JP2007145745A - 変異型EGFR下流シグナルを抑制するSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤を含む肺癌治療剤およびその利用 - Google Patents

変異型EGFR下流シグナルを抑制するSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤を含む肺癌治療剤およびその利用 Download PDF

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Abstract

【課題】レセプター型チロシンキナーゼの正常なシグナル伝達経路に影響を与えることなく肺癌細胞を治療する薬剤および方法を開発すること。
【解決手段】Srcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤を含む肺癌治療剤を提供する。
【選択図】なし

Description

本発明は、肺癌細胞を処置する薬剤およびその利用に関するものであり、より詳細には、上皮増殖因子レセプター(EGFR)のチロシンキナーゼドメインに変異を有する非小細胞肺癌細胞(例えば、ゲフィチニブ抵抗性を獲得した非小細胞肺癌細胞)を処置する薬剤およびその利用に関するものである。
ヒト癌に関して、非ウイルス性の内因性癌遺伝子の活性が関連すること、およびこれらの癌遺伝子の多くがチロシンキナーゼをコードすること、が知られている。レセプター型チロシンキナーゼ(RTK)は、生体内でのシグナル伝達に特に重要であると考えられており、癌の治療に有望な標的の1つとして上皮増殖因子レセプター(EGFR)の研究が進んでいる。
EGFRによる基質タンパク質のチロシン残基の可逆的リン酸化は、EGFRシグナル伝達経路の活性化のために必要である。よって、EGFRに対する阻害剤(EGFRチロシンキナーゼ阻害剤)を用いれば、腫瘍細胞の増殖および分裂を誘導する細胞シグナル伝達経路を遮断することができると考えられている。EGFRはErbBファミリーチロシンキナーゼに属し、広範な種々のヒト悪性腫瘍(肺癌を含む)において過剰発現されている。
ヒト癌の1つである肺癌は、気管から気管支、肺胞に至るまでの内粘膜(上皮)および分泌腺において発生する悪性腫瘍である。肺癌はその組織型より小細胞肺癌(small cell lung carcinoma:SCLC)および非小細胞肺癌(non−small cell lung carcinoma:NSCLC)に分類され、NSCLCには、扁平上皮癌(squamous cell carcinoma:SCC)、腺癌(adenocarcinoma:AC)、大細胞癌(large cell carcinoma:LCC)などが含まれる。
肺癌の治療法としては、外科的摘出手術、化学療法および放射線療法が挙げられるが、手術が不可能な非小細胞肺癌または再発した非小細胞肺癌に対して用いられる経口治療薬として、EGFRチロシンキナーゼに対する阻害剤であるゲフィチニブが知られている。ゲフィチニブは、EGFR分子におけるチロシンキナーゼリン酸化を直接阻害することによって機能する、経口活性キナゾリンであり、アデノシン三リン酸(ATP)結合部位に競合する。
ゲフィチニブはまた、アミノ酸746〜750位を欠失している変異型EGFRを発現する非小細胞肺癌に対して非常に有効であることが報告されている(非特許文献1を参照のこと)。この変異型EGFRにおけるアミノ酸欠失部位は、EGFRチロシンキナーゼドメイン内であり、このキナーゼドメインにおける変異が抗アポトーシスシグナリング(Aktにより媒介されるシグナリングおよびSTAT5シグナリングを介するシグナリングを含む)を活性化することは、すでに明らかになっている(非特許文献2を参照のこと)。しかし、細胞生存の増加およびシグナリングの持続に関するメカニズムは未だ解明されていない。
特表2005−529162公報(公表日:平成17年9月29日) Paez JG et al., Science 2004;1497−1500 Sordella R et al., Science 2004,305:1163−1167 Suzuki H et al., Cancer Research 2003, 63:5054−5069 Kobayashi S et al., N Engl J Med 2005,352:786−792 Johnson FM et al., Clinical Cancer Research 2005,11:6924−6932
レセプター型チロシンキナーゼ(RTK)は癌細胞および正常細胞に共通して存在するので、これを治療標的とすると正常なシグナル伝達経路に対しても影響を与える可能性がある。
ゲフィチニブは、間質性肺炎という重篤な副作用を引き起こすことが知られている。この副作用のメカニズムについては、ゲフィチニブが肺胞上皮のEGFRの機能を障害してその増殖を抑制することによる、という仮説を論じた報告がある(非特許文献3を参照のこと)。
また、ゲフィチニブ感受性であった細胞がゲフィチニブに対する抵抗性を獲得することによりゲフィチニブの抗腫瘍効果が治療中に減弱してしまうことも知られている。例えば、アミノ酸750位付近を欠失している変異型EGFRを発現する非小細胞肺癌に対してはゲフィチニブ治療が有効である(非特許文献1を参照のこと)。しかし、ゲフィチニブに対する抵抗性を獲得した非小細胞肺癌においては、アミノ酸750位付近を欠失以外に新たな変異を獲得していることが報告されている(非特許文献4を参照のこと)。この新たな変異によりEGFRチロシンキナーゼ阻害剤(例えば、ゲフィチニブ)の結合性が低下して、該阻害剤の抗腫瘍効果が減弱すると考えられている。よって、アミノ酸750位付近を欠失する変異型EGFRのシグナル伝達における異常を明らかにすること、その下流シグナルを抑制する方法を開発することは、ゲフィチニブに対する抵抗性を獲得した非小細胞肺癌に対する治療に大いに役立つと考えられる。
特許文献1には、チロシンキナーゼインヒビター(TKI)治療に対して抵抗性を獲得しているかまたは従来のTKI治療に対して初めから応答しない個体において癌を処置する方法が記載されているが、標的分子はあくまでもレセプター型チロシンキナーゼ(RTK)であり、そのレセプター型チロシンキナーゼの投与方法に特徴を有する。
チロシンキナーゼの他のファミリーとして、Srcファミリーチロシンキナーゼが挙げられる。このキナーゼは、癌、免疫系機能不全および骨のリモデリング疾患に関与することが知られている。哺乳動物のSrcファミリーのメンバーとしては、Src、Fyn、Yes、Fgr、Lyn、Hck、LckおよびBlkが知られている。これらは、52kDa〜62kDaの分子量範囲の非レセプター型タンパク質キナーゼである。
Srcファミリーキナーゼについては多くの研究がなされており、種々のヒト疾患に対する潜在的な治療標的と考えられている。これまでの研究の多くは、Srcファミリーキナーゼの発現を、癌(例えば、結腸癌、乳癌、肝癌および膵臓癌)、特定のB細胞白血病、およびリンパ腫に関連付けている。さらに、Srcキナーゼのアンチセンスを卵巣腫瘍細胞または結腸腫瘍細胞に発現させると、腫瘍増殖を阻害することが示されている。また、野生型EGFRを発現する非小細胞肺癌においてもSrcキナーゼの活性を抑制することによって腫瘍の浸潤抑制、細胞周期停止、およびアポトーシス誘導が生じることが報告されている(非特許文献5を参照のこと)。
また白血病に関してもSrcファミリーキナーゼは、潜在的な治療標的であると考えられている。
しかし、非小細胞肺癌に対してこれまでになされた研究は、ゲフィチニブのようにEGFRチロシンキナーゼ活性を阻害する薬剤の有効性に関する報告は存在するが、Srcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤を用いて、ゲフィチニブ感受性の非小細胞肺癌で高頻度に発現する変異型EGFRの下流シグナルを制御することの有用性はこれまで何ら示唆されていない。
一般的に、非小細胞肺癌の治療法としての化学療法では、腫瘍の縮小効果が40%程度の症例において観察され、統計学的には生存効果の延長が証明されている。しかし、上記化学療法では再発を伴うことが多く、再発した段階で癌細胞は使用した薬剤に対する耐性を獲得している。ゲフィニチブは生存延長効果が未だ明らかではない薬剤であり、多くの非小細胞肺癌症例においては、ゲフィニチブの効果が一旦観察されても治療抵抗性を伴って再発する。また、ゲフィニチブは、レセプター型チロシンキナーゼであるEGFRチロシンキナーゼに対する阻害剤として開発されたものであり、正常細胞における野生型EGFRのシグナル伝達経路に影響を与える可能性を否定することができない。よって、化学療法では副作用の危険性を除外することは理論的に不可能である。
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、レセプター型チロシンキナーゼであるEGFRの正常細胞におけるシグナル伝達経路に影響を与えることなく非小細胞肺癌細胞を処置する薬剤および方法を提供することにある。
本発明に係る肺癌治療剤は、Srcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤を含むことを特徴としている。
本発明に係る肺癌治療剤において、上記Srcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤は正常細胞における野生型EGFRチロシンキナーゼ活性を阻害しないことが好ましい。
本発明に係る肺癌治療剤において、上記Srcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤は、アミノ酸第746〜750位を欠失するEGFRのシグナル伝達を特異的に抑制することが好ましい。
本発明に係る肺癌治療剤において、上記Srcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤は、PP1、PP2、Dasatinib(BMS−354825)、SKI−606、AZD0530、AZM475271、CGP77675またはCGP76030であることが好ましい。
本発明に係る肺癌治療剤において、上記肺癌は非小細胞肺癌であることが好ましい。
本発明に係る肺癌治療剤において、上記非小細胞肺癌は、扁平上皮癌、腺癌、または大細胞癌であることが好ましい。
本発明に係る肺癌治療剤を用いて、化学療法によって縮小または退行した後に再発した肺癌を治療することが好ましい。
本発明に係る肺癌治療剤において、上記肺癌の癌細胞は変異型EGFRを発現していることが好ましい。
本発明に係る肺癌治療剤において、上記変異型EGFRは野生型EGFRのアミノ酸配列の第746〜750位を欠失していることが好ましい。
本発明に係るスクリーニング方法は、変異型EGFR下流のシグナル伝達を抑制することにより変異型EGFR発現している癌細胞を処置するための薬剤をスクリーニングするために、該当変異型EGFRを発現している細胞培養物に候補遺伝子を添加する行程;EGFを添加した細胞培養物を溶解して細胞調製物を得る工程;ならびに、該細胞調製物におけるSrcファミリーチロシンキナーゼおよびEGFRチロシンキナーゼの活性を測定する工程、を包含し、ただし、当該薬剤は、EGFRチロシンキナーゼドメインに直接的に結合することによりキナーゼ活性を阻害するものではないことを特徴としている。
本発明に係るスクリーニング方法において、上記変異型EGFRは野生型EGFRのアミノ酸配列の第746〜750位を欠失していることが好ましい。
本発明を用いれば、EGFRチロシンキナーゼドメイン内に変異を有する肺癌において抗アポトーシスシグナルを強力に抑制することができる。これにより、EGFRチロシンキナーゼドメイン内に変異を有する肺癌に対して、EGFRチロシンキナーゼ阻害剤と比較して、以下のような条件下において、より効果的な抗腫瘍効果を得ることができる。すなわち、EGFRチロシンキナーゼ阻害剤(例えば、ゲフィチニブ)に対して感受性であった肺癌が再発した際に、Srcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤による治療を行うことができる。あるいは、EGFRに変異を有する肺癌患者に対して、EGFRチロシンキナーゼ阻害剤の代わりにSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤による治療を行えば、抗アポトーシスシグナルを抑制することによってより強力かつ腫瘍特異的な抗腫瘍効果を得ることができる。なお、治療に際しては正常細胞におけるEGFRシグナリングへの影響が極めて少ないので、副作用を軽減し得る可能性がある。
本発明者らは、日本で見出されたゲフィチニブ感受性NSCLCにおいて高頻度で観察されるEGFR変異体(アミノ酸E746〜A750を欠失する)により生成されるシグナリングの活性化を調べた。具体的には、本発明者らは、この変異型EGFRを安定的に発現する形質転換細胞株を樹立し、生成される下流のシグナリングについて野生型EGFR(配列番号1)と比較し、さらに、変異型EGFRとSrcファミリーチロシンキナーゼとの間の相互作用を分析した。
その結果、以下のことが見出された:(1)変異型EGFRにおいて、Cblとの相互作用に関与する部位であるTyr−1045のリン酸化が減弱する;(2)変異型EGFRのエンドサイトーシスが減少する;(3)この変異型EGFRにより誘導されるシグナリングは、野生型EGFRと比較して、Srcファミリーチロシンキナーゼとより協調しかつSrcファミリーチロシンキナーゼに依存する;(4)EGF刺激により誘導される抗アポトーシスシグナリングは、機能的Srcファミリーチロシンキナーゼ活性に依存する。
このように、本発明者らは、Srcファミリーチロシンキナーゼとの相互作用が、E746〜A750のアミノ酸を欠く変異型EGFRの下流での独特なシグナル伝達経路において重要な役割を担うことを見出し、本発明を完成させるに至った。
本発明は、Srcファミリーチロシンキナーゼの活性を阻害する化合物を含む薬学的組成物を提供する。本明細書中で使用される場合、用語「Srcファミリーチロシンキナーゼの活性を阻害する化合物」は、「Srcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤」と交換可能に使用される。
本発明に係る薬学的組成物は、肺癌治療目的であることが企図され、化学療法によって縮小または退行した後に再発した肺癌を治療する目的に使用されることが好ましい。本発明を適用するに好ましい肺癌は、非小細胞肺癌であることが好ましく、扁平上皮癌、腺癌、または大細胞癌であることがより好ましい。
本発明において、Srcファミリーチロシンキナーゼの活性を阻害する化合物は、Srcファミリーチロシンキナーゼを特異的に阻害することによって変異型EGFRの下流シグナルを抑制するものが好ましく、このような化合物としては、例えば、PP1、PP2、Dasatinib(BMS−354825)、SKI−606、AZD0530、AZM475271、CGP77675、CGP76030などが挙げられるが、これらに限定されない。上記化合物は、正常細胞における野生型EGFRチロシンキナーゼの活性を阻害しないことが好ましい。本明細書中で使用される場合、用語「正常細胞における野生型EGFRチロシンキナーゼの活性を阻害しない」は、正常細胞における野生型EGFRチロシンキナーゼに対して影響を与えないことが意図される。よって、上記化合物は、正常細胞において野生型EGFRチロシンキナーゼの活性を全く阻害しない化合物だけではなく、該細胞において野生型EGFRチロシンキナーゼの活性をわずかに阻害するがその阻害レベルが野生型EGFRチロシンキナーゼ下流のシグナル伝達に対して影響を与えない程度である化合物もまた包含される。
一実施形態において、本発明に係る薬学的組成物は、薬学的に受容可能なキャリアまたはビヒクルを含み得る。好ましくは、本発明に係る薬学的組成物は、このような組成物を必要とする患者に投与するために処方される。本明細書中で使用される場合、用語「患者」は、「被験体」と交換可能に使用され、脊椎動物が意図され、好ましくは、哺乳動物が意図され、最も好ましくは、ヒトが意図される。
用語「薬学的に受容可能なキャリアまたはビヒクル」は、Srcファミリーチロシンキナーゼの活性を阻害する化合物の薬理学的活性を破壊しない、非毒性のキャリアまたはビヒクルが意図される。このようなキャリアまたはビヒクルとしては当該分野において公知の種々の物質が使用され得る。
本実施形態に係る薬学的組成物は、局所的に、鼻内に、頬内に、経口的に、非経口的に、吸入噴霧により、または移植したレザバを介して、投与され得る。本実施形態に係る組成物は、肺癌治療の観点から、鼻内にもしくは経口的に、または吸入噴霧により投与されることが好ましい。本発明に係る薬学的組成物は、治療の標的が局所的な適用により容易に到達可能な領域または器官である場合、これらの領域または器官のそれぞれに適切な局所処方物として容易に調製され得る。
本実施形態に係る薬学的組成物は、肺癌治療の観点から、直接的適用のための液体形態であっても、間接的適用のための鼻エアロゾルまたは鼻吸入に好ましい形態で投与されてもよい。このような組成物は、製薬処方の技術分野で周知の技術に従って調製され、そして生理食塩水中の溶液として、適切な防腐剤、生物学的利用能を増強するための吸収促進剤、および/または他の従来の可溶化剤もしくは分散剤を使用して調製され得る。
本実施形態に係る薬学的組成物の投与量は、その製剤形態、投与方法、使用目的および当該医薬の投与対象である患者の年齢、体重、症状によって適宜設定される。一般には、製剤中に含有される有効成分の投与量で、好ましくは成人1日当り0.1〜2000mg/kgである。もちろん投与量は、種々の条件によって変動するので、上記投与量より少ない量で十分な場合もあるし、あるいは範囲を超えて必要な場合もある。投与は、所望の投与量範囲内において、1日内において単回で、または数回に分けて行ってもよい。また、本実施形態に係る薬学的組成物はそのまま経口投与するほか、任意の飲食品に添加して日常的に摂取させることもできる。
本発明に係る薬学的組成物中に含まれる化合物は、薬学的に受容可能な塩であってもよく、薬学的に受容可能な塩としては、薬学的に受容可能な無機酸および有機酸ならびに無機塩基および有機塩基から誘導されるものが挙げられる。
この状態を処置または予防するために、通常では単独療法で投与される付加的治療剤もまた、処置または予防されるべき特定の状態または疾患に依存して、本発明に係る薬学的組成物中に含まれ得る。本明細書中で使用される場合、通常、特定の疾患または状態を処置または予防するために投与される付加的治療剤は、「処置される疾患または状態に適切」であるとして公知である。例えば、本発明に係る薬学的組成物の効果を阻害しない限り、公知の他の化学療法剤または抗増殖性剤もまた、Srcファミリーチロシンキナーゼの活性を阻害する化合物と組合わされて使用され得る。
本発明に係る薬学的組成物中に存在する付加的治療剤の量は、活性薬剤としてのみこの治療剤を含む組成物中に通常投与される量よりも少ないことが好ましい。本発明に係る薬学的組成物中に含まれる付加的な治療剤の量は、当該付加的治療剤のみを活性成分として含む薬剤中に通常存在する量の10%〜100%、好ましくは20〜100%、最も好ましくは40〜100%の範囲である。なお、本発明は、付加的治療剤などが「Srcファミリーチロシンキナーゼの活性を阻害する化合物」と一物質(すなわち、組成物)を形成しても別に梱包されている形態(すなわち、キット)であってもよい。
本発明はまた、肺癌を処置(治療または減少)する方法を提供する。本発明に係る方法は、上記薬学的組成物を患者に投与する工程を包含する。本発明に係る方法は、付加的な治療剤をこの患者に別個に投与するさらなる工程を包含する。これらの付加的な治療剤が、別個に投与される場合、これらは、本発明に係る薬学的組成物の投与の前、連続、または後に患者に投与され得る。本発明に係る方法において、上記薬学的組成物を投与するために好ましい方法は、上述した方法に従えばよく、患部に向けて直接的に適用されても間接的に適用されてもよい。
本発明はさらに、変異型EGFR下流のシグナル伝達を抑制することにより変異型EGFRを発現している癌細胞を処置するための薬剤をスクリーニングする方法を提供する。本発明において、上記薬剤は、EGFRチロシンキナーゼドメインに直接的に結合することによりキナーゼ活性を阻害するものではない。本発明に係るスクリーニング方法は、該変異型EGFRを発現している細胞培養物に候補因子を添加する工程;候補因子を添加した細胞培養物にEGFを添加する工程;EGFを添加した細胞培養物を溶解して細胞調製物を得る工程;ならびに、該細胞調製物におけるSrcファミリーチロシンキナーゼおよびEGFRチロシンキナーゼの活性を測定する工程、を包含することが好ましい。本発明に係るスクリーニング方法において、上記変異型EGFRが野生型EGFRのアミノ酸配列の第746〜750位を欠失していることが好ましい。
本発明はまた、生物学的サンプルにおいて肺癌細胞を治療する方法を提供する。本発明に係る方法は、生物学的サンプルを、本発明に係る薬学的組成物と接触させる工程を包含する。本明細書中で使用される場合、用語「生物学的サンプル」は、限定されることなく、細胞培養物またはこれらの抽出物;哺乳動物から入手した生検物質またはこれらの抽出物;および血液、唾液、尿、便、精液、涙、もしくは他の体液またはこれらの抽出物が意図されるが、肺癌治療の観点から、摘出された肺組織であることが好ましい。一旦摘出された生物学的サンプルにおいて肺癌細胞が治療された後に当該サンプルが元の患者に戻されることもまた、本発明の範囲内として意図される。
本発明に係る薬学的組成物はまた、移植可能な医療デバイス(例えば、人工器官、人工弁、血管移植片、ステントおよびカテーテル)をコーティングするための組成物中に組み込まれ得る。コーティングは、組成物において徐放性を付与するための適切なトップコート(フルオロシリコーン、ポリサッカリド、ポリエチレングリコール、リン脂質またはこれらの組合せ)によってさらに覆われ得る。すなわち、本発明に係る薬学的組成物の有効成分であるSrcファミリーチロシンキナーゼの活性を阻害する化合物によってコーティングされた移植可能な医療デバイスもまた、本発明の範囲内である。
変異型EGFRを発現する非小細胞肺癌細胞株にSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤またはEGFRチロシンキナーゼ阻害剤を適用して、抗アポトーシスシグナルの抑制効果を比較することにより、本発明に係る薬学的組成物の効果をより示すことができる。また、軟寒天培地でコロニーを形成するか否かを調べることにより、Srcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤が、変異型EGFRを導入した細胞の形質転換能を抑制するか否かを知ることができる。さらに、変異型EGFRを発現する肺癌細胞株、または変異型EGFRを導入した非小細胞肺癌細胞株を用いる軟寒天培地での検討、またはヌードマウスを用いた造腫瘍性の検討などを行えば、本発明に係る薬学的組成物の有効性を示すことができる。
第746〜750位のアミノ酸欠失に加えて、さらに第790位および/またはその他の部位にアミノ酸置換を生じた変異型EGFRを導入した非小細胞肺癌細胞株に本発明に係る薬学的組成物を適用する治療実験を行うことにより、当該変異を有するEGFR由来のシグナリングがSrcファミリーチロシンキナーゼ依存的であることを示すことができる。
なお本発明は、以上説示した各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
また、本発明は、以下の実施例によってさらに詳細に説明されるが、これに限定されるべきではない。
〔I:材料および方法〕
(1)プラスミドの調製(変異型EGFR発現ベクターの作成)
EGFR全長およびC末端のVSVGタグをコードする発現ベクターpMVEGFRを、Kumagai T, et al. Proc Natl Acad Sci USA; 100: 9220-5 (2003)に記載の方法に従って構築した。アミノ酸746〜750を欠く変異型EGFRをコードする発現ベクター(pMVEGFR/Del)を、Lynch TJ, et al. N Engl J Med; 350: 2129-39 (2004)に記載のPCRベースの方法を使用してpMVEGFR中の5’−ggaattaagagaagc−3’ (配列番号3)の塩基対を欠失させて構築した。
(2)抗体および試薬
組換えヒトEGFをInvitrogen(Carlsbad,CA)より購入した。Srcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤(PP2)、EGFR阻害剤(AG1478)およびHRP複合体化ストレプトアビジンを、Calbiochem(San Diego,DA)より購入した。Sulfo−NHS−LC−Biotin Reagents(EZ−Link)をPierce(Rockford,IL)より購入した。phospho−S473−Akt、total Akt、phospho−Y694−STAT5、phospho−Y845−EGFR、phospho−Y992−EGFR、phospho−Y1045−EGFR、phospho−Y1068−EGFR、phosho−Y1173−EGFR、phospho−p44/42 Erk1/2 (T202/Y204)、およびphospho−Y416−Srcに対する抗体を、Cell Signaling Technology(Beverly,MA)より購入した。total Erk1/2、total Src、total STAT5、およびanti−phosphotyrosine antibody(PY99)をSanta Cruz Biotechnology(Santa Cruz,CA)より購入した。抗VSVG抗体をSigma(St.Louis,MO)より購入した。
(3)細胞株、細胞培養物、およびトランスフェクション
マウス線維芽細胞株NR6(EGFRを欠失している細胞株)、NE99細胞株(EGFRを安定的に発現しているNR6)、COS7細胞を使用した。トランスフェクションを、Kumagai T, et al. Proc Natl Acad Sci USA; 100: 9220-5 (2003)およびKumagai T, et al. Proc Natl Acad Sci USA; 98: 5526-31 (2001)に記載の方法に従って行った。
NR6細胞を用いて、pMVEGFRをトランスフェクトして野生型EGFRを安定的に発現するNE2002細胞、およびpMVEGFR/Delをトランスフェクトして変異型EGFRを安定的に発現するNR/Del細胞を樹立した。野生型EGFRまたは変異型EGFRを一過性に発現させる目的で、COS7細胞を用いた。アミノ酸746〜750位を欠失している変異型EGFRを発現する非小細胞肺癌細胞株PC9、および、変異を有していない野生型EGFRを発現している非小細胞肺癌細胞株A549を用いた。
(4)細胞溶解物調製、タンパク質ビオチン化およびイムノブロット
NR6細胞およびこれに由来する細胞を、適切な細胞密度で播種し、72時間培養した。次いで、細胞を、20時間無血清にて培養した。EGF刺激の1時間前に、DMSO中のPP2(Srcキナーゼ阻害剤)もしくはAG1478(EGFRキナーゼ阻害剤)または等量のDMSOを培地中に添加した。EGF(50ng/ml)で刺激した細胞を、Kumagai T, et al. Proc Natl Acad Sci USA; 98: 5526-31 (2001)に記載の方法に従って溶解用緩衝液(Lysis buffer)中で溶解した。全細胞溶解物および免疫沈降物を等量ずつSDS−PAGEに供してイムノブロッティングを行った。細胞表面上のEGFRタンパク質のエンドサイトーシスを評価するために、細胞表面タンパク質のビオチン化を、製造業者のプロトコル(Pierce)に従って細胞溶解前に行った。
(5)アポトーシスの評価
野生型EGFRを発現している細胞株NE99、アミノ酸746〜750位を欠失している変異型EGFRを発現させたNE/Del、アミノ酸746〜750位を欠失している変異型EGFRを発現する非小細胞肺癌細胞株PC9、および、変異を有していない野生型EGFRを発現している非小細胞肺癌細胞株A549において生じるEGF依存的アポトーシスの評価に、ELISAによる細胞死検出キットを用いた。EGFおよびSrcファミリーキナーゼの非存在下でのアポトーシスの程度を1として、EGF(10ng/ml)の存在下または非存在下にて種々の濃度のSrcファミリーキナーゼを存在させた場合のアポトーシスの割合を調べた。
〔II:変異型EGFRが下流のシグナル伝達経路の活性化を増強する〕
変異型EGFRが細胞内シグナル伝達をどのようにもたらしているのかを解析するために、アミノ酸746〜750を欠く変異型EGFRを安定的に発現するNR6細胞株(NR/Del)を樹立した。NR/Del細胞株における変異型EGFRの発現量と実質的に同程度のレベルで野生型EGFRを発現するNE2002細胞株、およびより高いレベルで野生型EGFRを発現するNE99細胞株を、使用した。これらの細胞株を用いて、EGF依存的に活性化する主要な細胞内シグナル伝達経路を調べた。これらの細胞において、EGF刺激に応じて、Akt、ErkおよびSTAT5を含む下流のシグナル伝達経路が活性化された(図1(a)、(b))。
図1(a)および(b)は、リガンド刺激によって活性化される変異型EGFR下流シグナリングを、経時的に検討した結果を示す。具体的には、細胞を、EGF(50ng/ml)で図中に示した時間にわたって刺激した。EGF刺激なしのサンプルを、0分とした。各パネルの左側に示した抗体を使用してウエスタンブロット分析を行った:pAkt, anti-phospho-S473-Akt; Akt, anti-total Akt; pErk, anti-phospho-p44/42 Erk1/2 (T202/Y204); Erk, anti-total Erk1/2; pSTAT5, anti-phospho-Y694-STAT5; STAT5, anti-total STAT5。
EGF刺激60分後または120分後において、変異型EGFRを発現する細胞(NR/Del)では、基底レベル(刺激前のリン酸化状態)と比較して高いリン酸化レベルを示したが、野生型EGFRを発現する細胞(NE99またはNE2002)では、基底レベル以下であった。特に、変異型EGFRを発現する細胞におけるAkt、ErkおよびSTAT5のリン酸化のピークは、野生型EGFRを発現する細胞より弱かった(図1(a)のレーン2および8、図1(b)のレーン2および7)。EGF刺激による変異型EGFRにおけるリン酸化量のピークは、野生型EGFRにおけるリン酸化量のピークよりかなり低かった(図3(e)のレーン2および8)。これらの結果は、変異型EGFRの下流シグナル伝達経路の活性化が、野生型EGFRの下流シグナル伝達経路と比較して、下流シグナルの活性化のピーク値を上昇させるのではなく、時間的にシグナルを遷延させることを特徴とすることが明らかになった。
〔III:変異型EGFRは、EGF刺激により845位のチロシン残基にリン酸化を受けるが、Cbl結合部位に関与する1045位のチロシン残基はリン酸化を受けない〕
EGF刺激によって変異型EGFRのチロシン残基のリン酸化が生じるか否かを調べたところ、変異型EGFRと野生型EGFRとの間で顕著な差異を見出した(図1(c))。
図1(c)は、EGF刺激の際の変異型EGFRチロシンリン酸化を分析した結果を示す。具体的には、EGF刺激(50ng/ml)ありまたはなしの細胞を使用した。抗VSVG抗体を使用してサンプルを免疫沈降し、次いで、等量で3つに分配して、3連でのSDS−PAGE分析に供した。第1のメンブレンを、anti-phospho-Y845-EGFR (pY845)にてプローブし、次いで、anti-phospho-Y992-EGFR (pY992)にて再プローブした。第2のメンブレンを、anti-phospho-Y1045-EGFR (pY1045)にてプローブし、anti-phospho-Y1068-EGFR (pY1068)およびanti-phospho-Y1173-EGFR (pY1173)にて再プローブした。第3のメンブレンを、anti-VSVG (EGFR)にてプローブした。
EGFRの845位のチロシン残基はSrcファミリーチロシンキナーゼとの相互作用に重要であることが知られているが、図1(c)に示すように、変異型EGFRのこの部位は、EGF非存在下でわずかにリン酸化を受けていたが(レーン1)、EGF刺激によってリン酸化はさらに増強した(レーン2)。この結果は、EGF刺激によって変異型EGFRとSrcファミリーチロシンキナーゼとの相互作用が増強する可能性を示唆する。
一方、野生型EGFRでは、EGF刺激によって845位のチロシン残基が顕著にリン酸化されたが、EGF非存在下ではリン酸化を検出し得なかった(レーン3および4)。
さらに、Cbl依存的なEGFRエンドサイトーシスに関与することが知られている1045位のチロシン残基については、野生型EGFRではEGF刺激によって高レベルのリン酸化を生じたが、変異型EGFRではリン酸化を生じなかった(レーン2および4)。
これらの結果から、野生型EGFRと変異型EGFRとは、Srcファミリーチロシンキナーゼと異なる様式にて相互作用すること、および、変異型EGFRのエンドサイトーシスは減弱していることが示唆される。
〔IV:変異型EGFRは野生型EGFRと異なるエンドサイトーシス特性を有している〕
変異型EGFRを介して生じたシグナリングが延長されている理由を明らかにするために、EGF刺激時に分子量170kDaとして検出されるEGFRの発現レベルを比較した。
(a)〜(c)は、分子量170kDaとして検出されるEGFRの変異型および野生型のリガンド依存性修飾の経時変化を示す。EGFRの検出のためのイムノブロットを、抗VSVG抗体を用いて行った。(a)および(b)は、変異型および野生型のEGFRを安定的に発現するNR6細胞から得られた結果である。(c)は、変異型および野生型のEGFRを一過性に発現するCOS7細胞から得られた結果である。
図2(a)および(b)に示すように、タンパク質バンドの強度は、EGF刺激によってNE2002およびNE99における野生型EGFR発現の基底レベル(刺激前の状態)より減少した。しかし、変異型EGFRでのタンパク質バンドの強度は、わずかに減少しただけであった。EGFRを一過性に発現させたCOS7細胞を用いた実験においても同様の結果を得た(c)。このことは、野生型EGFRと比較して変異型EGFRの分解が抑制されていることを示す。
次いで、細胞表面タンパク質をビオチン標識させて、EGFRが変異を獲得することによって、エンドサイトーシスが抑制されるのかを確認した(図2(d))。図2(d)は、各細胞の細胞表面上のEGFRをビオチン化して、アビジン−ビオチン法によって検出した結果を示す。抗VSVG抗体を用いてサンプルを免疫沈降し、SDS−PAGE解析に供した。HRP複合体化ストレプトアビジン(Avidin)を、ビオチンで標識したEGFRの検出に使用した。
図2(d)に示すように、EGF刺激に伴って、細胞表面上の野生型EGFRの量は減少した(レーン6から10)。具体的には、野生型EGFRの量はEGF刺激5分後では47%、刺激120分後では18%まで減少した。しかし、変異型EGFRのエンドサイトーシスは制限されており、具体的には、細胞表面上の変異型EGFRの量はEGF刺激5分後では85%、刺激120分後では86%残存した。
CblはEGFRのユビキチン化を促進し、Cbl−CIN85−エンドフィリン複合体を形成することによってリガンド依存的なクラスリン媒介性EGFRエンドサイトーシスを促進することが、知られている。よって、EGFRの1045位のチロシン残基におけるリン酸化の欠如によって生じるエンドサイトーシスの抑制が、変異型EGFRによる遷延したシグナリング誘導に寄与している可能性が示唆された。
〔V:変異型EGFRによるシグナル伝達はSrcファミリーチロシンキナーゼ活性に大きく依存する〕
図2(e)は、EGF刺激によるSrcファミリーチロシンキナーゼ活性化を解析した結果を示す。具体的には、細胞を、EGF(50ng/ml)で図中に示した時間にわたって刺激した。EGF刺激なしのサンプルを、0時とした。各パネルの左側に示した抗体を使用してウエスタンブロット分析を行った:pSrc,anti−phospho−Src;Src,anti−total Src。
図2(e)に示すように、変異型EGFRを発現する細胞(NR/Del)において、SrcファミリーチロシンキナーゼはEGF刺激によってわずかに活性化している。そこで、変異型EGFRにより開始される抗アポトーシスシグナリングに対するSrcファミリーチロシンキナーゼの役割を調べた。
変異型EGFRからの下流シグナリングにおけるSrcファミリーチロシンキナーゼの関連を調べた結果を図3(a)に示す。(a)は、Srcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤(PP2(1μM))の存在下または非存在下での変異型EGFRにより誘導される下流のシグナル伝達経路がリガント依存的に活性化する様子を経時的に調べた結果を示す。変異型EGFRを発現する細胞(NR/Del)において、EGF刺激によって生じる下流シグナリングの活性化は、Srcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤であるPP2によって劇的に減弱した((a))。具体的には、AktおよびSTAT5のリン酸化がほぼ完全に抑制された。
一方、野生型EGFRからの下流シグナリングにおけるSrcファミリーチロシンキナーゼの関連を調べた結果を図3(b)および(c)に示す。(b)および(c)は、変異型EGFRまたは野生型EGFRによって生起されるシグナル伝達におけるSrcファミリーチロシンキナーゼ依存性を、PP2(1μM)を前処理した細胞を使用して比較した結果である。野生型EGFRを発現する細胞(NE2002およびNE99)においては、PP2によるシグナリング阻害効果は、変異型EGFRの下流シグナリングに対する阻害効果と比較して軽微であった。また、図3(d)に示すように同様の結果が得られた。
また、図3(d)は、示した細胞でのEGFRチロシンキナーゼ活性に対するSrcファミリーチロシンキナーゼ依存性を比較した結果を示す。PP2、AG1478またはDMSO単独の存在下で細胞をEGF(50ng/ml)にて刺激した。示した抗体を用いてイムノブロットを行った。図3(e)は、変異型EGFRおよび野生型EGFRにおけるリン酸化チロシン量に対するSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤の効果を調べた結果を示す。抗VSVG抗体を用いて免疫沈降を行い、示した抗体を用いてイムノブロットを行った:pAkt,anti−phospho−S473−Akt;Akt,anti−total Akt;pErk,phosphop44/42 Erk1/2(T202/Y204);Erk,total Erk1/2;pSTAT5,phospho−Y694−STAT5;STAT5,total STAT5;PY99,anti−phosphotyrosine。
図3(d)および(e)に示すように、EGF刺激後に変異型EGFRによって誘導されるシグナリングは、Srcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤(PP2)によって顕著に抑制され、その抑制効果は、EGFRチロシンキナーゼに対する阻害剤(AG1478)と比較してより高度であった。
非小細胞肺癌細胞株において生じるEGF依存的な抗アポトーシスシグナリングに対するSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤の効果を、図4(a)および(b)に示す。アミノ酸746〜750位を欠失した変異型EGFRを発現する非小細胞肺癌細胞株PC9、または変異を有していない野生型EGFRを発現する非小細胞肺癌細胞株A549を用いた。EGF刺激によって各細胞において誘導される抗アポトーシスシグナリング(Aktの活性化)を、Srcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤(PP2(1μM))が抑制するか否かをウエスタンブロット法を用いて検討した。
図4(a)に示すように、PC9では、Srcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤であるPP2によって、Aktの活性化は著明に抑制された。しかし、図4(b)に示すように、A549ではその抑制効果は軽微であった:pAkt、anti−phospho−Akt;Akt,anti−total Akt,pErk,anti−phospho44/42 Erk1/2;Erk,anti−total Erk1/2。
種々の細胞において生じるEGF依存的なアポトーシスに対するSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤の効果を、図5(a)および(b)に示す。図5ではSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤(PP2)が各細胞に与えるアポトーシスの影響をELISAによる細胞死検出キットを用いて定量化した。
図5(a)に示すように、野生型EGFRを発現する細胞株NE99にEGF刺激を加えた場合、Srcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤によるアポトーシス誘導に対しては抵抗性を示した。しかし、この変異型EGFR発現細胞NR/Delにおいて、低濃度(0.1μM)のSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤存在下ではわずかに認められた抗アポトーシス効果は、より高濃度(1μM)のSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤によって消去された。この結果は、変異型EGFRによる抗アポトーシスシグナリングが、野生型EGFRと比較して有意にSrcに依存していることを示す図3の結果に矛盾しない。
図5(b)に示すように、非小細胞肺癌細胞株(PC9およびA549)を用いて同様の実験を行った。変異型EGFRを発現する非小細胞肺癌細胞株PC9においては、低濃度(0.1μM)のSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤の存在下でEGF依存的な抗アポトーシス効果が観察された。しかし、1μMのSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤の存在下では、EGF依存的な抗アポトーシス効果が減弱し、細胞死が高度に誘導された。また、PC9では、野生型EGFRを発現する非小細胞肺癌細胞株A549と比較して、低濃度のSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤によってアポトーシスが高度に誘導された。
本発明に従えば、レセプター型チロシンキナーゼの正常なシグナル伝達経路に影響を与えることなく肺癌細胞を処置する薬剤および方法を提供することとともに、さらなる薬剤をスクリーニングすることができるので、医薬分野における開発に寄与することができる。
図1は、変異型EGFRおよびそのチロシンリン酸化により生起された下流シグナリングを分析したイムノブロッティングの結果である。 図2は、変異型EGFRレセプターの安定性および延長された膜アンカリングを付与することを示すイムノブロッティングの結果である。 図3は、変異型EGFRにより生起されるシグナリングがSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤によって強く抑制されることを示すイムノブロッティングの結果である。 図4は、非小細胞肺癌細胞株において生じるEGF依存的な抗アポトーシスシグナリングに対するSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤の効果を示すイムノブロッティングの結果である。 図5は、種々の細胞において生じるEGF依存的なアポトーシスに対するSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤の効果を示す図である。

Claims (10)

  1. 正常細胞における野生型EGFRチロシンキナーゼ活性を阻害しないSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤を含んでいることを特徴とする、変異型EGFRを発現している癌細胞を有している肺癌を治療するための薬剤。
  2. 前記Srcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤が、アミノ酸第746〜750位を欠失するEGFRのシグナル伝達を抑制することを特徴とする請求項1に記載の薬剤。
  3. 前記Srcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤が、PP1、PP2、Dasatinib(BMS−354825)、SKI−606、AZD0530、AZM475271、CGP77675またはCGP76030であることを特徴とする請求項1に記載の薬剤。
  4. 前記肺癌が非小細胞肺癌であることを特徴とする請求項1に記載の薬剤。
  5. 前記非小細胞肺癌が、扁平上皮癌、腺癌、または大細胞癌であることを特徴とする請求項4に記載の薬剤。
  6. 化学療法によって縮小または退行した後に再発した肺癌を治療することを特徴とする請求項1に記載の薬剤。
  7. 前記変異型EGFRが野生型EGFRのアミノ酸配列の第746〜750位を欠失していることを特徴とする請求項1に記載の薬剤。
  8. 前記変異型EGFRがさらに正常なEGFRのアミノ酸配列の790位にアミノ酸置換を有していることを特徴とする請求項7に記載の薬剤。
  9. 変異型EGFR下流のシグナル伝達を抑制することにより変異型EGFR発現している癌細胞を処置するための薬剤をスクリーニングする方法であって、
    該変異型EGFRを発現している細胞培養物に候補因子を添加する工程;
    候補因子を添加した細胞培養物にEGFを添加する工程;
    EGFを添加した細胞培養物を溶解して細胞調製物を得る工程;ならびに
    該細胞調製物におけるSrcファミリーチロシンキナーゼおよびEGFRチロシンキナーゼの活性を測定する工程
    を包含し、
    ただし、当該薬剤は、EGFRチロシンキナーゼドメインに直接的に結合することによりキナーゼ活性を阻害するものではないことを特徴とする、方法。
  10. 前記変異型EGFRが野生型EGFRのアミノ酸配列の第746〜750位を欠失していることを特徴とする請求項9に記載の方法。
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