JP2006050960A - ニンポウキンカン等のミカン科植物における2x−4x−4xの組織起源層からなる倍数性周縁キメラ植物体、及びその作出方法 - Google Patents

ニンポウキンカン等のミカン科植物における2x−4x−4xの組織起源層からなる倍数性周縁キメラ植物体、及びその作出方法 Download PDF

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Abstract

【課題】本発明は、ミカン科植物において果肉の品質を維持しつつ、果皮が厚く果皮色が濃くなる倍数性周縁キメラ植物体を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、ミカン科植物の珠心胚、又はミカン科植物の胚軸、幼茎若しくは成長点から誘導された多芽体を有糸分裂阻害物質で処理することを特徴とする、組織起源層の第1層が二倍体、第2層が四倍体、第3層が四倍体であるミカン科植物の倍数性周縁キメラ植物体の作出方法に関する。
【選択図】図6

Description

本発明はニンポウキンカン等のミカン科植物の倍数性周縁キメラ植物体の作出方法に関する。
植物の茎頂分裂組織は一般的に3層からなり、これらの組織起源層は外側から第1層(L−I)、第2層(L−II)、第3層(L−III)と呼ばれ、細胞キメラとはひとつの分裂組織の中に2つ以上の異なる遺伝子型または倍数体の細胞が共存している状態をさしている。植物の細胞キメラの種類は、周縁キメラ、区分キメラ及び周縁区分キメラの3つに分類されている(図1)。周縁キメラは軸を取り巻くそれぞれの層が違う遺伝子型または倍数体の組織であり、区分キメラは片方の組織が軸の中心部まで入り込んでいる現象をさしている。さらに、周縁区分キメラは上述の2者が組み合わさったものをさしている。現在までに、倍数性周縁キメラの発生例としては、チョウセンアサガオ(非特許文献1)で偶発的な例が、リンゴ、モモ、ツルコケモモ(非特許文献2〜4)において人為的な作出例が見られる。
ミカン科植物におけるキメラ植物体の例のほとんどは、遺伝子型の違う種における合成周縁キメラである。例えば、外国ではシトロンとサワーオレンジとのキメラ、カラタチとウンシュウミカンとのキメラ、スイートライムとサワーオレンジとのキメラ、我が国では小林ミカン(ナツダイダイと温州ミカンとのキメラ)、金柑子温州(金柑子と温州ミカンとのキメラ)が合成周縁キメラとして知られている。これらはすべて自然発生的なものであるが、最近では、接ぎ木により川野ナツダイダイとネーブルオレンジの他多数の組み合わせで、人為的に合成周縁キメラが育成され、その選抜方法も開発されている(特許文献1〜4)。これらは、すべて遺伝子型の違う種間での合成周縁キメラの育成例であり、同じ遺伝子型で人為的周縁キメラが作出された例はない。これは、ミカン科植物において、コルヒチン等の有糸分裂阻害剤による起源層ごとの倍数性操作が困難であったこと、成長点以外の組織や器官での倍数性の評価が困難であったこと、たとえ人為的にまたは偶発的に倍数性周縁キメラが発生したとしてもキメラ性の確認には結実をみるまで多くの年数を要し、またその間、樹木を成育させるための圃場と栽培管理が必要でキメラの作出を試みることが極めて困難であったことによる。
また、ミカン科植物の四倍体個体は二倍体個体と比較して、樹勢が強く、耐寒性が強い、種子数が少なくなるなどの形質を有するが、果肉の有機酸含量が高まるなどの好ましくない形質も同時に発現する。このため現在までにミカン科植物において四倍体が栽培品種になった例はない。
最近、ミカン科植物の果皮に特異的に含まれるテルペン系炭化水素の仲間には、オレンジ臭をもつリモネン、パイン臭をもつピネンなど、さまざまな香りをもった化合物が含まれていることが明らかにされている。リモネンには中枢神経の興奮を鎮静化する作用、発がん抑制効果などの報告がされている。また、キンカンの果皮には発がん抑制効果の高いβ−クリプトキサンチンが多く含まれることが知られている。今後、果皮やその機能性成分に注目したミカン科植物の育種が重要になると考えられる。
このようなことから、ミカン科植物において果肉の品質を維持しつつ、果皮が厚く果皮色が濃くなる倍数性周縁キメラ系統の育成法を開発すれば、キンカンや日向夏などの皮が主な可食部となっている品種では重要な育種法となる可能性が高いものと期待される。
なお、茎頂起源層と植物器官との関係をミカン科植物についてみると起源層第1層は葉の表皮と果肉、第2層は葉の柔組織、果実のアルベドを含む果皮、第3層は維管束を分担している。既存の周縁キメラである小林ミカンや金柑子温州についてみると、起源層を構成している母品種の特徴が、その起源層の分担器官に強く表れているのが認められる。
特公平3−46087号公報 特公平3−46088号公報 特開平11−103706号公報 特開2001−218527号公報 Satina, S., A. F. Blakeslee and A. G. Avery. 1940. Demonstration of the three germ layers in the shoot apex of Datura by means of induced polyploidy in periclinal chimeras. Am. J. Bot. 27: 895-905 Dermen, H. 1947. Periclinal cytochimeras and histogenesis in cranberry. Am. J. Bot. 34: 32-43 Dermen, H. 1953. Pattern of tetraploidy in the flower and fruit of a cytochimeral apple. J. Hered. 44: 30-39 Dermen, H. 1953. Periclinal cytochimeras and origin of tissues in stem and leaf of peach. Am. J. Bot. 40: 154-168
本発明は、ミカン科植物において果肉の品質を維持しつつ、果皮が厚く果皮色が濃くなる倍数性周縁キメラ植物体を提供することを目的とする。
本発明は以下の発明を包含する。
(1)ミカン科植物の珠心胚、又はミカン科植物の胚軸、幼茎若しくは成長点から誘導された多芽体を有糸分裂阻害物質で処理することを特徴とする、組織起源層の第1層が二倍体、第2層が四倍体、且つ第3層が四倍体であるミカン科植物の倍数性周縁キメラ植物体の作出方法。
(2)有糸分裂阻害物質による処理後に育成された上記倍数性周縁キメラ植物体の候補樹について、組織起源層の第1層、第2層及び第3層にそれぞれ由来する組織又は器官の倍数性をフローサイトメーターを用いて確認し、上記組識又は器官がそれぞれ二倍体、四倍体及び四倍体であることが確認された候補樹を、組織起源層の第1層が二倍体、第2層が四倍体、且つ第3層が四倍体である倍数性周縁キメラ植物体として選抜することを特徴とする(1)に記載の方法。
(3)有糸分裂阻害物質による処理後の珠心胚から生じた実生又は多芽体の倍数性をフローサイトメーターで確認し、二倍性細胞と四倍性細胞とを含むことが確認された実生又は多芽体を上記倍数性周縁キメラ植物体の候補樹として予め選抜した後に育成することを特徴とする(1)又は(2)に記載の方法。
(4)ミカン科植物がニンポウキンカンである(1)〜(3)のいずれかに記載の方法。
(5)多芽体の誘導が、6−ベンジルアミノプリンを含む培地に胚軸、幼茎又は成長点を縦置床することにより行われる(1)〜(4)のいずれかに記載の方法。
(6)有糸分裂阻害物質がコルヒチン又はオリザリンである(1)〜(5)のいずれかに記載の方法。
(7)コルヒチンによる珠心胚の処理が、0.05〜0.2%の濃度のコルヒチン溶液に珠心胚を24〜168時間浸漬する処理である(6)に記載の方法。
(8)オリザリンによる珠心胚の処理が、0.005〜0.1%の濃度のオリザリン溶液に珠心胚を24〜168時間浸漬する処理である(6)に記載の方法。
(9)コルヒチンによる多芽体の処理が、0.01〜0.1%の濃度のコルヒチン溶液に多芽体を1〜3時間浸漬する処理である(6)に記載の方法。
(10)組織起源層の第1層が二倍体、第2層が四倍体、且つ第3層が四倍体であるニンポウキンカンの倍数性周縁キメラ植物体。
本発明によれば、果肉が良質で果皮が厚く果皮色が濃いミカン科植物の倍数性周縁キメラ植物体を効率的に作出する方法が提供される。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は組織起源層の第1層が二倍体、第2層が四倍体、第3層が四倍体であるミカン科植物の倍数性周縁キメラ植物体を作出する方法に関する。ミカン科植物では上述の通り、組織起源層の第1層は果肉等を分担しており、第2層は果実のアルベドを含む果皮を分担していることから、本発明により作出されるキメラ植物体は果肉が良質で果皮が厚く果皮色が濃いという好ましい特徴を有する。従って本発明の方法は、果皮を主な可食部とするニンポウキンカンやヒュウガナツ等のカンキツ類では重要な育種法になると考えられる。また、晩白柚等のブンタン等では、種子の多さが問題となっていることから、第2層を四倍体とすることで、種子の減少にもつなげられるものと考えられる。カンキツ類には、発ガン予防効果や抗アレルギー作用等があるフラボノイド化合物やリモノイド化合物などの特有の成分が含まれている。品種によっては果皮に多く含まれるものもあり、材料とする種類を考慮することで、果皮の機能性成分育種が可能となる。本発明はカンキツ類の育種、栽培、および加工産業にきわめて有用であると考えられる。
本発明は第一に、ミカン科植物の珠心胚を有糸分裂阻害物質で処理することを特徴とし、処理後に胚培養し、珠心胚実生を育成して倍数性周縁キメラ候補樹を作成する方法に関する。本発明は第二に、ミカン科植物の胚軸、幼茎若しくは成長点から誘導された多芽体を有糸分裂阻害物質で処理することを特徴とし、処理後に多芽体からシュート(幼苗)を育成して倍数性周縁キメラ候補樹を作成する方法に関する。
本発明の対象となり得るミカン科植物としては例えばニンポウキンカン、ヒュウガナツ、ブンタン類(例えば晩白柚)等のカンキツ類、タヒチライムなどのライム類、ユーレカレモンなどのレモン類、マーシュシードレスなどのグレープフルーツ類、ユズ、スダチ、カボスなどの酢ミカン類が挙げられる。
有糸分裂阻害物質としては例えばコルヒチン、オリザリン、アミノプロフォス−メチル(aminoprophos-methyl)、ブタミフォス(butamiphos)、プロピザミド(propyzamide)等が使用でき、特にコルヒチン又はオリザリンが好ましい。
珠心胚からキメラ系統を作出する場合、珠心胚は例えばカンキツ類の多胚種子を使用できる。具体例を挙げれば、カラタチを花粉親として交配したカンキツ類の多胚性の完全種子の外種皮および内種皮を剥皮したものを用いることができる。珠心胚の有糸分裂阻害物質による処理は無菌的に行われることが好ましい。無菌化の方法は特に限定されないが、例えば外種皮および内種皮を剥皮した完全種子をアンチホルミン溶液で滅菌する方法により行うことができる。有糸分裂阻害物質による珠心胚の処理は、典型的には、有糸分裂阻害物質の溶液に上記の珠心胚を一定時間浸漬する処理である。有糸分裂阻害物質がコルヒチンである場合、0.05〜0.2%の濃度のコルヒチン溶液に珠心胚を浸漬することが好ましく、浸漬時間は24〜168時間であることが好ましい。有糸分裂阻害物質がオリザリンである場合、0.005〜0.1%の濃度のオリザリン溶液に珠心胚を浸漬することが好ましく、浸漬時間は24〜168時間であることが好ましい。
多芽体からキメラ系統を作出する場合、多芽体は、ミカン科植物の胚軸、幼茎又は成長点から誘導されたものを使用できる。多芽体の有糸分裂阻害物質による処理は無菌的に行われるのが好ましい。具体的には、カラタチを花粉親として交配したカンキツ類の多胚性の完全種子の外種皮および内種皮を剥皮し、上記と同様に無菌処理したのちに播種し、暗所培養して得られた胚軸部を切り分けたものから誘導された多芽体を使用することができる。成木の幼茎又は成長点から誘導された多芽体もまた好適に使用することができる。多芽体の誘導は通常の方法で行うことができる。例えば誘導のためのサイトカイニンとして6−ベンジルアミノプリン(BAP)、カイネチンまたはゼアチンを用いることができる。サイトカイニンの培地中の濃度は例えば1〜10mg/Lとすることができる。好ましくは上記胚軸、幼茎又は成長点を培地に縦置床して誘導が行われる。誘導の際の培地としては例えば3%ショ糖を添加したMT(Murashige・Tucker)培地を使用することができ、例えば25℃で、連続照明条件下で培養を行うことができる。通常、培養約1ヶ月後には幾つかのシュートを持った多芽体が誘導される。有糸分裂阻害物質による多芽体の処理は、典型的には、有糸分裂阻害物質の溶液に上記の多芽体を一定時間浸漬する処理である。有糸分裂阻害物質がコルヒチンである場合、0.01〜0.1%の濃度のコルヒチン溶液に多芽体を浸漬することが好ましく、浸漬時間は1〜3時間であることが好ましい。浸漬後の多芽体は、2又は3回滅菌水で洗浄し、1mg/l BAP、0.5mg/lジベレリン及び3%ショ糖を添加したMS(Murashige・Skoog)培地に縦置床して培養することができる。培養1ヶ月後には多芽体から1cm程度のシュートが得られる。
有糸分裂阻害物質による処理後の珠心胚実生又は多芽体は、好ましくは下記の予備的な選抜を行った後に、通常の方法、例えば試験管内でカラタチ台に接ぎ木することにより成長を促進させて成木にまで成長させることができる。カラタチ台としては、典型的には、無菌的に播種され、暗黒条件下で1〜2ヶ月間培養された苗が使用できる。具体例を挙げれば、台木の上胚軸部を基部から約2cm程度に切り、縦に約5mmの切り口を入れ、次に、約1cmに調整した候補個体を差し込み、約10日間、25℃、暗黒条件下で培養した後、40μmolm−2−1、連続照明条件下に移し、接ぎ木苗を養成する。接ぎ木2ヶ月後、順化を行い、カンキツ栽培に順じた方法により育成し、3〜4年後、開花結実させる。
こうして得られた成木の倍数性を確認して、最終的に所望の倍数性周縁キメラ植物体を選抜することができる。本発明者らは驚くべきことに、組織や器官(例えば葉、果実)ごとの倍数性の評価を、好ましくはフローサイトメーターを用いて行うことにより所望の倍数性周縁キメラ植物体を効率的に選抜することができることを見出した。具体的には、第1層の倍数性は果肉組織の倍数性を、第2層の倍数性は果皮または種子の子葉部の倍数性を、第3層の倍数性は維管束を含む葉脈組織の倍数性をそれぞれ確認することにより確認できることを見出した。本発明のこの形態によれば、コルヒチン処理後に発生する様々なキメラ候補樹のなかから特殊なキメラである「倍数性周縁キメラ」を効率的に選抜することが可能となる。従来は、果樹の倍数性周縁キメラを評価・選抜するために、根や成長点の染色体数を数えることが行われていたが、解析が極めて困難であり、育種的利用に適さないという問題があった。本発明より、果肉の品質が維持され、果皮が厚く、果皮色が濃いという好適な特長を有する2x-4x-4xの組織起源層からなる倍数性周縁キメラ植物体を効率的に作出することが可能になり、育種への利用が可能となる。
本発明は更に好ましくは、有糸分裂阻害物質による処理後の珠心胚から生じた実生又は有糸分裂阻害物質による処理後の多芽体の倍数性を確認し、二倍性細胞と四倍性細胞とを含むことが確認された実生又は多芽体をキメラ候補樹として予め選抜して育成することを特徴とする。かかる操作を行うことにより、結実を待つことなく、短期間にキメラ候補樹を選抜することができ、所望の倍数性周縁キメラ植物体の作出の効率を高めることができる。
キメラ性の確認はフローサイトメーター(例えば、EPICS XL SYSTEM II,BECKMAN COULTER)を用いて行うことが好ましい。フローサイトメーターによる測定を行う場合、通常は核を蛍光標識して、蛍光強度を測定することにより行う。好ましくは、二倍性に相当する相対蛍光強度を示す核数と四倍性に相当する相対蛍光強度を示す核数とが同等程度の場合に、その系統を倍数性周縁キメラ植物体の候補樹として選抜する。ここで「同等程度」とは、典型的には、二倍性の核数と四倍性の核数との比が2:3〜3:2、好ましくは1:1であることを意味する。
最終的に得られた倍数性周縁キメラ植物体は、組織起源層の特徴から、芽によって倍数性が異なることがないため、どの穂木の芽を使用しても分離はしない。そのため、倍数性周縁キメラ植物体の繁殖は、通常のカンキツ類と同様に、カラタチやユズなどの台木に穂木を接ぎ木し、大量に均一の苗を得ることにより行うことができる。
1.ニンポウキンカンのキメラ候補樹の作成
8月にカラタチ花粉をニンポウキンカンに交配し、1月に果実を採取した。果実から完全種子の外種皮および内種皮を剥皮後、1.0%アンチホルミン溶液で4分間滅菌した後、滅菌水で3回水洗いを行い、アンチホルミンを洗浄した。次に、それらの種子をフィルター滅菌した0.05%コルヒチン溶液に0時間(対照)、24時間、48時間、96時間、168時間、480時間又は720時間浸漬し、滅菌水で洗浄後、500mg/l麦芽抽出物を添加したMT(Murashige・Tucker)培地上に置床し培養した。培養は、いずれも25℃、40μmolm−2−1、連続照明条件下で行った(図2)。
コルヒチン処理時間が24時間又は48時間である場合、発芽は対照試料と同様に90%以上の種子で観察された(図3)。培養2ヶ月後には、本葉を数枚持った実生が育成された。
2.コルヒチン処理個体のフローサイトメーターによるキメラ性の評価
コルヒチン処理2ヶ月後の実生を材料として、フローサイトメーターによるキメラ性の解析を行った。解析には,フローサイトメーター(EPICS XL SYSTEM II, BECKMAN COULTER)を用いた。すなわち,採取した幼葉50mgに2mlのchopping buffer[25mg/l propidium iodide(PI)、50mM NaSO、140mM 2−メルカプトエタノール、1.0% Triton X−100、50mM トリス塩酸,pH 7.5]を加え、シャーレ上において約5分間細かく刻み、ミラクロス(Calbiochem, Co. Ltd.)でろ過した。ろ液を遠心分離(12,000rpm, 3分間)し、上清を除去した後、沈殿物を550μl chopping bufferと混合し、よく懸濁した。さらに、測定直前に50μlの500mg/l PI溶液を加えて混合した後、フローサイトメーターで10,000個の核の蛍光強度により判定を行った。その結果、コルヒチン処理時間が24時間の場合、二倍性と四倍性細胞の存在が同等の量で認められるキメラ個体は発芽した実生の85%で確認された(図3)。この時点では、純粋な二倍体とキメラ個体(二倍体+四倍体)との間での形態的な差異は観察されなかった。
3.候補樹H9−1008の倍数性周縁キメラ性の評価
フローサイトメーターによりキメラと確認された系統H9−1008(コルヒチン処理濃度0.05%、処理時間24時間)について、上記の手順に従い試験管内でカラタチ台に接ぎ木し、成長を促進させた(図4)。接ぎ木4年後に開花、結実した。倍数性周縁キメラ性を評価するために、第1層起源として果肉、第2層起源として種子、第3層起源として葉の中肋をそれぞれ試料に用いてフローサイトメーターにより倍数性を確認した(手順は上記2.参照)。その結果、果肉は二倍体のピークだけが示され、種子と葉の中肋では四倍体のピークだけが示された(図5)。2つの層が混合されていると考えられる葉の葉身部やフラベドでは二倍体と四倍体のピークが両方観察された。また、生殖組織である卵細胞や花粉は第2層由来であるため、二倍体のニンポウキンカンと交配するとすべて三倍体の実生が得られた。このような結果から、系統H9−1008は、第1層が二倍体、第2層が四倍体、第3層が四倍体の倍数性周縁キメラであることが明らかとなった。
4.倍数性周縁キメラの特性
二倍体のキンポウキンカンと倍数性周縁キメラ個体を簡易ビニールハウス下で栽培した。キメラ個体は、二倍体と比較すると果実が大きくなり、果皮の割合も果実直径の20%を越えており、厚くなった(図6、表1)。果実の糖度も二倍体と比較して有意差まではなかったものの高くなっていた(表1)。
Figure 2006050960
5.マーマレードの調製
上記の方法で得られたキンポウキンカン倍数性周縁キメラ個体を用いて、マーマレードを調製した。
金柑をブランチングした後、剥皮し、皮と果実部に分類した。皮の部分は2mm厚にスライスした(1)。果肉部はパルパーにかけ残渣を除去した(2)。(1)及び(2)を混合して加熱しながら、水に溶解したペクチンおよびビタミンC、上白糖を添加した。上白糖を規定量添加し、加熱を停止した。所定のビンに充填してキャップをしめ蒸煮殺菌の後自然放冷した。本発明の方法で得られる倍数性周縁キメラのニンポウキンカンは果皮が四倍体となることから、鮮やかな橙黄色を呈し、キンカン特有の風味および甘味と酸味の調和されたマーマレードを製造することができる。
Figure 2006050960
Figure 2006050960
珠心胚に対するコルヒチン処理濃度の検討
珠心胚のコルヒチン処理におけるコルヒチン濃度の影響を検討した。0%(対照)0.05%、0.1%、0.2%、0.5%、1.0%又は2.0%のコルヒチン溶液中に種子(珠心胚)を48時間浸漬した。その他の操作条件は実施例1.1に記載の通りである。種子の発芽率、四倍体実生率およびキメラ実生率を調査した。倍数性の評価は、実施例1.2に示す手順により行なった。結果を図7に示す。0.05〜0.2%のコルヒチン溶液で浸漬処理された珠心胚における発芽率は40%以上であった。
珠心胚に対するオリザリン処理
コルヒチン処理に代えて下記条件でオリザリン処理を行った以外は、実施例1.1の記載と同様の操作を行った。処理後の珠心胚を0.005%オリザリン溶液に0時間(対照)、24時間、48時間、96時間、168時間、240時間又は360時間浸漬した。種子(珠心胚)の発芽率、四倍体実生率およびキメラ実生率に及ぼすオリザリン処理時間の影響について調査した。倍数性の評価は、実施例1.2に示す手順により行なった。結果を図8に示す。
処理時間が24時間、48時間又は96時間である場合、発芽は対照試料と同様に約90%の種子で観察された。168時間以上では発芽率が減少した。キメラ実生は処理時間が24〜168時間である場合に確認された。その頻度は、処理時間が24時間及び72時間のものにおいて約20%程度であった。
多芽体に対するコルヒチン処理
カラタチを花粉親として交配したニンポウキンカンの完全種子の外種皮および内種皮を剥皮し、無菌処理したのちに播種し、暗所培養して得られた胚軸部を切り分けたものを1mg/Lの6−ベンジルアミノプリン(BAP)を添加したMS(Murashige・Skoog)培地に縦置床し、1ヶ月間誘導を行ない、多芽体を得た。こうして得られた多芽体を、0%(対照)、0.001%、0.01%、0.05%又は0.1%のコルヒチン溶液に2時間浸漬した。浸漬後の多芽体を滅菌水で洗浄し、同様の培地で縦置床して2週間、培養を行った。伸長した芽の倍数性を評価するために、フローサイトメーターで解析を行った(実施例1.2参照)。その結果、0.001%のコルヒチン溶液で処理した場合には二倍体と四倍体のキメラ候補樹は全く確認されなかったが、0.01%、0.05%及び0.1%の濃度で処理した場合にはキメラ候補樹が確認された。特に、0.05%と0.1%の濃度区において20%の確率でキメラ候補樹を獲得することができた。
Figure 2006050960
多芽体の誘導条件の検討
カラタチを花粉親として交配したニンポウキンカンの完全種子の外種皮および内種皮を剥皮し、無菌処理したのちに播種し、暗所培養して得られた胚軸部を約1cmに切り分けたものに対して、6−ベンジルアミノプリン(BAP)、カイネチン(KI)、チジアズロン(TDZ)又はゼアチン(ZE)と3%ショ糖を添加したMS培地に縦または横置床して、1ヶ月後に誘導されたシュート形成した培養物(多芽体)の頻度を調査した。それぞれのサイトカイニンの濃度は、0、1、2、5、10mg/Lとした。その結果、横置床ではまったくシュート形成は観察されず、カルス誘導が見られた。一方、縦置床では、TDZを除いて、すべてのサイトカイニンでシュート形成が観察され、特に、BAPで多数のシュートをもった多芽体が得られた。最も高いシュート形成の誘導率は、BAP濃度が1mg/Lの試験区であった(45%)。
Figure 2006050960
細胞キメラの分類を示す図である。 種子(珠心胚)へのコルヒチン又はオリザリン処理の方法を示す図である。 種子(珠心胚)に対するコルヒチン処理時間と、種子の発芽率、四倍体実生率、及び細胞キメラ(二倍体+四倍体)実生率の関係を示す図である。 コルヒチン処理後に接ぎ木した個体を示す図である。 H9−1008におけるフローサイトメトリーによる倍数性の解析結果を示す図である。 ニンポウキンカンの倍数性周縁キメラの果実形態を示す図である。 種子(珠心胚)に対するコルヒチン処理濃度と、種子の発芽率、四倍体実生率、及び細胞キメラ(二倍体+四倍体)実生率の関係を示す図である。 種子(珠心胚)に対するオリザリン処理時間と、種子の発芽率、四倍体実生率、及び細胞キメラ(二倍体+四倍体)実生率の関係を示す図である。

Claims (10)

  1. ミカン科植物の珠心胚、又はミカン科植物の胚軸、幼茎若しくは成長点から誘導された多芽体を有糸分裂阻害物質で処理することを特徴とする、組織起源層の第1層が二倍体、第2層が四倍体、且つ第3層が四倍体であるミカン科植物の倍数性周縁キメラ植物体の作出方法。
  2. 有糸分裂阻害物質による処理後に育成された上記倍数性周縁キメラ植物体の候補樹について、組織起源層の第1層、第2層及び第3層にそれぞれ由来する組織又は器官の倍数性をフローサイトメーターを用いて確認し、上記組識又は器官がそれぞれ二倍体、四倍体及び四倍体であることが確認された候補樹を、組織起源層の第1層が二倍体、第2層が四倍体、且つ第3層が四倍体である倍数性周縁キメラ植物体として選抜することを特徴とする請求項1に記載の方法。
  3. 有糸分裂阻害物質による処理後の珠心胚から生じた実生又は多芽体の倍数性をフローサイトメーターで確認し、二倍性細胞と四倍性細胞とを含むことが確認された実生又は多芽体を上記倍数性周縁キメラ植物体の候補樹として予め選抜した後に育成することを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
  4. ミカン科植物がニンポウキンカンである請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
  5. 多芽体の誘導が、6−ベンジルアミノプリンを含む培地に胚軸、幼茎又は成長点を縦置床することにより行われる請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
  6. 有糸分裂阻害物質がコルヒチン又はオリザリンである請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
  7. コルヒチンによる珠心胚の処理が、0.05〜0.2%の濃度のコルヒチン溶液に珠心胚を24〜168時間浸漬する処理である請求項6に記載の方法。
  8. オリザリンによる珠心胚の処理が、0.005〜0.1%の濃度のオリザリン溶液に珠心胚を24〜168時間浸漬する処理である請求項6に記載の方法。
  9. コルヒチンによる多芽体の処理が、0.01〜0.1%の濃度のコルヒチン溶液に多芽体を1〜3時間浸漬する処理である請求項6に記載の方法。
  10. 組織起源層の第1層が二倍体、第2層が四倍体、且つ第3層が四倍体であるニンポウキンカンの倍数性周縁キメラ植物体。
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