JP2006212706A - レーザ加工方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】 加工対象物の表面に不必要な割れを発生させることなくかつその表面が溶融しないレーザ加工方法を提供する。
【解決手段】 ウェハ状の加工対象物1の内部に集光点Pを合わせてレーザ光Lを照射することにより、加工対象物1において第1の方向に延在する複数の第1の切断予定ライン5のそれぞれに沿って加工対象物1の内部に第1の改質領域を形成し、加工対象物1の内部に集光点Pを合わせてレーザ光Lを照射することにより、加工対象物1において第1の方向と略直交する第2の方向に延在する複数の第2の切断予定ライン5のそれぞれに沿って加工対象物の内部に第2の改質領域を形成し、第1及び第2の改質領域を切断の起点として第1及び第2の切断予定ライン5に沿って加工対象物1を複数のチップに分割する。
【選択図】 図21

Description

本発明は、半導体材料基板、圧電材料基板やガラス基板等の加工対象物の切断に使用されるレーザ加工方法に関する。
レーザ応用の一つに切断があり、レーザによる一般的な切断は次の通りである。例えば半導体ウェハやガラス基板のような加工対象物の切断する箇所に、加工対象物が吸収する波長のレーザ光を照射し、レーザ光の吸収により切断する箇所において加工対象物の表面から裏面に向けて加熱溶融を進行させて加工対象物を切断する。しかし、この方法では加工対象物の表面のうち切断する箇所となる領域周辺も溶融される。よって、加工対象物が半導体ウェハの場合、半導体ウェハの表面に形成された半導体素子のうち、上記領域周辺に位置する半導体素子が溶融する恐れがある。
加工対象物の表面の溶融を防止する方法として、例えば、下記の特許文献1や特許文献2に開示されたレーザによる切断方法がある。これらの文献に開示された切断方法では、加工対象物の切断する箇所をレーザ光により加熱し、そして加工対象物を冷却することにより、加工対象物の切断する箇所に熱衝撃を生じさせて加工対象物を切断する。
特開2000−219528号公報 特開2000−15467号公報
しかし、これらの文献に開示された切断方法では、加工対象物に生じる熱衝撃が大きいと、加工対象物の表面に、切断予定ラインから外れた割れやレーザ照射していない先の箇所までの割れ等の不必要な割れが発生することがある。よって、これらの切断方法では精密切断をすることができない。特に、加工対象物が半導体ウェハ、液晶表示装置が形成されたガラス基板、電極パターンが形成されたガラス基板の場合、この不必要な割れにより半導体チップ、液晶表示装置、電極パターンが損傷することがある。また、これらの切断方法では平均入力エネルギーが大きいので、半導体チップ等に与える熱的ダメージも大きい。
本発明の目的は、加工対象物の表面に不必要な割れを発生させることなくかつその表面が溶融しないレーザ加工方法を提供することである。
本発明に係るレーザ加工方法は、ウェハ状の加工対象物の内部に集光点を合わせてレーザ光を照射することにより、加工対象物において第1の方向に延在する複数の第1の切断予定ラインのそれぞれに沿って加工対象物の内部に第1の改質領域を形成する工程と、加工対象物の内部に集光点を合わせてレーザ光を照射することにより、加工対象物において第1の方向と略直交する第2の方向に延在する複数の第2の切断予定ラインのそれぞれに沿って加工対象物の内部に第2の改質領域を形成する工程と、第1及び第2の改質領域を切断の起点として第1及び第2の切断予定ラインに沿って加工対象物を複数のチップに分割する工程と、を備えることを特徴とする。
本発明に係るレーザ加工方法においては、加工対象物の内部に集光点を合わせてレーザ光を照射することにより、加工対象物の内部に改質領域を形成している。加工対象物の切断する箇所に何らかの起点があると、加工対象物を比較的小さな力で割って切断することができる。本発明に係るレーザ加工方法によれば、改質領域を起点として切断予定ラインに沿って加工対象物が割れることにより、加工対象物を切断することができる。よって、比較的小さな力で加工対象物を切断することができるので、加工対象物の表面に切断予定ラインから外れた不必要な割れを発生させることなく加工対象物の切断が可能となる。
また、本発明に係るレーザ加工方法においては、加工対象物の内部に局所的に改質領域を形成している。よって、加工対象物の表面ではレーザ光がほとんど吸収されないので、加工対象物の表面が溶融することはない。なお、集光点とはレーザ光が集光した箇所のことである。切断予定ラインは加工対象物の表面や内部に実際に引かれた線でもよいし、仮想の線でもよい。
本発明に係るレーザ加工方法によれば、加工対象物の表面に溶融や切断予定ラインから外れた割れが生じることなく、加工対象物を切断することができる。よって、加工対象物を切断することにより作製される製品(例えば、半導体チップ、圧電デバイスチップ、液晶等の表示装置)の歩留まりや生産性を向上させることができる。
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて説明する。本実施形態に係るレーザ加工方法及びレーザ加工装置は、多光子吸収により改質領域を形成している。多光子吸収はレーザ光の強度を非常に大きくした場合に発生する現象である。まず、多光子吸収について簡単に説明する。
材料の吸収のバンドギャップEよりも光子のエネルギーhνが小さいと光学的に透明となる。よって、材料に吸収が生じる条件はhν>Eである。しかし、光学的に透明でも、レーザ光の強度を非常に大きくするとnhν>Eの条件(n=2,3,4,・・・である)で材料に吸収が生じる。この現象を多光子吸収という。パルス波の場合、レーザ光の強度はレーザ光の集光点のピークパワー密度(W/cm)で決まり、例えばピークパワー密度が1×10(W/cm)以上の条件で多光子吸収が生じる。ピークパワー密度は、(集光点におけるレーザ光の1パルス当たりのエネルギー)÷(レーザ光のビームスポット断面積×パルス幅)により求められる。また、連続波の場合、レーザ光の強度はレーザ光の集光点の電界強度(W/cm)で決まる。
このような多光子吸収を利用する本実施形態に係るレーザ加工の原理について図1〜図6を用いて説明する。図1はレーザ加工中の加工対象物1の平面図であり、図2は図1に示す加工対象物1のII−II線に沿った断面図であり、図3はレーザ加工後の加工対象物1の平面図であり、図4は図3に示す加工対象物1のIV−IV線に沿った断面図であり、図5は図3に示す加工対象物1のV−V線に沿った断面図であり、図6は切断された加工対象物1の平面図である。
図1及び図2に示すように、加工対象物1の表面3には切断予定ライン5がある。切断予定ライン5は直線状に延びた仮想線である。本実施形態に係るレーザ加工は、多光子吸収が生じる条件で加工対象物1の内部に集光点Pを合わせてレーザ光Lを加工対象物1に照射して改質領域7を形成する。なお、集光点とはレーザ光Lが集光した箇所のことである。
レーザ光Lを切断予定ライン5に沿って(すなわち矢印A方向に沿って)相対的に移動させることにより、集光点Pを切断予定ライン5に沿って移動させる。これにより、図3〜図5に示すように改質領域7が切断予定ライン5に沿って加工対象物1の内部にのみ形成される。本実施形態に係るレーザ加工方法は、加工対象物1がレーザ光Lを吸収することにより加工対象物1を発熱させて改質領域7を形成するのではない。加工対象物1にレーザ光Lを透過させ加工対象物1の内部に多光子吸収を発生させて改質領域7を形成している。よって、加工対象物1の表面3ではレーザ光Lがほとんど吸収されないので、加工対象物1の表面3が溶融することはない。
加工対象物1の切断において、切断する箇所に起点があると加工対象物1はその起点から割れるので、図6に示すように比較的小さな力で加工対象物1を切断することができる。よって、加工対象物1の表面3に不必要な割れを発生させることなく加工対象物1の切断が可能となる。
なお、改質領域を起点とした加工対象物の切断は、次の二通りが考えられる。一つは、改質領域形成後、加工対象物に人為的な力が印加されることにより、改質領域を起点として加工対象物が割れ、加工対象物が切断される場合である。これは、例えば加工対象物の厚みが大きい場合の切断である。人為的な力が印加されるとは、例えば、加工対象物の切断予定ラインに沿って加工対象物に曲げ応力やせん断応力を加えたり、加工対象物に温度差を与えることにより熱応力を発生させたりすることである。他の一つは、改質領域を形成することにより、改質領域を起点として加工対象物の断面方向(厚さ方向)に向かって自然に割れ、結果的に加工対象物が切断される場合である。これは、例えば加工対象物の厚みが小さい場合、改質領域が1つでも可能であり、加工対象物の厚みが大きい場合、厚さ方向に複数の改質領域を形成することで可能となる。なお、この自然に割れる場合も、切断する箇所において、改質領域が形成されていない部分上の表面まで割れが先走ることがなく、改質部を形成した部分上の表面のみを割断することができるので、割断を制御よくすることができる。近年、シリコンウェハ等の半導体ウェハの厚みは薄くなる傾向にあるので、このような制御性のよい割断方法は大変有効である。
さて、本実施形態において多光子吸収により形成される改質領域として、次の(1)〜(3)がある。
(1)改質領域が一つ又は複数のクラックを含むクラック領域の場合
レーザ光を加工対象物(例えばガラスやLiTaOからなる圧電材料)の内部に集光点を合わせて、集光点における電界強度が1×10(W/cm)以上でかつパルス幅が1μs以下の条件で照射する。このパルス幅の大きさは、多光子吸収を生じさせつつ加工対象物表面に余計なダメージを与えずに、加工対象物の内部にのみクラック領域を形成できる条件である。これにより、加工対象物の内部には多光子吸収による光学的損傷という現象が発生する。この光学的損傷により加工対象物の内部に熱ひずみが誘起され、これにより加工対象物の内部にクラック領域が形成される。電界強度の上限値としては、例えば1×1012(W/cm)である。パルス幅は例えば1ns〜200nsが好ましい。なお、多光子吸収によるクラック領域の形成は、例えば、第45回レーザ熱加工研究会論文集(1998年.12月)の第23頁〜第28頁の「固体レーザー高調波によるガラス基板の内部マーキング」に記載されている。
本発明者は、電界強度とクラックの大きさとの関係を実験により求めた。実験条件は次ぎの通りである。
(A)加工対象物:パイレックス(登録商標)ガラス(厚さ700μm)
(B)レーザ
光源:半導体レーザ励起Nd:YAGレーザ
波長:1064nm
レーザ光スポット断面積:3.14×10−8cm
発振形態:Qスイッチパルス
繰り返し周波数:100kHz
パルス幅:30ns
出力:出力<1mJ/パルス
レーザ光品質:TEM00
偏光特性:直線偏光
(C)集光用レンズ
レーザ光波長に対する透過率:60パーセント
(D)加工対象物が載置される載置台の移動速度:100mm/秒
なお、レーザ光品質がTEM00とは、集光性が高くレーザ光の波長程度まで集光可能を意味する。
図7は上記実験の結果を示すグラフである。横軸はピークパワー密度であり、レーザ光がパルスレーザ光なので電界強度はピークパワー密度で表される。縦軸は1パルスのレーザ光により加工対象物の内部に形成されたクラック部分(クラックスポット)の大きさを示している。クラックスポットが集まりクラック領域となる。クラックスポットの大きさは、クラックスポットの形状のうち最大の長さとなる部分の大きさである。グラフ中の黒丸で示すデータは集光用レンズ(C)の倍率が100倍、開口数(NA)が0.80の場合である。一方、グラフ中の白丸で示すデータは集光用レンズ(C)の倍率が50倍、開口数(NA)が0.55の場合である。ピークパワー密度が1011(W/cm)程度から加工対象物の内部にクラックスポットが発生し、ピークパワー密度が大きくなるに従いクラックスポットも大きくなることが分かる。
次に、本実施形態に係るレーザ加工において、クラック領域形成による加工対象物の切断のメカニズムについて図8〜図11を用いて説明する。図8に示すように、多光子吸収が生じる条件で加工対象物1の内部に集光点Pを合わせてレーザ光Lを加工対象物1に照射して切断予定ラインに沿って内部にクラック領域9を形成する。クラック領域9は一つ又は複数のクラックを含む領域である。図9に示すようにクラック領域9を起点としてクラックがさらに成長し、図10に示すようにクラックが加工対象物1の表面3と裏面21に到達し、図11に示すように加工対象物1が割れることにより加工対象物1が切断される。加工対象物の表面と裏面に到達するクラックは自然に成長する場合もあるし、加工対象物に力が印加されることにより成長する場合もある。
(2)改質領域が溶融処理領域の場合
レーザ光を加工対象物(例えばシリコンのような半導体材料)の内部に集光点を合わせて、集光点における電界強度が1×10(W/cm)以上でかつパルス幅が1μs以下の条件で照射する。これにより加工対象物の内部は多光子吸収によって局所的に加熱される。この加熱により加工対象物の内部に溶融処理領域が形成される。溶融処理領域とは一旦溶融後再固化した領域、溶融状態中の領域及び溶融から再固化する状態中の領域のうち少なくともいずれか一つを意味する。溶融処理領域は相変化した領域や結晶構造が変化した領域ということもできる。また、溶融処理領域とは単結晶構造、非晶質構造、多結晶構造において、ある構造が別の構造に変化した領域ということもできる。つまり、例えば、単結晶構造から非晶質構造に変化した領域、単結晶構造から多結晶構造に変化した領域、単結晶構造から非晶質構造及び多結晶構造を含む構造に変化した領域を意味する。加工対象物がシリコン単結晶構造の場合、溶融処理領域は例えば非晶質シリコン構造である。なお、電界強度の上限値としては、例えば1×1012(W/cm)である。パルス幅は例えば1ns〜200nsが好ましい。
本発明者は、シリコンウェハの内部で溶融処理領域が形成されることを実験により確認した。実験条件は次ぎの通りである。
(A)加工対象物:シリコンウェハ(厚さ350μm、外径4インチ)
(B)レーザ
光源:半導体レーザ励起Nd:YAGレーザ
波長:1064nm
レーザ光スポット断面積:3.14×10−8cm
発振形態:Qスイッチパルス
繰り返し周波数:100kHz
パルス幅:30ns
出力:20μJ/パルス
レーザ光品質:TEM00
偏光特性:直線偏光
(C)集光用レンズ
倍率:50倍
NA:0.55
レーザ光波長に対する透過率:60パーセント
(D)加工対象物が載置される載置台の移動速度:100mm/秒
図12は上記条件でのレーザ加工により切断されたシリコンウェハの一部における断面の写真を表した図である。シリコンウェハ11の内部に溶融処理領域13が形成されている。なお、上記条件により形成された溶融処理領域の厚さ方向の大きさは100μm程度である。
溶融処理領域13が多光子吸収により形成されたことを説明する。図13は、レーザ光の波長とシリコン基板の内部の透過率との関係を示すグラフである。ただし、シリコン基板の表面側と裏面側それぞれの反射成分を除去し、内部のみの透過率を示している。シリコン基板の厚みtが50μm、100μm、200μm、500μm、1000μmの各々について上記関係を示した。
例えば、Nd:YAGレーザの波長である1064nmにおいて、シリコン基板の厚みが500μm以下の場合、シリコン基板の内部ではレーザ光が80%以上透過することが分かる。図12に示すシリコンウェハ11の厚さは350μmであるので、多光子吸収による溶融処理領域はシリコンウェハの中心付近、つまり表面から175μmの部分に形成される。この場合の透過率は、厚さ200μmのシリコンウェハを参考にすると、90%以上なので、レーザ光がシリコンウェハ11の内部で吸収されるのは僅かであり、ほとんどが透過する。このことは、シリコンウェハ11の内部でレーザ光が吸収されて、溶融処理領域がシリコンウェハ11の内部に形成(つまりレーザ光による通常の加熱で溶融処理領域が形成)されたものではなく、溶融処理領域が多光子吸収により形成されたことを意味する。多光子吸収による溶融処理領域の形成は、例えば、溶接学会全国大会講演概要第66集(2000年4月)の第72頁〜第73頁の「ピコ秒パルスレーザによるシリコンの加工特性評価」に記載されている。
なお、シリコンウェハは、溶融処理領域を起点として断面方向に向かって割れを発生させ、その割れがシリコンウェハの表面と裏面に到達することにより、結果的に切断される。シリコンウェハの表面と裏面に到達するこの割れは自然に成長する場合もあるし、加工対象物に力が印加されることにより成長する場合もある。なお、溶融処理領域からシリコンウェハの表面と裏面に割れが自然に成長するのは、一旦溶融後再固化した状態となった領域から割れが成長する場合、溶融状態の領域から割れが成長する場合及び溶融から再固化する状態の領域から割れが成長する場合のうち少なくともいずれか一つである。いずれの場合も切断後の切断面は図12に示すように内部にのみ溶融処理領域が形成される。加工対象物の内部に溶融処理領域を形成する場合、割断時、切断予定ラインから外れた不必要な割れが生じにくいので、割断制御が容易となる。
(3)改質領域が屈折率変化領域の場合
レーザ光を加工対象物(例えばガラス)の内部に集光点を合わせて、集光点における電界強度が1×10(W/cm)以上でかつパルス幅が1ns以下の条件で照射する。パルス幅を極めて短くして、多光子吸収を加工対象物の内部に起こさせると、多光子吸収によるエネルギーが熱エネルギーに転化せずに、加工対象物の内部にはイオン価数変化、結晶化又は分極配向等の永続的な構造変化が誘起されて屈折率変化領域が形成される。電界強度の上限値としては、例えば1×1012(W/cm)である。パルス幅は例えば1ns以下が好ましく、1ps以下がさらに好ましい。多光子吸収による屈折率変化領域の形成は、例えば、第42回レーザ熱加工研究会論文集(1997年.11月)の第105頁〜第111頁の「フェムト秒レーザー照射によるガラス内部への光誘起構造形成」に記載されている。
以上のように本実施形態によれば改質領域を多光子吸収により形成している。そして、本実施形態は、直線偏光をしたレーザ光の直線偏光の向きが加工対象物の切断予定ラインと沿うようにして、加工対象物にレーザ光を照射することにより、加工対象物に改質領域を形成している。これにより、レーザ光がパルスレーザ光の場合、1パルスのショット(つまり1パルスのレーザ照射)で形成された改質スポットにおいて、切断予定ラインに沿った方向の寸法を相対的に大きくすることができる。これを本発明者は実験により確認した。実験条件は次ぎの通りである。
(A)加工対象物:パイレックス(登録商標)ガラスウェハ(厚さ700μm、外径4インチ)
(B)レーザ
光源:半導体レーザ励起Nd:YAGレーザ
波長:1064nm
レーザ光スポット断面積:3.14×10−8cm
発振形態:Qスイッチパルス
繰り返し周波数:100kHz
パルス幅:30ns
出力:出力<1mJ/パルス
レーザ光品質:TEM00
偏光特性:直線偏光
(C)集光用レンズ
倍率:50倍
NA:0.55
レーザ光波長に対する透過率:60パーセント
(D)加工対象物が載置される載置台の移動速度:100mm/秒
加工対象物であるサンプル1,2の各々において、加工対象物の内部に集光点を合わせてパルスレーザ光を1パルスショットし、加工対象物の内部に多光子吸収によるクラック領域を形成した。サンプル1に直線偏光のパルスレーザ光を照射し、サンプル2に円偏光のパルスレーザ光を照射した。
図14はサンプル1の平面の写真を表した図であり、図15はサンプル2の平面の写真を表した図である。これらの平面はパルスレーザ光の入射面209である。記号LPは直線偏光を模式的に示しており、記号CPは円偏光を模式的に示している。そして、図16は図14に示すサンプル1のXVI−XVI線に沿った断面を模式的に表した図である。図17は図15に示すサンプル2のXVII−XVII線に沿った断面を模式的に表した図である。加工対象物であるガラスウェハ211の内部にクラックスポット90が形成されている。
図16に示すようにパルスレーザ光が直線偏光の場合、1パルスのショットで形成されるクラックスポット90の寸法は直線偏光の向きに沿った方向において相対的に大きくなっている。これは、クラックスポット90の形成がこの方向に促進されていることを示している。一方、図17に示すようにパルスレーザ光が円偏光の場合、1パルスのショットで形成されるクラックスポット90の寸法は特定の方向に大きくならない。長さが最大となる方向のクラックスポット90の寸法は、サンプル1の方がサンプル2より大きくなっている。
この実験結果から切断予定ラインに沿ったクラック領域を効率的に形成することができることを説明する。図18及び図19は、加工対象物の切断予定ラインに沿って形成されたクラック領域の平面図である。1パルスのショットで形成されるクラックスポット90を切断予定ライン5に沿って多数形成することにより、切断予定ライン5に沿ったクラック領域9が形成されている。図18は、パルスレーザ光の直線偏光の方向が切断予定ライン5に沿うようにして、パルスレーザ光を照射して形成されたクラック領域9を示している。クラックスポット90は、切断予定ライン5の方向に沿っての形成が促進されることにより、この方向の寸法が比較的大きくなっている。よって、少ないショット数で切断予定ライン5に沿ったクラック領域9を形成することができる。一方、図19は、パルスレーザ光の直線偏光の方向を切断予定ライン5と直交させてパルスレーザ光を照射して形成されたクラック領域9を示している。クラックスポット90の切断予定ライン5の方向の寸法は比較的小さいので、クラック領域9を形成するのに図18の場合に比べてショット数が多くなる。従って、図18に示す本実施形態に係るクラック領域の形成方法は、図19に示す方法よりも効率的にクラック領域を形成することができる。
また、図19に示す方法は、パルスレーザ光の直線偏光の方向が切断予定ライン5と直交させてパルスレーザ光が照射されているので、ショット時に形成されるクラックスポット90は、切断予定ライン5の幅方向において形成が促進されている。よって、クラックスポット90の切断予定ライン5の幅方向への延びが大きくなりすぎると、加工対象物を切断予定ライン5に沿って精密に切断することができない。これに対して、図18に示す本実施形態に係る方法において、ショット時に形成されるクラックスポット90は、切断予定ライン5に沿った方向以外の方向にあまり延びていないので、加工対象物の精密な切断が可能となる。
なお、改質領域の寸法のうち所定方向の寸法が相対的に大きくすることについて、直線偏光の場合で説明したが、楕円偏光でも同じことが言える。すなわち、図20に示すように、レーザ光の楕円偏光EPを表す楕円の長軸b方向にクラックスポット90の形成が促進され、この方向に沿った寸法が相対的に大きいクラックスポット90を形成できる。よって、1以外の楕円率の楕円偏光をしたレーザ光の楕円偏光を表す楕円の長軸が加工対象物の切断予定ラインと沿うようにしてクラック領域を形成すると、直線偏光の場合と同様の効果が生じる。なお、楕円率とは短軸aの長さの半分/長軸bの長さの半分である。楕円率が小さくなるほど、クラックスポット90は長軸b方向に沿った寸法が大きくなる。直線偏光は楕円率が零の楕円偏光である。楕円率が1では円偏光となり、クラック領域の所定方向の寸法を相対的に大きくできない。よって、本実施形態においては楕円率1の場合は含まれない。
改質領域の寸法のうち所定方向の寸法が相対的に大きくすることについて、クラック領域の場合で説明したが、溶融処理領域や屈折率変化領域でも同様のことが言える。また、パルスレーザ光について説明したが、連続波レーザ光についても同様のことが言える。
次に、本実施形態の具体例を説明する。
[第1例]
本実施形態の第1例に係るレーザ加工装置について説明する。図21はこのレーザ加工装置200の概略構成図である。レーザ加工装置200は、レーザ光Lを発生するレーザ光源101と、レーザ光Lの出力やパルス幅等を調節するためにレーザ光源101を制御するレーザ光源制御部102と、レーザ光源101から出射されたレーザ光Lの偏光の楕円率を調節する楕円率調節部201と、楕円率調節部201から出射されたレーザ光Lの偏光を略90°だけ回転調節する90°回転調節部203と、を備える。
レーザ光源101はパルスレーザ光を発生するNd:YAGレーザである。レーザ光源101に用いることができるレーザとして、この他、Nd:YVOレーザやNd:YLFレーザやチタンサファイアレーザがある。クラック領域や溶融処理領域を形成する場合、Nd:YAGレーザ、Nd:YVOレーザ、Nd:YLFレーザを用いるのが好適である。屈折率変化領域を形成する場合、チタンサファイアレーザを用いるのが好適である。
楕円率調節部201は、図22に示すような1/4波長板207を含む。1/4波長板207は方位角θを変えることにより楕円偏光の楕円率を調節できる。すなわち、1/4波長板207に例えば直線偏光LPの入射光が入射すると、透過光は所定の楕円率の楕円偏光EPとなる。方位角とは楕円の長軸とX軸とのなす角である。上述したように本実施形態において、楕円率は1以外の数字が適用される。楕円率調節部201によりレーザ光Lの偏光を所望の楕円率を有する楕円偏光EPできる。加工対象物1の厚さ、材質等を考慮して楕円率は調節される。
加工対象物1に直線偏光LPのレーザ光Lを照射する場合、レーザ光源101から出射されるレーザ光Lは直線偏光LPなので、レーザ光Lが直線偏光LPのままで1/4波長板を通過するように、楕円率調節部201は1/4波長板207の方位角θを調節する。また、レーザ光源101からは直線偏光のレーザ光Lが出射されるので、加工対象物1のレーザ照射に直線偏光LPのレーザ光だけを利用する場合、楕円率調節部201は不要となる。
90°回転調節部203は、図23に示すような1/2波長板205を含む。1/2波長板205は直線偏光の入射光に対して直交する偏光をつくる波長板である。すなわち、1/2波長板205に例えば方位角45°の直線偏光LPの入射光が入射すると、透過光は入射光LPに対して90°だけ回転した直線偏光LPとなる。90°回転調節部203は、楕円率調節部201から出射されたレーザ光Lの偏光を90°だけ回転させる場合、1/2波長板205をレーザ光Lの光軸上に配置させる動作をする。また、90°回転調節部203は、楕円率調節部201から出射されたレーザ光Lの偏光を回転させない場合、1/2波長板205をレーザ光Lの光路外(すなわち、レーザ光Lが1/2波長板205を通過しない場所)に配置させる動作をする。
レーザ加工装置200はさらに、90°回転調節部203で偏光を90°だけ回転調節され又はされないレーザ光Lが入射しかつレーザ光Lの光軸の向きを90°変えるように配置されたダイクロイックミラー103と、ダイクロイックミラー103で反射されたレーザ光Lを集光する集光用レンズ105と、集光用レンズ105で集光されたレーザ光Lが照射される加工対象物1が載置される載置台107と、載置台107をX軸方向に移動させるためのX軸ステージ109と、載置台107をX軸方向に直交するY軸方向に移動させるためのY軸ステージ111と、載置台107をX軸及びY軸方向に直交するZ軸方向に移動させるためのZ軸ステージ113と、載置台107のX−Y平面を加工対象物1の厚さ方向を軸として回転させるためのθ軸ステージ213と、これら四つのステージ109,111,113,213の移動を制御するステージ制御部115と、を備える。
Z軸方向は加工対象物1の表面3と直交する方向なので、加工対象物1に入射するレーザ光Lの焦点深度の方向となる。よって、Z軸ステージ113をZ軸方向に移動させることにより、加工対象物1の内部にレーザ光Lの集光点Pを合わせることができる。また、この集光点PのX(Y)軸方向の移動は、加工対象物1をX(Y)軸ステージ109(111)によりX(Y)軸方向に移動させることにより行う。X(Y)軸ステージ109(111)が移動手段の一例となる。
第1例では加工対象物1の加工にパルスレーザ光を用いているが、多光子吸収を起こさせることができるなら連続波レーザ光でもよい。集光用レンズ105は集光手段の一例である。Z軸ステージ113はレーザ光の集光点を加工対象物の内部に合わせる手段の一例である。集光用レンズ105をZ軸方向に移動させることによっても、レーザ光の集光点を加工対象物の内部に合わせることができる。
レーザ加工装置200はさらに、載置台107に載置された加工対象物1を可視光線により照明するために可視光線を発生する観察用光源117と、ダイクロイックミラー103及び集光用レンズ105と同じ光軸上に配置された可視光用のビームスプリッタ119と、を備える。ビームスプリッタ119と集光用レンズ105との間にダイクロイックミラー103が配置されている。ビームスプリッタ119は、可視光線の約半分を反射し残りの半分を透過する機能を有しかつ可視光線の光軸の向きを90°変えるように配置されている。観察用光源117から発生した可視光線はビームスプリッタ119で約半分が反射され、この反射された可視光線がダイクロイックミラー103及び集光用レンズ105を透過し、加工対象物1の切断予定ライン5等を含む表面3を照明する。
レーザ加工装置200はさらに、ビームスプリッタ119、ダイクロイックミラー103及び集光用レンズ105と同じ光軸上に配置された撮像素子121及び結像レンズ123を備える。撮像素子121としては例えばCCD(charge-coupled device)カメラがある。切断予定ライン5等を含む表面3を照明した可視光線の反射光は、集光用レンズ105、ダイクロイックミラー103、ビームスプリッタ119を透過し、結像レンズ123で結像されて撮像素子121で撮像され、撮像データとなる。
レーザ加工装置200はさらに、撮像素子121から出力された撮像データが入力される撮像データ処理部125と、レーザ加工装置200全体を制御する全体制御部127と、モニタ129と、を備える。撮像データ処理部125は、撮像データを基にして観察用光源117で発生した可視光の焦点が表面3上に合わせるための焦点データを演算する。この焦点データを基にしてステージ制御部115がZ軸ステージ113を移動制御することにより、可視光の焦点が表面3に合うようにする。よって、撮像データ処理部125はオートフォーカスユニットとして機能する。また、撮像データ処理部125は、撮像データを基にして表面3の拡大画像等の画像データを演算する。この画像データは全体制御部127に送られ、全体制御部で各種処理がなされ、モニタ129に送られる。これにより、モニタ129に拡大画像等が表示される。
全体制御部127には、ステージ制御部115からのデータ、撮像データ処理部125からの画像データ等が入力し、これらのデータも基にしてレーザ光源制御部102、観察用光源117及びステージ制御部115を制御することにより、レーザ加工装置200全体を制御する。よって、全体制御部127はコンピュータユニットとして機能する。
次に、図21及び図24を用いて、本実施形態の第1例に係るレーザ加工方法を説明する。図24は、このレーザ加工方法を説明するためのフローチャートである。加工対象物1はシリコンウェハである。
まず、加工対象物1の光吸収特性を図示しない分光光度計等により測定する。この測定結果に基づいて、加工対象物1に対して透明な波長又は吸収の少ない波長のレーザ光Lを発生するレーザ光源101を選定する(S101)。次に、加工対象物1の厚さを測定する。厚さの測定結果及び加工対象物1の屈折率を基にして、加工対象物1のZ軸方向の移動量を決定する(S103)。これは、レーザ光Lの集光点Pが加工対象物1の内部に位置させるために、加工対象物1の表面3に位置するレーザ光Lの集光点を基準とした加工対象物1のZ軸方向の移動量である。この移動量を全体制御部127に入力される。
加工対象物1をレーザ加工装置200の載置台107に載置する。そして、観察用光源117から可視光を発生させて加工対象物1を照明する(S105)。照明された切断予定ライン5を含む加工対象物1の表面3を撮像素子121により撮像する。この撮像データは撮像データ処理部125に送られる。この撮像データに基づいて撮像データ処理部125は観察用光源117の可視光の焦点が表面3に位置するような焦点データを演算する(S107)。
この焦点データはステージ制御部115に送られる。ステージ制御部115は、この焦点データを基にしてZ軸ステージ113をZ軸方向の移動させる(S109)。これにより、観察用光源117の可視光の焦点が表面3に位置する。なお、撮像データ処理部125は撮像データに基づいて、切断予定ライン5を含む加工対象物1の表面3の拡大画像データを演算する。この拡大画像データは全体制御部127を介してモニタ129に送られ、これによりモニタ129に切断予定ライン5付近の拡大画像が表示される。
全体制御部127には予めステップS103で決定された移動量データが入力されており、この移動量データがステージ制御部115に送られる。ステージ制御部115はこの移動量データに基づいて、レーザ光Lの集光点Pが加工対象物1の内部となる位置に、Z軸ステージ113により加工対象物1をZ軸方向に移動させる(S111)。
次に、楕円率調節部201により、レーザ光源101から出射される直線偏光LPのレーザ光Lの楕円率を調節する(S113)。楕円率調節部201において1/4波長板の方位角θを変えることにより、所望の楕円率の楕円偏光EPを有するレーザ光Lを得ることができる。
まず、加工対象物1をY軸方向に沿って加工するので、レーザ光Lの楕円偏光EPを表す楕円の長軸が加工対象物1のY軸方向に延びた切断予定ライン5の方向と一致するように調節する(S115)。これは、θ軸ステージ213を回転させることより達成される。よって、θ軸ステージ213は長軸調節手段や直線偏光調節手段として機能する。
Y軸方向に沿って加工対象物1を加工するので、90°回転調節部203は、レーザ光Lの偏光を回転させないような調節をする(S117)。つまり、1/2波長板をレーザ光Lの光路外に配置させる動作をする。
レーザ光源101からレーザ光Lを発生させて、レーザ光Lを加工対象物1の表面3のY軸方向に延びた切断予定ライン5に照射する。図25は加工対象物1の平面図である。レーザ光Lの楕円偏光EPの楕円を表す長軸が加工対象物1の一番右の切断予定ライン5に沿うようにして、加工対象物1にレーザ光Lが照射される。レーザ光Lの集光点Pは加工対象物1の内部に位置しているので、溶融処理領域は加工対象物1の内部にのみ形成される。切断予定ライン5に沿うようにY軸ステージ111を移動させて、溶融処理領域を切断予定ライン5に沿うように加工対象物1の内部に形成する。
そして、X軸ステージ109を移動させてレーザ光Lを隣の切断予定ライン5に照射し、上記と同様にして溶融処理領域を隣の切断予定ライン5に沿うように加工対象物1の内部に形成する。これを繰り返すことにより、右から順に各切断予定ライン5に沿って加工対象物1の内部に溶融処理領域を形成する(S119)。なお、直線偏光LPのレーザ光Lを加工対象物1に照射する場合は、図26に示すようになる。すなわち、レーザ光Lの直線偏光LPの向きが加工対象物1の切断予定ライン5に沿うように、レーザ光Lが加工対象物1に照射される。
次に、90°回転調節部203により、1/2波長板205(図23)をレーザ光Lの光軸上に配置させる動作をする。これにより、楕円率調節部201から出射されたレーザ光Lの偏光を90°だけ回転させる調節をする(S121)。
次に、レーザ光源101からレーザ光Lを発生させて、レーザ光Lを加工対象物1の表面3のX軸方向に延びた切断予定ライン5に照射する。図27は加工対象物1の平面図である。レーザ光Lの楕円偏光EPを表す楕円の長軸の方向が加工対象物1の一番下のX軸方向に延びた切断予定ライン5に沿うようにして、加工対象物1にレーザ光Lが照射される。レーザ光Lの集光点Pは加工対象物1の内部に位置しているので、溶融処理領域は加工対象物1の内部にのみ形成される。切断予定ライン5に沿うようにX軸ステージ109を移動させて、溶融処理領域を切断予定ライン5に沿うように加工対象物1の内部に形成する。
そして、Y軸ステージ111を移動させて、レーザ光Lがすぐ上の切断予定ライン5を照射するようにし、上記と同様にして溶融処理領域を切断予定ライン5に沿うように加工対象物1の内部に形成する。これを繰り返すことにより、下から順に各切断予定ラインに沿って加工対象物1の内部に溶融処理領域を形成する(S123)。なお、直線偏光LPのレーザ光Lを加工対象物1に照射する場合は、図28に示すようになる。
そして、加工対象物1を切断予定ライン5に沿って曲げることにより、加工対象物1を切断する(S125)。これにより、加工対象物1をシリコンチップに分割する。
第1例の効果を説明する。これによれば、多光子吸収を起こさせる条件でかつ加工対象物1の内部に集光点Pを合わせて、パルスレーザ光Lを切断予定ライン5に照射している。そして、X軸ステージ109やY軸ステージ111を移動させることにより、集光点Pを切断予定ライン5に沿って移動させている。これにより、改質領域(例えばクラック領域、溶融処理領域、屈折率変化領域)を切断予定ライン5に沿うように加工対象物1の内部に形成している。加工対象物の切断する箇所に何らかの起点があると、加工対象物を比較的小さな力で割って切断することができる。よって、改質領域を起点として切断予定ライン5に沿って加工対象物1を割ることにより、比較的小さな力で加工対象物1を切断することができる。これにより、加工対象物1の表面3に切断予定ライン5から外れた不必要な割れを発生させることなく加工対象物1を切断することができる。
また、第1例によれば、加工対象物1に多光子吸収を起こさせる条件でかつ加工対象物1の内部に集光点Pを合わせて、パルスレーザ光Lを切断予定ライン5に照射している。よって、パルスレーザ光Lは加工対象物1を透過し、加工対象物1の表面3ではパルスレーザ光Lがほとんど吸収されないので、改質領域形成が原因で表面3が溶融等のダメージを受けることはない。
以上説明したように第1例によれば、加工対象物1の表面3に切断予定ライン5から外れた不必要な割れや溶融が生じることなく、加工対象物1を切断することができる。よって、加工対象物1が例えば半導体ウェハの場合、半導体チップに切断予定ラインから外れた不必要な割れや溶融が生じることなく、半導体チップを半導体ウェハから切り出すことができる。表面に電極パターンが形成されている加工対象物や、圧電素子ウェハや液晶等の表示装置が形成されたガラス基板のように表面に電子デバイスが形成されている加工対象物についても同様である。よって、第1例によれば、加工対象物を切断することにより作製される製品(例えば半導体チップ、圧電デバイスチップ、液晶等の表示装置)の歩留まりを向上させることができる。
また、第1例によれば、加工対象物1の表面3の切断予定ライン5は溶融しないので、切断予定ライン5の幅(この幅は、例えば半導体ウェハの場合、半導体チップとなる領域同士の間隔である。)を小さくできる。これにより、一枚の加工対象物1から作製される製品の数が増え、製品の生産性を向上させることができる。
また、第1例によれば、加工対象物1の切断加工にレーザ光を用いるので、ダイヤモンドカッタを用いたダイシングよりも複雑な加工が可能となる。例えば、図29に示すように切断予定ライン5が複雑な形状であっても、第1例によれば切断加工が可能となる。
また、第1例によれば、図25及び図27に示すように加工対象物1には、パルスレーザ光Lの楕円偏光EPを表す楕円の長軸の方向が切断予定ライン5に沿うようにして、パルスレーザ光Lが照射されている。このためクラックスポットの切断予定ライン5の方向の寸法は比較的大きくなるので、少ないショット数で切断予定ライン5に沿ったクラック領域を形成することができる。このように第1例ではクラック領域を効率的に形成できるので、加工対象物1の加工スピードを向上させることができる。また、ショット時に形成されるクラックスポットは切断予定ライン5に沿った方向以外の方向にあまり延びないので、加工対象物1を切断予定ライン5に沿って精密に切断することができる。これらの効果は後に説明する例でも同様である。
[第2例]
次に、本実施形態の第2例について第1例との相違を中心に説明する。図30はこのレーザ加工装置300の概略構成図である。レーザ加工装置300の構成要素のうち、図21に示す第1例に係るレーザ加工装置200の構成要素と同一要素については同一符号を付すことによりその説明を省略する。
レーザ加工装置300には、第1例の90°回転調節部203が設けられていない。θ軸ステージ213により、載置台107のX−Y平面が加工対象物1の厚さ方向を軸として回転させることができる。これにより、楕円率調節部203から出射されたレーザ光Lの偏光を相対的に90°だけ回転させる調節をする。
本実施形態の第2例に係るレーザ加工方法について説明する。第2例においても図24に示す第1例に係るレーザ加工方法のステップS101からステップS115の動作をする。第2例には90°回転調節部203が設けられていないので、次のステップS117の動作は行われない。
ステップS115後、ステップS119の動作が行われる。ここまでの動作により、第2例においても第1例と同様に加工対象物1は図25に示すように加工される。その後、ステージ制御部115がθ軸ステージ213を90°だけ回転させる制御をする。このθ軸ステージ213の回転により加工対象物1はX−Y平面において90°回転する。これにより、図31に示すように、すでに改質領域形成工程が終了した切断予定ライン5と交差する切断予定ラインに沿って、楕円偏光EPの長軸を合わせることができる。
そして、ステップS119と同様に、レーザ光Lを加工対象物1に照射することにより、右から順に各切断予定ライン5に沿って加工対象物1の内部に溶融処理領域を形成する。最後に、ステップS125と同様にして加工対象物1を切断し、加工対象物1をシリコンチップに分割する。
以上説明した本実施形態では、多光子吸収による改質領域形成について説明した。しかしながら、本発明は多光子吸収による改質領域を形成せずに、楕円偏光を表す楕円の長軸方向が加工対象物の切断予定ラインと沿うように、加工対象物の内部に集光点を合わせて加工対象物にレーザ光を照射することにより加工対象物を切断してもよい。これによっても加工対象物を切断予定ラインに沿って効率的に切断することが可能となる。
本実施形態に係るレーザ加工方法によってレーザ加工中の加工対象物の平面図である。 図1に示す加工対象物のII−II線に沿った断面図である。 本実施形態に係るレーザ加工方法によるレーザ加工後の加工対象物の平面図である。 図3に示す加工対象物のIV−IV線に沿った断面図である。 図3に示す加工対象物のV−V線に沿った断面図である。 本実施形態に係るレーザ加工方法によって切断された加工対象物の平面図である。 本実施形態に係るレーザ加工方法における電界強度とクラックの大きさとの関係を示すグラフである。 本実施形態に係るレーザ加工方法の第1工程における加工対象物の断面図である。 本実施形態に係るレーザ加工方法の第2工程における加工対象物の断面図である。 本実施形態に係るレーザ加工方法の第3工程における加工対象物の断面図である。 本実施形態に係るレーザ加工方法の第4工程における加工対象物の断面図である。 本実施形態に係るレーザ加工方法により切断されたシリコンウェハの一部における断面の写真を表した図である。 本実施形態に係るレーザ加工方法におけるレーザ光の波長とシリコン基板の内部の透過率との関係を示すグラフである。 直線偏光のパルスレーザ光を照射することにより内部にクラック領域が形成されたサンプルの平面の写真を表した図である。 円偏光のパルスレーザ光を照射することにより内部にクラック領域が形成されたサンプルの平面の写真を表した図である。 図14に示すサンプルのXVI−XVI線に沿った断面図である。 図15に示すサンプルのXVII−XVII線に沿った断面図である。 本実施形態に係るレーザ加工方法によりクラック領域が形成された加工対象物の切断予定ラインに沿った部分の平面図である。 比較となるレーザ加工方法によりクラック領域が形成された加工対象物の切断予定ラインに沿った部分の平面図である。 本実施形態に係る楕円偏光をしたレーザ光とそれにより形成されるクラック領域を示す図である。 本実施形態の第1例に係るレーザ加工装置の概略構成図である。 本実施形態の第1例に係る楕円率調節部に含まれる1/4波長板の斜視図である。 本実施形態の第1例に係る90°回転調節部に含まれる1/2波長板の斜視図である。 本実施形態の第1例に係るレーザ加工方法を説明するためのフローチャートである。 本実施形態の第1例に係るレーザ加工方法により楕円偏光を有するレーザ光が照射されたシリコンウェハの平面図である。 本実施形態の第1例に係るレーザ加工方法により直線偏光を有するレーザ光が照射されたシリコンウェハの平面図である。 図25に示すシリコンウェハに本実施形態の第1例に係るレーザ加工方法により楕円偏光を有するレーザ光が照射されたシリコンウェハの平面図である。 図26に示すシリコンウェハに本実施形態の第1例に係るレーザ加工方法により直線偏光を有するレーザ光が照射されたシリコンウェハの平面図である。 本実施形態の第1例に係るレーザ加工方法により切断可能なパターンを説明するための加工対象物の平面図である。 本実施形態の第2例に係るレーザ加工装置の概略構成図である。 図25に示すシリコンウェハに本実施形態の第2例に係るレーザ加工方法により楕円偏光を有するレーザ光が照射されたシリコンウェハの平面図である。
符号の説明
1…加工対象物、5…切断予定ライン、7…改質領域、L…レーザ光、P…集光点。

Claims (8)

  1. ウェハ状の加工対象物の内部に集光点を合わせてレーザ光を照射することにより、前記加工対象物において第1の方向に延在する複数の第1の切断予定ラインのそれぞれに沿って前記加工対象物の内部に第1の改質領域を形成する工程と、
    前記加工対象物の内部に集光点を合わせてレーザ光を照射することにより、前記加工対象物において前記第1の方向と略直交する第2の方向に延在する複数の第2の切断予定ラインのそれぞれに沿って前記加工対象物の内部に第2の改質領域を形成する工程と、
    前記第1及び前記第2の改質領域を切断の起点として前記第1及び前記第2の切断予定ラインに沿って前記加工対象物を複数のチップに分割する工程と、を備えることを特徴とするレーザ加工方法。
  2. 前記改質領域は溶融処理領域であることを特徴とする請求項1記載のレーザ加工方法。
  3. 前記改質領域はクラック領域であることを特徴とする請求項1記載のレーザ加工方法。
  4. 前記改質領域は屈折率変化領域であることを特徴とする請求項1記載のレーザ加工方法。
  5. 前記加工対象物は半導体材料基板であることを特徴とする請求項1記載のレーザ加工方法。
  6. 前記加工対象物はガラス基板であることを特徴とする請求項1記載のレーザ加工方法。
  7. 前記加工対象物は圧電材料基板であることを特徴とする請求項1記載のレーザ加工方法。
  8. 前記改質領域は、単結晶構造から非晶質構造に変化した領域、単結晶構造から多結晶構造に変化した領域、又は単結晶構造から非晶質構造及び多結晶構造を含む構造に変化した領域である溶融処理領域であることを特徴とする請求項5記載のレーザ加工方法。
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