JP2007297279A - ダニグループ1アレルゲンの改変体 - Google Patents

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Abstract

【課題】 触媒中心のアミノ酸を置換したダニグループIアレルゲンの改変体を提供する。
【解決手段】 遺伝子組換え技術により触媒中心のアミノ酸残基を置換した、下記(1)〜(4)の特徴を有するダニグループIアレルゲン改変体、当該改変体を産生する酵母並びにこれらの製造方法。
(1)プロテアーゼ活性を有しない
(2)IgE抗体の産生を誘導しない、及び
(3)Th2型サイトカインの産生を誘導しない
(4)抗原特異的IgG抗体の産生を誘導する
【選択図】 なし

Description

本発明は、遺伝子組換え技術により得られるダニグループ1アレルゲンの改変体に関する。より詳細には、ダニグループ1アレルゲンに分類されるダニ主要アレルゲンDer f 1の35位のシステイン残基をセリン残基に置換した改変ダニ主要アレルゲンDer f 1、該改変ダニ主要アレルゲンDer f 1産生酵母及びこれらの製造方法に関する。
先進国の人口の20%以上がアレルギー性喘息、アレルギー性鼻炎、アレルギー性皮膚炎あるいは食物アレルギーなどの即時型アレルギーに罹患しているといわれ、大きな社会問題となっている。即時型アレルギーの原因となる抗原はハウスダスト、花粉、食物などであり、アレルゲンと呼ばれ、主に生物に由来する。ハウスダストは、様々なアレルギー疾患に関わる、最も重要なアレルゲンである。その実体は、ハウスダスト中に生息するコナヒョウヒダニ(Dermatophagoides farinae, 略名:Der f)及びヤケヒョウヒダニ(Dermatophagoides pteronyssinus, 略名:Der p)であることが明らかにされている。また、この2種以外にも地域、環境によってはアレルゲンとなる他の種類のダニ(Euroglyphus maynei, Blomia tropicalis, Dermatophagoides microceus, Dermatophagoides sibony, Lepidoglyphus destructor, Glycophagus domestics, Tyrophagus putrescentiae)の存在が報告されている。
現在までにダニ抽出物及びダニ排泄物中の多くのダニアレルゲンタンパク質が同定され、複数のグループに分類されている。その中で、グループ1に属するDer f及びDer p由来のダニアレルゲン(Der f 1及びDer p 1)とグループ2に属するDer f及びDer p由来のダニアレルゲン(Der f 2及びDer p 2)が主要なアレルゲンと認知されている。ほとんどのダニアレルギー患者は、Der f 1及びDer f 2に対して皮膚テスト陽性かつ血清中の特異的IgE抗体陽性であり、両アレルゲンに強く感作されていることが知られている(例えば、非特許文献1参照)。特に、ダニ粗抗原を認識する IgE の50%以上がDer p 1を認識するとの報告があり、ダニグループ1アレルゲンDer f 1及びDer p 1は、ダニアレルギー性疾患に深く関与することが示されている。
グループ1に属するダニアレルゲンに関しては、ダニ排泄物中に多く存在すること、分子量約25kDの分子内に一つのアスパラギン型糖鎖添加シグナルを持つタンパク質でプロテアーゼ活性を有すること及び加熱によりIgE抗体結合能を失うことなどが報告されており、一方、グループ2に属するダニアレルゲンに関しては、ダニ虫体に存在すること、分子量約14〜15kDの蛋白質で分子内に3箇所のジスルフィド結合を有すること及び加熱処理によってIgE結合能を消失しないことなどが明らかにされている(例えば、非特許文献1及び非特許文献2参照)。
アレルギー性疾患を治療する方法として、抗アレルギー剤や抗ヒスタミン剤を投与して患者のアレルギー症状を抑える、いわゆる対症療法を用いることが多いが、この方法ではアレルギーを根治することは難しい。これに対し、最近注目されている治療方法に「減感作療法」がある。減感作療法とはアレルギー患者にその原因となっているアレルゲンを少量づつ注射し、生体のアレルギー反応をなくす治療方法である。その有効率は70%以上といわれており、アレルギー性疾患を根治できる唯一の方法と考えられている。
現在、減感作療法に使用されているダニアレルゲン製剤として、室内埃よりアレルゲンを抽出する方法で製造されたハウスダストアレルゲン(鳥居薬品)が唯一知られている。当該方法により製造されたハウスダストアレルゲンは、十分量の抗原を確保することが難しいだけでなく、ダニ以外の例えばカビや細菌など種々の抗原を含んでいるため、(1)その生物活性(力価)を明確に定義することができない、(2)これらの抗原が引き金となり、別のアレルギーになってしまうことがある、(3)皮膚を侵すことが知られているフェノールが防腐剤として添加されており、投与量が制限されるなどの問題を含んでいる。
近年、大腸菌を宿主としてダニ主要アレルゲンDer f 2を大量に生産させる方法が結城らにより報告された(例えば、特許文献1参照)。遺伝子組換え技術により得られる組換えダニ主要アレルゲンは、単一のタンパク質として大量に調製することができるので、上記の問題の幾つかは解決される。しかしながら、アレルゲン投与によるアナフィラキシーショック反応の問題は依然として残っており、更に改善が求められる。この打開策として、1種類の短小ペプチドを用いたペプチド療法が試みられている(例えば、非特許文献3参照)。しかしながら、Der f 2のようにアレルゲンの配列上に複数のT細胞エピトープが存在する場合、あるいは患者間でT細胞エピトープが異なる場合は、数種のペプチドを使用するなど更なる改善が必要となる。
また、遺伝子組換え技術により得られるダニ主要アレルゲンの改変体を減感作療法に用いることより、アナフィラキシーショックを低減させる試みも行われている。ダニ主要アレルゲンDer f 2の8位及び119位の両システイン残基をセリン残基に置換した改変型のDer f 2は、IgEとの結合能及びヒスタミン遊離活性が顕著に低下することが明らかにされており(例えば、非特許文献1及び特許文献2参照)、減感作療法において高い治療効果が期待される。
一方、グループ1に属するダニ主要アレルゲンDer f 1、Der p 1に関しては、Der f 1の35位のシステイン残基をセリン残基に置換した改変体が作製されており、該改変ダニ主要アレルゲンDer f 1のプロテアーゼ活性は低いが残存していたとの報告がなされている(非特許文献4参照)。Der p 1はプロテアーゼ依存的にマウスにin vivoでIgE産生を誘導すること、同時投与した別の抗原に対するIgE産生を増強し、T細胞応答をTh1型からTh2型へシフトさせること、in vitroのデータとしては、Der p 1のプロテアーゼ活性によって細胞間Tight junctionが破壊されること、気道上皮細胞を直接的に活性化し炎症性サイトカインの産生を誘導すること、などが明らかにされ、プロテアーゼ活性とアレルギー発症及び増悪化との関連性が示唆されている(例えば、非特許文献3、5参照)。すなわち、ダニグループ1アレルゲンのプロテアーゼ活性は強いIgE誘導活性及びTh2誘導活性を有しており、この活性はアレルギーを発症あるいは増悪化させる原因になると考えられる。これまで減感作療法に用いられてきたダニ抽出エキスはプロテアーゼ活性を有したダニグループ1アレルゲンを豊富に含有している。これによって、治療効果の低下や不安定化、さらには、本来感作されていなかった別のダニアレルゲンや治療中に曝露された他の抗原に対するIgE及びTh2型応答が誘導される危険性がある。
プロテアーゼ活性を失ったダニグループ1アレルゲンを減感作治療に使用すれば従来の減感作療法を大幅に上回る高い治療効果と治療の再現性が期待できる。ダニグループ1アレルゲンのひとつであるDer p 1のプロテアーゼ活性に対する新規な阻害剤が合成されている(例えば、特許文献3参照)。しかしながら、人体に投与した場合には阻害剤が生体内で機能するプロテアーゼに作用する可能性や、未知の原因による健康への悪影響が危惧される。また、阻害効率の品質管理の必要性があるために製造工程は煩雑化する。別の方法として、遺伝子工学的にプロテアーゼ活性を持ち得ない改変体(又は変異体)を設計し、調製することができれば、このような問題を解決できると考えられる。しかしながら、前述の通りDer f 1の35位のシステイン残基をセリン残基に置換した改変体は低いプロテアーゼ活性を残存していたと報告されており、ダニグループ1アレルゲンのIgE誘導活性及び/又Th2誘導活性を遺伝子工学的に消去することに成功した例は報告されていない。
特許第2657861号公報 特開平06−253851号公報 特表平11−509543号 高井敏朗、臨床免疫、38(3):298−305, 2002 Platt-Mills TAE ら, J. Allergy Clin. Immunol. 80:755-775, 1987 Shakib Fら, Immunol Today. 19:313-316, 1998 Takahashi K ら, Int. Arch Allergy Immunol. 124:454-460, 2001 高井敏朗、喘息、17(1):15−20, 2004
Der f 1は、ダニアレルギー性疾患を引き起こす主要なアレルゲンの一つである。IgE誘導能及びTh2誘導能を持たないように改変された改変ダニ主要アレルゲンDer f 1は、ダニアレルギーを治療するための有効な薬剤となり得る。前述のアミノ酸の8位及び119位の両システイン残基をセリン残基に置換した改変型のダニ主要アレルゲンDer f 2との併用により、より大きな治療効果を得ることも期待される。
故に、本発明は、遺伝子組換え技術を応用して、ダニ主要アレルゲンDer f 1の35位のシステイン残基をセリン残基に置換することによりIgE誘導能及びTh2誘導能を消去したDer f 1の改変体を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を進めた結果、ダニ主要アレルゲンDer f 1の35位のシステイン残基をセリン残基に置換した改変体(以下、「rDf1-C35S」と称することもある)で免疫したマウスの血清中には、総IgE及びrDf1-C35Sに対する特異的IgEの濃度の上昇が見られないこと、当該免疫マウスの脾臓細胞をrDf1-C35Sで刺激してもTh2型サイトカインを分泌しないこと、大量に投与したときには、抗原特異的IgGは産生されるが、IgEは、ほとんど産生されないこと、更には、成熟したrDf1-C35Sは、プロテアーゼ活性を消失していることを発見した。また、不可逆的システインプロテアーゼ阻害剤E-64で処理した同じダニグループ1アレルゲンに属する組換えDer p 1をマウスに免疫したところ、当該マウス血清中にはIgEが検出されず、組換えDer p 1は、プロテアーゼ活性依存的なIgE誘導活性を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
したがって、本発明は、以下に示すダニグループ1アレルゲンの改変体を提供するものである。
1.触媒中心のアミノ酸残基が置換された、下記(1)〜(4)の特徴を有するダニグループ1アレルゲンの改変体。
(1)プロテアーゼ活性を有しない
(1)IgE抗体の産生を誘導しない
(2)Th2型サイトカインの産生を誘導しない
(4)抗原特異的IgG抗体の産生を誘導する
2.システイン残基、ヒスチジン残基、アスパラギン残基及びグルタミン残基からなる群より選択される、何れか一つ又は二つ以上のアミノ酸残基が置換された上記1の改変体。
3.システイン残基が置換された上記2の改変体。
4.システイン残基がセリン残基又はアラニン残基に置換された上記3の改変体。
5.ダニグループ1アレルゲンがダニ主要アレルゲンDer f 1又はDer p 1である上記1ないし4の何れかの改変体。
6.遺伝子組換え技術により得られる上記1ないし5の何れかの改変体。
7.不純物の含量が検出限界以下である上記1ないし6の何れかの改変体。
また、本発明は、上記のダニグループ1アレルゲンの改変体を産生する宿主及びこれらの製造方法を提供するものである。
本発明の方法によれば、遺伝子組換え技術により、ダニ主要アレルゲンDer f 1の35位のシステイン残基をセリン残基に置換した該Der f 1の改変体であるrDf1-C35S、該rDf1-C35S産生酵母及びこれらの製造方法が提供される。本発明のrDf1-C35Sは、プロテアーゼ活性を消失しており、且つ動物に投与されたときにIgE抗体及びTh2型サイトカインの産生を誘導しない。
さらに、投与量あるいは投与方法の変更によって、治療効果の増強に役立つと考えられる抗原特異的IgG抗体の産生を誘導しうるが、IgE産生の誘導は顕著に低い。
本発明は、プロテアーゼ活性を消去したコナヒョウヒダニ(Dermatophagoides farinae, 略名:Der f)由来のダニ主要アレルゲンDer f 1の改変体によって特徴付けられる。当該改変体は、IgE抗体及びTh2型サイトカインの産生を誘導しない。
一方、同じダニグループ1アレルゲンに属するDer p 1の組換え体を不可逆的システインプロテアーゼ阻害剤E-64で処理してプロテアーゼを失活させ、これをマウスに免疫して得られた血清中には、IgE抗体が検出されない。このこととDer f 1の改変体の実施例をあわせると、組換えDer f1と同様に組換えDer p 1のアミノ酸を置換してプロテアーゼ活性を消去することにより、IgE抗体及びTh2型サイトカインの産生を誘導しない改変体が得られることが容易に予測される。したがって、本発明の方法は、ダニ主要アレルゲンDer f 1だけでなく、ダニグループ1アレルゲンに分類されるヤケヒョウヒダニ(Dermatophagoides pteronyssinus, 略名:Der p)由来のDer p 1及び他のダニに由来するダニグループ1アレルゲンに対して使用できる。
プロテアーゼ活性の消去は、触媒中心を形成するアミノ酸残基あるいは触媒反応に重要なアミノ酸残基を置換することにより行われる(本発明では、触媒中心のアミノ酸残基及び触媒反応に重要な役割を果たすアミノ酸残基を「触媒中心」と定義する)。Der f 1の場合には、好ましくは、触媒中心を形成する35位のシステイン残基、171位のヒスチジン残基、あるいは触媒反応に重要な191位のアスパラギン残基、29位のグルタミン残基が置換される。更に好ましくは、35位のシステイン残基である。置換後のアミノ酸残基として、セリン残基、アラニン残基など、元のアミノ酸残基以外のどのアミノ酸残基も可能であるが、セリン残基、アラニン残基が好ましい。Der f 1以外のダニグループ1アレルゲンの場合には、上記のDer f 1の残基と相同な位置のアミノ酸残基に同様な置換操作が行われる。例えば、Der f1の35位のシステイン残基はDer p1の34位のシステインに相当するので、この34位のシステイン残基がセリン残基又はアラニン残基に置換される。
本発明のより好ましい態様は、35位のシステイン残基をセリン残基に置換したダニ主要アレルゲンDer f 1の改変体(以下、「改変ダニ主要アレルゲンDer f 1」と称することもある)である。以下、改変ダニ主要アレルゲンDer f 1についてより詳細に説明する。
1.改変ダニ主要アレルゲンDer f 1の調製
(1)改変ダニ主要アレルゲン発現ベクターの作製及び安定発現酵母菌株の樹立
ダニ主要アレルゲンをコードするDer f 1遺伝子は、コナヒョウヒダニ(Dermatophagoides farinae, 略名:Der f)から抽出した全RNA、mRNA又はゲノムDNAを出発材料として、Sambrookらが述べている一般的な遺伝子組換え技術(Molecular Cloning, A Laboratory Manual Second Edition. Cold Spring Harbor Laboratory Press, N.Y., 1989)に従って調製することができる。実際には、市販のキットが使用される。例えば、RNAの抽出には、TRIzol試薬(インビトロジェン社)、ISOGEN(ニッポンジーン社)、StrataPrep Total RNA Purification Kit(東洋紡)などの試薬、mRNAの精製には、mRNA Purification Kit(アマシャムバイオサイエンス社)、Poly(A) Quick mRNA Isolation Kit(東洋紡)、mRNA Separator Kit(クロンテック社)などのキット、cDNAへの変換には、SuperScript plasmid system for cDNA synthesis and plasmid cloning(インビトロジェン社)、cDNA Synthesis Kit(宝酒造)、SMART PCR cDNA Synthesis & Library Construction Kits(クロンテック社)、Directionary cDNA Library Construction systems(ノバジェン社)、GeneAmp PCR Gold(アプライドバイオシステムズ社)などが使用される。
より具体的には、培養したコナヒョウヒダニからISOGEN(ニッポンジーン社)を用いて全RNAを抽出し、SuperScriptII(ライフテクノロジーズ社)により、cDNAに変換した後、これを鋳型として、GeneAmp PCR Gold(アプライドバイオシステムズ社)を用いて、添付のプロトコールに従い、プレプロ(Prepro)Der f 1遺伝子断片を増幅する。プレプロDer f 1遺伝子の5’側に相当するプライマー(配列番号1)及び3’側に相当するプライマー(配列番号2)は、Yasuhara Tらの報告(Biosci. Biotechnol. Biochem. Vol.65, p.563-569, 2001)に記載された配列を参照して調製することができる。配列番号1の配列にはBamHI、配列番号2の配列にはPstIの制限酵素切断部位が付加されている。得られたcDNA断片の塩基配列は、一旦pBluescript II SK+(ストラタジーン社)又はpCR2.1-TOPO(インビトロジェン社)にクローニングした後、DNAシークエンサー(ABI Prism 377アプライドバイオシステムズ社)により決定される。
プレプロDer f 1遺伝子の一部に変異を入れる場合は、サイトダイレクティドミュータジェネシス法を使用するのが一般的である。実際には、本技術を応用したTakara社のSite-Directed Mutagenesis System (Mutan-Super Express Km、Mutan-Express Km、Mutan-Kなど)、 Stratagene社のQuickChange Multi Site-Directed Mutagenesis Kit、QuickChange XL Site-Directed Mutagenesis Kit、Invitrogen社のGeneTailor Site-Directed Mutagenesis Systemなどの市販のキットを用い添付のプロトコールに従って行われる。本発明においては、QuickChange(ストラタジーン社)が使用される。N型糖鎖結合部位である53位のアスパラギン残基のグルタミン残基への置換には配列番号5及び配列番号6に記載の合成DNA、また、酵素活性中心である35位のシステイン残基のセリン残基への置換には配列番号7及び配列番号8記載の合成DNAが使用される。プレプロDer f 1遺伝子に変異を入れる際の鋳型として、前述のクローニング時のプラスミドDNA又は後述の発現ベクターに挿入後のプラスミドDNAが使用される。
こうして得られるプレプロDer f 1遺伝子又は当該遺伝子に変異を入れた改変体の遺伝子を適当な発現ベクターに組み込み、当該発現ベクターを宿主に導入することによって、ダニ主要アレルゲンDer f 1又はその改変体を当該宿主に発現させることができる。ダニ主要アレルゲンを発現させるための宿主として、外来蛋白の発現に常用される細菌、酵母、動物細胞、植物細胞及び昆虫細胞などを使用することが可能であるが、宿主はそれぞれの研究・開発目的に合わせて適宜選択すれば良い。本発明では、宿主として酵母が使用される。発現ベクターは、酵母発現用に種々のものが開発・市販されているのでこれらの中から適宜選択して使用すれば良い。酵母への遺伝子導入方法として、エレクトロポーレーション法、スフェロプラスト法などの方法が挙げられるが何れの方法を用いても良い。
より具体的には、プレプロDer f 1遺伝子がクローニングされたプラスミドDNAを鋳型とし、配列番号3及び4記載の合成DNAを使用し、プレプロDer f 1遺伝子を増幅する。
これらのプライマーには、プレプロDer f 1遺伝子5’側に相当する配列番号3にBamHI、3’側に相当する配列番号4にNotIの制限酵素切断部位が付加されている。得られたcDNA断片を制限酵素BamHI及びNcoIで消化し、これを、予め同じ制限酵素で処理した酵母Pichia pastoris発現ベクターpPIC3.5(インビトロジェン社)にクローニングする。
前述したようにN型糖鎖結合部位である53位のアスパラギン残基のグルタミン残基への置換は、QuickChange(ストラタジーン社)により行う。得られたベクターを組換えDer f 1(以下、「rDf1」と称することもある)発現用ベクターと呼ぶ。次いで該rDf1発現ベクターを鋳型として、酵素活性中心である35位のシステイン残基のセリン残基への置換を行う。得られたベクターを改変Der f 1(以下、「rDf1-C35S」と称することもある)発現用ベクターと呼ぶ。Pichia Expression Kit(インビトロジェン社)のプロトコールに従いrDf1発現用ベクター及びrDf1-C35S発現用ベクターのそれぞれを酵母Pichia pastrisに遺伝子導入し、相同組換えによりrDf1及びrDf1-C35S産生細胞を得る。酵母の培養に用いる培地として、寒天培地、YPD培地、BMGY培地、BMMY培地などが使用されているが、培養目的や培養段階に応じて適宜選択すれば良い。実際には、それぞれの培地のプロトコールに従って、アミノ酸、ビタミン、糖、アルコール、酵母抽出物、抗生物質、PH調整用緩衝液などを添加したものが使用される。培地のpHは5〜8、培養温度は25℃〜30℃の範囲が設定される。培地の量、添加物及び培養時間は、培養スケールに合わせて適宜調節される。rDf1及びrDf1-C35S産生酵母のクローニングは、相同組換えの結果ヒスチジン非要求性に転換し最小寒天培地上で生育したシングルコロニーを複数ピックアップし、炭素源としてグルコースを加えた最小寒天培地及びメタノールを炭素源として加えた最小寒天培地に植え継ぎ、前者の培地では通常速度で生育するが後者では生育速度が極度に低下するクローンをスクリーニングした。こうして、rDf1及びrDf1-C35Sの安定発現細胞が樹立される。
(2)改変ダニ主要アレルゲンDer f 1前駆体溶液の調製
rDf1安定発現細胞又はrDf1-C35S安定発現細胞を、YPD培地中、30℃で培養し、この培養液1mlを400 mlのBMGY培地に加え、更に30℃、24時間培養した後、低速遠心により細胞を沈殿させる。沈渣に80 mlのBMMYを加え、更に72〜96時間培養する。このとき、24時間毎に0.8mlのメタノールを添加する。培養上清を遠心分離により回収し、その1/5量の0.5M Tris-HCl(pH9.0)を加えた後、50%飽和硫酸アンモニウムで分画し、沈渣にrDf1前駆体(以下、「Pro-rDf1」と称することもある)又はrDf1-C35S前駆体(以下、「Pro-rDf1-C35S」と称することもある)を回収する。これに、最初の培養液の1/20量の50mTris-HCl(pH9.0)あるいは精製水に溶解し、前駆体溶液とする。
(3)改変ダニ主要アレルゲンDer f 1前駆体の成熟化
前記のPro-rDf1及びPro-rDf1-C35S溶液を10〜100倍量の0.1M酢酸緩衝液(pH4.0)に対して、室温で0.5〜12時間(この間に0〜2回の透析外液交換を行う)、更に4℃で1〜14日間透析することにより、該Pro-rDf1-C35Sの成熟化が行われる。活性中心変異体の成熟化に長時間を要するような場合は、プロテアーゼ固定化ビーズなど、外からのプロテアーゼの添加によって成熟化を促進することが可能である。成熟化の進行は、試料をSDSポリアクリルアミノ電気泳動(SDS-PAGE)にかけることによって確認することができる。すなわち、プロ配列の切断除去が進行し、還元条件下SDS-PAGEで約32 kDaの位置のプロ体に相当するバンドが消失していき、代わりに、プロ配列が除去切断され約27 kDaの位置に短小化した成熟体のバンドが出現してくる。当該処理液中の未反応物質や分解物等の不純物から成熟rDf1(以下、単に「rDf1」と称することもある)又は成熟rDf1-C35S(以下、単に「rDf1-C35S」と称することもある)を分離・精製する際には、一般的に、蛋白質化学において使用される精製方法、例えば、塩析法、限外ろ過法、等電点沈殿法、電気泳動法、イオン交換クロマト法、ゲルろ過クロマト法、アフィニティークロマト法、疎水クロマト法、ハイドロキシアパタイトクロマト法などの方法が用いられる。
本発明では、上記の成熟化処理液を、50 mM Tris-HCl緩衝液(pH 8.0)に透析した後、同じ緩衝液で平衡化した陰イオン交換カラム(HiTrap QXL, 5 mL, アマシャムバイオサイエンス社)にかけ、0〜400mM塩化ナトリウム濃度勾配による溶出を行う。各フラクションについてSDS-PAGEを行い、rDf1又はrDf1-C35S含有フラクションを回収する。得られた目的物含有フラクションを集め濃縮し、さらに分子ふるいカラム(Superdex 75, 25 mL, アマシャムバイオサイエンス社)にかけ、精製度を上げる。成熟化処理したPro-rDf1-C35S溶液については、残存する前駆体を除去するために、陰イオン交換カラムクロマトグラフィーと分子ふるいカラムクロマトグラフィーの間に陽イオン交換カラムクロマトグラフィーによる精製工程が入る。すなわち、陰イオン交換カラムによる精製画分を50 mM 酢酸バッファ(pH 4.0) に透析した後、同じ緩衝液で平衡化した陽イオン交換カラム(HiTrap SPHP, 5 mL, アマシャムバイオサイエンス社)にかけ、塩化ナトリウム濃度勾配による溶出を行う。各フラクションについてSDS-PAGEを行い、成熟化rDf1-C35Sのみを含有するフラクションを回収する。得られた目的物含有フラクションを集め濃縮し、分子ふるいカラムによる精製を行う。
こうして得られるrDf1及びrDf1-C35S含有溶液の精製度は、一般に、蛋白質の分析に使用される方法、例えば、特異抗体を用いるEIA及びウェスタンブロット、還元・非還元状態におけるSDS-ポリアクリルアミド電気泳動(SDS-PAGE)、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、吸光度測定、等電点電気泳動、デンシトメトリーなどの分析にかけることにより測定される。本発明では、蛋白濃度の測定は、Bradfordの方法に基づく蛋白分析キット(Protein Assayキット:Bio-Rad社)を用いて行われる。最終工程を経たrDf1及びrDf1-C35S溶液は、SDS-PAGE後のゲルのクーマシーブリリアントブルー染色を行った結果、共に目的物以外の他のバンドは確認されず、検出限界以下の純度を有する。
2.改変ダニ主要アレルゲンDer f 1の性状
(1)マウス免疫及び血清中IgEの測定
こうして得られたrDf1-C35Sの減感作剤として有用性は、当該rDf1-C35Sを種々の動物、例えば、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、イヌ、サルなどに免疫し、得られる血清中のIgE量あるいは脾臓細胞のサイトカイン産生量を調べることにより示すことができる。アジュバントとして、水酸化アルミニウム(例えば、ImjectAlum (ピアース社)、などを使用できるが、特に制限はない。投与方法についても、特に制限はなく、例えば、皮下、皮内、腹腔内、点鼻など通常使用される接種ルートにより投与される。あるいは喘息モデル誘発したマウスに投与して直接病気を治療することにより減感作剤としての効果を示すことができる。
より具体的には、免疫は、CBA/Jマウス(チャールズリバー社)を用い、マウス1匹当たり、ImjectAlum (ピアース社)と混合した0.5マイクログラムのrDf1又はrDf1-C35Sを、週一回、腹腔に投与することにより行われる。初回免疫から4週後に眼窩静脈叢から採血し、血清を回収する。血清中の総IgE 濃度は、特異抗体を用いたサンドイッチELISA法により測定される。抗ヒトIgEモノクローナル抗体(ファーミンジェン社)でコートしたマイクロタイタープレートをブロックエース(雪印社)でブロッキング後、希釈血清を添加し、反応させる。洗浄後、バーオキシダーゼ標識抗ヒトIgEモノクローナル抗体(セロテック社)と反応させ、洗浄後、Tetramethylbenzidine基質(シグマ社)と過酸化水素を添加し、発色反応を行う。硫酸で反応停止後、450 nmでの吸光度を測定する。ヒトIgE(ファーミンジェン社)を標準物質として作成される検量線から、マウス血清中の総IgE濃度が算出される。
Der f 1特異的IgEの測定は、糖鎖付加部位を破壊していない組換えDer f 1(FEBS Lett. vol.531, p.265-272, 2002でDer f 1-WTと記載されているもの)をコートしたプレートを用いて行う。該マイクロタイタープレートをDer f 1-WTでブロッキングした後、10倍希釈したマウス血清をProtein G固定化ビーズとインキュベイションし、IgGを吸収後、このプレートに添加し、反応させる。洗浄後、バーオキシダーゼ標識抗ヒトIgEモノクローナル抗体(セロテック社)と反応させ、洗浄後、発色反応を行い、反応停止後、吸光度を測定し、Der f 1特異的IgE量の比較を行う。
(2)脾臓細胞のサイトカイン産生測定
脾臓細胞が産生するサイトカインの測定は、以下のように行われる。初回免疫から4週後に採血を行った翌日に、マウスを屠殺し、脾臓をとりだし、ステンレスメッシュを通してホモジナイズする。ACKバッファ(NH4Cl 8.3 g, K2HCO3 1 g, EDTA・2NA 37.2 mgを1L水溶液中に含む)を用いて赤血球を除去し、RPMI1640培地(シグマ社)に10%牛胎児血清培地、0.05 mM 2−メルカプトエタノール及び抗生物質を添加した培地で洗浄後、丸底培養用96ウェルプレートに、1ウェル当たり4 x 105 個の細胞を播種する。10マイクログラム/mLの濃度のrDf1あるいはrDf1-C35Sを添加した培地で培養し、3日後に培養上清を回収する。サイトカイン測定キット(ジェンザイム社)を用い、培養上清中のIL-4及びIL-5を測定する。培地のみで培養した上清をコントロールとする。
(3)プロテアーゼ活性測定
プロテアーゼ活性の測定は高井らの報告(FEBS Lett. vol.531, p.265-272, 2002)に準じて行われる。rDf1-C35S及び基質(butyloxycarbonyl-Gln-Ala-Arg-MCA; ペプチド研究所)を、それぞれ終濃度100 nM及び0.1mMとなるように反応バッファ(50 mMリン酸バッファ、1mM EDTA、1 mM ジチオスライトール、pH 7.0)に添加し、37℃でインキュベーションする。基質分解反応が蛍光の経時的計測により追跡される。蛍光測定にはフルオロスキャンアセント(ラボシステム社)が用いられる。
本発明の方法により得られる高度に精製したプロテアーゼ活性を持たないrDf1-C35Sは、これが投与されたときに、プロテアーゼ活性を持ったrDf1と比較して、総IgE、抗原特異的IgE及びサイトカインの産生がほとんど誘導されない。IgE誘導活性及びTh2誘導活性が認められないということは、効率的なTh2からTh1へのシフト誘導が期待されることを意味する。したがって、一般に用いられる添加剤、例えば、安定化剤(アルギニン、ポリソルベート80、マクロゴール4000など)、賦型剤(マンニトール、ソルビトール、スクロース)などを添加し、無菌濾過、分注、凍結乾燥等の処理を行い製剤化され、注射剤としてあるいは経粘膜的に投与(経鼻、経口、舌下)される製剤としてダニアレルゲンエキスやハウスダストエキスと同様に臨床使用することが可能である。
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。
改変ダニ主要アレルゲンDer f 1の調製
改変ダニ主要アレルゲンDer f 1の調製は、高井らの報告(FEBS Lett. vol.531, p.265-272, 2002)に準じて行った。
(1)改変ダニ主要アレルゲン発現ベクターの作製及び安定発現酵母菌株の樹立
培養したコナヒョウヒダニ(Dermatophagoides farinae, 略名:Der f)200mgからISOGEN(ニッポンジーン社)を用いて全RNAを抽出した。SuperScriptII(ライフテクノロジーズ社)により、cDNAに変換した後、これを鋳型として、GeneAmp PCR Gold(アプライドバイオシステムズ社)を用いて、添付のプロトコールに従い、プレプロ(Prepro)Der f 1遺伝子断片を増幅した。5’側及び3’側のプライマーは、Yasuhara Tらの報告(Biosci. Biotechnol. Biochem. Vol.65, p.563-569, 2001)に記載された配列を参照して調製した配列番号1及び2記載の合成DNAを使用した。これらのプライマーには、プレプロDer f 1遺伝子5’側に相当する配列番号1にBamHI、3’側に相当する配列番号2にPstIの制限酵素切断部位が付加されている。得られたcDNA断片の塩基配列は、一旦pBluescript II SK+(ストラタジェン社)又はpCR2.1-TOPO(インビトロジェン社)にクローニングした後、DNAシークエンサー(ABI Prism 377, アプライドバイオシステムズ社)により決定した。
正しい配列のプレプロDer f 1遺伝子がクローニングされたプラスミドDNAを鋳型とし、配列番号3及び4記載の合成DNAを使用し、プレプロDer f 1遺伝子を増幅した。これらのプライマーには、プレプロDer f 1遺伝子5’側に相当する配列番号3にBamHI、3’側に相当する配列番号4にNotIの制限酵素切断部位が付加されている。得られたcDNA断片を酵母Pichia pastoris発現用ベクターpPIC3.5(インビトロジェン社)にクローニングした後、DNAシークエンサーにより塩基配列を決定した。N型糖鎖結合部位である53位のアスパラギン残基のグルタミン残基への置換(この操作によって酵母による大きな糖鎖付加を免れることが出来、ダニから精製した天然型Der f 1と同一分子量の組換え体の調製が可能となる。)は、QuickChange(ストラタジーン社)を用いて、添付のプロトコールに従って行った。これに用いた部位特異変異用の合成DNAの塩基配列を配列番号5及び配列番号6に記載する。DNAシークエンサーにより塩基配列を決定した。得られたベクターを組換えDer f 1(以下、「rDf1」と称することもある)発現用ベクターと呼ぶ。
このrDf1発現ベクターを鋳型として、さらに配列番号7及び配列番号8記載の合成DNAを用いて、酵素活性中心である35位のシステイン残基のセリン残基への置換を行った。DNAシークエンサーにより塩基配列を決定した。得られたベクターを改変Der f 1(以下、「rDf1-C35S」と称することもある)発現用ベクターと呼ぶ。
Pichia Expression Kit(インビトロジェン社)のプロトコールに従いrDf1発現用ベクター及びrDf1-C35S発現用ベクターのそれぞれを酵母Pichia pastrisに遺伝子導入し、相同組換えにより安定発現細胞株を樹立した。
(2)改変ダニ主要アレルゲンDer f 1前駆体溶液の調製
rDf1安定発現細胞あるいはrDf1-C35S安定発現細胞を、YPD培地中、30℃で培養した。この培養液1mlを400mlのBMGY培地に加え、30℃、24時間培養した後、低速遠心により細胞を沈殿させ、沈渣に80mlのBMMYを加え、更に72〜96時間培養をした。このとき、24時間毎に0.8mlのメタノールを添加した。培養上清を遠心分離により回収し、その1/5量の0.5M Tris-HCL(pH9.0)を加えた後、50%飽和硫酸アンモニウムで分画し、沈渣にrDf1前駆体(以下、「Pro-rDf1」と称することもある)あるいはrDf1-C35S前駆体(以下、「Pro-rDf1-C35S」と称することもある)を回収した。これを、最初の培養液の1/20量の50mM Tris-HCL(pH9.0)に溶解し、前駆体溶液とした。
(3)改変ダニ主要アレルゲンDer f 1前駆体の成熟化
実施例1−(2)のPro-rDf1及びPro-rDf1-C35S溶液を100倍量の0.1M酢酸緩衝液(pH4.0)に対して、室温で3時間、更に4℃で24〜48時間透析し、該前駆体の成熟化を行った。その後、50 mM TrisCl緩衝液(pH 8.0)に透析した後、同じ緩衝液で平衡化した陰イオン交換カラム(HiTrap QXL, 5 mL, アマシャムバイオサイエンス社)にかけ、0〜400mMの塩化ナトリウム濃度勾配による溶出を行った。各フラクション中の蛋白をSDS-PAGEにより検出した後、成熟体含有フラクションを回収した。rDf1-C35S溶液については残存する前駆体を除去するために、さらに陰イオン交換カラムによる精製画分を50 mM 酢酸バッファ(pH 4.0) に透析した後、同じ緩衝液で平衡化した陽イオン交換カラム(HiTrap SPHP, 5 mL, アマシャムバイオサイエンス社)にかけ、塩化ナトリウム濃度勾配による溶出を行った。各フラクション中の蛋白をSDS-PAGEにより検出した後、成熟体含有フラクションを回収した。得られた成熟体rDf1及び成熟体rDf1-C35Sをさらに分子ふるいカラム(Superdex 75, 25 mL, アマシャムバイオサイエンス社)にかけた。各フラクション中の蛋白をSDS-PAGEにより検出した後、成熟体含有フラクションを回収した。蛋白濃度は、Bradfordの方法に基づく蛋白分析キット(Protein Assayキット:Bio-Rad社)を用いて測定した。こうして得られた成熟rDf1(以下、単に「rDf1」と称することもある)及び成熟rDf1-C35S(以下、単に「rDf1-C35S」と称することもある)溶液のSDS-PAGE後のゲルについて、デンシトメトリーを用いて純度を測定した結果、共に他の蛋白は検出されなかった。
マウス免疫及び血清中IgEの測定
(1)マウス免疫
実施例1−(3)で得られたrDf1及びrDf1-C35Sを抗原としてマウスを免疫した。アジュバントとしてImjectAlum (ピアース社)を用い、CBA/Jマウス(チャールズリバー社)に1匹当たり0.5マイクログラムの抗原を、週一回、腹腔に投与した。初回免疫から4週後に眼窩静脈叢から採血し、血清を回収した。
(2)総IgEの測定
サンドイッチELISA法により血清中総IgE 濃度を測定した。抗ヒトIgEモノクローナル抗体(ファーミンジェン社)でコートしたマイクロタイタープレートをブロックエース(雪印社)でブロッキング後、希釈血清を添加し、反応させた。洗浄後、バーオキシダーゼ標識抗ヒトIgEモノクローナル抗体(セロテック社)と反応させた。洗浄後、Tetramethylbenzidine基質(シグマ社)と過酸化水素を添加し、発色反応を行った。硫酸で反応停止後、450 nmでの吸光度を測定した。ヒトIgE(ファーミンジェン社)を標準物質として検量線を作成し、マウス血清中総IgE濃度を算出した。その結果を図1に示す。
(3)Der f 1特異的IgEの測定
Der f 1特異的IgEの測定は、糖鎖付加部位を破壊していない組換えDer f 1(FEBS Lett. vol.531, p.265-272, 2002でDer f 1-WTと記載されているもの)をコートしたプレートを用いて行った。Der f 1-WTでコートしたマイクロタイタープレートをブロッキングした。10倍希釈したマウス血清をProtein G固定化ビーズとインキュベイションし、IgGを吸収後、このプレートに添加し、反応させた。洗浄後、バーオキシダーゼ標識抗ヒトIgEモノクローナル抗体(セロテック社)と反応させた。洗浄後、発色反応を行い、反応停止後、吸光度を測定し、Der f 1特異的IgE量の比較を行った。その結果を図2に示す。
脾臓細胞のサイトカイン産生測定
初回免疫から4週後に採血を行った翌日に、マウスを屠殺し、脾臓をとりだし、ステンレスメッシュを通してホモジナイズした。ACKバッファ(NH4Cl 8.3 g, K2HCO3 1 g, EDTA・2NA 37.2 mgを1L水溶液中に含む)を用いて赤血球を除去し、RPMI1640培地(シグマ社)に10%牛胎児血清培地、0.05 mM 2−メルカプトエタノール及び抗生物質を添加した培地で洗浄後、丸底培養用96ウェルプレートに、1ウェル当たり4 x 105 個の細胞を播種した。培地のみ、あるいは10マイクログラム/mLの濃度のrDf1あるいはrDf1-C35Sを添加した培地で培養した。3日後に培養上清を回収した。サイトカイン測定キット(ジェンザイム社)を用い、培養上清中のIL-4及びIL-5を測定した。その結果を図3及び4に示す。
プロテアーゼ活性測定
プロテアーゼ活性の測定は高井らの報告(FEBS Lett. vol.531, p.265-272, 2002)に準じて行った。反応バッファ(50 mMリン酸バッファ、1mM EDTA、1 mMジチオスライトール、pH 7.0)中における37℃でのbuthyloxycarbonyl-Gln-Ala-Arg-MCA(0.1 mM)を基質としたrDf1あるいはrDf1-C35S(100 nM)による基質分解反応を、蛍光の経時的計測により追跡した。蛍光測定にはフルオロスキャンアセント(ラボシステム社)を用いた。その結果を図5に示す。
免疫するrDf1の量を増加した場合の抗体産生パターンの変化
(1)マウス免疫
1匹当たりに投与する抗原量が増加した点を除き、実施例2−(1)と同様に行った。
(2)抗体価の測定
総IgEの測定は実施例2−(2)と同様に行った。特異的IgEの測定は、rDf1を投与したマウス及びアラムのみを投与したマウスについては実施例2−(3)と同様に行い、rDf1-C35Sを投与したマウスについてはrDf1-C35Sをコートしたプレートを用いた点を除き実施例2−(3)と同様に行った。その結果を図6−(a)及び図6−(b)に示す。
特異的IgG抗体の測定は、上記の特異的IgEの測定と類似の方法で行ったが、以下の点が異なる。血清のProtein G処理は行わなかった。IgG1の測定には30,000倍希釈した血清を用い、検出用2次抗体としてパーオキシダーゼ標識抗ヒトIgG1モノクローナル抗体(ファーミンジェン社)を用いた。IgG2aの測定には100倍希釈した血清を用い、検出用2次抗体としてパーオキシダーゼ標識抗ヒトIgG2aポリクローナル抗体(サザンバイオテクノロジー社)を用いた。IgG2bの測定には100倍希釈した血清を用い、検出用2次抗体としてパーオキシダーゼ標識抗ヒトIgG2bポリクローナル抗体(ザイメット社)を用いた。その結果を図7に示す。
組換えDer p 1のプロテアーゼ活性阻害によるIgE誘導活性の消失
(1)組換えDer p 1の調製
以下の点を除いて、実施例1(1)(2)(3)中のrDf1の調製と同様に組換えDer p 1(以下、「rDp1」と称することもある)を調製した。すなわち、培養したヤケヒョウヒダニ(Dermatophagoides pteronyssinus)から全RNAを抽出して用いた。プレプロDer p 1遺伝子断片の増幅にはChua KYらの報告(Int Arch Allergy Immunol, Vol.101:p364-368, 1993)に記載された配列を参照して調製した配列番号9及び10記載の合成DNAを使用し増幅断片は制限酵素処理せずにベクターに挿入した。発現ベクターへ挿入するプレプロDer p 1遺伝子の増幅には配列番号11及び12記載の合成DNAを使用した。N型糖鎖結合部位である52位のアスパラギン残基のグルタミン残基への置換には配列番号13及び14記載の合成DNAを使用した。
(2)マウス免疫
1匹当たりに投与する抗原量が2.5マイクログラムである点を除き、実施例2−(1)と同様に行った。
(3)総IgEの測定
総IgEの測定は実施例2−(2)と同様に行った。その結果を図8に示す。
活性中心変異によるPro-rDf1-C35S, Pro-rDf1-C35A, Pro-rDp1-C34S, Pro-rDp1-C34Aの発現量の増大
(1)改変アレルゲン発現ベクターの作製及び安定発現酵母菌株の樹立
rDf1-C35Aの場合、以下の点を除いて実施例1(1)と同様に行った。すなわち、配列番号7,8の代わりに15,16記載の合成DNAを用いて酵素活性中心である35位のシステイン残基のアラニン残基への置換を行った。
rDp1-C34S, rDp1-C34Aの場合には、実施例6(1)に従ってrDp1発現ベクターを作製
した後、以下の点を除いて実施例1(1)と同様に酵素活性中心残基の置換及び安定発現酵母菌株の樹立を行った。酵素活性中心である34位のシステイン残基付近のアミノ酸配列はDer f 1とDer p 1の間で保存されているので、変異導入に用いる合成DNAは同一のものを使用することができる。すなわち、rDp1-C34Sの場合には配列番号7,8記載の合成DNAを用いて酵素活性中心である34位のシステイン残基のセリン残基への置換を行い、rDp1-C34Aの場合には配列番号15,16記載の合成DNAを用いて酵素活性中心である34位のシステイン残基のアラニン残基への置換を行った。
(2)改変アレルゲン前駆体の発現量の比較
実施例1(2)に記載の方法と同様にして培養上清を回収した。SDS-PAGE後のゲルをクーマシーブリリアントブルーで染色し、それぞれのプロ体のバンドの濃度を比較した。その結果を図9に示す。Pro-rDf1及びPro-rDp1に比べ、何れの改変アレルゲン前駆体も発現量の増加が認められた。
本願発明のダニ主要アレルゲンDer f 1の改変体はIgE誘導能及びTh2誘導能を失っており、ダニアレルギー性疾患の予防や減感作療法に用いた場合に、より効率的に治療効果を発揮するダニアレルゲン製剤となり得る。遺伝子組換え技術を利用して製造されるため、一定品質の製品を多量に半永久的に供給することができる。また、その構成成分も生体内に存在するアミノ酸であるため、未知の原因による健康への悪影響もないと考えられる。したがって、従来の、室内埃よりアレルゲンを抽出する方法で製造されるハウスダストアレルゲンが抱える(1)一定品質の製剤を得ることが難しい、(2)種々の抗原が混在するのでこれらの抗原による別のアレルギーが誘発される場合がある、(3)十分量の抗原を確保することが難しい、(4)効果が得られないあるいは低い場合がある、などの問題が解決される。
また、高度に精製された本発明のrDf1-C35Sは、ダニアレルギー抗原及び抗体の検出系を構築する際の材料として使用できるだけでなく、プロテアーゼ活性、IgE抗体及びTh2型サイトカイン産生能の消失など、未修飾のダニ主要アレルゲンDer f 1とは異なる性状を有しているので、ダニアレルギー症状の発生メカニズムを解明するための研究材料として有効に活用できる。
図1は、下記の抗原で免疫したマウス血清中の総IgEを測定した結果を示す図面である。rDf1;糖鎖付加部位を破壊したダニ主要アレルゲンDer f 1、rDf1+E64;プロテアーゼインヒビター(E-64)処理後の糖鎖付加部位を破壊したダニ主要アレルゲンDer f 1、rDf1-C35S;糖鎖付加部位を破壊したダニ主要アレルゲンDer f 1の35位のシステイン残基をセリン残基に置換した改変体 図2は、下記の抗原で免疫したマウス血清中の抗原特異的IgEを測定した結果を示す図面である。rDf1;糖鎖付加部位を破壊したダニ主要アレルゲンDer f 1、rDf1+E64;プロテアーゼインヒビター(E-64)処理後の糖鎖付加部位を破壊したダニ主要アレルゲンDer f 1、rDf1-C35S;糖鎖付加部位を破壊したダニ主要アレルゲンDer f 1の35位のシステイン残基をセリン残基に置換した改変体 図3は、下記の抗原で免疫したマウスの脾蔵細胞を、培地のみ、rDf1含有培地又はrDf1-C35S含有培地で培養した後、培地中のサイトカインIL4を測定した結果を示す図面である。1;糖鎖付加部位を破壊したダニ主要アレルゲンDer f 1(rDf1)、2;プロテアーゼインヒビター(E-64)処理後の糖鎖付加部位を破壊したダニ主要アレルゲンDer f 1(rDf1+E64)、3;糖鎖付加部位を破壊したダニ主要アレルゲンDer f 1の35位のシステイン残基をセリン残基に置換した改変体(rDf1-C35S)、4;コントロール(アラムのみ) 図4は、下記の抗原で免疫したマウスの脾蔵細胞を、培地のみ、rDf1含有培地又はrDf1-C35S含有培地で培養した後、培地中のサイトカインIL5を測定した結果を示す図面である。1;糖鎖付加部位を破壊したダニ主要アレルゲンDer f 1(rDf1)、2;プロテアーゼインヒビター(E-64)処理後の糖鎖付加部位を破壊したダニ主要アレルゲンDer f 1(rDf1+E64)、3;糖鎖付加部位を破壊したダニ主要アレルゲンDer f 1の35位のシステイン残基をセリン残基に置換した改変体(rDf1-C35S)、4;コントロール(アラムのみ) 図5は、ダニ主要アレルゲンDer f 1又はその改変体rDf1-C35Sのプロテアーゼ活性を測定した結果を示す図面である。rDf1;糖鎖付加部位を破壊したダニ主要アレルゲンDer f 1、rDf1-C35S;糖鎖付加部位を破壊したダニ主要アレルゲンDer f 1の35位のシステイン残基をセリン残基に置換した改変体 図6は、下記の抗原で免疫したマウス血清中の総IgE(a)及び抗原特異的IgE(b)を測定した結果を示す図面である。rDf1;糖鎖付加部位を破壊したダニ主要アレルゲンDer f 1、rDf1-C35S;糖鎖付加部位を破壊したダニ主要アレルゲンDer f 1の35位のシステイン残基をセリン残基に置換した改変体 図7は、下記の抗原で免疫したマウス血清中の抗原特異的IgGを測定した結果を示す図面である。rDf1;糖鎖付加部位を破壊したダニ主要アレルゲンDer f 1、rDf1-C35S;糖鎖付加部位を破壊したダニ主要アレルゲンDer f 1の35位のシステイン残基をセリン残基に置換した改変体 図8は、下記の抗原で免疫したマウス血清中の総IgEを測定した結果を示す図面である。rDp1;糖鎖付加部位を破壊したダニ主要アレルゲンDer p 1、rDp1+E64;プロテアーゼインヒビター(E-64)処理後の糖鎖付加部位を破壊したダニ主要アレルゲンDer p 1 図9は、下記の改変アレルゲン前駆体のSDS-PAGEを行い、そのゲルをクーマシーブリリアントブルーで染色した結果を示す写真である。Pro-rDf1;糖鎖付加部位を破壊したダニ主要アレルゲンDer f 1の前駆体、Pro-rDf1-C35S;糖鎖付加部位を破壊したダニ主要アレルゲンDer f 1前駆体の35位のシステイン残基をセリン残基に置換した改変体、Pro-rDf1-C35A;糖鎖付加部位を破壊したダニ主要アレルゲンDer f 1前駆体の35位のシステイン残基をアラニン残基に置換した改変体、Pro-rDp1-C34S;糖鎖付加部位を破壊したダニ主要アレルゲンDer p 1前駆体の34位のシステイン残基をセリン残基に置換した改変体、Pro-rDp1-C34A;糖鎖付加部位を破壊したダニ主要アレルゲンDer p 1前駆体の34位のシステイン残基をアラニン残基に置換した改変体

Claims (13)

  1. 触媒中心のアミノ酸残基が置換された、下記(1)〜(4)の特徴を有するダニグループ1アレルゲンの改変体。
    (1)プロテアーゼ活性を有しない
    (2)IgE抗体の産生を誘導しない
    (3)Th2型サイトカインの産生を誘導しない
    (4)抗原特異的IgG抗体の産生を誘導する
  2. システイン残基、ヒスチジン残基、アスパラギン残基及びグルタミン残基からなる群より選択される、何れか一つ又は二つ以上のアミノ酸残基が置換された請求項1記載の改変体。
  3. システイン残基が置換された請求項2記載の改変体。
  4. システイン残基がセリン残基又はアラニン残基に置換された請求項3記載の改変体。
  5. ダニグループ1アレルゲンがダニ主要アレルゲンDer f 1又はDer p 1である請求項1ないし4の何れか一項記載の改変体。
  6. 遺伝子組換え技術により得られる請求項1ないし5の何れか一項記載の改変体。
  7. 不純物の含量が検出限界以下である請求項1ないし6の何れか一項記載の改変体。
  8. 請求項1ないし6の何れか一項記載の改変体を産生する宿主。
  9. 下記(1)〜(3)の工程を含む、遺伝子組換え技術によりプロテアーゼ活性を消去したダニグループ1アレルゲン改変体の製造方法。
    (1)触媒中心のアミノ酸残基が置換されたダニグループ1アレルゲンをコードする遺伝子を調製する工程、
    (2)前記遺伝子を発現する形質転換酵母を作製する工程、
    (3)前記形質転換酵母を培養し、培養物からダニグループ1アレルゲン改変体を精製する工程、
  10. システイン残基、ヒスチジン残基、アスパラギン残基及びグルタミン残基からなる群より選択される、何れか一つ又は二つ以上のアミノ酸残基が置換されたダニグループ1アレルゲンをコードする遺伝子を調製する工程を含む請求項9記載の製造方法。
  11. システイン残基が置換されたダニグループ1アレルゲンをコードする遺伝子を調製する工程を含む請求項10記載の製造方法。
  12. システイン残基がセリン残基又はアラニン残基に置換されたダニグループ1アレルゲンをコードする遺伝子を調製する工程を含む請求項11記載の製造方法。
  13. ダニグループ1アレルゲンがDer f 1又はDer p 1である請求項9ないし12の何れか一項記載の製造方法。
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