以下に添付図面を参照しながら,本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお,本明細書及び図面において,実質的に同一の機能構成を有する構成要素については,同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
(第1の実施の形態)
以下に,本発明の第1の実施形態にかかる高周波治療器について説明する。
まず,図1に基づいて,本実施形態にかかる高周波治療器10の外観構成について説明する。なお,図1は,本実施形態にかかる高周波治療器10の外観構成を示す斜視図である。
図1に示すように,高周波治療器10は,例えば,ハウジング12と,操作部14と,表示部16とを備える。
ハウジング12は,内部に高周波治療器10の主要な各装置を収容するための筐体であり,例えば,プラスチック等の合成樹脂などで形成されている。このハウジング12は,図1の例では略直方体形状(例えば,長さ8cm×幅6cm×高さ2cm程度)を有しているが,かかる例に限定されず,例えば,略球状,略楕円球状,略棒状,略立方体形,その他ユーザが把持しやすい形状など,任意の形状に変更可能である。高周波治療器10のユーザは,かかるハウジング12を把持して,高周波治療器10を患部に対して直接接触させる,或いは患部に対して所定距離以内に接近させることにより,高周波治療器10から放射された電磁波(交番磁界を含む。)を患部に作用させることができる。
操作部14は,例えば,高周波治療器10の動作(交番磁界の照射動作など)をオン/オフするためのスイッチなどである。ユーザは,例えば,かかる操作部14を押下するごとに,高周波治療器10の動作/非動作を切り替えることができる。
また,表示部16は,例えば,LED(発光ダイオード)等の発光ランプなどで構成される。この表示部16は,高周波治療器10の動作/非動作の状態や,後述する電源部(図示せず。)の残量または充電の状態などを表示することができる。本実施形態では,この表示部16は,赤色LED16aと緑色LED16bの2つのLEDで構成されている。この赤色LED16aは,例えば,電源部の電池残量等が所定レベル以上であれば点灯し,このレベル未満であれば点滅する。また,緑色LED16bは,高周波治療器10の動作時には点灯又は点滅し,非動作時には消灯する。
しかし,表示部16は,かかる例に限定されず,例えば,文字または図形等を表示可能な液晶表示手段(LCD等)などから構成されもよい。これにより,表示部16は,高周波治療器10が照射している電磁波(交番磁界)の周波数若しくは強度,照射を継続した時間,照射タイミング,治療スケジュール,電池の残量,時刻,または温度などの各種情報を表示することが可能になる。
次に,図2に基づいて,本実施形態にかかる高周波治療器10の内部構成について説明する。なお,図2は,本実施形態にかかる高周波治療器10の内部構成を示す平面図である。
図2に示すように,高周波治療器10のハウジング12の内部には,例えば,電源部18と,制御ブロック20と,高周波用コイル30と,低周波用コイル40と,が設けられている。このうち,制御ブロック20,高周波用コイル30および低周波用コイル40は,例えば,同一の基板17上に設置されており,ハウジング12に対してまとめて脱着可能である。
電源部18は,例えば,各種の充電池または乾電池(例えば9Vの乾電池等)などで構成された直流の電源装置であり,高周波治療器10内の各部に対して電力を供給することができる。また,制御ブロック20は,例えば,治療機10内の各部を制御する制御装置,高周波を発振する高周波発振回路およびクロック発生回路など(いずれも図示せず。)が設置されている回路基板であるが,詳細については後述する。
高周波用コイル30は,高周波電流が印可されることにより高周波電磁波を放射するアンテナ(高周波用アンテナ)の一例である。この高周波用コイル30は,例えば,比較的太い銅線などを8回巻きしたコイルで構成されたループアンテナである。かかる高周波用コイル30は,例えば,上記制御ブロック20から高周波電流が印加されることにより,周波数が,50〜140MHz(例えば約83.3MHz)である高周波電磁波(高周波交番磁界及び高周波交番電界)を発生させ,周囲に放射することができる。
一方,低周波用コイル40は,低周波電流が印可されることにより低周波電磁波を放射するアンテナ(低周波用アンテナ)の一例である。この低周波用コイル40は,例えば,比較的細い銅線などを軸芯に500回巻きしたコイルで構成されたループアンテナである。かかる低周波用コイル40は,例えば,上記制御ブロック20から低周波電流が印加されることにより,周波数が例えば約2.0kHzである低周波電磁波(低周波交番磁界及び低周波交番電界)を発生させ,周囲に放射することができる。
これらの高周波用コイル30および低周波用コイル40は,例えば,双方の中心軸が例えば略同一方向となるように設置されており,双方が発生した高周波電磁波および低周波電磁波は,例えば,当該中心軸の円周方向に対して略均等に拡散するように照射される。このため,高周波治療器10のいかなる面をいかなる角度で患部に接触又は接近させても磁気治療効果がある。従って,かかる高周波治療器10を用いた治療が簡便になる。
なお,高周波電磁波又は低周波電磁波を放射するアンテナとしては,上記高周波コイル30及び低周波コイル40のようなループアンテナの例に限定されず,例えば,ロッドアンテナ等の各種のアンテナを用いることができる。
次に,図3に基づいて,本実施形態にかかる高周波治療器10の回路構成および動作についてより詳細に説明する。なお,図3は,本実施形態にかかる高周波治療器10の回路構成を示すブロック図である。
なお,以下に説明する制御ブロック20および上記高周波用コイル30は,周波数が50〜140MHzである高周波電磁波を発生させる高周波電磁波発生手段の一構成例である。また,この制御ブロック20および上記低周波用コイル40は,周波数が例えば2kHzである低周波電磁波を発生させる低周波電磁波発生手段の一構成例である。
図3に示すように,制御ブロック20は,例えば,主制御回路22と,電源供給回路21と,クロック発生回路23と,高周波発振手段24と,低周波発振手段25とを備える。
主制御回路22は,例えば,1チップマイクロコンピュータなどで構成されており,制御ブロック20内の各部を制御する機能を有する。
電源供給回路21は,例えば,オン/オフ制御回路212と,昇圧回路214と,降圧回路216とを有しており,上記電源部18からの電力を制御ブロック20内の各部に供給することを制御する機能を有する。具体的には,オン/オフ制御回路212は,例えば,操作部14のスイッチのオン/オフを検出して,検出結果を主制御回路22に入力する。また,オン/オフ制御回路212は,主制御回路22のオン/オフ指示に基づいて,電源部18から高周波用コイル30および低周波用コイル40などへの電力供給をオン/オフする。
また,昇圧回路214は,例えば,例えば9Vの乾電池からなる等電源部18からの電力を,必要に応じて昇圧することができる。これにより,高周波用コイル30および低周波用コイル40に供給する電圧を例えば9Vに維持することができる。また,昇圧回路214は,例えば,電源部18の電池の消耗等により,自身の出力できる電圧が所定レベル以下に降下した場合には,主制御回路22に対して電池消耗のエラー信号を出力することもできる。この結果,主制御回路22は,当該エラー信号が入力されると,例えば,赤色LED16aを点灯から点滅に切り替える制御を行い,電池の消耗をユーザに通知することができる。
また,降圧回路216は,電源部18の電源を降圧することにより,主制御回路22等に供給する電圧を例えば5Vに維持することができる。また,降圧回路216は,例えば,電源部18の電池の消耗等により,自身が出力できる電圧が所定レベル以下に降下した場合には,主制御回路22に対して電圧低下のエラー信号を出力することもできる。この結果,主制御回路22は,例えば,電圧降下などによる突発的な動作停止等のトラブルを未然に防止するべく,高周波治療器10全体の動作を停止するよう制御する。この結果,例えば,高周波治療器10の動作中には点灯していた緑色LED16bが,消灯するよう制御されるので,高周波治療器10の動作が停止したことをユーザに通知することができる。
クロック生成回路23は,例えば,所定周波数のクロック信号を生成して,主制御回路22に出力する。このクロック生成回路23は,例えば,32.7kHzおよび10MHzのクロック信号を生成できるように構成されている。主制御回路22は,このクロック生成回路23から入力されたクロック信号を低周波発振手段254に出力する。低周波発振手段254は,当該クロック信号に基づいて,例えば,2.0kHzおよび7.81Hzのクロック信号を生成し,変調回路246およびコイル駆動回路256にそれぞれ出力する。
高周波発振手段24は,例えば,約83.3MHzの高周波電流を生成して,高周波用コイル30に印可する。この高周波発振手段24は,例えば,周波数制御回路242と,高周波発振回路244と,変調回路246と,コイル駆動回路248とを有する。
周波数制御回路242は,高周波発振回路244が生成する高周波の周波数を制御する機能を有する。具体的には,この周波数制御回路242は,例えば,主制御回路22からの周波数設定信号,および高周波発振回路244からフィードバックされた高周波に基づいて,高周波発振回路244が出力する高周波の周波数を制御する。この結果,高周波発振回路244は,例えば83.3MHzの高周波を安定的に発振して,変調回路246に出力することができる。なお,高周波は,所定の周波数を伝達できる信号であれば,高周波電流または高周波電圧の何れであってもよい。また,上記高周波発振回路244が出力する83.3MHzの高周波は,例えば略正弦波信号である。
変調回路246は,例えば,低周波発振回路254から入力されるクロック信号に基づいて,高周波発振回路244から入力された83.3MHzの高周波を,例えば2段階でオン/オフ処理して間欠的に出力することができる。
第1段階のオン/オフ処理は,例えば,2.0kHzのクロック信号に基づいて,入力された83.3MHzの高周波を部分的にカットして,間欠的に出力する処理である。具体的には,変調回路246は,例えば,所定の第1のオン期間(例えば400μsec)は83.3MHzの高周波をそのまま出力し,次いで,所定の第1のオフ期間(例えば100μsec)は当該高周波の振幅をカットした信号として出力する処理を繰り返す。これにより,変調回路246は,例えば,定常的な正弦波として入力された83.3MHzの高周波を,例えば2.0kHz相当の周期でオン/オフして,83.3MHzの高周波を間欠発振することができる。換言すると,変調回路246は,例えば,高周波発振回路244から入力された83.3MHzの高周波を搬送波として,2.0kHzの略矩形波を表す信号を出力する変調処理を行うことができる。
また,第2段階のオン/オフ処理は,例えば,上記第一段階目のオン/オフ処理がなされた高周波を,7.81Hzのクロック信号に基づいて,さらに部分的にカットして間欠的に出力する処理である。具体的には,変調回路246は,例えば,所定の第2のオン期間(例えば64msec)は当該高周波をそのまま出力し,次いで,所定の第2のオフ期間(例えば64msec)は当該高周波の振幅をカットした信号として出力する処理を繰り返す。これにより,変調回路246は,例えば,上記のように2.0kHz相当の周期で間欠した83.3MHzの高周波を,7.81Hz相当の周期でオン/オフして,さらに大きい周期で間欠した高周波を間欠発振することができる。換言すると,変調回路246は,例えば,高周波発振回路244から入力された83.3MHzの高周波を搬送波として,7.81Hzの略矩形波を表す信号を出力することができる。
このような変調回路246による2段階のオン/オフ処理が施された高周波は,コイル駆動回路248に入力される。コイル駆動回路248は,入力された高周波を電源供給回路21からの電力で増幅し,周波数が83.3MHzの高周波電流を2.0kHz及び7.81Hzに相当する2つの周期で間欠発振して,高周波用コイル30に印加する。
一方,低周波発振手段25は,例えば,約2kHzの低周波電流を生成して,低周波用コイル40に印可する。この低周波発振手段25は,例えば,低周波発振回路254と,コイル駆動回路258とを有する。
低周波発振回路254は,上述したように,主制御回路22から入力されたクロック信号に基づき,例えば2.0kHzおよび7.81Hzのクロック信号を生成し,変調回路246およびコイル駆動回路256にそれぞれ出力する。また,低周波発振回路254は,例えば,当該クロック信号に基づいて,2.0kHzの低周波を略矩形波として生成し,さらに,この低周波に対して,例えば約7.81Hz相当の周期で(64msecごとに)オン/オフ処理を施して,約7.81Hz相当の周期で間欠する2kHzの低周波を生成する。具体的には,低周波発振回路254は,例えば,所定の第3のオン期間(例えば64msec)は当該低周波をそのまま出力し,次いで,所定の第3のオフ期間(例えば64msec)は当該低周波の振幅をカットした信号として出力する処理を繰り返す。これにより,低周波発振回路254は,例えば,2.0kHzの低周波を,7.81Hz相当の周期でオン/オフして間欠発振することができる。なお,この低周波発振回路254の前後にも,上記周波数制御回路242及び変調回路246に相当する回路を設けてもよい。
コイル駆動回路258は,低周波発振回路254から入力された低周波を電源供給回路21からの電力で増幅して,周波数が2.0kHzの高周波電流を7.81Hzに相当する周期で間欠的に発振して,高周波用コイル30に印加する。
ここで,図4に基づいて,本実施形態にかかる高周波用コイル30および低周波用コイル40に印可される高周波電流および低周波電流の波形について詳細に説明される。なお,図4は,本実施形態にかかる高周波用コイル30および低周波用コイル40に印可される高周波電流および低周波電流の波形を示す波形図である。
図4(a)に示すように,高周波用コイル30には,例えば,周波数が約83.3MHzの高周波電流が印可されている。この高周波電流は,例えば,振幅が30mAであり,0Aを中心とした対称な略正弦波となっている。
また,この高周波電流は,例えば,連続波ではなく,周期的にオン/オフされた断続波となっている。詳細には,高周波電流は,例えば400μsecの第1のオン期間(1)と,例えば100μsecの第1のオフ期間(2)とを交互に繰り返した波形を有し,例えば約2.0kHzに対応する周期で間欠している。さらに,かかる高周波電流は,より大きい時間スケールでは,例えば64msecの第2のオン期間(3)と,例えば64msecの第2のオフ期間(4)とを交互に繰り返した波形を有し,例えば約7.81Hzに対応する周期でも間欠している。また,この高周波電流は,例えば約83.3MHzと高周波であるので,その立ち上がり時間および立ち下がり時間が例えば0.003μsec以下と非常に微少である。
これに対し,図4(b)に示すように,低周波用コイル40には,例えば,周波数が約2.0kHzの低周波電流が印可されている。この低周波電流は,例えば,約2.0kHzの周期で,17μAまたは0Aの2値を交互にとる矩形波(方形波)となっている。この低周波電流が17μAとなる期間(5)は,例えば400μsecであり,0Aとなる期間(6)は,例えば100μsecである。また,この略矩形波は,その立ち上がり時間が0.1μsec以下であり,立ち下がり時間が例えば1.0μsec以下となるように調整されている。
また,この低周波電流も,例えば,連続波ではなく,例えば約7.81Hzで周期的にオン/オフされた断続波となっている。詳細には,低周波電流は,例えば64msecの第3のオン期間(6)と,例えば64msecの第3のオフ期間(8)とを交互に繰り返した波形を有し,例えば約7.81Hzに対応する周期で間欠している。
さらに,図4(a)および図4(b)を比較すると,高周波電流が7.81Hzの周期でオン/オフされるタイミングと,低周波電流が7.81Hzの周期でオン/オフされるタイミングとが同期している。より詳細には,高周波電流および低周波電流は,ともに7.81Hzに対応する周期で間欠して(具体的には,例えば128msecの周期でオン/オフを繰り返して)いるが,このとき,高周波電流の第2のオン期間(3)(若しくは第2のオフ期間(4))と,低周波電流の第3のオン期間(7)(若しくは第3のオフ期間(8))とが略同一のタイミングとなるように,高周波電流および低周波電流の印加タイミングが調整されている。
加えて,高周波電流が高周波用コイル30に印加される期間(1)(高周波電流のオン期間)と,低周波電流が例えば17μAとなる期間(5)(即ち,低周波用コイル40に電流が流れる期間)とが,同期している。より詳細には,高周波電流は2.0kHzで間欠して(具体的には,例えば500μsecの周期でオン/オフを繰り返して)いる一方,低周波電流は2.0kHzで17μAまたは0Aの2値を交互にとっている。この場合において,高周波電流の第1のオン期間(1)と,低周波電流が17μAとなる期間(5)とが一致しており,高周波電流の第1のオフ期間(2)と,低周波電流が0Aとなる期間(6)とが一致している。このように,高周波電流が実際に高周波用コイル30に流れる期間と,低周波電流が実際に低周波用コイル40に流れる期間とが同期するように,高周波電流および低周波電流の印加タイミングが調整されている。
上記のような高周波電流が例えば9Vで印可されることにより,高周波用コイル30は,例えば,図4(a)に示したような高周波電流と略同一の波形の高周波電磁波を,発生して周囲に放射することができる。この高周波電磁波は,例えば,周波数が約83.3MHzの高周波の略正弦波であり,約2.0kHzおよび約7.81Hzに相当する周期で周期的に間欠している。かかる高周波電磁波の照射により,例えば,高周波治療器10の周囲に,治療用高周波数が例えば83.3MHzである高周波交番磁界を,間欠的に発生させることができる。
より詳細には,この高周波交番磁界は,例えば,磁場強度が約784nTを最大振幅として約83.3MHzで周期的に増減し,磁場の向きが正負両方向に約83.3MHzで周期的に変動する交番磁界であって,例えば約2.0kHzおよび約7.81Hz相当の周期で間欠して発生したものである。
このように間欠した高周波交番磁界を発生させることにより,高周波治療器10は,例えば,被治療体(人体の患部等)に対して,治療用高周波数である約83.3MHzの高周波交番磁界だけでなく,この高周波交番磁界を搬送波とする約2.0kHzおよび約7.81Hzの低周波交番磁界も同時に照射しているように作用できる。
また,上記のような低周波電流が例えば9Vで印可されることにより,低周波用コイル40は,例えば,図4(b)に示したような低周波電流と略同一の波形の低周波電磁波を発生させて,周囲に放射することができる。この低周波電磁波は,例えば,周波数が約2.0kHzの低周波の略矩形波であり,約7.81Hzで周期的に間欠している。かかる低周波電磁波の照射により,例えば,高周波治療器10の周囲に,治療用低周波数が例えば約2.0kHzである低周波交番磁界を,間欠的に発生させることができる。
より詳細には,この低周波交番磁界は,例えば,磁場の強度が約736nTで略一定であり,磁場の向きが例えば正方向のみに固定された磁場を,2.0kHzの周期でオン/オフする(例えば,400μsecのオン期間と,100μsecのオフ期間を交互に繰り返す)することにより生じた交番磁界であり,全体としては,約7.81Hz相当の周期で間欠して発生されたものである。
このように間欠した低周波交番磁界を発生することにより,高周波治療器10は,例えば,被治療体に対して,治療用低周波数である約2.0kHzの低周波交番磁界だけでなく,この低周波交番磁界を搬送波とする約7.81Hzの低周波交番磁界も同時に照射しているように作用できる。
さらに,高周波用コイル30および低周波用コイル40に対して,上記高周波電流及び低周波電流を同時並行して印加することにより,かかる高周波電磁波と低周波電磁波を同時に発生させることができる。この結果,例えば,高周波治療器10の周囲に,高周波交番磁界と低周波交番磁界を同時に発生させることができる。このとき,上記図4で示したように,例えば,高周波電磁波および低周波電磁波の7.81Hzでの間欠タイミングが相互に同期しており,かつ,高周波電磁波の2.0kHzでの間欠タイミングと,低周波電磁波による2.0kHzでの磁場発生タイミングとが同期している。
これにより,高周波電磁波照射による高周波交番磁界の発生タイミングと,低周波電磁波照射による磁界の発生タイミングとを同期させることができる。即ち,高周波用コイル30が高周波交番磁界を発生するときには,低周波用コイル40も所定強度の磁界を発生する一方,高周波用コイル30が高周波交番磁界を発生しないときには,低周波用コイル40も所定レベルの磁界を発生しないようにできる。従って,高周波治療器10は,全体として,磁界(高周波用コイル30が発生する高周波交番磁界,および低周波用コイル40が発生する所定レベルの磁界)の発生/非発生を周期的に繰り返すことができる。
なお,上記では交番磁界の発生について説明したが,上記電磁波の照射により高周波交番電界と低周波交番電界も発生している。これらの交番電界の発生態様は,例えば,上記交番磁界の発生態様と略同一であるので,その説明は省略する。
また,上記例では,治療用高周波数として83.3MHzの高周波電磁波を発生させ,治療用低周波数として2.0kHzの低周波電磁波を発生させる例について説明したが,発生させる周波数はかかる例に限定されない。本実施形態にかかる磁気治療器20は,上記と同様な構成で,治療用高周波数として50〜140MHzの範囲の高周波電磁波を発生させることが可能であり,また,治療用低周波数として2kHz±10%の範囲の低周波電磁波を発生させることが可能である。
次に,図5に基づいて,本実施形態にかかる高周波治療器10による治療態様およびその作用効果について説明する。なお,図5は,本実施形態にかかる高周波治療器10を用いた治療態様を示す説明図である。
図5(a)に示すように,高周波治療器10を用いて人体の疼痛部位などの患部(被治療体)を治療する場合には,例えば,電源を入れて動作させた高周波治療器10を,患部に対して,直接的に若しくは洋服などを介して間接的に接触させるだけでよい。これにより,高周波治療器10は,上記のようにして発生させた交番磁界(高周波交番磁界および低周波交番磁界)を患部に作用させることができる。このとき,交番磁界は,例えば,患部の表面(皮膚など)だけではなく,患部の内部(筋肉,血管,骨など)にも作用する。
また,高周波治療器10は,例えば,患部に対して必ずしも接触させる必要はなく,図5(b)に示すように,患部に対して所定距離以内に接近させるだけでも,上記交番磁界を患部に作用させることができる。即ち,高周波治療器10は,例えば,電極貼付型の磁気治療器等とは異なり,服の上などからでも治療が可能な非接触型の磁気治療器として用いることができる。しかし,高周波治療器10が発生する交番磁界の強度は,高周波治療器10から離隔するにつれ小さくなるので,高周波治療器10と患部が過度に離隔すると磁気治療効果が薄れてしまう。本実施形態にかかる高周波治療器10は,例えば,患部の30cm以内に近づければ,磁界強度が30nT以上である交番磁界を当該患部に対して作用させることができるように構成されている。
このようにして,上記交番磁界を患部に対して作用させることにより,例えば,患部の慢性疼痛(関節炎痛,神経因性疼痛等)や急性疼痛(打撲等)を緩和若しくは解消する鎮痛効果や,血行促進効果等の磁気治療効果を発揮できる。
かかる交番磁界の照射刺激がこのような鎮痛効果をもたらすメカニズムについては定かではないが,その要因の1つとしては,例えば,交番磁界の照射刺激が,生体の磁気エネルギー過程に影響し,皮膚,血液,神経系細胞膜の電荷移送により,渦磁流による原子−分子活性化をもたらすことが考えられる。特に,高周波治療器10は,上記交番磁界の照射刺激により,例えば,患部における細胞膜へのカルシウムイオン(Ca2+)透過性を高めて,再生・修復機能を促進することができる。
詳細には,例えば,上記交番磁界の作用により,細胞内のカルシウムイオン濃度が上昇するため,エキソサイトーシス(開口放出)が誘発され,例えば,鎮痛性の神経ペプチドであるβ−エンドルフィン,アドレナリン,神経成長因子(NGF:Nerve Growth Factor)等の物質が,特定の細胞内の小胞から当該細胞外に放出される。この結果,例えば,破傷された末梢神経細胞において,これらの物質が鎮痛作用を奏し,組織の再生・修復機能を促進するものと考えられる。
このエキソサイトーシスについて,より具体的に説明する。エキソサイトーシスとは,細胞質の小胞が細胞膜と融合してその中身を放出し,小胞膜が細胞膜に一時的若しくは永続的に取り込まれてしまうプロセスである。具体的には上記β−エンドルフィン,アドレナリン,神経成長因子(NGF)等の神経伝達物質は,グリア細胞などの細胞内におけるシナプス小胞に蓄えられている。細胞に分泌刺激があると,このシナプス小胞膜と細胞膜とが結合及び融合し,次いで当該シナプス小胞から神経伝達物質が細胞外に放出されるエキソサイトーシスが起こる。このエキソサイトーシスに至る生化学的反応の詳細は,未だ十分に解明されてはいない。かかるエキソサイトーシスは,カルシウム依存性の反応であることが判明しており,細胞質,特に,細胞膜直下のシナプス小胞が存在する領域のカルシウムイオン濃度が充分に上昇すると,エキソサイトーシスが誘発される。
ここで,上記エキソサイトーシスを利用した磁気治療による鎮痛効果のメカニズムについて詳細に説明する。
(1)慢性疼痛の場合
慢性疼痛では,患部の神経細胞が損傷を受けて過敏症をきたしている状態と考えられる。このとき,患部に磁気刺激を与えると,神経のグリア細胞等が興奮し,グリア細胞内のカルシウムイオン濃度が上昇する。これにより,グリア細胞に上記エキソサイトーシス(開口放出)が起こる。グリア神経等は,細胞内に栄養因子である神経成長因子(NGF)を有しており,エキソサイトーシスが起こると,この神経成長因子を細胞外に放出する。放出された神経成長因子は周囲の神経細胞に作用し,当該神経細胞の成長を促す。この結果,損傷を受けて過敏症をきたした神経細胞が修復され,当該神経細胞の過敏症が軽減するので,慢性疼痛が軽減されると考えられる。
(2)急性疼痛の場合
急性疼痛は,患部に急性の炎症が発生すること等によって起こる。この患部に磁気刺激を施すと,炎症部位周囲のβエンドルフィン含有細胞(例えばNK細胞等)が興奮し,上記エキソサイトーシスにより,当該細胞内に存在するβエンドルフィンが細胞外に放出される。このβエンドルフィンは,強い鎮痛作用を有しているので,当該βエンドルフィンが炎症部位に作用して,炎症部位の疼痛が軽減されると考えられる。
以上説明したように,患部に対して好適な磁気刺激を与えることで,細胞内のカルシウムイオン濃度を上昇させてエキソサイトーシスを誘発させ,優れた鎮痛効果を生み出すことができると考えられる。
かかる観点から,本実施形態にかかる高周波治療器10は,例えば,好適な磁気刺激を与えることの可能な交番磁界として,約83.3MHz前後の高周波交番磁界及び約2.0kHzの低周波交番磁界を放射して,患部に対して作用させることができる。この83.3MHz前後の高周波交番磁界の照射刺激は,例えば,他の周波数帯と比して,細胞膜へのカルシウムイオン(Ca2+)および酸素(O2)などの透過性を増加させ,細胞内のカルシウムイオン濃度を上昇させ,上記エキソサイトーシスを誘発する作用が高いと考えられる。また,2.0MHzの低周波交番磁界の照射刺激は,例えば,細胞からβ−エンドルフィン等を放出させる作用を有すると考えられる。
なお,患部に対して作用させる高周波交番磁界の周波数は,後述する実験結果によれば,磁気治療効果上,約83.3MHzが最適であるが,この83.3MHzの前後の周波数であっても,細胞内のカルシウムイオン濃度上昇に充分に寄与することが分かっている。この好適な高周波交番磁界の周波数の範囲は,50〜140MHzであり,好ましくは50〜120MHzであり,より好ましくは55〜110MHz,更に好ましくは65〜100MHz,更に好ましくは70〜95MHz,更に好ましくは83.3±10%MHzの範囲である。ここで挙げたもののうち,後者の範囲ほど,多くの細胞内のカルシウムイオン濃度を,より多く上昇させることができるので,磁気治療効果が高いといえる。
さらに,上記高周波治療器10は,患部に対して交番磁界を断続的に作用させて,磁界作用に変化を与えることができる。このため,患部の組織(細胞など)が交番磁界に慣れてしまい磁気治療効果が薄れることがない。さらに,高周波交番磁界の発生タイミングと,低周波交番磁界の発生タイミングとが同期しているので,高周波治療器10が作用させる磁界全体としてもメリハリがある。このため,患部に対する磁気刺激の有無をより明瞭にし,磁気治療効果を向上できる。
さらに,本実施形態にかかる高周波治療器10は,発生する高周波電磁波の立ち上がり時間および立ち下がり時間が,例えば0.003μsec以下と非常に微少であるとともに,略矩形波である低周波電磁波の立ち上がり時間が0.1μsec以下であり,立ち下がり時間が例えば1.0μsec以下となるように調整されている。このため,上記のような交番磁界の変化時においては,磁界の作用/非作用の変化スピードが速い。従って,患部の組織はかかる磁界の変化に敏感に反応するので,磁気治療効果が高まる。
以上のように,本実施形態にかかる高周波治療器10は,例えば,患部の組織の活性化,鎮痛作用の促進などを誘発するために好適な周波数の交番磁界を作用させるとともに,かかる交番磁界の作用/非作用を患部にとって好適な態様で切り替えることができる。従って,本実施形態にかかる高周波治療器10は,従来の磁気治療器と比して,鎮痛効果などの磁気治療効果が非常に高い。
また,高周波治療器10は,上記交番磁界の照射により,例えば,上記鎮痛効果のみならず,患部の血行を促進させるなどの作用を奏し,肩こり,腰痛等を軽減および予防することもできる。
また,高周波治療器10は,操作が簡単で,比較的小さく持ち運びしやすいだけでなく,上記のように患部に当接または接近させるだけで,容易かつ短時間(例えば10分間)で磁気治療効果を奏することができる。
また,細胞内のカルシウムイオン濃度を上昇させる他の方法としては,被治療体に対する薬剤投与や,電流刺激などがある。しかしながら,薬剤投与は副作用があるという問題があり,また,電流刺激は周囲の細胞,組織への影響が大きく,実施困難であるという問題がある。これに対して,本実施形態にかかる高周波治療器10では,交番磁界を照射するという磁気刺激によって,細胞内のカルシウムイオン濃度を上昇させるという仕組みであるので,副作用が無く,周囲の細胞,組織への影響が小さいという利点がある。
次に,上記実施形態にかかる高周波治療器10を用いた治療実験を行った結果について説明する。この高周波治療器10は,上述したように,高周波交番磁界(例えば83.3MHz)及び低周波交番磁界(例えば2.0kHz)を放射して,被治療体に作用させることができるものである。なお,以下の実施例は,上記実施形態にかかる高周波治療器10の磁気治療効果を実験的に検証するためのものであり,本発明は以下の例に限定されるものではない。
<実験1>
まず,ラット坐骨神経結紮手術(CCI:Chronic Constriction Injury)後の熱性痛覚過敏に対する,高周波治療器10を用いた磁気治療による鎮痛効果を検証する実験1について説明する。
まず,本実験の疼痛評価法について説明する。この疼痛評価法では,実験用ラットの片方の後肢の坐骨神経を手術用糸で軽く5箇所,結紮(CCI施術)する。これにより,施術した後肢は,熱に対して過敏症となるので,プランターテストの結果(PWL:Paw Withdrawal Latency time;後肢皮下への熱刺激に対する反応潜時(秒))が短くなる。すなわち,施術しない方の後肢は,光を照射したときに熱さを感じるまでの時間が長いが,施術した方の後肢は,熱過敏症のため,光を照射したときに熱さを感じるまでの時間が短くなる。施術した後肢が熱さを感じるまでの時間と,施術していない後肢が熱さを感じるまでの時間の時間差を,痛みの大きさとみなす。当該時間差が大きい(施術した足が熱を感じるまでの時間が短い)ほど,痛みを大きく感じると評価する。かかる評価方法を「ベネット法」といい,疼痛学会で世界的に承認された疼痛評価法である。
次に,本実験の実験条件について説明する。本実験では,治療対象として雄SDラット(300〜350g)を用いた。このラットに対して,ハロタン(2〜3%)/酸素麻酔下で,左側の後肢の座骨神経を結紮する手術を施して,CCIモデルを作成した。手術後5日より10日までプランターテストを行い,左右の後肢が反応する時間差(左右差)で評価した。治療群に対しては,手術後6日目から,高周波治療器10を用いて上記高周波交番磁界および低周波交番磁界を左背側大腿部に10分間照射(1回/日照射,2回/日照射)して治療を施し,非治療群と比較した。
かかる実験結果を図6に示す。図6は,CCIを施していない右側の後肢が反応した時間と,CCIを施した左側の後肢が反応した時間との差(PWLの左右差)の推移を,治療群と非治療群とに分けて示すグラフである。
図6に示すように,非治療群では,PWLの左右差は,5日目で−3.2秒,7日目で−4.5秒,10日目で−4.8秒となっており,日を経るにつれ左右差が増大した。これは,CCI側の後肢で反応潜時が徐々に延長したこと,即ち,CCI側の後肢の痛覚過敏が徐々に悪化したことを意味する。
これに対し,治療群では,PWLの左右差は,1回/日照射の場合には,7日目で−3.3秒,8日目で−2.9秒,10日目で−2.3秒と,日を経るにつれ左右差が徐々に減少し,2回/日照射の場合には,7日目で−2.9秒,8日目で−2.6秒,10日目で−2.0秒と,左右差が大幅に減少した。このような実験結果によれば,治療群においては,CCI側の後肢で反応潜時の延長が抑制され,非治療群に比べて痛覚過敏が改善されたといえる。さらに,高周波治療器10による照射回数が多い方が,痛覚過敏がより改善されたといえる。
<実験2>
次に,上記実験1と同様なラット坐骨神経結紮後の熱性痛覚過敏に対する,高周波治療器10による磁気療法の効果を検証する別の実験2について説明する。
実験2では,ラットを次のような,5つの群(a)〜(e)に分類し,手術後3日より14日まで,上記プランターテストを行い,左右の後肢が反応する時間差(左右差)で評価した。このうち,(c)磁気治療群,(d)抗NGF抗体投与群,および(e)NGF増強剤投与群に対しては,手術後5日目から,上記高周波治療器10を用いて高周波交番磁界および低周波交番磁界を左背側大腿部に10分間照射して,磁気治療を施し,非治療群と比較した。5つのサンプル群の説明は以下の通りである。
(a)偽手術(Sham)群:
この偽手術群は,上記CCI施術と同様の切開,縫合を行うが,坐骨神経を結紮しない群であり,上記CCI施術の切開,縫合による影響を消去することが目的の対照群である。この偽手術群は,熱過敏症がないため,左右の後肢間で痛みを感じるまでの時間差がほとんどない。
(b)非治療群:
この非治療群は,上記CCI施術を行うが,上記高周波治療器10を用いた磁気治療を施さない群である。この非治療群は,CCI側の後肢が熱過敏症となるため,痛みを感じる程度が最も大きく,反応潜時が最も長くなる。
(c)磁気治療群:
この磁気治療群は,上記CCI施術を行い,上記高周波治療器10を用いた磁気治療を施す群である。この磁気治療群は,上記CCI施術後,毎日,磁気治療するため,当該磁気治療の鎮痛効果を表わす群となる。
(d)抗NGF抗体投与群:
この抗NGF抗体投与群は,上記CCI施術後に,抗NGF抗体を投与し,さらに上記高周波治療器10を用いた磁気治療を施す群である。抗NGF抗体は,NGF(神経成長因子)と結合し,生理的な活性を消失させる物質である。このため,抗NGF抗体投与群では,上記高周波治療器10を用いた磁気治療により上記エキソサイトーシスが起こり体内でNGFが放出されたとしても,上記抗NGF抗体が体内に存在するので,当該放出されたNGFが作用しない。もし,NGF以外のものが鎮痛効果の要因であるとすれば,この抗NGF抗体投与群は,上記磁気治療群と同等の実験結果になるはずである。従って,この抗NGF抗体投与群の反応潜時が,上記磁気治療群の反応潜時より長くなれば,NGFが鎮痛に関与していることの証明になる。
(e)NGF増強剤投与群:
このNGF増強剤投与群は,上記CCI施術後に,4−Methyl Cathecolを投与し,さらに上記高周波治療器10を用いた磁気治療を施す群である。4−Methyl Cathecolは,NGFの生成を増強する物質である。これにより,グリア細胞等のNGF産生細胞内で,NGFの産生量が増加するので,磁気刺激によりNGFを放出する量も増加する。もし,NGF以外のものが鎮痛効果の要因であるとすれば,このNGF増強剤投与群は,上記磁気治療群と同等の実験結果になるはずである。従って,このNGF増強剤投与群の反応潜時が,上記磁気治療群の反応潜時より短くなれば,NGFが鎮痛に関与していることの証明になる。
以上のような5つのサンプル群を用いた実験結果を図7に示す。図7は,CCIを施していない右側の後肢が反応した時間に対する,CCIを施した左側の後肢が反応した時間の差(PWLの左右差)の推移を,上記5つの群ごとに分けて示すグラフである。
図7に示すように,(a)偽手術群では,PWLの左右差は,ほぼゼロ秒前後で推移しており,上記CCI施術の切開,縫合による影響がほとんどないことが分かる。
また,(b)非治療群では,PWLの左右差は,多少の増減があるものの,日を経るにつれ左右差が増大している。これは,CCI側の後肢で反応潜時が徐々に延長したこと,即ち,CCI側の後肢の痛覚過敏が徐々に悪化したことを意味する。
これに対し,(c)磁気治療群では,PWLの左右差は,磁気治療を施した5日目以降,日を経るにつれ徐々に減少している。この結果,磁気治療群においては,CCI側の後肢で反応潜時の延長が抑制され,非治療群と比べて痛覚過敏が改善されたといえる。
また,(d)抗NGF抗体投与群では,PWLの左右差は,磁気治療を施した5日目以降,ほぼ一定となった後に延長(増加)しており,上記磁気治療群と比べて長くなっている。従って,NGFが鎮痛に関与していることと,上記高周波治療器10を用いた磁気治療によって,上記ラットの細胞内でエキソサイトーシスが起こり,NGFが放出されていることが実証されたといえる。
さらに,(e)NGF増強剤投与群では,PWLの左右差は,磁気治療を施した5日目以降,日を経るにつれ徐々に減少しており,上記磁気治療群よりも更に短くなっている。従って,これによっても,NGFが鎮痛に関与していることと,上記高周波治療器10を用いた磁気治療によって,上記ラットの細胞内でエキソサイトーシスが起こり,NGFが放出されていることが実証されたといえる。
<実験3>
次に,フォルマリン誘発炎症性疼痛に対する高周波治療器10による磁界療法の効果を検証した実験について説明する。
まず,この実験3の実験条件について説明する。治療対象として雄SDラット(300〜350g)を用いた。このラットに対して,ハロタン(2〜3%)/酸素(マスクで吸入)麻酔下で,後肢に対してフォルマリンを皮下注射後,当該ラットがフリンチング(flinching;痛みにより後肢を振る行動)する回数を,60分間にわたり分単位で測定した。治療群に対しては,フォルマリン注入前或いは注入後に,後肢に対して,上記高周波治療器10を用いて高周波交番磁界および低周波交番磁界を10分間照射して磁気治療を施し,非治療群と比較した。これは,ホルマリンテストといい,疼痛学会で世界的に承認された疼痛評価法である。
かかる実験結果を図7に示す。図7は,フォルマリン注入後,フリンチングする回数を60分間にわたり分単位で測定した結果を,治療群(注入前または注入後の治療),非治療群ごとに示すグラフである。
図7に示すように,非治療群では,フリンチング回数が,フォルマリン注入後1分目で10回/分で第1ピークとなった後,15〜17回/分(注入後30〜50分)を第2ピークとなる反応がみられた。
これに対し,治療群では,フリンチング回数の全体的な推移傾向は非治療群の場合と略同一であった。しかし,毎分ごとのフリンチング回数が,非治療群の場合と比して,注入後に治療した場合には毎分1〜3回,注入前に治療した場合には毎分1〜9回も少ない。従って,治療群は,非治療群に比べてフォルマリン誘発炎症性疼痛が改善されたといえ,さらに,フォルマリン注射前に治療した方がより改善されたといえる。
以上のような実験1〜3の結果により,痛覚過敏症およびフォルマリン誘発炎症性疼痛に対し,上記高周波治療器10を用いた患部への交番磁界刺激による鎮痛効果が実証されたといえる。
<実験4>
次に,被治療体の細胞に作用させる高周波交番磁界の治療用高周波数と,当該細胞内におけるカルシウムイオン濃度上昇度との関係を検証するための実験について説明する。
この実験4では,初代培養ウシの大脳皮質細胞と海馬細胞に,異なる周波数の高周波交番磁界を作用させた後,これらの細胞内のカルシウムイオン(Ca2+)濃度を測定した。高周波交番磁界の周波数としては,83.3MHz(本発明の実施例),35.0MHz(比較例),250MHz(比較例)の3種類の周波数について実験を行った。このように測定したカルシウムイオン濃度の上昇率が1.2倍以上である場合には,カルシウム反応が陽性であると判定し,それ未満である場合には陰性と判定した。また,測定装置等としては,倒立型蛍光顕微鏡(TE300;ニコン社製),蛍光信号取得システム(AQUACOSMOS−RATIO;浜松ホトニクス社製)およびカルシウム感受性蛍光要素(rhod2またはfluo3)を使用した。
かかる実験結果を,表1(大脳皮質細胞)および表2(海馬細胞)に示す。
表1に示すように,大脳皮質細胞を用いた実験では,83.3MHzの高周波交番磁界を作用させた場合には,陽性率が45%と非常に高い。これに対し,35.0MHz及び250MHzの場合には,陽性率が8.3%,7.6%と低い。また,表2に示すように,海馬細胞を用いた実験では,83.3MHzの高周波交番磁界を作用させた場合には,陽性率が11.1%と高いのに対し,35.0MHz及び250MHzの場合には,いずれも0%である。
このような実験結果によれば,本実施例にかかる83.3MHz前後の高周波交番磁界は,比較例にかかる他の周波数(35.0MHz及び250MHz)と比べて,細胞内のカルシウムイオン濃度を高め,エキソサイトーシスを誘発する効果が非常に高いことが実証された。
<実験5>
次に,被治療体の細胞に作用させる高周波交番磁界の治療用高周波数と,当該細胞内におけるカルシウムイオン濃度上昇度との関係について,より詳細に検証するための実験について説明する。
この実験5では,2種の実験対象の細胞(アストロサイト,グリア細胞)に対して,異なる周波数(10〜500MHz)の高周波交番磁界を作用させた後,これらの細胞内のカルシウムイオン(Ca2+)濃度を測定し,カルシウムイオン濃度が交番磁界作用前と比べて1.2倍以上に上昇したものを陽性と判定して,その陽性率を求めた。
まず,本実験5における実験条件とその手順(1)〜(6)について説明する。
(1)細胞の培養
使用細胞としては,アストロサイト系細胞である「KINGS−1」と,グリア系細胞である「NMC−G1」の2種類を用いた。これらの細胞は,細胞バンクであるヒューマンサイエンス研究資源バンク(財団法人ヒューマンサイエンス振興財団)から提供されたものである。
この2種類の細胞を,6穴又は12穴の培養プレート,RPMI1640培地(日水製薬社製),及び炭酸ガス培養装置を用いて,一般的な方法に従って培養した。この培養では,培養プレートの1穴当たり,5×104個又は105個の細胞を入れ,炭酸ガス培養装置内で4日間又は2日間にわたり,37℃で培養した。
(2)対照データ(M1)の測定
次いで,培養プレートの各培養穴の培地を吸引して除去した後に,37℃のリン酸緩衝液で細胞を数回,洗浄した。次いで,各培養穴に測定緩衝液を添加して,測定中に細胞が乾燥しないように適切な状態にした。その後,蛍光測定装置(「フルオロスキャンアセント」サーモエレクトロン社製)を用いて,上記培養プレートに対して蛍光測定を行い,装置バックグラウンドの状態を反映した対照データ(M1)を得た。この対照データ(M1)を測定しておくことより,細胞内のカルシウム濃度とは無関係の要素の影響を排除できる。
(3)磁気刺激前の細胞内カルシウムイオン濃度(M2)の測定
次いで,上記M1の測定後に,上記培養プレートの各培養穴から測定緩衝液を除去した。さらに,培養プレートの各培養穴に,Ca染色液「Fluo−3」溶液を添加し,暗所において37℃で1時間放置して,細胞内にCa染色液を浸透させた。その後,上記Ca染色液「Fluo−3」溶液を除去した。さらに,必要に応じて,37℃のリン酸緩衝液を用いて細胞を数回,洗浄して,残余のCa染色液「Fluo−3」溶液を除去した。次いで,各培養穴に37℃の測定緩衝液を添加して,測定中に細胞が乾燥しないように適切な状態にした。その後,上記蛍光測定装置を用いて,上記培養プレートの各培養穴の細胞に関して蛍光測定を行い,磁気刺激前の細胞内のカルシウムイオン濃度(M2)を測定した。
この蛍光測定は,上記蛍光測定装置「フルオロスキャンアセント」(サーモエレクトロン社製)を用いて,シングル測定で,励起波長485nm,測定波長538nmで行った。また,当該蛍光測定装置が有する測定箇所選択機能を利用して,培養プレートの1穴当たり,細胞の多い部分を選択して35〜60箇所を測定した。従って,1つの培養穴内の細胞について,35〜60個のカルシウムイオン濃度(M2)のデータを得た。
(4)磁気刺激
上記高周波治療器10に相当する実験用の磁気刺激装置を用いて,上記培養プレート内の各細胞に対して10分間,磁界刺激を与えた。この際,細胞に作用させる高周波交番磁界の周波数を10MHz〜500MHzの範囲で変えて実験を行った。
この際に用いた実験用の磁気刺激装置の構成について詳細に説明する。この磁気刺激装置は,MHz帯(10MHz〜500MHz)の高周波を生成するための信号発生器(「E4421B」アジレント社製)と,kHz帯(2.0kHz)の低高周波を生成するためのファンクションジェネレータ(「33220A」アジレント社製)と,Hz帯(7.81kHz)の低高周波を生成するためのファンクションジェネレータ(「320」横河電機社製)と,これらを制御する制御装置と,発生周波数の強度を制御する増幅器と,発振コイルとから構成される。
この発振コイル50は,図9に示すように,直径3cm,軸方向の幅9mm,径方向の厚さ2mmのアクリル製の環状基台部52の外周に,銅線を巻いて,高周波用コイル30及び低周波用コイル40を形成したものである。このうち,高周波用コイル30は,1回巻きソレノイドコイル(直径3cm)であり,低周波用コイル40は,200回巻きソレノイドコイル(直径3cm,巻き幅5mm)である。このように,発振コイル50は,1つの環状基台部50に,高周波用コイル30及び低周波用コイル40からなる2種のコイルを同軸上に作成したものを用いた。
磁気刺激時には,この発振コイル50の上に,上記カルシウムイオン濃度(M2)の測定後の培養プレート60を載置して,遮光の布をかけた。次いで,発振コイル50の高周波用コイル30,低周波用コイル40にそれぞれ高周波電流,低周波電流を印可して,高周波交番磁界及び低周波交番磁界を含む電磁波を発生させ,これにより,培養プレート60の各培養穴内の細胞に対して,10分間,磁気刺激を与えた。
この際,高周波用コイル30に印可する高周波電流の周波数を,実験単位ごとに,10〜500MHzの間で段階的に変化させて,異なる治療用高周波数の高周波交番磁界を細胞に作用させた。このうち,周波数が50〜140MHzのものは本実施例とし,周波数が50MHz未満及び140MHzより大きいものを比較例とした。一方,低周波用コイル40に印可する低周波電流の周波数は2.0kHzに維持して,一定の周波数(2.0kHz)の低周波交番磁界を細胞に作用させた。これによって,低周波交番磁界の影響を排除して,高周波交番磁界の周波数と細胞内のカルシウムイオン濃度上昇との相関を実験することができる。なお,高周波交番磁界がいずれの周波数の場合でも,高周波交番磁界及び低周波交番磁界の双方を,上記図4で示したように7.81Hzで間欠的に出力した。また,磁気刺激中における上記発振コイル50の中心部での磁界強度は,784ナノテスラであった。
(5)磁気刺激後の細胞内カルシウムイオン濃度(M3)の測定
次いで,上記磁気刺激後に10分間,静置した後に,上記(3)と同様な手順で,蛍光測定装置を用いて蛍光測定を行い,磁気刺激後の細胞内のカルシウムイオン濃度(M3)を測定した。
(6)磁気刺激の前後のカルシウムイオン濃度上昇の陽性率の算出
まず,上記のように得られた,対象データ(M1)と,磁気刺激前のカルシウムイオン濃度(M2)と,磁気刺激後のカルシウムイオン濃度(M3)を用いて,下記の数式1に従い,カルシウムイオン濃度上昇度Rを計算した。かかるカルシウムイオン上昇度Rは,各実験単位内の全ての被験細胞についてそれぞれ算出した。
さらに,本実験では,このカルシウムイオン上昇度Rが1.2以上である場合には,磁気刺激による細胞内カルシウムイオン濃度の上昇が陽性であると判定するようにした。そこで,下記の数式2のように,各実験単位内の全実験数のうち,カルシウムイオン上昇度が1.2以上である実験数の割合(%)を計算し,カルシウムイオン上昇の陽性率Pを求めた。この陽性率Pが高いほど,磁気刺激によって細胞内のカルシウムイオン濃度がより多く上昇し,磁気治療効果が高いことを表す。
なお,上記カルシウムイオン上昇度Rが1.2以上である場合に,カルシウムイオン濃度の上昇が陽性であると判定した理由は,次の通りである。一般に,細胞内物質の細胞外への放出のメカニズムは,上記エキソサイトーシスによるものが最も多く,このエキソサイトーシスが起こるためには,細胞内のカルシウムイオン濃度の上昇が必要である。この場合,細胞内のカルシウムイオン濃度が,非興奮状態時の1.2倍以上に上昇すると,細胞が興奮して,エキソサイトーシスが起こると考えられている。細胞内のカルシウムイオン濃度は,細胞が非興奮状態でも完全に一定ではなく,微量の変動が起こっている。このため,生理学分野では,カルシウムイオン濃度の1.2倍以上の上昇が,細胞興奮の基準とされている。従って,本実験においても,1.2倍なる基準を採用した。
さらに,上記のようにして陽性率Pを実験単位毎に得た後,これらの陽性率Pを同一の高周波交番磁界の周波数ごとに平均化して,カルシウムイオン上昇の平均陽性率(%)を求めた。さらに,当該周波数の実験単位ごとに,上記カルシウムイオン上昇度Rの平均値も求めた。
以上,実験5の実験条件及び実験手順について説明した。かかる実験5の実験結果を,アストロサイト(KINGS−1)については表3及び図10に,グリア細胞(NMC−G1)については表4及び図11に示す。なお,図10及び図11のグラフは,表3及び表4に示す平均陽性率(%)の実験データを周波数[MHz]ごとにプロットして近似曲線を描いたものである。
なお,上記表3及び表4における各パラメータの意味は,次の通りである。
・「NO.」は,1回の磁気刺激の実験の単位を表す実験番号である。この実験単位当たりのデータ数は35〜60個である。
・「周波数(MHz)」は,上記磁気刺激装置によって発生させた高周波電磁波の周波数,即ち,細胞に作用させた高周波交番磁界の周波数である。
・「陽性率(%)」は,磁気刺激後の細胞内のカルシウムイオン濃度が磁気刺激前の1.2倍以上に上昇した実験数を同時に処理した全実験数で除算して得られた百分率(上記カルシウムイオン上昇の陽性率P)である。
・「平均陽性率(%)」は,上記陽性率(%)を同一の周波数に関して平均した値である。
・「Ca上昇度」は,磁気刺激後の細胞内カルシウムイオン濃度を刺激前のカルシウムイオン濃度で割った数値(上記カルシウムイオン上昇度R)を,実験単位ごとに平均した値であり,各周波数の磁気刺激後のカルシウムイオン濃度が,磁気刺激前の何倍になったかを表す。
(a)アストロサイトについて
まず,表3及び図10に示すアストロサイト(KINGS−1)に関する実験結果について検討する。このアストロサイトは,神経細胞を修復する機能を有する神経成長因子(NGF)を放出し,慢性疼痛の鎮痛効果に寄与する細胞である。
表3及び図10に示すように,このアストロサイト細胞に対して作用された高周波交番磁界の周波数が83.3MHzである場合には,平均陽性率は100%であり,カルシウムイオン濃度上昇度も1.31倍〜1.66倍の高い数値となっている。従って,83.3MHzを中心とした所定範囲(83.3±10%MHz)の高周波交番磁界を作用させれば,ほぼ全てのアストロサイトにおいて,カルシウムイオン濃度が十分に上昇してエキソサイトーシスが起こるため,顕著に優れた鎮痛効果を発揮するといえる。
また,周波数が70MHzである場合には,平均陽性率は95%であり,周波数が95MHzである場合には,平均陽性率は91.5%である。従って,周波数が70〜95MHzの高周波交番磁界を作用させれば,少なくとも90%以上のアストロサイトにおいて,カルシウムイオン濃度が十分に上昇してエキソサイトーシスが起こるため,非常に優れた鎮痛効果を発揮するといえる。
また,周波数が65MHzである場合には,平均陽性率は81%であり,周波数が105MHzである場合には,平均陽性率は72.7%である。従って,周波数が65〜105MHzの高周波交番磁界を作用させれば,少なくとも70%以上のアストロサイトにおいて,カルシウムイオン濃度が十分に上昇してエキソサイトーシスが起こるため,大変に優れた鎮痛効果を発揮するといえる。
また,周波数が55MHzである場合には,平均陽性率は62.7%であり,周波数が110MHzである場合には,平均陽性率は59.7%である。従って,周波数が55〜110MHzの高周波交番磁界を作用させれば,少なくとも50%以上のアストロサイトにおいて,カルシウムイオン濃度が十分に上昇してエキソサイトーシスが起こるため,優れた鎮痛効果を発揮するといえる。
また,周波数が50MHzである場合には,平均陽性率は45.3%であり,周波数が120MHzである場合には,平均陽性率は43.3%である。従って,周波数が50〜120MHzの高周波交番磁界を作用させれば,少なくとも40%以上のアストロサイトにおいて,カルシウムイオン濃度が十分に上昇してエキソサイトーシスが起こるため,良好な鎮痛効果を発揮するといえる。
また,周波数が40MHzである場合には,平均陽性率は34%であり,周波数が140MHzである場合には,平均陽性率は30.6%である。従って,周波数が40〜140MHzの高周波交番磁界を作用させれば,少なくとも30%以上のアストロサイトにおいて,カルシウムイオン濃度が十分に上昇してエキソサイトーシスが起こるため,良い鎮痛効果を発揮するといえる。
これに対して,周波数が40MHz未満,例えば,33MHz,20MHz,10MHzである場合には,平均陽性率は0〜2%と非常に低い。また,周波数が140MHzより大,例えば,200MHz,300MHz,385MHz,500MHzである場合には,平均陽性率は0〜11.5%と低い。従って,周波数が40MHz未満,若しくは140MHzより大きい高周波交番磁界を作用させたとしても,カルシウムイオン濃度が十分に上昇して,エキソサイトーシスが起こるアストロサイトの数が少ない(若しくはゼロである)ので,鎮痛効果が低いといえる。
(b)グリア細胞について
次に,表4及び図11に示すグリア細胞(NMC−G1)に関する実験結果について検討する。このグリア細胞は,上記アストロサイトと同様に,神経細胞を修復する機能を有する神経成長因子(NGF)を放出し,慢性疼痛の鎮痛効果に寄与する細胞である。
表4及び図11に示すように,このグリア細胞に対して作用された高周波交番磁界の周波数が83.3MHzである場合には,平均陽性率は97.6%であり,カルシウムイオン濃度上昇度も1.56倍〜2.31倍の高い数値となっている。従って,83.3MHzを中心とした所定範囲(83.3±10%MHz)の高周波交番磁界を作用させれば,ほぼ全てのグリア細胞において,カルシウムイオン濃度が十分に上昇してエキソサイトーシスが起こるため,顕著に優れた鎮痛効果を発揮するといえる。
また,周波数が70MHzである場合には,平均陽性率は93.3%であり,周波数が95MHzである場合には,平均陽性率は94.5%である。従って,周波数が70〜95MHzの高周波交番磁界を作用させれば,少なくとも90%以上のグリア細胞において,カルシウムイオン濃度が十分に上昇してエキソサイトーシスが起こるため,非常に優れた鎮痛効果を発揮するといえる。
また,周波数が65MHzである場合には,平均陽性率は75.5%であり,周波数が100MHzである場合には,平均陽性率は78.5%である。従って,周波数が65〜100MHzの高周波交番磁界を作用させれば,少なくとも70%以上のグリア細胞において,カルシウムイオン濃度が十分に上昇してエキソサイトーシスが起こるため,大変に優れた鎮痛効果を発揮するといえる。
また,周波数が55MHzである場合には,平均陽性率55.3%であり,周波数が110MHzである場合には,平均陽性率は55.3%である。従って,周波数が55〜110MHzの高周波交番磁界を作用させれば,少なくとも50%以上のグリア細胞において,カルシウムイオン濃度が十分に上昇してエキソサイトーシスが起こるため,優れた鎮痛効果を発揮するといえる。
また,周波数が50MHzである場合には,平均陽性率は43.7%であり,周波数が120MHzである場合には,平均陽性率は47.7%である。従って,周波数が50〜120MHzの高周波交番磁界を作用させれば,少なくとも40%以上のグリア細胞において,カルシウムイオン濃度が十分に上昇してエキソサイトーシスが起こるため,良好な鎮痛効果を発揮するといえる。
また,周波数が140MHzである場合には,平均陽性率は33%である。従って,周波数が50〜140MHzの高周波交番磁界を作用させれば,少なくとも30%以上のグリア細胞において,カルシウムイオン濃度が十分に上昇してエキソサイトーシスが起こるため,良い鎮痛効果を発揮するといえる。
これに対して,周波数が50MHz未満,例えば,40MHz,30MHz,20MHzである場合には,平均陽性率は23%以下と低い。また,周波数が140MHzより大,例えば,200MHz,350MHz,385MHzである場合には,平均陽性率は0〜11.5%と低い。従って,周波数が50MHz未満,若しくは140MHzより大きい高周波交番磁界を作用させたとしても,カルシウムイオン濃度が十分に上昇して,エキソサイトーシスが起こるグリア細胞の数が少ない(若しくはゼロである)ので,鎮痛効果が低いといえる。
(c)実験結果のまとめ
以上の(a)アストロサイト及び(b)グリア細胞の双方の実験結果を鑑みれば,以下のことがいえる。
即ち,細胞に作用させる高周波交番磁界の周波数が83.3MHzを顕著なピークとして,細胞内のカルシウムイオン濃度の上昇の陽性率が高くなっており,周波数がこの83.3MHzから離れるにつれて,当該陽性率が徐々に低くなっている。
従って,細胞内のカルシウムイオン濃度を十分に上昇させてエキソサイトーシスを好適に誘発させるためには,作用させる高周波交番磁界の治療用高周波数が,50〜140MHzであることが好ましい。これにより,カルシウムイオン濃度上昇の平均陽性率が30%以上となるので,良い鎮痛効果を発揮できる。一方,周波数が,50未満であるか或いは140MHzより大であると,カルシウムイオン濃度上昇の平均陽性率が30%未満となる場合があるので,十分な鎮痛効果が得られない場合がある。
また,当該治療用高周波数が,50〜120MHzであることがより好ましく,これにより,カルシウムイオン濃度上昇の平均陽性率が40%以上となるので,良好な鎮痛効果を発揮できる。さらに,当該治療用高周波数が,55〜110MHzであることがより好ましく,これにより,カルシウムイオン濃度上昇の平均陽性率が50%以上となるので,優れた鎮痛効果を発揮できる。さらに,当該治療用高周波数が,65〜100MHzであることがより好ましく,これにより,カルシウムイオン濃度上昇の平均陽性率が70%以上となるので,大変に優れた鎮痛効果を発揮できる。さらに,当該治療用高周波数が,70〜95MHzであることがより好ましく,これにより,カルシウムイオン濃度上昇の平均陽性率が90%以上となるので,非常に優れた鎮痛効果を発揮できる。さらに,当該治療用高周波数が,上記83.3MHzのピークを中心とした所定範囲(83.3±10%MHz)であることが最も好ましく,これにより,カルシウムイオン濃度上昇の平均陽性率が100%に近くなるので,極めて優れた鎮痛効果を発揮できる。
ここで,上記平均陽性率が30%,40%,…等であることを基準として,上記高周波交番磁界の治療用高周波数の好適な範囲を選定した理由について,生体に投与される薬剤と細胞の反応との一般的な関係を例に挙げて説明する。
一般的に,薬剤投与により生体内の細胞は所定の反応を示すが,このとき反応する細胞の割合は,薬剤の種類によって異なる。例えば,非常に強力な薬剤(青酸カリ,テトロドトキシン等)を投与した場合には,90%以上の細胞が反応する。また,通常の薬剤は,50〜60%の細胞が反応するように調合されている。効能がマイルドな薬剤は,副作用を抑制するために,30%の細胞が反応するように調合されている。
このように細胞の反応割合に応じて好適な薬剤を選定するのと同様にして,本実施形態では,細胞の反応割合に相当する平均陽性率に応じて,好適な高周波交番磁界の周波数の範囲を選定した。例えば,50〜55MHzの高周波交番磁界を作用させることによって,30%〜40%の細胞が陽性となる程度の比較的弱い磁気治療を施すことができる。一方,70〜95MHzの高周波交番磁界を作用させることによって,90%以上の細胞が陽性となる程度の比較的強い磁気治療を施すことができる。
以上,本発明の実施例に係る実験1〜5の実験結果について説明した。以上のような実験結果によれば,本実施形態にかかる高周波治療器100を用いて,患部に対して好適な周波数の高周波交番磁界を作用させることによって,患部の細胞内のカルシウムイオン濃度が上昇してエキソサイトーシスが誘発され,この結果,NGF等の放出により神経細胞が修復されるため,患部の疼痛が鎮痛されることが実証されたといえる。また,上記実験によれば,このような磁気治療効果をもたらす上で,高周波交番磁界の好適な周波数の範囲を実証することができた。
以上,添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが,本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば,特許請求の範囲に記載された範疇内において,各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり,それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
例えば,上記実施形態では,高周波及び低周波電磁波発生手段は,電磁波を放射するアンテナとして,高周波用コイル30または低周波用コイル40等のコイルを備えていたが,本発明はかかる例に限定されない。電磁波を放射するアンテナは,例えば,コイル等のループアンテナ以外にも,ロッドアンテナ,ヘルツダイポールアンテナ,ショートアンテナ,半波長ダイポールアンテナ,ヘリカルアンテナ,モノポールアンテナ,ひし形アンテナ,アレーアンテナ,ホーンアンテナ,パラボラアンテナ,又はスロットアンテナ等の各種アンテナなどで構成されてもよい。また,当該アンテナとして用いられるコイルは,ソレノイドコイル,ヘルムホルツアンテナ,ロータリーコイル,スプリットペアコイル,シムコイル,又は鞍型コイルなどで構成できる。また,高周波用コイル30または低周波用コイル40の,材質,形状,巻き数,軸芯の有無,配置なども上記実施形態の例に限定されない。
また,上記実施形態では,高周波用コイル30または低周波用コイル40に,高周波電流または低周波電流を印加する高周波発振手段および低周波発振手段として,図3に示すような制御ブロック20の回路構成を採用したが,本発明はかかる例に限定されない。制御ブロック20の回路構成は,例えば,所定の治療用高周波数(例えば50〜140MHz)の範囲内の高周波が発振可能であれば,多様に設計変更可能である。例えば,必ずしもマイクロコンピュータ等からなる主制御回路を設けずに,上記高周波を発振可能な高周波発振手段24と,所定の低周波(例えば,2.0kHz,7.81Hz等)を発振可能な低周波発振手段25を具備するようにしてもよい。
また,上記実施形態では,高周波電磁波(高周波交番磁界)の治療用高周波数として,主に,83.3MHzの例を挙げて説明したが,本発明はかかる例に限定されず,治療用高周波数は,50〜140MHzの範囲内の所定の周波数であればよい。また,低周波電磁波の治療用低周波数として,例えば2.0kHzの例を挙げて説明したが,かかる例に限定されず,治療用低周波数は,約2.0±10%kHzの範囲内の所定の周波数であってもいし,それ以外の範囲の任意の周波数であってもよい。
また,上記実施形態では,高周波電磁波は,略正弦波であったが,かかる例に限定されず,例えば,略矩形波,ノコギリ波などであってもよい。また,低周波電磁波は,略矩形波であったが,かかる例に限定されず,例えば,略正弦波,ノコギリ波などであってもよい。また,上記低周波電磁波は,プラスの所定値とゼロ値の2値をとる略矩形波であったが,この2値は,かかる例に限定されず,例えば,ともにプラス値,ともにマイナス値,或いは,一方がプラス値で他方がマイナス値など,であってもよい。
また,上記実施形態では,高周波電磁波発生手段は,高周波電磁波を,約2.0kHzおよび約7.81Hzの双方の周波数で複合的に間欠して発生させたが,本発明はかかる例に限定されない。高周波電磁波発生手段は,例えば,約2.0k±10%kHzの周波数,あるいは約7.81Hz±10%のいずれかの周波数のみで,高周波電磁波を間欠的に発生させてもよく,また,例えば,上記周波数以外の1又は2以上の周波数で間欠的に,高周波電磁波を発生させてもよい。また,高周波電磁波発生手段は,高周波電磁波を,間欠することなく連続的に(例えば,83.3MHz±10%の連続波として)発生させてもよい。
また,高周波電磁波発生手段は,上記のように高周波電磁波を完全に間欠的に発生させるのではなく,例えば,高周波電磁波を,その電磁波強度が所定の1又は2以上の周波数(例えば,約2.0k±10%kHzおよび約7.81Hz±10%など)で例えば略正弦波的に増減するように,発生させてもよい。これによっても,被治療体に作用する高周波交番磁界の強度を周期的に増減させて,交番磁界刺激に変化を与えることができるので,磁気治療効果が高まる。さらに,かかる高周波電磁波強度の周期的な増減に同期させて,例えば,低周波電磁波発生手段が発生させる低周波電磁波を,周期的に増減あるいは断続させてもよい。
また,上記実施形態では,低周波電磁波発生手段は,低周波電磁波を約7.81Hzの周期で間欠的に発生させたが,本発明はかかる例に限定されない。低周波電磁波発生手段は,例えば,上記周波数以外の1又は2以上の周波数で低周波電磁波を間欠的に発生してもよい。また,低周波電磁波発生手段は,低周波電磁波を間欠することなく連続的に発生させてもよい。
また,上記実施形態にかかる高周波治療器10は,高周波発振手段24および低周波発振手段25の双方を備えることにより,高周波電磁波および低周波電磁波の双方を発生可能に構成したが,本発明は,かかる例に限定されない。高周波治療器10は,上記低周波発振手段25を具備せずに,上記高周波電磁波のみを発生する構成であってもよい。また,高周波治療器10は,上記高周波発振手段24及び/又は低周波発振手段25以外にも,新たな1又は2以上の電磁波発生手段(例えば,別のコイルなど)を追加して具備してもよい。さらに,この追加された電磁波発生手段が発生する電磁波は,例えば,長波,中波,短波,超短波,マイクロ波など任意の周波数の電磁波であってもよい。
また,高周波治療器10は,上記以外の構成要素以外にも,例えば,被治療体に振動を与えるための振動発生手段,作用させる電磁波(交番磁界)の周波数若しくは強度,室温,体温,電池残量,などを計測する各種の計測装置,交番磁界の照射継続時間(動作時間)を計測および制御して,動作の自動オン/オフ等を行うタイマー装置,ユーザに対して予定治療時間の終了や電源消耗などを音声により通知するためのブザー装置などの発音装置,治療器本体を患部に装着するためのベルトまたは粘着剤等の装着手段,などを適宜設けてもよい。
また,上記実施形態にかかる高周波治療器10は,50〜140MHz(例えば83.3MHz)の高周波電磁波を発生させる構成であったが,本発明はかかる例に限定されない。
例えば,高周波治療器10は,50〜140MHz内の任意の周波数を任意の正の整数で除算した周波数(例えば,83.3MHzを2,3,…で除算した約41.6MHz,27.7MHz,…など)を発振するように構成されており,この周波数の電磁波を発生させる際に付随的に生じる高調波を用いて,50〜140MHzの高周波電磁波をも発生させるように構成してもよい。
つまり,一般的には,発生させる高周波電磁波の基本波が完全な正弦波でなければ,その基本波の整数倍の周波数も高調波が必然的に発生する。このため,50MHz未満の電磁波(例えば,約41.65MHz,約27.8MHz,…等)を基本波として発生させたとしても,その整数倍(2倍,3倍,…)の周波数の高周波電磁波(例えば83.3MHz)が高調波として発生する。この高調波の周波数が,上記本実施形態にかかる好適な周波数範囲,即ち,50〜140MHz,好適には50〜120MHz,より好適には55〜110MHz,さらにより好適には65〜100MHz,さらにより好適には70〜95MHz,特に好適には83.3±10%MHzの範囲内にあれば,当該高調波を被治療体に作用させることによって磁気治療効果が生じると考えられる。よって,当該高調波の発生源となる基本波を発生させる高周波治療器は,本願発明の技術的範囲に含まれる。
また,高周波治療器10は,140MHzより大きい周波数の高周波電磁波を50〜140MHzで間欠的に発生させることによって,上記50〜140MHzの高周波電磁波を発生させるようにしてもよい。
つまり,人体などの生体細胞は,過度に高周波の周波数帯の電磁波の照射を受けても,当該高周波の交番磁界の変化に反応しない場合がある。かかる生体細胞の鈍感さを利用して,140MHzより大きい周波数の高周波電磁波(例えば1GHz)を搬送波として,当該搬送波を,上記治療用高周波数である50〜140MHz(例えば83.3MHz)に対応する周期でオン/オフして出力することで,生体細胞は,あたかも当該治療用高周波数の電磁波のみが照射されているかのように反応することとなる。よって,当該高周波の発生源となる搬送波を間欠的に発生させる高周波治療器は,本願発明の技術的範囲に含まれる。
また,上記治療用高周波数は,上記50〜140MHz範囲内の固定値であってもよい。しかし,患部の細胞に対して,同一の治療用高周波数の高周波交番磁界を継続的に作用させたときには,患部の細胞が当該周波数に慣れてしまい,磁気治療効果が低減する可能性がある,そこで,上記高周波治療器10を用いた治療中(患部に対する高周波交番磁界の照射中)に,上記治療用高周波数を,50〜140MHz,好適には50〜120MHz,より好適には55〜110MHz,さらにより好適には65〜100MHz,さらにより好適には70〜95MHz,特に好適には83.3±10%MHzの範囲内で,変化させてもよい。これにより,磁気治療中に,患部の細胞に対して,異なる治療用高周波数の高周波交番磁界を作用させることができるので,患部の細胞が受ける磁気刺激に変化を与えて,磁気治療効果を向上させることができる。なお,このような治療用高周波数の変化は,例えば,高周波発振手段が,高周波用コイル30に印可する高周波電流の周波数を,上記範囲内で変化させることによって実現できる。