JP2006514824A - 活性に基づくプローブ,およびその製造および使用方法 - Google Patents

活性に基づくプローブ,およびその製造および使用方法 Download PDF

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Abstract

本発明は,複数の蛋白質を含む組成物において触媒的に活性な酵素のプロファイルを評価するための組成物および方法を提供する。好ましい態様においては,酵素はヒドロラーゼであり,最も好ましくはシステインプロテアーゼである。本明細書に記載される方法は,活性に基づくプローブ("ABP")を使用する。これは,ABPを1またはそれ以上の触媒的に活性な標的酵素に結合させるためのアフィニティー成分,標的酵素の活性部位において共有結合を形成するための反応性基,およびTAG(例えば,検出可能な標識,好ましくは蛍光団)を有する。1またはそれ以上のABPを,ABPをサンプル中に存在する標的酵素と結合および反応させる条件下で蛋白質含有サンプルと組み合わせることができる。次に,得られた生成物を用いて,サンプルの活性な酵素プロファイルを評価することができ,および元の複雑な蛋白質混合物中に存在する1またはそれ以上の標的酵素の存在,量,または活性と関連づけることができる。

Description

本発明は一般に,触媒的に活性な酵素,より好ましくはヒドロラーゼ,最も好ましくはシステインプロテアーゼのアフィニティー標識に関する。
蛋白質分解酵素は,広範な種類の生理学的プロセスに関与している。プロテアーゼは一般にその触媒メカニズムにしたがって分類される。セリンプロテアーゼ,システインプロテアーゼ,アスパラギン酸プロテアーゼ,およびメタロプロテアーゼを含む,少なくとも4つの機械的分類が認識されている。システインプロテアーゼは少なくとも30種類の蛋白質ファミリーの群に分類することができ,例えば,植物プロテアーゼ,例えばパパイン,アクチニジンまたはブロメレイン,いくつかの哺乳動物リソソームカテプシン,細胞質カルパイン(これらはカルシウムにより活性化される),ならびにいくつかの寄生虫プロテアーゼ(例えば,Trypanosoma schistosomaのもの)等が含まれる。カスパーゼ−1(インターロイキン−1−ベータ変換酵素としても知られる)のX線構造は,システインプロテアーゼの新たなタイプのフォールディングを明らかにした。システインプロテアーゼの触媒作用は,共有結合中間体の形成を介して進行し,システインおよびヒスチジン残基(Cys25およびHis159,パパインの番号付けによる)が関与する。求核基はチオラートイオンであり,これは隣接するHis159のイミダゾリウム基とのイオン対の形成により安定化される。いずれの工程においても,攻撃求核基はチオラート−イミダゾリウムイオン対である。
システインプロテアーゼは,医療分野で非常に興味が持たれている。パパインファミリーに属するシステインプロテアーゼには,哺乳動物酵素,例えばカテプシンBおよびL(癌の成長および転移に関与する),およびカテプシンK(骨の分解および骨粗鬆症における関与が重要である)が含まれる。他のシステインプロテアーゼ,例えば,Trypanosoma cruziからのシャーガス病を引き起こすクルジパイン,およびPlasmodium falciparumからのマラリアを引き起こすファルシパインは,寄生虫と宿主との相互作用に必須であり,したがって,阻害の魅力的な標的であるため,寄生虫と戦うのに重要な酵素である。他のシステインプロテアーゼ,例えば,レグマインファミリーに属するものは,抗原提示において鍵となる役割を果たすことが示されている。カスパーゼファミリーのシステインプロテアーゼはまた,アポトーシスの鍵となるメディエータとして非常に興味が持たれている。病原性細菌のいくつかのシステインプロテアーゼ,例えば,Porhyromonas gingivalisからの歯周炎に重要なギンギパイン,およびStreptococcus pyogenesからのストレプトパインは,毒性因子であり,感染した宿主に重篤な問題を引き起こす。
したがって,システインプロテアーゼは,治療薬の同定のための重要な標的であると考えられてきた。
発明の概要
本発明は,複数の蛋白質を含む組成物における1またはそれ以上の触媒的に活性な酵素のプロファイルを評価するための組成物および方法を提供する。好ましい態様においては,酵素は1またはそれ以上のヒドロラーゼであり,特に好ましい態様においては,ヒドロラーゼは1またはそれ以上のシステインプロテアーゼである。本明細書に記載される方法は,活性に基づくプローブ("ABP")を用いる。これは,ABPが1またはそれ以上のシステインプロテアーゼと結合することを指示するアフィニティー成分,ABPが結合した後に標的酵素と共有結合を形成するための反応性基,およびタグ(例えば,検出可能な標識,好ましくは蛍光団)を有する。1またはそれ以上のABPを,ABPとサンプル中に存在する標的酵素とが結合し反応するための条件下で,蛋白質含有サンプルと組み合わせる。好ましい態様においては,反応性基は,標的酵素のアミノ酸と反応して,コンジュゲート(すなわち,共有結合したABP−標的酵素複合体)を形成する。次に,得られた生成物を用いて,サンプルの活性な酵素プロファイルを評価し,元の複雑な蛋白質混合物中に存在する1またはそれ以上の活性な標的システインプロテアーゼ,および/または他の標的酵素の存在,量または活性と関連づけることができる。
“ヒドロラーゼ”とは,共有結合の加水分解を触媒する酵素を意味する。そのような酵素は,IUPAC−IUBMB Joint Commissionon Biochemical Nomenclature(www.chem.qmul.ac.uk/iupac/jcbn/)の,the Enzyme Commission numbers EC3.Xにより分類されている。本明細書において用いる場合,“プロテアーゼ”および“蛋白質分解酵素”との用語は,蛋白質およびペプチド中のペプチド結合の加水分解を触媒する酵素を表す。
本明細書において用いる場合,“システインプロテアーゼ”との用語は,システイン残基を触媒活性に利用する蛋白質分解酵素を表す。蛋白質分解反応における求核基はチオラートイオンであり,これはヒスチジン(例えばパパインの場合にはHis159)のイミダゾリウム基とのイオン対の形成により安定化される。両方の工程において,攻撃求核基はチオラート−イミダゾリウムイオン対である。パパインは,原型であり,ファミリーのメンバーで最もよく研究されているものである。
システインプロテアーゼには,限定されないが,パパイン,カスパーゼ,およびいくつかのカテプシン,例えば,カテプシンB,H,L,K,O,S,T,V,およびX,アナナイン,パパイン,キモパパイン,および果実ブロメラインが含まれる。カスパーゼもまたシステインヒドロラーゼである。カスパーゼ−1はシステインヒドロラーゼであり,いくつかの他の名前,例えば,インターロイキン1β−変換酵素,プロテアーゼVII,プロテアーゼA,インターロイキン1β前駆体プロテアーゼ,インターロイキン1変換酵素,インターロイキン1β変換エンドペプチダーゼ,インターロイキン−1βコンベルターゼ,インターロイキン−1β変換酵素,インターロイキン−1β前駆体プロテアーゼ,プロインターロイキン1βプロテアーゼ,前駆体インターロイキン−1β変換酵素,プロ−インターロイキン1βプロテアーゼとしても知られる。
第1の観点においては,本発明は,複雑な蛋白質混合物における酵素プロファイルを決定する方法および組成物に関する。これらの方法は,複雑な蛋白質混合物を,ABPと触媒的に活性な標的酵素,好ましくは触媒的に活性なヒドロラーゼ,最も好ましくは触媒的に活性なシステインプロテアーゼと反応する条件下で,1またはそれ以上の異なるABPと接触させ,このことにより,ABPと活性な標的酵素との1またはそれ以上のコンジュゲートが形成されることを含む。好ましい態様においては,それぞれのABPは1またはそれ以上の触媒的に活性な標的酵素(以下に定義される)と特異的に反応する。それぞれのABPは,好ましくは,TAGにコンジュゲート化されたアフィニティー成分,例えば検出可能な標識,およびABPがその標的酵素と結合したときに標的酵素と反応する反応性基を含む。次に,以下に記載されるスクリーニングおよび/または同定方法により酵素プロファイルを分析することができる。特に好ましいABPも下記に説明される。
好ましい態様においては,標的酵素は,システインプロテアーゼ,例えば,カスパーゼ,またはいずれかのカテプシン,例えば,B,H,L,K,O,S,T,V,またはXである。カテプシンLはリソソームシステインプロテアーゼであり,ヒト黒色腫細胞におけるその過剰発現は,その腫瘍原性を高め,その表現型を非転移性から高度に転移性にスイッチさせる。リソソームシステインプロテアーゼであるカテプシンBは,腫瘍の進行に関与し,正常な骨格筋細胞分化の制御に重要な役割を果たすと考えられている。カテプシンSはリソソームシステインプロテアーゼであり,多くの炎症性疾病において役割を有すると考えられている。カテプシンKは,システインプロテアーゼのパパインファミリーのメンバーであり,骨粗鬆症における骨の変性に役割を有すると考えられている。カテプシンVは胸腺および精巣特異的システインプロテアーゼであり,免疫系および癌において中心的な役割を果たすと考えられている。D.Bromme,Z.Li,M.Barnes,E.Mehler(1999)“Human Cathepsin V:Functional Expression,Tissue Distribution,Electrostatic Surface Potential,Enzymatic Characterization,and Chromosomal Localization.”Biochemistry 38:2377−2385。当業者は,多くのカテプシンが単離され,特性決定され,その機能が決定されていることを理解するであろう。これらの他のカテプシンもまた,本発明における好ましい標的プロテアーゼとして企図される。
アポトーシス(“プログラムされた細胞死”とも称される)は,種々の刺激,例えば,リガンド/レセプター相互作用(例えば,FASレセプター/FASリガンド),ストレスに対するミトコンドリア応答,および細胞毒性T細胞により誘発される。カスパーゼは,アポトーシスに関与するいくつかの酵素を含むシステインプロテアーゼの群である。カスパーゼは,蛋白質分解カスケードにおいてアポトーシスシグナルを伝達する。カスパーゼは,他のカスパーゼを切断および活性化し,次にこれは他の細胞標的を分解し,このことは細胞死につながる。カスパーゼ1−10が同定され,配列決定され,クローニングされている。カスケードの上流側のカスパーゼには,カスパーゼ−8およびカスパーゼ−9が含まれる。カスパーゼ−8はFAS等のデスドメインを有するレセプターとの応答に関与する最初のカスパーゼである。ミトコンドリアのストレス経路はミトコンドリアからのチトクロームcの放出により開始し,次にこれはApaf−1と相互作用して,カスパーゼ−9の自己切断および活性化を引き起こす。カスパーゼ−3,−6および−7は,上流のプロテアーゼにより活性化される下流のカスパーゼであり,それ自身に作用して細胞標的を切断する。これらのおよび他のカスパーゼもまた,本発明において好ましい標的プロテアーゼとして企図される。
好ましい態様においては,ABP−酵素コンジュゲートは,1またはそれ以上のコンジュゲートを隔離することにより(例えば,ABPのタグ部分に結合するレセプターに結合することにより,または“つなげられた”ABP)を用いることにより,クロマトグラフィー法により,質量分析法により,および/または他の手段,例えば電気泳動により,複雑な蛋白質混合物の他の成分から分離することができる。
さらに別の態様においては,複雑な蛋白質混合物と1またはそれ以上のABPとの反応の後に,得られたABP−標的酵素コンジュゲートを蛋白質分解的に消化して,ABP−標識ペプチドを得ることができる。この消化は,コンジュゲートが固相に隔離されているときに生じてもよく,または溶液中で遊離しているときに生じてもよい。好ましい態様においては,1またはそれ以上のABPは,各標的酵素が,最も好ましくは標的酵素中の単一の別々の場所で,単一のABPとコンジュゲートを形成するように選択される。すなわち,各コンジュゲートから単一のABP標識ペプチドが生ずる。1またはそれ以上のABP−標識ペプチドの濃縮,分離,または同定は,液体クロマトグラフィーおよび/または電気泳動を用いて行うことができる。さらに,質量分析を利用して,フラグメントを分離するか,および/または分子量および/またはアミノ酸配列により1またはそれ以上のABP−標識ペプチドを同定することができる。特に好ましい態様においては,ABP−標識ペプチドから得られた配列情報を用いて,ペプチドが由来する元の酵素を同定することができる。これらの観点の変形には,例えば,異なるタグを有するABPを用いて,または,分析が質量分析を含む場合には異なる同位体組成を有するABPを用いて,2またはそれ以上のプロテオームを比較することが含まれうる。
好ましい態様においては,ABPおよび反応条件は,触媒的に活性な標的酵素が標識される相対的能力がその標的酵素の触媒活性の相対的レベルに依存するように選択される。そのような標識から得られるシグナルは,プロテオーム混合物中の標的酵素の触媒活性と相関しうる。あるいは,ABPは,特定の標的酵素の触媒活性のレベルに関わらず,すべての触媒的に活性な形の1またはそれ以上の標的酵素が標識されるような条件下で用いてもよい。例えば,反応時間は,標識反応が実質的に完了するように延長することができる。そのような標識から得られるシグナルは,プロテオーム混合物中の種々の活性な標的酵素の相対的触媒活性とは無関係であろう。
さらに別の観点においては,本発明は,本明細書に記載される方法および組成物を用いて,好ましくは2またはそれ以上の複雑な蛋白質混合物において,1またはそれ以上の触媒的に活性な標的酵素の存在,量,および/または相対的触媒活性を比較する方法に関する。種々の態様においては,これらの方法は,以下の工程の1またはそれ以上を含む:1またはそれ以上の複雑な蛋白質混合物を1またはそれ以上のABPと接触させ,ここで,ABPは,それぞれの複雑な蛋白質混合物中に存在する1またはそれ以上の触媒的に活性な標的酵素,好ましくは触媒的に活性な標的ヒドロラーゼ,最も好ましくは触媒的に活性な標的システインプロテアーゼに特異的に結合し;この接触工程の次に,複雑な蛋白質混合物を組み合わせて,組み合わせられた複雑な蛋白質混合物を形成し;この組み合わせの前および/または後に,複雑な蛋白質混合物の1またはそれ以上の隔離されていない成分を除去する。次に,以下に記載されるスクリーニングおよび/または同定方法により分析することにより,標的酵素プロファイルを決定することができる。
好ましい態様においては,本明細書に記載される方法および組成物は,調べるべき疾病組織の1またはそれ以上のサンプルを採取し,本明細書に記載される方法および組成物を用いて組織サンプルのそれぞれのプロファイルを決定することにより,疾病組織の触媒的に活性な標的酵素プロファイル,好ましくは触媒的に活性な標的ヒドロラーゼプロファイル,最も好ましくは触媒的に活性な標的システインプロテアーゼプロファイルを決定するために適用される。特に好ましい態様においては,疾病組織の触媒的に活性な標的酵素プロファイルを正常なサンプルのものと比較して,2つのサンプルのプロファイルの相違を決定することができる。好ましい態様においては,疾病組織は骨組織サンプル,腫瘍組織,または胸腺組織である。別の態様においては,標的寄生虫生物の触媒的に活性な標的酵素プロファイルを決定することができる。例えば,生きている生物(例えば,哺乳動物または植物)において,または環境中において,TrypanosomaまたはPlasmodiumの触媒的に活性な標的システインプロテアーゼプロファイルを決定し,これを用いてこれらの寄生虫と最もよく戦う方法についての情報を提供することができる。次に,得られたプロファイルに基づいて,特定の酵素阻害剤を選択することができる。
さらに別の観点においては,本発明は,試験サンプルにおいて疾病を検出する方法および組成物に関する。好ましい態様においては試験サンプルは細胞または組織サンプルである。特に好ましい態様においては,組織サンプルは新生物サンプルであり,疾病は癌である。この方法は,試験サンプルの触媒的に活性な標的酵素プロファイル,好ましくは触媒的に活性な標的ヒドロラーゼプロファイル,最も好ましくは触媒的に活性な標的システインプロテアーゼプロファイルを決定し;試験サンプルのプロファイルを既知の非疾病サンプルおよび/または既知の疾病サンプルの適当なプロファイルと比較し;そして,試験サンプルプロファイルが疾病状態を示すか否かを判定することを含む。“非疾病”サンプルとは,目的とする特定の疾病を示さないとして識別される細胞または組織のサンプルである。これは好ましくは細胞または組織の正常な健康なサンプルである。
別の観点においては,本発明は,試験化合物の1またはそれ以上の触媒的に活性な標的酵素に対する阻害能力を決定する方法を提供する。この方法は,1またはそれ以上のABPを試験化合物および標的酵素を含む試験サンプルと接触させ;ABPが試験サンプル中に含まれる標的酵素と反応するようにし;そしてABPが試験サンプル中の標的酵素と共有結合する能力を示すシグナルを検出することを含む。好ましい態様においては,この共有結合する能力は,試験サンプル中の標的酵素の活性のレベルを示す。
好ましい態様においては,この活性のレベルを試験化合物の非存在下における標的酵素の活性のレベルと比較する。そのような方法により,試験化合物の標的酵素に対する阻害および/または刺激能力を決定することができる。“阻害能力(potency)”とは化合物の存在が標的酵素触媒活性の阻害を引き起こす程度であり,“刺激能力”とは,化合物の存在が標的酵素触媒活性の増加を引き起こす程度である。
さらに別の観点においては,本発明は,記載される方法を実施するためのキットを提供する。キットは,本発明の方法を実施するために記述される材料の1またはそれ以上を含む。キットは,パッケージ中で固相および/または液相(例えば,提供される緩衝液)中に1またはそれ以上のABPを含むことができる。キットはまた,本発明の方法を実施するための溶液を調製するための緩衝液および液体を1つの容器から別の容器に移すためのピペットを含むことができる。“パッケージ”とは,ABPを含む容器を包む材料を意味する。好ましい態様においては,パッケージは箱または包装であってもよい。キットはまた,パッケージ中には含まれないがパッケージの外側に貼付けられた部材,例えばピペットを含んでいてもよい。
上述した本発明の概要は,限定的なものではなく,本発明の他の特徴および利点は,以下の好ましい態様の詳細な説明,ならびに特許請求の範囲から明らかであろう。
本発明の方法および組成物は,複雑な蛋白質混合物中に存在する1またはそれ以上の酵素の変化の同定において,向上した簡便性および正確性を提供することができる。これらの方法および組成物は,触媒的に活性な標的酵素,好ましくは触媒的に活性な標的ヒドロラーゼ,および最も好ましくは触媒的に活性な標的システインヒドロラーゼに結合する,活性に基づくプローブ("ABP")に関連する。本明細書に記載されるプロファイリング方法は,複雑な蛋白質混合物中における触媒的に活性な標的酵素の同定につながる多数の工程を有することができる。複雑な蛋白質混合物,好ましくは2またはそれ以上の複雑な蛋白質混合物,例えば,サンプルおよび対照は,天然起源から取得したままで用いてもよく,あるいは加工して,例えば,妨害成分を除去するか,および/または触媒的に活性な標的酵素成分を濃縮して用いてもよい。分析すべきそれぞれの複雑な蛋白質混合物を,反応条件下で少なくとも1つのABPと組み合わせて,1またはそれ以上の触媒的に活性な標的酵素とのコンジュゲートを生成する。2またはそれ以上の複雑な蛋白質混合物において用いられるABPは,標識された複雑な蛋白質混合物を直接比較するために(例えば,キャピラリー電気泳動装置の同じキャピラリーまたは電気泳動ゲルの同じレーン,または質量分析器において),タグ成分および/または同位体組成物の選択において種々のものでありうる。本明細書に記載される分析プラットフォームは,同定および定量のために,液体クロマトグラフィーおよび/または電気泳動,および/または質量分析を用いて濃縮および分析する方法に関して種々のものでありうる。プラットフォームの選択は,サンプルのサイズ,サンプルのスループットの速度,同定のモード,および定量の必要性およびそのレベルにより影響される。
本明細書に記載される組成物および方法は,大部分は生物学的サンプルを用いて使用することができ,これは,ABPと反応させる前に加工してもよい。“生物学的サンプル”とは,細胞,組織,または生物から得られるサンプルを意味する。生物学的サンプルの例としては,細胞(例えば,哺乳動物細胞,細菌細胞,培養細胞,ヒト細胞,植物細胞等)から特に溶解物として得られるもの,生物学的液体(例えば,血液,血漿,血清,尿,胆汁,唾液,涙,脳脊髄液,水性または硝子体液,または任意の身体分泌物),漏出液または滲出液(例えば,感染または炎症の膿瘍または他の部位から得られる液体),関節から得られる液体(例えば,正常な関節または疾病,例えば,慢性関節リウマチ,変形性関節症,痛風または敗血症性関節炎に罹患した関節から得られる滑液)から得られる蛋白質が挙げられる。
生物学的サンプルは,任意の臓器または組織(生検または解剖標本を含む)から得ることができ,細胞(初代細胞,継代または培養した初代細胞,細胞株,特定の培地でコンディションした細胞)または細胞によりコンディションされた培地を含んでいてもよい。好ましい態様においては,生物学的サンプルは無傷の細胞を含まない。所望の場合には,生物学的サンプルは,溶解,抽出,亜細胞分画等により予め加工してもよい。Deutscher(ed.),1990,Methods in Enzymology,vol.182,pp.147−238を参照。
特に興味深いものは,“複雑な蛋白質混合物”であるサンプルである。本明細書において用いる場合,この句は,蛋白質(またはその活性)の特定の分布に興味が持たれる,少なくとも約20種類,より一般的には少なくとも約50種類,好ましくは少なくとも約100種類またはそれ以上の異なる蛋白質を有する蛋白質混合物を表す。そのような複雑な蛋白質混合物の例はプロテオームであり,これは以下に定義される。複雑な蛋白質混合物は,特に正常または異常な細胞から得ることができ,ここで,異常性は,治療,状態,疾病等に関する情報を与えるものであり,本発明の方法を用いて分析することができる。
本明細書において用いる場合,“プロテオーム”との用語は,生物学的サンプルから得られる複雑な蛋白質混合物を表す。好ましいプロテオームは,生物学的サンプル(例えば,細胞,組織,臓器,または溶解物を得た生物;血清または血漿等)中に存在する蛋白質の全レパートリーの少なくとも約5%,好ましくは少なくとも約10%,より好ましくは少なくとも約25%,さらにより好ましくは約75%,および一般には90%またはそれ以上,あるいは,生物学的サンプルから得ることができる蛋白質の全レパートリーを含む。すなわち,プロテオームは,無傷の細胞,溶解物,ミクロソーム画分,オルガネラ,部分的に抽出された溶解物,生物学的液体,組織,臓器等から得ることができる。プロテオームは,一般に少なくとも約20種類の異なる蛋白質,通常は少なくとも約50種類の異なる蛋白質,およびほとんどの場合100種類またはそれ以上の異なる蛋白質を有する蛋白質の混合物であろう。
一般に,サンプルは,少なくとも約1x10-11gの蛋白質を有し,1gまたはそれ以上の蛋白質を,好ましくは約0.1−50mg/mlの範囲の濃度で有するであろう。スクリーニングの用途のためには,サンプルは,典型的には,約1x10-11gの蛋白質から約1x10-3gの蛋白質,好ましくは約1x10-6gの蛋白質から1x10-4gの蛋白質であろう。ABP標識標的酵素の同定のためには,サンプルは,典型的には約1x10-9gの蛋白質から約1gの蛋白質,好ましくは約1x10-4gの蛋白質から1x10-1gの蛋白質であろう。この文脈において,“約”との用語は,示される量の+/−10%を表す。
サンプルは,所望により,適当な緩衝液濃度およびpHに調節することができる。次に,1またはそれ以上のABPを,それぞれ約1nM−20mM,好ましくは10nM−1mM,最も好ましくは10nM−100μMの範囲の濃度で加えることができる。反応混合物を,約5−40℃の範囲,好ましくは約10℃−約30℃,最も好ましくは約20℃の温度で,一般に反応が実質的に完了するような時間,通常は約0.11−60分間インキュベートした後,反応を停止することができる。
本発明の1つの観点においては,本発明の方法は,生物学的液体,細胞または組織において,触媒的に活性な酵素,好ましくは触媒的に活性なヒドロラーゼ,最も好ましくは触媒的に活性な標的システインヒドロラーゼを定量的に測定する方法を提供する。さらに,同じ一般的戦略を広げて,異なる標的特異性を有するABPを用いることにより,標的酵素の量および/または活性のプロテオームワイドの定性的および定量的分析を達成することができる。本発明の方法および組成物を用いて,複雑な蛋白質混合物中に存在する少量の触媒的に活性な標的酵素を同定することができ,特定の群またはクラスのシステインプロテアーゼ,例えば,膜または細胞表面システインプロテアーゼ,またはオルガネラ,亜細胞画分,または成果化学的画分,例えば免疫沈殿物中に含まれるシステインプロテアーゼを選択的に分析することができる。さらに,これらの方法は,異なる状態の細胞において発現される触媒的に活性な標的酵素の相違を分析するために適用することができる。例えば,本明細書に開示される方法および試薬は,疾病状態,例えば,癌,骨の変性または脱石灰,または他の疾病状態を示す1またはそれ以上の触媒的に活性なシステインプロテアーゼの存在または非存在の検出のための診断アッセイに用いることができる。
本発明の方法は,種々の目的に用いることができる。この方法は,疾病の診断,薬剤等の外部の物質に対する細胞の応答,新生物等の疾病段階の判定,細胞の分化および成熟の識別,新規蛋白質の同定,薬剤の副作用の判定,薬剤の選択性の判定,ある種の遺伝子型に特異的な薬剤に対する応答の同定(例えば,個体におけるアレルの相違),コンビナトリアルライブラリからの有用なABPの同定等において用いることができる。
ある態様においては,このシステムは触媒的に活性な形の酵素または酵素の群に特異的な,通常はそのような標的酵素上の活性部位に向けられたABPを用い,活性に基づくABPの特異性およびアッセイすべき蛋白質の群の中における多様性によって,1つのABPまたはABPの混合物を組み合わせる。
“活性に基づくプローブ”("ABP")との用語は,触媒的に不活性な酵素と比較して触媒的に活性な標的酵素と特異的に反応する分子を表す。ABPは,コンビナトリアルケミストリおよび/または合理的設計法を用いて設計し合成することができる。蛍光成分がリガンドとして作用しうるABPの設計戦略の詳細な説明は,PCT出願,PCT/US02/03808,標題"Activity Based Probe Analysis"(代理人書類番号063391−0202),2002年2月5日出願,PCT出願PCT/US00/34187,WO01/77684,標題"Proteomic Analysis"およびPCT出願PCT/US00/34167,WO01/77668,標題"Proteomic Analysis"(それぞれ,すべての表,図面および請求の範囲を含めその全体を本明細書の一部としてここに引用する)に記載されている。これらに記載されるように,設計戦略の目的は,非特異的ターゲティングを最少にしながら,標的とする活性な蛋白質の群と共有結合的に反応しうるABPを提供することである。活性に基づくプローブはライブラリとして存在してもよい。ライブラリとは,特定の個々のサンプルを分析するために提供される複数のそのようなABPを表す。そのようなライブラリは,同時にまたは続けてサンプルと接触させてもよく,あるいは,ライブラリの1またはそれ以上のメンバーと接触させるためにサンプルを別々のアリコートに分けてもよい。ライブラリはまた,"つなげられた"ABPとして,1またはそれ以上の固体表面上に存在していてもよく,これは以下に説明する。
本発明においては,ABPと非標的蛋白質(または不活性な標的蛋白質)との反応がないことは必要ではない。そうではなく,ABPが,同等の量の非標的(または触媒的に不活性な)標的蛋白質と比較したときに,標的酵素(好ましくは触媒的に活性な標的システインプロテアーゼ)のABP標識から少なくとも約2倍の量のシグナルを与える場合に,ABPは,標的酵素“に特異的である”,“と特異的に反応する”,または“に特異的に結合する”ものとして定義される。好ましくは,標的酵素から得られるシグナルは,同等の量の非標的(または不活性)蛋白質から得られるものより,少なくとも約5倍,好ましくは10倍,より好ましくは25倍,さらにより好ましくは50倍,最も好ましくは100倍またはそれ以上高いであろう。
本明細書において用いる場合,"標的酵素"との用語は,ABPが標的酵素に結合したときにその活性部位が1またはそれ以上のABPで標識される酵素を表す。システインプロテアーゼ,特にEnzyme Commission 番号3.4.22.として分類されるものは好ましい標的酵素である。ABPは,触媒的に活性なシステインプロテアーゼに特異的であるように,すなわち,システインプロテアーゼではない触媒的に活性な酵素がABPと特異的に反応しないように,提供することができる。あるいは,ABPは,より広い反応性を有するように,すなわち,触媒的に活性なシステインプロテアーゼと特異的に反応するが,他の触媒的に活性な酵素,例えば他のヒドロラーゼとも反応するように,提供することができる。特に好ましい標的システインプロテアーゼには,カスパーゼおよびカテプシン,例えば,カテプシンB,L,K,S,T,またはXが含まれる。
“触媒的に活性な標的酵素”,“触媒的に活性な標的ヒドロラーゼ”または“触媒的に活性な標的システインプロテアーゼ”との用語は,その天然のコンフォメーションをとっており,その触媒機能を実行するために,それが通常相互作用する物質,例えば,酵素と基質および/または補因子等と相互作用することができる,それぞれ標的酵素,ヒドロラーゼ,またはシステインプロテアーゼを表す。
本明細書において用いる場合,“不活性化された”との用語は,元のサンプル中で触媒的に活性であった標的酵素の少なくとも一部が不活性化されるように処理されたサンプルを表す。“不活性な酵素”は,種々のメカニズム,例えば,変性,阻害剤の共有的または非共有的な結合,変異,二次的プロセシング,例えば,リン酸化または脱リン酸化等から生じうる。本明細書において記載されるような,ヒドロラーゼまたはシステインプロテアーゼ等の酵素の機能的状態は,同じ酵素の大部分のレベルと区別することができる。不活性化サンプルを用いて,本明細書において記載されるように,ABPの活性特異的な結合を評価することができる。
本明細書において用いる場合,“未処理”との用語は,1またはそれ以上の条件に曝露されていないサンプルを,そのような条件に曝露されていない第2のサンプルと比較して表す。未処理サンプルは,不活性化されていないサンプルでありうる。あるいは,未処理サンプルは,スクリーニングアッセイにおいて1またはそれ以上の分子(例えば薬剤リード化合物)に曝露されていないものである。すなわち,本明細書に記載される組成物および方法を用いて,1またはそれ以上の化合物(例えば,薬剤発見におけるリード化合物)で処理した細胞,組織,または生物から得た複雑な蛋白質混合物を,そのように処理されていない細胞,組織,または生物から得た複雑な蛋白質混合物と比較することができる。2つのサンプルからのABP標識蛋白質および/またはペプチドを,相対的シグナル強度について比較することができる。そのような方法は,治療計画による活性な蛋白質含量の変化を示すことができる。さらに,そのような方法はまた,特定の蛋白質の直接阻害により作用する治療(“一次的効果”)と,例えば蛋白質の発現を変更することにより上流の活性な蛋白質成分に影響を及ぼす治療(“二次的効果”)とを区別することができる。
蛋白質の“活性部位”とは,蛋白質,例えば,結合分子,例えば,基質またはレシプロリガンドが結合して,蛋白質,基質,および/またはリガンドが変化する,酵素分子または表面膜レセプターの表面上の領域を表す。レセプターについては,コンフォメーションが変化する場合もあり,蛋白質がリン酸化または脱リン酸化または他のプロセシングに感受性となる場合もある。ほとんどの場合,活性部位は,基質および/または補因子が結合する部位,基質と補因子との触媒反応が進行する部位;2つの蛋白質が複合体を形成する部位,例えば,G蛋白質が表面膜レセプターに結合する部位,2つのクリングル構造が結合する部位,転写因子が他の蛋白質に結合する部位;または蛋白質が特定の核酸配列に結合する部位,等の酵素の部位であろう。
ABPの標的酵素に対するアフィニティーに関しては,ABPが標的酵素と共有結合するときに,無視しうるオフレート(off−rate)が存在するため,ABPと標的酵素とのオンレート(on−rate)に関心がもたれるであろう。1またはそれ以上のABPの全量と比較して標的酵素を化学量論的量より少なくし,次にABPのそれぞれに対するコンジュゲートの相対的な量を測定することにより,ABP間の相対的オンレートを決定することができる。このようにして,ABPのそれぞれから活性な標的プロテアーゼに向けられる相対的活性の測定値を得ることができ,これは,ABPの標的プロテアーゼに対する結合アフィニティーでないとしても,本発明の目的にとっては,アフィニティーであると考えられる。
活性に基づくプローブの構造
本発明の活性に基づくプローブは,リンカー成分によりタグに連結された頭部(warhead)を含む。以下に説明されるように,頭部,リンカー成分(“L”),およびタグ(“TAG”)のそれぞれは,独立して,異なる標的酵素特異性を与えるように選択される。ABPのこれらの成分のそれぞれは,以下に詳細に説明される。好ましい態様においては本発明は,サンプルにおいて触媒的に活性なシステインプロテアーゼを検出および/または測定するためのABPを提供する。
特に好ましいABPは以下の構造:
Figure 2006514824
[式中,
各R1およびR2は,独立して,水素またはアルキル,アルケニル,アルキニル,アリール,ヘテロアリールまたはアルキルアリール基であり,任意に,N,O,またはSからなる群より選択される1またはそれ以上の複素原子を含んでいてもよく;
RGは,触媒的に活性な標的酵素と共有結合することができる反応性基であり,好ましくは,ABPと標的酵素との間に共有結合が形成されるときに失われる脱離基"LG"を含み;
TAGは検出可能な標識であり;
Lはリンカー成分であり;
nは0−4の整数である]
を有するか,またはその薬学的に許容しうる塩または複合体である。
1およびR2は,独立して,水素または任意のアルキル,アルケニル,アルキニル,アリール,またはアルキルアリール基であることができ,これは任意にN,O,またはSからなる群より選択される1またはそれ以上の複素原子を含んでいてもよい。種々の態様においては,R1およびR2は,1−100個の原子,1−50個の原子,または1−20個の原子を有するであろう。最も好ましくは,R1およびR2は,約1−60個の原子,通常は1−30個の原子を有し,ここで,原子は,C,N,O,S,P等,特にC,NおよびOを含み,これは一般に約1−12個の炭素原子および約0−8個,通常は0−6個の複素原子を有する。上述した原子の数は,特に示さない限り,基中の原子の数に関しては水素が除かれている。R1およびR2は,好ましくは,独立して,水素または直鎖または分枝鎖のC1-6アルキルであり,N,O,またはSからなる群より選択される1−3個の複素原子を含んでいてもよく;または,C0-6アルキルアリール,C0-6アルキルヘテロアリール,またはC0-6アルキルフェニルである。最も好ましくは,R1およびR2は,独立して,20個の一般的なα−アミノ酸の側鎖から選択される:
Figure 2006514824
(注:プロリンは縮合側鎖および主鎖を有するため,側鎖だけではなく全体の構造が示されている)。
TAGは,好ましくは蛍光団であり,最も好ましくは蛍光団はローダミン,例えば,TAMRA,または他の蛍光色素であるが,当業者は化学反応を進行させてシグナルを与える任意の検出可能なタグ(他の蛍光団を含む)が本発明において機能することを理解するであろう。
Lは,好ましくは,−N(R)−,−O−,−S−または−C(R)(R)−から選択される1−20個の骨格原子のアルキルまたはヘテロアルキル鎖であり,ここで,各Rは,独立して,H,または直鎖または分枝鎖の−C1-6アルキルである。リンカー成分Lは,好ましくは,10個の炭素を有し,最も好ましくは約10炭素の炭化水素鎖である。リンカー成分はまた,炭素以外の原子,例えば,酸素,窒素,リン,またはイオウを含んでいてもよい。特に好ましいリンカーLは,1−5個のオキシアルキレン基のポリオキシアルキレン(例えば,ポリオキシエチレン:−CH2−CH2−O−)鎖である。当業者は,ABPが反応および共有結合の形成のために反応性基を標的酵素上の反応性化学基の近くにもたらすことができるかぎり,リンカー成分は多くの態様を有しうることを理解するであろう。
最も好ましい態様においては,n=0または1である。
本明細書において用いる場合,“頭部(warhead)”との用語は,標的酵素の活性部位に向けられ,これと結合するABPの部分を表す。頭部は,反応性基(“RG”)およびアフィニティー成分(“R”)を含む。アフィニティー成分(R)とは,反応性基とコンジュゲート化しているか,または蛋白質標的に対する結合アフィニティーを増強させるか,および/または頭部の結合プロファイルを変化させるリンカー成分と会合している化学基を表し,これは単一の原子であってもよい。アフィニティー成分は,好ましくは,1キロダルトン未満の質量である。
反応性基RGは,ABPが標的酵素に結合するときに標的酵素と共有結合しうる任意の基であることができる。好ましくは,RGは,ABPと標的酵素との間に共有結合が形成される際に失われる脱離基"LG"を含む。最も好ましくは,反応性基RGはフェノキシまたはベンジルオキシ誘導体である。種々の好ましい態様においては,反応性基RGは以下のいずれかの構造:
Figure 2006514824
を有し,ここで,LGは以下の構造:
Figure 2006514824
のいずれかを有し,最も好ましくは以下の群:
Figure 2006514824
から選択される。
本発明のABPにおいて用いられる例示的なRGには,フェノキシおよびベンジルオキシメチルケトン誘導体,アルファ−ハロケトン,およびアリールチオールメチルケトンが含まれる。
“リンカー成分”との用語は,1つの成分を別の成分に連結するために用いられ,2またはそれ以上の成分の間の共有結合として働く原子の結合または鎖を表す。多くの場合,合成戦略は連結のための官能化部位を含むことができるため,官能基は,連結成分の選択の利点を有することができる。リンカー成分の選択により,ABPの特異性および/または物理学的特性(例えば溶解性)が変わることが示されている。例えば,Kidd et al.,Biochemistry(2001)40:4005−15を参照。例えば,アルキレンリンカー成分および繰り返しオキシアルキレン構造を含むリンカー成分(ポリエチレングリコール,すなわち“PEG”)は,異なる特異性を有し,異なる蛋白質プロファイルを与える。すなわち,当業者は,特定の蛋白質または蛋白質クラスに対するABPの追加の特異性を得るために,ABPのリンカー成分を選択することができる。
リンカー成分としては,例えば,0−3個の不飽和脂肪族の部位を有する,エーテル,ポリエーテル,ジアミン,エーテルジアミン,ポリエーテルジアミン,アミド,ポリアミド,ポリチオエーテル,ジスルフィド,シリルエーテル,アルキルまたはアルケニル鎖(直鎖または分枝鎖,その一部は環状であってもよい),アリール,ジアリールまたはアルキル−アリール基が挙げられる。アミノ酸およびオリゴペプチドは通常は好ましくないが,これらを用いる場合には,通常は2−3炭素原子のアミノ酸,すなわち,グリシンおよびアラニンを用いる。リンカー成分中のアリール基は,1またはそれ以上の複素原子(例えば,N,OまたはS原子)を含むことができる。リンカー成分は,結合以外である場合には,約1−60個の原子,通常は1−30個の原子を有し,ここで,原子には,C,N,O,S,P等,特にC,NおよびOが含まれ,通常は約1−12個の炭素原子および約0−8個,通常は0−6個の複素原子を有する。上述した原子の数については,特に記載しない限り,基中の原子の数に関して水素は含まれない。
リンカー成分は,その機能によって種々のものであることができ,例えば,アルキレンオキシおよびポリアルキレンオキシ基(アルキレンは2−3個の炭素原子のものである),メチレンおよびポリメチレン,ポリアミド,ポリエステル等が含まれる。ここで,各モノマーは,一般に,1−6個,より一般的には1−4個の炭素原子のものであろう。オリゴマーは,一般に約1−10個,より一般的には1−8個のモノマーユニットを含む。モノマーユニットは,アミノ酸(天然に生ずるものおよび合成のもの),オリゴヌクレオチド(天然に生ずるものおよび合成のもの),縮合ポリマーモノマーユニットおよびこれらの組み合わせでありうる。
本明細書において用いる場合,“TAG”との用語は,ABPの反応性成分と標的プロテアーゼとの反応のプロセスの間に保持されるようにTAGに強く結合している他の任意の成分との組み合わせで,ABPを検出および/または捕獲するために用いることができる分子を表す。TAGは,標的酵素との反応の後に,頭部とリンカー成分との組み合わせに付加して,完全なABPを形成することができる。この目的のためには,頭部とリンカー成分との組み合わせは,通常は蛋白質中に見出されない,TAG上のレシプロ官能基と反応する化学的に反応性の成分を含む。例えば,ビシナルジオールとボロン酸,光活性化基(例えば,ジアゾ亜硫酸水素,アジド)とアルケンまたはアルキン,o−アルキルヒドロキシルアミンとケトンまたはアルデヒド等。次に,頭部リンカー成分をTAGと反応させて,ABPを完成させる。TAG部分は,標的酵素とABPとのコンジュゲートを捕獲することを可能とする。TAGは,置換用TAG(遊離TAGであってもTAGの誘導体であってもよい)を加えることにより,または,溶媒(例えば,溶媒タイプまたはpH)または温度を変化させることにより,捕獲試薬からはずすことができ,あるいは,リンカーを化学的に,酵素的に,熱的にまたは光化学的に切断して,単離された物質を放出させてもよい(以下のリンカー成分の説明を参照)。
TAGの例としては,限定されないが,検出可能な標識,例えば,蛍光成分および電気化学的標識,ビオチン,ジゴキシゲニン,マルトース,オリゴヒスチジン,2,4−ジニトロベンゼン,ヒ酸フェニル,ssDNA,dsDNA,ポリペプチド,金属キレート,および/または糖類が挙げられる。タグおよび捕獲試薬の例にはまた,限定されないが,以下のものが含まれる:デチオビオチンまたは構造的に改変されたビオチン系試薬,例えば,デイミノビオチン(アビジン/ストレプトアビジンファミリーの蛋白質に結合し,例えば,ストレプトアビジン−アガロース,オリゴマー性−アビジン−アガロース,またはモノマー性−アビジン−アガロースの形で用いることができる);任意のビシナルジオール,例えば,1,2−ジヒドロキシエタン(HO−CH2−CH2−OH),および他の1,2−ジヒドロキシアルカン(環状アルカンを含む),例えば,アルキルまたはアリールボロン酸またはボロン酸エステルに結合する1,2−ジヒドロキシシクロヘキサン,例えば,フェニル−B(OH)2またはヘキシル−B(Oエチル)2(アルキルまたはアリール基を介してアガロース等の固体支持体材料に結合させることができる);マルトース結合蛋白質(ならびに他の任意の糖/糖結合蛋白質対,またはより一般的には,上述した性質を有する任意のタグ/タグ結合蛋白質対)に結合するマルトース;これに対する抗体を生成することができるハプテン,例えばジニトロフェニル基;遷移金属に結合するタグ(例えば,オリゴマー性ヒスチジンはNi(II)に結合し,遷移金属捕獲試薬を樹脂結合キレート化遷移金属,例えば,ニトリロ三酢酸キレート化Ni(II)またはイミノ二酢酸キレート化Ni(II)の形で用いることができる);グルタチオン−S−トランスフェラーゼに結合するグルタチオン。ほとんどの場合,TAGは天然に生ずるレセプターに結合するハプテン,例えば,ビオチンおよびアビジンまたは抗体であるか,または検出可能な標識(これもまたハプテンである)であろう。
固相樹脂上で蛋白質を消化し,自動化を容易にしうる化学的アフィニティー樹脂,例えば,金属キレートを用いることができる。これの1つの例は,固定化ニッケル(II)キレートを用いて6個の連続したヒスチジン残基(His−6タグ)を有するペプチドを精製することであり(Invitrogenの製品案内に記載,ProBond(商標)Resin(精製)カタログ番号R801−01,R801−15 Version D00091328−0076),これは一連のイミダゾール含有成分を結合した非ペプチド性化学結合を含むように適合させることができる。別の化学的結合物としては,フェニルジボロン酸(Bergseid,M.et al.Biotechniques(2000)29(5),1126−1133に記載),およびジスルフィド試薬(Daniel,S.M et al.,Biotechniques(1998)24(3),484−489に記載)が挙げられる。さらに,コンビナトリアル合成において有用な化学的アフィニティータグを修飾ペプチド精製に適合させることができる(Porco,JA(2000)Comb.Chem.High Throughput Screening 3(2)93−102に概説されている)。
“蛍光成分”(“Fl”)との用語は,電磁気的放射により励起されることができ,これに応答してアッセイにおいて検出されるのに十分な量の電磁気的放射を放出するTAGを表す。当業者は,蛍光成分が“吸収スペクトル”および“放出スペクトル”と称される多数の波長で吸収および放出することを理解するであろう。蛍光成分は,そのピーク吸収波長より長い波長であるピーク放出波長を示すであろう。“ピーク”との用語は,吸収または放出スペクトルにおける最高点を表す。
蛍光成分Flは,用いるべきプロトコル,同じアッセイ中で用いられる異なるABPの数,電気泳動において単一のレーンまたは複数のレーンが用いられるか,励起および検出装置の能力等に依存して広範な範囲のものでありうる。ほとんどの場合,TAGとして用いられる蛍光成分は,紫外,赤外,および/または最も好ましくは可視の範囲で吸収し,紫外,赤外,および/または最も好ましくは可視の範囲で放出する。吸収は一般に約250−750nmの範囲であり,放出は一般に約350−800nmの範囲である。例示的蛍光成分には,キサンテン染料,ナフチルアミン染料,クマリン,シアニン染料および金属キレート染料,例えば,フルオレセイン,ローダミン,ローサミン,BODIPY染料(FL,TMR,およびTR),ダンシル,ランタニドクリプタート,エルビウム,テルビウムおよびルテニウムキレート,例えば,スクアレート等が含まれる。さらに,ある態様においては,1またはそれ以上の蛍光成分は,エネルギー転移染料,例えば,Waggoner et al.,米国特許6,008,373に記載されるものであってもよい。文献は,広範な種類のリンカー成分を介して蛍光成分を他の基に連結させる方法を詳細に記載する。使用しうる蛍光成分は,一般には2kDal以下,通常は1kDal以下である。
好ましい蛍光成分Flは,精緻化コンジュゲート化ピラン分子,例えばキサンテンを含むことができる。そのような分子には,エオシン,エリスロシン,フルオレセイン,オレゴングリーン,および種々の市販のAlexaFluor(登録商標)染料(Molecular Probes,Inc.)が含まれる。そのような染料の構造の例は以下のとおりである:
Figure 2006514824
特に好ましい蛍光成分は,ローダミン染料である。これらの分子は,典型的には,次の一般構造:
Figure 2006514824
[式中,Kは,−CO2H,または−SO3Hであり;Yは,−H,−CH3であるか,またはRと一緒になって6員環を形成し;Zは−Hであるか,またはRと一緒になって6員環を形成し;およびRは,−H,−CH3,−CH2CH3であるか,またはYまたはZと一緒になって6員環を形成する]
を有する。ローダミン分子,例えば,テトラメチルローダミン,5−カルボキシテトラメチルローダミン,6−カルボキシテトラメチルローダミン,カルボキシローダミン−6G,ローダミン−B塩化スルホニル,ローダミン−レッド−X,およびカルボキシ−X−ローダミンは当業者によく知られている。例えば,Handbook of Fluorescent Probes and Research Products,Molecular Probes,Inc.,2001(その全体を本明細書の一部としてここに引用する)を参照。ローダミンの有利な特徴には,高い量子収率,約pH3から約pH8までのpH範囲にわたる蛍光の低い感受性,有利な水溶性,優れた光安定性,および可視スペクトルの光の吸収が含まれる。特に好ましい蛍光剤は5−カルボキシテトラメチルローダミンおよび6−カルボキシテトラメチルローダミンである。
別の好ましい蛍光成分Flには,4−ボラ−3a,4a−ジアザ−s−インダセン構造の精緻化物であるBODIPY染料がある。例示的な構造は以下に示される:
Figure 2006514824
さらに別の好ましい蛍光成分には,シアニン染料,窒素原子で終わるポリメチン鎖を含むコンジュゲート化構造が含まれる。典型的には,窒素はそれ自身コンジュゲート化複素環の一部である。例示的な構造を以下に示す:
Figure 2006514824
TAGとして用いるのに興味深い別のものは,米国特許6,127,134,(すべての表,図面および特許請求の範囲を含め,その全体を本明細書の一部としてここに引用する)に記載されるマッチした染料である。この特許は,異なる放出を有するが,電気泳動分離における標識蛋白質の相対的移動にはほとんどまたは全く影響を及ぼさない染料で蛋白質を標識することに関するものである。特に興味深いものは,ここに開示されているシアニン染料であって,シアニン染料が結合するリジンと適合する正の荷電のために‘134において選択されているものである。さらに,より短いポリエン鎖染料中にアルキル基を導入してより長いポリエンを補うことにより,分子量をほぼ同じに保ちながら環状の末端の間のポリエンスペーサーを改変することが可能である。また記載されているものは,荷電を有しないBODIPY染料である。天然のおよび不活性化されたサンプルを比較する場合には,蛋白質の移動に同様に影響を及ぼす2つの染料を有することの利点が存在するであろう。ただし,この場合には,不活性化されたサンプルにおいて蛋白質の少なくとも一部が一置換されていることが必要である。
好ましいTAGの上述の例のそれぞれにおいて,カルボキシル基は,リンカー成分用の便利な結合部位を提供することができる。特に好ましい5−および6−カルボキシローダミン分子において,5−または6−カルボキシルは,結合部位として特に好ましい:
Figure 2006514824
一般に,上述した適合性の基準に合う,アフィニティー濃縮に慣用的に用いられている任意のアフィニティー標識−捕獲試薬を,本発明の方法において用いることができる。ビオチンおよびビオチン系アフィニティータグが特に好ましい。特に興味深いものは,構造的に改変されたビオチン,例えば,デイミノビオチンまたはデチオビオチンであり,これらは,アビジンまたはストレプトアビジン(ストレプト/アビジン)カラムから,ビオチンを用いて,またはESI−MS分析に適合する溶媒条件下で,例えば10−20%の有機溶媒を含む希酸で溶出されるであろう。例えば,デイミノビオチンタグ付き化合物は,約pH4以下の溶媒で溶出されるであろう。
ある態様においては,1またはそれ以上のABPは,固相に固定化して,“つなげられた”ABPを形成することができる。つなげられたABPを得るのに有用な例示的な組成物および方法は,米国特許仮出願60/363,762(標題"Tethered Activity−Based Probes and Uses Thereof",その全体を本明細書の一部としてここに引用する)に記載されている。好ましい態様においては,複数の異なるABPを1またはそれ以上の固相の異なる領域につなげて,パターン化されたアレイを形成することができる。構造および/または反応性が互いに異なるABPを含む2またはそれ以上の領域を有するそのようなパターン化されたアレイを用いて,複数の触媒的に活性な標的酵素の存在,量または活性を同時に測定することができる。本明細書において用いる場合,“固相”との用語は,分子を隔離するために当業者に典型的に用いられる広範な種類の材料を表し,例えば,固体,半固体,ゲル,フィルム,膜,メッシュ,フェルト,複合材料,粒子等が含まれる。固相は多孔質であっても多孔質でなくてもよい。適当な固相には,固相結合アッセイにおいて固相として開発され,および/または用いられているものが含まれる。例えば,Immunoassay,E.P.Diamandis and T.K.Christopouloseds.,Academic Press:New York,1996の第9章(本明細書の一部としてここに引用する)を参照。適当な固相の例としては,膜フィルタ,セルロース系の紙,ビーズ(例えば,ポリマー性,ラテックス,ガラス,および常磁性の粒子),ガラス,シリコンウエハ,微粒子,ナノ粒子,テンタゲル,アガロゲル,PEGAゲル,SPOCCゲル,およびマルチウエルプレートが挙げられる。例えば,Leon et al.,Bioorg.Med.Chem.Lett.8:2997(1998);Kessler et al.,Agnew.Chem.Int.Ed.40:165(2001);Smith et al.,J.Comb.Med.1:326(1999);Orain et al.,Tetrahedron Lett.42:515(2001);Papanikos et al.,J.Am.Chem.Soc.123:2176(2001);Gottschling et al.,Bioorg.And Medicinal Chem.Lett.11:2997(2001)を参照。
用いられるABPは,特定の活性部位に特異的であってもよく,複数の関連する蛋白質により一般に共有されていてもよい,活性部位に対するアフィニティーを有するであろう。アフィニティーは,反応性基,リンカー成分,結合成分,TAG,またはこれらの組み合わせの選択により影響されうる。1またはそれ以上のABPは,単一の標的酵素に対する特異性を示すように,または構造的または機能的に関連していてもよい複数の標的に対する特異性を示すように設計することができる。
したがって,本発明は,異なるように発現されている蛋白質を比較定量するための組成物および方法を提供する。本発明により,大きな酵素ファミリー,例えば,システインプロテアーゼの機能的状態を直接モニターすることが可能となる。本発明のABPは,以下のことが可能である:1)好ましくは1またはそれ以上の触媒的に活性なヒドロラーゼ,より好ましくは1またはそれ以上の触媒的に活性なシステインヒドロラーゼを用いて,複雑なプロテオーム中に存在する広範な範囲の触媒的に活性な酵素と直接反応する;2)非標的蛋白質と最少の反応性を示す;および4)ABP反応生成物の迅速な検出および単離のためのTAGを有する。すなわち,本発明は,2またはそれ以上のプロテオーム中に存在する所定の種類の酵素の活性なメンバーを比較して測定し同定する方法を提供する。
以下の実施例は例示のためにのみ提供され,本発明を限定するものではない。
実施例1:カスパーゼ関連プローブの製造
以下の実施例は,本発明のABPを製造する方法のいくつかの態様を例示する。これらの態様のそれぞれについて,1H−NMRスペクトルは,重水素化クロロホルム(CDCl3;δ =7.26ppm)を溶媒として記録した(特に記載しない限り)。調製用HPLCは,逆相Polaris C18カラム(5μmカラム;150mmx21mm;Metachem/Ansys;Torrance,CA)で,トリフルオロ酢酸を緩和剤として含む水とアセトニトリルとの二成分系(水0.1%,アセトニトリル0.08%)を用いて行った。分析的LC−MSはPolaris C18カラム(5μカラム;50mmx4.6mm;Metachem/Ansys;Torrance,CA)により,TFAを緩和剤として含む水とアセトニトリルとの二成分系(水0.025%,アセトニトリル0.02%)を用いて行った。検出可能なTAGは,5−(および6)−カルボキシテトラメチルローダミン(TAMRA−SE;Molecular Probes;Eugene,OR),Boc−11−アミノウンデカン酸,およびCbz−Asp(OtBut)−OH(Calbiochem−Novachem Corp.,La Jolla,Ca)の混合スクシンイミジルエステルであった。
3−ベンジルオキシカルボニルアミノ−5−ブロモ−4−オキソ−ペンタン酸tert−ブチルエステル(11)
乾燥丸底フラスコに磁気攪拌棒を備え,乾燥THFおよび窒素ガスを入れた。Cbz−Asp(OtBut)−OH(組成物10,1.0g,3.09mmol)およびN−メチルモルホリン(0.5mL,4.6mmol,1.5当量)をこの混合物に溶解し,得られた溶液を水氷浴中で0℃に冷却した。イソブチルクロロホルメート(0.47mL,3.7mmol,1.2当量)を,連続的に撹拌しながら10分間かけて滴加した。反応液を0℃で15分間撹拌した。磁気攪拌棒を備えた別の反応フラスコ中に10NKOHおよびエチルエーテルの二層混合物を調製し,氷浴中で冷却した。1−メチル−3−ニトロ−1−ニトロスクアニジン(0.54g,3.7mmol,3当量)を連続的に撹拌しながらゆっくり加えて,明るい黄色のエーテル層を得,次にこれをプラスチックのピペットで組成物10を含むフラスコに移した。得られた溶液を0℃で15分間撹拌し,HBrの濃縮溶液(1mL)を滴加した。反応液をさらに20分間撹拌した。透明な二相混合物にEtOAc(100mL)を加え,有機層をH2O(100mL),飽和NaHCO3溶液(100mL)で洗浄し,Na2SOで乾燥し,真空下で濃縮した。カラムクロマトグラフィー(シリカゲル,2:1,ヘキサン/EtOAc)により精製して,11(0.62g,1.55mmol,51%収率)を無色透明油状物として得た。ESMS:344.2(M+H+),366.2(M+Na+)。
3−ベンジルオキシカルボニルアミノ−4−オキソ−5−(2−,3,5,6−テトラフルオロ−フェノキシ)−ペンタン酸tert−ブチルエステル(12)
DMF(3mL)中の2,3,5,6−テトラフルオロフェノール(150mg,0.90mmol,1.05当量)およびKF(100mg,1.78mmol,2当量)を磁気攪拌棒を備えた乾燥丸底フラスコに加えた。組成物11(353mg,0.88mmol)を溶液に加え,反応液を一晩(12時間)撹拌した。飽和NaHCO3溶液(約50mL)を完了した反応液に加え,水性層をEtOAc(2x50mL)で抽出した。有機層を合わせ,飽和ブライン溶液(50mL)で洗浄し,Na2SO4で乾燥し,真空下で濃縮して,透明油状物を得た。カラムクロマトグラフィー(シリカゲル,2:1ヘキサン/EtOAc)により精製して,12を粘着性の灰白色固体(186mg,0.36mmol,42%収率)として得た。ESMS:486.4(M+H+),509.6(M+Na+)。
3−ベンジルオキシカルボニルアミノ−4−ヒドロキシ−5−(2,3,5,6−テトラフルオロ−フェノキシ)−ペンタン酸tert−ブチルエステル(13)
磁気攪拌棒を備えた乾燥丸底フラスコに組成物12(189mg,0.38mM,1当量)およびMeOH(20mL)を加えた。連続的に撹拌しながらNaBH4(8mg,0.228mmol,0.6当量)を加えた。添加の際に気泡が生成し,得られた無色透明溶液を0℃で30分間撹拌した。溶媒を真空下で除去し,得られた固体をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル,2:1,ヘキサン/EtOAc)で精製して,13を粘着性白色固体として得た(165mg,0.34mmol,81%収率)。ESMS:488.2(M+H+),510.8(M+Na+)。
3−アミノ−4−ヒドロキシ−5−(2,3,5,6−テトラフルオロ−フェノキシ)−ペンタン酸tert−ブチルエステル(14)
組成物13(163mg,0.33mmol)およびMeOH(約15mL)を磁気攪拌棒を備えた乾燥丸底フラスコに加えた。フラスコをN2で数回パージし,触媒量の10%Pd担持Cを反応フラスコに注意深く加えた。得られた黒色異種混合物を真空下で排気し,連続的に撹拌しながら,H2をゴム風船により2回充填した。反応液を室温で1.5時間撹拌し,完了後にセライトのパッドを通して濾過し,真空下で濃縮して,14(115mg,0.32mmol,99%収率)を粘着性灰白色固体として得た。ESMS:354.8(M+H+),376.2(M+Na+)。
3−(11−tert−ブトキシカルボニルアミノ−ウンデカノイルアミノ)−4−ヒドロキシ−5−(2,3,5,6−テトラフルオロ−フェノキシ)−ペンタン酸tert−ブチルエステル(15)
DMF(10mL)中のBoc−11−アミノ−ウンデカン酸(115mg,0.38mmol,1.2当量),EDAC(91mg,0.48mmol,1.5当量),およびHOBt(65mg,0.48mmol,1.5当量)を磁気攪拌棒を備えた乾燥丸底フラスコに加えた。最少量のDMFに溶解した組成物14(115mg,0.32mmol)およびN−メチルモルホリン(2回蒸留,0.14mL,0.96mmol,3.0当量)を連続的に撹拌しながら加えた。無色溶液は反応が進行するにつれてゆっくり黄色に変化した。反応液を18時間撹拌し,次にEtOAc(20mL)を加え,有機層を飽和NaHCO3(20mL),H2O(20mL)およびブライン(20mL)で洗浄し,Na2SO4で乾燥し,真空下で濃縮した。得られた油状物をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル,1:1,ヘキサン/EtOAc)で精製して,15(56mg,0.088mmol,24%収率)を透明な粘稠油状物として得た。ESMS:637.6(M+H+),659.2(M+Na+)。
3−(11−tert−ブトキシカルボニルアミノ−ウンデカノイルアミノ)−4−オキソ−5−(2,3,5,6−テトラフルオロ−フェノキシ)−ペンタン酸tert−ブチルエステル(16)
DCM(2mL)中の組成物15(56mg,0.088mmol)およびデスマーチンペルイオジナン(48mg,0.114mmol,1.3当量)を磁気攪拌棒を備えた乾燥丸底フラスコに加えた。濁った白色懸濁液を20分間反応させた。飽和NaHCO3(20ml)を加え,反応液をEtOAc(20mL)で抽出した。有機層をNaHCO3で乾燥し,真空下で濃縮し,カラムクロマトグラフィー(シリカゲル,1:1,ヘキサン/EtOAc)で精製して,16(23mg,0.036mmol,64%収率)を粘着性白色固体として得た。ESMS:635.4(M+H+),657.2(M+Na+)。
[9−(2−カルボキシ−4−{10,[1−カルボキシメチル−2−オキソ−3−(2,3,5,6−テトラフルオロ−フェノキシ)−プロピルカルバモイルアミノ−キサンテン−3−イリデン]−ジメチル−アンモニウム(1)
4MHCl/ジオキサン(2mL)中の組成物16(14mg,0.022mmol)を磁気攪拌棒を備えた乾燥丸底フラスコに加えた。この溶液に乾燥MeOH(0.2mL)を加え,得られた透明溶液を室温で30分間撹拌し,次に溶媒を真空下で除去した。得られた固体を最少量のDMF中に取り出し,次にDMF(約0.2mL)中のTAMRA−SE(14mg,0.026mmol,1.2当量)およびDIEA(8μL,0.044mmol,2.0当量)に室温でゆっくりと滴加した。20分後,反応液をTFA(0.3mL)で希釈して,tert−ブチルエステル保護基を含む中間体を除去した。次に反応溶液をDMSO(1.5mL)で希釈し,調製用HPLCを用いて流速30mL/分間および0.1%TFA/アセトニトリル:0.1%TFA/水(2−98%)の90分間勾配で精製して,1を明るい紫色固体(6mg,0.0067mmol,31%収率)として得た。1HNMR(CD3OD)δ8.76(s,2H)8.43(d,1H,J=9.6Hz),8.25(d,2H,J=9.5Hz),8.18(d,1H,J=9.8Hz),7.82(s,1H),7.52(d,2H,J=8Hz),7.14(d,4H,J=9.8Hz),7.06(d,4H,J=9.7Hz),6.98(d,6H,J=2.4H),5.18(m,4H),4.78(m,2H),4.34(m,4H),3.46(m,4H),3.38(m,3H),2.88(m,2H),2.73(m,2H),2.23(m,8H),1.63(m,10H),1.29(m,32H).ESMS:892.3(M+H+),914(M+Na+)。
図1はこの一連の反応を示す。当業者は,1と同様の方法で同じ原理を用いて追加のABPを製造することが可能であることを理解するであろう。上述したものと同じ原理を用いて,以下のABPも製造した。
Figure 2006514824
実施例2:カテプシン関連プローブの製造
2,6−ビス−トリフルオロメチル−安息香酸−3−(2−アミノ−3−フェニル−プロピオニルアミノ)−2−オキソ−プロピルエステル(18)
組成物17(150mg,0.25mmol),p−トルエンスルホン酸一水和物(76mg,0.40mmol,2当量)およびMeOH(15mL)を磁気攪拌棒を備えた乾燥丸底フラスコに加えた。フラスコをN2で数回パージし,触媒量の10%Pd担持Cを反応液に加えた。得られた黒色異種混合物を排気し,連続的に撹拌しながらH2をゴム風船により2回充填した。反応液を室温で1.5時間撹拌した。反応が完了したとき,混合物をセライトのパッドを通して濾過し,真空下で濃縮して,18(94mg,0.24mmol,99%収率)を粘着性の灰白色固体として得た。ESMS:477.8(M+H+),499.1(M+Na+)。
2,6−ビス−トリフルオロメチル−安息香酸3−[2−(11−tert−ブトキシカルボニルアミノ−10−メチル−ウンデカノイルアミノ)−3−フェニル−プロピオニルアミノ]−2−オキソ−プロピルエステル(19)
DMF(10mL)中のBoc−11−アミノ−ウンデカン酸(87mg,0.29mmol,1.2当量),EDAC(69mg,0.36mmol,1.5当量),およびHOBt(49mg,0.36mmol,1.5当量)を磁気攪拌棒を備えた乾燥丸底フラスコに加えた。連続的に撹拌しながら,最少量のDMFに溶解した組成物18(94mg,0.24mmol)およびN−メチルモルホリン(2回蒸留,0.9mL,0.72mmol,3.0当量)を加えた。一晩(18時間)の反応の経過の間に無色溶液はゆっくり黄色に変化した。EtOAc(20mL)を反応液に加え,有機層を飽和NaHCO3(20mL),H2O(20mL),およびブライン(20mL)で洗浄し,Na2SO4で乾燥し,真空下で濃縮した。得られた油状物をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル,1:1,ヘキサン/EtOAc)で精製して,19(63mg,0.084mmol,24%収率)を透明な粘稠油状物として得た。ESMS:746.3(M+H+),768.1(M+Na+)。
[9−[4(10−{3−(2,6−ビス−トリフルオロメチル−ベンゾイルオキシ)−2−オキソ−プロピルカルバモイル]−2−フェニル−エチルカルバモイル}−2−カルボキシ−フェニル]−6−ジメチルアミノ−キサンテン−3−イリデン}−ジメチル−アンモニウム(2)
4MHCl/ジオキサン(2mL)中の組成物19(13mg,0.017mmol)を磁気攪拌棒を備えた乾燥丸底フラスコに加えた。乾燥MeOH(0.2mL)をこの溶液に加え,反応液を室温で30分間撹拌し,次に溶媒を真空下で除去した。得られた固体を最少量のDMF中に取り出し,次にDMF(約0.2mL)中のTAMRA−SE(14mg,0.026mmol,1.2当量)およびDIEA(8uL,0.044mmol,2.0当量)に室温で滴加した。2時間後,反応溶液をDMSO(1.5mL)で希釈し,調製用HPLCを用いて,流速30mL/分間および0.1%TFA/アセトニトリル:0.1%TFA/水(2−98%)の90分間の勾配で精製して,2を明るい紫色固体(5mg,0.0067mmol,31%収率)として得た。1HNMR(CD3OD)δ 8.92(bs,1H),8.75(s,2H),8.41(d,1H,J=9.2Hz),8.26(d,1H,J=9Hz),8.20(m,1H),8.09(m,5H),7.81(m,2H),8.87(s,1H),7.51(d,2H,J=7.6Hz),7.14(d,4H,J=9.6Hz),7.05(d,4H,J=9.5Hz),6.97(s,4H),5.04(s,2H),4.38(d,2H,J=8.1Hz),4.18(d,2H,J=8.1Hz),4.12(s,2H),3.44(m,5H),3.36(m,4H),2.19(m,6H),1.34(b,12H),1.29(b,36H).ESMS:1072.3(M+H+),1094.1(M+Na+)。
図2はこの一連の反応を示す。当業者は,2と同様の方法で同じ原理を用いて追加のABPを製造することが可能であることを理解するであろう。上述したものと同じ原理を用いて,以下のABPも製造した。
Figure 2006514824
表1は,本発明の追加のABPを示す。
表1:
Figure 2006514824
Figure 2006514824
Figure 2006514824
Figure 2006514824
Figure 2006514824
Figure 2006514824
Figure 2006514824
Figure 2006514824
Figure 2006514824
Figure 2006514824
本明細書に例示的に記載されている発明は,本明細書に特定的に開示されていない任意の要素または限定なしでも適切に実施することができる。本明細書において用いられる用語および表現は,説明の用語として用いるものであり,限定ではない。そのような用語および表現の使用においては,示されかつ記載されている特徴またはその一部の等価物を排除することを意図するものではなく,特許請求の範囲に記載される本発明の範囲中で種々の変更が可能であることが理解される。すなわち,好ましい態様および任意の特徴により本発明を特定的に開示してきたが,当業者には本明細書に開示される概念の変更および変種が可能であり,そのような変更および変種も特許請求の範囲により定義される本発明の範囲内であると考えられることが理解されるべきである。
本明細書において言及されるかまたは引用される文献,特許および特許出願,および他のすべての書類および電子的に入手可能な情報の内容は,それぞれの文献が特定的にかつ個々に本明細書の一部としてここに引用されることと同じ程度に,その全体が本明細書の一部として引用される。本出願人は,そのような文献,特許,特許出願,または他の書類からすべての材料および情報をこの出願中に物理的に取り込む権利を留保する。
本明細書に例示的に記載されている発明は,本明細書に特定的に開示されていない任意の要素または限定なしでも適切に実施することができる。すなわち,例えば,"含む"との用語は拡張的にかつ制限せずに読むべきである。さらに,本明細書において用いられる用語および表現は,説明の用語として用いるものであり,限定ではない。そのような用語および表現の使用においては,示されかつ記載されている特徴またはその一部の等価物を排除することを意図するものではなく,特許請求の範囲に記載される本発明の範囲中で種々の変更が可能であることが理解される。すなわち,好ましい態様および任意の特徴により本発明を特定的に開示してきたが,当業者には本明細書に具体的に開示される本発明の変更および変種が可能であり,そのような変更および変種も本発明の範囲内であると考えられることが理解されるべきである。
本明細書においては,本発明を広くかつ一般的に記載している。一般的開示に含まれるより狭い種および亜属のそれぞれのグループもまた本発明の一部を形成する。これには,除かれたものが具体的に記載されているか否かにかかわらず,属から任意の主題を除く"ただし・・・"またはネガティブ限定を含む発明の一般的記載が含まれる。
さらに,本発明の特徴および観点がマーカッシュグループについて記載されている場合,当業者は,本発明が,マーカッシュグループの個々のメンバーまたはメンバーのサブグループについても記載されていることを認識するであろう。
他の態様も以下の特許請求の範囲の範囲内である。
図1は,本発明の活性に基づくプローブの例の合成の例を示す。 図2は,本発明の活性に基づくプローブの例の合成の例を示す。

Claims (12)

  1. 次の構造:
    Figure 2006514824
    [式中,
    各R1およびR2は,独立して,水素または,N,O,またはSからなる群より選択される1−3個の複素原子を含んでいてもよい直鎖または分枝鎖のC1-6アルキル,またはC0-6アルキルアリール,C0-6アルキルヘテロアリール,またはC0-6アルキルフェニルであり;
    RGは,触媒的に活性な標的酵素と反応して共有結合を形成する反応性基であり;
    Lは任意に存在し,−N(R)−,−O−,−S−または−C(R)(R)−からなる群より選択される1−20個の骨格原子のアルキルまたはヘテロアルキル基であり,
    ここで,各Rは,独立して,Hまたは直鎖もしくは分枝鎖のC1-6アルキルであり;
    nは1−4の整数である]
    を有する活性に基づくプローブまたはその薬学的に許容しうる塩または複合体。
  2. nが1または2である,請求項1記載の活性に基づくプローブ。
  3. 各R1およびR2が,独立して,
    Figure 2006514824
    からなる群より選択される,請求項1記載の活性に基づくプローブ。
  4. RGが,
    Figure 2006514824
    からなる群より選択され,
    LGが,
    Figure 2006514824
    からなる群より選択される,請求項1記載の活性に基づくプローブ。
  5. LGが,
    Figure 2006514824
    からなる群より選択される,請求項4記載の活性に基づくプローブ。
  6. TAGが,
    Figure 2006514824
    からなる群より選択される,請求項1記載の活性に基づくプローブ。
  7. 以下の構造:
    Figure 2006514824
    からなる群より選択される構造を有する,活性に基づくプローブ。
  8. 以下の構造:
    Figure 2006514824
    からなる群より選択される構造を有する,活性に基づくプローブ。
  9. 請求項1−8のいずれかに記載の複数の活性に基づくプローブを含む,活性に基づくプローブのライブラリ。
  10. 連結成分を介してTAGに共有結合している1またはそれ以上の活性に基づくプローブ,および,前記活性に基づくプローブが標的酵素に結合したときに前記標的酵素のアミノ酸官能基と反応する反応性基を用いて,複雑な蛋白質混合物中の1またはそれ以上の標的酵素の酵素プロファイルを決定する方法であって,
    前記活性に基づくプローブが前記標的酵素と反応し,このことにより,前記活性に基づくプローブと前記標的酵素とのコンジュゲートが形成される条件下で,反応媒体中で,前記活性に基づくプローブと前記複雑な蛋白質混合物とを組み合わせ;そして
    これにより形成された1またはそれ以上のコンジュゲートからシグナルを生成することにより前記酵素プロファイルを決定する,
    ことを含み,ここで,前記活性に基づくプローブは,請求項1−8のいずれかに記載の活性に基づくプローブから選択される,上記方法。
  11. 前記反応性基が,
    Figure 2006514824
    からなる群より選択され,
    LGが,
    Figure 2006514824
    からなる群より選択される構造を有する,請求項10記載の方法。
  12. 前記活性に基づくプローブが1またはそれ以上のシステインプロテアーゼに特異的に結合する,請求項10記載の方法。


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