JP2006054850A - 量子暗号記録方法および量子暗号記録のための装置 - Google Patents

量子暗号記録方法および量子暗号記録のための装置 Download PDF

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Abstract

【課題】従来の数学的暗号等の方法では、記録された情報の安全性を十分保つことができなかった。
【解決手段】記録すべき情報と、読取鍵と呼ばれるそれを知るものは各bitの記録に用いられる基底を特定できるが知らないものには基底の特定ができなくなる情報と、読取鍵から各bitの基底を決定するためのアルゴリズムを準備するステップと、各基底に対応した読取手順を実行すると記録すべき情報に対応した測定値が得られる状態となるが、異なる基底に対応したユニタリー変換を実行しても記録すべき情報に対応した測定値が得られる状態とはならないように選択した量子状態の組から、各bitに生成すべき状態を選択するステップと、その量子状態を記録媒体に生成するステップと、その状態を保持するステップと、読取鍵にしたがって各bitの基底を決定し、その基底に対応した読取手順を実行するステップからなる情報の記録・再生方法を用いることで上記課題を解決する。
【選択図】図5

Description

本発明は、情報の記録方法に関する。
現在、様々な情報が電子的に入出力可能な記録媒体に記録され利用されている。
記録装置内において情報は、物理媒体の物理状態の違い、たとえば磁気テープやハードディスクでは磁化の向き、DVD-RAMでは結晶状態と非結晶状態の違い、CDでは穴の有無、DRAMでは保持されている電荷量の違いなどとして保持されている。デジタル方式の場合、通常2種類の区別可能な物理状態(以下S0およびS1)の違いに、記録する情報の値を割り当てる。例えばDRAMでは電荷が蓄積されている状態を“1”とし、蓄積されていない状態を“0”とするといった具合である。
記録すべき情報に応じて対応する状態を生成するのが書き込みである。これを行うのが書込装置である。物理媒体の状態の検出、すなわち物理状態を特定するための物理量の測定を行うのが読取りであり、これを行うのが読取装置である。
このとき、測定される物理量は物理媒体の状態に対応して特定の値が得られなければならない。状態S0に対して測定を行った場合には値V0が、状態S1に対して測定を行った場合には値V1が得られる必要があり、例えば、状態S1を測定したのに値V0が得られたり、情報が記録されているのにV0でもV1でも無いような値が得られてはならない。ただし、値V0およびV1は幅を持っていても良い。例えばDRAMの例で言えば、蓄積されている電荷を電圧の形で測定し、電圧が1V以上ならV0、0.1V以下であればV1とするといった具合である。状態が識別できれば、状態と情報の割り当て関係から、記録されていた情報を読み出すことができる。これが従来の情報記録の基本的な流れである。
図1に示すように、従来の記録方法では、記録した情報、それに対応した物理状態、物理状態の測定により得られる物理量の値、読み出される情報のすべてがそれぞれ一対一対応していることが特徴である。つまり、読取った情報から、記録状態や記録した情報をすべて一意に特定できる。
これら電子的に記録される情報の中には、金融関係の情報や、個人のプライバシーに関わる情報など、正規の情報利用者以外に内容を知られたくないものも多い。また、キャッシュカードやクレジットカードなどでは、記録されている情報が口座利用や購入契約を行う権利の認証に利用されているので、記録されている内容が明示的に読み出されるか否かによらず不正利用が可能となり、その内容が複製されると正規の利用者に不利益が生じる。したがって、記録された情報を保護する必要がある。
情報の保護手段は主に2種存在する。第一は正規の情報利用者にのみ読取を許可する方法であり、第二は数学的暗号と呼ばれる方法である。
第一の方法の場合、読取装置に認証機構を加えておき、認証された場合のみ物理量測定を許可することにより安全性を保障する。しかしながらこの方法だけでは、非正規の情報利用者が認証機構を迂回して直接物理媒体の状態測定を行うなど、いわゆるタンパリングを行うことにより、簡単に情報が漏洩してしまう(タンパリングについては、非特許文献1に詳細な記述がある。)。
そこで、通常は第二の方法である数学的暗号技術が併用される。
数学的暗号技術とは、非正規の情報利用者に知られたくない情報(平文)を、暗号化と呼ばれる数学的操作により、一見したところ平文の内容が推定できない情報(暗号文)に変換する技術である。
以下に 数学的暗号操作の一例を挙げる。
平文を
“This is a pen. ”
の“”内の文章とする(末尾には1つ空白が含まれる。)。この平文をASCIIコードにしたがって2進表現すると、
1010100 1101000 1101001
1110011 0100000 1101001
1110011 0100000 1100001
0100000 1110000 1100101
1101110 0101110 0100000
となる。ただし、空白間の7bitが一つのASCIIコードに対応し、左から右にコードを並べ、21bitごとに改行する表現を用いている。以下、断らない限りこの表現を用いる。
数学的暗号化を行うために、平文の他に鍵と呼ばれる別のデータを用意する。ここでは、キーワード方式、即ち文字列を鍵データとする方法で説明する。
例えば
KEY
が鍵(キーワード)であるとする。この鍵をASCIIコードにしたがって2進表現すると、
1001011 1000101 1011001
となる。平文は15文字であり、鍵は3文字であるので、平文の長さと鍵の長さが一致するように、鍵を伸長する必要がある。ここでは最も単純な手法として、5回繰り返す例を示す。つまり、鍵を
1001011 1000101 1011001
1001011 1000101 1011001
1001011 1000101 1011001
1001011 1000101 1011001
1001011 1000101 1011001
とする。なお、実際の暗号では単純な繰り返しを行った場合、周期性が不正解読の手がかりになる。したがって、通常はより周期性が気づかれにくい伸長方法が用いられるが、以下の説明には影響を与えないのでこの方法で説明する。
ここで、平文と鍵の同じ位置になる各bitを比較し、同一であれば“0”、異なっていれば“1”とする、つまり、各bitのXORをとると、
0011111 0101101 0110000
0111000 1100101 0110000
0111000 1100101 0111000
1101011 0110101 0111100
0100101 1101011 1111001
となる。これが2進表記された暗号文である。この情報を記録媒体に記録する。
つまり、物理媒体に
S0,S0,S1,S1,S1,S1,S1 S0,S1,S0,S1,S1,S0,S1 S0,S1,S1,S0,S0,S0,S0
S0,S1,S1,S1,S0,S0,S0 S1,S1,S0,S0,S1,S0,S1 S0,S1,S1,S0,S0,S0,S0
S0,S1,S1,S1,S0,S0,S0 S1,S1,S0,S0,S1,S0,S1 S0,S1,S1,S1,S0,S0,S0
S1,S1,S0,S1,S0,S1,S1 S0,S1,S1,S0,S1,S0,S1 S0,S1,S1,S1,S1,S0,S0
S0,S1,S0,S0,S1,S0,S1 S1,S1,S0,S1,S0,S1,S1 S1,S1,S1,S1,S0,S0,S1
という状態を生成し、保持する。
この物理媒体の読出しを実行すると
V0,V0,V1,V1,V1,V1,V1 V0,V1,V0,V1,V1,V0,V1 V0,V1,V1,V0,V0,V0,V0
V0,V1,V1,V1,V0,V0,V0 V1,V1,V0,V0,V1,V0,V1 V0,V1,V1,V0,V0,V0,V0
V0,V1,V1,V1,V0,V0,V0 V1,V1,V0,V0,V1,V0,V1 V0,V1,V1,V1,V0,V0,V0
V1,V1,V0,V1,V0,V1,V1 V0,V1,V1,V0,V1,V0,V1 V0,V1,V1,V1,V1,V0,V0
V0,V1,V0,V0,V1,V0,V1 V1,V1,V0,V1,V0,V1,V1 V1,V1,V1,V1,V0,V0,V1
という物理量の値が得られる。
これを物理量の測定値と情報の対応関係に従って解釈すれば
0011111 0101101 0110000
0111000 1100101 0110000
0111000 1100101 0111000
1101011 0110101 0111100
0100101 1101011 1111001
つまり、記録した暗号文になる。この暗号文はタンパリングなどにより漏洩する可能性がある。
ただし、これをASCIIコードにしたがってそのまま解釈しても
-08e08e8k5<%ky
となり、意味を成さない文章となる。
正規の情報利用者には、暗号文を記録した記録媒体の他に、鍵が“KEY”であることと、復号化手順を開示しておく。暗号文は通常の情報と同じように読み出すことができるので、読み出した暗号文のASCII表現の各bitと、暗号文と同じ長さまで繰り返した鍵のASCII表現の各bitを比較し、同一であれば0、異なっていれば1とし、それをASCIIコードにしたがって解釈することで平文を容易に復元できる。これが数学的暗号の復号化である。
これに対し、非正規の情報利用者には、鍵は開示されていないものとする。ただし、暗号文については、タンパリングなどの行為により記録媒体から入手可能であるとする。ただ暗号文はそのままでは意味を成さない情報に変換されているので、数学的暗号の復号化を行う必要がある。通常復号化のアルゴリズムは知られているので、あとは適当な文字列を鍵として復号化を試すことができる。例えば、鍵候補として
BAD
を用いて復号化と同じ手順を踏んでみたとすると、
]ltz$tz$|)txg*=
が平文候補として得られる。これは文書として意味をなさない、つまり平文として持つべき特徴を持たないから、非正規の情報利用者は不正解読に失敗したと解釈し、平文として意味がある結果が得られるまで鍵候補を試し続けることになる。
上記の暗号の例では、鍵の長さが平文の長さと同一であり、かつ過去に利用されたことの無い真正ランダム列である場合、不正解読は原理的に不可能であることが知られている。なぜならば、この場合平文候補としてはそのbit数で表現できるすべての文章(データ列)が含まれるため、その中には平文として持つべき特徴を持つすべての候補がふくまれるため、そのなかから正しい平文を特定することができないからである。なお、このように暗号文から鍵情報無しには一切の情報を引き出せない状態を完全秘匿と呼ぶ。
しかしながら、実際には鍵情報が無くても時間および計算を費やせば復号化(不正解読)が可能な形で運用される場合が多い。これは完全秘匿を得るためには記憶しにくい大量の鍵の共有が必要など、実用上の制限があるためである。
したがって、先ほどのキーワードのような、短い鍵が利用されている。ところが、たとえば、キーワードがアルファベット3文字以内であることが非正規の情報利用者に知られていれば、これらを鍵候補として総当りで復号化してみて、平文として持つべき特徴が得られたときに、それを正しい平文だと推定することができる。鍵の長さが平文よりも十分短ければ、復号化したときに、平文として持つべき特徴をもつ正しい平文ではない文章が得られる確率は非常に小さくなる。先の例では“KEY"以外の鍵で復号化したときに意味のある文章が得られる可能性はほとんどない。したがって、この方法で"KEY"が正しい鍵であり、"This is a pen. "が正しい平文であることが特定されてしまう。
この場合の安全性は、不正解読に必要な時間や計算量が極めて大きく、情報の価値が意味を持つ期間内には成功しないという仮定により保証される(これら数学的暗号については非特許文献2に詳しい記載がある)。
情報処理推進機構 『平成11年度 スマートカードの安全性に関する調査スマートカードの安全性に関する調査』 H.デルフス・H.クネーブル著『暗号と確率的アルゴリズム入門』シュプリンガーフェアラーク東京
完全秘匿でない数学的暗号の安全性は、不正解読に成功するまでの時間が情報の価値が存在する期間よりも長い場合にのみ保証される。しかし、不正解読に必要な時間は情報処理技術に強く依存する。ある暗号を利用開始した時点では実効的に安全であると思われていたものが、情報の価値が存在する期間内にコンピュータの高速化や、効率的不正解読アルゴリズムの発見など情報処理技術の進展によって実効的に安全ではなくなるという事態も発生しうる。
このように、数学的暗号による情報の安全性は、情報処理技術の進展により突如として崩壊する危険性や、実際には安全性が破綻しているにも関わらずそれに気づかず利用してしまう危険性を常にはらんでいる。
また、認証用カードなどでは、記録されいる暗号文の不正解読に成功しなくても、そこに記録されている情報の正確な複製さえ可能であれば、不正利用が可能になる。このような複製に対して数学的暗号化は無力である。
本発明は、記録すべき情報と、読取鍵と呼ばれるそれを知るものは各bitの記録に用いられる基底を特定できるが知らないものには基底の特定ができなくなる情報と、読取鍵から各bitの基底を決定するためのアルゴリズムを準備するステップと、各基底に対応した読取手順を実行すると記録すべき情報に対応した測定値が得られる状態となるが、異なる基底に対応したユニタリー変換を実行しても記録すべき情報に対応した測定値が得られる状態とはならないように選択した量子状態の組から、各bitに生成すべき状態を選択するステップと、その量子状態を記録媒体に生成するステップと、その状態を保持するステップと、読取鍵にしたがって各bitの基底を決定し、その基底に対応した読取手順を実行するステップからなる情報の記録・再生方法を用いることで上記課題を解決する。
本発明の情報記録方法を用いると、非正規の情報利用者に情報が不正解読される危険性や複製される危険性を低減することができる。
本発明の実施には、量子状態の保持を行う量子暗号記録媒体、量子暗号記録媒体に特定の量子状態を生成するための量子暗号書込装置、量子暗号記録媒体の量子状態を測定するための量子暗号読取装置が必要であり、本発明請求項1,4に記載の方法ではその他に、量子状態に対してユニタリー変換を行う量子暗号復号化装置が必要になる。
量子暗号記録媒体において利用される量子状態にはさまざまなものが考えられるが、スピンを用いて本発明請求項1〜6を実施する方法を、第一〜第三および第六〜第八の実施例として説明する。また、結合量子ドットを用いて本発明請求項1および3を実施する方法を、それぞれ第四および第五の実施例として説明する。
そこでまず、スピンを例に取り量子状態の一般的性質について述べた後、各実施形態に必要とされる装置の基本的構成要素、それら装置を利用した情報記録方法について順次説明する。
(量子状態の一般的性質)
(性質1:固有状態)
スピンとは、電子や光子、陽子や原子核などの粒子がもつ固有の角運動量のことで、粒子によりその値が定まっており、プランク定数hを2πで割ったものを基本単位として、必ずその整数倍か半整数倍の値をとる。スピンは空間的に任意の方向を向くことができるが、ある方向の成分を測定した場合、かならず基本単位の整数倍もしくは半整数倍の値しか測定されないという特徴を持つ。ここでは簡単のため、電子のようないわゆる1/2スピン系に限定して話を進める。
1/2スピン系では、任意の方向のスピン成分測定により、必ず+1/2か、-1/2のどちらかだけが測定結果として得られる。どちらの測定結果が得られるかは、測定直前にスピンがどの方向を向いていたかに依存する。図2に示すように、たとえばZ方向成分の測定を行う場合、測定直前にスピンがZ軸正方向を向いていた場合には必ず+1/2、負方向を向いていた場合には必ず-1/2が測定結果として得られる。
このように測定により必ず同じ測定結果が得られる量子状態を固有状態と呼ぶ。なお、系が固有状態にあれば、繰り返し同じ測定をしても系は同じ状態にとどまることができ、必ず同じ測定結果が得られる。
(重ねあわせ状態)
一方、図3に示すように、スピンがZ軸正方向や負方向以外の方向を向いていた場合にはZ軸方向成分の測定結果が一定しない。この測定結果のばらつきは、いくら測定装置を改善しても決して取り除くことができない原理的なものである。たとえばX軸やY軸に平行な方向を向いていた場合には、Z方向成分の測定結果として+1/2と-1/2がそれぞれ50%の確率で得られる。
このように測定結果が確率的である状態のことを重ねあわせ状態と呼ぶ。この重ね合わせ状態は量子状態に特有であり、古典的な状態には対応するものがない。
(不可逆性)
一旦測定をおこなうと、その瞬間に量子状態は変化する。例えばスピンがもともとX軸と平行な方向を向いていたとしても、Z方向成分測定により+1/2の測定結果を得た場合にはZ軸正方向に、-1/2の測定結果を得た場合にはZ軸負方向にスピンが向くことになる。つまり、重ねあわせ状態にある系を測定すれば、確率的に固有状態のどれかに変化する。どの状態に変化したかは、得られた測定結果から知ることはできるが、測定前にどの方向を向いていたかを知ることはできない。また、この変化は不可逆であり、なんらかの操作により測定前の状態に戻して測定しなおすこともできない。
(識別不能性)
系がどのような状態にあるのかを完全に知る方法は存在しないことが量子力学により示されている。スピンの例で言えば、スピンがどの方向を向いているのかを完全に知ることはできない。唯一可能であるのが測定による物理量の決定である。この測定により知ることができるのは、測定直前に系がその測定結果に対応する固有状態にあったか、もしくはその固有状態を含む重ね合わせ状態にあったかのどちらかであるということだけである。スピンの例で言えば、Z軸方向成分の測定という物理量を測定をすることにより、その値を知ることができる。しかし、図4に示すように、この時、たとえば+1/2の測定結果を得たとして、わかるのはスピンがZ軸負方向を向いていなかったということだけで、もともとZ軸正方向を向いていて+1/2の測定結果が必然的に得られたのか、それともX軸正方向やY軸性方向などを向いていて偶然に+1/2の測定結果が得られたのかを区別することはできない。
(複製不能性)
未知の量子状態を複製することはできない。スピンの例で言えば、どの方向を向いているかわからないスピンの向きを複製することはできない。これを複製不可能性と呼ぶ。この性質は量子力学の原理により保障されている。唯一複製が可能なのは、測定を行って物理量の値を確定させた固有状態の複製である。つまり、測定を行って、ある物理量の値を得れば、その瞬間には系はその値に対応した固有状態であることが保証されているので、その状態を複製することができる。スピンの例で言えば、スピンのある方向成分を確定させ、固有状態にした後、その測定値に従って同じ状態を多数作り出すことだけは可能である。この方法は、系がもともと固有状態にあることが保証されている場合には完全な複製を作り出すことを可能とする。しかし、系が重ねあわせ状態にあった場合にはもともとの複製を作り出さない。何故ならば、測定により系は固有状態に変化し、その状態が複製されるのであるが、これはもともとの重ねあわせ状態とは異なるからである。
また、もともとの状態が固有状態と重ね合わせ状態のどちらであるかわからない場合には、たまたま系が固有状態にあった場合には複製に成功するが、重ねあわせ状態であった場合には複製に失敗する。複製すべき対象が多数存在し、その中に重ね合わせ状態が十分な割合で存在する場合には、複製に完全に成功する可能性は非常に小さくなる。
つまり、スピンの例で言えば、測定を行う方向成分と平行な状態しか存在していないことが保証されていれば完全な複製を作成することができるが、非平行な状態が混在している可能性がある場合には完全な複製を作成することは不可能である。
(両立できない物理量)
ある種の物理量は、その測定により別の物理量の情報を破壊してしまう。例えば、スピンは任意の方向成分を測定可能であるが、ある方向成分の測定を行うことにより、それと直交する方向の成分に関する情報はすべて失われる。たとえば、測定直前にスピンがX軸正方向を向いていた場合、測定方向としてX軸方向を選択すれば、測定結果として必ず+1/2を得る。しかし、測定方向としてZ軸方向を選択すれば、測定結果として+1/2と-1/2がそれぞれ50%の確率で得られる。また、一旦Z軸方向の測定をしてしまった後では、X軸方向の測定をしても+1/2と-1/2がそれぞれ50%の確率で得られる。つまり、もともとX軸正方向を向いていたという情報はすべて失われるのである。
このように、一方の測定により、他方の情報が損なわれる関係にある物理量を、両立できない物理量と呼ぶ。このような関係にある物理量は、平行でないスピン成分の他に、位置と運動量、光の光子数と位相、超伝導におけるクーパー電子対数と秩序パラメーターなどが知られている。
(保持性)
量子状態は一般には時間的に変化する。この時間変化は量子状態の種類や量子状態が存在している系の構造や、系に相互作用している電場や磁場、電磁波などにより定まる。ただし、特定の条件を整えれば時間的に変化しないこともある。例えばスピンの場合には、固有状態であっても、重ね合わせ状態であっても、磁場や電磁波や熱など、外界との相互作用が無い状態にすれば、その方向を保持することができる。
(ユニタリー変換)
量子状態は可逆的に変化させることができる。例えば、スピンに対して静磁場を印加すると、スピンはその磁場に垂直な面内で一定角速度で回転する、いわゆる歳差運動を行う。その角速度は印加する磁場強度を固定すれば一定であり、磁場の印加を停止すれば回転も停止する。そこで、スピンに強度、向き、時間を制御して磁場を印加すれば、期待する角度だけスピンを回転させることができる。ここで重要なのは、この回転が、初期位置からの相対角度だけを変化させる点である。つまり、たとえばZ軸周りの90度回転は、スピンがもともとZ軸正方向を向いていた場合には向きを何ら変化させないが、Y軸正方向を向いていた場合には回転後にX軸正方向を向くことになる。また、もともとどの方向を向いていたかを知らない状態から回転を行っても、やはりどの方向を向いているかは特定することができない。ただし、スピン回転は、測定による変化とは異なり、測定を行うまでは可逆的であり、ある方向からある角度の回転を行ったとして、測定を行う前に行った回転の逆の角度だけ回転を行えばもとの方向に戻る。このような可逆的状態変換を、一般にユニタリー変換と呼ぶ。
(第一の実施形態)
(第一の実施形態を実施するための記録装置の基本的構成要素)
本発明請求項1の方法を実施するためには、記録すべき情報および読取鍵と呼ばれる情報に応じて特定の量子状態を生成するための量子暗号書込装置、量子状態を保持することができる量子暗号記録媒体、また、読取鍵情報に応じて量子記録媒体に対してユニタリー変換を実行する復号化装置、最終的に量子状態を測定する量子暗号読取装置が必要となる。第一の実施形態では、本発明請求項1の量子状態としてスピンを用いる場合を説明する。
量子状態としてスピンを用いた場合には、初期化が特定の方向にスピンを向けること、ユニタリー変換がスピンを回転させることに相当する。
これら装置はさまざまな方法で実現することができる。たとえば超高真空中の磁場に捕捉したイオンの核スピンを用いる方法なども考えられるが、それでは装置が大掛かりになりすぎ、実用上不便である。そこで、ここでは量子ドット中の余剰電子を用いる方法について説明する。なお、ここで説明する装置は、量子暗号書込装置、量子暗号記録媒体、復号化装置、量子暗号読取装置がすべて一体化したものである。もちろん、各装置、媒体を分離可能な構成をとってもかまわない。
(第一の実施形態のための装置)
第一の実施形態のための量子暗号記録装置の構成を図5に示す。この記録装置は、
余剰電子のスピンを保持するための記録量子ドット501
記録量子ドットにスピン偏極した電子を供給するための強磁性体ソース502
記録量子ドットの電位を変化させるための第一ゲート電極503
余剰電子に垂直方向の磁場を印加するための第一スピン回転コイル504
余剰電子に水平方向の磁場を印加するための第二スピン回転コイル505
余剰電子のスピンを測定するための読取量子ドット506
読取量子ドットの電位を変化させるための第二ゲート電極507
記録量子ドットから読取量子ドットに対し測定方向の正方向にスピン偏極した電子のみを通過させるスピンバルブ508
読取量子ドットから余剰電子を引き抜くためのドレイン電極509
から構成されている。これは1bitの情報を記録するための基本構成単位であり、1bit以上の情報を保持する必要がある場合にはこの基本構成単位を必要な数だけ用意する。なお、上記構成はすべて通常の半導体メモリーのように基板上に集積可能である。
なお、図示していないが、入力される情報などに応じてこれら電極の電位、コイル電流を制御するための制御回路と、ドレイン電極からの電流値の違いにより0もしくは1の信号を出力する出力回路が必要である。スピンの方向を長時間維持するには低温のほうが有利であるので、これら基本構成に冷却装置を付け加えても良い。また、電磁場との相互作用によっても記録に誤りが生じる可能性があるので、電磁場を遮断するためのシールドでメモリーを覆っておいても良い。このシールドの材料としては、金属などの導体や、フォトニック結晶を用いることができる。
この構成で、記録すべき情報および読取鍵と呼ばれる情報に応じてスピンを特定の方向に向けられること、それを保持すること、また、読取鍵情報に応じてスピンを回転させられること、最終的に特定方向のスピン成分を読み出すことができることを以下に説明する。
(各構成要素の基本的な機能)
(量子ドット)
量子ドットとは、電子や正孔などの電荷を、ナノメーターサイズの微小領域に閉じ込めることができる構造のことである。
量子ドットの代表例としては、SiやGaAs等の半導体をSiO2などの絶縁体などで取り囲んだ構造をあげることができる。この構造はドライエッチングやエピタキシャル成長などの半導体加工技術などを利用して作成することができる。これ以外の例としては、伝導性を示すカーボンナノチューブに2箇所の欠陥を生じさせたものがある。欠陥ではさまれた領域が量子ドットとしての性質を示す。カーボンナノチューブの欠陥は、AFMによる物理的操作や、イオン照射による処理などにより形成することができる。
量子ドットは固体から構成されるため、実際には多数の電子が含まれているが、電気的および磁気的に中性状態にした量子ドット内に、一つだけ余剰電子を閉じ込めると、それをスピン1/2の粒子として取り扱えることが知られている。量子ドット内に余剰電子を一つだけ閉じ込めた状態で、外部磁場や電磁波など外部との相互作用が発生しないようにすれば、この量子ドット内の余剰電子を用いてスピンの向きを保持することができる。
第一の実施例のための装置の場合、余剰電子を閉じ込め、スピンを保持する目的で利用する記録量子ドットと、記録量子ドットのスピン情報を読取るために利用する読取量子ドットの二つを利用する。
(量子ドットの初期化と書込み)
記録量子ドット501内に余剰電子がただ1つだけ存在するような状態を作り出すために、ソース502と第一ゲート電極503を利用する。
第一ゲート電極503は絶縁層を隔てて記録量子ドット501の近傍に配置される。ただし第一ゲート電極503と記録量子ドット501間の絶縁体は十分な厚みもしくは障壁高さを持ち、両者間で電子の移動は発生しないようにしておく。第一ゲート電極503は記録量子ドット501の近傍にあるので、第一ゲート電極503の電位を変化させることにより記録量子ドット501の電位を変更できる。
ソース502は、導体で構成されており、かつ電源に接続されているので、電子供給源となることができる。このソース502は薄い絶縁体を隔てて記録量子ドット501の近傍に配置されている。
ソース502の電位も制御できるようにしておく。ソース502と記録量子ドット501を隔てる絶縁体は薄いので、両者間ではトンネリング現象により電子の移動が可能となる。ただし、このトンネリング現象は、次に述べるクーロンブロッケード現象により制御できるようにしておく。
記録量子ドット501には電子をためることができる。ただし、電子は電荷を持ち、互いにクーロン相互作用により反発するので、量子ドット内の電子数が多いほど量子ドットは高いエネルギーを持つことになる。量子ドット内に電子を付け加えるには、この電子数の変化によるエネルギー増大を補うだけのエネルギーを、ソース502と量子ドット間の電位差の形で与える必要がある。この条件が満たされない限り電子数は変化しない。つまりトンネリングは起こらない。これがクーロンブロッケード現象である。
ドットのサイズが小さいほど、クーロン相互作用が大きくなるので、電子数を変化させるための電位差が大きくなり、通常の半導体回路で制御可能なレベルにまで高めることができる。この現象を利用し、ソース502の電位と、記録量子ドット501の電位を第一ゲート電極503を介して制御すれば、記録量子ドット501内に余剰電子を正確に1個だけ注入することができる。なお、クーロンブロッケード現象は、単一電子トランジスターの基本動作原理として利用されており、この現象を制御するための電位条件などについては参考文献(コロナ社刊 春山純志著 単一電子トンネリング概論)などに詳しい。
(スピン注入)
本発明では量子ドット内のスピンを記録すべき情報と読取鍵にしたがって、特定の方向に向ける必要がある。スピンを特定の方向に向けるには、どの方向でもよいがスピンの向きを一旦特定の方向に向け、そこから必要なだけスピンを回転させることで求める方向に向ける事ができる。通常、スピンを特定の方向に向けるには、スピンに磁場を印加した状態で極低温まで冷却する手段が用いられる。スピンが磁場に平行な状態が最低エネルギー状態であるので、極低温にすることにより、スピンを最低エネルギー状態にできるためである。しかしながら、この方法では極低温まで冷却する装置や磁場印加装置が必要になり、装置が大掛かりになる。また、冷却によりスピンが最低エネルギー状態に落ち込むためには、スピンの持つエネルギーが外部に流れる経路が必要であるが、この経路は通常の記録状態を破壊するように働く。したがって、冷却により初期化できる系は、長時間の記録保持に不利である。
そこで、本実施例では強磁性体ソース502を用いる方法を採用する。強磁性体とは常温でもいわゆる磁化という形で、特定の方向にスピンを揃えることができる材料である。そこで量子ドットへの電子の供給源として強磁性体を用いれば、特定の方向に向いた電子を注入することができる。なお、注入時に、スピンの向きが保存されるように、絶縁膜には磁性を持つ不純物が存在しないようにし、かつ余計な外部磁場が印加されないようにする。
(ユニタリー変換)
記録量子ドット501内に注入された余剰電子のスピンの向きは、そのままではソース502の磁化の向きと同じである。そこで、注入後に記録すべき値に応じてスピンの向きを変更する必要がある。スピンに、強度、向き、時間を制御して磁場を印加すれば歳差運動を利用して特定の方向にむけることができることは先に説明した。そこで、記録量子ドット501の近傍にコイルを配置し、そのコイルの位置とそれに流す電流量、時間を制御することで、量子ドットに印加する磁場を制御しながら自由に作り出すことができる。ここでは第一スピン回転コイル504と第二スピン回転コイル505がその役割を果たす。なお、前者は垂直方向の磁場を発生させ、後者は水平方向の磁場を発生させる。このように異なる2方向の磁場を独立に制御できるようにしておけば、任意の方向の磁場を発生させることができ、スピンの向きを任意の方向に向けることができる。
(スピンの読取)
最後にこの量子ドット内の余剰電子のスピン方向成分を読取る方法について説明する。これは、例えば読取量子ドット506およびスピンバルブを利用して行うことができる。
読取量子ドット506は初期状態で電気的および磁気的に中性にしておく。つまり、余剰電子数が0で、スピンを持たない状態にしておく。この読取量子ドット506も、記録量子ドット501同様電位を制御するための第二ゲート電極507が用意されており、その電位を制御できるようにしておく。
記録量子ドット501と読取量子ドット506は絶縁体もしくは半導体を介して接続されている。第一ゲート電極503による記録量子ドット501の電位および、第二ゲート電極507による読取量子ドット506の電位の制御により、絶縁体を隔てた電子トネリングが発生するような電位差を与えた場合のみ余剰電子を記録量子ドット501から読取量子ドット506へ移動させられるようにしておく。
ただし、この二つの量子ドット(記録量子ドット501と読取量子ドット506)間にはスピンバルブもしくはスピンフィルタと呼ばれる特定の方向のスピンを持つ電子のみを通過させ、それとは反対方向のスピンを反射させる機構を配置する。このスピンバルブについては、特許文献(特開2003-152173)などに詳しい記載がある。
ここでは、スピンがZ軸正方向の電子のみを通過させるスピンバルブを利用する場合を説明する。記録保持のための量子ドットに閉じ込められた余剰電子のスピンがZ軸正方向を向いていた場合、100%の確率で読取量子ドット506に電子を輸送することができる。一方、Z軸負方向を向いていた場合、輸送確率は0%である。これ以外の方向を向いていた場合には、その向きに応じて0%〜100%の中間の確率で輸送される。
読取量子ドット506に余剰電子を輸送できたか否かは、読取量子ドット506の近傍に絶縁体を隔てて配置したドレイン電極に流れる電流を検出することで行うことができる。読取量子ドット506からドレイン電極への電子移動は、ソース502から記録量子ドット501への電子輸送のちょうど逆の過程であり、第二ゲート電極507により制御する読取量子ドット506の電位と、ドレイン電極の電位差を十分に与えた場合、読取量子ドット506からドレイン電極509へ電子がトンネリングし、ドレイン電流が流れるようにできる。この電流を通常の半導体回路で構成される増幅器で増幅し、その値を確認することにより余剰電子が読取量子ドット506に存在したかを知ることができる。
つまり、読取量子ドット506に結合したドレイン電流が検出されれば、読取量子ドット506に電子が存在し、ひいてはもともとの記録量子ドット501のスピンの向きがZ軸正方向であったことを検出することができる。この構成により、記録量子ドット501のスピン方向の情報が、読取量子ドット506内の余剰電子数情報に変換され、ドレイン電流の大きさにより検出できるようになる。
なお、この方法ではドレインに流れ込むもともとの電流はきわめて微弱であるので、検出が困難である場合もある。そこで、その場合には、図6のように読取量子ドット506をゲート電極とした電界効果トランジスタを形成し、ソース502からドレインへ流れるドレイン電流で読取量子ドット506内の余剰電子の有無を検出してもよい。この構成では、読取量子ドット506内の余剰電子の有無によりゲート電極の電位が変化し、それにともないチャネルの伝導度が変化するためドレイン電流が余剰電子の有無により変化するためドレイン電流から読取量子ドット506内の余剰電子の有無を知ることができる。また、この構成では余剰電子の有無を知るためのドレイン電流測定を行っても、読取量子ドット506から余剰電子は排出されないので、安定した測定を行うことができる。
以上説明したスピン制御はすべて電気的に、通常のトランジスタを用いて行うことができる。ソース502から記録量子ドット501、読取量子ドット506、最終的にはドレインへの電子輸送はすべてそれぞれの電位を制御することで可能となる。これは通常の半導体を用いて構成した制御回路で行うことができる。スピン回転を行うための回転コイルに流す電流の制御も同様である。また、最終的に情報の読出し結果に対応するドレイン電流の検出も通常の半導体回路で構成することができる。つまり、スピンを特定の方向に向け、回転させ、最終的に読取る過程すべてを通常の半導体回路を用いて電気的に制御することができる。
なお、第一の実施例で必要なのは、あくまで記録すべき情報および読取鍵と呼ばれる情報に応じてスピンを特定の方向に向けるための装置、それを保持することができる量子記録媒体、また、読取鍵情報に応じてスピンを回転させる装置、最終的に特定方向のスピン成分を読み出すことができる装置である。上で説明した以外の方法によって、これを実現しても本発明の実施に影響を与えないのはいうまでもない。
また、上記の装置では、記録、保持、復号化、再生のすべてがひとつの装置で可能となっているが、情報の保持部分を、書き込みを行う機構や復号化、読取を行う機構と分離した構成としてもよい。
(第一の実施形態における記録再生の方法)
次にこの量子暗号記録媒体、量子暗号書込装置、量子暗号復号化装置、量子暗号読取装置を用いた情報の記録、再生の手順について述べる。
(記録)
情報記録者は、まず記録すべき情報を準備する。後述するように、記録すべき情報に数学的暗号化を行っておくと情報の安全性が大きく向上するので、あらかじめ数学的暗号化を行っておくことが好ましい。ただし、数学的暗号化は必須ではない。
ここでは、記録すべき情報が、従来の技術で取り上げた“This is a pen. ”の“”内の文章をASCII表現して鍵“KEY"で暗号化した情報
0011111 0101101 0110000
0111000 1100101 0110000
0111000 1100101 0111000
1101011 0110101 0111100
0100101 1101011 1111001
である場合を例に取り説明する。次に情報記録者は、記録すべき情報の他に、読取鍵と呼ばれる情報と、読取鍵から記録に用いる基底を決定するアルゴリズムを用意する。読取鍵に求められる要件は、それを知るものは各bitの記録に用いられている基底を特定できるのに対し、それを知らないものはたとえアルゴリズムを知っていたとしても基底を特定できなくなることである。この読取鍵の情報が漏洩すると、情報の安全性が保障されなくなるため、非正規の情報利用者には容易に推測できないような情報を準備する。ここでは例として、読取鍵PHYを用意したとする。
情報記録者は読取鍵から、用意したアルゴリズムに従い、各bitの記録に利用する基底を決定する。たとえば、これは以下のようにして行うことができる。
この読取鍵のASCII 2進表現は
1010000 1001000 1011001
である。記録すべき情報は105bitであり、上記読取鍵のASCII2進表現は21bitであるので、伸長する必要がある。ここでは最も単純な方法、すなわち記録すべき情報と読取鍵の長さが一致するまで読取鍵を繰り返す方法を用いる。数学的暗号と同様、実際にはこのように周期性の高い鍵の伸長方法ではなく、別の方法を用いることが好ましいが、この鍵の伸長方法は本発明の実施の基本的な部分には影響を与えないのでここではこの例を用いて説明する。このように、記録すべき情報と同じ長さのbit列を準備し、bit値が0であればA基底、1であればB基底を用いるという方法で各bitに用いる基底を決定することができる。もちろん、上に示したアルゴリズム以外で、読取鍵から各bitの基底を決定してもよい。ただし、読取鍵を知らなければ各bitに用いられた基底を特定できないこと、読取鍵を知るものは各bitの基底を一意に決定できることが必要条件である。
通常は、量子暗号書込装置に基底決定アルゴリズムを内蔵しておき、読取鍵が入力されれば各bitの基底を自動的に決定するようにしておく。この場合、記録者は、量子暗号書込装置の制御部に記録すべき情報と、読取鍵を入力する。なお、以下のすべての実施例で基底決定アルゴリズムが量子暗号書込装置に内蔵されているものとして説明する。もちろん、アルゴリズムの内蔵は必須ではなく、記録者が別のコンピュータや、場合によっては手計算で読取鍵から基底を決定して量子暗号書込装置に入力してもよい。
量子暗号書込装置の制御部は、これら情報に基づいて、各記録量子ビットに生成すべき量子状態を選択する。量子状態の選択方法は、各基底に対応した正しい復号化操作を実行した後に測定を行うと記録された情報に対応した測定値が得られるのに対し、各bitの基底を特定できない場合に正しい復号化操作が実行できず、正しい復号化操作を行わない状態で測定を行うと、測定結果から記録された情報を特定できないよう決定する。
これは例えば、
記録すべき情報が0, 読取鍵により指定される基底がAの時A0
記録すべき情報が1, 読取鍵により指定される基底がAの時A1
記録すべき情報が0, 読取鍵により指定される基底がBの時B0
記録すべき情報が1, 読取鍵により指定される基底がBの時B1
とし、状態A0からB1を以下のように選択することで実現可能である。
この4つの量子状態の具体的な内容は、2つの復号化手順UA, UBと、2つの固有状態S0, S1の選択によって決定される。
固有状態S0およびS1は、測定により区別可能な2種類の固有状態であればよい。本実施例では、S0およびS1をそれぞれスピンがZ軸正方向およびZ軸負方向を向いている状態とする。
復号化手順UAおよびUBは、2種類の異なるユニタリー変換である。このユニタリー変換は、以下の2条件が満たされるように選択する。
条件1)お互いが異なること
条件2)ユニタリー変換は可逆変換であるので、かならず逆変換が存在する。そこでUAおよびUBの逆変換をそれぞれUA-1およびUB-1とする。スピンの場合は、逆回転がそれに対応する。記録に用いる4つの量子状態は、これらS0、S1およびUA-1およびUB-1により
A0 = UA-1S0
A1 = UA-1S1
B0 = UB-1S0
B1 = UB-1S1
として定める、これら4つの量子状態から定義される4つの量子状態
状態A0にユニタリー変換UBを行った状態
状態A1にユニタリー変換UBを行った状態
状態B0にユニタリー変換UAを行った状態
状態B1にユニタリー変換UAを行った状態
の中に少なくとも1つ重ねあわせ状態が含まれること(理想的には4つの量子状態すべてが重ねあわせ状態となること)。例えば、UAとして回転をしないこと、UBとしてY軸まわりの90度回転をすることを選択した場合、A0はスピンがZ軸正方向を向いている状態、A1はZ軸負方向を向いている状態、B0はスピンがX軸正方向を向いている状態、B1はX軸負方向を向いている状態となる。
図8に示すように、A0およびA1に対してユニタリー変換UBを実行したり、B0およびB1に対してユニタリー変換UAを実行すると、状態はB0およびB1となる。これらは重ねあわせ状態となっているため、上記条件を満たしていることがわかる。
以下の実施例では、A0およびA1での記録をA基底での記録、B0およびB1での記録をB基底での記録と呼ぶ。
先ほどの記録すべき情報と読取鍵から指定される量子状態は、それぞれ
B0,A0,B1,A1,A1,A1,A1 B0,A1,A0,B1,A1,A0,A1 B0,A1,B1,B0,A0,A0,B0
B0,A1,B1,A1,A0,A0,A0 B1,A1,A0,B0,A1,A0,A1 B0,A1,B1,B0,A0,A0,B0
B0,A1,B1,A1,A0,A0,A0 B1,A1,A0,B0,A1,A0,A1 B0,A1,B1,B1,A0,A0,B0
B1,A1,B0,A1,A0,A1,A1 B0,A1,A1,B0,A1,A0,A1 B0,A1,B1,B1,A1,A0,B0
B0,A1,B0,A0,A1,A0,A1 B1,A1,A0,B1,A0,A1,A1 B1,A1,B1,B1,A0,A0,B1
となる。
(書込み)
量子暗号書込装置を利用し、量子記録媒体の各情報を記録する部分に選択した量子状態を生成する。本実施例で言えば、制御部により電極電圧やコイル電流を制御し、各記録量子ドット501に記録すべき量子状態を生成する。すなわち、ソース502と第一ゲート電極503の電圧を制御し、各記録量子ドット501に余剰電子を1つだけ注入し、各記録量子ドット501に生成すべき状態に応じて、第一および第二スピン回転コイルの電流を制御して各量子ドットに印加する磁場を制御して、記録量子ドット501内のスピンの向きを先に指定した方向(A0であればZ軸正方向、A1であればZ軸負方向、B0であればX軸正方向、B1であればX軸負方向)に向ける。
(保持)
量子暗号記録媒体に形成した量子状態を、復号化まで保持する。本実施例で言えば、各記録量子ドット501に注入した余剰電子のスピンの向きを復号化まで保持する。そのために、各記録量子ドット501に余計な外部磁場や電磁波などが印加されないようにする。
この状態で情報の記録者は、この量子暗号記録媒体と、読取鍵の情報、読取鍵から各bitの基底を特定するためのアルゴリズム、それに数学的暗号を復号化するための鍵とそれにより数学的暗号の復号化をするためのアルゴリズムを正規の情報利用者に渡す。なおこれらのうち、読取鍵から基底を特定するためのアルゴリズムと、数学的復号化をするためのアルゴリズムは公知としてよい。ただし、どちらも読取鍵と数学的暗号の鍵がなければ、基底の特定と数学的暗号の復号化ができないことが条件である。また、通常の記録方法同様、量子暗号記録媒体は非正規の情報利用者の手に渡る可能性があるものとする。ただし、読取鍵と数学的暗号を復号化するための鍵については、正規の情報利用者のみが知っているものとする。
(復号化)
正規の情報利用者は、受け取った量子暗号記録媒体に対し、量子暗号復号化装置を用いて、復号化と呼ばれる操作を読取前に行う。復号化操作とは、情報を保持している量子状態をすべて固有状態にするユニタリー変換である。
説明中の実施例ではスピンを量子状態として用いているので、スピンを回転させ、すべてZ軸に平行な方向に向けることに対応する。
記録に用いられている量子状態は
A0 = UA-1S0
A1 = UA-1S1
B0 = UB-1S0
B1 = UB-1S1
の4つであるので、A0およびA1にユニタリー変換UAを実行し、B0およびB1にユニタリー変換UBを実行すれば
UA A0 = UA UA-1 S0 = S0
UA A1 = UA UA-1 S1 = S1
UB B0 = UB UB-1 S0 = S0
UB B1 = UB UB-1 S1 = S1
となり、それぞれ固有状態に変換される。復号化の様子を図7に示しておく。つまり、A0およびA1にとっては変換UAが復号化操作であり、B0およびB1にとっては変換UBが復号化操作である。本実施例では、UAとして回転しないこと、UBとしてY軸まわりの90度回転を選択しているので、これらが復号化操作の実態である。この復号化操作は、本実施例の装置では、第一および第二スピン回転コイルに流す電流を制御することで行うことができる。
先に述べたように、正規の情報利用者には、基底を特定するための情報である読取鍵が伝達されている。そこで、正規の情報利用者は、各記録量子ドット501に対して行うべき復号化を特定することができる。
この実施例では、正しい読取鍵とアルゴリズムで指定される、各記録量子ドット501に行うべき復号化は
UB,UA,UB,UA,UA,UA,UA UB,UA,UA,UB,UA,UA,UA UB,UA,UB,UB,UA,UA,UB
UB,UA,UB,UA,UA,UA,UA UB,UA,UA,UB,UA,UA,UA UB,UA,UB,UB,UA,UA,UB
UB,UA,UB,UA,UA,UA,UA UB,UA,UA,UB,UA,UA,UA UB,UA,UB,UB,UA,UA,UB
UB,UA,UB,UA,UA,UA,UA UB,UA,UA,UB,UA,UA,UA UB,UA,UB,UB,UA,UA,UB
UB,UA,UB,UA,UA,UA,UA UB,UA,UA,UB,UA,UA,UA UB,UA,UB,UB,UA,UA,UB
となる。
通常は、読取鍵から復号化操作を決定するアルゴリズムを量子暗号復号化装置の制御部分に組み込んでおき、制御部に読取鍵と復号化の指示さえ入力すれば自動的に対応した復号化が実行されるようにしておく。
このような復号化操作を行った後の各記録量子ドット501の状態は、
S0,S0,S1,S1,S1,S1,S1 S0,S1,S0,S1,S1,S0,S1 S0,S1,S1,S0,S0,S0,S0
S0,S1,S1,S1,S0,S0,S0 S1,S1,S0,S0,S1,S0,S1 S0,S1,S1,S0,S0,S0,S0
S0,S1,S1,S1,S0,S0,S0 S1,S1,S0,S0,S1,S0,S1 S0,S1,S1,S1,S0,S0,S0
S1,S1,S0,S1,S0,S1,S1 S0,S1,S1,S0,S1,S0,S1 S0,S1,S1,S1,S1,S0,S0
S0,S1,S0,S0,S1,S0,S1 S1,S1,S0,S1,S0,S1,S1 S1,S1,S1,S1,S0,S0,S1
となり、すべての記録量子ドット501内の状態が、固有状態となっている。この時点では余剰電子はまだ記録量子ドット501に保持されたままである。ただし、そのスピンの向きはすべてZ軸に平行となっている。
(読取)
系を固有状態に変換できたら、次に量子暗号読取装置を利用して量子暗号記録媒体の測定を行う。本実施例では、読取量子ドット506とドレインを利用すれば可能であることは先に説明した。具体的には、読取を指示する信号を制御部に入力することで、制御部は記録量子ドット501からスピンバルブを通して読取量子ドット506に電子を輸送する。輸送が完了した時点で読取量子ドット506に余剰電子が存在するかをドレイン電流を用いて検出し、そのドレイン電流から読取量子ドット506に余剰電子が存在していたかを判定する。このドレイン電流の大きさがもともと記録量子ドット501内に存在した余剰電子のスピンのZ軸方向成分に対応することは先に説明したとおりである。そこで、このドレイン電流の大きさの違いを、0および1に対応づけて信号を出力する回路を利用して出力する。
あらかじめ復号化を行っているので、記録量子ドット501内の状態はすべて固有状態となっている。したがって、この状態で測定を行えば、必ず各固有状態に対応した測定結果が出力として得られ、
0011111 0101101 0110000
0111000 1100101 0110000
0111000 1100101 0111000
1101011 0110101 0111100
0100101 1101011 1111001
となる。
これは、記録した数学的暗号化を施した情報に他ならない。したがって、ここから数学的暗号の暗号鍵“KEY”を用いて復号化を行い、ASCIIコード表にしたがって解釈を行えば、記録者が伝達したかった情報“This is a pen. ”の“”内の文章を正規の情報利用者が得ることができる。
以上のように、本発明の量子暗号記録装置と記録方法により、従来の記録方法同様、正規の情報利用者には正しい情報を伝達することができる。
(非正規の読取)
次に非正規の情報利用者による不正解読について説明する。先に仮定したように、非正規の情報利用者は情報が記録された媒体は入手でき、読取鍵から基底を指定するアルゴリズム、数学的復号化のためのアルゴリズムは知っているが、読取鍵および数学的暗号鍵を知らないものとする。
情報の保持までは正規の情報利用と同一であるので省略する。
非正規の情報利用者は読取鍵を知らないので、各記録量子ドットの記録に用いられた基底を特定することができず、したがって行うべき正しい復号化を特定することができない。そこでまず、数学的暗号化の不正解読のように、総当りで読取鍵を試す不正解読戦略について説明する。例えばまず"AAA"を読取鍵候補として用いた場合を考える。
この読取鍵候補“AAA" により指定される復号化操作は
UB,UA,UA,UA,UA,UA,UB UB,UA,UA,UA,UA,UA,UB UB,UA,UA,UA,UA,UA,UB
UB,UA,UA,UA,UA,UA,UB UB,UA,UA,UA,UA,UA,UB UB,UA,UA,UA,UA,UA,UB
UB,UA,UA,UA,UA,UA,UB UB,UA,UA,UA,UA,UA,UB UB,UA,UA,UA,UA,UA,UB
UB,UA,UA,UA,UA,UA,UB UB,UA,UA,UA,UA,UA,UB UB,UA,UA,UA,UA,UA,UB
UB,UA,UA,UA,UA,UA,UB UB,UA,UA,UA,UA,UA,UB UB,UA,UA,UA,UA,UA,UB
となる。しかしながら、当然これは正規の復号化操作と完全には一致せず
○○×○○○× ○○○×○○× ○○××○○○
○○×○○○× ○○○×○○× ○○××○○○
○○×○○○× ○○○×○○× ○○××○○○
○○×○○○× ○○○×○○× ○○××○○○
○○×○○○× ○○○×○○× ○○××○○○
となる。ただし、○は正規の操作と一致したもの、×は正規の操作と一致しなかったものである。
この読取鍵候補に従って、制御部が記録量子ドットに対して復号化を行うと、各記録量子ドットの状態は
S0,S0,B0,S1,S1,S1,B0 S0,S1,S0,B0,S1,S0,B0 S0,S1,B0,B1,S0,S0,S0
S0,S1,B0,S1,S0,S0,B1 S1,S1,S0,B1,S1,S0,B0 S0,S1,B0,B1,S0,S0,S0
S0,S1,B0,S1,S0,S0,B1 S1,S1,S0,B1,S1,S0,B0 S0,S1,B0,B0,S0,S0,S0
S1,S1,B1,S1,S0,S1,B0 S0,S1,S1,B1,S1,S0,B0 S0,S1,B0,B0,S1,S0,S0
S0,S1,B1,S0,S1,S0,B0 S1,S1,S0,B0,S0,S1,B0 S1,S1,B0,B0,S0,S0,S1
となる。このうち、S0およびS1は固有状態であるのに対し、B0およびB1は重ねあわせ状態である。このように間違った復号化操作を行った場合には必ず重ねあわせ状態が発生する。この特徴は先の量子状態の選択条件により生じる。
この状態で測定を行うと、重ね合わせ状態となっている量子ドットからは、記録した本来の情報とは何の相関もない値、0もしくは1がそれぞれ50%の確率で得られる。
記録量子ドットがこのような状態で、読取を制御部に指示すると、最終的に出力される信号の一例は
0001111 0101101 0100000
0111000 1101101 0100000
0111001 1101101 0111000
1111011 0110101 0111100
0110100 1100011 1100001
となる。ただし、重ねあわせ状態の部分は確率的に結果が異なるため、これはあくまでも一例である。
これは、本来の暗号文とは異なっている。本来の暗号文と一致している部分を○とし、異なっている部分を×とすると、
○○×○○○○ ○○○○○○○ ○○×○○○○
○○○○○○○ ○○○×○○○ ○○×○○○○
○○○○○○× ○○○×○○○ ○○○○○○○
○○×○○○○ ○○○○○○○ ○○○○○○○
○○×○○○× ○○○×○○○ ○○××○○○
となる。
この読み出した情報を、たとえ正しい数学的暗号鍵“KEY”で復号したとしても、2進表現は
1110000 0101001 0101111
0100011 0001001 0101111
0100011 0001001 0100011
0000010 0100101 0100001
0100101 0001110 0001111
となり、本来の平文の2進表現とは一致しない。もちろんこれをASCIIコードにしたがって解釈しても
pR#G#FGJCK
となり、当然もとの平文とは異なる。
間違った復号化操作を行って読み出した情報に対していかなる数学的操作を行っても記録された情報を復元することはできない。なぜならば、間違った復号化操作後の読み出しにより、記録された情報とは無関係な値に、確率的に変化してしまっているためである。
考えられるすべての数学的暗号の不正解読に失敗した場合、非正規の情報利用者は、読取鍵による復号化が間違っていたことを知ることができる。
そこで次に、非正規の情報利用者が通常の数学的暗号の不正解読のように、別の読取鍵を試す場合を考える。通常の数学的暗号化であれば、ある鍵候補による解読を試みて失敗しても、もともとの暗号文そのものが失われるわけではない。したがって、もともとの暗号文に別の鍵候補を試すだけでよい。一方、本発明の場合、読取鍵候補による復号化が間違っていたのであるから、復号化の段階からやり直す必要がある。
非正規の情報利用者は、すでに復号化を行い、読取までを行ってしまっているので、復号化からやり直すためには復号化前の状態を復元しなければならない。非正規の情報利用者は、自らが試した読取鍵が"AAA"であることと、その場合の測定結果を知っているので、これらの情報を利用して復号化前の状態を復元するよう試みるしかない。
非正規の情報利用者は自らが試した読取鍵を知っているので、各ビットに対して行った復号化操作を特定することができる。したがって、測定直前の状態を特定できれば、その状態に復号化操作の逆変換を実行することにより復号化前の状態を復元できる。
ところが、図9および10に示すように、ある読取鍵である読取結果を得たとして、その読取結果を与える可能性のある状態はそれぞれのbitに対し、常に三種類存在する。量子状態の識別不能性から、非正規の情報利用者は各記録状態がどの状態であったのかを特定することができない。
同じ読取結果を与える別の状態からは正しい情報は読み出せない。
例えば、読取直前の状態がすべて固有状態であった、つまり
S0,S0,S0,S1,S1,S1,S1 S0,S1,S0,S1,S1,S0,S1 S0,S1,S0,S0,S0,S0,S0
S0,S1,S1,S1,S0,S0,S0 S1,S1,S0,S1,S1,S0,S1 S0,S1,S0,S0,S0,S0,S0
S0,S1,S1,S1,S0,S0,S1 S1,S1,S0,S1,S1,S0,S1 S0,S1,S1,S1,S0,S0,S0
S1,S1,S1,S1,S0,S1,S1 S0,S1,S1,S0,S1,S0,S1 S0,S1,S1,S1,S1,S0,S0
S0,S1,S1,S0,S1,S0,S0 S1,S1,S0,S0,S0,S1,S1 S1,S1,S0,S0,S0,S0,S1
と仮定しよう。
この状態に対して、読取鍵"AAA"に対応する復号化の逆変換を実行しても、その後の記録量子ドット内の状態は
B0,A0,A0,A1,A1,A1,B1 B0,A1,A0,A1,A1,A0,B1 B0,A1,A0,A0,A0,A0,B0
B0,A1,A1,A1,A0,A0,B0 B1,A1,A0,A1,A1,A0,B1 B0,A1,A0,A0,A0,A0,B0
B0,A1,A1,A1,A0,A0,B1 B1,A1,A0,A1,A1,A0,B1 B0,A1,A1,A1,A0,A0,B0
B1,A1,A1,A1,A0,A1,B1 B0,A1,A1,A0,A1,A0,B1 B0,A1,A1,A1,A1,A0,B0
B0,A1,A1,A0,A1,A0,B0 B1,A1,A0,A0,A0,A1,B1 B1,A1,A0,A0,A0,A0,B1
となり、これは本来記録されていた状態とは異なる。
もちろん、この状態に対して本来の読取鍵“PHY"に従って、復号化を行っても
S0,S0,B1,S1,S1,S1,S1 S0,S1,S0,B0,S1,S0,S1 S0,S1,B1,B1,S0,S0,S0
S0,S1,B0,S1,S0,S0,S0 S1,S1,S0,B0,S1,S0,S1 S0,S1,B1,B1,S0,S0,S0
S0,S1,B0,S1,S0,S0,S1 S1,S1,S0,B0,S1,S0,S1 S0,S1,B0,B0,S0,S0,S0
S1,S1,B0,S1,S0,S1,S1 S0,S1,S1,B1,S1,S0,S1 S0,S1,B0,B0,S1,S0,S0
S0,S1,B0,S0,S1,S0,S0 S1,S1,S0,B1,S0,S1,S1 S1,S1,B1,B1,S0,S0,S1
となり、各量子ドットは固有状態にならない。もちろん、この状態で読出しを行ったとしても、先ほど間違った読取鍵で復号化した後読み出した場合と同様、元の記録文とは部分的に確率的に異なる文が得られ、そこから、いかなる数学的な不正解読手順をおこなっても、もともとの平文を得ることはできない。
ある測定結果を与える測定前の状態の組み合わせは無数に存在する。特に、間違った復号化をした場合の状態がすべて重ねあわせ状態となるように記録に用いる状態を選択しておけば、ある測定結果を与える測定前の状態で表現可能な文は、そのbit値で表現できるすべてになる。したがって、非正規の情報利用者は記録された情報を一切読み取ることができない完全秘匿状態となる。
また、間違った復号化をした場合の状態の中に、固有状態が含まれていたとしても、状態選択の取り決めから、必ず重ね合わせ状態が含まれており、そのbitについては記録された情報とは確率的に異なる値となっている。非正規の情報利用者は各bitの正しい復号化操作を特定できないのであるから、どのbitが確率的に変化したのかを特定することができない。したがって、すべてのbitが確率的に変化している可能性があり、やはり記録されていた情報を特定することができない。
このように、本発明の場合、数学的暗号化のように読取鍵を総当りで試して不正解読するという戦略は実行不可能である。
これ以外の不正解読の戦略として、ユニバーサルな復号化を試みる場合についても説明する。ユニバーサルな復号化とは、情報記録に利用された個々の基底を特定せずに、すべてに同一のユニタリー変換を施し、それにより記録状態をすべて固有状態に変換することである。実際にはこれは不可能である。なぜならば、A0およびA1を固有状態に変換するユニタリー変換UAとB0およびB1を固有状態に変換するユニタリー変換UBが異なるようにA0〜B1を選択してあるためである。基底を特定できない状態でどのようなユニタリー変換を施しても、必ず重ね合わせ状態が残り、測定により記録された情報とは異なる情報が得られる可能性が発生する。
非正規の情報利用者が正しい情報をすべて読み取るには最初の復号化で正しい読取鍵を当てる必要があり、これは読取鍵の候補を十分多くしておけば、実用上無視できる程度まで発生可能性を下げることができる。つまり、読取鍵を知らない非正規の情報利用者は情報が正しく読み出せない。
従来の数学的暗号が完全な安全性を得るために、記録する情報と同じ長さの完全ランダムな情報を必要としたのに対し、本発明の方法では、たとえ記録する情報よりも短い読取鍵を利用したとしても、記録された情報のすべてを不正解読されるのは、最初の復号化で正しい読取鍵を当てた場合だけである。よって、従来の数学的暗号よりもより高い安全性をより簡単に得ることができる。
(数学的暗号と併用することの効果)
本発明の特徴は、記録する情報があらかじめ数学的に暗号化されていた場合、正しい復号化を行い正しい情報を読取ったのか、それとも間違った復号化により間違った情報を読取ったのかを直接判別することが不可能な点である。これは、重ね合わせ状態の測定を行っても、その測定結果に対応する固有状態に対して測定を行った結果と区別がつかないことに起因している。したがって、記録された情報が数学的に暗号化されていた場合、非正規の情報利用者は数学的復号化に成功してはじめて、正しい読取鍵による復号化を行えたことがわかる。ところが、正しい読取鍵によって復号化されていなければ、正しい数学的復号化も不可能である。つまり、非正規の情報利用者が正しい読取鍵であることを知ることができるのは、正しい読取鍵を用いて復号化し、なおかつ数学的暗号の解読に成功した場合のみである。この性質は、不正解読を妨げる上で重要である。
非正規の情報利用者は、記録された情報のすべてを一度に復号化する以外に、その一部分に対してのみ復号化をすることが可能である。そこで、情報の一部にある読取鍵候補を試し、それが間違っていることが判明すれば、残りの部分に別の鍵を試すことが可能である。もちろん、正しい読取鍵を探し当てるまでに間違った読取鍵を用いて復号化し読取ってしまった部分の情報は失われてしまうが、正しい読取鍵を探し当てた後に残っている情報量が多ければ非正規の情報利用者に伝わる情報が多くなる。
ところが、本発明において記録する情報をあらかじめ数学的に暗号化しておけば、上に述べたように数学的復号化に成功してはじめて、正しい読取鍵による復号化に成功したことを知ることができる。逆にいえばあらゆる数学的復号化に失敗しなければ読取鍵が誤っていたと結論付けることができない。つまり、一つの読取鍵候補の検証に、考えうるすべての数学的復号化を試さなければならない。数学的復号化の試行には時間や計算機資源が必要であるから、正しい読取鍵の発見を遅らせることになる。
例えば、読取鍵候補がn個あり、数学的復号化手順候補がm個存在する場合、一つの読取鍵候補による読出しにs1秒、読取られた暗号文に対する数学的復号化手順の試行ひとつにs2秒必要だとすると、すべての読取鍵候補、数学的復号化手順の試行に
n×(s1+m×s2)
秒が必要になる。これは数学的暗号化を行っていない場合の時間 n×s1や、数学的暗号化だけを行っている場合の時間m×s2に比べて大きい。したがって、部分ごとに復号化鍵を試す方法に対しても、数学的暗号化を併用することで、情報が意味を持つ時間内に読取鍵が特定される危険性を引き下げることが可能になる。
(読取鍵による暗号化と数学的暗号化のブロックや周期の変更)
先の実施例では、数学的暗号の鍵も読取鍵もどちらも21bitの情報を用い、同じ伸長方法を用いた。そのため、数学的暗号化と読取鍵による暗号化が同じ21bit周期で行われている。しかも、ASCII符号化も7bit周期であるために、この21bit周期と一致している。このようにASCII符号化、数学的暗号化、読取鍵による暗号化のすべてが同じ周期をもつと、暗号化された状態を21bitごとに解読を試み、正しい読取鍵、数学的暗号鍵を用いれば、もともとの平文の連続した情報(ここでは21bitなので、3文字分)が読取られる。非正規の情報利用者は不正解読に成功したか否かを、復号文が平文として持つべき特徴を持っているかで判断するので、このようにもともとの平文の中で連続した情報が得られると不正解読に成功したかどうかを判断しやすい。
たとえば、先ほどの例で言えば、先頭21bitを正しい読取鍵と数学的暗号化鍵で復号化し、ASCIIコードで解釈すれば、"Thi"の括弧内の文章が得られる。平文が自然言語である場合、連続して現れる文字には偏りがある。例えば英語の文章であれば文章中に"Thi"が表れる頻度は、間違った読取鍵"AAA"と正しい数学的暗号鍵"KEY"を用いて読み出した文章の先頭21bitのASCII解釈" pR#"が表れる頻度よりも明らかに大きい。したがって、このような特徴をもとに一部分のみの復号化により読取鍵の検証を行うことができる。
この問題を避けるには、読取鍵で指定される周期単位を、平文のなかで連続しないようにすればよい。例えば、図11に示すように、数学的暗号化を行った後、異なる文字間でビットの置換を行った後、読取鍵による暗号化を行えば、たとえ先頭21bitを正しい読取鍵で復号化したとしても、それが正しい復号化であるのかどうかを判断することはできない。したがって、より大きな単位で読取鍵の試行を行う必要が生じ、それだけ正しい読取鍵を発見されるまでに破壊される情報量が増大する。
(複製不能性)
なお、量子力学の複製不能性原理により、読取を行わず複製することも原理的に不可能である。したがって、本発明の量子情報記録媒体とそこに記録された情報を認証に利用すれば、偽造が不可能な認証用カードを作成することができる。
(第二の実施形態)
(第二の実施形態を実施するための記録装置の基本的構成要素)
本発明請求項2の方法を実施するためには、記録すべき情報および読取鍵と呼ばれる情報に応じて少なくとも2つ以上の両立できない物理量から特定の物理量を選択してそれを基底として用い、情報と対応づけた量子状態を生成するための量子暗号書込装置、その状態を保持することができる量子暗号記録媒体、また、読取鍵情報に応じて特定の物理量を選択して測定をする量子暗号読取装置が必要となる。第二の実施形態では、本発明請求項2の量子状態としてスピンを用いる場合を説明する。
両立できない物理量としてスピンの異なる方向成分を用いた場合には、スピンを特定の方向に向けるための装置が量子暗号書込装置であり、読取鍵情報に応じて少なくとも2つ以上のスピンの方向から特定の方向を選択して量子暗号記録媒体のスピン成分を読み出すことができる装置が量子暗号読取装置となる。
これら装置はさまざまな方法で実現することができる。ただし、第一の実施例同様量子ドットを用いたものが最も実施に適しているので、ここではそれについて説明する。
(第二の実施形態のための装置)
第二の実施形態のための量子暗号記録装置の構成を図12に示す。
この記録装置は、
余剰電子のスピンを保持するための記録量子ドット1201
記録量子ドットにスピン偏極した電子を供給するための強磁性体ソース1202
記録量子ドットの電位を変化させるための第一ゲート電極1203
余剰電子に垂直方向の磁場を印加するための第一スピン回転コイル1204
余剰電子に水平方向の磁場を印加するための第二スピン回転コイル1205
余剰電子のスピンのZ方向成分を測定するための第一読取量子ドット1206
余剰電子のスピンのX方向成分を測定するための第二読取量子ドット1207
第一読取量子ドットの電位を変化させるための第二ゲート電極1208
第二読取量子ドットの電位を変化させるための第三ゲート電極1209
記録量子ドットから第一読取量子ドットに対しZ軸正方向にスピン偏極した電子のみを通過させるスピンバルブ1210
記録量子ドットから第二読取量子ドットに対しX軸正方向にスピン偏極した電子のみを通過させるスピンバルブ1211
第一読取量子ドットから余剰電子を引き抜くためのドレイン電極1212
第二読取量子ドットから余剰電子を引き抜くためのドレイン電極1213
から構成されている。これは1bitの情報を記録するための基本構成単位であり、1bit以上の情報を保持する必要がある場合にはこの基本構成単位を必要な数だけ用意する。なお、上記構成はすべて通常の半導体メモリーのように基板上に集積可能である。
なお、図示していないが、これら電極の電位、コイル電流を制御するための制御回路と、ドレイン電極を流れるドレイン電流値の違いにより0もしくは1の信号を出力する出力回路から構成されている。第一の実施形態のための装置同様、シールドや冷却装置を必要に応じて付け加えておく。
この装置の構成は、基本的には第一の実施形態のための装置に類似している。ただし、第一の実施形態の場合、スピン方向成分を測定する手段としては、特定の一方向成分のみを測定する手段のみを用いるのに対し、第二の実施形態の場合、異なる2方向から選択してスピン成分を測定するための装置を用いる点が異なる。この異なる2方向から選択してスピン成分を測定するためには、それぞれ異なった方向成分に対応する2種類のスピンバルブ1210および1211と、それにより記録量子ドット1201に接続された2つの読取量子ドット1208および1209と、各量子ドットの余剰電荷の有無を測定する機構を用意すればよい。なお、どちらのスピンバルブおよび読取量子ドットを利用してスピン測定を行うかは、制御装置により選択できるようにしておく。
なお、第二の実施例で必要なのは、あくまで記録すべき情報および読取鍵と呼ばれる情報に応じてスピンを特定の方向に向けるための装置、それを保持することができる量子記録媒体、また、読取鍵情報に応じて特定方向のスピン成分を読み出すことができる装置である。上で説明した以外の方法によって、これを実現しても本発明の実施に影響を与えないのはいうまでもない。
また、上記の装置では、量子暗号書込装置、量子暗号記録媒体、量子暗号読取装置がすべてが一体化されているが、もちろん別々の装置とする構成としてもよい。
(第二の実施形態における記録再生の方法)
次にこれら媒体および装置を用いた情報の記録、再生の手順について述べる。
(記録)
情報記録者は、まず記録すべき情報を準備する。記録すべき情報は、必須ではないができればあらかじめ数学的暗号化を行っておくことが好ましい。ここでも、記録すべき情報を従来の技術で取り上げた“This is a pen. ”の“”内の文章をASCII表現して鍵“KEY"で暗号化した情報を例にとり説明する。
記録者は、記録装置の制御部に記録すべき情報と、読取鍵を入力する。記録装置の制御部は、これら情報に基づいて、各記録量子ビットに生成すべき量子状態を選択する。読取鍵とは、第一の実施例同様、各記録量子ビットの記録に用いる基底を特定するための情報であり、この情報がないと用いた基底を特定できないようにし、情報さえあれば基底を特定できるようにする情報である。読取鍵から基底を特定するアルゴリズムについては第一の実施形態で説明したのでここでは省略する。
量子状態の選択方法は、正しい測定物理量で測定を行うと、記録された情報に対応した測定値が得られ、情報を正しく読取れるのに対し、正しい物理量測定以外の測定を行うと測定値から記録された情報を特定することができなくなるようにする。
これは例えば、
記録すべき情報が0, 読取鍵により指定される基底がAの時A0
記録すべき情報が1, 読取鍵により指定される基底がAの時A1
記録すべき情報が0, 読取鍵により指定される基底がBの時B0
記録すべき情報が1, 読取鍵により指定される基底がBの時B1
とし、状態A0からB1を以下のように選択することで実現可能である。
A0およびA1がある物理量Aの2つの固有状態、B0およびB1が物理量Aとは両立しない物理量Bの2つの固有状態であるようにする。この実施例では2つの異なるスピン方向成分を両立しない物理量として利用する。この時、A0およびA1はある方向測定(以下MAと呼ぶ)に対する固有状態、B0およびB1はもう一つの方向測定(以下MBと呼ぶ)に対する固有状態である。
この2つの方向測定の選択方法としては、二つの方向が平行でないことが必要条件である。スピンの平行でない成分は両立しない物理量となる。理想的には互いに直交していることが好ましい。例えば、MAをZ軸方向測定、MBをX軸方向測定とすると、これらは平行ではなく、A0としてスピンがZ軸正方向を向いている状態、A1としてZ軸負方向を向いている状態、B0としてスピンがX軸正方向を向いている状態、B1としてX軸負方向を向いている状態を選択することができる。
(書込み)
量子暗号記録装置を利用し、量子暗号記録媒体に選択した量子状態を形成する。すなわち、各記録量子ドット1201に余剰電子を1つだけ注入し、各記録量子ドット1201に生成すべき状態に応じて、コイル1204および1205を利用して各量子ドットに磁場を制御して印加し、記録量子ドット1201内のスピンの向きを先に指定した方向(A0であればZ軸正方向、A1であればZ軸負方向、B0であればX軸正方向、B1であればX軸負方向)に向ける。
(保持)
量子暗号記録媒体の量子状態を読取まで保持する。つまり各記録量子ドット1201に注入した余剰電子のスピンの向きを読出しまで保持する。そのため、各記録量子ドット1201に余計な外部磁場や電磁波などが印加されないようにする。
この状態で情報の記録者は、量子暗号記録媒体と、読取鍵、数学的暗号を行った場合はその復号化を行うための鍵、それに読取鍵から基底を決定するためのアルゴリズムと、数学的復号化を行うためのアルゴリズムを正規の情報利用者に渡す。
ここまでは第一の実施形態とまったく同じである。
(読取)
第二の実施形態が第一の実施形態と異なり、第二の実施形態では復号化を行わない。その代わり、第二の実施形態では、量子暗号読取装置を利用し、読取鍵の情報に従って、bitごとに物理量を選択しながら測定をおこなう。本実施例で言えば、量子ドットごとに測定するスピン方向成分を選択する。これは、記録量子ドット1201に結合された、二種類のスピンバルブ1210および1211と二つの読取量子ドット1208および1209のどちらを利用して測定するかを選択することで実行することができる。どちらを利用して測定するかは、に用いる側の読取量子ドットに余剰電子が輸送されるように第二ゲート電極1208と第三ゲート電極1209の電位を調整すればよい。
正規の情報利用者は、制御部に読取鍵情報を入力し、各bitをどちらの物理量で読出しすればよいかを指示する。正規の情報利用者には、各bitの記録に用いられている基底を特定するための読取鍵と、特定アルゴリズムが開示されているので、各bitの基底を特定し、そこから測定すべき物理量を特定することができる。A基底であることが特定できれば物理量Aの測定を行い、B基底であることが特定できれば物理量Bの測定を行うものとする。
つまり、この実施例では
MB,MA,MB,MA,MA,MA,MA MB,MA,MA,MB,MA,MA,MA MB,MA,MB,MB,MA,MA,MB
MB,MA,MB,MA,MA,MA,MA MB,MA,MA,MB,MA,MA,MA MB,MA,MB,MB,MA,MA,MB
MB,MA,MB,MA,MA,MA,MA MB,MA,MA,MB,MA,MA,MA MB,MA,MB,MB,MA,MA,MB
MB,MA,MB,MA,MA,MA,MA MB,MA,MA,MB,MA,MA,MA MB,MA,MB,MB,MA,MA,MB
MB,MA,MB,MA,MA,MA,MA MB,MA,MA,MB,MA,MA,MA MB,MA,MB,MB,MA,MA,MB
となる。ただし、MAは物理量Aの測定を行うこと、MBは物理量Bの測定を行うことである。
今の例では、MAがZ軸方向成分を測定すること、MBはX軸方向成分を測定することを意味する。状態A0およびA1は測定MAに対して固有状態であり、状態B0およびB1は測定MBに対して固有状態である。
各量子状態に対して固有状態となる測定を行う結果、読取結果は常に
0011111 0101101 0110000
0111000 1100101 0110000
0111000 1100101 0111000
1101011 0110101 0111100
0100101 1101011 1111001
となる。
これは、記録した数学的暗号化を施した情報に他ならない。したがって、ここから数学的暗号の暗号鍵“KEY”を用いて復号化を行い、ASCIIコード表にしたがって解釈を行えば、記録者が伝達したかった情報“This is a pen. ”の“”内の文章を正規の情報利用者が得ることができる。
以上のように、本発明の量子暗号記録装置でも正規の情報利用者には正しい情報を伝達することができる。
(非正規の読取)
次に非正規の情報利用者による不正解読の場合について説明する。非正規の情報利用者は情報が記録された媒体は入手できるが、読取鍵および数学的暗号鍵を知らないものとする。情報の保持までは正規の情報利用と同一であるので省略する。
非正規の情報利用者は読取鍵を知らないので、各bitに対して測定を行うべき物理量を特定することができない。そこで、数学的暗号化の不正解読のように、総当りで読取鍵を試す不正解読戦略を非正規の情報利用者が実行する場合について説明する。ここではまず、例えば"AAA"を読取鍵候補として用いた場合を考える。
この読取鍵候補“AAA" により指定される測定は
MB,MA,MA,MA,MA,MA,MB MB,MA,MA,MA,MA,MA,MB MB,MA,MA,MA,MA,MA,MB
MB,MA,MA,MA,MA,MA,MB MB,MA,MA,MA,MA,MA,MB MB,MA,MA,MA,MA,MA,MB
MB,MA,MA,MA,MA,MA,MB MB,MA,MA,MA,MA,MA,MB MB,MA,MA,MA,MA,MA,MB
MB,MA,MA,MA,MA,MA,MB MB,MA,MA,MA,MA,MA,MB MB,MA,MA,MA,MA,MA,MB
MB,MA,MA,MA,MA,MA,MB MB,MA,MA,MA,MA,MA,MB MB,MA,MA,MA,MA,MA,MB
となる。しかしながら、当然これは正規の測定と完全には一致しない。例えば記録状態A0およびA1に対して測定MB(つまり物理量Bの測定)を実行してしまうと、これら状態はその測定操作にとっての固有状態ではないので測定結果として0もしくは1のどちらかが確率的に得られる。状態B0およびB1に対して測定MAを実行してしまった場合も同様である。したがって、間違った読取鍵の指示に従って測定を行った結果は、本来情報記録者が記録した情報から確率的に変化した情報となる。いかなる数学的操作を施そうとも、このように確率的に変化した情報から元の情報を完全に特定することができないのは第一の実施形態の場合と同様である。また、一旦間違った読取鍵による読取を行った後では、元の状態に戻すことができず、別の読取鍵を試すことができないことも第一の実施形態と同様である。
また、この場合でもユニバーサルな測定による不正解読は不可能である。ユニバーサルな測定とは、物理量Aおよび物理量Bどちらの固有状態に対しても常に固有状態となるような物理量の測定である。これは物理量Aおよび物理量Bが両立できない物理量である限り存在しない。したがって、読取鍵を知らない非正規の情報利用者は、情報を正しく読取ることができない。さらには、読取を行わず完全な複製を行うことができないのも同様である。
したがって、第二の実施形態でも第一の実施形態と同じ安全性を得ることができる。
(第三の実施形態)
(第三の実施形態を実施するための記録装置の基本的構成要素)
請求項3の方法を実施するためには、記録すべき情報および読取鍵と呼ばれる情報に応じて固有状態と重ねあわせ状態の間を周期的に変化する量子状態を特定の位相で形成するための量子暗号書込装置、その位相を保ったまま周期状態変化を保持することができる量子暗号記録媒体、また、読取鍵情報に応じて特定の位相時間においてその量子状態を測定できる量子暗号読取装置が必要となる。これら装置はさまざまな方法で実現することができる。第三の実施形態では、本発明請求項3の量子状態として歳差運動するスピンを用いる場合を説明する。
固有状態と重ねあわせ状態の間を周期的に変化する量子状態としては、スピンの歳差運動を利用することができる。例えば、図13に示すようなXZ平面内でY軸周りに回転するスピンの歳差運動を考える。この時、スピンは周期的にZ軸と平行になったり、非平行になる。スピンがZ軸と平行である場合にはZ軸方向測定に対して固有状態であるが、これ以外の方向、例えばX軸と平行である場合にはZ軸方向測定に対して重ねあわせ状態となっている。この系で、Z軸と平行になっている位相時刻にZ軸方向成分の測定をすれば必ず+1/2もしくは-1/2の測定結果が得られるが、平行でない場合には確率的にどちらかの値が得られる。測定結果として+1/2を得る確率の時間変化を図14に示す。ただし、t0はZ軸負方向を向いていた時刻とし、Tはスピンの歳差運動の周期である。周期運動であるので、時刻tの状態と時刻t+nT(nは任意の整数)の状態は同一である。したがって、基準となる時刻t0と同一の状態となる時刻、つまりt0+nT(nは任意の整数)を満たす時刻と、そこからの経過時間を指定すれば、系の周期運動における時間(位相時刻)を指定できる。また、時刻t0に向いていた方向の違い、すなわち位相の違いから、各位相時刻に+1/2を測定する確率は異なる。ここでは図13に示した4つの位相状態(A0,A1,B0,B1)の場合の確率を図示している。
スピンを用いて本発明を実施する場合、第一の実施例同様、量子ドットを用いたものが最も実施に適しているので、ここではそれについて説明する。
第三の実施形態のための量子暗号記録装置の構成を図15に示す。この記録装置は、
余剰電子のスピンを保持するための記録量子ドット1501
記録量子ドットにスピン偏極した電子を供給するための強磁性体ソース1502記録量子ドットの電位を調節するための第一ゲート電極1503
記録量子ドット内の余剰電子スピンの向きを周期的に回転させるための静磁場源1504
測定方向の正方向にスピン偏極した電子のみを通過させるスピンバルブ1505
余剰電子のスピンを測定するための読取量子ドット1506
読取量子ドットの電荷を測定するためのドレイン電極1507
位相時刻を制御してスピン注入や電荷輸送を行うための時計回路1508
から構成されている。
この装置の構成は、基本的には第一の実施形態のための装置や第二の実施形態の装置に類似している。ただし2つの点で異なる。まず、第一の実施形態や第二の実施形態の場合、書込み時のみスピン制御コイルを用いて磁場を発生させ必要な角度だけ回転させ、必要な回転が完了したら磁場を停止し、磁場を印加しない状態で保持を行うのに対し、第三の実施形態の場合、保持期間を通じて磁場をスピンに印加し、回転を続けさせる点である。
この回転は、記録保持期間にわたり回転軸および回転面、それに回転の角速度を一定に保つようにする。このようにすると、ある時刻にある方向を向いていたスピンは、時間の経過とともに別の方向を向くが、周期とよばれるある特定の時間が経過するとまた同じ方向を向く。周期は角速度の逆数に2πを掛けた物になる。回転軸、回転面、周期それに回転方向は、スピンをもつ粒子の特性と印加している磁場を指定すれば一意に定まる。回転軸、回転面および周期を一定にするためには、スピンに対して時間的およびスピンが運動する範囲内において空間的に一定の磁場を印加すればよい。
本発明では、回転軸と回転面は、測定を行うスピン方向の2つの固有状態が回転運動の中で経過する状態の中に含まれるように選択する。例えばZ軸方向成分を測定するのであれば、回転面内にZ軸が含まれるようにする必要があり、例えばXZ平面が回転面となるように、Y軸を回転軸とすればよい。なお、回転面をXZ面とするためには、スピンがXZ平面に存在する状態でY軸方向に平行な空間的および時間的に均一な静磁場を印加すればよい。
この周期運動を発生させる磁場は、基本的には印加させ続けるため、コイルによる誘導磁場ではなく、磁化させた強磁性体の磁場を用いることができる。強磁性体1504がこの磁場発生の役割を果たしている。このように強磁性体による方法であれば電流を流し続ける必要がないため消費電力が小さくなる。ただし、強磁性体を用いる方法で、かつ媒体から強磁性体を引き離すことができない場合には、磁場の印加を停止させることができないので、書き込みや読出し時にも磁場が印加されたままである。磁場が停止できない状態で書込みや読出しを行う際に、それら動作に時間ばらつきが存在する場合、エラーの原因となる。したがって、書込みや読出しの時間ばらつきに対する寛容性を高める点からは、必要に応じて強磁性体を引き離す機構を与えるか、コイルによる誘導磁場を印加し続ける方法の方が好ましい。たとえば、図16のように強磁性体の代わりに静磁場発生コイル1604を用意してもよい。コイルによる誘導磁場の場合、常に電力を消費するという問題点はあるが、書込み時や読出し時などスピンを回転をさせる必要のないときにコイル電流を停止することで磁場を停止できる。第三の実施例でも、磁場を印加し続ける必要があるのは保持時のみであり、書込み時、読出し時に磁場を停止できればこれら動作の時間ばらつきによるエラーを防ぐことができる。また、コイルを用いる方法では電流値を制御することにより正確に一定の磁場を印加し続けられる点では強磁性体を用いる方法に比べて優れている。
また、本実施形態では周期的運動を行う量子状態の位相を制御する必要があるが、この位相制御は記録量子ドットに印加する磁場が停止できない場合、記録量子ドットに電子を注入するタイミングで制御するしかない。これに対し、記録量子ドットに印加する磁場を自由に開始や停止、再開ができればその開始時間や停止時間などで位相を調節できる。この点でもコイルによる誘導磁場を用いた方が有利である。
本発明では、記録すべき情報と読取鍵の情報にしたがって、異なる位相の周期運動状態を生成、保持する必要がある。これを行うためには、時間を管理して記録量子ドットに電子を注入することにより歳差運動を開始させる時刻を制御するか、注入時点では静磁場を停止しておき、所望の位相となる時刻に磁場の印加を開始するといった制御が必要になる。いずれにせよ、書き込みのために時間制御が必要である。また、本発明では読出し時にも時間制御を行い、読取鍵で指定される適切な位相時間に読出しを実行する必要がある。これらを可能とするために、制御部は、第一および第二の実施例とは異なり、時間を管理しながら書き込みおよび読出しを行える必要がある。これは通常の時計回路により構成することができる。また、記録に用いるスピンとは別に、同じ周期で歳差運動するスピン集団を用意し、それらの測定により時間を特定できる機構を構成してもよい。
(第三の実施形態における記録再生の方法)
次にこの量子暗号記録装置を用いた情報の記録、再生の手順について述べる。
(記録)
情報記録者は、まず記録すべき情報を準備する。ここでも、記録すべき情報を従来の技術で取り上げた“This is a pen. ”の“”内の文章をASCII表現して鍵“KEY"で暗号化した情報を例にとり説明する。また、読取鍵と呼ばれる基底を特定する情報と、そこから基底を決定するアルゴリズムを用意するのも第一および第二の実施形態と同様である。これら読取鍵およびアルゴリズムに要求される特性も同じである。本実施例でも第一の実施形態と同じ読取鍵およびアルゴリズムを用いて説明する。
記録者は、量子暗号書込装置の制御部に記録すべき情報と、読取鍵を入力する。制御部は、これら情報に基づいて、各記録量子ビットに生成すべき量子状態の位相を選択する。
量子状態の位相の選択方法は、正しい測定位相時刻で測定を行うことによって、記録された情報に対応した測定値が得られ、情報を正しく読取れるのに対し、読取鍵を知らないものは正しい位相時刻を特定できず、正しくない時刻で測定を行うと測定結果から記録された情報を特定できないようにする。
これは例えば、
記録すべき情報が0, 読取鍵により指定される基底がAの時A0
記録すべき情報が1, 読取鍵により指定される基底がAの時A1
記録すべき情報が0, 読取鍵により指定される基底がBの時B0
記録すべき情報が1, 読取鍵により指定される基底がBの時B1
とし、位相時刻A0からB1を以下のように選択することで実現可能である。
A0はある位相時刻PAに固有状態S0となる位相状態、A1は同じ位相時刻に別の固有状態S1となる位相状態とし、B0はPAとは別の位相時刻PBに固有状態S0となる位相状態、B1はその位相時刻PBに固有状態S1となる位相状態とする。ただし、すべての状態が固有状態になる位相時刻が存在しないように選択する。
これを満たすものの例として図14の状態すなわち、A0状態とA1状態は互いに1/2周期だけ位相がずれた状態とし、B0状態とB1状態は互いに1/2周期だけ位相がずれた状態であり、A0とB0の位相が四分の一周期ずれている状態をあげることができる。
(書込み)
量子暗号書込装置を利用し、量子暗号記録媒体に先に決定した量子状態を形成する。本実施例で言えば、各記録量子ドットに余剰電子を1つだけ注入し、各記録量子ドット1501に生成すべき状態に応じて、各量子ドットに特定の位相状態を形成する。ここで注意が必要なのは、第一の実施形態や第二の実施形態とは異なり、本実施形態においては位相の管理のために時間管理が必要な点である。記録量子ドットへの電子注入の瞬間にスピンが同じ方向を向いていたとしても、その注入時間が異なっていれば、基本的には異なる位相になる。電子注入時点から一定の磁場が印加されており、かつ特定の方向のスピンのみを記録量子ドット1501に注入するのであれば、生成すべき位相に対応した時刻にスピンを記録量子ドットに注入する。時間管理は時計回路1508を利用して行う。もし、スピンの注入角度を制御できるのであれば、生成すべき位相となるように角度を調整して任意の時刻に注入することもできる。また、スピン回転をさせる磁場を書込み時に停止することができるのであれば、任意の時刻に電子を注入し、スピン回転をさせる磁場の印加開始時刻により位相を制御することもできる。
(保持)
読み出しまで、量子暗号記録媒体の量子状態の周期的変化の位相を保持する。本実施例では余剰電子のスピンの歳差運動の位相を保持したまま、一定角速度での回転が維持されるようにする。つまり、各記録量子ドットには、必要な回転を維持するための時間的空間的に一様な磁場の他は、余計な外部磁場や電磁波などが印加されないようにする。この状態で情報の記録者は、この媒体と、それとは別に読取鍵の情報、それに数学的暗号を復号するための鍵の情報を正規の情報利用者に渡す。
(読取)
第三の実施形態では、第二の実施形態同様復号化を行わない。また、第二の実施形態とも異なり、一つの物理量(一方向のスピン成分)の測定さえ行えばよい。その代わり、第三の実施形態では、読取鍵の情報に従って、測定を行う位相時間を選択する。
これは、記録量子ドットから読取量子ドットに電子を輸送する位相時刻を指定することで実行することができる。
正規の情報利用者は、量子暗号読取装置を用い、読取鍵で指定される基底の情報にしたがって、量子暗号記録媒体の各bitを特定の位相時刻に読み出す。
正規の情報利用者には基底を特定するための読取鍵が開示されているので、各状態が固有状態となる位相時刻を指定することができる。A基底は位相時刻PAに固有状態となり、B基底は位相時刻PBに固有状態となるので、各bitをこの位相時刻に測定する。
つまり、この実施例では
PB,PA,PB,PA,PA,PA,PA PB,PA,PA,PB,PA,PA,PA PB,PA,PB,PB,PA,PA,PB
PB,PA,PB,PA,PA,PA,PA PB,PA,PA,PB,PA,PA,PA PB,PA,PB,PB,PA,PA,PB
PB,PA,PB,PA,PA,PA,PA PB,PA,PA,PB,PA,PA,PA PB,PA,PB,PB,PA,PA,PB
PB,PA,PB,PA,PA,PA,PA PB,PA,PA,PB,PA,PA,PA PB,PA,PB,PB,PA,PA,PB
PB,PA,PB,PA,PA,PA,PA PB,PA,PA,PB,PA,PA,PA PB,PA,PB,PB,PA,PA,PB
となる。
各量子状態が固有状態となる位相時刻に測定を行う結果、読取結果は常に
0011111 0101101 0110000
0111000 1100101 0110000
0111000 1100101 0111000
1101011 0110101 0111100
0100101 1101011 1111001
となる。これは、記録した数学的暗号化を施した情報に他ならない。したがって、ここから数学的暗号の暗号鍵“KEY”を用いて復号化を行い、ASCIIコード表にしたがって解釈を行えば、記録者が伝達したかった情報“This is a pen. ”の“”内の文章を正規の情報利用者が得ることができる。
以上のように、本発明の量子暗号記録装置でも正規の情報利用者には正しい情報を伝達することができる。
(非正規の読取)
次に非正規の情報利用者による不正解読の場合について説明する。非正規の情報利用者は情報が記録された媒体は入手できるが、読取鍵および数学的暗号鍵を知らないものとする。情報の保持までは正規の情報利用と同一であるので省略する。
非正規の情報利用者は読取鍵を知らないので、各bitに対して測定を行うべき正しい位相時刻を特定することができない。そこで、数学的暗号化の不正解読のように、総当りで読取鍵を試す不正解読戦略を非正規の情報利用者が実行する場合について説明する。ここではまず、例えば"AAA"を読取鍵候補として用いた場合を考える。
この読取鍵候補“AAA" により指定される測定位相は
PB,PA,PA,PA,PA,PA,PB PB,PA,PA,PA,PA,PA,PB PB,PA,PA,PA,PA,PA,PB
PB,PA,PA,PA,PA,PA,PB PB,PA,PA,PA,PA,PA,PB PB,PA,PA,PA,PA,PA,PB
PB,PA,PA,PA,PA,PA,PB PB,PA,PA,PA,PA,PA,PB PB,PA,PA,PA,PA,PA,PB
PB,PA,PA,PA,PA,PA,PB PB,PA,PA,PA,PA,PA,PB PB,PA,PA,PA,PA,PA,PB
PB,PA,PA,PA,PA,PA,PB PB,PA,PA,PA,PA,PA,PB PB,PA,PA,PA,PA,PA,PB
となる。しかしながら、当然これは正規の読取位相と完全には一致しない。例えば記録状態A0およびA1に対して位相PBで測定を実行してしまうと、この測定位相では固有状態ではないので測定結果として0もしくは1のどちらかが確率的に得られる。状態B0およびB1に対して位相PAで測定を実行してしまった場合も同様である。したがって、間違った読取鍵の指示に従って測定を行った結果は、本来情報記録者が記録した情報から確率的に変化した情報となる。いかなる数学的操作を施そうとも、このように確率的に変化した情報から元の情報を完全に特定できないのは第一や第二の実施形態の場合と同様である。また、一旦間違った読取鍵による読取を行った後では、元の状態に戻すことができず、別の読取鍵を試すことができないことも第一や第二の実施形態と同様である。なお、すべての状態が固有状態となる位相時刻が発生しないように位相を選択しているので、どのような時刻に測定をおこなっても、間違った読取結果が生じる。さらには、読取を行わず完全な複製を行うことができないのも同様である。
したがって、第三の実施形態でも第一および第二の実施形態と同じ安全性を得ることができる。
(結合量子ドットを用いる方法)
本発明の実施は、スピンを用いたものに限定されない。その他の実施例として結合量子ドットを用いた方法について説明する。スピンの場合同様、記録方法の説明に先立ち、結合量子ドットの物理的性質についてまず説明する。
(結合量子ドット)
結合量子ドットとは、2つの量子ドットを薄い絶縁膜などのトンネリング可能なポテンシャル障壁を介して接続した構造である。説明の便宜上、以下では2つの量子ドットをそれぞれ第一量子ドット、第二量子ドットと呼ぶことにする。
(周期振動)
結合量子ドットの状態変化を図17を用いて説明する。
ある時刻t0に結合量子ドットの一方、例えば第一量子ドットに余剰電子が一つ存在し、もう一方の量子ドット(この場合は第二量子ドット)に余剰電子が存在しない状況を考える。二つの量子ドット間はトンネリング可能なポテンシャル障壁により隔てられているので、ある時点で第一量子ドットに存在した余剰電子は、第二量子ドットにトンネリングすることができる。逆に第二量子ドットにトンネリングした電子も、再びトンネリングにより第一量子ドットに戻ることができる。
このように互いにトンネリング可能な状態で接続された量子ドット(結合量子ドット)に余剰電子を一つだけ閉じ込めると、この余剰電子は第一量子ドットと第二量子ドットの間を周期的にトンネリングすることが知られている。すなわち、ある時点で余剰電子が第一量子ドットに存在したとしても、トンネル障壁を通じて第二量子ドットへのトンネリングによる染み出しが始まり、第一量子ドットと第二量子ドットのどちらにも存在する可能性がある状態になる。更に時間が経過すると余剰電子はトンネリングしきり、完全に第二量子ドットに存在する状態になる。ここから更に時間が経過すると、第二量子ドットから第一量子ドットへのトンネリングによる染み出しが始まり、再び第一量子ドットと第二量子ドットのどちらにも存在する可能性がある状態になる。また、更に時間が経過すると、最初の状態と同じく第一量子ドットに完全に存在する状態となる。これは余剰電子を注入した最初の状態に他ならない。したがって、ここから先ほど説明した第二量子ドットへの移動、第一量子ドットへの帰還を繰り返すことになる。これを余剰電子のコヒーレント振動もしくは単に振動と呼ぶ。
図18に、時刻t0に第一量子ドットに余剰電子を注入した場合の、第二量子ドットに余剰電子を見出す確率の時間変化を示す。ただし、Tは第二量子ドットに余剰電子を見出す確率の周期である。
(固有状態)
余剰電子が第一量子ドットに完全に存在するときに、第二量子ドット内の余剰電子数を測定すれば100%の確率で余剰電子数が0という結果が得られる。また、余剰電子が第二量子ドットに完全に存在するときに、第二量子ドット内の余剰電子数を測定すれば100%の確率で余剰電子が1という結果が得られる。つまり、これらの状態は、第二量子ドット内の余剰電子数測定に対しての固有状態である。
(重ね合わせ状態)
一方、先にのべた周期振動の中間状態では、第一量子ドットと第二量子ドットのどちらにも余剰電子が存在する可能性がある状態が発生する。この状態で第二量子ドットの余剰電子数を測定すれば、0より大きく1より小さいある確率で余剰電子数が0という結果が得られ、残りの確率で余剰電子数が1という結果が得られる。この測定前の状態は、第二量子ドットの余剰電子数が0である状態と、余剰電子が1である状態の重ねあわせ状態であ
る。
(測定の不可逆性)
第二量子ドットの余剰電子数を測定すると、その瞬間に結合量子ドットの量子状態は変化する。重ね合わせ状態にある状態で例えば余剰電子数が0という測定結果を得ると、その瞬間に余剰電子の周期運動の位相が変化し、その測定時刻に余剰電子が第一量子ドットに完全に存在する状態に変化する。
この測定による状態変化は不可逆的であり、何らかの操作により測定前の状態に戻すことは不可能である。
(識別不可能性)
第二量子ドット内の余剰電子数が0という測定結果を得たとしても、測定時に余剰電子が完全に第一量子ドットにいたのか、それとも重ね合わせ状態にあり、たまたま余剰電子数0という結果を得たのかは識別不可能である。測定の結果わかるのは測定時点で余剰電子が第二量子ドット内に完全に存在したのではないということだけである。
(複製不能性)
スピンの例同様、余剰電子がどのような状態にあるのか不明な状態で、その状態を複製することはできない。
(保持性)
結合量子ドットに外部から電場や電磁波、熱などが作用しないようにしておけば、余剰電子の振動の位相は保存する。また、余剰電子の振動の途中で、二つの量子ドット間のポテンシャル障壁の高さを高めるなどの操作により、トンネリングが起こらないようにすると、停止した位相に対応する重ね合わせ状態を保持することができる。
(ユニタリー変換)
トンネリングを停止させ、重ねあわせ状態にある結合量子ドットのポテンシャル障壁を下げるなど、再びトンネリングが起こるようにすると、停止した位相から振動が再開する。そこで、トンネリングの開始から停止までの時間を制御すると、任意の位相差だけ位相を変化させることができる。例えば、開始から停止までの時間が振動の1周期に一致すれば、状態はまったく変化しない。また、第一量子ドットから第二量子ドットまで完全に移動する時間に相当する時間だけトンネリングさせれば、第一量子ドットにあった余剰電子を第二量子ドットに移動させることができる。これはスピン系におけるスピン回転と同じ性質を持つ。つまり、ある時間だけトンネリングを許容するようにすることで、余剰電子の振動の位相は変化するのであるが、相対的な変化量は特定できるが、未知の位相から位相変化させてもやはり未知の位相になる。また、位相変化させても、測定を行う前であれば、一周期分の位相から最初に行った位相変化を差し引いた分だけ追加で位相変化させれば、状態は完全に元に戻る。つまり、この位相変化もユニタリー変換である。
(第四の実施形態)
(第四の実施形態を実施するための記録装置の基本的構成要素)
第四の実施形態は第一の実施形態を結合量子ドットを用いて実施するものである。すなわち、記録すべき情報および読取鍵と呼ばれる情報に応じて特定の量子状態を生成(初期化)するための装置、それを保持することができる量子記録媒体、また、読取鍵情報に応じてユニタリー変換を実行する装置、最終的に量子状態を測定する装置が必要であり、この量子状態に結合量子ドット中の余剰電子を利用する。
(第四の実施形態のための装置)
第四の実施形態のための量子暗号記録装置の構成を図19に示す。この記録装置は、
余剰電子を保持するための第一量子ドット1901
第一量子ドットとトンネリング可能な障壁で接続された第二量子ドット1902
第一量子ドットに電子を供給するためのソース1903
第一量子ドットの電位を変化させるための第一ゲート電極1904
第二量子ドットの電位を変化させるための第二ゲート電極1905
第一および第二量子ドット間のポテンシャル障壁を変化させるためのポテンシャル電極1906
第二量子ドット中の余剰電子数を測定するためのソース電極1907
第二量子ドット中の余剰電子数を測定するためのドレイン電極1908から構成されている。これは1bitの情報を記録するための基本構成単位であり、1bit以上の情報を保持する必要がある場合にはこの基本構成単位を必要な数だけ用意する。なお、上記構成はすべて通常の半導体メモリーのように基板上に集積可能である。
なお、図示していないが、これら電極の電位を制御するための制御回路と、ドレイン電極からの電流値の違いにより0もしくは1の信号を出力する出力回路が必要である。また、余剰電子の状態を長時間維持するには低温のほうが有利であるので、これら基本構成に冷却装置を付け加えても良い。また、電磁場との相互作用によっても記録に誤りが生じる可能性があるので、電磁場を遮断するためのシールドでメモリーを覆っておいても良い。このシールドの材料としては、金属などの導体や、フォトニック結晶を用いることができる。
この構成で、記録すべき情報および読取鍵と呼ばれる情報に応じて量子ドットの余剰電子を特定の状態に初期化すること、それを保持すること、また、読取鍵情報に応じてユニタリー変換を施せること、最終的に第二量子ドットの余剰電子数を測定できることを以下に説明する。
(各構成要素の基本的な機能)
(結合量子ドット)
結合量子ドットは、先に述べたように二つの量子ドットから構成される。それぞれの量子ドットは第一の実施例で説明したようにSiやGaAs等の半導体やカーボンナノチューブにより構成することができる。ただし、二つの結合量子ドットは、基本的にはその材質と大きさをほぼ揃えておくことが好ましい。何故ならば、量子ドットはその大きさから、量子力学的効果により、その中に存在できる余剰電子のエネルギー準位が離散的になる。このエネルギー準位は量子ドットの大きさと材質、それに量子ドットを取り囲む絶縁層の材質で定まる。二つの量子ドット間でエネルギー準位が異なると、二つの量子ドット間でトンネリングおよび振動は基本的には起こらなくなるためである。本実施例では、基本的には二つの量子ドット間で振動が起こるようにし、その間のポテンシャル障壁を制御することで振動を制御するので、エネルギー準位が一致するように大きさを揃えておくことは重要である。
ただし、この性質を積極的に利用し、二つの量子ドット間のポテンシャル障壁を変化させるのではなく、二つの量子ドットの電位差を調整する構成にし、量子ドットのエネルギー準位が一致するような電位差を与えている間だけ振動を行わせ、停止させたいときにはそれとは異なる電位差を与えることによりエネルギー準位の不一致を発生させ振動を停止させる構成としてもよい。
(結合ドットの初期化)
結合ドット内に余剰電子がただ1つだけ存在するような状態を作り出すために、ソース1903と第一ゲート電極1904を利用する。この方法については、第一の実施形態と同じクーロンブロッケード現象を用いるものであるので説明は省略する。
(結合量子ドットのユニタリー変換)
第一量子ドット1901に余剰電子を注入した直後は、第二量子ドット1902内の余剰電子数が0の固有状態になっている。そこで、第一量子ドット1901と第二量子ドット1902の間のポテンシャル障壁を電極1906を利用して調整し、二つのドット間でコヒーレント振動が発生するようにし、特定の時間が経過した後、再びポテンシャル障壁を引き上げ、振動が停止するようにすれば、系を特定の固有もしくは重ねあわせ状態にすることができる。また、このまま状態を保持した後、再度振動が起こるようにポテンシャル障壁を調整すれば、状態の位相を変化させることができる。
(余剰電子の読取)
最後に第二量子ドット1902内の余剰電子数を測定する方法について説明する。これは、第一の実施形態において読取量子ドット内の余剰電子数を測定する方法と同じである。つまり第二量子ドット1902に結合したドレインにトネリングさせ、余剰電子そのものによるドレイン電流を検出するか、もしくは第二量子ドットがゲート電極となる電界効果トランジスタを構成し、ソース1907からドレイン1908に流れる電流を測定すればよい。
以上説明した余剰電子制御はすべて電気的に、通常のトランジスタを用いて行うことができる。ソースから第一量子ドットへの余剰電子の注入、結合量子ドット間のトンネリングを調整するための電位制御、ドレインへの電子輸送はすべてそれぞれの電位を制御することで可能となる。これは通常の半導体を用いて構成した制御回路で行うことができる。また、最終的に情報の読出し結果に対応するドレイン電流の検出も通常の半導体回路で構成することができる。
なお、第四の実施例で必要なのは、あくまで記録すべき情報および読取鍵と呼ばれる情報に応じて余剰電子を特定の状態に初期化するための装置、それを保持することができる量子記録媒体、また、読取鍵情報に応じて状態にユニタリー変換を施す装置、最終的に第二量子ドットの余剰電子数を読み出すことができる装置である。上で説明した以外の方法によって、これを実現しても本発明の実施に影響を与えないのはいうまでもない。
(第四の実施形態における記録再生の方法)
次にこの量子暗号記録装置を用いた情報の記録、再生の手順について述べる。
(記録)
情報記録者は、記録すべき情報と、読取鍵、読取鍵から基底を決定するアルゴリズムを準備する。読取鍵とアルゴリズムに要求される特性は第一の実施形態と同じであるので説明は省略する。
記録者は、記録する情報と読取鍵から指定された基底にしたがって量子暗号記録媒体に生成する状態を選択する。
選択の方法は第一の実施形態とまったく同じである。つまり、各基底に対応した正しい復号化操作を実行した後に測定を行うと記録された情報に対応した測定値が得られるのに対し、各bitの基底を特定できない場合に正しい復号化操作が実行できず、正しい復号化操作を行わない状態で測定を行うと、測定結果から記録された情報を特定できないよう決定する。その実現方法も同じである。
つまり、
記録すべき情報が0, 読取鍵により指定される基底がAの時A0
記録すべき情報が1, 読取鍵により指定される基底がAの時A1
記録すべき情報が0, 読取鍵により指定される基底がBの時B0
記録すべき情報が1, 読取鍵により指定される基底がBの時B1
とする。
A0〜B1の決定方法も基本的に第一の実施形態と同じである。異なるのは復号化手順であるユニタリー変換UA,UBの内容が第一の実施形態ではスピンの回転であったのに対し、本実施形態では余剰電子のコヒーレント振動の位相を制御することである点である。
例えば、UAとして位相をずらさない、UBとして第二量子ドットに電子を見出す確率の周期の1/4だけコヒーレント振動を行わせることを選択した場合、A0は余剰電子が第一量子ドットに完全に存在する状態(第二量子ドットに余剰電子を見出す確率が0の状態)、A1は余剰電子が第二量子ドットに完全に存在する状態(第二量子ドットに余剰電子を見出す確率が1の状態)、B0とB1はともに第二量子ドットに余剰電子を見出す確率が50%の状態であるが、周期振動における位相が異なるため、ユニタリー変換UBを実行するとそれぞれ第二量子ドットに余剰電子を見出す確率が0および1となり異なる結果を得る。
なお、UAは位相をずらさない操作なので、UA-1も位相をずらさない操作となり、UBは周期の1/4だけコヒーレント振動をさせることであるので、UB-1 は周期の3/4だけコヒーレント振動をさせることに対応する。
(書込み)
量子暗号書込装置を利用し、量子暗号記録媒体に選択した量子状態を生成する。つまり各量子ドットに指定された重ねあわせ状態を生成するため、必要な期間だけコヒーレント振動を発生させ、求める状態が生成できたら振動を停止させる。
先ほど説明した構造の量子記録装置であれば、ソースと第一ゲート電極の電圧を制御し、各第一量子ドットに余剰電子を1つだけ注入し、各結合量子ドットに生成すべき状態に応じて、第一および第二量子ドット間のポテンシャル障壁を下げてトネリングさせる時間を制御し、特定の状態になったあとポテンシャル障壁を引き上げる。
(保持)
量子暗号記録媒体の状態を復号化まで保持する。この状態で情報の記録者は、この媒体と、それとは別に読取鍵の情報、それに数学的暗号を復号化するための鍵の情報を正規の情報利用者に渡す。
(復号化)
正規の情報利用者は、スピンを用いた第一の実施例同様、量子暗号復号化装置を用いて量子暗号記録媒体の量子状態に対し復号化と呼ばれる操作を読取前に行う。復号化操作とは、結合量子ドット内の状態をすべて固有状態にするユニタリー変換である。
これは、各ドットの記録に用いられた基底を特定し、A基底に対してユニタリー変換UAを実行し、B基底に対してユニタリー変換UBを実行すればよいのは第一の実施形態と同じである。また、正規の情報利用者には読取鍵と基底決定アルゴリズムが開示されているのも同じであるので、各ドットに対して正しい復号化を行うことができる。
本実施例ではUAとして位相をずらさない、UBとして第二量子ドットに電子を見出す確率の周期の1/4だけコヒーレント振動を行わせることを選択しているので、これらが復号化操作の実態である。この復号化操作は、先ほどの装置の例で言えば、第一および第二量子ドット間のポテンシャル障壁を調整し、必要な時間だけコヒーレント振動を行わせることでできる。
(読取)
系を固有状態に変換できたら、量子暗号読取装置を利用し量子暗号記録媒体の測定を行う。ここでは、第二量子ドットの余剰電子数測定を行う。これはソース1907とドレイン1908間に電位差を与えることで流れるドレイン電流を用いて検出できる。このドレイン電流の大きさの違いを、0および1に対応づけて信号を出力する回路を利用して出力する。
あらかじめ復号化を行っているので、結合量子ドット内の状態はすべて固有状態となっている。したがって、この状態で測定を行えば、必ず各固有状態に対応した測定結果が出力として得らる。これも第一の実施形態と同じである。ここから数学的暗号の復号化を行えば、もともとの情報を得ることができる。
以上のように、本発明の量子暗号記録装置でも正規の情報利用者には正しい情報を伝達することができる。
(非正規の読取)
次に非正規の情報利用者による不正解読の場合について説明する。非正規の情報利用者は情報が記録された媒体は入手できるが、読取鍵および数学的暗号鍵を知らないものとする。情報の保持までは正規の情報利用と同一であるので省略する。
非正規の情報利用者は読取鍵を知らないので、各記録量子ドットの基底を特定できず、結果、正しい復号化を特定することができない。正しい復号化を行わない状態では、記録された情報を正しく読み取れないのは第一の実施形態とまったく同じである。記録媒体の同じ部分を利用して総当りで読取鍵を探すことができないこと、総当り以外の復号化操作が存在しないこともまったく同じである。複製不能性も同じである。つまり、この実施形態でもそれらと同等の情報の安全性を得ることができる。
これら特性が一致するのは、スピンと結合量子ドットに共通して存在する量子状態の性質(重ねあわせ状態、複製不能性など)を利用しているためであり、スピンや結合量子ドット以外の量子状態を用いても同じ特性を得ることができる。
(第五の実施形態)
(第五の実施形態を実施するための記録装置の基本的構成要素)
第五の実施形態は、本発明請求項3の方法を結合量子ドットを用いて実施するものである。すなわち、記録すべき情報および読取鍵と呼ばれる情報に応じて特定の位相を持つ周期的変化を示す量子状態を生成(初期化)するための量子暗号書込装置、それを保持することができる量子暗号記録媒体、また、読取鍵情報に応じて特定の位相で量子状態を測定する量子暗号読取装置が必要であり、この量子状態に結合量子ドット中の余剰電子を利用する。
(第五の実施形態のための装置)
第五の実施形態のための量子暗号記録装置の構成を図20に示す。この記録装置は、
余剰電子を保持するための第一量子ドット2001
第一量子ドットとトンネリング可能な障壁で接続された第二量子ドット2002
第一量子ドットに電子を供給するためのソース2003
第一量子ドットの電位を変化させるための第一ゲート電極2004
第二量子ドットの電位を変化させるための第二ゲート電極2005
第一および第二量子ドット間のポテンシャル障壁を変化させるためのポテンシャル電極2006
第二量子ドット中の余剰電子数を測定するためのソース電極2007
第二量子ドット中の余剰電子数を測定するためのドレイン電極2008
位相時刻を制御して電子の注入や輸送を実行するための時計回路2009
から構成されている。これは1bitの情報を記録するための基本構成単位であり、1bit以上の情報を保持する必要がある場合にはこの基本構成単位を必要な数だけ用意する。なお、上記構成はすべて通常の半導体メモリーのように基板上に集積可能である。
基本的には第四の実施例を実施するための装置とほぼ同一の構成である。ただし、第五の実施形態では特定の位相時間に読出しを実行しなければならないので、それを管理するための時計回路が追加されている。
(第五の実施形態における記録再生の方法)
次にこの量子暗号記録装置を用いた情報の記録、再生の手順について述べる。
(記録)
情報記録者は、まず記録すべき情報を準備する。また、情報記録者は、記録すべき情報の他に、読取鍵と呼ばれる基底を特定するための情報と基底特定アルゴリズムを準備するのも第三の実施例と同様である。読取鍵とアルゴリズムに要求される特性も同じである。
記録者は、記録すべき情報と読取鍵とアルゴリズムにより指定される基底により、量子暗号記録媒体に生成すべき状態を決定する。
この決定方法も、第三の実施形態と同じである。つまり、読取鍵を知るものは正しい測定位相時刻で測定を行うことによって、記録された情報に対応する測定値を得ることで記録された情報を正しく読取れるのに対し、読取鍵を知らないものは正しい位相時刻を特定できず、正しくない時刻で測定を行うと測定値から記録された情報を特定できなくなるようにする。
この要求の実現方法も第三の実施形態と同じである。例えば、
記録すべき情報が0, 読取鍵により指定される基底がAの時A0
記録すべき情報が1, 読取鍵により指定される基底がAの時A1
記録すべき情報が0, 読取鍵により指定される基底がBの時B0
記録すべき情報が1, 読取鍵により指定される基底がBの時B1
とし、位相時刻A0からB1を以下のように選択すればよい。
A0はある位相時刻PAに固有状態S0となる位相状態、A1は同じ位相時刻に別の固有状態S1となる位相状態とし、B0はPAとは別の位相時刻PBに固有状態S0となる位相状態、B1はその位相時刻PBに固有状態S1となる位相状態とする。ただし、すべての状態が固有状態になる位相時刻が存在しないように選択する。
これを満たすものの例として図21の状態すなわち、A0状態とA1状態は互いに1/2周期だけ位相がずれた状態とし、B0状態とB1状態は互いに1/2周期だけ位相がずれた状態であり、A0とB0の位相が四分の一周期ずれている状態をあげることができる。
(書込み)
量子暗号記録装置を利用し、量子暗号記録媒体の各bitに記録すべき量子状態を生成する。すなわち、各結合量子ドットに余剰電子を1つだけ注入し、各結合量子ドットに生成すべき状態に応じて特定の位相状態を形成する。本実施形態は第三の実施形態同様、時間管理が必要である。第一量子ドット2001に余剰電子を注入する時間が異なっていれば、基本的には異なる位相になる。したがって、生成すべき位相に対応した時刻に余剰電子を第一量子ドット2001に注入する。トンネリング障壁高さを制御し、任意の時間だけトンネリングを停止できる構成の場合、任意の時刻に電子を注入し、その後トンネリングを適切な時間停止させることで求める位相を設定することもできる。
(保持)
量子暗号記録媒体の状態を読取まで保持する。つまり、各結合量子ドットに注入した余剰電子のコヒーレント振動の位相が維持されるようにする。つまり、各結合量子ドットには、余計な電場や電磁波などが印加されないようにする。この状態で情報の記録者は、この媒体と、それとは別に読取鍵と基底を特定するアルゴリズム、それに数学的暗号を復号するための鍵とアルゴリズムを正規の情報利用者に渡す。
(読取)
第五の実施形態でも第三の実施形態同様復号化を行わず、読取鍵の情報に従って、特定の位相時刻に測定を行う。これは、第二量子ドット2002に存在する余剰電子を測定する位相時刻を指定することで実行することができる。
正規の情報利用者は、読取鍵と基底決定アルゴリズムに従い、各bitの基底を決定し、それに基づき測定する位相時刻を決定する。すなわち、A基底の場合は位相時刻PA,B基底の場合には位相時刻PBに測定を行う。これは測定を希望する位相時刻に、ソース2007およびドレイン2008間に電位差を生じさせることで可能となる。状態A0およびA1は位相時刻PAにおいて固有状態であり、状態B0およびB1は位相時刻PBにおいて固有状態である。したがって読取鍵を開示されている正規の情報利用者は、各記録量子ドットの状態に対して固有状態となる位相で測定を行うことができる。
各記録量子ドットに対して固有状態となる測定を行う結果、読取結果は常に、記録した数学的暗号化を施した情報になる。したがって、ここから数学的暗号の暗号鍵を用いて復号化を行えば、記録者が伝達したかった情報を正規の情報利用者が得ることができる。
以上のように、本発明の量子暗号記録装置でも正規の情報利用者には正しい情報を伝達することができる。
(非正規の読取)
次に非正規の情報利用者による不正解読の場合について説明する。非正規の情報利用者は情報が記録された媒体は入手できるが、読取鍵および数学的暗号鍵を知らないものとする。情報の保持までは正規の情報利用と同一であるので省略する。
非正規の情報利用者は読取鍵を知らないので、各結合量子ドットに対して測定を行うべき正しい位相時刻を特定することができない。したがって、間違った位相時刻で測定をしてしまう可能性が必ず生じる。例えば記録状態A0およびA1に対して位相PBで測定を実行してしまうと、この測定位相では固有状態ではないので測定結果として0もしくは1のどちらかが確率的に得られる。状態B0およびB1に対して位相PAで測定を実行してしまった場合も同様である。したがって、間違った位相時刻に測定を行った結果は、本来情報記録者が記録した情報から確率的に変化した情報となる。いかなる数学的操作を施そうとも、このように確率的に変化した情報から元の情報を完全に得ることができないのは第一や第二の実施形態の場合と同様である。また、一旦間違った読取鍵による読取を行った後では、元の状態に戻すことができず、別の読取鍵を試すことができないことも第一や第二の実施形態と同様である。なお、すべての状態が固有状態となる位相時刻が発生しないように位相を選択しているので、どのような時刻に測定をおこなっても、間違った読取結果が生じる。さらには、読取を行わず完全な複製を行うことができないのも同様である。
したがって、第五の実施形態でも第三の実施形態と同じ安全性を得ることができる。
第五の実施形態の安全性が第三の実施形態の安全性と一致したのは、歳差運動するスピンと、コヒーレント振動する結合量子ドット双方に共通する量子状態の性質を利用したためである。したがって、他の量子状態を利用しても同じ安全性を得ることができる。
これら以外に周期的に固有状態と重ね合わせ状態を遷移する状態としては、例えば分子の結合状態が知られている。図22に示すトロポロンと呼ばれる分子の場合、水素の結合位置に2つの固有状態が存在し、2つの状態間でコヒーレント振動が起こっていることが知られている。したがって、この様な分子で特定位相の形成と保持、読み取りができればこの振動の位相を利用して第三の実施形態の暗号記録を実施することが可能である。
(多体系を用いる場合)
実施形態1〜5までは、単一スピンや単一電荷といった単一の量子状態を用いて本発明を実施する方法である。本発明は、単一スピンや電荷など、単一量子状態のみならず、複数のスピンや電荷、分子状態などからなる量子状態の集団を用いても実施することができる。
そこで、まず、量子状態の集団の性質を述べた後、その性質を利用して本発明が実施できることを示す。
(量子集団)
量子集団は、その集団を構成する状態の種類と、それらが含まれる割合により特徴付けられる。すべて同じ量子状態にある要素のみからなる量子集団を純粋状態、異なる量子状態にある要素が混在している量子状態を混合状態と呼ぶ。混合状態は純粋状態の混合である。純粋状態であれば、その要素の量子状態のみを特定すれば量子集団の状態を特定できる。一方、混合状態であれば、そこに含まれる純粋状態とその混合割合を特定する必要がある。
例えば、1/2スピンからなる集団において、集団を構成するスピンがすべてZ軸正方向を向いているものは純粋状態であり、70%がZ軸正方向、30%がZ軸負方向を向いている集団は混合状態である。
(一括測定)
量子集団に対して一括して物理量の測定を行った場合、得られる値はそれを構成する要素に対して個々に測定を行った場合の和となる。したがって、集団に対する測定値としてどのような値が得られるかは、個々の要素の測定値と、要素の構成割合で定まる。混合状態であれば、それを構成する各純粋状態の測定値に構成比を乗じて和をとったものが測定値となる。
(固有状態要素)
集団の要素が測定に対して固有状態であった場合、必ず確定した値を返す。例えばZ軸正方向に向いているスピン要素は+1/2の値を返す。また、固有状態にある要素は、測定を受けても、もとの状態を保つ。したがって、固有状態のみからなる純粋状態にある集団は、測定後も同じ固有状態のみからなる純粋状態である。
(重ねあわせ状態要素)
量子集団は、もちろん重ねあわせ状態を要素として取りえる。ただし、重ねあわせ状態も一つの量子状態であるので、すべてが同じ重ねあわせ状態にある量子集団はやはり純粋状態である。ところが、重ねあわせ状態にある要素の測定を行うと、この要素は測定により確率的にどれかの固有状態に不可逆的に遷移する。したがって、重ねあわせ状態からなる純粋状態に対して測定を行えば、測定後の状態は固有状態のみからなる純粋状態の混合である混合状態となる。この変化は単一の重ねあわせ状態にある量子状態に対して測定を行った場合、確率的にどれかの固有状態に非可逆的に遷移したのと同じ様に、非可逆的な変化である。つまり、一旦重ねあわせ状態からなる集団を測定してしまえば、非可逆的に集団の状態が変化する。
ただし、単一の重ねあわせ状態にある量子状態を測定した場合の測定値と測定後の状態が確率的にしか予測できなかったのに対し、量子集団の場合、要素の数が多いと測定値および測定後の状態を予測できるようになる。例えば、X軸正方向を向いた状態は、Z軸正方向を向いた状態とZ軸負方向を向いた状態の重ねあわせ状態であり、単一のスピンがZ軸正方向に遷移するのか、Z軸負方向に遷移するのかは確定的には予測できない。ところが、X軸正方向を向いたスピンのみからなる集団の測定を行えば、その半数がZ軸正方向に遷移し、残りの半数がZ軸負方向に遷移する。したがって、個々のスピンがどちらに遷移するかは不明でも、測定値としては半数が+1/2, 残りの半数が-1/2の値を返すため集団の測定値は0、測定後の状態もZ軸正方向を向いたスピンからなる純粋状態と、Z軸負方向を向いたスピンからなる純粋状態とが半々に混合した混合状態となることが確定的に予測できる。
(集団に対する操作)
単一の量子状態に対する可逆的な操作、すなわちユニタリー変換が可能であったように、量子集団に対してもユニタリー変換を実行することが可能である。各要素にどのようなユニタリー変換が行われるかが既知であれば、ユニタリー変換後の集団の状態を完全に予測することができる。ある量子状態からなる純粋状態に対してユニタリー変換を施せば、ユニタリー変換を施した要素からなる純粋状態になる。たとえば、すべてZ軸正方向を向いたスピンからなる純粋状態に対して、Y軸周りの-90度回転を施せばすべてX軸正方向を向いたスピンからなる純粋状態にある。混合状態にある量子集団にたいするユニタリー変換については、混合状態をそれを構成する純粋状態に対するユニタリー変換を考え、変換後の純粋状態の混合状態を考えればよい。
単一の量子状態に対するユニタリー変換が、もとの状態からの相対的な変化のみをおこしたように、量子集団に対するユニタリー変換も相対的な変化のみを起こす。例えば、スピン集団に対して回転操作をすれば、各要素がうける回転により相対的な向きの変化は予測できるが、もともとの集団の状態を特定できなければユニタリー変換(ここでは回転)後の状態もやはり特定できない。
(周期的変化)
歳差運動するスピンや、コヒーレント振動する結合量子ドットのように、周期的な状態変化を行う要素をふくむ量子集団もやはり周期的な状態変化を示す。この状態変化は、ユニタリー変換同様、各要素の周期状態変化を考え、変化した要素の集団として量子集団をとらえることにより求めることができる。
(状態の保持)
単一の量子状態も条件さえ整えれば同じ状態が保持されるように、量子集団も各要素が時間変化しないように条件を整えれば同じ状態が保持される。
(複製不能性)
単一の量子状態の複製が不可能であったように、未知の状態の量子集団の複製も不可能である。
(完全混合状態)
1/2スピン系のように、固有状態が2つしか存在しない系の場合、それぞれの固有状態が半々で混在している混合状態を完全混合状態と呼ぶ。例えば、Z軸正方向を向いたスピンが半数、Z軸負方向を向いたスピンが半数からなる集団は完全混合状態である。この完全混合状態のZ軸方向成分測定を行えば、正方向成分と負方向成分が相殺しあう結果、測定値が0となる。1/2スピン系の場合、Z軸方向以外にも任意の方向の成分測定ができるのであるが、完全混合状態の場合、任意の方向の測定に対して測定値が0となる。これは、Z軸以外の測定方向に対して個々のスピンが重ね合わせ状態であることが原因である。例えば、X軸方向成分の測定をしたとする。この時、Z軸正方向を向いたスピンも、Z軸負方向を向いたスピンもどちらもX軸正方向を向いた状態とX軸負方向を向いた状態の重ね合わせ状態である。したがって、X軸方向測定によりすべてのスピンがX軸正方向に、50%の確率でX軸負方向に遷移し、測定結果0を返す。これはX軸だけでなく、他の任意の方向でも同様である。
つまり、1/2スピン系の場合、任意の正反対の方向を向いた同数のスピンからなる集団は、その方向によらずすべて区別不能であり、任意の方向の測定に対し0を返す。これは任意のユニタリー変換(回転)をしてもかわらない。
(集団のベクトル表現)
X軸正方向を向いた状態とX軸負方向を向いた状態が同数存在する状態と、Y軸正方向を向いた状態とY軸負方向を向いた状態が同数存在する状態とを区別できないように、微視的に見れば異なる状態であるのに、集団としては区別できない状態が量子集団には存在する。1/2スピン系のように固有状態が2つしか存在しない系の場合、集団の状態は3つの実数を用いて表現することができる。この3つの実数は、集団のスピンの偏りに対応する。そこで1/2スピンからなる量子集団の状態は、図23のような三次元空間のベクトルを用いて表現することができる。これは、X方向測定をした場合の測定値をX成分、Y方向測定をした場合の測定値をY成分、Z方向測定をした場合の測定値をZ成分としたものである。以下では集団の状態を指定するのに(X成分,Y成分,Z成分)という表示を用いる。ただし、すべてのスピンがある特定方向を向いていた場合の測定値が1となるように規格化してある。
この表現では、純粋状態は長さ1を持つベクトルとなり、完全混合状態は長さ0のベクトル(原点)に対応する。部分的に完全混合状態が混じっている状態は、0より大きく1より小さい長さを持つベクトルとなる。ベクトルの向きがスピンの偏りを示す。この表現では、各スピンを回転させるユニタリー変換により、まったく同じ角度でこの状態を示すベクトルが回転する。
図24に示すように、集団に対する測定は、測定する方向に対応する軸へのベクトルの射影としてとらえることができる。射影したベクトルの長さが測定値に対応し、射影後のベクトルが測定後の集団を表すベクトルとなる。したがって、この測定後の集団を表すベクトルを法線ベクトルとする平面上にあった状態はすべて、同じ測定値を返し、測定後に同じ状態になり区別不能である。もちろん、ある測定方向に対して同じ測定結果を返す二つの状態でも、別の測定方向に対しては別の測定結果を返す可能性はある。しかし、ある測定に対し、同じ測定結果を返す状態は必ず複数存在するため、任意の状態を区別可能な測定は存在しない。
(第六の実施形態)
第六の実施形態として、本発明請求項4の方法について説明する。本発明請求項4の方法を実施するためには、記録すべき情報および読取鍵と呼ばれる情報に応じて特定の量子集団状態を生成(初期化)するための装置、それを保持することができる量子記録媒体、また、読取鍵情報に応じてユニタリー変換を実行する装置、最終的に量子集団の状態測定を行う装置が必要となる。
利用する量子集団としては、さまざまなものが考えられるが、ここでは1/2核スピンを持つ核種を含む固体を用いる方法について説明する。
(核スピン集団)
核スピンは、電子スピン同様、粒子(ここでは原子核)が持つ固有の各運動量である。この値は原子の核種により定まる。例えば31Pや29Siそれに13Cなどは核スピン1/2を持つので、本発明の実施に適している。これら核スピン1/2を持つ原子と核スピンを持たない原子(たとえば28Siや12C)などからなる固体や、核スピン1/2をもつ原子を含む分子(たとえばCF4)などからなる液体や気体などを本発明の量子集団として利用できる。
(核スピン集団の初期化)
核スピン集団を特定の状態にするには、単一スピン同様、まずある方向にスピンが偏った状態を形成(初期化)し、そこから静磁場による歳差運動を行わせることにより求める方向に向ければよい。スピンの偏りを形成するには、例えば磁場を印加すればよい。磁場を印加した状態では、スピンが磁場に平行な状態が、反平行な状態よりもエネルギーが低いため、平行成分が増えるためである。なお、低温であればあるほど偏りが大きくなるので、冷却機構により冷却した状態で磁場を印加してもよい。偏りが大きいほど情報の長時間維持に有利となる。ただし、単一スピンの場合とは異なり、冷却は必須ではない。これは、本発明では完全に偏ったスピン集団状態を形成する必要がないためである。
また、単一スピンの方向制御で述べたように、この方法でスピンの向きの初期化が可能であるためには、スピンからエネルギーが外部に流れる機構(エネルギー散逸機構)が必要であり、これは時間とともに初期化効果を失わせるように働く。ただし、後述するように、スピン集団を用いる本実施形態の場合、スピンの偏りの方向さえ維持できればよく、その偏り度合いは時間とともに変化してもよい。3次元ベクトル表現で説明すれば、ベクトルの向きさえ保存すれば長さは短くなってもよい。エネルギー散逸機構は、スピンの偏り度合いを減少させるように働くが、通常スピンの偏りの方向を変化させないので、この機構の存在は本発明実施の本質的障害とはならない。もちろん、情報の長時間保持を求める場合、初期化に時間はかかるもののエネルギー散逸の少ない系を用いればよい。
なお、記録時にのみ冷却を行い、保持時には冷却を行わないといった選択も可能である。
(スピン集団の回転)
スピン集団の偏りの方向を変化させるには、時間と方向を制御して静磁場を印加すればよい。これは単一スピンの場合とまったく同じである。
(スピン方向成分の測定)
スピン集団のスピンのある方向成分を測定するには、測定を行う方向に磁場を印加することにより生じるエネルギー差を利用すればよい。先に述べたように、磁場を印加している場合、スピンが磁場と平行である状態は、反平行である状態よりもエネルギーが低い。このエネルギー差に相当する電磁波を照射すると、低エネルギー状態である平行状態にあるスピンが電磁波を吸収し、反平行状態に変化する。この時の電磁波の吸収率は平行状態にあるスピンが多いほど高くなるので、吸収率の測定からスピンの平行状態の割合、すなわち測定方向成分を測定することができる。
(第六の実施形態のための装置)
第六の実施形態のための量子暗号記録意媒体、量子暗号書込装置、量子暗号読取装置の各構成を図25に示す。
量子暗号記録媒体2501には、記録に用いる1/2核スピンを持つ原子を多数含む領域2510が記録すべき情報bit数だけ形成されている。ここではディスク形状の一部に量子暗号記録に用いる量子集団が形成されているものを示したが、もちろん形状はディスクである必要はない。
量子暗号書込装置は、
・スピン集団の偏りを作るために用いる局所的に静磁場を印加する機構2502
・スピン集団を必要な方向に向けるための静磁場印加機構2503
および図示していないが、これらを制御するための機構
から構成されている。
量子暗号復号化装置は、
・スピン回転を行うための静磁場を印加できる磁場印加機構2503
および図示していないがこれを制御するための機構
から構成されている。
量子暗号読取装置は
・測定を行う方向に磁場を印加できる磁場印加機構2502
・読取を行う部分に局所的に共鳴電磁波を照射できる機構2504
・記録領域を通過した電磁波の強度を測定し、吸収率からスピン成分を測定できる機構2505
および図示していないがこれらを制御するための機構
から構成されている。
なお、本実施例では、量子暗号書込装置と量子暗号復号化装置および量子暗号読取装置は一体化されているため、それらの静磁場印加機構は共通化している。
もちろんそれらが構成でも、量子暗号記録媒体まで含めてすべて一体化した構成でもよい。
(第六の実施形態における記録再生の方法)
次にこの量子暗号記録装置を用いた情報の記録、再生の手順について述べる。
(記録)
情報記録者は、まず記録すべき情報を準備する。ここでも、This is a pen. ”の“”内の文章をASCII表現して鍵“KEY"で暗号化した情報
0011111 0101101 0110000
0111000 1100101 0110000
0111000 1100101 0111000
1101011 0110101 0111100
0100101 1101011 1111001
である場合を例に取り説明する。本実施形態でも情報記録者は、記録すべき情報の他に、読取鍵と呼ばれる各bitに対して用いる基底を特定するための情報と特定アルゴリズムを準備する。読取鍵およびアルゴリズムに要求される特性は第一の実施形態と同じである。
記録者は、記録すべき情報と、読取鍵およびアルゴリズムにより決定された基底に基づいて、各記録量子ビットに生成すべき量子集団状態を選択する。
量子集団状態の選択方法は、読取鍵を知るものは正しい復号化操作を実行したのちに測定を行うことによって、記録された情報に対応した測定値を得られるに対し、読取鍵を知らないものは正しい復号化操作が実行できず、正しい復号化操作を行わない状態で測定を行って得た測定値からは、記録された情報を特定できなくなるようにする。
たとえば、これは以下のようにすれば実現可能である。
・記録すべき情報が0で読取鍵により指定される基底がAの時:
A0aおよびA0bからランダムに一方
・記録すべき情報が1で読取鍵により指定される基底がAの時:
A1aおよびA1bからランダムに一方
・記録すべき情報が0で読取鍵により指定される基底がBの時:
B0aおよびB0bからランダムに一方
・記録すべき情報が1で読取鍵により指定される基底がBの時:
B1aおよびB1bからランダムに一方
とする。この8つの量子状態の組は
条件1)いかなるユニタリー変換を行った後測定をしたとしても、情報0に割り当てた状態のみが含まれる測定値の範囲や、情報1に割り当てた状態のみが含まれる測定値の範囲が存在しないこと
条件2)いかなるユニタリー変換を行った後測定をしたとしても、基底Aに割り当てた状態のみが含まれる測定値の範囲や、基底Bに割り当てた状態のみが含まれる測定値の範囲が存在しないこと
条件3)基底に対応した特定のユニタリー変換を行った後に測定をすれば、記録情報0に割り当てた状態のみが含まれる測定値の範囲および、記録情報1に割り当てた状態のみが含まれる値の範囲が存在すること
の3条件を満たすようにする。
この条件を満たす量子状態としては例えば、
A0a = (0,-t,t)
A0b = (0,t,t)
A1a = (t,0,-t)
A1b = (-t,0,-t)
B0a = (t,0,t)
B0b = (0,t,-t)
B1a = (-t,0,t)
B1b = (0,-t,-t)
をあげることができる。これらベクトルを図26および27に図示しておく。ただし、tは1/√2以下で、読み出しにより誤りなく測定値 の正負を判定できる最小値より大きい値であり、その範囲から記録者が自由に値を選択してよく、かつ各bitごとに値が異なっていてもよい。なお、tの最小値は保存状態や読み取り装置の精度などにより異なるので、信頼性試験などをして、あらかじめ最小値を決定しておく。
この状態選択が上記要求を満たすことは正規および非正規の読出しの部分で説明する。
なお、A0aとA0bのようにどちらか一方をランダムに選択する場合、どちらを選択したかは記録しなくてもよい。また、この選択に偏りがあったり、どちらを選択したかが非正規の情報利用者に漏洩してはならない。
以下の実施例では、A0a, A0bおよびA1a, A1bでの記録をA基底での記録、B0a, B0bおよびB1a, B1bでの記録をB基底での記録と呼ぶ。
先ほどの記録すべき情報と読取鍵から指定される量子状態は、それぞれ
B0a,A0a,B1b,A1a,A1b,A1b,A1b B0a,A1b,A0b,B1a,A1a,A0a,A1b
B0a,A1a,B1a,B0b,A0b,A0b,B0a B0b,A1a,B1a,A1b,A0a,A0b,A0a
B1b,A1a,A0a,B0a,A1b,A0a,A1b B0a,A1a,B1a,B0b,A0b,A0a,B0b
B0a,A1a,B1b,A1a,A0a,A0a,A0b B1a,A1a,A0a,B0b,A1b,A0a,A1b
B0a,A1a,B1a,B1b,A0b,A0a,B0a B1a,A1b,B0a,A1b,A0a,A1a,A1a
B0a,A1a,A1b,B0a,A1b,A0b,A1a B0a,A1a,B1a,B1b,A1a,A0a,B0a
B0b,A1a,B0a,A0a,A1b,A0a,A1a B1b,A1a,A0a,B1b,A0a,A1b,A1a
B1a,A1b,B1b,B1a,A0a,A0a,B1a
となる。ただし、aおよびbの選択はランダムにおこなった。
(書込み)
量子暗号書込装置を用いて、量子暗号記録媒体に選択した量子集団状態を形成する。本実施例で言えば、まず量子記録媒体2501の記録部分2510にコイル2502を利用して強磁場を印加することによりスピンに偏りを生じさせ、そこからもう一つの磁場コイル2503を用いて、それとは別の磁場を方向と時間を制御して印加することで求める角度の歳差運動を生じさせ、核スピンの集団が先ほど選択した量子集団状態となるようにする。なお、同一基板中に記録のための量子集団が多数形成されている場合、特定の量子集団だけに磁場を印加することが困難な場合がある。この場合には、ある部分に書込みを行うために印加した磁場により、他の部分が変化してしまう量をあらかじめ測定しておき、それを打ち消すように、位置や強度を変えて補正のための磁場をコイルを利用して印加すればよい。
(保持)
量子暗号記録媒体に形成した、この量子集団状態を読出しまで保持する。ただし、集団状態の表現におけるtの値は、1/√2以下で、読み出しにより誤りなく測定値の正負を判定できる最小値より大きい値の範囲であれば変化してもよい。一般にtは時間とともに減少するので、情報保持の保障時間は読み出し限界から決定される。なお、情報記録者は、この状態が保持された記録媒体と、読取鍵を正規の情報利用者に渡す。
(復号化)
正規の情報利用者は、第一の実施例同様、量子暗号復号化装置を用い、量子暗号記録媒体に対し復号化と呼ばれる操作を読取前に行う。復号化操作とは、それを行うと測定により記録された情報を確実に読取れる状態に変換する行為である。これは、ユニタリー変換により情報0を割り当てた状態と、情報1を割り当てた状態が測定により区別可能な2群に分離するようにすることに対応する。
この復号化は、先ほどの8量子状態に対しては、例えばA基底に対しては回転を行わない、B基底に対しては軸周りの45°回転、Y軸周りの-90°回転、Z軸周りの-45°回転を連続して行うことで実現できる。これは各核スピン集団にコイル2502および2503を用いて強度と方向、時間を制御して磁場を印加することにより実行可能である。
この回転操作を実行すると8つの量子集団状態はそれぞれ
A0a' = (0, -t, t)
A0b' = (0, t, t)
A1a' = (t, 0, -t)
A1a' = (t, 0, t)
B1a' = ( (1-√2)t/2, (1-√2)t/4, √2t/2 )
B0a' = ( (-1+√2)t/2, (1+√2)t/4, √2t/2 )
B0a' = ( (-1-√2)t/2, (-1-√2)t/4, -√2t/2 )
B0a' = ( (1+√2)t/2, (-1+√2)t/4, -√2t/2 )
と変換される。
(読取)
系を復号化した後、正規の情報利用者は量子暗号読取装置を用いて量子暗号記録媒体の測定を行う。本実施例では、磁場コイル2502を利用してZ軸方向に磁場を印加した状態で電磁波照射機構2504を用いて共鳴電磁波を照射し、媒体を通過した電磁波の強度を測定器2505を用いて測定し、そこから吸収率をもとめ、スピン集団のZ成分を決定する。ここで、正しい復号化を実行した後では情報0に割り当てた量子集団のZ成分はtもしくは√2t/2となっており正、情報1に割り当てた量子集団のZ成分は-tもしくは-√2t/2となっており負となっている。したがって、Z成分の測定結果が正であれば0、負であれば1と判断することにより、記録者が記録した情報を確実に読取れることがわかる。したがって、先にあげた3条件のうち、条件3が満たされていることがわかる。このようにして復号化と読取を行った後、数学的暗号の暗号鍵“KEY”を用いて復号化を行い、ASCIIコード表にしたがって解釈を行えば、記録者が伝達したかった情報を正規の情報利用者が得ることができる。
以上のように、本発明の量子暗号記録装置でも正規の情報利用者には正しい情報を伝達することができる。
(非正規の読取)
次に非正規の情報利用者による不正解読の場合について説明する。非正規の情報利用者は情報が記録された量子暗号記録媒体は入手できるが、読取鍵および数学的暗号鍵を知らないものとする。情報の保持までは正規の情報利用と同一であるので省略する。
非正規の情報利用者は読取鍵を知らないので、基底を特定できず、したがって、各記録量子集団に対して行うべき正しい復号化を特定することができない。そこで、でたらめな復号化ユニタリー変換をしてから測定するしかない。ところが、間違った復号化ユニタリー変換を行って、測定をすると記録された情報が破壊され、確率的に異なる結果が得られる。
例えば記録状態に、A基底の復号化操作を行うと、
復号化後の状態は
A0a' = (0, -t, t)
A0b' = (0, t, t)
A1a' = (t, 0, -t)
A1a' = (t, 0, t)
B0a' = (t,0,t)
B0b' = (0,t,-t)
B1a' = (-t,0,t)
B1b' = (0,-t,-t)
となる。この状態で測定を行えば、A0a'のとき+t, A0b'のとき+t, A1a'のとき-t, A1b'のとき-tという測定結果を得、B0a'のとき+t, B0b'のとき-t, B1a'のとき+t, B1b'のとき-tという測定結果を得る。つまり、+tという測定結果を得たとしてもA0a'なのか、A0b'なのか、B0a'なのかB1a'なのかを区別できず、記録された情報が0なのか1なのかを判定できない。
また、測定後の状態は
A0a" = (0,0,t)
A0b" = (0,0,t)
A1a" = (0,0,-t)
A1b" = (0,0,-t)
B0a" = (0,0,t)
B0b" = (0,0,-t)
B1a" = (0,0,t)
B1b" = (0,0,-t)
となり、測定結果が+tとなるもともとの状態にはA0a,A0b,B0aおよびB1aの4種が存在し、これらを区別できない。したがって、測定後にもともとの状態を復元することは不可能である。つまり、測定のやり直しによる読取鍵探索は不可能である。
復号化操作UAおよびUB以外の方法でも、情報を読み出せないこと、つまり先にあげた条件1および2が成立していることは以下のようにして確認できる。
量子集団の測定結果は、図24で説明したように、測定方向軸への射影成分となり、同じ点に射影される平面内にある状態は区別できない。本実施例では、測定方向軸はZ軸方向に固定されているので、Z軸を法線としてもつ平面上の点によりあらわされる状態は区別できない。ただし、任意のユニタリー変換を実行してから測定することはできる。ユニタリー変換はベクトルの回転に対応するので、あるユニタリー変換を選択して測定を行う場合、区別できないのは、ある方向軸を法線とする平面上にある状態ということになる。なお、この法線がZ軸に一致する回転が選択したユニタリー変換の実態である。
任意のユニタリー変換を実行することは可能であるが、一回の測定で状態は非可逆的に射影されてしまうので、測定により状態を区別するためには、区別したい状態が別々の点に射影されるようなユニタリー変換を適切に実行する必要がある。
なお、先ほどの8状態では、tが幅を持つようにしてあるので、それら8状態の中の任意の2状態を区別するには、一方の集団のZ成分が正、もう一方の集団のZ成分が負であるとなるようにする必要がある。逆に言えば、測定で区別可能であるのは、Z成分が正の集団と負の集団の間だけである。任意のユニタリー変換を実行できると仮定しても、区別できるのは、原点を通る平面により分割される半空間の別々の側に存在する状態間だけである。その平面の法線がZ軸に一致するような回転がユニタリー変換に対応する。
ところが、先ほどの8集団の場合、原点を通るどのような平面であっても、分割されるそれぞれの空間に0に割り当てた状態と1に割り当てた状態の両方が存在し、A基底に割り当てた状態とB基底に割り当てた状態が存在する。つまり、どのようなユニタリー変換を行ったとしても、特定の情報や特定の基底のみに割り当てた状態のみが含まれる測定値は発生しない。つまり先ほどの条件1および2が成立している。この条件が成立すると、いかなる測定であっても、記録された情報や基底を特定することが不可能になり、情報の安全性が保障される。
なお、この量子集団状態も複製不能であるから、非正規の情報利用者による不正複製も不可能である。
このように、量子集団を用いる方法によっても第一の実施形態と同様、安全な情報記録をおこなうことができる。
(第七の実施形態)
(第七の実施形態を実施するための記録装置の基本的構成要素)
第七の実施形態として、本発明請求項5の方法について説明する。本発明請求項5の方法を実施するためには、記録すべき情報および読取鍵と呼ばれる情報に応じて二つ以上の両立できない物理量をもつ特定の量子集団状態を生成するための量子暗号書込装置、それを保持することができる量子暗号記録媒体、物理量を選択して量子集団の状態測定を行う量子暗号読取装置が必要となる。
量子集団として核スピン集団を用いた場合には、書込みが核スピンの偏りを求めるものとすること、測定方向を指定して測定することが物理量を選択して測定することに相当する。
これら装置はさまざまな方法で実現することができる。ここでは1/2核スピンを持つ核種を含む固体を用いる方法について説明する。
(第七の実施形態のための装置)
第七の実施形態のための量子暗号記録媒体、量子暗号書込装置、量子暗号読取装置の各構成を図28に示す。
量子暗号記録媒体2801には、記録に用いる1/2核スピンを持つ原子13Cや29Siなどを多数含む領域2810が記録すべき情報bit数だけ形成されている。
量子暗号書込装置は、
・スピン集団の偏りを作るために用いる局所的に静磁場を印加する機構2802
・スピン集団を必要な方向に向けるための静磁場印加機構2803
およびここには図示していないがこれらを制御する機構
から構成されている。
量子暗号読取装置は
・測定を行う部分に局所的に第一の測定方向に対応する静磁場を印加できる磁場印加機構2802
・測定を行う部分に局所的に第二の測定方向に対応する静磁場を印加できる磁場印加機構2804
・読取を行う部分に局所的に第一の測定方向に対応する共鳴電磁波を照射できる機構2805
・読取を行う部分に局所的に第二の測定方向に対応する共鳴電磁波を照射できる機構2806
・第一の測定方向成分を測定するために記録領域を通過した電磁波の強度を測定し、吸収率からスピン成分を測定できる機構2807
・第二の測定方向成分を測定するために記録領域を通過した電磁波の強度を測定し、吸収率からスピン成分を測定できる機構2808
から構成されている。
スピン集団を用いる場合、量子暗号書込装置と量子暗号記録媒体は、第六の実施形態と同じものを利用可能である。量子暗号読取装置は、第六の実施形態とは異なり方向を指定して測定を行う機構が必要である。これは印加する静磁場の方向を制御可能としておくことで実現できる。
なお、本実施例では、記録媒体と書込み装置、読取装置が分離されている場合を説明するが、もちろんこれらは一体化した構成としてもよい。
(第七の実施形態における記録再生の方法)
次にこの量子暗号記録装置を用いた情報の記録、再生の手順について述べる。
(記録)
情報記録者は、まず記録すべき情報を準備する。録者は記録すべき情報とは別に、読取鍵と呼ばれる情報の各bitに利用する基底を特定するための情報と特定アルゴリズムを用意する。読取鍵とアルゴリズムに対する要求は他の実施形態と同様である。
記録者は、記録すべき情報と、読取鍵とアルゴリズムにより決定された基底に基づき、量子暗号記録媒体に生成すべき量子集団状態を選択する。
量子集団状態の選択方法は、基底に対応した正しい物理量を測定すると記録された情報に対応した測定値が得られるのに対し、正しくない物理量を測定すると得られた測定値から記録された情報を特定できなくなるようにする。
たとえば、これは以下のようにすれば実現可能である。
記録すべき情報が0, 読取鍵が0の時A0aおよびA0bからランダムに一方
記録すべき情報が1, 読取鍵が0の時A1aおよびA1bからランダムに一方
記録すべき情報が0, 読取鍵が1の時B0aおよびB0bからランダムに一方
記録すべき情報が1, 読取鍵が1の時B1aおよびB1bからランダムに一方
とする。この8つの量子状態の組は
条件1)いかなる物理量の測定をしたとしても、情報0に割り当てた状態のみが含まれる測定値の範囲や、情報1に割り当てた状態のみが含まれる測定値の範囲が存在しないこと
条件2)いかなる物理量の測定をしたとしても、基底Aに割り当てた状態のみが含まれる測定値の範囲や、基底Bに割り当てた状態のみが含まれる測定値の範囲が存在しないこと
条件3)基底に対応した物理量の測定をすれば、記録情報0に割り当てた状態のみが含まれる測定値の範囲および、記録情報1に割り当てた状態のみが含まれる値の範囲が存在すること
の3条件を満たすようにする。
これを満たす量子状態の組としては、例えば
A0a = (0,-t,t)
A0b = (0,t,t)
A1a = (t,0,-t)
A1b = (-t,0,-t)
B0a = (t,0,t)
B0b = (0,t,-t)
B1a = (-t,0,t)
B1b = (0,-t,-t)
が存在する。この8つの状態は第六の実施形態で説明したものと同一である。この状態が先の3つの条件を満たしていることは正規および非正規の情報読取の部分で説明する。
(書込み)
量子暗号書込装置により、量子暗号記録媒体の状態が先ほど選択した量子集団状態となるようにする。つまり、コイル2802を用いて磁場を印加することでスピンに偏りを生じさせ、そこからコイル2803が発生する磁場をさらに加えて歳差運動を生じさせ、求める状態を生成する。
(保持)
この量子集団状態を読出しまで保持する。ただし、集団状態の表現におけるtの値は、1/√2以下で、読み出しにより誤りなく測定値の正負を判定できる最小値より大きい値の範囲であれば変化してもよい。
(読取)
第七の実施形態では第二の実施形態同様、復号化は行わず、読取鍵と基底決定アルゴリズムにしたがって求めた基底に応じて測定を行う物理量を選択する。本実施例ではスピンの測定方向を選択することが物理量の選択に対応する。正規の情報利用者には読取鍵が開示されているので、各bitの基底を特定することができ、その結果、各bitで測定を行うべき物理量を特定することができる。すなわち、A基底に対しては物理量Aの測定を行い、B基底に対しては物理量Bの測定を行うものとする。ここでは、物理量AはZ軸方向成分、物理量Bは(1,1,0)ベクトルに平行な方向成分である。本実施例では、測定を行うための磁場印加機構と電磁波照射機構、それに電磁波強度測定機構がそれぞれの方向に用意されている。したがって、測定を行う方向を定めたら、その方向の磁場印加機構で磁場を印加し、その方向に電磁波を照射し、媒体の電磁波吸収率を測定機構で測定すればよい。
このとき、状態A0aおよびA0bに対して測定MAを行えばt(>0)という測定結果が得られ、状態A1aおよびA1bに対して測定MAを行えば−t(<0)という測定結果が得られる。
同様に、状態B0aおよびB0bに対して測定MBを行えばt/√2(>0)という測定結果が得られ、状態B1aおよびB1bに対して測定MBを行えば−t/√2 (<0)という測定結果が得られる。
ここで、正しい物理量を選択して測定すれば情報0に割り当てた量子集団の値は正、情報1に割り当てた量子集団の測定値は負となっている。したがって、測定結果が正であれば0、負であれば1と判断することにより、記録者が記録した情報を確実に読取れることがわかる。したがって、ここから数学的暗号の暗号鍵を用いて復号化をえば、記録者が伝達したかった情報を正規の情報利用者が得ることができる。
以上のように、本発明の量子暗号記録装置でも正規の情報利用者には正しい情報を伝達することができる。
(非正規の読取)
次に非正規の情報利用者による不正解読の場合について説明する。非正規の情報利用者は情報が記録された媒体は入手できるが、読取鍵および数学的暗号鍵を知らないものとする。情報の保持までは正規の情報利用と同一であるので省略する。
非正規の情報利用者は読取鍵を知らないので、各量子集団に対して測定を行うべき正しい物理量を特定することができない。そこで、適当な物理量を選択して測定を行うしかない。
ところが、量子集団の測定結果は、図24で説明したように、測定方向軸への射影成分となり、同じ点に射影される平面内にある状態は区別できない。先ほどの8状態ではtが幅を持つようにしてあるので、それら8状態の中の任意の2状態を区別するには、一方の集団の射影成分が正、もう一方の集団の射影成分が負となる測定方向軸を選択する必要がある。逆に言えば、測定で区別可能であるのは、その測定軸を法線とし、原点を通る平面により分割される空間のそれぞれ反対側に存在する量子集団だけである。
ところが、先ほどの8集団の場合、原点を通るどのような平面であっても、分割されるそれぞれの空間に0に割り当てた状態と1に割り当てた状態の両方が存在し、A基底に割り当てた状態とB基底に割り当てた状態が存在する。つまり、どのような方向の測定を行ったとしても、特定の情報や特定の基底のみに割り当てた状態のみが含まれる測定値は発生しない。つまり先ほどの条件1および2が成立している。この条件が成立すると、いかなる測定であっても、記録された情報や基底を特定することが不可能になり、情報の安全性が保障される。
つまり、各bitに用いられた基底を特定するための情報である読取鍵を知らない非正規の情報利用者は、どのような測定を行っても記録された情報を正しく読み取ることができない。また、量子集団の特性から、一旦間違った読取鍵による読取を行った後では、元の状態に戻すことができず、別の読取鍵を試すことができない。さらには、読取を行わず完全な複製を行うことができないのも同様である。
したがって、第七の実施形態でも第二の実施形態と同じ安全性を得ることができる。
(第八の実施形態)
(第八の実施形態を実施するための記録装置の基本的構成要素)
第八の実施形態として、本発明請求項6の方法について説明する。本発明請求項6の方法を実施するためには、記録すべき情報および読取鍵と呼ばれる情報に応じて周期的に状態変化する量子集団の特定の状態と位相を生成するための量子暗号書込装置、それを保持することができる量子暗号記録媒体、位相時刻を選択して量子集団の状態測定を行う量子暗号読取装置が必要となる。
量子集団として核スピン集団を用いた場合には、ある時刻に特定の偏りのある状態を生成することが書き込みに相当し、その偏り状態を位相を保ちながら回転させることが量子暗号記録媒体に求められる。
これら装置はさまざまな方法で実現することができる。ここでは1/2核スピンを持つ核種を含む固体を用いる方法について説明する。
(第八の実施形態のための装置)
第八の実施形態のための量子暗号記録意媒体、量子暗号書込装置、量子暗号読取装置の各構成を図29に示す。
量子暗号記録媒体2901には、記録に用いる1/2核スピンを持つ原子を多数含む領域2910が記録すべき情報bit数だけ形成されている。また、核スピンに定常的な歳差運動を発生させるための磁場を供給するための強磁性層2911がその近傍に形成され、磁化が与えられている。
量子暗号書込装置は、
・スピン集団の偏りを作るために用いる局所的に静磁場を印加する機構2902
・スピン集団を必要な方向に向けるための静磁場印加機構2903
および図示していないがこれらを制御する機構
から構成されている。
量子暗号読取装置は
・読取を行う部分に測定方向に対応した局所的に静磁場を印加できる磁場印加機構2902
・読取を行う部分に局所的に共鳴電磁波を照射できる機構2904
・記録領域を通過した電磁波の強度を測定し、吸収率からスピン成分を測定できる機構2905
図示していないがこれらを制御する機構
から構成されている。
また、量子暗号書込装置、量子暗号読取装置を位相時刻を制御しながら動作させるための時計回路2906も必要である。
本装置の構成は第六および第七のものと似ている。ただし、本実施形態における量子暗号記録媒体には、量子集団の位相を保ったまま周期的変化を起こすことが求められる。これは量子集団に一定の静磁場を印加し続けることで可能であるのは第三の実施形態と同様である。
なお、本実施例では、書込装置と読取装置が一体化され、記録媒体が分離されている場合を説明するが、もちろんこれらは一体化した構成やすべてが分離した構成としてもよい。
(第八の実施形態における記録再生の方法)
次にこの量子暗号記録装置を用いた情報の記録、再生の手順について述べる。
(記録)
情報記録者は、まず記録すべき情報を準備する。記録すべき情報は、必須ではないができればあらかじめ数学的暗号化を行っておくことが好ましい。記録者は記録すべき情報とは別に、読取鍵と呼ばれる情報の各bitに利用する基底を特定するための情報と特定アルゴリズムを用意するのも他の実施形態同様である。なお読取鍵とアルゴリズムに要求される特性も他の実施形態と同じである。
記録者は、記録すべき情報と、読取鍵およびアルゴリズムにより決定された基底にしたがって各記録量子ビットに生成すべき量子集団状態を選択する。
量子集団状態の選択方法は、基底により定まる正しい位相時刻に測定を行うことによって記録された情報に対応した測定値が得られるのに対し、正しくない位相時刻に測定を行うと測定値から記録された情報を特定できなくなるようにする。
たとえば、これは以下のようにすれば実現可能である。
・記録すべき情報が0で読取鍵により指定される基底がAの時
A0aおよびA0bからランダムに一方
・記録すべき情報が1で読取鍵により指定される基底がAの時
A1aおよびA1bからランダムに一方
・記録すべき情報が0で読取鍵により指定される基底がBの時
B0aおよびB0bからランダムに一方
・記録すべき情報が1で読取鍵により指定される基底がBの時
B1aおよびB1bからランダムに一方
とする。この8つの量子状態の組は
条件1:任意の位相時刻において、必ず測定値が正となる領域および負となる領域、どちらの領域にも0および1に割り当てた状態が含まれる可能性があること
条件2:任意の位相時刻において、必ず測定値が正となる領域および負となる領域、どちらの領域にもAおよびB基底に割り当てた状態が含まれる可能性があること
条件3:基底を指定すれば、測定値が正となる領域および負となる領域の一方の領域に0に割り当てた状態のみが含まれ、もう一方の領域に1に割り当てた状態のみが含まれるような位相時間区間が必ず存在すること
を満たすように選択する。
これら条件を満たす量子状態の組としては
時刻t0において
A0a = (0,-t,t)
A0b = (0,t,t)
A1a = (t,0,-t)
A1b = (-t,0,-t)
B0a = (t,0,t)
B0b = (0,t,-t)
B1a = (-t,0,t)
B1b = (0,-t,-t)
であり、周期Tで(1, -1, 0)を軸として回転を行う集団をあげることができる。ただし、tは√2以下で、読取装置の精度から正負を判定できる最小値以上の値となるようにする。
この8つの状態が先の3つの条件を満たしていることは、正規および非正規の情報読取の部分で説明する。
(書込み)
記録者は、量子暗号書込装置により、量子暗号記録媒体の核スピンの集団が先ほど選択した量子集団状態となるようにする。基本的な方法については第六および第七の実施形態と同じである。すなわち磁場印加機構2902を利用して磁場を印加させることでスピンに偏りを生じさせ、回転機構2903を利用して求める方向に向ける。ただし、本実施形態では第六および第七の実施形態とは異なり、保持期間中に周期運動を生じさせるための磁場発生機構2911が存在し、周期運動が生じる。書込みで生成すべき状態は、特定の位相を持つ周期運動状態であるから、コイル2902および2903で磁場を印加する際に、その印加時間長さだけでなく、どの時刻から印加するかを制御することで求める位相となるようにする。この時刻制御は時計回路2906を利用して行う。なお、歳差運動は印加する磁場強度が高いほど高い角速度を持つので、コイル2902および2903で印加する磁場強度を変調することにより、求める位相となるようにしてもよい。
(保持)
この量子集団状態を読出しまで保持する。つまり、位相を保ったまま、一定の周期で周期的な状態変化が継続するようにする。ただし、集団状態の表現におけるtの値は、1/√2以下で、読み出しにより誤りなく測定値の正負を判定できる最小値より大きい値の範囲であれば変化してもよい。
(読取)
正規の情報利用者は、開示された読取鍵の情報に従い各bitの基底を特定し、その基底に応じて正しい位相時刻に量子暗号読取装置を利用して量子暗号記録媒体の状態を測定する。本実施例で言えば、時計回路2906を利用して、指定した位相時刻にコイル2902を利用して磁場を印加し、電磁波照射機構2904を利用して電磁波を照射し、測定器2905を利用して強度測定することにより吸収率を求め、記録領域2910の測定を行う。
正しい位相時刻は、用いられた基底が明らかであれば以下のように求めることができる。
各位相時間に測定を行った場合の測定値を図30に示す。
先ほどの8状態の場合、位相時間区間Iに測定を行えばA基底の0{A0a,A0b}が+になり、A基底の1{A1a,A1b}が−になるため、A基底で記録された情報を読み出すことができる。同様に位相時間区間IIであればB基底で記録された情報を読み出すことができる。なお、位相時間区間IIIでは位相時間区間Iと±の0,1への割り当てが逆転するがA基底の情報を読み出すことができ、位相時間区間IVでは位相時間区間IIとは±の0,1への割り当てが逆転するがB基底の情報を読み出すことができる。
正規の情報利用者には読取鍵が開示されているため、各bitがA基底、B基底のどちらで記録されているかを特定することができる。そこで、A基底で記録されたbitを位相時間区間Iに、B基底で記録されたbitを位相時間区間IIに読出し、+が得られた場合0、−が得られた場合1と判定することにより記録された情報を正しく読み出すことができる。なお、A基底で記録されたbitを位相時間区間IIIに、B基底で記録されたbitを位相時間区間IVに読出し、+が得られた場合1、−が得られた場合0と判定してもよい。
このように、読取鍵で指定される正しい位相時間区間に読み出しをおこない、情報との正しい関連付けによる判定を行えば、正規の情報利用者は記録された情報を正しく読み出すことができる。
(非正規の読取)
次に非正規の情報利用者による不正解読の場合について説明する。非正規の情報利用者は情報が記録された媒体は入手できるが、読取鍵および数学的暗号鍵を知らないものとする。情報の保持までは正規の情報利用と同一であるので省略する。
非正規の情報利用者は読取鍵を知らないので、各量子集団に対して測定を行うべき正しい位相時刻を特定することができない。そこで、適当な位相時刻を選択して測定を行うしかない。
ところが、図30から明らかなように、情報記録に利用している8つの量子集団をどの位相時刻区間(I〜IV)に測定しても、測定値が正となる集団および負となる集団の双方に、情報0を割り当てた状態と情報1を割り当てた状態が存在し、基底Aを用いている状態と基底Bを用いている状態が存在している。すなわち、どの時刻に測定しても、測定結果から記録された情報や、基底を特定することができない。先ほどの条件1および2が成立していることがわかる。このように条件1および2が成立していると、各bitに用いられた基底を特定するための情報である読取鍵を知らない非正規の情報利用者は、どのような位相時刻に測定を行っても記録された情報を正しく読み取ることができない。
また、量子集団の特性から、一旦間違った読取鍵による読取を行った後では、元の状態に戻すことができず、別の読取鍵を試すことができない。さらには、読取を行わず完全な複製を行うことができないのも同様である。
したがって、第八の実施形態でもその他の実施形態と同じ安全性を得ることができる。
第八の実施形態は、スピン集団以外でも、各要素が固有状態と重ね合わせ状態間で周期的な状態変化を起こすものであればそれを利用して実施可能である。たとえば、同じ構造をもつ結合量子ドットからなる集団でもよいし、トロポロンのように周期的状態変化を起こす分子からなる集団を利用してもよい。
本発明の暗号記録技術は、非正規の情報利用者に開示したくない情報を記録する用途、例えば電子貨幣、クレジットカード情報記録、住民記録や電子パスポートといった個人情報の記録に用いることができる。
従来の記録方法における情報と状態の関係を示す図 固有状態と測定値の関係を示す図 重ね合わせ状態と測定値の関係を示す図 測定値と測定前状態の可能性を示す図 第一の実施形態に用いる量子暗号書込、復号化、読取装置と記録媒体を示す図 第一の実施形態に用いる量子暗号書込、復号化、読取装置と記録媒体(トランジスタ構成をとるもの)を示す図 記録状態と復号化手順を示す図 間違った復号化を示す図 復号化手順と得られた測定値と情報の関係(A基底に対応する操作をした場合)を示す図 復号化手順と得られた測定値と情報の関係(B基底に対応する操作をした場合)を示す図 ビット置換を示す図 第二の実施形態に用いる量子暗号書込、復号化、読取装置と記録媒体を示す図 各位相状態の関係を示す図 各位相状態と読取位相の関係を示す図 第三の実施形態に用いる量子暗号書込、復号化、読取装置と記録媒体を示す図 第三の実施形態に用いる量子暗号書込、復号化、読取装置と記録媒体(トランジスタ構成をとるもの)を示す図 結合量子ドットの時間変化を示す図 各位相時刻に第二量子ドットに余剰電子を見出す確率を示す図 第四の実施形態に用いる量子暗号書込、復号化、読取装置と記録媒体を示す図 第五の実施形態に用いる量子暗号書込、復号化、読取装置と記録媒体(トランジスタ構成をとるもの)を示す図 各位相状態と読取位相の関係を示す図 二つの固有状態を持つ分子の例を示す図 量子集団を表現するベクトルを示す図 量子集団に対する測定の効果を示す図 第六の実施形態に用いる量子暗号書込、復号化、読取装置と量子暗号記録媒体を示す図 情報を割り当てる量子集団状態(A基底)を示す図 情報を割り当てる量子集団状態(B基底)を示す図 第七の実施形態に用いる量子暗号書込、読取装置と量子暗号記録媒体を示す図 第八の実施形態に用いる量子暗号書込、読取装置と量子暗号記録媒体を示す図 量子集団状態の位相と測定値の関係を示す図
符号の説明
501 余剰電子のスピンを保持するための記録量子ドット
502 記録量子ドットにスピン偏極した電子を供給するための強磁性体ソース
503 記録量子ドットの電位を変化させるための第一ゲート電極
504 余剰電子に垂直方向の磁場を印加するための第一スピン回転コイル
505 余剰電子に水平方向の磁場を印加するための第二スピン回転コイル
506 余剰電子のスピンを測定するための読取量子ドット
507 読取量子ドットの電位を変化させるための第二ゲート電極
508 記録量子ドットから読取量子ドットに対し測定方向の正方向にスピン偏極した電子のみを通過させるスピンバルブ
509 読取量子ドットから余剰電子を引き抜くためのドレイン電極
601 余剰電子のスピンを保持するための記録量子ドット
602 記録量子ドットにスピン偏極した電子を供給するための強磁性体ソース
603 記録量子ドットの電位を変化させるための第一ゲート電極
604 余剰電子に垂直方向の磁場を印加するための第一スピン回転コイル
605 余剰電子に水平方向の磁場を印加するための第二スピン回転コイル
606 余剰電子のスピンを測定するための読取量子ドット
607 読取量子ドットの電位を変化させるための第二ゲート電極
608 記録量子ドットから読取量子ドットに対し測定方向の正方向にスピン偏極した電子のみを通過させるスピンバルブ
609 読取量子ドットをゲートとするトランジスタのドレイン電極
610 読取量子ドットをゲートとするトランジスタのソース電極
1201 余剰電子のスピンを保持するための記録量子ドット
1202 記録量子ドットにスピン偏極した電子を供給するための強磁性体ソース
1203 記録量子ドットの電位を変化させるための第一ゲート電極
1204 余剰電子に垂直方向の磁場を印加するための第一スピン回転コイル
1205 余剰電子に水平方向の磁場を印加するための第二スピン回転コイル
1206 余剰電子のスピンのZ方向成分を測定するための第一読取量子ドット
1207 余剰電子のスピンのX方向成分を測定するための第二読取量子ドット
1208 第一読取量子ドットの電位を変化させるための第二ゲート電極
1209 第二読取量子ドットの電位を変化させるための第三ゲート電極
1210 Z軸正方向にスピン偏極した電子のみを通過させるスピンバルブ
1211 X軸正方向にスピン偏極した電子の通過させるスピンバルブ
1212 第一読取量子ドットから余剰電子を引き抜くためのドレイン電極
1213 第二読取量子ドットから余剰電子を引き抜くためのドレイン電極
1501 余剰電子のスピンを保持するための記録量子ドット
1502 記録量子ドットにスピン偏極した電子を供給するための強磁性体ソース
1503 記録量子ドットの電位を調節するための第一ゲート電極
1504 記録量子ドット内の余剰電子スピンの向きを周期的に回転させるための静磁場源
1505 測定方向の正方向にスピン偏極した電子のみを通過させるスピンバルブ
1506 余剰電子のスピンを測定するための読取量子ドット
1507 読取量子ドットの電荷を測定するためのドレイン電極
1508 位相時刻を制御してスピン注入や電荷輸送を行うための時計回路
1604 歳差運動を行わせるための静磁場源となるコイル
1901 余剰電子を保持するための第一量子ドット
1902 第一量子ドットとトンネリング可能な障壁で接続された第二量子ドット
1903 第一量子ドットに電子を供給するためのソース
1904 第一量子ドットの電位を変化させるための第一ゲート電極
1905 第二量子ドットの電位を変化させるための第二ゲート電極
1906 第一および第二量子ドット間のポテンシャル障壁を変化させるためのポテンシャル電極
1907 第二量子ドット中の余剰電子数を測定するためのソース電極
1908 第二量子ドット中の余剰電子数を測定するためのドレイン電極
2001 余剰電子を保持するための第一量子ドット
2002 第一量子ドットとトンネリング可能な障壁で接続された第二量子ドット
2003 第一量子ドットに電子を供給するためのソース
2004 第一量子ドットの電位を変化させるための第一ゲート電極
2005 第二量子ドットの電位を変化させるための第二ゲート電極
2006 第一および第二量子ドット間のポテンシャル障壁を変化させるためのポテンシャル電極
2007 第二量子ドット中の余剰電子数を測定するためのソース電極
2008 第二量子ドット中の余剰電子数を測定するためのドレイン電極
2009 位相時刻を制御して電子の注入や輸送を実行するための時計回路
2501 量子暗号記録媒体
2510 記録に用いる1/2核スピンを持つ原子を多数含む領域
2502 局所的に静磁場を印加する機構
2503 スピン集団を必要な方向に向けるための静磁場印加機構
2504 読取を行う部分に局所的に共鳴電磁波を照射できる機構
2505 記録領域を通過した電磁波の強度を測定し、吸収率からスピン成分を測定できる機構
2801 量子暗号記録媒体
2810 記録に用いる1/2核スピンを持つ原子(13Cや29Siなど)を多数含む領域
2802 スピン集団の偏りを作るために用いる局所的に静磁場を印加する機構
2803 スピン集団を必要な方向に向けるための静磁場印加機構
2802 測定を行う部分に局所的に第一の測定方向に対応する静磁場を印加できる磁場印加機構
2804 測定を行う部分に局所的に第二の測定方向に対応する静磁場を印加できる磁場印加機構
2805 読取を行う部分に局所的に第一の測定方向に対応する共鳴電磁波を照射できる機構
2806 読取を行う部分に局所的に第二の測定方向に対応する共鳴電磁波を照射できる機構
2807 第一の測定方向成分を測定するために記録領域を通過した電磁波の強度を測定し、吸収率からスピン成分を測定できる機構
2808 第二の測定方向成分を測定するために記録領域を通過した電磁波の強度を測定し、吸収率からスピン成分を測定できる機構
2901 量子暗号記録媒体
2910 1/2核スピンを持つ原子を多数含む領域
2911 磁場を供給するための強磁性層
2902 スピン集団の偏りを作るために用いる局所的に静磁場を印加する機構
2903 スピン集団を必要な方向に向けるための静磁場印加機構
2904 読取を行う部分に局所的に共鳴電磁波を照射できる機構
2905 記録領域を通過した電磁波の強度を測定し、吸収率からスピン成分を測定できる機構

Claims (6)

  1. 記録すべき情報と、読取鍵と呼ばれるそれを知るものは各bitの記録に用いられる基底を特定できるが知らないものには基底の特定ができなくなる情報と、読取鍵から各bitの基底を決定するためのアルゴリズムを準備する第一のステップと、
    各基底に対応したユニタリー変換を実行すると記録すべき情報に対応した測定値が得られる固有状態となるが、異なる基底に対応したユニタリー変換を実行すると少なくとも1つ重ね合わせ状態が生じるように選択した量子状態の組から、各bitに生成すべき状態を第一のステップで準備した記録すべき情報と、読取鍵およびアルゴリズムにより決定した基底に基づいて選択する第二のステップと、
    第二のステップで選択した量子状態を記録媒体に生成する第三のステップと、
    第三のステップで生成した量子状態を記録媒体に保持する第四のステップと、
    正規の情報利用者に第四のステップの量子状態を保持した記録媒体を渡し、読取鍵および、読取鍵から基底を決定するためのアルゴリズムを開示する第五のステップと、
    開示された読取鍵および基底を決定するためのアルゴリズムから各bitの基底を決定し、その基底に対応したユニタリー変換を実行し、量子状態を固有状態にする第六のステップと、
    固有状態となった量子状態の測定をおこない、記録された情報に対応する測定結果を得る第七のステップ
    からなる情報の記録・再生方法。
  2. 記録すべき情報と、読取鍵と呼ばれるそれを知るものは各bitの記録に用いられる基底を特定できるが知らないものには基底の特定ができなくなる情報と、読取鍵から各bitの基底を決定するためのアルゴリズムを準備する第一のステップと、
    各基底に対応した物理量の測定に対しては、記録すべき情報に対応した測定値が得られる固有状態となるが、異なる基底に対応した物理量の測定に対しては重ね合わせ状態が生じるように、それぞれの基底に両立しない物理量を利用するように選択した量子状態の組から、各bitに生成すべき状態を、第一のステップで準備した記録すべき情報と、読取鍵およびアルゴリズムにより決定した基底に基づいて選択する第二のステップと、
    第二のステップで選択した量子状態を記録媒体に生成する第三のステップと、
    第三のステップで生成した量子状態を記録媒体に保持する第四のステップと、
    正規の情報利用者に第四のステップの量子状態を保持した記録媒体を渡し、読取鍵および、読取鍵から基底を決定するためのアルゴリズムを開示する第五のステップと、
    開示された読取鍵および基底を決定するためのアルゴリズムから、各bitの基底を決定し、その基底に対応した物理量の測定をおこない、記録された情報に対応する測定結果を得る第六のステップからなる情報の記録・再生方法。
  3. 記録すべき情報と、読取鍵と呼ばれるそれを知るものは各bitの記録に用いられる基底を特定できるが知らないものには基底の特定ができなくなる情報と、読取鍵から各bitの基底を決定するためのアルゴリズムを準備する第一のステップと、
    各基底に対応した測定位相時刻には記録すべき情報に対応した測定値が得られる固有状態となるが、異なる基底に対応した位相時刻に対しては重ね合わせ状態となるように周期的に変化する量子状態の位相の組から、各bitに生成すべき位相状態を、第一のステップで準備した記録すべき情報と、読取鍵およびアルゴリズムにより決定した基底に基づいて選択する第二のステップと、
    第二のステップで選択した量子状態を記録媒体に生成する第三のステップと、
    第三のステップで生成した量子状態を記録媒体に保持する第四のステップと、
    正規の情報利用者に第四のステップの量子状態を保持した記録媒体を渡し、読取鍵および、読取鍵を開示する第五のステップと、
    読取鍵から、各bitの基底を決定し、その基底に対応した位相時刻に物理量の測定をおこない、記録された情報に対応する測定結果を得る第六のステップ
    からなる情報の記録・再生方法。
  4. 記録すべき情報と、読取鍵と呼ばれる、それを知るものは各bitの記録に用いられる基底を特定できるが、知らないものには基底の特定ができなくなる情報と、読取鍵から各bitの基底を決定するためのアルゴリズムを準備する第一のステップと、
    条件1)いかなるユニタリー変換を行った後測定をしたとしても、特定の情報に割り当てた状態のみが含まれる測定値の範囲が存在しないこと
    条件2)いかなるユニタリー変換を行った後測定をしたとしても、特定の基底に割り当てた状態のみが含まれる測定値の範囲が存在しないこと
    条件3)基底に対応した特定のユニタリー変換を行った後に測定をすれば、記録情報に割り当てた状態のみが含まれる測定値の範囲が存在すること
    の3条件を満たすように選択した量子状態の組から、各bitに生成すべき量子集団状態を、第一のステップで準備した記録すべき情報と、読取鍵およびアルゴリズムにより決定した基底に基づいて選択する第二のステップと、
    第二のステップで選択した量子状態を記録媒体に生成する第三のステップと、
    第三のステップで生成した量子状態を記録媒体に保持する第四のステップと、
    正規の情報利用者に第四のステップの量子状態を保持した記録媒体を渡し、読取鍵を開示する第五のステップと、
    開示された読取鍵から、各bitの基底を決定し、その基底に対応したユニタリー変換を実行し、記録情報に割り当てた状態のみが含まれる測定値の範囲があらわれるようにする第六のステップと、
    第六のステップを経た量子集団状態の測定をおこない、記録された情報に対応する測定結果を得る第七のステップ
    からなる情報の記録・再生方法。
  5. 記録すべき情報と、読取鍵と呼ばれるそれを知るものは各bitの記録に用いられる基底を特定できるが知らないものには基底の特定ができなくなる情報と、読取鍵から各bitの基底を決定するためのアルゴリズムを準備する第一のステップと、
    条件1)いかなる物理量の測定をしたとしても、特定の情報に割り当てた状態のみが含まれる測定値の範囲が存在しないこと
    条件2)いかなる物理量の測定をしたとしてもも、特定の基底に割り当てた状態のみが含まれる測定値の範囲が存在しないこと
    条件3)基底に対応した特定物理量の測定をすれば、記録情報に割り当てた状態のみが含まれる測定値の範囲が存在すること
    の3条件を満たすように選択した量子状態の組から、各bitに生成すべき量子集団状態を、第一のステップで準備した記録すべき情報と、読取鍵およびアルゴリズムにより決定した基底に基づいて選択する第二のステップと、
    第二のステップで選択した量子状態を記録媒体に生成する第三のステップと、
    第三のステップで生成した量子状態を記録媒体に保持する第四のステップと、
    読取鍵から、各bitの基底を決定し、その基底に対応した物理量の測定をおこない、記録された情報に対応する測定結果を得る第五のステップからなる情報の記録・再生方法。
  6. 記録すべき情報と、読取鍵と呼ばれるそれを知るものは各bitの記録に用いられる基底を特定できるが知らないものには基底の特定ができなくなる情報と、読取鍵から各bitの基底を決定するためのアルゴリズムを準備する第一のステップと、
    条件1:任意の位相時刻において、必ず測定値が正となる領域および負となる領域、どちらの領域にも0および1に割り当てた状態が含まれる可能性があること
    条件2:任意の位相時刻において、必ず測定値が正となる領域および負となる領域、どちらの領域にもAおよびB基底に割り当てた状態が含まれる可能性があること
    条件3:基底を指定すれば、測定値が正となる領域および負となる領域の一方の領域に0に割り当てた状態のみが含まれ、もう一方の領域に1に割り当てた状態のみが含まれるような位相時間区間が必ず存在すること
    の3条件を満たすように選択した量子状態の組から、各bitに生成すべき量子集団状態を、第一のステップで準備した記録すべき情報と、読取鍵およびアルゴリズムにより決定した基底に基づいて選択する第二のステップと、
    第二のステップで選択した量子状態を記録媒体に生成する第三のステップと、
    第三のステップで生成した量子状態を記録媒体に保持する第四のステップと、
    読取鍵から、各bitの基底を決定し、その基底に対応した位相時間区間に測定をおこない、記録された情報に対応する測定結果を得る第五のステップからなる情報の記録・再生方法。
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JP2009165049A (ja) * 2008-01-10 2009-07-23 Nippon Telegr & Teleph Corp <Ntt> 計算基底軸設定装置、計算基底軸設定方法、プログラム及び記録媒体
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CN110086815A (zh) * 2019-04-30 2019-08-02 华南理工大学 基于非对称量子加密的ar视频流媒体转发方法、装置

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