JP2007009277A - 耐摩耗性溶射皮膜の形成方法及び溶射機 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】摺動部材の少なくとも一摺動面に対向して、高速フレーム溶射ガンノズルを相対的にかつ反復移動させることにより、耐摩耗性材料を多層に成膜して溶射皮膜を形成する方法であって、前記耐摩耗性材料粉末の供給量を連続的もしくは段階的に増加させながら溶射を行う。また耐摩耗性材料粉末の供給量を溶射経過時間信号にもとづき、溶射皮膜形成中に自動的に増加させる機能を有する。
【選択図】図5
Description
しかしながら、これらの減圧溶射法では装置が大がかりになり且つ生産性が悪いことから、このような皮膜を有する製品が高コストになることは否めず、摺動部材ではあまり使われていない。そのためこれに代わる溶射方法が検討されてきた。
即ち、高速フレーム溶射は溶射粒子がプラズマ溶射に比べ高速で飛行し母材表面に到達する。そのため、プラズマ溶射よりは、母材との境界密着性に優れると共に層間結合力も良好であり、空孔率も低い。しかしながら、溶射原料に金属基地に炭化物が分散析出したような硬質粒子分散型複合材やメカニカルアロイングにより硬質粒子を金属地に分散させたような複合材を用いた場合には、
(1)溶射粒子の昇温が十分でなく、且つ、溶射粒子の耐熱強度が高いので、被溶射面に衝突した際の溶射粒子の変形は少ない。
(2)溶射粉末が硬質粒子を分散した複合材であり、硬質であると同時に、溶射皮膜も緻密になることから溶射皮膜自体の硬度も高い。
その結果、摺動部材に用いる溶射皮膜の性能は次の問題があることが判明した:(イ)境界密着性が十分でない;(ロ)皮膜は緻密で硬質であり耐摩耗性は向上するが、粒子間結合力が弱い;(ハ)そのため、摺動の摩擦力によって溶射皮膜表面にはクラックが入りやすい。
−発明の実施の形態―
(1)溶射皮膜を決定づける粒子速度と粒子温度に対して、燃焼ガス条件は殆ど影響せず、最も大きく影響するのは単位時間あたりの粉末供給量である。
(2)単位時間あたりの粉末供給量を減らすと粒子速度は増加するが粒子温度は低下する。
(3)単位時間あたりの粉末供給量を増やすと粒子速度は低下するが粒子温度は増加する。
等の知見が得られる。
表1に示された約100m/sの粒子速度差及び約70℃の温度差は、燃焼ガス流量及び溶射距離を変化させることによっても実現できるが、粉末粒径一定条件で燃焼ガス流量により燃焼圧力を変化させることは、現在入手できる溶射ガンの一型式の範囲では難しく、溶射ガン並びにその操作治具などを一新しなければならない。また、溶射距離によっては、フレームが被溶射材に届きの被溶射物の昇温が激しくなり熱変形を起こしかねないこと、溶射距離を途中で変更することは装置上或いは溶射材の歩留まりから得策ではない。
上述の溶射ガンにおいて完全自動操作を行う場合は、溶射機ホッパーの切りだしスクリューを、一定の増加速度で回転し、溶射終了後スクリューを停止するように回転速度が制御されたモーターと連結してもよい。また、一部自動操作を行う場合は、リング回転検出器22が所定溶射回数を検出した後、制御装置23から停止信号を発生させ、溶射ガンの全ての機能を停止し、次に粉末供給量を手動で切り替え、その後同様の操作を行う。
上記以外の構成は図4に示された従来のガス溶射ガンと同じであり、これは溶射ガス流量などの制御機構を付設している。
溶射皮膜外周表面は溶射後砥石研磨、ラッピング研磨により、10点平均粗さで0.8μm以下に仕上げられている。ピストンリング上下方向両端にはピストンリング母材が露出している所謂インレイド溶射リングである、
溶射皮膜3としては、Ni又はCo合金基地中に炭化物粒子が分散した複合材粒子を主な構成粒子とし、場合によっては、他の金属粒子、セラミクス材等を混合させたもの、或いは、Ni、Co又はCrの一種以上の金属又は/及びその合金とセラミクス材からなるサーメット皮膜を用いることができる。溶射皮膜3の硬度はHv500〜1000で、空孔率5%以下、溶射膜厚さは0.05〜0.4mmである。
1)ピストンリング前処理
外周面2に略逆台形状の溝が全周にわたって掘られているピストンリング数十本外周面をそろえて筒状に束ね、両端を中央に通したシャフトで固定する。中央に通したシャフトはブラストや溶射時にピストンリングを回転させる際の中心軸となる。このとき、ピストンリングの合い口は閉じられている。次に、ブラスト装置により外周面にブラストを掛け、表面を10点平均粗さ15〜20μm程度に粗にした後溶射を行う。尚、被溶射材が軟質材の場合にはブラスト工程を省略することもできる。
まず、溶射に先立って予熱を行う。前記ブラスト掛けの終わったピストンリング集合体を溶射装置にセットし、ピストンリング集合体は外周周速が約100m/sとなるように回転させる。その後、表面から約250mm離れた位置を、ピストンリング集合体の軸心に沿って、一方の端から他端に向かって溶射ガンを約8mm/sの移動速度で動かす。このとき溶射フレームを発生させておき、フレームの熱によりピストンリング外周表面を加熱する。溶射ガンは他端で反転し以後この動作を繰り返す。溶射ガンの往復回数は前もってピストンリングの表面温度を測定することにより決定される。ブラスト同様にこの予熱も境界密着性等に問題がなければ省略することができる。
予熱後直ちに溶射を行なう。溶射は燃焼ガスとしてプロピレンガス、燃焼助燃ガスとして酸素を用いるHVOF式の高速フレーム溶射を行うことができる。燃焼ガスとして水素、プロパン又はケロシン等を用い、燃焼助燃ガスとして空気を用いるHVAF法を用いることもできる。
粉末供給量が可変である溶射ガンが所定の回数往復され、ピストンリング表面温度が約100℃程度になったところで、溶射装置付帯の粉末供給装置で粉末供給を開始し溶射皮膜のコーティングを開始する。本溶射方法では粉末供給開始時の粉末供給量を少なく設定しておき、コーティングの途中から粉末供給量を連続的に或いは段階的に増やすことにより、溶射皮膜膜質を母材境界部近傍と外周摺動部に溶射条件の違いを持たせる。粉末供給量の範囲は現在の溶射ガンでは3〜80g/分の範囲が一般的である。この範囲よりも粉末供給量が少ないと安定した粉末供給が困難であり、一方粉末供給量が多いとフレームが広がり材料歩留まりが低くなる。好ましい粉末供給量は45〜50g/分である。この粉末供給量範囲内において、母材境界近傍部は母材との境界密着性や層間密着性が向上する溶射条件でコーティングを行い、途中からは、摺動の摩擦力による剪断力に耐えられるように、粒子間結合力が向上する溶射条件とする。
粉末供給量を増加させるタイミングは母材との境界部に均一に溶射層が形成された時期が最良である。密着性評価で確認できれば良いが、そのような正確な判断ができない場合には、初期の粉末供給量で所定時間或いは回数の溶射コーティングを行った後表面の溶射膜の付着の状況を走査電子顕微鏡等にて確認することができる。
実施例1
球状黒鉛鋳鉄からなり外径φ140mm、厚さ4mm、幅5.5mmで、外周摺動面には溝底幅2mm、開口部幅3mm、深さ0.3mmの溝が掘られている内燃機関用1stピストンリング約60本を両側面からクランプして、長さ240mmの筒状にした。
これを、ブラスト装置にセットしピストンリング外周面をブラスト処理し、表面を10点平均粗さ25μmRzにした。ブラスト条件は下記の通りである。
空気圧 :0.5MPa
ブラスト材:カーボランダム#30
回数 :2往復
酸素圧力 :0.98MPa
プロピレン圧力:0.63MPa
使用粉末 :スルザーメテコ社 SM5241
この実施例では溶射装置は1台使用し、1〜4往復した時点で粉末供給装置の供給量を設定値を変化させ粉末供給量を増加させたが、溶射装置を2台使用して、予め粉末供給量をセットしておき、前段を1機の溶射ガンで行ない、その後直ちに別の1機の溶射ガンで後段の溶射を行なっても良い。
初期の粉末供給量、往復回数を変化させたもの
(1)初期の粉末供給量、往復回数を一定とし、途中から増やした量が異なるもの
(2)従来方法の初期から最後まで粉末供給量を変えないもの
の3種類のピストンリングを作成した。溶射条件一覧を表2に記載する。尚、粉末供給量を変化させない従来のものを比較例として記載する。
1)境界密着性
ピストンリング(1)の合い口部を左右方向に広く治具10の一方10b(固定側)には各種センサ7を取りつけ、可動側10aの一端にはトルクセンサ8を取りつけ、ピストンリングをねじり角度(θ)でねじることにより、溶射皮膜と母材境界面に剥離応力を発生させるツイスト試験により測定した。
2)粒子間結合力
ピストンリング合い口部90°の方向からピストンリングに荷重を加え、合い口部反対側の皮膜内クラック発生をAEセンサー18で把握し、クラック発生したときの荷重をもって粒子間結合力とした。その結果を表3に示す。
1. 初期から粉末供給量40g/分と多い比較例6と初期の粉末供給量を5〜20g/分と少なくした実施例1〜6及び比較例7のツイスト試験剥離角度を比較すると、実施例1〜6及び比較例7のツイスト皮膜剥離角度は大きく、皮膜の境界密着性が優れていることが解る。すなわち、初期の粉末供給量を少なく設定することにより、溶射粒子の速度が上がり溶射皮膜の密着性が向上したと判断できる。
2. 初期の粉末供給量を10g/分と少なくし最後まで変化させない比較例7と初期の粉末供給量を同じ10g/分とし、途中から増やし後期の粉末供給量を40〜75g/分と多くした実施例1〜5とを比較すると、後期に粉末供給量を多くした実施例1〜5のクラック発生荷重が高くなっている。これは、粉末の供給量が多くなったことにより、個々の溶射粒子の速度が下がり、燃焼フレーム内に滞留するする時間が長くなり、充分に昇温し、溶融が促進されたか或いは粒子強度が下がったために、溶射の衝突エネルギーにより粒子変形が進み又は粒界での結合が進んだために溶射粒子間結合力が向上した結果、クラック発生荷重が上がったと言える。
3. 尚、実施例1と2の結果からは、初期の粉末供給量を少なくした場合は、往復回数が少ないと密着性の向上は少ないこともわかる。又、実施例4のように、後期の粉末供給量を大きくしすぎると、気孔率が大きくなり硬さも下がるため、耐摩耗性が劣る可能性がある。
溶射材を75W%Cr3C2−25W%Ni-Crでなるスルザーメテコ社Diamalloy3004に代えて、実施例1と同様な実験を行った。粉末供給条件と形成された皮膜の結果を表4に記載する。
1. 初期から粉末供給量40g/分と多い比較例6と初期の粉末供給量を5〜20g/分と少なくした実施例1〜6及び比較例7のツイスト試験剥離角度を比較すると、実施例1〜6及び比較例7のツイスト皮膜剥離角度は大きく、皮膜の境界密着性が優れていることが解る。すなわち、初期の粉末供給量を少なく設定することにより、溶射粒子の速度が上がり溶射皮膜の密着性が向上したと判断できる。
2. 初期の粉末供給量を10g/分と少なくし最後まで変化させない比較例7と初期の粉末供給量を同じ10g/分とし、途中から増やし後期の粉末供給量を40〜75g/分と多くした実施例1〜5とを比較すると、クラック発生荷重には粉末供給量の影響は少ない。これは、実施例1に用いた溶射材が複合材であるのに対し、実施例2の溶射材が金属粒子とセラミクス粒子のブレンド粉末であるため、粉末供給量を増やし粒子速度を下げて金属粒子の昇温を高くしても、元々金属粒子は耐熱強度が低いので、フレーム内の昇温だけで被溶射面では粒子変形が充分に行われ、粒子間結合力が高くなるので、粉末供給量を落とし粒子の温度を上げて、粒子間結合力を強くするという本発明の効果がはっきりしなかったと思われる。
3. 粉末供給量は成膜速度に大きく影響する。即ち、粉末供給量が多いほど高速に成膜出来る。
2 外周面
3 溶射皮膜
Claims (4)
- 摺動部材の少なくとも一摺動面に対向して、高速フレーム溶射ガンノズルを相対的にかつ反復移動させることにより、耐摩耗性材料を多層に成膜して溶射皮膜を形成する方法であって、前記耐摩耗性材料粉末の供給量を連続的もしくは段階的に増加させながら溶射を行うことを特徴とする耐摩耗性溶射皮膜の形成方法。
- Ni又はCo合金基地中に炭化物粒子が分散した複合材粒子を主な構成粒子とする粉末を溶射することを特徴とする請求項1記載の耐摩耗性溶射皮膜の形成方法。
- Ni、Co又はCrの一種以上の金属又は/及びその合金とセラミクス粒子からなるサーメットを溶射することを特徴とする請求項1記載の耐摩耗性溶射皮膜の形成方法。
- 高速フレーム溶射ガンへ供給する溶射粉末供給量を溶射経過時間信号に基づき、溶射皮膜形成中に自動的に増加させる機構を有することを特徴とする溶射粉末供給装置。
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