JP2006211924A - 新規微生物及びこの微生物を利用するワックスの製法 - Google Patents

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寿浩 永尾
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Abstract

【課題】 所望の炭素数を有する脂肪酸及びアルコールにて構成される脂肪酸モノエステルでなるワックス又はワックス混合物を製造する。
【解決手段】 所望の炭素数よりも2多い炭素数の脂肪酸のトリグリセリド、ジグリセリド及びモノグリセリド、遊離脂肪酸、遊離脂肪酸のエステル及びこれらの混合物でなる群から選ばれる油脂の存在下において、アエロモナス・ハイドロフィラ(Aeromonas hydrophila)TN-006株を培養する。
【選択図】 なし

Description

本発明は、新規な微生物、詳しくは、アエロモナス・ハイドロフィラ(Aeromonas hydrophila)の新規な菌株、及びこの微生物を利用する、油脂(本明細書において、「油脂」とは、脂肪酸のトリグリセリド、ジグリセリド、モノグリセリド、遊離脂肪酸、遊離脂肪酸のエステルの単体もしくは混合物を意味する)からワックス(本明細書において、「ワックス」とは、脂肪酸とアルコールとのモノエステルを意味する)又はワックス混合物を製造する方法に関する。
さらに詳述すれば、本発明は、油脂を資化して、ワックス又はワックス混合物を生産する能力を有するだけでなく、生産されるワックスを構成する脂肪酸及び/又はアルコールの炭素数を、原料の油脂を構成する脂肪酸の炭素数よりも偶数個減少させたものとする特異な活性を有するアエロモナス・ハイドロフィラの新菌株に関し、さらに、この新菌株を使用して、油脂から、この油脂を構成する脂肪酸と比べて、炭素数が偶数個減少された脂肪酸及びアルコールから構成されるワックス又はワックス混合物を製造する方法に関する。
ワックスは、潤滑油、インク、ろうそく、塗装剤、化粧品など幅広い用途に用いられている。以前は、鯨由来のワックスも利用されていたが、今日では、植物由来のワックス(例えば、ホホバ、米糠、カルナウバなど)が用いられている。しかし、これらのホホバ、米糠、カルナウバ等のワックスは天然由来であるため、ワックスを構成する脂肪酸及びアルコールの組成は、その生産植物に左右され、植物に固有のものとなる。従って、天然界ではあまり見出されない、例えば、炭素数16を有し、かつ、二重結合1個を有する脂肪酸(以後、このような脂肪酸を、「C16:1 FFA」と表示する)と、炭素数16を有し、かつ、二重結合1個を有するアルコール(以後、このようなアルコールを、「C16:1 OH」と表示する)とで構成されるワックスが望まれる場合にも、自然界からの入手は困難である。
従来から、このようなワックスを容易に製造することが可能な手段の開発が望まれており、かかる手段の1つとして、微生物反応の利用がある。
アシネトバクター(Acinetobacter)属の細菌は、石油系炭化水素である中鎖〜極長鎖(C11〜C44)のn-アルカンを資化して、細胞内にワックスを蓄積することが見出されている(非特許文献1及び2)。
しかし、これら非特許文献によれば、このような微生物は、生物的環境修復(バイオメディエーション)の観点から研究されているものであり、炭化水素で自然界が汚染されたとき(具体的には、例えば、原油タンカーの海難事故によって、積荷の原油が流出して、海洋汚染が生じた場合等)、これを修復する目的で開発された微生物であり、ワックスの生産を目的としたものではない。
また、n-パラフィンを資化する微生物を、不飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸トリグリセリドを含有する培地で培養することからなる不飽和ワックスの製法も知られている(特許文献1及び2)。
これらの製法で利用される微生物は、アシネトバクター属、アクロモバクター(Achromobacter)属、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属、サッカロミセス(Saccharomyces)属、ノカルディア(Nocardia)属、アースロバクター(Arthrobacter)属、マイコバクテリウム(Mycobacterium)属、プソイドモナス(Pseudomonas)属、ミクロコッカス(Micrococcus)属、カンジダ(Candida)属、ロドトルラ(Rhodotorula)属、ピキア(Pichia)属、サッカロマイコプシス(Saccharomycopsis)属の微生物である。
Y. Sakai et. al, Biosci. Biotech. Biochem., 58, 2128-2130, (1994) T. Ishige et. al, Appl. Environ. Microbiol., 68, 1192-1195, (2002) 特開昭63−28396号公報 特開昭63−28397号公報
炭素数16を有し、かつ、二重結合1個を有するパルミトオレイン酸は、人間の皮膚にも多く含まれており、乳幼児から青年期にかけて増加し、老齢化に従って漸減する脂肪酸である(C16:1 FFA)。この脂肪酸は、脳内血管に入り込むことができる数少ない脂肪酸の一つとして知られており、脳内血管を活性化させ、脳卒中・痴呆を予防すると言われている。このパルミトオレイン酸は、動物界では、マッコウ鯨油中に16.7質量%、天然鮎油中に16.3質量%の割合で含まれていることが知られているが、鯨は捕鯨禁止の点から、その供給を期待できないし、また、天然鮎も供給源が限られている。
また、植物界では、パルミトオレイン酸は、マカデミアナッツ油中に約21.8質量%の割合で含まれており、現時点では、これが唯一の利用可能なパルミトオレイン酸の供給源である。マカデミアナッツ油は健康食品として販売されているが、パルミトオレイン酸含量が21.8質量%以上の油は存在しない。
一方、炭素数16を有し、かつ、二重結合1個を有するアルコール(C16:1 OH)は、マッコウ鯨から抽出されるワックス中に8.2質量%の割合で含まれていることは知られているが、これ以外は知られていない。
そこで、例えば、植物油などに豊富に存在する、炭素数18を有し、かつ、二重結合1個を有するオレイン酸(C18:1 FFA)のグリセリドを原料として、これを加水分解し、得られた脂肪酸の炭素鎖長を2減少させることが可能であれば、C16:1 FFA及びC16:1 OHを、それぞれ、天然界から得られる油よりも高含量で製造することが期待される。残念ながら、このような技術は、未だ開発されていない。
本発明の目的は、微生物を利用して油脂からワックス又はワックス混合物を製造する技術、さらに詳述すれば、原料の油脂を構成する脂肪酸の炭素数から偶数個減少された炭素数を有する脂肪酸及び/又はアルコールから構成される脂肪酸モノエステルを富有するワックス又はワックス混合物を製造する技術を提供することにある。
発明者らは、上述の目的を達成するため鋭意研究を行った結果、新たに自然界から単離した微生物が、油脂を資化して、ワックスを生産する能力を有すると共に、生産されるワックスを構成する脂肪酸及び/又はアルコールの炭素数を、原料として使用された油脂を構成する脂肪酸の炭素数よりも偶数個少ないものとする特異な活性を有するものであることを見出した。本発明は、このような知見に基づいて完成に至ったものである。
本発明によれば、新たに見出された微生物は上記の特異な活性を有するものであり、この微生物を利用して油脂からワックス又はワックス混合物を製造する場合、原料として使用する油脂を適宜選択することによって、所望の炭素数を有する脂肪酸とアルコールとから構成されるワックス、例えば、炭素数16を有し、かつ、二重結合1個を有する脂肪酸とアルコールとから構成されるワックス、炭素数16を有し、かつ、二重結合2個を有する脂肪酸とアルコールとから構成されるワックス、炭素数20を有し、かつ、二重結合1個を有する脂肪酸とアルコールとから構成されるワックス、及びその他、天然界ではあまり見出されない各種の脂肪酸とアルコールとから構成されるワックスを製造することができる。
より具体的には、脂肪酸組成として、炭素数18を有し、かつ、二重結合1個を有するオレイン酸(C18:1 FFA)を豊富に含む油脂を原料とする際には、炭素数16を有し、かつ、二重結合1個を有する脂肪酸(C16:1 FFA)とアルコール(C16:1 OH)とを主成分とする(それぞれ、天然界から得られる油よりも高含量で)ワックス混合物を;炭素数18を有し、かつ、二重結合2個を有するリノール酸(C18:2 FFA)を豊富に含む油脂を原料とする際には、炭素数16を有し、かつ、二重結合2個の脂肪酸(C16:2 FFA)とアルコール(C16:2 OH)とを主成分とする(それぞれ、天然界から得られる油よりも高含量で)ワックス混合物;炭素数18を有し、かつ、二重結合3個を有するリノレン酸(C18:3 FFA)を豊富に含む油脂を原料とする際には、炭素数16を有し、かつ、二重結合3個の脂肪酸(C16:3 FFA)とアルコール(C16:3 OH)とを主成分とする(それぞれ、天然界から得られる油よりも高含量で)ワックス混合物;及び炭素数22を有し、かつ、二重結合1個を有するエルカ酸(C22:1 FFA)を含む油脂を原料とする際には、炭素数20を有し、かつ、二重結合1個の脂肪酸(C20:1 FFA)とアルコール(C20:1 OH)とを主成分とする(それぞれ、天然界から得られる油よりも高含量で含有される)ワックス混合物を、それぞれ、製造できる。
新規な微生物の単離及び同定
(i)植物油をワックスに変換する微生物の検索
日本各地(60箇所)から採取した土壌0.5gを、滅菌した生理食塩水5mlに懸濁し、さらに、滅菌した生理食塩水にて100倍に希釈した。この希釈液0.1mlを、一次スクリーニング用培地(1%紅花油、0.5%硫酸アンモニウム、0.1% KH2PO4、0.05% MgSO4・7H2O、0.5%胆汁末、1.5%寒天、pH7.0)に塗布し、27℃において2日間培養した。この一次スクリーニング用培地は、油が乳化されて濁った培地である。生育した微生物が油を分解する活性を持っていたとき、濁りがなくなって透明な領域ハローを形成する。
生育した微生物のうち、コロニーの周りにハローを形成した微生物500株を選択し、二次スクリーニング用培地(N.B.液体培地:1%鰹肉エキス、2%ポリペプトン、0.1% NaCl、pH7.0)1mlに植菌し、27℃において振盪培養した。2日後、紅花油50mgを添加し、さらに、27℃において3日間振盪培養した。
培養液に、クロロホルム/メタノール(容量比=2:1)混合物2mlを添加し、激しく撹拌した後、遠心分離によってクロロホルム/メタノール層を回収した。これを、薄層クロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン/酢酸エチル/酢酸(容量比=90/10/1)混合物)で分析した。その結果、5株の微生物(便宜的に、TN-006、-015、-144、-308及び-344と表示する)がワックスを生産していることが分かった。
(ii)5株の微生物が生産するワックスの分析
各微生物をN.B.液体培地(組成については、上記段落[0019]に記載)5mlに植菌し、27℃において振盪培養した。振盪培養を1日間行った後、紅花油250mgを添加し、さらに、27℃において3日間振盪培養した。培養液(5ml)に、濃塩酸0.2ml、水5ml及びクロロホルム/メタノール(容量比=2/1)混合物10mlを添加し、激しく撹拌した後、遠心分離によってクロロホルム/メタノール混合物層(有機溶媒層1)と水層とに分離した。水層にヘキサン20mlを添加し、激しく撹拌した後、遠心分離によってヘキサン層(有機溶媒層2)と水層とに分離した。さらに、水層を、ヘキサンによって再度抽出処理し、ヘキサン層(有機溶媒層3)を回収した。有機溶媒層1、2及び3を合わせ、濾紙で不溶性物質を除去した後、エバポレーターで有機溶媒を除去した。得られた油分をヘキサン12mlに溶解した後、トリカプロインを内部標準とするガスクロマトグラフィー(GC)にてワックスを分析した。GCの分析条件は、次のとおりある。
GCの分析条件
ガスクロマトグラフィー:島津GC18-A
カラム:DB-1ht(0.25mm×5m,J&W Scientific)
検出器:FID(370℃)
注入口温度:370℃
昇温条件:120℃, 0.5分;120〜280℃, 15℃/分;280〜370℃, 10℃/分;370℃, 3分
使用した紅花油の脂肪酸組成は、C16:0 FFA 6.70質量%;C18:0 FFA 2.58質量%;C18:1 FFA 13.70質量%;C18:2 FFA 76.73質量%である。
得られたGCの分析結果を表1に示す。
表1
培養液1ml当たりに換算したワックスの量(mg)

ワックス 菌 株
TN-006 -015 -144 -308 -344
C36-WAX 1.80 1.08 1.51 3.70 2.55
C34-WAX 2.30 1.68 0.74 1.51 1.51
C32-WAX 1.32 0.90 0.32 0.39 0.75
C30-WAX 0.42 0.28 0.07 0.05 0.10
C28-WAX 0.07 0.06 0 0 0
合計 5.91 4.00 2.64 5.65 4.92
上記の表1において、「C36-WAX」は、炭素数36のワックスを表し、主として、炭素数18の脂肪酸と炭素数18のアルコールとのモノエステル体である。「C34-WAX」は、炭素数34のワックスを表し、主として、炭素数18の脂肪酸と炭素数16のアルコールとのモノエステル体、炭素数16の脂肪酸と炭素数18のアルコールとのモノエステル体の混合物である。「C32-WAX」は、炭素数32のワックスを表し、炭素数16の脂肪酸と炭素数16のアルコールとのモノエステル体、炭素数18の脂肪酸と炭素数14のアルコールとのモノエステル体、炭素数14の脂肪酸と炭素数18のアルコールとのモノエステル体など、複数の組合せが考えられる混合物である。「C30-WAX」及び「C28-WAX」も、上記「C32-WAX」と同様に、それぞれ、複数の組合せの炭素数30又は28のワックスである。
5株の微生物のワックス生産量を比較したところ、TN-006株とTN-308株の生産量が多かった。TN-006株では、全WAXにおけるC36-WAXの比率が31%であり、TN-308株では、全WAXにおけるC36-WAXの比率が65%である。微生物の培養時に添加した油の主成分の脂肪酸の炭素鎖長は18個であることから、TN-006株は、菌体内に、鎖長を短くしたワックスを蓄積しやすく、TN-308株は、それらを蓄積しにくいことが分かった。
(iii)植物油をワックスに変換する微生物の同定
植物油をワックスに変換するTN-006株の同定を行ったところ、次の結果を得た。
この微生物は、コロニー形態が円形・全縁滑らか・低凸状・光沢あり・淡黄色であり、グラム染色陰性、桿菌(0.6〜0.7×1.2〜1.5μm)、無芽胞、運動性あり、カタラーゼ・オキシダーゼ反応陽性、ブドウ糖発酵陽性の細菌であり、アエロモナス属に帰属する菌種の性状に一致した。また、16S rRNAの塩基配列(配列番号:1)は、公知のアエロモナス・ハイドロフィラ(Aeromonas hydrophila)塩基配列(データベース:MicroSeq Bacterial 500 Library v. 0023, Applied Biosystems)と100%の相同性があったことから、本菌株はアエロモナス・ハイドロフィラに帰属するものと決定した。
配列番号:1
この菌株は、アエロモナス・ハイドロフィラの公知の菌株とは、油脂を資化して、ワックスを生産する能力を有し、しかも、生産されるワックスを構成する脂肪酸及び/又はアルコールの炭素数を、原料の油脂を構成する脂肪酸の炭素数よりも偶数個減少させたものとするとの特性を有している点で相違するため、新規な菌株であると決定した。
この新規な菌株については、2005年1月5日付けで、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに寄託している(受託番号:NITE P-60)。
次に、本発明によるアエロモナス・ハイドロフィラ属の新菌株TN-006を使用するワックスの製法の態様について述べる。
本発明に従って、原料として使用できる油脂は、脂肪酸のトリグリセリド、ジグリセリド、モノグリセリド、遊離脂肪酸、遊離脂肪酸のエステルの単体もしくは混合物である。
具体的には、使用できる油脂の1つとして、主成分として脂肪酸トリグリセリドを含有し、副成分として、脂肪酸モノグリセリド、脂肪酸ジグリセリド、脂肪酸エステル(メチルエステル、エチルエステル等)を含有すると共に、他に、少量の遊離脂肪酸、ステロールエステル、糖脂質、リン脂質、高級アルコール等を含有する、いわゆる脂肪油があり、植物、動物、魚、微生物、及び合成由来のものを使用でき、その起源は制限されない。
使用できる脂肪油としては、特に、脂肪酸組成において、パルミチン酸、ステアリン酸の如き飽和脂肪酸及び/又はオレイン酸、エルカ酸、リノール酸、リノレン酸等の如き不飽和脂肪酸を豊富に含有する植物油、例えば、亜麻仁油、大豆油、紅花油、ヒマワリ油、綿実油、コーン油、ゴマ油、菜種油、糠油、オリーブ油、落花生油、からし油等が好適である。
本発明の微生物を利用して油脂からワックス又はワックス混合物を生産する方法は、特に制限されないが、一般的には、微生物の培養液に原料を添加した後、さらに培養を継続して、微生物の菌体内にワックス又はワックス混合物を生産、蓄積させる方法が有用である。
微生物の培養法は、微生物が成育する条件であれば特に制限がなく、液体培養、寒天平板培養、固体培養などを用いることができる(好ましくは、液体培養)。培養条件も特に制限はなく、好気的条件又は嫌気的条件のいずれでもよく(好ましくは、好気的条件)、また、振盪培養、静置培養、通気攪拌培養などのいずれの方法でもよい(好ましくは、振盪培養又は通気攪拌培養)。さらに、回分培養、連続培養、流加培養など、いずれの形態でもよい。
微生物を培養するための培地は、例えば、N.B.培地、標準培地、SCDブイヨン培地、LB培地、YPD培地等を、単独で又は組み合わせて使用することが可能であり、また、これらの培地組成を適宜改変した培地を使用してもよい。また、寒天で固めた平板培地や、工業的に微生物培養に用いられている廃糖蜜やコーンスティープリカーなどを含む培地が使用される。
一般的には、N.B.培地、SCDブイヨン培地、LB培地、YPD培地が良好に使用され、好ましくは、N.B.培地、SCDブイヨン培地、LB培地が使用され、特に好ましくはN.B.培地が使用される(実施例2参照)。
培地のpHは、微生物が成育すれば、いかなる値でもよいが、好ましくはpH4〜11、さらに好ましくはpH6〜8である。
培養温度は、微生物が成育する条件であれば、いずれの温度でもよく、一般的に、0〜80℃、好ましくは5〜50℃、さらに好ましくは15〜40℃である。特に好ましくは、25〜30℃が好適である(実施例3参照)
原料である油脂は、培養菌体に対して、各種の方法で添加され、特に制限されるものではないが、一般的には、液体培養の培養液に直接原料を添加する方法、寒天平板培地の調製に際し、培地の固化前に添加し、分散させておく方法、洗浄菌体に添加する方法、菌体をカラムなどに不動化した後、油脂又は遊離脂肪酸を含む培養液を連続的に通過させる方法などを用いることができる。これらの方法のうち、液体培養液に直接原料を添加する方法が好適である。
原料の添加時期は、微生物を植菌する時、微生物の対数増殖期、静止期等いずれの時期でもよく、好ましくは、雑菌汚染を避ける目的から、微生物の静止期(例えば、培養開始から6〜100時間後)に添加するのがよい。原料の油脂は、一度に全量が添加されてもよく、あるいは、少量ずつ逐次的に添加されてもよい。
原料添加後の培養は、静置培養、振盪培養、あるいは攪拌下での培養のいずれの手段によっても行われるが、原料の油脂として使用する植物油等又は遊離脂肪酸が油溶性物質であり、水性の培養液中では分離するため、振盪培養又は攪拌下での培養を行うことが好ましく、ワックス生産の効率が向上する。
振盪培養を行う時の振盪速度は、いずれでもよいが、好ましくは、10〜1000往復/分、より好ましくは、100〜500往復/分であり、攪拌培養の撹拌速度は、10〜1000rpm、好ましくは100〜500rpmである。
培地中における油脂の分散性を高めるため、各種の界面活性剤、リン脂質、モノグリセリド、ポリグリセリン脂肪酸エステル、BSAなどの乳化剤を使用することができる。
原料添加後の培養時間は、特に規定されないが、一般的には、0.5〜240時間、好ましくは3〜144時間、より好ましくは18〜96時間である。
培養後におけるワックスの回収手段は、特に規定されるものではない。菌体内に蓄積されたにワックスは、有機溶媒(例えば、クロロホルム、クロロホルム/メタノール混合物、アセトン、酢酸エチル、ヘキサン、エーテルなど)、細胞壁溶解酵素(例えば、リゾチームなど)、フレンチプレス、ダイノミル、超音波、超臨界抽出などの方法(単独又は組み合わせ)にて菌体を破砕した後、各種の手段を介して回収される。
得られた粗製ワックスは、目的とするワックス以外にも、遊離脂肪酸、トリグリセリド、モノグリセリド、ジグリセリドなどの夾雑物質を含む。ワックスを精製するためには、いずれの方法を採用してもよいが、一般的には、蒸留法、カラムクロマトグラフィー、溶媒分画法などの方法を単独又は組み合わせて利用できる。
原料油脂として植物油を使用する場合に、構成する脂肪酸によって、様々な組成のワックスが生成する。本発明の微生物を使用した場合、炭素数がCOOH末端側から偶数個減少した脂肪酸又はアルコールのモノエステルを含むワックスが生産される。
例えば、オレイン酸を豊富に含む油脂を原料として使用した際には、炭素数16を有し、かつ、二重結合1個を有する脂肪酸(C16:1 FFA:シス-7-ヘキサデセン酸)及びアルコール(C16:1 OH:シス-7-ヘキサデセノール)を主成分とし(例えば、C16:1 FFA含量23〜37質量%及びC16:1 OH含量29〜52質量%)、この他に、炭素数18を有し、かつ、二重結合1個を有する脂肪酸(C18:1 FFA)及びアルコール(C18:1 OH)、炭素数14を有し、かつ、二重結合1個を有する脂肪酸(C14:1 FFA)及びアルコール(C14:1 OH)、炭素数12を有し、かつ、二重結合1個を有する脂肪酸(C12:1 FFA)及びアルコール(C12:1 OH)などで構成されるワックス混合物が生産される。
同様に、リノール酸を豊富に含む油脂を使用した場合には、炭素数18を有し、かつ、二重結合2個を有する脂肪酸(C18:2 FFA)及びアルコール(C18:2 OH)、炭素数16を有し、かつ、二重結合2個を有する脂肪酸(C16:2 FFA)及びアルコール(C16:2 OH)、炭素数14を有し、かつ、二重結合2個を有する脂肪酸(C14:2 FFA)及びアルコール(C14:2 OH)、炭素数12を有し、かつ、二重結合2個を有する脂肪酸(C12:2 FFA)及びアルコール(C14:2 OH)などで構成されるワックス混合物が生産される。
さらに、リノレン酸を豊富に含む油脂を使用した場合には、炭素数18を有し、かつ、二重結合3個を有する脂肪酸(C18:3 FFA)及びアルコール(C18:3 OH)、炭素数16を有し、かつ、二重結合3個を有する脂肪酸(C16:3 FFA)及びアルコール(C16:3 OH)、炭素数14を有し、かつ、二重結合3個を有する脂肪酸(C14:3 FFA)及びアルコール(C14:3 OH)、炭素数12を有し、かつ、二重結合3個を有する脂肪酸(C12:3 FFA)及びアルコール(C12:3 OH)などで構成されるワックス混合物が生産される。
また、エルカ酸を豊富に含む原料油脂を使用した場合には、炭素数22を有し、かつ、二重結合1個を有する脂肪酸(C22:1 FFA)及びアルコール(C22:1 OH)、炭素数20を有し、かつ、二重結合1個を有する脂肪酸(C20:1 FFA)及びアルコール(C20:1 OH)、炭素数18を有し、かつ、二重結合1個を有する脂肪酸(C18:1 FFA)及びアルコール(C18:1 OH)、炭素数16を有し、かつ、二重結合1個を有する脂肪酸(C16:1 FFA)及びアルコール(C16:1 OH)などで構成されるワックス混合物が生産される。
本発明のアエロモナス・ハイドロフィラの新菌株によるオレイン酸、リノール酸、リノレン酸及びエルカ酸の変換スキームは、それぞれ、下記のとおりである。
スキーム1(オレイン酸の変換)
Figure 2006211924
スキーム2(リノール酸の変換)
Figure 2006211924
スキーム3(リノレン酸の変換)
Figure 2006211924
スキーム4(エルカ酸の変換)
Figure 2006211924
また、オレイン酸トリグリセリド、エルカ酸トリグリセリドを原料油脂として使用した際に、本発明のアエロモナス・ハイドロフィラによって生産されるワックスの構造例を、それぞれ、スキーム5及び6に示す。
スキーム5(オレイン酸トリグリセリドから生産されるワックスの構造)
Figure 2006211924
スキーム6(エルカ酸トリグリセリドから生産されるワックスの構造)
Figure 2006211924
本発明によるアエロモナス・ハイドロフィラによる、例えば、植物油からワックスの生産過程は、下記のように考えられる:すなわち、当該微生物は、リパーゼ等により植物油を加水分解して、脂肪酸を生成する。この脂肪酸をβ酸化し、COOH末端から炭素原子2個が切り出された結果、炭素数が2減少した脂肪酸を生成する。この炭素数が2減少した脂肪酸から、カルボキシル基のアルデヒド基への還元、アルデヒド基の水酸基への還元を介して、脂肪族アルコールを生成する。これらの脂肪酸及び脂肪族アルコールからワックス(脂肪酸モノエステル)を生成する。
複数の脂肪酸で構成される原料油脂を使用した場合には、様々な種類の脂肪酸とアルコールと構成されたワックス混合物が生産される。
脂肪酸組成においてオレイン酸を豊富に含む油脂は、オレイン酸を豊富に(例えば、40質量%以上)含むものであれば、いかなる起源の油脂でもよいが、菜種油、オリーブ油、ハイオレイックヒマワリ油などが挙げられる。同様に、リノール酸を豊富に(例えば、40質量%以上)、リノレン酸を豊富に(例えば、40質量%以上)、又はエルカ酸を豊富に(例えば、10質量%以上)含む油脂は、それぞれ、当該脂肪酸を豊富に含む油脂であれば、いずれの起源の油脂でもよい。例えば、リノール酸を富有する植物油としては、大豆油、紅花油、ヒマワリ油、綿実油等があり、リノレン酸を富有する植物油としては、亜麻仁油等があり、エルカ酸を富有する植物油としては、菜種油及びからし油等がある。
本発明による微生物を使用した油脂を原料とするワックスの製造について、具体例を参照して、さらに詳述する
ワックス生産に及ぼす培地の種類の影響
本発明のアエロモナス・ハイドロフィラ TN-006株を、下記に示す組成を有する各種の培地5mlに植菌し、27℃において振盪培養した。1日後、紅花油250mgを添加し、さらに27℃において3日間振盪培養した。培養培地に濃塩酸0.2ml、水5ml及びクロロホルム/メタノール混合物(容量比=2:1)10mlを添加し、激しく撹拌した後、遠心分離によってクロロホルム/メタノール混合物層(有機溶媒層1)と水層とに分離した。水層にヘキサン20mlを添加し、激しく撹拌した後、遠心分離によってヘキサン層(有機溶媒層2)と水層とに分離した。さらに、水層を、ヘキサンによって再度抽出処理し、ヘキサン層(有機溶媒層3)を回収した。有機溶媒層1、2及び3を合わせ、濾紙で不溶性物質を除去した後、エバポレーターで有機溶媒を除去した。得られた油分をヘキサン12mlに溶解した後、トリカプロインを内部標準とするガスクロマトグラフィー(GC)にてワックスを分析した。
使用した培地の組成
(1)N.B.培地:1%鰹肉エキス、2%ポリペプトン、0.1% NaCl、pH7.0
(2)標準培地:0.25%酵母エキス、0.5%ポリペプトン、0.1%グルコース、pH7.0
(3)SCDブイヨン培地:1.7%バクト-トリプトン、0.3%ソイペプトン、0.25%グルコース、0.25%リン酸2カリウム、0.5% NaCl、pH7.0
(4)LB培地:1%バクト-トリプトン、0.5%バクト-酵母エキス、1% NaCl、pH7.0
(5)YPD培地:1%酵母エキス、2%ポリペプトン、2%グルコース、pH5.8
(6)無機塩培地:0.5% (NH4)2SO4、0.5% K2HPO4、0.1% NaCl、0.02% MgSO4・7H2O、pH7.0
結果を表2に示す。
表2

培 地 培養時間(h) ワックス(mg)
N.B.培地 24 1.43
48 2.14
72 4.76
144 3.83
標準培地 24 0.32
48 0.04
72 0.04
144 <0.01
SCD ブイヨン培地 24 2.54
48 3.63
72 3.96
144 3.93
LB培地 24 1.04
48 2.79
72 3.44
144 3.83
YPD 培地 24 0.62
48 0.63
72 2.21
144 1.83
無機塩培地 24 1.02
48 0.21
72 0.27
144 0.13
得られた結果より、N.B.培地を使用する際、本発明のアエロモナス・ハイドロフィラ TN-006株が生産するワックス量が最も多いことが理解される。
ワックス生産に及ぼす原料の影響
本発明のアエロモナス・ハイドロフィラ TN-006株を、実施例1に示す組成を有するN.B.培地5mlに植菌し、27℃において振盪培養した。1日後、原料として、紅花油、紅花油由来遊離脂肪酸、紅花油由来脂肪酸メチルエステル、紅花油由来脂肪酸エチルエステル、n-オクタデカン、シス,シス-9,12-オクタデカジエノールを添加し(各250mg)、さらに27℃において3日間振盪培養した。実施例1と同様にして菌体からワックスを抽出し、GCにてワックスの量を調べた。
結果を表3に示す。
表3

原料(油) 培養時間(h) ワックス(mg) 残存する油(mg)
紅花油 24 2.05 19.26
48 3.28 10.15
72 5.46 2.81
120 5.37 3.03
紅花油由来遊離脂肪酸 24 0.97 19.16
48 1.29 16.38
72 3.25 9.38
120 3.62 7.45
紅花油由来脂肪酸 24 1.08 26.16
メチルエステル 48 1.77 22.45
72 2.30 19.13
120 2.76 11.52
紅花油由来脂肪酸 24 0.43 23.13
エチルエステル 48 0.96 14.31
72 2.07 13.37
120 4.18 6.16
n-オクタデカン 24 ND 50.64
48 ND 49.12
72 ND 49.35
120 ND 48.10
シス,シス-9,12-オクタデカ 24 0.17 40.92
ジエノール 48 0.30 40.42
72 0.11 38.44
120 0.20 36.45
得られた結果より、n-オクタデカン及びシス,シス-9,12-オクタデカジエノールからワックスは殆ど生産されないが、紅花油(トリグリセリド)、紅花油由来遊離脂肪酸、紅花油由来脂肪酸メチルエステル、紅花油由来脂肪酸エチルエステルを原料とすると、本発明による微生物はワックスを生産することが理解される。これらの原料のうち、紅花油を使用した場合に、ワックスの生産量が最も多かった。
ワックス生産に及ぼす油脂の添加量の影響
本発明のアエロモナス・ハイドロフィラ TN-006株を、実施例1に記載の組成を有するN.B.培地5mlに植菌し、27℃において振盪培養した。1日後、培養培地に対して、油脂として紅花油を、50、100、150、250、500、750mgの量で添加し(それぞれ、1、2、3、5、10、15%(wt/vol)に相当する)、さらに、27℃において3日間振盪培養した。実施例1と同様にして菌体からワックスを抽出し、GCにてワックスの量を調べた。
結果を表4に示す。
表4

油の添加量(%, wt/vol) 培養時間(h) ワックス(mg) 残存する油(mg)
1 24 0.98 0.80
48 0.86 0.30
72 0.36 0.38
120 0.29 ・0.01
2 24 1.33 4.93
48 2.02 0.88
72 2.60 0.88
120 0.97 0.05
3 24 1.46 8.96
48 2.71 5.17
72 3.81 1.49
120 2.69 0.39
5 24 2.03 31.40
48 3.27 15.91
72 4.82 10.47
120 5.09 2.43
10 24 1.27 50.62
48 2.21 36.91
72 3.13 33.32
120 4.25 12.89
15 24 1.01 75.29
48 1.88 59.61
72 2.68 45.78
120 5.17 36.39
得られた結果より、培地中に添加する油脂(脂肪酸トリセリド)の量が多いほど、ワックスの生産量が多いが、5%より多量に添加してもワックスの生産量はあまり増えないことが理解される。
ワックス生産に及ぼす培養温度の影響
本発明のアエロモナス・ハイドロフィラ TN-006株を、実施例1に示す組成を有するN.B.培地5mlに植菌し、15、20、25、30、35、40℃において振盪培養した。1日後、培養液に対して紅花油250mgを添加し(5%(wt/vol)に相当)、さらに、それぞれ同じ温度において3日間振盪培養した。実施例1と同様にして菌体からワックスを抽出し、GCにてワックスの量を調べた。
結果を表5に示す。
表5

培養温度(℃) 培養時間(h) ワックス(mg)
15 24 1.00
48 1.30
72 1.70
144 1.01
20 24 1.59
48 1.67
72 2.76
144 2.32
25 24 1.96
48 2.77
72 4.89
144 4.16
30 24 1.94
48 3.76
72 4.52
144 4.28
35 24 1.81
48 2.18
72 1.70
144 1.64
40 24 1.32
48 1.52
72 1.90
144 1.93
得られた結果から、培養温度25〜30℃が、ワックスの生産に最適であることが理解される。
各種の植物油からのワックスの生産
本発明のアエロモナス・ハイドロフィラ TN-006株を、実施例1に示す組成を有するN.B.培地100mlを収容する坂口フラスコ(容積500ml)5個に、各フラスコ内の培地に植菌し、25℃において振盪培養した。なお、各植物油について、フラスコ5個を1セットとしてテストした。1日後、培養液に対して、植物油として、紅花油、菜種油、大豆油、綿実油、オリーブ油及び亜麻仁油を、5%(wt/vol)に相当する量で各フラスコに添加した。同時に、コントロールとして、オレイン酸を主成分とするトリグリセリド(C18:1 TAG)、リノール酸を主成分とするトリグリセリド(C18:2 TAG)、リノレン酸を主成分とするトリグリセリド(C18:3 TAG)についても、同じ条件で添加した。さらに、同じ温度において3日間振盪培養した。実施例1に記載した抽出法をスケールアップした方法を用いて菌体からワックスを抽出し、抽出された油分をシリカゲルカラム(カラム体積:40g)にて処理して、ワックスを精製した(溶出液:ヘキサン/酢酸エチル(98/2)混合物)。
常法に従って、ナトリウムメトキシドにて脂肪酸をメチルエステル化した後、GC(カラム:DB-23)によって、得られた精製ワックスにおける脂肪酸組成を分析した。
一方、精製ワックスにおけるアルコール組成については、ワックスをケン化分解した後に行った。すなわち、5N KOH 0.2ml、エタノール2.0ml、及び試料0.05mlを混合し、60℃において30分間加熱する(ケン化分解)。水2ml及びヘキサン3mlを添加し、充分に攪拌した後、ヘキサンにて2回抽出し、アルコールを含むヘキサン層を回収する。このヘキサン層についてGC(カラム:DB-1ht)にて分析した。
ガスクロマトグラフィーの条件
脂肪酸組成について
ガスクロマトグラフィー:HP5890
カラム:DB-23(0.25mm×30m、J&W Scientific)
検出器:FID(250℃)
注入口温度:245℃
昇温条件:150℃, 0.5分、150〜170℃, 4℃/分、170〜195℃, 5℃/分、195〜215℃, 10℃/分、215℃, 6分
アルコール組成について
ガスクロマトグラフィー:島津BC 18-A
カラム:DB-1ht(0.25mm×5m、J&W Scientific)
検出器:FID(370℃)
注入口温度:370℃
昇温条件:80℃, 0.5分、80〜300℃, 12℃/分
結果を表6、7、8及び9に示す。表6は、各種植物油を用いてワックスを生産した場合の粗抽出液に含まれるワックスの量(培養液1ml当たりに換算:mg)を示したものであり、表7は、シリカゲルカラムで精製した後のワックスの組成比(質量%)を示している。表8は、精製ワックスにおける脂肪酸組成(質量%)を示し、表9は、精製ワックスにおけるアルコール組成(質量%)を示す。
表6

基質油 ワックス(mg) 残存トリグリセリド(mg)
18:1 TAG 6.20 13.09
18:2 TAG 5.76 11.22
18:3 TAG 7.28 4.49
紅花油 6.58 10.27
菜種油 4.63 7.07
大豆油 4.49 6.18
綿実油 4.18 8.91
オリーブ油 6.44 18.21
亜麻仁油 5.14 6.82
表7

基質油 C36-WAX C34-WAX C32-WAX C30-WAX C28-WAX その他
18:1 TAG 13.89 34.93 29.67 13.08 3.01 5.42
18:2 TAG 33.12 41.80 20.49 3.94 0.65
18:3 TAG 51.12 37.05 9.63 2.20
紅花油 29.02 40.06 23.39 6.05 0.89 0.59
菜種油 23.38 38.76 26.04 8.72 1.65 1.46
大豆油 26.46 39.09 24.62 7.24 1.43 1.16
綿実油 23.46 37.31 26.49 9.53 2.19 1.03
オリーブ油 14.72 33.83 29.21 13.22 3.50 5.54
亜麻仁油 35.69 36.79 15.62 3.53 1.21 7.09
Figure 2006211924
Figure 2006211924
上記表8及び9に記載のデータについて、例えば、紅花油について説明すれば、紅花油を原料として生産されるワックスを構成する脂肪酸及びアルコールの組成において、脂肪酸では(表8)、紅花油の主成分を構成するC18:2 FFAが50.19質量%であり、続いて、この脂肪酸から炭素原子2個が減少して生成したと考えられるC16:2 FFAが26.30質量%を占めており、一方、アルコールに関しても(表9)、C18:2 OH 46.44質量%に続いて、C16:2 OHが29.95質量%を占めている。これらの傾向は、実施例5において使用した原料の全てにおいて観察される。これらの結果から、本発明の新菌株TN-006株が、油脂からワックス又はワックス混合物を生産する能力を有するだけでなく、生産されるワックスを構成する脂肪酸及び/又はアルコールの炭素数を、原料の油脂を構成する脂肪酸の炭素数よりも偶数個減少させたものとする特性を有することが明らかである。
植物油に含まれるオレイン酸、リノール酸及びリノレン酸から、スキーム1〜3に示すように、それぞれ、炭素数が偶数個減少した脂肪酸が生成される。オレイン酸トリグリセリド(C18:1 TAG)を原料として生産されるワックスは、スキーム1に示される構造を有する脂肪酸及びアルコールがランダムにエステル結合して得られたワックスであり、これらのワックスはスキーム5に示す主な構造を有する。また、リノール酸トリグリセリド(C18:2 TAG)を原料として生産されるワックスは、スキーム2に示される構造を有する脂肪酸及びアルコールがランダムにエステル結合して得られたワックスである。リノレン酸トリグリセリド(C18:3 TAG)又は各種の植物油を原料とした時に生産されるワックスは、複数の脂肪酸で構成されるトリグリセリドを原料としていることから、スキーム1〜3に示される構造を有する脂肪酸及びアルコール(表8に示される脂肪酸組成及び表9に示されるアルコール組成において)がランダムにエステル結合して得られたワックスである。
特に、オリーブ油を原料として使用した場合に、シス-7-ヘキサデセン酸(C16:1 FFA)34.1質量%、シス-7-ヘキサデセノール(C16:1 OH)39.7質量%を含むワックスが得られ、菜種油を原料とする場合、シス-7-ヘキサデセン酸(C16:1 FFA)23.8質量%、シス-7-ヘキサデセノール(C16:1 OH)29.9質量%を含むワックスが、それぞれ、生産される。このシス-7-ヘキサデセン酸(C16:1 FFA)の含量は、天然界から得られるマッコウ鯨油(16.7質量%)、マカデミアナッツ油(21.8質量%)よりも多く、シス-7-ヘキサデセノール(C16:1 OH)の含量は、マッコウ鯨のワックス中における8.2質量%よりも多かった。
エルカ酸トリグリセリドからのワックスの生産
本発明のアエロモナス・ハイドロフィラ TN-006株を、実施例1に示す組成を有するN.B.培地5mlを収容する試験管に植菌し、25℃において振盪培養した。1日後、エルカ酸トリグリセリド(エルカ酸含量92%)を、培養液に対して5%(質量/容量)の量で添加し、さらに、同じ温度において3日間振盪培養した。実施例1と同様にして菌体からワックスを抽出し、GCにてワックスの量を調べた。
生産されたワックスの量は、培養液1ml当たり2.13mgであり、残存する油の量は、23.8mgであった。
このワックスにおいて、炭素数44のワックス(C44-WAX)は3.7%を占め、C42-WAX8.8質量%、C40-WAX 28.9質量%、C38-WAX29.8質量%、C36-WAX は17.8質量%、炭素数34以下のワックス11.0質量%であった。
これらのワックスのうち、C42-WAX、C40-WAX、C38-WAXなどは、炭素数20及び二重結合1個を有する脂肪酸又はアルコールを含有していた。
エルカ酸トリグリセリドに含まれるエルカ酸からは、スキーム5に示すように、炭素数がそれぞれ偶数個減少した脂肪酸が生成され、これらの脂肪酸から生成されるアルコールは、スキーム4に示す構造を有する。また、菌体内に生産、蓄積されたワックスは、スキーム6に示すように、種々の分子種の混合物である。
本発明によれば、所望の炭素数を有するワックス又はワックス混合物の製造を、所望の炭素数よりも2多い炭素原子を含有する油脂の存在下において、本発明の微生物を培養することによって容易に実施することができ、また、得られたワックスの加水分解等の簡単な処理により、自然界からの入手が極めて困難な脂肪酸及び/又はアルコールを容易に製造することが可能である。

Claims (17)

  1. 油脂を資化して、ワックスを生産する能力を有するだけでなく、生産されるワックスを構成する脂肪酸及び/又はアルコールの炭素数を、原料の油脂を構成する脂肪酸の炭素数よりも偶数個減少させたものとする活性を有するアエロモナス・ハイドロフィラ(Aeromonas hydrophila)NITE P-60 菌株。
  2. 油脂が、脂肪酸トリグリセリド、脂肪酸ジグリセリド、脂肪酸モノグリセリド、遊離脂肪酸、遊離脂肪酸のエステル及びこれらの混合物でなる群から選ばれるものである請求項1記載のアエロモナス・ハイドロフィラ(Aeromonas hydrophila)NITE P-60 菌株。
  3. 油脂を原料として、この油脂を構成する脂肪酸と比べて、炭素数が偶数個減少された脂肪酸及び/又はアルコールで構成されるワックス又はワックス混合物を製造する方法であって、前記原料の油脂を含有する培地においてアエロモナス・ハイドロフィラ(Aeromonas hydrophila)NITE P-60 菌株を培養し、生産されたワックス又はワックス混合物を採取することを特徴とするワックス又はワックス混合物の製法。
  4. 油脂が、脂肪酸トリグリセリド、脂肪酸ジグリセリド、脂肪酸モノグリセリド、遊離脂肪酸、遊離脂肪酸のエステル及びこれらの混合物でなる群から選ばれるものである請求項3記載の製法。
  5. 油脂が、脂肪油又は遊離脂肪酸である請求項3又は4記載の製法。
  6. 油脂が、脂肪酸組成において、飽和脂肪酸及び/又は不飽和脂肪酸を主成分として含有するものである請求項3〜5のいずれかに記載の製法。
  7. 脂肪酸組成において、炭素数18以上を有し、かつ、二重結合1個を有する脂肪酸を40質量%以上含む油脂を原料として、前記脂肪酸の炭素数よりも偶数個少ない炭素数を有し、かつ、二重結合1個を有する脂肪酸及び/又はアルコールから構成されるワックス又はワックス混合物を製造する請求項3〜6のいずれかに記載の製法。
  8. 脂肪酸組成において、オレイン酸を40質量%以上含む油脂を原料として、炭素数16を有し、かつ、二重結合1個を有する脂肪酸及び/又はアルコールから構成されるワックス又はワックス混合物を製造する請求項7に記載の製法。
  9. オレイン酸を40質量%以上含む油脂が、菜種油又はオリーブ油である請求項8に記載の製法。
  10. 脂肪酸組成において、エルカ酸を10質量%以上含む油脂を原料として、炭素数20を有し、かつ、二重結合1個を有する脂肪酸及び/又はアルコールから構成されるワックス又はワックス混合物を製造する請求項7に記載の製法。
  11. エルカ酸を10質量%以上含む油脂が、菜種油又はからし油である請求項10に記載の製法。
  12. 脂肪酸組成において、炭素数18以上を有し、かつ、二重結合2個を有する脂肪酸を40質量%以上含む油脂を原料として、前記脂肪酸の炭素数よりも偶数個少ない炭素数を有し、かつ、二重結合2個を有する脂肪酸及び/又はアルコールから構成されるワックス又はワックス混合物を製造する請求項3〜6のいずれかに記載の製法。
  13. 脂肪酸組成において、リノール酸を40質量%以上含む油脂を原料として、炭素数16を有し、かつ、二重結合2個を有する脂肪酸及び/又はアルコールから構成されるワックス又はワックス混合物を製造する請求項12に記載の製法。
  14. リノール酸を40質量%以上含む油脂が、大豆油、紅花油、ヒマワリ油又は綿実油である請求項13に記載の製法。
  15. 脂肪酸組成において、炭素数18以上を有し、かつ、二重結合3個を有する脂肪酸を40質量%以上含む油脂を原料として、前記脂肪酸の炭素数よりも偶数個少ない炭素数を有し、かつ、二重結合3個を有する脂肪酸及び/又はアルコールから構成されるワックス又はワックス混合物を製造する請求項3〜6のいずれかに記載の製法。
  16. 脂肪酸組成において、リノレン酸を40質量%以上含む油脂を原料として、炭素数16を有し、かつ、二重結合3個を有する脂肪酸及び/又はアルコールから構成されるワックス又はワックス混合物を製造する請求項14に記載の製法。
  17. リノレン酸を40質量%以上含む油脂が亜麻仁油である請求項16に記載の製法。
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