以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて説明する。本実施形態に係るレーザ加工方法及びレーザ加工装置は、多光子吸収により改質領域を形成している。多光子吸収はレーザ光の強度を非常に大きくした場合に発生する現象である。まず、多光子吸収について簡単に説明する。
材料の吸収のバンドギャップEGよりも光子のエネルギーhνが小さいと光学的に透明となる。よって、材料に吸収が生じる条件はhν>EGである。しかし、光学的に透明でも、レーザ光の強度を非常に大きくするとnhν>EGの条件(n=2,3,4,・・・である)で材料に吸収が生じる。この現象を多光子吸収という。パルス波の場合、レーザ光の強度はレーザ光の集光点のピークパワー密度(W/cm2)で決まり、例えばピークパワー密度が1×108(W/cm2)以上の条件で多光子吸収が生じる。ピークパワー密度は、(集光点におけるレーザ光の1パルス当たりのエネルギー)÷(レーザ光のビームスポット断面積×パルス幅)により求められる。また、連続波の場合、レーザ光の強度はレーザ光の集光点の電界強度(W/cm2)で決まる。
このような多光子吸収を利用する本実施形態に係るレーザ加工の原理について図1〜図6を用いて説明する。図1はレーザ加工中の加工対象物1の平面図であり、図2は図1に示す加工対象物1のII−II線に沿った断面図であり、図3はレーザ加工後の加工対象物1の平面図であり、図4は図3に示す加工対象物1のIV−IV線に沿った断面図であり、図5は図3に示す加工対象物1のV−V線に沿った断面図であり、図6は切断された加工対象物1の平面図である。
図1及び図2に示すように、加工対象物1の表面3には切断予定ライン5がある。切断予定ライン5は直線状に延びた仮想線である。本実施形態に係るレーザ加工は、多光子吸収が生じる条件で加工対象物1の内部に集光点Pを合わせてレーザ光Lを加工対象物1に照射して改質領域7を形成する。なお、集光点とはレーザ光Lが集光した箇所のことである。
レーザ光Lを切断予定ライン5に沿って(すなわち矢印A方向に沿って)相対的に移動させることにより、集光点Pを切断予定ライン5に沿って移動させる。これにより、図3〜図5に示すように改質領域7が切断予定ライン5に沿って加工対象物1の内部にのみ形成される。本実施形態に係るレーザ加工方法は、加工対象物1がレーザ光Lを吸収することにより加工対象物1を発熱させて改質領域7を形成するのではない。加工対象物1にレーザ光Lを透過させ加工対象物1の内部に多光子吸収を発生させて改質領域7を形成している。よって、加工対象物1の表面3ではレーザ光Lがほとんど吸収されないので、加工対象物1の表面3が溶融することはない。
加工対象物1の切断において、切断する箇所に起点があると加工対象物1はその起点から割れるので、図6に示すように比較的小さな力で加工対象物1を切断することができる。よって、加工対象物1の表面3に不必要な割れを発生させることなく加工対象物1の切断が可能となる。
なお、改質領域を起点とした加工対象物の切断は、次の二通りが考えられる。一つは、改質領域形成後、加工対象物に人為的な力が印加されることにより、改質領域を起点として加工対象物が割れ、加工対象物が切断される場合である。これは、例えば加工対象物の厚みが大きい場合の切断である。人為的な力が印加されるとは、例えば、加工対象物の切断予定ラインに沿って加工対象物に曲げ応力やせん断応力を加えたり、加工対象物に温度差を与えることにより熱応力を発生させたりすることである。他の一つは、改質領域を形成することにより、改質領域を起点として加工対象物の断面方向(厚さ方向)に向かって自然に割れ、結果的に加工対象物が切断される場合である。これは、例えば加工対象物の厚みが小さい場合、改質領域が1つでも可能であり、加工対象物の厚みが大きい場合、厚さ方向に複数の改質領域を形成することで可能となる。なお、この自然に割れる場合も、切断する箇所において、改質領域が形成されていない部分上の表面まで割れが先走ることがなく、改質部を形成した部分上の表面のみを割断することができるので、割断を制御よくすることができる。近年、シリコンウェハ等の半導体ウェハの厚みは薄くなる傾向にあるので、このような制御性のよい割断方法は大変有効である。
さて、本実施形態において多光子吸収により形成される改質領域として、次の(1)〜(3)がある。
(1)改質領域が一つ又は複数のクラックを含むクラック領域の場合
レーザ光を加工対象物(例えばガラスやLiTaO3からなる圧電材料)の内部に集光点を合わせて、集光点における電界強度が1×108(W/cm2)以上でかつパルス幅が1μs以下の条件で照射する。このパルス幅の大きさは、多光子吸収を生じさせつつ加工対象物表面に余計なダメージを与えずに、加工対象物の内部にのみクラック領域を形成できる条件である。これにより、加工対象物の内部には多光子吸収による光学的損傷という現象が発生する。この光学的損傷により加工対象物の内部に熱ひずみが誘起され、これにより加工対象物の内部にクラック領域が形成される。電界強度の上限値としては、例えば1×1012(W/cm2)である。パルス幅は例えば1ns〜200nsが好ましい。なお、多光子吸収によるクラック領域の形成は、例えば、第45回レーザ熱加工研究会論文集(1998年.12月)の第23頁〜第28頁の「固体レーザー高調波によるガラス基板の内部マーキング」に記載されている。
本発明者は、電界強度とクラックの大きさとの関係を実験により求めた。実験条件は次ぎの通りである。
(A)加工対象物:パイレックス(登録商標)ガラス(厚さ700μm)
(B)レーザ
光源:半導体レーザ励起Nd:YAGレーザ
波長:1064nm
レーザ光スポット断面積:3.14×10−8cm2
発振形態:Qスイッチパルス
繰り返し周波数:100kHz
パルス幅:30ns
出力:出力<1mJ/パルス
レーザ光品質:TEM00
偏光特性:直線偏光
(C)集光用レンズ
レーザ光波長に対する透過率:60パーセント
(D)加工対象物が載置される載置台の移動速度:100mm/秒
なお、レーザ光品質がTEM00とは、集光性が高くレーザ光の波長程度まで集光可能を意味する。
図7は上記実験の結果を示すグラフである。横軸はピークパワー密度であり、レーザ光がパルスレーザ光なので電界強度はピークパワー密度で表される。縦軸は1パルスのレーザ光により加工対象物の内部に形成されたクラック部分(クラックスポット)の大きさを示している。クラックスポットが集まりクラック領域となる。クラックスポットの大きさは、クラックスポットの形状のうち最大の長さとなる部分の大きさである。グラフ中の黒丸で示すデータは集光用レンズ(C)の倍率が100倍、開口数(NA)が0.80の場合である。一方、グラフ中の白丸で示すデータは集光用レンズ(C)の倍率が50倍、開口数(NA)が0.55の場合である。ピークパワー密度が1011(W/cm2)程度から加工対象物の内部にクラックスポットが発生し、ピークパワー密度が大きくなるに従いクラックスポットも大きくなることが分かる。
次に、本実施形態に係るレーザ加工において、クラック領域形成による加工対象物の切断のメカニズムについて図8〜図11を用いて説明する。図8に示すように、多光子吸収が生じる条件で加工対象物1の内部に集光点Pを合わせてレーザ光Lを加工対象物1に照射して切断予定ラインに沿って内部にクラック領域9を形成する。クラック領域9は一つ又は複数のクラックを含む領域である。図9に示すようにクラック領域9を起点としてクラックがさらに成長し、図10に示すようにクラックが加工対象物1の表面3と裏面21に到達し、図11に示すように加工対象物1が割れることにより加工対象物1が切断される。加工対象物の表面と裏面に到達するクラックは自然に成長する場合もあるし、加工対象物に力が印加されることにより成長する場合もある。
(2)改質領域が溶融処理領域の場合
レーザ光を加工対象物(例えばシリコンのような半導体材料)の内部に集光点を合わせて、集光点における電界強度が1×108(W/cm2)以上でかつパルス幅が1μs以下の条件で照射する。これにより加工対象物の内部は多光子吸収によって局所的に加熱される。この加熱により加工対象物の内部に溶融処理領域が形成される。溶融処理領域とは一旦溶融後再固化した領域、溶融状態中の領域及び溶融から再固化する状態中の領域のうち少なくともいずれか一つを意味する。また、溶融処理領域は相変化した領域や結晶構造が変化した領域ということもできる。また、溶融処理領域とは単結晶構造、非晶質構造、多結晶構造において、ある構造が別の構造に変化した領域ということもできる。つまり、例えば、単結晶構造から非晶質構造に変化した領域、単結晶構造から多結晶構造に変化した領域、単結晶構造から非晶質構造及び多結晶構造を含む構造に変化した領域を意味する。加工対象物がシリコン単結晶構造の場合、溶融処理領域は例えば非晶質シリコン構造である。なお、電界強度の上限値としては、例えば1×1012(W/cm2)である。パルス幅は例えば1ns〜200nsが好ましい。
本発明者は、シリコンウェハの内部で溶融処理領域が形成されることを実験により確認した。実験条件は次ぎの通りである。
(A)加工対象物:シリコンウェハ(厚さ350μm、外径4インチ)
(B)レーザ
光源:半導体レーザ励起Nd:YAGレーザ
波長:1064nm
レーザ光スポット断面積:3.14×10−8cm2
発振形態:Qスイッチパルス
繰り返し周波数:100kHz
パルス幅:30ns
出力:20μJ/パルス
レーザ光品質:TEM00
偏光特性:直線偏光
(C)集光用レンズ
倍率:50倍
NA:0.55
レーザ光波長に対する透過率:60パーセント
(D)加工対象物が載置される載置台の移動速度:100mm/秒
図12は上記条件でのレーザ加工により切断されたシリコンウェハの一部における断面の写真を表した図である。シリコンウェハ11の内部に溶融処理領域13が形成されている。なお、上記条件により形成された溶融処理領域の厚さ方向の大きさは100μm程度である。
溶融処理領域13が多光子吸収により形成されたことを説明する。図13は、レーザ光の波長とシリコン基板の内部の透過率との関係を示すグラフである。ただし、シリコン基板の表面側と裏面側それぞれの反射成分を除去し、内部のみの透過率を示している。シリコン基板の厚みtが50μm、100μm、200μm、500μm、1000μmの各々について上記関係を示した。
例えば、Nd:YAGレーザの波長である1064nmにおいて、シリコン基板の厚みが500μm以下の場合、シリコン基板の内部ではレーザ光が80%以上透過することが分かる。図12に示すシリコンウェハ11の厚さは350μmであるので、多光子吸収による溶融処理領域はシリコンウェハの中心付近、つまり表面から175μmの部分に形成される。この場合の透過率は、厚さ200μmのシリコンウェハを参考にすると、90%以上なので、レーザ光がシリコンウェハ11の内部で吸収されるのは僅かであり、ほとんどが透過する。このことは、シリコンウェハ11の内部でレーザ光が吸収されて、溶融処理領域がシリコンウェハ11の内部に形成(つまりレーザ光による通常の加熱で溶融処理領域が形成)されたものではなく、溶融処理領域が多光子吸収により形成されたことを意味する。多光子吸収による溶融処理領域の形成は、例えば、溶接学会全国大会講演概要第66集(2000年4月)の第72頁〜第73頁の「ピコ秒パルスレーザによるシリコンの加工特性評価」に記載されている。
なお、シリコンウェハは、溶融処理領域を起点として断面方向に向かって割れを発生させ、その割れがシリコンウェハの表面と裏面に到達することにより、結果的に切断される。シリコンウェハの表面と裏面に到達するこの割れは自然に成長する場合もあるし、加工対象物に力が印加されることにより成長する場合もある。なお、溶融処理領域からシリコンウェハの表面と裏面に割れが自然に成長するのは、一旦溶融後再固化した状態となった領域から割れが成長する場合、溶融状態の領域から割れが成長する場合及び溶融から再固化する状態の領域から割れが成長する場合のうち少なくともいずれか一つである。いずれの場合も切断後の切断面は図12に示すように内部にのみ溶融処理領域が形成される。加工対象物の内部に溶融処理領域を形成する場合、割断時、切断予定ラインから外れた不必要な割れが生じにくいので、割断制御が容易となる。
(3)改質領域が屈折率変化領域の場合
レーザ光を加工対象物(例えばガラス)の内部に集光点を合わせて、集光点における電界強度が1×108(W/cm2)以上でかつパルス幅が1ns以下の条件で照射する。パルス幅を極めて短くして、多光子吸収を加工対象物の内部に起こさせると、多光子吸収によるエネルギーが熱エネルギーに転化せずに、加工対象物の内部にはイオン価数変化、結晶化又は分極配向等の永続的な構造変化が誘起されて屈折率変化領域が形成される。電界強度の上限値としては、例えば1×1012(W/cm2)である。パルス幅は例えば1ns以下が好ましく、1ps以下がさらに好ましい。多光子吸収による屈折率変化領域の形成は、例えば、第42回レーザ熱加工研究会論文集(1997年.11月)の第105頁〜第111頁の「フェムト秒レーザー照射によるガラス内部への光誘起構造形成」に記載されている。
以上のように本実施形態によれば、改質領域を多光子吸収により形成している。そして、本実施形態は、パルスレーザ光のパワーの大きさや集光用レンズを含む光学系の開口数の大きさを調節することにより、改質スポットの寸法を制御している。改質スポットとは、パルスレーザ光の1パルスのショット(つまり1パルスのレーザ照射)で形成される改質部分であり、改質スポットが集まることにより改質領域となる。改質スポットの寸法制御の必要性についてクラックスポットを例に説明する。
クラックスポットが大きすぎると、切断予定ラインに沿った加工対象物の切断の精度が下がり、また、切断面の平坦性が悪くなる。これについて図14〜図19を用いて説明する。図14は本実施形態に係るレーザ加工方法を用いてクラックスポットを比較的大きく形成した場合の加工対象物1の平面図である。図15は図14の切断予定ライン5上のXV−XVに沿って切断した断面図である。図16、図17、図18はそれぞれ図14の切断予定ライン5と直交するXVI−XVI、XVII−XVII、XVIII−XVIIIに沿って切断した断面図である。これらの図から分かるように、クラックスポット90が大きすぎると、クラックスポット90の大きさのばらつきも大きくなる。よって、図19に示すように切断予定ライン5に沿った加工対象物1の切断の精度が悪くなる。また、加工対象物1の切断面43の凹凸が大きくなるので切断面43の平坦性が悪くなる。これに対して、図20に示すように、本実施形態に係るレーザ加工方法を用いてクラックスポット90を比較的小さく(例えば20μm以下)形成すると、クラックスポット90を均一に形成できかつクラックスポット90の切断予定ラインの方向からずれた方向の広がりを抑制できる。よって、図21に示すように切断予定ライン5に沿った加工対象物1の切断の精度や切断面43の平坦性を向上させることができる。
このようにクラックスポットが大きすぎると、切断予定ラインに沿った精密な切断や平坦な切断面が得られる切断をすることができない。但し、厚みが大きい加工対象物に対してクラックスポットが極度に小さすぎると加工対象物の切断が困難となる。
本実施形態によればクラックスポットの寸法を制御できることについて説明する。図7に示すように、ピークパワー密度が同じ場合、集光用レンズの倍率100、NA0.8の場合のクラックスポットの大きさは、集光用レンズの倍率50、NA0.55の場合のクラックスポットの大きさよりも小さくなる。ピークパワー密度は、先程説明したようにレーザ光の1パルス当たりのエネルギー、つまりパルスレーザ光のパワーと比例するので、ピークパワー密度が同じとはレーザ光のパワーが同じであることを意味する。このように、レーザ光のパワーが同じでかつビームスポット断面積が同じ場合、集光用レンズの開口数が大きく(小さく)なるとクラックスポットの寸法を小さく(大きく)制御できる。
また、集光用レンズの開口数が同じでも、レーザ光のパワー(ピークパワー密度)を小さくするとクラックスポットの寸法を小さく制御でき、レーザ光のパワーを大きくするとクラックスポットの寸法を大きく制御できる。
よって、図7に示すグラフから分かるように、集光用レンズの開口数を大きくすることやレーザ光のパワーを小さくすることによりクラックスポットの寸法を小さく制御できる。逆に、集光用レンズの開口数を小さくすることやレーザ光のパワーを大きくすることによりクラックスポットの寸法を大きく制御できる。
クラックスポットの寸法制御について、図面を用いてさらに説明する。図22に示す例は、所定の開口数の集光用レンズを用いてパルスレーザ光Lが内部に集光されている加工対象物1の断面図である。領域41は、このレーザ照射により多光子吸収を起こさせるしきい値以上の電界強度になった領域である。図23は、このレーザ光Lの照射による多光子吸収が原因で形成されたクラックスポット90の断面図である。一方、図24に示す例は、図22に示す例より大きい開口数の集光用レンズを用いてパルスレーザ光Lが内部に集光されている加工対象物1の断面図である。図25は、このレーザ光Lの照射による多光子吸収が原因で形成されたクラックスポット90の断面図である。クラックスポット90の高さhは領域41の加工対象物1の厚さ方向における寸法に依存し、クラックスポット90の幅wは領域41の加工対象物1の厚さ方向と直交する方向の寸法に依存する。つまり、領域41のこれらの寸法を小さくするとクラックスポット90の高さhや幅wを小さくでき、これらの寸法を大きくするとクラックスポット90の高さhや幅wを大きくできる。図23と図25を比較すれば明らかなように、レーザ光のパワーが同じ場合、集光用レンズの開口数を大きく(小さく)することにより、クラックスポット90の高さhや幅wの寸法を小さく(大きく)制御できる。
さらに、図26に示す例は、図22に示す例より小さいパワーのパルスレーザ光Lが内部に集光されている加工対象物1の断面図である。図26に示す例ではレーザ光のパワーを小さくしているので領域41の面積は図22に示す領域41よりも小さくなる。図27は、このレーザ光Lの照射による多光子吸収が原因で形成されたクラックスポット90の断面図である。図23と図27の比較から明らかなように、集光用レンズの開口数が同じ場合、レーザ光のパワーを小さく(大きく)するとクラックスポット90の高さhや幅wの寸法を小さく(大きく)制御できる。
さらに、図28に示す例は、図24に示す例より小さいパワーのパルスレーザ光Lが内部に集光されている加工対象物1の断面図である。図29は、このレーザ光Lの照射による多光子吸収が原因で形成されたクラックスポット90の断面図である。図23と図29の比較から分かるように、集光用レンズの開口数を大きく(小さく)しかつレーザ光のパワーを小さく(大きく)すると、クラックスポット90の高さhや幅wの寸法を小さく(大きく)制御できる。
ところで、クラックスポットの形成可能な電界強度のしきい値以上の電界強度となっている領域を示す領域41が集光点P及びその付近に限定されている理由は以下の通りである。本実施形態は、高ビーム品質のレーザ光源を利用しているため、レーザ光の集光性が高くかつレーザ光の波長程度まで集光可能となる。このため、このレーザ光のビームプロファイルはガウシアン分布となるので、電界強度はビームの中心が最も強く、中心から距離が大きくなるに従って強度が低下していくような分布となる。このレーザ光が実際に集光用レンズによって集光されていく過程においても基本的にはガウシアン分布の状態で集光されていく。よって、領域41は集光点P及びその付近に限定される。
以上のように本実施形態によればクラックスポットの寸法を制御できる。クラックスポットの寸法は、精密な切断の程度の要求、切断面における平坦性の程度の要求、加工対象物の厚みの大きさを考慮して決める。また、クラックスポットの寸法は加工対象物の材質を考慮して決定することもできる。本実施形態によれば、改質スポットの寸法を制御できるので、厚みが比較的小さい加工対象物については改質スポットを小さくすることにより、切断予定ラインに沿って精密に切断ができ、かつ、切断面の平坦性がよい切断をすることが可能となる。また、改質スポットを大きくすることにより、厚みが比較的大きい加工対象物でも切断が可能となる。
また、例えば加工対象物の結晶方位が原因により、加工対象物に切断が容易な方向と切断が困難な方向とがある場合がある。このような加工対象物の切断において、例えば図20及び図21に示すように、切断が容易な方向に形成するクラックスポット90の寸法を小さくする。一方、図21及び図30に示すように、切断予定ライン5と直交する切断予定ラインの方向が切断困難な方向の場合、この方向に形成するクラックスポット90の寸法を大きくする。これにより、切断が容易な方向では平坦な切断面を得ることができ、また切断が困難な方向でも切断が可能となる。
改質スポットの寸法の制御ができることについて、クラックスポットの場合で説明したが、溶融処理スポットや屈折率変化スポットでも同様のことが言える。パルスレーザ光のパワーは例えば1パルス当たりのエネルギー(J)で表すこともできるし、1パルス当たりのエネルギーにレーザ光の周波数を乗じた値である平均出力(W)で表すこともできる。
次に、本実施形態の具体例を説明する。
[第1例]
本実施形態の第1例に係るレーザ加工装置について説明する。図31はこのレーザ加工装置400の概略構成図である。レーザ加工装置400は、レーザ光Lを発生するレーザ光源101と、レーザ光Lのパワーやパルス幅等を調節するためにレーザ光源101を制御するレーザ光源制御部102と、レーザ光源101から出射されたレーザ光Lのパワーを調節するパワー調節部401と、を備える。
パワー調節部401は、例えば、複数のND(neutral density)フィルタと、各NDフィルタをレーザ光Lの光軸に対して垂直な位置に移動させたりレーザ光Lの光路外に移動させたりする機構と、を備える。NDフィルタは、エネルギーの相対分光分布を変えることなく光の強さを減らすフィルタである。複数のNDフィルタはそれぞれ減光率が異なる。パワー調節部401は、複数のNDフィルタの何れか又はこれらを組み合わせることにより、レーザ光源101から出射されたレーザ光Lのパワーを調節する。なお、複数のNDフィルタの減光率を同じとし、パワー調節部401がレーザ光Lの光軸に対して垂直な位置に移動させるNDフィルタの個数を変えることにより、レーザ光源101から出射されたレーザ光Lのパワーを調節することもできる。
なお、パワー調節部401は、直線偏光のレーザ光Lの光軸に対して垂直に配置された偏光フィルタと、偏光フィルタをレーザ光Lの光軸を中心に所望の角度だけ回転させる機構と、を備えたものでもよい。パワー調節部401において光軸を中心に所望の角度だけ偏光フィルタを回転させることにより、レーザ光源101から出射されたレーザ光Lのパワーを調節する。
なお、レーザ光源101の励起用半導体レーザの駆動電流を駆動電流制御手段の一例であるレーザ光源制御部102で制御することにより、レーザ光源101から出射されるレーザ光Lのパワーを調節することもできる。よって、レーザ光Lのパワーは、パワー調節部401及びレーザ光源制御部102の少なくともいずれか一方により調節することができる。レーザ光源制御部102によるレーザ光Lのパワーの調節だけで改質領域の寸法を所望値にできるのであればパワー調節部401は不要である。以上説明したパワーの調節は、レーザ加工装置の操作者が後で説明する全体制御部127にキーボード等を用いてパワーの大きさを入力することによりなされる。
レーザ加工装置400はさらに、パワー調節部401でパワーが調節されたレーザ光Lが入射しかつレーザ光Lの光軸の向きを90°変えるように配置されたダイクロイックミラー103と、ダイクロイックミラー103で反射されたレーザ光Lを集光する集光用レンズを複数含むレンズ選択機構403と、レンズ選択機構403を制御するレンズ選択機構制御部405と、を備える。
レンズ選択機構403は集光用レンズ105a、105b、105cと、これらを支持する支持板407と、を備える。集光用レンズ105aを含む光学系の開口数、集光用レンズ105bを含む光学系の開口数、集光用レンズ105cを含む光学系の開口数はそれぞれ異なる。レンズ選択機構403は、レンズ選択機構制御部405からの信号に基づいて支持板407を回転させることにより、集光用レンズ105a、105b、105cの中から所望の集光用レンズをレーザ光Lの光軸上に配置させる。すなわち、レンズ選択機構403はレボルバー式である。
なお、レンズ選択機構403に取付けられる集光用レンズの数は3個に限定されず、それ以外の数でもよい。レーザ加工装置の操作者が後で説明する全体制御部127にキーボード等を用いて開口数の大きさ又は集光用レンズ105a、105b、105cのうちどれかを選択する指示を入力することにより、集光用レンズの選択、つまり開口数の選択がなされる。
レーザ加工装置400はさらに、集光用レンズ105a〜105cのうちレーザ光Lの光軸上に配置された集光用レンズで集光されたレーザ光Lが照射される加工対象物1が載置される載置台107と、載置台107をX軸方向に移動させるためのX軸ステージ109と、載置台107をX軸方向に直交するY軸方向に移動させるためのY軸ステージ111と、載置台107をX軸及びY軸方向に直交するZ軸方向に移動させるためのZ軸ステージ113と、これら三つのステージ109,111,113の移動を制御するステージ制御部115と、を備える。
Z軸方向は加工対象物1の表面3と直交する方向なので、加工対象物1に入射するレーザ光Lの焦点深度の方向となる。よって、Z軸ステージ113をZ軸方向に移動させることにより、加工対象物1の内部にレーザ光Lの集光点Pを合わせることができる。また、この集光点PのX(Y)軸方向の移動は、加工対象物1をX(Y)軸ステージ109(111)によりX(Y)軸方向に移動させることにより行う。X(Y)軸ステージ109(111)が移動手段の一例となる。
レーザ光源101はパルスレーザ光を発生するNd:YAGレーザである。レーザ光源101に用いることができるレーザとして、この他、Nd:YVO4レーザやNd:YLFレーザやチタンサファイアレーザがある。クラック領域や溶融処理領域を形成する場合、Nd:YAGレーザ、Nd:YVO4レーザ、Nd:YLFレーザを用いるのが好適である。屈折率変化領域を形成する場合、チタンサファイアレーザを用いるのが好適である。
第1例では加工対象物1の加工にパルスレーザ光を用いているが、多光子吸収を起こさせることができるなら連続波レーザ光でもよい。集光用レンズ105a〜105cは集光手段の一例である。Z軸ステージ113はレーザ光の集光点を加工対象物の内部に合わせる手段の一例である。集光用レンズ105a〜105cをZ軸方向に移動させることによっても、レーザ光の集光点を加工対象物の内部に合わせることができる。
レーザ加工装置400はさらに、載置台107に載置された加工対象物1を可視光線により照明するために可視光線を発生する観察用光源117と、ダイクロイックミラー103及び集光用レンズ105と同じ光軸上に配置された可視光用のビームスプリッタ119と、を備える。ビームスプリッタ119と集光用レンズ105との間にダイクロイックミラー103が配置されている。ビームスプリッタ119は、可視光線の約半分を反射し残りの半分を透過する機能を有しかつ可視光線の光軸の向きを90°変えるように配置されている。観察用光源117から発生した可視光線はビームスプリッタ119で約半分が反射され、この反射された可視光線がダイクロイックミラー103及び集光用レンズ105を透過し、加工対象物1の切断予定ライン5等を含む表面3を照明する。
レーザ加工装置400はさらに、ビームスプリッタ119、ダイクロイックミラー103及び集光用レンズ105と同じ光軸上に配置された撮像素子121及び結像レンズ123を備える。撮像素子121としては例えばCCD(charge-coupled device)カメラがある。切断予定ライン5等を含む表面3を照明した可視光線の反射光は、集光用レンズ105、ダイクロイックミラー103、ビームスプリッタ119を透過し、結像レンズ123で結像されて撮像素子121で撮像され、撮像データとなる。
レーザ加工装置400はさらに、撮像素子121から出力された撮像データが入力される撮像データ処理部125と、レーザ加工装置400全体を制御する全体制御部127と、モニタ129と、を備える。撮像データ処理部125は、撮像データを基にして観察用光源117で発生した可視光の焦点が表面3上に合わせるための焦点データを演算する。この焦点データを基にしてステージ制御部115がZ軸ステージ113を移動制御することにより、可視光の焦点が表面3に合うようにする。よって、撮像データ処理部125はオートフォーカスユニットとして機能する。また、撮像データ処理部125は、撮像データを基にして表面3の拡大画像等の画像データを演算する。この画像データは全体制御部127に送られ、全体制御部で各種処理がなされ、モニタ129に送られる。これにより、モニタ129に拡大画像等が表示される。
全体制御部127には、ステージ制御部115からのデータ、撮像データ処理部125からの画像データ等が入力し、これらのデータも基にしてレーザ光源制御部102、観察用光源117及びステージ制御部115を制御することにより、レーザ加工装置400全体を制御する。よって、全体制御部127はコンピュータユニットとして機能する。また、全体制御部127はパワー調節部401と電気的に接続されている。図31はこの図示を省略している。全体制御部127にパワーの大きさが入力されることにより、全体制御部127はパワー調節部401を制御し、これによりパワーが調節される。
図32は全体制御部127の一例の一部分を示すブロック図である。全体制御部127は、寸法選択部411、相関関係記憶部413及び画像作成部415を備える。寸法選択部411にはレーザ加工装置の操作者がキーボード等により、パルスレーザ光のパワーの大きさや集光用レンズを含む光学系の開口数の大きさが入力される。この例においては、開口数の大きさを直接入力する代わりに集光用レンズ105a、105b、105cのいずれかを選択する入力にしてもよい。この場合、全体制御部127に集光用レンズ105a、105b、105c、それぞれの開口数を予め登録しておき、選択された集光用レンズを含む光学系の開口数のデータが自動的に寸法選択部411に入力される。
相関関係記憶部413には、パルスレーザ光のパワーの大きさ及び開口数の大きさの組と改質スポットの寸法との相関関係が予め記憶されている。図33は、この相関関係を示すテーブルの一例である。この例では、開口数の欄には集光用レンズ105a、105b、105cの各々について、それらを含む光学系の開口数が登録される。パワーの欄にはパワー調節部401により調節されるパルスレーザ光のパワーの大きさが登録される。寸法の欄には、対応する組のパワーと開口数との組み合わせにより形成される改質スポットの寸法が登録される。例えば、パワーが1.24×1011(W/cm2)で、開口数が0.55のときに形成される改質スポットの寸法は120μmである。この相関関係のデータは、例えば、レーザ加工前に図22〜図29で説明した実験をすることにより得ることができる。
寸法選択部411にパワーの大きさ及び開口数の大きさが入力されることにより、寸法選択部411は相関関係記憶部413からこれらの大きさと同じ値の組を選択し、その組に対応する寸法のデータをモニタ129に送る。これにより、モニタ129には入力されたパワーの大きさ及び開口数の大きさのもとで形成される改質スポットの寸法が表示される。これらの大きさと同じ値の組がない場合は、最も近い値の組に対応する寸法データがモニタ129に送られる。
寸法選択部411で選択された組に対応する寸法のデータは、寸法選択部411から画像作成部415に送られる。画像作成部415は、この寸法のデータを基にしてこの寸法の改質スポットの画像データを作成し、モニタ129に送る。これにより、モニタ129には改質スポットの画像も表示される。よって、レーザ加工前に改質スポットの寸法や改質スポットの形状を知ることができる。
パワーの大きさを固定し、開口数の大きさを可変とすることもできる。この場合のテーブルは図34に示すようになる。例えば、パワーを1.49×1011(W/cm2)と固定し開口数が0.55のときに形成される改質スポットの寸法は150μmである。また、開口数の大きさを固定し、パワーの大きさを可変とすることもできる。この場合のテーブルは図35に示すようになる。例えば、開口数を0.8と固定しパワーが1.19×1011(W/cm2)のときに形成される改質スポットの寸法は30μmである。
次に、図31及び図36を用いて、本実施形態の第1例に係るレーザ加工方法を説明する。図36は、このレーザ加工方法を説明するためのフローチャートである。加工対象物1はシリコンウェハである。
まず、加工対象物1の光吸収特性を図示しない分光光度計等により測定する。この測定結果に基づいて、加工対象物1に対して透明な波長又は吸収の少ない波長のレーザ光Lを発生するレーザ光源101を選定する(S101)。次に、加工対象物1の厚さを測定する。厚さの測定結果及び加工対象物1の屈折率を基にして、加工対象物1のZ軸方向の移動量を決定する(S103)。これは、レーザ光Lの集光点Pが加工対象物1の内部に位置させるために、加工対象物1の表面3に位置するレーザ光Lの集光点を基準とした加工対象物1のZ軸方向の移動量である。この移動量を全体制御部127に入力される。
加工対象物1をレーザ加工装置400の載置台107に載置する。そして、観察用光源117から可視光を発生させて加工対象物1を照明する(S105)。照明された切断予定ライン5を含む加工対象物1の表面3を撮像素子121により撮像する。この撮像データは撮像データ処理部125に送られる。この撮像データに基づいて撮像データ処理部125は観察用光源117の可視光の焦点が表面3に位置するような焦点データを演算する(S107)。
この焦点データはステージ制御部115に送られる。ステージ制御部115は、この焦点データを基にしてZ軸ステージ113をZ軸方向の移動させる(S109)。これにより、観察用光源117の可視光の焦点が表面3に位置する。なお、撮像データ処理部125は撮像データに基づいて、切断予定ライン5を含む加工対象物1の表面3の拡大画像データを演算する。この拡大画像データは全体制御部127を介してモニタ129に送られ、これによりモニタ129に切断予定ライン5付近の拡大画像が表示される。
全体制御部127には予めステップS103で決定された移動量データが入力されており、この移動量データがステージ制御部115に送られる。ステージ制御部115はこの移動量データに基づいて、レーザ光Lの集光点Pが加工対象物1の内部となる位置に、Z軸ステージ113により加工対象物1をZ軸方向に移動させる(S111)。
次に、上記で説明したようにパワー及び開口数の大きさを全体制御部127に入力する。入力されたパワーのデータに基づいて、レーザ光Lのパワーはパワー調節部401により調節される。入力された開口数のデータに基づいて、開口数はレンズ選択機構制御部405を介してレンズ選択機構403が集光用レンズを選択することにより調節される。また、これらのデータは全体制御部127の寸法選択部411(図32)に入力される。これにより、1パルスのレーザ光Lの照射により加工対象物1の内部に形成される溶融処理スポットの寸法及び溶融処理スポットの形状がモニタ129に表示される(S112)。
次に、レーザ光源101からレーザ光Lを発生させて、レーザ光Lを加工対象物1の表面3の切断予定ライン5に照射する。レーザ光Lの集光点Pは加工対象物1の内部に位置しているので、溶融処理領域は加工対象物1の内部にのみ形成される。そして、切断予定ライン5に沿うようにX軸ステージ109やY軸ステージ111を移動させて、溶融処理領域を切断予定ライン5に沿うように加工対象物1の内部に形成する(S113)。そして、加工対象物1を切断予定ライン5に沿って曲げることにより、加工対象物1を切断する(S115)。これにより、加工対象物1をシリコンチップに分割する。
第1例の効果を説明する。これによれば、多光子吸収を起こさせる条件でかつ加工対象物1の内部に集光点Pを合わせて、パルスレーザ光Lを切断予定ライン5に照射している。そして、X軸ステージ109やY軸ステージ111を移動させることにより、集光点Pを切断予定ライン5に沿って移動させている。これにより、改質領域(例えばクラック領域、溶融処理領域、屈折率変化領域)を切断予定ライン5に沿うように加工対象物1の内部に形成している。加工対象物の切断する箇所に何らかの起点があると、加工対象物を比較的小さな力で割って切断することができる。よって、改質領域を起点として切断予定ライン5に沿って加工対象物1を割ることにより、比較的小さな力で加工対象物1を切断することができる。これにより、加工対象物1の表面3に切断予定ライン5から外れた不必要な割れを発生させることなく加工対象物1を切断することができる。
また、第1例によれば、加工対象物1に多光子吸収を起こさせる条件でかつ加工対象物1の内部に集光点Pを合わせて、パルスレーザ光Lを切断予定ライン5に照射している。よって、パルスレーザ光Lは加工対象物1を透過し、加工対象物1の表面3ではパルスレーザ光Lがほとんど吸収されないので、改質領域形成が原因で表面3が溶融等のダメージを受けることはない。
以上説明したように第1例によれば、加工対象物1の表面3に切断予定ライン5から外れた不必要な割れや溶融が生じることなく、加工対象物1を切断することができる。よって、加工対象物1が例えば半導体ウェハの場合、半導体チップに切断予定ラインから外れた不必要な割れや溶融が生じることなく、半導体チップを半導体ウェハから切り出すことができる。表面に電極パターンが形成されている加工対象物や、圧電素子ウェハや液晶等の表示装置が形成されたガラス基板のように表面に電子デバイスが形成されている加工対象物についても同様である。よって、第1例によれば、加工対象物を切断することにより作製される製品(例えば半導体チップ、圧電デバイスチップ、液晶等の表示装置)の歩留まりを向上させることができる。
また、第1例によれば、加工対象物1の表面3の切断予定ライン5は溶融しないので、切断予定ライン5の幅(この幅は、例えば半導体ウェハの場合、半導体チップとなる領域同士の間隔である。)を小さくできる。これにより、一枚の加工対象物1から作製される製品の数が増え、製品の生産性を向上させることができる。
また、第1例によれば、加工対象物1の切断加工にレーザ光を用いるので、ダイヤモンドカッタを用いたダイシングよりも複雑な加工が可能となる。例えば、図37に示すように切断予定ライン5が複雑な形状であっても、第1例によれば切断加工が可能となる。これらの効果は後に説明する例でも同様である。
[第2例]
次に、本実施形態の第2例について第1例との相違を中心に説明する。図38はこのレーザ加工装置500の概略構成図である。レーザ加工装置500の構成要素のうち、図31に示す第1例に係るレーザ加工装置400の構成要素と同一要素については同一符号を付すことによりその説明を省略する。
レーザ加工装置500は、パワー調節部401とダイクロイックミラー103との間のレーザ光Lの光軸上にビームエキスパンダ501が配置されている。ビームエキスパンダ501は倍率可変であり、ビームエキスパンダ501によりレーザ光Lのビーム径が大きくなるように調節される。ビームエキスパンダ501は開口数調節手段の一例である。また、レーザ加工装置500はレンズ選択機構403の代わりに1つの集光用レンズ105を備える。
レーザ加工装置500の動作が第1例のレーザ加工装置の動作と異なる点は、全体制御部127に入力された開口数の大きさに基づく開口数の調節である。以下、これについて説明する。全体制御部127はビームエキスパンダ501と電気的に接続されている。図38はこの図示を省略している。全体制御部127に開口数の大きさが入力されることにより、全体制御部127はビームエキスパンダ501の倍率を変える制御をする。これにより、集光用レンズ105に入射するレーザ光Lのビーム径の拡大率を調節する。よって、集光用レンズ105が1つであっても、集光用レンズ105を含む光学系の開口数を大きくする調節が可能となる。これを図39及び図40を用いて説明する。
図39は、ビームエキスパンダ501が配置されていない場合の集光用レンズ105によるレーザ光Lの集光を示す図である。一方、図40は、ビームエキスパンダ501が配置されている場合の集光用レンズ105によるレーザ光Lの集光を示す図である。図39及び図40を比較すれば分かるように、ビームエキスパンダ501が配置されていない場合の集光用レンズ105を含む光学系の開口数を基準にすると、第2例では開口数が大きくなるように調節することができる。
[第3例]
次に、本実施形態の第3例についてこれまでの例との相違を中心に説明する。図41はこのレーザ加工装置600の概略構成図である。レーザ加工装置600の構成要素のうち、これまでの例に係るレーザ加工装置の構成要素と同一要素については同一符号を付すことによりその説明を省略する。
レーザ加工装置600は、ビームエキスパンダ501の代わりに、ダイクロイックミラー103と集光用レンズ105との間のレーザ光Lの光軸上に虹彩絞り601が配置されている。虹彩絞り601の開口の大きさを変えることにより集光用レンズ105の有効径を調節する。虹彩絞り601は開口数調節手段の一例である。また、レーザ加工装置600は虹彩絞り601の開口の大きさを変える制御をする虹彩絞り制御部603を備える。虹彩絞り制御部603は全体制御部127により制御される。
レーザ加工装置600の動作がこれまでの例のレーザ加工装置の動作と異なる点は、全体制御部127に入力された開口数の大きさに基づく開口数の調節である。レーザ加工装置600は入力された開口数の大きさに基づいて虹彩絞り601の開口の大きさを変えることにより、集光用レンズ105の有効径の縮小する調節をする。これにより、集光用レンズ105が1つであっても、集光用レンズ105を含む光学系の開口数を小さくなるように調節することができる。これを図42及び図43を用いて説明する。
図42は、虹彩絞りが配置されていない場合の集光用レンズ105によるレーザ光Lの集光を示す図である。一方、図43は、虹彩絞り601が配置されている場合の集光用レンズ105によるレーザ光Lの集光を示す図である。図42及び図43を比較すれば分かるように、虹彩絞りが配置されていない場合の集光用レンズ105を含む光学系の開口数を基準にすると、第3例では開口数が小さくなるように調節することができる。
次に、本実施形態の変形例を説明する。図44は本実施形態のレーザ加工装置の変形例に備えられる全体制御部127のブロック図である。全体制御部127はパワー選択部417及び相関関係記憶部413を備える。相関関係記憶部413には、図35に示す相関関係のデータが予め記憶されている。レーザ加工装置の操作者はキーボード等によりパワー選択部417に改質スポットの所望の寸法を入力する。改質スポットの寸法は、加工対象物の厚さや材質等を考慮して決定される。この入力により、パワー選択部417は相関関係記憶部413からこの寸法と同じ値の寸法に対応するパワーを選択し、そのパワーのデータをパワー調節部401に送る。よって、このパワーの大きさに調節されたレーザ加工装置でレーザ加工することにより、所望の寸法の改質スポットを形成することが可能となる。このパワーの大きさのデータはモニタ129にも送られ、パワーの大きさが表示される。この例では開口数が固定でパワーが可変となる。なお、入力された寸法と同じ値の寸法が相関関係記憶部413に記憶されていない場合、最も近い値の寸法に対応するパワーのデータがパワー調節部401及びモニタ129に送られる。これは以下に説明する変形例でも同様である。
図45は本実施形態のレーザ加工装置の他の変形例に備えられる全体制御部127のブロック図である。全体制御部127は開口数選択部419及び相関関係記憶部413を備える。図44の変形例と異なる点は、パワーではなく開口数が選択されることである。相関関係記憶部413には、図34に示すデータが予め記憶されている。レーザ加工装置の操作者はキーボード等により開口数選択部419に改質スポットの所望の寸法を入力する。これにより、開口数選択部419は、相関関係記憶部413からこの寸法と同じ値の寸法に対応する開口数を選択し、その開口数のデータをレンズ選択機構制御部405、ビームエキスパンダ501又は虹彩絞り制御部603に送る。よって、この開口数の大きさに調節されたレーザ加工装置でレーザ加工することにより、所望の寸法の改質スポットを形成することが可能となる。この開口数の大きさのデータはモニタ129にも送られ、開口数の大きさが表示される。この例ではパワーが固定で開口数が可変となる。
図46は本実施形態のレーザ加工装置のさらに他の変形例に備えられる全体制御部127のブロック図である。全体制御部127は組選択部421及び相関関係記憶部413を備える。図44及び図45の例と異なる点は、パワー及び開口数の両方が選択されることである。相関関係記憶部413には、図33のパワー及び開口数の組と寸法との相関関係のデータが予め記憶されている。レーザ加工装置の操作者はキーボード等により組選択部421に改質スポットの所望の寸法を入力する。これにより、組選択部421は、相関関係記憶部413からこの寸法と同じ値の寸法に対応するパワー及び開口数の組を選択する。選択された組のパワーのデータはパワー調節部401に送られる。一方、選択された組の開口数のデータはレンズ選択機構制御部405、ビームエキスパンダ501又は虹彩絞り制御部603に送られる。よって、この組のパワー及び開口数の大きさに調節されたレーザ加工装置でレーザ加工することにより、所望の寸法の改質スポットを形成することが可能となる。この組のパワー及び開口数の大きさのデータはモニタ129にも送られ、パワー及び開口数の大きさが表示される。
これらの変形例によれば、改質スポットの寸法を制御することができる。よって、改質スポットの寸法を小さくすることにより、加工対象物の切断予定ラインに沿って精密に切断でき、また平坦な切断面を得ることができる。加工対象物の厚みが大きい場合、改質スポットの寸法を大きくすることにより、加工対象物の切断が可能となる。