減することができる。
そしてまた、本発明によれば、幹細胞(特に、神経幹細胞、間葉系幹細胞)を一定数以上の適切な細胞数で投与することにより、病変部位の回復に充分に足りるだけの数の細胞が病変部位に定着して増殖し、神経組織を新生させ、良好な治療効果を得ることができる。
さらに、驚くべきことに、幹細胞とアテロコラーゲンとを含む本発明の医薬組成物は、静脈内投与によって、移植に用いた幹細胞を病変部位である海馬、皮質等の脳組織へ効率よく移行させることができるため、個体の脳への直接投与といった煩雑で危険を伴う外科手術を行う必要がない、簡便性と安全性に極めて優れた画期的なものである。
また、本発明の医薬組成物の投与により、これまで薬物の反応性に乏しい症例や根治療法が存在しないと考えられてきた精神疾患または脳神経疾患(特に、アルコール障害、胎児性アルコール症候群、アルツハイマー病、感情障害、統合失調症)に対しても治療が可能となるので、医学および獣医学領域において多大な貢献が期待できる。しかも、本発明の医薬組成物に用いる幹細胞(特に、神経幹細胞、間葉系幹細胞)は、各患者自身の自家細胞から調製することもできるので、投与の際も拒絶反応等の好ましくない生体反応の惹起を回避することができる。
本明細書中に別記のない限り、本発明に関して用いられる科学的および技術的用語は、当業者に通常理解されている意味を有するものとする。一般的に、本明細書中に記載された細胞および組織培養、分子生物学、免疫学、微生物学、遺伝子およびタンパク質および核酸化学に関して用いられる用語、およびその技術は、当該技術分野においてよく知られ、通常用いられているものとする。一般的に、別記のない限り、本発明の方法および技術は、当該技術分野においてよく知られた慣用の方法に従って、本明細書中で引用され、議論されている種々の一般的な、およびより専門的な参考文献に記載されたとおりに行われる。かかる文献としては、例えば、Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 2nd ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989)およびSambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 3rd ed., Cold Spring Harbor Press(2001); Ausubel et al., Current Protocols in Molecular Biology, Greene Publishing Associates(1992,および2000の補遺); Ausubel et al., Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology – 4th Ed., Wiley & Sons(1999);Harlow and Lane, Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press(1990);およびHarlow and Lane, Using Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press(1999)などが挙げられる。
本明細書中に記載された医薬品化学および薬化学に関して用いられる用語、ならびにその実験手順および技術は、当該技術分野においてよく知られ、通常用いられているものである。標準的な技術を、化学合成、化学分析、薬剤の製造、製剤および送達、ならびに対象の処置に用いるものとする。
なお、本発明における用語「対象」は、任意の脊椎動物を意味し、より好ましくは哺乳動物、さらに好ましくはヒトの個体である。本発明において、対象は健常であっても、何らかの疾患に罹患していてもよいものとするが、精神疾患または脳神経疾患の処置が企図される場合には、該疾患に罹患している対象または実験的に罹患させた対象、例えばマウス、ラット、スナネズミ、モルモットなどの齧歯類、ネコなどのネコ科動物、ミンク、ヒツジ、ヤギ、ウシ、イヌ、ウサギ、サル、ヒトなどであることが好ましい。
本発明においては、アテロコラーゲンおよび幹細胞を含んでなる、精神疾患または脳神経疾患のための医薬組成物が提供される。
本発明において、精神疾患とは、脳の機能的・器質的障害によって引き起こされる、意識障害、知的機能障害、記憶障害、感情障害、思考障害、感情障害などの症状を呈する疾患をいい、器質性精神障害(頭部外傷後後遺症等)、精神作用物質使用による精神および行動の障害(アルコール障害、アルコール性胎児症候群、薬物依存症等)、感情障害(うつ病、躁病、躁鬱病等)、不安障害(適応障害、強迫性障害、心的外傷後ストレス障害等)、生理的障害および身体的要因に関連した行動症候群(摂食障害、睡眠障害等)、成人の人格および行動の障害(人格障害等)、精神遅滞、心理的発達の障害(自閉症等)、小児期および青年期に通常発症する行動および情緒の障害(多動性障害、チック障害等)を含む。
また、本発明において、脳神経疾患とは、脳神経における機能的・器質的障害によって引き起こされる疾患をいい、パーキンソン病やアルツハイマー病等のいわゆる神経変性疾患の他、脳梗塞、脳血管障害、脳腫瘍、くも膜下出血、てんかん、クロイツフェルト・ヤコブ病等も含まれる。
本発明の医薬組成物は、いずれの精神疾患および脳神経疾患に対しても使用することができ、該疾患の原因となっている脳内の病変部位において神経組織を新生させることが可能であるが、とりわけ、アルコール障害、胎児性アルコール症候群、統合失調症、アルツハイマー病、感情障害等といった脳における神経幹細胞の機能異常により惹起される精神疾患および脳神経疾患に対して優れた効果を発揮することができ、特に、アルコール障害、胎児性アルコール症候群、統合失調症、アルツハイマー病、感情障害に対して極めて優れた治療効果を発揮することができる。ここで、アルコール障害とは、アルコールの摂取に起因する精神および行動の障害をいい、いわゆるアルコール依存症を含む。また、胎児性アルコール症候群とは、妊娠中の母体がアルコールを摂取することによって引き起こされる胎児の中枢神経系異常等の種々の先天異常をいい、発育障害、行動障害、知能障害などの症状を呈するものが含まれる。さらにまた、統合失調症とは、主として思春期、青年期に発症し、自我障害、思考障害を根幹に持ち、幻覚・妄想などの陽性症状を繰り返すことにより、しだいに重篤化していく慢性的神経疾患をいい、感情障害とは、うつ病性障害、双極性障害を代表とする精神疾患をいう。また、アルツハイマー病とは、徐々に進行する認知障害(記憶障害、見当識障害、学習障害、注意障害、空間認知機能など)および人格の変化、また、社会的に適応できなくなる等の症状を呈する痴呆性疾患をいう。
本発明において、アテロコラーゲンとは、コラーゲン分子の両端(N末端およびC末端)に存在するテロペプチドと呼ばれる主要抗原部位をペプシン処理により除去した、3本のポリペプチド鎖がらせん状構造を形成するタンパク質分子をいう。本発明の医薬組成物に用いられるアテロコラーゲンは、医薬組成物の投与が企図される対象と同種の動物由来であってもよく、また、異種の動物由来であってもよい。アテロコラーゲンは、テロペプチドが除去されているために抗原性が極めて低いことから、異種動物由来のものであっても、好ましくない免疫反応を惹起する等の問題が生じることなく安全に使用することができる。アテロコラーゲンの原料となるコラーゲンの種類は、I型〜VIII型のいずれであってもよいが、ほとんど全ての結合組織に存在し、培養細胞上清や組織などを用いての検討がこれまで十分になされているという観点からI型であることが好ましい。
また、本発明の医薬組成物中に含まれるアテロコラーゲンの濃度は、特に限定されないが、神経幹細胞の病変部位への移行効率を向上させる濃度であることが望ましい。
例えば、かかる濃度としては、医薬組成物全体の重量を基準として、好ましくは0.001〜0.5重量%未満、さらに好ましくは0.005〜0.1重量%、特に好ましくは0.01〜0.05重量%である。これは、0.5重量%を超えると医薬組成物中に含まれる神経幹細胞に好ましくない影響を及ぼす場合があり、また、0.001重量%を下回ると充分なアテロコラーゲンによる移植細胞の移行・定着を促進する作用が充分に得られない場合があるためである。しかしながら、本発明の医薬組成物に含まれるアテロコラーゲンの濃度は、医薬組成物の投与形態、剤型、また投与対象の種等によって適宜変更することができ、これらの数値範囲に限定されない。
本発明において、幹細胞とは、一般に、生体を構成する細胞の生理的な増殖・分化などの過程において、自己増殖能と、特定の機能を持つ細胞に分化する能力とをあわせ有する未分化細胞のことを意味し、胚性幹細胞、神経幹細胞、間葉系幹細胞、造血幹細胞等が含まれる。本発明の医薬組成物において用いられる幹細胞としては、脳組織における定着性や分化効率といった観点から、特に、神経幹細胞、間葉系幹細胞が好ましい。
本発明において、神経幹細胞とは、神経細胞およびグリア細胞(アストロサイト、オリゴデンドロサイト、ミクログリア、シュワン細胞等)への多分化能を有し、かつ、自己複製能を有する細胞をいう。神経幹細胞は、その娘細胞の一方が神経前駆細胞となり、様々な分化制御を受けて神経細胞やグリア細胞となる。
本発明の医薬組成物に用いられる神経幹細胞は、例えば、脊椎動物の胎児(胎仔)または成体の脳、脊髄、末梢神経組織等に含まれる神経上皮組織の初代培養物から得ることができ、また、胚性幹細胞や、骨髄、末梢血、脂肪組織等から得られる間葉系幹細胞等の幹細胞から公知の方法により分化誘導することによって得ることができる。
本発明において用いられる神経幹細胞は、例えば、Kucia M. et al., Leukemia, 2006, 20:18-28に記載のニューロスフィア法にしたがって得ることができる。以下に方法を簡潔に述べる。まず、単離した骨髄細胞をEGFおよびFGF−2(bFGF(塩基性線維芽細胞増殖因子)(basic fibroblast growth factor))またはEGF(上皮増殖因子(epidermal growth factor))を含む培地中で培養する。7〜10日後、スフェロイド(spheroid、浮遊細胞塊)が見える程度になったら、初代培養スフィア(sphere)を単一細胞に分散させ、その自己複製能を調べる。初代培養スフィアをトリプシン−EDTA中でインキュベートし、パスツールピペットで機械的に分散させる。トリプシンによる反応は、等量の10%FBSを添加することにより停止させ、細胞をすぐに遠心して、ペレットになった細胞をEGFおよびFGF−2を含むスフィア培養培地に再度懸濁してコーティングされていない96ウェルプレートに播種する。さらに6〜7日間培養の後、新しく形成されたニューロスフィアを同定することにより、継代能(passage ability)を評価する。
本発明の別の態様においては、神経幹細胞は、間葉系幹細胞を基礎的培養液中で、33℃〜38℃、好ましくは37℃の条件で培養することにより調製することができる。かかる基礎的培養液としては、細胞培養に使用される通常の培養液であれば特に制限はないが、好ましくは、DMEM(ダルベッコ改変イーグル培地(Dulbecco's Modified Eagle's Medium))またはNPBM(神経前駆細胞基本培地(Neural progenitor basal medium))(Cambrex)である。上記基礎的培養液のその他の成分としては、特に制限はないが、好ましくは、F−12、FBS、神経細胞生存因子(neural cell survival factor)(Cambrex)等が挙げられる。これらの培養液中の濃度としては、例えば、F−12は50%、FBSは10%である。また、培養液におけるCO濃度は好ましくは5%であるが、特に制限されない。その他の条件としては、細胞は、浮遊した状態(例えばニューロスフィア状態)で培養されてもよく、培養容器に付着した状態で培養されてもよい。培養容器としては、コーティングしていないディッシュ(non-coated dish)を用いてもよく、また、コーティングしたディッシュを用いてもよい。
また、本発明の好ましい態様においては、上記基礎的培養液に、bFGF(塩基性線維芽細胞増殖因子)またはEGF(上皮増殖因子)を添加する。この場合、これらは単独で添加しても、両方添加してもよい。上記bFGFまたはEGFの濃度としては、1ng/ml〜100ng/mlが挙げられるが、好ましくは、10ng/mlである。添加時期や添加方法としては、特に制限はないが、好ましくは、上記間葉系幹細胞を該基礎的培養液で培養しながら、連日添加する方法が挙げられる。また、間葉系幹細胞を神経幹細胞へ分化誘導を行う際には、上記基礎的培養液にbFGFおよびEGFを添加することが好ましい。
ここで、間葉系幹細胞とは、間葉系細胞、例えば、皮下組織、肺、肝、骨、軟骨、脂肪、腱、骨格筋、骨随間質といった間葉系組織を構成する細胞に分化することができる幹細胞をいう。また、本発明に用いられる間葉系幹細胞は、骨髄細胞(特に、骨髄細胞の単核球分画成分)、臍帯血細胞、末梢血細胞、胎仔肝細胞、子宮内膜細胞、軟骨細胞、皮膚細胞、脂肪細胞、血管内皮細胞、羊膜、骨格筋細胞等から公知文献(例えば、WO2005/007176公報)に記載の方法により得ることができる。
本発明において用いられる神経幹細胞や間葉系幹細胞等の幹細胞は、一般的には、脊椎動物に由来する。好ましくは哺乳動物(例えば、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、ミンク、ネコ、ヒツジ、ヤギ、ウシ、シカ、ブタ、イヌ、サル、ヒトなど)由来であるが、特に制限されない。
上記のようにして得られた神経幹細胞や間葉系幹細胞は、対象が罹患している精神疾患または脳神経疾患における脳の病変部位への直接移植後、あるいは静脈内投与後に、効率よく病変部位において定着し、神経組織に対する保護作用を発揮し、また、神経幹細胞を供給するとともに神経細胞に分化する。また、本発明の医薬組成物に含まれる細胞は、上記の幹細胞の他、神経前駆細胞等がさらに含まれていてもよい。
本発明の医薬組成物に用いられる幹細胞は、そのまま投与に用いることも可能であるが、治療効率を向上させるために、種々の改変が加えられていてもよい。したがって、本発明の別の態様においては、かかる改変を受けた幹細胞を含む、精神疾患または脳神経疾患のための医薬組成物が提供されてもよい。
上記改変の例としては、上記幹細胞の増殖能、生存率、分化能を向上させるような遺伝子の導入が挙げられる。
また、本発明の医薬組成物の調製においては、例えば、(1)上記の幹細胞の増殖率もしくは生存率を向上させる、または神経系細胞への分化を促進する物質の添加、あるいはこのような効果を有する遺伝子の導入、(2)投与される細胞の寿命を延長させる物質の添加、あるいはこのような効果を有する遺伝子(テロメラーゼ遺伝子や癌遺伝子等の不死化遺伝子を含む)の導入、(3)免疫反応の抑制を目的とした物質の添加、あるいはこのような効果を発現する遺伝子の導入、(4)幹細胞を、疾患の病変部位に特異的に送達するための物質の添加、あるいはこのような効果を有する遺伝子の導入、(5)神経保護作用を有する物質の添加、あるいはこのような効果を発現する遺伝子の導入、(6)病変部位におけるアポトーシス抑制効果を有する物質の添加、あるいはこのような効果を発現する遺伝子の導入、等の精神疾患または脳神経疾患の治療効果を高める作用を有する物質の添加や遺伝子の導入を行ってもよい。その他、本発明の医薬組成物には、色素、酵素、蛍光物質、放射性同位体などの標識物質といった精神疾患および脳神経疾患の研究、診断などにも有用なものが添加されてもよい。
本発明の医薬組成物の調製には、前記のようにして調製した幹細胞(改変されたものを含む)をそのまま用いることもできるが、作製した細胞を、必要に応じて増殖させた後、これを凍結保存し、用事に解凍して医薬組成物の調製に用いることもできる。
なお、本発明の医薬組成物に含まれる幹細胞の数は、良好な治療効果が得られる限りにおいて特に限定されないが、少なくとも1×10個以上であることが好ましい。
本発明の医薬組成物は、当業者に公知の方法で製剤化することが可能である。例えば、必要に応じて水もしくはそれ以外の薬学的に許容し得る液との無菌性溶液、または懸濁液剤の注射剤の形で非経口的に使用できる。そしてまた、例えば、生理学的に許容される担体もしくは媒体、具体的には、滅菌水や生理食塩水、植物油、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定剤、賦形剤、ビヒクル、防腐剤、結合剤などと適宜組み合わせて、一般的な単位用量形態で混和することにより製剤化することが可能である。
また、注射のための無菌組成物は、注射用蒸留水のようなビヒクルを用いて通常の製剤方法に従って処方することができる。
注射用の水溶液としては、例えば、生理食塩水や、生理学的に許容される物質(例えば、ブドウ糖、D−ソルビトール、D−マンノース、D−マンニトール、塩化ナトリウムなど)を含む等張液等を使用することができ、適当な溶解補助剤として、エタノール、プロピレングリコールもしくはポリエチレングリコール等のアルコール、ポリソルベート80もしくはHCO−50等の非イオン性界面活性剤などを適宜併用してもよい。
注射用の油性液として処方する場合には、ゴマ油、大豆油などを使用することができ、溶解補助剤として安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールなどを適宜併用してもよい。また、リン酸塩緩衝液などの緩衝剤、塩酸プロカインなどの麻酔剤などの他、安定剤、酸化防止剤等をさらに配合してもよい。調製された注射液は通常、適当なアンプルなどの容器に充填される。
本発明の医薬組成物の対象への投与は、いずれの経路により行ってもよいが、好ましくは、静脈内投与、動脈内投与、選択的動脈内投与、筋肉内投与、腹腔内投与、皮下投与、脳内投与、髄液腔内投与などの非経口投与であり、より好ましくは、静脈内投与または病変部位への脳内局所投与であり、最も好ましくは、静脈内投与である。
投与回数は1回が好ましいが、状況に応じて複数回投与することもできる。また、投与時間は短時間でも長時間持続投与でもよい。静脈内投与の場合は、通常の輸血の要領での投与が可能となり、対象に対して外科手術をする必要がなく、さらに局所麻酔も必要ないため、対象および治療者双方の負担を軽減することができる。また手術室以外での投与操作が可能である点でも有利である。
本発明は、また、対象へ治療上有効量の本発明の医薬組成物を投与(好ましくは、静脈内投与)することを含む、精神疾患または脳神経疾患のための治療方法をも提供する。
前記治療方法に用いられる医薬組成物に含まれる幹細胞は、投与による拒絶反応を防止するために、免疫抑制処置などの特殊な操作を行わない限りは、対象自身の体内から採取されたもの(自家細胞)、あるいはそれに由来するもの(対象由来の自家細胞)であることが好ましい(自家移植療法)。かかる自家移植療法は、免疫抑制剤の併用が回避できる点で好ましいが、自家細胞の使用が困難な場合には、免疫抑制処置を行うことにより、他の対象または他の医療用動物由来の細胞(他家細胞)を利用することも可能である。治療効果としては、自家細胞を用いる方が他家細胞を用いるよりも圧倒的に良好な結果が期待できる。
本発明の治療方法に用いられる細胞は冷凍保存したものであってもよい。
また、前記自家細胞は、対象の体内から幹細胞の状態で採取されたもの、対象の体内から未分化の状態で採取された幹細胞(例えば、間葉系幹細胞など)を神経幹細胞等に分化誘導させたもの、あるいは、対象の体内から採取された神経幹細胞または未分化の状態の幹細胞(例えば、間葉系幹細胞など)に遺伝子操作を加えたもの等のいずれであってもよい。
本発明の治療方法において、本発明の医薬組成物の対象への投与は、例えば、上述の方法に従って、好適に実施することができる。また、医師もしくは獣医師においては、上記方法を適宜改変して、本発明の医薬組成物を対象へ投与することが可能である。
また、本発明の上記治療方法の対象は、ヒトのみに限定されず、ヒト以外の哺乳動物(例えば、マウス、ラット、スナネズミ、モルモットなどの齧歯類、ネコなどのネコ科動物、シカ、オオシカなどのシカ科動物、ミンク、ウサギ、イヌ、ヒツジ、ヤギ、ウシ、サルなど)においても神経幹細胞を用いて、同様に本発明の方法を実施することが可能である。
本発明を、以下の実施例を用いてより具体的に説明するが、本発明の範囲は、これらの実施例に限定されるものではない。
実施例1.神経幹細胞の機能発現におけるアテロコラーゲンの影響
神経幹細胞は、Tateno M., Ukai W., Hashioto E., Ikeda H. and Saito T., Journal of Neural Transmission 2006, 113: 283-93に記載の通り、胎生13.5日のラット胎児から採取し、単層培養した。まず、終脳神経上皮を摘出し、氷冷HBSS(Hank’s balanced salt solution)(Invitrogen)中で余分な組織を取り除いた。次いで、細胞を機械的に分散させ、4℃で5分間、遠心(300g)することにより回収した。単離した細胞は、培地として2%B27(Invitrogen)、0.5mM L−グルタミンおよび20ng/ml FGF−2(組み換えヒト塩基性FGF)(Pepro Tech)を補充したNBM(neurobasal medium)(Invitrogen)を用い、ポリ−L−オルニチン/フィブロネクチンによりコートされた培養ディッシュに、1×10細胞/cmの密度で播種し、5%CO、37℃で5〜7日間培養した。
増殖させた神経幹細胞を回収し、各濃度のアテロコラーゲンを含むNBM(FGF−2を含まない)に懸濁して播種し、神経細胞への分化を誘導した。培養から72〜96時間後、神経幹細胞の各機能変化について、以下の(a)〜(c)に記載の通り解析を実施した。
(a)増殖に対する影響(ELISA)
神経幹細胞の増殖に対するアテロコラーゲンの影響は、チミジンのアナログである5−ブロモ−2’−デオキシウリジン(BrdU)の細胞内への取り込みをELISA(enzyme-linked immunosorbent assay)(Cell proliferation ELISA system (Amersham pharmacia biotech, Buckinghamshire England))で測定することにより解析した。
神経幹細胞を、各濃度のアテロコラーゲンの存在下もしくは非存在下で、一晩、BrdUによりラベルした。ラベルに使用した培地を除去し、固定溶液を加えて30分間室温でインキュベートした。次いで、固定溶液を除去し、ブロッキング溶液を加えて30分間、室温でインキュベートした。その後、ブロッキング溶液を除去し、ペルオキシダーゼ結合抗BrdU抗体を添加し、室温で2時間インキュベートした。洗浄バッファーで3回プレートを洗浄し、TMB(3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン)基質を5〜30分間加えて、プレートリーダーで450nmにおける吸光度を測定した。
(b)生存に対する影響(MTTアッセイ)
神経幹細胞の生存に対するアテロコラーゲンの影響は、3−(4,5−ジメチルチアゾール−2−イル)−2,5−ジフェニルテトラゾリウムブロマイド(MTT)を分解するミトコンドリアデヒドロゲナーゼ活性を用いた比色定量分析により測定した。
細胞をMTT溶液(0.5mg/ml)中でインキュベートし、生存細胞中のミトコンドリア酵素により青色ホルマザンを生成させた。生成したホルマザンをSDS(ドデシル硫酸ナトリウム)/DMF(ジメチルホルムアミド)溶液により溶解させた。各ウェルの570nmにおける吸光度をマルチプレートリーダーにより測定した。
(c)分化に対する影響(ELISA)
神経幹細胞の分化に対するアテロコラーゲンの影響は、神経細胞のマーカーであるMAP2(microtuble-associated protein 2)の発現をELISAで測定することにより解析した。
細胞を100%メタノール溶液により固定し、PBSにより洗浄した後、3%過酸化水素水溶液により3分間処置した。細胞を再度PBSにより洗浄し、5%ウシ血清を含むPBSで30分間処置した後、抗MAP2マウスモノクローナル抗体(2000倍希釈)と共に30分間インキュベートした。次いで、細胞をPBSで洗浄し、抗マウスIgGビオチン化抗体とインキュベートして、PBSで洗浄した後、アビジン−ビオチン−セイヨウワサビペルオキシダーゼ複合体(avidin-biotin-horseradish peroxidase complex (Vector Laboratories))と30分間インキュベートした。最後に、PBSで洗浄した細胞を、過酸化水素を0.01%含有する0.05%ジアミノベンチジンテトラヒドロクロライド溶液で3〜5分間処置した後、PBSで洗浄することにより反応を停止させた。定量的解析は、0.2mg/ml o−フェニレンジアミンジヒドロクロライドを含有する、セイヨウワサビペルオキシダーゼの基質として0.1%過酸化水素を含む緩衝液(0.2Mリン酸水素二ナトリウムおよび0.1Mクエン酸)を用いて行った。このELISAにおいては、アビジン−ビオチン−セイヨウワサビペルオキシダーゼ複合体とインキュベートした細胞は、1N硫酸溶液の添加により反応を終了させるまで、o−フェニレンジアミンジヒドロクロライドと3分間反応させた。
各ウェルの490nmにおける吸光度を測定した。(全ての手順は室温で行った。)
結果を図1A〜Cに示す。結果は、いずれもアテロコラーゲンを処置していない細胞を100%として算出した。
これらの図から理解される通り、アテロコラーゲンの濃度は、0.01〜0.05重量%の範囲では、神経幹細胞の増殖および生存には影響を及ぼさないこと、また、神経幹細胞の分化に対しては、0.025重量%以下の濃度では影響を及ぼさないが、0.025重量%を超える濃度では、濃度依存的に抑制作用を示すことが示唆された。したがって、以下の実験においては、神経幹細胞投与の際に配合するアテロコラーゲンの濃度として0.025重量%を採用した。
実施例2.精神疾患・脳神経疾患モデルラット(アルコール暴露モデルラット)への神経幹細胞の移植
本実施例においては、精神疾患・脳神経疾患モデル動物の一例として、神経新生の顕著な障害が示唆されているアルコール暴露ラット(Nixon, K. and Crews F. T., Journal of Neurochemistry, 2002, 83: 1087-93)を作製して使用した。このアルコール暴露ラットは、特に、海馬において神経新生が障害されている、感情障害、統合失調症、アルコール障害、アルツハイマー病等のモデル動物と考えられる。
(1)精神疾患・脳神経疾患モデルラット(アルコール暴露モデルラット)の作製
3月齢のWistar系雄性ラット(1グループにつき3匹ずつ)を日本クレア株式会社より購入し、12時間ずつの昼夜サイクルで22℃にて飼育し、食餌および水は自由に摂取させた。慢性的アルコール過剰摂取処置は、Nixon, K. and Crews F. T., Journal of Neurochemistry, 2002, 83: 1087-93に記載の通り、胃内カテーテルを介してエタノール(EtOH)(8g/kg/日)を12時間ごとに4日間投与することにより行った。コントロール群には同じ容量の生理食塩水を12時間ごとに4日間投与した。
(2)神経幹細胞の調製と[35S]−メチオニンラベル
神経幹細胞は、実施例1と同様にして、胎生13.5日のラット胎児から採取し、単層培養した。具体的には終脳神経上皮を摘出し、氷冷HBSS(Hank’s balanced salt solution)(Invitrogen)中で余分な組織を取り除いた。細胞は、機械的に分散させ、4℃で5分間、遠心(300g)することにより回収した。単離した細胞は、培地として2%B27(Invitrogen)、0.5mML−グルタミンおよび20ng/mlFGF−2(組み換えヒト塩基性FGF)(Pepro Tech)を補充したNBM(neurobasal medium)(Invitrogen)を用い、ポリ−L−オルニチン/フィブロネクチンによりコートされた培養ディッシュに、3×10細胞/100mlディッシュの密度で播種し、5%CO、37℃で7日間培養した。7日後、 L−[35S]−メチオニン(Amersham Biosciences)8.25μMを添加した培地中で細胞を24時間ラベルし、洗浄して遠心し、細胞を回収した。細胞の生存率をトリパンブルー染色法により測定し、生存している細胞の濃度を10細胞/mlに調整した。細胞懸濁液を、等容量のアテロコラーゲン溶液(アテロコラーゲン濃度0.05%の生理食塩水溶液)または生理食塩水と混合し、細胞懸濁液における細胞の最終濃度を5×10細胞/mlに、またアテロコラーゲンの最終濃度を0.025%に調整した。アテロコラーゲンとしては、コラーゲン使用軟組織注入剤70440000、3%アテロコラーゲン(仔牛真皮由来)リン酸緩衝溶液(高度管理医療機器社、製品番号# 1333)を使用した。
(3)精神疾患・脳神経疾患モデルラットへの神経幹細胞の移植
上記(1)で作製したアルコール暴露モデルラットについて、エタノールの最終投与から24時間後(コントロール群では、生理食塩水の最終投与から24時間後)に、上記(2)で作製した神経幹細胞の懸濁液を尾静注により1分間にわたりゆっくりと投与した。実験群は以下の通りに分類した。
グループ1:4日間、生理食塩水を胃内投与後、アテロコラーゲンと共に2.5×10個の細胞を移植。
グループ2:4日間、エタノールを胃内投与後、アテロコラーゲンなしで2.5×10個の細胞を移植。
グループ3:4日間、エタノールを胃内投与後、アテロコラーゲンと共に2.5×10個の細胞を移植。
グループ4:4日間、エタノールを胃内投与後、アテロコラーゲンと共に5×10個の細胞を移植。
全てのラットには、移植の1日前から毎日、シクロスポリン(10mg/kg)を腹腔内投与した。
移植から2週間後、ラットの脳を摘出して、皮質、海馬、線条体および脳室下帯(SVZ)に分画し、各組織の放射活性を液体シンチレーションカウンターにより解析した。
結果を図2〜4に示す。
図2に示すように、コントロール群よりも、アルコール暴露群のほうが、皮質、海馬、線条体およびSVZのいずれの組織においても放射活性が高いことから、投与した神経幹細胞は、コントロール群よりもアルコール暴露群においてより多く各組織に移行し定着することが示された。
また、図3の結果から、アテロコラーゲンを神経幹細胞と共に投与した場合には、(アテロコラーゲンを配合せずに)神経幹細胞のみを投与した場合と比較して、投与した神経幹細胞は、約2倍も多く各組織に移行して定着することが示された。
さらに、図4の結果から、アテロコラーゲンを神経幹細胞と共に投与する際に、投与する神経幹細胞の数を増やした場合には、その細胞数の増加に応じて各組織に移行し定着する細胞の数が増加することが示唆された。
実施例3.精神疾患・脳神経疾患モデルラット(胎児性アルコール症候群のモデルラット)への神経幹細胞の移植による行動の評価
本実施例においては、精神疾患・脳神経疾患モデル動物の一例として、妊娠期の雌性ラットにアルコールを投与することにより、胎児性アルコール症候群のモデルラットを作製して使用した。
(1)精神疾患・脳神経疾患モデルラット(胎児性アルコール症候群のモデルラット)の作製
妊娠した雌性ラットを日本クレア株式会社より購入し、妊娠10〜14日目に胃内カテーテルを介してエタノール(EtOH)(8g/kg/日)を毎日投与した。コントロールラット群には同じ容量の生理食塩水を投与した。
(2)胎児性アルコール症候群モデルラットへの神経幹細胞の移植
上記(1)においてアルコールを処置した雌性ラットから胎児性アルコール症候群のモデルラットが生まれて1ヶ月経過した後、上記実施例2(2)と同様にして作製した神経幹細胞の懸濁液(細胞の最終濃度:5×10細胞/ml、アテロコラーゲンの最終濃度:0.025%)を各ラットに尾静注により1分間にわたりゆっくりと投与した。実験群は以下の通りに分類した。
グループ1:正常ラット(コントロールラット)
グループ2:胎児性アルコール症候群モデルラット
グループ3:胎児性アルコール症候群モデルラットにアテロコラーゲンと共に5×10個の細胞を移植。
グループ4:正常ラット(コントロールラット)にアテロコラーゲンと共に5×10個の細胞を移植。
全てのラットには、移植の1日前から毎日、シクロスポリン(10mg/kg)を腹腔内投与した。
(3)胎児性アルコール症候群モデルラットの行動の評価
移植から1ヶ月後、各ラットに対し、高架式十字迷路試験をAlessandro Leraci et al., Plos Medicine, 2006, 3: 1547-557に記載の通りに行った。試験装置は、2本のオープンアーム(open arm)、(黒色の高い壁を備えた)2本のクローズドアーム(closed arm)、およびこれらをつなぐ中央プラットホームからなる。各ラットを、オープンアームに面した中央部に配置し、5分間、迷路に滞在させた。試験は暗光下で行った。各ラットについて、全てのアームにエントリーした合計回数(total entries)、オープンアームにエントリーした合計回数の割合(open arm entries)、オープンアームに滞在した合計時間の割合(% time in open arms)について自動的に記録した。
結果を表1に示す。
Figure 2008137954
この実験は、ラットの開放空間を嫌う習性と探索行動との葛藤に依存するものである。オープンアームへのエントリーは、不安もしくは恐怖の低減を意味し、全てのアームへのエントリー回数の合計は、活動レベルに相関している。胎児性アルコール症候群のモデルラット群は、オープンアームとクローズドアームの両方へのエントリー回数の合計(total entries)が増加したことから、活動性が増加していることが示された。さらに、胎児性アルコール症候群のモデルラット群は、コントロールラット(正常ラット)群と比較して、オープンアームへのエントリー回数(open arm entries)が多く、オープンアームでの滞在時間(% time in open arms)も長かった。これに対し、アテロコラーゲンと神経幹細胞とを投与した胎児性アルコール症候群のモデルラット群では、コントロールラット群と同様のオープンアームとクローズドアームの両方へのエントリー合計回数、オープンアームへのエントリー回数およびオープンアームでの滞在時間を示した。
したがって、アテロコラーゲンおよび幹細胞を含んでなる本発明の医薬組成物は、精神疾患・脳神経疾患モデル動物において、その病変部位における神経組織の回復・新生を惹起し、実際に症状の改善に導くことが可能であることが示唆された。
以上のとおり、本願発明によれば、アテロコラーゲンおよび幹細胞を含んでなる精神疾患または脳神経疾患のための医薬組成物を提供することができる。本願発明は、従来、根本的な治療方法がなく対症療法的な薬物療法しか存在していなかった精神疾患や脳神経疾患(特に、感情障害、統合失調症、アルツハイマー病、アルコール障害および胎児性アルコール症候群)に対して、アテロコラーゲンおよび幹細胞を体内に投与することにより、神経新生が障害されている病変部位の再生、ならびに、神経組織の障害により現れる症状の改善を可能にする極めて有効な医薬組成物および治療方法を提供するものであり、しかも、脳内投与に限らず、より処置が容易な静脈内投与によっても良好な治癒効果を得ることができることから、実際の臨床現場での利用が期待される極めて画期的なものである。
神経幹細胞の増殖に対するアテロコラーゲンの影響を示す図である。 神経幹細胞の生存に対するアテロコラーゲンの影響を示す図である。 神経幹細胞の分化に対するアテロコラーゲンの影響を示す図である。 コントロール群およびアルコール暴露群(精神疾患・脳神経疾患モデル群)における、移植された神経幹細胞の脳内移行性を示す図である。 アルコール暴露群(精神疾患・脳神経疾患モデル群)における、アテロコラーゲン投与の有無による移植された神経幹細胞の脳内移行性への影響を示す図である。 アルコール暴露群(精神疾患・脳神経疾患モデル群)における、アテロコラーゲンと共に投与された神経幹細胞数と脳内移行性の相関を示す図である。

Claims (5)

  1. アテロコラーゲンおよび幹細胞を含んでなる、精神疾患または脳神経疾患のための医薬組成物。
  2. 静脈内投与により治療効果が得られる、請求項1に記載の医薬組成物。
  3. 幹細胞が、神経幹細胞または間葉系幹細胞である、請求項1または2に記載の医薬組成物。
  4. 精神疾患または脳神経疾患が、神経幹細胞の機能異常により惹起される疾患である、請求項1〜3のいずれかに記載の医薬組成物。
  5. 精神疾患または脳神経疾患が、アルコール障害、胎児性アルコール症候群、アルツハイマー病、感情障害または統合失調症である、請求項1〜4のいずれかに記載の医薬組成物。
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