JP2007517890A - 血管障害の処置方法 - Google Patents
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Abstract
ボツリヌス毒素を患者の血管に直接投与することにより血管障害を処置するための医薬および方法。
Description
本発明は、血管障害の処置方法に関する。本発明はとりわけ、ボツリヌス毒素で血管障害を処置する方法に関する。
血管障害は、血管運動不安定状態、すなわち血管の緊張異常または収縮もしくは拡張異常に関連するか、またはそれによって引き起こされる状態を包含しうる。すなわち、血管運動不安定状態は、血管(血管部または血管複合体を包含する)の、過度の拡張、過度の収縮、または収縮−弛緩プロセスの異常を包含しうる。血管運動不安定状態は通常、血管壁要素および/または関連神経支配によって調節される。血管は、動脈、静脈および毛細血管ならびに哺乳動物物体内で血液を運搬する同様の構造を包含する。
ある血管運動不安定状態は、過度の血管収縮によって特徴付けることができる。冒された血管は、末梢に、器官の内部に、器官の上部に位置し得、器官(脳を包含する)に血液供給し得、また他の身体組織中に位置しうる。
血管運動不安定は、例えばレイノー症候群、動脈−静脈奇形、アテローム性動脈硬化、肺高血圧のような状態を包含し得、または血管移植もしくは腎臓移植の結果起こりうる。レイノー症候群は、指の淡青−赤の変色(最も一般的には低温に曝された後)によって特徴付けられる。レイノー症候群は血管痙攣に関連して起こる。動脈−静脈奇形は、動脈もしくは静脈循環のみ、またはそれら両方に関与しうる。アテローム性動脈硬化は大動脈疾患であり、心臓疾患および卒中の主因である。明らかに、アテローム性動脈硬化は単純に避けられない老化の退行的帰結とは言えず、むしろ慢性炎症性状態であり、粥腫崩壊および血栓によって急性臨床的事象へと移行しうる。
肺高血圧においては、内皮細胞が増殖して網状または同心状病変を形成し、筋線維芽細胞がムコ多糖マトリックスに包埋され、血管中膜が肥厚する故に、血管内腔が狭まっている。肺高血圧の病理生物学の主な仮説は、血管収縮が過剰であるというものであり、プロスタサイクリンなどの血管拡張物質の欠乏が患者に見られるかどうか、いくつかの研究がなされている。
腎移植は、末期腎臓疾患患者のほぼ全員にとっての選択療法であり、米国において最も一般的な種類の移植である。一般的な移植後合併症は、腎細動脈の血管収縮による毒性であり、この血管収縮作用は重篤な骨痛および高血圧に関与しうる。
ボツリヌス毒素
クロストリジウム属には127を越える種があり、形態学および機能に従って分類されている。嫌気性グラム陽性細菌であるボツリヌス菌(Clostridium botulinum)は、ボツリヌス中毒と呼ばれる神経麻痺性障害をヒトおよび動物において引き起こす強力なポリペプチド神経毒であるボツリヌス毒素を産生する。ボツリヌス菌の胞子は土壌中に見出され、滅菌と密閉が不適切な零細缶詰工場の食品容器内で増殖する可能性があり、これが多くのボツリヌス中毒症例の原因である。ボツリヌス中毒の影響は、通例、ボツリヌス菌の培養物または胞子で汚染された食品を飲食した18〜36時間後に現れる。ボツリヌス毒素は、消化管内を弱毒化されないで通過することができ、そして末梢運動ニューロンを攻撃することができるようである。ボツリヌス毒素中毒の症状は、歩行困難、嚥下困難および会話困難から、呼吸筋の麻痺および死にまで進行し得る。
クロストリジウム属には127を越える種があり、形態学および機能に従って分類されている。嫌気性グラム陽性細菌であるボツリヌス菌(Clostridium botulinum)は、ボツリヌス中毒と呼ばれる神経麻痺性障害をヒトおよび動物において引き起こす強力なポリペプチド神経毒であるボツリヌス毒素を産生する。ボツリヌス菌の胞子は土壌中に見出され、滅菌と密閉が不適切な零細缶詰工場の食品容器内で増殖する可能性があり、これが多くのボツリヌス中毒症例の原因である。ボツリヌス中毒の影響は、通例、ボツリヌス菌の培養物または胞子で汚染された食品を飲食した18〜36時間後に現れる。ボツリヌス毒素は、消化管内を弱毒化されないで通過することができ、そして末梢運動ニューロンを攻撃することができるようである。ボツリヌス毒素中毒の症状は、歩行困難、嚥下困難および会話困難から、呼吸筋の麻痺および死にまで進行し得る。
A型ボツリヌス毒素は、人類に知られている最も致死性の天然の生物学的物質である。市販A型ボツリヌス毒素(精製された神経毒複合体;100単位バイアルとして、BOTOX(登録商標)の商標でAllergan,Inc.(カリフォルニア州アービン)から入手可能である)の約50ピコグラムがマウスにおけるLD50(すなわち1単位)である。1単位のBOTOX(登録商標)は、約50ピコグラム(約56アトモル)のA型ボツリヌス毒素複合体を含む。興味深いことに、モル基準でA型ボツリヌス毒素の致死力はジフテリアの18億倍、シアン化ナトリウムの6億倍、コブロトキシンの3000万倍、コレラの1200万倍である。Natuaral Toxins II[B. R. Singhら編、Plenum Press、ニューヨーク(1976)]のSingh、Critical Aspects of Bacterial Protein Toxins、第63〜84頁(第4章)(ここで、記載されるA型ボツリヌス毒素LD50 0.3ng=1Uとは、BOTOX(登録商標)約0.05ng=1Uという事実に補正される)。1単位(U)のボツリヌス毒素は、それぞれが18〜20グラムの体重を有するメスのSwiss Websterマウスに腹腔内注射されたときのLD50として定義される。
7種類の血清学的に異なるボツリヌス神経毒が特徴付けられており、これらは、型特異的抗体による中和によってそのそれぞれが識別されるボツリヌス神経毒血清型A、B、C1、D、E、FおよびGである。ボツリヌス毒素のこれらの異なる血清型は、それらが冒す動物種、ならびにそれらが惹起する麻痺の重篤度および継続時間が異なる。例えば、A型ボツリヌス毒素は、ラットにおいて生じる麻痺率により評価された場合、B型ボツリヌス毒素よりも500倍強力であることが確認されている。また、B型ボツリヌス毒素は、霊長類では480U/kgの投与量で非毒性であることが確認されている。この投与量は、A型ボツリヌス毒素の霊長類LD50の約12倍である。Jankovic, J.ら編、"Therapy With Botulinum Toxin"(1994)(Mercel Dekker, Inc.)の第71-85頁、第6章の、Moyer Eら、Botulinum Toxin Type B: Experimental and Clinical Experience。ボツリヌス毒素は、コリン作動性の運動ニューロンに大きな親和性で結合して、ニューロンに移動し、アセチルコリン放出を阻止するようである。低親和性受容体を介して、また食作用および飲作用によってもさらに取り込みが起こりうる。
血清型に関係なく、毒素中毒の分子メカニズムは類似し、少なくとも3つの過程または段階を含むようである。第1段階において、毒素は、重鎖(H鎖)と細胞表面受容体との特異的相互作用によって、標的ニューロンのシナプス前膜に結合する。受容体は、ボツリヌス毒素の各血清型および破傷風毒素で異なると考えられる。H鎖のカルボキシル末端セグメント(HC)は、毒素を細胞表面に指向させるのに重要であるようである。
第2段階において、毒素は、細胞の形質膜を横切る。毒素は、初めに、受容体媒介エンドサイトーシスにより細胞に包み込まれ、毒素を含有するエンドソームが形成される。次に、毒素は、エンドソームから該細胞の細胞質中に逃れ出る。この段階は、約5.5またはそれ以下のpHに反応して毒素のコンフォメーション変化を誘発するH鎖のアミノ末端セグメント(HN)によって媒介されると考えられる。エンドソームは、エンドソーム内pHを低下させるプロトンポンプを有することが既知である。コンフォメーションのシフトは毒素中の疎水性残基を露出させ、これが、毒素をエンドソーム膜内に埋込むことを可能にする。次に、毒素(または少なくともその軽鎖)が、エンドソーム膜を通って細胞質に移動する。
ボツリヌス毒素活性のメカニズムの最終段階は、重鎖(H鎖)および軽鎖(L鎖)を結合するジスルフィド結合の減少を伴うようである。ボツリヌス毒素および破傷風毒素の全毒素活性は、ホロトキシンのL鎖に含まれる。L鎖は亜鉛(Zn++)エンドペプチダーゼであり、これは、神経伝達物質を含有する小胞の認識および形質膜の細胞質表面とのドッキングならびに小胞と形質膜との融合に必須であるタンパク質を選択的に開裂する。破傷風神経毒、ボツリヌス毒素B、D、FおよびG型は、シナプトソーム膜タンパク質であるシナプトブレビン[小胞関連膜タンパク質(VAMP)とも称される]の分解を引き起こす。シナプス小胞の細胞質表面に存在する大部分のVAMPは、これらの開裂現象のいずれかの結果として除去される。A型およびE型ボツリヌス毒素はSNAP-25を開裂する。C1型ボツリヌス毒素ははじめはシンタキシンを開裂すると考えられたが、シンタキシンおよびSNAP-25の両方を開裂することがわかった。各毒素は異なるアミノ酸配列を特異的に開裂する。ただし、B型ボツリヌス毒素(および破傷風毒素)は、関連するドッキングタンパク質の同じアミノ酸配列を開裂する。これら開裂はそれぞれ、小胞−膜ドッキングの過程を遮断し、それによって小胞内容物のエキソサイトーシスを阻害する。
ボツリヌス毒素は、活動過多な骨格筋(すなわち運動障害)によって特徴付けられる神経筋障害を処置するために臨床的状況において使用されている。A型ボツリヌス毒素は、本態性眼瞼痙攣、斜視および片側顔面痙攣を処置するために1989年に米国食品医薬品局によって承認された。その後、A型ボツリヌス毒素は頸部ジストニーの処置および眉間しわの処置のためにもFDAによって承認され、B型ボツリヌス毒素は頸部ジストニーの処置のために承認された。非A型ボツリヌス毒素は、A型ボツリヌス毒素と比較して、効力が小さく、および/または活性持続が短いようである。末梢筋肉内A型ボツリヌス毒素の臨床的効果は、通常、注射後1週間以内に認められる。A型ボツリヌス毒素の単回筋肉内注射による症候緩和の典型的な継続時間は平均約3ヶ月であり得るが、顕著により長い処置活性期間も報告されている。
すべてのボツリヌス毒素血清型が神経筋接合部における神経伝達物質アセチルコリンの放出を阻害するようであるが、そのような阻害は、種々の神経分泌タンパク質に作用し、かつ/またはこれらのタンパク質を異なる部位で切断することによって行われる。例えば、A型およびE型ボツリヌス毒素はいずれも、25キロダルトン(kD)のシナプトソーム関連タンパク質(SNAP-25)を切断するが、それぞれ異なるタンパク質内アミノ酸配列を標的とする。B型、D型、F型およびG型のボツリヌス毒素は小胞関連タンパク質(VAMP、これはまたシナプトブレビンとも呼ばれる)に作用し、それぞれの血清型によってこのタンパク質は異なる部位で切断される。最後に、C1型ボツリヌス毒素は、シンタキシンおよびSNAP-25の両者を切断することが明らかにされている。作用機序におけるこれらの相違が、様々なボツリヌス毒素血清型の相対的な効力および/または作用の継続時間に影響していると考えられる。明らかに、ボツリヌス毒素の基質は、多様な細胞種に見られる。例えばBiochem, J 1;339(pt 1): 159-65: 1999およびMov Disord, 10(3):376:1995(膵島B細胞は少なくともSNAP-25およびシナプトブレビンを含有する)参照。
ボツリヌス毒素タンパク質分子の分子量は、既知のボツリヌス毒素血清型の7つのすべてについて約150kDである。興味深いことに、これらのボツリヌス毒素は、会合する非毒素タンパク質とともに150kDのボツリヌス毒素タンパク質分子を含む複合体としてクロストリジウム属細菌によって放出される。例えば、A型ボツリヌス毒素複合体は、900kD、500kDおよび300kDの形態としてクロストリジウム属細菌によって産生され得る。B型およびC1型のボツリヌス毒素は700kDまたは500kDの複合体としてのみ産生されるようである。D型ボツリヌス毒素は300kDおよび500kDの両方の複合体として産生される。最後に、E型およびF型のボツリヌス毒素は約300kDの複合体としてのみ産生される。これらの複合体(すなわち、約150kDよりも大きな分子量)は、非毒素のヘマグルチニンタンパク質と、非毒素かつ非毒性の非ヘマグルチニンタンパク質とを含むと考えられる。これらの2つの非毒素タンパク質(これらは、ボツリヌス毒素分子とともに、関連する神経毒複合体を構成し得る)は、変性に対する安定性をボツリヌス毒素分子に与え、そして毒素が摂取されたときに消化酸からの保護を与えるように作用すると考えられる。また、より大きい(分子量が約150kDよりも大きい)ボツリヌス毒素複合体は、ボツリヌス毒素複合体の注射部位からのボツリヌス毒素の拡散速度を低下させ得ると考えられる。
インビトロでの研究により、ボツリヌス毒素が、脳幹組織の初代細胞培養物からのアセチルコリンおよびノルエピネフリンの両方の、カリウムカチオンにより誘導される放出を阻害することが示されている。また、ボツリヌス毒素は、脊髄ニューロンの初代培養物におけるグリシンおよびグルタメートの両方の誘発された放出を阻害すること、そして脳のシナプトソーム調製物において、ボツリヌス毒素が神経伝達物質のアセチルコリン、ドーパミン、ノルエピネフリン(Habermann E.ら、Tetanus Toxin and Botulinum A and C Neurotoxins Inhibit Noradrenaline Release From Cultured Mouse Brain, J Neurochem 51(2); 522-527: 1988)、CGRP、サブスタンスPおよびグルタメート(Sanchez-Prieto, J.ら、Botulinum Toxin A Blocks Glutamate Exocytosis From Guinea Pig Cerebral Cortical Synaptosomes, Eur J. Biochem 165; 675-681: 1897)のそれぞれの放出を阻害することが報告されている。すなわち、充分な濃度を用いれば、大部分の神経伝達物質の刺激により誘発される放出はボツリヌス毒素によってブロックされる。
例えば、Pearce, L.B., Pharmacologic Characterization of Botulinum Toxin For Basic Science and Medicine, Toxicon 35(9); 1373-1412の1393; Bigalke H.ら, Botulinum A Neurotoxin Inhibits Non-Cholinergic Synaptic Transmission in Mouse Spinal Cord Neurons in Culture, Brain Research 360; 318-324; 1985; Habermann E., Inhibition by Tetanus and Botulinum A Toxin of the release of [3H]Noradrenaline and [3H]GABA From Rat Brain Homogenate, Experientia 44; 224-226: 1988, Bigalke H.ら, Tetanus Toxin and Botulinum A Toxin Inhibit Release and Uptake of Various Transmitters, as Studied with Particulate Preparations From Rat Brain and Spinal Cord, Naunyn-Schmiedeberg's Arch Pharmacol 316; 244-251: 1981, および;Jankovic J.ら, Therapy With Botulinum Toxin, Marcel Dekker, Inc. (1994), 第5頁参照。
A型ボツリヌス毒素は、既知の手順に従って、培養槽におけるボツリヌス菌の培養を確立して、生育させ、その後、発酵混合物を集め、精製することによって得ることができる。すべてのボツリヌス毒素血清型は、神経活性となるためにはプロテアーゼによって切断またはニッキングされなければならない不活性な単鎖タンパク質として最初に合成される。A型およびG型のボツリヌス毒素血清型を産生する細菌株は内因性プロテアーゼを有するので、A型およびG型の血清型は細菌培養物から主にその活性型で回収することができる。これに対して、C1型、D型およびE型のボツリヌス毒素血清型は非タンパク質分解性菌株によって合成されるので、培養から回収されたときには、典型的には不活性型である。B型およびF型の血清型はタンパク質分解性菌株および非タンパク質分解性菌株の両方によって産生されるので、活性型または不活性型のいずれでも回収することができる。しかし、例えば、B型ボツリヌス毒素を産生するタンパク質分解性菌株でさえも、産生された毒素の一部を切断するだけである。
切断型分子と非切断型分子との正確な比率は培養時間の長さおよび培養温度に依存する。したがって、例えばB型ボツリヌス毒素の製剤はいずれも一定割合が不活性であると考えられ、このことが、A型ボツリヌス毒素と比較したB型ボツリヌス毒素の知られている著しく低い効力の原因であると考えられる。臨床製剤中に存在する不活性なボツリヌス毒素分子は、その製剤の総タンパク質量の一部を占めることになるが、このことはその臨床的効力に寄与せず、抗原性の増大に関連づけられている。また、B型ボツリヌス毒素は、筋肉内注射された場合、同じ用量レベルのA型ボツリヌス毒素よりも、活性の継続期間が短く、そしてまた効力が低いことも知られている。
ボツリヌス菌のHall A株から、≧3×107U/mg、A260/A2780.60未満、およびゲル電気泳動における明確なバンドパターンという特性を示す高品質結晶A型ボツリヌス毒素を生成し得る。Shantz,E.J.ら、Properties and use of Botulinum toxin and Other Microbial Neurotoxins in Medicine、Microbiol Rev.56:80−99(1992)に記載されているように既知のShanz法を用いて結晶A型ボツリヌス毒素を得ることができる。通例、A型ボツリヌス毒素複合体を、適当な培地中でA型ボツリヌス菌を培養した嫌気培養物から分離および精製し得る。この既知の方法を用い、非毒素タンパク質を分離除去して、例えば次のような純ボツリヌス毒素を得ることもできる:比効力1〜2×108LD50U/mgまたはそれ以上の分子量約150kDの精製A型ボツリヌス毒素;比効力1〜2×108LD50U/mgまたはそれ以上の分子量約156kDの精製B型ボツリヌス毒素;および比効力1〜2×107LD50U/mgまたはそれ以上の分子量約155kDの精製F型ボツリヌス毒素。
ボツリヌス毒素および/またはボツリヌス毒素複合体は、List Biological Laboratories,Inc.(キャンベル、カリフォルニア);the Centre for Applied Microbiology and Research(ポートン・ダウン、イギリス);Wako(日本、大阪);Metabiologics(マディソン、ウィスコンシン);およびSigma Chemicals(セントルイス、ミズーリ)から入手し得る。純粋なボツリヌス毒素を医薬組成物の製造に使用することもできる。
酵素一般について言えるように、ボツリヌス毒素(細胞内ペプチダーゼ)の生物学的活性は、少なくとも部分的にはその三次元形状に依存する。すなわち、A型ボツリヌス毒素は、熱、種々の化学薬品、表面の伸長および表面の乾燥によって無毒化される。しかも、既知の培養、発酵および精製によって得られた毒素複合体を、医薬組成物に使用する非常に低い毒素濃度まで希釈すると、適当な安定剤が存在しなければ毒素の無毒化が急速に起こることが知られている。毒素をmg量からng/ml溶液へ希釈するのは、そのような大幅な希釈によって毒素の比毒性が急速に低下する故に、非常に難しい。毒素含有医薬組成物を製造後、何箇月も、または何年も経過してから毒素を使用することもあるので、毒素をアルブミンおよびゼラチンのような安定剤で安定化することができる。
市販のボツリヌス毒素含有医薬組成物は、BOTOX(登録商標)(カリフォルニア、アーヴィンのAllergan,Inc.から入手可能)の名称で市販されている。BOTOX(登録商標)は、精製A型ボツリヌス毒素複合体、アルブミンおよび塩化ナトリウムから成り、無菌の減圧乾燥形態で包装されている。このA型ボツリヌス毒素は、N−Zアミンおよび酵母エキスを含有する培地中で増殖させたボツリヌス菌のHall株の培養物から調製する。そのA型ボツリヌス毒素複合体を培養液から一連の酸沈殿によって精製して、活性な高分子量毒素タンパク質および結合ヘマグルチニンタンパク質から成る結晶複合体を得る。結晶複合体を、塩およびアルブミンを含有する溶液に再溶解し、滅菌濾過(0.2μ)した後、減圧乾燥する。減圧乾燥生成物は、-5℃またはそれ以下の冷凍庫内で保存する。BOTOX(登録商標)は、筋肉内注射前に、防腐していない無菌塩類液で再構成し得る。BOTOX(登録商標)の各バイアルは、A型ボツリヌス毒素精製神経毒複合体約100単位(U)、ヒト血清アルブミン0.5mgおよび塩化ナトリウム0.9mgを、防腐剤不含有の無菌減圧乾燥形態で含有する。
減圧乾燥BOTOX(登録商標)を再構成するには、防腐剤不含有の無菌生理食塩水;0.9%Sodium Chloride Injectionを使用し、適量のその希釈剤を適当な大きさの注射器で吸い上げる。BOTOX(登録商標)は、泡立てまたは同様の激しい撹拌によって分散または変性しうるので、そのバイアルに希釈剤を穏やかに注入する。滅菌性の理由から、BOTOX(登録商標)は、バイアルを冷凍庫から取り出して再構成した後4時間以内に投与することが好ましい。その4時間の間、再構成BOTOX(登録商標)は冷蔵庫(約2〜8℃)内で保管しうる。再構成し冷蔵したBOTOX(登録商標)は、その効力を少なくとも約2週間維持することが報告されている。Neurology, 48:249-53:1997。
A型ボツリヌス毒素は下記のように臨床的に使用されている:
(1)頸部ジストニーを処置するための筋肉内注射(多数の筋肉)あたり約75単位〜125単位のBOTOX(登録商標);
(2)眉間のしわを処置するための筋肉内注射あたり約5単位〜10単位のBOTOX(登録商標)(5単位が鼻根筋に筋肉内注射され、10単位がそれぞれの皺眉筋に筋肉内注射される);
(3)恥骨直腸筋の括約筋内注射による便秘を処置するための約30単位〜80単位のBOTOX(登録商標);
(4)上瞼の外側瞼板前部眼輪筋および下瞼の外側瞼板前部眼輪筋に注射することによって眼瞼痙攣を処置するために筋肉あたり約1単位〜5単位の筋肉内注射されるBOTOX(登録商標);
(1)頸部ジストニーを処置するための筋肉内注射(多数の筋肉)あたり約75単位〜125単位のBOTOX(登録商標);
(2)眉間のしわを処置するための筋肉内注射あたり約5単位〜10単位のBOTOX(登録商標)(5単位が鼻根筋に筋肉内注射され、10単位がそれぞれの皺眉筋に筋肉内注射される);
(3)恥骨直腸筋の括約筋内注射による便秘を処置するための約30単位〜80単位のBOTOX(登録商標);
(4)上瞼の外側瞼板前部眼輪筋および下瞼の外側瞼板前部眼輪筋に注射することによって眼瞼痙攣を処置するために筋肉あたり約1単位〜5単位の筋肉内注射されるBOTOX(登録商標);
(5)斜視を処置するために、外眼筋に、約1単位〜5単位のBOTOX(登録商標)が筋肉内注射されている。この場合、注射量は、注射される筋肉のサイズと所望する筋肉麻痺の程度(すなわち、所望するジオプター矯正量)との両方に基づいて変化する。
(6)卒中後の上肢痙性を処置するために、下記のように5つの異なる上肢屈筋にBOTOX(登録商標)が筋肉内注射される:
(a)深指屈筋:7.5U〜30U
(b)浅指屈筋:7.5U〜30U
(c)尺側手根屈筋:10U〜40U
(d)橈側手根屈筋:15U〜60U
(e)上腕二頭筋:50U〜200U。5つの示された筋肉のそれぞれには同じ処置時に注射されるので、患者には、それぞれの処置毎に筋肉内注射によって90U〜360Uの上肢屈筋BOTOX(登録商標)が投与される。
(7)偏頭痛を治療するために、25UのBOTOX(登録商標)を頭蓋周囲に注射する(眉間、前頭および側頭筋に対称的に注射する):該注射は、偏頭痛頻度、最大重症度、付随嘔吐および急性薬剤使用の減少(25U注射後の3ヶ月間にわたる)によって評価した場合に、ビヒクルと比較して、偏頭痛の予防療法として有意な利益を与える。
(6)卒中後の上肢痙性を処置するために、下記のように5つの異なる上肢屈筋にBOTOX(登録商標)が筋肉内注射される:
(a)深指屈筋:7.5U〜30U
(b)浅指屈筋:7.5U〜30U
(c)尺側手根屈筋:10U〜40U
(d)橈側手根屈筋:15U〜60U
(e)上腕二頭筋:50U〜200U。5つの示された筋肉のそれぞれには同じ処置時に注射されるので、患者には、それぞれの処置毎に筋肉内注射によって90U〜360Uの上肢屈筋BOTOX(登録商標)が投与される。
(7)偏頭痛を治療するために、25UのBOTOX(登録商標)を頭蓋周囲に注射する(眉間、前頭および側頭筋に対称的に注射する):該注射は、偏頭痛頻度、最大重症度、付随嘔吐および急性薬剤使用の減少(25U注射後の3ヶ月間にわたる)によって評価した場合に、ビヒクルと比較して、偏頭痛の予防療法として有意な利益を与える。
ボツリヌス毒素A型は、最大12ヶ月の有効性を有し(European J.Neurology 6(Supp 4), S111-S1150, 1999)、ある場合には27ヶ月間にもわたる有効性を有しうることが既知である(腺の処置、例えば多汗症の処置に用いられる場合)。例えば、Bushara K., Botulinum toxin and rhinorrhea, Otolaryngol Head Neck Surg 1996; 114(3):507、およびThe Laryngoscope 109: 1344-1346: 1999参照。しかし、BOTOX(登録商標)筋肉注射の通常の持続期間は一般に約3〜4ヶ月間である。
種々の臨床症状の治療におけるボツリヌス毒素A型の成功は、他のボツリヌス毒素血清型への関心を高めている。商業的に入手可能な2つのヒト用ボツリヌス毒素A型調製物は、BOTOX(登録商標)(カリフォルニア、アーヴィンのAllergan, Inc.から市販されている)およびDysport(登録商標)(イギリス、ポートン・ダウンのBeaufour Ipsenから市販されている)である。B型ボツリヌス毒素の調製物(MyoBloc、登録商標)は、カリフォルニア、サンフランシスコのElan Pharmaceuticalsから市販されている。
末梢部位における薬理作用を有する他に、ボツリヌス毒素は、中枢神経系における阻害作用も有しうる。Weigandら[Nauny-Schmiedeberg's Arch.Pharmacol. 1976, 292,161-165]、およびHabermann[Nauny-Schmiedeberg's Arch.Pharmacol. 1974, 281,47-56]の研究は、ボツリヌス毒素が逆行性輸送によって脊髄領域へ上行しうることを示している。従って、末梢部位(例えば筋肉内)に注射されたボツリヌス毒素は、脊髄に逆行輸送されうる。
米国特許第5989545号は、特定の標的化成分に化学的に結合させるかまたは組換え的に融合させた改質クロストリジウム属神経毒またはそのフラグメント、好ましくはボツリヌス毒素を使用して、脊髄に薬剤を投与することによって痛みを治療できることを開示している。
ボツリヌス毒素は、例えば次のような障害を包含する多くの障害の処置にも提案され、または使用されている:中耳炎(米国特許第5766605号)、内耳障害(米国特許第6265379号、第6358926号)、緊張頭痛(米国特許第6458365号)、片頭痛(米国特許第5714468号)、術後痛および内臓痛(米国特許第6464986号)、毛髪の成長および維持(米国特許第6299893号)、乾癬および皮膚炎(米国特許第5670484号)、損傷筋肉(米国特許第6423319号)、種々の癌(米国特許第6139845号)、平滑筋疾患(米国特許第5437291号;血管痙攣障害、および血管平滑筋へのボツリヌス毒素注射を包含する)、および神経性炎症(米国特許第6063768号)。制御放出毒素インプラント(例えば米国特許第6306423号および第6312708号参照)、また経皮ボツリヌス毒素投与(米国特許出願第10/194805号)が知られている。
国際特許出願WO03/084567には、心臓血管障害の処置にボツリヌス毒素を使用することが記載されており、WO01/10458には、心筋障害の処置にボツリヌス毒素を使用することが記載されている。多汗治療後の失神発作を解消することが、Moro E.ら、Suppression of syncopes after botulinum toxin treatment, Mov Disord 2002; 17(Suppl 5):S242 ABS P780に記載されており、顔面潮紅を軽減することが、Tugnoli V.ら、The role of gustatory flushing in Frey's syndrome and its treatment with botulinum toxin type A, Clin Auton Res 2002; 12(3): 174-178に記載されている。
破傷風毒素ならびにその誘導体(すなわち非天然ターゲティング部分を持つもの)、断片、ハイブリッドおよびキメラも、治療有効性を持ちうる。破傷風毒素はボツリヌス毒素との類似点を数多く持っている。例えば、破傷風毒素とボツリヌス毒素はどちらも、クロストリジウム属の近縁種(それぞれ破傷風菌(Clostridium tenani)およびボツリヌス菌(Clostridium botulinum))によって産生されるポリペプチドである。また、破傷風毒素とボツリヌス毒素はどちらも、1つのジスルフィド結合によって重鎖(分子量約100kD)に共有結合している軽鎖(分子量約50kD)から構成される二本鎖タンパク質である。したがって、破傷風毒素の分子量と、7つの各ボツリヌス毒素(非複合体型)の分子量は、約150kDである。さらに、破傷風毒素でもボツリヌス毒素でも、軽鎖は細胞内生物活性(プロテアーゼ活性)を示すドメインを持ち、重鎖は受容体結合(免疫原)ドメインと細胞膜移行ドメインとを持っている。
さらに、破傷風毒素とボツリヌス毒素はどちらも、シナプス前コリン作動性ニューロンの表面にあるガングリオシド受容体に対して高い特異的親和性を示す。末梢コリン作動性ニューロンによる破傷風毒素の受容体仲介エンドサイトーシスは、逆行性軸索輸送、中枢シナプスからの抑制性神経伝達物質の放出の阻害および痙性麻痺をもたらす。これに対して、末梢コリン作動性ニューロンによるボツリヌス毒素の受容体仲介エンドサイトーシスは、逆行性輸送を示すことは証明されていないが、中毒した末梢運動ニューロンからのアセチルコリンエキソサイトーシスの阻害、および弛緩性麻痺の性質は有する。
最後に、破傷風毒素とボツリヌス毒素は、その生合成および分子構造が互いに似ている。例えば、破傷風毒素とA型ボツリヌス毒素のタンパク質配列には全体で34%の一致度があり、いくつかの機能ドメインについては62%もの配列一致度がある。Binz T. ら、The Complete Sequence of Botulinum Neurotoxin Type A and Comparison with Other Clostridial Neurotoxins, J Biological Chemistry 265(16);9153-9158:1990。
アセチルコリン
複数の神経調節物質が同一ニューロンから放出されうることを示唆する証拠があるが、典型的には、単一タイプの小分子の神経伝達物質のみが、哺乳動物の神経系において各タイプのニューロンによって放出される。神経伝達物質アセチルコリンが脳の多くの領域においてニューロンによって分泌されているが、具体的には運動皮質の大錐体細胞によって、基底核におけるいくつかの異なるニューロンによって、骨格筋を神経支配する運動ニューロンによって、自律神経系(交感神経系および副交感神経系の両方)の節前ニューロンによって、筋紡錘線維のbag 1線維によって、副交感神経系の節後ニューロンによって、そして交感神経系の一部の節後ニューロンによって分泌されている。本質的には、汗腺、立毛筋および少数の血管に至る節後交感神経線維のみがコリン作動性であり、交感神経系の節後ニューロンの大部分は神経伝達物質のノルエピネフリンを分泌する。ほとんどの場合、アセチルコリンは興奮作用を有する。しかし、アセチルコリンは、迷走神経による心拍の抑制のように、抑制作用を一部の末梢副交感神経終末において有することが知られている。
複数の神経調節物質が同一ニューロンから放出されうることを示唆する証拠があるが、典型的には、単一タイプの小分子の神経伝達物質のみが、哺乳動物の神経系において各タイプのニューロンによって放出される。神経伝達物質アセチルコリンが脳の多くの領域においてニューロンによって分泌されているが、具体的には運動皮質の大錐体細胞によって、基底核におけるいくつかの異なるニューロンによって、骨格筋を神経支配する運動ニューロンによって、自律神経系(交感神経系および副交感神経系の両方)の節前ニューロンによって、筋紡錘線維のbag 1線維によって、副交感神経系の節後ニューロンによって、そして交感神経系の一部の節後ニューロンによって分泌されている。本質的には、汗腺、立毛筋および少数の血管に至る節後交感神経線維のみがコリン作動性であり、交感神経系の節後ニューロンの大部分は神経伝達物質のノルエピネフリンを分泌する。ほとんどの場合、アセチルコリンは興奮作用を有する。しかし、アセチルコリンは、迷走神経による心拍の抑制のように、抑制作用を一部の末梢副交感神経終末において有することが知られている。
自律神経系の遠心性シグナルは交感神経系または副交感神経系のいずれかを介して身体に伝えられる。交感神経系の節前ニューロンは、脊髄の中間外側角に存在する節前交感神経ニューロン細胞体から伸びている。細胞体から伸びる節前交感神経線維は、脊椎傍交感神経節または脊椎前神経節のいずれかに存在する節後ニューロンとシナプスを形成する。交感神経系および副交感神経系の両方の節前ニューロンはコリン作動性であるので、神経節にアセチルコリンを適用することにより、交感神経および副交感神経の両方の節後ニューロンが興奮し得る。
アセチルコリンは、ムスカリン性受容体およびニコチン性受容体の2種類の受容体を活性化する。ムスカリン性受容体は、副交感神経系の節後ニューロンによって刺激されるすべてのエフェクター細胞において、また、交感神経系の節後コリン作動性ニューロンに刺激されるエフェクター細胞において見られる。ニコチン性受容体は、副腎髄質、ならびに自律神経節内、すなわち交感神経系および副交感神経系の両方の節前ニューロンと節後ニューロンとの間のシナプスにおける節後ニューロンの細胞表面に見られる。ニコチン性受容体はまた、多くの非自律神経終末、例えば神経筋接合部における骨格筋繊維の膜にも存在する。
アセチルコリンは、小さい透明な細胞内小胞がシナプス前のニューロン細胞膜と融合したときにコリン作動性ニューロンから放出される。非常に様々な非ニューロン分泌細胞、例えば副腎髄質(PC12細胞株と同様に)および膵臓の島細胞が、それぞれカテコールアミン類および上皮小体ホルモンを大きな高密度コア小胞から放出する。PC12細胞株は、交感神経副腎発達の研究のために組織培養モデルとして広範囲に使用されているラットのクロム親和性細胞腫細胞のクローンである。ボツリヌス毒素は、(エレクトロポレーションによるように)透過性にされた場合、または脱神経支配細胞に毒素を直接注射することによって、両タイプの細胞からの両タイプの化合物の放出をインビトロで阻害する。ボツリヌス毒素はまた、皮質シナプトソーム細胞培養物からの神経伝達物質グルタメートの放出を阻止することが知られている。
神経筋接合部は、筋肉細胞への軸索の近接によって、骨格筋において形成される。神経系を介して伝達される信号は、イオンチャンネルを活性化して末端軸索における活動電位を生じ、例えば神経筋接合部の運動終板において、ニューロン内シナプス小胞からの神経伝達物質アセチルコリンの放出を生じる。アセチルコリンは、細胞外空間を通って、筋肉終板の表面のアセチルコリン受容体タンパク質と結合する。一旦、充分な結合が生じると、筋肉細胞の活動電位は、特異性膜イオンチャンネル変化を生じ、筋肉細胞収縮を生じる。次に、アセチルコリンが筋肉細胞から放出され、細胞外空間においてコリンエステラーゼによって代謝される。代謝産物は、さらなるアセチルコリンに再処理するために末端軸索に再循環される。
血管障害を効果的に処置する方法が必要とされている。
本発明はこの必要を満たし、血管障害を処置する方法を提供する。本発明の方法は、哺乳動物の血管に有効量のボツリヌス毒素を直接投与して血管障害を処置するステップを含んで成る。一実施形態においては、血管障害の処置により、望ましくない血管収縮を防止する。
本明細書では以下の定義が適用される。
「約」とは、「およそ」または「ほぼ」を意味し、本明細書に記載する数値または範囲については、記載した数値または範囲の±10%を意味する。
「約」とは、「およそ」または「ほぼ」を意味し、本明細書に記載する数値または範囲については、記載した数値または範囲の±10%を意味する。
「軽減」とは血管障害症状の発生の減少を意味する。したがって軽減には、血管障害症状の多少の減少、顕著な減少、ほぼ完全な減少、および完全な減少が含まれる。軽減効果は、患者へのボツリヌス神経毒の投与後、1〜7日間は、臨床的に現れないこともありうる。
「ボツリヌス毒素」とは、純粋な毒素(すなわち分子量約150kDa)または複合体(すなわち、神経毒分子および1つまたはそれ以上の関連非毒素分子を含む約300〜900kDaの複合体)としてのボツリヌス神経毒を意味し、細胞傷害性ボツリヌス毒素C2およびC3などの神経毒でないボツリヌス毒素は除外されるが、組換え産生、ハイブリッド、修飾およびキメラボツリヌス毒素は含まれる。
「局所投与」とは、患者の血管障害の皮膚または皮下部分にまたはその近傍に、医薬剤を投与すること、または利用可能とすること(例えば、皮下経路、筋肉内経路、皮膚下経路または経皮経路による)を意味する。
「処置する」とは、血管障害の少なくとも1つの症状を一時的または永続的に軽減(または解消)することを意味する。
「処置する」とは、血管障害の少なくとも1つの症状を一時的または永続的に軽減(または解消)することを意味する。
「血管障害」とは、血管の緊張異常または収縮もしくは拡張異常を意味する。血管運動不安定状態は、血管(血管部または血管複合体を包含する)の過度の拡張、過度の収縮、または収縮−弛緩プロセスの異常の故に、血管障害でありうる。血管障害は、血管移植後または組織(例えば腎臓)移植術後に起こりうる。
血管障害を処置するための本発明の方法は、患者の血管障害部分、例えば顔、手または足にボツリヌス神経毒を局所投与するステップを有しうる。局所投与とは、血管障害部分へ直接に、またはその中へ、またはその近傍へ、注射などによりボツリヌス神経毒を投与することを意味する。
本発明の実施において、ボツリヌス神経毒は、約10-3単位/kg患者体重〜約35単位/kg患者体重の量で局所投与しうる。好ましくは、神経毒を約10-2U/kg患者体重〜約25U/kg患者体重の量で局所投与する。より好ましくは、神経毒を約10-1U/kg〜約15U/kgの量で投与する。特に好ましい本発明方法においては、ボツリヌス神経毒を約1U/kg〜約10U/kgの量で局所投与する。臨床的には、血管障害を効果的に処置するために、1〜3000Uの神経毒、例えばA型またはB型ボツリヌス毒素を血管障害部分に局所適用または皮下投与により注射することが有利でありうる。
本発明の方法は、血管障害患者または血管障害を起こし易い患者へのボツリヌス毒素の投与によって実施することができる。使用するボツリヌス毒素は、好ましくは、A、B、C、D、E、FまたはG型ボツリヌス毒素などのボツリヌス毒素(複合体または純粋物[すなわち約150kDa分子])である。ボツリヌス毒素の投与は、経皮投与経路によって(すなわちクリーム剤、貼付剤またはローション賦形剤中のボツリヌス毒素を適用することによって)、皮下投与経路(すなわち皮下または筋肉内)によって、もしくは皮内投与経路によって、またはボツリヌス毒素を血管壁に注射することによって行なうことができる。
本発明で使用されるボツリヌス毒素の用量は、筋肉を麻痺させるために使用される毒素の量より少なくしうる。なぜなら、本発明による方法が意図するのは、筋肉を麻痺させることではなく、血管障害を処置することだからである。
ボツリヌス神経毒は、血管障害症状が軽減されるように、処置有効量で投与される。好適なボツリヌス神経毒として、細菌によって産生される神経毒を挙げることができる。例えば、神経毒はClostridium botulinum、Clostridium butyricumまたはClostridium berattiから産生されるものであることができる。本発明の一定の実施形態では、ボツリヌス毒素の患者の血管壁または血管壁内への適用(局所)によって血管障害が処置される。ボツリヌス毒素は、A型、B型、C1型、D型、E型、F型またはG型ボツリヌス毒素であることができる。ボツリヌス毒素の血管障害軽減効果は、約2週間(例えば短期間作用するボツリヌス毒素、例えばE型ボツリヌス毒素を投与した場合)ないし約5年間(例えば制御放出ボツリヌス毒素インプラントを移植した場合)にわたって持続しうる。ボツリヌス神経毒は、組換え生産されたボツリヌス神経毒、例えば大腸菌によって産生されたボツリヌス毒素であることができる。これに加えて、またはこれに代えて、ボツリヌス神経毒は修飾神経毒、すなわち天然物と比較してそのアミノ酸の少なくとも1つが欠失、修飾または置換されているボツリヌス神経毒であることができ、あるいは修飾ボツリヌス神経毒は、組換え生産されたボツリヌス神経毒またはその誘導体もしくは断片であることができる。
本発明に従って血管障害を処置する方法は、血管障害患者にボツリヌス毒素を局所投与し、その結果としてその血管障害を軽減するステップを含むことができる。ボツリヌス毒素は、A、B、C、D、E、FおよびG型ボツリヌス毒素からなる群より選択することができる。A型ボツリヌス毒素は好ましいボツリヌス毒素である。
本発明の詳細な態様は、約1単位〜約3000単位のボツリヌス毒素(例えば約1〜50単位のA型ボツリヌス毒素、または約50〜3000単位のB型ボツリヌス毒素)を血管障害の患者に局所投与し、それによって血管障害を約2週間〜約5年間軽減することによる、血管障害の処置方法を含みうる。
本発明は、ボツリヌス毒素(例えば処置セッション当たり1単位〜3000単位の量のA型、B型、C型、D型、E型、F型またはG型のボツリヌス毒素)を、血管障害を起こす傾向のある患者に局所投与し、それによって患者が血管障害を起こすのを防止することによる、血管障害の処置方法をも包含する。血管障害を起こす傾向のある患者とは、過去12箇月以内に少なくとも1回血管障害を起こしたヒトである。局所投与は、血管障害の位置する患者の血管壁上または血管壁内の部分にボツリヌス毒素を皮下または局所投与することによって行いうる。
本発明は、処置有効量のボツリヌス神経毒の局所投与によって血管障害を処置することができるという発見に基づく。ボツリヌス神経毒(例えばボツリヌス神経毒血清型A、B、C1、D、E、FまたはG)を、患者の血管障害中もしくはその近傍に注射するか、または血管障害上もしくはその近傍に局所適用しうる。あるいは、ボツリヌス毒素を皮内または皮下のニューロンに投与し、それによってニューロンが仲介または影響する血管障害をダウンレギュレート、抑制または抑止することができる。
本発明が開示する方法は、身体のいずれの血管にも適用することができる。血管は、冠血管(心臓)、脳血管(脳)、頸血管(頸)、腎血管(腎)、内臓血管(腹部)、腸骨血管(臀部)、大腿膝窩血管(大腿部)、および膝窩下血管(膝)を包含するが、それらに限定されない。本発明は、血管不安定を経験しているか、または経験する傾向のある患者の血管にボツリヌス毒素を局所適用することによって実施しうる。局所適用とは、血管不安定の原因である血管の壁に、または標的血管のすぐ近くに(例えば標的血管が多くの毛細血管である場合)、直接投与することを意味する。標的血管は、患者に望ましくない結果(例えば血管痙攣)をもたらすほどの血管収縮または拡張を示す血管である。
理論による束縛を意図するものではないが、ボツリヌス神経毒を用いて血管障害を処置する本発明の効果に対し、ある生理学的メカニズムを提起することができる。本質的に、血管障害を神経支配または血管障害に影響する1つまたはそれ以上の皮膚または皮下神経または構造による、アセチルコリンおよび/または他の神経伝達物質もしくは神経ペプチドの放出を、ボツリヌス毒素の使用によって抑制することができ、それによって血管障害の有効な処置が可能になるという仮説が設けられる。あるいは、投与されたボツリヌス神経毒が血管障害に冒された血管に直接作用しうる。有効な処置とは、血管障害に冒された血管内により正常な血液を達成することを意味する。
本発明の方法によって投与されるボツリヌス毒素の量は、処置される血管障害の特定の性質(その重症度を包含する)および他のさまざまな患者変数(大きさ、体重、年齢および治療に対する応答性を含む)に応じて変動しうる。医師の参考として述べると、典型的には、1回の特許治療セッションにつき、1注射部位につき(例えば注射する各血管障害部分に対し)、約1単位以上約50単位以下のA型ボツリヌス毒素(BOTOX(登録商標)など)が投与される。DYSPORT(登録商標)などのA型ボツリヌス毒素の場合は、1回の特許治療セッションにつき、1投与または1注射部位につき、約2単位以上約200単位以下のA型ボツリヌス毒素が投与される。MYOBLOC(登録商標)などのB型ボツリヌス毒素の場合は、1回の特許治療セッションにつき、1投与または1注射部位につき、約40単位以上約2500単位以下のB型ボツリヌス毒素が投与される。約1、2または40単位未満の量(それぞれBOTOX(登録商標)、DYSPORT(登録商標)およびMYOBLOC(登録商標)の場合)では、望ましい治療効果を達成できない可能性があり、一方、約50、200または2500単位を超える量(それぞれBOTOX(登録商標)、DYSPORT(登録商標)およびMYOBLOC(登録商標)の場合)では、臨床的に観察可能な望ましくない筋緊張低下、筋脱力および/または筋麻痺をもたらす可能性がある。
より好ましくは、1回の特許治療セッションにつき、1注射部位につき、BOTOX(登録商標)の場合は約2単位以上約20単位以下のA型ボツリヌス毒素を、DYSPORT(登録商標)の場合は約4単位以上約100単位以下を、そしてMYOBLOC(登録商標)の場合は約80単位以上約1000単位以下を投与する。
最も好ましくは、1回の特許治療セッションにつき、1注射部位につき、BOTOX(登録商標)の場合は約5単位以上約15単位以下のA型ボツリヌス毒素を、DYSPORT(登録商標)の場合は約20単位以上約75単位以下を、そしてMYOBLOC(登録商標)の場合は約200単位以上約750単位以下を投与する。各患者治療セッションについて複数の注射部位(すなわちある注射パターン)が存在しうることに注意することが重要である。
投与経路および投与量の例を挙げるが、適切な投与経路および投与量は、一般に、ヘルスケア提供者(通例、担当医)によって症例ごとに決定される。そのような決定は当業者にとっては日常的作業である(例えば Anthony Fauci ら編「Harrison's Principles of Internal Medicine」(1998)第14版、McGraw Hill 刊を参照されたい)。例えば、本発明によるボツリヌス神経毒の投与経路および投与量は、選択した神経毒の溶解特性ならびに血管障害の程度および範囲などの基準に基づいて選択することができる。
本発明は、ボツリヌス神経毒の局所投与が、血管障害の、有意で長時間持続する緩和をもたらすことができるという発見に基づいている。ボツリヌス神経毒は、ボツリヌス神経毒にさらされる細胞に対して細胞傷害性でない。ボツリヌス毒素によってもたらされる血管障害軽減効果は、比較的長期間にわたって、例えば、2ヶ月以上にわたって、また、潜在的には数年間にわたって持続しうる。
本発明の1つの実施形態において、患者に投与されるボツリヌス神経毒はA型ボツリヌス毒素である。A型ボツリヌス毒素は、ヒトにおけるその効力が大きく、容易に得ることができ、また、筋肉内注射による局所投与による骨格筋障害および平滑筋障害の処置についての使用が知られているために望ましい。
本発明にはまた、(a)細菌培養、毒素抽出、濃縮、保存、凍結乾燥および/または再構成によって得られるか、もしくはそれらによって処理されるボツリヌス神経毒;および/または(b)修飾もしくは組換えされた神経毒、すなわち、1つ以上のアミノ酸もしくはアミノ酸配列が、知られている化学的/生化学的なアミノ酸修飾手順により、もしくは、知られている宿主細胞/組換えベクターの組換え技術の使用により意図的に欠失もしくは修飾もしくは置換されている神経毒、そして同様にそのようにして得られた神経毒の誘導体またはフラグメント、の使用が含まれる。これらの神経毒変化体は、ニューロンまたは他の関連構造間の神経伝達を阻害する能力を保持し、これらの変化体のいくつかは、天然の神経毒と比較して、増大した阻害作用持続時間をもたらすことができ、または、神経毒にさらされるニューロンに対する高まった結合特異性をもたらすことができる。これらの神経毒変化体は、従来のアッセイを使用して変化体をスクリーニングして、神経伝達を阻害する所望される生理学的作用を有する神経毒を同定することによって選択することができる。
本発明に従って使用されるボツリヌス毒素は、真空下での容器における凍結乾燥、真空乾燥形態で、または安定な液体として保存することができる。凍結乾燥前に、ボツリヌス毒素は、医薬的に許容され得る賦形剤、安定剤および/または担体(例えば、アルブミンなど)と組み合わせることができる。凍結乾燥物は、患者に投与するボツリヌス毒素を含有する溶液または組成物を調製するために、生理的食塩水または水で再構成することができる。
組成物は、活性成分として、ボツリヌス神経毒(例えば、A型ボツリヌス毒素など)を含有し得るが、他の処置用組成物は、血管障害の増強された処置効果をもたらし得る2つ以上のタイプの神経毒を含むことができる。例えば、患者に投与される組成物はA型ボツリヌス毒素およびB型ボツリヌス毒素を含むことができる。2つの異なるボツリヌス神経毒を含有する単一組成物を投与することにより、神経毒のそれぞれの効果的な濃度を、所望される処置効果を依然として達成しながら、1つの神経毒が患者に投与された場合よりも低くすることが可能になり得る。患者に投与される組成物はまた、他の医薬的に活性な成分、例えば、タンパク質受容体またはイオンチャンネルの調節因子などを、神経毒(1つまたは複数)と組み合わせて含有することができる。これらの調節因子は、様々なニューロンの間での神経伝達の低下に寄与し得る。
ボツリヌス神経毒は、主治医により決定されるように、任意の好適な方法によって投与することができる。そのような投与方法により、神経毒を、選択した標的組織に局所的に投与することが可能になる。投与方法には、上記で記載されたように神経毒を含有する溶液または組成物の注入が含まれ、また、標的組織に神経毒を調節的に放出する制御された放出システムの埋め込みが含まれる。そのような制御された放出システムにより、反復した注入の必要性が低下させられる。組織内におけるボツリヌス毒素の生物学的活性の拡散は用量に相関するようであり、段階的であり得る。Jankovic J.他、Therapy With Botulinum Toxin、Marcel Dekker, Inc. (1994)、150頁。従って、ボツリヌス毒素の拡散を、患者の認知能力に影響を及ぼし得る潜在的に望ましくない副作用を低下させるために制御することができる。例えば、神経毒を、神経毒が、血管障害の発生に関与すると考えられる神経系に主に作用し、かつ、他の神経系に対しては負の有害な作用を有しないように投与することができる。
ボツリヌス毒素などのボツリヌス毒素の局所投与は毒素の大きい局所的処置レベルをもたらすことができる。標的血管障害部分へのボツリヌス毒素の長期間の局所的送達が可能である制御放出ポリマーは、標的組織への効果的な投薬を可能にする。好適なインプラントは、米国特許第6,306,423号(発明の名称:神経毒インプラント)に示されるようなものであり、制御放出ポリマーによる標的組織に対するボツリヌス毒素の直接的な導入を可能にする。
標的組織への注入またはインプラントによる、本発明に従ったボツリヌス毒素の局所投与は、血管障害を軽減するために、患者への医薬品の全身的投与に優る代替法を提供する。
本発明に従った標的組織への局所投与のために選択されるボツリヌス毒素の量は、処置される血管障害の重篤度、選ばれた神経毒毒素の溶解性特性、ならびに、患者の年齢、性別、体重および健康状態などの判断基準に基づいて変化し得る。例えば、影響を受ける血管障害領域の大きさは、注入された神経毒の体積に比例し、一方で、血管障害抑制効果の大きさは、ほとんどの用量範囲について、投与されたボツリヌス毒素の濃度に比例すると考えられる。適切な投与経路および投薬量を決定するための方法が、一般には、主治医によって場合毎に決定される。そのような決定は当業者にとっては日常的である(例えば、Harrison's Principles of Internal Medicine(1998)(Anthony Fauci他編、第14版、発行:McGraw Hill)を参照のこと)。
重要なことに、本発明の方法では、改善された患者機能を提供することができる。「改善された患者機能」は、痛みの軽減、ベッドで過ごす時間の減少、歩行の増大、より健康的な態度、より多様な生活スタイル、および/または、正常な筋緊張により認められる回復などの要因によって測定される改善として定義することができる。改善された患者機能は、改善された生活の質(QOL)と同義的である。QOLは、例えば、知られているSF-12またはSF-36の健康調査スコア化法を使用して評価することができる。SF-36では、身体的機能性、身体的問題による役割制限、社会的機能性、体の痛み、全体的な精神的健康状態、情緒的問題による役割制限、活力、および全体的な健康状態認識の8分野において患者の身体的および精神的な健康状態が評価される。得られたスコアは、様々な一般集団および患者集団について得ることができる発表された値と比較することができる。
実施例
以下の非制限的実施例は、本発明の範囲に包含される処置方法の好ましい具体例を当業者に示すものであって、本発明の範囲を限定するものではない。以下の実施例では、例えば局所適用(クリームまたは経皮パッチ)、皮下注射による投与、特定組織への注射による投与、または徐放性植込剤の植込による投与など、ボツリヌス神経毒のさまざまな非全身的投与様式を実行することができる。
以下の非制限的実施例は、本発明の範囲に包含される処置方法の好ましい具体例を当業者に示すものであって、本発明の範囲を限定するものではない。以下の実施例では、例えば局所適用(クリームまたは経皮パッチ)、皮下注射による投与、特定組織への注射による投与、または徐放性植込剤の植込による投与など、ボツリヌス神経毒のさまざまな非全身的投与様式を実行することができる。
腎臓移植に関連するボツリヌス毒素の使用
患者が腎臓移植を受けうる。移植後の腎動脈の収縮を防止するために、腎臓移植の前またはそれと同時に、移植腎近傍の腎動脈壁に1〜50単位のA型ボツリヌス毒素を注射しうる。それによって、患者は、移植後に腎動脈内の正常な血流を示しうる。
患者が腎臓移植を受けうる。移植後の腎動脈の収縮を防止するために、腎臓移植の前またはそれと同時に、移植腎近傍の腎動脈壁に1〜50単位のA型ボツリヌス毒素を注射しうる。それによって、患者は、移植後に腎動脈内の正常な血流を示しうる。
レイノー症候群を処置するためのボツリヌス毒素の使用
26歳の女性患者がレイノー症候群と診断される。患者の手足の指の皮膚には赤色斑が見られる。手足の各指に、全部で100単位のボツリヌス毒素を皮下注射する(20本の指のそれぞれに5単位ずつ)。2週間以内に患者の症状は退行し、皮膚の色が正常に戻り、3〜4箇月間にわたって患者は症状から解放される。
26歳の女性患者がレイノー症候群と診断される。患者の手足の指の皮膚には赤色斑が見られる。手足の各指に、全部で100単位のボツリヌス毒素を皮下注射する(20本の指のそれぞれに5単位ずつ)。2週間以内に患者の症状は退行し、皮膚の色が正常に戻り、3〜4箇月間にわたって患者は症状から解放される。
クモ膜下出血後の血管痙攣を処置するためのボツリヌス毒素の使用
55歳の男性が、左中大脳動脈の破裂性大動脈瘤からのクモ膜下出血の後、突然の頭痛に襲われた。症候性水頭の故に、カテーテルによる脳室排液を行いうる。出血から3日後、患者は軽度の片側不全麻痺を起こし得、経頭蓋ドップラー超音波法により、中大脳動脈および前大脳動脈の両方に血管痙攣が認められた。脳室カテーテルからB型ボツリヌス毒素をクモ膜下投与すると、ドップラー超音波法で記録されるように、48時間以内に血管痙攣が顕著に軽減しうる。MRIによると、脳の虚血性病変は認められない。患者は、神経学的欠損なく完全に回復しうる。
55歳の男性が、左中大脳動脈の破裂性大動脈瘤からのクモ膜下出血の後、突然の頭痛に襲われた。症候性水頭の故に、カテーテルによる脳室排液を行いうる。出血から3日後、患者は軽度の片側不全麻痺を起こし得、経頭蓋ドップラー超音波法により、中大脳動脈および前大脳動脈の両方に血管痙攣が認められた。脳室カテーテルからB型ボツリヌス毒素をクモ膜下投与すると、ドップラー超音波法で記録されるように、48時間以内に血管痙攣が顕著に軽減しうる。MRIによると、脳の虚血性病変は認められない。患者は、神経学的欠損なく完全に回復しうる。
グラフトからの血液供給を改善するためのボツリヌス毒素の使用
67歳の患者が冠動脈バイパス移植術(CABG)に備えている。患者は冠動脈にアテローム性動脈硬化を起こしており、これら血管内の血流が遮断され、心筋への血液供給が悪化している。心臓発作または突然死が予測される。心臓発作または突然死を防止するよう、閉塞周辺に血流を別ルートで送るために、CABG術が指示される。従来のように、この患者の場合、胸骨後方の動脈および脚の静脈を用いて、冠動脈閉塞周辺に血液のバイパスを形成する。
67歳の患者が冠動脈バイパス移植術(CABG)に備えている。患者は冠動脈にアテローム性動脈硬化を起こしており、これら血管内の血流が遮断され、心筋への血液供給が悪化している。心臓発作または突然死が予測される。心臓発作または突然死を防止するよう、閉塞周辺に血流を別ルートで送るために、CABG術が指示される。従来のように、この患者の場合、胸骨後方の動脈および脚の静脈を用いて、冠動脈閉塞周辺に血液のバイパスを形成する。
手術は2〜3時間を要し、全身麻酔の導入後に開始する。患者は手術の間ずっと完全に眠っている。医師助手が脚の切開部から伏在静脈を取り出す。切開部の長さは、必要数のバイパスを完成するのに要する静脈の量に応じて異なる。患者の脚には余分な静脈が多く存在する。いくらかの静脈を取り去ると、脚の他の静脈が失われた静脈を代わりに補う。脚から静脈を取り出すと、それは長い管の外観を呈する。その静脈をより短い片に分け、それぞれを個々のバイパスに使用しうる。バイパスグラフトとして使用する各片の動脈壁に、5単位のA型ボツリヌス毒素を注射する。
医師助手が脚から静脈を取り出すのと同時に、外科医は胸骨を切断することによって胸部を開き、心臓を充分露わにする。胸骨後部の動脈である左内胸動脈(LIMA)を取り出し、一端をバイパス移植用に準備する。人工心肺による心肺バイパスのための準備において、心臓および心臓を取り巻く主要血管にチューブまたはカニューレを挿入する。
この時点で、患者を人工心肺につなぐ。心臓から人工心肺に血液を流す。これにより、外科医は、心臓を経由する血液ポンプ輸送なしに安全に心臓手術を行うことができる。その後、心臓は停止され、人工心肺が心臓と肺の役割を肩代わりして、他の身体部分に新鮮な酸素を含む血液をポンプ輸送し続ける。
冒された冠動脈は今や特定され、閉塞のレベルを越えて開かれている。冠動脈の開口に、伏在静脈およびLIMAの開口端を、極めて細い非吸収性縫合材料で縫合する(遠位吻合と称される)。外科医は、細い縫合糸と細い血管とを見るために拡大鏡を着用する。
LIMA内の血液流入は損われないままなので、LIMA吻合を完了次第、心臓のその部分への血流が確保される。しかし、静脈グラフトは分離されたグラフトとして採取され、血液流入はない。したがって、遠位静脈グラフト吻合を形成した後、血液流入をもたらすために、静脈グラフトのもう一方の端を動脈(心臓から出る大動脈)に縫合する。これらは近位吻合と称される。この段階の後、すべての閉塞動脈を越えて血流が確保され、心臓に有効にバイパスが形成されている。
次いで人工心肺から徐々に離し、患者の心肺が再び正常に機能する。カニューレを心臓内および心臓周囲から回収し、胸骨および切開部を閉じる。排液カテーテルを心臓周辺に配置する。これらは通例、24時間後に取り外す。患者の心拍を調節するために一時的に配置するワイヤを、心臓表面に縫い付ける。これらのワイヤは、患者が退院する前に取り外す。
患者は、術後4〜6時間で麻酔から醒めうる。翌朝、すべての排液カテーテルおよびモニタリングラインを取り外しうる。患者を術後4〜5日間入院させる。一般的な術後合併症に、グラフトの狭窄とグラフト内血流の閉塞があるが、この患者の場合、手術中にボツリヌス毒素をグラフトに注射したので、グラフトは炎症またはグラフト狭窄なく(グラフトの虚脱なく)治癒する。
本発明は、血管障害の処置を行なうための医薬品の製造におけるボツリヌス毒素の使用も、その範囲に包含する。
上述した参考文献、論文、特許、出願および刊行物はすべて、参照により、そのまま本明細書に組み込まれる。
したがって、本願請求項の精神および範囲は、上述した好ましい実施形態の説明に制限されるべきでない。
上述した参考文献、論文、特許、出願および刊行物はすべて、参照により、そのまま本明細書に組み込まれる。
したがって、本願請求項の精神および範囲は、上述した好ましい実施形態の説明に制限されるべきでない。
Claims (24)
- グラフトを通しての血液供給を改善するための医薬であって、グラフトにおいてまたはグラフト近傍で哺乳動物の血管に投与し、それによってグラフトを通しての血液供給を改善するボツリヌス毒素を含有する医薬。
- ボツリヌス毒素を血管壁に注射する請求項1に記載の医薬。
- ボツリヌス毒素を、A、B、C、D、E、FおよびG型ボツリヌス毒素から成る群から選択する請求項1に記載の医薬。
- ボツリヌス毒素がA型ボツリヌス毒素である請求項1に記載の医薬。
- 移植組織への血液供給を改善するための医薬であって、移植組織に血液供給する血管に投与し、それによって血管を拡張し、移植組織への血液供給を改善するボツリヌス毒素を含有する医薬。
- ボツリヌス毒素を血管壁に注射する請求項5に記載の医薬。
- ボツリヌス毒素を、A、B、C、D、E、FおよびG型ボツリヌス毒素から成る群から選択する請求項5に記載の医薬。
- ボツリヌス毒素がA型ボツリヌス毒素である請求項5に記載の医薬。
- レイノー症候群を処置するための医薬であって、レイノー症候群に冒された組織に投与し、それによって冒された組織における血液供給を増加し、レイノー症候群を処置するボツリヌス毒素を含有する医薬。
- ボツリヌス毒素を血管壁に注射する請求項9に記載の医薬。
- ボツリヌス毒素を、A、B、C、D、E、FおよびG型ボツリヌス毒素から成る群から選択する請求項9に記載の医薬。
- ボツリヌス毒素がA型ボツリヌス毒素である請求項9に記載の医薬。
- グラフトを通しての血液供給を改善する方法であって、グラフトにおいてまたはグラフト近傍で哺乳動物の血管にボツリヌス毒素を投与し、それによってグラフトを通しての血液供給を改善するステップを含んで成る方法。
- 投与ステップが、ボツリヌス毒素を血管壁に注射するステップを含んで成る請求項13に記載の方法。
- ボツリヌス毒素を、A、B、C、D、E、FおよびG型ボツリヌス毒素から成る群から選択する請求項13に記載の方法。
- ボツリヌス毒素がA型ボツリヌス毒素である請求項13に記載の医薬。
- 移植組織への血液供給を改善する方法であって、移植組織に血液供給する血管にボツリヌス毒素を投与し、それによって血管を拡張し、移植組織への血液供給を改善するステップを含んで成る方法。
- 投与ステップが、ボツリヌス毒素を血管壁に注射するステップを含んで成る請求項17に記載の方法。
- ボツリヌス毒素を、A、B、C、D、E、FおよびG型ボツリヌス毒素から成る群から選択する請求項17に記載の方法。
- ボツリヌス毒素がA型ボツリヌス毒素である請求項17に記載の方法。
- レイノー症候群を処置する方法であって、レイノー症候群に冒された組織にボツリヌス毒素を投与し、それによって冒された組織における血液供給を増加し、レイノー症候群を処置するステップを含んで成る方法。
- 投与ステップが、ボツリヌス毒素を血管壁に注射するステップを含んで成る請求項21に記載の方法。
- ボツリヌス毒素を、A、B、C、D、E、FおよびG型ボツリヌス毒素から成る群から選択する請求項21に記載の方法。
- ボツリヌス毒素がA型ボツリヌス毒素である請求項21に記載の方法。
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