JP2006053122A - 鋼材の寿命予測方法、鋼材及び構造物の設計方法 - Google Patents

鋼材の寿命予測方法、鋼材及び構造物の設計方法 Download PDF

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Abstract

【課題】 各種鋼材の長期の腐食量を短期の腐食データにより高精度に予測することを可能にした鋼材の寿命予測方法、その鋼材及び構造物の設計方法を提供する。
【解決手段】 構造物の鋼材の腐食量予測式Y=AXB(Y:腐食量、X:年数、A,B:材料と環境に依存する係数、べき数)を用いて鋼材の寿命を予測する方法であって、前記A値を構造物の設置箇所における暴露試験に基づいて求め、前記B値を前記A値の関数として求め、これらのA値及びB値に基づいて鋼材の腐食量Yを求める。
【選択図】 図1

Description

本発明は、構造用鋼材特に耐候性に優れた鋼材の寿命予測方法、その鋼材及び構造物の設計方法に関する。
従来、建築・土木分野で使用される鋼材として、SS、SMと呼ばれる普通鋼とともに、無塗装で使用されるSMAと呼ばれる耐候性鋼があり、最近ではNi系高耐候性鋼等がある。これらの材料を用いた構造物の適用基準は、これまでには
(1)飛来海塩による地域区分 耐候性鋼
(2)鉄骨構造建築物の耐久性向上技術 普通鋼
(3)当該鋼種の暴露試験 任意の鋼種
(4)腐食量予測式 耐候性鋼
等があり、これらは必要に応じて使い分けられている。
上記の(1)及び(2)は従来の暴露結果を纏め上げたもので、適用可否判断が瞬時に可能である。上記の(3)の暴露試験による鋼材の腐食量は、
Y=AXB、Y:腐食量、X:年数
の式で表されることが知られている。その腐食量のしきい値Y1imを設定することにより、そのときのX1im年を寿命とする方法である。腐食寿命の判断の目安は、例えば100年の推定片側板厚減少量が0.5mm以下である。この式のA、Bは環境や鋼種によって変化するため、A、Bを決定するために、実環境又は実環境に近い環境に試験片を暴露し、試験片の腐食量の経年変化(X,Y)から累乗近似する方法が用いられている。
ところで、腐食速度は、海塩量や亜硫酸ガス量によって影響を受けることが多数の文献に示されている。また、腐食現象は基本的には水溶液中の化学反応であるので、気温、湿度や、濡れ時間にも依存する。したがって、これらの環境因子をパラメータとする関数として記述することができる。
上記の(4)の予測方法に関して、建設省(当時)土木研究所においては、SMA(JIS規格の耐候性鋼)に関し、暴露試験の結果から、上記のA,Bを次のように決定している(例えば非特許文献1)。
A=CSa γa:飛来塩分量、C,γ:回帰係数
B=0.73
即ち、Aは飛来塩分と相関があるとし、Bは鋼種・暴露方向、設置場所等によらず0.73としている。
また、上記(4)の予測方法に関して、例えば次のように求める方法も提案されている(例えば特許文献1)。この方法では腐食性指標Zの2次回帰式から初年度腐食量を推定している。
Z=α・TOW・exp(-κ・W)・(C+δ・S)/(1+ε・C・S)・exp(-Ea/RT)
α=106, κ=-0.1, δ=0.05, ε=10.0, Ea=50kJ/mol・K
Z:腐食性指標,R:気体定数, C:飛来塩分, S:硫黄酸化物量,
TOW:年間濡れ時間(h)、W:年平均風速(m/sec),T:年平均気温(K)
「耐候性鋼材の橋梁への適用に関する共同研究報告書(XVIII)」(建設省土木研究所,(社)鋼材倶楽部,(社)日本橋梁建設協会、平成5年3月発行) 国際公開03/006957号パンフレット
上記の従来の寿命予測方法の内、上記の(1)及び(2)の方法は鋼種が限定される上、或る時点でのその材料の適用可否を判断するだけであって、鋼種の選定は出来なかった。一方、上記の(3)の方法は、各鋼種の調査を行なうことによって鋼種の選定が可能である。しかしながら、新たな高耐候性を有する鋼が開発された場合には、開発後にただちに暴露試験を長期間種々の場所で行って、検量線あるいは式を作成しなければならない。また、上記の(3)の方法では、未知数A,B2つを決定するために、最低2点以上の腐食量データが必要である。日本では四季があり、腐食は季節によって進行速度が異なるために、最低2年間の計測を必要とする。更に、近年、土木建築用鋼材の長寿命化が叫ばれており、例えば100年といった長期寿命を精度よく予測するには、実質5〜20年といった長期試験を行なっており、実際に用いられるまでに時間がかかるという課題があった。また、上記の(4)の寿命予測方法においては、架設地の環境の影響は取り入れて式を構成しているものの、長期の暴露試験が必要であり、更に、非特許文献1の方法ではBを一定としているので、さびの保護性に必要な飛来塩分量や鋼種の影響が反映されていない、という問題点があった。
また、上記の特許文献1において提案されている方法では、 S(硫黄酸化物量)を予測式のパラメータとしているが、S(硫黄酸化物量)と板厚減少量との間には有意な相関が見られないことが知られている。
本発明は、このような問題点を解決するためになされたものであり、各種鋼材の長期の腐食量を短期の腐食データにより高精度に予測することを可能にした鋼材の寿命予測方法、その鋼材及び構造物の設計方法を提供することを目的とする。
本発明に係る鋼材の寿命予測方法は、構造物の鋼材の腐食量予測式Y=AXB(Y:腐食量、X:年数、A,B:材料と環境に依存する係数、べき数)を用いて鋼材の寿命を予測する方法であって、前記A値を構造物の架設地又は建設地における暴露試験に基づいて求め、前記B値を前記A値の関数として求め、これらのA値及びB値に基づいて鋼材の腐食量Yを求める。
本発明に係る鋼材の寿命予測方法は、構造物の鋼材の腐食量予測式Y=AXB(Y:腐食量、X:年数、A,B:材料と環境に依存する係数、べき数)を用いて鋼材の寿命を予測する方法であって、前記A値を構造物の架設地又は建設地の環境を模擬した実験室での試験に基づいて求め、前記B値を前記A値の関数として求め、これらのA値及びB値に基づいて鋼材の腐食量Yを求める。
本発明に係る鋼材の寿命予測方法は、前記A値を次式により表現し、次式のα、β及びγを前記実験室での試験に基づいて求める。
A=CSa γ=(α・T+β)・Pw(T,H)・(Sa γ
T:温度(℃),H:相対湿度(%),Sa:飛来塩分量(mdd),
Pw(T,H):濡れ確率、α,β,γ:鋼種に応じて設定された係数
本発明に係る鋼材の寿命予測方法は、前記α、β及びγと、構造物の架設地又は建設地における飛来塩分量Sa、年平均の温度T、相対湿度H及び濡れ確率Pwとによって前記A値を求める。
本発明に係る鋼材の寿命予測方法は、前記A値を次式により特定し、次式のα、β及びγを前記実験室での試験に基づいて求める。
A=k(α・T+β)・TOW・(Sa γ
T:温度(℃),Sa:飛来塩分量(mdd),
TOW:年間濡れ時間(h)、k:係数、
α,β,γ:鋼種に応じて設定された係数
本発明に係る鋼材の寿命予測方法は、前記α、β及びγと、構造物の架設地又は建設地における飛来塩分量Sa、年平均の温度T、及び年間濡れ時間TOWとによって、前記A値を求める。
本発明に係る鋼材の寿命予測方法は、前記実験室での試験に基づいて求められたA値を補正して前記腐食量予測式のA値とする。
本発明に係る鋼材は、上記の寿命予測方法により寿命が予測された鋼材であって、腐食の進行を予測したデータが添付されているものである。
本発明に係る鋼材において、各部位の腐食の進行を予測したデータが板厚減少量である。
本発明に係る構造物の設計方法は、上記の鋼材から実構造に適用する鋼材を選定し、設計する。
本発明によれば、短期間の暴露試験又は実験室での実験により腐食量予測式の材料特性及び環境特性に関するデータ(A値及びB値)を算出できるようにしたので、短期間の測定により腐食量予測ができるようになった。更に、短期間で腐食量の予測ができるので、各種鋼材選定の信頼性が向上し、構造物の最適設計を図ることができ、また、メンテナンス費用を最小に押さえ込むことができる。
実施形態1.
本発明の実施形態1として、鋼材の腐食量予測式Y=AXB(Y:腐食量、X:年数、A,B:材料と環境に依存する係数、べき数)のA値,B値を短期間の暴露試験により求めて、鋼材の寿命予測をする予測方法を説明するが、それに先だって、まず、本実施形態1に係る寿命予測方法の計測原理を説明する。
図1は期間Xと鋼材の腐食量Yとの関係を示した特性図であり、腐食寿命の判断の目安は、例えば100年の推定片側板厚減少量が0.5mm以下である。この期間Xと鋼材の腐食量Yとの関係は、上述のように次式により表される。なお、A値はその環境での鋼材自体の耐食性を示しており、B値はさびの保護性を表している。鋼材の耐食性が高ければ図1の特性の初期の傾きは小さく、さびの保護性が高ければ腐食量Yの長期の年数経過後の値は小さな値を示す。
Y=AXB、Y:腐食量、X:年数 …(1)
図2はSMA実暴露の試験データにより求めたA値の特性図である。上記の(1)式において、X=1のときに、Y=Aとなるため、A値は1年分の板厚減少量(腐食量)に相当するものであり、図2の縦軸のA値(1年)は1年分の板厚減少量により求められたA値を示している。また、横軸のA値(〜9年)は暴露試験を9年間行ったときに、各経過年の板厚減少量に基づいて求められたA値を示している。図2の特性から明らかなように、暴露期間が9年の試験データによって求められたA値(A値(〜9年))と、暴露期間が1年の試験データによって求められたA値(A値(1年))とは相関があり、A値は短期間の暴露試験により算出が可能であることが分かる。したがって、本実施形態1においてはA値を短期間の暴露試験により算出するものとする。
図3はSMA実暴露の試験データにより求めたB値の特性図であり、暴露期間が9年の試験データによって求められたB値と、暴露期間が1年の試験データによって求められたB値との相関関係を示している。図3の特性から明らかなように、暴露期間が9年の試験データによって求められたB値と、暴露期間が1年の試験データによって求められたB値とは相関がなく、B値は短期間の暴露試験により算出ができないことが分かる。
図4はSMA実暴露の試験データ(9年間)により求めたA値とB値との相関関係を示した特性図ある。この特性図からB値はA値で回帰することができ、極小値をとる次の3次式で表現される。なお、Aが小さいところでも、長期になれば、さびが成長し、B値が小さくなっていくことから、独自の解析により、
A≦0.03のとき、
B=0.5〜0.7、望ましくは0.6(理論的には放物線則0.5乗と考えられ
るが、実際に形成れるさびは完全に緻密でないため、0.5〜0.7で変
動する。)
0.03<A<0.083のとき、
B=−4611.3A3+769.19A2−32.421A+1.0109
0.083≦Aのとき、
B=0.9〜1.1、望ましくは1 …(2)
なるS字の関係が、成り立つことを見出した。
ただし、より簡便とするためにA≦0.03のときにおいても
B=−4611.3A3+769.19A2−32.421A+1.0109
としてもよい。
上記のA値はその環境での鋼材自体の耐食性を示す係数であるが、腐食環境にも依存する性質をもっており、腐食環境の影響はA値にも含まれている。A値が小さい範囲では、安定さびが形成されるためB値は一定値となるが、腐食環境の厳しさがある量を超えると(例えばA=0.03程度)、さびが剥がれやすくなり安定化しないためB値は上昇し、B=1となって腐食曲線は直線のままとなる。但し、A値が小さい範囲において、暴露年数が短い鋼材ではさびの生成量が少ないため保護効果が小さく、B値が高い値となる場合もある。このSMAのデータに鋼種1(1.5Ni−0.3Mo鋼)及び鋼種2(2.5Ni−極低C鋼)の実暴露の試験データ(2年間)をプロットすると、この場合においても上記の関係式と合致していることが分かる。したがって、この関係式から鋼種に関係なく、B値をA値から求めることが可能であることが分かる。
したがって、本実施形態1においては、或る鋼種のある環境における腐食寿命の予測を行う場合には次の(a)〜(d)の処理により寿命予測を行う。
(a)構造物の架設地又は建設地において例えば1年間の暴露試験を行う。
(b)その暴露試験の結果(腐食量)からA値を求める。
(c)上記A値を上記の関係式((2)式)に当てはめてB値を求める。
(d)上記のA値及びB値を鋼材の腐食量予測式Y=AXBに適用して、X年後の腐食量を求める。
このように処理することにより、1年間程度の暴露試験で腐食寿命の予測が可能となる。
図5は種々の飛来塩分量の異なる環境で実施した暴露試験結果から、鋼種1(1.5Ni−0.3Mo鋼)及び鋼種2(2.5Ni−極低C鋼)について、A値及びB値を求めて鋼材の腐食量予測式に当てはめて、その飛来塩分量の環境における100年後の板厚減少量を予測した結果を示した特性図である。同図から、100年推定板厚減少量が0.5mmとなる飛来塩分量、すなわち耐塩限界が以下のように求まる。この耐塩限界を超えると両鋼材とも急激に腐食量が増加している。
鋼種1=0.4mdd(:mg/dm2/day)、鋼種2=0.6mdd
このように、その鋼種の適用限界の腐食環境も推定することが可能となる。また、Y=AXB に、X=100年、Y=0.5mmを代入してA値を求めると、A=0.03が得られる。すなわち、その環境での1年の板厚減少量0.03mmが、適用可否判断の目安となることも分かる。
以上のように、本実施形態1においては、例えば1年間の暴露試験によりA値を求め、更にそのA値を上記の関係式((2)式)に適用してB値を求め、更に、これらA値及びB値を上記の鋼材の腐食量予測式((1)式)に適用してX年後の腐食量Yを予測することができるようになったので、短期間の暴露試験で腐食量を高精度に予測することが可能になっている。
実施形態2.
上記の実施形態1においては、A値を実暴露試験のデータに基づいて求める例について説明したが、本実施形態2においては、主として、実験室での試験によって求めるようにしている。したがって、本実施形態2においては、上記の(1)式及び(2)式はそのまま用いるが、A値は種々の環境因子の関数として次の(3)式のように表現するものとする。即ち、A値を、鋼種に特有な係数α、β、γと環境データ(Sa,T,Pw(T,H))とによって表現しており、鋼種に特有なα、β、γが求められれば、架設地又は建設地の環境データを当てはめることで自動的にA値が求まることになる。
Y=A・XB …(1)
B=f(A):
A≦0.03のとき、B=0.6(0.5〜0.7の範囲内で設定)
0.03<A<0.083のとき、
B=−4611.3A3+769.19A2−32.421A
+1.0109
0.083≦Aのとき、B=1(0.9〜1.1の範囲内で設定) …(2)
ただし、より簡便とするめにA≦0.03のときにも
B=−4611.3A3+769.19A2−32.421A
としてもよい。
A=CSa γ=(α・T+β)・Pw(T,H)・(Sa γ) …(3)
X:暴露時間(y),Y:板厚減少量(mm)
T:温度(℃),H:相対湿度(%),Sa:飛来塩分量(mdd),
Pw(T,H):濡れ確率、α、β、γ:鋼種に応じて設定された係数
上記(3)式において、温度Tに関する項は、実際の対象となる温度範囲が比較的狭いので、直線近似にしてある。また、湿度Hに関する項は、腐食量が濡れ時間に比例すると考え、KuceraらがISOに提案した濡れ確率関数を導入した(Kucera, Tidblad, Mikhailov: ISO/TC156/WG4-N314, Annex A (1999))。年間の濡れ時間は8766h×(濡れ確率)である。なお、この濡れ確率Pw(T,H)は、kuceraの式によると、濡れ確率Pw(T,H)=N (T;0;9.96)*β(H/100;4.67;1.78)で表される。
また、濡れ確率Pw(T,H)と年間濡れ時間TOWとは、
TOW=8766×Pw(T,H)
で表されるから、上記(3)式は年間濡れ時間TOWの関数として次のように表される。
A=k(α・T+β)・TOW・(Sa γ) …(3a)
TOW:年間濡れ時間(h)、k:係数
なお、上記の温度T、相対湿度H及び飛来塩分量Saは、例えば橋梁が設置される環境の値である。飛来塩分量Saには、その環境での風の影響や方向(どの方角を向いているか)、橋桁の高さ等の影響が含まれた値であり、事前に測定されたものである。例えば日本のある地点(緯度・経度又は住所)を決定すれば、その位置情報に対応した温度T、相対湿度H、飛来塩分量Saを求めることができる。例えば地点情報と温度T、相対湿度Hの気象庁データ平年値とが既にデータベース化されており、それらのデータベースを利用することにより必要な情報が得られる。また、飛来塩分量Saについては、約300地点での測定データを集約した関係式(各地方の飛来海塩量・離岸距離の関係。具体的にはSa=Sa0・L-0.6、L:離岸距離)があり、この関係式を用いることにより、該当地点における飛来塩分量Saを求めることができる。なお、これらのデータをデータベースから入手できない場合には、該当する地点において実測により求めてもよい。このようにして、該当する地点における温度T、相対湿度H及び飛来塩分量Saを求めることができるので、係数α、β、γを実験室での試験で決定することができれば、A値が求まり、B値はA値の関数であり、Y=AXBによりY(板厚減少量)を求めることができる。
次に、上記のγの求め方について説明する。上記のγは、A≦0.03とA>0.03とではその値が異なる。A≦0.03のときには、例えばSMAに関しては、図6の暴露試験結果(「耐候性鋼材の橋梁への適用に関する共同研究報告書(XVIII)」(建設省土木研究所,(社)鋼材倶楽部,(社)日本橋梁建設協会、平成5年3月発行)によれば、γ=0.487が得られている。また、Ni系耐候性鋼については発明者らが独自に暴露試験を行ったところ、図7に示される特性が得られ、γ=0.487が得られている。両データが一致しており、信頼性が高いものであることが分かる。よって、A≦0.03では鋼種によらずγ=0.49で一定値とした。
また、A>0.03のときの上記のγは、恒温恒湿槽(ADVANTEC製 AGX-325)内での乾湿繰り返し試験により決定した。周期は24hで、乾湿サイクルは次の6条件である。乾湿の移行時間は1hであり、これは12hの中に含まれる。塩分付着はマイクロピペットを用いてNaCl水溶液を滴下した。滴下量は40μL/cm2とし、水溶液濃度により付着塩分量を制御した。試験は最長52週間行った。付着塩分量は、ここでは例えば0.1mdd、0.2mdd及び0.4mddの3種類について行う。(なお、この試験はα、βを求める際においても同様な条件で行われるものとする。但し、(1)〜(6)の条件である。)
(1)13℃/95%×12h−20℃/65%×12h
(2)20℃/95%×12h−27℃/65%×12h
(3)25℃/95%×12h−32℃/65%×12h
(4)20℃/95%×12h−35℃/40%×12h
(5)25℃/95%×12h−40℃/40%×12h
(6)13℃/95%×12h−28℃/40%×12h
なお、上記の実験の条件は、実環境において、温度が上がると相対湿度が下がる傾向があること、また、その温度範囲や湿度範囲についても上記の範囲内にあること等から設定されている。このため、この試験は所謂促進試験ではなく、実環境と同オーダーの腐食速度が得られるものである。塩分量、温度及び湿度に関して橋梁内桁の腐食をよく再現していることが既に確認されており、以下、再現腐食試験(又は再現試験)と称するものとする。
次に、上記の再現腐食試験のデータに基づいてγを求める方法を説明する。
図8(A)(B)(C)はSMA、鋼種1及び鋼種2の付着塩分量ごとの腐食量の時間変化を示した特性図である。同図の特性から各付着量に対応したA値が求められる。
図9(A)(B)(C)は、横軸に上記付着塩分量を、縦軸に付着塩分量に対応したA値をとり、その両対数をプロットした特性図であり、直線の傾きがγとなる。何れの鋼種においても、γ=0.9の値が得られた。
次に、係数α及びβを求める方法について説明する。α及びβは、同一の付着塩分量でいくつかの腐食条件について連立方程式を当てることにより求められる。以下、具体的に説明する。上記の(3)式の塩分量は飛来塩分量であるが、再現腐食試験では付着塩分量であり、ともに単位はmddであるが、同じ数値でも影響度は異なる。そのため、再現試験で得られるα、βはα’、β’とおいて区別するが、α/βはα’/β’とは等しい。
同一付着塩分量で、かつ上記の(1)〜(6)の試験条件について、乾燥ステップ、湿潤ステップの腐食量の和が試験で得られる腐食量となる。再現試験では塩分は付着塩分で与えられるが、上記の(3)式の塩分の変数は飛来塩分であり、上述のように、ともに単位はmdd であるが、同じ数値でも影響度は異なる。上記の(3)式の飛来塩分に相当する量がわからないので、ここではSa’とおいて、計算する。なお、A値が0.03より大きいか小さいかでγが変わるので、A値が0.03超/以下でそれぞれα、βを設定する。
例えば、付着塩分が0.4mddで、13℃/95%×12h-20℃/65%×12hの試験の場合には、付着塩分は0.4mddでは、図9からγ=0.9であるので、これを用いる。
A' = (α'T+β')・Pw(T, H)・(Saγ)に塩分、温度、湿度を代入して、
乾燥ステップの腐食量 A'(13℃/95%、0.4mdd、乾燥) = (13α'+β')・Pw(13, 95)(Sa’0.9
湿潤ステップの腐食量 A'(20℃/65%、0.4mdd、湿潤) = (20α'+β')・Pw(20, 65)(Sa’0.9
である。
A'(13℃/95%×12h-20℃/65%×12h、0.4mdd) =(乾燥ステップの腐食量)+(湿潤ステップの腐食量)={(13α'+β')・Pw(13, 95)+(20α'+β')・Pw(20, 65)}(Sa’0.9
[{Pw(13, 95)*13+Pw(20, 65)*20}α'+{Pw(13, 95)+Pw(20, 65)}β'](Sa’0.9
同じ0.4mddの塩分を載せた再現試験では、Saの値は不明であるが、載せた塩分量が同じであることから、少なくともSaを同じと見なすことができる。他の試験も同様に下記のように求めることができる。上記の式の下線部のA’の比から
{Pw(13,95)*13+Pw(20,65)*20}α'+{Pw(13,95)+Pw(20,65)}β'=1
{Pw(20,95)*20+Pw(27,65)*27}α'+{Pw(20,95)+Pw(27,65)}β'=1.403
{Pw(25,95)*25+Pw(32,65)*32}α'+{Pw(25,95)+Pw(32,65)}β'=1.661
{Pw(25,95)*25+Pw(40,40)*40}α'+{Pw(25,95)+Pw(40,40)}β'=0.858
のようになる。ここで腐食量として、A値比(基準条件のA値に対する相対値)をとっている。同一付着塩分量でいくつかの試験条件について同様の方程式を立て、2元連立1次方程式を解く。数学的には2試験条件あればα'、β'が得られるが、精度を上げるために4試験条件を用いて、1 次回帰によりα'、β'を求める。得られたα'、β'を用いてA値比を求める。SMAについて得られたα'、β'を用い、全国41橋試験の暴露地の飛来塩分量、年平均温度・湿度(最寄の気象庁観測所データ)を代入して、
A'(予測値)= (α'T1+β')・Pw(T1, H1)・(Sa1 0.9
を求め、暴露試験から得られたA値との関係を図10(B)に示す。両者の回帰式を求め、その1 次係数の比A'/A = 1.895 が得られた。Pw(T1, H1)・(Sa1 0.9)= K1
とおくと、
A'(予測値)= (α'T1+β')・Pw(T1, H1)・(Sa1 0.9)=(α'T1+β') K1
A(実測値)= (αT1+β)・Pw(T1, H1)・(Sa1 0.9)=(αT1+β)K1
任意のT1で成立するためには、
A'/A=α'/α=β'/β=1.895=k
一方、A≦0.03のときは、γ=0.487として、同様に再現腐食試験の結果より方程式をたて、1 次回帰によりα'、β'を求める。さらに図10(A)より、A'/A = 4.658が得られた。A'/A=α'/α=β'/β=4.658
鋼種1及び鋼種2についても、同様に、これまでの再現腐食試験の結果から
A>0.03のとき、γ=0.9
A≦0.03のとき、γ=0.487
で分類して、試験条件に毎の方程式をたて、1 次回帰によりα'、β'を求め、以下同様ににしてA'/A=α'/α=β'/βがそれぞれ求められる。
表1は、以上から得られた各耐候性鋼の腐食量予測式の係数、べき数を纏めたものである。
Figure 2006053122
上記の(3)式に、表1に示された係数及びべき数と該当する地域の環境データを当てはめるとA値が求められ、そのA値を(2)式に当てはめてB値を求め、そのA値及びB値を鋼材の腐食量予測式に当てはめることにより寿命予測が可能になる。
図11は全国41箇所の暴露試験地におけるA値及びその予測値をプロットした特性図である。同図から暴露試験によるA値とその予測値Aとは良く一致していることが分かる。図12は全国41箇所の暴露試験地の飛来塩分量、年平均温度・湿度(最寄の気象庁観測所データ)を予測式に代入して得られた9年の板厚減少量を、暴露試験結果と合わせて図示した特性図である。図13は上記の予測式による板厚減少量と暴露試験結果との相関を示した特性図である。
図12及び図13の特性から、予測式による板厚減少量と暴露試験結果とが良く一致しており、本実施形態2の予測方法の有用性が確認できる。
図14は上述の予測式に基づいて予測した100年後の腐食量予測値と、実暴露データの1,3,5,7,9年の値から直接Y=AXBにより回帰して求めた100年後の値とを比較した特性図であるる。図14に示されるように、正規確率紙で良い直線性を示し、正規分布に従うことがわかる。これによりもとめた標準偏差σはσ=0.301(≒0.3)となった。したがって、直接回帰した値に対する本腐食量予測式の予測値の精度として、予測値に付帯して表すことができる。
以上のように本実施形態2においては実験室において該当地域における環境条件(温度、湿度、付着塩分量)を設定して、A値を求めるようにしているが、このA値は暴露試験結果と一致しているので、暴露試験を行わずに実験室の試験結果だけでも高精度にA値が求められるので、B値も上記の(2)式により求められ、鋼材の寿命を定量的に求めることができる。
実施形態3.
なお、上述の実施形態1及び2においては、A値を求めるのに、何れも暴露試験又は実験室での実験を1年程度行う例について説明したが、それよりも期間が短い期間の試験結果であってもよく、例えば数ケ月程度の試験結果に外挿法を適用することにより1年間分の腐食量を求めることにより(予測することにより)A値を求めることができる。
また、上述の実施形態1及び/又は2により、各種の鋼材について、各地域におけるA値及びB値を求めてデータベース化しておくことで、例えば鋼材の種類び場所の情報を入力することにより、その鋼材の寿命を簡単に予測することができるようになる。
実施形態4.
上記のように寿命予測が鋼材に、例えば各部位の腐食の進行を予測したデータを添付することにより、実構造の設計の際に利用に供することが可能になっている。なお、このデータの添付とは紙などだけでなく、電子データとして管理する状態も含むものである。また、鉄骨構造物の設計に際して、このような寿命予測がなされた鋼材を適宜選択して設計することにより構造物の寿命についても適切に予測することが可能になっている。
期間Xと鋼材の腐食量Yとの関係を示した特性図。 SMA実暴露の試験データにより求めたA値の特性図。 SMA実暴露の試験データにより求めたB値の特性図。 SMA実暴露の試験データ(9年間)により求めたA値とB値との相関関係を示した特性図。 種々の飛来塩分量の異なる環境で実施した暴露試験結果から100年後の板厚減少量を予測した結果を示した特性図。 SMAの実暴露試験の試験データを示した特性図。 Ni系高耐候性鋼の試験(実験室)の試験データを示した特性図。 SMA、鋼種1及び鋼種2の付着塩分量ごとの時間変化を示した特性図。 横軸に上記付着塩分量を、縦軸に付着塩分量に対応したA値をとり、その両対数をプロットした特性図。 A’値と暴露試験から得られたA値との関係を示した特性図。 全国41箇所の暴露試験地におけるA値及びその予測値をプロットした特性図。 全国41箇所の暴露試験地の飛来塩分量、年平均温度・湿度(最寄りの気象庁観測所データ)を予測式に代入して得られた9年の板厚減少量を、暴露試験結果と合わせて図示した特性図。 上記の予測式による板厚減少量と暴露試験結果との相関を示した特性図。 本実施形態1による100年後の腐食量予測値と、Y=AXBにより100年後の回帰をしたときの値の差を分布を示した図。

Claims (10)

  1. 構造物の鋼材の腐食量予測式Y=AXB(Y:腐食量、X:年数、A,B:材料と環境に依存する係数、べき数)を用いて鋼材の寿命を予測する方法であって、
    前記A値を構造物の架設地又は建設地における暴露試験に基づいて求め、前記B値を前記A値の関数として求め、これらのA値及びB値に基づいて鋼材の腐食量Yを求めることを特徴とする鋼材の寿命予測方法。
  2. 構造物の鋼材の腐食量予測式Y=AXB(Y:腐食量、X:年数、A,B:材料と環境に依存する係数、べき数)を用いて鋼材の寿命を予測する方法であって、
    前記A値を構造物の架設地又は建設地の環境を模擬した実験室での試験に基づいて求め、前記B値を前記A値の関数として求め、これらのA値及びB値に基づいて鋼材の腐食量Yを求めることを特徴とする鋼材の寿命予測方法。
  3. 前記A値を次式により特定し、次式のα、β及びγを前記実験室での試験に基づいて求めることを特徴とする請求項2記載の鋼材の寿命予側方法。
    A=(α・T+β)・Pw(T,H)・(Sa γ
    T:温度(℃),H:相対湿度(%),Sa:飛来塩分量(mdd),
    Pw(T,H):濡れ確率、α、β、γ:鋼種に応じて設定された係数
  4. 前記α、β及びγと、構造物の架設地又は建設地における飛来塩分量Sa、年平均の温度T、相対湿度H及び濡れ確率PWとによって、前記A値を求めることを特徴とする請求項3記載の鋼材の寿命予測方法。
  5. 前記A値を次式により特定し、次式のα、β及びγを前記実験室での試験に基づいて求めることを特徴とする請求項2記載の鋼材の寿命予側方法。
    A=k(α・T+β)・TOW・(Sa γ
    T:温度(℃),Sa:飛来塩分量(mdd),
    TOW:年間濡れ時間(h)、k:係数、
    α、β、γ:鋼種に応じて設定された係数
  6. 前記α、β及びγと、構造物の架設地又は建設地における飛来塩分量Sa、年平均の温度T、及び年間濡れ時間TOWとによって、前記A値を求めることを特徴とする請求項5記載の鋼材の寿命予測方法。
  7. 前記実験室での試験に基づいて求められたA値を補正して前記腐食量予測式のA値とすることを特徴とする請求項2〜6の何れかに記載の鋼材の寿命予測方法。
  8. 請求項1〜7の何れかに記載の寿命予測方法により寿命が予測された鋼材であって、腐食の進行を予測したデータが添付されていることを特徴とする鋼材。
  9. 各部位の腐食の進行を予測したデータが板厚減少量であることを特徴とする請求項8記載の鋼材。
  10. 請求項8又は9の鋼材から、実構造に適用する鋼材を選定し、設計することを特徴とする構造物の設計方法。
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