本発明は係る事実を考慮し、機構が簡単で起動後の再設定が容易な剛性付与装置、及びこの剛性付与装置を備えた免震構造物を提供することを課題とする。
請求項1に記載の発明は、外乱により水平方向に相対移動する上部構造体と下部構造体の間に設けられた剛性付与装置において、前記上部構造体と前記下部構造体の相対移動を阻止する相対移動阻止位置に配置された剛性部材と、前記剛性部材を前記相対移動阻止位置に保持する保持手段と、ゲル化した状態で配置され、振動によりゾル化して流動し前記保持手段の保持状態を解除して前記剛性部材を前記相対移動阻止位置から退避させるチキソトロピー性部材と、を備えることを特徴としている。
請求項1に記載の発明では、外乱により水平方向に相対移動する上部構造体と下部構造体の間に、剛性部材、保持手段、及びチキソトロピー性部材を備える剛性付与装置が設けられている。
剛性部材は、上部構造体と下部構造体の相対移動を阻止する相対移動阻止位置に配置されている。
また、剛性部材は、保持手段によって相対移動阻止位置に保持されている。
さらに、チキソトロピー性部材は、ゲル化した状態で配置され、振動によりゾル化して流動する。
そして、ゾル化したチキソトロピー性部材の流動によって保持手段の保持状態が解除され、剛性部材が相対移動阻止位置から退避する。
ここで、外乱としての風荷重に対しては、下部構造体は激しく振動しないが、外乱としての地震荷重に対しては、下部構造体は激しく振動する。
よって、風荷重が構造体に作用したときには、下部構造体は激しく振動しないので、チキソトロピー性部材はゾル化しない。このとき、剛性部材は相対移動阻止位置に保持された状態を維持し、上部構造体と下部構造体の間に剛性が付与された状態にあるので、風荷重による構造体の揺れを抑えることができる。
また、地震荷重が構造体に作用したときには、下部構造体は激しく振動するので、チキソトロピー性部材はゾル化して流動する。この流動したチキソトロピー性部材が、保持手段の保持状態を解除して剛性部材を相対移動阻止位置から退避させる。これにより、上部構造体と下部構造体の相対移動の拘束が解かれて、地震動に対して免震効果を発揮する。
さらに、剛性付与装置は、チキソトロピー性部材をゾル化させて剛性部材を相対移動阻止位置から退避させるだけの簡単な機構なので、地震動以外の振動での誤動作を防ぐことができる。
また、地震等により剛性付与装置が起動した(チキソトロピー性部材がゾル化して流動した)後の再設定作業は、ゲル化したチキソトロピー性部材を初期位置に配置するだけでよいので容易である。
また、剛性部材を相対移動阻止位置から退避させることができる量のチキソトロピー性部材を配置すればよいので、大量のチキソトロピー性部材を必要としない。
請求項2に記載の発明は、前記上部構造体の下部に取り付けられ、前記剛性部材を収納する上部収納部と、前記下部構造体の上部に取り付けられ、前記上部収納部に収納された剛性部材を収納可能な下部収納部と、を備え、前記剛性部材は、ピン部材でありかつ前記上部収納部及び前記下部収納部に収納された状態で前記保持手段に保持されていることを特徴としている。
請求項2に記載の発明では、剛性部材を収納する上部収納部が上部構造体の下部に取り付けられている。また、上部収納部に収納された剛性部材の収納が可能な下部収納部が下部構造体の上部に取り付けられている。
また、剛性部材はピン部材であり、このピン部材が上部収納部及び下部収納部に収納された状態で保持手段に保持されている。
よって、剛性部材にピン部材を用い、このピン部材を上部収納部及び下部収納部に収納して上部構造体と下部構造体の相対移動を阻止するので、簡単な機構によって、上部構造体と下部構造体の間に剛性を付与させることができる。
請求項3に記載の発明は、前記保持手段は、前記ピン部材の重量と等しい力を前記ピン部材に上向きに付与し、前記チキソトロピー性部材は、ゾル化して前記ピン部材に下向きの力を付与することを特徴としている。
請求項3に記載の発明では、ピン部材の重量と等しい力を保持手段がピン部材に上向きに付与する。また、チキソトロピー性部材がゾル化してピン部材に下向きの力を付与する。
ここで、外乱としての風荷重に対しては、下部構造体は激しく振動しないが、外乱としての地震荷重に対しては、下部構造体は激しく振動する。
よって、風荷重が構造体に作用したときには、下部構造体は激しく振動しないので、チキソトロピー性部材はゾル化しない。このとき、保持手段はピン部材の重量と等しい上向きの力をピン部材に付与しているので、上部収納部及び下部収納部に収納されたピン部材は相対移動阻止位置に保持された状態を維持する。よって、上部構造体と下部構造体の間に剛性が付与された状態にあるので、風荷重による構造体の揺れを抑えることができる。
また、地震荷重が構造体に作用したときには、地震動によりゾル化したチキソトロピー性部材がピン部材上に流れ落ちる。そして、この流れ落ちたチキソトロピー性部材の重量によりピン部材に下向きの力が付与され、ピン部材が相対移動阻止位置から下方に退避して保持手段の保持状態が解除される。
これにより、上部構造体及び下部構造体の相対移動の拘束が解かれ、地震動に対して免震効果を発揮する。
また、剛性付与装置は、ゾル化したチキソトロピー性部材の重量でピン部材を下方に退避させるだけの簡単な機構なので、地震動以外の振動での誤動作を防ぐことができる。
また、地震等によりピン部材が下方に退避した後の再設定作業は、ゲル化したチキソトロピー性部材を初期位置に配置するだけでよいので容易である。
また、ピン部材を下方に退避させることができる量のチキソトロピー性部材を配置すればよいので、大量のチキソトロピー性部材を必要としない。
請求項4に記載の発明は、前記保持手段は、前記ピン部材と前記ピン部材に載せられた前記チキソトロピー性部材とを合わせた重量と等しい力を前記ピン部材に上向きに付与し、前記チキソトロピー性部材は、ゾル化して前記ピン部材に形成された液出孔から流れ出ることを特徴としている。
請求項4に記載の発明では、チキソトロピー性部材がピン部材に載っている。そして、ピン部材とチキソトロピー性部材とを合わせた重量と等しい上向きの力を保持手段がピン部材に付与している。また、チキソトロピー性部材がゾル化してピン部材に形成された液出孔から流れ出る。
ここで、外乱としての風荷重に対しては、下部構造体は激しく振動しないが、外乱としての地震荷重に対しては、下部構造体は激しく振動する。
よって、風荷重が構造体に作用したときには、下部構造体は激しく振動しないので、チキソトロピー性部材はゾル化しない。このとき、保持手段はピン部材とチキソトロピー性部材とを合わせた重量と等しい上向きの力をピン部材に付与しているので、上部収納部及び下部収納部に収納されたピン部材は相対移動阻止位置に保持された状態を維持する。よって、上部構造体と下部構造体の間に剛性が付与された状態にあるので、風荷重による構造体の揺れを抑えることができる。
また、地震荷重が構造体に作用したときには、地震動によりゾル化したチキソトロピー性部材がピン部材の液出孔を通って流れ出る。そして、ピン部材に載せられたチキソトロピー性部材の重量が減少することによりピン部材が相対移動阻止位置から上方に退避して保持手段の保持状態が解除される。
これにより、上部構造体及び下部構造体の相対移動の拘束が解かれ、地震動に対して免震効果を発揮する。
また、剛性付与装置は、ゾル化したチキソトロピー性部材の重量を減少させてピン部材を上方に退避させるだけの簡単な機構なので、地震動以外の振動での誤動作を防ぐことができる。
また、地震等によりピン部材が上方に退避した後の再設定作業は、ゲル化したチキソトロピー性部材を初期位置に配置するだけでよいので容易である。
また、ピン部材を上方に退避させることができる量のチキソトロピー性部材を配置すればよいので、大量のチキソトロピー性部材を必要としない。
請求項5に記載の発明は、前記保持手段は、前記ピン部材の下方に配置されたバネであることを特徴としている。
請求項5に記載の発明では、保持手段をピン部材の下方に配置されたバネとすることにより、上部構造体に保持手段のための設備スペースを設ける必要がない。
請求項6に記載の発明は、前記保持手段は、前記上部構造体に設けられた滑車と、前記滑車を介して、前記ピン部材とカウンターウェイト部材とをつなぐロープと、を備えることを特徴としている。
請求項6に記載の発明では、滑車が上部構造体に設けられており、この滑車を介してピン部材がカウンターウェイト部材とロープでつながれている。
このような設備を保持手段とすることにより、下部構造体に保持手段のための設備スペースを設ける必要がない。
請求項7に記載の発明は、外乱により水平方向に相対移動する上部構造体と下部構造体の間に設けられた剛性付与装置において、前記上部構造体と前記下部構造体の相対移動を阻止する相対移動阻止位置に配置された剛性部材と、ゲル化した状態で前記剛性部材を前記相対移動阻止位置に保持し、振動によりゾル化して流動し前記剛性部材を前記相対移動阻止位置から退避させるチキソトロピー性部材と、を備えることを特徴としている。
請求項7に記載の発明では、外乱により水平方向に相対移動する上部構造体と下部構造体の間に、剛性部材及びチキソトロピー性部材を備える剛性付与装置が設けられている。
剛性部材は、上部構造体と下部構造体の相対移動を阻止する相対移動阻止位置に配置されている。
さらに、チキソトロピー性部材は、ゲル化した状態で配置されて、剛性部材を相対移動阻止位置に保持する。
そして、ゾル化したチキソトロピー性部材の流動によって、チキソトロピー性部材による剛性部材の保持状態が解除され、剛性部材が相対移動阻止位置から退避する。
ここで、外乱としての風荷重に対しては、下部構造体は激しく振動しないが、外乱としての地震荷重に対しては、下部構造体は激しく振動する。
よって、風荷重が構造体に作用したときには、下部構造体は激しく振動しないので、チキソトロピー性部材はゾル化しない。このとき、剛性部材は相対移動阻止位置に保持された状態を維持し、上部構造体と下部構造体の間に剛性が付与された状態にあるので、風荷重による構造体の揺れを抑えることができる。
また、地震荷重が構造体に作用したときには、下部構造体は激しく振動するので、チキソトロピー性部材はゾル化して流動する。このチキソトロピー性部材の流動により剛性部材の保持状態が解除されて剛性部材を相対移動阻止位置から退避させる。これにより、上部構造体と下部構造体の相対移動の拘束が解かれて、地震動に対して免震効果を発揮する。
さらに、剛性付与装置は、チキソトロピー性部材をゾル化させて剛性部材を相対移動阻止位置から退避させるだけの簡単な機構なので、地震動以外の振動での誤動作を防ぐことができる。
また、地震等により剛性付与装置が起動した後の再設定作業は、ゲル化したチキソトロピー性部材を初期位置に配置するだけでよいので容易である。
また、剛性部材を相対移動阻止位置から退避させることができる量のチキソトロピー性部材を配置すればよいので、大量のチキソトロピー性部材を必要としない。
請求項8に記載の発明は、前記上部構造体の下部に取り付けられ、前記剛性部材を収納する上部収納部と、前記下部構造体の上部に取り付けられ、前記上部収納部に収納された剛性部材を収納可能な下部収納部と、を備え、前記剛性部材は、ピン部材でありかつ前記上部収納部及び前記下部収納部に収納された状態で前記チキソトロピー性部材に保持されていることを特徴としている。
請求項8に記載の発明では、剛性部材を収納する上部収納部が上部構造体の下部に取り付けられている。また、上部収納部に収納された剛性部材の収納が可能な下部収納部が下部構造体の上部に取り付けられている。
また、剛性部材はピン部材であり、このピン部材が上部収納部及び下部収納部に収納された状態で保持手段に保持されている。
よって、剛性部材にピン部材を用い、このピン部材を上部収納部及び下部収納部に収納して上部構造体と下部構造体の相対移動を阻止するので、簡単な機構によって、上部構造体と下部構造体の間に剛性を付与させることができる。
請求項9に記載の発明は、前記下部収納部の下方には、ゾル化した前記チキソトロピー性部材が流出する排出孔が設けられていることを特徴としている。
請求項9に記載の発明では、下部収納部の下方に排出孔が設けられており、この排出孔からゾル化したチキソトロピー性部材が流出する。
ここで、外乱としての風荷重に対しては、下部構造体は激しく振動しないが、外乱としての地震荷重に対しては、下部構造体は激しく振動する。
よって、風荷重が構造体に作用したときには、下部構造体は激しく振動しないので、チキソトロピー性部材はゾル化しない。このとき、上部収納部及び下部収納部に収納されたピン部材は相対移動阻止位置に保持された状態を維持し、上部構造体と下部構造体の間に剛性が付与された状態にあるので、風荷重による構造体の揺れを抑えることができる。
また、地震荷重が構造体に作用したときには、地震動によりゾル化したチキソトロピー性部材が下部収納部の下方に設けられた排出孔を通って流れ出る。そして、ピン部材を保持するチキソトロピー性部材の減少による液面の低下に伴ってピン部材が相対移動阻止位置から下方に退避する。
これにより、上部構造体と下部構造体の相対移動の拘束が解かれ、地震動に対して免震効果を発揮する。
また、剛性付与装置は、ゾル化したチキソトロピー性材料の液面低下によってピン部材を下方に退避させるだけの簡単な機構なので、地震動以外の振動での誤動作を防ぐことができる。
また、地震等によりピン部材が下方に退避した後の再設定作業は、ゲル化したチキソトロピー性部材を初期位置に配置するだけでよいので容易である。
また、ピン部材を下方に退避させることができる量のチキソトロピー性部材を配置すればよいので、大量のチキソトロピー性部材を必要としない。
請求項10に記載の発明は、前記ピン部材には、ゾル化した前記チキソトロピー性部材が上方へ流出する液出孔が設けられていることを特徴としている。
請求項10に記載の発明では、ピン部材に液出孔が設けられており、この液出孔からゾル化したチキソトロピー性部材が上方へ流出する。
ここで、外乱としての風荷重に対しては、下部構造体は激しく振動しないが、外乱としての地震荷重に対しては、下部構造体は激しく振動する。
よって、風荷重が構造体に作用したときには、下部構造体は激しく振動しないので、チキソトロピー性部材はゾル化しない。このとき、上部収納部及び下部収納部に収納されたピン部材は相対移動阻止位置に保持された状態を維持し、上部構造体と下部構造体の間に剛性が付与された状態にあるので、風荷重による構造体の揺れを抑えることができる。
また、地震荷重が構造体に作用したときには、地震動によりゾル化したチキソトロピー性材料がピン部材の液出孔を通って上方へ流れ出る。そして、ピン部材を保持するチキソトロピー性材料の減少による液面の低下に伴ってピン部材が相対移動阻止位置から下方に退避する。
これにより、上部構造体と下部構造体の相対移動の拘束が解け、地震動に対して免震効果を発揮する。
また、剛性付与装置は、ゾル化したチキソトロピー性材料の液面低下によってピン部材を下方に退避させるだけの簡単な機構なので、地震動以外の振動での誤動作を防ぐことができる。
また、地震等によりピン部材が下方に退避した後の再設定作業は、ゲル化したチキソトロピー性部材を初期位置に配置するだけでよいので容易である。
また、ピン部材を下方に退避させることができる量のチキソトロピー性部材を配置すればよいので、大量のチキソトロピー性部材を必要としない。
請求項11に記載の発明は、請求項1〜10の何れか1項に記載の前記剛性付与装置と、前記剛性付与装置と同じ層に設けられた免震装置と、を備えることを特徴としている。
請求項11に記載の発明では、剛性付与装置と同じ層に免震装置が設けられている。
よって、剛性部材による上部構造体と下部構造体の相対移動の拘束が解かれたときに免震装置が機能し、これにより、地震動に対して免震効果を発揮することができる。
請求項12に記載の発明は、前記剛性付与装置及び前記免震装置は、構造物の基礎層又は中間層に設けられていることを特徴としている。
請求項12に記載の発明では、構造物の基礎層又は中間層に、剛性付与装置及び免震装置が設けられている。
よって、構造物の基礎層又は中間層に設けられた剛性付与装置及び免震装置によって、風荷重による揺れを抑え、地震時には免震効果を発揮することができる。
本発明は上記構成としたので、機構が簡単で起動後の再設定が容易な剛性付与装置、及びこの剛性付与装置を備えた免震構造物を提供することができる。
図面を参照しながら、本発明の剛性付与装置及び免震構造物を説明する。なお、本実施形態では、RC造の高層建物に本発明を適用した例を説明するが、さまざまな構造や規模の新築及び改修建物への適用が可能である。
まず、本発明の第1の実施形態に係る剛性付与装置及び免震構造物について説明する。
図1に示すように、免震構造物10は、RC造の高層建物の本体となる上部構造体14、基礎となる下部構造体16、及び上部構造体14と下部構造体16の間の基礎層Gによって構成され、基礎層Gに剛性付与装置18及び免震装置20が設けられている。すなわち、構造物の同じ層に剛性付与装置18及び免震装置20が設けられている。上部構造体14は、地盤22に埋設された下部構造体16上に配置された免震装置20によって支持されている。
図2に示すように、上部構造体14の下部には上部材24が取り付けられ、下部構造体16の上部には下部材26が取り付けられている。上部材24の上部にはコンクリート製の剛性体28が固定され、この剛性体28上部のフランジ30と共に一体となっている。そして、このフランジ30を上部構造体14の下面に結合することによって上部構造体14の下部に上部材24を取り付ける。
上部材24の下面と下部材26の上面の間に隙間を設けたり、又は上部材24の下面、及び下部材26の上面に摩擦抵抗の小さい滑り面を形成することによって、上部材24の下面と下部材26の上面は摺動可能になっている。滑り面は、テフロン(登録商標)加工等によって形成することができる。よって、後に述べるピン部材38が相対移動阻止位置に配置されていないときには、外乱によって上部構造体14と下部構造体16が水平方向に相対移動する。
図3(A)〜(C)は、図2に示した剛性付与装置18の左側に設けられた剛性付与の機構を示した側断面図であり、剛性付与装置18の右側にも同様の機構が設けられている。
図3(A)に示すように、上部材24には上部収納部としての円柱状の貫通孔32が形成され、下部材26には下部収納部としての円柱状の貫通孔34が形成されている。さらに、貫通孔34の下方の下部構造体16には円柱状の鉛直孔36が形成されている。
貫通孔32、34には、剛性部材としての円柱状のピン部材38が挿入されている。すなわち、ピン部材38が貫通孔32、34の両方に同時に収納されている。ピン部材38は、アルミニウム合金によって形成されている。
図3(A)に示すピン部材38の位置、すなわち、ピン部材38の略上半分が貫通孔32に係合され、略下半分が貫通孔34に係合される位置(以降、相対移動阻止位置と記載する)において、上部材24と下部材26の水平方向の相対移動が阻止される。
よって、ピン部材38が相対移動阻止位置に配置されているときには、上部材24が取り付けられている上部構造体14と、下部材26が取り付けられている下部構造体16との水平方向の相対移動が阻止される。
これらの貫通孔32、34、及び鉛直孔36は連通している。貫通孔32、34、及び鉛直孔36の径は同じであり、また、この径はピン部材38が上下方向に摺動でき、かつ後に述べるゾル化したチキソトロピー性部材Rが流れ込まない程度の隙間を貫通孔32、34、及び鉛直孔36の内壁面と、ピン部材38の外壁面との間に確保する長さとなっている。
鉛直孔36の底部には、保持手段としての皿バネ40が載置されている。そして、このピン部材38の下方に配置された皿バネ40によって、ピン部材38が支持されている。皿バネ40は、ピン部材38の重量と等しい力をピン部材38に上向きに付与しているので、ピン部材38上に何も載置されていない図3(A)の状態において、ピン部材38は皿バネ40によって相対移動阻止位置に保持されている。すなわち、ピン部材38は貫通孔32、34に収納された状態で皿バネ40に保持されている。
上部材24上には、底部に開口部44を有する容器42が取り付けられており、この容器42内にゲル化した状態のチキソトロピー性部材Rが、ピン部材38の上面から離れた上方に位置するように配置されている。容器42の壁部は円筒状になっており、その内径は貫通孔32、34、及び鉛直孔36の径と同じである。また、容器42の開口部44は、貫通孔32、34、及び鉛直孔36と連通している。
ゲル化したチキソトロピー性部材Rは、自重を受けながらも容器42の内壁面との間に生じる摩擦抵抗や表面張力により容器42内にとどまっている。容器42の天井部には、チキソトロピー性部材Rがゾル化したときに開口部44から流れ出やすいように空気穴46が形成されている。
次に、本発明の第1の実施形態に係る剛性付与装置及び免震構造物の作用及び効果について説明する。
図1に示すように、外乱としての風荷重は、高層建物の本体の上部構造体14の壁面等に風圧力Wが直接作用することで生じる。この力は、上部構造体14、免震層となる基礎層G、及び下部構造体16を介して地盤22に伝達されるが、このとき下部構造体16や地盤22は激しく振動しない。
一方、外乱としての地震荷重は、地震源からの地震動Jが地盤22、下部構造体16、及び基礎層Gを介して上部構造体14に伝達されるので、下部構造体16は激しく振動する。
よって、風荷重が上部構造体14に作用したときには、下部構造体16は激しく振動しないので、図3(A)に示すように、チキソトロピー性部材Rはゾル化しない。これにより、貫通孔32及び貫通孔34に挿入された剛性部材としてのピン部材38が相対移動阻止位置に保持され、上部構造体14と下部構造体16の間に剛性が付与されるので、風荷重による上部構造体14の揺れを抑えることができる。
また、地震荷重が下部構造体16に作用したときには、下部構造体16は激しく振動するので、図3(B)に示すように、地震動Jによりゾル化したチキソトロピー性部材Rが流動してピン部材38上に流れ落ちる。そして、このゾル化したチキソトロピー性部材Rの重量によってピン部材38に下向きの力を付与し、ピン部材38が相対移動阻止位置から下方に退避して保持手段としての皿バネ40の保持状態が解除される。
これにより、図3(C)に示すように、上部構造体14及び下部構造体16の相対移動の拘束が解かれて、図1に示す免震装置20が機能し、これにより構造物の基礎層Gに発生する地震動に対して免震効果を発揮することができる。
さらに、剛性付与装置18は、ゾル化したチキソトロピー性部材Rの重量でピン部材38を下方に退避させるだけの簡単な機構なので、地震動以外の振動での誤動作を防ぐことができる。
また、ピン部材38を相対移動阻止位置から下方に退避させることができる量のチキソトロピー性部材Rを配置すればよいので、大量のチキソトロピー性部材Rを必要としない。
このように、剛性部材にピン部材38を用い、このピン部材38を貫通孔32及び貫通孔34に挿入させて上部構造体14と下部構造体16の相対移動を阻止するので、簡単な機構によって上部構造体14と下部構造体16の間に剛性を付与させることができる。
また、保持手段をピン部材38の下方に配置された皿バネ40とすることにより、上部材24上に保持手段のための設備スペースを設ける必要がない。
地震等によりピン部材38が下方に退避した後の再設定作業は、例えば図4に示すように、まずプレート部材48を容器42の開口部44付近に略水平に取り付ける。プレート部材48は、図6(A)の平面図に示すように、平板50の左側端部に取っ手52を設け、その右隣に平板50上面から突出するストッパー部54を固定したものである。
図4の容器42を左側から見た、プレート部材48を挿入する前の図5(C)に示すように、容器42には、プレート部材48を挿入する挿入口56が形成されている。
この挿入口56にプレート部材48を挿入し、図4のA−A平断面図である図5(A)に示すように、プレート部材48によって容器42の底部に蓋をする。
このとき、図4の容器42の開口部44付近を拡大した図5(B)に示すように、ストッパー部54が容器42のフランジ144に当たるまでプレート部材48を押し込めば、容器42の開口部44を完全に塞ぐことができる。
次に、プレート部材48が容器42に挿入された状態で、図4に示すように、振動モータMによりチキソトロピー性部材Rを加振してゾル化し、ポンプPによって容器42の上方まで汲み上げて空気穴46からチキソトロピー性部材Rを容器42内に投入する。
次に、容器42内へのチキソトロピー性部材Rの投入が完了した後、振動モータMによる加振を止めてチキソトロピー性部材Rを暫く放置するとチキソトロピー性部材Rはゲル化する。この状態で、プレート部材48を容器42から引き抜き、図6(B)の平面図に示すプレート部材58を容器42の挿入口56に挿入する。これで剛性付与装置18の再設定が完了する。プレート部材48の上面には、プレート部材48が引き抜き易いようにゲル化したチキソトロピー性部材Rに対して剥離性を有する材料を塗布したり、このような材料でプレート部材48を形成することが好ましい。
プレート部材58には、容器42の開口部44と同じ径の穴60が形成されているが、ゲル化したチキソトロピー性部材Rは、自重を受けながらも容器42の内壁面との間に生じる摩擦抵抗や表面張力により容器42内にとどまっている。
よって、地震等により剛性付与装置18が起動した(チキソトロピー性部材Rがゾル化して流動した)後の再設定作業は、ゲル化したチキソトロピー性部材Rをピン部材から離れた上方の初期位置に配置するだけでよいので容易である。
なお、プレート部材58に替えて、図6(C)〜(E)のプレート部材62、64、66を用いてもよい。プレート部材62はプレート部材58の穴60よりも小さな径の穴68を平板50に有し、プレート部材64はメッシュ70を平板50に有し、プレート部材66は複数のパンチ孔72を平板50に有する。これらの穴68、メッシュ70、複数のパンチ孔72が容器42の開口部44の直下に配置されるように、プレート部材62、64、66を容器42に取り付けることによって、ゲル化した状態のチキソトロピー性部材Rをより確実に容器42に保持しておくことができる。
ここで、図7に示すピン部材74を用いた場合の皿バネ76の選定例を示す。
上部材24上には容器42が取り付けられており、この容器42内にゲル化したチキソトロピー性部材Rが円柱状の塊となって配置されている。また、下部材26は省略し、鉛直孔36が形成された下部構造体16上に上部材24を直接載置したモデルとした。
ピン部材74は、鉛直孔36の底部に載置された皿バネ76によって支持されている。
ピン部材74は、直径dが8.5cm(半径rが4.25cm)、厚さhが4cmの円柱部材である。材料には、比重が小さく強度が高いAl−Zn−Mg系のアルミニウム合金(7075−T6)が用いられている。よって、ピン部材74の比重sを2.71g/cm3、引張り強さFtを570N/mm2、耐力Fを505N/mm2とする。
まず、ピン部材74の重さWは、比重sにピン部材74の体積(=π×r2×h)を掛けて615gとなる。
ここで、1つの装置(2本のピン部材74)で2,000KNの剪断力(風荷重)に耐えることを想定した場合、1本のピン部材74で1,000KNの剪断力Qに耐える必要がある。
ピン部材74の剪断面での短期許容剪断応力度sfは、sf=F/(√3)より292N/mm2であり、これに対して1本のピン部材74に作用する最大剪断応力度τは、τ=1.5×Q/(π×r2)より264N/mm2になるので、sf>τとなる。
ピン部材74の短期許容支圧応力度pfは、pf=(F/1.1)×1.5より689N/mm2であり、これに対して1本のピン部材74に作用する支圧応力度σは、ピン部材74が上部材と係合している部分の厚さh1を2cmとすると、σ=Q/(d×h1)より588N/mm2になるので、pf>σとなる。
よって、sf>τ及びpf>σより、ピン部材74は1,000KNの剪断力Qに対して強度的に十分に耐えることができる。
次に、チキソトロピー性部材Rの比重uを1.0、体積をVとし、皿バネ76のバネ定数をKとすると、ゾル化したときにピン部材74に加えられるチキソトロピー性部材Rの全重量はu×Vとなり、この力よりも皿バネ76の弾性力(=K×h1)の力の方が小さくならなければ、ピン部材74は下方に沈まない。すなわち、皿バネ76のバネ定数Kは、
u×V>K×h1の関係を満たす値でなければならない。
円柱状の塊となっているチキソトロピー性部材Rの断面積は、ピン部材74とほぼ等しい56.7cm(=π×r2)であり、高さLを10cmとすると体積Vは567cm3となる。
よって、u、V、h1の値をu×V>K×h1に代入するとK<283(g/cm)となり、この条件を満たすバネ定数を有する皿バネ76を選定すればよいことがわかる。
なお、第1の実施形態では、剛性体28をコンクリート製とした例を示したが、風荷重及び地震荷重の水平力に耐えることができる剛性を有するものであればよく、複数枚の鉄のプレートを上部材24から垂直に立設させたものや鉄魂等を用いてもよい。また、剛性体28はなくてもよい。
また、ピン部材38をアルミニウム合金製としたが、風荷重の水平力に耐えることができる剛性を有するものであればよく、鉄等の金属や非金属の部材を用いてもよい。また、ピン部材38の形状は多角柱でもよい。
また、貫通孔32、34、及び鉛直孔36の孔を円形としたが、ピン部材38の断面と同じ形状であれば多角形でもよい。容器42の内空間の断面形状は、貫通孔32、34、鉛直孔36、及びピン部材38の断面と同じ形状であることが好ましい。
また、保持手段として皿バネ40を用いた例を示したが、所定の荷重を上向きに付与できるものであればよく、コイルバネ等の弾性体を用いてもよい。
また、チキソトロピー性部材Rには、合成スメクタイトの水溶液(濃度1〜4%)や、ベントナイト水溶液に多価陽イオン(例えば、Zn2+、Fe2+など)を加えた溶液等を用いることができる。これらの溶液の濃度を調整することにより、チキソトロピー性部材Rが流動化する振動の大きさを変えることができるので、剛性付与装置18によってピン部材38を相対移動阻止位置から退避させる地震荷重の剪断力の大きさを調整することができる。溶液の濃度は、ピン部材38を退避させる剪断力の大きさ、チキソトロピー性部材Rの量、及び容器42の大きさや形状等を考慮して適宜決めればよい。
次に、本発明の第2の実施形態に係る剛性付与装置及び免震構造物について説明する。
第2の実施形態は、第1の実施形態の剛性付与装置18の保持手段を滑車やカウンターウェイト部材を用いた機構に替えたものである。したがって、以下の説明において、第1の実施形態と同じ構成のものは、同符号を付すると共に、適宜省略して説明する。
図8(A)〜(C)は、図2に示した剛性付与装置78の左側に設けられた剛性付与の機構を示した側断面図であり、剛性付与装置78の右側にも同様の機構が設けられている。
図8(A)に示すように、上部材24の上面には支柱80が立設され、その頂部から両側に張り出したアーム部材82の両端には滑車84A、84Bが回転可能に取り付けられている。
滑車84Aの概ね真下には貫通孔32、34が形成されており、滑車84Bの概ね真下には貫通孔86、88が形成されている。貫通孔86、88は、貫通孔32、34と同じ径を有する円柱状の孔であり、連通している。
貫通孔86、88には、円柱状のカウンターウェイト部材92が挿入されている。カウンターウェイト部材92は、アルミニウム合金製であり、断面の径及び重量はピン部材38と同じである。図8(A)に示すカウンターウェイト部材92の位置、すなわち、カウンターウェイト部材92の略上半分が貫通孔86に係合され、略下半分が貫通孔88に係合される位置(以降、相対移動阻止位置と記載する)において、ピン部材38と共に、上部材24と下部材26の水平方向の相対移動を阻止し、上部構造体14と下部構造体16の間に剛性を付与する。
ピン部材38とカウンターウェイト部材92は、滑車84A、84Bを介してロープ94でつながれている。ピン部材38の重量はカウンターウェイト部材92と同じなので、図8(A)に示すように、ピン部材38とカウンターウェイト部材92が釣り合い、ピン部材38及びカウンターウェイト部材92を相対移動阻止位置に保持する。すなわち、ピン部材38は貫通孔32、34に収納された状態でカウンターウェイト部材92に保持されている。
上部材24上には、ガイド筒90が設けられている。ガイド筒90は、内径が貫通孔32、34の径と同じであり、図8(C)に示すように、鉛直孔36の底部にピン部材38が達したときに、カウンターウェイト部材92がガイド筒90から飛び出ない高さになっている。ガイド筒90の内空間は、図8(A)の状態において貫通孔86、88と連通している。
容器42内のチキソトロピー性部材Rは、第1の実施形態の図3(A)と同様に、ピン部材38から離れた上方にゲル化した状態で配置されている。
次に、本発明の第2の実施形態に係る剛性付与装置及び免震構造物の作用及び効果について説明する。
第2の実施形態は、第1の実施形態とほぼ同様の効果を得ることができ、また、風荷重が上部構造体14に作用したときには、図8(A)に示すように、チキソトロピー性部材Rはゾル化しない。
これにより、ピン部材38とカウンターウェイト部材92の釣り合った状態が保たれ、貫通孔32及び貫通孔34に挿入された剛性部材としてのピン部材38が相対移動阻止位置に保持され、さらには、貫通孔86及び貫通孔88に挿入されたカウンターウェイト部材92が相対移動阻止位置に保持される。
よって、上部構造体14と下部構造体16の間に剛性が付与されるので、風荷重による上部構造体14の揺れを抑えることができる。
このように、第2の実施形態は、バネなどの特別な保持手段を用いずに第1の実施形態と同等の効果を得ることができる。
また、カウンターウェイト部材92は剛性を有する部材なので、保持手段と剛性部材の2つの役割りを兼ねる。
また、地震荷重が下部構造体16に作用したときには、図8(B)に示すように、地震動Jによりゾル化したチキソトロピー性部材Rが流動してピン部材38上に流れ落ちる。そして、このチキソトロピー性部材Rの重量によってピン部材38に下向きの力を付与するので、ピン部材38とカウンターウェイト部材92の釣り合った状態が崩れてピン部材38が下方に沈む。すなわち、ピン部材38が相対移動阻止位置から下方に退避してピン部材38の保持状態が解除される。
また、これと同時にカウンターウェイト部材92は、相対移動阻止位置から上方に浮上してカウンターウェイト部材92の保持状態も解除される。このように、滑車84A、84Bを用いた機構によって、1つの機構で複数の剛性部材(ピン部材38、カウンターウェイト部材92)を相対移動阻止位置から同時に退避させることができる。
これにより、図8(C)に示すように、上部構造体14及び下部構造体16の相対移動の拘束が解かれて、図1に示す免震装置20が機能し、構造物に入力される地震動に対して免震効果を発揮することができる。
地震等によりピン部材38が下方に退避した後の再設定作業は、例えば図9に示すように、地震がおさまりチキソトロピー性部材Rがゲル化した後に、別途設けた牽引装置(不図示)によって矢印M1の方向にピン部材38を引き上げ、矢印M2の方向にカウンターウェイト部材92を引き下げればよい。
この場合、ゲル化したチキソトロピー性部材Rに対して剥離性を有する材料をピン部材38の上面のみに塗布しておけば、ゲル化したチキソトロピー性部材Rを容器42内の初期位置に配置した後にピン部材38を下げることによって、チキソトロピー性部材Rとピン部材38の上面を離した状態にすることができる。
容器42の内径を貫通孔32、34、及び鉛直孔36の径よりも少し小さくしておくと、チキソトロピー性部材Rと容器42の内壁の間の摩擦抵抗及び表面張力が大きくなるので、チキソトロピー性部材Rが容器42内にとどまり易くなる。
よって、地震等により剛性付与装置78が起動した(チキソトロピー性部材Rがゾル化して流動した)後の再設定作業は、ゲル化したチキソトロピー性部材Rをピン部材38から離れた上方の初期位置に配置するだけでよいので容易である。
また、ピン部材38の保持手段となる滑車84A、84Bやガイド筒90等の設備は、上部材24上に設けられているので、下部材26下方に保持手段のための設備スペースを設ける必要がない。
次に、本発明の第3の実施形態に係る剛性付与装置及び免震構造物について説明する。
第3の実施形態は、第2の実施形態の剛性付与装置78の変形例を示したものである。したがって、以下の説明において、第2の実施形態と同じ構成のものは、同符号を付すると共に、適宜省略して説明する。
図10(A)〜(C)は、図2に示した剛性付与装置96の左側に設けられた剛性付与の機構を示した側断面図であり、剛性付与装置96の右側にも同様の機構が設けられている。
下部構造体16には、貫通孔86、88と連通する円柱状の鉛直孔98が形成されている。鉛直孔98の径は、貫通孔86、88の径と同じであり、カウンターウェイト部材92が上下方向に摺動可能な大きさになっている。第3の実施形態では、カウンターウェイト部材92は、図10(C)に示すように、鉛直孔98に移動するので、第2の実施形態のガイド筒90は上部材24上に設けられていない。
貫通孔32、34に挿入されたピン部材100は、第2の実施形態のピン部材38の略中心に液出孔102を形成したものであり、この液出孔102にゾル化したチキソトロピー性部材Rが入り込みやすいように、ピン部材100の上面は、すり鉢状になっている。
容器42内のチキソトロピー性部材Rは、ピン部材100上にゲル化した状態で載せられている。ゲル化した状態において、チキソトロピー性部材Rはピン部材100の液出孔102からは漏れない。
カウンターウェイト部材92の重量は、ピン部材100とチキソトロピー性部材Rとを合わせた重量と同じになっている。すなわち、保持手段であるカウンターウェイト部材92は、ピン部材100とチキソトロピー性部材Rとを合わせた重量と同じ力をピン部材100に上向きに付与している。
カウンターウェイト部材92の重量は、ピン部材100とチキソトロピー性部材Rとを合わせた重量と同じなので、図10(A)に示すように、チキソトロピー性部材Rを載置したピン部材100とカウンターウェイト部材92が釣り合い、ピン部材100及びカウンターウェイト部材92を相対移動阻止位置に保持する。すなわち、ピン部材100は貫通孔32、34に収納された状態でカウンターウェイト部材92に保持されている。
次に、本発明の第3の実施形態に係る剛性付与装置及び免震構造物の作用及び効果について説明する。
第3の実施形態は、第2の実施形態とほぼ同様の効果を得ることができ、また、風荷重が上部構造体14に作用したときには、図10(A)に示すように、チキソトロピー性部材Rはゾル化しない。
これにより、ピン部材100とカウンターウェイト部材92の釣り合った状態が保たれる。よって、貫通孔32、34に挿入された剛性部材としてのピン部材100が相対移動阻止位置に保持され、さらには、貫通孔86及び貫通孔88に挿入されたカウンターウェイト部材92も相対移動阻止位置に保持される。
よって、上部構造体14と下部構造体16の間に剛性が付与されるので、風荷重による上部構造体14の揺れを抑えることができる。
このように、第3の実施形態は、バネなどの特別な保持手段を用いずに第1の実施形態と同等の効果を得ることができる。
また、カウンターウェイト部材92は剛性を有する部材なので、保持手段と剛性部材の2つの役割りを兼ねる。
また、地震荷重が下部構造体16に作用したときには、図10(B)に示すように、地震動Jによりゾル化したチキソトロピー性部材Rが流動してピン部材100の液出孔102から流れ出る。
そして、ピン部材100上のチキソトロピー性部材Rの重量が減少することにより、チキソトロピー性部材Rが載置されたピン部材100とカウンターウェイト部材92の釣り合った状態が崩れてピン部材100が浮上する。すなわち、ピン部材100が相対移動阻止位置から上方に退避してピン部材100の保持状態が解除される。
また、これと同時にカウンターウェイト部材92は、相対移動阻止位置から下方へ沈んでカウンターウェイト部材92の保持状態も解除される。このように、滑車84A、84Bを用いた機構によって、1つの機構で複数の剛性部材(ピン部材100、カウンターウェイト部材92)を相対移動阻止位置から同時に退避させることができる。
これにより、図10(C)に示すように、上部構造体14及び下部構造体16の相対移動の拘束が解かれて、図1に示す免震装置20が機能し、構造物に入力される地震動に対して十分な免震効果を発揮することができる。
このように、剛性付与装置96は、ピン部材100上にゲル化した状態で載置したチキソトロピー性部材Rの重量を減少させてピン部材100を浮上させるだけの簡単な機構なので、地震動以外の振動での誤動作を防ぐことができる。
地震等によりピン部材100が上方に退避した後の再設定作業は、例えば第1の実施形態の図4の方法を応用することができる。第3の実施形態では、プレート部材48を用いずに、ピン部材100の液出孔102に栓(不図示)をした後に、ゾル化したチキソトロピー性部材Rを容器42内に投入すればよい。
よって、地震等により剛性付与装置96が起動した(チキソトロピー性部材Rがゾル化して流動した)後の再設定作業は、ゲル化したチキソトロピー性部材Rをピン部材100上の初期位置に配置するだけでよいので容易である。
第3の実施形態では、カウンターウェイト部材92によって、ピン部材100とチキソトロピー性部材Rとを合わせた重量と同じ力をピン部材100に上向きに付与させたが、カウンターウェイト部材92を用いずに、第1の実施形態の皿バネ40でピン部材100を支持し、この皿バネ40によって、ピン部材100とチキソトロピー性部材Rとを合わせた重量と同じ力をピン部材100に上向きに付与させてもよい。
次に、本発明の第4の実施形態に係る剛性付与装置及び免震構造物について説明する。
第4の実施形態は、図2に示す第1の実施形態のフランジ30、剛性体28を設けずに、上部構造体14の下面に上部材24を直接設けたものである。したがって、以下の説明において、第1の実施形態と同じ構成のものは、同符号を付すると共に、適宜省略して説明する。
図11に示すように、免震構造物106は、RC造の高層建物の本体となる上部構造体14、基礎となる下部構造体16、及び上部構造体14と下部構造体16の間の基礎層Gによって構成され、基礎層Gに剛性付与装置104及び免震装置20が設けられている。すなわち、構造物の同じ層に剛性付与装置104及び免震装置20が設けられている。上部構造体14は、地盤22に埋設された下部構造体16上に配置された免震装置20によって支持されている。
図12に示すように、上部構造体14の下部には上部材24が取り付けられ、下部構造体16の上部には下部材26が取り付けられている。
下部材26上には下部収納部としての円筒状の下部筒体108が立設し、この上方に位置する上部収納部としての円筒状の上部筒体110は上部材24に固定されている。上部筒体110の下面と下部筒体108の上面には隙間が形成されている。よって、後に述べるピン部材112が相対移動阻止位置に配置されていないときには、外乱によって上部構造体14と下部構造体16が水平方向に相対移動する。なお、上部筒体110の下面と下部筒体108の上面の間に隙間を設けずに、上部筒体110の下面と下部筒体108の上面にテフロン(登録商標)加工等を施して滑り面を形成し、摺動するようにしてもよい。
図13(A)〜(C)は、図12の剛性付与装置104の一方を示した側断面図である。
図13(A)に示すように、上部筒体110と下部筒体108の内空間は連通しており、この上部筒体110及び下部筒体108には、剛性部材としての円柱状のピン部材112が挿入されている。すなわち、ピン部材112が上部筒体110、下部筒体108の両方に同時に収納されている。ピン部材112は、アルミニウム合金によって形成されている。
図13(A)に示すピン部材112の位置、すなわち、ピン部材112の略上半分が上部筒体110に係合され、略下半分が下部筒体108に係合される位置(以降、相対移動阻止位置と記載する)において、上部材24と下部材26の水平方向の相対移動が阻止される。
よって、ピン部材112が相対移動阻止位置に配置されているときには、上部材24が取り付けられている上部構造体14、下部材26が取り付けられている下部構造体16の水平方向の相対移動が阻止される。
上部筒体110と下部筒体108の内径は同じであり、また、この内径はピン部材112が上下方向に摺動でき、かつゾル化したチキソトロピー性部材Rが流出しない程度の隙間を下部筒体108の内壁面とピン部材112の外壁面の間に確保する長さとなっている。
下部筒体108内では、ゲル化したチキソトロピー性部材Rが下部材26上に載置され、このチキソトロピー性部材Rがピン部材112を支持している。
下部筒体108の下方の下部材26及び下部構造体16には、排出孔114が設けられている。ゲル化した状態において、チキソトロピー性部材Rは下部材26及び下部構造体16の排出孔114からは漏れない。
よって、チキソトロピー性部材Rがゾル化していない図13(A)の状態において、ピン部材112は相対移動阻止位置に保持されている。すなわち、ピン部材112は上部筒体110、下部筒体108に収納された状態でチキソトロピー性部材Rに保持されている。
下部構造体16の下方のピット空間Pには、ゾル化したチキソトロピー性部材Rを回収する回収容器116が置かれている。
次に、本発明の第4の実施形態に係る剛性付与装置及び免震構造物の作用及び効果について説明する。
第4の実施形態では、図11に示すように、外乱としての風荷重は、高層建物の本体の上部構造体14の壁面等に風圧力Wが直接作用することで生じる。この力は、上部構造体14、免震層となる基礎層G、及び下部構造体16を介して地盤22に伝達されるが、このとき下部構造体16や地盤22は激しく振動しない。
一方、外乱としての地震荷重は、地震源からの地震動Jが地盤22、下部構造体16、及び基礎層Gを介して上部構造体14に伝達されるので、下部構造体16は激しく振動する。
よって、風荷重が上部構造体14に作用したときには、下部構造体16は激しく振動しないので、図13(A)に示すように、チキソトロピー性部材Rはゾル化しない。これにより、上部筒体110及び下部筒体108に挿入された剛性部材としてのピン部材112が相対移動阻止位置に保持され、上部構造体14と下部構造体16の間に剛性が付与されるので、風荷重による上部構造体14の揺れを抑えることができる。
また、地震荷重が下部構造体16に作用したときには、下部構造体16は激しく振動するので、図13(B)に示すように、地震動Jによりゾル化したチキソトロピー性部材Rが流動して下部材26及び下部構造体16に設けられた排出孔114から流れ出る。そして、ピン部材112を保持するチキソトロピー性部材Rの減少による液面の低下に伴ってピン部材112が相対移動阻止位置から下方に退避する。
これにより、図13(C)に示すように、上部構造体14及び下部構造体16の相対移動の拘束が解かれて、図11に示す免震装置20が機能し、構造物に入力される地震動に対して十分な免震効果を発揮することができる。
さらに、剛性付与装置104は、ゾル化したチキソトロピー性部材Rの液面低下によってピン部材112を下方に退避させるだけの簡単な機構なので、地震動以外の振動での誤動作を防ぐことができる。
また、ピン部材112を相対移動阻止位置から下方に退避させることができるだけの量のチキソトロピー性部材Rを配置すればよいので、大量のチキソトロピー性部材Rを必要としない。
このように、剛性部材にピン部材112を用い、このピン部材112を上部筒体110及び下部筒体108に挿入させて上部構造体14と下部構造体16の相対移動を阻止するので、簡単な機構によって上部構造体14と下部構造体16の間に剛性を付与させることができる。
地震等によりピン部材112が下方に退避した後の再設定作業は、例えば図14に示すように、回収容器116をピット空間Pから取り出し、棒状バイブレータ118等によりチキソトロピー性部材Rをゾル化させて下部筒体108内へ投入すればよい。
このとき、排出孔114には栓126をしておく。また、例えば、上部構造体14及び上部材24に、ワイヤー124によって吊り下げられた電磁石120が通る穴122を開けておき、電磁石120をピン部材112にくっつけて必要な高さまで引き上げておけばよい。
よって、地震等により剛性付与装置104が起動した(チキソトロピー性部材Rがゾル化して流動した)後の再設定作業は、ゲル化したチキソトロピー性部材Rを下部材26上の初期位置に配置するだけでよいので容易である。
次に、本発明の第5の実施形態に係る剛性付与装置及び免震構造物について説明する。
第5の実施形態は、第4の実施形態の剛性付与装置104の変形例を示したものである。したがって、以下の説明において、第4の実施形態と同じ構成のものは、同符号を付すると共に、適宜省略して説明する。
図15(A)〜(C)は、図12の剛性付与装置128の一方を示した側断面図である。
ピン部材112の略中心には液出孔130が設けられており、下部筒体108の側面には下方斜め外側に向う液出補助孔132が設けられている。また、ピン部材112の上面は円錐状になっており、図15(C)の状態において、ピン部材112の上面と液出補助孔132の下面が連続するように、液出補助孔132の配置が調整されている。
下部筒体108の外周には、下方斜め中心側に向う内壁面を有する環状の回収部材134が設けられている。回収部材134は、上下に移動可能となっている。
下部筒体108内では、ゲル化したチキソトロピー性部材Rが下部材26上に載置され、このチキソトロピー性部材Rがピン部材112を支持している。
ゲル化した状態において、チキソトロピー性部材Rはピン部材112の液出孔130からは流出しない。
よって、チキソトロピー性部材Rがゾル化していない図15(A)の状態において、ピン部材112は相対移動阻止位置に保持されている。すなわち、ピン部材112は上部筒体110、下部筒体108に収納された状態でチキソトロピー性部材Rに保持されている。
次に、本発明の第5の実施形態に係る剛性付与装置及び免震構造物の作用及び効果について説明する。
第5の実施形態は、第4の実施形態とほぼ同様の効果を得ることができ、また、風荷重が上部構造体14に作用したときには、図15(A)に示すように、チキソトロピー性部材Rはゾル化しない。
これにより、上部筒体110及び下部筒体108に挿入された剛性部材としてのピン部材112が相対移動阻止位置に保持され、上部構造体14と下部構造体16の間に剛性が付与されるので、風荷重による上部構造体14の揺れを抑えることができる。
また、地震荷重が下部構造体16に作用したときには、図15(B)に示すように、地震動Jによりゾル化したチキソトロピー性部材Rが流動してピン部材112の液出孔130から上方へ流出し、また、下部筒体108の液出補助孔132からも流れ出る。そして、ピン部材112を保持するチキソトロピー性部材Rの減少による液面の低下に伴ってピン部材112が相対移動阻止位置から下方に退避する。
これにより、図15(C)に示すように、上部構造体14及び下部構造体16の相対移動の拘束が解かれて、図11に示す免震装置20が機能し、構造物に入力される地震動に対して十分な免震効果を発揮することができる。
地震等によりピン部材112が下方に退避した後の再設定作業は、例えば図16に示すように、回収部材134を上方に移動させる。そして、振動モータ(不図示)等により回収部材134に振動を加え、チキソトロピー性部材Rをゾル化させて下部筒体108内へ投入すればよい。このとき、液出補助孔132には栓136をしておく。
よって、地震等により剛性付与装置128が起動した(チキソトロピー性部材Rがゾル化して流動した)後の再設定作業は、ゲル化したチキソトロピー性部材Rを下部材26上の初期位置に配置するだけでよいので容易である。
なお、第1〜第5の実施形態では、構造物の基礎層Gに、剛性付与装置18、78、96、104、128及び免震装置20を設けた例を示したが、これに限らず、構造物のどの層に設けてもよい。例えば、図17に示す免震構造物142のように、上部構造体としての上部建物138と下部構造体としての下部建物140の間の中間層Nに剛性付与装置及び免震装置を設けてもよい。
また、構造物を高層建物としたが、低層や中層の建物に第1〜第5の実施形態を適用してもよい。超高層の建物の風荷重による揺れは、低層や中層の建物に比べて大きくなるので、超高層の建物に適用した場合に特に効果を発揮する。
また、剛性付与装置18、78、96、104、128の再設定方法は、ゲル化した状態でチキソトロピー性部材を初期位置に配置できる方法であれば第1〜第5の実施形態で示した方法でなくてもよい。
また、免震装置20は、上部構造体14及び下部構造体16の相対移動の拘束が解かれたときに、剛性付与装置が設けられた基礎層Gや中間層Nの免震層に発生する地震動に対して免震効果を発揮するものであればよく、積層ゴム、弾性すべり支承、鉛ダンパー、粘弾性ダンパー、オイルダンパー等を用いることができる。
また、第1〜第3の実施形態では、1つの剛性付与装置18、78、96の両端にそれぞれ1つのピン部材38、100を配置した例を示し、第4及び第5の実施形態では、2つの剛性付与装置104、128のそれぞれに1つのピン部材112を配置した例を示したが、剛性付与装置の数、配置や、ピン部材の数、配置は、建物規模や使用するピン部材の強度等に応じて適宜決めればよい。
また、第2及び第3の実施形態では、カウンターウェイト部材92を相対移動阻止位置に保持して剛性部材の役割りを兼ねさせた例を示したが、カウンターウェイト部材92は相対移動阻止位置に配置せずに、単なる錘として用いてもよい。
これまで述べたように、第1〜第5の実施形態の剛性付与装置18、78、96、104、128は、チキソトロピー性部材Rを用いることにより剛性を付与する機構を簡単にし、剛性付与装置が起動した後の再設定を容易にすると共に、地震時には付与した剛性をスピーディーに解除できるものである。
これによって、風荷重に対しては居住性の改善、構造安全性の確保が図られ、地震荷重に対しては確実に免震効果を発揮することができる。
また、スマートマテリアルの中でも、天然鉱物であるチキソトロピー性物質は、ローコストであり、環境に対する影響が少ない建築材料として好適なものである。