JP2006104287A - 共有結合によるグリコサミノグリカンと細胞増殖因子との結合化合物およびその製造方法。 - Google Patents
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Abstract
【課題】運動器組織に係る再生医療において臨床応用可能な、適切なスカフォールドに共有結合した細胞増殖因子が長期徐放化を達成する化合物およびその製造方法を提供する。
【解決手段】式1:X−CHNH+−(CH2)n−S−S−P(Xはグリコサミノグリカン、Pは細胞増殖因子を表し、nは任意の整数である。)で表される化合物。かかる化合物は、より物理的強度、生体適合性、細胞増殖促進能に優れ、機能改善に十分な組織が再生されるなど、再生医療分野において多大な貢献をするものと期待される。
【選択図】なし
【解決手段】式1:X−CHNH+−(CH2)n−S−S−P(Xはグリコサミノグリカン、Pは細胞増殖因子を表し、nは任意の整数である。)で表される化合物。かかる化合物は、より物理的強度、生体適合性、細胞増殖促進能に優れ、機能改善に十分な組織が再生されるなど、再生医療分野において多大な貢献をするものと期待される。
【選択図】なし
Description
本発明は、グリコサミノグリカンと細胞増殖因子を共有結合によって結合した化合物およびその製造方法に関するものである。
高齢化社会の到来、輸送手段の発達に伴う交通外傷、日常生活へのスポーツの浸透によるスポーツ外傷の増加等により、運動器疾患の発生頻度は増加し続けている。このような運動器疾患のなかで、発症頻度が最も高いものの一つは、軟骨、靭帯などの関節構成組織の損傷である。かかる関節構成組織は自己修復能力が極めて低いために、外科的治療の適応となる機会が非常に多い。
このような損傷に対する治療として、自家組織または人工物による再建・置換術が施行されているが、自己組織を使用するために、身体の他の部位に瘢痕が残る場合や、術後に人工物の劣化・ゆるみが生じるなどの、解決困難な問題が多く存在する。しかしながら、人工関節置換術の頻度は増加の一途をたどっており、医療経済に及ぼす影響も深刻化している。
これらの問題点を解決するために、運動器疾患領域においても再生医療による治療が要望されている。
再生医療においては、スカフォールド(scafflod)と呼ばれる足場構造体に、細胞を播種し、インビトロ(生体外)にて培養・増殖させた後に細胞を生体内に戻し、生体内において当該細胞の機能を発現させることにより、生体が失った機能を再生させるという手法を用いる。また、細胞増殖因子を直接生体内に供給することで、組織の回復を促進する手法もある。
従来、細胞増殖因子それ自体に関する研究は数多く行われてきた。しかし、たとえ、細胞増殖因子の機能等の解明により、インビトロで該因子を大量に生産することができたとしても、インビボ(生体内)においては短い時間で失活するために、生体内において増殖因子としての効果を継続的に発揮させることは難しい。この欠点を補うために、同因子の大量、頻回投与が試みられているが、感染症の危険性を増大させる結果となり、臨床応用するのには適切ではない。
また、近年、再生医療の分野において、スカフォールドを患者の体内に供給することで、組織の回復を促進することができることが報告された。現在広く用いられているスカフォールド材料としては、コラーゲン、アルギン酸、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリε―カプロラクタンなどが挙げられる。
スカフォールドに求められる運動器組織の再生に必要な特性として、細胞増力性は必須であるが、その他にも、生体親和性、生体吸収性、細胞接着性、力学的強度を備えていなければならない。かかる観点からすれば、コラーゲンは力学的強度および細胞接着性に優れるものの、免疫学的に拒絶反応を生じやすく、更に動物由来であるため、種々の感染症の危険性を常に有する等の問題点が指摘されていた。また、アルギン酸、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリε−カプロラクタンは、動物由来でないために、コラーゲンにおいて認められる危険性はないものの、細胞接着性が非常に低く、また力学的強度も低いなどの欠点を有していた。
このようなスカフォールドの欠点を克服すべく、アルギン酸繊維とキトサンからなるポリイオン複合繊維を軟骨細胞のスカフォールドとする試みが、報告されている(非特許文献1)。
また、スカフォールドと細胞増殖因子を組み合わせたものを生体内に導入することによって、組織を再生する方法も試みられている。Berschtらはメチルピロリジンオン キトサン(methylpyrrolidinone chitosan)に塩基性繊維芽細胞成長因子を混入し、フリーズドライすることにより、水分を凝固させ、スカフォールドを有穴化し、塩基性繊維芽細胞成長因子を放出することのできるスカフォールドを報告している(非特許文献2)。
イワサキら(Iwasaki, N et. al.)、バイオマクロモレキュール(Biomacromolecules)、米国、2004年、第5巻、第828〜833頁 ベルシュットら(Berscht et. al.)、バイオマテリアルズ(Biomaterials)、米国、1994年、第15巻、第8号
イワサキら(Iwasaki, N et. al.)、バイオマクロモレキュール(Biomacromolecules)、米国、2004年、第5巻、第828〜833頁 ベルシュットら(Berscht et. al.)、バイオマテリアルズ(Biomaterials)、米国、1994年、第15巻、第8号
しかし、アルギン酸繊維とキトサンからなるポリイオン複合繊維を軟骨細胞のスカフォールドは、これを足場として増殖する細胞に対して、安定して増殖を促進する因子を供給する能力は有していない。また、Berschtらの方法も、基本となるスカフォールドと塩基性繊維芽細胞成長因子の結合力の低さから、わずか25分間で22%、6時間で56%もの塩基性繊維芽細胞成長因子が流出してしまうため、短期的には十分としても、長期にわたる徐放化は期待できない。
本願発明の課題は、運動器組織に係る再生医療において臨床応用可能な、適切なスカフォールド、およびかかるスカフォールドを足場にして増殖する細胞に対して、細胞増殖因子を長期的に供給することのできる化合物およびその製造方法を提供するものである。
本願発明者らは、細胞増殖因子とスカフォールド材料とを、単なる混入ではなく共有結合させることで、より強固な足場を提供し、安定かつ正確な徐放化が可能となることを見出し、本発明を完成した。
即ち本発明は、式1:X−CHNH+−(CH2)n−S−S−P(Xはグリコサミノグリカン、Pは細胞増殖因子を表し、nは任意の整数である。)で表される化合物に関する。
また、本発明は、不活性ガス雰囲気下において、式2の化合物(nは任意の整数)とグリコサミノグリカンとを反応させる工程と、当該工程によって得られた生成物と細胞増殖因子とを反応させる工程からなる、上記式1の化合物の製造方法に関する。
式2:
本発明は、スカフォールド材料と細胞増殖因子とが、式2の化合物から誘導されるリンカーを介して、ジスルフィド結合により共有結合した化合物である。具体的には、スカフォールド材料であるグリコサミノグリカンに存するアミノ基が式2の化合物から誘導されるリンカーと結合しており、同リンカーの一方末端にあるSH基が細胞増殖因子の分子内に存在するSH基とジスルフィド結合を形成している構造からなる。
この様に、本発明の化合物を構成するXとして表されるグリコサミノグリカンは、分子内に遊離のアミノ基を有している多糖類であれば何れも使用することができる。その様なグリコサミノグリカンは、例えばキトサン、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ヘパリン、ケラト硫酸、ケタラン硫酸およびキチンからなる群から選択することができる。特に、細胞増殖の足場としての機能から、キトサンの利用か好ましい。
本発明の化合物を構成するPとして表される細胞増殖因子は、所望の細胞増殖を促すことのできる蛋白質性因子であれば、何れも利用することができる。その様な例としては、塩基性繊維芽細胞成長因子(bFGF)、繊維芽細胞成長因子(FGF)、骨形成因子(BMP)、血管形成誘導因子(VEGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、上皮細胞増殖因子(EGF)、インシュリン様成長因子(IGF)、神経成長因子(NGF)またはトランスフォーミング増殖因子(TGF−β)などを挙げることができる。
また、増殖させようとする細胞に応じた細胞増殖因子を適宜選択して使用することが好ましく、例えば軟骨細胞の増殖にはbFGFを、あるいは繊維芽細胞の増殖にはTGF−βをそれぞれ選択して使用する。
この細胞増殖因子をスカフォールド材料に共有結合させるには、細胞増殖因子内に天然に存在するシステイン残基やメチオニン残基の側鎖にあるSH基を利用することができる。また、蛋白工学的手法により、人為的に細胞増殖因子のアミノ酸配列を改変してSH基を有するアミノ酸残基を新たに導入し、これを用いて本発明のジスルフィド結合を形成させても良い。かかる操作は、通常の遺伝子組換え手法により行うことができる。
本発明の化合物は、不活性ガス雰囲気下において、式2のイミノチオラン(nは任意の整数)化合物とグリコサミノグリカンとを反応させる工程と、当該工程によって得られた生成物と細胞増殖因子とを反応させる工程から、製造することができる。
式2
式2の化合物とグリコサミノグリカンとを反応させる工程は、不活性ガス下、室温〜40℃程度の温度において、pH4.0〜9.0の適当な緩衝液中で1〜5時間、行えばよい。利用可能な緩衝剤としては、アミノ基を有しない緩衝剤の利用が好ましく、リン酸緩衝液、酢酸緩衝液、硼酸緩衝液などを挙げることができる。
また、前記工程によって得られた生成物と細胞増殖因子とを反応させる工程は、DMSO(ジメチルスルフォキシド)、エタノール、DMF、アセトニトリル等の適当な存在下で、不活性ガス雰囲気下、室温〜40℃にて1〜5時間反応させればよい。反応終了後、必要に応じて透析により精製する。透析により化合物が沈殿する場合には、適用な溶媒に加えることにより再度可溶化する事ができる。
本発明では、細胞増殖因子を、その活性発現に好適な態様でスカフォールド材料に共有結合させることもできる。例えば、bFGFに代表されるある種の細胞増殖因子の細胞膜受容体への結合効率は、bFGFとヘパリンとの複合体を形成することによって上昇することが知られている。本発明でも、式1の化合物の細胞増殖因子としてbFGFを使用する場合には、bFGFとヘパリン等とを室温のトリス緩衝液(pH7.4)中に2時間程度おき、bFGFとヘパリンとの複合体を予め形成させておき、これを前述の反応に使用することができる。
また、細胞増殖因子が、前記工程によって得られた生成物とのジスルフィド結合の形成に利用可能なSH基を有するアミノ酸残基を有さない場合には、あらかじめシステイン残基あるいはメチオニン残基を、遺伝子組換え手法などによって細胞増殖因子に導入しておき、この改変体を細胞増殖因子として利用してもよい。
本発明は、好適なスカフォールド材料であるグリコサミノグリカンに、細胞増殖因子をリンカーを介して共有結合させることによって、細胞増殖因子を活性型のままスカフォールド材料と結合させることができる。また、共有結合により、従来の細胞増殖因子とスカフォールド材料との単なる混合物に見られる、スカフォールド材料からの速やかな細胞増殖因子の流出が防止され、in vitroのみならず、in vivoにおいても、当該細胞増殖因子が徐放化によって長期的な細胞増殖能の維持が可能となる。
上記共有結合されたグリコサミノグリカンと細胞増殖因子とからなる化合物は、再生医療における適切なスカフォールドとしての性質と細胞増殖因子の徐放化能を有し、その結果、物理的強度、生体適合性、細胞増殖促進能に優れ、機能改善に十分な組織が再生されるなど、再生医療分野において多大な貢献をするものと期待される。
さらに、本願発明に係る多糖−細胞増殖因子結合体は通常は水溶性であるため、再生医療のスカフォールド以外の目的で、治療に応用することが可能である。この場合における生体への投与方法としては、静脈内投与、筋肉内投与、経皮投与等がある。
本願発明において利用可能な不活性ガス、例えば窒素、アルゴン、ヘリウム、ネオンなどを挙げることができ、これらは容易に入手可能である。
また、本発明において利用可能なグリコサミノグリカン、例えばキトサン、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ヘパリン、ケラト硫酸、ケラタン硫酸、キチンなどは、いずれも一般に市販されているものを使用することができる。例えば、前述のグリコサミノグリカンは、いずれも生化学工業株式会社より入手可能である。
本願において利用可能な細胞増殖因子、例えば塩基性繊維芽細胞成長因子、繊維芽細胞増殖因子、肝細胞増殖因子、上皮細胞増殖因子、インシュリン様成長因子、神経成長因子などは、何れも市販されているものを使用することができ、また遺伝子組換え手法を用いて製造したものも利用可能である。例えば、前述の細胞増殖因子は、いずれも日本ベクトン・ディッキントン株式会社から入手可能である。
式2のイミノチオランは、和光純薬工業株式会社より入手可能な化合物である。
(実施例)
以下に、実施例を挙げて本願発明を具体的に説明するが、本願の発明の範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
以下に、実施例を挙げて本願発明を具体的に説明するが、本願の発明の範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
キトサン(1%酢酸に溶解)3.5gを44mlのリン酸緩衝液(50mM リン酸カリウム、2mM EDTA、150mM NaCl、pH8.0)に溶解し、続いて2−イミノチオランを112mg加えた。窒素雰囲気下、室温にて3時間攪拌により反応後、未反応の2−イミノチオランを1週間の透析にて除去し、キトサンにSH基が導入されたスカフォールド材料(キトサン−CHNH+−(CH2)3−SH)を得た。
10mgのヘパリンを30mlのトリス緩衝液(50mM Tris−HCl、130mM NaCl,15mg BSA、pH7.4)に溶解する。これに1mgの塩基性繊維芽細胞成長因子(bFGF)を加え、室温にて2時間反応させ、bFGF−ヘパリン複合体を得た。
10mlのキトサン−CHNH+−(CH2)3−SH(pH7.0)に2mlのbFGF−ヘパリン複合体(pH7.4)を加え、pHを5.0に調整後、2mlのジメチルスルフォキシド(DMSO)を加え、窒素下、室温にて4時間反応させる。1週間の透析により、未反応のbFGFとヘパリンを除去し、最終反応物(キトサン−CHNH+−(CH2)3−bFGF−ヘパリン)を得た。
上記により得られた、キトサン−CHNH+−(CH2)3−bFGF−ヘパリン結合体をアミノ酸解析によって分析したところ、グルコサミン1432分子につき1分子の塩基性繊維芽細胞成長因子が導入されていることが示された(図1)。bFGFの換算濃度は、37.3μg/mlである。
実施例1で調製した本発明の化合物の細胞増殖効果を2種類の細胞を使用して評価した。軟骨細胞としては、BioWhittaler社の「Human articular chondrocytes of the knee(NHAC−kn(登録商標))」、繊維芽細胞として、Cascade Biologics,Inc社の「Human Fibroblats(NHDF(登録商標))」を使用した。
細胞増殖の評価としては、同人化学研究所の「Cell Counting Kit−8」を用いた。実施例1で調製した本発明の化合物50μlをNUNC社の96穴プレートに加え、100μlの軟骨細胞浮遊液(1.27×105cell/ml)、繊維芽細胞浮遊液(1.5×105cell/ml)をそれぞれ加え、24時間、37℃で培養する。培養後、WST−8を含む作業溶液を10μl加え、37℃で2時間培養後、490nmの吸光度を測定し、細胞増殖性を評価した。
本願発明の化合物によって、軟骨細胞および繊維芽細胞ともに、細胞の増殖が観察された。軟骨細胞の場合、本発明の化合物を1/10に希釈した場合において最も細胞増殖性が認められた。繊維芽細胞の場合、本発明の化合物を1/100に希釈した場合において最も細胞増殖が認められた。
Claims (11)
- 式1:X−CHNH+−(CH2)n−S−S−P(Xはグリコサミノグリカン、Pは細胞増殖因子を表し、nは任意の整数である)で表される化合物。
- Xがキトサン、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ヘパリン、ケラト硫酸、ケタラン硫酸およびキチンよりなる群から選択される、請求項1に記載の化合物。
- Xがキトサンである請求項2に記載の化合物。
- Pが塩基性繊維芽細胞成長因子(bFGF)、繊維芽細胞成長因子(FGF)、骨形成因子(BMP)、血管形成誘導因子(VEGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、上皮細胞増殖因子(EGF)、インシュリン様成長因子(IGF)、神経成長因子(NGF)およびトランスフォーミング増殖因子(TGF−β)よりなる群から選択される、請求項1に記載の化合物。
- Pが塩基性繊維芽細胞成長因子(bFGF)である、請求項1に記載の化合物。
- Pがヘパリンとの複合体である請求項5に記載の化合物。
- グリコサミノグリカンが、キトサン、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ヘパリン、ケラト硫酸、ケタラン硫酸およびキチンからなる群から選択される、請求項7に記載の方法。
- グリコサミノグリカンがキトサンである、請求項8に記載の方法。
- 細胞増殖因子が、塩基性繊維芽細胞成長因子(bFGF)、繊維芽細胞成長因子(FGF)、骨形成因子(BMP)、血管形成誘導因子(VEGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、上皮細胞増殖因子(EGF)、インシュリン様成長因子(IGF)、神経成長因子(NGF)およびトランスフォーミング増殖因子(TGF−β)からなる群から選択される、請求項7に記載の製造方法。
- 細胞増殖因子がヘパリンとの複合体である、請求項7に記載の製造方法。
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JP2009508852A (ja) * | 2006-01-23 | 2009-03-05 | クワンジュ インスティチュート オブ サイエンス アンド テクノロジー | 薬理活性物質と粘膜粘着性高分子とが共有結合されたコンジュゲート及びこれを用いた薬理活性物質の経粘膜運搬方法 |
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2004
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