JP2007517853A - 心臓保護のための強心剤と組み合わせたジクロロアセテート - Google Patents

心臓保護のための強心剤と組み合わせたジクロロアセテート Download PDF

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Abstract

本発明は、ジクロロアセテート(「DCA」)を強心剤と併用して投与することにより、虚血事象の間およびその後ならびに再灌流の間に、心機能を維持および改善する方法に関する。本発明は、ジクロロアセテートを強心剤と併用して投与することによる、心機能を維持するための組成物および方法を提供する。本発明はまた、患者において心機能の所定のレベルを維持するのに必要とされる強心剤の量を減少させる方法であって、その方法は、その患者に、心臓保護量のジクロロアセテート(DCA)を投与する工程を包含する方法、を提供する。

Description

(発明の背景および導入)
心臓を損傷(これは、虚血の発症に起因して、そして虚血に引き続く再灌流の間に起こり得る)から保護する方法およびその後に所定のレベルの心機能を維持する方法に対する必要性が存在する。
臨床的に、虚血性再灌流は、心臓手術のセッティングにおいて起こり得る。多くの外科的手順を実施するために、冠血管の血流を遮断する必要があり、これが心臓に虚血をもたらす。この虚血は、外科的手順に利用可能な時間を制限するだけでなく、虚血はまた、冠血管の流れを元に戻す際に、収縮性の機能不全をもたらし得る。これは、冠動脈バイパス手術(CABG)または他の外科的手順を受けている成人患者における問題であるだけではなく、これはまた、新生児における先天的な心臓損傷を治すための心臓手術手順の間の重要な臨床的問題でもある。
成人患者、小児患者および新生児患者において心臓手術後の収縮機能を改善することを目的とする現代の治療は、収縮機能を強化する試みにおいて、強心剤(例えば、カルシウム、ドーパミン、エピネフリン、エフェドリン、フェニレフリン、ドブタミン)の使用を、しばしば包含する。強心剤(例えば、ドブタミン)は心筋の拍出量および働きを上昇させることが報告されているが、強心剤はまた、心筋の酸素消費を増加させ、したがって身体的効率を上昇させないかもしれないことも報告されている(非特許文献1)。実際に、強心剤についての、収縮機能よりも酸素消費を大きな程度で増加させる潜在能力は、酸素消耗効果と名付けられている(非特許文献2、非特許文献3)。強心薬はまた、細胞内カルシウム濃度および心拍数の増加に関連することもまた報告されており、これらもまた、特に障害性のエネルギーバランスを有する心臓において潜在的に有害であり得る(非特許文献4)。
Bersin RM,Wolfe C,Kwasman M,Lau D,Klinski C,Tanaka K,Khorrami P.Henderson GN,DE Marco T,Chatterjee K:「Improved hemodynamic function and mechanical efficiency in congestive heart failure with sodium dichloroacetate.」,JACC 1994年;23(7):p.1617−1624 Chandler BM,Sonnenblick EH,Pool FE:「Mechanochemistry of cardiac muscleIII. Effects of norepinephrine on the utilization of high energy phosphates.」,Circ Res,1968年;22:p.729−735 Suga H,Hisano R,Goto Y,Yamada O,Igarashi Y:「Effect of positive inotropic agents on the relation between oxygen consumption and systolic pressure volume area in canine left ventricle.」,Circ Res,1983年;53:p.306−318 Hasenfuss G,Mulieri LA,Allen PD,Just H,Alpert NR:「Influence of isoproterenol and ouabain on excitation−contraction coupling,crossbridge function and energetics in failing human myocardium.」,Circulation 1996年;94:3,p.155−3160
(発明の要旨)
本発明は、ジクロロアセテート(「DCA」)を強心剤と併用して投与することにより、虚血事象の間およびその後ならびに再灌流の間に、心機能を維持および改善する方法に関する。1つの局面によると、本発明の方法は、患者における虚血事象(例えば、心臓手術手順(心肺バイパスおよび先天的損傷を含む))ならびに心血管障害(例えば、出血性ショック、低酸素症および外傷)の後の心機能の回復および心臓の代謝を改善させる。
本発明の1つの局面によると、DCAの強心剤との併用治療は、手術後の収縮機能の維持に必要とされる強心剤のより低用量の投与を可能にする。
本発明の1つの局面は、患者における心機能の所定のレベルを維持するのに必要とされる強心剤の量を減少させる方法に関し、この方法は、この患者に、心臓保護量のジクロロアセテート(DCA)を投与する工程を包含する。この局面によると、DCAは、少なくとも約50mg/kgのボーラスとして投与され得る。1つの実施形態によると、DCAボーラスの投与に引き続き、1時間あたり約12.5mg/kgのDCAが少なくとも約24時間注入される。
本発明の別の局面によると、提供されるものは、心臓手術後の患者において所定のレベルの心機能を維持し、そしてその患者の強心剤についての必要性を減少させる方法であり、この方法は、この患者に、少なくとも約50mg/kgのボーラスでDCAを投与し、続いて、少なくとも約12.5mg/kg/時で少なくとも24時間注入する工程を包含する。
代替的な局面において、本発明は、強心剤の所要量を減らしながら、処置の必要な患者において所定のレベルで心機能を維持する改善された方法を提供し、ここでこの改善は、この強心剤の投与から15分以内にDCAを投与する工程を包含する。
別の局面において、本発明は、心臓手術を受けた患者における強心剤スコア(inotrope score)を減少させる方法に関し、この方法は、心臓保護量のDCAを投与する工程を包含する。
本発明は、DCAの特定の用量レベルに限定されないが、用量および用量プロトコルは、以下を包含する本発明の方法に従う使用に適しているということに注意されたい。1つの局面によると、DCAは持続的に投与され、そして、少なくとも1mMの血漿レベルが患者において少なくとも約24時間維持される。1つの実施形態によると、少なくとも約1mMの血漿レベル、あるいは約1mM〜約2mMの血漿レベルが維持される。この血漿レベルは、少なくとも約1時間、あるいは少なくとも約24時間維持される。この実施形態の1つの局面によると、DCAの持続的投与を開始する前に、DCAがボーラスとして投与される。適したボーラス用量は、少なくとも約50mg/kg、あるいは、少なくとも約100mg/kgである。ボーラスのための適した用量範囲としては、少なくとも約50mg/kg、あるいは少なくとも約50mg/kg〜約100mg/kgが挙げられる。
本発明は、DCAと強心剤とを含む単一溶液として、互いに併用して投与されるDCAおよび強心剤を提供する。この投与の併用方法は、心臓手術を受けた患者において強心剤スコアを減少させ、ここでDCAは心臓保護量で投与される。本発明のさらなる局面において、本方法は、本明細書中に記載されるようなDCAのボーラス投与、引き続いて静脈内注入によるような静脈への併用投与を伴う。
本発明の別の局面によると、提供されるものは、心臓保護量のDCAと強心剤とを含む薬学的組み合わせであり、この強心剤は、DCAの非存在下で治療的に有効である強心剤の用量よりも低用量の強心剤を提供するための、薬学的に有効な濃度で存在し得る。
(定義)
「強心剤」または「強心薬」とは、心筋動作の収縮性を増加させる薬剤のクラスをいう。心機能および収縮性を維持するために慣習的に使用される強心剤としては、ドブタミン、エピネフリン、ドーパミン、ノルエピネフリン、フェニレフリン、フェントラミン、ジゴキシン、アムリノンおよび当業者に公知な他の薬剤が挙げられる。
(発明の詳細な説明)
(心臓代謝)
通常の好気条件下では、脂肪酸の酸化は、心臓におけるエネルギー(ATP)産生の主な供給源であり、乳酸塩およびグルコースに由来する寄与は少ない。しかし、(心臓手術の間に起こるような)虚血の間に、酸素の供給が制限されるようになる場合、嫌気性の解糖はより重要な役割を担い、そして脂肪酸および炭水化物の酸化は減少する(5、6)。虚血後の再灌流の間、ATP産生、トリカルボン酸(TCA)サイクル活性および酸素消費は急速に回復する。脂肪酸酸化もまた急速に回復し、全体のATP産生の90%以上を提供する(7、8)。脂肪酸酸化におけるこの増加の理由は、心筋の脂肪酸酸化の制御における虚血誘導性変化(9、10)および循環する脂肪酸レベルの増加(11、12)の両方に起因すると報告されている。アドレナリンアゴニスト特性を有する強心剤の使用はまた、脂肪酸の高血漿レベルにも寄与し得る。虚血後の心臓による脂肪酸のこの過剰な使用は、心機能および心臓効率の両方について、副作用を有し得る。
心臓により使用される異なるエネルギー基質の利用能およびそのエネルギー基質のタイプは、虚血事象の間およびその後の心機能の回復において著しい効果を有し得る。具体的には、高速の脂肪酸酸化は、グルコース酸化の阻害を続発する心臓効率における際立った減少に寄与し得る(5、6、7)。しかし、グルコース酸化が再灌流の間に刺激される場合、心機能の並行な改善を伴う心臓効率の顕著な増加がもたらされる(11)。これは、等価な量のATPを産生するための酸素の所要量が減少することに、部分的に起因する(7、13)。グルコース酸化を刺激することはまた、心臓におけるプロトンの産生を減少させ、それゆえ心臓におけるイオンホメオスタシスを維持するのに必要なATP量を減少させる。
胎児の生活においては、解糖および乳酸塩酸化が、ATP産生の主要な供給源である。しかし、誕生に引き続き、脂肪酸酸化の急速な成熟がおこり、これが新生児の心臓におけるATP産生の主な供給源となる(13、19、20)。好気条件下では、グルコース酸化速度は、成人の心臓と比較して新生児の心臓ではより低い(21、22)。新生児の心臓における解糖およびグルコース酸化の両方の同時測定は、解糖速度が、グルコース酸化の速度よりもずっと大きいことを実証し、これはグルコース酸化のための律速酵素であるピルビン酸デヒドロゲナーゼ(PDH)を介する低いフラックスを示唆する(21)。したがって、新生児の心臓が開心術の間に虚血−再灌流損傷に供される場合、脂肪酸酸化の増加は、特に有害であり得る。なぜなら、新生児の心臓におけるグルコース酸化経路は、完全には成熟していないからである。未成熟なウサギの心臓における研究は、PDH活性を刺激する基質であるピルビン酸塩の添加が、大動脈の流れ、心臓の働き、および発生圧力を、顕著に増加させることを示した(23)。これらの研究に基づいて、本発明者らは、脂肪酸酸化を犠牲にしてグルコース酸化を刺激する代謝治療が、虚血後の心臓の回復を強めると考えている。
(心臓に対するジクロロアセテートの心臓保護効果)
本発明者らは、ジクロロアセテート(DCA)が、心臓のグルコース酸化の刺激に特に効果的であることを発見した。DCAは、心臓におけるグルコース酸化のための律速酵素であるピルビン酸デヒドロゲナーゼ(PDH)を刺激することが報告されている(14、15)。この刺激は、通常はPDHをリン酸化および阻害するPDHキナーゼのDCA阻害を介して起こるようである。単離されたラットの心臓についての実験的研究において、本発明者らは、DCAが、重篤な虚血事象に引き続く心臓の再灌流の間に、機能的回復および心臓効率を劇的に改善することを示した(9、16、17)。DCAのこの有益な効果は、グルコース酸化の劇的な刺激および脂肪酸酸化からグルコース代謝への心臓におけるエネルギー基質使用の切り替えに起因する(15、7)。DCAはまた、再灌流される虚血心臓におけるプロトン産生を劇的に減少させ、これが再灌流の間の心臓効率におけるDCA誘導性の改善に対する主要な理由である(16)。
DCAは、虚血心臓における心臓保護効果についての本発明者らの研究においてこのような劇的な効果を実証しているので、DCAは、成人患者および小児患者両方に対する心臓手術のセッティングにおいて、心機能(収縮性を含む)の維持および改善において臨床的に有用であり得る。脂肪酸の血漿レベルは、心臓手術後の再灌流の間に顕著に増加することが観察されている。この増加は、小児患者(3週齢ほどの若い患者を含む)において最も大きいことが観察されている(10)。遊離脂肪酸における増加は、虚血損傷を強め得る心筋の酸素消費の増加をもたらし得る(11)。
強心剤は、心臓手術後の心臓の収縮機能を改善するために、患者に頻繁に投与される。しかし、強心剤のいくつかの効果は、望ましくない。例えば、強心剤であるエピネフリンは、グルコース代謝からのプロトン産生における顕著な増加をもたらす、解糖とグルコース酸化との間の連係を分離するのを増加させることが報告されている(24)。このことは、再灌流期間(心臓が虚血の間に産生された先在するプロトン負荷を除去しようとしているとき)に、潜在的にアシドーシスを加速させ得、強心剤使用の別の所望されない効果である(8、1)。
特定の理論に束縛されることは望まないが、本発明者らは、グルコース酸化を刺激することにより、DCAの投与が、手術後に使用される強心剤(または強心剤の用量)および他の血行動態薬(hemodynamic drug)に対する必要性を減少させると考えている。本発明者らは、DCAが、開心心臓手術手順を受けている成人患者、小児患者および新生児において、心臓保護的であることを示した。本実施例は、強心剤と併用使用された場合のDCAが、必要とされる強心剤の用量を減少させることを決定した研究について説明する。
1つの局面において、本発明は、患者における開心術手順(心肺バイパスおよび先天性病変)後の心機能回復および代謝を改善させ、強心剤の投与に対する必要性を減少させ、そして強心剤が投与される場合は、所望される所定のレベルに心機能(収縮性を含む)を維持するのに必要とされる強心剤の用量を減少させるための、ジクロロアセテート(DCA)の使用に関する。DCAの投与は、強心剤および他の血行動態薬に対する必要性を減少させる。結果として、DCAとの併用治療は、使用される強心剤の量および用量を低下させることを可能にする。
本発明者らは、小児患者が、心臓手術の間にDCAからさらにより大きい利益を享受すると考えている。なぜなら、既に記載したように、小児患者は、心臓手術の間およびその後に、最低速度のグルコース酸化を伴う、最高の脂肪酸レベルを有するからである。開心術を必要とする40人の小児患者(年齢0.03歳〜15.1歳)の研究(実施例Bを参照のこと)において、DCAは、交差金具の開放の直前に、大動脈経路に50mg/kgのボーラス用量として与えられた。1時間の強心剤スコアは、プラセボと比較してDCA群において有意に低かった(これは、より良い心機能を示す)。ICU日数および人工呼吸器時間もまた、DCA群においてより低かった。この研究は、強心剤と併用して使用された場合に、DCAが手術直後期間に強心剤に対する所要量を減少させることを実証した。
(心臓保護薬剤として、そして強心剤に対する必要性を減少させるためのDCAの使用)
実施例Aに記載される研究は、DCA投与が、ヒトの心臓においてPDH活性を増加させ、炭水化物の酸化を改善させることを実証する。
実施例Aにおいて、18人の成人冠動脈バイパス術(CABG)患者における研究は、ボーラスとしてDCAを与えることが、DCAの所望の代謝効果を生み出すのに効果的であることを実証した。手術後の心臓のPDH酵素活性は、DCAの投与後に顕著に増加した。同様に、DCAはまた、血漿乳酸塩レベルを顕著に減少させた。
実施例Bおよび実施例Cにおいて記載される研究において、本発明者らは、心臓手術を受けている小児患者に手術後にボーラス用量として投与されたDCAが、収縮機能の維持に必要とされる強心剤の用量を顕著に低下させ、集中治療室(ICU)において費やされる時間を減少させることを観察した。
DCAが、心臓手術手順のための再灌流期間の24時間にわたってDCAの治療的レベルを維持するための、ボーラスおよび注入プロトコルを使用して投与された場合、DCAの治療的利益は、他の臨床的に推奨される血行動態薬の存在下で維持され、強心剤の所要量は減少され、そして人工呼吸器およびICUで費やされるその患者の時間が顕著に減少された。
DCAがボーラス用量プロトコルとして投与された実施例Bにおいて、DCAの臨床的利益は、心臓手術手順のための40人の小児患者研究からなる研究において実証された。この治験からのデータは、プラセボで処置された患者と比較して、DCAで処置された患者が、有意に減少した強心剤スコアを有し、減少したICU内の時間を有し、そして減少した人工呼吸器時間を有することを明らかにした。実施例Bにおいて記載された研究において50mg/kgのボーラスとしてのDCAの投与後に観察されたこの結果は、実施例Cにおいて記載される研究に対して使用されたDCAプロトコルに進むように、本発明者らを促した。
約1mMのDCAに対する用量範囲が、単離された灌流済心臓におけるPDHレベルの増加および心筋機能の改善に効果的であることが示されている。(この用量範囲はまた、50mg/kgのDCAのボーラス投与を使用した実施例Aにおいて記載された研究からのデータによっても支持された。)実施例Cにおいて記載された研究におけるボーラスおよび注入投与は、重要な手術後24時間の間に、1mMの血漿におけるDCA治療的レベルでの、DCAの治療的利益を提供した(7、9、16、17)。ボーラスおよび注入プロトコルを使用して、実施例Cにおいて記載された研究からのデータ(51人の小児患者からなる)は、このような処置が強心薬に対する必要性の減少をもたらすことを明らかにした。(実施例Cにおいて注記されたように、最終的な結果は、51人の患者から4人の注入ポンプ故障症例を差し引いた47人の患者に基づいた。)
実施例Cに記載される研究において、DCAプロトコルは、臨床的に推奨される治療レベルの血行動態薬の存在下で、2つの異なる用量投与を用いた:群Aに最初に50mg/kgのボーラスを与え、そして1時間あたり25mg/kgを注入した;群Bに100mg/kgのボーラスを与え、そして1時間あたり12.5mg/kgを注入した。(実施例Cに記載される研究における心臓外科医は優れた成果を有しており、それゆえ、すべての患者で心係数を維持するために強心剤をそれほど使用しなかった)。
実施例Cに記載される研究において、群Aおよび群Bの両方におけるDCA患者のDCA治療域レベルは、1〜6時間間隔で0.229mM〜2.22mM、そして24時間間隔で1.74mMから3.9mMほど高いDCA治療血漿レベルで利益を示した(表I)。群Aおよび群Bの各々において、11例のDCA患者が存在し、以下の表1で、n=各々の間隔で血漿中DCAレベルが測定されたDCA患者の数として示された。
Figure 2007517853
実施例Cに記載される研究からの異なる間隔のためのDCA治療最適平均は、プラセボと比較して、最も高い程度の臨床的利益(心係数、ICU時間および人工呼吸器時間)を伴うDCA患者の結果に基づいた。これらの血漿中DCA範囲の結果は、単純な開心術の患者および複雑な開心術の患者(群Bからの1時間間隔の患者、ならびに群Aからの12時間および24時間間隔の患者)からのものである。最適なDCA治療用量レベル平均の平均は、以下の表IIに要約されるとおりである。
Figure 2007517853
1mMの公知のDCA治療用量レベル平均は、1〜6時間間隔(0.229mM〜2.22mMの血漿中DCAレベル範囲を有する)で群Bにおいて観察された。2.29mM平均での異なる最適DCA治療用量レベルは、24時間の期間(1.73mM〜3.91mMの血漿中DCAレベル範囲を有する)で群Aから観察された。
23名の患者に対する50mg/kgのボーラスおよび1時間あたり25mg/kgの注入、術後心臓処置の群Aのプロトコルで得られたデータは、プラセボと比較して、術後処置のICUにおける時間(図10)を60時間(41%減少)減少した。強心剤スコア(図8)は、プラセボと比較して、1時間で50%減少、12時間で45%減少、そして24時間で38%減少した。人工呼吸器時間(図12)は、プラセボと比較して、48時間減少(47%減少)された。
24名の患者に対する100mg/kgのボーラスおよび1時間あたり12.5mg/kgの注入、術後心臓手処置の群Bのプロトコルで得られたデータは、プラセボと比較して、24時間の期間を超える術後手順のICUにおける時間(図11)を50時間減少(40%減少)させた。強心剤スコア(図9)の減少は、プラセボと比較して、平均して1時間で57%減少、12時間で49%減少、そして24時間で45%減少した。人工呼吸器時間(図13)は、プラセボと比較して、19時間減少(23%減少)された。
DCAのボーラス投与および注入投与により強心薬を減少させることの利点は、実施例Cに記載される研究からの術後心臓処置の1時間〜24時間の期間のデータによって支持される。
インビトロモデリング試験(17)からのデータ測定結果は、1mMの一定の治療レベルでのDCA投与が、臨床的に高レベルの血行動態薬の存在下でその利益を維持することを示す。臨床的に受容可能な低レベルの血行動態薬の存在下で観察される(最適な結果に基づく)一定の最適な治療平均レベルのDCAを投与することは、有意な心保護的な利益を提供し、そのような血行動態薬の使用に伴って起こり得る悪影響を減少させる。実施例に記載される研究において、本発明者らは、特定の間隔で血漿中DCA範囲に対して最適な平均レベルが、以下に挙げられるとおりであることを見出した:1時間〜6時間の期間の間で1mM(0.229mM〜2.22mMの血漿中DCA範囲)、12時間間隔で1.52mM(0.38mM〜3.07mMの血漿中範囲)、そして24時間の時間間隔で2.29mM(1.73mM〜3.91mMの血漿中DCA範囲)。
まとめると、心保護的な利益を改善することおよび改善された心機能は、臨床的に推奨される用量レベルの血行動態薬の存在下で約1mMの一定の治療レベルでDCAを使用することによって、24時間の期間を超えて維持された。臨床的に高レベルの血行動態薬の存在下で、本発明者らのDCAプロトコルを使用して1〜6時間の期間で1mM、12時間間隔で1.5mMそして24時間間隔で2.29mMの一定の治療域を維持することによって、心保護的な利益を改善することおよび改善された心機能がまた、維持される。
(DCAの投与および用量)
本発明が特定の送達手段に限定されることを意図しないが、1つの送達手段は、点滴による導入によって達成されるような静脈内手段である。他の手段としては、カテーテルを用いる送達が挙げられる(しかしこれに限定されない)。別の手段は、例えば、カテーテルを用いる大動脈への直接注入に関係する。さらに他の投与経路としては、所定のレベルの心機能を維持するために必要とされる強心剤の量の減少を達成するための皮下経路、舌下経路および経口経路が挙げられる。
DCAの特定の投薬量はまた、限定することを意図されない。種々の時間的プロトコルが企図される。ボーラスでの送達ならびに連続送達が企図される。1つの実施形態において、DCA(例えば、ジクロロ酢酸ナトリウム)が、少なくとも100mg/kgのボーラスの約100mg/ml溶液(1.0cc/kgボーラス)で与えられ、その直後にジクロロ酢酸塩が1時間あたり約12.5mg/kgで10時間よりも長い間、より好ましくは24時間以上注入される。
本発明の1つの局面に従って、DCAは、被験体が約200μMを超えるか、あるいは500μMを超え、そしてさらに1mMを超える血中(例えば、血清中または血漿中)DCA濃度を有するような条件下で、1時間よりも長いか、あるいは6時間よりも長く、そしてさらに24時間以上の期間の間、その患者に投与される。1つの実施形態において、DCAは、ボーラスとして投与され、続いて連続投与される。
上記の投薬量よりも多い投薬量が使用され得る。本発明者らは、DCAが有意な副作用を有さないことを観察しているが、いくらかの患者は軽い眠気を経験する。
理解を助けるために、本発明はここで以下の実施例によってさらに説明される。これらの実施例は本発明に関係するものの、当然ながら、本発明を具体的に限定するものとして解釈されるべきではなく、そして当業者の範囲内にあるこのような本発明のバリエーションは、現在公知のものでも後に開発されるものでも、本明細書および添付の特許請求の範囲に記載されるように本発明の範囲内にあると考えられる。
(実施例A〜Cに記載される研究において使用される方法)
実施例A〜Cに記載される研究は、心臓外科手術の間、および/または心臓手術後に患者に投与される場合の、DCAの効果についての3つの異なる臨床研究を記載する。
実施例Aに記載される研究は、DCAの心臓代謝に対する効果を研究する場合の成人患者に関する。選択的心臓バイパス移植手術(CABG)を受けた患者に、DCAを投与した。冠動脈バイパス移植において、血行動態薬の臨床上推奨される投薬量の存在下で、この研究を実施した。
実施例Bに記載される研究は、先天的な心臓損傷を治すための心臓外科手術を受けた小児患者に対する、DCAの単回のボーラス用量での投与に関する。このプロトコルは、臨床上推奨される血行動態薬の存在下で実施し、DCAの使用に伴い、これら薬剤の用量および量を低下させ得ることを決定した。
実施例Cに記載の研究は、先天的な心臓損傷を治すための心臓外科手術を受けた小児患者に対する、24時間に亘ってDCAを投与するためのボーラスおよび注入プロトコルの使用に関する。このプロトコルもまた、臨床上推奨される血行動態薬の存在下で実施し、そしてDCAの使用に伴い、これら薬剤の用量および量を低下させ得ることを決定した。
(実施例A)
(研究プロトコルの説明)
ランダムの二重盲験様式のDCA(生理食塩水100ml中50mg/kg)の場合の、選択的心臓バイパス移植手術(CABG)を受けた18人の患者に、DCAまたは生理食塩水を投与するか、またはプラセボを大動脈経路に注入し、その後直ちに、大動脈交差金具を取り外した。DCAの薬理動態学に基づき、本発明者らは、このことが約1mMの血漿中濃度を生じることを予測した。この研究は、8人のDCA処置患者および10人のプラセボ処置患者からなった。
(1.介入)
(a.「通常」治療)
CABG患者に通常施させる全ての手順および薬物を、慣用的に施した。これらの患者に提供される医薬の一覧を、図1に示す。
(b.「介入」治療)
この介入は、大動脈中にDCA(50mg/kg)またはプラセボを注入し、その後直ちに大動脈交差金具を取り外すことを包含する。指定される溶液を、1mg/kgの用量がDCAまたはプラセボの適切な用量をもたらすように作製した。DCAの薬理動態学に基づき、このことは、治療範囲(1mM)におけるDCAの血漿中レベルをもたらすことが予測された。全ての血液サンプルを、DCA濃度についてHPLCにより分析した。
(2.サンプル処理)
DCAを他の血漿成分から分離する、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)技術を使用して、DCAレベルについて血漿サンプルを処理した。簡潔に述べると、20μlの血漿サンプルを、IonoBpher 5Aカラム(250×4.6mmの長さ×直径)およびAXガードカラムを備えたBeckman Gold HPLCに、注入した。カラムの移動相は、10−3Mのピロメリト酸緩衝液(pH=4.0)からなった。HPLCの流速を3.0ml/分に設定し、そして酢酸標準、モノクロロ酢酸標準、およびトリクロロ酢酸標準に対してDCA溶出時間を比較することにより、カラムより溶出されたDCAを検出した。交差金具の取り外しおよび心筋への再灌流の0分後、ならびに20分後、ならびに1時間後に心室バイオプシーサンプルを採取し、そして直ちに液体N中で凍結させた。外科手術後の0〜24時間の間の再灌流の間に、種々の間隔で、血液サンプルもまた採取した。
14C−オキサロ酢酸およびPDHより導かれたアセチルCoAより形成される14C−クエン酸の生成を決定する放射性同位体手順を使用して、心室バイオプシーにおけるPDH活性を測定した(8)。乳酸塩、脂肪酸およびグルコースの血中レベルを、標準的な酵素アッセイを使用して決定した。
(3.統計学的分析)
群の間の人口統計学の比較を、対になっていないt検定(連続変数)およびχ2乗検定(不連続変数)を使用して行った。群の間の心係数の比較を、パラメータ無しの対になっていない検定を使用して行った。統計学的な有意性は、p<0.05と定義する。データ操作および統計学的分析を、University of AlbertaのEpicore Centerにより実施した。
(研究結果)
18人の成人の心臓血管外科手術患者における本研究において、他の臨床上推奨される用量の血行動態薬の存在下で、8人の成人患者に対して、ボーラス用量50mg/kgとしてDCAを投与した(図1)。DCAを投与し、その後直ちに心臓の手順に従って冠動脈流を回復させた。DCA処置された患者において、プラセボと比較して、初期の再灌流期間中に採取した心筋バイオプシーにおけるPDH活性について、有意な増加が存在した(図2)。DCAはまた、乳酸塩レベルを有意に減少させた(図3)。このことは、DCAが再灌流の間に炭水化物の酸化を増加させることを示す。プラセボ群中に1件の死亡があり、そしてDCA群中には死亡はなかった。
また、DCAの投与1時間後に、患者において、DCAの血漿中レベルを測定した。DCAの血漿中レベルは、約1mMであった。本発明者らは、この濃度が、実験動物研究において、グルコース酸化を刺激するのに有効であることを示した(9、16)。
Figure 2007517853
併せて、成人患者における本研究に関するデータは、本発明者らの投与プロトコルが、以下であることを実証した:1)心臓外科手術後の再灌流の重要な初期において、治療レベルのDCAを生じること、および2)この用量のDCAが、心臓のPDH活性を増加させ、そして循環中の血漿中乳酸塩レベルを低下させること。
(実施例B)
(研究プロトコルの説明)
本研究は、ランダムの、プラセボをコントロールとした、二重盲検の、1回の外科手術の、DCAの使用についての研究であり、複合的な先天性心臓損傷を治すために心臓外科手術を必要とする40人の高危険度の小児患者における研究である。
(1.研究集団)
この治験において、1回の外科手術研究において予測するため40人の子供を集め、その子供のうち18人はDCAを受け、22人はプラセボを受けた。1995のパワー計算(power calculation)は、n=40の患者についてのCPB−1治験の区分けに基づいた。
(2.算入基準)
a.年齢1歳未満
b.親または保護者からの同意
c.複合的な先天性心臓損傷を治すための、開心術の必要性(例えば、ファロー四徴候)
d.外科医、麻酔医および心臓病専門医の合意
e.研究プロトコル手順を阻む、大きな心臓病合併症のないこと。
(3.除外基準)
a.親の同意なし
b.外科医または麻酔医または心臓病学者による参入についての拒否。
(4.ランダム化、データ収集および盲検化手順)
研究医薬のコンピューター処理されたランダム化を、University of AlbertaのEpicore Centreにより実施した。患者および全ての研究人員は、本研究全体にわたって知らされてなかった(blinded)。患者の担当医または研究人員の意見において、研究薬物の認識に関する情報が、患者の安全な理由について必要である場合のみ、知らされること(unblinding)が手順の中に組込まれた。
(5.介入)
(a.「通常」治療)
心肺バイパスを受けた幼児に通常施させる全ての手順および薬物を、慣用的に施した。提供される医薬の一覧を、図7Bに示す。
(b.「介入」治療)
この介入は、大動脈経路中にDCA(50mg/kg)またはプラセボを注入し、その後直ちに大動脈交差金具を取り外すことを包含する。指定される溶液を、1mg/kgの用量がDCAまたはプラセボの適切な用量をもたらすように作製した。DCAの薬理動態学に基づき、この指定される溶液は、治療範囲(1mM)におけるDCAの血漿中レベルをもたらすことが予測された。全ての血液サンプルを、DCA濃度についてHPLCにより分析した。
(6.サンプル収集)
動脈血液サンプルを、以下の時点に患者から採取した:
a.手術室で、動脈ラインの挿入直後(すなわち、手術開始時)
b.心肺バイパスが遮断されていようとされていなかろうと、DCAのボーラス投与が施された30分後
c.心肺バイパスの遮断の1時間後
d.心肺バイパスの遮断の6時間後
e.心肺バイパスの遮断の12時間後
f.心肺バイパスの遮断の24時間後。
(7.サンプル処理)
内在する動脈ラインからクエン酸含有チューブに血液サンプルを収集した(0.5mlの血液サンプル)。これらのサンプルを微量チューブ中で回転させ、血漿を分離し、そしてその後の分析のために直ちに凍結させた。さらなる処理まで、全ての血漿サンプルを−80℃で保存した。血漿中のグルコースおよび乳酸塩を、それぞれ、Sigmaのグルコースキットおよび乳酸デヒドロゲナーゼを含む分光学的アッセイを使用して決定した。血漿中の脂肪酸レベルを、ELISA系およびWAKO遊離脂肪酸キットを使用して測定した。
(8.強心薬スコア)
心肺バイパスの終了時での手術室中および集中治療室中の両方において、非経口薬物を、1時間ベースでスコア付けした。手術後最初の24時間の間、それまでの時間内に施された各々のボーラスまたは注入についての各レベルに対して、1ポイントを割り当てた。従って、24時間の終点での高いスコアは、より乏しい機能を示す。
(9.指標の確認)
この研究において、本発明者らは、1時間間隔でイントロープスコア30%の減少を予期した。
(10.応答変数の確認)
(a.データ収集)
手術室における薬物スコアチャートは、麻酔医により書き込まれた。小児科の集中治療室において、研究コーディネーターは、薬物スコアチャートを完全にすることを担い、この薬物スコアチャートは、看護スタッフ、ICUスタッフおよび臨床医により確認をとられた。脂肪酸レベル、グルコースレベル、DCAレベルおよび乳酸塩レベルは、処置カテゴリーについて知らされていない技術者により決定された。
(b.データのモニタリングおよび安全性の問題)
本研究において、安全な予防措置に対して、細心の注意を払った。データをモニタリングする委員会(committee)は、重篤な不利な副作用を生じさせそうな研究を終了させる権限を有した。以前のパイロット研究において、DCAの有害な作用は注目されなかった。
(c.データ分析)
DCAは、強心剤スコアがこの介入患者においてプラセボ患者より有意に低い場合に有益とみなした。
(11.統計学的分析)
群の間の人口統計学の比較を、対になっていないt検定(連続変数)およびχ2乗検定(不連続変数)を使用して行った。群の間の心機能指標の比較を、パラメーター無しの対になっていない検定を使用して行った。統計学的な有意性は、p<0.05と定義する。データ操作および統計学的分析を、Epicore Centerにより実施した。
(研究結果)
DCA投与は、外科手術後の重要な最初の1時間の間の強心薬の必要性を有意に低減させた(図4)。小児患者へのDCAのボーラス投与からのデータ(40)は、また、術後のDCA投与がICU時間(図5)および人工呼吸器時間(図6)を低減させることを実証する。40人の小児患者を有したこのプロトコルにおいて、18人の小児患者は50mg/kgのDCAボーラスを受けた。超音波心臓検査法は、プラセボ患者と比較してDCA患者(26%に対して35%)において、より良好な短期化区分を実証した。
(実施例C)
(研究プロトコルの説明)
本研究は、ランダムの、プラセボをコントロールとした、二重盲検の、1回の外科手術の、DCAの使用についての研究であり、複合的な先天性心臓損傷を治すために心臓外科手術を必要とする51人の高危険度の小児患者における研究である。
(1.研究集団)
この治験において、研究において予測するため53人の幼児を集め、そのうちの51人の患者は、親の同意の後、算入基準に照合させた。初期の10人の患者からのデータを分析した後、投薬プロトコルを変更して、2つの投与群が研究チームから生じた。患者のナンバー1〜ナンバー10からのデータを、DCA治療の血中レベルおよび治療効果について分析した。研究チームによる推奨は、DCAのボーラス用量を増加させ、そしてDCAの注入用量を低下させて、24時間DCA用量範囲を1mMに維持することであった。この目的は、患者ナンバー20において新規プロトコルを適用することであった。1997のEpicoreのパワー計算は、研究患者群についての群Aの=20の患者および群Bのn=31の患者への区分けに基づく。
各々の群の半分は、異なる投薬量のDCAを受け、そして他方の半分は、二重盲検ランダム化様式で、プラセボを受けた。研究への参入候補者は、週ごとの外科手術一覧および心臓外科医による通知より集められた。
(2.算入基準)
a)年齢1歳未満
b)親または保護者からの同意
c)複合的な先天性心臓損傷を治すための、開心術の必要性(例えば、ファロー四徴候)
d)外科医、麻酔医および心臓病専門医の合意。
(3.除外基準)
a)親の同意なし
b)外科医または麻酔医または心臓病学者による参入についての拒否
c)研究プロトコルの実施を阻む、大きな心臓病合併症のないこと。
(4.ランダム化、データ収集および盲検化手順)
研究医薬のコンピューター処理されたランダム化を、Epicore Centreにより実施した。患者および全ての研究人員は、本研究全体にわたって知らされなかった。患者の担当医または研究人員の意見において、研究薬物の認識に関する情報が、患者の安全な理由について必要である場合のみ、知らされることが手順の中に組込まれた。
(5.介入)
(a.「通常」治療)
心肺バイパスを受けた幼児に通常施させる全ての手順および薬物を、慣用的に施した。提供される医薬の一覧を、図7Aおよび7Bに示す。
(b.「介入」治療)
本研究の2つの群における介入は、以下のとおりであった:
(i)群A
DCA(50mg/kg)またはプラセボを大動脈経路に注入し、その後直ちに大動脈交差金具を取り外した。指定される溶液を、用量1mg/kgが、DCAの1mM血漿中濃度のDCA治療レベル、またはプラセボ溶液のいずれかをもたらすように作製した。その後直ちに、25mg/kg/時間のDCA注入または同容量でのプラセボ注入を開始し、そして24時間実施した。DCAの薬理動態学に基づき、このことは、治療範囲(0.2〜1mM)におけるDCAの血漿中レベルを維持することが予測された。しかしながら、DCAの血漿中濃度は、1時間目の間隔の後、1mM未満であった。そして24時間目の血漿中濃度は、24時間間隔で1mMを超えるDCAレベルに上昇された。投薬プロトコルを改変するという決定をした。投薬プロトコルにおけるこの変更は、倫理委員会(Ethics Committee)により承認されたが、患者ナンバー24まで実施されなかった。全ての血液サンプルを、DCA濃度についてHPLCにより分析した。
(ii)群B
DCA(100mg/kg)またはプラセボを大動脈経路に注入し、その後直ちに大動脈交差金具を取り外した。指定される溶液を、用量1mg/kgが、DCAの1mM血漿中濃度のDCA治療レベル、またはプラセボ溶液のいずれかをもたらすように作製した。その後直ちに、12.5mg/kg/時間のDCA注入または同容量でのプラセボ注入を開始し、そして24時間実施した。DCAの薬理動態学に基づき、このことは、治療範囲(0.2〜1mM)におけるDCAの血漿中レベルを維持することが予測された。全ての血液サンプルを、DCA濃度についてHPLCにより分析した。
(6.サンプル収集)
動脈血液サンプルを、以下の時点に患者から採取した:
a.手術室で、動脈ラインの挿入直後(すなわち、手術開始時)
b.心肺バイパスが遮断されていようとされていなかろうと、DCAのボーラス投与が施された30分後
c.心肺バイパスの遮断の1時間後
d.心肺バイパスの遮断の6時間後
e.心肺バイパスの遮断の12時間後
f.心肺バイパスの遮断の24時間後
24時間の最後に、DCA注入またはプラセボ注入を停止した。
(7.サンプル処理)
内在する動脈ラインからクエン酸含有チューブに血液サンプルを収集した(0.5mlの血液サンプル)。これらのサンプルを微量チューブ中で回転させ、血漿を分離し、そしてその後の分析のために直ちに凍結させた。さらなる処理まで、全ての血漿サンプルを−80℃で保存した。血漿中のグルコースおよび乳酸塩を、それぞれ、Sigmaのグルコースキットおよび乳酸デヒドロゲナーゼを含む分光学的アッセイを使用して決定した。血漿中の脂肪酸レベルを、ELISA系およびWAKO遊離脂肪酸キットを使用して測定した。
(8.強心薬スコア)
心肺バイパスの終了時での手術室中および集中治療室中の両方において、非経口薬物を、1時間ベースでスコア付けした。術後最初の24時間の間、それまでの時間内に施された各々のボーラスまたは注入についての各レベルに対して、1ポイントを割り当てた。従って、24時間の最後において、高いスコアは、より乏しい機能を示す。
(9.指標の確認)
この研究において、本発明者らは、イントロープスコア30%の減少を予期した。本発明者らの目的は、DCAのボーラス投与後24時間にわたるDCA注入を提供することによって、プラセボと比較した場合、この24時間を通じて良好な収縮機能を維持するかまたは収縮機能を向上させることである。心臓機能を向上させることにより、本発明者らは、患者あたりのICU時間の低減を予期した。
(10.応答変数の確認)
(a)データ収集)
手術室における薬物スコアチャートは、麻酔医により書き込まれた。小児科の集中治療室において、研究コーディネーターは、薬物スコアチャートを完全にすることを担い、この薬物スコアチャートは、看護師、ICUフローシートおよび医者の指示により確認をとられた。脂肪酸レベル、グルコースレベル、DCAレベルおよび乳酸塩レベルは、処置カテゴリーについて知らされていない技術者により決定された。
(b)データのモニタリングおよび安全性の問題)
本研究において、安全な予防措置に対して、細心の注意を払った。データをモニタリングする委員会は、重篤な不利な副作用を生じさせそうな研究を終了させる権限を有した。以前の研究において、DCAの有害な作用は注目されなかった。
(c.データ分析)
DCAは、強心剤スコアがこの介入患者において、プラセボ患者と比較して有意により低い場合に有益とみなした。
(11.統計学的分析)
群の間の人口統計学の比較を、対になっていないt検定(連続変数)およびχ2乗検定(不連続変数)を使用して行った。群の間の心臓機能指標の比較を、パラメーター無しの対になっていない検定を使用して行った。統計学的な有意性は、p<0.05と定義する。データ操作および統計学的分析を、Epicore Centerにより実施した。
(研究結果)
DCAは体内で短い半減期を有するので、本研究を、小児患者において開始した。この小児患者において、DCAボーラスおよび注入プロトコルは、臨床上推奨される用量の他の血行動態薬の存在下で、24時間に亘って使用される(図7Aおよび7B)。この研究の目的は、24時間に亘ってDCAの治療レベルを維持することである。なぜなら、開心術後の子供において、乏しい心筋収縮および高い乳酸塩レベル(10)が24時間まで継続することが公知であるからである。
開心術を必要とする51人の小児患者を含む(年齢3日〜12歳)二重盲険ランダム化臨床試験において、DCAボーラスまたはプラセボのいずれかを投与し、その後24時間DCAの注入を投与した。本研究の経過の間、プロトコルが群Aの最初の10人の患者(24人の患者中)に施された後、元の群Aの注入速度は、24時間までに1mMを超えるDCA濃度を生じることが明らかになった。従って、本発明者らは、本明細暑中の群Bに対する「方法」の節において記載されるように、群Aのボーラス注入プロトコルを改変した。群Aにおいて、12人の患者は、50mg/kgのDCAボーラスを受け、その後24時間DCA注入(24mg/kg/時間)を受けた。群Bにおいて、14人の患者は、100mg/kgのDCAボーラスを受け、その後24時間DCA注入(12.5mg/kg/時間)を受けた。
その後の所見は、本研究より、以下のとおりであった:プラセボと比較した場合、24時間にわたって、DCA群において、より低い強心剤スコアへの傾向もまた存在した。プラセボと比較した場合、24時間にわたって、DCA群において、より短い集中治療室(ICU)日数への傾向もまた存在した。プラセボと比較した場合、DCA群Aにおいて、より短い人工呼吸器時間への傾向もまた存在した。人工呼吸器時間のこの減少は、DCA群Bプロトコルおよび実施例Bに記載される研究のDCAプロトコルの両方から観察される時間より少なかった。ICU時間におけるより大きな差異は、より複雑な状態および外科手術手順を伴う、より乏しい初期機能を有する患者において観察された。このことは、これらの患者に対してDCAがプラセボよりも有益であり得ることを示す。
本研究において51人の患者より得られたデータについてのその後の概説は、以下のことを明らかにした。本研究における投薬プロトコルの変更は、患者ナンバー25において開始され(そしてプロトコルの変更を要求した時点で予測されていた患者ナンバー20においてはなされなかった)、そして各群に割り当てた患者の実際の数は、群Aについては24人であり、そして群Bについては27人であった。群Aにおけるより年長な24人の小児患者についての患者の記録およびデータのその後の概説は、1つの注入ポンプ故障事例を含むことを明らかにした。群Bにおける27人のより年少な小児患者において、3つのポンプ故障事例が存在した。総計で、4つの注入ポンプ故障事例のみをその後のデータ編集の際に除外した。注入ポンプ故障についての修正の結果として、本明細書中の最終的な2つの群に含まれる患者の最終的な割り当ては、以下のとおりであった:n=23患者の群A、およびn=24患者の群B。データの薬物スコア付け編集は、強心剤スコア付けについて設定し、そしてNa+CO3スコアについては設定しなかった。(Na+CO3は、心臓外科手術手順のための推奨プロトコルにおいて、現在では、慣用的に使用される血行動態薬ではない)。結果として、Na+CO3スコアを、強心剤スコア付けデータの最終的な編集の際に除外した。プラセボ患者群および薬物患者群の両方に対して投与される、臨床上推奨される用量の他の血行動態薬が、注目される(図7Aおよび7Bを参照のこと)。
(1.強心剤スコア)
本研究において、術後24時間にわたる強心剤スコアの減少傾向が示された。これは、1〜4時間にわたる、実施例B(図4)に記載される研究において観察された傾向と同様であった。強心剤の使用の減少に対する傾向は、DCAを受けた群A患者および群B患者の両方において注目された。群A(図8)および群B(図9)の研究からのデータは、その24時間にわたる強心剤スコアに対する、2つの投薬プロトコルを使用したDCAのボーラス/注入投与の効果を示す。群B(図9)において、強心剤スコアの減少(プラセボと比較して、患者あたり平均51%の減少)は、群Aからの結果(プラセボと比較して、患者あたり平均44%の減少)よりも大きい。この研究において、A群およびB群における全ての患者は、異なる心臓外科医の関与に起因して、実施例Bの患者において記載される研究における患者について報告される強心剤スコアよりも、平均してより低い強心剤スコアを受けたことに注意するべきである。
(2.ICU時間)
本研究の群Aおよび群Bにおいて、ICU時間の減少性傾向は、実施例Bにおいて記載される研究において観察されたICU時間の減少性傾向(図5)と同様であった。24時間にわたるICU時間の減少性傾向は、DCAを受けた群Aおよび群Bの両方の患者において注目された。群A(図10)および群B(図11)からのデータは、2つの異なる投薬プロトコルを使用して、DCAのボーラス/注入投与のICU時間に対する効果を示す。群Aにおいて、ICU時間の低減(プラセボと比較して、60時間すなわち41%の減少)は、実施例Bにおいて記載される研究からの結果(プラセボと比較して、19時間すなわち23%の減少)および群Bにおいて記載される研究からの結果(プラセボと比較して、50時間すなわち40%の減少)の両方よりも大きかった。
(3.人工呼吸器時間)
群Aおよび群Bからのデータは、人工呼吸器時間の減少性傾向が、実施例B(図6)に記載される研究において観察された減少性傾向と同様であることを示した。24時間にわたる人工呼吸器時間の減少性傾向は、DCAを受けた群A患者および群B患者の両方において注目された。群A(図12)および群B(図13)からのデータは、2つの異なる投薬プロトコルを使用した、DCAボーラス/注入投与の人工呼吸器時間に対する効果を示す。群Aにおいて、人工呼吸器時間の低減(プラセボと比較して、46時間すなわち47%の減少)は、実施例Bにおいて記載される研究からの結果(プラセボと比較して、12時間すなわち27%の減少)および群Bにおいて記載される研究からの結果(プラセボと比較して、18時間すなわち23%の減少)の両方よりも大きかった。
(結論)
要約すると、本発明者らの知見は、プラセボと比較して、強心剤の必要性を低減させ、そして術後のICU時間を低減させ、そして人工呼吸器時間を低減させることを示す、測定スコア「心係数」を介して、心機能を改善させるための、本発明者らの最初の結果測定を支持する。本発明者らは、新生児および成人の両方において、血行動態薬を用いた追加治療の場合、および/または血行動態薬を用いた併用治療において、DCAが再灌流の間の心機能を改善させそして心臓保護を提供することを、3つの研究を通じて確立した。これらの研究からのデータは、心臓外科手術の成人患者および小児患者の両方を処置するための治療アプローチとして、DCAの使用を支持する。これらのデータはまた、他の血行動態薬の臨床上推奨される用量の存在下でのDCAと強心剤との併用を支持し、そして術後に必要とされる強心剤の量をDCAが減少させ得ることを実証する。
Figure 2007517853
Figure 2007517853
Figure 2007517853
図1は、実施例Aにおいて記載された研究において、患者に使用された術前および術後の心臓医薬を記録した表を示す。 図2は、DCAの50mg/kgボーラスまたはプラセボ投与後の、ピルビン酸デヒドロゲナーゼ(PDH)活性のグラフを示す。実施例Aを参照のこと。 図3は、実施例Aの研究における、心臓バイパスポンプによるプラセボまたは50mg/kgのDCAの注入後の、アセテートの血漿レベルのグラフを示す。 図4は、DCA(50mg/kgボーラス) 対 プラセボで処置された患者についての強心剤スコアのグラフ、およびプラセボと比較してDCAで処置された患者の1時間の強心剤スコアにおける相対的減少を示す。実施例Bを参照のこと。 図5は、プラセボと比較して、DCA(50mg/kgボーラス)で処置された患者についての、ICU時間における減少のグラフを示す。実施例Bを参照のこと。 図6は、DCA(50mg/kgボーラス) 対 プラセボで処置された患者についての人工呼吸器時間における減少のグラフを示す。実施例Bを参照のこと。 図7Aは、術前または術後に強心剤で処置された、実施例Cの研究における患者の概要を示す。 図7Aは、術前または術後に強心剤で処置された、実施例Cの研究における患者の概要を示す。 図7Bは、実施例Bおよび実施例Cにおいて記載された研究の患者のような、心臓手術の術前または術後の患者に定期的に投与された血行動態薬のリストを示す。 図8は、心臓手術後の患者における、DCAの50mg/kgボーラスおよびその後の1時間あたり25mg/kgの注入 対 プラセボの投与の、強心剤スコアについての効果のグラフを示す。実施例Cを参照のこと。 図9は、小児患者において手術後に、DCAの100mg/kgボーラスとしての投与および1時間あたり12.5mg/kgの注入 対 プラセボの、強心剤スコアについての効果のグラフを示す。実施例Cを参照のこと。 図10は、プラセボと比較して、手術後の患者への、50mg/kgボーラスとしてのDCA投与および1時間あたり25mg/kgの注入の、ICU時間減少についての効果のグラフを示す。実施例Cを参照のこと。 図11は、プラセボと比較して、手術後に100mg/kgボーラスおよび1時間あたり12.5mg/kgの注入でDCA処置された患者についての、ICU時間の減少についての効果のグラフを示す。実施例Cを参照のこと。 図12は、プラセボと比較して、手術後に50mg/kgボーラスおよび1時間あたり25mg/kgの注入でDCA処置された患者についての、人工呼吸器時間の減少についての効果のグラフを示す。実施例Cを参照のこと。 図13は、プラセボと比較して、手術後に100mg/kgボーラスおよび1時間あたり12.5mg/kgの注入でDCA処置された患者についての、人工呼吸器時間についての効果のグラフを示す。実施例Cを参照のこと。

Claims (14)

  1. 患者において心機能の所定のレベルを維持するのに必要とされる強心剤の量を減少させる方法であって、該方法は、該患者に、心臓保護量のジクロロアセテート(DCA)を投与する工程を包含する、方法。
  2. DCAは、少なくとも約50mg/kgのボーラスとして投与される、請求項1に記載の方法。
  3. 前記DCAおよび強心剤は、併用投与される、請求項1に記載の方法。
  4. DCAボーラスの投与に続いて、1時間あたり約12.5mg/kgのDCAが少なくとも約24時間注入される、請求項2に記載の方法。
  5. 前記注入は、DCAおよび強心剤を組み合わせて含む、請求項4に記載の方法。
  6. 心臓手術後に、患者において所定のレベルの心機能を維持し、かつ該患者の強心剤に対する必要性を減少させる方法であって、該方法は、少なくとも50mg/kgのボーラスで、続いて1時間あたり少なくとも約12.5mg/kgの少なくとも24時間の注入で、DCAを該患者に投与する工程を包含する、方法。
  7. DCAがボーラスとして投与され、続いて少なくとも約24時間DCAが持続的に投与される、請求項6に記載の方法。
  8. 前記注入は、DCAおよび強心剤を組み合わせて含む、請求項6に記載の方法。
  9. 前記DCAの投与は、皮下、舌下または経口投与による、請求項1に記載の方法。
  10. 心臓手術を受けた患者における強心剤スコアを減少させる方法であって、該方法は、該患者に、心臓保護量のDCAを投与する工程を包含する、方法。
  11. DCAが、ボーラスとして投与され、続いて少なくとも24時間持続的に投与される、請求項10に記載の方法。
  12. 前記持続的な投与が、DCAおよび強心剤を組み合わせて含む、請求項11に記載の方法。
  13. 強心剤の所要量を減少させながら、処置の必要のある患者において所定のレベルで心機能を維持する方法における、該強心剤の投与から15分以内にDCAを投与することを含む、改良。
  14. 心臓保護量のDCAおよび強心剤を含む、薬学的組み合わせ。
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