本発明は、ボイスコイルボビンおよびこれを用いたボイスコイルならびにスピーカーに関し、特に、大入力時の耐熱性、耐久性を向上したスピーカーに関する。
ボイスコイルボビンにコイルを巻き回したボイスコイルを用いたスピーカーにおいて、ボイスコイルボビンは、クラフト紙等の紙・ポリイミド樹脂等の樹脂フィルム、もしくは、アルミニウム等の金属箔等を両端が開放した筒状に形成し、合せ目が口開きしないように耐熱性ワニスで薄紙を円周方向に貼り合わせたものが使用されている。例えば、金属箔のボイスコイルボビンをボイスコイルに加工する場合には、ボイスコイルボビン表面を絶縁被膜で被服した後、耐熱性ワニスを塗布した銅線を必要回数だけ一層もしくは多層に巻回し、熱処理を施して完成する。
従来には、大入力時の耐熱性、耐久性を必要とするスピーカーでは、入力信号電流が流れるコイルで生じるジュール熱を原因とするコイルの断線等の問題を防止するため、熱伝導率が高い金属箔を用いたボイスコイルボビンが使用されている。しかしながら、このように加工されたボイスコイルボビンは本来平板であった金属箔を機械的に筒状にしたものであるため、応力を持ったままワニスで固定されている。その結果、スピーカーへの入力が大きくなりコイルが代表的には約200℃に温度上昇すると、ワニスが軟化して残留応力を受けてボイスコイルが涙型に変形し、磁気空隙に接触して破壊に至るという問題が生じる場合がある。
また、従来には、ボイスコイルボビンを繊維系素材にセラミック系コーティング剤が複合された材料によって形成する場合がある(特許文献1)。あるいは、金属材料で構成したボイスコイルボビンの一端を延長したサブコーンを設け、コイルで生じるジュール熱を効率よく放射しようとするスピーカーがある(特許文献2)。また、従来には、ボイスコイルが配置される磁気空隙を有する磁気回路に、コイルの発熱を抑えるために、磁気空隙に空気が連通する貫通孔を、磁気回路を構成するポールに設けたスピーカーがある。
特開2002−300697号公報 (第1図)
特開2005−94308号公報 (第1図)
しかしながら、従来のボイスコイルボビンでは、コイルで生じるジュール熱を効率よく放射するのに限界がある。特に、ネオジウムに代表される希土類磁石を磁気回路に用いるスピーカーに於いては、上記ボイスコイルの温度上昇の問題に加えて、磁気回路の熱平衡温度を希土類磁石のキューリー温度(代表的には約80℃)以下に保っておかないと、希土類磁石が減磁してスピーカーの能率が低下するという問題がある。特に磁気回路が小さくなる小口径のスピーカーでは、磁気回路の熱容量が小さくなるので温度上昇が大きく、減磁する可能性が高くなる。
本発明は、上記の従来技術が有する問題を解決するためになされたものであり、その目的は、特に、希土類磁石を用いる磁気回路を有する小口径のスピーカーに於いて、コイルで生じるジュール熱を効率よく放射し、大入力時の耐熱性、耐久性を改善したボイスコイルボビンおよびこれを用いたボイスコイルならびにスピーカーを提供することにある。
本発明のボイスコイルボビンは、コイルが巻回される筒状体部と、筒状体部の一方端から筒状体部の延長方向とは異なる内側方向もしくは外側方向に屈曲して延設された延設体部と、を備え、筒状体部および延設体部が非磁性金属により一体に成形され、かつ、少なくとも延設体部の内側表面および/または外側表面に金属酸化物微粉末を含む被膜が形成されている。
好ましくは、本発明のボイスコイルボビンは、延設体部が、筒状体部の延長方向の内側方向に延設されて筒状体部の一方端を閉塞する蓋状体である。
好ましくは、本発明のボイスコイルボビンは、延設体部が、筒状体部の延長方向の内側方向に延設されて筒状体部の内部空間に連通する開口を有する内延リング体である。
好ましくは、本発明のボイスコイルボビンは、延設体部が、筒状体部の延長方向の外側方向に延設される外延リング体である。
さらに好ましくは、本発明のボイスコイルボビンは、筒状体部および延設体部を一体に成形する非磁性金属が、アルミニウム、銅、チタン、もしくはこれらを含む合金である。
また、本発明のボイスコイルは、金属酸化物微粉末を含む被膜が、さらに筒状体部の内側表面および/または外側表面に形成されている本発明のボイスコイルボビンと、筒状体部の外側表面に巻回されるコイルと、を備える。
好ましくは、本発明のボイスコイルは、本発明のボイスコイルボビンと、筒状体部の外側表面に巻回されるコイルと、を備えるボイスコイルであって、金属酸化物微粉末を含む被膜が、さらにコイルの外側表面と、筒状体部の内側表面および/または露出する外側表面と、に形成されている。
さらに好ましくは、本発明のボイスコイルは、金属酸化物微粉末を含む被膜が、SnO2−Sb2O5系半導体粒子を含む金属酸化物微粉末と、熱硬化性樹脂バインダーとを含む。
また、本発明のスピーカーは、本発明のボイスコイルと、ボイスコイルと連結する振動板並びにダンパーと、ポール、プレート、マグネットから形成されてボイスコイルのコイルが配置される磁気空隙を有する磁気回路と、を備える。
好ましくは、本発明のスピーカーは、金属酸化物微粉末を含む被膜が、磁気回路の磁気空隙の内側表面に形成される。
好ましくは、本発明のスピーカーは、金属酸化物微粉末を含む被膜が、磁気回路の外側表面に形成される。
さらに好ましくは、本発明のスピーカーは、磁気回路のポールが、磁気空隙に連通する貫通孔をさらに備える。
また、好ましくは、本発明のスピーカーは、本発明のボイスコイルボビンを含むボイスコイルを備えたスピーカーであって、蓋状体が、連結する振動板のセンターキャップ部を構成する。
また、好ましくは、本発明のスピーカーは、本発明のボイスコイルボビンを含むボイスコイルを備えたスピーカーであって、内延リング体もしくは外延リング体が、振動板の背面において振動板と連結する連結部を構成する。
以下、本発明の作用について説明する。
本発明のボイスコイルボビンは、コイルが巻回される筒状体部と、筒状体部の一方端から筒状体部の延長方向とは異なる内側方向もしくは外側方向に屈曲して延設された延設体部と、を備えている。筒状体部および延設体部は、非磁性金属(アルミニウム、銅、チタン、もしくはこれらを含む合金)により、好ましくはインパクト成形法(またはインパクト加工法)により一体に成形されている。延設体部は、筒状体部の一方端を閉塞する蓋状体であるか、筒状体部の延長方向の内側方向に延設されて筒状体部の内部空間に連通する開口を有する内延リング体であるか、筒状体部の延長方向の外側方向に延設される外延リング体であるかのいずれかである。したがって、ボイスコイルボビンの延設体部が筒状体部を補強するので、強度に優れ、かつ、コイルで生じるジュール熱が筒状体部を介して一体に成形された延設体部へ伝導して放射される結果、大入力時にも涙型に変形することがない耐熱性、耐久性を改善されたボイスコイルボビンが提供される。
ボイスコイルボビンの延設体部は、非磁性金属により筒状体部と一体に成形され、かつ、その内側表面および/または外側表面に金属酸化物微粉末を含む被膜(SnO2−Sb2O5系半導体粒子と、熱硬化性樹脂バインダーとを含む)が形成されている。この金属酸化物微粉末を含む被膜は、さらに筒状体部の内側表面および/または外側表面に形成され、その筒状体部の外側表面にコイルが巻回されてボイスコイルが構成される。あるいは、この金属酸化物微粉末を含む被膜は、筒状体部の外側表面に巻回されるコイルの外側表面と、筒状体部の内側表面および/または露出する外側表面と、に形成され、その結果、ボイスコイルが構成される。コイルで生じるジュール熱が筒状体部および一体に成形された延設体部へ伝導して放射されるときに、コイルならびにボイスコイルボビンに形成された被膜に含まれている金属酸化物微粉末が、コイルで生じるジュール熱を効率よく電磁波(特に赤外線)として放射するので、コイルの温度上昇が抑制され、大入力時の耐熱性、耐久性を改善するボイスコイルが提供される。特に、ボイスコイルボビンの延設体部に金属酸化物微粉末を含む被膜が形成されるので、コイルで生じるジュール熱を赤外線に放射する面積が大きくなり、放射効率が改善される。
このボイスコイルを用いたスピーカーは、ボイスコイルと連結する振動板並びにダンパーと、ポール、プレート、マグネットから形成されてボイスコイルのコイルが配置される磁気空隙を有する磁気回路と、を備える。例えば、このボイスコイルボビンを備えたスピーカーでは、蓋状体が、連結する振動板のセンターキャップ部を、または、内延リング体もしくは外延リング体が、振動板の背面において振動板と連結する連結部を構成する。
好ましくは、このボイスコイルが配置される磁気空隙の内側表面には、金属酸化物微粉末を含む被膜が磁気空隙に形成されて、ボイスコイルに形成された金属酸化物微粉末を含む被膜と、磁気空隙の内側表面に形成された金属酸化物微粉末を含む被膜とが、対向して近接して配置される。磁気空隙の内側表面とは、磁気空隙を構成するポールおよびプレートの一部のみならず、スピーカーとして組み立てられた場合に外観視されないボイスコイル(ボイスコイルボビンとコイル)に面するポールのポールピース上面ならびに側面と、磁気空隙の下部空間を規定するマグネットの内側面をも含む。
コイルで生じるジュール熱は、磁気空隙の空気を介して磁気回路へ伝導し、磁気回路の温度を上昇させる。つまり、コイルで生じるジュール熱は、ボイスコイルに形成された金属酸化物微粉末を含む被膜から赤外線として放射され、磁気回路の磁気空隙の内側表面に金属酸化物微粉末を含む被膜が形成されている場合は、さらに効率的に吸収される。例えば、ボイスコイルボビンの延設体部が蓋状体である場合には、蓋状体に対向する位置にあるポールのポールピース上面にも金属酸化物微粉末を含む被膜が形成されているので、磁気回路にもコイルで生じたジュール熱が極めて効率よく伝導され、従来よりもコイルの温度上昇を抑制することができる。その結果、大入力時の耐熱性、耐久性を改善するスピーカーが提供され、ボイスコイルが変形し、磁気空隙に接触して破壊に至るというような問題が生じにくいスピーカーが実現される。
また、スピーカーの磁気回路の外側表面には、金属酸化物微粉末を含む被膜が形成される。磁気回路の外側表面とは、磁気回路を構成するポール、プレート、マグネットのうち、外観上露出しているポール底面、マグネット外側面、ならびにプレート上面、等をいう。磁気回路の外側表面に形成された金属酸化物微粉末を含む被膜から、ボイスコイルから磁気回路へ伝導したジュール熱が赤外線として放射されるので、磁気回路全体の温度上昇を抑制することができる。磁気回路のポールが、磁気空隙に連通する貫通孔をさらに備えている場合には、貫通孔を通過する空気によってボイスコイルおよび磁気空隙が冷却される。ボイスコイルの温度上昇を抑制するだけでなく、磁気回路の熱平衡温度を希土類磁石のキューリー温度以下に保って、希土類磁石の減磁を防止することができる。
本発明のボイスコイルボビンおよびこれを用いたボイスコイルならびにスピーカーは、特に希土類磁石を用いる磁気回路を有する小口径のスピーカーに於いても、コイルで生じるジュール熱を効率よく放射し、大入力時の耐熱性、耐久性を改善することができる。
本発明のスピーカーは、コイルで生じるジュール熱を効率よく放射し、大入力時の耐熱性、耐久性を改善するという目的を、ボイスコイルボビンが、コイルが巻回される筒状体部と、筒状体部の一方端から筒状体部の延長方向とは異なる内側方向もしくは外側方向に屈曲して延設された延設体部と、を備え、筒状体部および延設体部が非磁性金属により一体に成形され、かつ、少なくとも延設体部の内側表面および/または外側表面に金属酸化物微粉末を含む被膜が形成されているようにすることにより、実現した。
以下、本発明の好ましい実施形態によるスボイスコイルボビンおよびこれを用いたボイスコイルならびにスピーカーについて説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。
図1は、本発明の好ましい実施形態によるボイスコイル11について説明する図である。図1(a)はボイスコイル11の平面図であり、また、図1(b)は中心軸より左側半分が正面図、ならびに、右側半分がO−A断面図である。ボイスコイル11は、ボイスコイルボビン12と、コイル15(コイル15からの引出線は省略している。)と、から構成されている。ボイスコイルボビン12の表面には、金属酸化物微粉末を含む被膜M1が形成されている。なお、図においては、この金属酸化物微粉末を含む被膜M1を、外形を現す線や断面を現す線に近接した点線であらわしている。例えば、図1(b)の断面図(右側半分)において、ボイスコイルボビン12の断面の両側に点線が記載している場合は、ボイスコイルボビン12の内側表面および外側表面に被膜M1が形成されている。
ボイスコイルボビン12は、コイル15が巻回される筒状体部13と、筒状体部13の一方端から延設されたドーム14と、を備え、筒状体部13およびドーム14がアルミニウム合金によりインパクト成形法で一体に成形されている。インパクト成形法は、ボイスコイルボビン内径とほぼ同寸法の凸部外径を有する雄型と、ボイスコイルボビン外径とほぼ同寸法の凹部内径を有する雌型とからなる金型を使用する成形方法である。スラグと呼ばれる雌型凹部と同じ形状の材料塊(アルミニウム合金)を雌型凹部に設置し、次に雄型を高速・高圧で下降させて雌型内のスラグを雄型と雌型の隙間から瞬間的に押し出すことで、押し出された材料(アルミ)が雄型の側面に沿って上昇する。次に雄型に付いた成形物(底付き円筒形状)を取り出し切断型で底面を切断することにより、その結果、筒状体部13の一方端がドーム14で閉じ、また、筒状体部13の他方端が開放されたボイスコイルボビン12が一体に形成される
インパクト成形で成形出来るボイスコイルボビン形状は限定されず、雄型が抜き取れる一方が開放された形状であれば可能である。また、ボイスコイルボビン12の厚みは雄・雌型を嵌合させた際の隙間で決まり、本実施例では、0.05mmから5.0mm程度の厚みが可能である。また、成形速度は約100プレス回/分であり、1個当たり1秒以下で成形が可能である。インパクト成形は金属の冷間加工であり、冷間鍛造が可能な比較的軟質な金属であれば、アルミニウム合金に限らず、チタン、銅、亜鉛等の非磁性金属や合金、鉄、ステンレスのような強磁性金属や合金でも成形が可能である。また、インパクト成形では、成形残留歪が極めて小さいボイスコイルボビンが得られる。
本実施例1のボイスコイルボビン12は、アルミニウム薄板(材質:A1070、厚み:1.0mm)を円形(φ20.1mm)に打ち抜いたスラグを雄型(φ20.0mm、円柱形状)と雌型(φ20.2mmの凹形の窪みの形状)よりなるインパクト成形用の逆ドーム形状雌型の窪みにセットし、プレス圧力100トン:0.8秒で下降させて円筒形(筒状体部側面肉厚:約100μm、ドーム肉厚:約120μm)の1次形状のボビン部品を作製し、次にこのボビン部品を取り出して、筒状体部13の長さが21.0mmとなるように、切断型でボビン部品の底部(開放された側)を切断して、筒状体部13の内径:φ20.0mm、筒状体部13の高さ21.0mm、筒状体部13の肉厚100μm、ドーム14の高さ6.0mm、ドーム14の肉厚:120μm、全体の重量:0.45gのボイスコイルボビン12を作製した。
このボイスコイルボビン12の筒状体部13の外側表面13aおよび内側表面13bと、ドーム14の外側表面14aおよび内側表面14bとには、金属酸化物微粉末を含む被膜M1が形成される。以下に、被膜M1を形成する方法を説明する。SnO2粉末とSb2O5粉末とを混合焼成して作成したSnO2−Sb2O5系固溶体をボールミルで10μm好ましくは5μm以下に粉砕してSnO2−Sb2O5系固溶体微粉末を作製し、この微粉末と熱硬化型アクリル樹脂及び溶剤を下記組成で混合して調整したSnO2−Sb2O5系樹脂液を得て、これを被膜M1を形成する面に15〜30μmの塗膜が残るようにスプレー量を調整してスプレー塗布し、80℃で30分予備乾燥する。その後、180℃で20分硬化処理を行うことで、SnO2−Sb2O5系固溶体膜を形成させる。
熱硬化型アクリル樹脂 30.0 部
溶剤(酢酸ブチル/キシレン=1/1) 62.0 部
SnO2−Sb2O5系固溶体微粉末 2.4 部 (樹脂重量比8%)
本実施例1では、その表面に金属酸化物微粉末を含む被膜M1が形成されたボイスコイルボビン12の筒状体部13に、線径0.13mmの銅線を幅6.3mm、約80ターン巻回してコイル15を形成し、ワニスで固定してボイスコイル11を作製した。なお、被膜M1はドーム14の外側表面14aおよび/または内側表面14bに形成されていれていればよいが、より好ましくは、筒状体部13の外側表面13aおよび/または内側表面13bに形成されていれていればよく、さらにコイル15の外側表面にSnO2−Sb2O5系樹脂液を塗布して、コイル15の外側表面にも被膜M1を形成してもよい。
ここで、金属酸化物微粉末を含む被膜M(被膜M1、および、後述する被膜M2ならびに被膜M3を含む。)について説明する。
熱の放射率とは、ある温度の物質の表面から放射する電磁波のエネルギー量と同温度の黒体(放射で与えられたエネルギーを100%吸収する仮想物体)から放射する電磁波エネルギー量との比率で表される数値で、物質に固有の値である。物質から放射される電磁波の量は物質の温度に応じた中心波長を持っており、温度が高くなるほど短波長に移動する。特に1000°K(727℃)以下の温度では、放射される電磁波の中心は遠赤外線領域(波長5.6μmから100μm)になり、特に500°K(227℃)以下では、放射される電磁波すべての波長は1.8μmから80μmの範囲に限られる。従って、遠赤外領域の電磁波の放射率が大きい物質ほど熱を有効に電磁波(遠赤外線)に変化できるため、物質自身の温度は低下し、冷却効果が大きい。
熱の放射率は、同じ物質でも放射する電磁波の波長によって特有の特性を持っている。特に、スピーカーに用いるボイスコイルのボイスコイルボビンでは、使用するワニスの耐熱性から、200℃以下での放射率が大きい物質が有効である。熱放射エネルギーのピーク波長は、温度によって異なるが、ウイーンの変位則により下記のようになる。従って、特にボイスコイルボビンにおける200℃での放射率を考える場合、200℃では波長6.12nmの電磁波が放射エネルギーの中心波長であるから、特に波長5〜10nmの放射率が大きい物質が有効に電磁波に変換できる。しかし、200℃付近の放射エネルギーは 波長1.8nm〜4nmにも多くあるため、この波長の放射率も大きいほうがより熱放射の効果が大きい。
温度 中心波長
100℃ 10.61nm
200℃ 6.12nm
300℃ 5.05nm
400℃ 4.30nm
金属酸化物微粉末を含む被膜Mとして、その大きさが5〜10μmのSnO2−Sb2O5系半導体粒子を熱硬化性樹脂バインダーである熱硬化型アクリル樹脂に分散させたSnO2−Sb2O5系固溶体を得て、これを試験用アルミニウム板に乾燥後の被膜厚が15〜30μmになるように塗布し、電磁波の波長と熱の放射率とを測定した。SnO2−Sb2O5系固溶体の放射率は、電磁波の波長4〜10nmにおいて全体として高く、特に樹脂へのSnO2−Sb2O5系半導体粒子の添加量が8%では、電磁波の波長4〜10nmの範囲で92%以上という高い値を示す。SnO2−Sb2O5系半導体粒子の添加量が2〜8%の範囲では添加量が多いほど効果が大きく、一方、これ以上の添加量ではこれ以上の放射率向上は見られない。また、添加量が多くなると粘度上昇のため塗布が困難であるので、その点でもSnO2−Sb2O5系半導体粒子の添加量が2〜8%の範囲であるのが好ましい。
図2は、本発明の好ましい実施形態によるボイスコイル21について説明する図である。図2(a)はボイスコイル21の平面図であり、また、図2(b)は中心軸より左側半分が正面図、ならびに、右側半分がO−A断面図である。ボイスコイル21は、ボイスコイルボビン22と、コイル25(コイル25からの引出線は省略している。)と、から構成されている。ボイスコイルボビン22の表面には、金属酸化物微粉末を含む被膜M1が形成されている。
ボイスコイルボビン22は、コイル25が巻回される筒状体部23と、筒状体部23の一方端から延設された外延リング24と、を備え、筒状体部23および外延リング24がアルミニウム合金によりインパクト成形法で一体に成形されている。外延リング24は、筒状体部23の延長方向とは異なる外側方向(つまり、筒状体部23がそのまま延長された場合にその外側の空間として規定される方向)に開くように屈曲して延設されたリング状の部分である。
本実施例2のボイスコイルボビン22は、アルミニウム薄板(材質:A1070、厚み:1.0mm)をドーナツ形状(外径φ35.0mm、内径φ7.0mm)に打ち抜いたスラグを雄型(円筒部φ20.0mm、リングφ40.0
mm)と雌型(円筒部φ20.2mm、リングφ40.2mm)よりなるインパクト成形用の雌型のリングにセットし、プレス圧力100トン:0.8秒で下降させて円筒形(筒状体部側面肉厚:約100μm、リング肉厚:約120μm)の1次形状のボビン部品を作製し、次にこのボビン部品を取り出して、外延リング24の外径φ40.0mm、筒状体部23の長さ:21.0mmとなるように、切断型でボビン部品の両端を切断して、筒状体部23の内径φ20.0mm、筒状体部23の高さ21.0mm、筒状体部23の肉厚100μm、外延リング24の外径40.0mm、外延リング24の肉厚:0.12mm、全体の重量:0.56gのボイスコイルボビン22を作製した。
このボイスコイルボビン22の筒状体部23の外側表面23aおよび内側表面23bと、外延リング24の外側表面24aおよび内側表面24bとには、金属酸化物微粉末を含む被膜M1が形成される。被膜M1を形成する方法は実施例1と同様である。そして、その表面に金属酸化物微粉末を含む被膜M1が形成されたボイスコイルボビン22の筒状体部23に、実施例1と同じ線径0.13mmの銅線を幅6.3mm、約80ターン巻回してコイル25を形成し、ワニスで固定してボイスコイル21を作製した。
図3は、本発明の好ましい実施形態によるボイスコイル31について説明する図である。図3(a)はボイスコイル31の平面図であり、また、図3(b)は中心軸より左側半分が正面図、ならびに、右側半分がO−A断面図である。ボイスコイル31は、ボイスコイルボビン32と、コイル35(コイル35からの引出線は省略している。)と、から構成されている。ボイスコイルボビン32の表面、および、コイル35の表面には、金属酸化物微粉末を含む被膜M1が形成されている。
ボイスコイルボビン32は、コイル35が巻回される筒状体部33と、筒状体部33の一方端から延設された内延リング34と、を備え、筒状体部33および内延リング34がアルミニウム合金によりインパクト成形法で一体に成形されている。内延リング34は、筒状体部33の延長方向とは異なる内側方向(つまり、筒状体部33がそのまま延長された場合にその内側の空間として規定される方向)に約60°で閉じるように屈曲して延設されたリング状の部分であり、その内側には筒状体部33の内部空間に連通する開口を規定している。
本実施例3のボイスコイルボビン32は、アルミニウム薄板(材質:A1070、厚み:1.0mm)を円形(φ20.1mm)に打ち抜いたスラグを雄型(φ20.0mm、円柱形状)と雌型(φ20.2の凹形の窪みの形状)よりなるインパクト成形用の逆円錐形状雌型の窪みにセットし、プレス圧力100トン:0.8秒で下降させて円筒形(筒状体部側面肉厚:約100μm、リング肉厚:約120μm)の1次形状のボビン部品を作製する。次にこのボビン部品を取り出して、筒状体部33の長さが21.0mmとなるとともに、内延リング34の中央の開口(φ18.0mm)を設けるように、切断型でボビン部品の両端を切断し、筒状体部33の内径:φ20.0mm、筒状体部33の高さ21.0mm、筒状体部13の肉厚100μm、内延リング34の中央の開口φ18.0mm、内延リング34部の肉厚:100μm、全体の重量:0.41gのボイスコイルボビン32を作製した。
このボイスコイルボビン32の筒状体部33の外側表面33aおよび内側表面33bと、内延リング34の外側表面34aおよび内側表面34bとには、金属酸化物微粉末を含む被膜M1が形成される。被膜M1を形成する方法は実施例1および2と同様である。そして、その表面に金属酸化物微粉末を含む被膜M1が形成されたボイスコイルボビン32の筒状体部23に、実施例1および2と同じ線径0.13mmの銅線を幅6.3mm、約80ターン巻回してコイル35を形成し、ワニスで固定する。最後に、コイル35の外側表面35aにもSnO2−Sb2O5系樹脂液を塗布して、コイル35の外側表面にも被膜M1を形成し、ボイスコイル31を作製した。
比較例1として、従来のアルミ箔(材質:A5052(JIS)、幅:63mm、長さ:23mm、厚さ100μm)を円筒形に巻いて、エポキシ・ポリアミド共重合樹脂よりなる熱硬化性ワニスを含浸した補強紙を円周方向に貼り合わせて円筒形に加工し、(図示しない)ボイスコイルボビン102を得た。これに実施例1から3と同じ線径0.13mmの銅線を幅6.3mm、約80ターン巻回してワニスで固定し、(図示しない)ボイスコイル101を作製した。
ボイスコイルのみの熱放射並びに耐熱性能を比較する試験として、本実施例1および2と比較例1のボイスコイル11、21および101にのみ(つまり、スピーカーの磁気回路の磁気空隙に配置することなく放置したボイスコイル11、21および101)にホワイトノイズ(10〜20V)を印加し、コイルで発生するジュール熱によるボイスコイルボビンの変形等を測定した。入力電圧に対するボイスコイル温度は、下記表のようになる。入力電圧10(V)以上のホワイトノイズでは、ボイスコイル温度は200℃以上になり、入力電圧の増加につれて更に高くなる。
入力電圧 コイル温度 本実施例1 本実施例2 比較例1
10(V) 230(℃) OK OK OK
12(V) 280(℃) OK OK OK
14(V) 330(℃) OK OK NG(変形)
16(V) 368(℃) OK OK −
18(V) 430(℃) OK OK −
20(V) 440(℃) コイル焼け コイル焼け −
本実施例1と本実施例2とでは、インパクト成形により筒状体部の一方端から延設されたドーム14ないし外延リング24を備え、さらにこれに金属酸化物微粉末を含む被膜M1(SnO2−Sb2O5系固溶体膜)が形成されているので、コイルで発生するジュール熱は、比較例1よりも放射効率が良い状態で放射される。その結果、ボイスコイルのみでも高い入力電圧まで許容することができる。本実施例1と本実施例2とでは、20Vでコイルを固定するワニスが炭化しても、ボイスコイルボビン12および22の真円度に変化はなかった。一方、比較例1では、14Vでボイスコイルボビン102の補強紙部分の継ぎ目で、アルミ箔が開くように変形した。
図4は、本実施例1のボイスコイル11を備えるスピーカー10を説明する断面図である。スピーカー10は、ポール1と、マグネット2と、プレート3と、から構成される磁気回路を備える。ポール1のポールピース外径部1aと、プレート3の内径部3aとの間に規定される磁気空隙には、ボイスコイル11のコイル15が配置される。ボイスコイル11を支持するダンパー5と、コーン型振動板7の外周側を支持するエッジ6とが、プレート3に連結するフレーム4とともに、ボイスコイル11と、コーン型振動板7とから構成される振動系の位置を規定している。具体的には、本実施例4のスピーカー10は、ネオジウム磁石のマグネット2と、FRPから構成されるコーン型振動板7を備える口径5cmの外磁型スピーカーである。
スピーカー10は、ターミナル8ならびに錦糸線9を介して入力信号電流がボイスコイル11のコイル15へ供給されると、磁気空隙に配置されたコイル15へ駆動力が作用し、ボイスコイル11とコーン型振動板7とから構成される振動板を振動させて入力電気信号を音波に変換し、音声を再生する。ボイスコイル11のボイスコイルボビン12は、インパクト成形法で筒状体部13と一体に成形されたドーム14を備えているので、スピーカー10の状態では、ドーム14が連結するコーン型振動板7のいわばセンターキャップ部を構成する。上述の通り、ボイスコイル11のボイスコイルボビン12には、その表面(13a、13b、14aおよび14b)に金属酸化物微粉末を含む被膜M1が形成されている。
本実施例4のスピーカー10には、その磁気回路の磁気空隙の内側表面と、磁気回路の外側表面とにも金属酸化物微粉末を含む被膜M2ならびにM3が形成されている。被膜M2ならびにM3は、それぞれ共通のSnO2−Sb2O5系固溶体膜Mである。なお、スピーカーを説明する断面図においても、金属酸化物微粉末を含む被膜Mを、外形を現す線や断面を現す線に近接した点線であらわしている。具体的には、ポール1のポールピースの外径面1a、ポールピース上面1b、ポールプレート上面1cには被膜M2が、ポールプレート側面1dおよびポールプレート下面1eには被膜M3が形成されている。同様に、マグネット内側面2aには被膜M2が、マグネット外側面2bには被膜M3が形成されている。加えて、プレート内側面3a、プレート上面3bおよびプレート下面3cには、被膜M2が、プレート外側面3dは被膜M3が形成されている。
その結果、ボイスコイルボビン22に形成された金属酸化物微粉末を含む被膜M1と、磁気空隙の内側表面に形成された金属酸化物微粉末を含む被膜M2とが、対向して近接して配置される。被膜M2を形成する方法は、ボイスコイルボビンに対する被膜M1を形成する場合と同様であり、ポール1、マグネット2およびプレート3にそれぞれ個別に被膜M2を形成してから、これらを接着剤で接着して磁気回路を構成しても良く、また、ポール1、マグネット2およびプレート3とを接着して磁気回路に構成した後に、磁気空隙の内側表面と、磁気回路の外側表面とに被膜M2を形成してもよい。
コイル15から発生した熱は、一部は接着剤により直接接触しているボイスコイルボビン12に伝わり、更に直接接着されているダンパー5およびコーン型振動板7に伝導伝熱により伝わる。また、一部の熱はボイスコイル11が上下に駆動することにより、磁気空隙内の空気を暖め対流伝熱により空気に伝わる。しかし、熱の多くはボイスコイルボビン12の表面及び裏面から磁気空隙内の空気層を介して、ポール1(ポールピース1a)とプレート3の内側面1aに電磁波(赤外線)として伝わる。コイル15の温度は、発熱量と放熱量が平衡した温度となるが、より大きな音圧を得ようと入力電力を大きくすると、コイル15の発熱量が増加してコイル15の温度が上昇する。特にスピーカー10が小口径のスピーカーである場合には、ボイスコイル11が小さいため伝導伝熱も少なく、また、ボイスコイル11の振幅量が小さいため対流伝熱も少なく、また、熱放射によりコイル15より伝熱した熱が磁気回路表面に達しても、磁気回路が小さく表面積が少ないため、放熱量全体が少なく、平衡温度が上昇しやすい。
本実施例4のスピーカー10では、コイル15で発生した熱は、ボイスコイルボビン12を伝達して、大部分は直近のボイスコイルボビン12の筒状体部13の内側表面13bに到達して、コーティングされた金属酸化物微粉末を含む被膜M1で赤外線に変換されて放射される。放射された赤外線は、対向するポールピースの外径面1aにコーティングされた金属酸化物微粉末を含む被膜M2で再び熱に変換され、ポールピース内を伝達して一部はポールプレート下面1eに到達し、同様に金属酸化物微粉末を含む被膜M3で外気中に赤外線として放出される。また、ドーム14の内側表面14bに形成された金属酸化物微粉末を含む被膜M1で赤外線に変換された熱は、同様に金属酸化物微粉末を含む被膜M2が形成された磁気回路に伝導され、同様に金属酸化物微粉末を含む被膜M3で外気中に赤外線として放出される。また、同様に、マグネット2ならびにプレート3へ伝導した熱は、それらの表面に形成された金属酸化物微粉末を含む被膜M3で外気中に赤外線として放出される。
磁気回路に伝導された熱の一部は、ポールピース上面1bの金属酸化物微粉末を含む被膜M2で赤外線に変換され、更にボイスコイルボビン12のドーム14の内側表面14bに形成された金属酸化物微粉末を含む被膜M1で再び熱に変換される。ドーム14へ磁気回路から伝導した熱は、ボイスコイルボビン12を伝導してきた熱とともに、ドーム14の外側表面14aに形成された金属酸化物微粉末を含む被膜M1で赤外線に変換され、外気中に赤外線として放出される。その結果、スピーカー10は、磁気回路が小さい小口径のスピーカーであっても、コイル15の温度上昇と、磁気回路の温度上昇がともに抑制される。
図5は、本実施例2のボイスコイル21を備えるスピーカー20を説明する断面図である。スピーカー20は、本実施例4のスピーカー10と同様に、ポール1と、マグネット2と、プレート3と、から構成される磁気回路を備え、その磁気空隙には、ボイスコイル21のコイル25が配置される。また、ボイスコイル21を支持するダンパー5と、一体型振動板70の外周側を支持するエッジ6とが、プレート3に連結するフレーム4とともに、ボイスコイル21と、一体型振動板70とから構成される振動系の位置を規定している。本実施例5のスピーカー20も、ネオジウム磁石のマグネット2を備える口径5cmの外磁型スピーカーである。
本実施例5のスピーカー20においても、その磁気回路の磁気空隙の内側表面と、磁気回路の外側表面とにも金属酸化物微粉末を含む被膜M2ならびにM3が形成されている。スピーカー20が実施例4のスピーカー10と異なるのは、具体的には、ボイスコイル21の構成と、FRPから構成される一体型振動板70の構成である。ボイスコイル21は、上述の通り、そのボイスコイルボビン22が筒状体部23と、筒状体部23の一方端から延設された外延リング24と、を備える。また、一体型振動板70は、コーン部71と、センターキャップ部72とが一体に成形されている振動板である。スピーカー20では、ボイスコイルボビン22の外延リング24が、一体型振動板70のコーン部71の内周端側の裏面と連結する。したがって、スピーカー20は、金属酸化物微粉末を含む被膜M1が形成された外延リング24がスピーカー20の表面側(つまり、一体型振動板70の表面側)から直接外観しなくなるので、放熱と外観とを両立できる。
図6は、本実施例3のボイスコイル31を備えるスピーカー30を説明する断面図である。スピーカー30は、本実施例4および5のスピーカー10ならびに20と同様に、ポール1と、マグネット2と、プレート3と、から構成される磁気回路を備え、その磁気空隙には、ボイスコイル31のコイル35が配置される。また、ボイスコイル31を支持するダンパー5と、コーン型振動板7の外周側を支持するエッジ6とが、プレート3に連結するフレーム4とともに、ボイスコイル31と、コーン型振動板70とから構成される振動系の位置を規定している。本実施例6のスピーカー30も、ネオジウム磁石のマグネット2を備える口径5cmの外磁型スピーカーである。
本実施例6のスピーカー30においても、その磁気回路の磁気空隙の内側表面と、磁気回路の外側表面とにも金属酸化物微粉末を含む被膜M2ならびにM3が形成されている。スピーカー30が先の実施例4および5のスピーカー10ならびに20と異なるのは、具体的には、ボイスコイル31の構成と、コーン型振動板7とともに振動板を構成するセンターキャップ37である。ボイスコイル31は、上述の通り、そのボイスコイルボビン32が筒状体部33と、筒状体部33の一方端から延設された内延リング34と、を備える。また、スピーカー10と同様に、コーン型振動板7の内周側はボイスコイルボビン32に連結する。スピーカー30では、センターキャップ37は略ドーム状の振動板であり、ボイスコイルボビン32の内延リング34と連結し、内延リング34の開口をいわば塞いでいる。より好ましくは、センターキャップ37は、熱伝導率が高いアルミニウム等の金属箔を使用した振動板であればよい。
図7は、本実施例1のボイスコイル11を備えるさらに好ましいスピーカー40を説明する断面図である。スピーカー40は、本実施例4のスピーカー10のポール1を、磁気空隙に連通する貫通孔41f(つまり、ポールプレート上面41cからポールプレート下面41へ通じる穴)がポールプレートにさらに形成されているポール41に変更した場合であり、その他の構成はスピーカー10の場合と同じである。磁気空隙に連通する貫通孔41fは、ボイスコイル11、コーン型振動板7ならびにダンパー5の振動に伴う対流により、磁気回路内部と外部との空気を移動させるので、ボイスコイル11および磁気空隙を冷却し、ボイスコイル11の温度上昇を抑制するだけでなく、磁気回路の熱平衡温度を希土類磁石のキューリー温度以下に保って、希土類磁石の減磁を防止する。貫通孔41fは、ポールプレートの複数の箇所に設けても良く、また、その形状も丸孔でも、角形孔でも良い。
本実施例8のスピーカー50(図示しない)は、本実施例1のボイスコイル11を備えるスピーカーであり、その磁気回路には、磁気空隙の内側表面のみに金属酸化物微粉末を含む被膜M2が形成されている。つまり、スピーカー50は、本実施例4のスピーカー10に比較して、磁気回路の外側表面に金属酸化物微粉末を含む被膜M3が形成されていない点を除いて、その他の構成はスピーカー10の場合と同じである。
本実施例9のスピーカー60(図示しない)は、本実施例1のボイスコイル11を備えるスピーカーであり、その磁気回路の外側表面のみに金属酸化物微粉末を含む被膜M3が形成されている。つまり、スピーカー60は、本実施例4のスピーカー10に比較して、その磁気回路の磁気空隙の内側表面に金属酸化物微粉末を含む被膜M2が形成されていない点を除いて、その他の構成はスピーカー10の場合と同じである。
本実施例10のスピーカー70(図示しない)は、本実施例1のボイスコイル11を備えるスピーカーであり、その磁気回路には、磁気空隙の内側表面にも磁気回路の外側表面にも金属酸化物微粉末を含む被膜が形成されていない。つまり、スピーカー70は、本実施例4のスピーカー10に比較して、その磁気回路の磁気空隙の内側表面に金属酸化物微粉末を含む被膜M2が形成されていない点、および、磁気回路の外側表面に金属酸化物微粉末を含む被膜M3が形成されていない点を除いて、その他の構成はスピーカー10の場合と同じである。
比較例2として、(図示しない)スピーカー100は、比較例1のアルミニウム箔のボイスコイルボビン102から構成されるボイスコイル101を備えるスピーカーである。すなわち、上記の比較例1のボイスコイル101は、ボイスコイルボビン102の表面に金属酸化物微粉末を含む被膜Mを備えず、また、その磁気回路の磁気空隙の内側表面にも、磁気回路の外側表面にも金属酸化物微粉末を含む被膜Mが形成されていないネオジウム磁石のマグネット2を備える口径5cmの外磁型スピーカーである。さらに、磁気回路を構成するポールにも磁気空隙に連通する貫通孔を備えない。
図8は、本実施例4、5、7および8のスピーカー10、20、40および50と、比較例2のスピーカー100とのそれぞれに、フィルタを通過させたホワイトノイズ信号を、定格入力10W、20W、30W、40W、ならびに50W(各8Ω)で入力した場合のボイスコイル温度の測定値を表したグラフである。ボイスコイル温度は、試験を開始してから2時間経過後の温度である。本実施例4、5、7および8のスピーカーは、それぞれ定格入力50Wにおいてもボイスコイル温度が200℃以下に抑えることができている。すなわち、本実施例のスピーカーは、コイルで生じるジュール熱が効率よく放射され、その結果、大入力時の耐熱性、耐久性が比較例2のスピーカーに比べて大きく改善されている。
図9は、本実施例4、5、7および8のスピーカー10、20、40および50と、比較例2のスピーカー100とのそれぞれに、フィルタを通過させたホワイトノイズ信号を、定格入力10W、20W、30W、40W、ならびに50W(各8Ω)で入力した場合のマグネット温度の測定値を表したグラフである。マグネット温度は、試験を開始してから10時間経過後のマグネット2の外側面2bで測定した温度である。一般的なネオジウムマグネットのキューリー温度が80℃程度であることから、減磁が生じる温度(80℃)が連続使用の限界入力電力と考えられ、比較例2のスピーカー100の場合では使用限界入力電力15Wであるが、本実施例4、5、7および8のスピーカーでは、使用限界入力電力は、それぞれ20W、25W、35W、40Wと大きくなる。したがって、本実施例4、5、7および8のスピーカーでは、コイルで生じるジュール熱が効率よく放射されるので、使用限界入力電力を比較例2のスピーカー100に比べて大きく改善することができる。
上記実施例では、ボイスコイルボビンをインパクト成形法により一体に成形する筒状体と延設体部とから構成されるものとし、延設体部がドーム14、外延リング24、あるいは内延リング34のいずれかであるが、延設体部の形状はこれらに限定されない。延設体部の形状は、筒状体部の一方端を閉塞する蓋状体であるか、筒状体部の延長方向の内側方向に延設されて筒状体部の内部空間に連通する開口を有する内延リング体であるか、筒状体部の延長方向の外側方向に延設される外延リング体であるかのいずれかに限らず、インパクト成形法により一体に成形され得る、筒状体部から屈曲されて形成されたものであれば形状を問わない。
また、上記実施例では、磁気回路を、ポール1と、マグネット2と、プレート3が構成する外磁型磁気回路を備える場合を説明したが、もちろん、ポールと、マグネットと、ヨークが構成する内磁型磁気回路であってもよい。さらに、本発明のスピーカーは、小型の希土類磁石を含む磁気回路を備える小口径のスピーカーに適しているが、もちろん、中口径および大口径の全音域用フルレンジスピーカーにも、低音域用ウーファーにも、また、高音域用ツィーターにも適用可能であり、大入力時の耐熱性、耐久性が改善されたスピーカーが実現される。
本発明のボイスコイルボビンおよびこれを用いたボイスコイルは、いわば静止した磁気回路に対して振動板ならびにボイスコイルが振動するスピーカーのみならず、ボイスコイルが固定されて磁気回路部分が振動するような加振器等にも適用が可能である。
本発明の好ましい実施形態によるボイスコイル11について説明する図である。(実施例1)
本発明の好ましい実施形態によるボイスコイル21について説明する図である。(実施例2)
本発明の好ましい実施形態によるボイスコイル31について説明する図である。(実施例2)
本発明の好ましい実施形態によるスピーカー10について説明する断面図である。(実施例4)
本発明の好ましい実施形態によるスピーカー20について説明する断面図である。(実施例5)
本発明の好ましい実施形態によるスピーカー30について説明する断面図である。(実施例6)
本発明の好ましい実施形態によるスピーカー40について説明する断面図である。(実施例7)
本発明の好ましい実施形態によるスピーカーの定格入力電力に対するボイスコイル温度の測定値を表したグラフである。
本発明の好ましい実施形態によるスピーカーの定格入力電力に対するマグネット温度の測定値を表したグラフである。
符号の説明
1、41 ポール
2 マグネット
3 プレート
4 フレーム
5 ダンパー
6 エッジ
7、70、71 振動板
37 センターキャップ
8 ターミナル
9 錦糸線
10、20、30、40 スピーカー
11、21、31 ボイスコイル
12、22、32 ボイスコイルボビン
13、23、33 筒状体部
14 ドーム
24 外延リング
34 内延リング
15、25、35 コイル