JP2007526665A - 非対称スペクトルを有する通信システムにおけるデュアルモードアナログ/デジタル適応エコーキャンセレーション - Google Patents
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Abstract
Description
[0001]
この出願は、次の出願の利益を主張する:2003年6月18日に提出された米国仮出願第60/479,782号および2004年3月18日に提出された米国仮出願第60/554,709号および2004年4月30日に提出された米国特許出願第10/836,542号。
[0002]
本発明は、一般に、全二重通信システム、特に、非対称デジタル加入者線(Asymmetric Digital Subscriber Line:ADSL)システムにおけるエコーキャンセレーションに関する。
[0003]
全二重通信システムでは、ひとつの通信装置、たとえばモデムが、信号の送信および信号の受信を同時に行っている。その結果、エコー信号が送信経路から受信経路に漏洩する。このエコー信号を前記受信信号から効果的に除去またはキャンセルするために、エコーキャンセラ(EC)が用いられる。
図1は、物理的な媒体(例えばツイストペアケーブル)を介して接続された二つのモデムAおよびBを含む従来技術のADSL通信システムのブロック図を示す。モデムAは、顧客構内機器(Customer Premises Equipment:CPE)側のモデムであり、デジタル領域(domain)におけるエコーキャンセレーションを行うエコーキャンセラAを含む。モデムBは、中央局(Central Office:CO)側のモデムである。以下の説明では、CPEモデムAに焦点を当てて説明していくことにするが、そこで検討される課題はCOモデムBにも同様に当てはまるものである。図示する送信経路は、データをシンボルにエンコードするエンコーダAを含み、エンコーダAは、そのシンボルを時間領域デジタル送信信号に変調する変調器Aと通信可能に連結されている。変調器Aは、エコーキャンセラAにも通信可能に連結されており、前記時間領域デジタル送信信号を基準信号としてエコーキャンセラAに送信する作用も有する。デジタル−アナログ変換器(DAC)Aが、前記デジタル送信信号をアナログ時間領域送信信号に変換し、ラインドライバAが、それを増幅してハイブリッドAに送る。ハイブリッドAは、モデムAの送信(TX)経路と受信(RX)経路を分離する。理想的には、ハイブリッドAは、前記TX信号がモデムAの受信(RX)経路へエコーバックするのを遮断する。しかし、実際のハイブリッドは、TX経路からRX経路へ、わずか20dB程度の減衰をもたらすにすぎない。前記受信経路は、受信信号を増幅するアナログ増幅器Aを含む。この受信信号は、遠端信号に加えてハイブリッドAから漏洩するいくらかのローカルエコー信号(RX+Echo)を含む。アナログ-デジタル変換器(ADC)Aは、前記増幅された受信信号をデジタル信号に変換し、復調器Aがそれを前記エコーキャンセラAに送って前記ローカルエコー信号を除去する。復調器Aは、そのように変形された受信信号をエコーキャンセラAから受信して、それからシンボルを復調し、そのシンボルはデコーダAにより、データにデコードされる。ADSLシステム用のエコーキャンセレーション手法の一例が、ミニー・ホ(Minnie Ho)、ジョン・M.チオッフィ(John M. Cioffi)、ジョン・A.C.ビンガム(John A. C. Bingham)共著「ディスクリート・マルチトーン・エコー・キャンセレーション(Discrete Multitone Echo Cancellation)」(IEEEトランザクションズ・オン・コミュニケーションズ(IEEE Transactions on Communications)、第44巻、第7号、817〜825頁、1996年7月、所収)により提案されている。この文献は、ここに、参照により引用するものとする。このデジタル手法は、DMT(Discrete Multi-tone)変調の特徴を活用して、時間領域においてエコー信号を一部キャンセルし、周波数領域において残りのエコー信号をキャンセルする。
起こりうる問題の一つに、エコー信号がキャンセルされる前にADCブロックに受信されて、ADCを飽和させ、所望のRX信号に対するそのダイナミックレンジを目減りさせる虞があるという、ADCダイナミックレンジ飽和問題がある。たとえば、減衰した遠端受信信号とともに強いローカルエコー信号がADCに入力されると、COからの所望のRX信号として利用可能な利得が大幅に減少する。TX帯域とRX帯域とが分離している周波数分割二重(frequency division duplex:FDD)通信システムでは、このようなADCダイナミックレンジ飽和問題は、分離フィルタを用いて克服することができる。しかし、重複スペクトルのシステムでは、通常、エコーキャンセラ(EC)を使用するために、分離フィルタを用いることができなくなる。デジタルECにおけるADC飽和問題については、テキサスインスツルメント(Texas Instruments)のマイケル・O.ポーリ(Michael O. Polley)、ウィリアム・J.ブライト(William J. Bright)による米国特許第6,618,480号で検討されている。しかし、そこで提案されている解法は、エコーの一部をアナログで、残りのエコーをデジタルで除去するというものであり、その提案するところのアナログ/デジタルECを訓練する方法を何ら提供していない。
図2は、全二重通信システム、ADSLシステムにおける、重複および非重複スペクトルの一例を示すものである。上り(upstream:US)信号および下り(downstream:DS)信号がそれぞれ、[f0Hz,f1Hz]および[f2Hz,f3Hz]の帯域内で送信される。一例としてのFDDシステムでは、下りスペクトル204は、上りスペクトルと重複しない。他の例では、DS容量を増やすために、図2に示すようにDS信号周波数帯域をUS帯域にまで拡げ、下りスペクトル202が上りスペクトルと重複するようにすることができる。
f2<f1となる場合には、DSおよびUSが[max(f0,f2)Hzからf1Hzまで]の帯域を共有するため、CO側CPE側の両方でエコーキャンセラが必要となる。例示を目的として、受信(RX)経路でのサンプリングレートが送信(TX)経路でのサンプリングレートのX倍(Xは整数)となるCPE側でのエコーキャンセレーションに焦点を当てて説明する。一実施形態としての例1において、CPE−RX経路での信号サンプリングレートを2208kHzとする。CPE−TX経路でのサンプリングレートは、552kHzである。すると、この実施形態ではX=4ということになる。他の例としての例2において、CPE−RX経路での信号サンプリングレートを8.832MHz(すなわち、3.75MHz相当ないし4.416MHz以下のf3に対応するもの)とし、CPE−TX経路でのサンプリングレートを1104kHz(すなわち、552KHz相当のf1に対応するもの)とする。この場合、X=8となる。重複するADSLシステムにおけるこれらの例に示されているように、CPE側の送信上り信号のサンプリングレートは、受信下り信号のサンプリングレートのそれよりも大幅に低くなる。
ダイナミックレンジ飽和を回避するために、アナログ−デジタル変換する前にエコー信号をキャンセルする、エコーキャンセレーションシステムを提供することが望ましい。また、重複スペクトルで動作するときと非重複スペクトルで動作するときにシステムを適応させることができるエコーキャンセレーションシステムを提供することが望ましい。これは、特に、ADSLシステムに望ましい。なぜなら、ADSLシステムにおいては、例えば、スペクトル適合性の問題により、ある特定のループ長を超えて重複スペクトルを用いることができず、FDDを使用しなければならないからである。また、エコーキャンセレーションシステムは、エコー抑制に用いられるFDDシステムの分離フィルタがなくてもすむようにすることが望ましい。また、エコーキャンセレーションシステムは、非対称信号サンプリングレートに適応するものであることが望ましい。また、エコーキャンセレーションシステムは、用途や動作態様によって、選択的に、アナログ領域またはデジタル領域のいずれかでエコーをキャンセルすることができるものであることが望ましい。
[0009]
本発明は、従来技術の制約を克服する、全二重通信システムにおけるエコーキャンセレーションのためのシステムおよび方法の多様な実施形態を提供する。全二重通信システムにおいては、本発明の一実施形態によるエコーキャンセレーションシステムは、デジタルエコー推定信号を生成するデジタルエコーキャンセラユニットと、前記デジタルエコーキャンセラユニットと通信可能に接続されて前記デジタルエコー推定信号をアナログエコー推定信号に変換するデジタル−アナログ変換器(DAC)と、前記DACと通信可能に接続されて帯域外DACノイズフロアを抑制する低域通過フィルタ(LPF)と、前記LPFと通信可能に接続されてDACノイズをさらに抑制するアナログ減衰器と、前記アナログ減衰器と通信可能に接続されて前記アナログエコー推定信号を受信するアナログ減算器と、を含む。前記アナログ減算器は、さらに、ローカルエコー信号を重畳された受信信号を受信するために、通信インターフェースと通信可能に接続されている。前記アナログ減算器は、前記エコー推定信号と前記重畳された受信信号との差を計算してアナログ誤差信号を生成する。前記アナログ減算器は、前記アナログ誤差信号をデジタル誤差信号に変換するアナログ−デジタル変換器と通信可能に接続されている。この変換器は、前記デジタル誤差信号を受信する前記デジタルエコーキャンセラユニットと通信可能に接続されている。他の実施形態において、全二重通信システムは、低いサンプリングレートおよび高いサンプリングレートを含む非対称信号サンプリングレートを使用し、前記デジタルエコーキャンセレーションユニットは、前記信号サンプリングレートのうちの前記低いサンプリングレートに基づいて前記デジタルエコー推定信号を生成する。さらに他の実施形態において、前記システムは、ある基準に基づいてデジタルエコーキャンセレーション経路かアナログエコーキャンセレーション経路を選択するスイッチング論理回路を含む。
全二重通信システムにおけるエコーキャンセレーションの方法は、送信信号およびデジタル誤差信号に基づいてデジタルエコー推定信号を生成し、前記デジタルエコー推定信号をアナログエコー推定信号に変換し、前記アナログエコー推定信号とローカルエコー信号を重畳された受信信号との差を計算してアナログ誤差信号を求め、前記アナログ誤差信号をデジタル誤差信号に変換することを特徴とする。他の実施形態では、前記通信システムは、低いサンプリングレートおよび高いサンプリングレートを含む非対称信号サンプリングレートを使用し、送信信号およびデジタル誤差信号に基づいてデジタルエコー推定信号を生成する際に、さらに、前記低い方の信号サンプリングレートに基づいて前記デジタルエコー推定信号を生成することを特徴とする。前記方法の他の実施形態では、送信信号およびデジタル誤差信号に基づいてデジタルエコー推定信号を生成する際に、さらに、受信した信号よりも低い信号サンプリングレートを有する前記送信信号および前記デジタル誤差信号に基づいて中間エコー推定信号を生成し、その中間エコー推定信号を、前記受信した信号と同じ信号サンプリングレートを有する前記デジタルエコー推定信号に補間することを特徴とする。
[0019]
図3は、本発明の一実施形態による、アナログエコーキャンセレーションシステムを含むADSLモデムのブロック図を示す。図1に示すように、CPE側のモデムAと、CO側のモデムBのコンポーネントの一部とが図示されている。図3には、たとえば有限インパルス応答(FIR)適合フィルタを用いたエコーキャンセラユニット304と、エコーキャンセラデジタル−アナログ変換器306と、アナログ減算器308とを含むアナログエコーキャンセレーションシステム312が含まれており、その点が、図3のモデムAの、図1のモデムBとの相違点となっている。エコーキャンセラユニット304は、デジタルエコー推定信号を生成するものであり、そのデジタルエコー推定信号をアナログ推定信号に変換するエコーキャンセラデジタル−アナログ変換器(EC DAC)306と通信可能に接続されている。EC DAC306は、本実施形態では何らかのローカルエコー信号を含む受信アナログ信号から前記アナログエコー推定信号を減算する差分増幅器308として図示されているアナログ減算器308と通信可能に接続されている。訓練中には、遠端RX信号が存在せず、前記減算により、訓練でEC係数に適合させるのに用いられる誤差信号が求まる。ADC Aは、その誤差信号を受信し、それをデジタル信号に変換し、復調器310がそれを受信する。この実施形態において、復調器310は、前記デジタル誤差信号を、前記エコーキャンセラ係数を適応訓練するためのフィードバックとして用いることができる誤差信号として、前記デジタルエコーキャンセラ304に送る。データモードまたは動作時間(show-time)中においては、前記減算で、前記ローカルエコー信号を除去した変形受信信号を求める。エコーチャンネルインパルス応答は、温度や湿度等により経時変化することが予想される。その場合、初期の訓練されたEC係数は、動作時間中において、時間の経過とともに有効ではなくなる。減算後、前記信号は、遠端RX信号に、前記エコー信号および前記推定エコー信号の間の誤差信号を加えたものとなる。この遠端RX信号を、ブロックLMS([0030]をご参照ください)等の手法により除去することによって、残った残差信号を用いて前記EC係数を再調整する。
エコーキャンセラユニット304は、多様な実施形態を取り得る。たとえば、受信信号の信号レートにアップサンプリングされたバージョンの送信信号をフィルタリングする有限インパルス応答(FIR)フィルタとして実装された時間領域エコーキャンセラを含むことができる。このエコーキャンセラユニット304は、さらに、適応エコーキャンセレーションアルゴリズムの(たとえば、ハードウェア、ソフトウェア、ファームウェア、あるいは、それらの何れかを組み合わせたもので実装された)論理回路を含む。適応エコーキャンセレーションアルゴリズムの一例に、エコー推定信号と受信信号との差を計算することにより生成する誤差信号に基づいて適応的にフィルタ係数を更新するものがある。最小平均二乗アルゴリズムの例については、後述する。また、このエコーキャンセラユニット304は、時間および周波数領域エコーキャンセラ(time and frequency domain echo canceller:TFEC)として実装することもできる。
図3のシステムの実施形態においては、ADC Aのダイナミックレンジを改善し、受信信号を量子化ノイズ比まで引き上げ、同時に、FDDを用いるときに大がかりなアナログフィルタを使用せずに済ますことができるように、アナログ−デジタル変換に先立ってローカルエコー信号が除去される。
図4は、本発明の他の実施形態による、ADSLのCPEモデムにおけるエコーキャンセレーションシステム432のブロック図を示す。このCPEモデムは、送信経路および受信経路を含み、後述のように、エコーキャンセレーションシステム432の諸要素は、そこで動作する。送信経路には、シンボルを時間領域出力送信信号に変調する変調器401が含まれ、変調器401は、時間領域エコーキャンセラユニット404および第1補間器401の両方と通信可能に接続されている。一例として、DMT(Discrete Multi-tone)変調を用いる場合には、変調器は、逆高速フーリエ変換(IFFT)である。変調器401の出力側のサンプリングレートは、復調器420の入力側のサンプリングレートよりも低い。次に、前記第1補間器402および第2補間器405は、ともに、前記変調器401からの送信信号を補完して所望の信号サンプリングレートとするものであり、DAC407は、送信信号をアナログ信号に変換して、帯域外DACノイズを低減する低域通過フィルタ408に出力するとともに、ラインドライバ410に入力してハイブリッド419に送り、送信線へと出力するものである。ハイブリッド419からの受信信号が通過する受信経路は、その出力信号がADC426に接続されている差分増幅器428を含み、ADC426で、その受信信号がデジタル形式に変換されると、続いて、第1デシメータ424および第2デシメータ422によりデシメートされて、デジタル減算ユニット432を経て復調器420に送られる。一例として、DMT変調を用いる場合には、復調器は時間領域等化器およびFFTからなるものとする。
この実施形態において、エコーキャンセレーションシステム432は、適応エコーキャンセレーション論理回路445および補間器406を含む時間領域エコーキャンセラ(TEC)ユニット404を含むエコーキャンセレーションユニット440を含む。図2に示すADSLまたはVDSLシステム等の非対称送信および受信スペクトルを有する全二重通信システムにおいて、前記(TEC)ユニット404は、CPE−TX経路の低サンプリングレートでの送信信号に基づき、エコー信号を推定して、そのTEC出力をCPE−RX経路の高サンプリングレートに一致するように補間する。その結果、最初に送信信号を受信レートにアップサンプリングしてからエコー信号を推定する従来のTECと比べて大幅に計算の複雑さを低減することができる。一例として、TECユニット440がFIRフィルタを含むものである場合、TECフィルタの計算の複雑さは、補間比率相当の比率で低減される。上述した図2の信号サンプリングレートの第1および第2の例に対する補間比率は、それぞれ4および8である。その補間プロセスにより導入される追加計算処理を考慮してもなお、フィルタ係数の数が低サンプリングレートで少ないため、総合的な計算の複雑さは、従来のTECまたはTFECに対するものに比べ、依然として大幅に低減されたものとなる。TECユニット404の諸実施形態は、図3のエコーキャンセレーションユニット304にも用いることができる。
時間領域ECユニット404は、スイッチング論理回路と通信可能に接続されている補間器406に中間エコー推定信号を出力するが、スイッチング論理回路は、ここでは補間器406の出力の送信先となるスイッチSとして図示されている。一例として、ECユニット404は、エコー経路のインパルス応答タイムスパンと同じ長さを有する有限インパルス応答(FIR)フィルタである。スイッチング論理回路Sは、補間されたデジタルエコー推定信号を受信するよう通信可能に接続されており、スイッチは、複数のエコーキャンセレーション経路、この例では、アナログエコーキャンセレーション経路およびデジタルエコーキャンセレーション経路のうちの一つと通信可能に接続することができる。スイッチSは、さらに、どの経路と接続するかを決定する選択論理回路444を含む。前記アナログエコーキャンセレーション経路は、前記デジタルエコー推定信号を受信するスイッチ位置20に接続することができる別の補間器412を含む。この補間器412は、第2段階の補間を行い、その出力信号を、アナログエコー推定信号に変換するDAC414に送るよう通信可能に接続されている。そのアナログエコー推定信号は、低域通過フィルタ416により受信され、フィルタリングされて、減衰器418に送られ、そこで、アナログエコーキャンセレーション推定信号の信号強度を、ハイブリッド419を通じて漏洩するローカルエコー信号の信号強度に近似するよう調整する。減衰器418は、前記アナログエコーキャンセレーション推定信号を差分アナログ増幅器(DAA)428の負入力に送るよう通信可能に接続されており、DAA428はアナログ減算器の一例であって、その正入力において送信経路から漏洩する何らかのローカルエコー信号を含む受信信号を受信する作用も有する。DAA428から得られた、差を計算される等変形された受信信号は、ADC426によってデジタル信号に変換された後で、デシメータ424およびデシメータ422によってデシメートされる。デシメータ422から、前記変形された信号は、デジタル減算器434に通信可能に接続されている。しかし、アナログ経路接続20が選択された場合には接続経路10からの入力がないので、その信号は、本質的に同一であり、EC訓練中にはEC係数を訓練するために用いられ、データ受信中にはシンボル抽出のために復調器420に接続される。
アナログエコーキャンセレーション経路において、前記抽出された信号は、誤差信号とも呼称することができるが、追加の遅延を導入するエコーキャンセレーション適応アルゴリズムにおいて使用される前に、ADCやデシメータ等の一連のブロックを経由しなければならない。適応エコーキャンセレーションに用いることができる追加の遅延に適応可能なアルゴリズムの一例に、‘遅延LMS’と呼ばれるLMSアルゴリズムがあり、その安定性は、G.ロング(Long, G.)、F.リン(Ling, F.)、J.Gプロアキス(Proakis, J.G.)共著「ジ・LMS・アルゴリズム・ウィズ・ディレイド・コエフィシェント・アダプテーション(The LMS algorithm with delayed coefficient adaptation)」IEEEトランザクションズ・オン・アコースティクス・スピーチ・アンド・シグナルプロセシング(IEEE Transactions on Acoustics, Speech, and Signal Processing)第37巻、第9号、1397〜1405頁(1989年9月)において研究され確認されている。この文献は、ここに、参照により引用するものとする。
別の例では、選択基準に応じて、スイッチSの選択論理回路144は、デジタルエコー推定信号がデジタルエコーキャンセレーション経路と接続するように、スイッチ位置10が選択されるべきであると判定する。ハイブリッド419からの受信信号は、位置20の接続が遮断されているため負入力上に信号がないので、何らかの漏洩ローカルエコー信号を本質的にそのまま含んで、DAA428を通過する。ADC426は、受信信号をデジタル信号に変換すると、それをデシメータ1およびデシメータ2がそれぞれデシメートして、デシメートされた受信信号を正入力上のデジタル減算器430に送る。デジタル減算器434は、その負入力上で、補間されたデジタルエコーキャンセレーション推定信号を受信する。遠端信号が存在しない状態でTEC訓練を行う間、出力された差分信号は、適応的にECのFIR係数を訓練しエコー推定信号を生成するためのフィードバックとして時間領域エコーキャンセラユニット404に転送される。
一例において、選択基準は所定のあるいはユーザが定義したものである。他の例では、どのエコーキャンセレーション経路の接続を選択するかを決定する選択基準は、CPEモデムとCOモデムの間のループ長である。たとえば、26AWGの6Kft以上の長距離ループでは、ローカルエコー信号は、受信遠端信号よりずっと強いことがあるので、アナログエコーキャンセレーションは、ADC入力前のエコーを抽出することによって所望の遠端信号を変換するADCに、より広いダイナミックレンジを提供する。たとえば、26AWの6Kft未満の短距離ループ上では、エコー信号の電力は受信信号電力より小さく、受信信号のSNRが非常に高いので、アナログエコーキャンセラにより導入された追加DACノイズが受信信号のSNRを劣化させることがあるため、デジタルエコーキャンセラが好ましい。さらに、ADSLシステムにおいては、たとえば、スペクトル適合性の問題のため、あるループ長を超えると重複スペクトルが使用不可能であり、FDDを用いなければならない。この場合、図4のシステムの実施形態は、アナログECを用いて帯域外エコーエネルギを抑制することによりFDDが用いられる際に大がかりなアナログフィルタを使用せずにすませるという利点がある。なお、アナログECを生成するのに用いられるDACは、TX信号を送信するのに用いられるDACと同一ないし類似するものである。最近のVLSI技術の進歩により、追加DACを設けるコストはごく僅かで済む。
サンプル基盤およびブロック基盤のLMSアルゴリズムは適応エコーキャンセレーション論理回路445が実装可能なアルゴリズムの例である。これらの例について、まず、入力信号のサンプリングレートと受信信号が同じTECシステム用の例を検討する。図5は、本発明の一実施形態によるアナログエコーキャンセレーションシステムに用いられる、従来の時間領域エコーキャンセラおよびそれが最小平均二乗アルゴリズムにしたがって処理する信号を示す。
LMSアルゴリズムは、次のようにTECフィルタ係数を更新する。
w(i)はフィルタ係数(i=0,1,...,L−1)である。Lは、TECフィルタの長さである。x(k)はフィルタへの入力である。y(k)は、フィルタからの出力である。r(k)は受信信号である。e(k)はr(k)とy(k)との差である。入力信号x(k)および受信信号r(k)は同じサンプリングレートを有する。
前記手順において、TEC係数は受信サンプルごとに更新される。動作時間(SHOWTIME)、すなわち、ADSLモデムの通常のデータ送信状態において、(ADSLシステムの動作に関する背景情報については、ITU-T, G.992.1 (G.dmt), July 1999, Editor Final Version entitled “Draft New Recommendation G.992.1: Asymmetrical Digital Subscriber Line (ADSL) Transceivers - Approved”参照。この文献は、ここに、参照により引用するものとする。)TECが、エコーチャンネルの変動に適応可能であることも望まれる。しかし、受信信号は、自己エコー信号とともに遠端送信信号を含むので、その遠端信号が、特に短ループ上では、TECのLMS更新に対して大きなノイズとして作用することになろう。遠端信号のLMS更新に対する影響を抑えるため、ブロックLMSアルゴリズムを用いて、ゆるやかなエコーチャンネルの変動を追跡する。
ブロックLMSの基本的な考え方は、受信サンプルごとにではなく受信サンプルのブロックごとにTEC係数を更新することである。ブロックLMSでは、最初の2つの工程は、サンプル基盤のLMSと同様、推定信号および残差信号を計算する。しかし、第3工程では、e(k)x(k−i)を計算した後で、w(i)をすぐには更新しない。更新成分e(k)x(k−1)は、受信サンプルを1ブロック分、すなわちN個のサンプル分、蓄積してから、その蓄積したe(k)x(k−1)でw(i)を更新する。蓄積を通じて、遠端信号成分は、(ローカル送信信号x(k)から独立であるので)平均化され、LMS更新に対してエコー推定誤差成分を抽出する。この間、w(i)は変わらない。
LMSアルゴリズムの諸実施形態において、適応(FIR)フィルタ係数の更新に用いられる推定誤差は、フィルタの出力と受信信号との差として定義される。しかし、TECユニット440の実施形態では、観測可能な誤差は、補間されたTECフィルタ出力と受信信号との差である。換言すれば、TECおよび誤差信号は異なるサンプリングレートで処理していることになる。補間器がサブフィルタで構成される実施形態において、観測可能な誤差は、実際には、TECフィルタ出力での観測不可能な推定誤差のフィルタリングされたバージョンである。TECフィルタ出力での推定誤差を復元するために、観測可能な誤差を、補間器のサブフィルタごとに設計された図示せぬ等化器(たとえば、逆フィルタ)に渡すことができる。
これらの等化器を追加すると、実装形態の複雑さが増すことになる。代替的に、前記観測可能な誤差が観測不可能な誤差の遅延されたバージョンとして取り扱われるのであれば、逆フィルタリングせずとも、その遅延分だけ補償することが必要となる。図6A、6B、6Cおよび6Dは、図2の例1の非対称スペクトルで動作するADSLシステムにおいて用いられる補間器406に対する一実装例のサブフィルタ1、サブフィルタ2、サブフィルタ3、サブフィルタ4のインパルス応答をそれぞれ示す。各サブフィルタの長さは、16タップである。第1サブフィルタ(図6A)は、その第9タップで最も大きい電力を有するので、その出力の誤差は、TECユニット404を更新するために用いられる。一方で、8のサブフィルタ遅延も補償しなければならない。したがって、LMSを実行する際に、e(4k)X(k−8)を更新ベクトルとして計算する。ここで、X(k)=[x(k),x(k−1),...,x(k−L+1)]である。e(4k)は、8の時間遅延を除く観測不可能な誤差に最小のひずみを導入する第1サブフィルタ(図6A)の出力での誤差を表す。X(k−8)は、この遅延を補償するために用いられる。このLMSアルゴリズムは、アナログまたはデジタルのエコーキャンセレーション経路においてエコーキャンセレーションユニット440の実施形態によって、あるいは、エコーキャンセレーションユニット440の実施形態が図3のシステムの実施形態312においてエコーキャンセラユニット304として使用されるときに、使用することができる。さらに、LMSアルゴリズム、従来のTECユニットを使用する際に、図3のシステムの実施形態312において使用することもできる。さらに、エコーキャンセレーションシステムの実施形態432を、アナログまたはデジタルのエコーキャンセレーション経路へスイッチSによって出力が割り振られるTECユニットによる受信前に送信信号をアップサンプリングする従来のTECユニットを使用するように変形することもできる。
図7は、全二重通信システムにおけるアナログエコーキャンセレーションの方法のフローチャートを示す。図7は、図4のシステムに関連して例示を目的として説明するものである。エコーキャンセラユニット440は、送信信号およびデジタル誤差信号に基づきデジタルエコー推定信号を生成する(702)。基準がアナログECの選択を指す場合(703)、DAC414は前記デジタルエコー推定信号をアナログエコー推定信号に変換する(704)。差分アナログ増幅器428は、前記エコー推定信号と何らかのローカル誤差信号を重畳された受信信号との差を計算して(706)、アナログ誤差信号を求め、ADC Aが、そのアナログ誤差信号をデジタル誤差信号に変換する(708)。基準がアナログECの選択を示すのではない場合に(703)、ADC426は、何らかのローカル誤差信号を重畳された受信アナログをデジタル形式に変換し、デジタル減算器434はデジタルエコー推定信号と受信信号との差を計算して、デジタル誤差信号を求める。
図8は、信号の送受信に非対称な信号サンプリングレートを用いる通信システムにおいて、送信信号およびデジタル誤差信号に基づいてデジタルエコー推定信号を生成するフローチャートを示す。図8は、図4のシステムのコンテクストにおける例示を目的として説明するものである。TEC404は、受信した信号より低いサンプリングレートを有する送信信号およびデジタル誤差信号に基づき、中間エコー推定信号を生成する(802)。補間器406は、前記中間エコー推定信号を、受信した信号と同じサンプリングレートを有するデジタルエコー推定に補間する(804)。
諸実施形態において記載した要素ないし動作は、一つまたは複数が個別ユニットを構成するものとして記述してきたが、各実施形態の要素ないし動作の任意の組み合わせをソフトウェア、ハードウェア、ファームウェアまたはそれらの組み合わせとして実装してもよいのであり、同時にあるいは選択的に、コンピュータが使用可能な媒体に記憶することも可能である。
以上の本発明の諸実施形態の説明は、例示と説明を目的として提示したものである。それは、網羅的なものとすること、あるいは、本発明を開示された精確な形態に限定することを意図するものではない。上に説くところに照らし、多くの修正や変形が可能である。本発明の範囲は、この詳細な説明によってではなく、むしろ以下に添付の請求の範囲によって限定されることを意図するものである。
Claims (11)
- 低いサンプリングレートおよび高いサンプリングレートを含む非対称信号サンプリングレートを有する全二重通信システムにおいて、
前記信号サンプリングレートのうち前記低いサンプリングレートに基づいてデジタルエコー推定信号を生成するデジタルエコーキャンセラユニットと、
前記デジタルエコーキャンセラユニットと通信可能に接続され、前記デジタルエコー推定信号をアナログエコー推定信号に変換するデジタル−アナログ変換器(DAC)と、
前記DACユニットと通信可能に接続され、前記DACの帯域外ノイズを抑制する低域通過フィルタ(LPF)と、
前記LPFと通信可能に接続され、後記アナログ減衰器への入力前に前記DACの帯域外ノイズをさらに抑制するアナログ減衰器と、
前記アナログ減衰器と通信可能に接続され、前記アナログエコー推定信号を受信するとともに、通信システムインターフェースと通信可能に接続され、ローカルエコー信号を重畳された受信信号を受信して、前記エコー推定信号と前記受信信号との差を計算することによって誤差信号を生成し、前記デジタルエコーキャンセラと通信可能に接続され、前記エラー信号をそこに送信するアナログ減算器と、
前記アナログ減算器と通信可能に接続され、前記アナログ誤差信号をデジタル誤差信号に変換して、前記デジタルエコーキャンセラに送信するアナログ−デジタル変換器と
を含むことを特徴とするエコーキャンセレーションシステム。 - 前記デジタルエコーキャンセラは、デジタルエコーキャンセラ係数を調整する適応訓練アルゴリズムを実装する論理回路を含むことを特徴とする請求項1のシステム。
- 前記デジタルエコーキャンセラは、前記デジタル誤差信号を処理するための遅延を伴うおよび伴わない最小平均二乗(LMS)アルゴリズムを実装する論理回路を含むことを特徴とする請求項1のシステム。
- 前記デジタルエコー推定信号を受信するよう通信可能に接続され、受信された通信信号のレートを有する補間されたデジタルエコー推定信号を生成するとともに、さらに、前記補間されたデジタルエコー推定信号を前記DACに送信するよう通信可能に接続された補間器をさらに含むことを特徴とする請求項3のシステム。
- 前記補間されたデジタルエコー推定信号を受信するよう通信可能に接続され、アナログエコーキャンセレーション経路用およびデジタルエコーキャンセレーション経路用の2つの可能な接続と、どちらの経路と接続するかを決定する選択論理回路とを含むスイッチをさらに含むことを特徴とする請求項3のシステム。
- 前記全二重通信システムは、非対称デジタル加入者線(ADSL)システムであって、
前記ADSLシステムが短ループ長の重複スペクトルで送信するよう構成されている場合に、前記選択論理回路が前記デジタルエコーキャンセレーション経路を選択し、
前記ADSLシステムが周波数分割二重伝送用に構成されている場合に、前記選択論理回路が前記アナログエコーキャンセレーション経路を選択する
ことを特徴とする請求項5のシステム。 - 送信信号およびデジタル誤差信号に基づいてデジタルエコー推定信号を生成し、
前記デジタルエコー推定信号をアナログエコー推定信号に変換し、
前記エコー推定信号とローカルエコー信号を重畳された受信信号との差を計算してアナログ誤差信号を求め、
前記アナログ誤差信号をデジタル誤差信号に変換する
ことを特徴とする全二重通信システムにおけるエコーキャンセレーションの方法。 - 送信信号およびデジタル誤差信号に基づいてデジタルエコー推定信号を生成する際に、さらに、適応的訓練アルゴリズムを適用することを特徴とする請求項7の方法。
- 送信信号およびデジタル誤差信号に基づいてデジタルエコー推定信号を生成する際に、さらに、遅延を伴う最小平均二乗(LMS)アルゴリズムを適用することを特徴とする請求項7の方法。
- 送信信号およびデジタル誤差信号に基づいてデジタルエコー推定信号を生成する際に、さらに、
受信した信号よりも低い信号サンプリングレートを有する前記送信信号および前記デジタル誤差信号に基づいて、中間エコー推定信号を生成し、
前記中間エコー推定信号を、前記受信した信号と同じ信号サンプリングレートを有する前記デジタルエコー推定に、補間する
ことを特徴とする請求項7の方法。 - 前記全二重通信システムは、非対称デジタル加入者線(ADSL)システムであって、
さらに、
前記ADSLシステムが短ループ長の重複スペクトルで送信するよう構成されている場合に、前記デジタルエコーキャンセレーション経路を選択し、
前記ADSLシステムが周波数分割二重伝送用に構成されている場合に、前記アナログエコーキャンセレーション経路を選択する
ことを特徴とする請求項7の方法。
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