JP2006184197A - 情報取得方法、分析方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】 細胞内容物、特に細胞内代謝物質の種類ごとに空間分解能の高い二次元分布像を得ることができる方法及び装置、細胞内代謝物質に由来する二次イオンの生成を効率よく行え、細胞内代謝物質の分布状態を高い感度で測定するための方法および装置、更には、細胞内代謝物質の分布状態を定量性よく測定するための方法及び装置を提供すること。
【解決手段】 細胞内代謝物質に関する情報を飛行時間型二次イオン質量分析法を用いて取得する取得する際に、細胞内代謝物質のイオン化を促進するための物質を用いて細胞内代謝物質のイオン化を促進して細胞内代謝物質を飛翔させる。
【選択図】 なし

Description

本発明は、細胞に関する情報取得方法、分析方法に関する。特に飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF−SIMS)を用いる細胞情報の取得方法、分析方法に関する。
近年のゲノム解析に始るシステムバイオロジーの進展により、生体内に最終産物として存在する代謝産物の解析の重要性が急速にクローズアップされてきている。
従来から、代謝産物の解析の重要性が指摘されており、その学問的領域はメタボノミクス、あるいは、メタボロミクスと呼ばれ、その解析手法の開発が進められている。これらの手法は基本的に
(1)ガスクロマトグラフィー(GC)、高速液体クロマトグラフ(HPLC)による分離精製と、
(2)放射線分析、光学的分析、質量分析等の検出系
との組み合わせにより行われてきたが、これまでの手法は、検体として、尿、細胞抽出液等の細胞外溶液として解析されてきており、実際に代謝の場となっている細胞(菌体を含む)そのものでの代謝産物の解析は行われてこなかった。それは、とりもなおさず、そのような分析、解析手段がなかったからに他ならない。
細胞内の代謝産物の解析には高感度な(表面)分析手段が必要とされるが、そのような高感度な表面分析手段として近年、飛行時間型二次イオン質量分析法(Time of Flight Secondary Ion Mass Spectrometry、以下TOF-SIMSと略す)が使われるようになってきた。TOF-SIMSとは、固体試料の最表面にどのような原子または分子が存在するかを調べるための分析方法であり、以下のような特徴を持つ。すなわち、109atoms/cm2(最表面1原子層の1/105に相当する量)の極微量成分の検出能があること、有機物、無機物のどちらにも適用できること、表面に存在するすべての元素や化合物を測定できること、試料表面に存在する物質からの二次イオンの二次元可視化(イメージング)が可能なことである。
以下、この方法の原理を簡単に説明する。
高真空中で、高速のパルスイオンビーム(一次イオン)を固体試料表面に照射すると、スパッタリング現象によって表面の構成成分が真空中に放出される。このとき発生する正または負の電荷を帯びたイオン(二次イオン)を電場によって一方向に収束し、一定距離だけ離れた位置で検出する。一次イオンをパルス状に固体表面に照射すると、試料表面の組成に応じて様々な質量をもった二次イオンが発生するが、軽いイオンほど速く、反対に重いイオンほど遅い速度で飛行するため、二次イオンが発生してから検出されるまでの時間(飛行時間)を測定することで、発生した二次イオンの質量を分析することができる。
TOF-SIM Sでは一次イオン照射量が比較的少ないため、小さな有機化合物は化学構造を保った状態でイオン化され、質量スペクトルから有機化合物の構造を知ることができる。ただし、ポリエチレンやポリエステルなどの人工高分子、プロテインなどの生体高分子などを通常の条件で TOF-SIMS分析した場合は、小さな分解フラグメントイオンとなってしまい、元の構造を知ることが一般的には難しい。代謝産物として分析される化合物はプロテインほどの大きさはないが、その質量分布は50から場合によっては2000程度にわたり、やはり、小さなフラグメントに分解してしまうことがある。
TOF-SIMSでは、固体試料が絶縁物の場合には、パルスで照射される一次イオンの間隙に電子線をパルスで照射することにより、固体表面に蓄積する正の電荷を中和できるため絶縁物を分析することも可能である。加えて、一次イオンビームを走査することによって、試料表面のイオン像(マッピング)を測定することもできる。
TOF-SIMSで生体物質を分析した例として、特定のプロテインの一部分を15Nなどでアイソトープラベル化し、当該プロテインをC15-のような二次イオンを用いてイメージング検出するもの(1A. M. Belu et al., Anal. Chem., 73, 143 (2001) )がある。また、アミノ酸残基に対応するフラグメントイオン(二次イオン)の種類やその相対強度からプロテインの種類を推定するもの(D. S. Mantus et al., Anal. Chem., 65, 1431 (1993) )がある。さらに、各種基板上に吸着させたプロテインについてのTOF-SIMS検出限界を調べたもの(M. S. Wagner el. Al., J. Biomater. Sci. Polymer Edn., 13, 40 7 (2002))が知られている。
1A. M. Belu et al., Anal. Chem., 73, 143 (2001) D. S. Mantus et al., Anal. Chem., 65, 1431 (1993) M. S. Wagner el. Al., J. Biomater. Sci. Polymer Edn., 13, 40 7 (2002)
前述のように、従来の方法は、細胞内の内容物そのものを分析するものではなく、溶出した有機化合物などを対象としているため得られる情報には制限がある。また、マトリクス支援イオン化法(Matrix-Assisted Laser Desorption Ioniz ation:以下MALDIと略す)や、その改良型である表面活性化レーザー脱着イオン化法(Surface Enhanced Laser Desorption Ionisation: 以下SELDIと略す)は、現在知られている中で最もソフトなイオン化法であり、分子量が比較的大きく壊れ易い物質をそのままイオン化し、親イオン若しくはそれに準じるイオンを検出できるという優れた特徴を有し、現在では主としてプロテインの質量を分析する際の標準的なイオン化法の一つとなっている。一方、これらの方法を細胞内容物の質量分析に応用する場合には分析対象物質のイオン化を促進するマトリクス物質が分析対象物質と三次元的に共存するするために、高い空間分解能を持った二次元分布像(質量情報を用いたイメージング)は得られ難い。すなわち、励起源であるレーザー光自体は1〜2μm径程度に容易に集光できるが、分析対象物質の周辺に存在するマトリクス物質が蒸発、イオン化するため、上記の方法で分析対象物質の二次元分布像を計測する場合の空間分解能は一般的には100μm程度となってしまう。また、集光させたレーザーを走査するには、レンズやミラーを複雑に動作させる必要がある。つまり、上記の方法でプロテインの二次元分布像を計測する場合、レーザー光を走査させることは難しく、被分析試料を載せた試料ステージを動かす方式に限られる。空間分解能の高いプロテインの二次元分布像を得ようとする場合、試料ステージを動かす方式は一般的には好ましくない。
上記の方法に比べ、TOF−SIMS法は一次イオンを使用するため容易に収束かつ走査させることができるため、高空間分解能の二次イオン像(二次元分布像)を得ることができ、1μm程度の空間分解能を得ることも可能である。しかしながら、基板上の細胞内容物に対し、通常の条件でTOF−SIMS測定を行うと、先に述べたように、生成する二次イオンは小さな分解フラグメントイオンがほとんどで、元の構造を知ることは一般的には難しい。そのため、固定細胞内の代謝物質の種類を判別できる高空間分解能の二次イオン像(二次元分布像)を得るには何らかの工夫が必要となる。A. M. Beluらの方法は特定のプロテインの一部分をアイソトープラベル化するもので、TOF−SIMSの持つ高空間分解能を十分生かせる方法である。しかしながら反面、特定の代謝物質を毎回、アイソトープラベル化するのは不可能である。
従って、細胞内に存在している特定代謝産物の存在量を、高い検出感度、ならびに高い定量性で分析し、細胞内における、代謝産物の存在量分布に関して、二次元的なイメージングを行う上では、代謝産物からの二次イオン種生成を促進、増加することが望ましい。
一方、TOF−SIMS法においては、分析対象の分子に対して、一次イオン照射によってイオン・スパッタリングを行うが、その一次イオン照射を行う表面形状によって、スパッタリング効率に差違が生じる。結果として、分析対象の分子に由来する二次イオン種の生成効率にも差違が引き起こされ、定量精度のバラツキを生む要因ともなる。従って、この一次イオン照射を行う表面形状のバラツキに起因する、二次イオン種の生成効率の変動をも抑制することが望ましい。しかしながら、従来開示されている方法には、これらの点を考慮していないものがあった。
本発明の目的は、細胞の有する内容物をTOF−SIMSによって検出、定量することを可能とする技術を提供することにある。
本発明の情報取得方法は、細胞内容物に関する情報を取得する方法であって、
前記細胞内容物のイオン化を促進するための物質を用いて前記細胞内容物のイオン化を促進して前記細胞内容物を飛翔させる工程と、
前記飛翔した細胞内容物の質量に関する情報を飛行時間型二次イオン質量分析法を用いて取得する工程とを備えることを特徴とする情報取得方法である。
また、本発明の細胞情報の取得方法の他の態様は、
細胞内容物の質量に関する情報を飛行時間型質量分析計を用いて取得し、取得した質量情報に基づいて前記細胞内容物の二次元分布状態に関する情報を得る情報取得方法であって、
試料細胞を用意する工程、
前記細胞を基材表面に接触させて該細胞中の内容物の少なくとも一部を該基材側に移動させる工程、
前記内容物の少なくとも一部が移動した前記基材表面に集束したイオンビームを二次元的に照射し、前記細胞内容物に由来するイオン種を飛翔させる工程、及び
前記飛翔したイオン種の強度を飛行時間型質量分析計を用いて測定し、該測定値に基づいて前記構成物の二次元分布状態に関する情報を得る工程、を有することを特徴とする情報取得方法である。
また、本発明の細胞内における疾病に特有な物質の有無、または、量を分析するための方法は、疾病に特有な物質の細胞内での有無、または、量を分析する方法であって、上記の情報取得方法のいずれかを利用して細胞内における疾病に特有な物質の有無、または、量を分析することを特徴とする分析方法である。
本発明によれば、細胞内容物、特に細胞内代謝物質の種類ごとに空間分解能の高い二次元分布像を得ることができる方法、細胞内代謝物質に由来する二次イオンの生成を効率よく行え、細胞内代謝物質の分布状態を高い感度で測定するための方法、更には、細胞内代謝物質の分布状態を定量性よく測定するための方法などを提供することが可能となる。
本発明の情報取得方法の第1の態様は、前記細胞の内容物のイオン化を促進するための物質を用いて前記内容物のイオン化を促進して前記内容物を飛翔させる工程と、
前記飛翔した内容物の質量に関する情報を飛行時間型二次イオン質量分析法を用いて取得する工程とを備えることを特徴とする情報取得方法である。
この方法における情報の取得は、細胞の一部、または、全部にわたり二次元的に行うことができる。すなわち、基板面の面方向に二次元的にイメージングすることができる。本発明によれば、細胞内の一部、または全部における測定対象物質の二次元分布状態をイメージングすることができる。更に、生体組織の切片試料を用いれば、その組織断面における測定対象物質の二次元分布のイメージングが可能である。
更に、検出対象としての細胞内容物としては、代謝産物や薬剤代謝産物を設定することが可能である。
飛翔した細胞内容物は、
(1)前記細胞内容物の親分子に相当するイオン、
(2)前記細胞内容物の親分子に、特定の金属または金属クラスターが付加した質量数に相当するイオン、
(3)前記細胞内容物の親分子に、特定の金属または金属クラスターが付加し、これに、水素、炭素、窒素、酸素の中から選ばれる1以上の原子が、1から10個付加した質量数に相当するイオン、
(4)前記細胞内容物の親分子に、特定の金属または金属クラスターが付加し、これに、水素、炭素、窒素、酸素の中から選ばれる1以上の原子が、1から10個付加し、さらに、水素、炭素、窒素、酸素の中から選ばれる1以上の原子が、1から10個脱離した質量数(同一元素の付加及び脱離は除く)に相当するイオン、
(5)前記細胞内容物の部分構造に、特定の金属または金属クラスターが付加した質量数に相当するイオン、
(6)前記細胞内容物の部分構造に、特定の金属または金属クラスターが付加し、これに、水素、炭素、窒素、酸素の中から選ばれる1以上の原子が、1から10個付加した質量数に相当するイオン、
(7)前記細胞内容物の部分構造に、特定の金属または金属クラスターが付加し、これに、水素、炭素、窒素、酸素の中から選ばれる1以上の原子が、1から10個付加し、さらに、水素、炭素、窒素、酸素の中から選ばれる1以上の原子が、1から10個脱離した質量数(同一元素の付加及び脱離は除く)に相当するイオン、
のいずれかとして検出することができる。
上記の特定の金属及び金属クラスターは、イオン化の条件などによって適宜設定されるが、本発明では、イオン化促進物質が利用されるので、少なくともイオン化促進物質またはそれに由来する、すなわち、イオン化促進物質に含まれ、かつ細胞内容物のイオン化に効果のある金属及び金属クラスターが得られる。
また、上記の細胞内容物のイオン化を促進する工程としては、細胞内容物とイオン化を促進するための物質とを接触させた後、接触させた部分に一次イオンを照射する工程が好ましい。
更に、細胞内容物のイオン化を促進するための物質が、金属元素及びアルカリ金属元素から選択された少なくとも一つを含むことが好ましい。
また、細胞内容物の質量に関する情報は、
(1)前記細胞内容物そのものの質量(親分子の質量)に、イオン化を促進するための物質由来の金属元素及びアルカリ金属元素の中の少なくとも一つが付加した質量数に相当するイオン、
(2)前記細胞内容物そのものの質量(親分子の質量)に、イオン化を促進するための物質由来の金属元素及びアルカリ金属元素の中の少なくとも一つが付加し、これに、水素、炭素、窒素、酸素の中から選ばれる1以上の原子が、1から10個付加した質量数に相当するイオン、
(3)前記細胞内容物そのものの質量(親分子の質量)に、イオン化を促進するための物質由来の金属元素及びアルカリ金属元素の中の少なくとも一つが付加し、これに、水素、炭素、窒素、酸素の中から選ばれる1以上の原子が、1から10個付加し、さらに、水素、炭素、窒素、酸素の中から選ばれる1以上の原子が、1から10個脱離した質量数(同一元素の付加及び脱離は除く)に相当するイオン、
のいずれかの質量に関する情報として得ることができる。
一方、イオン化を促進するための物質が含む金属元素としては、Ag及びAuの少なくとも1種が、アルカリ金属元素としては、Na及びKの少なくとも1種が好ましい。
本発明の細胞内容物の情報取得方法の第2の態様は、細胞内容物の質量に関する情報を飛行時間型質量分析計を用いて取得し、取得した質量情報に基づいて前記細胞内容物の二次元分布状態に関する情報を得る情報取得方法であって、
試料細胞を用意する工程、
前記細胞を基材表面に接触させて該細胞中の内容物の少なくとも一部を該基材側に移動させる工程、
前記内容物の少なくとも一部が移動した前記基材表面に集束したイオンビームを二次元的に照射し、前記細胞内容物に由来するイオン種を飛翔させる工程、及び
前記飛翔したイオン種の強度を飛行時間型質量分析計を用いて測定し、該測定値に基づいて前記構成物の二次元分布状態に関する情報を得る工程、を有することを特徴とする情報取得方法である。
この第2の態様における試料細胞と接触する基材表面は、内容物に由来するイオン種のイオン化を促進させる物質を含んでいるか、または前記細胞内容物の前記基材側への移動を促進するための化学処理が施されているものであることが好ましい。更に、細胞内容物の質量数が50〜2000であることが好ましい。
なお、これまで説明してきた本発明に関わるイオン化促進方法は、イオン化方法等に差があることにより原理的に異なる部分はあるが、考え方としては上記MALDI法に類するものである。
一方、上記の第1及び第2の態様にかかる細胞内容物の情報取得方法は、疾病に特有な物質の細胞内での有無、または、量を分析する方法に好適に利用可能である。
以下、本発明の各態様に含まれる形態の概要について説明する。
本発明により提供される情報取得方法の一形態には、主として、代謝産物、薬物代謝産物等の細胞内容物に関する情報を取得する方法であって、前記細胞内容物のイオン化を促進するための物質を用いて前記細胞内容物のイオン化を促進して前記細胞内容物を飛翔させる工程と、前記飛翔した細胞内容物の質量に関する情報を飛行時間型二次イオン質量分析法を用いて取得する工程とを備えることを特徴とする情報取得方法がある。
また、本発明にかかる情報取得方法の一形態としては、組成分析方法があり、この組成分析法には、質量分析法を用いて細胞内容物を組成分析する方法であって、前記細胞内容物のイオン化を促進するための物質を用いて前記細胞内容物のイオン化を促進して前記細胞内容物を飛翔させる工程と、前記飛翔した細胞内容物の情報に基づいて前記細胞内容物の組成を分析する工程と、を有することを特徴とする組成分析方法が含まれる。
本発明により提供される別の情報取得方法の一形態には、細胞内容物の質量に関する情報を飛行時間型質量分析計を用いて取得する方法であって、前記細胞内容物のイオン化を促進するための物質を付与する工程と、集束し、パルス化し、かつ走査可能な一次ビームを用い、前記細胞内容物をイオン化し、前記細胞内容物を飛翔させる工程と、前記飛翔した細胞内容物の質量に関する情報を飛行時間型質量分析計を用いて取得する工程を備える情報取得方法が含まれる。
本発明により提供される情報取得方法の一形態には、細胞内容物を構成する構成物の質量に関する情報を飛行時間型質量分析計を用いて取得し、取得した質量情報に基づいて前記構成物の分布状態に関する情報を得る情報取得方法であって、生体組織の構成物を含む試料を前記細胞内容物として用意する工程、前記構成物に由来するイオン種のイオン化を促進するための処理を行う工程、集束したイオンビームを前記細胞内容物に照射し、前記構成物に由来するイオン種を飛翔させる工程、及び前記飛翔したイオン種の強度を飛行時間型質量分析計を用いて測定し、該測定値に基づいて前記構成物の分布状態に関する情報を得る工程、を有する情報取得方法が含まれる。
本発明の情報取得方法の更に別の態様の一形態には、細胞内容物を構成する構成物の質量に関する情報を飛行時間型質量分析計を用いて取得し、取得した質量情報に基づいて前記構成物の分布状態に関する情報を得る情報取得方法であって、生体組織の構成物を含む試料を用意する工程、前記試料を基材表面に接触させて前記構成物の少なくとも一部を前記基材側に移動させる工程、前記構成物の少なくとも一部が移動した前記基材を前記細胞内容物としてそれらのイオン化を促進する条件下で、集束したイオンビームを前記細胞内容物に照射し、前記構成物に由来するイオン種を飛翔させる工程、及び前記飛翔したイオン種の強度を飛行時間型質量分析計を用いて測定し、該測定値に基づいて前記構成物の分布状態に関する情報を得る工程、を有することを特徴とする情報取得方法が含まれる。
本願明細書においては、イオン種のイオン化を促進するための物質を、必要に応じて増感物質と表現することがある。また、本願明細書においては、生体組織の構成物を含む試料を基材表面に接触させて構成物の少なくとも一部を前記基材側に移動させることを、必要に応じて、転写と表現することがある。更に、情報取得に代えて分析という表現を用いることもある。
以下、本発明の情報取得方法の各形態について更に説明する。本発明の方法において用いられるイオン化促進物質は、イオン化を促進する効果を有する物質であれば限定されるものではないが、金属を含む物質が好ましい。この金属としては、金(Au)、銀(Ag)、白金(Pt)等の遷移金属やビスマス(Bi)等の典型金属を挙げることができ、金(Au)及び銀(Ag)が好ましく、これらの少なくとも1種を含む物質をイオン化促進物質として用いることができる。特に、銀イオンはアミノ酸およびペプチドと容易に錯形成することから、銀を含む物質は更に好適である。また、金属以外に、アルカリ金属をイオン化促進物質の成分として用いることができ、アルカリ金属の中ではナトリウム及びカリウムが好ましく、これらの少なくとも1種を含む物質をイオン化促進物質として用いることができる。
I.本発明の一形態に関する発明についての説明
本発明の形態のひとつは、細胞内容物のイオン化を促進するための物質を用いて前記細胞内容物を飛翔させ、前記飛翔した細胞内容物を識別できる二次イオンの質量に関する情報を得ることを特徴としている。さらに、一次イオンの走査により得られる前記細胞内容物の二次元分布状態の検出(イメージング)であることを特徴としている。
また、本発明の細胞内容物のイオン化を促進する物質は、
(1)基板上に細胞内容物を配置した後に付与する、
(2)基板上に配置される細胞内容物の特定の一種類または複数に対し、予め付与する、
(3)基板上に細胞内容物が配置される前に、予め基板表面に付与する、
のいずれかの方法、あるいはこれらの2以上の組み合わせによって細胞内容物に供給することができる。付与の方法としては化学修飾が挙げられる。
このうち、(1)の方式はあらゆる形態の細胞内容物の解析に応用できる、即ち汎用性が高い方式である。一方で、基板上に二次元的に分布している細胞内容物に対しイオン化を促進する物質の付与を行う際は、同処理により細胞内容物を拡散させないことに注意する必要がある。化学的修飾などの処理で細胞内容物の二次元分布状態が変化してしまっては、本発明の目的を達成できないからである。
次に(2)の方式は、予め特定の細胞内容物の特定の部位に、細胞内容物のイオン化を促進し、TOF−SIMS分析で感度が上昇する物質(増感物質)を結合させておくものだが、この方式は特定の細胞内容物の二次元分布状態を選択的にかつ高感度で検出できるという利点を持つ。一方で、細胞内容物ごとに予め化学的修飾処理などを行わなければならず、操作がやや煩雑になる場合がある。なお、上記の増感物質の結合の方式としては共有結合、イオン結合、さらには増感物質として金属錯体を用いる場合の配位結合などが利用でき、特に制限はない。ただし、化学的修飾処理した細胞内容物を基板上に配置することになるので、該結合は安定であることが必要である。
さらに(3)の方式は、細胞内容物のイオン化を促進し、TOF−SIMS分析で感度が上昇する物質(増感物質)を予め基板表面に形成しておくものである。この方式では該増感物質の存在により新たな非特異吸着の問題が発生しないかどうかを十分調べておくことが重要である。この増感物質はTOF−SIMS分析で感度が上昇させるものであれば特に制限はなく、また細胞内容物と直接結合しないものであってもよい(即ち、TOF−SIMS分析で二次イオンを発生させる過程で、該細胞内容物のイオン化効率を高める効果があればよい)。さらに、この増感物質は基板の最表面に形成させることが好ましいが、非特異吸着を防止するため、該増感物質の上に単分子膜程度の別の物質(核酸、タンパク質、長鎖カルボン酸等)を配置することも可能である。
イオン化を促進する物質の細胞内容物への付与に用いることのできる化学的修飾とは、上記のように、TOF−SIMS分析で二次イオンを発生させる過程で、細胞内容物のイオン化効率を高める効果があり、該内容物の二次元分布状態を変化させない処理であれば特に制限はないが、化学的修飾剤として金属を含む物質を用いることが好ましい。前記金属の種類としては、本発明者らが検討した限りでは銀または金、さらにはその両者を含む場合が特に好ましかったが、上記の効果を持つものであればこれ以外の金属であってもよい。
化学的修飾の一手法として、基板上に配置された複数の細胞内容物に対し、銀鏡反応を利用して銀または銀イオンを該内容物に付加させる方法を挙げることができる。銀鏡反応とは、アンモニア性硝酸銀水溶液に試料を加え、次いでジアンミン銀(I)イオンを還元し銀を析出させる反応である。銀はイオウとの親和性が高いことから、この反応はチオール基を有する物質に特に有効である。また、基板上に二次元的に分布している物質に対しこの反応を利用する場合は、同処理により該物質を拡散させないよう注意を払う必要がある。この反応に用いる試薬として、市販品(例えば、和光純薬製「銀染色IIキットワコー」など)を使用してもよい。
しかしながら、化学的修飾の方法は上記に限られず、TOF−SIMS分析における細胞内容物の二次イオン化効率を高める効果があり、該細胞内容物の二次元分布状態を変化させない処理であればいかなる方法を用いてもよい。
本発明の細胞内容物の二次元分布状態の検出(イメージング)は、前記細胞内容物を識別できる二次イオンを用いることを特徴としており、この二次イオンは質量/電荷比が50以上2000以下のイオンであることが好ましい。
また、一次イオン種としては、イオン化効率、質量分解能等の観点からガリウムイオン、セシウムイオン、また、場合によっては金(Au)イオン等が、好適に用いられる。なお、Auイオンを用いると、極めて高感度の分析が可能となる点で好ましい。その際、Auイオンのみならず、金の多原子イオンである、Au2イオン、Au3イオンを用いることができ、この順で感度の上昇が図られる場合も多く、金の多原子イオンの利用は、さらに好ましい形態となる。尚、金以外の多原子イオンとして、ビスマスイオンやC60イオンなどを使用することもできる。
さらに、一次イオンビームパルス周波数は、1kHz〜50kHzの範囲であることが望ましく、また、一次イオンビームエネルギーは、12keV〜25keVの範囲であること、さらには、一次イオンビームパルス幅は、0.5ns〜10nsの範囲であることが望ましい。
また、本発明は、定量精度を向上させるために、高い質量分解能を保持し、比較的短時間で測定を完了させる必要があることから(一測定が数10秒から数10分のオーダー)、一次イオンビーム径は多少犠牲にして測定することが好ましい。具体的には、一次イオンビーム径をサブミクロンオーダーまで絞らずに、1μmから10μmの範囲に設定することが好ましい。さらに、本発明は、絶縁性基板上の細胞アレイ(チップ)に対しても適用し得る。
II.本発明の他の形態に関する発明についての説明
本発明の他の形態のひとつは、細胞内容物のイオン化を促進するための物質を用いて前記細胞内容物を飛翔させ、前記飛翔した細胞内容物を識別できる二次イオンの質量に関する情報を得ることを特徴としている。さらに、一次イオンの走査により得られる前記細胞内容物の二次元分布状態を検出(イメージング)できることを特徴としている。
また、本発明の細胞内容物のイオン化を促進する物質は、上述のI.で述べたものと同様である。また、付与の方法も同様とすることができる。また、その他の条件等も特に断らない限り、上述のIの態様と同様とすることができる。
また、基板上に二次元的に分布した細胞内容物に対し、二次元分布状態を変化させることなく前記化学的修飾を利用する場合は、該内容物を拡散させないよう注意を払う必要があるが、基板上に細胞が配置された部位に前記化学的修飾剤水溶液を静かに滴下することによって一回の処理工程で簡便に該細胞内容物の二次元分布状態を変化させることなく化学的修飾することができる。しかしながら、化学的修飾の方法は上記に限られず、TOF−SIMS分析における細胞内容物の二次イオン化効率を高める効果があり、該細胞内容物の二次元分布状態を変化させない処理であればいかなる方法を用いてもよい。
本発明において分析対象となる細胞を配置する基板としては金基板もしくは金の膜を基板表面に付した基板が好ましいが、特に限定する物ではなく、該細胞内容物の質量情報を得ることを妨げるような質量の二次イオンを発する物質でなければ、シリコン基板等の導電性基板および有機ポリマー、ガラスといった絶縁性基板に対しても適用し得る。さらに分析対象となる細胞内容物を配置するための媒体としては基板の形態に限定される物ではなく、粉末状、粒状等あらゆる形態の固体物質を用いることができる。
また、イオン化促進物質は、イオン化を促進する効果を有する物質であれば限定されるものではないが、金属を含む物質が好ましい。この金属としては、金(Au)、銀(Ag)、白金(Pt)等の遷移金属やビスマス(Bi)等の典型金属を挙げることができ、金(Au)及び銀(Ag)が好ましく、これらの少なくとも1種を含む物質をイオン化促進物質として用いることができる。特に、銀イオンはアミノ酸およびペプチドと容易に錯形成することから、銀を含む物質は更に好適である。また、金属以外に、アルカリ金属をイオン化促進物質の成分として用いることができ、アルカリ金属の中ではナトリウム及びカリウムが好ましく、これらの少なくとも1種を含む物質をイオン化促進物質として用いることができる。従って、前記化学的修飾剤として銀の代わりにナトリウムを含む物質を用いても良い。
III.本発明の他の形態に関する発明についての説明
本発明の他の形態にかかる情報取得方法は、細胞内代謝物質の分布状態に関する情報を得るものである。本発明は、生体組織の断片について、一旦、その断片表面を平坦な表面を有する基材上に接触させることで、その切断面の表面上に存在している、細胞内容物をその切断面での二次元分布を維持して基材表面に転写する工程を包含する。細胞内容物が切断面に形成された液層にその二次元分布を維持して含まれる場合は、この液層を基材表面に転写するとよい。この基材表面に転写された、細胞内容物を含む液層を乾燥処理して、表面上に付着させた後、TOF−SIMSで分析することをできる。従って、TOF−SIMSによる測定に際して、下地となる基材表面は平坦とすることができ、測定対象の表面形状に依存する、測定精度の変動を本質的に排除できる。
加えて、この転写を施す基材としては、清浄な金属表面、金属酸化物表面、あるいは、化学的な処理を施された平坦な基材表面を有するものを利用することができる。この転写材の表面に利用可能な金属表面として、例えば、金属銀、金属金などが挙げられる。また、転写材の表面に利用可能な金属酸化物表面として、例えば、酸化チタン(TiO2)表面、酸化シリコン(SiO2)表面などが挙げられる。また、化学的な処理を施された平坦な基材表面としては、化学的な処理によって、表面にマレイミド基などの官能基の導入を図ったものなどが挙げられる。
さらに本発明の他の形態にかかる情報取得方法は、先に述べた通り、
細胞内容物を構成する構成物の質量に関する情報を飛行時間型質量分析計を用いて取得し、取得した質量情報に基づいて前記構成物の分布状態に関する情報を得る情報取得方法であって、
細胞内容物の構成物を含む試料を用意する工程、
前記試料を基材表面(転写板ともいう)に接触させて前記構成物の少なくとも一部を前記基材側に移動させる工程、
前記構成物の少なくとも一部が移動した前記基材を前記細胞内容物として、集束したイオンビームを前記細胞内容物に照射し、前記構成物に由来するイオン種を飛翔させる工程、及び
前記飛翔したイオン種の強度を飛行時間型質量分析計を用いて測定し、該測定値に基づいて前記構成物の分布状態に関する情報を得る工程、を有することを特徴とする。
特定の物質に由来する二次イオン種のイオン強度分布として、該特定の物質由来のフラグメントイオンのイオン強度について、表面上の二次元分布を分析する態様を選択することができる。また、前記転写工程で利用される、金属表面、金属酸化物表面、あるいは基材表面は、転写される特定の物質に作用し、該特定の物質に由来する二次イオン種の生成効率を向上させる物質を含むことが好ましい。
一方、前記転写工程で利用される、化学的な処理を施された平坦な基材表面は、前記特定の物質に反応させた際、該特定の物質の表面への転写効率を向上する作用を示す化学的な処理が施されていることが望ましい。
さらには、前記転写工程に先立ち、採取された前記生体組織試料の一つの表面上に存在している特定の物質に対して、その転写効率を向上させる処理を施した後、転写を施す表面に対して、前記生体組織試料の一つの表面を密に接触させる操作を行う態様とすることも可能である。
例えば、前記転写工程で利用される、化学的な処理を施された平坦な基材表面は、前記特定の物質に対する反応性を示す官能基として、マレイミド基が表面上に導入されているものとすることができる。
また、前記金属表面、金属酸化物表面、あるいは基材表面上に転写されている、特定の物質を0℃以下に冷却した状態で分析を行うことが好ましい。
以下に、本形態における好ましい実施態様に関して、更に説明を行う。
本形態においては、転写板の表面に、金属銀表面またはチタン酸化物表面を用いることができる。これらは、水溶媒の存在下、特定の物質分子に接触させると、その物質に対する反応を誘起する効果を示す。金属銀の表面には、一般に、極薄い酸化被膜が存在しており、その酸化被膜から供給される銀イオン、あるいは、酸化銀が、検出対象としての細胞内容物に作用する。
また、チタン酸化物、特には、ルチル型構造の二酸化チタン結晶は、紫外線域に吸収を有する半導体であり、紫外光を照射することで発生する光キャリアによって、種々の触媒作用を示す。例えば、紫外光を照射した二酸化チタン表面は、水溶媒の存在下、かかる表面に付着する有機物の酸化的分解反応を促進する、光触媒としての機能を示す。
この種の反応性を有する金属表面、あるいは、触媒作用を示す金属酸化物表面に対して、湿潤状態の細胞や組織断面を接触させると、金属表面に付着した内容物のうちの特定の物質分子に対する分解反応が誘起される。その結果、この特定物質は分解を受け、この状態で、当接されている転写板の表面に転写、固定される。
転写を行う金属表面としては、銀、金、シリコンなどで構成される表面を使用することができる。その表面の清浄化は、予め、イオンビームスパッタエッチングなどにより、最表面に存在する分子、原子を除去して、清浄な金属面を露出させる手法が有効である。このスパッタエッチング処理には、TOF−SIMS分析で一般的に使用されるイオン銃を利用してもよい。なお、エッチング処理により清浄化した金属面に対する転写工程は、再汚染を回避するため、可能な限り、清浄化処理後、速やかに実施することが好ましい。作業の手順上、やむを得ない場合、表面の再汚染を防止する手段を講じた上で、数分〜数10分程度大気下に曝すことは、特に問題とはならない。
転写を行う金属酸化物表面としては、更に、シリコン酸化物、チタン酸化物などで構成される表面を挙げることができる。この金属酸化物表面の清浄化にも、上記のイオンビームスパッタエッチング法は有効である。その他、薬品に対する耐性に富む金属酸化物表面に対しては、ウエット処理による洗浄方法を使用することもできる。清浄化した金属酸化物表面に対する転写工程も、同様に、再汚染を回避するため、可能な限り、清浄化処理後、速やかに実施することが好ましい。
転写に利用される、化学的な処理を施された平坦な基材表面の一例として、米国特許第6476215号明細書で開示された、ガラス基板表面へマレイミド基を導入したものなどが挙げられる。このマレイミド基を導入された基材表面は、SH基を有する物質の転写に特に有効である。すなわち、転写される物質中のSH基は、基材表面に導入されているマレイミド基と反応する結果、これらの物質は基材表面に結合される。なお、平坦な表面を有する基材自体は、前記ガラス基板の代わりに、数10nm程度の厚さの酸化層を有するシリコン基板などを使用することもできる。
本形態では、この転写板表面上に転写されている細胞内容物の存在量の分布を、TOF−SIMS法を用いて測定する。TOF−SIMS法による測定は、高真空中で実施するため、転写板表面上に転写されている細胞内容物を含む液層中に含まれる水分を予め除去する。この乾燥処理は、減圧乾燥法を利用することが好ましいが、TOF−SIMS分析に供する前の予備排気室でこれを実施してもよい。この減圧乾燥法では、水分の蒸散に加熱を利用しないので、細胞内容物の変性を引き起こすことなく、乾燥がなされる。また、転写板表面上に転写されている細胞内容物の存在量の分布も、乾燥前の分布を保持したものとできる。得られる乾燥処理済み試料は、平坦な転写板表面に、乾燥された細胞内容物が付着・積層された状態となる。転写処理、その後の乾燥処理を終えた後、TOF−SIMS測定に供する間、乾燥処理済み試料は、表面への汚染物質の付着を防止する目的で、クリーンボックスまたは真空中に保管することが好ましい。
TOF−SIMS測定では、一次イオン・ビームを照射することで、照射スポットに存在している、乾燥された細胞内容物がイオン・スパッタリングされ、細胞内容物に由来する二次イオン種が生成される。TOF−SIMSにおける二次イオン種の生成効率は、試料表面形状の影響を強く受けることは前述したが、上述の平坦な金属表面、金属酸化物表面、あるいは化学的な処理を施された平坦な基材表面上に予め転写することにより、試料表面は平滑な面となり、TOF−SIMS測定での定量性を損なう要因の一つである試料表面の形態による影響は本質的に解消されている。
平坦な転写板表面に転写されている細胞内容物をTOF−SIMSによって測定し、イメージング測定を行う。
そのTOF−SIMSの測定条件は、二次元的なイメージングを行うため、分析対象の細胞の試料サイズに応じて、一次イオン・ビーム径は、0.1μm〜10μmの範囲に選択することが好ましい。一次イオン種としては、一般に、金属カチオンが利用されるが、イオン化効率、質量分解能等の観点から、ガリウムイオン、セシウムイオン、また、場合によっては金(Au)イオン等が、好適に用いられる。なお、Auイオンを用いると、極めて高感度の分析が可能となる点で好ましい。その際、Auイオンのみならず、金の多原子イオンである、Au2イオン、Au3イオンを用いることができる。その際、Auイオン<Au2イオン<Au3イオンの順で、感度の上昇が図られる場合も多く、金の多原子イオンの利用は、さらに好ましい態様となる。また、同等以上の感度が得られるBiイオンやC60などその多原子イオン等を用いてもよい。
さらに、表面分析であるので、一次イオン・ビームのエネルギーは、12keV〜25keVの範囲に選択することが好ましい。また、測定試料表面における正電荷の蓄積(チャージアップ)を回避するため、一次イオン・ビームパルスの間に、前記正電荷を解消するための低エネルギーの電子(数10eV程度)をパルス照射する。その際、一次イオン・ビームのパルス幅は、0.5ns〜10nsの範囲であることが望ましい。また、パルス周波数は、1kHz〜50kHzの範囲であることが望ましい。その他、分析領域、一次イオンの走査方法、一次イオンドーズ量などは適宜設定できる。
一方、細胞内代謝物質の質量数は一般的に50〜2000程度であり、多くの場合、かかる物質の部分断片に起因するフラグメントイオンを測定することが好ましい。
対象の細胞内容物を識別できるフラグメントイオンを特定できた後は、TOF−SIMS測定で得た三次元データ(XY平面におけるX×Yポイントについて、それぞれの質量スペクトルが存在する。積算測定を行った四次元データとなる。)から、当該フラグメントイオンに相当する質量スペクトルにおけるピーク(強度)をXY平面で切り出したイメージ像を、上記物質の二次元分布像として表示させる。検出対象とする細胞内容物が複数種ある場合はこの操作を繰り返せばよい。このような解析をすることで、図1に例示するように、細胞内容物ごとに、転写板表面に転写された試料面上における存在量分布として分析が可能である。さらには、別途、顕微鏡観察において測定された対応薄片試料表面のイメージと、二次イオン種のピーク強度を二次元的にイメージ表示させたものとを対照させることで、転写板表面に転写された試料面における、対象細胞内容物の局在部位の特定を行うことが可能となる。
なお、TOF−SIMSの測定で定量性を確保するためには通常、一次イオンドーズ量は、およそ表面の1%をスパッタする量に相当する1×1012イオン/cm2とする。この条件で測定した場合の、前期転写板表面に転写された試料面上の細胞内代謝物質に対する検出下限は、対象とするフラグメントイオンの質量数(M/Z)が500の場合、当該フラグメントの重量換算で100fg〜1pg/cm2程度である。すなわち、細胞を直接TOF−SIMSで分析するより一桁〜二桁程度の高感度化が期待できる。さらに定量性を犠牲にすれば、原理的にはさらにその二桁の高感度化が期待できる。
本形態にかかる情報取得方法用いることにより、細胞の一断面における注目する代謝物質を直接、イメージング検出することが可能となり、新たな医療診断方法となり得る。その際、イメージングにおける空間分解能は、0.1μm〜数μm程度が期待できる。
以上、本発明をいくつかの形態に分けて説明した。これら各形態で説明した内容は常識的な範囲で、他の形態でも適宜採用することができ、説明したそれぞれの形態に限定されるものではない。
また、本発明は、各形態で説明した本発明の構成要素を、別の形態で説明した構成要素と置き換えたものをも包含する。
以下に、実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。以下に示す具体例は、本発明にかかる最良の実施形態の一例ではあるが、本発明はかかる具体的形態に限定されるものではない。
(実施例1)
ガラス基板(絶縁基板)への細胞のスポッティングおよび銀イオン処理
基板としては、25.4mm×25.4mm×1mmの合成石英基板をアセトンおよび蒸留水の順番で洗浄し、乾燥させた物を用いた。
正常ヒト表皮メラニン細胞(倉敷紡績株式会社)を同社推奨方法により培養、回収し、生理的食塩水で適宜洗浄した後、4000 cell / mlとなるように生理的食塩水に懸濁した。
なお、使用した生理的食塩水にはあらかじめ10μMの濃度で硝酸銀を添加した。その後、上記懸濁液の5μlを上述の石英基板にマイクロピペッターを用いてスポッティングし、乾燥後、脱イオン水で適宜洗浄し、再度乾燥した。
(実施例2)
実施例1で作製した細胞のTOF−SIMS分析
実施例1で作製した細胞が付着したガラス基板をION TOF社製TOF−SIMS IV型装置を用いて分析した。測定条件を以下に要約する。
・一次イオン:25kV Ga+、2.4pA(パルス電流値)、ランダムスキャンモード
・一次イオンのパルス周波数:10kHz(100μs/shot)
・一次イオンパルス幅:約1ns
・一次イオンビーム直径:約3μm
・測定領域:200μm×200μm
・二次イオン像のpixel数:128×128
・積算時間:1200秒
このような条件で正および負の二次イオン質量スペクトルを測定した。
その結果、正の二次イオン質量スペクトルにおいて、以下のアミノ酸が二次元的に分布している状態が観測された。
Phe、Pro、Tyr、Gly、Leu、Ala、Ile、Met、Glu、Thr、Arg、Asn、Ser、Gln、His、Lys、Val、Asp
この結果から、細胞内容物、なかでも、細胞内代謝物質であるアミノ酸が二次元イメージとして観察されたことが判る。
(実施例3)
ガラス基板(絶縁基板)への肝臓組織切片の接着および銀イオン処理
基板としては、25.4mm×25.4mm×1mmの合成石英基板をアセトンおよび蒸留水の順番で洗浄し、乾燥させた物を用いた。
動物実験用に飼育されたラット4匹にそれぞれ体重1 Kg あたり0.5 mg となるようにカフェインを経口投与し、15、30、60、120分ごとに1匹ずつ肝臓を取り出し、情報により切片化し、上記ガラスに貼り付けた。乾燥後、実施例1と同様に硝酸銀を含有した生理的食塩水、脱イオン水の順で適宜洗浄し、再度乾燥した。
(実施例4)
実施例3で作製した組織切片のTOF−SIMS分析
実施例3で作製した組織切片が付着したガラス基板をION TOF社製TOF−SIMS IV型装置を用いて分析した。測定条件を以下に要約する。
・一次イオン:25kV Ga+、2.4pA(パルス電流値)、ランダムスキャンモード
・一次イオンのパルス周波数:10kHz(100μs/shot)
・一次イオンパルス幅:約1ns
・一次イオンビーム直径:約3μm
・測定領域:200μm×200μm
・二次イオン像のpixel数:128×128
・積算時間:1200秒
このような条件で正および負の二次イオン質量スペクトルを測定した。
その結果、正の二次イオン質量スペクトルにおいて、(1)カフェイン、(2)カフェインからメチル基が1個脱離したテオブロミン、テオフィリン、パラキサンチンのいずれか、(3)メチル基2個脱離したメチルキサンチン、(4)メチル基が3個脱離したキサンチンのスペクトルが(細胞状に)二次元的に観察された。各スペクトルのシグナル強度は、投与からの時間ととものに代謝産物側に強く観察された。この結果から、細胞内容物、なかでも、生体における薬剤の代謝物質が二次元イメージとして観察されたことが判る。
正の二次イオン質量スペクトルの測定例の部分拡大図を示す。(a)は実測スペクトル、(b)は同位体存在比を基に算出した理論スペクトル、(c)は得られた二次イオン質量スペクトルを用いたイメージング像を示す。

Claims (14)

  1. 細胞に関する情報を取得する方法であって、
    前記細胞の内容物のイオン化を促進するための物質を用いて前記内容物のイオン化を促進して前記内容物を飛翔させる工程と、
    前記飛翔した内容物の質量に関する情報を飛行時間型二次イオン質量分析法を用いて取得する工程とを備えることを特徴とする情報取得方法。
  2. 情報の取得が細胞の一部、または、全部にわたり二次元的に行われる請求項に1記載の情報取得方法。
  3. 前記細胞内容物が代謝産物であることを特徴とする請求項1、および、2に記載の情報取得方法。
  4. 細胞内容物が薬剤代謝産物であることを特徴とする請求項3に記載の情報取得方法。
  5. 前記飛翔した細胞内容物が、
    (1)前記細胞内容物の親分子に相当するイオン、
    (2)前記細胞内容物の親分子に、特定の金属または金属クラスターが付加した質量数に相当するイオン、
    (3)前記細胞内容物の親分子に、特定の金属または金属クラスターが付加し、これに、水素、炭素、窒素、酸素の中から選ばれる1以上の原子が、1から10個付加した質量数に相当するイオン、
    (4)前記細胞内容物の親分子に、特定の金属または金属クラスターが付加し、これに、水素、炭素、窒素、酸素の中から選ばれる1以上の原子が、1から10個付加し、さらに、水素、炭素、窒素、酸素の中から選ばれる1以上の原子が、1から10個脱離した質量数(同一元素の付加及び脱離は除く)に相当するイオン、
    (5)前記細胞内容物の部分構造に、特定の金属または金属クラスターが付加した質量数に相当するイオン、
    (6)前記細胞内容物の部分構造に、特定の金属または金属クラスターが付加し、これに、水素、炭素、窒素、酸素の中から選ばれる1以上の原子が、1から10個付加した質量数に相当するイオン、
    (7)前記細胞内容物の部分構造に、特定の金属または金属クラスターが付加し、これに、水素、炭素、窒素、酸素の中から選ばれる1以上の原子が、1から10個付加し、さらに、水素、炭素、窒素、酸素の中から選ばれる1以上の原子が、1から10個脱離した質量数(同一元素の付加及び脱離は除く)に相当するイオン、
    のいずれかである請求項1から4のいずれかに記載の情報取得方法。
  6. 前記細胞内容物のイオン化を促進する工程は、前記細胞内容物と前記イオン化を促進するための物質とを接触させた後、前記接触させた部分に一次イオンを照射する工程である請求項1から5のいずれかに記載の情報取得方法。
  7. 前記細胞内容物のイオン化を促進するための物質が、金属元素及びアルカリ金属元素から選択された少なくとも一つを含む請求項1から6のいずれかに記載の情報取得方法。
  8. 前記細胞内容物の質量に関する情報が、
    (1)前記細胞内容物そのものの質量(親分子の質量)に、イオン化を促進するための物質由来の金属元素及びアルカリ金属元素の中の少なくとも一つが付加した質量数に相当するイオン、
    (2)前記細胞内容物そのものの質量(親分子の質量)に、イオン化を促進するための物質由来の金属元素及びアルカリ金属元素の中の少なくとも一つが付加し、これに、水素、炭素、窒素、酸素の中から選ばれる1以上の原子が、1から10個付加した質量数に相当するイオン、
    (3)前記細胞内容物そのものの質量(親分子の質量)に、イオン化を促進するための物質由来の金属元素及びアルカリ金属元素の中の少なくとも一つが付加し、これに、水素、炭素、窒素、酸素の中から選ばれる1以上の原子が、1から10個付加し、さらに、水素、炭素、窒素、酸素の中から選ばれる1以上の原子が、1から10個脱離した質量数(同一元素の付加及び脱離は除く)に相当するイオン、
    のいずれかの質量に関する情報であることを特徴とする請求項7に記載の情報取得方法。
  9. 前記金属元素が、Ag及びAuの少なくとも1種である請求項7または8に記載の情報取得方法。
  10. 前記アルカリ金属元素が、Na及びKの少なくとも1種である請求項7〜9のいずれかに記載の情報取得方法。
  11. 細胞内容物の質量に関する情報を飛行時間型質量分析計を用いて取得し、取得した質量情報に基づいて前記細胞内容物の二次元分布状態に関する情報を得る情報取得方法であって、
    試料細胞を用意する工程、
    前記細胞を基材表面に接触させて該細胞中の内容物の少なくとも一部を該基材側に移動させる工程、
    前記内容物の少なくとも一部が移動した前記基材表面に集束したイオンビームを二次元的に照射し、前記細胞内容物に由来するイオン種を飛翔させる工程、及び
    前記飛翔したイオン種の強度を飛行時間型質量分析計を用いて測定し、該測定値に基づいて前記構成物の二次元分布状態に関する情報を得る工程、を有することを特徴とする情報取得方法。
  12. 前記試料細胞と接触する前記基材表面は、前記内容物に由来するイオン種のイオン化を促進させる物質を含んでいるか、または前記細胞内容物の前記基材側への移動を促進するための化学処理が施されている請求項11に記載の情報取得方法。
  13. 前記細胞内容物の質量数が50〜2000であることを特徴とする請求項1から12のいずれかに記載の情報取得方法。
  14. 疾病に特有な物質の細胞内での有無、または、量を分析する方法であって、請求項1から13のいずれかに記載の情報取得方法を利用して細胞内における疾病に特有な物質の有無、または、量を分析することを特徴とする分析方法。
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