JP2006516259A - Wntシグナル伝達の抑制によって癌を治療するための方法 - Google Patents

Wntシグナル伝達の抑制によって癌を治療するための方法 Download PDF

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Abstract

本発明は、Wntタンパク質を過剰発現する癌細胞の増殖を抑制する方法に関する。本方法は、細胞を、Wntタンパク質とFrizzled受容体との結合を抑制する作用物質と接触させることを含む。

Description

関連出願の相互参照
本出願は、2003年7月31日に提出された米国仮特許出願第60/491,350号の利益を請求するとともに、2002年10月4日に提出された米国仮特許出願__号(非仮出願第10/264,825号より変換)の利益を請求する。それぞれの出願は参照として本明細書に組み入れられる。
発明の分野
本発明は、Wntタンパク質を過剰発現する癌細胞の増殖を抑制する方法に関する。本方法は、細胞を、Wntタンパク質とFrizzled受容体との結合を抑制する作用物質(agent)と接触させることを含む。
発明の背景
Wingless型(Wnt)Frizzledタンパク質受容体経路は、原発癌と関連性のある多型を有する重要な調節遺伝子を含んでいる。下流シグナル伝達の過程ではサイトゾル性β-カテニンが蓄積し、核に移行した後に、他の転写因子と複合体を形成することによって遺伝子発現を増強する。Uthoff et al., Mol Carcinog, 31: 56-62 (2001) 。Wntシグナルの非存在下では、遊離したサイトゾル性β-カテニンが、Axin、大腸腺腫性ポリポーシス(APC)遺伝子産物およびグリコーゲンシンターゼキナーゼ(GSK)-3βからなる複合体に組み入れられる。GSK-3βによってAxin、APCおよびβ-カテニンがともにリン酸化されることにより、β-カテニンがユビキチン経路、およびプロテアソームによる分解の対象となる。Uthoff et al., Mol Carcinog, 31: 56-62 (2001);Matsuzawa et al., Mol Cell, 7: 915-926 (2001) 。
Disheveled(Dvl)は、frizzled受容体の下流かつβ-カテニンの上流に位置する、Wntシグナル伝達の正のメディエーターである。GSK-3はWnt経路のいくつかのタンパク質をリン酸化し、その下流でのβ-カテニンの調節に働く。遺伝子APCにおける変異は、散発性および遺伝性のいずれの大腸腫瘍発生に対しても開始イベントである。APC変異体は、その異常タンパク質がWnt-シグナル伝達カスケードの不可欠な部分であることから腫瘍発生に関係している。そのタンパク質産物は、βカテニンに対する結合部位および分解部位として作用するいくつかの機能ドメインを含む。βカテニンのアミノ末端セグメントに生じた変異は、リン酸化依存的であってユビキチンにより媒介される分解に通常関係しており、このためβカテニンを安定化する。安定化された細胞質カテニンが蓄積すると、それは核に移行し、c-mycなどの癌遺伝子の発現を調節するTcf/Lef高移動度群の転写因子と相互作用する。
Wnt/β-カテニンシグナル伝達はさまざまな種類の細胞において細胞生存性を高めることが知られている。Orford et al., J Cell Biol, 146: 855-868 (1999);Cox et al., Genetics, 155: 1725-1740 (2000);Reya et al., Immunity, 13: 15-24 (2000);Satoh et al., Nat Genet, 24: 245-250 (2000);Shin et al., Journal of Biological Chemistry, 274: 2780-2785 (1999);Chen et al., J Cell Biol, 152: 87-96 (2001);Ioannidis et al., Nat Immunol. 2: 691-697 (2001) 。Wntシグナル伝達経路は腫瘍の発生および/または進行とも関連があると考えられている(Polakis et al., Genes Dev, 14: 1837-1851 (2000);Cox et al., Genetics, 155: 1725-1740 (2000);Bienz et al., Cell, 103: 311-320 (2000);You et al., J Cell Biol, 157: 429-440 (2002))。Wntシグナル伝達経路の異常活性化はさまざまなヒト癌に伴ってみられ、c-Mycの過剰発現または増幅と相関性がある(Polakis et al., Genes Dev, 14: 1837-1851 (2000);Bienz et al., Cell, 103: 311-320 (2000);Brown et al., Breast Cancer Res, 3: 351-355 (2001);He et al., Science, 281: 1509-1512 (1998);Miller et al., Oncogene, 18: 7860-7872 (1999) 。さらに、c-Mycは大腸癌細胞におけるβ-カテニン/Tcfの転写標的の1つとして同定されている(He et al., Science, 281: 1509-1512 (1998);de La Coste et al., Proc Natl Acad Sci USA, 95: 8847-8851 (1998);Miller et al., Oncogene, 18: 7860-7872 (1999);You et al., J Cell Biol, 157: 429-440 (2002))。
Wntリガンドのほかにも、分泌性Frizzled関連タンパク質(sFRP)のファミリーが単離されている。sFRPは、分泌性Wntリガンドとの結合に関して膜貫通性Frizzled受容体と競合することにより、Wntシグナル伝達の可溶性内因性モジュレーターとして機能するように思われる(Melkonyan et al., Proc Natl. Acad Sci USA, 94: 13636-13641 (1997))。sFRPは、Wntの機能を、このタンパク質と結合してそれが細胞表面シグナル伝達受容体と接近するのを阻止することによって拮抗することができ、またはFrizzled受容体に対するリガンドの提示を促すことによってWnt活性を増強することもできる。Uthoff et al., Mol Carcinog, 31: 56-62 (2001) 。Dickkopf(Dkk)と呼ばれるもう1つのタンパク質も、Wntシグナル伝達を妨害してサイトゾル性β-カテニンの蓄積を減少させることが判明している(Fedi et al., J Biol Chem, 274: 19465-19472 (1999);Moon et al., Cell, 88: 725-728 (1997))。Dkk-1は、Frizzled受容体に隣接したLDL-受容体関連タンパク質6(LRP6)と結合することにより、Wntで誘導されるシグナルと拮抗する(Nusse et al., Nature, 411: 255-256 (2001))。最近、H. Suzukiらは、sFRPが大腸癌細胞株において高い頻度で高メチル化しており、この高メチル化に伴って基礎的なsFRP発現が消失していることを見いだした(Suzuki et al., Nat Genet, 31: 141-149 (2002))。Dkk-1の過剰発現によって脳腫瘍細胞のアポトーシスに対する感受性が高まることも判明している(Shou et al., Oncogene, 21: 878-889 (2002))。
Wntシグナル伝達の解明は最近進んだものの、発癌におけるこの経路の役割は明確でない。すなわち、先行技術は、この経路をモジュレートする化合物が癌の治療に有用な可能性があるという明確な証拠を示せていない。本発明はこれらおよびその他の需要を取り扱う。
発明の概要
本発明は、Wntタンパク質を過剰発現する癌細胞の増殖を抑制する方法を提供する。本方法は、細胞を、Wntタンパク質とFrizzled受容体との結合を抑制する作用物質と接触させることを含む。
いくつかの態様において、作用物質は抗体である。例えば、抗体はWntタンパク質、Wnt-1またはWnt-2と特異的に結合することができる。また別の態様において、抗体は、Frizzled受容体、例えばFrizzled1、Frizzled2、Frizzled3、Frizzled4、Frizzled5、Frizzled6、Frizzled7、Frizzled8、Frizzled9およびFrizzled10受容体と特異的に結合する。
本発明の抗体はモノクローナル抗体であってよく、さまざまなやり方で調製および改変を行いうる。例えば、抗体を組換えによって作製してもよい。いくつかの態様において、抗体はヒト化抗体または一本鎖Fv断片(scFv)である。
本発明はまた、癌を治療する治療方法も提供する。これらの態様において、癌細胞は罹患生物の体内にあり、接触の段階は作用物質を罹患生物に投与することによって行われる。本方法はさらに、化学療法薬または放射線療法などの第2の治療因子(therapeutic agent)を罹患生物に投与することを含んでもよい。癌細胞は、乳癌細胞、大腸癌細胞、肺癌細胞、肉腫細胞または中皮腫細胞、前立腺癌細胞、膵癌細胞、子宮頸癌細胞、卵巣癌細胞、胃癌細胞、食道癌細胞、頭頸部癌細胞、肝細胞癌細胞、黒色腫細胞、神経膠腫細胞または神経膠芽腫細胞であってよい。
本発明はまた、薬学的に許容される添加剤、およびWntタンパク質またはFrizzledタンパク質、例えばWnt1タンパク質と特異的に結合するモノクローナル抗体を含む、薬学的組成物も提供する。抗体をさらに、標識、放射性同位体または細胞毒性化学物質などのエフェクター成分と結合させることもできる。
もう1つの面において、本発明は、癌細胞の増殖を抑制する作用物質に関するスクリーニングの方法であって、作用物質をDvlタンパク質または核酸と接触させること、Dvlタンパク質の活性または発現を決定すること、およびDvlタンパク質の活性または発現を抑制する化合物を同定し、それによって癌細胞の増殖を抑制する作用物質を同定することを含む方法を提供する。本方法はさらに、同定した化合物を癌細胞と接触させること、および癌細胞の増殖を抑制する化合物を選択することを含みうる。いくつかの態様において、癌細胞は肺癌細胞または中皮腫細胞である。
本発明はまた、Dvlタンパク質を過剰発現する癌細胞の増殖を抑制する方法であって、細胞を、Dvlの発現または活性を抑制する作用物質と接触させることを含む方法も提供する。いくつかの態様において、癌細胞は肺癌細胞または中皮腫細胞である。作用物質は例えば、低分子またはsiRNAでありうる。
定義
「Wntタンパク質」または「Wntリガンド」という用語は、ショウジョウバエの体節極性遺伝子であるwinglessと関連性のある哺乳動物タンパク質のファミリーのことを指す。ヒトの場合、Wntファミリーの遺伝子は通常、疎水性シグナル配列および保存的なアスパラギン結合型オリゴ糖コンセンサス配列を有する、38〜43kDaのシステインリッチ糖タンパク質をコードする(例えば、Shimizu et al Cell Growth Differ 8: 1349-1358 (1997)を参照されたい)。Wntファミリーには少なくとも16種の哺乳動物性メンバーが含まれる。Wntタンパク質の例には、Wnt-1、Wnt-2、Wnt-3、Wnt-3A、Wnt-4、Wnt-5A、Wnt-6、Wnt-7A、Wnt-7B、Wnt-8A、Wnt-8B、Wnt-10B、Wnt-11、Wnt-13、Wnt 14、Wnt 15およびWnt 16が含まれる。本発明のいくつかの例示的なWntタンパク質の配列は配列表に示されている。さらに、特定のWntタンパク質の過剰発現はある種の癌との関連性があることも示されている。例えば、WNT-2は胃癌および大腸癌において過剰発現される(Katoh et al., Int J Oncol, 19: 1003-1007 (2001));Wnt-1は頭頸部癌において過剰発現され、WNT-5AおよびWnt-8Bは胃癌において過剰発現される(Saitoh et al., Int J Mol Med, 9: 515-519 (2002);Saitoh et al., Int J Oncol, 20: 343-348 (2002))。
「frizzledタンパク質」または「frizzled受容体」という用語は、組織極性の発生に役割を果たすショウジョウバエfrizzled遺伝子と関連性のある哺乳動物タンパク質のファミリーのことを指す。Frizzledファミリーには少なくとも10種の哺乳動物遺伝子が含まれる。ヒトFrizzled受容体の例には、Frizzled1、Frizzled2、Frizzled3、Frizzled4、Frizzled5、Frizzled6、Frizzled7、Frizzled8、Frizzled9およびFrizzled10が含まれる。例示的なFrizzled受容体の配列は配列表に示されている。ショウジョウバエfrizzledタンパク質の哺乳動物での相同体は共通の構造モチーフを数多く有する。細胞外膜表面に位置するN末端に続いて、シグナル配列、10システイン残基の不変のパターンを有する120アミノ酸のドメイン、および40〜100個の主として可変性の親水性アミノ酸による多様性の大きい領域が存在する。疎水性と推定されるセグメントが7回膜貫通性ヘリックスを形成し、親水性ループが続いて、膜の細胞内面に位置するC末端で終わる。システインリッチドメイン(CRD)および膜貫通セグメントは高度に保存されており、このことは細胞外CRDが可変リンカー領域によって7回膜貫通性ヘリックス束に係留されるという作業モデルを示唆する。このため、Frizzledタンパク質受容体は、アミノ末端にリガンド結合ドメインを有するGタンパク質共役受容体と似たように、膜貫通性シグナル伝達の動的モデルに含まれる。肺癌および大腸癌におけるFrizzled1、Frizzled2およびFrizzled7、Sagara et al., Commun, 252: 117-122 (1998);肺癌、子宮頸癌および大腸癌を含むヒト癌細胞におけるFrizzled3(Kirikoshi et al., Biochem Biophys Res Commun, 271: 8-14 (2000));胃癌におけるFrizzled7(Kirikoshi et al., Int J Oncol, 19: 111-115 (2001));胃癌および大腸癌におけるFrizzled10(Kirikoshi et al., Int J Oncol, 19: 767-771 (2001);Terasaki et al., Int J Mol Med, 9: 107-112 (2002))。
Wntリガンドのほかにも、分泌性Frizzled関連タンパク質(sFRP)のファミリーが単離されている。sFRPは、分泌性Wntリガンドとの結合に関して膜貫通性Frizzled受容体と競合することにより、Wntシグナル伝達の可溶性内因性モジュレーターとして機能するように思われる。その結果、sFRPはアポトーシス感受性をモジュレートし、プログラム細胞死に対して拮抗作用を及ぼす。sFRPは、Wntの機能を、このタンパク質と結合してそれが細胞表面シグナル伝達受容体と接近するのを阻止することによって拮抗することができ、またはFrizzled受容体に対するリガンドの提示を促すことによってWnt活性を増強することもできる。現時点では、sFRPは癌の原因としては関連づけられていない。
「Dishevelled」または「Dvl」は、Dishevelledタンパク質のファミリーのメンバーのことを指し、その完全長配列は通常、3つの保存的なドメイン、すなわち、Wnt拮抗性タンパク質Axinに存在するDIXドメイン;タンパク質-タンパク質相互作用に関与するPDZドメイン、およびおよびRho GTPアーゼを調節するタンパク質に認められるDEPドメインを有する。Dvlタンパク質には、例えば、Dvl-1、Dvl-2およびDvl-3が含まれる。Dvlの核酸配列およびタンパク質配列は、マウスおよびヒトを含む、さまざまな種から判明している。例示的なヒトDvl-1、Dvl-2およびDvl-3タンパク質配列は、それぞれ参照配列NP_004412、NP_004413およびNM_004414として用意されている。
Wntシグナル伝達の「抑制物質(inhibitor)」とは、例えば、Wntタンパク質もしくはFrizzledタンパク質と結合する、またはWntシグナル伝達に関する既知のアッセイにおける測定(例えば、β-カテニンレベル、またはTcfおよびLef転写因子により制御される癌遺伝子発現の測定)でWntシグナル伝達を部分的もしくは完全に阻止する化合物のことを指す。抑制物質には、改変型のWntタンパク質またはFrizzledタンパク質のほか、天然および合成性のリガンド、アンタゴニスト、アゴニスト、抗体、低分子量化学物質などが含まれる。本発明の抑制物質を検出するためのアッセイについては以下でより詳細に述べる。
「Wntタンパク質を過剰発現する癌細胞」とは、特定のWntタンパク質の発現が、同じ組織からの正常細胞における発現レベルの少なくとも約2倍、通常は少なくとも約5倍である癌細胞のことである。特定の遺伝子の発現レベルを決定するための方法は当技術分野で周知である。このような方法には、RT-PCR、遺伝子産物に対する抗体の使用などが含まれる。
本明細書で用いる場合、「抗体」は特定の抗原と免疫学的に反応する免疫グロブリン分子に対する言及を含み、これにはポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体がともに含まれる。この用語には、キメラ抗体(例えば、ヒト化マウス抗体)およびヘテロ結合型(heteroconjugate)抗体(例えば、二重特異性抗体)といった遺伝子組換え形態も含まれる。また、「抗体」という用語には、抗原結合能力を有する断片(例えば、Fab'、F(ab')、Fab、FvおよびrIgG)を含む、抗体の抗原結合形態も含まれる。「Pierceカタログおよびハンドブック(Pierce Catalog and Handbook)」、1994-1995(Pierce Chemical Co., Rockford, IL)も参照されたい。同じく、例えば、Kuby, J., 「免疫学(Immunology)」、3rd Ed., W.H. Freeman & Co., New York (1998)も参照されたい。この用語は組換え一本鎖Fv断片(scFv)のことも指す。抗体という用語には、二価分子または二特異性分子、二重特異性抗体(diabody)、三重特異性抗体(triabody)および四重特異性抗体(tetrabody)も含まれる。二価分子および二重特異性分子に関しては、例えば、Kostelny et al. (1992) J Immunol 148: 1547、Pack and Pluckthun (1992) Biochemistry 31: 1579、Hollinger et al., 1993, 前記、Gruber et al. (1994) J Immunol:5368、Zhu et al. (1997) Protein Sci 6: 781、Hu et al. (1996) Cancer Res. 56: 3055、Adams et al. (1993) Cancer Res. 53: 4026、およびMcCartney et al. (1995) Protein Eng. 8: 301に記載されている。
特定の抗原と免疫学的に反応する抗体は、ファージもしくは類似のベクターにおける組換え抗体ライブラリーの選択などの組換え方法によって(例えば、Huse et al., Science 246: 1275-1281 (1989);Ward et al., Nature 341: 544-546 (1989);およびVaughan et al., Nature Biotech. 14: 309-314 (1996) を参照されたい)、または動物に対して抗原もしくは抗原をコードするDNAによる免疫処置を行うことによって、作製することができる。
一般に、免疫グロブリンには重鎖および軽鎖がある。重鎖および軽鎖のそれぞれは定常領域および可変領域を含む(これらの領域は「ドメイン」としても知られる)。軽鎖および重鎖の可変領域は4つの「フレームワーク」領域を含み、それらは3つの超可変領域(これは「相補性決定領域」または「CDR」とも呼ばれる)により分断されている。フレームワーク領域およびCDRの範囲は明確に定められている。異なる軽鎖または重鎖のフレームワーク領域の配列は、単一の種の内部では比較的保存されている。抗体のフレームワーク領域、すなわち構成要素である軽鎖および重鎖が組み合わされたフレームワーク領域は、CDRを三次元空間に配置および整列させる働きをする。
CDRは抗原のエピトープとの結合の主な原因となる。各鎖のCDRは通常、N末端から順に番号を付してCDR1、CDR2およびCDR3と呼ばれ、これらはまた一般に、その個々のCDRが位置している鎖によっても識別される。すなわち、V CDR3は、それが存在する抗体の重鎖の可変ドメインに位置し、一方、V CDR1は、それが存在する抗体の軽鎖の可変ドメインからのCDR1のことである。
「V」または「VH」に対する言及は、Fv、scFvまたはFabの重鎖を含む、抗体の免疫グロブリン重鎖の可変領域のことを指す。「V」または「VL」に対する言及は、Fv、scFv、dsFvまたはFabの軽鎖を含む、免疫グロブリン軽鎖の可変領域のことを指す。
「一本鎖Fv」または「scFv」という語句は、通常の二本鎖抗体の重鎖の可変ドメインおよび軽鎖の可変ドメインが連結されて一本鎖を形成した抗体のことを指す。通常は、適切なフォールディングおよび活性結合部位の生成が可能となるように、2つの鎖の間にリンカーペプチドが挿入される。
「キメラ抗体」とは、(a)抗原結合部位(可変領域)が、クラス、エフェクター機能および/もしくは種が異なるもしくは改変された定常領域と、またはキメラ抗体に新たな性質を付与する全く異なる分子(例えば、酵素、毒素、ホルモン、増殖因子、薬物その他)と結合するように、定常領域またはその一部分が改変、置換もしくは交換されている;または(b)可変領域またはその一部分が、異なるもしくは改変された抗原特異性を有する可変領域により改変、置換もしくは交換されている、免疫グロブリン分子のことである。
「ヒト化抗体」とは、非ヒト免疫グロブリンに由来する最小限の配列を含む免疫グロブリン分子のことである。ヒト化抗体には、レシピエントの相補性決定領域(CDR)由来の残基が、所望の特異性、親和性および能力を有するマウス、ラットまたはウサギなどの非ヒト種(donor抗体)のCDR由来の残基によって置き換えられたヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)が含まれる。場合によっては、ヒト免疫グロブリンのFvフレームワーク残基が対応する非ヒト残基によって置き換えられる。ヒト化抗体が、レシピエント抗体にも導入されるCDRまたはフレームワーク配列にも存在しない残基を含んでもよい。一般にヒト化抗体は、少なくとも1つ、通常は2つの可変ドメインの実質的にすべてを含むと考えられ、その中のCDR領域のすべてまたは実質的にすべては非ヒト免疫グロブリンのものに対応し、フレームワーク(FR)領域のすべてまたは実質的にすべてはヒト免疫グロブリンコンセンサス配列のものである。ヒト化抗体はまた、選択的には、免疫グロブリン定常領域(Fc)の少なくとも一部分、一般的にはヒト免疫グロブリンのそれを含むと考えられる(Jones et al., Nature 321: 522-525 (1986);Riechmann et al., Nature 332: 323-329 (1988);およびPresta, Curr. Op. Struct. Biol. 2: 593-596 (1992))。ヒト化は本質的には、Winterらの方法に従って(Jones et al., Nature 321: 522-525 (1986);Riechmann et al., Nature 332: 323-327 (1988);Verhoeyen et al., Science 239: 1534-1536 (1988))、齧歯類のCDRまたはCDR配列をヒト抗体の対応する配列の代わりに用いることにより、行うことができる。したがって、このようなヒト化抗体は、完全なヒト可変ドメインには大きく及ばないものが非ヒト種由来の対応する配列によって置換されたキメラ抗体(米国特許第4,816,567号)である。
「エピトープ」または「抗原決定基」とは、抗体が結合する抗原の部位のことを指す。エピトープは、連続したアミノ酸、またはタンパク質の三次フォールディングによって並置された非連続的なアミノ酸のいずれによっても形成されうる。連続したアミノ酸配列によって形成されたエピトープは一般に変性溶媒に曝露させても保たれるが、三次フォールディングによって形成されたエピトープは一般に変性溶媒で処理すると失われる。エピトープは通常、特有の空間コンフォメーションにある少なくとも3個、より一般的には少なくとも5個または8〜10個のアミノ酸を含む。エピトープの空間コンフォメーションを決定する方法には、例えば、X線結晶学の方法および二次元核磁気共鳴法が含まれる。例えば、「エピトープマッピングプロトコール(Epitope Mapping Protocols)」、Methods in Molecular Biology、Vol. 66、Glenn E. Moths, Ed (1996)を参照されたい。
本明細書で用いる「生物試料」とは、核酸またはポリペプチド(例えば、Wntタンパク質、ポリヌクレオチドまたは転写物)を含む、生物性の組織または液体の試料のことである。このような試料には、霊長動物(例えば、ヒト)または齧歯動物(例えば、マウスおよびラット)から単離された組織が非制限的に含まれる。生物試料にはまた、生検試料および剖検試料、組織学的な目的のために採取した凍結切片、血液、血漿、血清、喀痰、便、涙液、粘液、毛、皮膚などの組織切片も含まれうる。生物試料にはまた、罹患生物組織に由来する外植片ならびに初代および/または形質転換された細胞培養物も含まれる。生物試料は一般に、真核生物から、最も好ましくは霊長動物(例えば、チンパンジーまたはヒトなど);ウシ;イヌ;ネコ;齧歯動物(例えば、モルモット、ラット、マウス);ウサギなどの哺乳動物;または鳥類;爬虫類;もしくは魚類から得られる。
「生物試料を提供すること」とは、本発明に記載した方法に用いるために生物試料を入手することを意味する。最も多くの場合、これは動物から細胞の試料を取り出すことによって行われると考えられるが、以前に単離された(例えば、別の人により、別の時点で、および/または別の目的で単離された)細胞を用いることによって、または本発明の方法をインビボで行うことによって遂行することもできる。処置または成績の履歴のある保管された組織が特に有用であると考えられる。
2つまたはそれ以上の核酸配列またはポリペプチド配列の文脈において、「同一な」または「一致」率という用語は、BLASTもしくはBLAST 2.0配列比較アルゴリズムを以下のデフォールトのパラメーターで用いるかもしくは手作業によるアラインメントおよび目視により評価して(例えば、NCBIのウェブサイト、http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/などを参照されたい)、同じである、または同じアミノ酸残基もしくはヌクレオチドが指定された比率である(すなわち、比較域(comparison window)または指定領域にわたって、最大の対応関係が得られるように比較およびアラインメントを行った場合に、特定された領域にわたる同一性が約60%、好ましくは70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上である)、2つまたはそれ以上の配列または部分配列のことを指す。このような配列はその場合、「実質的に同一である」と言う。この定義は被験配列の相補物のことも指す。この定義は、欠失および/または付加を有する配列、さらには置換を有するもの、さらには天然の(例えば、多型性または対立遺伝子性の)バリアント、ならびに人為的バリアントも含む。下記のように、好ましいアルゴリズムはギャップなどを考慮に入れている。好ましくは、同一性は、少なくとも約25アミノ酸長もしくはヌクレオチド長の領域にわたって存在し、またはより好ましくは少なくとも約50〜100アミノ酸長もしくはヌクレオチド長の領域にわたって存在する。
配列比較のためには、1つの配列を、被験配列と比較するための参照配列として用いることが一般的である。配列比較アルゴリズムを用いる場合には、被験配列および参照配列をコンピュータに入力し、必要に応じて部分配列の座標を指定して、配列アルゴリズムプログラムのパラメーターを指定する。好ましくは、デフォールトのプログラムパラメーターを用いることができ、別のパラメーターを指定することもできる。続いて、配列比較アルゴリズムが、プログラムのパラメーターに基づいて、参照配列に対する被験配列の配列一致率を算出する。
本明細書で用いる「比較域(comparison window)」は、2つの配列の最適なアラインメントを行った後に、ある配列を同じ数の連続した位置を持つ参照配列と比較しうるような、20〜600個、通常は約50〜約200個、より一般的には約100〜約150個からなる群から選択される数の連続した位置のいずれか1つの区域に対する言及を含む。比較のための配列のアラインメントの方法は当技術分野で周知である。比較のための配列の最適なアラインメントは、例えば、Smith & Waterman, Adv. Appl. Math. 2: 482 (1981)の局所相同性アルゴリズムにより、Needleman & Wunsch, J. Mol. Biol. 48: 443 (1970)の相同性アラインメントアルゴリズムにより、search for similarity方法of Pearson & Lipman, Proc. Nat'l. Acad. Sci. USA 85: 2444 (1988)の類似性検索法により、これらのアルゴリズムのコンピュータ・インプリメンテーション(Wisconsin Genetics Software Package, Genetics Computer Group, 575 Science Dr., Madison, WIのGAP、BESTFIT、FASTAおよびTFASTA)により、または手作業によるアラインメントおよび目視検査によって行うことができる(例えば、「分子生物学における最新プロトコール(Current Protocols in Molecular Biology)」(Ausubel et al., eds. 1995 supplement)を参照されたい)。
配列一致率および配列類似性の決定のために適したアルゴリズムの好ましい例にはBLASTおよびBLAST 2.0アルゴリズムが含まれ、これはAltschulら、Nuc. Acids Res. 25: 3389-3402 (1977)およびAltschulら、J. Mol. Biol. 215: 403-410 (1990)に記載されている。BLASTおよびBLAST 2.0は、本明細書に記載したパラメーターにより、本発明の核酸およびタンパク質に関する配列一致率を決定するために用いられる。BLAST解析を行うためのソフトウエアは、National Center for Biotechnology Information(http://www.ncbi.n1m.nih.gov/)に公開されている。このアルゴリズムでは、データベース配列中の同じ長さのワードとアラインメントを行った場合に何らかの正値の閾値スコアTと一致する、またはそれを満たす、長さWの短いワードを検索配列中に同定することにより、高スコア配列ペア(HSP)をまず同定する。Tは近隣ワードスコア閾値と呼ばれる(Altschulら、前記)。これらの初期の近隣ワードでのヒットは、それらを含む長いHSPを見いだすための検索を開始する源となる。ワードの検索は、累積アラインメントスコアが増加する限り、各配列の両方向に対して延長される。累積スコアは、ヌクレオチド配列の場合にはパラメーターM(一致する残基対に関する報酬スコア;常に>0)およびN(ミスマッチ残基に関するペナルティスコア;常に<0)を用いて算出する。アミノ酸配列の場合には、累積スコアの算出にスコア行列を用いる。各方向へのワード検索の延長は以下の場合に停止する:累積アラインメントスコアが最大達成値に比べて量X以上低くなった場合:1つもしくは複数の負スコアの残基アラインメントの蓄積のために累積スコアがゼロまたはそれ未満になった場合;または配列のいずれかの端に達した場合。BLASTアルゴリズムのパラメーターであるW、TおよびXはアラインメントの感度および速度を決定する。BLASTNプログラムは(ヌクレオチド配列の場合)、デフォルトとしてワード長(W)11、期待値(E)10、M=5、N=-4および両ストランドの比較を用いる。アミノ酸配列の場合、BLASTPプログラムはデフォルトとしてワード長3および期待値(E)10、ならびにBLOSUM62スコア行列(Henikoff and Henikoff, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89: 10915 (1989)を参照)のアラインメント(B)50、期待値(E)10、M=5、N=-4および両ストランドの比較を用いる。
BLASTアルゴリズムは、2つの配列の間の類似性に関する統計分析も行う(例えば、Karlin and Altschul、Proc. Nat'l. Acad. Sci. USA 90: 5873-5787 (1993)を参照)。BLASTアルゴリズムによって得られる類似性の指標の1つは最小合計確率(smallest sum probability)(P(N))であり、これは2つのヌクレオチド配列またはアミノ酸配列の間の一致が偶然に起こる確率の指標となる。例えば、ある核酸は、被験核酸と参照核酸との比較による最小合計確率が約0.2未満、より好ましくは約0.01未満、最も好ましくは約0.001未満の場合に、参照配列と類似しているとみなされる。ログ値が大きな負の数、例えば、5、10、20、30、40、40、70、90、110、150、170などであってもよい。
2つの核酸配列またはポリペプチドが実質的に同一であるという指標の1つは、以下に述べるように、第1の核酸によってコードされるポリペプチドが、第2の核酸によってコードされるポリペプチドに対して産生された抗体と免疫学的に交差反応することである。したがって、例えば、2つのペプチドが保存的置換のみの点で異なる場合、ポリペプチドは一般に第2のポリペプチドと実質的に同一である。2つの核酸配列が実質的に同一であるというもう1つの指標は、以下に述べるように、2つの分子またはその相補物がストリンジェントな条件下で互いにハイブリダイズすることである。2つの核酸配列が実質的に同一であるというさらにもう1つの指標は、配列の増幅に同じプライマーを用いうることである。
「単離された」「精製された」または「生物学的に純粋な」という用語は、天然の状態で認められるような、それに付随する他の細胞成分を実質的または本質的に含まない材料のことを指す。純度および均一性は通常、ポリアクリルアミドゲル電気泳動または高速液体クロマトグラフィーなどの分析化学の技法を用いて決定される。調製物中に存在する最も多数を占める種であるタンパク質または核酸は、実質的に精製されている。特に、単離された核酸は、その遺伝子に自然下で隣接していて目的の遺伝子以外のタンパク質をコードするいくつかのオープンリーディングフレームから分離されている。いくつかの態様における「精製された」という用語は、核酸またはタンパク質が、電気泳動ゲル中に本質的には1つのバンドを生じることを表す。これは好ましくは、核酸またはタンパク質の純度が、少なくとも85%、より好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも99%であることを意味する。また別の態様における「精製する」または「精製」は、精製しようとする組成物から少なくとも1つの混入物を除去することを意味する。その意味では、精製は、精製された化合物が均一であること、例えば100%純粋であることを必要としない。
「ポリペプチド」「ペプチド」および「タンパク質」という用語は、本明細書において、アミノ酸残基の重合体を指す目的で互換的に用いられる。これらの用語は、1つまたは複数のアミノ酸残基が対応する天然アミノ酸の人工的な化学的模倣物であるアミノ酸重合体のほか、改変された残基を含む天然のアミノ酸重合体、および天然には存在しないアミノ酸重合体に対しても適用される。
「アミノ酸」という用語は、天然アミノ酸および合成アミノ酸のほか、天然のアミノ酸と類似した様式で機能するアミノ酸類似体およびアミノ酸模倣物のことも指す。天然のアミノ酸とは、遺伝暗号によってコードされるもののほか、その後に修飾されたアミノ酸、例えばヒドロキシプロリン、γ-カルボキシグルタミン酸およびO-ホスホセリンなどののこともいう。アミノ酸類似体とは、天然のアミノ酸と同じ基本的な化学構造を有する、すなわち、水素、カルボキシル基、アミノ基およびR基と結合したα炭素を有する化合物、例えば、ホモセリン、ノルロイシン、メチオニンスルホキシド、メチオニンメチルスルホニウムのことを指す。この種の類似体は、改変されたR基(例えば、ノルロイシン)または改変されたペプチド骨格を有するものの天然アミノ酸と同じ基本的な化学構造を保っていてもよい。アミノ酸模倣物とは、アミノ酸の一般的な化学構造とは異なる構造を有するものの天然アミノ酸と類似した様式で機能する化合物のことを指す。
本明細書ではアミノ酸を、一般的に知られた三文字記号、またはIUPAC-IUBのBiochemical Nomenclature Commissionが推奨している一文字記号のいずれかによって参照する。ヌクレオチドも同じく、一般的に認められている一文字記号によって参照する。
「保存的に改変されたバリアント」は、アミノ酸配列および核酸配列の両方に適用される。個々の核酸配列に関して、保存的に改変されたバリアントとは、同一もしくは本質的に同一なアミノ酸配列をコードする核酸のことを指し、または、核酸がアミノ酸配列をコードしない場合には本質的に同一または随伴する(例えば、自然下で連続している)配列のことを指す。遺伝暗号の縮重性のために、ほとんどのタンパク質は多数の機能的に同一な核酸によってコードされる。例えば、コドンGCA、GCC、GCGおよびGCUはすべてアミノ酸、アラニンをコードする。このため、コドンによってアラニンが指定されるあらゆる位置で、コードされるポリペプチドを変化させずに、そのコドンを対応する上記のコドンのいずれかに変化させることができる。このような核酸変形物は「サイレント変形物」であり、保存的に改変された変形物の一種である。何らかのポリペプチドをコードする本明細書のあらゆる核酸配列は、その核酸のあらゆる可能なサイレント変形物についても述べている。当業者は、核酸内の各コドン(通常はメチオニンに対する唯一のコドンであるAUG、および通常はトリプトファンに対する唯一のコドンであるTGGを除く)を改変して、機能的に同一な分子を作製しうることを理解すると考えられる。したがって、多くの場合、ポリペプチドをコードする核酸の各々のサイレント変形物は記載された配列に黙示的に含まれるが、これは発現産物に関してであり、実際のプローブ配列に関してではない。
アミノ酸配列に関して、当業者は、コードされる配列中の単一のアミノ酸または少数のアミノ酸が改変、付加または除去される、核酸、ペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質の配列に対する個々の置換物、欠失物または付加物が、改変によってアミノ酸が化学的に類似したアミノ酸に置換されるような「保存的に改変されたバリアント」であることを理解すると考えられる。機能的に類似したアミノ酸が得られる保存的置換の表も当技術分野で周知である。このような保存的に改変されたバリアントは、本発明の多型バリアント、種間相同体および対立遺伝子に加わるものであり、それらが除外されるわけではない。一般的な、互いに保存的な置換:1)アラニン(A)、グリシン(G);2)アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E);3)アスパラギン(N)、グルタミン(Q);4)アルギニン(R)、リジン(K);5)イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、バリン(V);6)フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W);7)セリン(S)、トレオニン(T);および8)システイン(C)、メチオニン(M)(例えば、Creighton、「タンパク質(Proteins)」(1984)を参照されたい)。
ポリペプチド構造などの高分子構造はさまざまな構成レベルで記載可能である。このような構成に関する一般的な考察については、例えば、Albertsら、「細胞の分子生物学(Molecular Biology of the Cell)(第3版、1994)」およびCantor & Schimmel、「生物物理化学第I部:生体高分子の高次構造(Biophysical Chemistry Part I:The Conformation of Biological Macromolecules)」(1980)を参照されたい。「一次構造」とは、個々のペプチドのアミノ酸配列のことを指す。「二次構造」とは、ポリペプチド内部の局所的に規則立った三次元構造のことを指す。これらの構造は一般にドメインとして知られている。ドメインはポリペプチドの密集単位を形成するポリペプチドの部分であり、一般に25〜500アミノ酸長である。典型的なドメインは、(-シートおよび(-ヘリックスの連鎖などのより小規模な構成物から構成される。「三次構造」とは、ポリペプチド単量体の完全な三次元構造のことを指す。「四次構造」とは、独立した三次単位の非共有的な会合によって形成される三次元構造のことを指す。異方性の項はエネルギー項としても知られている。
「標識」または「検出可能部分」とは、分光学的、光化学的、生化学的、免疫化学的または化学的手段によって検出可能な組成物のことである。例えば、有用な標識には、蛍光色素、高電子密度試薬、酵素(例えば、ELISAに一般に用いられるもの)、ビオチン、ジゴキシゲニン、または、例えばペプチドに放射標識を組み入れることによって検出可能となる、もしくはペプチドと特異的に反応する抗体を検出するために用いうる、ハプテンおよびタンパク質もしくは他の実体が含まれる。放射性同位体は、例えば、3H、14C、32P、35Sまたは125Iであってよい。場合によっては、特に本発明のタンパク質に対する抗体を用いる場合には、下記のように放射性同位体を毒性部分として用いる。標識は、核酸、タンパク質および抗体の任意の場所に組み入れることができる。抗体と標識と結合させるための当技術分野で知られた任意の方法を用いることができ、これには、Hunter et al., Nature、144: 945 (1962);David et al., Biochemistly, 13: 1014 (1974);Pain et al., J. Immunol. Meth., 40: 219 (1981);およびNygren, J. Histochem. and Cytochem., 30: 407 (1982)によって記載された方法が含まれる。放射標識ペプチドまたは放射標識抗体組成物の寿命は、放射標識したペプチドまたは抗体を安定化してそれを分解から防御する物質の添加によって延長させることができる。米国特許第5,961,955号に開示された物質を含め、放射標識したペプチドまたは抗体を安定化する任意の物質または物質の組み合わせを用いることができる。
「エフェクター」または「エフェクター部分」または「エフェクター成分」とは、リンカーもしくは化学結合によって共有的に、またはイオン結合、ファンデルワールス結合、静電結合もしくは水素結合によって非共有的に、抗体と結合(または連結もしくは抱合)している分子のことである。「エフェクター」は、例えば、放射性化合物、蛍光性化合物、酵素もしくは基質、エピトープタグなどのタグ、毒素を含む検出部分;活性化しうる部分、化学療法薬;リパーゼ;抗生物質;または「硬性」(例えばβ)放射線を放射する放射性同位体を含む、さまざまな分子でありうる。
細胞、核酸、タンパク質またはベクターなどに言及して用いる場合、「組換え」という用語は、細胞、核酸、タンパク質またはベクターが、異種性の核酸もしくはタンパク質の導入または天然の核酸またはタンパク質の改変によって改変されたこと、または細胞がそのように改変された細胞に由来することを意味する。このため、例えば、組換え細胞は、天然型(非組換え型)の細胞に認められない遺伝子を発現する、または、通常であれば異常発現される、低発現される、もしくは全く発現されないような天然遺伝子を発現する。本明細書における「組換え核酸」という用語は、核酸の操作により(例えば、ポリメラーゼおよびエンドヌクレアーゼを用いて)、自然界には通常認められない形態で、一般的には当初インビトロで形成された、核酸のことを意味する。このようにして、異なる配列の機能的な結合が達成される。すなわち、線状形態にある単離された核酸、または通常は連結していないDNA分子を連結させることによってインビトロで形成された発現ベクターはいずれも、本発明の目的からは組換え体とみなされる。ひとたび組換え核酸を作製して宿主の細胞または生物に再び導入すると、それが非組換え的に、すなわちインビトロ操作ではなく宿主細胞のインビボ細胞機構を用いて、複製すると考えられることは認識されている;しかし、このような核酸はひとたび組換え的に作製された場合、その後に非組換え的に複製しても、本発明の目的からは依然として組換え体とみなされる。同様に、「組換えタンパク質」は、組換え法を用いて、すなわち上述した組換え核酸の発現によって、作製されたタンパク質のことである。
核酸の部分に言及して用いる場合、「異種」という用語は、核酸が、自然界ではお互いに同じ関係では認められない2つまたはそれ以上の部分配列を含むことを意味する。例えば、核酸は一般に、例えば、1つの源からのプロモーターおよび別の源からのコード領域というように、関連のない遺伝子に由来する2つまたはそれ以上の配列が新たな機能的核酸を生じるように配置された形で、組換えによって産生される。同様に、異種タンパク質は、多くの場合、タンパク質が、自然界ではお互いに同じ関係では認められない2つまたはそれ以上の部分配列を含むことを指すと考えられる(例えば、融合タンパク質)。
抗体と「特異的に(または選択的に)結合する」、または「特異的に(または選択的に)免疫反応性である」という語句は、タンパク質またはペプチドに言及する場合、タンパク質または他の生体物質の不均一集団内にそのタンパク質が存在することの決定因子となる結合反応のことを指す。すなわち、指定されたイムノアッセイ条件下で、特定された抗体は特定のタンパク質とバックグラウンドの少なくとも2倍で結合し、より一般的にはバックグラウンドの10〜100倍を上回って結合する。
このような条件下での抗体に対する特異的結合には、特定のタンパク質に対する特異性の点から選択された抗体が必要である。例えば、Wntタンパク質またはFrizzledタンパク質に対して特異的に免疫反応性があって、他のタンパク質とは免疫反応性のないポリクローン抗体のみが得られるように、特定のタンパク質、多型バリアント、対立遺伝子、オルソログ、および保存的に改変されたバリアント、またはスプライスバリアント、またはそれらの部分を選択することができる。この選択は、他の種の分子と交差反応する抗体を取り除くことによって実施しうる。特定の抗体に対して特異的に免疫反応性である抗体の選択には、種々の形式のイムノアッセイを用いうる。例えば、あるタンパク質に対して免疫反応性である抗体の選択には、固相ELISAイムノアッセイがルーチン的に用いられる(特異的な免疫反応性の決定に用いうるイムノアッセイの形式および条件に関する説明については、例えば、Harlow and Lane, 「抗体実験マニュアル(Antibody Laboratory Manual)」(1988)を参照されたい)。
「腫瘍細胞」とは、腫瘍内の前癌細胞、癌細胞および正常細胞のことを指す。
「癌細胞」「形質転換」細胞または組織培養物における「形質転換」とは、自然発生的または誘導された表現型変化のことを指し、これは必ずしも新たな遺伝物質の取り込みを必要とはしない。形質転換は形質転換性ウイルスによる感染および新たなゲノムDNAの組み入れ、または外因性DNAの取り込みによって生じうるが、これは自然発生的に生じること、または発癌物質への曝露後にそれによって内因性遺伝子が変異して生じることもある。本発明における形質転換は一般に、Wntおよび/またはFrizzledタンパク質の過剰発現を伴う。形質転換には、細胞の不死化、増殖制御異常、非形態上の変化、および/または悪性化などの他の表現型変化が伴う(Freshney, 「動物細胞の培養、基本的技法のマニュアル(Culture of Animal Cells a Manual of Basic Technique)」(3rd ed. 1994)を参照されたい)。
詳細な説明
本発明は、Wnt-Fzシグナル伝達経路が発癌において役割を果たすという発見に基づく。癌におけるWntタンパク質の発現レベルは往々にして高いことが知られている。しかし、癌における細胞死機構のWnt-Fzシグナル伝達による改変に関してはほとんどわかっていない。本開示は、Wntシグナル伝達の抑制物質が、さまざまな癌細胞において明らかなアポトーシスを誘導しうるという証拠を提供する。本発明は、Wnt-Fzシグナル伝達が癌細胞の増殖または生存に影響を及ぼすあらゆる癌に対して有用である。本発明は、乳癌、大腸癌、肺癌、肉腫、中皮腫、前立腺癌、膵癌、子宮頸部癌、卵巣癌、胃癌、食道癌、頭頸部癌、肝細胞癌、黒色腫、神経膠腫または神経膠芽腫などの癌を治療する目的に有用である。
Wntシグナル伝達の阻止は、Wnt-Fz経路の下流構成要素、特にDishevelled(Dvl)およびβ-カテニンのダウンレギュレーションをもたらすことが本明細書において示される。本明細書に提供する証拠はまた、抗体により誘導されるアポトーシスがJNKの活性化によって起こり、Smac/DiabloおよびシトクロムCがミトコンドリアからサイトゾルに放出されることも示している。シトクロムCは、アポトーシスの抑制因子であるサービニン(survinin)を不活性化し、カスパーゼの活性化をもたらす。本開示はさらに、モノクローナル抗Wnt-1抗体がインビボでの腫瘍の増殖を抑制しうるという証拠も提供する。
WNTタンパク質およびFRIZZLEDタンパク質に対する抗体
以上に指摘したように、本発明は、癌細胞におけるWntシグナル伝達を抑制する方法を提供する。本発明のいくつかの態様においては、WntリガンドとFrizzled受容体との結合を阻止するために抗体が用いられる。抗体はWntタンパク質またはFrizzledタンパク質のいずれに対して産生させることもできる。
ポリクローナル抗体を調製する方法は当業者に知られている(例えば、Coligan, 前記;およびHarlow & Lane, 前記)。ポリクローナル抗体は、例えば、免疫化物質、および必要に応じてアジュバントの、1回または複数回の注射により、哺乳動物に産生させることができる。一般に、免疫化物質および/またはアジュバントは、多回の皮下注射または腹腔内注射により、哺乳動物に注射されると考えられる。免疫化物質には、図面の核酸もしくはその断片によってコードされるタンパク質、またはその融合タンパク質が含まれうる。免疫化物質を、免疫処置を行おうとする哺乳動物において免疫原性があることが知られているタンパク質と結合させることが有用なことがある。このような免疫原性タンパク質の例には、キーホールリンペットヘモシアニン、血清アルブミン、ウシチログロブリンおよびダイズトリプシンインヒビターが含まれる。用いうるアジュバントの例には、フロイント完全アジュバントおよびMPL-TDMアジュバント(モノホスホリルリピドA、合成トレハロースジコリノミコレート(trehalose dicorynomycolate))が含まれる。免疫処置プロトコールは、当業者により、必要以上の実験を行うことなく選択されうる。
または、抗体がモノクローナル抗体であってもよい。モノクローナル抗体は、Kohler & Milstein, Nature 256: 495 (1975)によって記載されたようなハイブリドーマ法を用いて調製することができる。ハイブリドーマ法においては、マウス、ハムスターまたは他の適切な宿主動物に対して通常、免疫化物質による免疫処置を行って、免疫化物質と特異的に結合する抗体を産生する、または産生しうるリンパ球を誘発させる。または、リンパ球をインビトロで免疫感作させてもよい。免疫化物質は通常、表1〜16の核酸もしくはその断片によってコードされるポリペプチド、またはその融合タンパク質を含むと考えられる。一般に、ヒト由来の細胞が求められる場合には末梢血リンパ球(「PBL」)が用いられ、非ヒト哺乳動物由来のものが求められる場合には脾細胞またはリンパ節細胞が用いられる。続いてリンパ球を、ポリエチレングリコールなどの適した融合物質を用いて不死化細胞株と融合させ、ハイブリドーマ細胞を形成させる(Goding, 「モノクローナル抗体:原理および実践(Monoclonal Antibodies: Principles and Practice)」、pp. 59-103 (1986))。不死化細胞株は通常、形質転換された哺乳動物細胞、特に齧歯類、ウシおよびヒト由来の骨髄腫細胞である。通常、ラットまたはマウスの骨髄腫細胞株を用いる。ハイブリドーマ細胞は、融合していない不死化細胞の増殖または生存を抑制する1つまたは複数の物質を好ましくは含む適した培地中で培養することができる。例えば、親細胞が酵素ヒポキサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HGPRTまたはHPRT)を有しない場合には、ハイブリドーマ用の培地はヒポキサンチン、アミノプテリンおよびチミジンを含むことが一般的であり(「HAT培地」)、これらの物質はHGPRT欠損細胞の増殖を妨げる。
いくつかの態様においては、モノクローナル抗体が用いられる。1つの好ましい態様は、実施例11に記載したモノクローナル抗体と同じエピトープを有するモノクローナル抗体である。特定の抗体が別の抗体と同じエピトープを認識する能力は一般に、一方の抗体が第2の抗体と抗原との結合を競合的に阻害する能力によって決定される。同じ抗原に対する2種類の抗体間の競合を測定するためには、さまざまな競合結合アッセイのうち任意のものを用いうる。例えば、サンドイッチELISAアッセイをこの目的に用いることができる。これは、捕捉抗体を用いてウェルの表面を覆うことによって行われる。続いて、飽和に近い濃度のタグ標識抗原を捕捉表面に対して添加する。このタンパク質は、特異的な抗体:エピトープ相互作用によって抗体と結合すると考えられる。洗浄の後に、検出可能な部分(例えば、HRP、検出抗体として定義される標識抗体を伴う)を機能的に結合させた第2の抗体をELISAに添加する。この抗体が捕捉抗体と同じエピトープを認識するならば、その特定のエピトープはもはや結合に使用できないため、それは標的タンパク質と結合できないと考えられる。しかし、この第2の抗体が標的タンパク質上の異なるエピトープを認識するならば、それは結合可能であり、妥当な基質を用いて活性のレベル(およびそれ故に、結合した抗体)を定量することにより、この結合を検出することができる。バックグラウンドは単一の抗体を捕捉抗体および検出抗体の両方として用いることによって定義され、最大シグナルは抗原特異的抗体を用いた捕捉および抗原上のタグ標識に対する抗体を用いた検出によって確かめることができる。バックグラウンドおよび最大シグナルを基準として用いることにより、エピトープ特異性を決定するために抗体を対形式で評価することができる。
第1の抗体は、上記のアッセイの任意のものを用いて、第2の抗体と抗原との結合が、第1の抗体の存在下で少なくとも30%、通常は少なくとも約40%、50%、60%または75%、しばしば少なくとも約90%低下するならば、第2の抗体の結合を競合的に阻害するとみなされる。
いくつかの態様において、本発明のモノクローナル抗Wnt抗体は、ヒトWnt-1のアミノ酸201〜212(HNNEAGRTTVFS)、ヒトWnt-1のアミノ酸39〜52(NVASSTNLLTDSKS)、またはヒトWnt-2のアミノ酸49〜63(SSQRQLCHRHPDVMR)と結合する。例えば、このようなモノクローナル抗体が、図7に示されたV鎖およびV鎖を有する抗体の結合特異性(すなわち、この文脈では、同じCDRまたは実質的に同じCDR)を有してもよい。このため、本発明の抗体は、図7に示されたV配列またはV配列に示されたCDRを含んでもよく、さらに、そのV配列またはV配列に対して少なくとも80%の同一性、好ましくは85%、90%または95%の同一性を有してもよい。例えば、特定の態様において、抗体は図7のV配列およびV配列のCDRならびにヒトフレームワーク配列を含みうる。
いくつかの態様において、Wntタンパク質またはFrizzledタンパク質に対する抗体はキメラ抗体またはヒト化抗体である。上に述べたように、ヒト化型の抗体は、ヒト抗体の相補性決定領域(CDR)由来の残基が、所望の特異性、親和性および能力を有するマウス、ラットまたはウサギなどの非ヒト種のCDR由来の残基によって置き換えられたキメラ免疫グロブリンである。
ヒト抗体は、ファージディスプレイライブラリー(Hoogenboom & Winter, J. Mol. Biol. 227: 381 (1991);Marks et al., J. Mol. Biol. 222: 581 (1991))を含む、当技術分野で知られたさまざまな技法を用いて作製することができる。ColeらおよびBoernerらの技法もヒトモノクローナル抗体の調製に利用可能である(Cole et al., 「モノクローナル抗体および癌療法(Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy)」、p. 77 (1985) およびBoerner et al., J. Immunol. 147(1): 86-95 (1991))。同様に、ヒト免疫グロブリン遺伝子座を、内因性免疫グロブリン遺伝子が部分的または完全に不活性化されたトランスジェニック動物、例えばマウスに導入することによってヒト抗体を作製することもできる。抗原に曝露させるとヒト抗体の産生が観察されるが、これは遺伝子再配列、構成および抗体レパートリーを含むあらゆる面で、ヒトにおいて認められるものと非常に類似している。このアプローチは例えば、米国特許第5,545,807号;第5,545,806号;第5,569,825号;第5,625,126号;第5,633,425号;第5,661,016号、および以下の科学刊行物に記載されている:Marks et al., Bio/Technology 10: 779783 (1992);Lonberg et al., Nature 368: 856-859 (1994);Morrison, Nature 368: 812-13 (1994);Fishwild et al., Nature Biotechnology 14: 845-51 (1996);Neuberger, Nature Biotechnology 14: 826 (1996);Lonberg & Huszar, Intern. Rev. Immunol. 13: 65-93 (1995) 。
いくつかの態様において、抗体は一本鎖Fv(scFv)である。scFv抗体のVH領域およびVL領域は、二本鎖抗体に認められるものと類似した抗原結合部位が生じるようにフォールディングした一本鎖を構成する。いったんフォールディングが起こると、非共有的な相互作用によって一本鎖抗体が安定化される。いくつかの抗体態様のVH領域およびVL領域は直接連結されうるが、当業者はこれらの領域を1つまたは複数のアミノ酸からなるペプチドリンカーによって隔ててもよいことを認識していると考えられる。ペプチドリンカーおよびそれらの用法は当技術分野で周知である。例えば、Huston et al., Proc. Nat'1 Acad. Sci. USA 8: 5879 (1988);Bird et al., Science 242: 4236 (1988);Glockshuber et al., Biochemistry 29: 1362 (1990);米国特許第4,946,778号、米国特許第5,132,405号、およびStemmer et al., Biotechniques 14: 256-265 (1993)を参照されたい。一般に、ペプチドリンカーはそれらの連結と連結すること、またはVHとVLとの間にある程度の最小限の距離もしくは他の空間的関係を保つこと以外には、特別な生物活性を有しないと考えられる。しかし、ペプチドリンカーの構成要素であるアミノ酸を、分子のある種の性質、例えばフォールディング、実効電荷または疎水性などに影響を及ぼすように選択してもよい。一本鎖Fv(scFv)抗体は選択的に、50アミノ酸長以下、一般に40アミノ酸長以下、好ましくは30アミノ酸長以下、より好ましくは20アミノ酸長以下のペプチドリンカーを含む。いくつかの態様において、ペプチドリンカーは配列Gly-Gly-Gly-Gly-Serのコンカテマーであり、好ましくはこのような配列が2つ、3つ、4つ、5つまたは6つ連結したものである。しかし、リンカー内部にいくつかのアミノ酸置換を作製しうることは理解される必要がある。例えば、バリンをグリシンの代わりに用いることができる。
scFv抗体の作製方法は記載されている。Huse et al., 前記;Ward et al. 前記;およびVaughan et al., 前記を参照されたい。簡潔に述べると、免疫処置を行った動物由来のB細胞からmRNAを単離し、cDNAを調製する。免疫グロブリンの重鎖および軽鎖の可変領域に対して特異的なプライマーを用いてcDNAを増幅する。PCR産物を精製し、核酸配列を連結する。リンカーペプチドが望まれる場合には、そのペプチドをコードする核酸配列を重鎖核酸配列と軽鎖核酸配列との間に挿入する。scFvをコードする核酸をベクターに挿入し、適切な宿主細胞において発現させる。所望の抗原と特異的に結合するscFvは通常、ファージディスプレイライブラリーのパニングによって見いだされる。パニングはいくつかの方法のうち任意のものによって実施しうる。パニングは、所望の抗原を表面に発現している細胞を用いて、または所望の抗原をコーティングした固体表面を用いて、首尾良く行うことができる。表面は磁気ビーズであると好都合である。結合しなかったファージを固体表面から洗い流し、結合したファージを溶出させる。
選択したパニング法にかかわらず、ファージディスプレイによって得られる遺伝子型と表現型との間の物理的つながりにより、クローンの大規模ライブラリーを用いる場合であっても、cDNAライブラリーのすべてのメンバーを抗原との結合に関して調べることが可能となる。
いくつかの態様において、抗体は二重特異性抗体である。二重特異性抗体は、少なくとも2種類の抗原に対する結合特異性を有するか、または同一の抗原の2つのエピトープに対する結合特異性を有する、モノクローナル抗体、好ましくはヒト抗体またはヒト化抗体である。1つの態様において、結合特異性の一方はWntタンパク質またはFrizzledタンパク質に対するものであり、もう一方は別の癌抗原に対するものである。または、テトラマー型技術によって多価試薬を作製してもよい。
いくつかの態様においては、抗体をエフェクター部分と結合させる。エフェクター部分は、放射性標識もしくは蛍光標識などの標識性部分を含む任意のさまざまな分子であってもよく、または治療用部分であってもよい。エフェクター部分が治療用部分である場合には、それは細胞毒性物質であることが典型的である。本方法においては、癌細胞に対する細胞毒性物質のターゲティングにより、標的細胞の直接的な死滅が引き起こされる。この態様は一般に、Frizzled受容体に対する抗体を用いて行われる。細胞毒性物質は数多くさまざまなものがあり、これには細胞毒性薬もしくは毒素またはこのような毒素の活性断片が非制限的に含まれる。適した毒素およびそれらに対応する断片には、ジフテリアA鎖、エキソトキシンA鎖、リシンA鎖、アブリンA鎖、クルシン、クロチン(crotin)、フェノマイシン(phenomycin)、エノマイシン(enomycin)、オーリスタチン(auristatin)などが含まれる。細胞毒性物質にはまた、放射性同位体をWntタンパク質もしくはFrizzledタンパク質に対して産生された抗体と結合させることによって、または放射性核種を、抗体と共有結合させたキレート剤と結合させることによって作製された放射性化学物質も含まれる。
本発明の抗体の結合親和性
標的抗原に対する結合親和性は一般に、Biacore競合アッセイ、飽和アッセイ、またはELISAもしくはRIAなどのイムノアッセイといった、標準的な抗体抗原アッセイによって測定および決定が行われる。
このようなアッセイは、抗体の解離定数を決定するために用いることができる。「解離定数」という語句は、抗体の抗原に対する親和性のことを指す。抗体の解離定数(K=1/K、ここでKは親和定数である)が1μM未満、好ましくは100nM未満、最も好ましくは0.1nM未満であれば、抗体と抗原との間に結合の特異性が存在する。抗体分子のKは低い範囲にあることが一般的である。K=[Ab−Ag]/(Aberle et al., EMBO Journal, 16: 3797-3804 (1997))、ここで(Aberle et al., EMBO Journal, 16: 3797-3804 (1997))は抗体の平衡状態での濃度、(Aberle et al., EMBO Journal, 16: 3797-3804 (1997))は抗原の平衡状態での濃度であり、[Ab-Ag]は抗体抗原複合体の平衡状態での濃度である。一般に、抗原と抗体との間の結合相互作用には、静電引力、ファンデルワールス力および水素結合といった可逆的な非共有的会合が含まれる。
本発明の抗体はWntタンパク質またはFrizzledタンパク質と特異的に結合する。「特異的に結合する」とは、本明細書において、抗体が、少なくとも約0.1mM、より一般的には少なくとも約1μM、好ましくは少なくとも約0.1μMまたはそれ未満、最も好ましくは0.01Mまたはそれ未満のKでタンパク質と結合することを意味する。
診断アッセイ
本発明はまた、WntまたはFrizzledの過剰発現を検出するための診断アッセイも提供する。上述したように、これらの遺伝子の過剰発現を癌細胞の診断のために利用することができる。好ましい態様においては、目的のWnt遺伝子またはFrizzled遺伝子の活性を、遺伝子転写物(例えば、mRNA)の指標により、翻訳されたタンパク質の量の指標により、または遺伝子産物活性の指標によって決定する。
核酸ハイブリダイゼーションを用いる遺伝子転写物(mRNAまたはcDNA)の検出および/または定量の方法は当業者に知られている。例えば、mRNAの存在、欠如または量を評価するための1つの方法は、ノーザンブロットトランスファーを伴う。
プローブはタンパク質をコードする完全長の核酸でもよく、完全長に満たないものでもよい。比較的短いプローブが経験的に特異性に関して検討されている。核酸プローブは20塩基長またはそれよりも長いことが好ましい。ハイブリダイズした部分の可視化により、mRNAの有無に関する定性的判定が可能となる。
もう1つの好ましい態様においては、転写物(例えば、mRNA)を、DNAのコピー数の直接評価に関して上述したような増幅(例えば、PCR)に基づく方法を用いて測定することができる。1つの好ましい態様において、転写物レベルは逆転写PCR(RT-PCR)を用いて評価される。
Wnt遺伝子またはFrizzled遺伝子の「活性」を、発現されたポリペプチドの検出または定量によって検出および/または定量することも可能である。ポリペプチドの検出および定量は、当業者に周知のさまざまな手段のうち任意のものによって行いうる。これらには、電気泳動、キャピラリー電気泳動、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、薄層クロマトグラフィー(TLC)、高拡散(hyperdiffusion)クロマトグラフィーなどの生化学的分析方法が含まれうる。また、単離されたタンパク質の配列を、多型を同定するために標準的な技法に従って決定することもできる。
よく知られたさまざまな免疫学的結合アッセイの任意のものを用いて、本発明の抗体を、Wntタンパク質もしくはFrizzledタンパク質、またはそれらを発現する細胞を検出するために用いることもできる(例えば、米国特許第4,366,241号;第4,376,110号;第4,517,288号;および第4,837,168号)。一般的なイムノアッセイの総説については、Methods in Cell Biology, Vol. 37, Asai, ed. Academic Press, Inc. New York (1993);「基礎免疫学および臨床免疫学(Basic and Clinical Immunology)」7th Edition, Stites & Terr, eds. (1991)を参照されたい。
したがって、本発明は、Wntタンパク質またはFrizzledタンパク質を過剰発現する細胞を検出するための方法を提供する。1つの方法においては、対象に対して生検を行い、収集した組織をインビトロで検査する。続いて組織または組織由来の細胞を、本発明の抗Wnt抗体または抗Frizzled抗体と接触させる。免疫複合体がその結果生じれば、生検試料に標的タンパク質が存在することを意味する。このような検出を容易にするために、抗体を放射標識すること、または放射性標識などの検出可能な標識であるエフェクター分子と結合させることが可能である。もう1つの方法では、典型的な画像化システムを用いて細胞をインビボで検出することができる。続いて、標識の局在を、標識を検出するための既知の方法の任意のものによって決定する。診断用画像を描出するための従来の方法を用いることができる。例えば、MRIの目的には常磁性同位体を用いうる。抗体の内部取り込みは、細胞外酵素環境による除去と循環系による排出の両方を受けると考えられる細胞外結合によって得られるよりも、生物体内でのその寿命を延長させるために重要と考えられる、
WNTシグナル伝達の抑制物質の同定
Wntタンパク質またはFrizzledタンパク質(またはそれらを発現する細胞)またはWntシグナル伝達経路のメンバー、例えばdvlを、Wntシグナル伝達を抑制するための作用物質を同定するための薬物スクリーニングアッセイに用いることもできる。本発明はしたがって、癌を抑制する組成物に関するスクリーニングのための新規な方法を提供する。
Wntシグナル伝達経路のいずれかの部分を検出および/または定量するように、Wntシグナル伝達に関するアッセイをデザインすることができる。例えば、標的細胞において作用物質が細胞内β-カテニンレベルに影響を及ぼす能力、またはアポトーシスを誘導する能力を測定することができる。これらの目的に適したアッセイを以下に述べる。
アッセイには、Wntリガンド、Frizzled受容体、またはWntシグナル伝達カスケードの別のメンバー、例えばdvlのいずれかに対する結合活性を調べるようにデザインされたものが含まれうる。これらのアッセイは、Wnt活性をモジュレートする作用物質の同定に特に有用である。事実上あらゆる作用物質をこのようなアッセイで調べることができる。このような作用物質には、天然ポリペプチドまたは合成ポリペプチド、抗体、天然または合成性の有機低分子、核酸などが非制限的に含まれる。
上述したように、分泌性Frizzled関連タンパク質(sFRP)のファミリーは、分泌性Wntリガンドとの結合に関してFrizzled受容体と競合することにより、Wntシグナル伝達に対する可溶性内因性モジュレーターとして機能する。したがって、ある種の形式において、被験物質は、Frizzled受容体の天然のリガンド(例えば、WntリガンドまたはsFRP)をベースとする。
Wntシグナル伝達を検出するためのアッセイはいずれもハイスループットスクリーニングの対象となる。ハイスループットアッセイ、結合アッセイおよびレポーター遺伝子アッセイはいずれもよく知られている。すなわち、例えば、米国特許第5,559,410号はタンパク質に関するハイスループットスクリーニング方法を開示しており、米国特許第5,585,639号は核酸結合に関するハイスループットスクリーニング方法(すなわち、アレイにおけるもの)を開示しており、一方、米国特許第5,576,220号および第5,541,061号はリガンド/抗体結合に関するハイスループットスクリーニング方法を開示している。
さらに、ハイスループットスクリーニングシステムは市販もされている(例えば、Zymark Corp., Hopkinton, MA;Air Technical Industries, Mentor, OH;Beckman Instruments, Inc. Fullerton, CA;Precision Systems, Inc., Natick, MAなどを参照されたい)。これらのシステムは一般に、すべての試料および試薬のピペット操作、液体の調合、時間指定されたインキュベーション、ならびにアッセイに適した検出装置におけるマイクロプレートの最終的な読み取りを含む全手順を自動化している。設定変更が可能なこれらのシステムは、ハイスループット性および迅速な立ち上げ、さらには高度の柔軟性およびカスタマイズ性をもたらす。このようなシステムの製造元は、種々のハイスループットシステムに対する詳細なプロトコールを用意している。例えば、Zymark Corp.は、遺伝子転写、リガンド結合などのモジュレーションを検出するためのスクリーニングシステムを記載した技術報告書を用意している。
本発明において有用な他のアッセイには、癌細胞の腫瘍性表現型を調べるためにデザインされたものがある。これらのアッセイには、軟寒天上での細胞増殖;足場依存性;接触阻止および密度増殖制限;細胞増殖;細胞死(アポトーシス);細胞形質転換;増殖因子または血清依存性;腫瘍特異的マーカーのレベル;Matrigelへの侵襲性;インビボでの腫瘍増殖および転移;転移を来している細胞におけるmRNAおよびタンパク質の発現、ならびに癌細胞の他の特徴、が含まれる。
被験物質が細胞増殖を抑制する能力を、被験物を疾患の動物モデルに導入して、インビボでの癌細胞の増殖を評価することによって評価することもできる。例えば、ヒト腫瘍細胞を「ヌードマウス」などの免疫不全動物に導入することができる。被験物質(例えば、低分子または抗体)をその動物に投与し、腫瘍細胞が腫瘍を形成する能力―動物の体内に形成された腫瘍の数および/またはサイズにより評価―を、物質を投与していない対照動物における腫瘍増殖と比較する。
遺伝子発現の抑制物質
本発明の1つの面において、Wntシグナル伝達経路の抑制物質、例えばDvl抑制物質には、その経路における標的タンパク質の発現を抑制する核酸配列が含まれうる。従来のウイルス性または非ウイルス性の遺伝子導入法を用いて、操作されたポリペプチド、例えばドミナントネガティブ型のタンパク質をコードする核酸を、哺乳動物細胞もしくは標的組織に導入すること、または核酸、例えば標的タンパク質発現の抑制物質(siRNAまたはアンチセンスRNA)を導入することができる。非ウイルス性ベクター送達システムには、DNAプラスミド、裸の核酸、およびリポソームなどの送達媒体と複合体を形成した核酸が含まれる。ウイルス性ベクター送達システムには、細胞への送達後にエピソーム性ゲノムまたは組込み性のゲノムを有する、DNAウイルスおよびRNAウイルスが含まれる。遺伝子治療手順の総説に関しては、Anderson, Science 256: 808-813 (1992);Nabel & Felgner, TIB TECH 11: 211-217 (1993);Mitani & Caskey, TIB TECH 11: 162-166 (1993);Dillon, TIB TECH 11: 167-175 (1993);Miller, Nature 357: 455460 (1992);Van Brunt, Biotechnology 6(10): 1149-1154 (1988);Vigne, Restorative Neurology and Neuroscience 8: 35-36 (1995);Kremer & Perricaudet, British Medical Bulletin 51(1): 31-44 (1995);Haddada et al., 「微生物学および免疫学における最近の話題(Current Topics in Microbiology and Immunology)」 Doerfler and Bohm(eds)(1995);およびYu et al., Gene Therapy 1: 13-26 (1994)が含まれる。
いくつかの態様においては、短鎖干渉性RNAを投与する。哺乳動物細胞において、長鎖dsRNA(>30nt)の導入はしばしば強力な抗ウイルス応答を誘発し、その例には非特異的なタンパク質合成の抑制およびRNA分解が挙げられる。RNA干渉の現象は、例えば、Bass, Nature 411: 42829 (2001);Elbahir et al., Nature 411: 494-98 (2001);およびFire et al., Nature 391: 806-11 (1998)に記載および考察が行われており、そこには干渉性RNAを作製する方法も記載されている。siRNA抑制物質は100塩基対未満、典型的には30bpまたはそれよりも短く、当技術分野で知られたアプローチによって作製される。本発明による例示的なsiRNAは、最長29bp、25bp、22bp、21bp、20bp、15bp、10bp、5bp、またはその前後もしくは間の任意の整数でありうる。
非ウイルス性送達方法
本発明の組換えポリペプチドをコードする核酸の非ウイルス性送達方法には、リポフェクション、微量注入、バイオリステック法、ヴィロソーム(virosome)、リポソーム、イムノリポソーム、ポリカチオンまたは脂質:核酸結合物、裸のDNA、人工ビリオン、および薬剤により増強されたDNA取込みが含まれる。リポフェクションは例えば、米国特許第5,049,386号、米国特許第4,946,787号;および米国特許第4,897,355号に記載されており、リポフェクション用の試薬は市販されている(例えば、Transfectam(商標)およびLipofectin(商標))。ポリヌクレオチドの効率的な受容体認識性リポフェクションのために適した陽イオン性および中性の脂質には、Felgner, WO 91/17424号、WO 91/16024号のものが含まれる。送達は細胞に対するもの(エクスビボ投与)でも標的組織に対するもの(インビボ投与)でもよい。
免疫脂質複合体などの標的指向性リポソームを含む脂質:核酸複合体の調製は当業者に周知である(例えば、Crystal, Science 270: 404-410 (1995);Blaese et al., Cancer Gene Ther. 2: 291-297 (1995);Behrら、Bioconjugate Chem. 5: 382-389 (1994);Remy et al., Bioconjugate Chem. 5: 647-654 (1994);Gao et al., Gene Therapy 2: 710-722 (1995);Alunad et al., Cancer Res. 52: 4817-4820 (1992);米国特許第4,186,183号、第4,217,344号、第4,235,871号、第4,261,975号、第4,485,054号、第4,501,728号、第4,774,085号、第4,837,028号および第4,946,787号を参照されたい)。
ウイルス性送達方法
標的Wnt経路タンパク質の抑制物質(例えば、Dvl)の送達のための、RNAウイルスまたはDNAウイルスを用いるシステムは当技術分野で知られている。このような核酸抑制物質の送達のための、従来のウイルス性システムには、遺伝子導入のための、レトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルスおよび単純ヘルペスによるベクターが含まれうる。
多くの遺伝子治療の用途においては、遺伝子治療ベクターを特定の種類の組織(例えば、肺癌)へと高度に特異的に送達することが望ましい。ウイルスベクターは通常、ウイルス外表面に存在するウイルスコートタンパク質との融合タンパク質としてリガンドを発現させることにより、所定の細胞種に対する特異性を持つように改変される。リガンドは、目的の細胞種の表面に存在することが知られた受容体に対する親和性を有するように選択される。例えば、Han et al., PNAS 92: 9747-9751 (1995)は、モロニーマウス白血病ウイルスを、ヒトヒレグリンとgp70が融合したものを発現するように改変することができ、この組換えウイルスがヒト上皮増殖因子受容体を発現する特定のヒト乳癌細胞のみを感染させることを報告している。この原理は、リガンド融合タンパク質を発現するウイルスと受容体を発現する標的細胞という別の対にも敷衍しうる。例えば、繊維状ファージを、選択した事実上あらゆる細胞受容体に対して特異的な結合親和性を有する抗体断片(例えば、FABまたはFv)を提示するように操作することができる。以上の記載は主としてウイルスベクターに当てはまるが、同じ原理を非ウイルス性ベクターに適用することもできる。この種のベクターを、特定の標的細胞による取込みが優先的に起こると考えられる特異的な取込み用配列を含むように操作することができる。
遺伝子治療ベクターは、以下に述べるように、個々の罹患生物への投与により、通常は全身投与(例えば、静脈内、腹腔内、筋肉内、皮下または頭蓋内注入)または局所外用により、インビボで送達することができる。または、ベクターをエクスビボの細胞、例えば、個々の罹患生物から体外に移植した細胞に送達することもできる。
診断、研究または遺伝子治療のためのエクスビボ細胞トランスフェクション(例えば、トランスフェクト細胞を宿主生物に再注入することによる)は当業者に周知である。いくつかの態様においては、細胞を対象生物から単離し、本発明のポリペプチドをコードする核酸(遺伝子またはcDNA)をトランスフェクトした上で、対象生物(例えば、罹患生物)の体内に再び注入する。エクスビボでのトランスフェクションのために適したさまざまな細胞種が当業者に周知である(罹患生物からの細胞の単離および培養の手法の考察については、例えば、Freshney et al., 「動物細胞の培養、基本技術マニュアル(Culture of Animal Cells, Manual of Basic Technique)」(第3版、1994))およびその中に引用された参考文献を参照されたい)。
治療用核酸を含むベクター(例えば、レトロウイルス、アデノウイルス、リポソーム、その他)を、インビボでの細胞への形質導入のために生物に直接投与することもできる。または、裸のDNAを投与することもできる。投与は、分子を導入して最終的に血液細胞または組織細胞に接触させるために通常用いられる任意の経路による。このような核酸の投与には適した投与方法があってそれらは当業者に周知であり、特定の組成物を投与するために複数の経路を用いることができるが、ある特定の経路によって別の経路よりも即時的かつより効果的な反応が得られることがしばしばである。
薬学的に許容される担体は、一部には、投与する個々の組成物、さらには組成物の投与に用いられる個々の方法によって決まる。したがって、以下に述べるように、本発明の薬学的組成物には適した製剤が広範囲にわたって存在する(例えば、「レミントン薬学(Remington's Pharmaceutical Sciences)」第17版、1989)を参照のこと)。
診断、研究および治療の用途におけるキットの使用
上述したように、本発明は、ある種の癌では特定のWntタンパク質またはFrizzledタンパク質が過剰発現しているという証拠を提供する。このため、本明細書に開示する特定の核酸またはタンパク質の検出のためのキットを用いることができる。診断および研究の用途において、このようなキットは以下のいずれかまたはすべてを含みうる:アッセイ試薬、緩衝液、Wnt特異的もしくはFrizzled特異的な核酸もしくは抗体、ハイブリダイゼーションプローブおよび/またはプライマーなど。治療用製品は、滅菌食塩水または薬学的に許容される別の乳濁液性および懸濁液性の基剤を含みうる。
さらに、キットが、本発明の方法の実施のための指示(すなわち、プロトコール)を含む指示材料を含んでもよい。指示材料には通常、記載または印刷された材料が含まれるが、そのようなものに限定されない。このような指示を保存してそれをエンドユーザーに伝えることができる任意の媒体を、本発明は想定している。このような媒体には、電子記憶媒体(例えば、磁気ディスク、テープ、カートリッジおよびチップ)、光メディア(例えば、CD ROM)などが含まれる。このような媒体には、このような指示材料が得られるインターネットサイトへのアドレスも含まれうる。
本発明はまた、Wntシグナル伝達の抑制物質に関するスクリーニングのためのキットも提供する。このようなキットは、容易に入手可能な材料および試薬から作製することができる。例えば、このようなキットは、以下の材料のうち1つまたは複数を含みうる:WntまたはFrizzledのポリペプチドまたはポリヌクレオチド、反応チューブ、および所望のWntシグナル伝達機能(例えば、β-カテニンレベル)を検査するための指示書。
治療方法
抑制物質の投与
Wntシグナル伝達を抑制する作用物質(例えば、抗体)は、非経口的(例えば、静脈内、筋肉内、皮内、腹腔内および皮下の経路)、局所外用的、経口的、局所的または経皮的な投与を非制限的に含む、さまざまな方法によって投与することができる。これらの方法を予防的および/または治療的な処置のために用いうる。
上述したように、本発明の抑制物質は、Wntシグナル伝達に関連のある癌を治療するために用いることができる。投与用の組成物は一般に、抑制物質が薬学的に許容される担体中、好ましくは水性担体中に溶解されたものを含むと考えられる。緩衝食塩水などのさまざまな水性担体が使用可能である。これらの溶液は滅菌されており、望ましくない物質を一般に含まない。これらの組成物は、従来のよく知られた滅菌法によって滅菌することができる。組成物が、必要に応じて、生理的条件に近づけるための薬学的に許容される補助物質、例えば、pH調整剤および緩衝剤、張度調整剤など(例えば、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、乳酸ナトリウムなど)を含んでもよい。これらの製剤における活性物質の濃度は非常にさまざまであってよく、これは主として、選択した特定の投与様式および罹患生物の必要性に応じて、液体の容積、粘性、体重などに基づいて選択される。
すなわち、静脈内投与のための典型的な薬学的組成物は、罹患生物1人当たり1日につき約0.1〜10mgであると考えられる。罹患生物1人当たり1日につき0.1mgから最大約100mgまでの投与量を用いることができるが、これは特に薬剤を血流中ではなく、体腔または臓器の内腔などの隔離された部位に投与する場合である。局所外用投与の場合にはかなり高い用量が可能である。非経口的に投与可能な組成物を調製するための実際の方法は当業者には既知または明らかであると考えられ、それらは「レミントン薬学(Remington's Pharmaceutical Science)」、15th ed., Mack Publishing Company, Easton, Pennsylvania (1980)などの文献にさらに詳細に記載されている。
薬学的組成物は、投与方式に応じて、さまざまな単位投薬式剤形で投与することができる。例えば、経口投与のために適した単位投薬式剤形には、粉剤、錠剤、丸剤、カプセル剤およびロゼンジ剤が非制限的に含まれる。抗体を経口的に投与する場合には、消化から防御する必要があることは認識されている。これは通常、分子を、酸性および酵素性の加水分解に対する耐性を付与する組成物と複合体化することにより、または分子を、適切な耐性のある担体、例えばリポソームもしくは防御障壁内に封入することによって行われる。作用物質を消化から防御するための手段は当技術分野で周知である。
本発明の抑制物質(例えば、抗体)を含む組成物は、治療的または予防的な処置のために投与することができる。治療的な用途において、組成物は、疾患(例えば、乳癌)に冒された罹患生物に対して、疾患およびその合併症を治癒させる、または少なくとも部分的に停止させるのに十分な量で投与される。これを実現するのに十分な量は「治療的有効量」と定義される。この用途のために有効な量は、疾患の重症度および罹患生物の全般的な健康状態によって決まると考えられる。罹患生物が必要としかつ忍容性のある投与量および頻度に応じて、組成物の単回または多回の投与を行うことができる。いかなる場合にも、組成物は罹患生物を有効に治療するのに十分な量の本発明の作用物質を提供すべきである。罹患生物における癌の進行を防止すること、または遅らせることのできる抑制物質の量は「予防的有効量」と呼ばれる。予防的処置のために必要な具体的な用量は、罹患生物の医学的状態および病歴、治療しようとする具体的な癌、さらには年齢、体重、性別、投与経路、効率などの他の要因に依存すると考えられる。このような予防的処置は、例えば、癌が以前あった罹患生物における癌の再発を予防するため、または癌を発症する可能性が高いと疑われる罹患生物に用いることができる。
本発明の目的における「罹患生物(patient)」には、ヒトおよび他の動物、特に哺乳動物の両方が含まれる。したがって、本方法は、ヒトの治療および獣医学用途の両方に適用可能である。好ましい態様において、罹患生物は哺乳動物、好ましくは霊長動物であり、最も好ましい態様において、罹患生物はヒトである。
別の既知の癌治療法を本発明の方法と併用することができる。例えば、Wntシグナル伝達の抑制物質を、5FU、ビンブラスチン、アクチノマイシンD、シスプラチン、メトトレキサートなどの癌治療薬を細胞の標的とするため、またはそれらに対する感受性を付与するために用いることもできる。また別の態様において、本発明の方法を放射線療法などと併用することもできる。
場合によっては、抗体は、膜貫通タンパク質と複合体を形成した場合に血清補体を活性化し、それによって細胞毒性または抗原依存性細胞毒性(ADCC)を媒介するサブタイプに属する。このため、癌細胞の表面のFrizzledタンパク質を標的とする抗体を罹患生物に投与することにより、癌を治療することができる。抗体標識により、コトキシン(co-toxin)の活性化、毒素の局在化、または別の形で細胞を局所的に破壊する手段を得ることもできる。これらの態様において、抗体はエフェクター部分と結合される。エフェクター部分は、放射性標識もしくは蛍光標識などの標識性部分を含む任意のさまざまな分子であってもよく、または細胞毒性物質などの治療的部分であってもよい。
WntポリペプチドまたはFrizzledポリペプチドのワクチンとしての使用
wntシグナル伝達の抑制物質の投与以外に、Wntタンパク質もしくはFrizzledタンパク質またはそれらの免疫原性断片を、内因性タンパク質に対するHTL、CTLおよび抗体応答を誘発するためのワクチン組成物として投与することもできる。このようなワクチン組成物には、例えば、以下のものが含まれうる:脂質化ペプチド(例えば、Vitiello et al. (1995) J. Clin. Invest. 95: 341-349を参照)、ポリ(D,L-ラクチド-co-グリコリド、「PLG」)ミクロスフェア中に封入されたペプチド組成物(例えば、Eldridge et al. (1991) Molec. Immunol. 28: 287-294;Alonso et al. (1994) Vaccine 12: 299-306;Jones et al. (1995) Vaccine 13: 675-681を参照)、免疫刺激複合体に含まれるペプチド組成物(ISCOMS;例えば、Takahashi et al. (1990) Nature 344: 873-875;Hu et al. (1998) Clini. Exp. Immunol. 113: 235-243を参照)、多抗原ペプチド系(MAP;例えば、Tam (1988) Proc. Nat'l Acad. Sci. USA 85: 5409-5413;Tam (1996) J. Immunol. Methods 196: 17-32を参照);ウイルス送達ベクター(Perkus et al., p. 379、Kaufmann(ed. 1996)「ワクチン開発における概念(Concepts in Vaccine Development) 」de Gruyter;Chakrabarti et al. (1986) Nature 320: 535-537;Hu et al. (1986) Nature 320: 537-540;Kieny et al. (1986) AIDS Bio/Technology 4: 790-795;Top et al. (1971) J. Infect. Dis. 124: 148-154;Chanda et al. (1990) Virology 175: 535-547)、ウイルスまたは合成物由来の粒子(例えば、Kofler et al. (1996) J. Immunol. Methods 192: 25-35;Eldridge et al. (1993) Sem. Hematol. 30: 16-24;Falo et al. (1995) Nature Med. 7: 649-653を参照)。
ワクチン組成物は往々にしてアジュバントを含む。多くのアジュバントは、抗原を急速な異化作用から防御するための物質(例えば、水酸化アルミニウムまたは鉱油)および免疫応答の誘発物質(例えば、リピドA、百日咳菌または結核菌由来のタンパク質)を含む。ある種のアジュバントは市販されており、これには例えば、フロイント不完全アジュバントおよび完全アジュバント(Difco Laboratories, Detroit, MT);Merckアジュバント65(Merck and Company, Inc., Rahway, NJ);AS-2(SmithKline Beecham, Philadelphia, PA);水酸化アルミニウムゲル(alum)またはリン酸アルミニウムなどのアルミニウム塩;カルシウム、鉄または亜鉛の塩;アシル化チロシンの不溶性懸濁液;アシル化糖;陽イオン性または陰イオン性に誘導体化された多糖類;ポリホスファゼン;生分解性ミクロスフェア;モノホスホリルリピドAおよびクィルA(quil A)がある。GM-CSF、インターロイキン-2、-7、-12などのサイトカイン、およびその他の類似の増殖因子をアジュバントとして用いることもできる。
ワクチンは核酸組成物として投与することができ、この場合には、WntポリペプチドもしくはFrizzledポリペプチドまたはそれらの断片をコードするDNAまたはRNAを罹患生物に投与する。例えば、Wolff et. al. (1990) Science 247: 1465-1468;米国特許5,580,859号;第5,589,466号;第5,804,566号;第5,739,118号;第5,736,524号;第5,679,647号;およびWO 98/04720号を参照されたい。DNAを用いる送達技術の例には、「裸のDNA」、促進性(ブピバカイン、ポリマー、ペプチドを介した)送達、陽イオン脂質複合体および粒子を介した送達(「遺伝子銃」)または圧力による送達(例えば、米国特許第5,922,687号)が含まれる。
遺伝子をDNAワクチンとして用いる方法は周知であり、これには、罹患生物における発現のために、所望の遺伝子またはその部分を調節性プロモーターまたは組織特異的プロモーターの制御下に配置することが含まれる。DNAワクチン用に用いられる遺伝子は完全長Wntタンパク質もしくはFrizzledタンパク質をコードしてもよく、またはタンパク質の部分をコードしてもよい。
いくつかの態様において、DNAワクチンは、アジュバント分子をコードする遺伝子をDNAワクチンとともに含む。このようなアジュバント分子には、DNAワクチンによってコードされるポリペプチドに対する免疫原性応答を増大させるサイトカインが含まれる。
治療的または予防的な免疫処置を目的として、本発明のペプチドをウイルスベクターまたは細菌ベクターによって発現させることができる。発現ベクターの例には、ワクシニアまたは鶏痘などの弱毒化ウイルス宿主が含まれる。このアプローチは、ワクシニアウイルスを、例えば、WntポリペプチドもしくはFrizzledポリペプチドまたはポリペプチド断片をコードするヌクレオチド配列を発現させるためのベクターとして用いることを含む。宿主に導入されると、組換えワクシニアウイルスは免疫原性ペプチドを発現し、それによって免疫応答を誘発する。免疫処置プロトコールに有用なワクシニアベクターおよび方法は、例えば、米国特許第4,722,848号に記載されている。もう1つのベクターにはBCG(Bacille Calmette Guerin)がある。BCGベクターは、Stover et al. (1991) Nature 351: 456-460に記載されている。治療投与または免疫処置のために有用な他のさまざまなベクターとしては、例えば、アデノウイルスベクターおよびアデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクター、チフス菌ベクター、無毒化した炭疽菌毒素ベクターなどが明らかであると考えられる。例えば、Shata et al. (2000) Mol. Med. Today 6: 66-71;Shedlock et al. (2000) J. Leukoc. Biol. 68: 793-806;およびHipp et al. (2000) In Vivo 14: 571-85を参照されたい。
実施例
以下の実施例は、請求する本発明を例示するために提供されるものであり、それを限定するためのものではない。
材料および方法
細胞株
ヒト非小細胞肺癌(NSCLC)細胞株(NCI-H460、NCI-H838およびNCI-A549)、正常肺細胞株(CCL-75、線維芽細胞)、ヒト乳癌細胞株(MCF7およびSKBR-3)、ヒト結腸癌細胞株SW480、およびヒト中皮腫細胞株H28は、American Type Culture Collections(ATCC)(Manassas, VA)から入手した。別のヒト中皮腫細胞株NCI-H290はNIH(Frederick, MD)から入手し、RENはUniversity of Pennsylvania(Philadelphia, PA)のDr. Steven Albeldaの研究室から寄贈いただいた。正常中皮細胞株LP-9はHarvard University(Boston, MA)のCell Culture Core Facilityから入手した。ヒト骨肉腫癌細胞株Saos-2はUCSFのCell Culture Facilityから入手した。マウス乳腺細胞株:エンプティベクターをトランスフェクトしたC57MG(C57MG)およびWnt-1をトランスフェクトしたC57MG(C57Wnt-1)をUCSF Cancer CenterのDr. Frank McCormickの研究室から寄贈いただいた。これらの細胞は、CCL-75、LP-9およびSaos-2を除き、10%ウシ胎仔血清、ペニシリン(100IU/ml)およびストレプトマイシン(100μg/ml)を加えたRPMI 1640中で培養した。CCL-75は、2mM L-グルタミン、1.0mMピルビン酸ナトリウム、0.1mM非必須アミノ酸、1.5g/L炭酸水素ナトリウムおよび10%ウシ胎仔血清を含む、EarleのBSSを加えたMEM中で培養した。LP-9は、15%CS+10ng/ml EGF+0.4μg/ml HCを含むM199中で培養した。Saos-2は、2mM L-グルタミンおよび15%ウシ胎仔血清を加えたMcCoyの5a培地中で培養した。正常ヒト小気道上皮細胞(SAEC)および気管支上皮細胞(BEC)はClonetics社(Walkersville, MD)から入手し、Clonetics SAGM(商標)Bullet Kit中で培養した。細胞はすべて、5%COを含む加湿インキュベーター内で37℃で培養した。
抗体と細胞とのインキュベーション
実験の前日に細胞を6ウェルプレートに播いた。続いて、正常培地を種々の濃度の抗体を含む培地に交換し、細胞を5%CO2を含む加湿インキュベーター内で37℃でインキュベートした。さまざまな時点で、さらなる分析のために標準的なプロトコールを用いて細胞を収集した。精製抗Wnt-1抗体および抗Wnt-2ポリクローナル抗体(ヤギ由来のIgG)は、Santa Cruz Biotechnology社(Santa Cruz, CA)から入手した。対照として、精製抗SOCS-3(SOCS-3は細胞質タンパク質である)ポリクローナル抗体(ヤギ由来のIgG)(同じくSanta Cruz Biotechnology社(Santa Cruz, CA)から)を並行実験に用いた。
ウエスタンブロット法
以前に記載されている標準的なプロトコール(Yoshikawa et al., Nat Genet, 28: 29-35 (2001))を用いた。抗Dvl3抗体、抗サービビン(survivin)抗体および抗Bcl-2抗体は、Santa Cruz Biotechnology(Santa Cruz, CA)から入手した。抗カスパーゼ3抗体、抗カスパーゼ9抗体はOncogene社(Cambridge, MA)から入手した。抗β-アクチン抗体、抗Smac/Diablo抗体および抗β-カテニン抗体はCell Signaling Technology, Inc.(Beverly, MA)から入手した。抗シトクロムc抗体はBD Biosciences社から入手した。抗Active(登録商標)-JNK抗体はPromega社(Madison, WI)から入手した。β-カテニンの変化を検出する目的には、以前の記載の通りにサイトゾル抽出物を調製して検査した(Wang et al., Mol Cell Biol, 19: 5923-5929 (1999))。
アポトーシス分析
細胞をトリプシン処理によって収集し、アネキシンV FITCアポトーシス検出キット(Oncogene, Cambridge, MA)を製造元のプロトコールに従って用いて染色した。続いて、染色した細胞をフローサイトメトリー(FACScan;Decton Dickinson, Franklin Lake, NJ)により直ちに分析した。ホスファチジルセリンが露出しているが細胞膜は損なわれていない初期アポトーシス細胞はアネキシンV-FITCと結合したがヨウ化プロピジウムを排出した。壊死段階または後期アポトーシス段階にある細胞はアネキシンV-FITCおよびヨウ化プロピジウムのいずれによっても標識された。
RNA干渉の分析
実験の24hr前に、抗体を含まない新たな培地を入れた6ウェルプレートに細胞を播いた。イオン交換HPLCにより精製されたsiRNA(Wnt-1siRNAおよび非サイレンシング性siRNA対照、純度は97%を上回る)はQiagen-Xeragon社(Germantown, Maryland)から購入した。凍結乾燥されたsiRNAをアニーリング緩衝液に溶解し、再び加熱して95℃に1minおいた後に37℃で1hrのインキュベーションを行った。siRNA分析は以前に記載されたプロトコール(Elbashir et al., Methods 26, 199-213, 2002)に若干の変更を加えた上で行った。siRNAのトランスフェクションの後にプレートを37℃で3〜5日インキュベーションし、その後にさらに分析を行った。
インビボ腫瘍抑制試験
ヒトNSCLC細胞株H460およびヒト乳癌細胞株MCF-7は前項に記載した通りに培養した。5〜10週齡の雌性ヌードマウスの背部に腫瘍細胞4×10個を容積100μlとして注射した。続いてマウスにモノクローナル抗Wnt-1抗体、対照モノクローナル抗体またはPBS緩衝液を同様に容積100μlとして腹腔内注射した。モノクローナル抗Wnt-1抗体および対照モノクローナル抗体はいずれも用量50μgを注射した。注射はそれぞれ週1回行った。各群はマウス5匹からなるものとした。腫瘍サイズは標準的な技法に従って1週間間隔で測定した。
統計分析
示したデータは平均値(±S.E.M.)を表している。異なる処理および細胞株の比較にはExcel中の独立T検定を用いた。
結果
実施例1:抗Wnt抗体はさまざまなヒト癌細胞においてアポトーシスを特異的に誘導する
本発明者らは、抗Wnt抗体を用いてWntシグナル伝達を中和することによってこれらの癌における細胞の生存を抑制しうるか否かを検討した。さまざまな癌細胞株を抗Wnt-1抗体またはWnt-2抗体(10μg/mlで)とともに約32hrインキュベートした結果(本発明者らは、3種類の非小細胞肺癌(NSCLC)、2種類の乳癌、2種類の大腸癌、1種類の肉腫および2種類の中皮腫細胞株を検討した)、本発明者らは、1種類の大腸癌細胞株SW480を除き(これは4〜8%に過ぎなかった)、いずれの抗体も顕著な細胞死(30%〜97%)を引き起こしうることを見いだした(図1)。これに対して、細胞質タンパク質(SOCS3)に対する抗体(10μg/ml)はこれらの細胞株のほとんどで劇的な細胞毒性を示さなかった(4%〜45%)(図1)。興味深いことに、これらの抗体はいずれも、本発明者らが検討した2種類の正常細胞株に対しては劇的な影響を及ぼした(一方は正常肺線維芽細胞(CCL-75)であり、もう一方は正常中皮細胞株(LP-9)であった)(2%〜8%)(図1)。
抗Wnt抗体によって媒介された細胞死がアポトーシスの変化に起因するか否かを明らかにするために、約32hrの抗体処理の後に細胞をアネキシンV-FITCおよびヨウ化プロピジウム(PI)で染色し、その後にフローサイトメトリーを用いてアポトーシス分析を行った。図2に示したように、本発明者らは、本発明者らが検討した癌細胞株では細胞死の大半(28%〜91%)がアポトーシスを介したものであることを見いだした。さらに、2種類の正常細胞株では抗体とのインキュベーション後にアポトーシスは検出されなかった(2%〜6%のみ)(図2)。これらの結果から、抗Wnt抗体を用いてWntシグナル伝達を阻止することにより、癌細胞におけるアポトーシスを特異的に誘導し、正常細胞では誘導しないことが可能なことが示された。
実施例2:抗Wnt抗体により誘導されるアポトーシスはWnt発現と相関する
抗Wnt抗体により誘導されるアポトーシス作用がWntタンパク質の状態と関連するか否かを調べるために、本発明者らは、本発明者らが検討した細胞株におけるWnt発現を検討した。図3Aに示したように、本発明者らは、抗Wnt-1抗体処理に対する感受性があった癌細胞株ではWnt-1の発現レベルが高いことを見いだした。しかし、抗体処理に対する感受性がなかった正常肺細胞株CCL-75(図1参照)では、Wnt-1発現はわずかに過ぎなかった。2種類の初代正常肺細胞(小気道上皮細胞(SAEC)および気管支上皮細胞(BEC))(図3)および正常中皮細胞株(LP-9)ではWnt-1発現は検出されなかった(非提示データ)。同様の観察所見はWnt-2発現に関しても認められた。
対照として、本発明者らは、NSCLC細胞株において、抗Wnt抗体と抗Wnt抗体に対するブロッキングペプチドとの共インキュベーションによるアポトーシス誘導を調べた。約24hrのインキュベーション後に、本発明者らは、抗Wnt抗体により誘導されるアポトーシスが、そのブロッキングペプチドによって有意に抑制されうることを見いだした(P<0.01)。以上を総合すると、これらの結果により、本発明者らが検討した細胞では抗Wnt抗体により誘導されるアポトーシスがWnt発現と相関することが示された。
実施例3:抗Wnt-1抗体により誘導されるアポトーシスは速い過程(fast process)であり、用量依存的である
本発明者らは、2種類のNSCLC細胞株:H838およびA549に対して用量および経時的推移に関する実験を行った(図4Aおよび図4B)。抗Wnt抗体との約32hrのインキュベーション後のフローサイトメトリー分析により、1μg/mlの抗体がアポトーシスを誘導しうることが示された。20μg/mlのいずれの抗体も劇的なアポトーシス細胞死を引き起こした。抗Wnt-1抗体(濃度8μg/ml)により誘導されるアポトーシスは、6hrのインキュベーション後に早くも検出可能であり、50hrのインキュベーション後にはほぼすべての細胞がアポトーシスまたは壊死を来していることが見いだされた。これに対して、対照抗SOCS3抗体は並行実験においてこれらの癌細胞に対して影響を及ぼさなかった。抗Wnt-1抗体と正常肺細胞株(CCL-75)とのインキュベーションも、時間および用量のいずれに対しても感受性がなかった。
実施例4:抗Wnt抗体により誘導されるアポトーシスはDvl-3およびサイトゾルβ-カテニンのダウンレギュレーションと相関する
Wntシグナル伝達はDvlを介してβ-カテニン/Tcf媒介性転写を活性化することが示されている。Wntシグナル伝達はサイトゾルβ-カテニンの安定化も行う。このため、本発明者らは、抗Wnt抗体により誘導されるアポトーシスが、Dvl、およびサイトゾルβ-カテニンの不安定化に依存するか否かを評価した。本発明者らは、本発明者らが検討した癌細胞において、Dvlおよびサイトゾルβ-カテニンのレベルが両方とも抗Wnt抗体処理後に劇的にダウンレギュレートされることを見いだした。これに対して、正常細胞株では抗Wnt抗体処理後にDvlおよびサイトゾルβ-カテニンのレベルの変化はいずれも認められなかった。本発明者らはまた、CK-1活性をブロックし、その結果としてDvl活性を阻害するアピゲニンで癌細胞を処理した後にもアポトーシスを検出した。サイトゾルβ-カテニンのレベルはアピゲニン処理によってダウンレギュレートされた。これらの結果から、抗Wnt抗体により誘導されるアポトーシスは、少なくとも一部には、Wnt/Frizzledシグナル伝達経路の下流要素であるDvl/β-カテニンの機能を抑制することによることが示唆された。
実施例5:抗Wnt抗体は、サービビン発現のダウンレギュレーションおよびそれに続くカスパーゼ-3の活性化によってアポトーシスを誘導する
次に本発明者らは、癌細胞において抗Wnt抗体により誘導されるこの特有のアポトーシスの分子的機序について検討した。カスパーゼ-9の活性化はアポトーシス経路を作動させること、および活性化されたカスパーゼ-9は下流の実行役であるカスパーゼ(カスパーゼ-3など)を分解して活性化することによってアポトーシス経路を増強することが明らかになっている。サービビン(アポトーシス阻害物質IAPファミリーのメンバーの1つ)は、カスパーゼ-3およびカスパーゼ-9の両方の活性化を抑制する上で重要な役割を果たす。抗Wnt抗体処理に対する感受性のある癌細胞では、切断型(活性型)のカスパーゼ-9およびカスパーゼ-3がいずれもアップレギュレートされていた。本発明者らはまた、サービビン発現がこれらの癌細胞では有意にダウンレギュレートされていることも見いだした。これに対して、抗Wnt抗体処理に対する感受性のない正常細胞株CCL-75では、切断型の両カスパーゼのアップレギュレーションもサービビン発現のダウンレギュレーションも検出されなかった。これらの結果から、抗Wnt抗体により誘導されるアポトーシスはアポトーシス阻害物質サービビンの抑制ならびにカスパーゼ-9およびカスパーゼ-3の活性化によることが示された。
実施例6:抗Wnt抗体により誘導されるアポトーシスは、ミトコンドリアからサイトゾルへのSmac/Diabloおよびシトクロムcの放出、ならびにJNK活性化と関連している
アポトーシスの過程で、Smac/Diablo(カスパーゼの第2のミトコンドリア由来活性化因子/低pIの直接的IAP結合タンパク質)は、IAPを介したカスパーゼ抑制を排除する働きをする。アポトーシスの誘発により、シトクロムcとともに、Smac/Diabloのミトコンドリア膜間腔からサイトゾルへの放出が引き起こされる。シトクロムcはApaf-1およびカスパーゼ-9を直接活性化し、Smac/Diabloは多数のIAPと相互作用して、イニシエーター性およびエフェクター性の両方のカスパーゼのIAP媒介性抑制を排除する。癌細胞ではカスパーゼ-3活性が上昇しているが正常細胞では上昇していないという上記の結果に一致するように、本発明者らは、抗Wnt抗体処理後に癌細胞のサイトゾル中ではSmac/Diabloおよびシトクロムcの両方のレベルが上昇しているが、正常細胞では上昇していないことを見いだした。本発明者らの結果は、Smac/Diabloおよびシトクロムcの両方が、それぞれサービビンおよび/または他のIAP媒介性抑制を排除すること、ならびにカスパーゼを直接活性化することにより、抗Wnt抗体により誘導されるこのアポトーシスに関与している可能性が高いことを示している。
抗Wnt抗体により誘導されるこの特有のアポトーシスがいかにして調節されているかをさらに明らかにするために、本発明者らは、アポトーシス経路の他の構成要素を検討した。驚いたことに、本発明者らは、処理後の癌細胞ではJNK活性が劇的に上昇していることを見いだした。これに対して、抗Wnt抗体処理に対する感受性がなかった正常細胞株CCL-75ではJNK活性の上昇は検出されなかった。本発明者らはまた、正常中皮細胞株におけるDvlの過剰発現がJNK活性をダウンレギュレートさせることも見いだした。さらに、CK-1活性を阻止するアピゲニンを用いたDvlの阻害によってJNK活性を上昇させることもできた。以上を総合すると、抗Wnt抗体により誘導されるアポトーシスにはJNK活性化がかかわっており、Wntシグナル伝達を阻止した後のJNK活性の上昇はDvlの不活性化による可能性が高い。
実施例7:抗Wnt-1抗体はWnt-1をトランスフェクトしたマウス乳腺細胞におけるアポトーシスを特異的に誘導する
1つの対照として、本発明者らは、抗Wnt-1抗体とのインキュベーションによって誘導されるアポトーシス作用をマウスC57MG細胞とWnt-1をトランスフェクトしたC57MG細胞との間で比較したが、これはこれらの細胞がβ-カテニンの遊離プールを有するという特徴が示されているためである。Wnt-1シグナル伝達はWnt-1をトランスフェクトしたC57MG細胞では作動しているが、非トランスフェクトC57GM細胞およびエンプティベクターをトランスフェクトしたC57GM細胞では停止していることが示されている。抗Wnt-1抗体との42hrのインキュベーション後のフローサイトメトリー分析からは、非トランスフェクトC57GM細胞およびエンプティベクターをトランスフェクトしたC57GM細胞における顕著な影響は認められなかった(インキュベーション後の細胞死が10%)。しかし、Wnt-1をトランスフェクトしたC57MG細胞では有意な細胞死が認められた(85%を上回る細胞死、P<0.001)。
Wnt-1をトランスフェクトしたC57MG細胞における抗Wnt-1誘導性アポトーシスも、Dvl-3およびサイトゾルβ-カテニンのダウンレギュレーションとつながりがあり、サービビン発現のダウンレギュレーションおよびそれに続くカスパーゼ-3の活性化を介しており、さらにSmac/Diabloおよびシトクロムcのミトコンドリアからサイトゾルへの放出およびJNK活性化を介しているように思われる。Wnt-1をトランスフェクトしたC57MG細胞株は本発明者らの発見のための理想的な制御モデルとして役立ち、これらのデータにより、ヒト癌細胞における本発明者らの所見に対してさらに裏づけが得られた。
実施例8:抗Wnt-1モノクローナル抗体はインビトロでは種々のヒト癌細胞におけるアポトーシスの誘導を示し、インビボでは腫瘍増殖を抑制する
ヒトWnt-1由来のペプチドに対して抗体を産生させた。詳細には、SEQ ID NO: 2およびSEQ ID NO: 4を用いてハイブリドーマ細胞株を作製した。モノクローナル抗体の一方は、ヒトWnt-1のアミノ酸201〜212に対応する合成ペプチド(Ac-HNNEAGRTTVFS-アミド)に対して産生させた。この抗体を、プロテインAを用いてアフィニティー精製した。さまざまなヒト細胞株におけるWnt-1発現をこのモノクローナル抗体を用いて評価した。細胞株には、3種類の乳癌細胞株(HuL100、MCF-7およびSKBR-3)、5種類の悪性胸膜中皮腫細胞株(REN、H513、H290、MS-1およびH28)、4種類の非小細胞肺癌(NSCLC)細胞株(A549、H460、H838およびH1703)、2種類の肉腫細胞株(MES-SAおよびSaos-2)、1種類の結腸癌細胞株SW480および4種類の正常細胞(小気道上皮細胞(SAEC)および正常ヒト気管支上皮細胞(NHBE)、LP-9およびCCL-75)が含まれる。本発明者らは、Wnt-1発現が認められないかわずかに過ぎなかったA549、MES-SA、H513、SKBR-3およびSW480を除いて、これらの癌細胞株の大半ではWnt-1発現レベルが比較的高いことを見いだした。2種類の初代正常肺細胞(SAECおよびNHBE)ではWnt-1発現が検出されなかった。正常肺線維芽細胞CCL-75および正常中皮細胞株(LP-9)ではわずかなWnt-1発現しか検出されなかった。
対照実験として、本発明者らは、Wnt-1をトランスフェクトしたマウス乳腺細胞(C57Wnt-1)では同じモノクローナル抗体を用いてWnt-1発現が認められ、エンプティベクターをトランスフェクトした細胞(C57mv7)では認められないことを確かめた。
培養細胞において抗Wnt-1モノクローナル抗体が天然型のWnt-1タンパク質と特異的に結合しうるか否かを検証するために、本発明者らはいくつかの細胞株からの細胞抽出物において、モノクローナル抗体単独、またはブロッキングペプチド(抗体の30倍の量)とともにプレインキュベートすることによってブロックしたモノクローナル抗体を用いて免疫沈降法を行った。C57Wnt-1細胞およびC57mv7細胞をそれぞれ陽性対照および陰性対照として用いた。NSCLC細胞株(H460)および乳癌細胞株(MCF-7)も検討した。C57Wnt-1、H460およびMCF-7細胞ではWnt-1タンパク質は抗Wnt-1モノクローナル抗体によって沈降した。これに対して、抗Wnt-1モノクローナル抗体をブロッキングペプチドとプレインキュベートした場合には、これらの細胞においてWnt-1タンパク質を沈降させるその能力はブロックした。陰性対照では、Wnt-1タンパク質は、抗Wnt-1モノクローナル抗体単独によってもブロッキングペプチドとプレインキュベートしたモノクローナル抗体によっても沈降しなかった。これらのデータは、抗Wnt-1モノクローナル抗体が天然型のWnt-1タンパク質と特異的に結合することを示している。
次に本発明者らは、NSCLC細胞株H460および乳癌細胞株MCF-7をこのモノクローナル抗体で処理した。約48〜72hrのインキュベーション後に、本発明者らはいずれの細胞株においても有意な細胞死を認めた(抗体10μg/mlで60%を上回る細胞死、P<0.001)(図5a)。しかし、対照モノクローナル抗体による処理後にはいずれの細胞株でも顕著な影響は認められなかった。細胞の死滅は主としてアポトーシスの誘導によるものであった(図5b)。このモノクローナル抗体によるアポトーシスの誘導は用量および時間に依存的であった(H460では抗体10μg/mlとの約72hrのインキュベーション後に60%を上回る細胞死、MCF-7では抗体10μg/mlとの約48hrのインキュベーション後に40%を上回る細胞死)(図5c)。本発明者らは、乳癌HuL100、NSCLC H1703、中皮腫H28およびRENならびに肉腫Saos-2を含む、Wnt-1過剰発現がみられた他の癌細胞株に対しても処理を行った。同様の結果が認められた。
特異性に関する対照として、本発明者らは、H460、MCF-7およびH1703において、ブロッキングペプチド(抗体の30倍の量)と一晩プレインキュベートすることによってブロックしたモノクローナル抗体を用いてアポトーシスの誘導を検討した。48hrのインキュベーションの後に、本発明者らは、抗Wnt-1抗体により誘導されるアポトーシスをそのブロッキングペプチドによって有意に抑制しうることを見いだした(P<0.003)。同じ用量のブロッキングペプチドのみではこれらの細胞の生存性は影響されなかった(8.0μg/mlで48hr)。陰性対照として、本発明者らは、Wnt-1発現の明らかな発現がみられないA549細胞を用いた。モノクローナル抗体単独(8.0μg/ml)による、またはブロッキングペプチド(抗体の30倍の量)とのプレインキュベーションによってブロックしたモノクローナル抗体による約48hrの処理後に、アポトーシスの明らかな誘導は検出されなかった。この結果はA549細胞におけるWnt-1発現の状態と一致している。
抗Wnt-1モノクローナル抗体は、Wnt/β-カテニンシグナル伝達経路を抑制し、シトクロムcの放出、サービビン発現のダウンレギュレーションおよびそれに続くカスパーゼ-3の活性化によってアポトーシスを誘導する
本発明者らは、検討した癌細胞において、Dvl-3およびサイトゾルβ-カテニンのレベルならびにサイクリンD1レベルがいずれも抗Wnt-1モノクローナル抗体による処理後にダウンレギュレートされることを見いだした。本発明者らはこれらの細胞におけるTOP/FOPアッセイも行い、モノクローナル抗体による処理後にはTCF依存的転写活性が低下していることを見いだした。これに対して、正常細胞およびWnt-1発現がみられない(またはわずかに過ぎない)癌細胞では、抗Wnt-1モノクローナル抗体による処理後に、Dvl、サイトゾルβ-カテニンのレベルおよびTCF依存的転写活性の変化は認められなかった。これらの結果は、抗Wnt-1モノクローナル抗体により誘導されるアポトーシスが、少なくとも一部には、Dvl/β-カテニン依存的な転写の抑制によることを示唆している。
抗Wnt-1モノクローナル抗体がアポトーシスを誘導したH460細胞において、本発明者らは、切断型(活性型)のカスパーゼ-3がアップレギュレートされていることを見いだした。カスパーゼ3活性に一致するように、本発明者らは、H460細胞のサイトゾル中のシトクロムcのレベルが抗Wnt-1モノクローナル抗体処理後に上昇することを検出した。さらに、本発明者らは、これらのH460細胞では抗体処理後にサービビン発現がダウンレギュレートすることを見いだした。
Wnt-1シグナル伝達はC57Wnt-1細胞では作動しているが、C57mv7細胞では停止していることが別の者によって示されている11。対照として、本発明者らは、抗Wnt-1モノクローナル抗体がC57Wnt-1細胞におけるWnt/β-カテニンシグナル伝達を抑制しうるか否かを検証した。ウエスタン分析C57mv7により、C57Wnt-1細胞では抗Wnt-1モノクローナル抗体処理(8.0μg/mlで48hr)後にサイトゾルβ-カテニンおよびサイクリンD1のレベルがいずれもダウンレギュレートされるが、C57mv7細胞ではサイクリンD1発現が検出されないことが示された。C57mv7細胞におけるサイトゾルβ-カテニンレベルも抗Wnt-1モノクローナル抗体処理後に変化しないままであった。これに一致して、TOP/FOPアッセイによって測定したTCF依存的転写活性もC57Wnt-1細胞では低下していたが、C57mv7細胞では変化しないままであった。これらのデータは、検討した細胞株において、抗Wnt-1モノクローナル抗体がWnt/β-カテニンシグナル伝達を抑制することを示している。
RNA干渉
本発明者らは、Elbashirらによって記載されたプロトコール(Elbashir et al., Methods 26, 199-213, 2002)に従って、RNAiを用いることによってWnt-1発現のサイレンシングを行うことの影響を調べた。モノクローナル抗Wnt-1抗体の場合と同様に、Wnt-1 siRNAによる3〜5日間の処理により、Wnt-1を発現する癌細胞株、例えばMCF-7細胞においてアポトーシスが誘導された。100nMのWnt-1 siRNAでは顕著なアポトーシスが誘導されたが、非サイレンシング性siRNA対照(100nM)およびトランスフェクション試薬のいずれによってもアポトーシスは誘導されなかった。本発明者らは、Wnt-1 siRNA処理(100nMで72hr)後のWnt-1発現のサイレンシングをウエスタン分析によって確かめた(非サイレンシング性siRNAを対照として用いた(100nMで72hr))。アポトーシス作用がWnt-1シグナル伝達の抑制と相関するか否かを明らかにするために、本発明者らは、Dvl-3、サイトゾルβ-カテニンおよびサービビンの発現レベルがWnt-1 siRNA処理後にダウンレギュレートされることも示した。
インビボでの癌増殖の抑制
次に本発明者らは、モノクローナル抗Wnt-1抗体がインビボでの腫瘍増殖を抑制しうるか否かを検討した。本発明者らはH460細胞およびMCF-7細胞のそれぞれをヌードマウスに注入した。続いてマウスに対して50μgのモノクローナル抗Wnt-1抗体、対照モノクローナル抗体またはPBSを腹腔内(i.p.)注射により週1回注射した。図6Aは、対照抗体では明らかな抑制はみられなかったが、モノクローナル抗Wnt-1抗体はそのような用量でいずれの型の腫瘍も有意に抑制したことを示している(P<0.001)。腫瘍増殖の抑制は、モノクローナル抗Wnt-1抗体を腫瘍細胞接種の直後に開始した場合だけでなく(図6A)、腫瘍がすでに成立した後(腫瘍細胞接種の1週後)に処置を開始した場合にも認められた(P<0.005)(図6B)。MCF-7細胞を用いた試験における(図6C)、抗Wnt-1モノクローナル抗体および対照モノクローナル抗体による3週間の処置後の腫瘍体積を示している。各群当たりの動物数は5匹である。抗Wnt-1 mAb注射後に腫瘍が生じたマウスはいなかったが、対照マウスでは5匹中3匹で腫瘍が生じた(腹腔内注射はMCF-7細胞の接種から1週間後に週1回行った)。
上記の試験に用いた抗Wnt-1モノクローナル抗体のV領域およびVL領域の配列を決定した。CDR領域およびフレームワーク(FR)領域をRT-PCRによってハイブリドーマ細胞株から増幅し、アガロースゲルにより分析した。V領域およびV領域の配列は図7に示されている。
実施例9:Wnt-2の発現、およびWnt-2モノクローナル抗体により誘導されるアポトーシス
多数のヒト癌標本およびそれに対応する非癌性組織標本において、Wnt-2遺伝子の発現を分析した。放射標識したWnt-2cDNAプローブを、19種類のヒト腫瘍標本およびそれに対応する非癌性組織標本を含むCancer Profiling Array II(BD Biosciences, Inc.)とハイブリダイズさせた。Wnt-2は結腸、胃、直腸および甲状腺の腫瘍の大半において、それらの正常対応物と比較して過剰発現されていた。
ヒトWnt-2のアミノ酸49〜63(SSQRQLCHRRPDVMR)に対応する合成ペプチドに対するモノクローナル抗体を産生させた。この抗体をプロテインAを用いてアフィニティー精製した。アポトーシスに対するWnt-2モノクローナル抗体の影響をヒト黒色腫FEMX細胞およびLOX細胞で調べた。その結果、抗Wnt-2モノクローナル抗体はFEMXおよびLOXヒト黒色腫細胞におけるアポトーシスを誘導したことが示されている。この抗体は、実施例8の抗Wnt-1モノクローナル抗体と同じく、ヒト結腸癌HCT-116細胞およびSW480細胞でもアポトーシスを誘導した。
上記の試験に用いた抗Wnt-1モノクローナル抗体のV領域およびVL領域の配列を決定した。CDR領域およびフレームワーク(FR)領域をRT-PCRによってハイブリドーマ細胞株から増幅し、アガロースゲルにより分析した。V領域およびV領域の配列は図7に示されている。
実施例10:中皮腫ではDvlの活性化によってβカテニンの過剰発現がみられ、βカテニンの転写活性は腫瘍形成能と相関している
本発明者らはさらに、中皮腫におけるwntシグナル伝達の役割を調べた。本発明者らは、ほとんどの中皮腫細胞がDvl-3を過剰発現することを見いだした。ウエスタンブロット法を用いて中皮腫細胞におけるDvl-3およびサイトゾルβ-カテニンの発現を調べた。ウエスタンブロット分析により、10件の新鮮な悪性中皮腫組織のうち8件が、対応する自己由来の正常胸膜組織対照と比較して、Dvl-3タンパク質を過剰発現すること、およびサイトゾルβ-カテニンが増加していることが示された。さらに、検討した別の5種類の悪性中皮腫細胞(2種類の初代悪性胸膜中皮腫培養細胞ならびに3種類の細胞株LRK1A、RENおよびH513)では、正常胸膜対照に比して、Dvl-3およびサイトゾルβ-カテニンのレベルが上昇していた。腫瘍細胞のいくつかに対する免疫組織化学分析により、細胞質性、核および膜結合性のβ-カテニンが示された。ウエスタンブロット法によって検討した例および2件の悪性浸出液を含め、13件の中皮腫組織においてβ-カテニンのエクソン3の変異は認められなかった。エクソン3を変異分析のために選択したが、これはそれが、活性化型変異を含むことが以前から判明しているβ-カテニンのNH2末端の調節ドメインをコードするためである。さらに、本発明者らによれば、3種類の中皮腫細胞株(LRK1A、RENおよびH513)においてβ-カテニンの全コード領域に変異は検出されなかった。
Tcf依存的ルシフェラーゼレポーター遺伝子を用いてβ-カテニンの転写活性も検討した。試験対象のすべての腫瘍において、ウエスタンブロット分析を用いてAPC、GSK-3βおよびTcf4の発現を確かめた。Tcf-β-カテニンタンパク質複合体によって媒介される転写活性を、Dvlおよびサイトゾルβ-カテニンの有意な過剰発現がみられた中皮腫細胞株におけるレポーター遺伝子活性に対する比としてアッセイした。細胞に対して、多量体化した野生型または変異型のTcf結合モチーフをホタルルシフェラーゼcDNAの上流に含むpTOPFLASHまたはpFOPFLASHレポーター構築物のいずれかを、ウミシイタケルシフェラーゼcDNAを含むpRL-TK内部対照レポーター構築物とともに一時的にトランスフェクトした。Tcfを介した遺伝子転写を24h後のpTOPFLSH:pFOPFLLASHルシフェラーゼ活性(それぞれpRL-TKレポーターのルシフェラーゼ活性に対して補正した)の比によって評価した。
悪性胸膜中皮腫浸出液由来の細胞、LRK1A、RENおよびH513細胞株を含む、サイトゾルβ-カテニンレベルの高い中皮腫細胞は、β-カテニンのTcfを介した遺伝子転写活性(pTOPFLASH/pFOPFLASH)に関して有意に高い倍率の増加(1.5〜2.4倍、P<0.01)を示した。これに対して、サイトゾルβ-カテニンの発現がわずかに過ぎなかった正常中皮細胞では差が認められなかった。
Tcf β-カテニンを介したレポーターアッセイにおけるβ-カテニンの転写活性(Gal4-β-カテニン融合タンパク質の発現下でのレポーターアッセイによって確認)により、中皮腫細胞を転写活性が陽性であるか陰性であるかに分類した。中皮腫細胞において、β-カテニンのサイトゾル発現はアピゲニン(これはカゼインキナーゼIIの崩壊を通じてDvlを分解しうる)およびPDZ-Dvlの添加によって抑制され、野生型Dvlによって増強された。さらに、PDZ-DvlはTef依存的転写活性を抑制した。PDZ-Dvlの安定的な発現は、β-カテニンの転写活性が陽性であった中皮腫細胞におけるコロニー形成を抑制したが、β-カテニンの転写活性が陰性であった中皮腫細胞は安定的なコロニー形成を示した。Tef依存的転写およびGal4-β-カテニン融合タンパク質に関して本発明者らが確認した所見は、中皮腫細胞における腫瘍形成能と高度に相関していた。
Dvl-3は、中皮腫細胞においてサイトゾルβ-カテニンを安定化する。本発明者らは、胸水由来の新鮮な悪性中皮腫細胞がDvl-3タンパク質の過剰発現を示し、サイトゾルβ-カテニンの発現を伴うことをウエスタンブロット分析によって確かめた。β-カテニン領域のホモ接合性欠失を有するH28細胞株を除き、Dvl-3の発現が高度な検査した他のすべての悪性細胞は、正常胸膜組織由来の細胞よりもサイトゾルβ-カテニンの発現が著しく高度であった。これらの結果は、中皮腫細胞ではDvl-3の活性化によってβ-カテニンが膜から細胞質および核に移行することを示している。
β-カテニンは中皮腫細胞においてTcf依存的転写を活性化する。Dvlおよびサイトゾルβ-カテニンの明らかな過剰発現がみられる中皮腫細胞株、ならびにホモ接合性欠失のためにβ-カテニンの発現はみられないがDvlの発現は有する別の中皮腫細胞株H28において、レポーター遺伝子分析により、複合体によって媒介される転写活性化の決定および比較を行った。細胞に対して、多量体化した野生型または変異型のTcf結合モチーフをホタルルシフェラーゼcDNAの上流に含むpTOPFLASHまたはpFOPFLASHレポーター構築物のいずれかを、ウミシイタケルシフェラーゼcDNAを含むpRL-TK内部対照レポーター構築物とともに一時的にトランスフェクトした。Tefを介した遺伝子転写を24h後のpTOPFLSH:pFOPFLLASHルシフェラーゼ活性(それぞれpRL-TKレポーターのルシフェラーゼ活性に対して補正した)の比によって評価した。サイトゾルβ-カテニンの発現が高度であった中皮腫細胞のうち、中皮腫患者1例の悪性浸出液、LRK1AおよびRENはpTOPFLASHレポーターの転写活性が1.8〜2.4倍高く、H290およびH513は1.4〜1.5倍の高さであった。これに対して、サイトゾルβ-カテニンの発現がみられないかわずかであったH28および正常中皮細胞ではpTOPFLASH活性とpFOPFLASH活性との間に差が認められなかった。これらの結果は、β-カテニンの多くは中皮腫細胞において伝達物質の可能性があることを示している。
Gal4-β-カテニンは中皮腫細胞においてpG5を活性化する。さらに、中皮腫細胞株には必要な転写機構が存在しないという可能性を否定するために、中皮腫細胞におけるβカテニンによる転写活性の制御をGAL4-β-カテニン構築物を用いて測定した。GAL4-β カテニン融合タンパク質を転写するpSG424-GAL4-β-カテニンと、CATレポーター構築物であるpG5とのコトランスフェクションの後に、GAL4-β-カテニンにより媒介される遺伝子転写を測定した。バックグラウンドの活性化レベルを除外するために、これらの活性をpG5レポーター構築物のCAT活性に対して標準化した。Flag抗体を用いるウエスタンブロット分析によれば、Gal4-β-カテニンタンパク質はトランスフェクトしたすべての中皮腫で発現されていた。LRK1A、RENおよびH28細胞は、pSG-GAL4-β-カテニンおよびpG5レポーター構築物のコトランスフェクション後に、pG5の対照トランスフェクションと比較して10〜25倍の活性上昇を示した。Hela細胞は25倍の上昇を示した。これに対して、H513は数倍の上昇を示し、H290はバックグラウンド活性のみを示した。これらの高い活性から、β-カテニンの多い中皮腫はLRK1AおよびRENでは転写活性が可能であるが、H290ではTcf依存的転写の活性化は高度であるもののそれを行えないことが確かめられた。
アピゲニンはDvlの分解を誘導し、これはサイトゾルβ-カテニンの安定性をもたらす。アピゲニンは乳腺上皮細胞においてカゼインキナーゼIIの抑制を介してDvlおよびβ-カテニンの分解を促進し、細胞増殖の抑制をもたらす。アピゲニンを培地に添加することにより、(Dvlおよびサイトゾルβ-カテニンを分解する)48時間の処理の過程で、LRK1A、RENおよびH290の増殖は抑制された。これらの結果は、カゼインキナーゼIIによるDvlの活性化が、一部には、中皮腫細胞におけるβ-カテニンの移行を調節していることを示唆する。
PDZ-Dvlは、中皮腫細胞において、内因性Dvlの機能およびサイトゾルβ-カテニンの安定性を抑制する。Dishevelledタンパク質は、3つの保存的なドメイン、すなわち、Wnt拮抗性タンパク質Axinに存在するDIXドメイン;タンパク質-タンパク質相互作用に関与するPDZドメイン、およびおよびRho GTPアーゼを調節するタンパク質に認められるDEPドメインを有する。3つの保存的なドメインの機能は、哺乳細胞において、β-カテニンのアップレギュレーションのため、およびLEF-1を介した転写のために必要である。293T細胞に対するpCS-マウスDvl-1のトランスフェクションは、他の研究者の所見と一致して、β-カテニンのTcfを介した遺伝子転写活性の15倍の上昇を引き起こした。この活性は、pCS-cDNAをコードするΔPDZDvl-1コトランスフェクションにより、pCS-マウスDvl-1構築物によって抑制された。さらに、LRK1Aにおけるβ-カテニンのTef依存的転写活性は、pCS-ΔPDZ-Dvl-1のトランスフェクションによって低下した(2.1倍から1.3倍に、P<0.05)が、pCS-Dvl-1のトランスフェクションはβ-カテニンのTcf依存的転写活性を増強し(2.1倍から3.8倍に、P<0.05)、このことはこれらの細胞におけるβ-カテニンのTcfを介した転写がDvl.bによって高度に調節されることを示している。
悪性胸膜中皮腫における別のWnt経路活性化に関して検討するために、本発明者らは、ΔPDZ-Dvl-1および野生型Dvl-1を、LRK1A、RENおよびH513細胞株のそれぞれに対してレトロウイルス性にトランスフェクトした。pLXN-ΔPDZ-Dvl-1のレトロウイルス性トランスフェクションによってΔPDZ-Dvl-1タンパク質の発現が誘導され、これは検討したすべての細胞において、サイトゾルβ-カテニンの発現を対照と比較して有意に低下させた(P<0.05)。これらの結果は、中皮腫細胞においてDvlがサイトゾルβ-カテニンを調節することを示している。
Atlasヒト癌1.2アレイを用いたところ、RENにおけるc-myc発現はΔPDZ-Dvl-1トランスフェクションによってダウンレギュレートされることが示された。一方、Wnt/β-カテニン経路の標的遺伝子の1つであることが確かめられているCOX-2は、ウエスタンブロット分析を用いるとΔPDZ-Dvl-1トランスフェクションによってダウンレギュレートされていた。
ΔPDZ-Dvlのトランスフェクションは軟寒天および無胸腺マウスにおいて中皮腫細胞株の腫瘍形成能を抑制する
本発明者らは、Dvl/β-カテニン経路の役割を、悪性胸膜中皮腫細胞株における細胞増殖と関連付けながら検討した。本発明者らは、エンプティベクターを対照として用いるレトロウイルス性トランスフェクションにより、LRK1A、RENおよびH513においてΔPDZ-Dvl-1の発現を誘導した。選別後に、細胞を0.35%軟寒天培地に播き、28日後にコロニーをスコア化した。ΔPDZ-Dvl-1をトランスフェクトしたLRK1AおよびRENにおけるコロニー形成は対照と比較して大きく低下した(P<0.01)。H513は軟寒天中で増殖することができなかった。さらに、無胸腺マウスにおけるLRK1AおよびREN皮下腫瘍のインビボ増殖はいずれも、ΔPDZ-Dvl-1変異体のトランスフェクションにより、対照と比較して有意に抑制された(それぞれP<0.05およびP<0.005;図8)。
実施例11:非小細胞肺癌におけるDvl活性化
本発明者らは次に、非小細胞肺癌(NSCLC)におけるDvl活性化の役割を検討した。本実施例は、新たに切除したNSCLC細胞株および樹立NSCLC細胞株においてDvl-3が過剰発現されることを示している。本発明者らの実施例は、標準的なβ-カテニン経路を介するWntシグナル伝達はDvl発現などの上流イベントに起因するというさらなる証拠も提供する。
本発明者らは、NSCLCにおけるwntシグナル伝達の機能を評価するために、Dvlの発現および機能を分析した。8件の新鮮なNSCLC腫瘍(4つは扁平上皮癌で4つは腺癌)およびそれらに対応させた自己由来正常肺組織を、ステージI早期NSCLCに対する治療の一過程として腫瘍の切除術を受ける患者から入手した。この患者たちは以前に化学療法などの治療を受けていなかった。これらの試料のウエスタンブロット分析により、検討したすべての癌細胞のうち75%(4件の扁平上皮癌のうち3つ、および4件の腺癌のうち3つ) でDvl-3が過剰発現しており、一方、それらに対応する正常顕微解剖肺組織ではDvl-3の発現は認められなかった。さらに、Dvl-3過剰発現がみられた6件のNSCLC腫瘍のうち5件ではWnt-1またはWnt-2の発現が高度であることがウエスタンブロット分析によって示された。Dvl-1およびDvl-2の発現は検出されなかった。
Dvlの機能をさらに検討するために、本発明者らは、Dvl-1、-2および-3を抑制しうるDvlの短鎖干渉性RNA(siRNA)を合成した。本発明者らは、Dvl siRNAおよび対照siRNAで処理することにより、肺癌細胞株H1703におけるDvlの機能を調べた。本発明者らがH1703を選択した理由は、それがDvl-3を発現する上に、β-カテニンのTcf依存的転写活性を呈することが示されているためである。siRNA処理後に、dvi-3の発現は抑制されたが、dvi-1および-2は発現されないままであった。注目されることとして、処理した細胞ではβ-カテニン発現もそれに従って低下し、これはTcf依存的転写活性の有意な低下を伴った(P<0.05)。また、DvlのsiRNAは24ウェルプレートにおけるH1703細胞の増殖を有意に抑制した(P<0.05)(図9)。さらに、100mm培養皿におけるコロニー形成も有意に抑制された(P<0.05)。H1703と比較してDvl発現レベルが低い他の細胞株、例えばA549(肺癌細胞株)およびSW480(APC変異のためにWntシグナル伝達経路の異常活性化を伴う結腸癌細胞株)では、細胞増殖はDvl siRNAによる影響を受けなかった。
考察
上述したように、wntリガンドがヒト発癌において果たす役割はほとんどわかっていない。本明細書に提供したデータは、wntシグナルがヒト癌細胞の原因としての役割を果たし、このため癌治療の標的となることを示している。
以上に提示したデータは、抗wnt-1抗体および抗wnt-2抗体がいずれもヒト癌細胞におけるアポトーシスを誘導しうることを示している。さらに、本発明者らのデータは、この抗腫瘍作用がwntシグナル伝達経路の阻止に起因することを示している。抗Wnt抗体によって誘導されたアポトーシス細胞死はWntタンパク質の発現と相関するだけではなく、検討したヒト腫瘍細胞におけるdviおよびサイトゾルβカテニンタンパク質の発現とも一致していた。それに反して、正常細胞株では抗Wnt抗体処理後もDvlおよびサイトゾルβ-カテニンタンパク質はいずれも同じレベルに保たれた。これらの抗体は正常細胞株に対しては検出しうる影響を及ぼさず、このことは抗Wnt-1抗体または抗Wnt-2抗体が癌細胞ではアポトーシスを特異的に誘導しうるが、正常細胞では誘導しないことを示唆する。ポリクローナル抗体が非特異的な影響を及ぼす可能性があることを考慮して、本発明者らは、抗wnt抗体の作用の特異性をさらに調べるために抗wnt-1モノクローナル抗体を用いた。抗wnt-1モノクローナル抗体は、Wnt-1タンパク質を過剰発現するヒト癌細胞株、例えばヒト肺癌細胞株H460およびヒト乳癌細胞株MCF-7においてアポトーシスを誘導することができた。ポリクローナル抗体の試験で得られた結果と同様に、これらの腫瘍細胞では、抗Wntlモノクローナル抗体処理後にdviおよびサイトゾルβカテニンタンパク質はいずれも減少した。しかし、抗Wnt-1モノクローナル抗体は抗Wnt-1ポリクローナル抗体よりもはるかに高い特異性を示し、例えば、抗Wnt-1モノクローナル抗体は、Wnt-1タンパク質を過剰発現する腫瘍細胞(H460およびMCF-7)のみにおいてアポトーシスを誘導し、Wnt-2タンパク質を発現する腫瘍細胞には検出しうる影響を及ぼさなかった;抗Wnt-1ポリクローナル抗体はWnt-1またはWnt-2のいずれかを過剰発現する腫瘍細胞でアポトーシス細胞死を誘導した。以上を総合すると、これらのデータは、抗Wnt抗体処理により、ヒト癌細胞において腫瘍特異的アポトーシスを誘導し、Wnt-dvl-βカテニンシグナル伝達経路をダウンレギュレートすることが可能なことを示している。
Wntシグナルは、frizzled受容体およびdishevelledタンパク質を介して2種類の異なる経路:標準(canonical)経路(すなわちβカテニン経路)およびJNK経路を活性化する。Dishevelledタンパク質には高度に保存された3つのドメインDIX、PDZおよびDEPを有する。このうちDIXドメインおよびPDZドメインは標準的なシグナル伝達経路のために必要であり、DEPドメインはJNK経路の活性化に重要である。JNKの活性化はアポトーシスの開始に決定的な役割を果たすことが示唆されている(Wang et al., Mol Cell Biol, 19: 5923-5929 (1999))。最近、Chenらは、Wnt-1がβ-カテニンおよびTCF転写を活性化することによってアポトーシスを抑制することを示した(Chen et al., J Cell Biol, 152: 87-96 (2001))。本研究では、抗Wnt抗体処理後にβ-カテニンの過剰発現およびJNK活性の上昇がともに観察され、このことから標準経路およびJNK経路がいずれも抗Wnt抗体により誘導されるアポトーシスに関与することが示唆された。さらに、正常中皮細胞株におけるDvlの過剰発現はJNK活性をダウンレギュレートし、CK-1活性をブロックするアピゲニンを用いたDvlの抑制によってJNK活性が上昇した。抗Wnt抗体処理後のJNK活性化はDvlを介したものである可能性が非常に高い。
さらに、NSCLC細胞におけるsiRNAを介したDvl発現の抑制はβ-カテニンを介したTcf転写を低下させ、これはある種の肺癌細胞ではDvl過剰発現が標準的なWnt/B-カテニン経路にとって重要であることをさらに裏づける。NSCLC細胞におけるDvlの抑制は細胞増殖およびコロニー形成も抑制し、このことはWntシグナル伝達における異常な上流イベントがNSCLCにおける腫瘍発生と関係することを示している。
siRNAによるDvlの分解はH1703では増殖抑制を引き起こしたが、A549細胞ではこれは生じなかった。これらはいずれも扁平上皮肺癌細胞株であるが、H1703はp53に変異による不活性化があり、A549は野生型p53を有する。このため、p53の状態により、処理を行った2種類の扁平上皮肺癌細胞株の間のDvl機能の違いを少なくとも部分的には説明できると思われる。
抗Wnt抗体がヒト癌細胞においてアポトーシスを誘導した機序をさらに解明するために、本発明者らはアポトーシス経路において可能性のある他の要素も検討した。例えば、wnt抗体で処理したこれらの腫瘍細胞では、Smac/Diabloのサイトゾルへの放出が検出された。Smac/Diablo(カスパーゼの第2のミトコンドリア由来活性化因子/低pIの直接的IAP結合タンパク質)(Du et al., Cell, 102: 33-42 (2000);Verhagen et al., Cell, 102: 43-53 (2000))は、IAPを介したカスパーゼ抑制を解除することによって機能する。アポトーシスの誘発により、シトクロムcとともに、Smac/Diabloのミトコンドリア膜間腔からサイトゾルへの放出が引き起こされる。シトクロムcはApaf-1およびカスパーゼ-9を直接活性化し、Smac/Diabloは多数のIAPと相互作用して、イニシエーター性およびエフェクター性の両方のカスパーゼのIAP媒介性抑制を排除する(Chai et al., Nature, 406: 855-862 (2000);Srinivasula et al., J Biol Chem, 275: 36152-36157 (2000))。癌細胞ではカスパーゼ-3活性が上昇しているが正常細胞では上昇していないという上記の結果に一致するように、本発明者らは、抗Wnt抗体処理後に癌細胞のサイトゾル中ではSmac/Diabloおよびシトクロムcの両方のレベルが上昇しているが、正常細胞では上昇していないことを見いだした。本発明者らの結果は、Smac/Diabloおよびシトクロムcの両方が、それぞれサービビンおよび/または他のIAP媒介性抑制を排除すること、ならびにカスパーゼを直接活性化することにより、抗Wnt抗体により誘導されるこのアポトーシスに関与している可能性が高いことを示している。
以上の所見は、wnt抗体が、wntタンパク質を過剰発現する癌細胞におけるアポトーシスを直接誘導するだけでなく、これらの腫瘍細胞に正常なアポトーシス機構を取り戻させることにより、薬剤耐性も解除する可能性があることを示唆している。腫瘍細胞における薬剤耐性の基盤はアポトーシスの障害にある可能性が高い。アポトーシス抑制物質であるサービビンの過剰発現は、ほとんどのヒト癌に共通した特徴である。サービビンのターゲティングによって細胞毒性薬剤に対する腫瘍細胞の感受性が高まること、およびアンチセンスサービビンがヒト中皮腫細胞におけるアポトーシスを十分に引き起こすことが示されている。さらに、アンチセンスサービビンと化学療法との相乗的効果も報告されている。
本発明者らは、wnt抗体処理によってサービビンのタンパク質発現レベルが劇的に低下することを示した。以上を総合すると、Wnt抗体は、ヒト癌細胞における標準的な化学療法の効果を増強するとともに相乗作用を及ぼすと考えられる。
WntシグナルまたはFrizzled受容体のその他のアンタゴニストもdishevelledを介してアポトーシスを誘導すると考えられる。例えば、sFRPは、分泌性Wntリガンドとの結合に関して膜貫通性Frizzled受容体と競合することにより、Wntシグナル伝達の可溶性内因性モジュレーターとして機能する(Melkonyan et al., Proc Natl. Acad Sci USA, 94: 13636-13641 (1997))。詳細には、sFRPは、Wntの機能を、このタンパク質と結合してそれが細胞表面シグナル伝達受容体と接近するのを阻止することによって拮抗することができ、またはFrizzled受容体に対するリガンドの提示を促すことによってWnt活性を増強することもできる(Uthoff et al., Int J Oncol, 19: 803-810 (2001))。Frizzled受容体のアンタゴニスト(例えば、細胞外ドメインに対して特異的な抗体、または細胞内ドメインに対して特異的な低分子)は、wnt/frizzledタンパク質を過剰発現するヒト癌細胞におけるアポトーシスを誘導すると考えられる。現に、図10は、WntシグナルアンタゴニストFRPまたはDKKの過剰発現により、癌細胞におけるアポトーシスが誘導されることを示している。したがって、このようなアンタゴニストは、肺癌、中皮腫、乳癌、大腸癌、子宮頸部癌、卵巣癌、前立腺癌、膵癌、胃癌、食道癌、頭頸部癌、肝細胞癌、黒色腫、神経膠腫、神経膠芽腫、白血病またはリンパ腫といった癌の治療に用いることができる。
以上をまとめると、本発明者らの結果は、wntモノクローナル抗体がヒト癌細胞における腫瘍特異的アポトーシスを誘導しうることを示しており、これはおそらく標準経路およびJNK経路の両方を介すると思われる。本発明者らのデータは、Wnt/Frizzledが癌の治療のための有用な治療標的であることを示しており、異種移植マウスモデルによる結果はWntモノクローナル抗体が腫瘍を標的とする癌治療薬の優れた候補であることを意味している。
実施例12:Dachsous(ds)遺伝子およびFat遺伝子のサイレンシング機構ならびにヒト癌におけるwnt-frizzledシグナル伝達経路のそれらによる調節の分析
癌におけるWnt-Fzシグナル伝達の変化の機構についてはほとんどわかっていない。Dachsous(Ds)タンパク質およびFatタンパク質は、カドヘリンスーパーファミリーの2つのメンバーである(Mahoney et al., Cell 67: 853-868, 1991;Clark, H. F. et al., Genes Dev、9: 1530-1542, 1995)。これらはショウジョウバエ発生におけるFzシグナル伝達に関与することが示されている(Yang et al., Cell, 108: 675-688, 2002)。癌におけるDsおよびFatの役割に関する報告はない。
本実施例において本発明者らは、新鮮なヒト癌組織(肺癌および中皮腫を含む)およびヒト細胞株(乳癌、結腸癌、肺癌および中皮腫を含む)ではFat発現がアップレギュレートされ、Ds発現がダウンレギュレートされていることを示す。本発明者らはまた、ヒト癌におけるDs転写サイレンシングと相関する、Dsプロモーター領域のCpG島における異常メチル化も明らかにした。さらに、本発明者らは、Fz活性がFatのアップレギュレーションおよびDsのダウンレギュレーションと相関することも見いだした。Dsの修復およびFatの遮断により、Fzシグナル伝達経路の活性を変化させて癌細胞の増殖を抑制することが可能と考えられる。
本発明は、ヒト癌の治療のための治療戦略に大いに役立つ。例えば、上記の方法を用いてFat活性をブロックすることができる。このような方法には、例えば、Fat転写物および/またはその活性をブロックするアンチセンスオリゴヌクレオチドまたは低分子量化学物質が含まれる。または、既知の遺伝子治療法を用いてDs活性を回復させることもできる。さらに、本発明を診断ツールとして用いることができる。メチル化は癌形成における初期イベントの1つである。よく知られた技法(例えば、メチル化特異的PCR)を用いたDsプロモーター領域のCpG島におけるメチル化の検出を、早期癌の診断に用いることができる。
実施例13:癌における、frizzled(fz)遺伝子およびLRP(LDL関連タンパク質)遺伝子の遺伝的変化、ならびに種々の方法を用いた変異型および/または切断型のこれらの受容体のターゲティング
LRP(LDL関連タンパク質;LRP-1〜5)はWntリガンドの補助受容体である。乳癌、結腸癌、肺癌などを含む多くの癌では、Wntタンパク質、Fzタンパク質およびLRPタンパク質の発現レベルが往々にして高い(Liu, et al., Cancer Res, 60: 1961-1967, 2000;Laurencot, et al., Int J Cancer, 72: 1021-1026, 1997;Berger, W. et al., Int J Cancer, 88: 293-300, 2000;Schneider et al., Breast Cancer Res, 3: 183-191, 2001;Schneider et al., Anticancer Res, 20: 4373-4377, 2000)。さらに、このシグナル伝達は癌において下流転写活性を構成性に活性化すると考えられている。しかし、構成性に活性化を行うこのシグナル伝達の癌における機序は未だに解明されていない。
本実施例において、本発明者らは、癌において、frizzled(fr)遺伝子および/またはLRP(LDL関連タンパク質)遺伝子の遺伝的変化により、すべてのFz受容体および/またはLRP補助受容体(細胞外、膜貫通性および/または細胞内ドメイン)の変異型および/または切断型が生じることを示す。本発明者らが検討した癌の種類には、乳癌、結腸癌、前立腺癌、肺癌、中皮腫および肉腫が含まれる。上記の遺伝的変化には、染色体欠失(ホモ接合性またはヘテロ接合性)、染色体転座、染色体切断、染色体逆位、内部小規模欠失、挿入および点変異が含まれる。これらの変異型および/または切断型のFz受容体および/またはLRP補助受容体は、Wntリガンドの有無にかかわらず構成性のシグナル伝達を引き起こし、これが続いて癌における構成性の下流転写活性をもたらす。これに対して、正常細胞/組織には変異型のFz受容体および/またはLRP補助受容体は存在しない。
本発明は、Wntシグナル伝達経路にかかわる変異型および/または切断型のFz受容体および/またはLRP補助受容体は癌特異的であることを示している。それらは治療薬(例えば、以上に考察した低分子、化合物、抗体、アンチセンスオリゴ体またはRNAiなど)を開発するための標的として用いるのに非常に有望であると考えられる。これらの薬剤は正常細胞ではなく癌のみを標的とすることができる。したがって、本発明は、結腸癌、乳癌、肺癌(例えば、NSCLC)、中皮腫および肉腫などを含む、以上に指摘したさまざまな癌の治療のための治療戦略に大きく役立つと考えられる。
本明細書に記載された実施例および態様は例示のみを目的としたものであり、当業者にはそれらに鑑みて種々の修正または変更が連想されると考えられるが、それらも本出願の精神および範囲ならびに添付する特許請求の範囲の範囲に含まれるものとする。本明細書中に引用したすべての刊行物、特許および特許出願は、すべての目的に関して参照として本発明に組み入れられる。
抗Wnt-1抗体または抗Wnt-2抗体が種々のヒト癌細胞株においてアポトーシスを特異的に誘導することを示している。 抗Wnt抗体による処理後のアポトーシス細胞死の割合(%)を示している。 図3Aは、種々の癌細胞株において、抗Wnt抗体により誘導されるアポトーシスがWnt発現と相関することを示している。図3Bは、抗Wnt抗体により誘導されるアポトーシスに対するWntブロッキングペプチドの影響を示している。 肺癌細胞株における、抗Wnt抗体により誘導されるアポトーシスの経時的推移(図4A)および用量曲線(図4B)を示している。 抗Wnt-1モノクローナル抗体が、インビトロのさまざまなヒト癌細胞株におけるアポトーシスを誘導することを示している。a. 対照抗体または抗Wnt-1モノクローナル抗体による処理から約48hr後の癌細胞MCF-7(上の2つの列)および約72hr後のH460(下の2つの列)の0.5%クリスタルバイオレット染色。用いた対照抗体または抗Wnt-1抗体の濃度は左から右の順にそれぞれ0.0、1.0および10.0μg/mlである。b. フローサイトメトリーによるアポトーシス分析の例。上から下の順にそれぞれ5.0μg/mlの対照抗体、1.0μg/mlおよび5.0μg/mlの抗Wnt-1抗体で約72hr処理したH460癌細胞。FL1-HはアネキシンV-FITC染色を表し、FL3-Hはヨウ化プロピジウム(PI)染色を表している。c. モノクローナル抗体処理に対するH460およびMCF-7癌細胞の用量反応。測定はH460に関しては72hrのインキュベーション後、MCF-7に関しては48hrのインキュベーション後に行った。四角印(□)および丸印(○)は、抗Wnt-1抗体で処理したそれぞれMCF-7細胞およびH460細胞における細胞死の割合を表している。菱形印(◇)および三角印は、対照抗体で処理したそれぞれMCF-7細胞およびH460細胞における細胞死の割合を表している。結果は平均±SD(エラーバー)である。 抗Wnt-1モノクローナル抗体がインビボでの腫瘍増殖を抑制することを示している。 SEQ ID No: 2、SEQ ID No: 4またはSEQ ID No: 9に示されたペプチド配列に対して作製されたモノクローナル抗体の重鎖領域および軽鎖領域を示している。 ΔPDZ-Dvlがインビボでの中皮腫細胞の腫瘍発生を抑制したことを示している。ΔPDZ-Dvlをトランスフェクトした悪性胸膜中皮腫LRK1A細胞およびREN細胞は、無胸腺マウスへの皮下(s.c.)注射後には、エンプティベクターをトランスフェクトした対照と比較して増殖することができなかった。結果は各群当たり5匹に関する平均±SD(バー)である。 Dvl siRNAによるNCI-H1703の増殖の抑制を示している。細胞(3×104個)を24-2311プレートに播き、Dvl siRNA(四角印)または対照si RNA(丸印)をトランスフェクトした。トランスフェクションから72h後に、生存している細胞(トリパンブルーを排除)を試験を24h毎にトリプシン処理によって収集して計数した。特に、トランスフェクションから72h後には細胞増殖が有意に抑制された(P<0.05)。 WntシグナルのアンタゴニストであるFRPまたはDICKが癌細胞においてアポトーシスを誘導することを示している。
配列表
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Claims (35)

  1. Wntタンパク質を過剰発現する癌細胞の増殖を抑制する方法であって、細胞を、Wntタンパク質とFrizzled受容体との結合を抑制する作用物質(agent)と接触させることを含む方法。
  2. 作用物質が抗体である、請求項1記載の方法。
  3. 抗体がWntタンパク質と特異的に結合する、請求項2記載の方法。
  4. Wntタンパク質がWnt-1である、請求項3記載の方法。
  5. Wntタンパク質がWnt-2である、請求項3記載の方法。
  6. 抗体がFrizzled受容体と特異的に結合する、請求項2記載の方法。
  7. Frizzled受容体が、Frizzled1, Frizzled2、Frizzled3、Frizzled4、Frizzled5、Frizzled6、Frizzled7、Frizzled8、Frizzled9およびFrizzled10受容体である、請求項6記載の方法。
  8. 抗体がモノクローナル抗体である、請求項2記載の方法。
  9. 抗体が組換えによって作製される、請求項8記載の方法。
  10. 抗体がヒト化抗体である、請求項8記載の方法。
  11. 抗体が一本鎖Fv断片(scFv)である、請求項8記載の方法。
  12. 癌細胞が罹患生物(patient)の体内にあり、接触の段階が作用物質を罹患生物に投与することによって行われる、請求項1記載の方法。
  13. 作用物質が抗体である、請求項12記載の方法。
  14. 第2の治療因子を罹患生物に投与することをさらに含む、請求項12記載の方法。
  15. 第2の治療因子が化学療法薬である、請求項14記載の方法。
  16. 第2の治療因子が放射線療法である、請求項14記載の方法。
  17. 癌細胞が、乳癌細胞、大腸癌細胞、肺癌細胞、肉腫細胞、中皮腫細胞、子宮頸癌細胞、卵巣癌細胞、前立腺癌細胞、膵癌細胞、胃癌細胞、食道癌細胞、頭頸部癌細胞、肝細胞癌細胞、黒色腫細胞、神経膠腫細胞、神経膠芽腫細胞、白血球細胞またはリンパ腫細胞である、請求項1記載の方法。
  18. SEQ ID No: 2、SEQ ID No: 4またはSEQ ID No: 9のペプチドと特異的に結合する抗Wntモノクローナル抗体。
  19. 図7に示されたVHまたはVLを含む、請求項18記載のモノクローナル抗体。
  20. VHが、図7に示されたVH鎖のCDRを含む、請求項18記載のモノクローナル抗体。
  21. VHが、図7に示されたVH鎖のCDRを3つともすべて含む、請求項20記載のモノクローナル抗体。
  22. VLが、図7に示されたVL領域のCDRを含む、請求項18記載のモノクローナル抗体。
  23. VLが、図7に示されたVL領域のCDRを3つともすべて含む、請求項22記載のモノクローナル抗体。
  24. 薬学的に許容される添加剤、およびWntlまたはWnt2と特異的に結合するモノクローナル抗体を含む、薬学的組成物。
  25. 抗体がエフェクター成分とさらに結合している、請求項24記載の薬学的組成物。
  26. エフェクター成分が蛍光標識である、請求項24記載の薬学的組成物。
  27. エフェクター成分が放射性同位体または細胞毒性化学物質である、請求項24記載の薬学的組成物。
  28. 癌細胞の増殖を抑制する作用物質に関するスクリーニングの方法であって、作用物質をDvlタンパク質または核酸と接触させること、Dvlタンパク質の活性または発現を決定すること、およびDvlタンパク質の活性または発現を抑制する化合物を同定し、それによって癌細胞の増殖を抑制する作用物質を同定することを含む方法。
  29. 同定した化合物を癌細胞と接触させること、および癌細胞の増殖を抑制する化合物を選択することをさらに含む、請求項28記載の方法。
  30. 癌細胞が肺癌細胞である、請求項28記載の方法。
  31. Dvlタンパク質を過剰発現する癌細胞の増殖を抑制する方法であって、細胞を、Dvlの発現または活性を抑制する作用物質と接触させることを含む方法。
  32. 癌細胞が肺癌細胞である、請求項31記載の方法。
  33. 作用物質が低分子である、請求項31記載の方法。
  34. 作用物質がsiRNAである、請求項31記載の方法。
  35. wntタンパク質またはFrizzledタンパク質を過剰発現する癌細胞の増殖を抑制する方法であって、細胞を、Frizzled受容体の細胞内ドメインと結合する作用物質と接触させ、それによってFrizzled受容体と細胞内タンパク質との結合を抑制することを含む方法。
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