本発明は、土壌に対して合理的に灌水する方法と装置とに関し、特に、土壌に於ける水分を測定した測定値に応じて所定時間水を供給することで、土壌の乾燥状態に応じた適正な給水を行う得る灌水方法と灌水装置に関するものである。
露地栽培用の土壌は、雨水や地下水による給水を受けるため積極的な灌水を行うことはまれである。しかし、家庭の庭園等で栽培される芝や低木に対しては、灌水装置を利用した給水も行われている。
また、最近では都市部に於けるヒートアイランド現象等の環境問題の緩和や省エネルギーを目的として、建物の屋上を緑化することが行われるが、この屋上緑化のための土壌には降雨等による自然の給水と水道水による給水を行うのが一般的である。後者の場合は、人がホースを利用して土壌に散水することで行う給水と、灌水装置を利用して自動的に行う給水とがあるが、給水作業に要する手間や不在時の乾燥等を考慮して灌水装置を利用することが増えている。
一般的な灌水装置は、水道水を給水源として蛇口に接続された電磁開閉弁、電磁開閉弁に接続されたスプリンクラー或いは土壌に直接給水し得るようにした給水パイプ、季節や栽培する植物を考慮して指定された給水時間や給水回数等を記憶する記憶部を有し指定された条件になったとき電磁開閉弁を開閉させる信号を発生する制御装置、等を有して構成されている。そして、制御装置に予め給水すべき日にちの間隔や一日の給水すべき時間と回数、及び電磁開閉弁を開放している時間を指定することで、灌水装置による給水を行っている。
上記した灌水装置では、予め設定された給水すべき日時と回数に従って土壌に対し一定時間給水される。このため、梅雨時のように充分な雨水が給水されているような時でも更なる給水がなされることとなり、水分過剰による根腐れが生じたり、水資源やエネルギーの浪費等、環境問題の改善に逆行してしまう虞がある。また降雨が不足しているような状態でも給水条件が変わらないため、土壌への給水不足になって植物が枯れてしまう虞もある。この問題を解決するためには、灌水条件を頻繁に変更することが必要であるが、設定の変更に手間がかかるという問題が派生する。
このような問題を解決し土壌の水分量を適正な値に管理するために、水分測定器を利用することが提案されている(例えば特許文献1、2参照)。
特許文献1の技術によれば、土壌の水分含有量を実際に測定し、その測定値が所定の値以下になった場合にのみ水を供給することが可能で過剰な給水を抑制することができる。更に特許文献2の技術を適用すれば、広範囲の地域に測定器を設置して土壌の平均した水分含有量を測定することができ、地域による水分量の偏りで給水タイミングを逸すること(例えば局所的に極端な湿潤状態の地域が存在し、測定器がこれに反応することによって、要給水状態に達した他の地域に水が供給されなくなること)がある程度緩和される。
実開平5−55863号公報
実公平7−38854号公報
しかし、特許文献2の技術では、水分含有量を測定し得る感圧センサーは主測定器にのみ存在するので、測定し得る値は常に全ての地域(測定器が設置されている場所)での水分含有量を平均したものとなってしまい、平均値以外の数値を取得することが不可能である。
このため、次のような問題が生じる。第1の問題は局所的に水分の供給過多の地域が存在する場合に全体としての水分の供給が不足するという点であり、第2の問題は局所的に植物を栽培している場合であってもピンポイントの水分含有量を測定し得ないため適切な時期に水分が供給されないという点であり、第3の問題は根の深さが異なる植物が併存する場合は乾燥の影響を受けやすい根の浅い植物に照準を合わせて給水する必要があるが、このような場合への対応ができないという点であり、第4の問題は根の深さや張り方が異なる植物に植え替えた場合の測定器の位置や深さの再設定が必要となるという点である。
本発明の目的は、複数の土壌の水分の測定値の中から選択した測定値に応じて所定時間水を供給することで、該土壌の水分の分布や、該土壌に栽培された植物の生育特性やその植栽領域に応じて給水することを実現した灌水方法と灌水装置を提供することにある。
上記課題を解決するために本発明に係る土壌への灌水方法は、土壌に対する灌水方法であって、予め土壌の複数の位置に水分を測定するための水分センサーを埋設しておき、前記複数の水分センサーの中から土壌に植栽された植物の植栽領域や生育特性に応じて選択された一つの水分センサーの測定値に基づいて、又は選択された複数の水分センサーの測定値に基づいて、所定時間水を供給することを特徴とするものである。
また本発明に係る土壌への灌水装置は、土壌に灌水するための灌水装置であって、土壌に於ける複数の位置に埋設され所定深さの水分を測定する複数の水分センサーと、土壌に水を供給する灌水部材と、前記灌水部材と土壌に供給する水の供給源との間に配置され土壌に対する水の供給及び遮断を行う開閉弁と、前記複数の水分センサーの中から土壌に植栽された植物の植栽領域や生育特性に応じて選択された水分センサーの測定値の情報に基づいて前記開閉弁の開閉を制御する制御装置とを有するものである。
本発明の灌水方法及び灌水装置では、雨水の有効利用をはかり、水道水の使用量や装置の稼働時間を必要最小限に抑えることができる。このため、水資源やエネルギー等の消費を抑制し環境問題の改善や維持費用の削減をはかることができる。
また実際の土壌の水分に基づいて給水するので、灌水装置の制御装置に対し季節や過去の降水量等を参考にして給水条件を指定するという手間をかけることなく、栽培されている植物に不足することなく水分を供給することができ、根腐れや枯れを防止することは勿論、給水を開始する水分量の設定を適宜調整することによって植物に対し積極的に適度なストレスをかけて、多少の乾燥状態に耐え得る丈夫な植物や糖度の高い野菜や果実を育成することができる。
特に、複数の水分センサーの中から栽培する植物の植栽領域、或いは根の深さや張り方等の生育特性に応じて好ましい位置にある水分センサーを選択し、その測定値の情報に基づいて開閉弁を制御することによって、植物の植栽領域や栽培する植物の種類を変更した場合でも、その植物の生育に好ましい環境を容易に維持することができる。
以下、本発明の灌水方法及び灌水装置の最良の形成について説明する。本発明の灌水方法は土壌の水分を測定すると共に測定値に基づいて水の供給(以下、水の供給或いは給水という)を行う方法であり、土壌の最低水分を保持して植物の良好な育成を実現するものである。
このため、本発明の灌水方法では、予め目的の土壌に於ける平面的な複数の位置及び、又は深さ方向に複数の位置に水分を測定するための水分センサーを埋設しておき、土壌に植栽された植物の根の深さや張り方等の生育特性に応じて、前記複数の水分センサーの中から選択された一つの水分センサーの測定値に応じて或いは選択された複数の水分センサーの測定値に応じて、所定時間水を供給することで、土壌に於ける最低の水分を確保し得るようにしたものである。
本発明の灌水方法は、例えば、建物の屋上に施工した菜園や庭園等の緑化用土壌、或いは露地栽培用の土壌、庭園用の土壌等の農業、林業、造園業等全てに対して有効に適用することが可能であり、更に、温室栽培用の土壌であっても利用することが可能である。特に、本発明の灌水方法は、雨水による給水の可能性を有する露地栽培用の土壌に対して適用した場合、水の供給頻度を削減して給水コストを軽減させることが可能である。
本発明の灌水方法及び灌水装置に於いて、土壌に対し水分センサーを埋設する位置は限定するものではなく、平面的に、或いは深さ方向に対し夫々複数の位置であって良い。平面的な位置としては、土壌が敷設された平面をマトリックス状に区画して該区画を選択して水分センサーを埋設することが好ましい。この場合、区画毎に異なる植物(例えば、芝や草花、野菜、低木等)を植栽することが可能となり好ましい。特に、土壌が畑や庭園のような広い敷地に敷設されている場合、この敷地の特性(勾配や水はけの良否等)を考慮して適当な位置に埋設することが好ましい。
また建物の屋上に於ける土壌のように敷地の限界が規定されると共に土壌が人工土壌であるような場合、中央部分や敷地の周辺部分を選択して水分センサーを埋設することが好ましい。特に、土壌が屋上に設けた菜園や庭園のような人工的な緑地に施工されているような場合、この緑地の保水構造(例えば、屋上に複数の貯水用のパン(パレット)を並べて保水する構造や、全体を防水シートで囲って保水する構造等)に応じて最適な位置に水分センサーを埋設することが好ましい。
このように、平面的に異なる位置に埋設された水分センサーによって敷地に於ける水分の分布を測定することが可能となる。そして、これらの測定値を用いて、全測定値の平均値、或いは測定値の最大と最小を除いて算出される平均値、選択された測定値の平均値、最大度数の測定値、特定の位置に於ける測定値等、様々な数値を算出し、これらの算出値に基づいて給水することが可能となる。このため、土壌の湿潤状態の偏差を考慮したり、植物の植栽領域に基づいてきめ細かい給水管理を実現することが可能となる。
また深さ方向に対する位置としては、地表に近い深さ(浅)、野菜や草花に対応する深さであって地表よりも深い深さ(中)、樹木に対応する深さであって地表より充分に深い深さ(深)を選択して水分センサーを埋設することが好ましい。
このように、浅、中、深と異なる深さ位置の水分を測定し得るようにすることで、栽培している植物の根の深さに対応した水分の測定値に基づいて給水することが可能となる。即ち、土壌に栽培されている植物が根のはりが浅い場合、予め土壌の浅い部分の水分を測定し得るように埋設された水分センサーを選択しておき、この水分センサーの測定値に基づいて給水することが可能となり、栽培されている植物に対し有効な給水を実現することが可能である。
土壌中に埋設される水分センサーの構造は特に限定するものではなく、埋設位置の水分を測定して測定値を出力し得るように構成されたものであれば利用することが可能である。
土壌に対して給水する場合、どのように給水するかは限定するものではない。例えば、土壌に対する給水は、スプリンクラーによって地表から行う方法と、土壌に周囲に穴を形成したホースやパイプを埋設して土壌中から行う方法とがあり、何れの方法を採用しても良い。
また土壌に対する給水時間は限定するものではなく、土壌から排水される量を軽減して該土壌に有効に保水されるように給水することが好ましい。このような給水を行う場合、単位時間当たりの給水量を単位時間当たりの土壌への水分の浸透量に対応させることが好ましく、このためには、充分に時間をかけて給水することが好ましい。
本発明の灌水装置は、土壌に埋設された水分センサーによる測定値に基づいて、土壌に対し所定時間給水し得るようにしたものであり、水の供給源(給水源)と接続された開閉弁と、開閉弁と接続された灌水部材と、開閉弁の開閉を制御する制御装置とによって構成されたものである。そして水分センサーの測定値に基づいて制御装置から開閉弁に対し、所定時間の開放信号が出されたとき、この開放信号により開閉弁が開放して供給源から供給された水が灌水部材を介して土壌に給水される。
土壌に複数の水分センサーが埋設されているため、開閉弁の開閉を制御するに際し、何れの水分センサーの測定値を利用するかは特に限定するものではなく、土壌に植栽された植物の生育特性に応じて選択した水分センサーの測定値を利用することが好ましい。
本発明の灌水装置に於いて、制御装置の構成は特に限定するものではなく、土壌に埋設された複数の水分センサーの測定値に応じて開閉弁を開閉し得る制御装置であれば利用することが可能である。このような制御装置として必要最小限の手段は、複数の水分センサーの中から予め一つの水分センサーを選択する選択手段、開閉弁を開閉すべき測定値を認識する認識手段、開閉弁の開放時間を限定する時限手段であり、これらの手段を設けることにうよって制御装置を構成することが可能である。
上記制御装置では、予め、認識手段によって土壌に対する給水を開始すべき限界値を設定し、時限手段によって開閉弁の開放時間を設定し、選択手段によって土壌に埋設された複数の水分センサーの中から給水を制御するに際し最も適当な水分センサーを選択し、この状態で作動を開始させると、選択された水分センサーでは土壌の水分を測定して測定値を認識手段に伝え、この認識手段で伝えられた測定値が限界値を超えるか否かを認識し、測定値が限界値を超えたとき時限手段が動作して開閉弁を所定時間開放することで、土壌に給水することが可能である。
しかし、制御装置は必ずしも上記の構成に限定するものではなく、土壌が敷設されている敷地や緑地の特性や、給水すべき区画の領域(植栽領域)や、栽培すべき植物の生育特性や、土壌に於ける植物の混在特性等の特性を反映し得るような制御装置とすることも可能である。このように、肌理の細かい制御を行うことで、栽培する植物に対し好ましい給水を行うことが可能となり、水資源やエネルギーの無駄な浪費を省くことが可能となる。
上記の如き制御装置としては、土壌に対する給水を開始すべき限界値(土壌に含まれる水分量(PF値)が減少して土壌が乾燥状態になり、給水が必要であると認識する限界値(限界PF値))や給水条件に対応したプログラムや平均値を演算する演算プログラム等のプログラムを記憶し且つ水分センサーからの測定値(土壌の水分量(測定されたPF値))を一次的に記憶する記憶部、限界PF値やプログラムや選択した水分センサー或いは他の情報を入力する入力部、給水条件のプログラムを読み出して水分センサーの測定値と比較演算する演算部、演算部に於ける演算結果に応じて開閉弁に対し開放信号を出力し且つ灌水装置の現在の稼働状態を標示するディスプレイや異常状態を知らせるアラーム等を含む出力部、等を有して構成されたものであることが好ましい。
上記制御装置には、例えば、土壌が敷設された平面をマトリックス状に区画して夫々の区画を植栽領域とすると共に該平面に異なる深さに埋設された複数の水分センサーを配置しているような場合、記憶部に平面に於ける各植栽領域の情報と、平面に配置された複数の水分センサーの位置の情報と深さの情報を記憶させておくことが好ましい。
上記の如く、平面に於ける植栽領域の情報と、水分センサーの位置と深さの情報を記憶させた場合、入力部から植栽領域又は植栽領域及び水分センサーを指定する情報を入力することによって、指定された植栽領域に対してのみ給水を行うことが可能である。即ち、指定された植栽領域に必要な水分センサー(例えば、浅、中、深に対応した水分センサー)が埋設されている場合、制御装置では植栽領域の指定と同時に埋設されている水分センサーを認識することが可能であり、また指定された植栽領域に必要な水分センサーが埋設されていない場合、指定された植栽領域の近傍に埋設されている水分センサーを認識し、或いは指定された植栽領域の近傍に埋設されている水分センサーを入力部から指定することで水分センサーを認識することが可能である。この場合、目的の平面に於ける特定の植栽領域にのみ植物が栽培されているような場合に好ましく給水することが可能である。
また平面に栽培すべき植物の根の張り方に対応させて測定すべき深さの情報を入力することによって、土壌に於ける指定された深さの水分の測定値に応じた給水を行うことが可能である。例えば、栽培されている植物が芝のように根をはる深さが浅い場合、予め土壌に浅く埋設されている水分センサーを選択することで、選択された水分センサーの測定値に応じて土壌に給水することが可能である。
土壌に対し浅く埋設された水分センサーを選択した場合、対応する水分センサーが複数存在するような場合、これら複数の水分センサーの測定値を如何にして制御用の測定値として利用するかが問題となる。このため、制御装置の記憶部に、複数の水分センサーの測定値の中から開閉弁の制御に利用する測定値を演算する演算プログラムを記憶させておき、これらの演算プログラムの中から栽培すべき植物に対応させて最も好ましい演算プログラムを入力部から指定することが好ましい。
複数の水分センサーの測定値を制御用の測定値に演算する場合、複数の水分センサーの測定値を単純平均した測定値、最大値と最小値を除いた複数の測定値を平均した測定値、複数の水分センサーの測定値に於ける中間の測定値、複数の水分センサーの測定値に於ける最も多く測定された測定値、等の測定値を選択的に採用することが可能である。これらの測定値の演算方式は、目的の平面(植栽領域を含む)の面積や形状、傾斜の状態、日射の度合い、栽培すべき植物の生育特性、土壌の配合状態や性質等の条件に応じて適宜選択することが好ましい。このように、土壌に於ける根の張り方が浅い植物に対し、浅い位置に埋設された複数の水分センサーの測定値に応じて土壌に給水することが可能である。
同様にして、植物の根のはり深さに対応する深さの水分を測定する水分センサーを選択すると共に選択された水分センサーの測定値を利用することで、土壌に対し所定時間給水することが可能となる。
土壌に対して給水を開始する際の限界値となる土壌の水分量(限界PF値)の値は特に限定するものではなく、目的の植物の生育特性である、水を多量に必要とする植物であるか、水の必要量が少ない植物であるかに応じて適宜設定することが好ましい。特に、丈夫な植物を育成しようとした場合、この植物に対しストレスをかけることがあるが、この場合、限界PF値を適宜設定することによって、ストレスを制御することが好ましい。
本発明の灌水装置では、水分センサーは夫々土壌中に埋設されている。このため、水分センサーの作動状況や開閉弁の作動状況、或いは現在給水の対象とされている植栽領域を含む灌水装置の現在の稼働状況を監視し得るように構成しておくことが好ましい。このため、制御装置には、選択された植栽領域、選択された水分センサー、水分センサーの測定値から演算した制御用の測定値(PF値)、給水する限界となる限界PF値、開閉弁の開閉状態、を標示するディスプレイを有することが好ましい。更に、例えば、制御用のPF値が限界PF値よりも下回ったにも関わらず開閉弁が開放しないような異常が生じたときに周囲に注意を喚起するアラームを有することが好ましい。
土壌に水を供給する際の給水源は特に限定するものではなく、貯留した雨水や井戸水や上水道を利用することが可能である、特に、建物の屋上に敷設した緑地用の土壌に対して水を供給する場合、給水源は上水道となるのが一般的である。このため、屋上の土壌では、如何にして水道水の使用量を軽減するか、がランニングコストを削減する上で重要な要素となる。
給水源と接続される開閉弁の構造は特に限定するものではなく、制御装置からの開放信号に応じて確実に開放し、且つ開放信号が停止したとき或いは閉鎖信号に応じて確実に閉鎖し得るものであれば良い。このような機能を持つ開閉弁としては、ソレノイドによる駆動部を持った電磁開閉弁がある。
目的の平面を複数の植栽領域に区画すると共に各植栽領域を選択して給水し得るように構成する場合、各植栽領域毎に開閉弁を設けることが必要となる。この場合、給水源に接続された主開閉弁と、各植栽領域毎に対応して設けられた個別の開閉弁とを設け、主開閉弁を手動弁によって、個別の開閉弁を電磁開閉弁によって構成することが好ましい。
灌水部材は開閉弁に接続され、該開閉弁が開放したとき土壌に対して給水するものであり、この機能を有するものであれば利用することが可能である。このような機能を有するものとして、土壌の地表側から給水するスプリンクラーや、土壌に埋設され周囲に多数形成された小さな穴から水を滴下させて給水する軟質の樹脂製の管(一般的にドリップチューブ、灌水ホース等と呼ばれる商品)があり、何れも利用することが可能である。特に、周囲に小さい穴が形成され、この穴から土壌に給水し得るようにしたホース(灌水ホース)では、時間をかけてゆっくりと給水することで土壌に吸収されて植物に供給され得る水分量を大きくすることが可能であると共に、水分の蒸散を抑制することができるので有利である。
次に、灌水装置の実施例について図を用いて説明する。図1は建物の屋上の緑化をはかるための土壌に対する灌水装置の構造を模式的に説明する断面図である。図2は水分センサーの平面的な配置を模式的に説明する平面図である。図3〜図7は土壌で栽培する植物の状態を説明する図である。本実施例は、建物の屋上に敷設した緑地Aの土壌を灌水するための装置として構成されており、この土壌は降雨による給水を期待し得るように露天として構成されている。
緑地Aは、建物の屋上を構成する床版の上面に仕上材が敷設された床構造体1の更に上面に構成されている。即ち、床構造体1の上面には緑地Aの面よりも広い面に防水シート2が配置されており、該防水シート2は床構造体1を構成する仕上材に対し接着等の手段で一体化している。
また防水シート2の上面であって予め設定された緑地Aの平面領域に、貯水機能を有するパレット3a〜3dが配置され、夫々のパレット3a〜3dに対応する領域が植栽領域として構成されている。各パレット3a〜3dは夫々予め設定された幅、長さ、深さを持ったパン状に形成されており、上縁に形成されたフランジ部をボルト,ナット等を利用して連結することで配置位置を保持し得るように構成されている。尚、本実施例では、緑地Aの平面領域に4つのパレット3a〜3dを配置しているが、この数に限定するものではなく、構成すべき緑地の面積等に応じて適宜複数のパレットを採用することが可能である。
各パレット3a〜3dの内部には、適度の圧縮強度を有し且つ隙間の大きいへちま状の部材が配置され、更に、へちま状の部材の上面に不織布等の透水性を有し且つ土壌を通過させることのない透水シート5が配置されている。そして、前記へちま状の部材と透水シート5とによって保水層4が形成されている。特に、透水シート5は水を透過する機能と、水を吸い上げる機能と、を有しており、上部に敷設された土壌層6に対して供給された水の余剰分をへちま状の部材に透水し、土壌層6が乾燥気味なときへちま状の部材が保持している水を土壌層6に吸い上げることが可能である。
土壌層6は保水層4の上面に対し全面にわたって、且つ所定の厚さを持って形成されている。緑地Aが屋上に敷設されているため、土壌層6を構成する土壌は比重の小さい人工土壌が用いられている。土壌層6を構成する人工土壌の詳細な構造は特に限定するものではないが、比重が小さく良好な保水性と排水性を有し且つ適度な保肥性を有する軽石や、保水効果の高いバークチップ等を適度に配合したものであることが好ましい。
土壌層6には植物が栽培されるが、如何なる植物を栽培するかは限定するものではなく、本実施例では、根のはりが浅い芝7、根のはりが芝7よりも深く土壌層6の略中央部分にある野菜8、根のはりが比較的深い高さが1.5m程度の低木や高さが2m程度の中木を含む樹木9が栽培されている。このように、芝7〜樹木9を栽培するのに必要な土壌層6の厚さは特に限定されるものではないが、およそ約20cm以上確保するのが好ましく、本実施例でも、土壌層6の厚さは20cmに設定されている。
尚、複数配置されたパレット3a〜3dの外周に沿って縁石10が設置されており、該縁石10によって緑地Aの美観の向上をはかっている。
土壌層6の所定位置には、開閉弁12が配置されている。この開閉弁12の吐出口には灌水部材となる灌水ホース13が接続されると共に吸込口にはホース14を介して上水道の蛇口15が接続されている。この開閉弁12は電気信号からなる開放信号を受けて作動するソレノイドを有しており、該ソレノイドは開放信号を発する制御装置16と接続されている。
灌水ホース13は、土壌層6の所定深さ位置に埋設されている。土壌層6に埋設される灌水ホース13の深さや長さは埋設経路等の条件は特に限定するものではなく、土壌層6に対し可及的に均等に給水し得るように埋設することが好ましい。この灌水ホース13は、外周に所定の間隔で複数の穴が形成されており、開閉弁12に近い部位でも、開閉弁12から離隔した部位でも略同様に水を噴出し得るように構成されている。
本実施例では、各パレット3a〜3dに対応して植栽領域が設定され、各パレット3a〜3dに対応させて灌水ホース13が敷設されており、各パレット3a〜3dに敷設された灌水ホース13毎に図示しない電磁開閉弁が接続されている。これらの電磁開閉弁は制御装置16に接続されており、給水すべき植栽領域(パレット3a〜3d)を選択したとき、選択されたパレット3a〜3dに対応した電磁開閉弁が制御装置16の信号に応じて制御され、選択されたパレット3a〜3dに給水し得るように構成されている。
土壌層6には複数の水分センサーが埋設されている。夫々の水分センサーは、土壌層6に於ける埋設部位の水分を測定して測定値を電気信号として発生するものであり、夫々独立して制御装置16に接続され、測定値を単独で入力し得るように構成されている。尚、水分センサーから発生した電気信号を無線で発信し、制御装置で受診し得るように構成することも可能である。この場合、個々の水分センサーに接続される配線が不要となり、土壌に植物を植え込む際にシャベルや移植鏝によって断線する虞を排除することが可能である。
本実施例では各パレット3a〜3dに夫々三つの水分センサーが埋設されており、全部で12本の水分センサー17a〜17lが埋設されている。尚、煩雑さを避けるために、各水分センサー17a〜17lを代表して単に水分センサー17ということもある。
水分センサー17の土壌層6に於ける平面的な埋設位置や埋設深さは一義的に設定されるものではなく、緑地Aの平面形状や広さ、土壌層6を構成する人工土壌の特性や深さ、栽培すべき植物の根のはりかたの特性、等の条件を考慮して適宜設定することが好ましい。特に、人工土壌を利用して建物の屋上に敷設した緑地Aでは、土壌層6を構成する複数の要素の配合状態が場所によって不均質になり土壌内空隙率が異なる虞もあることから、この点を考慮して水分センサー17を配置することが好ましい。
本実施例では、田の字状に配置されたパレット3a〜3dの夫々に、深い位置の水分を測定し得る水分センサー17a,17d,17g,17j、中程度の深さの水分を測定し得る水分センサー17b,17e,17h,17k、浅い位置の水分を測定し得る水分センサー17c,17f,17i,17l、が土壌中に深さが同じ水分センサーどうしが略等間隔になるように埋設されている。
制御装置16は、各水分センサー17a〜17lの測定値を測定データとして入力し、これらの測定データの中から選択された測定データに基づいて開閉弁12に対して所定時間の開放信号を発生するものである。この制御装置16は、予め開閉弁12を開放する際の条件(限界PF値を含む)や開閉弁12の開放時間を含むプログラムを記憶した記憶部と、各水分センサー17a〜17lから入力された測定データを一時記憶する一時記憶部と、記憶部に記憶されたプログラムに従って入力された測定データを演算する演算部と、記憶部に記憶した開閉弁12の開放条件を変更する情報を入力する入力部と、を有して構成されている。
開閉弁12を開放する際の開放条件は、土壌層6に於ける最低水分量や、最低水分量を測定した深さ等によって設定され、該土壌層6で栽培される植物の生育条件に応じて設定される。
例えば、図3に示すように、土壌層6に栽培される植物が根のはりが浅い芝7のみであり、この芝7が緑地Aの全域に栽培されているような場合、土壌層6に於ける浅い部位の水分量に基づいて給水し得るような条件とし、水分センサー17c,17f,17i,17lによる測定データを選択して開閉弁12の開閉を制御し得るようにしている。
即ち、予め制御装置16の入力部を操作して水分センサー17c,17f,17i,17lの測定データを選択すると共に開閉弁12を開放する基準となる水分量(限界PF値)を指定しておき、この状態で制御装置16を作動させると、水分センサー17c,17f,17i,17lからは土壌層6の浅い部位の水分を測定した測定データが制御装置16に伝達される。制御装置16では伝達された測定データを一時記憶部に記憶しておき、予め設定された時間間隔をもって、一時記憶部から水分センサー17c,17f,17i,17lの測定データを読み出し、記憶部に記憶されている開閉弁12の開放条件として設定されている限界PF値と比較する。そして、水分センサー17c,17f,17i,17lの測定データが限界PF値よりも大きく、未だ土壌層6の浅い部位が湿潤状態にあると判断した場合にはそのまま開閉弁12の閉鎖状態を保持する。また、測定データが限界PF値に達したときは、土壌層6の浅い部位が乾燥状態になったと判断して制御装置16から開閉弁12に開放信号が発せられ、この信号に応じて開閉弁12が開放し、これに伴って水道水が灌水ホース13を介して土壌層6に供給される。
このように、四つの水分センサー17c,17f,17i,17lの測定データに基づいて開閉弁12の開閉を制御する場合で夫々の水分センサー17c,17f,17i,17lの測定データにバラツキが生じているような場合、予めどのような測定データを採用するかを設定して制御装置16の記憶部に記憶させておくことが好ましい。即ち、制御用の測定データとして採用するデータを、これらの単純平均値、最小の水分量を示す測定データ(PF値としては最大値)、最大の水分量を示す測定データ(PF値としては最小値)、或いは中間の二つの測定データの平均値等、複数の選択肢の中から選択して設定し得るように制御装置16の記憶部に記憶させておくことが好ましい。
例えば、水分センサー17c,17f,17i,17lの測定データの単純平均或いは中間の二つの測定データを採用した場合には略平均的な給水を行うことが可能であり、最も小さい測定データを採用した場合には栽培している植物に対しストレスを与えて、乾燥に対する耐性の大きな丈夫な植物に育てることが可能である。
また図4に示すように、芝7が緑地Aの一部、例えばパレット3a,3bの上部にのみ栽培されているような場合には、パレット3a,3bに埋設されている水分センサー17c,17fによる測定データを選択すると共に、前述の例と同様にして水分センサー17c,17fの測定データの単純平均を採用して制御用の測定データとし、又は小さい方の測定データを採用して測定データとし、或いは大きい方の測定データを採用して測定データとして開閉弁12の開閉を制御することで、土壌層6を良好な状態で灌水することが可能である。
また図5に示すように、土壌層6で栽培する植物が根のはりが主として中程度の深さであり、且つ中程度から深い方向にも根をはるような野菜8のみであるような場合、深い位置の水分を測定する水分センサー17a,17d,17g,17j、中程度の深さの水分を測定する水分センサー17b,17e,17h,17kを選択し、これらの水分センサー17a,17d,17g,17j、17b,17e,17h,17kの測定データを採用して開閉弁12の開閉を制御することが可能である。
この場合、予め制御装置16の記憶部に、選択した水分センサー17a,17d,17g,17j、17b,17e,17h,17kの情報や開閉弁12を開放する際の土壌層6に於ける水分量の情報を記憶させておく。そして、制御装置16を作動させて、各水分センサー17a,17d,17g,17j、17b,17e,17h,17kからの測定データを一時記憶部に記憶させ、記憶させた測定データを読み出して単純平均した制御用の測定データ、最も小さい測定データ、最も大きい測定データ、中間の測定データを平均した制御用の測定データ、の中から選択された測定データを採用して予め設定された水分量のデータを比較し、この比較結果に基づいて開閉弁12に対する開放信号を発生することが可能である。
また図6に示すように、土壌層6で栽培する植物が根のはりが比較的深い樹木9であるような場合、土壌層6の深い部位の水分を測定する水分センサー17a,17d,17g,17jを選択し、この水分センサー17a,17d,17g,17jの測定データを採用して開閉弁12の開閉を制御することが可能である。
この場合も、予め制御装置16の記憶部に選択した水分センサー17a,17d,17g,17jの情報や開閉弁12を開放する際の土壌層6に於ける水分量の情報を記憶させておき、この状態で制御装置16を作動させ、各水分センサー各水分センサー17a,17d,17g,17jからの測定データを一時記憶部に記憶させ、記憶させた測定データを読み出して単純平均した制御用の測定データ、最も小さい測定データ、最も大きい測定データ、中間の測定データを平均した制御用の測定データ、の中から選択された測定データを採用して予め設定された水分量のデータを比較し、この比較結果に基づいて開閉弁12に対する開放信号を発生することが可能である。
また図7に示すように、緑地Aに芝7や野菜8及び樹木9が混在状態で栽培されているような場合には、特定の深さの水分を測定する水分センサーに限定することなく測定データを読み出しても良く、予め対象とすべき植物(例えば最も乾燥し易い表層部分に根を張る芝7)を設定しておき、設定された植物に対して最適な水分センサー17a〜17lを一つ又は複数選択して選択された水分センサー17a〜17lの測定データに基づいて開閉弁12を制御して給水することが可能である。
本発明の灌水方法は、土壌に於ける一又は複数の位置の水分を測定して測定値に基づいて給水するので、雨水の供給を期待し得る露地栽培の土壌に適用して有利であり、建物の屋上に敷設した緑地や、露地栽培の農業、植木や苗木を栽培する植木業、林業等に利用することが可能である。
建物の屋上の緑化をはかるための土壌に対する灌水装置の構造を模式的に説明する断面図である。
水分センサーの平面的な配置を模式的に説明する平面図である。
土壌で栽培する植物の状態を説明する図である。
土壌で栽培する植物の状態を説明する図である。
土壌で栽培する植物の状態を説明する図である。
土壌で栽培する植物の状態を説明する図である。
土壌で栽培する植物の状態を説明する図である。
符号の説明
A 緑地
1 床構造体
2 防水シート
3 パレット
4 保水層
5 透水シート
6 土壌層
7 芝
8 野菜
9 樹木
10 縁石
12 開閉弁
13 灌水ホース
14 ホース
15 上水道の蛇口
16 制御装置
17a〜17l 水分センサー