JP2007033338A - 分子振動計測法、分子振動計測装置、試料調製用キット及び分子振動計測システム - Google Patents

分子振動計測法、分子振動計測装置、試料調製用キット及び分子振動計測システム Download PDF

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Abstract

【課題】分子の局所的な構造変化及び機能、並びに分子間相互作用を1分子レベルの高感度で計測することのできる、分子振動計測法及び分子振動計測装置を提供する。
【解決手段】標的分子に結合した光吸収物質に光を照射し、光吸収物質の周辺の標的分子の内部構造から発生するラマン散乱を計測する。または、光吸収物質に表面プラズモンを発生する物体を近づけて光を照射する。好ましくは、光吸収物質は250〜800nmに光吸収帯を有し、表面プラズモンを発生する物体は金属コロイド粒子である。
【選択図】図1

Description

本発明は、分子振動計測法及び分子振動計測装置に関し、特に、分子の局所的な構造変化及び機能、並びに分子間相互作用を1分子レベルで計測するための方法と装置に関する。さらに、計測対象となる試料を調製するための試料調製用キットに関する。
生命科学研究の分野では、生体分子の機能と、生体分子間相互作用を解析する技術の開発が求められている。
例えば、タンパク質や核酸に代表される生体分子の機能を解明するためには、生体分子の動的な構造変化を1分子レベルで解析することが必須である。その理由は、従来の多分子を対象とする計測では平均値しか求めることができず、個々の分子のダイナミクスを計測することが困難だからである。
ここで、1分子レベルとは、複数分子であってもゆらぎ解析で1分子の情報を得ることができる範囲、例えば1〜10分子の範囲をいう。
原子間力顕微鏡は生体分子をナノメートルの分解能で検出する強力なツールであり、1分子の構造変化を捉えることが可能である。最近では、高速原子間力顕微鏡が開発され、数十ミリ秒の時間分解能で生体分子の動的な構造変化がイメージングされている(非特許文献1)。しかし、この手法では、生体分子の外見の構造変化しか捉えることができず、生体分子内の特定の領域の構造変化をとらえることは困難である。
生体分子の構造変化を捉える別の方法として、蛍光共鳴エネルギー移動法(FRET)がある。この方法では、生体分子の特定の部位に2種類の異なる蛍光色素を結合させ、蛍光色素間の距離や角度の変化を検出する。実際、一対の蛍光色素を、蛍光顕微鏡を用いて観察することにより、1分子の生体分子内の構造変化が測定されている(非特許文献2)。しかし、代表的な生体分子であるタンパク質の場合、分子内の決まった位置に2種類の蛍光色素を導入することは困難である。また、特定の2残基の距離が求まったとしても、距離の変化だけから具体的な構造変化を明らかにすることは困難である。
したがって、生体分子内部の特定の化学結合に関する情報を1分子レベルで検出する技術の開発が待ち望まれている。
一方、生体分子間相互作用を解析するための技術として、表面プラズモン共鳴法(SPR)が開発され、装置が市販されている。この方法では、ガラス基板に金属薄膜を蒸着し、ガラス側から特定の角度で光を入射することにより金属薄膜に表面プラズモン共鳴を発生させる。まず、金属薄膜に生体分子(標的生体分子)を吸着させておき、次に溶液中に別の生体分子(試験分子)を加える。両者が結合すると屈折率が変化し、共鳴を起こす入射角が変化する。この変化を測定することにより生体分子間相互作用が測定されている。
また、同様の効果を示す生体分子間相互作用の検出技術として、水晶発振子マイクロバランス法(QCM)がある。これは、生体分子の吸着を水晶発振子の周波数変化として検出する方法である。これらの方法は検出のために生体試料を蛍光色素などで修飾する必要がなく簡便に測定できる利点がある。しかし、非特異的吸着が大きな問題であり、弱い相互作用の検出は困難である。また、定量のためには数ng以上の試料を必要とするなど、1分子レベルの検出感度を有していない。そのため、結合速度定数、解離速度定数、解離定数などを測定できるが、生体分子間相互作用のダイナミクスを1分子レベルで解析することは不可能ある。
生体分子間相互作用を計測する別の手段として蛍光顕微鏡法がある。蛍光色素を生体分子に結合させることにより単一分子のイメージングが可能になっている(1分子蛍光イメージング法)。この手法を使った研究により、生体分子間相互作用を1分子レベルで解析することの重要性が明らかになった。
ここでは酵素反応を例にして1分子レベルでの解析の重要性を紹介する。従来、蛍光性の補酵素を結合している酵素は、その蛍光を利用して反応の1分子レベルでの解析が行われてきた。例えば、コレステロール酸化酵素は、補酵素としてFAD(flavin adenine dinucleotide)を持っており、FADの酸化と還元に伴って蛍光を発したり発しなくなったりする。この性質を利用して、酵素反応の1分子レベルでの解析が行われている(非特許文献3)。解析の結果、酵素反応が終了した直後は次の反応が速やかに進行することが示された。このようなタンパク質の履歴効果は、1分子レベルでの計測によって初めて明らかにされた現象である。
蛍光性の補酵素を持たない一般の酵素の場合、酵素と基質に、それぞれ異なる蛍光色素を結合させることにより酵素反応が1分子レベルで計測されている。例えば、蛍光色素Cy3を結合したATPを用いて、ATP加水分解酵素であるミオシンのATP加水分解反応が1分子レベルで計測されている(非特許文献4)。この方法では、まず、酵素をガラス基板に固定し、その位置を蛍光顕微鏡により確認しておく。次に、溶液中に蛍光標識した基質分子を漂わせ、基質が酵素に結合、解離する過程を全反射型エバネッセント場蛍光顕微鏡により1分子イメージングする。しかし、この方法で1分子レベルの計測するためには、溶液中に漂う蛍光性基質からの背景光を抑えるため、基質濃度を20nM以下にする必要があった。このため弱い生体分子間相互作用を1分子レベルで計測することは困難であった。また、基質の非特異的な吸着が計測を困難にしていた。
これらの問題点は、光の波長よりも小さい微小開口から発生するエバネッセント場を利用することにより大幅に改善され、溶液中の蛍光性基質の濃度が1μMでも1分子レベルで計測できるようになった(特許文献1、非特許文献5)。しかし、より高濃度では1分子レベルでの計測は不可能である。さらに、基質分子に蛍光色素を結合させるため、一般に、酵素活性が低下するという問題点が残された。そのため、基質分子を標識せずに1分子レベルで解析する手法の開発が求められている。
以上、酵素と基質の分子間相互作用について説明したが、同様のことが、タンパク質−タンパク質間相互作用、タンパク質−核酸間相互作用、核酸−核酸間相互作用などの、一般の生体分子間相互作用についても言える。
また、蛍光標識することなく分子の構造や状態を知る方法としてラマン散乱が有効である。ラマン散乱とは光が物質中で散乱され、入射光と波長の異なる光が放出される現象である。ラマン散乱は分子の振動準位に関する情報を与えるため、生体分子内の様々な結合をより詳細に測定するのに適している。しかし、ラマン散乱は非常に微弱な信号(散乱断面積が蛍光の10−14)であるため、1分子レベルでラマン散乱を検出することは困難だった。
しかし近年、銀や金などのコロイド粒子に結合した1分子の蛍光色素(非特許文献6)や、ヘムタンパク質(非特許文献7)、緑色蛍光タンパク質(GFP)(非特許文献8)からの信号が表面増強共鳴ラマン散乱によって検出できることが示され1分子レベルの計測の可能性が拓かれた。これらのタンパク質の表面増強共鳴ラマン散乱では、タンパク質が本来有している可視光の吸収が利用された。しかし、光吸収分子を人工的に生体分子に結合させて表面増強共鳴ラマン散乱による1分子レベルの計測を行った例は報告されていない。
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上述のように、従来の技術では、生体分子内部の特定領域の構造変化や化学結合に関する情報を1分子レベルの高感度で検出することは困難であった。また、生体分子間相互作用を1分子レベルで解析することも、内在性の蛍光物質を有する生体分子以外は困難であった。生体分子に蛍光色素を導入することにより1分子イメージングできる場合があるが、溶液中の分子の濃度がnMやμM以下の制限を受けるなど限界があった。さらに蛍光標識が生体分子の機能に影響を与える場合があるなど問題があった。
そこで、本発明は上記問題点に鑑み、分子の局所的な構造変化及び機能、並びに分子間相互作用を1分子レベルの高感度で計測することのできる、分子振動計測法及び分子振動計測装置を提供することを目的とする。
本発明の請求項1記載の分子振動計測法は、標的分子に結合した光吸収物質に励起光を照射し、この光吸収物質の周辺の前記標的分子の内部構造から発生するラマン散乱光を計測することを特徴とする。
本発明の請求項2記載の分子振動計測法は、請求項1において、前記光吸収物質に表面プラズモンを発生する物体を近づけて光を照射することを特徴とする。
本発明の請求項3記載の分子振動計測法は、請求項1又は2において、前記標的分子は生体分子であることを特徴とする。
本発明の請求項4記載の分子振動計測法は、請求項1〜3のいずれか1項において、前記光吸収物質は250〜800nmに光吸収帯を有することを特徴とする。
本発明の請求項5記載の分子振動計測法は、請求項2〜4のいずれか1項において、前記表面プラズモンを発生する物体は金属粒子、金属殻又は金属薄膜であることを特徴とする。
本発明の請求項6記載の分子振動計測法は、請求項5において、前記表面プラズモンを発生する物体は金属コロイド粒子であることを特徴とする。
本発明の請求項7記載の分子振動計測法は、請求項1〜6のいずれか1項において、前記標的分子が1分子レベルであることを特徴とする。
本発明の請求項8記載の分子振動計測装置は、標的分子に結合した光吸収物質に励起光を照射する照射手段と、この光吸収物質の周辺の前記標的分子の内部構造から発生するラマン散乱光を計測する計測手段とを備えたことを特徴とする。
本発明の請求項9記載の分子振動計測装置は、請求項8において、前記標的分子の計測箇所を検出する検出手段と、前記計測箇所を前記計測手段で計測可能な位置へ移動させる移動手段とを備えたことを特徴とする。
本発明の請求項10記載の分子振動計測装置は、請求項8又は9において、前記標的分子が1分子レベルであることを特徴とする。
本発明の請求項11記載の試料調製用キットは、前記請求項1〜7のいずれか1項に記載の分子振動計測法に用いられる試料調製用キットであって、前記光吸収性物質と、この光吸収性物質を標的分子に結合するための結合試薬と、前記表面プラズモンを発生する物体とを備えたことを特徴とする。
本発明の請求項12記載の分子振動計測システムは、前記請求項8〜10のいずれか1項記載の分子振動計測装置と、前記請求項11記載の試料調製用キットを備えたことを特徴とする。
本発明の分子振動計測法及び分子振動計測装置によれば、分子の局所的な構造変化及び機能、並びに分子間相互作用を1分子レベルの高感度で計測することができる。
本発明の試料調製用キットによれば、本発明の分子振動計測法に用いられる標的分子を含む試料を簡便に調製することができる。
本発明の分子振動計測システムによれば、標的分子を含む試料を簡便に調製し、分子の局所的な構造変化及び機能、並びに分子間相互作用を1分子レベルの高感度で計測することができる。
本発明の分子振動計測法は、標的分子に結合した光吸収物質に光を照射し、この光吸収物質の周辺の前記標的分子の内部構造から発生するラマン散乱光を計測するものである。
本発明の方法では、標的分子の局所的な情報を得るために、標的分子の特定の部位に光吸収物質を結合させるが、標的分子がその構造中に光吸収物質を元来有している場合には、その光吸収物質を利用してもよい。標的分子が構造中に光吸収物質を持っている例としては、GFP(非特許文献8),コレステロール酸化酵素(非特許文献3),ヘモグロビン(非特許文献7)などがある。
また、本発明の方法は、特に、タンパク質,核酸,脂質,糖鎖などの複雑な構造を有する生体分子の局所的な構造変化や機能、及び分子間相互作用を1分子レベルで計測するのに適しているが、標的分子としては生体分子に限らず、液晶などの機能性高分子材料、その他のあらゆる分子、さらには結晶、ナノデバイス用薄膜やナノガラス薄膜などの種々の材料にも適用することができる。
光吸収物質としては、250〜800nm、好ましくは400〜700nmに光吸収帯を有する化合物を使用する。また、光吸収物質としては、標的分子の機能を阻害しない小さい分子が好ましく用いられる。
代表的な光吸収物質として、例えばローダミン(rhodamine),スルホンローダミン(sulfonerhodamine),オレゴングリーン(oregon green,登録商標),フルオレセイン(fluorescein),エオシン(eosin),ルシフェールイエロー(lucifer yellow),NBD,テキサスレッド(texas red),ボディピー(BODIPY,登録商標)やアレクサフルオール(Alexa Fluor,登録商標)などの蛍光色素がある(多くの例が、Molecular Probe社のThe Handbook. A guide to Fluorescent Probes and Labeling Technologies. Tenth Editionに集録されている)。
ただし、蛍光がラマン散乱光の検出を妨げる場合は、NBD−F(4-fluoro-7-nitro-2,1,3-benzoxadiazole)(非特許文献9)やFlAsH,ReAsH(非特許文献10)のように、生体物質と反応して始めて蛍光を発する蛍光色素が好ましい。このように、他の物質と結合するまでは蛍光性を持たないが、結合した後は蛍光性を有する物質を発蛍光物質という。
さらに、マラカイトグリーン(malachite green)やベンゾオキサゾール(benzoxadiazole),QSY7(登録商標),QSY9(登録商標),QSY21(登録商標)のように光を吸収するが蛍光を発しない色素を使用すれば、蛍光の妨害を除くことができる。
光吸収物質を生体分子に結合させる場合、計測すべき領域に応じて1個、または複数個の光吸収物質を結合させる。タンパク質ならば特定のアミノ酸に蛍光色素を導入する方法が最も一般的である。このためには、タンパク質の局所的な情報を取りたい領域を決め、その近傍、好ましくは3nm以内の反応性の高いCysのSH基(チオール基)にマレイミド(maleimide)基,ヨードアセトアミド(iodoacetamide)基,ハロゲン化アルキル(alkyl halide)基やアリル化剤(arylating agents)を有する蛍光色素を共有結合させる。周囲に反応性の高いCysがない場合は、Cysと置換した変異タンパク質を合成して蛍光標識する。このように、光吸収物質を結合させる位置によって、測定したい部分を特定でき、光吸収物質を結合させた位置の周辺3nm以内のラマン散乱光を測定することが可能となる。
その他、N末端やLysのアミノ基をイソチオシアネート(isothiocyanate)基,スクシニミジルエステル(succinimidyl ester)基,スルホスクシニミジルエステル(sulfosuccinimidyl ester)基,テトラフルオロフェニルエステル(tetrafluorophenyl ester)基,またはSTPエステル基で標識する方法も有効である。
特に、上皮成長因子のようにLysを持たないか、Lysの個数が少ないポリペプチドの場合は、特定のアミノ基を選択的に修飾できるため、N末端やLysのアミノ基を修飾する上記の方法が有効である。
すなわち、一般に、タンパク質を修飾する場合、反応性と選択性の高い順にCys、Lysが使われるが、通常、タンパク質にはLysの含量が多いので、どのLysが修飾されたのかを特定することは難しく、これが問題となる。しかし、上皮成長因子は例外のポリペプチドで、Lysの数がマウスでは0、ヒトやその他の動物で1〜2個と極端に少ない。そのため、上記の方法でアミノ基を修飾すると、N末端か、数少ないLysのεアミノ基が修飾される。このように、タンパク質の中にごくわずかに存在する反応性の高いアミノ酸を修飾することによって、きわめて選択性の高い修飾ができる。
また、光吸収物質を結合させたアミノアシルtRNA(aminoacyl-tRNA)を含む試験管内合成系でタンパク質を合成する方法も有効である。この場合、特定の部位のコドンを終始コドンに変えてサプレッサーtRNAによって光吸収物質を導入するか(非特許文献11,12)、4塩基コドンに変えることにより(非特許文献13)、特定の部位に光吸収物質を導入することが可能である。この他、光吸収物質を結合させたピューロマイシンを用いてC末端を標識する方法(非特許文献14)も有効である。
核酸に光吸収物質を導入する方法としては、核酸の相補鎖部位の隙間に特異的に結合する縫込み型インターカレータ−を用いて光吸収物質を導入する方法がある。その他、グアニンに共有結合させる方法(例えば、Molecular Probe社 ULYSIS Alexa Fluor 546 Nucleic Acid Labeling Kit, Cat# U21652 または、Mirus Bio社 Label It Cy5 Labeling Kit Full Size Cat# MIR3700)や、核酸の合成時に光吸収物質を結合したNTPを導入する方法(Amersham社 Cy3-UTP Cat# PA53026)がある。
脂質および糖鎖を光吸収物質で標識する場合には、ヒドラジン(hydrazine)やヒドロキシルアミン(hydroxylamine)を反応基としてもつ光吸収物質を用いて、脂質や糖鎖のキトン基またはアルデヒド基と共有結合させる方法が有効である。またカルボン酸基もタンパク質や脂質等に存在し、これはヒドラジンやヒドロキシルアミンに加えてジアゾアルカン(diazoalkane),ハロゲン化アルキル(alkyl halide),トリフルオロメタンスルホネート(trifluoromethanesulfonate),STP(4-sulfo-2,3,5,6-tetrafluorophenol),N−ヒドロキシスルホスクシニミド(N-hydroxysulfosuccinimide)を有する光吸収分子と共有結合させる。
また、本発明の分子振動計測法は、光吸収物質に表面プラズモンを発生する物体を近づけて光を照射するものである。
この表面プラズモンを発生する物体としては金属が用いられ、この金属としては、薄膜や微粒子の形態のものを用いることができる。微粒子の形態のものとしては、金属コロイド粒子が好適に用いられる。
なお、1分子レベル、すなわち、複数分子であってもゆらぎ解析で1分子の情報を得ることができる範囲、例えば1〜10分子の範囲での測定には表面プラズモンを発生する物体の使用が不可欠であるが、これよりも分子数の多い多分子の結合等の測定においては、測定時間を長くすればラマン散乱光の測定が可能であるので、必ずしも表面プラズモンを発生する物体を使用する必要はない。
具体的には、例えば、光吸収物質を結合した標的分子と、表面プラズモンを発生する金属粒子とを吸着または結合させる。これを顕微鏡のスライドガラスに付着させ、光吸収物質の吸収波長に相当する光を照射する。この光の照射に伴い金属粒子から表面プラズモンが発生し、これにより標的分子の光吸収物質が結合している近傍の表面増強共鳴ラマン散乱を発生させることができる。この信号を解析すると標的分子の構造変化のダイナミクスを1分子レベルで解析することが可能である。その測定原理を図1に示す。
なお、表面増強ラマン散乱とは、金属表面上に吸着した分子のラマン散乱断面積がその分子が溶液中にあるときよりも、10〜10倍も大きくなる現象である。その原因として、金属表面の凹凸による電磁場の局所的増強や吸着された分子とその周辺の電子状態の変化などが考えられている。
さらに、標的分子が酵素の場合、光吸収物質を基質結合部位の近くに結合させておけば、基質の酵素への結合や酵素反応中間体の信号を得ることも可能になる。また、標的分子が一般の生体分子の場合、溶液に別の生体分子を加えて両者の結合と解離を1分子レベルで解析することも可能である。この場合、溶液中の生体分子の濃度に制約はなくmM以上の濃度でも測定が可能である。
表面増強共鳴ラマン散乱を発生させるためには、表面プラズモンを発生させる必要がある。表面プラズモンを発生する物体としては、金属粒子、金属薄膜などが挙げられるが、直径数十ナノメートルの銀,金,白金,ニッケルなどのコロイド粒子を作製し(非特許文献15)、これに光を照射して表面プラズモンを発生させる方法が最も一般的である。金属コロイド粒子の他に、金属粒子の付着したシート(非特許文献16)や、金属ナノシェル(nanoshell,非特許文献17)やナノクラスター(nanocluster,非特許文献18)を用いて表面プラズモンを発生させる方法も有効である。その他、特許文献2において開示されているラマンシグナルを増強する微粒子構造体も有効である。
以上のように、本発明は、分析対象となる標的分子に光を吸収する分子である光吸収分子を結合させ、表面増強共鳴ラマン散乱を用いて、光吸収分子の近傍における標的分子の局所的構造変化や機能を検出する。さらに、別の試験分子を加えることにより、標的分子と試験分子の相互作用を、表面増強共鳴ラマン散乱により検出する。
従来の技術では、生体分子内部の特定領域の構造変化や化学結合に関する情報を1分子レベルの高感度で検出することは困難であったが、本発明では、生体分子の特定の部位に蛍光色素などの光吸収物質を結合させ、これを表面プラズモンを発生する金属微粒子などの物体に結合させ、光吸収物質の吸収波長の光で励起し、発生した表面増強共鳴ラマン散乱を利用して光吸収物質の近傍の化学結合に由来するラマン散乱の信号を1分子レベルで検出し、生体分子の局所的な特定領域の構造変化、化学結合に関する情報を得ることができる。そして、光吸収物質を生体分子内の様々な部位に結合させることにより生体分子内部の構造変化のダイナミクスの全体をも明らかにすることができる。特に、光吸収物質の結合部位をタンパク質分子の基質結合部位の近傍にすることにより、酵素反応の1分子レベルでの検出が可能になる。
また、従来の技術では、生体分子間相互作用を1分子レベルで解析することは困難だった。生体分子に蛍光色素を導入し、1分子イメージングした例が報告されているが、溶液中の分子の濃度をnMやμM以下に抑える必要があった。さらに両方の生体分子を蛍光標識するために機能が阻害される可能性があった。本発明では、生体分子同士が結合する部位の近傍に光吸収物質を結合させて、生体分子同士の結合に伴う表面増強共鳴ラマン散乱の変化を検出することにより生体分子間相互作用の1分子レベルでの解析を可能にする。一方の生体分子を標識する必要が無いので機能阻害を避けられる他、溶液中の分子の濃度をmM以上にすることも可能であり、溶液中の濃度について制限を受けないという利点を有する。
本発明は、生体分子、機能性高分子材料など種々の物質の機能解析と相互作用解析に大きな貢献をするものと期待される。
また、本発明の分子振動計測法の計測対象となる、標的分子を含む試料を簡便に調製することができるように、本発明の試料調製用キットは、光吸収性物質と、この光吸収性物質を標的分子に結合するための結合試薬と、表面プラズモンを発生する物体とを備えている。
ここで、光吸収性物質と表面プラズモンを発生する物体については、既に詳細に説明したのでその説明は省略する。また、光吸収性物質を標的分子に結合するための結合試薬については、特定の試薬に限定されず公知の種々の試薬とすることができる。標的分子がタンパク質であって、光吸収性物質の目的とする結合部位がSH基である場合には、光吸収性物質に、例えば、マレイミド(maleimide)基,ヨードアセトアミド(iodoacetamide)基を有する結合試薬を結合させてから、結合試薬のマレイミド基,ヨードアセトアミド基を標的分子に結合させることによって、光吸収性物質を標的分子に結合させる。標的分子がタンパク質であって、光吸収性物質の目的とする結合部位がアミノ基である場合には、光吸収性物質に、例えば、イソチオシアネート(isothiocyanate)基,スクシニミジルエステル(succinimidyl ester)基を有する結合試薬を結合させてから、結合試薬のイソチオシアネート基,スクシニミジルエステル基を標的分子に結合させることによって、光吸収性物質を標的分子に結合させる。標的分子が核酸であって、光吸収性物質の目的とする結合部位がグアニンの場合には、結合試薬として、例えば、Molecular Probe社 ULYSIS Alexa Fluor 546 Nucleic Acid Labeling Kit, Cat# U21652 または、Mirus Bio社 Label It Cy5 Labeling Kit Full Size Cat# MIR3700を使用することができる。標的分子が核酸であって、光吸収性物質の目的とする結合部位がウラシルの場合は、結合試薬として、例えば、Amersham社 Cy3-UTP Cat# PA53026を使用することができる。標的分子が脂質または糖質であって、光吸収性物質の目的とする結合部位がキトン基またはアルデヒド基の場合は、結合試薬として、ヒドラジン(hydrazine)やヒドロキシルアミン(hydroxylamine)を用いることにより、光吸収性物質を標的分子に結合させることができる。
これら光吸収性物質、結合試薬と、表面プラズモンを発生する物体は、好ましくは、それぞれ容器に収容されている。また、本発明の試料調製用キットは、試料を調製するときに必要となる溶媒や、スライドガラス、ピペットなどの器具を備えていてもよい。
つぎに、上述の分子振動計測法を実施するために構成された、本発明の分子振動計測装置について説明する。
図2に、本発明の分子振動計測装置の一実施形態として、表面増強共鳴ラマン散乱を発生させるための光照射装置および散乱光を分光して定量するための顕微ラマン分光装置を示す。この装置では、個々の分子の位置をイメージングし、分光したい分子を所定の位置に移動させる機能も有している。
図2において、1は標的分子に結合した光吸収物質に励起光を照射する照射手段としての光源であり、この光源1からの励起光は、ダイクロイックミラー2で反射され、対物レンズ3を通して光吸収物質が結合した標的分子を含む試料Aに照射されるようになっている。光源1はレーザーなどから構成することができる。
そして、試料Aから出たラマン散乱光は対物レンズ3で集められ、ダイクロイックミラー2でレイリー散乱光が除かれ、ハーフミラー4または可動式のミラーによって分光用ポートと画像用ポートに分岐されるようになっている。
画像用ポートの経路には、吸収フィルター5が取り付けられており、吸収フィルター5を通過したラマン散乱の顕微鏡像は、標的分子の計測箇所を検出する検出手段としての高感度ビデオカメラ6で撮影されるようになっている。
分光用ポートの経路には、励起光を除くためのノッチフィルター7と、ピンホール8又はスリットが取り付けられており、ノッチフィルター7,ピンホール8又はスリットを通過したラマン散乱光は、光吸収物質の周辺の標的分子の内部構造から発生するラマン散乱光を計測する計測手段としての分光ユニット9で計測されるようになっている。なお、分光ユニット9は、ポリクロメーター,CCDカメラ等から構成されている。
また、標的分子の計測箇所を計測手段で計測可能な位置へ移動させる移動手段(図示せず)が設けられており、高感度ビデオカメラ6で撮影された顕微鏡像に基づいて、標的分子からのラマン散乱光がピンホール8又はスリットを通過するように、試料Aを載置するステージ(図示せず)を移動することができるように構成されている。
以上のように、本実施形態の分子振動計測装置は、標的分子に結合した光吸収物質に励起光を照射する照射手段としての光源1と、この光吸収物質の周辺の前記標的分子の内部構造から発生するラマン散乱光を計測する計測手段としての分光ユニット9とを備えたものである。
また、前記標的分子の計測箇所を検出する検出手段としての高感度ビデオカメラ6と、前記計測箇所を分光ユニット9で計測可能な位置へ移動させる移動手段とを備えたものである。
この分子振動計測装置によれば、本発明の分子振動計測法が可能となり、分子の局所的な構造変化及び機能、並びに分子間相互作用を1分子レベルの高感度で計測することができる。
図3に、本発明の分子振動計測装置の別の実施形態を示す。なお、前記実施形態と同様の部分には同じ符号を付して、その詳細な説明は省略する。
この実施形態は、励起光の照射経路が前記実施形態と異なっており、プリズム型全反射照明を採用している。光源1からの励起光は、試料Aから見て対物レンズ3と反対側に設置されたプリズム10を経由して光吸収物質が結合した標的分子を含む試料Aに照射されるようになっている。この実施形態では、ダイクロイックミラーを除くことができるので、ストークス光だけでなく、アンチストークス光を測定しやすいという利点を有する。
また、本発明の分子振動計測システムは、上記の分子振動計測装置と試料調製用キットを備えたものである。標的分子を含む試料を簡便に調製し、分子の局所的な構造変化及び機能、並びに分子間相互作用を1分子レベルの高感度で計測することができる。
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の思想を逸脱しない範囲で種々の変形実施が可能である。
以下、さらに具体的に本発明の実施例について説明する。
[顕微ラマン分光装置]
図2に示した落射照明または対物レンズ型エバネッセント場照明による顕微ラマン分光装置の構成例を以下に示す。倒立蛍光顕微鏡(IX70,オリンパス株式会社)に各種の光学部品と検出装置を取り付けることにより顕微ラマン分光装置を組み立てた。試料を励起するためのレーザーと各種のフィルターセットの例を表1に示す。ただし、本発明に使用するレーザー、ダイクロイックミラーやフィルターの種類については表1に限定されるものではない。
Figure 2007033338
レーザー光をダイクロイックミラーで反射し、対物レンズ(PlanApo 60X,NA1.4,オリンパス株式会社製)を通して試料に照射する。照射方法として、落射照明または対物レンズ型エバネッセント場照明を採用した。両者の違いは入射角の違いによる。臨界角を越えた入射角でレーザーを照射すると、カバーガラスと溶液の界面で全反射が起こり、境界面でエバネッセント場が発生する。これを利用して境界面の近傍だけを局所的に観察することができる(非特許文献19)。
試料から出たラマン散乱光を対物レンズで集め、ダイクロイックミラーでレイリー散乱光を除き、ラマン散乱光のみを通過させる。その後、ハーフミラーまたは可動式のミラーによって分光用のポートと画像用のポートに分岐する。画像ポートの経路には、吸収フィルターが取り付けられており、ラマン散乱の顕微鏡像を高感度ビデオカメラ(EB CCDカメラ,浜松ホトニクス株式会社製)で撮影する。これにより、表面増強共鳴ラマン散乱光を発している金属粒子と生体分子の複合体の位置を確認する。
次に、顕微鏡のステージを移動して分光したい生体分子のラマン散乱光が分光用のポートのピンホールまたはスリットを通過する位置へ移動させる。分光用のポートではノッチフィルターで励起光が除かれ、試料と光学的に共役な位置にあるピンホールまたはスリットに到達する。これを通過したラマン散乱光はポリクロメーター(M10-TP,分光計器株式会社製)によって分散され、冷却CCDカメラ(ORCA ER,浜松ホトニクス株式会社製)によって撮影される。
試料の励起方法としては、図3に示すように、プリズム型全反射照明も可能である。この照明方法では、ダイクロイックミラーを除くことができるので、ストークス光だけでなく、アンチストークス光を測定しやすいという利点を有する。
ここまでの実施例は、生体分子に結合した光吸収物質を青や緑の可視光レーザーで励起する場合について説明したが、光吸収物質によっては、紫外光や赤外光のレーザーで励起したり、あるいは多光子励起を使用することが望ましい場合もあり得る。また、上述した対物レンズ、ビデオカメラ、顕微鏡、ポリクロメーターの社名および種類は例として挙げており、これらに限定されるものではない。
[銀コロイドの作製と生体試料の結合]
従来のLee−Meisel法(非特許文献15)による銀コロイド作製法では、1時間の煮沸プロセスが銀コロイドの形状を均一化するために必須であり、かつ保存可能期間も1ヶ月が限度であった。それに対して銀コロイド簡便作製法(非特許文献20)は常温、10分で作製でき、保存も3ヶ月可能である。また、これを使って得られたラマン散乱シグナルはLee−Meisel法によるそれと変わらなかったことから、銀コロイド簡便作製法に従って以下のように作製した。
10mMの硝酸銀溶液10mlを1.67mMの塩化ヒドロキシルアミンと3.33mMの水酸化ナトリウムを含んだ溶液90mlに滴下して加えることにより銀コロイドを作製し、常温で保存した。生体試料のラマン散乱光を観察する時には、10−30mMの水酸化ナトリウムをコロイド凝集促進のため銀コロイド溶液に加えて常温で10分間放置し、生体試料を凝集銀コロイドに加え、さらに20−90分間放置し、生体分子の銀コロイドへの吸着を促した。このラマン散乱光を顕微ラマン分光装置を使って観測した。また、金コロイドについてはLee−Meisel法によって作製可能である。
[カテコールアミンの表面増強共鳴ラマン散乱]
カテコールアミンの一種であるNE(ノルエピネフリン)と蛍光誘導体化試薬NBD−F(4-fluoro-7-nitro-2,1,3-benzoxadiazole)(化1)とを結合させNBD−NE(化2)とし、この表面増強共鳴ラマン散乱スペクトルを観測した。さらに、NEの分解に伴う構造変化を観察した。
Figure 2007033338
Figure 2007033338
まず、500μMのNE溶液100μlに、40mMのNBD−Fアセトニトリル溶液100μl、100mMのホウ酸緩衝液(pH9.0)100μlを加え、60℃、5分間反応させ、氷冷した。また、NEを予め60℃、5分間放置して構造変化を起こさせた試料も同様の方法で蛍光誘導体化した。各々のサンプルを、上述のように銀コロイド溶液、NaClと混合させた後、スライドガラスに滴下し、ラマン散乱スペクトルを計測した。NBD−Fの吸収波長である488nmのレーザーにてサンプルを励起し、冷却CCDカメラを使用して積算時間5秒で表面増強共鳴ラマン散乱スペクトルを得た。
17μMのNBD−NE溶液のラマン散乱スペクトルを図4に示す。縦軸は観測されたラマン散乱の強度を任意単位で示しており、横軸は波数を示した。NEを熱処理により構造変化させ、NBD−Fにより誘導体化した物質のラマン散乱スペクトルを図5に示す。
このように、NEをNBD−Fにより誘導体化することにより、表面増強共鳴ラマン散乱スペクトルを得ることができた。また、NEの分解に伴う構造変化を表面増強共鳴ラマン散乱スペクトルにより検出することができた。この結果は、低分子の生体分子に蛍光色素を結合させ、その表面増強共鳴ラマン散乱スペクトルを得ることにより、生体分子の構造変化を検出できることを示している。
例示したNBD−Fは、図4に示すように、標的分子と反応して始めて共鳴ラマン散乱光を発する。そのため、標的分子のラマン散乱光を高感度に検出できる。
[蛍光標識したタンパク質の表面増強共鳴ラマン散乱]
筋タンパク質の一つであるアクチンの374番目のCysに蛍光色素TMRIAを結合させ、表面増強共鳴ラマン法を用いてアクチンのラマン散乱光を観測した。手順を以下に示す。
1pMの色素標識したアクチンを0.25mMの銀コロイドを含むTris緩衝溶液(10mM Tris−HCl,30mM NaCl,pH7.0)に加え、1時間室温で放置後、顕微ラマン分光装置を使ってラマン散乱光を観測した。励起波長はTMRIAの吸収波長である532nm、積算時間は5秒を用いた。
TMRIAのみのラマンスペクトルを図6に、TMRIAで標識したアクチン1分子のラマンスペクトルを図7に示す。なお、1pMの色素標識したアクチンの代わりに10μMの無標識アクチンを用いた場合、ラマン散乱光は観測されなかった。この結果は、タンパク質などの生体高分子の所定の位置に蛍光色素を結合させ、その表面増強共鳴ラマン散乱スペクトルを得ることにより、蛍光色素の近傍の化学結合を検出できることを示している。
次に、カルシウム(Ca)結合タンパク質であるカルモジュリン(CaM)に光吸収物質を結合させ、カルシウムの結合に伴うCaMの構造変化をラマン散乱スペクトルで検出した例を示す。CaMはCaと結合するとその構造が大きく変わることが知られている。CaM(シグマ社、P2277)のアミノ基をTRITC(tetramethylrhodamine isothiocyanate)にて標識した。1pMのTRITC標識したCaMを0.25mMの銀コロイドを含むMOPS緩衝溶液(−Caの場合は25mM MOPS,pH7.0,10mM NaCl,1mM EDTA,+Caの場合は25mM MOPS,pH7.0,10mM NaCl,1mM EDTA,2mM CaCl)に加え、室温で90分放置後、顕微ラマン分光装置にてCa無結合時または結合時のCaMの表面増強共鳴ラマン散乱光を観測した。励起波長はTRITCの吸収波長である532nm、積算時間は5秒を用いた。図8に1分子のCaMのラマン散乱光を示す。
Ca無結合時に観測された1250cm−1前後のピークが、Ca結合時には減少し、かつ1350cm−1付近になだらかなピークが観測されている。これはα−helix構造の増加を表しており、多分子のCaMを用いたこれまでの解析結果と一致している(非特許文献21)。
また、Ca結合時にのみに現れた1400cm−1付近のピークはCOOを意味する。結晶解析の結果(Protein Data Bank ID = 3CLN)によるとCaMに結合したCaはAspのCOOに囲まれていることがわかる。従ってこのピークはCaと結合したことによって増強されたCOOのピークであると考えられる。
同様にCa無結合時のみに出現した850cm−1付近のピークはTyrを意味する。CaMには2つのTyrが含まれており、結晶解析の結果によるとTyr138−Lys75の距離はCa無結合時の2.8nmからCa結合時の1.9nmと短くなっている。Lys75のεアミノ基が標識されたと仮定すると、Ca結合によるCaMの構造変化によって、Tyr138がラマン増強範囲内に入ったために、このTyrが観測されたものと考えられる。
このように生体分子に吸収のある分子を結合させることによって生体分子の局所的なラマン散乱光を増強でき、生体分子の構造変化、および結合(生体分子間相互作用)を明らかにすることが可能であることが示された。
[蛍光標識した核酸の表面増強共鳴ラマン散乱]
1μMのpoly Aとpoly Tを純水中で室温において20分間放置して2本鎖DNAを形成させた。これに蛍光色素であるエチジウムブロマイドを加えて30分間放置した。さらに、0.5mM銀コロイドを含む溶液で1000倍(最終濃度1pM)に希釈して1時間放置した。試料をスライドガラスに滴下し、488nm波長で励起した。銀コロイドに結合した2本鎖DNAが発するラマン散乱を観察した。代表的なラマン散乱スペクトルを図9に示す。
一方、poly Aあるいはpoly Tのみの1本鎖DNAの場合、エチジウムブロマイドが結合しにくいため、1本鎖DNAのラマンスペクトルの観測には2本鎖DNAの場合の50,000倍の濃度を必要とした。この結果は、エチジウムブロマイドの結合がDNAの1本鎖と2本鎖で異なることを利用して、両者の違いを表面増強ラマン散乱で高感度に検出できることを示している。
この手法を拡張すれば、DNAの局所的な障害を感度よく検出することができる。例えば、紫外線の照射によってチミン2量体(thymine dimer)が形成されたことを、チミン間に形成されたシクロブチル環(cyclobutyl ring)の表面増強共鳴ラマン散乱スペクトルによって検出可能である。
[蛍光標識した脂質の表面増強共鳴ラマン散乱]
脂質と光吸収物質とを共有結合させて、細胞膜の局所的な情報を得ることができる。例えば、BDY標識したドデカン酸(5-methyl-BDY-3-dodecanoic acid)を含んだ培地で細胞を数時間培養するとそれらが細胞膜に取り込まれ細胞膜が蛍光標識される(非特許文献22)。この表面増強共鳴ラマン散乱光を観察することにより、細胞間相互作用や細胞膜状で起こる生体分子のダイナミクス、例えば受容体(またはチャンネル)とリガンドとの相互作用や受容体の活性化(例えばリン酸化)を観察することが可能である。
[蛍光標識した糖鎖の表面増強共鳴ラマン散乱]
ここではガラクトース(galactose)をヒドラジド(Hydrazide)を用いて蛍光標識する具体例を述べる。ガラクトースを標識するためには通常ガラクトース酸化酵素(galactose oxidase)を用いてガラクトースを酸化し、それによってもたらされたアルデヒド基がヒドラジドと共有結合する仕組みを利用する。例えばLPS(Lipopolysaccharide)はガラクトースを含んでいるがこれを標識するためには、0.2mgのLPSを含んだリン酸緩衝液にガラクトース酸化酵素0.02Uとノイラミニダーゼ(neuraminidase)0.005Uとを加え、37℃で5分放置する。その後、ヒドラジドを有する光吸収分子(例えばAlexa 488 hydraide)を0.1mgその溶液に加えて37℃で1時間半放置する。これによってLPSのガラクトースが蛍光標識される(非特許文献23)。糖タンパク(glycoprotein)や免疫グロブリン(immunoglobulin)のガラクトースを標識することにより、細胞間相互作用や免疫活性等を観察することが可能である。
表面プラズモン共鳴(SPR)を利用した分子間相互作用の検出技術は実用化され、Biacore社から商品が販売されている。この製品は、生命科学をはじめ、創薬、食品、環境関連分野で広く使われている。また、同様の効果をもたらす技術として、水晶発振子マイクロバランス法(QCM)によるセンサーが開発され、株式会社イニシアムなどで販売されている。本発明は、これらの従来技術よりも、感度と選択性で勝っており、生命科学研究だけでなく、創薬、食品、環境関連の分野を含むあらゆる産業分野で広く使われる可能性がある。
本発明の分子振動計測法の計測の原理図である。 本発明の分子振動計測装置の一実施例を示す落射照明又は対物レンズ型エバネッセント場照明による顕微ラマン分光装置の構成図である。 本発明の分子振動計測装置の別の実施例を示すプリズム型エバネッセント場照明によるラマン散乱検出装置の構成図である。 NBD−NEのラマン散乱スペクトルである。 構造変化後のNBD−NEのラマン散乱スペクトルである。 TMRIAのみのラマンスペクトルである。 TMRIA標識したアクチンのラマンスペクトルである。 CaMのCa無結合時(上)と結合時(下)のラマンスペクトルである。 2本鎖DNA(poly A−poly T)のラマン散乱スペクトルである。
符号の説明
1 光源(照射手段)
6 高感度ビデオカメラ(検出手段)
9 分光ユニット(計測手段)

Claims (12)

  1. 標的分子に結合した光吸収物質に励起光を照射し、この光吸収物質の周辺の前記標的分子の内部構造から発生するラマン散乱光を計測することを特徴とする分子振動計測法。
  2. 前記光吸収物質に表面プラズモンを発生する物体を近づけて光を照射することを特徴とする請求項1記載の分子振動計測法。
  3. 前記標的分子は生体分子であることを特徴とする請求項1又は2記載の分子振動計測法。
  4. 前記光吸収物質は250〜800nmに光吸収帯を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の分子振動計測法。
  5. 前記表面プラズモンを発生する物体は金属粒子、金属殻又は金属薄膜であることを特徴とする請求項2〜4のいずれか1項記載の分子振動計測法。
  6. 前記表面プラズモンを発生する物体は金属コロイド粒子であることを特徴とする請求項5記載の分子振動計測法。
  7. 前記標的分子が1分子レベルであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項記載の分子振動計測法。
  8. 標的分子に結合した光吸収物質に励起光を照射する照射手段と、この光吸収物質の周辺の前記標的分子の内部構造から発生するラマン散乱光を計測する計測手段とを備えたことを特徴とする分子振動計測装置。
  9. 前記標的分子の計測箇所を検出する検出手段と、前記計測箇所を前記計測手段で計測可能な位置へ移動させる移動手段とを備えたことを特徴とする請求項8記載の分子振動計測装置。
  10. 前記標的分子が1分子レベルであることを特徴とする請求項8又は9記載の分子振動計測装置。
  11. 前記請求項1〜7のいずれか1項に記載の分子振動計測法に用いられる試料調製用キットであって、前記光吸収性物質と、この光吸収性物質を標的分子に結合するための結合試薬と、前記表面プラズモンを発生する物体とを備えたことを特徴とする試料調製用キット。
  12. 前記請求項8〜10のいずれか1項記載の分子振動計測装置と、前記請求項11記載の試料調製用キットを備えたことを特徴とする分子振動計測システム。
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