JP2007037710A - 夜間痛軽減装具(サポーター) - Google Patents

夜間痛軽減装具(サポーター) Download PDF

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進 太田
Akino Ota
章乃 太田
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Abstract

【課題】 肩関節疾患患者に頻発する夜間痛を軽減する。
【解決手段】 夜間痛軽減装具(サポーター)は、人体の少なくとも一方の肩甲骨部分を覆う肩覆い部材10と、肩覆い部に連続し人体の胸部の一部を覆う胸覆い部材20と、肩覆い部材と胸覆い部材をそれぞれ人体の肩部と胸部に装着する装着手段30と、肩覆い部材に形成されたブロック固定手段12と、ブロック固定手段により肩覆い部材に装着される弾性ブロック15と、を備える。夜間痛軽減装具(サポーター)を装着した患者が夜間仰臥位で就寝し、ブロック固定手段内の弾性ブロック15で人体の肩関節付近を下方から支持することにより、仰臥位の患者の肩部が下垂することを防ぎ、胸筋等の緊張を軽減し夜間痛を緩和する。しかも弾性ブロック15が肩からずれない。
【選択図】図3

Description

本発明は、肩関節疾患患者に頻発する夜間痛を軽減する夜間痛軽減装具(サポーター)に関する。
夜間痛は、肩関節疾患において高頻度で出現することが報告されている。肩関節疾患としては、肩関節腱板断裂、肩関節周囲炎、RA(関節リウマチ)等がある。これらの疾患による夜間痛により重度の睡眠障害を来している症例も認められる。したがって、臨床の場においては夜間痛の緩和は重要な問題であるが、現在のところ、これはといった対策は確立されていないのが実状である。それ故、夜間痛軽減装具(サポーター)に関する先行文献も数少ない。
数少ない特許文献の中で、特開平11−99047号公報(特許文献1)には、低弾性の素材を使用した肩当て枕が開示されている。肩から加わる荷重に応じて変形し、かつ、その変形を維持するような素材でもって枕を構成し、その枕を肩に当てることにより肩の夜間痛を軽減しようとするものである。また、実登録3022839号公報(特許文献2)には、半円状のマクラにより肩背部、両肩、上腕部を支え、五十肩の夜間痛を緩和するものが提案されている。さらに、特開2001−70460号公報(特許文献3)には、夜間痛を緩和する目的ではないが、肩関節周囲炎治療する肩用磁気サポーターが紹介されている。ここでは片袖型の前身頃と後ろ身頃を他方の肩の脇下に捲回する取付け部を有する構造が開示され、肩の部分に作用部材である磁石が多数配置されている。
米国特許も調査した。フリーキーワードによる検索では、night AND pain AND shoulder AND (articulation OR joint)、では115件のヒットがあった。公開公報では276件のヒットがあった。さらに、AND (sinew OR terdon)と加えると0件になり、AND omodynia と加えても0件でヒットするものは発見できなかった。また、国際特許分類では検索できなかった。米国特許では、夜間痛に関してはスポーツの防具や薬品の特許が散見され、夜間痛緩和装具の特許は発見できなかった。強いて関連のあるものを列挙すると、6755799号、6745406号、6368353号、5950628号、5827207号等があるが先行技術というほどのものではない。
特開平11−99047号公報 実用新案登録第3022839号公報 特開2001−70460号公報
肩の夜間痛は、背部の両肩甲骨内縁を結んだ線分と肩部の肩峰端の差が、座位と仰臥位では異なることが、換言すれば、仰臥位では肩関節が重力により後方に下垂し、種々の胸や肩の腱、筋肉が持続的に伸展し収縮を強いられることが原因と考えられる。ことに疾病により肩の前方突出が大きくなっている患者は、重力による後方下垂力が大きくなり、その夜間痛症状が大きいものと考えられる。かかる知見に基づけば、仰臥位で肩関節が下垂しないようなサポートを肩に当ててやれば、夜間痛が緩和されることが期待できる。上記特許文献1では「肩当て枕」を肩の下に配置することにより夜間痛を緩和しようとしている。しかしながら、患者の寝返りや体の移動により「肩当て枕」は容易に肩から外れてしまい、就寝時の夜間痛緩和効果を長時間維持することは困難であった。
上記特許文献2の枕でも、患者の就寝時の体位の変化により患者から枕が外れてしまい、上述のものと同様に、就寝時の夜間痛緩和効果を長時間維持することは困難であった。
本発明は上記の課題に鑑みてなされたもので、患者が就寝後に寝返り等により体位を変化させても、夜間痛緩和効果を維持することのできる肩関節の夜間痛軽減装具(サポーター)を提供することを目的とする。
上記の目的を達成するため、本発明は、人体の少なくとも一方の肩甲骨部分を覆う肩覆い部材と、前記肩覆い部に連続し人体の胸部の一部を覆う胸覆い部材と、前記肩覆い部材と前記胸覆い部材をそれぞれ人体の肩部と胸部に装着する装着手段と、前記肩覆い部材にブロック状の部材を装着可能とするブロック固定手段と、前記ブロック固定手段により前記肩覆い部材に装着される弾性ブロックと、を備えることを特徴とする。
上記のように構成すると、肩覆い部材にブロック固定手段により常時弾性ブロックが装着される。弾性ブロックの位置は肩部の肩甲骨から肩峰端の付近とすることができる。そして、弾性ブロックはブロック固定手段により肩覆い部材に固定されているから、装着者である患者が寝返り等をして就寝体位を変化させても弾性ブロックが肩甲骨から肩峰端の付近から外れることはない。このため、患者が寝返り等をした後も弾性ブロックは患者の肩甲骨付近の位置を維持し、患者が仰臥位に戻っても、弾性ブロックが肩関節部分を確実に支持するから、肩関節部分が重力により後方に下垂し、種々の胸や肩の腱、筋肉が伸展し緊張を強いられることが減少する。それ故、患者の肩の夜間痛を緩和する。
なお、本発明は、その構成の単純さから、特許文献1の「肩当て枕」に特許文献3の「肩用磁気サポータ」を適用すれば容易に想到できたとする見解は誤りである。特許文献3は作動部材(磁石)を肩部に保持する構造という点では、本願発明の作動部材(弾性ブロック)を肩部に固定するという構造と共通する。しかしながら、両者を結びつける動機づけとなり得るものが存在しない。第1に、技術分野の関連性が薄い。特許文献3は肩関節周囲炎を治療するものであるのに対し、本願発明は肩の夜間痛を緩和しようとするものであり治療するものではない。第2に、課題が、肩関節周囲炎の治療と夜間痛の緩和とで異なり、課題の共通性が無い。第3に、作用、機能の共通性も、作動部材を肩部に保持するという点以外では共通性が全く無い。第4に、特許文献3には夜間痛に対する何の示唆もない。さらに、夜間痛の緩和は臨床上重要な課題であったにもかかわらず、長年解決策が提案されなかったことは、特許文献1に特許文献3を適用することに、阻害要因が存在したと考えるべきである。よって、本発明は、特許文献1の「肩当て枕」に特許文献3の「肩用磁気サポータ」を適用すれば容易に想到できた発明ではない。
本発明の第2の態様として、前記ブロック固定手段が、前記肩覆い部材に設けられたポケットであることを特徴とすることができる。このように構成すると、容易に変形する弾性ブロックを確実に肩覆い部材に保持することができる。
第3の態様として、前記弾性ブロックが、発泡ウレタンからなることを特徴とすることができる。このように構成すると、軽量で適度な弾力性を有する弾性ブロックを提供することができる。
第4の態様として、前記弾性ブロックが、板状でその厚さが一方の端に行くにつれて薄くなるテーパー形状をしていることを特徴とすることができる。このように構成すると、肩が横方向に丸まった患者に対しても、肩の丸みに対応したテーパーでもって弾性ブロックが患者の肩を支持し、丸まった肩も一部に力が集中することなく適切に支持することができる。
第5の態様として、前記弾性ブロックが、厚さの異なる複数個の弾性ブロック体からなり、複数個の弾性ブロック体を組み合わせることによりその全体の厚さを調整できるようにしたことを特徴とすることができる。このように構成すると、患者毎に特注の弾性ブロックを用意することなく、複数個の弾性ブロック体を組み合わせにより個々の患者に対応でき、より安価に夜間痛軽減装具(サポーター)を提供できる。
(構成)
以下、発明を実施するための最良の形態について、添付図面を参照しつつ説明する。図1は、本発明に係る夜間痛軽減装具(サポーター)を示す正面図、図2は、体側側から見た使用状態を示す側面図、図3は、頭部側から見た使用状態を示す正面図である。図1、図2及び図3に示した夜間痛軽減用装具40は右肩用であり、肩覆い部材10、弾性ブロック15、胸覆い部材20、袖部材27及び一対の固定バンド30等を備える。固定バンド30は、装着手段を構成する。このうち、肩覆い部材10、胸覆い部材20、右脇部材25、袖部材27及び一対の固定バンド30は一体をなし、冬季においては保温性の良い布材が使用される。保温性の良いことは患部を冷やさず、夜間痛に好適である。夏期はメッシュ素材を使用する。弾性ブロック15は発泡ウレタンからなり、肩の側方部に行くにつれてその厚さが厚くなるテーパー形状となっている。
肩覆い部材10は横長矩形状を持ち、患者50への装着時は右肩52を覆う。肩覆い部材10には横長矩形状のポケット12が形成され、その左側端が開口し、その開口を覆うポケット蓋13が付属している。
上記肩覆い部材10のポケット12内に厚さ5cmの弾性ブロック15が収容されている。弾性ブロック15は全体として横長矩形状を持ち、肩関節の肩甲骨及び肩峰の後面に当てられるようになっている。より正確には、肩峰の下部に当てられる部分が厚く、肩甲骨の内側や下角に当てられる部分に進むにつれて薄くなっている(テーパー形状をしている)。また、外側縁の上方角部17a及び下方角部17bを落として丸めて寝返りを阻害しない仕組みとなっている。
なお、このほかにも厚さが3cm、4cm、6cm及び7cmの4つ弾性ブロック15が用意されている。これら4つの弾性ブロック15は厚さを除き、上記厚さが5cmの弾性ブロック15と同じ構成を持つ。
胸覆い部材20は横長矩形状を持ち、装着されたときは患者50の右胸54を覆い、その上縁が肩覆い部材10の上縁に連なっている。また、肩覆い部材10の右側縁と胸覆い部材20の右側縁とが縦長矩形状の右側脇部材25で結合され、右側脇部材25の上端に形成された右腕通し孔28の回りから筒状の袖部材27が右方向に延びている。装着されたとき、患者50の右腕56が右腕通し孔28及び袖部材27に通される。
一対の固定バンド30は肩覆い部材10から左方向に延びた二本の第1バンド31、31と、胸覆い部材20から左方向に延びた一本の第2バンド33とからなる。第1バンド31、31も第2バンド33もひも状で伸縮性を持つ。第1バンド31、31は長さが長く、患者50の左脇58を経由して胸部の前まで延びる長さを持ち、その先端に第1接着自在テープ(マジックテープ)32、32が取り付けられている。第2バンド33は長さが短く、患者50の胸部の前まで延びる長さを持ち、その先端に第2接着自在テープ(マジックテープ)34が取り付けられている。
(装着方法)
次に、図1,図2及び図3を参照しつつ、夜間痛軽減装具(サポーター)40の装着方法について説明する。患者50の症例、肩の曲がり具合に合わせて、厚さが異なる5つの弾性ブロック15の中から最適の厚さの弾性ブロック15を選び、図1に示す、ポケット12の左側開口から右方向に収容し、ポケット蓋13を閉じて弾性ブロック15をポケット12内に固定する。
夜間痛軽減装具(サポーター)40の装着時は患者50が立った又は座った状態でもって肩覆い部材10で右肩52を覆い、胸覆い部材20で右胸54を覆い、袖部材27等に右腕56を通す。その後、左脇58を経由し胸部の前まで延ばした第1バンド31の第1マジックテープ32と、胸部の前まで延ばした第2バンド33の第2マジックテープ34とを胸部の前で互いに結合する。こうして、夜間痛軽減装具(サポーター)40が右肩52及び右胸54に装着される。夜間痛軽減装具(サポーター)40の装着後、図2及び図3に示すように、患者50がベッドなどに仰向けに寝ると、寝具の床面60により弾性ブロック15が右肩関節の肩甲骨及び肩峰等に押し当てられる。
(効果確認試験)
Figure 2007037710
表1は、甲、乙、丙の3人の患者の症状を示す。実際に肩関節の夜間痛を訴えている三人の患者50に夜間痛軽減装具(サポーター)40を装着して、夜間痛軽減装具(サポーター)40の装着による夜間痛軽減効果を確認、評価した。三人の患者50は慢性的に夜間痛がある肩関節腱板断裂の患者甲、肩関節周囲炎の患者乙、及びRA(関節リウマチ)の患者丙である。甲、乙及び丙の罹患期間、年齢及び性別はそれぞれ表1に示す通りである。三人の患者甲、乙及び丙とも、日常会話は特に問題はなかった。
次に、評価の手順を説明する。図4は評価の流れを示すフローチャートである。ステップS1に示すように、まず、夜間痛軽減装具(サポーター)40の使用前に、最近一週間の夜間痛による甲、乙及び丙の睡眠時覚醒回数、疼痛部位、Visual Analog Scale(以下「VAS」と言う)を使った背臥位での疼痛の強さを評価した。次に、ステップS2に示すように、夜間痛軽減装具(サポーター)40の即時効果をみるために、夜間痛軽減装具(サポーター)40を右肩52に装着して背臥位になり、疼痛の強さ(VAS)及び安楽度(5段階)を評価した。次に、ステップS3に示すように、夜間痛軽減装具(サポーター)40の夜間痛に対する経時的効果をみるために、4日間睡眠時に夜間痛軽減装具(サポーター)40を装着し、睡眠時の覚醒回数と安楽度(5段階)を評価した。最後に、ステップS4に示すように、市販の保温用サポータ(夜間痛軽減装具(サポーター)40の肩覆い部材10、胸覆い部材20、袖部材27及び一対の固定バンド30に相当する部材を持ち、肩部を支持する弾性ブロック15は挿入されていない)の装着による効果を評価した。
夜間痛軽減装具(サポーター)40の処方については、1cmと2cmと4cmの異なる3種類の弾性ブロックで1cmから7cmの厚みを作り出すことが可能な弾性ブロック(発泡ウレタン製のパッド)15を順次ポケット12に装着して試し、患者甲、乙及び丙がそれぞれ最も楽に感じ、違和感が少ない厚さのブロック15を選択した。安楽度の評価方法は、標準理学療法学のQOLの5段階の評価尺度を参考にし、「非常に楽」「楽」「変わらない」「苦痛」「非常に苦痛」の5段階で評価した。
Figure 2007037710
表2は、患者甲、乙及び丙の疼痛部位を示す。肩関節腱板断裂の患者甲には肩甲上腕関節の前部に疼痛があり、肩関節周囲炎の患者乙には肩甲上腕関節の上部に疼痛があった。RA(関節リウマチ)の患者丙には、肩甲上腕関節の前部の疼痛の他に、肩甲棘、肩甲骨下角等、床面60に触れる骨突出部に疼痛がみられた。上記ステップS1の装具40の使用前、睡眠時の覚醒回数は、肩関節腱板断裂の患者甲では3回、肩関節周囲炎の患者乙では2から3回、RAの患者丙では4回であった(後述する表4を参照されたい)。
次に、上記ステップS2の夜間痛軽減装具(サポーター)40の装着により直ちに得られる即時効果(VAS及び安楽度)について説明する。図5は、夜間痛軽減装具(サポーター)40の装着による即時効果を示すグラフ図である。図5から分かるように、夜間痛軽減装具(サポーター)40の装着により、VASの値が、肩関節腱板断裂の患者甲では約19から約0に減少した(直線x参照)。肩関節周囲炎の患者乙では約73から約4に減少し(直線y参照)、RA(関節リウマチ)の患者丙では約33から約18に減少した(直線z参照)。
Figure 2007037710
表3は、夜間痛軽減装具(サポーター)40の即時効果としての安楽度を示す。RA(関節リウマチ)の患者丙の安楽度は「変わらない」であったが、肩関節腱板断裂の患者甲及び肩関節周囲炎の患者乙の安楽度は「楽」であった。
Figure 2007037710
表4は、夜間痛軽減装具(サポーター)の効果を示す。効果として夜間の覚醒回数及び患者の感じた安楽度で示し、対照として弾性ブロックを有さない保温用サポータの効果を併記した。上記ステップS3の夜間に実際に夜間痛軽減装具(サポーター)40を装着した場合の経時的効果(覚醒回数及び安楽度)、及び上記ステップS4の保温用サポータを使用した場合の経時的効果(覚醒回数及び安楽度)を示している。表4において上段は睡眠時の覚醒回数を示し、下段は患者の感じた安楽度を示している。
覚醒回数のうち、夜間痛軽減装具(サポーター)40の使用前の覚醒回数については、前述したように、肩関節腱板断裂の患者甲では3回、肩関節周囲炎の患者乙では2〜3回、RA(関節リウマチ)の患者丙では4回であった。夜間痛軽減装具(サポーター)40の装着後の覚醒回数は、肩関節腱板断裂の患者甲では1日目から4日目でそれぞれ1回に減少し、また肩関節周囲炎の患者乙では1日目から4日目でそれぞれ0回に減少した。尚、RA(関節リウマチ)の患者丙は疼痛が増加したため夜間痛軽減装具(サポーター)40の使用を中止した。
図6は、夜間痛軽減装具(サポーター)40を装着した患者の睡眠時における覚醒回数を示すグラフ図である。表4における効果をグラフ化したものである。肩関節腱板断裂の患者甲の覚醒回数の変化を直線aで示し、肩関節周囲炎の患者乙の覚醒回数の変化を直線bで示し、RA(関節リウマチ)の患者丙の覚醒回数の変化を直線cで示している。肩関節腱板断裂の患者甲及び肩関節周囲炎の患者乙では、夜間痛軽減装具(サポーター)40の装着前に比べて装着後(特に装着初期)は睡眠時の覚醒回数が減少していることが分かる(図の直線a及び直線b)。
安楽度に関して、肩関節腱板断裂の患者甲の安楽度は1日目から4日目で「楽」であり、肩関節周囲炎の患者乙の安楽度は1日目から4日目で「楽」であった。
表4に戻って、対照として観察した市販の保温用サポータを装着した肩関節腱板断裂の患者甲の覚醒回数は1回で、患者甲が夜間痛軽減装具(サポーター)40を装着したときの覚醒回数と同じ1回であった。保温用サポータを装着した肩関節腱板断裂の患者甲は覚醒時の疼痛が強く、2時間程度入眠困難であり、安楽度は「苦痛」であった。また、肩関節周囲炎の患者乙が保温用サポータを装着した場合は疼痛を伴い、施行不可であった。
(考察)
夜間痛軽減装具(サポーター)40の装着により夜間痛が軽減する理由は以下のように考察される。まず、肩関節腱板断裂の患者甲、肩関節周囲炎の患者乙、及びRA(関節リウマチ)の患者丙の全てにおいて、夜間痛軽減装具(サポーター)40の使用により夜間睡眠時の覚醒回数が減少し、患者が「楽」と感じた理由を考える。夜間痛軽減装具(サポーター)40の効果としては、右肩52を保温する効果と、弾性ブロック15で右肩52の肩甲帯を支持する効果とが考えられる。保温による効果は市販の保温用サポータでも得られる。
但し、肩関節腱板断裂の患者甲も肩関節周囲炎の患者乙も、夜間痛軽減装具(サポーター)40の装着により即時的にも疼痛が減少し「楽」と感じ(表3参照)、また保温用サポータの装着を肩関節腱板断裂の患者甲は「苦痛」と感じ、肩関節周囲炎の患者乙は夜間痛軽減装具(サポーター)40の使用前同様に疼痛を感じた(表4参照)。
これから判断して、夜間痛軽減装具(サポーター)40の装着により夜間痛が軽減したのは、夜間痛軽減装具(サポーター)40及び保温用サポータによる保温効果だけではなく、夜間痛軽減装具(サポーター)40による肩甲帯付近の支持効果が大きいと考えられる。即ち、肩甲帯の周囲に疼痛のある症例は肩甲骨が前方突出する(protraction)ことが多く、仰臥位により上腕骨、肩甲骨が後方に重力を受け大胸筋、小胸筋が持続収縮したことによるといわれている。夜間痛軽減装具(サポーター)40により背臥位で肩甲帯を下方から支持することにより他動的に肩甲骨の後方への引き延ばしが除去され、筋のリラクゼーションが得られ交感神経優位の状態を脱し、患者が「楽」と感じたと考えられる。
なお、RA(関節リウマチ)の患者丙では、夜間痛軽減装具(サポーター)40の使用により即時的には疼痛が減少したが(図5の直線z参照)、夜間の疼痛が増加した(表4参照)。これは、弾性ブロック15により疼痛部位である肩甲棘や肩甲骨下角へかかる圧力が増大し、長時間の圧迫により疼痛が増強したと考えられる。よって、疼痛部位によっては、圧力が分散しないように弾性ブロック15の形状を工夫する必要があると考えられる。
今回、夜間痛のある三例の患者(肩関節腱板断裂の患者甲、肩関節周囲炎の患者乙及びRA(関節リウマチ)の患者丙)に対して夜間痛軽減装具(サポーター)40を装着したところ、弾性ブロック15と接触する部分に疼痛を伴わない2名に良好な結果が得られた。更に、夜間痛軽減装具(サポーター)40による保温効果、筋電図を用いた筋の緊張とリラクゼーション、及び肩甲骨にかかる圧力などについて研究することにより、この夜間痛軽減装具(サポーター)40の効果がさらに向上し、適応範囲がさらに広がると思われる。
(効果)
最良の形態により得られる効果をまとめると、以下の通りである。第1に、夜間痛軽減装具(サポーター)40を患者50の右肩52に確実に装着でき、しかも一旦右肩52に装着した後は、患者50が体位を変化させたり寝返りを打っても、夜間痛軽減装具(サポーター)40が右肩52からずれ難く、長時間にわたって夜間痛軽減効果が得られる。これは、右肩52を肩覆い部材10で覆い、右胸54を胸覆い部材20で覆い、右腕56を袖部27に通し、左脇58を経由した固定用バンド30の第1バンド31、31と第2バンド33とで固定したからである。
第2に、弾性ブロック15の厚さは、肩関節の肩峰の下部に当てられる部分が厚く、肩甲骨の内側や下角に当てられる部分に進むにつれて薄くなっているので、弾性ブロック15を右肩関節の肩甲骨及び肩峰等に当て、下方から支持することができる。また、弾性ブロック15の外側縁の上方角部17a及び下方角部17bを落として丸めているので、夜間痛軽減装具(サポーター)40を装着した患者50が寝返りを打ちやすい。
第3に、第1バンド31、31の第1マジックテープ32、32と第2バンド33の第2マジックテープ34とを胸部の前で結合するので、結合が容易である。また、第1バンド31及び第2バンド33は伸縮性があるので、患者50の胸部を圧迫しない。
第4に、患者50の病状を考慮して、弾性ブロック15の最適の厚さを選択できる。厚さの異なる五つの弾性ブロックが用意してあり、患者50の体格、肩の丸み具合、病状に合わせて最適の厚さの弾性ブロック15を選択できるからである。その際、肩覆い部材10に蓋13付きのポケット12を設けているので、弾性ブロック15のポケット12への収容及びポケット15からの取り出しが容易であると共に、ポケット12に収容した弾性ブロック15がポケット蓋13に抑えられ、弾性ブロック15が患者の寝返り等でポケット12から飛び出してしまうおそれがない。
第5に、肩覆い部材10が保温性の良い布材から成るので、右肩52が冷え難く、保温による夜間痛軽減効果も得られる。
本発明に係る夜間痛軽減装具(サポーター)を示す正面図である。 体側側から見た使用状態を示す側面図である。 頭部側から見た使用状態を示す正面図である。 評価の流れを示すフローチャートである。 夜間痛軽減装具(サポーター)の装着による即時効果を示すグラフ図である。 夜間痛軽減装具(サポーター)を装着した患者の睡眠時における覚醒回数を示すグラフ図である。
符号の説明
10:肩覆い部材
12:ポケット(ブロック固定手段)
15:弾性ブロック
20:胸覆い部材
25:右脇部材
30:一対のバンド(装着手段)
40:夜間痛軽減装具(サポーター)
50:患者
52:右肩
54:右胸

Claims (5)

  1. 人体の少なくとも一方の肩甲骨部分を覆う肩覆い部材と、
    前記肩覆い部に連続し人体の胸部の一部を覆う胸覆い部材と、
    前記肩覆い部材と前記胸覆い部材をそれぞれ人体の肩部と胸部に装着する装着手段と、
    前記肩覆い部材にブロック状の部材を装着可能に設けられたブロック固定手段と、
    前記ブロック固定手段により前記肩覆い部材に装着される弾性ブロックと、
    を備えることを特徴とする夜間痛軽減装具(サポーター)。
  2. 前記ブロック固定手段が、前記肩覆い部材に設けられたポケットであることを特徴とする請求項1に記載の夜間痛軽減装具(サポーター)。
  3. 前記弾性ブロックが、発泡ウレタンからなることを特徴とする請求項1に記載の夜間痛軽減装具(サポーター)。
  4. 前記弾性ブロックが、板状でその厚さが一方の端に行くにつれて薄くなるテーパー形状をしていることを特徴とする請求項1に記載の夜間痛軽減装具(サポーター)。
  5. 前記弾性ブロックが、厚さの異なる複数個の弾性ブロック体からなり、複数個の弾性ブロック体を組み合わせることによりその全体の厚さを調整できるようにしたことを特徴とする請求項1に記載の夜間痛軽減装具(サポーター)。
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Cited By (2)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP2009106716A (ja) * 2007-10-30 2009-05-21 Rakuhoku Gishi:Kk 肩痛緩和装具
JP2016022190A (ja) * 2014-07-22 2016-02-08 ブレース・フィット合同会社 肩用サポーター装具及び肩用サポーター

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JP2009106716A (ja) * 2007-10-30 2009-05-21 Rakuhoku Gishi:Kk 肩痛緩和装具
JP2016022190A (ja) * 2014-07-22 2016-02-08 ブレース・フィット合同会社 肩用サポーター装具及び肩用サポーター

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